第6話 『アンナ中尉は特装の開発者』
メイリン
「傷は癒えたー!!」
萌
「おめでとうございます少尉♪」
サイア
「ようやくね…まぁ、すぐに怪我しない様に気を付けなさい」
私はようやく治療が終わり、完治した体を動かす。
特に問題も無く、これならすぐにでも戦えそうだ。
私は軽く笑い、拳を握ったり緩めたりして感触を確かめていた。
メイリン
「そういえば、新しく入った大佐さんは?」
サイア
「彼女なら、自分の艦よ…挨拶なら後にしなさい」
「それよりも、貴女は先に格納庫に行ってもらうから」
私は?を浮かべ、サイアの無表情な顔を見る。
するとサイアはそのまま表情ひとつ変える事無く、シンプルにこう言った。
サイア
「アンナ中尉が至急来る様に言ってるわ、まぁ精々怒らせない様にする事ね…」
萌
「それでは、私たちはこれから哨戒任務があるので…」
萌はビシッと敬礼し、そのままサイアと一緒に部屋の外に出て行く。
哨戒か…ここの所ダクタリアンは少し大人しいみたいだけど、反って気になはなる、か…
私は少しため息を吐くも、すぐに時間を確認してアンナ中尉のいる格納庫に向かう事にした。
怒らせない様にってサイアは言ってたけど、あの昼行灯でおっとり気質なアンナ中尉が怒る…?
私は配属された時からあの人を見てきたけど、あの人が怒った所は見た事無い。
一体、どんな用件なんだろう?
私は少しだけビビりながらも、とりあえず足早に格納庫へと向かった…
………………………
メイリン
「メイリン少尉です! アンナ中尉に呼ばれて来ました!!」
私は一応敬礼しながらそう言う。
当のアンナ中尉は相変わらずのニコニコ笑顔で、特に怒っている素振りは微塵も無かった。
まぁ、そりゃそうよね…?と、私は自分で思うけれど…
アンナ中尉は、いつもの様に煙草を吹かしながら私の特装を弄っている。
いつも思うのだけど、誘爆とか怖くないのだろうか?
どう見ても火気厳禁と、すぐ側の壁に張り紙がしてあるんだけど…
アンナ
「やぁ、メイリン少尉〜傷は完治したかい?」
メイリン
「はいっ、すぐにでもダクタリアンを蹴散らしてみせますよ!?」
私はガッツポーズを取りながらも、笑ってアピールする。
回りの技師たちもそれを見てクスリと笑い、私のテンションを見て安心してくれた様だ。
アンナ
「ふむ…ところで、君はどうして新兵器を使ってくれないんだい?」
メイリン
「は? 新兵器って、あの超巨大ライフル?」
詳しくは1話を見ろ!ね…
少なくとも、私に記憶のある新兵器はアレしか知らないし…
アンナ
「そうそう〜折角ちゃんと完成させてるのに、少尉全く使ってくれないじゃ〜ん?」
メイリン
「いや、あれどう考えても超巨大ダクタリアン用でしょ?」
「あんなの、中型以下の相手に使えるわけ無いじゃないですか!」
私は最もな意見を言う。
しかし、アンナ中尉は煙草の灰を足元に落としながらも呆れた顔をしてしまった。
アンナ
「別に、群れてるダクタリアンを一気に消滅させる使い方だってあるだろうに…」
「君は、一体何を考えて武器を持つんだい?」
メイリン
「そんなの! バッと前に出て! バッと撃ち抜くんですよ!!」
「その方が確実にコアに当てられるじゃないですか!?」
私は自信満々にそう言うと、アンナ中尉はかなり呆れた顔をしてくれた…
な、何よ…? 私、何か間違った事言った?
アンナ
「はぁ…解っちゃいたけど、やっぱガンカタかぁ〜」
メイリン
「…? はい?」
私は意味が解らなかった。
アンナ中尉は何か察してた様だけど、私には全く理解出来ない。
一体、何の話…?
