第4話 『鹿島 萌は英語が苦手』
ネギガナイト
「あ、あの…」
それは、ややか細い声だった。
人気の無いインディペンデントの医務室に、その声が響く。
部屋では防音も効いており、外からの音はほとんど聞こえない。
精々聞こえるのは部屋の中の空調や医療機器の電子音。
現在インディペンデントは日本領の九州地方上空にて待機している為、風を切る音も聞こえないのだ。
そして、そんな医務室にはまだ大怪我が治っていない私だけがベッドに横たわっていた。
メイリン
「あれ? 貴女昨日のPokemonじゃない…」
私は全身包帯まみれで体もロクに動かせないが、首を何とか動かしてその娘を見る。
ネギガナイトと言われるその少女は、昨日とは打って変わって普段着を着ており、純白の軍服に身を包んで左手には白い軍帽を持っていた。
髪はこれまた白髪でややセミロング。
種族の特徴と思われる、トサカの様な頭頂部はピンッと真っ直ぐ上に伸びており、彼女のモチーフが鳥である事を連想させていた。
両腕は翼が付いている為か、服の袖は切り落とされており、露出している。
しかし、肌と思われる部分からは羽毛が生えており、そんなに寒そうにも見えなかった。
そんな彼女はやや太い眉毛をひそめて真剣な顔をする。
そして彼女はバッ!と勢い良く頭を下げ、ただ一言私にこう言った。
ネギガナイト
「申し訳ございませんでした!!」
メイリン
「え? えっ? な、何が…?」
私は意味不明に?を浮かべ、彼女の謝罪の意味を考えていた。
少なくとも私は謝られる様な事はされてないと思うし、彼女にそんな不備があったとも思えないんだけど…
メイリン
(って、サイアなら苦言を呈しそうね…あの戦い方だと)
多分、この娘もそれを悔いているのだろう。
彼女は良く頑張ったとは思うが、あの戦い方では敵は倒せなかった。
結果的にコアを見抜いていたサイアがいたから、私はそれを撃ち抜けた訳だけど…
ネギガナイト
「…少尉殿がいなければ、私は死んでいたかもしれません」
「結果的に私は軽傷で済んだものの、代わりに少尉殿がこの様なお姿に…!」
「本当に申し訳ありませんでした!! 私が未熟なばかりに!!」
彼女は恥も外聞も捨て、その場で土下座をする。
私はベッドから動けないので、実際には全くそれが見えないのだけど、何となく何してるかは理解出来た。
そして、私はあはは…と空笑いする。
メイリン
「別に気にしないで良いよ…貴女が無事なら、それで良かったし♪」
「失敗したんなら、次頑張れば良いんだから!」
私は笑ってそう言った。
ちなみに、彼女は日本語で喋っているが、ちゃんと私には理解出来ている。
元々ノアから日本語の勉強を受けており、会話位ならほとんど問題なく出来るのだ。
だから私も日本語で彼女には返しており、それはちゃんと伝わっている…はず!
やがて、彼女は俯きながらも立ち上がり、少し体を震わせていた。
ネギガナイト
「…少尉殿は、何故そんなにも笑えるのでありますか?」
俯いたまま、彼女は怪訝そうな顔でそう言う。
私はまた?を浮かべるものの、ただ素直にこう答えた。
メイリン
「笑わないと福が逃げてくって、聞いたからね〜」
「だから、私は苦しくても、辛くても出来る限り笑って見せる事にしてる♪」
私はそう言ってまた笑ってみせた。
正直、それだけでも顔が痛いのだけれど…
ひょっとしたら引きつっていたかもしれない。
だけど、ネギガナイトの娘はそんな私を真っ直ぐ見て言葉に詰まっていた。
ネギガナイト
「………」
メイリン
「…あ、はは」
私は思わず空笑いをしてしまう。
この娘…何だか怖い。
元々の顔付きが厳しく見えるのもあってか、物凄く人相が悪く見える。
いや、やっぱり眉毛の太さが問題なのか?
それとも種族的にそういう物なのだろうか?
