『Avenger The After』
第7話 『橘 紫音の入学式』
紫音
「はぁ…」

お婆ちゃん
「あらあら、ため息なんてどうしたの?」
「はい、温かいお茶よ…勉強ばかりで大変だろうけど、ちゃんと休憩もしないとね♪」


私は優しい保護責任者のお婆ちゃんにそう言われ、明るく微笑む。
そして一旦鉛筆を机の上に置き、温かいお茶を飲んだ。
お婆ちゃんは私が猫舌なのを知ってるから、あらかじめ温めにしてくれてる。
そんな小さな気遣いが、私には何よりも嬉しかった…


紫音
「…とりあえず試験には合格したけど、実質定員割れでの合格だし、やっぱりもっと勉強しないと」

お婆ちゃん
「そうね、紫音は看護士になりたいって言ってたもんね…」


そう、私は看護士になりたい。
ちゃんと勉強して、学校に行って、そして誰かを助けてあげたい。
そしたら、私はオジさんの事をきっと助けてあげられる気がするから…


お婆ちゃん
「でも、気を付けてね? いくらPKMが認められたと言っても、学校で同じ生徒に認められるとは限らないんだから…」

紫音
「…うん、分かってる」


実際、人間同士でさえイジメで人を殺すのだ。
そんな中、PKMである私が入ったら、一体どうなるのか?
私は、そんな社会で生きると決めた。
きっと、私が成功すればそれは皆の勇気になるから。
PKMでも、学校に行ける。
PKMでも、友達を作れる。
PKMでも、働いて過ごせる…


紫音
(そんな…希望になれれば、良いな)

お婆ちゃん
「ふふ、きっと紫音なら大丈夫」
「何かあっても、優しいオジ様が助けてくれるんだもんね♪」


私は笑う。
そうだ、優しいオジさんが私には付いてる。
今は海外に行って日本にいないけど、それでも何かあったらきっと駆け付けてくれる。
だから、私に怖い物なんて無いんだ!



………………………



紫音
「はぁ…とりあえず、これからはヘルスも辞めなきゃマズイし、何かバイトも考えた方が良いのかな〜?」


私は昼頃、商店街を彷徨いていた。
そしてこれからの事も考え、色々街を見て回る。
金銭はお婆ちゃんが負担してくれるって言ってたけど、そんなに貯金が多いわけでもないし、やっぱりお金は必要だ。
とはいえ学校に行きながらヘルスなんかとても出来ないし、バイト位しか出来る事は無い。
そのバイトも、私なんかが勉強の傍らで出来る様なのがあるか…


紫音
(看護士になるには、高校を卒業して、大学に行って、更に資格を取って…)


まさに気が遠くなる過程だ。
でも、そうしなければ目的の職業には就けない。
世の看護士さんたちは、皆そうやって難しい道を越えて来たんだから…



………………………



紫音
「ここ…私が通う高校」
「私は…4月から、ここの1年生になるんだ」


私は試験の時と合格発表の時に来た学校に足を踏み入れていた。
今は春休みで、中にいるのは部活動の生徒と一部の教職員と関係者位。
校庭でグラウンドを走っている生徒たちは皆真剣で、そして楽しそうだった。
私も…やっぱり頑張らないと!


男A
「おっ、PKMじゃん! こんな所で何してるの〜?」

男B
「可愛いじゃん! あれ、確か入試の時にいた噂のPKM?」

男C
「あ〜人類初のPKMが入学って言われる? この子がそうなのか?」


な、何か気が付いたら囲まれてる。
それも、興味津々の目で。
正直、あまり良い気分じゃない。
だってこの臭いは、そういう臭いに感じたから。


紫音
「ごめんなさい、もう行きますんで…」

男A
「まぁまぁ! そう言わずにさ! ちょっとお茶しようよ!」


男のひとりが私の手を掴んで引き留める。
追い返すのはそんなに難しくないけど、ここで問題を起こすのはそれこそダメだ。
出来れば穏便に済ませたいのに…いっそ大声でも出してみる?
学校の近くだし、誰かが気付いて止めてくれるかも…


男B
「安心しろよ、俺らもここの生徒だから♪」

男C
「そうそう! 先輩として色々教えてやるよ〜」


教える、ね…典型的な思考回路で解りやすい。
まぁ、以前ならお金次第でやぶさかでも無かったけど、流石に同じ学校の生徒相手にそんな仕事はご法度だ。
とはいえ、なすがままって言うのはこれからの事に響く。
さて…どうしよう?


紫音
「とりあえず、大声出しますよ?」

男A
「まