第2話 『ネイティオさんはとても眠たい』
サイア
「……はぁ? 転向ですか?」
男
「そうだ…君は本日を持ってここから異動となり、かねてより計画されていた独立部隊へと配属される事になった」
私は南アメリカ基地にて、現地の司令官様からありがたいお言葉を受ける。
私は特に何の感情も持ち合わせず、それを素直に受ける事にしたのだ…
もっとも…私があーだこーだ言った所で決定が覆るとは思えないけれど。
ここは、そういう場所なのだから…
サイア
「…では、サイア・ミスティカ『中尉』、これより北アメリカ方面軍所属、独立遊撃部隊『インディペンデント』に転向致します」
司令官
「うむ…精々頑張ってくれ」
「君たちPokemonに…世界の命運が託されているのだから」
司令官はつまらなさそうにそう言う。
所詮は建前ね…エスパータイプである私の前には彼の心情が何となく読める。
要は、体の良い厄介払いね…
私は正直、この部隊ではあまり良い扱いは受けていない。
所詮人間では無い存在故に、ただの兵器扱いされているのだ。
もちろん全員がそうではないけれど、こういう上の立場の人間は、私に対して良い感情は抱いていない
私はいつもの様に敬礼して命令を実行する。
これで、ここでの苦痛も終わりね…じゃ、サヨナラ。
………………………
サイア
(…やれやれ、本当に何の思い出も無いわね)
私は元自室の荷物を見てそう思う。
趣味のひとつも無く、嗜好品の類いすら存在しない。
あるのは生活必需品のみで、私はこの部屋をただの寝室としか見ていないからだ。
食事は基地の大食堂でいつも皆と取るし、入浴も大浴場がある。
トイレは流石に部屋で使うけれど、後は本当にただ寝るだけだ。
そもそも、私はPokemon…いついかなる時もダクタリアンが現れれば出動しなければならない。
ただでさえここは最前線基地…私の出動回数は恐らく他の国と比べても群を抜いているだろう。
私はそれだけの戦闘は経験したつもりだ。
小型から大型…ついこないだの超大型も含め、私の撃墜数は優に500は下らないでしょう。
その戦績もあって、こないだの超大型撃墜が切っ掛けで昇進もした。
晴れて私は中尉となり、更に多くの兵隊さんの上に立つ身分となったのだ。
で…その矢先に異動、ね。
サイア
「インディペンデント…対ダクタリアン用、独立遊撃部隊」
メイリン少尉が所属している部隊でもあり、アメリカ合衆国の、ひいては全世界の希望。
とはいえ、そんな物は名ばかりで、いざとなったら真っ先に切り捨てられる部隊でもある。
だからこそ、インディペンデントなんていう未完成品の空中要塞を預けられ、更にテストレベルの最新装備で貴重なPokemonを使い潰そうとしているのだから…
私も、そこに配属されるという事は使い潰されるという意味なのだ。
サイア
「…はぁ」
私は何とも言えないため息を吐き、少ない荷物を纏めて出て行く準備をする。
もう2度と戻る事も無いでしょうし、キッチリと片付けておきましょうか。
………………………
女性
「中尉! いつでも行けるわよ!?」
サイア
「ありがとう…これで永遠のお別れね、嬉しいでしょう?」
女性
「くだらない事言うんじゃないよ! アンタはアンタで絶対に生き残りな!!」
「私が作ったその装備は、絶対にアンタを守る!!」
ボロボロの作業服に身を包み、油やら煤やらで全身ドロドロの黒人女性がそう叫ぶ。
彼女は開発部の所属で、主に私の装備を作った博士でもある。
腕は確かであり、そのお陰で私はいくつもの戦果を上げられたのだ。
サイア
「じゃあね…この装備は大切に使ってあげるわ」
博士
「そうしな! 後、もしぶっ壊れたり、改良が必要ならいつでも言いな!?」
「そん時ゃ、自慢の戦闘機飛ばしてインディペンデントまで行ってやる!!」
博士はそう言ってサムズアップのサインをし、豪快に笑った。
私は呆れてため息を吐き、とりあえずこう言う。
サイア
「そのサイン、南アメリカだったら侮蔑の対象じゃなかった?」
博士
「アタシはブラジル人さ! だから肯定的に捉えな!!」
成る程、同じ南アメリカでもブラジルは別なのね…
それならそれで良いか…なら、もう行こう。
博士には何から何までお世話にはなった…この基地では数少ない理解者だったわね。
サイア
「…サイア中尉、出動するわ」
博士
「カタパルト起動するぞ!? 全員! サイア中尉に敬礼!!」
博士がそう叫ぶと、カタパルトは起動して私の足に装着される。
そしてその場にいた全兵士が私に敬礼し、笑顔の博士と一緒に私を送り出してくれた。
その時、私は全員の心を少し読む…良くも悪くも、味方は少ないわね。
………………………
サイア
「………」
私はたったひとりで飛び続ける。
短めの私の髪が激しく揺らめくも、私はこの風は嫌いじゃなかった。
とはいえ、この間に敵に襲われたらどうするのかしらね、本当に?
異動させられるのは構わないけれど、護衛すら付かないって時点で私の扱いが知れるわね…
ダクタリアン
「ギャァァァ!!」
サイア
「そして解りやすい襲撃…」
「本当…嫌になるわね」
私は表情ひとつ変えず、ブースターを最大戦速にして敵ダクタリアンの背後に回る。
大きさは中型レベル…3mって所ね。
鳥型の個体で、他に仲間はいない。
さしずめ、偵察か斥候か…それとも単に迷い込んだか?
そもそも、ダクタリアンに関しては解らない事の方が未だに多い。
人類は既に10年以上も戦い続けていたそうだけど、私たちPokemonが去年現れて、その戦況は大きく変わったそうだ。
特に、Pokemonの能力を解析した事による兵器の進化。
Pokemonの持つ圧倒的なエネルギーは、人類の持つ兵器を尽く凌駕していたのだから。
そして、何よりも意志疎通が可能。
ダクタリアンと違い、私たちは人類と解り合えた。
今、世界中には何10人とPokemonが戦っている。
全体で言えば、およそ各国にひとりはいる位の人数なのだけど、その全てが兵士をやっている訳じゃない。
中には年端もいかないPokemonもいると聞くし、誰も彼もが戦えるとは限らないのだ。
良くも悪くも、私たちPokemonだって人の姿をしているのだから…
サイア
「……!」
私は空中を華麗に飛びながら両肩の後に付けられているブーメランを射出する。
そして私はそれをエスパータイプの超能力で手に引き寄せ、両手でブーメランを握り締めた。
そしてそのまま、私は狙いを定めて左手のブーメランを投げる。
ダクタリアン
「ギアアッ!?」
ダクタリアンはそれをすんでの所で回避する。
だけど、それは私の誘い。
私はそこに向けて既にもうひとつのブーメランを投げていた。
ダクタリアンはそれを翼に受け、飛行が出来なくなる。
私はそのまま戻って来るブーメランの軌道を超能力で変え、ダクタリアンの体を真っ二つにした。
ダクタリアンはコアを破壊されたのか、そのまま霧散して消える。
とりあえずデタラメで攻撃したけれど、当たって良かったわ。
ダクタリアンのタイプによってはコアが予測出来ない場所にあったりするし、そうなったらコアを破壊するまでダクタリアンは再生し続ける。
そうなったら何かと面倒になる…1度学習したダクタリアンは急成長する可能性もあるし、同じ戦法が通じなくなる事も多々あるからだ。
サイア
「一応索敵…敵の気配無しね」
私はふたつのブーメランを超能力で回収し、索敵を済ませた。
翼に付けられた特殊装備のブースターを私は通常モードに戻し、そのまま警戒して通常飛行に入る。
私の特殊装備は、この翼に付けられているアーマー。
主に飛行能力をサポートする機能が付いており、装甲もかなり厚い。
その分重量はあるものの、私はエスパータイプ故にその重さを自力で軽減出来る。
それに、普段は高出力可変ブースターの恩恵がある為、飛行時なら重さはほとんど感じない。
むしろ羽ばたく必要すら無く、全方位どの方向に移動しても、ブースターが適切に判断して私をフォローしてくれるのだ。
博士には本当に感謝している…これのお陰で、私は寝ていても目的地に着けるんだから。
………………………
メイリン
「はぁ? サイアがこっちに来るって?」
マイク
「らしいですよ? 後、サイア中尉ですよ少尉!」
「今は彼女の方が上官なんですから、気を付けた方が良いですよ?」
私は言われてうっ…となる。
そういえば、昇進したのよねアイツ〜
私なんてまだそんな話無いってのに…この差は何なのかしらね〜?
女通信士
「でも、サイア中尉ってアメリカのトップエースでしょ?」
「何でまたこっちに配属されたんだろ?」
今私たちがいるのはオペレータールーム。
主に通信士が待機しており、ここには何人かの通信士が既にいる。
私はそんな中でも比較的仲の良いマイクたちと一緒にダベっていたのだ。
マイク
「まぁ、理由は解らないけど…戦力としてみるならこの上ないでしょ!」
メイリン
「あ〜ら? それって私ひとりじゃ頼りないって言いたいわけ〜?」
女性
「アッハハ! だって少尉は被害も大きいですもん♪」
言われて私は苦笑いする。
そりゃ無傷で帰って来る事の方が少ないけどさ!
サイアはその辺しっかりしてるのよね〜
あんまり被弾しないし、最前線でも撃墜数はトップだ。
…その辺が昇進に関わるのかしら?
どこぞのゲームとかだと、被弾率低い方が好評価だもんね〜
私みたいに、敵は倒せても被弾が多かったらその分評価は下がるって事だ。
メイリン
「くっそ〜見てなさいよ? 一緒にやるからには絶対にアイツより撃墜してやるんだから!」
マイク
「はは、期待してますよ『少尉』!」
女性
「そうそう、中尉の足を引っ張らない様にね『少尉』?」
メイリン
「いちいち少尉を強調するな!!」
「絶対に昇進してアイツをぶち抜いてやるんだから〜!!」
私はそう言ってその場から走り去った。
こうしてはいられない、もうすぐにでも訓練しとかないと!
こういうのは日々訓練だ! 努力して実らない結果などあるはずがない!
………………………
アンナ
「よ〜し、そのまま回収〜」
兵士
「サイア中尉、収容します!」
私はジェフリー長官から指示を受け、ハッチでサイア中尉の受け入れをしていた。
サイア中尉は何故かぐったりしており、上半身をダラリと垂れ下げながらブースターだけで器用に着地する。
そしてそのままピクリとも動かずに、じっとしていた。
私は?を浮かべながらもサイア中尉に近付く。
すると、すぐに状況を理解した。
この娘…ぐっすり眠ってるわ。
アンナ
「全自動でここまで辿り着かせるとか…凝った仕様にしてるわね〜」
「しかも戦闘済み…か」
私はタバコを噴かしながらサイア中尉の特装(特殊装備)をジロジロ見た。
翼に装着して、全方位ブースターか…しかもAIで自動制御させて使用者を完全サポート、至れり尽くせりの機能だね〜
アンナ
「武装は両肩の超振動カッターか…ブーメラン状だけど、槍としての運用も出来そうだね〜」
「ふむふむ、ここをこうしてこう繋ぐのか〜」
私は試しにサイア中尉の武器を両肩から引き抜いてみた。
ロックはかかっていたけど、そんなのはちょちょいのちょいで解除出来る。
そして、私は超振動カッターを色々触ってみた。
アンナ
「ふ〜ん、これなら使い方次第で遠近両方とも死角は無いね〜」
「加えてエスパータイプが使う事前提の材質か〜」
「成る程、彼女らしいね〜愛がこもりすぎてる」
私はそう思って武器を元の場所に収納する。
そしてしっかりロックをかけ、私はタバコの灰を携帯灰皿に捨てる。
そしてまたタバコを咥え、私は白衣のポケットに手を突っ込んで近くの兵士にこう伝えた。
アンナ
「とりあえず、報告しといて〜私は研究に戻るから」
兵士
「はっ! 了解しました!!」
アンナ
(ありゃ私が改造とかするのは気が引けるね〜)
(まっ、必要があったら向こうから来るだろうし、今は放っといても良いか…)
………………………
サイア
「ふぁ〜あ、サイア・ミスティカ中尉、本日よりここに配属しました…」
メイリン
「アンタねぇ…上官相手にあくびしながらとは良い度胸じゃないの!」
ジェフリー
「いやいや、構わんよ少尉…それよりもよく来てくれた中尉」
「私がここの長官を勤める、ジェフリー・スタンダップだ」
「よろしく頼むよ、サイア中尉」
ジェフリー長官は専用の椅子に座りながら好好爺に笑う。
良くも悪くもこの人はこういう性格なのでしょうね…
軍上層部では干されてたらしいけど、それがどうしてこの部隊の司令官に任命されたのか…?
サイア
「…とりあえず、私の部屋は?」
メイリン
「いきなりそこからかい!」
少尉は呆れながらもビシッと私の肩にツッコミを入れる。
私はあくびをしながらそれを流していた。
ジェフリー
「ははは、長旅で疲れたろう…既にダクタリアンを撃墜して来てくれたみたいだし、今日はゆっくり部屋で休むと良い」
「メイリン少尉、中尉を案内してやってくれるか?」
メイリン
「はいっ、了解致しました!」
少尉はビシッ!と敬礼をしてそのまま後を向く。
そして私はそれに無言で付いて行った。
サイア
「…長官はいつもあんな感じなの?」
メイリン
「そうよ〜? 大体あんなモン」
「あの人が怒ったりとか見た事無いし、そういう性格なんじゃないの?」
少尉はあっけらかんとそう言う。
本当に同じエスパータイプとは思えない。
この娘は他人の顔色とか超能力で伺ったりはしないのだろうか?
彼女とは過去に何度か戦闘で一緒に戦った事がある。
こないだの超大型と共闘したのも含めて、それなりに顔は合わせた仲だ。
とはいえ、特別仲が良いわけでも無いし、彼女からは一方的にライバル視されてるのが面倒臭い。
これからはお仲間って事だけど、少々不安が有るわね。
………………………
兵士A
「おっ、噂のトップエース様じゃん!」
兵士B
「メイリン少尉の威光もここまでか〜御愁傷様♪」
メイリン
「うっさいわ!! 私はこれからなのよ、見てなさい!?」
サイア
「………」
私は無言で特に反応はせず。
対して少尉は明るく兵士たちに笑いかけたり怒ったりツッコンだりしていた。
正直うるさい位だけど、私はふと疑問に思う。
どうして少尉は…こんなにも明るく振る舞えるのだろうか?
………………………
女兵士A
「あっ、サイア中尉!」
女兵士B
「本当だ〜! 噂は本当だったんだねー!」
「ようこそインディペンデントへ! これからよろしくお願いしますね♪」
メイリン
「あーオホンッ!」
女兵士A
「あ、少尉お疲れ様でした〜」
女兵士B
「良かったですね〜これからはサイア中尉の部下として活躍出来ますよ〜♪」
メイリン
「誰が部下よ!? 誰がっ!!」
「階級が何よ!? 私は私で絶対追い抜いてやるんだから!!」
サイア
「………」
少尉はまた他の兵士とそうやって応対して行く。
異様な光景に見えた。
私は少なくともこんな光景は見た事が無い。
私たちPokemonは畏敬の対象であり、一般兵からしたらそもそも話しかける事すら勇気のいる行為のはず。
それなのに、ここの兵士たちは皆少尉を気の良い友人の様に接する。
少尉自身もそれが嬉しいのか、おちょくられながらもすぐに笑っていた。
サイア
(私がいた部隊では、誰も私になんか声はかけなかった)
命令が無い限り、誰も好き好んで私になんか話しかけない。
そして出撃となれば、私は常にひとりで出て行った。
友軍の支援なんてさして役にも立たない。
どうせ戦うのは、仕留めるのは私の仕事。
それが解ってるから、他の兵士も命を賭けて戦おうとはしない。
だって私がやるもの…私が勝つもの。
なら、人間は見てるだけで良い。
私に期待するだけ…
メイリン
「こらサイア! 少しは喋りなさいよ!?」
「せめて会釈位返せ!」
女兵士A
「こらこら〜相手は上官だぞ〜?」
女兵士B
「あはは〜少尉独房行き〜♪」
少尉はプルプル震えながら俯いていた。
私を指差したまま震え、そして凄い形相で少尉は振り向く。
メイリン
「ええい! 独房とか上等よー!!」
「さぁ、サイア! まずはちゃんと挨拶! サンハイ!!」
少尉はそう言って私に向かって手拍子する。
私は意味不明に?を浮かべ、とりあえずため息を吐いた。
サイア
「めんどい、さっさと部屋に案内して」
メイリン
「却! 下!! まずはアンタのその無愛想な態度を正す!!」
「前々から気に入らなかったよ! 何でアンタそんなにも無表情なのよ〜!?」
そう言って少尉は私の頬をつまんでグイグイ引っ張る。
私はちょっとだけイラッとし、少し目を細めて『サイコキネシス』を使う。
こういう時、初歩の念力系統が使えないのは面倒ね。
サイコキネシスをわざわざ念力以下の威力に落とすのは大変なんだから。
メイリン
「ちょっ!?」
サイア
「もう良い面倒…貴女の頭から直接読み取ったから、ひとりで行けるわ」
私はそう言って少尉をやや荒っぽく壁に叩き付ける。
と言っても所詮はエスパー技、エスパー相手には効果今ひとつでしかない。
私は驚く兵士たちを尻目にツカツカと歩いて行った。
メイリン
「あ〜! こらー!?」
女兵士A
「少尉〜あんまり怒らせない方が良いよ〜?」
女兵士B
「あはは〜少尉、熱血だね〜♪」
そんな声が後からし、ドタドタと少尉のうるさい足音が聞こえて来た。
私はため息を吐いてそれを無視し、さっさと部屋の扉の前にまで到着する。
そしてドアに手をかけて私は固まる。
開かないのだ…このドアは。
メイリン
「ふふん! そのドアは私の指紋が無ければ開かないのよ!?」
サイア
「………」
私はこの上なく嫌な顔をしただろう。
この時点で察したのだ、私の部屋とはつまり彼女の部屋。
つまり、ここは相部屋だと…?