目も細いし、常にキッ!とした目付きでこっちを見られると、とにかく怖い!
ネギガナイト
「…笑う門には福来る、ですか」
メイリン
「え?」
私は思わずそんな反応をしてしまう。
一旦の静寂から、ただそれだけの言葉。
表情は変えずに、ただ彼女は低い声でそう呟いたのだ。
ネギガナイト
「日本の諺です…常に笑顔でいれば、家族は円満、幸せになれるという」
メイリン
「あ、そういう意味なんだ…へぇ〜」
私は感心してしまう。
元々、ノアからそういうのを聞いていただけだったから、諺とかそういうのは知らなかった。
ただ…笑っていた方が良いと、ノアには言われたから。
そうしないと、福が逃げる…ってね。
ネギガナイト
「…申し訳ありません、現在待機を命じられていますので、これで失礼致します!」
そう言って彼女はビシッ!と敬礼をし、そのまま背中を向けて部屋を出て行った。
やがて姿が見えなくなった所で私は大きなため息を吐き、素朴な疑問を口にしてしまう。
メイリン
「…あの帽子、あのトサカでどうやって被るんだろう?」
しばらく、その疑問だけで私は悶々としそうだった。
あ〜!! どうせなら聞いとけば良かったー!!
………………………
カコーン!!
そんな、軽快な『鹿威し(ししおどし)』の音が場に響き渡る。
そこはまさに『和』と呼べるであろう庭園であり、そこにある大きな屋敷にてそれは鳴り響いていた。
そして、開け放たれた障子の扉の先にはふたりの老兵がいる。
老兵
「…こうやって将棋を打てるのも、後何回出来るかの?」
ジェフリー
「ふむ、戦況が徐々に悪化して行く中、もうそんなに猶予は残されていないのかもしれませんな…」
我々は互いに駒をパチパチと打ち、日本語で互いに言葉を交換していく。
ほとんど思考する事もなく、互いの駒は互いを攻めて行っていた。
そして、互いの交換する言葉はほとんどが感傷…
お互いにもう60は超える年月を生きた老兵だ。
そんな我々に、残された時間はそんなに無いのかもしれん。
老兵
「『萌(はじめ)』はそちらに任せよう」
ジェフリー
「うむ、責任を持って預かろう」
既に互いの駒は少なくなって来ている。
しかし、互いの戦況が傾く事はまだ無い。
このままやり続ければ、恐らく日が暮れてしまう事だろう。
我々には、残念ながらその時間も許されはしない…
ジェフリー
「…『鹿島(かしま)』提督、感謝するよ」
鹿島
「ふん…また決着は着かずか」
私は次の手を打たずに奪った駒を畳の上に置いて立ち上がる。
そして帽子を被って私は背を向けた。
黒い着物に身を包んでいる鹿島提督は、残念そうにため息を吐く。
やや長い髪は既に白髪化しており、その年齢を感じさせる風貌だろう。
しかし、彼の顔にはまだまだ精気が溢れている。
かつては鬼とすら言われていた程の剣豪だったと聞くが、今でもその腕は衰えていないのかもしれんな…
鹿島
「…今更、剣を取る必要があるとはな」
ジェフリー
「…平和だった世界は、もう無い」
「だが、戦いを忘れていた我々でも、剣を取って戦う武人とならねばならない」
鹿島
「それが、人の生きる道か…」
ジェフリー
「はたまた、人の滅ぶ道か…」
その答えは誰にも出せないだろう。
だが、我々は諦めてはならない。
いかに強大な敵であろうとも、盾となって人々を守るのが我々軍人の役目なのだから…
………………………
ネギガナイト
「本日よりインディペンデントに配属となりました! 『鹿島 萌(かしま はじめ)』一曹であります!!」
「至らない所もあるでしょうが、どうかよろしくお願い致します!!」
インディペンデントのメインルームにてその声が響き渡る。
しかし、その意味が理解出来ている兵は少なく、その後の通訳による言葉でようやく意味を理解するのだ。
サイア
(…一曹、ね)
それはあくまで日本軍の階級だ。
ここでは一応アメリカ軍の階級が適用されるはずだけど、彼女はそれを理解していないのかしら?
それともまだ伝えられてないのか?
どっちにしても、戦力が増えるのは悪い事ではないわね…
萌
「えっと…英語は全く話せませんので、ご迷惑はかけると思いますが、それでも頑張りますので!!」
彼女は力強くそう言った。
その後通訳の言葉を聞き、私たちは全員で拍手をする。
まぁ、英語は後から自然と身に付くでしょうし、本人にやる気さえあれば大丈夫でしょう。
私はそう思い、その場から一旦離れる。
彼女は既に他の兵たちに群がられ、質問攻めにあっている様だから…
………………………
アンナ
「ふーん、こうなってるのか〜」
サイア
「早速味見かしら?」
私は格納庫にてアンナ中尉を発見し、声をかけた。
アンナ中尉はタバコを吸いながら大きな太刀を持ち上げている。
見た目細い体なのに、どこからあんな力が出てるのか?
少なくともあの太刀はネギガナイト用に作られている専用装備だ。
単純な重量でも100kg位はありそうな物だけど、人間の力で軽く持てる物なのかしら?
アンナ
「…中に詰まってるのは、長ネギか〜」
サイア
「…は?」
思わずそんな声をあげてしまった。
彼女は今何と言ったのだ?
ネギ? 葱? 長ネギ……
アンナ
「…成る程成る程、それで全部この装甲材で固めてあるのか〜」
「確かにコレならそうそう折れないね〜」
サイア
「…それに意味があるの?」
アンナ
「そりゃあるさ〜…だってネギガナイトだもん」
彼女はタバコの灰を足元に落として笑う。
灰を足で踏み、そのまますり潰していた。
サイア
「…特装はそれだけ?」
アンナ
「後は甲冑型の装甲位だね〜ブーツには相当強力なブースターが付いてる」
「大型ダクタリアンの上を取れる位には飛べるし、空を飛べない彼女からしたら十分な出力かな〜?」
「だけど、あくまで接近戦特化…コレあっての物かね〜」
彼女はそう言いながら、太刀を元の場所に戻す。
特に違和感無くしてるけど、本当に重くないのだろうか?
私は試しにそれを持とうとしてみたが、ビクともしなかった。
間違いなく女の細腕で持ち上がる重量ではない。
サイア
「…貴女、本当に人間?」
アンナ
「ん〜そうよ〜? まぁ、臓器以外は人工素材のサイボーグだけど」
私は表情に出さないものの、かなり驚く。
彼女は笑っているが、その意味はかなり重い。
私が言葉に詰まっていると、彼女はひとりで勝手に話し出した。
アンナ
「…まぁ、こんないつ終わるかも解らない戦いを続けてたら、人なんていつ死ぬか解らない」
「私はそんな皆を守る銃や剣を作らなきゃならない訳だ…」
「だったら、私からまず改造して寿命伸ばさないとね〜」
サイア
「それだけの為に、人間の体を捨てたって言うの?」
アンナ
「それだけが重要さ…武器を作れるって事は、人はそれだけ戦える」
「ダクタリアンには底が見えない…どこから現れるのかも解らない」
「今でもどこかの国には現れてる…そして、その規模は少しづつ大きくなっている」
「戦争において、重要なのは戦える戦力を供給し続ける事だ」
「常に戦える戦力を供給出来るのなら、人類は絶対に負けないさ〜♪」
アンナ中尉の目は笑っていた。
恐らく、端から見たら彼女は間違いなく狂人だろう。
だけど、相手は正体不明のダクタリアン…
そんな訳の解らない相手と戦う続けるには、人間ではいられないのかもしれないわね…
アンナ
「まぁ、どっちにしてもPokemonがいなきゃ人類は滅ぶんだ…」
「私たちは、貴女たちに賭けるしかない…」
「いくら人体を弄くれたって、人はPokemonには勝てないんだからね〜」
サイア
「でも、人はそれだけ数がいるんじゃないの?」
アンナ
「そうだね〜でも、人類全てを爆弾に変える位なら、地球を爆弾にする方が手っ取り早いかな〜?」
アンナ中尉は冗談なのか本気なのか解らない笑顔で軽く言う。
端的に言えば、未来への道筋を指しているかの様だった。
ダクタリアンを滅ぼせないなら、人類に未来は無い。
最悪、地球を捨ててでも…か。
サイア
「…宇宙に逃げる算段でもあるの?」
アンナ
「出るのは簡単さ〜でも、人は宇宙じゃ生きられない」
「Pokemonのお陰で人類の技術は数百年分程伸びた…けど、まだ宇宙で生活出来る程の覚悟と経験は無いよ」
「例え出れたとしても、そこから食料を作り、水を作り、空気を作る…例え技術が追い付いても、その土台を作るにはまだ百年近くはかかる」
「ダクタリアンは…そんな猶予を与えてくれるのかね〜?」
無いわね…と私は思った。
つまり、どうあっても私たちは戦うしかない。
例えPokemonが人を見限ったとしても、ダクタリアンは私たちを滅ぼすだろう。
生きるには、勝つしかない。
意思の疎通も叶わない異形の存在を討ち滅ぼし、そこから未来を選択しなければならないのだ。
Pokemonが生き残るか…それとも人類が生き残るか?
………………………
メイリン
「へぇ〜じゃあ正式に仲間になったって訳ね〜」
萌
「はいっ! 鹿島 萌一曹…じゃなかった! 今は軍曹!!」
「これより、恩義あるメイリン・ルカ少尉殿の元で勉強させてもらうであります!」
どうやら彼女はサイアと同様に独立部隊へ異動となった様だ。
今は正式にこちらでの階級も授与された様で、胸には軍曹の勲章が付けられていた。
萌
「そう言えば、少尉殿は日本語を普通に話せるのですね?」
メイリン
「ん〜私は日本人とアメリカ人のハーフの人と一緒に住んでるから、自然と覚えたって言うか…」
萌は感心した様に感嘆の息をあげていた。
余程その事に感銘を受けたのか、鋭い目付きで感心している。
やっぱり、あの人相の悪さは地なんだ…
萌
「流石は少尉殿! やはり私もまだまだ勉強が足りません!!」
「よろしければ、私に英語を教えてはいただけませんか!?」
メイリン
「良いよ、それ位なら♪ どうせ動けなくて暇だし…」
こうして、私たちは英会話の勉強を始めてしまった…
まぁ、ダクタリアンの襲来も無いし、今は良いでしょ♪
萌はとにかく生真面目で、何でも覚えようとする。
だけど、あまり考えるのは苦手なのかどうにも覚えは悪い。
結局、夜まで勉強をしていたけど、話せるようになったのは挨拶とか基本的なやりとり位だった…
………………………
メイリン
「…どうだった?」
萌
「の…の〜ぷろぶれむ……で、あります!!」
私は英語であえて聞いてみると、萌は何とか返してみせた。
…ほとんど日本語だったけど。
メイリン
「あはは…まぁ、その内覚えると思うよ?」
萌
「な、情けないであります…! 8時間も勉強してこれとは!!」
メイリン
「まぁ初日だし、大丈夫大丈夫♪」
「基本的には通訳の人もいるんだし、少しづつ覚えたら良いわよ♪」
萌
「…何とお優しきお言葉、感謝するであります!!」
萌はビシッ!と敬礼する。
本当に生真面目だ…少し堅苦しいけど。
私はもっとフランクで良いんだけどな〜
萌
「そう言えば、次の任務はどうなるのでしょうか?」
メイリン
「さぁ? 私は動けないし、まだ聞いてないけど…」
サイア
「…次はイギリスよ」
突然扉が開き、サイアが冷静にそう言った。
そしてやや面倒そうにため息を吐き、私たちを入り口から眺めている。
そのまま、部屋の中に入る事無くサイアはこう言った。
サイア
「イギリス軍に所属しているPokemonが、ゲリラみたいに単独行動で動いているらしいわ」
「軍からしても頭が痛い要因みたく、早く引き取ってくれと懇願されたそうよ…?」
メイリン
「ゲリラって、何でそんな事してるの?」
萌
「軍に所属しているのであれば、軍の意向に合わせて戦わねば…」
私たちはそんな感じで色々と話し合う。
とはいえ、現場を見てない私たちからしたら想像する事しか出来ず、一体どんなPokemonが動いているのかもよく解らなかった。
サイア
「…とにかく、行ってみなければ何も解らないわ」
「最悪、敵対するなら排除する事も考えておくのね…」
メイリン
「…Pokemon同士で、争えって言うの?」
サイアは無表情で何も言わない。
それはある意味肯定だ。
やるならやる…サイアはそう思っているんだろう。
だけど、私はそんなの納得出来ない。
メイリン
「馬鹿げてる…こんな状況でPokemon同士が争って何になるの?」
サイア
「敵なら排除するだけよ…邪魔だもの」
メイリン
「そんなの、何の意味があるの!?」
私の叫びに、サイアは黙る。
意味が無い…それはそうかもしれない。
だけど、私は納得出来ない。
ダクタリアンにそんなのは関係無い。
Pokemon同士が争って、喜ぶのはダクタリアンだけ。
なのに、わざわざ喜ばせてどうするのよ?
萌
「…あの、サイア中尉は何と?」
メイリン
「………」
萌は英語の会話を理解していない。
悪いけど、私も今は余計な事は言いたくなかった。
萌は私の表情から何か感じ取ったのか、あまり踏み込んでは来なかった様だ。
サイア
「…ダクタリアンは全部倒すわ、それは確定事項」
「でも、その邪魔をするなら…例え人間だろうがPokemonだろうが、私は容赦しない」
メイリン
「…!! 私は、人間を信じてる」
サイア
「…好きにしたら? でも、ダクタリアンは全てを滅ぼす」
「貴女は危機的状況で、世界と人間とを天秤にかけれるのかしら?」
サイアは皮肉を込めてそう言った。
私は何も言えずに、ただ俯いて体の痛みに耐える。
サイアはそのまま場を離れ、ドアは閉まってしまった。
メイリン
「…私は、それでも人間を守る」
萌
「……?」
萌はやっぱり理解していなかった。
英語での会話だったし、仕方が無い。
だけど、私たちの感情のぶつかり合いは何となく理解したのかもしれない…
メイリン
(ノア…私は皆守るからね)
萌
「…私にはよく解りませんでしたが、少尉殿は何かを決意されているのですね?」
メイリン
「………」
萌は何となくかもしれないが、そう聞いて来る。
私は答える事は出来ず、ただ俯いて痛みに耐えていた。
何があっても皆は守る。
大好きなノアは、絶対に守る。
私は、その為なら戦える…!
萌
「…私も、もう行きます」
「今日はありがとうございました! また、勉強しに来ますので!」
そう言って萌は敬礼して部屋を出て行った。
また、私はひとりになる…少しだけ、寂しい気持ちになったのを理解する。
メイリン
(ダクタリアンは、倒さなきゃならない…)
(それなのに、私たちが争ってどうするの?)
………………………
ジェフリー
「…珍しく、ダクタリアンが大人しい気がするな」
マイク
「そうですね…昨日の襲撃からすると、ややそう感じるかもしれませんね」
現在、我々はイギリス領へと向かっている。
ダクタリアン出現の報告はまだ無く、珍しく今は僅かばかりの平和を感じ取っていた。
最も、世界のどこかでは未だにダクタリアンは息を潜めている。
それこそ、我々の目が届かぬ場所で…目を光らせているのかもしれない。
ジェフリー
「…イギリス軍からは何か?」
マイク
「特には…強いて言うなら、海賊に気を付けろ…と電報が」
海賊…?
この時代に海賊とは…?
今や人類は空を制している。
船が無いわけではないが、ダクタリアンの存在がある以上、一般的な輸送船以外は今やほとんど航行していないはずだが…
ジェフリー
「マイク君、索敵を…後、サイア中尉と萌軍曹に第二戦闘配備命令」
マイク
「りょ、了解!」
マイク君は私の命令を受けてすぐに警報を鳴らす。
第二戦闘配備…いわゆる警戒命令であり、動けるPokemonは戦闘待機を命じられる状態だ。
現在メイリン少尉は動けない状態…故にサイア中尉と萌軍曹だけがこの命令を受けなければならない。
………………………
サイア
「……?」
突然警報が鳴る。
そしてマイク伍長の声がスピーカーから鳴り響き、第二戦闘配備の命令が伝えられた。
私はすぐに格納庫へと向かい、戦闘の為の準備をする。
………………………
萌
「!!」
警報…ダクタリアンが現れたのか!?
しかし、あくまで第二戦闘配備の通達。
警戒態勢という事ですね…私たちPokemonは戦う為に待機をしなければならない。
前の戦いでは失態を晒してしまった…今度は必ず役に立ってみせる!
………………………
アンナ
「…ダクタリアンの反応は?」
整備兵
「ありません! ですが、何かあるんでしょうか?」
私は色々予想してみるも、何となくしか解らなかった。
そもそも、イギリス軍所属のPokemonはあまり良い噂を聞かない。
何人かは戦闘用のPokemonもいるみたいだけど、戦果をあげたって報告は聞いた事無いからね〜
もっとも、全世界において活躍したPokemonは数少ない。
メイリン少尉やサイア中尉は例外みたいな物だ…大抵のPokemonは大型ダクタリアンにすら四苦八苦している。
良いとこ、中型以下のを追い払うのが限界…
もちろん実力が無いわけじゃない。
中には優秀なPokemonも何人かいるだろう。
ただ、ダクタリアンの行動範囲で見ると、出現頻度という物があるからね〜
アンナ
「…イギリス領でダクタリアンの反応はあまり聞いてない」
「と、なると…内紛でも起こった?」
整備兵
「…?」
私の一人言は虚しく響き渡る。
多分、長官はこれを予想して発令したんだろうなぁ〜
やれやれ…どうにも、無駄な労力は割きたくないんだけどね〜?
アンナ
「…サイア中尉〜装備の調子はどう〜?」
サイア
『悪くは無いわ…パフォーマンスは99%出せると思うけど?』
99%ね〜1%は不安があるって事か。
まぁ、そんなのは今回誤差…とりあえず問題無いって事で良いよね〜
ちなみに、私は体内に搭載している通信機器から直接サイア中尉に通信を送っている。
私の意思で自由にオンオフ出来る機能で、面倒が無い機能だ。
アンナ
「とりあえず、メイリン少尉は動けないし、何かあったらお願いね〜?」
サイア
『了解よ…まぁ、適当にやるわ』
サイア中尉は本当に適当にそう言う。
彼女の実力なら問題無い、超大型のダクタリアンでも現れなければひとりで何とか出来るだろう。
しかし、今回はひとりではない…
アンナ
「鹿島軍曹〜あまり前に出るんじゃないよ〜?」
萌
『…? えっと、これって何と言って…?』
おっと忘れてた…軍曹は英語が解らなかったんだっけ〜?
私はすぐに脳波で言語設定を変える。
こうする事により、私はありとあらゆる言語を発する事が出来るのだ。
まぁ、あくまで蓄積されたデータベースからの発音だから、聞き手からしたら違和感はあるかもしれないね〜
アンナ
「鹿島軍曹、今度は理解出来る〜?」
萌
『あ…はいっ! 日本語なら解ります!!』
アンナ
「そりゃ良かった〜とりあえず、君は今回後方待機だ」
「サイア中尉の命令無しに前に出ちゃダメだよ〜?」
萌
『は、はい! 了解しました!!』
うんうん…鹿島軍曹は素直でよろしい♪
メイリン少尉もこの位素直なら可愛いんだけどな〜
まぁ、今動けない兵の事を考えても仕方無い。
今回はあくまで警戒態勢…何も無いなら、それに越した事は無いからね〜
『遠い世界のPokemonさん』
第4話 『鹿島 萌は英語が苦手』
To be continued…