第5話 『ニャイキングさんはお金が大好き』
サイア
『サイア中尉、出撃するわ…』
萌
『鹿島軍曹、続きます!!』
ふたりはそう言ってすぐに、インディペンデントから外に出る。
まだこの段階でもダクタリアンの反応は現れない。
しかし、イギリス領の海域はどこか不穏な空気が漂っている気がした。
超望遠モニター越しからでも感じる、この異様なピリピリとした空気…
ジェフリー
「やれやれ…どれだけ武器が進化しても、争うのは人の業か」
マイク
「えっ? 長官、今何か?」
ジェフリー
「いや、何でもないよ…この年になると独り言がつい、ね」
私はそう言って笑顔でマイク君に答える。
するとマイク君は?を浮かべながらも、すぐに自分の仕事に戻った。
マイク
「…サイア中尉、そっちはどうですか?」
サイア
『…特に見た目は何も無いけど、何かしら争った形跡があるわね』
ふむ、流石はサイア中尉だ…既に何かを感じ取っていたか。
ならば、判断は速い方が事を円滑に進める。
『兵は詭道なり』…と、偉い孫子のお言葉もある…念には念も入れておいた方が良いかもしれん。
ジェフリー
「第一戦闘態勢! ふたりにはただちに『海賊』の鎮圧、及び無力化を命令する!!」
マイク
「は、はいっ!! 第一戦闘態勢!! サイア中尉、
萌軍曹、ただちに海賊の鎮圧、及び無力化を!!」
インディペンデント内でも警報が鳴り響く。
まぁ、相手がただの海賊であればこんな警報も必要は無いのだがね。
やや慌ただしく要塞内で人が動き、出撃しているサイア中尉たちもすぐに戦闘態勢に入っていたのがモニターに見えた…
………………………
サイア
(海賊…ね、成る程…イギリス軍は余程無能の集団らしいわ)
私は場に漂う思念を読み取り、少し過去を視た。
すると、そこで確かに軍が争っていた事が解る。
ただ、相手はただの海賊?
いや、そんな訳がない…いくら無能の集団だったとして、仮にも最新鋭装備のイギリス軍を、正面から潰せる海賊など聞いた事が無いのだから。
つまり、相手の海賊は明らかに過剰装備…どう考えても対ダクタリアン用の特殊兵装だろう。
萌
『えっと…翻訳機は……これで、良いのかな?』
サイア
「聞こえてるわよ軍曹…独り言なら通信は切ってやりなさい」
萌軍曹は明らかに不馴れな様子で通信機を弄っていた。
日本から出た事は無いって聞いてるし、日本語以外はからっきしらしいからね…しょうがないんだろうけど。
萌
『も、申し訳ありません中尉!』
サイア
「気にしなくても良いわ、それよりも通信は聞こえてたんでしょ? 第一戦闘態勢…近海の海賊を鎮圧するわ」
「その手段は問わない…ただし、確実に相手を捕縛する事、良いわね?」
私は出された指令を丁寧に伝える。
どうやら萌軍曹は翻訳機を上手く使えてなかった様で、通信が来ても理解出来ていなかった様だ。
やれやれ…面倒ね。
萌
『りょ、了解であります! で、あれば! 私が先陣を!!』
サイア
「後方待機って聞こえてなかった? 貴女自分で返事してたわよね?」
私は少し厳しめの口調でそう問いただす。
すると軍曹は、かなりしまった…という顔をして項垂れてしまった。
頭より体が先に動くタイプなんでしょうね…
素直で真面目なのは良いんだけど、独断先行だけはメイリン少尉だけにしてほしいわ。
私はため息を吐いて先に先行する。
萌軍曹はすぐに気を取り直し、顔を引き締めて水上を走った。
いえ、走ったではなく…滑った、か。
飛行ユニットを装備してない軍曹の装備は、水上移動に特化させているものね。
さながらそのスピードはジェットスキーの超強化版。
最高速度は、直進のみならマッハ2にも達する。
ちなみに、Pokemonの特装には全員共通で特殊なバリアフィールドが形成されるようになっている。
防御力の強化にも貢献するし、マッハを超えるスピードを出しても体は一切傷付かない。
逆に言えば、これがやられたら高速移動する事すら出来なくなるんだけどね…
サイア
(もっとも…私やメイリン少尉なら、超能力だけでもマッハの衝撃には耐えれるけどね)
それこそがエスパータイプの強みだ。
体が頑強ではない私たちは、他のタイプとは別の方法で物理的衝撃を止めなければならないのだから…
サイア
「…! 未確認物体!? 海上…の、え!?」
ジェフリー
『どうした中尉!? 何を発見した!?』
私は遠目に見えた異様な物体に目を丸くして驚く。
とりあえず、私には何か判断出来ないので、映像をインディペンデントに送った。
………………………
マイク
「サイア中尉から画像が送られました! モニターに表示します!!」
ジェフリー
「うむ……うおっ!? こ、これはぁっ!?」
私は映像に映った画像を見て、思わず椅子からガタッ!と前のめりになり、その画像を注視した。
それは、まさに芸術品と思われるデザインであり、かの伝説の砲艦をモデルにしていると私にはすぐに理解出来たのだ。
成る程、サイア中尉には解らんだろう…もはや骨董品レベルの艦だからな。
ジェフリー
「しかし、これは素晴らしい再現度だ…」
マイク
「は…? 何が、ですか?」
ジェフリー
「見たまえ!! この美しい曲線! 砲艦とは到底思えぬ、一見ふざけたデザイン!」
「しかし、これは1869年にスコットランドのジョン・エルダーが提唱した説を、更に拡張させて完成させた物なのだ!!」
「そのジョン・エルダーのコンセプト自体には、かのイギリス海軍造船局長も賛同しており、有効性自体はあると思われていた!!」
「しかしながら、このコンセプトをロシア軍は更に拡張させたが為にバランスは素晴らしく破綻!」
「砲艦でありながら、砲門ひとつ発射しても船体が大回転し、制御不能に陥るという程のポンコツっぷり!!」
「しかし、そんな馬鹿げていながらも愛らしいコレは、マニアには大絶賛!!」
「そんな、知る人が知る珍兵器のひとつが…この『ノヴゴロド』だよっ!?」
メインルーム内でしばしの静寂が訪れる…
私はすぐに我に返り、ゴホンッ!と咳を切り、すぐに気を取り直した。
すると、スタッフは全員すぐに自分の作業に戻る。
私はその間に改めてその美しいフォルムに酔いしれた…
ジェフリー
「むぅ…この時勢にあえてコレで挑むとは!」
「度胸は買いたいが、いかんせん対ダクタリアン兵器としては相手に理解されないのが痛い!」
「しかし、一体誰がこんな珍特装を作ったのだ!? 使っているのは何者!?」
考えれば考える程、私は訳が解らなくなった。
そもそも、何故にノヴゴロド?
マニアにはそりゃたまらん逸品だが…
あれ、本当に戦えるのかね?
………………………
サイア
「…りょ、了解したわ」
「本当に…あれ、砲艦なの?」
萌
『砲艦って言うより、円盤みたいにも見えますが…?』
流石に萌軍曹もコメントに困っている様だった。
とにかく、あれが海賊船だと言うのなら、私たちは速やかに鎮圧、及び無力化しなければならない。
対ダクタリアン用の特装といえど、萌軍曹の火力があれば…
サイア
「…? 思っていたより、遠い?」
萌
『あ…あの、中尉殿? あれって、もしかして……』
私たちは近付きながら違和感を持っていた。
遠目に見ていたら、精々30m程度の大きさだと思っていたんだけど…
サイア
「…どうやら判断を誤っていた様ね!」
「あんな馬鹿デカイ代物だとは思わなかったわ!!」
私はすぐに相手の全長を再計算する。
そして導き出せた答えは…何と300m程!
しかし、その高さは僅か5m程だった。
海面から甲板までの高さだけど、えらく薄っぺらい艦ね…
甲板からは2本の煙突が突き出ているけど、煙は吐いていない…
しかし、しっかりと稼働はしているわね…ゆっくりとだけど、こちらに接近して来ているわ。
サイア
「そこの艦、すぐに停止しなさい! 警告に応じないなら強行手段も辞さないわよ!?」
私は通信機を使って前方の奇っ怪な艦に警告を送る。
だが、相手は止まる事無く、そのまま前進して来た。
そして、搭載されている2門の砲門をこちらに向ける。
どうやらやる気の様ね…なら、容赦はしないわよ?
