第10話 『旅団の少女は花色 咲』
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「観測対象を保護完了…これからの指示を要求」
メイリン
「………」
私は謎の空間に今いる。
私たちを襲った旅団の少女は何故か私を求め、そしてここへ拐ってきてしまったのだ。
彼女にとってそれは『保護』という事なのだけど、私は未だに檻の中でロクに動く事も出来なかった。
檻は何かのエネルギー体で出来ているみたく、触っても特に人体に影響は無い。
ぶっちゃけ、押しても引いてもビクともしなかった…
メイリン
(ここ、一体何なの?)
周りに見える空間は異質であり、私は異様な感覚に囚われている。
形容するなら、歪んだ次元…とでも言えば良いのだろうか?
紫に近い色の壁が、グニャグニャと歪んでいる様に見えるのだ。
正直、距離感すら狂いそうになる…
そんな異常な空間を旅団の少女は自由に出入り出来るみたく、彼女は私ごとこの空間へと入り込んだのだ。
そして旅団の少女は、ひとりで明後日の虚空を見つめ何かボソボソと呟いていた…
旅団の少女
「…了解、これより直接対話を試みる」
メイリン
「………」
旅団の少女はそう独り言の様に呟くと、機械的に動き出す。
そして私の方を改めて向き、無感情な表情で近付いて来た。
やがて、少女はまずこう話しかけて来る…
旅団の少女
「メイリン・ルカ、アメリカ軍所属のPokemonであり、種族はライチュウ」
「ニューヨーク州在住であり、ノア・サクラガワと同居」
「我々に対し数多の戦績を挙げ、独立部隊インディペンデントへと転属された…以上の事に相違は無いか?」
メイリン
「な、何なのよ? 私の経歴なんて確認してどうするつもり?」
ちなみに、当然だが相違無い。
どうやって調べたのかは知らないけれど、私の素性は完全に把握されているらしい…
となると、他のPokemonたちも?
旅団の少女
「…相違無いと判断する」
「対話を続ける…我々が知りたいのは、あくまでそちらの意志」
「貴女たちは、あくまで戦う気なのか?」
少女は無感情にそう聞く。
私はその意味が良く解ってなかった。
むしろ、何故急にそんな話をして来る?
ダクタリアン…いや、永遠旅団は今更話し合いでもしようと言う気なのか?
旅団の少女
「ここまでの観測で、我々は3通りの結論を導き出した」
「パターン1…地球に存在する全ての知的生命体を排除し、新たな文明を促す」
「パターン2…地球を人類の住めない環境に追いやり、宇宙への進出を促す」
「パターン3…地球人類を排除し、Pokemonのみを新たな人類として受け入れる」
メイリン
「…な?」
私はただただ息を飲んだ。
彼女が言ってる事は全てが極端であり、そして無情だった…
少なくとも、どれを選んだ所で人類にはまるで未来が無いのだから。
同時に、彼女たちは私たちPokemonをある程度認めている…?
旅団の少女
「これはあくまで仮決定の結論であり、実行するかはまだ未定だ」
「より確実な未来を選択する為、我々はあえて貴女と接触した」
メイリン
「より確実な…未来?」
旅団の少女
「地球という惑星は、第7太陽系惑星の中で唯一知的生命体が存在している」
「そして同時に争いを度々起こし、徐々に星の寿命をも削り取っているのだ」
「我々旅団はそんな過ぎたレベルの生命体を監視し、宇宙の寿命を脅かす存在を排除している」
少女の言葉は、私の思考をパンクさせそうなレベルだった。
少なくとも、考えてるスケールが大きすぎて思考が全く追い付かない。
それで、何で私を拐って話すのよ?
もっと頭良い人に聞けば良いんじゃないの!?
メイリン
「…で? 私に何をさせたいのよ?」
旅団の少女
「貴女はPokemonであり、地球人ではない」
少女はきっぱりとそう言い切る。
私は少し考えてみた…
確かに、私たちは別の世界から来訪したとされる異世界の生物。
あくまで地球人ではなく、ただの隣人でしかないのだ。
だけど、旅団にとってはそれその物がイレギュラーとでも言うのだろうか?
でも、それにしたって何で私が…?
旅団の少女
「貴女は、どうして敵意を捨てた?」
メイリン
「……は?」
それは、ただの疑問の様だった。
だけど、よっぽど重要な事なのか少女は少し目を細める。
その表情はやや不安そうな顔にも見え、無感情で機械的な素振りを見せていた少女に、若干の陰りを感じさせていた。
旅団の少女
「地球人も、それを守るPokemonも、誰もが我々に敵意を向けた」
「その中で、唯一貴女だけが戦いの中で敵意を捨てた…」
「それは…何故?」
私は少し理解する。
旅団は、新たな答えが欲しいのだ。
そして、私がその答えの何かを握ってる。
ここから、私の返答次第で人類の未来が決まるのかもしれない。
もしかしたら、終わらないと思っていた戦争が…終わるかもしれないのだ。
だったら、ここからはかなり重要だ。
極力、間違った答えを返さない様にしないと…
メイリン
「…私は、敵意を向けていない相手を襲う程、非情にはなれないだけよ」
旅団の少女
「それでも我々は人類の敵であり、貴女たちの敵のはず」
「なのに、人類を守る軍人でありながら何故?」
メイリン
「私は、ただ人間が好きなだけだから♪」
その言葉を聞いて、初めて彼女が表情を変えた。
体を小さく震わし、目を見開いて驚いている。
まるで予想してなかった答え…って感じね。
旅団の少女
「…まさか、貴女は地球人の為だけに戦っていたのか?」
メイリン
「そうよ、私たちPokemonを受け入れ、仲良くしてくれる人たち」
「そんな親切な隣人を、私は純粋に好きになって、そして守りたいと思ったの」
「ダクタリアン…ううん、永遠旅団が誰も襲わないなら、私は貴女たちと戦おうなんて思いはしないわ」
私は正直に答えた。
嘘偽り無く、ただ自分に正直な言葉で。
私は、ただ皆を守りたい…
大好きなノアを、大切な仲間を、そして共に生きる皆を。
もし旅団が戦う事を止めてくれるなら、私もまた戦う事を止められるかもしれない。
そうしたら…ノアと。
旅団の少女
「…報告、3種の結論全てに問題発生」
「観測結果、メイリン・ルカは我々に対して友好的な意志を見せている」
「…否、全ての人類がそうではない」
「……? その結論は問題があると判断、反論する」
メイリン
「…?」
何やら、少女が慌て始めていた。
あくまで機械的な答え方だけど、若干口調が激しくなっているのだ。
どうやら上司にでも報告してるみたいだけど、今一反応がよろしくなかった…って所かしらね?
…だとしたら、全部私の責任になりそうなんですけど!?
旅団の少女
「反論、メイリン・ルカに関してはまだ観測の余地有り」
「結論を出すのはまだ早計だと判断」
「…否、私はそれを否定」
「……! それが、総意だと…?」
メイリン
「………」
通信が終わったのか、少女は数秒黙ってしまった。
表情からは何も読み取れないが、どうも雲行きが怪しいらしい。
もしかしなくても、人類滅亡の危機って奴かしら?
旅団の少女
「…メイリン・ルカ、貴女の意見を聞きたい」
メイリン
「…何?」
旅団の少女
「旅団は貴女のみを残し、地球人類を排除する結論を固めた」
うわ〜やっぱそういうルートかぁ…
何となく最悪の予想はしてたけど、そりゃどうしましょうかね?
旅団の少女
「…しかし、私個人としては争いは避けたい」
「とはいえ、旅団の総意が決定した事項である為、私ごとき1端末がどうこう出来る事ではない」
「ただ、私はこんな時…どうしたら良いと思う?」
メイリン
「…何故、それを私に聞くの?」
少女は黙っていた。
ただ、私からの答えが欲しいらしい。
この娘は、もしかしたら何かを期待している?
旅団の総意に逆らえないというのに、それに従うだけじゃないの?
だとしたら、この娘は一体…?
旅団の少女
「…私は、地球に住む全ての知的生命体が問題では無いと、個人的に判断している」
「だが、総意は既に決定した…それに私は従わねばならない」
メイリン
「でも、嫌なら逆らえば良いじゃない」
旅団の少女
「それは出来ない…総意に逆らえば、その場で排除されるだろう」
メイリン
「なら、私が守ってあげるわ」
私は即決した。
少女はただ驚いている。
自分でそう促したんでしょうに…予想してなかったのかしら?
