第11話 『メイリンとサイアは理解し合えない』
ジェフリー
「…行ってしまった、か」
マイク
「少尉、本気でやるつもりなんですね…」
我々は、ブリッジで飛び去って行ったメイリン少尉をモニター越しに見届ける。
彼女の意志は固く、何がなんでもやり遂げるつもりなのだろう。
その先に例え自らの死が待っていたとしても、彼女はきっといつもの様に笑っているのだろうな…
マイク
「…本部より入電! 南極にて異常な力場を感知! ダクタリアンの反応多数との事!!」
私は自分専用の椅子に座り、これからの事を静かに想定する。
ダクタリアン…いや、永遠旅団の下した結論。
人類に生きる価値無し、か…
ジェフリー
「…全クルーに通達、これよりインディペンデントは南極へ向かう」
マイク
「りょ、了解!! 全クルーに通達!! これよりインディペンデントは南極に向けて発進!!」
「ダクタリアンとの最終決戦へと向かう!!」
「繰り返す!!」
マイク君は少し躊躇いながらも、全クルーにそれを伝えた。
インディペンデント内ではけたたましい警報が鳴り、事態の深刻さを伝えていく。
もはや我々に退路は無い…いかなる敵が現れようと、人類の未来の為に戦うのみ!!
………………………
エリーン
「聞いたか野郎共!? 今から最終決戦だ!!」
「ダクタリアンだか永遠旅団だか知らねぇが、ワシ等はワシ等の生き方を見せてやれ!!」
ニャース兵
「了解ですニャ!!」
アニー
「ニューゴロド、インディペンデントとの接続完了! このまま戦闘区域まで直進ですニャ!!」
ニューゴロドは結局改造も間に合わず、インディペンデントに曳航される事となった。
まぁ、でも仕方無いさね…敵さんは待っちゃくれないんだから。
ワシの特装は何とか改良したものの、果たしてどこまで通用するかねぇ?
ワシはそんな事を考えながらも、はっ…と笑う。
細かい事はもうどうでも良い。
メイリン少尉はひとりで行っちまったんだ…なら、ワシ等がやる事も決まっとるだろう!!
エリーン
(やりたきゃ、好きにやりゃ良いのさ…ワシは、お前のそういう所は嫌いじゃない♪)
………………………
萌
「こ、これが新しい特装!?」
アンナ
「そっ、装甲面はあえて軽量化してある分、短時間の飛行を可能にしたよ」
「勿論、そこまで機敏に飛べる訳じゃないけど…」
私は、アンナ中尉が改造した新たな特装を見て感動していた。
見た目はそこまで変わって無く、甲冑型の装甲は所々軽量化されている程度でほとんど違和感は無い。
むしろ体はかなり軽く、これで飛行まで可能だと言うのだ。
アンナ
「飛行時間は精々1分…あくまで回避や攻撃の瞬間位にしか使えないと思っておいて」
萌
「りょ、了解です! 1分だけ、ですか…」
私は簡単に説明を受け、飛行する時の注意点をレクチャーされる。
両肩と脚部にブースターが付いており、それで姿勢制御をするとの事だ。
アンナ
「ぶっつけ本番になるけど、無茶はしない様にね?」
萌
「はいっ! メイリン少尉がひとりで向かって行ったのです…私も必ず後に続きます!!」
私は強い意志でそう言い、新たに生まれ変わった得物を手に取った。
こっちは以前よりも更に重く、そして大きい…!
アンナ
「そっちは基本コンセプト通り、あくまで突きに特化させた出力を強化してある」
「ただし、全力で使えるのは1回切りだと思っておいてくれ…」
萌
「…1回切り!」
つまり、まさに一撃必殺…
使うからには、必ずトドメを刺せという訳ですね!