サイア
「敵対の意志有りと判断するわ! 萌軍曹、甲板上に乗り込みなさい!」
萌
『了解であります! 私にお任せを!!』
萌軍曹はすぐに加速して一気に接近する。
そして、私はそれから相手の意識を反らす為にブーメランを構えた。
相手はこちらに狙いを定めている、タイミングは…ここ!
サイア
「今よ軍曹!」
萌
「はいっ! えやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
私はブーメランを2本同時に投げて相手の砲撃を迎撃した。
私の正面で大爆発が起こり、その火力を思い知る。
流石は対ダクタリアン用ね…ふざけた見た目だけど、火力は本物だわ。
シールド代わりにもなる私の特装が、一撃で落とされるとは…!
だけど、その分の代償は支払ってもらうわ!
………………………
萌
「乗り込んだ! 後は速やかに制圧を…!」
?
「ほう…? 上のは囮だったか〜? ニャハハハハハハッ!!」
私は突如現れた何者かに向き直る。
そしてその明らかに異様な雰囲気を纏っている女を見て、私は冷や汗を流し、刀を構えた。
突きに特化させた、この『左片手一本突き』の構え…貫けぬ物など無い!
しかし、相手はこっちを見て豪快に笑い、鋭い牙をキラリと輝かせる。
右手には巨大な両刃の斧を持っており、それを肩にかけて担いでいた。
刃の大きさは両刃合わせて約4m程だろうか? 柄のサイズは片手斧なのに、明らかにアンバランスなサイズだ。
どう考えても、Pokemon用の特装…!
間違いなく、この人はPokemonだ!!
?
「へぇ〜? 侍を見るのは初めてだねぇ〜」
「中々デカイ得物だ…結構な値段がしそうだね♪」
相手は私の刀を見て舌舐りする。
その瞳は獣特有の物で、いわゆる猫科の物だと思えた。
短い短髪の黒髪だが、額には黒い小判、頭には左右に耳か角か解らない黒い物が伸びている。
その先っぽは灰色になっており、彼女の服…?の、色と同じ色だった。
服…?は、何だか前掛けみたいな感じで、顎から下に向けて膝上まで掛かっている。
一見髭みたいにも見えるけど、頭の動きと連動してないから多分ただのアクセサリーだろう。
しかし、その上からでも良く解る胸の大きさはあまりにも圧倒的戦闘力!
身長は140cm程しかないのに、胸は90近くある!
更に…両手首、両足首には黒いブレスレットとアンクレットを付けていた…布っぽくはなく、多分鉄製。
多分相当重いと思うけど、防具なんだろうな…
靴は…割りとフツーのロングブーツだ。
萌
「とりあえず、抵抗はしないでください!」
「Pokemon同士が戦う事など、無駄でしかありません!!」
?
「ふーん、見た目通りお堅そうだね〜」
「交渉のつもりなら、出すモン出しな!?」
「こちとら海賊なんだ! それなりの流儀がある!!」
そう言って彼女は左手でクイクイとさせる。
挑発みたいな仕草ですが、彼女は何を考えているのですか?
私には、一切理解が出来なかった。
萌
「貴女は状況が解っているのですか!?」
「いつダクタリアンが攻めて来るかも解らないこの時勢で、こんな海賊行為が何になるのです!?」
?
「あ〜説教とか聞きたくないんだわ、こっちは…」
「出す気が無いなら交渉は決裂だ! とっとと返んな!!」
「この『ニャイキング』の『エリーン・フラン』! 無償で力を貸す程甘くないよ!?」
そう言ってブォゥンッ!!と彼女は斧を横薙ぎに振るった。
物凄い風切り音で、その怪力は私と同等以上だと予測出来る。
このままでは埒が明かない…実力行使で黙らせるしか!!
萌
「なれば…力を示すのみ!!」
エリーン
「良いさ、来な!! ワシはそういうのも大好物だからね!!」
エリーン殿は斧を構え、前傾姿勢になる。
獣を思わせる構えで、左手を甲板に添え、斧を右手で肩に担ぐ。
互いに前に出て戦うスタイルなら…退くわけにはいきません!!