メイリン
「そんなに嫌そうな顔しないでよ!? 傷付くじゃない!!」
サイア
「なら、さっさと開けて…! 私はもう寝たいのよ…」
移動中寝ていたとはいえ、そこまで熟睡出来ていない。
私は早起きの特性じゃないから、疲れるとあんまり起きていられない体質なのだ。
メイリン
「ふふん! そう言われてハイそうですか!って従えるか!」
「せめて、頭下げて頼みなさいよ!? それかちゃんと皆に挨拶して回る!!」
サイア
「お願いします開けてください」
「…これで良いわね?」
私は無駄な争いや無駄な行動は極力したくない。
なので、プライドとか何の得にもならない物はさっさと投げ捨てるに限る。
今の私は睡眠を欲している…!
メイリン
「ぐぬぬ…まさかそこまでプライドが無いとは」
サイア
「プライドで睡眠欲は満たせない…さぁ、オープンザドア〜〜」
少尉は唸りながらも仕方無いと思ったのかドアの認証センサーに掌を当てる。
するとセンサーはそれを認証し、ドアのロックは容易く開かれた。
オートでドアも開き、改めて南アメリカ基地のアナログとは違うのだと感心する。
私はそのまま中に入ってとりあえず中を確認した。
ベッドはふたつ…だけど。
サイア
「…何コレ?」
メイリン
「何って何が? 寝るんならアンタはそっちよ…」
そう言って少尉は自分のと主張するベッドに腰かける。
私が聞きたいのはそれではなく、足の踏み場も無いこの部屋の惨状を知りたかったのだけれど…
サイア
「貴女…ズボラね?」
メイリン
「誰がよ!? 単に片付ける必要が無いからよ!!」
私ははぁ…とこれまでで1番大きなため息を吐き、とりあえず荷物を足元に置いてベッドに倒れ込んだ。
もう、限界……お願いだから、寝かせて………
メイリン
「…うわ、もう寝てるし」
「おーい、もうすぐ夕飯だぞ〜? 私はノアの所で食べるけど♪」
「このままだと、アンタの分無くなるぞ〜?」
「うーむ、起きない…仕方無い、電磁波でもかけて無理矢理……ってうわっ!? 跳ね返った!?」
「あっぶな〜…電気タイプじゃなけりゃヤバかったわ」
「むぅ…仕方無い、放っとくか」
「ってぇ!? こんな時に出動〜!?」
「あー! もう、仕方無い!! こうなったら私ひとりで手柄は独り占めよ〜!!」
何だか、そんな声が聞こえた様な気がしたけど、私は完全に眠りこけていた為、その場からうつ伏せに倒れたまま熟睡していた。
今の私は寝る為に生きている…誰にも邪魔をする事は出来ない。
………………………
サイア
「…ん」
私はふと目が覚める。
時間を掛け時計で確認し、今が朝の6時だと確認した。
が…それは正確にはどこの国の時間なのだろうか?
そもそも、この掛け時計は自動で時差も補正してくれるのだろうか?
ハイテクはそこまで手が入っているのだろうか?