私は檻の中で笑い、少女を見た。
彼女は確かに、敵の一味なのかもしれない。
でも、彼女は私にとって敵じゃ無かった…
むしろ、本当の敵は別にいたんだ。
それが…それこそが。
メイリン
(本当に、倒すべき敵!)
私は決意した、それならこの少女を守ろうと。
そして、理不尽に抗うと決めた。
旅団の総意が全人類抹殺なら、何がなんでも抗う!
旅団の少女
「…旅団の全戦力が投入されれば、数日もしない内に地球人類は滅ぶ予定だ」
メイリン
「それをさせないのが、私たちPokemonだから…」
旅団の少女
「勝てると思っているのか?」
メイリン
「勝てるか、じゃないの…勝つしかないから」
「私が守りたいと思ってる人たちを、守る為に…」
旅団の少女
「…分かった、貴女の言葉に同意する」
「だが、相手は強大すぎる…勝てるとは到底思えない」
メイリン
「でも、貴女は従いたくないんでしょ? なら、おねーさんに任せなさい!」
私はドンッ!と胸を叩く。
すると突然檻は消え去り、私たちは地球の見慣れた風景に戻って来た。
どうやら、さっきまでの空間は彼女が作り出した物らしい…
旅団の少女
「恐らく、総攻撃が始まるのはまだ時間がかかる」
「いかに総意の結論と言えど、私と同様に反対する者も少なからずいるはずだからだ」
メイリン
「だったら、準備期間位はあるか…」
「攻めて来る場所とか、解るの?」
旅団の少女
「我々が侵入出来るのは南極のゲートしかない」
「よって、全戦力もそこから投入されるはず」
考えてみたら、基本的にダクタリアンは南米付近でよく戦ってたもんね…
そっか、そもそも南極にゲートがあって、そこからしかダクタリアン…旅団の戦力は出れないって事だったのね。
メイリン
「…それじゃあ、とりあえずインディペンデントに帰還するわ」
「貴女も来なさい、きっと貴女の力も必要になるから」
旅団の少女
「…同意する、本当に守ってくれるのであれば」
少女はそう言って頷き、差し出した私の手を取ってくれる。
彼女の手は少し冷たかったけど、心はきっと温かい気がした。
私は微笑し、すぐに通信をしてインディペンデントを呼ぶ。
それから数時間後、私たちは無事に回収される事となった…
………………………
サイア
「…何処にも反応が無い?」
マイク
「そうなんですよ! あの謎の女の子とメイリン少尉は、忽然と地球上から消えてしまったんです!」
これは、メイリン少尉が拐われてすぐの事。
私はすぐにインディペンデントへ帰還し、少尉の捜索を依頼していた。
が…まさか少尉は地球上から反応が無くなるという事態になっており、私は頭を抱えて俯いたのだ。
そんなバカな事が…と思いつつも、ダクタリアンの能力を考えたら、有り得無くもないという結論に達してしまうのが厄介ね。
でも、だとしたらもうメイリン少尉は…?
サイア
(永遠旅団…とか言ってたわね)
少なくとも、あの少女は保護と言っていた。
だとしたら、メイリン少尉の無事は保証されている?
もっとも、実験材料のモルモット扱いだったら笑えないわけだけど…
ジェフリー
「しかし、サイア中尉の報告を聞くと益々謎が深まるな…」
「ダクタリアンの正体は永遠旅団…観測者、ねぇ?」
長官は自分の席で首を傾げていた。
今はメインルームであるブリッジにおり、その場の全員で対策を考えていたのだ。
サイア
「…萌軍曹も思ったよりかは軽症だったし、ワザと手加減されたって感じかしら?」
マイク
「ですけど、あれは普通じゃ無いですよ!」
「まるで空間その物から干渉してる様な感じですし、既存の攻撃方法から一致する部分が少なすぎます!」
ジェフリー
「…まさに、敵の切り札という所かな?」
サイア
「…それが、もし量産品だったら?」
それを聞いた場の全員が絶句する。
そして長官は肩を竦めて首を横に振った…
お手上げ…らしい。
ジェフリー
「想像したくはないね…あれだけの戦力を隠し、今更になって大量投入するなど」
サイア
「…むしろ、今までの戦いが旅団にとって観察であり、それが終わったから本気を出し始めた…って感じかしらね」
マイク
「だとしたら…初めっからこっちに勝ち目は無かったって訳だ!」
「ひっでぇなぁ…希望を与える様な事してさ」
希望…か。
本当はどうなのかしらね?