萌
「いざ尋常に…勝負!!」
エリーン
「はっ! やっぱ甘ちゃんだねぇ!?」
私が踏み込んだ瞬間だった。
彼女は牙をチラつかせて笑い、直後に私に向かって銃弾が飛び交う。
突然甲板からバルカンが飛び出し、私に対して銃撃してきたのだ。
それは私の突進速度を確実に落とし、踏み込みを甘くさせる。
完全に油断していた…! まさか、初めから罠に嵌まっていたとは!
銃弾はかなりの衝撃で、バリア越しでもかなりの痛みを感じる。
1発1発はそれ程でもないですが、この掃射数!
いかに私でも、容易には突っ込めない!!
萌
「くっ…!!」
私は刀を横に構え、その場で踏ん張った。
盾を捨てた時点で、私に防御は有り得ない!
攻撃こそ最大の防御! 愚直こそ我が真髄!!
エリーン
「そら! その体勢でコレが受けられるかい!?」
エリーン殿は、私が構え直すよりも速く斧を振り被る。
だが、届く距離ではない! まさか、彼女は…!?
直後、エリーン殿は巨大な斧を投擲した。
グルグルと高速で回転し、横回転で私に向かって来る。
バルカン掃射の中、あれを食らったらいくら私の装甲でも!?
ドズゥゥゥゥン!!
エリーン
「なっ!?」
萌
「!?」
絶体絶命と思われた直後、斧は甲板に落ちた。
何かの力で無理矢理下に落とされたみたいで、落ちた後もメキメキ…と押さえ付けられているかの様な圧力がかかっている。
そしてすぐに次はバルカンの砲門がグニャリとひん曲がっていく。
その瞬間、砲門は全て爆発。
銃撃は止み、敵の戦力はあっさり無力化された。
その後、何事も無かったかの様な佇まいで、ひとりの女性が空から降りて来る。
あまりに面倒臭そうなその表情は、既に何かを諦めているかの様にも見えた…
サイア
「こちら、独立遊撃部隊インディペンデント所属のPokemon、サイア・ミスティカ中尉よ」
「イギリス軍所属のPokemon、キャプテン・エリーンさん、貴女には軍本部から協力要請が出ているわ」
そう言ってサイア中尉は至極面倒臭そうな顔をする。
エリーン殿はそれを見て頭を掻いていた。
協力要請…? 任務は鎮圧だったんじゃ…?
エリーン
「…協力要請ね、はっ」
「だがお断りだね…ワシは貰うモンを貰わなきゃ手は貸さない」
サイア
「でしょうね、だから給料はちゃんと払うわよ?」
「こちらで言えば階級は『大佐』だし、一際良い金額を用意してくれると思うけど?」
それを聞くと、エリーン殿は目を煌めかせる。
そして明らかに今までと違う食い付き方で、興味津々の様だった。
こ、この人…本当に金が目当てなのですか?
エリーン
「どの位出る!? 具体的な金額は!?」
サイア
「まぁ、交渉次第で変わるかもしれないけど、仮にも世界を代表する部隊だし、これ位は出るんじゃない?」
サイア中尉は何かを操作してエリーン殿の手元にホログラフィーを表示させた。
それを見て、エリーン殿は更に目を輝かせる。
エリーン
「乗った! だけど前金で貰えるんだろうねぇ!?」
サイア
「そうね、その位なら私からも交渉してあげるわ…」
「じゃ、ここにサイン…血判でね?」
エリーン殿はウキウキしながら自分の爪で右手の人差し指を突き刺す。
そして、サイア中尉が懐から出した契約書の紙面に指を押し付けた。
これで、正式に加入…ですね。
エリーン
「や〜っとこれで、マトモな飯にありつけるねぇ!」
サイア
「その様子だと、余程軍からロクな扱いを受けてなかったみたいね?」
エリーン殿はそう言われて少し複雑そうな顔をした。
否定する気は無い様ですが…
萌
「エリーン殿と軍、一体何があったのですか?」
エリーン
「まぁ、色々とね〜」
「何もかもが合わなかった…そんだけさ、お互いにね」
サイア
「色々あるのよきっと、人類軍も…」
サイア中尉はどこか遠い目をする。
そしてその先には、イギリスの大地がぼんやりと見えた。
私には良く解りませんが、エリーン殿が仲間になってくれるのならば心強い!
