第3話 『ネギガナイトさんはお侍』
ジェフリー
「さて、それでは諸君! これより新たに発足された任務の説明をする!!」
メイリン
「………」
サイア
「………」
私たちはブリッジで長官の言葉を聞いていた。
そこにいるのはPokemonである私とサイア、後はインディペンデント内の一部の上官たちだ。
ジェフリー
「我々、インディペンデントは全世界で唯一の『独立遊撃部隊』となり、複数のPokemonを所有する権利を明確に与えられた!」
独立遊撃部隊…確か前から計画はされていた物だったとは記憶してるけど。
複数のPokemonを有する権利…?
ジェフリー
「本日を持って、我々インディペンデントの部隊は、世界で唯一の独立遊撃部隊となる! そして、迫り来るダクタリアンに対し、皆の力を結集して挑みたいと思う!!」
おー!!と、全兵士がそれに呼応する。
そんな中、私とサイアだけは呆けていた。
いや、サイアはただ普通に受け止めているだけね…まるで、初めから知っていたみたいに。
何よ…つまり私が知らなかったのがバカみたいじゃない!
ジェフリー
「我々は、対ダクタリアン部隊として、全世界の代表と扱われるだろう!」
「まだまだ戦況は不安が付きまとうものの、どうか皆一丸となって戦ってほしい!!」
全兵士が長官の言葉に掛け声をあげる。
今度は私も同じ様におー!!と叫んだ。
だけど、サイアだけは一言もあげない。
まぁ、サイアの性格で呼応するとは思えないけどさ〜
………………………
メイリン
「ちょっとサイア〜、もう少しノリ良くやったら〜?」
サイア
「…それ必要ある? 馴れ合いを否定はしないけど、私まで巻き込まれるいわれは無いわね」
サイアはあくまでマイペースだった。
いや、まぁ解ってたけどさ〜
それでもサイアは優秀だし、結果も出すし、皆の人気もあるし…もうちょっと、仲良く出来たら良いのに。
こんなんじゃ、いつかサイアは味方すら……
サイア
「…ひとつアドバイスしてあげるわ、同じエスパーなんだから、少しは心にロックでもかけなさい」
「じゃないと、貴女の脳内は心の声が駄々漏れよ?」
メイリン
「うえっ!? ちょっと、勘弁してよ〜!?」
私は思わず両手で頭を抱えてしまう。
サイアは同じエスパーでも、私とは純度が違う。
ネイティオであるサイアは、その気になればその瞳で未来や過去ですら見通すと言われてるからね〜
逆にそれだけの力があるからこそ、サイアは実戦で被弾すらしないのだ…
メイリン
「あ…もう! サイアったら…」
結局、サイアはひとりで行ってしまった。
彼女がここに来てからまだ数日だけど、サイアが誰かと一緒に歩いている所は見た事が無い。
たまに外に出て、インディペンデントの甲板上で空をじっと見ている…なんて噂はあるけれど。
メイリン
「…日光浴が趣味なのかしら? 部屋でも基本的に寝てる姿しか見た事無いし」
とにかくサイアは動きたがらないのだ。
実戦では機敏に動くだけにギャップがあるけれど、普段のサイアは本当に無駄な動きが無い。
性格的にそうなのかもしれないけれど、サイアってばとにかく効率重視なのよね〜
メイリン
「…はぁ、どうにも仲良くはなれないわねぇ〜」
私は前髪をかき上げながらも、ため息を吐く。
現状、この部隊にいるPokemonはふたり…戦力で言うならまだまだ少ない。
いくらサイアが一騎当千ったって、ひとりで全てのダクタリアンは相手に出来ない。
あれから2度と現れてないけど、また超大型のダクタリアンが現れたら、今度は倒せる?
ましてや、それが複数同時に現れたら…?
考えたくもない…多分そうなったら私たちふたりじゃどうしようもない。
前は新兵器をふたりがかりで使ってギリギリ倒したってのに、それが複数いたらまず無理だ。
弱点が解るとも限らないし、鈍重とも限らない。
良くも悪くも、ダクタリアンの形は千差万別でどんな形状を取っているかも解らないのが最大の問題点だ。
小型〜大型のサイズでも、どんな形、特徴を持っているかは戦うまで解らない。
そもそも、ダクタリアンが出現するのは本当に唐突で、どこからやって来るのかも解らないのだから…
出現の瞬間を見た者は生きて存在しないし、それ故に予測も出来ない。
どうやっても、ダクタリアンに対しては対症療法しか出来ないのよね…
メイリン
(せめて、ダクタリアンの基地みたいな物でも解ればなぁ〜)
もっとも、解れば苦労はしない…か。
意思疎通所か、行動パターンすら予測不可能だもんね。
ただはっきり解っているのは、人類に対して明確に敵意を持っている事だけ。
話し合いの余地すら無い、出会ったら最後…どちらかが死ぬまで戦うしかないんだ。
ビー!! ビー!! ビー!!
突然インディペンデント内に警報が鳴り響く。
赤いランプが点灯し、すぐに第1戦闘配備の通信が伝えられた。
現在地は確か東南アジア付近ね、長官の話だと日本に用があるって話だったけど…
メイリン
「考えてる場合じゃないか! ダクタリアンが出たなら戦う!!」
「皆は、私が守ってみせるんだから!!」
私は首元のネクタイを外し、ボタンを弛めて少し胸元を開く。
この軍服窮屈なのよね〜
とりあえずこれで良しっと!!
さぁ、命令が有り次第すぐに出撃よ!!
………………………
メイリン
「はぁ? そのまま待機〜?」
サイア
「そうよ、日本軍から通達…ダクタリアンは自分たちで倒すから手を出すなって」
私はハッチでサイアと一緒に待機し、出撃を待っていた。
だが、サイアが言うには今回私たちは手を出すな…という事らしい。
メイリン
「…敵の数とサイズは?」
サイア
「数はまだ解らないわ…だけど大型が1体、随伴に中型が数体確認出来るわね」
大型1体と中型数体か…だとしたら、大型を核とした編隊かもしれない。
ダクタリアンは明確に成長があると言われているし、個体によっては知能を得ていそうな個体も見受けられた。
特に、戦闘を何度も繰り返しているダクタリアンは危険度が高い。
例え小型といえども、知能を得ていれば戦術、戦略を練る可能性もあるのだから…
メイリン
「危険度的には?」
サイア
「日本軍の戦力がどれ程かは不明…所属しているPokemonの性能がどれ程かは知らないけれど、貴女と同レベルなら危険度はBって所かしら?」
私ならB…か、つまり被弾やダメージは免れないけど、勝てなくは無いって所ね!
とはいえ、それはあくまで私の性能を加味しての予測だろう。
Pokemonはそれぞれ得意不得意があるし、相性によっては有利不利が出る事も有り得る。
果たして、日本のPokemonはどんなのなんだろうか?
メイリン
「くっそ…このまま待機してるだけって、気分悪いわね〜」
サイア
「あくまでこの辺りは日本軍の領域よ? インディペンデントが独立部隊とはいえ、まだ世界的に実行権が認知されてるかは怪しい部隊だし、日本的にもプライドがあるんでしょう…」
一体何の為の独立部隊なんだか…?
肝心な時に実行権が行使出来ないんじゃ、ほとんど意味無いじゃない!
それに、世界全体の敵に対して、一国のプライドとか馬鹿げてる。
こんな事で突っ張らないで、皆で協力した方が楽じゃないの…!
サイア
「…憤るだけ無駄な労力よ?」
「折角向こうが自分で対処するって言ってるんだから、お手並み拝見と行こうじゃないの」
メイリン
「でも、それで日本の住民が被害にあっても良いって言うの!?」
私は少しイラつきながらも、そう激昂する。
するとサイアはふぅ…とため息を吐き、哀れんだ目で私を見た。
サイア
「…不愉快だけど一理あるわね、日本軍がどれだけ自信あるのかは知らないけれど、その国に住む人たちに被害が出ないとは限らないわ」
「長官、聞こえる? サイア中尉、並びメイリン少尉はふたりで日本本土の防衛に向かうわ」
サイアはそんな風に言いつつ、すぐに長官に通信を開いてそう伝えた。
私は笑い、少しだけサイアを見直す。
ジェフリー
『了解だ中尉、言い訳はこちらで用意しよう』
『前線での指揮は任せる、メイリン少尉と共に、日本の大地を守ってやってくれ』
サイア
「了解よ長官、それじゃ出撃するわ」
メイリン
「よっしゃあ!! やる気出て来た! さっさと行くわよサイア!?」
すぐにカタパルトハッチが開き、私の足元にはエレクトリックラインが引かれる。
私は装備を確認して、前傾姿勢になった。
そして整備スタッフのカウントダウンと共に、私は足元に電力を集中させる。
整備士
「スリー! トゥー! ワン!!」
メイリン
「メイリン少尉! 出撃するわ!!」
サイア
「サイア中尉、出るわ」
私は一気にカタパルトで加速し、全身に超能力のフィールドを纏う。
これにより、音速を超える速度を出しても、私の体は全く傷を負わないのだ。
………………………
メイリン
「ダクタリアン確認! 沖縄上空をもう越えてるわよ!?」
サイア
「…大型1に中型5、規則正しい隊列で飛んでるわね」
私たちは高速でそれを追いかけ、すぐに追い抜いて行く。
敵編隊はこちらを見る事も無く、素直に通してくれた。
敵は何か目的を持ってるの?
こっちに敵意すら向けないなんて…
サイア
「佐世保基地から入電…今からPokemonを出動させるとの事よ」
「私たちは鹿児島上空にて防衛、流れ弾や仕留め損ないを排除するわ」
メイリン
「分かったわ! 1体たりとも通しゃしないんだから!!」
私たちは鹿児島上空で反転し、武装を構える。
敵ダクタリアンの編隊はおよそ時速200km程の低速で飛行していた。
減速している…? 私たちを警戒してるのかしら?
今回のダクタリアンはどこかおかしい。
いつもなら全速力で上陸をしようとするのに…!
サイア
(敵大型個体は、翼の生えた人型…中型は鳥型か)
メイリン
「何か不気味ね…どうして一気に攻めて来ないの?」
相手は段々と減速している。
まるで、防衛している私たちを観察するかの様に。
全身真っ黒なダクタリアンの体だけど、翼の生えた人型の大型種はふたつある目を赤く光らせていた。
そして、私たちがやや戸惑う中…海上を高速で移動する何者かが。
メイリン
「海上を走ってる!?」
サイア
「違うわ、良く見なさい…走ってるんじゃなくて、滑ってる」
「まるでジェットスキーね…飛行タイプじゃ無いみたいだけど」
私たちは水飛沫を巻き上げながらダクタリアンに突っ込むひとりのPokemonを見た。
その姿は純白の和甲冑を身に纏い、背中に大きなソードを背負っている。
頭頂部には鳥のトサカみたいな白い毛が伸びており、その根本を何やらゴムバンドで留めていた。
身長は150cm程と、小さい…
両腕はまるで鳥の翼みたいな物に見えるけど、しっかりと手は付いており、肘も曲がる様だ。
見た事が無いPokemonだけど…あれは一体?
サイア
「…あれは『ネギガナイト』ね、見たのは初めてだわ」
メイリン
「ネギガナイト…? 聞いた事無いわね」
サイア
「どっちかって言うと、西洋騎士みたいな感じのPokemonだったはずだけど、どう見てもあれは侍ね」
言われてみれば納得だった。
確かに彼女が身に付けている甲冑はまるで武士や侍のそれだ。
とてもじゃないけど、西洋騎士には見えない。
だけど、鳥っぽい見た目なのに空は飛べないのね…?
………………………
ネギガナイト
「…敵ダクタリアン、肉眼で確認!」
「特装準備良し! これより敵を討つであります!!」
私は背中に背負っている特装の刀を鞘から抜く。
その刀身は緑色に輝いており、これこそが私専用に改造された、自慢の『長葱』です!!
刀身の長さは私の身長の倍はある3m!
私はそれを両手でしっかりと握り、上空のダクタリアンを目標に定めて海上から跳び上がった。
ネギガナイト
「日本の脅威は私が排除します!! はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
私は足に付いている特装のブースターを全開にする。
そして私は敵ダクタリアンよりも更に上の高さまで跳び、そこから敵大型を一直線に見定めた。
まずは敵の最大戦力と思われる大将を討つ!
私は刀を右手で後ろに引き、左手を前にかざして突きの体勢に入る。
そして落下の慣性を利用して一気に突っ込んだ!!
中型たち
「キィィィ!!」
ネギガナイト
「大将を守りますか!? しかしそれならば全て貫くのみ!!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
私は刀身から全力の気を放ち、相手中型に当たる寸前で一気に右手を前に出す。
そのまま刀は中型を貫き、そのまま中型を刀に突き刺したまま、大型へと一直線に向かった。
そして、勢いを衰えさせる事無く、私は大型の心臓をも突いてみせる。
私はそのまま敵ダクタリアンを押し込み、背中から海上に叩き付けた。
ネギガナイト
「残りは中型……っ!?」
私は刀を抜こうとして違和感を覚える。
敵が死んでいなかった! コアを貫けなかったのか!?