アンナ
「…折角、一撃離脱のコンセプトで特装造ったのになぁ〜」
メイリン
「え? 何か間違ってます?」
アンナ
「君の使い方は、ただ突っ込んで相討ち取るだけじゃ〜ん」
「それだったら、大型バズーカでも持って特攻した方が効率的だよ〜」
私は試しに想像してみる。
確かに、あの特装使うなら相討ちしかしない気がするわね…
メイリン
「って、いやいやいや! 今の特装だから、回避しながらも特攻出来るんじゃ無いんですか!?」
アンナ
「何で特攻前提なの〜? 中〜遠距離戦メインなんだから、相手の射程外とかから連射とかでも良いじゃな〜い?」
メイリン
「いや、そんなの性に合いませんし…それに私遠距離狙撃とか苦手なんで…」
正直な話だ。
私はぶっちゃけ銃は好きだけど、チマチマ狙撃とか胃が痛くなる。
当てられない訳じゃないけど、どうにも気が狂いそうになるのだ。
どうせなら、確実に相手のコアを撃ち抜ける近距離で戦いたい!
アンナ
「はぁ…やっぱコンセプトから見直しかぁ〜」
「私としては、中〜遠距離から射撃中心で立ち回って、安全に敵を狙撃してほしかったんだけどなぁ〜」
「ただでさえ装甲薄いライチュウなのに…何でわざわざ接近戦重視で射撃しなきゃならないのか」
アンナ中尉はかなりキテいた様だった。
おっとりした顔なのは変わらないけど、頭を抱えて首を振る中尉は今までに無い姿だ。
そして煙草を足元に捨てて、すぐに足で火を消す。
中尉はそのままおっとりした顔で、私にこう言った。
アンナ
「いっそ萌軍曹みたいにカタナでも使う?」
メイリン
「んな無茶な…使った事も無い特装とかいきなりは無理ですって!」
アンナ
「でも、接近戦しか出来ないんでしょ〜?」
メイリン
「別に近付いて銃撃っても同じでしょ!? 相手倒せたら結果は同じだし!!」
アンナ中尉はまた大きなため息を吐く…今ままで1番深いため息だった。
な、何でよ…? 私、何か間違ってるの?
アンナ
「…もう良いよ、だったらその方向で魔改造する」
メイリン
「魔改造!? 一体何を造る気なんですか!?」
アンナ中尉はそれ以上何も言わず、私に背を向けて工房に入って行った。
結局、私は意味不明なままその場で立ち尽くす。
本当に、何が何なんだろうか?
私の戦い方が、アンナ中尉の想定と違ったのだというのは解ったけど…でも、だからと言って何でサムライソード?
正直、私は銃が好きだからあのままでも良いんだけど、アンナ中尉的には私の使い方はお気に召さないらしい。
しかし、だからと言ってあんなバカデカライフルを常時装備するのはバカだ…
確かに威力はスゴいけど、アレ安定させてエイムするのも難しいし…そもそも小型中型相手に気軽に使う特装じゃ無いと思う。
そりゃ、サイアみたいに的確に相手を誘導出来りゃ、一網打尽とかと出来るかもしれないけど…
どう考えても、それは私に合わせた装備とは思えないのよねぇ〜
結局、そのまま私は格納庫をひとり後にした…
………………………
アンナ
「はぁ…」
?
「何だい? 久し振りに会ったってのに辛気臭い顔じゃないか!!」
私は既に頭の中が特装改良案で埋め尽くされていた。
なので、正直目の前で誰かが喋っていてもぶっちゃけ気にも留めない。
私はひとりぶつくさと独り言を呟きながら、誰かの横を通り抜ける。
そして次の瞬間、私の脳天に物理的な強打が襲い掛かった。
ガコォォォンッ!!と、金属音が作業室内に響き渡り、何事か?と、近くにいた技師たちが目をぱちくりさせている。
その際、私は一瞬思考が停止し、目の前にノイズが走った。
やれやれ…こういう時、視界も機械化していると面倒だね〜
?