少なくとも、私が今まで戦って来た感じ、あくまで敵はこちらを観察して成長してきた様に見えた。
だったら、相手はこれまでのデータ蓄積から戦力を出している可能性が高い。
そんな中、あの規格外戦力…いくら何でも差が激しすぎる。
やっぱり、アレは別の目的で動いていた?
もしかしたら、旅団と言っても一枚岩ではない?
ジェフリー
「…お先真っ暗、とは思いたくないが」
「私は皆を信じているよ…絶対に、敵には屈しないと」
マイク
「そう、ですよね…俺たちが諦めちゃ、全部終わりですもんね!」
サイア
「…まっ、暗くなった所で敵が大人しくなるわけでも無し」
「今は休ませてもらうわ…」
私はそう言って部屋に戻る。
考える事はいくらでもある…でも、今は頭を休めた方が良い気がした。
メイリン少尉は、今頃どうしてるのかしらね?
………………………
萌
「…全く、歯が立たなかった」
私は、医務室で打ちひしがれていた。
あの謎の少女、私の突きをマトモに食らったはずなのに全くダメージが無かった。
それ所か一撃で私の意識を刈り取るとは…
萌
「情けない!! あまつさえメイリン少尉を拐われるなど…!!」
私は頭を抱えて震えていた。
自分の弱さに、かつてこれ程怒りを覚えた事は無い!
何と無力なのだ…私の力は!!
アンナ
「よっと…ちょっと、話良いかな?」
萌
「…あ、アンナ中尉」
「何か…?」
気が付くと、ベッドの側にアンナ中尉がいた。
いつもの様にヘラヘラ笑っており、相変わらず何を考えているのか解らない。
ですが、この人は人類が誇る天才科学者のひとり…
決して、そんじょそこらの凡人とは違うのです!
アンナ
「うーんとさ、軍曹の特装って純日本製?」
萌
「え? あ…と、確かそうだったと記憶してますが」
アンナ
「ふーん…だったら、あんまり材質は変えない方が良いかな?」
何やら、勝手に悩み始める中尉。
私にはよく解りませんが、特装の事で悩んでいるのでしょうか?
萌
「あの、私の特装に何かあったんですか?」
アンナ
「ん〜? まぁちょっとね〜」
「前の戦闘で外装がやられちゃってたからさ〜」
「いっその事、改造してチューンナップしようかなって♪」
萌
「改造!? チューンナップ!? 出来るんですか!?」
私は少々驚きすぎな位でそう聞く。
すると中尉はニコニコ顔で…
アンナ
「まぁ、単純に出力上げるだけならね〜」
「でも、不具合は出るかもしれないし、一応本人に了承貰ってからやろうかなって…」
萌
「お願いします!! このままでは足手まといになってしまいますし、強くなれるのでしたら是非!!」
私はベッドの上で頭を下げる。
それを見て中尉はニコニコ微笑み、うんうん…と頷いた。
アンナ
「それじゃ、早速取りかかるよ〜」
「出来たら呼び出すから、それまでに体を治しなよ〜?」
私は、はいっ!と元気に答え、少し希望を見る。
今日やられても、次勝てば良い。
戦場においては何を甘い事を…と思うかもしれませんが、まだ私は生きている。
生きているなら、何度でもやり直せるのだから!
………………………
エリーン
「…うーん、主砲の弾をもっと改造してみるか?」
アニー
「でも、あんまり重量増やすと命中率が下がりますニャ〜?」
ワシはニューゴロドの兵装を弄っていた。
あの少女、主砲の直撃を受けてピンピンしてやがったからね〜
少なくとも、大型ダクタリアンを消し飛ばせる位の破壊力なんだが…
エリーン
「…むしろ、バリアみたいな物と推測出来るか?」
アニー
「だとしたら、あの小さな体でそれだけの出力はまさに規格外ですニャ!」
確かに、150cm前後の球体バリアと仮定しても、コイツの衝撃を耐えられるんなら相当な出力だ。
サイアの報告が本当なら、4割程度のダメージだったっていう事だし。
エリーン
「下手な連射は通用しないか…」
アニー
「主砲以外の兵装じゃ、傷ひとつ付けられないかもですニャ…」
エリーン
「…となると、ワシの特装をどうにかした方が現実的、か」
ワシはそう言って特装の大斧を見る。
コイツは単純な物理的衝撃 ブースター内蔵により投擲可能。
いたってシンプルな特装であり、それだけに扱いやすくクセも無い。
ただ力で振り回して当てれば良いんだからね〜
ワシの特性もあって、コイツの破壊力は主砲に匹敵する。
もっとも、直接ぶちかませる距離でしかその威力は出せないんだけど…
アニー
「…相手は小さな人型ですし、案外効果はあるかも」
エリーン
「主砲が効くと言っても、当たればの話だからね〜」
「よっ…と、やれやれ直接戦闘するのは嫌いじゃないが」
ワシは特装の斧を片手で担ぎ、アニーと共に工房に向かう。
とにもかくにもパワーがいる!