これでメイリン中尉が回復すれば、より一層部隊は強化されましょう!
サイア
「じゃ、帰投するわよ? キャプテンさんは付いて来て…って、この艦スピード出るの?」
エリーン
「ニャッハハハッ!! 自慢じゃないが6.5ノットしか出ん!!」
萌
「おっそ!? 自転車以下ですか!?」
「そんなんでよく海賊出来ましたね!?」
エリーンさんは豪快に笑っている。
実に楽しそうな感じだった。
ちなみにサイア中尉は露骨に頭を抱えている。
そして、すぐに通信でテレポートラインを用意して貰える様手配した。
…この艦ごとテレポート出来るんでしょうか?
………………………
エリーン
「これから世話になる! ニャイキングのエリーン・フラン大佐だ!!」
「部下共々、まぁよろしく頼むよ!?」
ワシはそう言ってニャハハと笑う。
今はインディペンデントのメインルームにて、自己紹介中だ。
ちなみに、艦に乗っていた部下のニャース10名と、人間のスタッフ100名も一緒に配属されている。
今はインディペンデントのスタッフに修理をして貰ってるから、しばらくしたら壊れた部分は直せるそうだ。
まぁ、バルカン数門と甲板の凹み位だけどね…
ジェフリー
「ようこそ、インディペンデントへ…歓迎するよエリーン大佐!」
エリーン
「金さえ貰えりゃワシは文句を言わないよ! よろしく頼むさな!!」
ワシは笑顔で長官と握手をする。
へぇ…華奢かと思ったらそうでもないんだね?
しかし、何か妙な視線を長官から感じるけど…
ジェフリー
「エリーン君、後で君の艦に乗せて貰っても構わないかい?」
エリーン
「うん? 別に良いけど…何で?」
長官はワシの耳元でひそひそと話す。
明らかに他の兵から怪しまれてるけど、大丈夫なのかね?
ジェフリー
「いや、個人的な興味でね♪」
エリーン
「ふーん?」
まぁ、どうでも良いか…とにかく修理が終わるまでは待機予定だし、しばらくゆっくりしようさね♪
………………………
メイリン
「へぇ〜ニャイキングねぇ…」
萌
「はい! とても豪快な方で、頼りにはなると思います」
私はベッドの上で萌から話を聞いていた。
その後はまた英語のレッスンだ。
萌
「そういえば、アメリカの英語とイギリスの英語では発音が違うみたいでしたが、どっちの方が正しいのですか?」
メイリン
「ん〜? まぁ純粋に英会話だったら、どっちでもそこまで違わないとは思うわよ?」
「発音がいくつか違う程度だし、基本的に会話するだけならどっちでも…」
「あ、ちなみに私はアメリカ英語しか解らないわよ?」
それを聞くと、萌は成る程〜と感心する。
とにかくこの娘は大真面目だ。
何でも解らない事は努力して覚えようとする。
その姿は実に勤勉であり、成長しようとする姿勢が見えていた。
私は少しクスリとなるも、あまりうかうかしてはいられない。
今後も、ダクタリアンはどんどん成長するかもしれない。
そうなった時、私たちももっと強くなっていないと…
多分、ダクタリアンに勝つにはもっと力を合わせないとダメ。
皆がバラバラになったら、きっと負ける。
萌
「あの、メイリン少尉?」
メイリン
「ん…? あ、ゴメン…じゃ、そろそろ始めよっか♪」
萌ははいっ!と元気良く答え、英会話のレッスンがスタートした。
萌は少しづつだけどしっかり覚えていく。
今はこれで良い…急ぐ必要も焦る必要も、多分無いと思うから。
………………………
ジェフリー
「うおお…! こ、これがあのノヴゴロドの甲板!!」
「しかし、10倍位は大きくしてるのだな…?」
「むぅ…隠し兵装も多数あるのか、余程のマニアが設計したと思える」
私はこっそりとエリーン君の艦にお邪魔していた。
艦長の彼女に許可はちゃんと貰っているし、問題は無い。