「またいつもの癖かい!? ったく、変わらないねぇアンタは!!」
アンナ
「…ん? 君は〜…イザベルじゃないか〜」
「あれ? 何でこんな所に? 君は南アメリカ基地にいたはずじゃ…?」
そう、私の目の前に笑って立っていたのは、私の同期のイザベル大尉だった。
私と同じ様にPokemonの特装開発に着手し、あのサイア中尉の特装を自作した黒人の天才だ…
そんな彼女の右手には、やや大きめの鋼鉄製ハンマーが握られており、どうやらそれで私の頭を思いっきり殴った様だね。
成る程…道理で、チャフでもブレないモニターにノイズが走るわけだよ〜
イザベル
「連絡は入れたろう? メールを見てないのか?」
アンナ
「…あ〜忘れてたよ〜」
私は頭を掻きながら煙草を咥える。
そして右手の指先に内蔵したライターを使って火を点けた。
そして煙草の味をしっかりと噛み締め、私は思考を安定させる。
それを見て、イザベルは空笑いをしていた。
イザベル
「ははは…ホントに変わらないなぁ」
「そんなんでも、あんな特装造れんだから、ホントに大したモンだけど♪」
アンナ
「ん…どれだけ体を機械化しても、コレだけは止められないからねぇ〜♪」
私は煙草の煙を吹かしながら歩き出す。
イザベルは私の隣を歩いて笑いかけていた。
しかし、どうして彼女がここに…?
と、私が思っていたら、すぐにその意味は解った。
アンナ
「…成る程、サイア中尉の特装絡みか」
イザベル
「まぁ、そんなトコだ」
「ぶっ壊されたんだって? アタシ特製のバリアランサーが…?」
私は少し項垂れながらも、何とか笑い返してみせる。
どうしようか迷ってたけど、彼女がここにいるなら何の問題も無いしね〜
アンナ
「丁度良かったよ〜アレ、私じゃ修理出来ないし…」
イザベル
「はぁ? 出来ないって事は無いだろう? アンタに理解出来ない技術は使用してないんだから…」
アンナ
「冗談じゃないよ〜…君の愛娘に手を出せる程、私は変質者じゃないし〜」
私がそう言うと、イザベルは一瞬停止してすぐに笑い出す。
そして私の言葉の意味を理解出来たのか、ヒーヒー言いながら私の肩をハンマーでガンガン叩いた。
いや、別に痛くは無いけどね〜せめてもう少し加減しないかな〜?
イザベル
「アッハッハッハハハ!! そうかいそうかい!!」
「それなら仕方無いか! アタシがちゃんと面倒見てあげないとねぇ〜!」
アンナ
「うん、頼むよ〜私も、自分の仕事があるから〜」
私はそう言って、イザベルをサイア中尉の特装がある格納庫に案内した。
私はその近くにある、メイリン少尉用の特装を見てため息を吐く。
まずは、コンセプトから総見直しだね〜
………………………
イザベル
「…へぇ、対艦ミサイルの衝撃すら無力化する、このバリアランサーがこうまでやられるとはね」
アンナ
「仮にも対ダクタリアン装備の砲撃だったからね〜」
「それもかなり規格外火力の代物だったし、むしろそんなサイズのバリアでよく防げたもんだよ〜」
イザベルは自慢のバリアランサーを持って真剣な顔をする。
あれ、ブーメランと思ってたけど、槍だったんだね〜
まぁ、確かに伸縮格納されてる状態なら短い槍に見えるし、単にサイア中尉が、ブーメランとしての用途で使う事が多いせいでそう思い込んでただけ…って所かな?
イザベル
「…こりゃ、もっと出力上げなきゃダメか」
アンナ
「でも、それ以上上げるとサイア中尉の負担が増えるよ〜?」
イザベル
「アイツがそんなヤワなモンか…それ位のキャパシティは備えてるよ」
イザベルは余程信頼しているのか、確信した様に言い切る。
確かにサイア中尉のスペックは規格外だけど、あくまでそれはサイア中尉個人としての性能に限られている。
Pokemonとしてのネイティオは、正直低スペックだと言わざるをえないのに…