刀に刺されたまま、敵大型は両腕を合わせて私を潰そうとする。
私は足で大型の体を踏み付け、踏ん張って刀を無理矢理引き抜いた。
そして、すぐに体を屈めて前に加速する。
辛うじて敵の攻撃をかわし、私は海上を滑って改めて敵を確認した。
ネギガナイト
「人型というばかりに、心臓の位置が同じと思い込み過ぎたか!」
「だが、それならば何度でも突くのみ!!」
私は20mはあろうかという大型相手に再び刀を構える。
同じく右手で刀を引き、左手を前に出して構える、突きの構え。
これはとある有名な日本の武人が得意とした技らしく、私はそれを訓練によって習得してみせたのだ。
本来ならばネギガナイトは盾を使うが、私はそれを捨てた。
刀ひとつに私は全てを賭けている…これは私の理念であり、信条!
攻撃こそ最大の防御であり、そこに盾は必要無い!
ネギガナイト
「どんな相手であろうと、必ず打ち貫く!」
「覚悟!! 今度こそ心の蔵を貫いてみせる!!」
………………………
メイリン
「…ねぇ、どう思う?」
サイア
「馬鹿に着ける薬は無いわね…コアの場所も見抜けずにあんな戦い方するとか、無駄な労力でしかないわ」
私も半分は同意見だ。
あのネギガナイト、実力はともかく全く相手の弱点が見えてない。
ただでさえダクタリアンは大きければ大きい程コアの位置が解り難くなるっていうのに…
あの大型の装甲を貫いたのは凄いけど、倒せないなら悪循環だ。
ダクタリアンはコアを破壊しない限り、すぐに肉体を再生させてしまう。
しかもその後は確実に『学習』する…もし必要以上に成長させたら、被害は更に大きくなってしまうかも。
メイリン
「あの大型、初めから動きがおかしかった」
「ただ本能的に戦ってるんじゃない、多分中型を動かしてるのよ」
サイア
「…多分合ってるわね、あれは恐らく一定以上学習した個体よ」
「私の見積もりだと、何度か日本軍と戦闘してるわね」
サイアはそこまで予測してみせた。
サイアは過去や未来を見る事が出来ると言われてるネイティオだ。
そんな彼女がそう言うのなら、信憑性は高い。
メイリン
「マズイんじゃないの? もしこれ以上成長されたら、手に負えなくなるんじゃ?」
サイア
「…万が一の場合は加勢するわ、日本側の意向には背くけど、こっちは元々独立部隊」
「人命優先とでも理由付ければ、後は長官が責任取ってくれるでしょ?」
サイアはあっさりとそう言う。
一見冷めている言い方だけど、サイアはサイアでちゃんと考えていた。
あくまで人命優先…そこは私も賛成ね。
私は両手で銃を抜き、いつでも突っ込める様に準備する。
サイアも翼のブースターを起動させ、敵を真っ直ぐ見つめていた。
メイリン
「タイミングは任せるわ、いつでも言って」
サイア
「なら、次にあのネギガナイトが突っ込んだら、すぐに大型の股間を狙いなさい」
「多分そこがコアだから…」
メイリン
「こ、股間…? 何でまたそんな所にコアがぁ〜!?」
私は想像して恥ずかしくなる。
ダクタリアンのコアは意外な所にある事も多いけど、今回はよりにもよってそこなの〜?
サイア
「…人型を模している以上、意味がある場所なのかもしれないわね」
「ダクタリアンのコアには謎が多いし、可能なら鹵獲したい所だけど」
メイリン
「冗談! そんな危ない事出来ないわよ!!」
ダクタリアンのコアは言わば生命。
それが存在する限り、ダクタリアンは何度でも再生し、成長、進化してしまう。
あれはどうあっても残してはならない物なのだ。
サイア
「…まぁ、解ってるけどね」
「でも、このままただ戦うだけで、私たちは勝てるのかしらね?」
サイアは少し険しい目で虚空を見つめた。
それは、未来視だったのだろうか?
だとしたら、私たちは後どの位戦わなければならないのだろう?