ジェフリー
「…うーむ、本当にイギリス軍が作ったのかこれは?」
ニャース兵
「違いますニャ〜これはエリーン艦長が趣味で設計したニャ〜」
そう言って可愛らしい猫娘が解説してくれる。
どうやらエリーン君の部下の様で、例のPokemon、ニャースみたいだった。
エリーン君と似た様な前掛けを首に巻いており、額には黒い小判が付いている。
年は不明だが、まだ若そうな感じのする少女に見えるな。
ジェフリー
「エリーン君は、自ら設計出来る技術があるのか?」
ニャース兵
「そうニャ〜♪ 艦長はああ見えて天才ニャ〜」
「他にも色々ありますニャ、例えば艦長お気に入りのコレ〜♪」
ニャース兵が何やら艦内から出して来たのは、これまた化石級の珍兵器だった。
私はそれを見て思わず後ずさってしまう…
ジェフリー
「パンジャンドラムではないかぁ〜!?」
「本来自走して敵側の防壁などを破砕する為の兵器でありながら、マトモに平衡感覚を保てず、テスト段階で転んでしまった伝説の珍兵器!!」
ニャース兵
「なお、艦長の改造によりジャイロセンサー付いてるから、コレは転ばないニャ〜♪」
「足回りも最新素材でコーティングしてますし、大抵の悪路でも問題無く自走可能ですニャ!」
ジェフリー
「素晴らしい!! あえて形をほぼそのままに、欠点を克服させているとは!!」
私は感無量だった。
イギリス軍の過去の英霊たちもきっと喜んでいるだろう!
そしてロシア軍の英霊も満足に違いない!!(多分!)
ジェフリー
「そう言えば、この艦に名前はあるのかな?」
ニャース兵
「もちろんですニャ! その名も素敵、ニューゴロドですニャ〜♪」
ジェフリー
「うむ! 実に解りやすい! ロシアの艦がモデルなのにニューとは!!」
まぁ、エリーン君はイギリス系だし仕方無いのか?
ともあれ、今時こんなマニアックなのをあえて開発するとは、素晴らしい発想だな…
ジェフリー
「砲撃で艦が回る事はしなかった様だが、その辺も改良してあるのかね?」
ニャース兵
「回そうと思えば回りますニャ〜」
「対ダクタリアン用ニャので、大回転して全砲門一斉掃射で全周囲蹴散らす事も可能ですニャ!」
「…凄く船酔いしますがニャ〜」
ジェフリー
「あえて実用的に改造しながらも、船員の事は全く考えていない!!」
「だが、それが良い!! それでこそノヴゴロドの継承者だよ!!」
私は涙目になりながらニャース兵と固い握手をする。
彼女も嬉しい様で何より! この艦が愛されている証だ!
ジェフリー
「とはいえ、機動力は問題だな…テレポートラインの強化案も考えねば」
結局、イギリスまでインディペンデントを飛ばして最終的には牽引する羽目になったからな…
今のテレポートラインの技術でも、ここまで大型の物体を飛ばす技術はまだ無いのだ…
ニャース兵
「下手したら人が泳いだ方が速いですからニャ〜」
「コレばっかりは装甲で勝負する!と、艦長も譲らなかったニャ〜」
「お陰で、海賊って言っても1度も成果は挙げてないニャ…」
「たま〜に出て来るダクタリアンを一掃して、それを稼ぎにしてたですニャ!」
ふむ、イギリス軍の内情は噂に聞いていたが、Pokemon嫌いというのは本当らしい。
彼女たちは好き好んで海賊などやっていなかったのだろう…生きる為に必至だったのだ。
その中であえてこの艦を建造し、自ら海に出るとは…いやはや逞しい。
出来る限り、こちらからもサポートはしてやりたい所だな。
私はそんな風に思い、他にも色々あると言われる兵器群を見せて貰う事にした。
ここには夢が沢山詰まっている…私も久し振りに童心に返った様だよ♪
『遠い世界のPokemonさん』
第5話 『ニャイキングさんはお金が大好き』
To be continued…