マトモな種族スペックなら、ネイティオはライチュウに勝てるスペックじゃないはずだからね〜
だけど、実際の結果は全く逆…
サイア中尉は、その天才振りから多くの戦果を無傷であげる鬼才。
対してメイリン少尉は、出ては傷付き、成績はあまり褒められたものじゃない。
まぁ、それでもメイリン少尉は絶対に敵は倒してくれるんだけどね〜♪
イザベル
「よし、とりあえず出力は倍に引き上げよう!」
アンナ
「ホ、ホントに大丈夫〜?」
「バリアに集中したら火力は落ちるんじゃ〜?」
イザベル
「だからこその槍なんだよ…コイツのコンセプトは正に矛盾!」
「最強の槍であり、最強の盾でもあるんだ!!」
イザベルは笑ってそう言い切る。
私は成る程…と思い、彼女の想定を予想した。
バリアの出力は盾の出力であり、同時に槍の出力って事か〜
攻防一致の特装…サイア中尉は他に武器を持ってないから、正にそれ1本で良いってコンセプトだね♪
確かに、サイア中尉のスペックなら十分使いこなせそうだ。
あの娘は、まだまだ伸び代があるみたいだしね〜
アンナ
(それに対して、メイリン少尉は前途多難だなぁ〜)
私は新たに開発中だった、ホーミングレーザー砲を見てため息を吐く。
これも一撃離脱のコンセプトで開発していた対中型師団用の新特装だ。
前のスナイパーライフルと違って取り回しも良く、前面に出るであろう萌軍曹やミッドレンジ主体のサイア中尉との連携を前提に考えた装備…
自軍識別を自動化し、ダクタリアンだけを貫く広範囲ホーミングレーザーなんだけど…
メイリン
『接近して撃てば、全弾命中で必殺ですね!?』
きっとあの娘はそう言うだろうなぁ〜
やっぱ、コンセプトから根本を改革しなきゃ、メイリン少尉はまた病院送りになってしまう…
彼女の特装を担当する以上、私には彼女の命を守る義務があるのに…
奇しくも、良かれと思ってた私のコンセプトは、ただメイリン少尉を傷付けやすくするだけのコンセプトだったのだ…
正直、開発者としてこんな屈辱は無い。
私は、ライチュウの性能をフルに考え、それを活かし、そして味方Pokemonとの連携をも考えて特装を造っていたのに…メイリン少尉はそれを全否定してしまった。
このままじゃ絶対に終われない…!
何としても、メイリン少尉に最も相応しい特装を造ってあげないと。
イザベル
「…♪」
私は隣で嬉しそうに改造を施しているイザベルを見て、少しだけ羨ましく思う。
サイア中尉は幸せ者だね…こんなにも愛のある特装を造ってもらえるんだから。
アンナ
(私だって…愛が無い訳じゃないのに)
でも、私の愛はメイリン少尉に伝わらなかった。
多分、このままだったらずっとそう…
そんなのは、開発者として二流以下だ…!
アンナ
(絶対に守ってみせる…! もう2度と、メイリン少尉を傷付けない様な専用装備で!!)
私は、今までに無い位の意気込みで新たな装備に着手する。
今あるレーザー砲は全部バラして、そこから全く別の装備を造るのだ。
メイリン少尉の性格も、特性も、腕前も想定して、最良の特装を造る。
それこそが、私の仕事なのだから…
………………………
ビー!! ビー!! ビー!!
メイリン
「…!? ダクタリアン…来たわね!」
私は艦内に響き渡る警報に気を引き締め、すぐに首元のネクタイを外して胸元のボタンを弛める。
そしてそのまま格納庫へとひとり走った。
女兵士
「少尉〜頑張んなよ〜!?」
男兵士
「たまには無傷で帰って来いよ〜!?」
メイリン
「まっかせなさい!! 皆の帰る場所は私が守るんだから♪」
私は拳を突き出して笑う。
それを見て兵士も笑ってくれるのが嬉しかった。
そう、私は人間が好きだから、だから迷わず笑って戦えるんだ。
無傷で帰れるかは解らないけど…それでも、皆を守れるなら私は傷付く事なんか怖くない!!