もしかしたら、私たちの世代じゃ戦いは終わらないのかもしれない。
ダクタリアンの謎…か。
メイリン
「…考えるのは後で良い! 私がやるのは今を守る事だ!!」
サイア
「それで良いわよ…貴女は余計な事を考えず、ただ突っ込みなさい」
「フォロー位は、してあげるから…」
私は再び立ち上がった大型ダクタリアンを見る。
ネギガナイトは前傾姿勢になり、再び突っ込む気の様だ。
多分、コアの位置は解ってない。
また馬鹿正直に突くのだろう。
それならそれで良い、私は私で相手のコアを撃つ!
私がやるのは…それだけよ!!
サイア
「タイミングは後3カウント後よ!」
メイリン
「…トゥー! ワン!! ゴーーーー!!」
私は尻尾の上に両足を乗せ、エレクトリックラインを足元に発生させる。
そしてカウント後、一直線にて大型へと向かった。
その速度は軽くマッハを超える!
少なくとも大型の機動性で追える速度じゃないわよ!?
中型
「キィィィ!!」
メイリン
「!? 中型がこっちに…」
ザシュ! ドシュ! ズンッ!!
私を邪魔しようとした、5m程の中型はサイアの武器で的確にコアを貫かれる。
明らかに相手の動きを予測した上でのフォロー…
サイアの武器は自分の思念だけでコントロールも出来るらしいし、まるで自動追尾の様に幾何学的な軌道で敵を貫いたり斬ったりしていた。
私はそのままサイアを信頼して真っ直ぐ突っ込む。
私の武器は銃だけど、戦術は接近戦だ!
ネギガナイト
「今度は頭を貫く!!」
大型
「グゥゥゥゥ…?」
ネギガナイトの娘は愚直に跳んで頭を狙う。
大型はそれに合わせて両手でガードし、刀を止め様としていた。
ネギガナイト
「甘い!! その腕ごと貫くのみ!!」
ネギガナイトの刀は大型の両腕ごと頭に刀の先端を突き刺す。
私は違和感を覚える…ガードした?
ダクタリアンなら、コアさえやられなきゃどうって事は無いのに?
いつものダクタリアンなら、わざわざ弱点でも無い場所を守る事なんてしないはず。
なのに、ガードした?
ネギガナイト
「!? 刀が、抜けない…!?」
私は理解した。
あれは守る為にガードしたんじゃない!
彼女の刀を、『捕まえる』為にガードしたんだ!!
つまり、これは確実に布石! 大型の反撃が来る!?
サイア
「避けなさいメイリン!!」
メイリン
「!?」
珍しくサイアの叫びが聞こえた。
その瞬間、大型の背中から生えていた翼が紫に光る。
それは、確実な反撃のサイン。
私は覚悟を決めて、そのまま突っ込む!!
メイリン
「あああああああああぁっ!!」
大型の翼から無数のビームが複数飛び交う。
不規則な軌道を描き、それらは私とネギガナイトを容赦無く襲った。
ネギガナイト
「ぐあああぁっ!?」
ネギガナイトは刀を離す事無く、ビームに体を撃ち抜かれる。
幸い細いビームで、全身を丸ごと焼かれる様な太さじゃないのが幸いだった。
ネギガナイトの娘は体を点々と焦がしながらも刀から手を離さない。
それを見かねてか、サイアは遠隔操作でブーメランを操作し、ネギガナイトへのビームを遮断していた。
サイア
「…ちっ、手間をかけさせて!」
サイアは愚痴りながらも仕事をしっかりこなす。
やっぱりサイアは凄い…敵の射程外からでもしっかりと仲間を守っている。
対する私は、やっぱり不器用なのかもしれない。
メイリン
「こんな程度で…! 負けてたまるかぁぁぁぁっ!!」
私は上から襲いかかる不規則なビームで体を貫かれるも、それでも前に進んだ。
そして私は加速を弱める事無く、大型の股下を通過する。
その際に、私は真下から敵の股間を撃ち抜き、相手のコアを破壊したのを理解した。
が…私は予想通り被弾してしまい、そのままの勢いで海に突っ込む。
ズバシャァァァァァァン!!と、音速を超える速度で私は海面に突っ込み、全身がバラバラになりそうな痛みで失神してしまった…
………………………
ネギガナイト
「あ…う!」
サイア
「こっちの傷は浅いわね、まぁ死にはしないでしょ…」
「それよりも、あっちの方が重体ね」