私は様々な疑問が湧きながらも、とりあえず大きなあくびをしてお腹が鳴るのを確認する。
お腹…空いたわね。
昨日から何も食べてないし、流石に何か食べないと。
そう思って体を起こすと、ウィーンと静かな音で扉が開く。
すると、そこから顔を出したのは包帯だらけのメイリン少尉だった。
メイリン
「おっは〜気分はどう?」
サイア
「…ぷふー♪ どうしたのそれ?」
私は口元に手を当て、笑ってあげる。
すると少尉は少し苦笑しながらも誇らしそうにこう答えた。
メイリン
「あっはは〜相手が大群でさ〜…30体程相手してたらいきなり大型呼びやがって」
「流石の私もこの様よ! しかし勝ったがな!!」
「私とアメリカ空軍の勝利! 人類舐めんなダクタリアン!!」
少尉は本当に嬉しそうにそう言った。
そこに嘘や虚栄は感じられない。
少尉は本当にそう思い、戦い、そして勝利して来たのだ。
自分自身が、そこまでボロボロになって…
メイリン
「あっはは……は、流石に…疲れた……!」
少尉はそのまま足元のマンガで足を滑らせてベッドの端に頭をぶつける。
そして、そのまま死人の様に眠りに着いていた。
私はそんな少尉を少〜しだけ見直して、超能力で少尉をベッドに寝かせる。
そして、直後に警報がうるさく鳴る…どうやら、休ませてくれる気は無い様ね。
私は鳴るお腹を押さえながらも、すぐにハッチへと向かう。
少尉はこの状態だし、マトモに戦力にはならないわね…
でも残念ね…今のインディペンデントにはこの私がいる。
ダクタリアンに慈悲なんて必要無い、さて…初仕事と行きましょうか?
………………………
メイリン
「えー!? サイアが無傷で50体撃破〜!?」
マイク
「そうですよー!? いや〜流石はアメリカのトップエース!」
「お腹空いてたからって、空中でパン食べながらやってたけど、見事だったなぁ〜」
私が目を覚ました時には、既に私の活躍なぞ過去の栄光だった。
インディペンデント内ではどこもサイアの話題で持ち切りで、どこにも私の努力の証を覚えているスタッフはいない。
私はぐぬぬ〜と歯軋りしながらも改めてサイアをライバルと認めた。
やっぱりアイツは凄い! でも、だからこそ頼りになるし、追い抜き甲斐もある!
見てなさいよ〜? 今度は私だって無傷で戦果あげてやるんだから!
メイリン
「そう言えば、私の時は小型30体と大型1体だったけど、サイアの時は?」
マイク
「確か、記録ですと小型30、中型15、大型5程だったかと…」
「鮮やかでしたよ? スピード、パワー、テクニック、全てハイレベルで!」
「大型複数相手で的確に被弾無しでコアだけ貫く…いやぁ〜あの装備も相当凄いんだろうな〜」
聞いてて嫌になる…大型複数って、私でもそんなにやりあった事無いんだけど!?
前の超大型の時は、サイアでもどうにもならなかったのに、大型程度ならそこまで楽になるのだろうか?
メイリン
(なるわけ無い…私だったら、多分2〜3体が限界)
そこまでの被弾や疲労を考えても、やっぱり桁が違うのだ。
それはつまり…
メイリン
「サイアの装備…か」
マイク
「アンナ中尉もベタ褒めでしたからね〜」
「あんな愛の有る装備は私じゃ改造出来ないって言ってましたし…」
メイリン
「くっそ〜! 私も良い装備があれば〜!!」
女通信士
「少尉はその前に被弾率を減らすべきですよ…スピードだけならサイア中尉よりも遥かに速いのに」
マイク
「だよな〜…武装だって、どっちかって言うと遠距離重視で被弾せずに戦うスタイルのはずなのに」
それは私が近接戦闘を好むからだ。
そもそも、大型相手には遠距離からじゃコアを撃ち抜き難いし、近付いた方が倒しやすい。
私の武器は確かに銃だけど、被弾率が高い分命中率も高いんだから!
マイク
「まぁ、サイア中尉が回避も得意なスーパーロボットなら…」
女通信士
「メイリン少尉は回避出来ないリアルロボットですもんね…」
メイリン
「私はどこぞの○装機神かっ!? 私の最強武器は遠距離だけど、格闘の方がどうせ高いわよーーー!!」
そんな私の叫びが、今日もインディペンデントに響き渡るのであった……ちゃんちゃん♪
『遠い世界のPokemonさん』
第2話 『ネイティオさんはとても眠たい』
To be continued…