私は片手でそれを軽々と持ち上げ、感触を確かめる。
構えてみるも、そこまで不備は見当たらない。
いつもの私らしく戦えば、きっとコレは答えてくれるだろう。
アンナ
「…鹿島軍曹、死ぬんじゃないよ?」
萌
「…アンナ中尉?」
珍しく、アンナ中尉は暗い顔をしていた。
いや、何となく気持ちは解る。
アンナ中尉はメイリン少尉の事をとても気にしてたから…
ひとりで出て行った少尉の事が、多分辛いんだ。
アンナ
「メイリン少尉は、本気で敵と和平をする気でいる」
「皆は戦う気なんだろうけど、それでも彼女はきっとどっちも救いたいって思ってるはずなんだ」
アンナ中尉は俯いてそう呟く。
私は真剣にその話を記憶に刻み付けた。
アンナ中尉は、やっぱりメイリン少尉を助けたいんだ。
だからこそ、本当は彼女を支援してあげたいのに、軍の一員としてはそれを抑えなきゃならない立場が、とても辛いんだ…
アンナ
「私は…ダクタリアンを倒す為に彼女の特装を造った」
「彼女を守りたいから、あの特装を造った」
「そんな彼女が…敵ですら守りたいと、決めたんだ」
萌
「でしたら、私が中尉の代わりに少尉を守ってみせます!」
私が強くそう言うと、アンナ中尉は少し驚いた顔をする。
私は軽く目を瞑り、深く深呼吸し、高揚する心を落ち着けた。
そしてキッと目を見開き、私はアンナ中尉に敬礼してこう進言する。
萌
「鹿島 萌軍曹! 必ずメイリン・ルカ少尉を助けてみせます!!」
アンナ
「…うん、ゴメンね…ワガママを言ったみたいで」
萌
「いえ! 中尉には中尉の立場があります…後は私にお任せを!!」
私はそう言ってカタパルトに乗る。
やるしかない…! アンナ中尉が私にこんな事を言ったのは、きっと他に頼める相手がいないからだ。
だからこそ、聞いた以上私はやる!
例えどんな強大な敵が立ち塞がろうとも、メイリン少尉の無事は確保してみせる!!
………………………
サイア
「………」
私はインディペンデントの屋根で座っている。
メイリン少尉は結局行ってしまった。
バカだとは思っていたけど、アレは真性の大バカだ。
こちらを全滅させようとしている敵に対し、和平を申し込むと言うのだから馬鹿馬鹿しい。
そもそも和平交渉という物は、互いに消耗戦を避ける為の提携みたいな物。
旅団側の戦力はこちらと比べても恐らく圧倒的…和平に応じる道理が無い。
相手は服従すらも許す気は無いのだろう。
だからこそ、全知的生命体の抹殺を実行しようとしているのだ。
そんな、解りきった答えを出す相手に…彼女は愚かにもひとりで向かった。
サイア
「…理解出来ないわ、やっぱり」
私はその場から立ち上がり、すぐに前方へと飛び立つ。
そして、改めて彼女との違いを私は不愉快に思った。
サイア
(元々、仲が良かった訳じゃない)
むしろ、険悪な方だったろう。
特に初めて会った時は酷かった…
………………………
メイリン
「なーにがエースよ!? 全っ然理解出来ない!!」
サイア
「だから? 敵は効率良く倒す物よ?」
私たちが初めて一緒に戦場で出会い、共に戦って帰還した時の事だ。
あの時、私は大多数の敵ダクタリアンをひとりでほとんど全滅させた。
対してメイリン少尉(当時准尉)…は中型を1体倒しただけ。
戦果で言うならどう見ても私の勝ちであり、誰が見ても私を称える結果だったろう。
だけど…ちょっとした事が火種となり、メイリン少尉は私に突っ掛かって来たのだ。
メイリン
「何であの中型を残したのよ!? そのせいで子供がひとり大怪我をしたのよ!?」
サイア
「それで? 100体以上の小型を無視して大多数の命を天秤にかけろと?」
そう、あの時私は敵の部隊の性質を瞬時に見極め、中枢と思われる中型を無視して小型の殲滅を選んだのだ。
その結果、中型をメイリン少尉がひとりで抑えられず、たまたま海岸にひとり取り残されていた子供が被害にあってしまう事に…
彼女の言い分は、まるで子供の駄々であり、酷く私には不快な物だと感じられた。
メイリン
「アンタがこっちと連携してれば、被害も無く撃破出来たでしょ!?」
サイア