萌
「少尉殿! 共に頑張りましょう!!」
メイリン
「萌も無理しちゃダメよ!? 先行は私がするから、後ろから付いて来なさい!!」
途中で合流した萌も一緒に走る。
萌は真剣な顔で鋭い目付きをし、ただ前を見て頷いた。
萌の特装は接近戦主体だけど、相手の性能が解らない内は無理に前へ出ない方が良い。
まずはスピードのらある私が牽制し、弱点が判明次第それを突けば良いのだから。
………………………
サイア
「…エリーン大佐は?」
マイク
『大佐は既にニューゴロドで待機中です! 今回は、敵ダクタリアンをニューゴロドの射程内に誘導し、大佐の砲撃で一網打尽にするとの事です!』
私はそれを聞いて、成る程ね…と思った。
現状、ニューゴロドはロクに移動が出来ない。
しかし、その装甲と火力は部隊内でも随一…それを利用しない手は無い、か。
メイリン
「メイリン少尉、いつでも行けるわよ!!」
萌
「鹿島軍曹、同じく!!」
ふたりは基本装備を身に付けて既に待機している。
敵の数は小型、中型が多数。
ややバランスの悪い編成に見えるけれど、大型を呼んで来る可能性も高いでしょうね…そうなると、下手にメイリン少尉を前に出すのは危険か。
サイア
「メイリン少尉、萌軍曹、貴女たちは私と一緒に敵の誘導よ」
メイリン
「誘導!? 相手は小型と中型でしょ? 一気に殲滅したら…」
サイア
「予想通りの反応はウザイから止めて」
「ただでさえ相手の増援が見えないのに、無闇やたらと突っ込まれて負傷されたら、作戦に支障が出るのよ」
私はかなり鬱陶しい感じでそう言った。
萌軍曹は特に気にした風も無く、無言で頷くだけだけど…
メイリン
「…増援、ね」
「貴女の未来視じゃ何か解らないの?」
メイリン少尉は、やや不満そうながらもそんな事を聞いて来る。
確かに、私の右目は未来を少しだけ映せる。
だけど、それはあくまで見た物のざっくりとした未来だけで、そこまで遠くの未来は見通せないのだ。
とはいえ、試しに見てみる価値はある、か…
サイア
「………」
メイリン
「……?」
私は無言無表情で真っ直ぐメイリン少尉を見つめ、右目で彼女の未来を映した。
すると私の右目には、約数分後のメイリン少尉が見える。
その姿は……
サイア
「…特に何も無いわね」
メイリン
「ガクッ! な、何だったのよ今の間は!?」
萌
「…それより、出撃はどうするのですか?」
確かに、このままくだらない会話をしていても仕方が無い。
とにかく、出撃しないとね。
サイア
「…すぐに出撃よ、私が先行、メイリン少尉は私に続きなさい」
「萌軍曹は水上から敵の注意を出来るだけ引き付け、そのままニューゴロドの射程内まで退きなさい」
メイリン
「…しゃあないわね、了解よ」
萌
「了解であります!」
私たちは、それぞれ装備を確認してカタパルトに乗る。
私の武装は今片側1本のみ…今回は防御に徹した方が良いでしょうね。
ブーメラン(正式名称バリアランサー)の1本は大佐にオシャカにされたし…
ちなみに、私はこれをバリア付きのブーメランとしてしか使ってないので、今まで自分でもブーメランとしか呼んでいない。
そもそも、槍だと知ったのはしばらく経ってからだし、私はその頃からブーメランとしか思ってなかった…
イザベル大尉的には、好きに呼べば良いとは言ってたけどね…
まぁ、あれは本来なら槍としての用途がメインなんだけど…
その気になれば全方位オールレンジ、自由自在に槍を動かして敵を貫く事も出来る。
って言うか、本来はそういう使い方をするのが目的の特装だそうだ。
イザベル大尉は、私に扱えるであろう能力キャパシティも考えて、それを最大限活かせるだけの特装にしてくれている。
私の武装がそのブーメラン2本だけなのは、実際それだけでほぼどんな相手にも対応出来るからだ。
1本を攻撃に、1本を守りに…それを同時にやる為のコンセプト。
開発者曰く、究極の矛盾だそうよ…
………………………
イザベル
「ちっ! 早速ダクタリアンかい!」
アンナ
「とりあえず急ぐしかないね〜」
私たちは、あくまで自分たちの作業を優先させる。
敵がどんなのかは解らないけど、今は信じるしかない。
私は出来る限りの最速スピードで作業を進めていく。
今のメイリン少尉では、中〜遠距離支援の役割は無理だ。
だったら、いっその事メイリン少尉の性格に合わせてやるしかない。
正直、コンセプトには納得したくない代物だけどね…
アンナ
(でも…武器っていうのは、使い手がいるから存在意義もあるんだ…)
誰も使い手のいない武器程、虚しい存在は無い。