改造はそっち方面を強化する方向で行くかね〜
………………………
そんな、各々の思惑の中…徐々に人類の危機は蠢いていた。
観測者を名乗り、宇宙全てを監視する永遠の旅団。
それ等は確実にこの地球を監視し、今人類に滅びの鉄槌を下そうとしているのだ。
だが、そんな観測者の中にも異を唱える者はいた。
………………………
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『これは、総意の意志である』
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『総意の意志ならば同意しよう』
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『この星の知的生命体に価値は無い』
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『その後、新たな文明に選択を委ねる…』
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『急ぎすぎでは無いのか? まだPokemonへの観測は続いている』
ここは、旅団が拠点としている異空間…
宇宙の何処かに存在するであろう空間であり、人類がダクタリアンと呼ぶモノたちの棲家でもある。
そんな中、複数の声だけが不気味に響き渡り、何やら会議をしている様だった。
その多くの部分は地球人類に対し辛辣な評価を下している。
一方、擁護する声も無くはない。
その声は、彼らの中でも一際異質なモノとして扱われ、どうあっても『総意』の決定を覆すには至らない様だった…
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『これは総意の決定である』
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『その意志に逆らう事は許されない』
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『だが、決断を下すのは早すぎる』
『No.875639がPokemonと交渉中と聞く…せめてその結果を待ってからでも』
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『そちらは既に対応済みだ、No.875639は総意の決定に従う』
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『…理解した、それならば総意に従おう』
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『待て、総意の決定は理解したがPokemonも巻き込むのか?』
『Pokemonたちは所詮、下劣な地球人類に利用されている哀れな生命体だ』
『それ等を隔離してからでも良いのではないか?』
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『繰り返す、これは総意の決定であり意志だ』
『第7太陽系第3惑星、地球に存在する知的生命体は、全て排除する』
最後に放たれたその声は、他の全ての声を制した。
この瞬間、人類は改めて不退転となり、滅びへの道を歩んで行く…
全ては己たちの不備であり、自業自得、因果応報…
宇宙の観測者は、そんな身勝手な地球人類を許しはしなかった。
…だからこそ、抗う者もまた現れる。
………………………
旅団の少女
「私は永遠旅団所属、観測者No.875639…」
「地球人が、『ダクタリアン』と呼称する個体の上位種のひとつだ」
旅団の少女はそう言ってインディペンデント内で自己紹介する。
その場には長官を含めた上司の全てが揃っており、静かに彼女の話を聞いていた…
私は彼女と共にここまでの流れを説明し、そして私の考えを率直に述べる。
そんな私に対し、こんな言葉が帰ってきた…
サイア
「何を考えているのか解らないけど、正気なのかしら?」
メイリン
「私は本気で言ってるわ…ダクタリアンと、いいえ旅団とは和平交渉を進める!」
私は訝しげな顔をしているサイアに対し、そう強く言い放つ。
旅団の少女は無表情なままそのやり取りを見ていた…
ジェフリー
「…正直に言おう、残念ながら私の一存では決められん」
「いかに独立部隊としての自由はあれど、地球存亡を賭けた決定権は私には存在しない」
メイリン