「無理ね、貴女程度の腕じゃ足手まとい」
「精々、小型の大多数に振り回されてあしらわれるのがオチよ」
「その結果どれだけの被害が出るかは…想像出来るわよね?」
メイリン
「だから連携じゃないの! 米空軍だって協力してくれてるんだから、小型はどうにかなったはず!!」
サイア
「そんな不確定な要素を信じろと? 空軍の既存兵器程度でダクタリアンが倒せるなら、初めからPokemonは必要無いわ」
互いに、この時は一切理解し合えなかった。
いや、今でもそうだ…私は彼女が全く理解出来ない。
あの時から、彼女は何も変わって無いのだから…
………………………
サイア
(あれから何度顔を会わせても、彼女は変わらなかった)
何度も共に戦ったけど、それでも彼女は止まらなかった。
いつもひとりで真っ先に傷付き、誰かが傷付くのを我慢出来ない。
とある戦場で、たまたま私が被弾した時…彼女は誰よりも速く私の元に駆け付けてこう言ったのだ。
『バカ!! 何でもかんでもひとりでやろうとするな!!』
アレは、本当に理解出来なかった。
私のミスでしかないのに、ただ嘲笑えば良いのに、彼女はひとり私に手を差し伸べたのだ。
私は友軍からも疎まれ、いつもひとりだけで戦果を挙げていた。
誰ひとり私は友人もいなかったし、気遣ってくれる戦友はほとんど知らない。
それなのに、彼女は必至な顔をして私の手を引いたのだから…
サイア
(何処までも、何時までも貴女の事は理解出来ない)
私は最大戦速でメイリン少尉の後を追う。
そろそろ、ハッキリさせなければならないだろう。
サイア
(私が正しいのか、それとも貴女が正しいのか!?)
………………………
メイリン
「…話、聞いてくれるかな?」
サキ
「確率は限り無く低いと言える」
「そもそも総意が決めた事であるなら、全ての個体はそれに従うしか無いのだから」
私たちはエレクトリックラインの上を高速で飛び続ける。
サキは私の首に手を回して抱き付いており、私は振り落とさない様に左手でしっかりとサキの体を支えていた。
メイリン
「でも、サキみたいに争いを望まない娘だっている」
サキ
「…自分でも理解は出来ない、だがそうしなければならないと自分で判断した」
サキの顔に後悔や恐怖の感情は無い。
あくまで自分の意志を信じたのであり、彼女に迷いは無いのだろう。
そしてそれこそが和平交渉への最大の武器であり、切り札。
私はサキを絶対に総意の元に辿り着かせ、説得をしてもらう。
もし、サキの意志に他の個体が応えてくれれば、可能性は一気に高まるのだから。
メイリン
「…怖くは、無い?」
サキ
「恐怖という感情は正直希薄だ、そういう余計な物は極力削ぎ落とされている」
「逆に、そういった物が少しでも残るからこそ、私の様な意志を持った個体が生まれたのかもしれない」
サキは自分で言ってて疑問の様だった。
旅団の上位個体であり、私たちを観測していたサキ。
あくまでその行動は旅団の総意からの指示であり、サキの意志では無かったという。
だけど、観測を続ける内にサキは私に興味を持った。
そして、それこそがある意味決定打であり、私が和平交渉を望む理由にもなったのだ。
メイリン
「サキの仲間だって生きてる…だったら、話し合って戦いを止めても良いじゃない」
サキ
「同意する、私もいたずらな消耗は本意ではない」
「だが、総意はそれを無視してまで戦う事を選んだ」
「旅団の寿命を削ってまで、そうする理由が私には解らない」
メイリン
「旅団の…寿命?」
あまりに気になるワードを聞き、私は思わず聞いてみた。
するとサキは少し黙るも…やがて静かに話を始める。
サキ
「…旅団の戦力は、本来惑星に存在する知的生命体を観測し、それに比例した量が生産される」
メイリン
「それって…?」
サキ
「解りやすく言うなら、地球人の総戦力に対して必要最小限の個体しか産み出せないのだ」
「よって、それを超える戦力を出す場合…それは旅団の寿命を削って産み出す必要がある」
私は頭が悪いなりに考えてみる。
つまり、初めから旅団の戦力は固定であり、余分な増援は存在していないって事?