だからこそ、私は作り手としてその武器に存在意味を持たせなければならないのだ。
その為には、自分の掲げたコンセプトなど大した意味は無くなる。
私は、自分の作る武器をただ活躍させたいのだから…
アンナ
「…ねぇイザベル」
イザベル
「何だい!? 今、手が離せないんだけど!?」
イザベルは1本のバリアランサーに集中し、その修理改良に全身全霊を込めていた。
自分への汚れは露とも思わず、一心不乱に作業をしている。
その姿はただただ真っ直ぐであり、開発者としてただひたむきな姿に思えた。
そんなイザベルに向けて、私は静かにこう訊ねる。
アンナ
「…君は、何を思って武器を作る?」
イザベル
「はぁ!? そんなの決まってんだろ!!」
「敵を倒し! 使い手を守る!! それ以外に何があるってんだい!?」
「アタシたちが掲げた理想は! 最初っから最後までブレちゃいないだろぉ!?」
イザベルは大声で叫び、同時に器具を使っていた。
その作業は正確かつ迅速…ここまでの作業を会話しながらこなせる人間はそうそういないだろうね。
でもだからこそ、私は彼女を尊敬してもいる。
アンナ
「…そうだね、だからこそ」
私はすぐに全身の機能をフルブーストさせ、人間の反応速度を超えた動きで作業を加速させる。
その際に、脳波から作業台へ電波を送って機材をリモートコントロールさせた。
これにより、私の作業量と速度は何倍にも加速する。
体を機械化してるからこそ、私はこんな無茶も出来るんだ。
アンナ
(メイリン少尉は正直バカだ、でもだからこそ武器もそれに対応させなきゃならない)
そして、それを使うからにはコンセプトから全てを覆さなきゃならない。
スピードがあり、耐久力は低いライチュウという種族。
本来なら中〜遠距離から支援射撃を主軸とし、ここぞという時にスナイパーの様な精密射撃を行う。
私は…そんな理想をメイリン少尉に押し付けて特装を作っていた。
だけど、結果はほとんど伴わない…
メイリン少尉は自分の思うままに敵へと突っ込み、そして大怪我をしてでも人間を守った。
自分の性能も、特装の性能も度外視し、ただ自分の心の赴くままに…
アンナ
(私は、それなら答えなきゃならない)
メイリン少尉の命を預かるのは私だ。
戦う為の武器を作る以上、メイリン少尉の傷は全て私の責任となる。
作り手として、その痛みは私の傷も同然!
私は、まだまだ独り善がりだったのかもしれない…
自分ならメイリン少尉をエースに出来ると自惚れていた。
現実はそんなに上手くいかない…私は開発者としては二流なんだろう。
どれだけ理論を掲げても、使い手が使えなければそれはただの産廃だ。
だからこそ、武器は使い手を考えなければならない。
今のメイリン少尉に最も適した特装…
接近戦で、高速戦で効果を発揮するメイリン少尉だけの武器。
私は、その形がようやく見えた気がした…
後は、それを形にするだけ…!
………………………
サイア
「中型20に小型10…? どういう編隊なの?」
メイリン
「誘導って…どうする気なのよ!? 遠くからチマチマ撃てっての!?」
サイア
「無駄弾を撃つ必要は無いわ、地上から萌軍曹が引き付けるから、私たちは空中で敵を誘導する」
サイアはそう言ってスピードを上げた。
敵に接近し、右肩から武器を射出する。
お得意のブーメランね、でも1本だけ?
サイア
「少尉、続きなさい! 適当に威嚇してすぐに退くのよ!」
メイリン
「ったく…面倒ね!!」
私は腰にあるホルスターから銃を2挺取り出す。
そしてサイアがブーメランを投げた後に時間差で私は連射する。
電撃を纏ったその弾丸は中型をいくつか掠め、何体かがこちらに向かって加速して来た。
中型、小型共に、まるで戦闘機の様なフォルムをしており、その速度はかなり速い。
私はすぐに反転して後方へと誘導する。
サイアも戻って来たブーメランをキャッチして、すぐに後退した。
その間、地上から注意を引き付けていた萌は他のダクタリアンを誘導する。
これにより、ダクタリアンの部隊は地上と空中で分断され、それぞれ半分程が追いかけて来た。
萌もすぐに反転し、一気に水上を加速して行く。
今の所、敵の増援は見当たらない。
果たしてサイアが危惧する様な増援がいるのだろうか?
ダクタリアンの戦法は正直、私には予測出来ない。
それでも、サイアはその先が見えているのだろうか?
私は、そんな事を考えながら全力でニューゴロドの方へ飛行した…
『遠い世界のPokemonさん』
第6話 『アンナ中尉は特装の開発者』
To be continued…