「長官の言う事ももっともです…ですから、これは私の最後のワガママにします」
私は全員に対して背筋を伸ばし、ビシッ!と敬礼をする。
そしてキッ!と強い表情で私はこう高らかに声をあげた…
メイリン
「独立部隊インディペンデント所属! メイリン・ルカ少尉! これより軍を退役し、一個人として地球の平和の為に戦います!!」
サイア
「…貴女、本気で言ってるの!?」
私の宣言に対し、サイアは珍しく突っかかって来る。
いつもなら適当に聞き流して、はいそうですか…で終わらせるだろうに。
メイリン
「…私ひとりでどこまでやれるかは解らないけど、それでも未来に希望が残るなら、例え死んでもやるわ!」
サイア
「馬鹿じゃないの? 貴女ひとりで何が出来ると言うの?」
旅団の少女
「ひとりではない、私がいる」
「メイリンは私を守ると言った…ならば私もメイリンを守ってみせる」
旅団の少女は表情ひとつ変えずにそう言い切る。
サイアは苛ついた様に頭を抱え、それでもこう返してきた。
サイア
「強行するというのなら、それは反逆罪よ?」
メイリン
「構わないわ、それが人類の意志なら私は抗うだけ」
「さようなら皆…私が失敗したら、誰かがこの意志を引き継いでくれると嬉しい」
私はそう言って皆に背を向ける。
皆何も話せずに、ただ去って行く私と旅団の少女を見送っていた。
私は、少し寂しくなる。
もしかしたら、皆と戦う事になるのかもしれないからだ。
私の行動は、軍人としてはただの反逆行為。
上からの命令に背いた愚か者だ。
でも、それでも私は助けてあげたかった。
地球人も、そしてこの少女も…
………………………
メイリン
「…きっと、このカタパルトを使うのも最後になるわね」
旅団の少女
「後悔は無いのか?」
メイリン
「無いわ、だって自分で決めたもの」
「私は、守りたいものを全力で守る! それは、貴女も人類も同じ♪」
私はそう笑ってカタパルトの設定を弄る。
いつもはスタッフにやってもらってたから、意外に面倒だと気付かされた…
旅団の少女は少し俯いて、何かを考えている様だ。
だがすぐに言葉は出てこないのか、しばらく固まってしまう。
私はそんな彼女に対し、こんな事を言ってみた。
メイリン
「ねぇ、良かったら貴女に名前を付けてあげよっか?」
旅団の少女
「…? 名前…?」
「私にはNo.875639がある、そう呼べば良い」
メイリン
「それだと呼び難い! 折角生死を共にする運命になっちゃったんだし、もっと友達らしく呼び合える名前が無いと!」
旅団の少女
「理解不能…だが、人類はそうやって名前に拘る理由は気になる」
「よって、確認の為提案を受け入れよう」
そう言って旅団の少女は受け入れてくれる。
私はよーし!と意気込み、とりあえずどんな名前が良いか必至に考えてみた。
言い出したのは私だけど、いざ付けるとなると難しいわね…
私はそんな感じでしばし考え、ようやくひとつ決める事が出来た。
メイリン
「サキ…サキ・ハナイロとかどう!?」
旅団の少女
「…何故その名前に?」
メイリン
「えっと…ぶっちゃけ言うと、語呂合わせ!」
「ほら! 875639って言ってたでしょ!?」
「8756で、ハナイロ…39でサクってなると可愛くないからサキ!」
「日本語的な名付け方しちゃったけど、ダメだった?」
旅団の少女はしばし固まる。
だが、その意味を理解するのに時間はかからなかったのか、特に気にもせず受け入れてくれた…
旅団の少女
「…了解した、これより私はサキ・ハナイロと名乗る」
メイリン
「よっし! ならサキ、ここからは一蓮托生!」
「ふたりで、人類と旅団の未来の為に戦いましょう!」
サキはコクリと頷く。
そして私はサキの小さな手を取り、体に抱き寄せた。
サキは少しだけ驚くものの、私に体を抱かれるのは嫌じゃないのか、すぐに身を委ねてくれる。
私はそれを見て笑い、彼女を改めて理解した。
こうしていると、彼女も私たちと変わらない。
ちゃんと体温はあるし、触れ合えるし、会話が出来るし、信じ合える。
それなら、きっと旅団とも解り合えるはずだ。
確かに、旅団の総意は決定を下した。
だけど、もしその意志が他と食い違う決定だったら?
私は信じてみたかった…サキの様な別の意志が、膨れ上がってくれればと。
それがどんなに困難かは計り知れないけど、それでも私はやると決めた!
だから、絶対に成功させて終わらせよう…
メイリン
(ゴメンね、ノア…もしかしたら先に死んじゃうかもしれないけど、その時は絶対に希望を捨てないでね?)
『遠い世界のPokemonさん』
第10話 『旅団の少女は花色 咲』
To be continued…