メイリン
「うん? でも、それならどうして寿命を削るの?」
「そもそも計画通りなら、産み出した戦力で足りるんじゃ…」
サキ
「だからこそ、メイリンたちPokemonがイレギュラーだったのだ」
私は自分で言ってて気付いた。
そうだ…人類は私たちと出会う前から旅団と戦っており、突如現れた私たちが共闘したからこそ、旅団の計算は狂ってしまったのだ…
サキ
「最初は、Pokemonに対し敵意は無かった」
「だが、Pokemonはあろう事か地球人と手を組み、我々に戦いを挑んで来た」
「総意はその時、私にPokemonの観測を指示し、新たな戦力の拡充を図ったのだ」
成る程…あくまで地球人を滅ぼすだけの戦力しか無いから、私たちを観測して新たな戦力を産み出す必要があったわけね。
確かに、それなら納得出来る部分も多い。
今までの相手は、確かに私たちを観測するかの様な動きがあったし、それに合わせて適宜成長してきた様にも思える。
それらは全てサキの観測の為であり、来る決戦を見据えての事だったんだ。
サキ
「しかし、旅団が対Pokemonに対して観測を行うには、旅団の寿命を削らねばならない」
「元々、地球人用に用意していた戦力だけでは明らかに足りず、次第に我々は疲弊し始めていたのだから…」
って事は、私たちの戦いも無駄じゃなかった訳ね。
このまま続けていたら、もしかしたら本当に勝てていたのかもしれない。
だけど、現実問題それはかなり難しいのだとサキは言う。
つまり、それだけ旅団本体の戦力という物は大きいのだ。
サキ
「旅団の意志は総意の意志」
「あくまで多数決に近い決定であり、少数の意見は基本的に却下される」
「今回の私のケースはまさにそれであり、人類滅亡派が総意を取ったに過ぎない…」
メイリン
「なら、少数派を増やせれば総意は覆るって事ね!?」
サキ
「その通りだ…が、それが1番難しいのもまた事実」
「理由はどうあれ、総意は寿命を犠牲にしてまで滅亡に拘った」
「確かに、少なからず私と同様にそれを疑問視する者はいるが…」
「今の旅団の総意は、恐らく覆らない」
メイリン
「なら、話し合いは無駄って事?」
サキ
「無駄ではない…と、思いたいが」
「…メイリン、覚悟はしておけ」
サキは、あえて怖がらせる様な低い口調で呟く。
私は少しだけ驚くも、彼女の言葉を待った。
サキ
「最悪、総意を間引いてでも旅団は生き残らせたい」
メイリン
「!? サキ…それは」
サキは覚悟の上の様だった。
説得出来る可能性は限り無く低い。
だけど、ただ戦っても旅団の寿命は縮まるのみ。
だったら、その中で最も効果的な解決法とは…
サキ
「私はあくまで旅団の存続を優先する」
「故に、その存続が危ぶまれるこの戦いは受け入れがたい」
メイリン
「…でも、私ひとりでサキと同レベルの敵は」
サキ
「心配はいらない、私が全力で力を貸す」
「私とメイリンの力が合わされば、総意に勝てる可能性はある」
サキの力が凄いのは前の戦いで解ってる。
でも総意は聞いた感じ、数の力みたいにも感じた。
大多数の肯定派相手に、本当に通じるんだろうか?