私は海上でネギガナイトの娘を見てため息を吐く。
そして、遥か前方でプカプカと気絶して流されてる仲間を見て、私は更に深いため息を吐いた。
そのまま、ネギガナイトの事は日本軍に任せ、私はメイリン少尉の容態を確認する為に飛ぶ。
メイリン
「………」
サイア
「…全身骨折及び、各所火傷」
「はぁ…避けなさいと言ったのに、何で突っ込むのよ貴女は?」
「あれだけスピードがあるんだから、反転して再度突っ込んでも撃破は出来るでしょうに、何でそうしないのかしら?」
少尉はうつ伏せにプカプカと浮かび、呼吸すらしてない様だった。
流石にこのままだと死んでしまいそうだったので、私はすぐに『サイコキネシス』を応用して少尉を海から浮上させる。
そしてそのまま少尉を宙に浮かべ、私はインディペンデントに連絡を入れた。
サイア
「こちらサイア中尉、敵ダクタリアン編隊を全て撃破」
「日本本土に被害は皆無、軍所属のPokemonは多少怪我をしたけど…」
「ああ、後…メイリン少尉が死にかけ、すぐに回収を頼むわ」
ジェフリー
『了解だ! すぐにテレポートラインを手配させる!』
『他のダクタリアンの反応は見られない、すぐに帰還してくれ!』
私は了解…とだけ言い、インディペンデントからのテレポートラインを待った。
その間に、あのネギガナイトの娘は日本軍の航空機に回収されていたのを見る。
私はため息を吐き、しばし空を見つめた。
太陽は明るく輝き、とても眩しい…
ダクタリアンにも、こんな感慨深い感情は有るのかしらね?
サイア
(言ってて馬鹿らしいわ…そんな事有るわけ無いのに)
あれはあくまで謎の侵略者だ。
知的生命体かどうかも解らない。
話す事も出来ず、意思疎通も出来ず、争う事しか出来ない。
そんな相手に、感情を説くなんて…ね。
………………………
メイリン
「あ〜全身バッキバキ〜…」
サイア
「無様ね…人の言う事を聞かないからよ」
私は医務室のベッドでまた包帯まみれになっていた。
サイアは深いため息を吐きながら、壁に背中を預けて眠そうにしている。
両腕を組み、心底ダルそうにしていた…結局サイアは無傷だったわね。
サイア
「…どうして突っ込んだのよ? タイミングを変えて突っ込んでも、あれは倒せたでしょう?」
メイリン
「でも…そうしないと、あのネギガナイトの娘はもっと怪我をしたから」
サイアは珍しく険しい顔をする。
私の言葉が余程予想外だったのだろう。
でも、私にとってはとても重要だ。
私が傷付くのは構わない…でも、助けられる命は絶対に助けたいんだ。
結果的に私は死にかけたけど、あの娘は傷が浅かった。
もし、私があそこで突っ込まなかったら、きっとあの娘は敵の全弾を受けていたはず。
最後まで刀を離そうとしなかったあの娘は、それだけの覚悟はあったのかもしれない。
でも、私にとっては…助けたい命のひとつだったのよ。
サイア
「…馬鹿ね貴女、そんな戦い方じゃ、この先生き残れないわよ?」
メイリン
「…かもしれない、でも私は動ける限り戦うわ」
「例え死んでも構わない…私が死んでも、きっと受け継いでくれる人はいる」
「ダクタリアンとの戦いは、いつまで続くか解らない…」
「もしかしたら、私たちの世代じゃ終わらないかもしれない…だったら、後に続いてくれる命を助けないと…!」
サイアは言葉に詰まっていた。
普段はクールで、効率主義の彼女には理解がし難いのかもしれない。
でも、私は何としても人間を救いたい…
私が大好きになった人の為に…例え私が途中で倒れても、それでも誰かがノアを守ってくれる様に。
サイア
「…貴女は、長生きしないわ」
メイリン
「良いよ、それでも…でも、私はその時まで全力で守るから!」
それは、私の決意。
何があろうとも、守りたいという意志。
サイアはただため息を吐いて首を横に振っていた。
理解はされないのかもしれない。
多分、私よりも人間が好きになったPokemonはいないだろうから…
『遠い世界のPokemonさん』
第3話 『ネギガナイトさんはお侍』
To be continued…