サキ
「!? 背後から、何か来る?」
メイリン
「!? アレは…サイア!?」
私は1度ブレーキをかけ、咄嗟に振り向く。
すると遠くからサイアが一直線に近付いて来ており、私の方へ向かっている様だった。
私は1度サキを離し、サキを庇う様に前に出る。
やがてサイアはこちらを確認し、ある程度の距離に入ってから減速した。
サイア
「………」
メイリン
「…手伝いに来た、ってジョークは言わないわよね?」
サイアはいつもの様に不機嫌そうな目で私を見ていた。
彼女の目は未来と過去を見通す事が出来ると言う。
もしかしたら、私の無惨な結末を無据えているのかもしれないわね…
サイアはそんな私に対してため息を吐き、バリアランサーを1本手に取った。
サイア
「反逆罪は死刑…それ位は知ってるわよね?」
メイリン
「当たり前じゃない、でもそれは長官の命令?」
サイア
「違うわ、私の独断よ」
メイリン
「なら、アンタも同類じゃないの?」
サイア
「私は貴女の上司よ? 隊長である以上、軍規律に従った行動なら、部下の処分を下す権限位ならあるわ」
成る程、確かに筋は通ってそうだ。
相変わらず、理論固めでガッチガチの天才さんだこと…
私も同様にため息を吐き、銃を2丁手に取って構える。
それを見て、サイアは無感情にこう言い放った。
サイア
「…勝てると思ってるの?」
メイリン
「さぁ? でも負ける気は無いから」
当然、マトモにやり合って私が勝てる訳無い。
それ位サイアは凄いし、実力は認めてる。
でも、私には退けない理由がある。
サイア
「…覚悟は出来てるって事ね?」
メイリン
「例え何があっても、私は前に進む」
「サキの為にも、人類の為にも、そしてPokemonの為にも…」
サイア
「…それで自分が傷付くとしても、貴女は止まらないんでしょうね」
メイリン
「だって…それが私の決めた事だもん」
私は笑ってそう言う。
サイアの事はやっぱり良く解らない。
でも、ここへ来た理由はサイアも同じ様な疑問があったからの様な気がする。
奇しくも、私たちはもう何度も同じ戦場で戦って来た。
何度も口喧嘩したし、お互いの事はまるで理解出来ない。
今でさえ…私たちは互いに理解出来ないまま、こうやって対峙しているのだ。
サイア
「私は、和平交渉なんて絵空事だと思ってるわ」
メイリン
「でしょうね、でも邪魔をする理由はある?」
サイア
「あるに決まってるでしょう? 貴女は重要な戦力のひとつ…」
メイリン
「違うでしょ? 私は本音が聞きたいのよ…」
私はいい加減ウザくなり、サイアの言葉を遮ってそう言った。
いつもいつもグダグダグダグダと…
メイリン
「ハッキリ言ったらどう? 私の事が気に入らないから、個人的にぶちのめしに来ました…って!」
私はそう言って笑い、銃を構えて戦闘態勢を取る。
そして全力で電力を放ち、いつでも動ける態勢を整えた。
それを見て、サイアは珍しく目を細める…
サイア
「…やっぱり、理解出来ないわ」
メイリン
「安心して、私もだから!!」
私たちは、ほぼ同時に動き出した。
スピードは私の方が上、だけどそれ以外は全部負けてるレベルだ。
単純に私とサイアとじゃ戦力が違う。
それでも、私はやらなければならない。
少なくとも、何も背負ってないサイアに、負ける訳にはいかないのだから…!
サイア
(流石に速い…! だけどその程度ならこれ1本でも十分よ!!)
サイアは右手に持っていたバリアランサーを私に投げる。
クルクルと横に高速回転し、それはブーメランの様な軌道で私を狙って来た。
私は素早く急上昇しており、射線からすぐに離脱する。
…が、彼女の投げた槍はすぐに直角カーブで方向転換し、正確にこちらを狙って来たのだ。
メイリン
(忘れてた訳じゃない…だけど、いざ目の前にすると本当に厄介ね!!)
私は無駄と解っていながらも右の銃で槍を迎撃する。
当然の様に槍は銃弾を弾き、全く軌道を変えずに突っ込んで来た。
メイリン
(かわすのは無理! なら、こういうのはどうよ!?)
サイア
「!?」
私は全力で『サイコキネシス』を放ち、槍に干渉して動きを緩めた。
あくまで緩めるのが限界であり、止めるのは無理だ!!
でも…これならこういう事は出来る!!
メイリン
「キャーーーッチ!!」
サイア
「……!」
私は回転速度の落ちた槍を手掴みで捕まえる。
思ったよりも重くはなく、本当にただの手槍みたいだ。
メイリン
「ふふんっ! バリアランサー破れたり!!」
サイア
「あっそ…なら少し出力を上げるわよ?」
私はえっ…?とアホみたいな顔をした事だろう。
すると途端に槍は回転を始め、私の腕ごと高速回転し始めたのだ。
メイリン
「ぶふっ!!」
私は呻きながらも手を離して吹っ飛ぶ。
遠心力で一気に飛ばされ、私はそのまま海に突っ込んでしまった。
メイリン
「ぶはぁっ!?」
サイア
「ほらほら…死にたくなかったらさっさと逃げなさい」
私は真上から迫る槍に気付き、すぐに飛び上がる。
その際、全身に電気が撒き散らされ、青白いスパークと共に私は『高速移動』した。
メイリン
「くっそ〜! いい加減にしろあのチート武器!!」
サイア
「無駄口を叩く暇があったら反撃すれば?」
サイアは余裕だらけで槍を操作し、的確に私を追い詰めていた。
やっぱりサイアは強い! たったの1本しか使ってないというのに、それでも私には手一杯なのだから…
だけど、私だって以前のままじゃない!
これ位対処出来なきゃ、一生かかってもサイアには追い付けないんだから!!
メイリン
「こんのぉぉぉっ!!」
サイア
「!?」
私は尻尾の先端に電力を集中させ、そこから電磁バリアを展開し減速を抑えて反転する。
そして、『サーフライドスラッシャー』のパワーで無理矢理槍を弾き飛ばし、そのままサイアに向かって行った…
サイア
「っ!!」
サイアは流石に危険を感じたのか、もう1本のバリアランサーを手に取り、それを前方で回転させて身を守った。
私は一気に加速して行き、真っ直ぐサイアに向かって突撃する。
ここで消耗するのは得策じゃないけど、それでもやるしかない!!
メイリン
「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
サイア
「!!」
バチバチバチィ!!と、凄まじい火花を散らして私は槍に突っ込んだ。
あれから更に強化されたバリアランサーの出力は、超大型ダクタリアンの攻撃すら弾くと言う。
そんな化け物みたいな特装に、私はただ愚直に攻める事しか出来なかった。
メイリン
「ぐぅぅぅぅぅぅっ!!」
サイア
(1本じゃ……止められない!? だけど…!!)
私は尚も電力を増し、無理矢理突破するつもりだ。
サイアはその間に、もう1本の槍を背後から向けて来る。
サーフライドスラッシャーの電磁バリアは、あくまで前方をカバーするのみ…
つまり、背面からの攻撃は一切防げないのだ!!
メイリン
(やられる…!? 私には、無理なのか!?)
私は歯を食い縛り、決して諦めはしなかった。
元より、分の悪い賭け…
本来なら私が勝てる方がおかしい勝負だ。
だけど…それでも私は勝ちたかった。
メイリン
(サイアは、本当に凄い)
誰よりも強く、誰よりも多くの敵を倒せる。
でも、彼女はひとりの子供を救おうとはしなかった。
戦略的には確かに正しいのかもしれない。
私の力が及ばなかったのは事実だ…
でも、彼女が力を合わせてくれれば、救えたはずだった。
…私は、未だにそれが許せなかったのだ。
サイア
(貴女は…何故そこまで身を粉にするの?)
彼女は誰よりも無鉄砲で、誰よりも多くの傷を負う。
でも、彼女は強大な敵をひとりじゃ倒せなかった。
なのに、彼女は戦略を無視してでも、誰かひとりの為に迷わず助けに行く。
私にはそれが理解出来なかったし、不愉快だった。
メイリン
(サイア…貴女本当は)
サイア
(メイリン少尉…貴女はそれでも)
背後から槍が迫る。
私は一切退かない。
サイアのバリアも、もう持たないみたいだ。
こうなったら我慢比べ…どっちが勝つか、最後まで比べましょうかぁ!?
メイリン
「ぐぅ……っ! うあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
サイア
「……!! …っ!?」
バッキャァァァァァァァァァァァァァンッ!!
それは、まるで戦闘機同士が激突したかの様な衝撃音だった。
奇しくも私は我慢比べに勝ち、目の前のバリアを吹き飛ばして、そのままサイアをも吹っ飛ばしたのだ。
だけど、幸いな事に私にはそれが限界であり、サイアにはただ高速で体当たりをしただけ…
特装のフィールドに身を守られているサイアには、そこまでのダメージは無いはずだろう…
メイリン
「…っ!!」
私はその後の空中制御が効かず、海へと突っ込んでしまう。
そして力無く沈んで行くも、直後にサキが引き上げてくれた。
メイリン
「ぶふっ! サ、サイア…は?」
サキ
「…あっちだ、そのまま海に落ちたな」
メイリン
「やっば!! サキ、サイアを引き上げて!!」
もし気絶なんてしてたら、特装の重みで沈没してしまう!
流石にこんなケンカ位で死んだら目覚めが悪いなんてモンじゃないわよ!!
サキ
「問題無い、自力で浮かんでいる」
メイリン
「って、無事なのね…そりゃ良かった」
サキ
「それよりメイリンの方が消耗は大きい…動けるか?」
私はあはは〜と笑うも、とても動けそうになかった…
既に全電力を使いきっており、もうサーフテールする力も残っていないのだから。
サキ
「…理解に苦しむ、何故あんな無駄な戦いをした?」
メイリン
「それが、心を持った人間だから…かな?」
サキ
「ふむ、興味深いな…私には理解出来ないが、それでもメイリンには意味のある戦いだったという訳か」
私はクスリと笑う。
サキってば、サイアと似た様な反応するのに、サイアとは真逆の答えを出すのだから…
これがサイアだったら、興味なんて抱かずにスルーするはず。
でも、サキは逆に歩み寄ろうとするのだ。
だからこそ、私はサキの事を助けたいと思うのだろう。
そして同時に、私はサイアの事を思って悲しくなった。
メイリン
(どうして、解り合えないのかな?)
互いに手を取り合えれば、もっと良い結果が楽に出せるはずなのに。
私たちは、互いにそれが譲れなかった。
でも、私は後悔していない。
これは自分で決めた道だから、必ずやり遂げると決意した事だから。
私が勝ったのは、多分その辺の精神論なんだと思う。
単純に私とサイアでは、心持ちが違ったのだろう…
サキ
「…とりあえず私のエナジーを譲渡する、それで動けるはずだ」
メイリン
「うぉぉっ!? 力が漲るぅぅぅっ!!」
サキが私の手を握り、何か力を注ぎ込んで来た。
その瞬間、私の体は活力を取り戻し、再び飛ぶ事が出来る様になったのだ。
こ、これが…旅団の上位種の持つ能力なの?
メイリン
「す、凄いわね…ほとんど全快した」
サキ
「あくまで元に戻しただけだ…本番ではもっと大きな力を引き出す事になる」
私は唖然とした…要するに、これがサキと力を合わせるという事。
サキは平然としてるし、やっぱり根本的に私たちとは戦闘力が違うのだと思い知らされる。
でも、逆にそれはとても頼もしかった。
メイリン
「…サキの力が合わされば、総意に立ち向かう事も夢じゃない」
サキ
「だが限界はある、あくまで私の力は1個体の物でしかない」
「総意とは、そんな力が結集した総力なのだから…」
聞いてるだけでゲンナリしそうだ…
でも、私はやると決めた。
だから、絶対に退かないし諦めない!
私は…必ず、皆を助けてみせる!!
私はそう強く思い、サキを抱き締めて空を飛ぶ。
サキもまた私に身を委ね、安心しているかの様に感じた。
そして私は…そのまま禍々しい気配を放つ、南極ゲートへと向かう事に…
『遠い世界のPokemonさん』
第11話 『メイリンとサイアは理解し合えない』
To be continued…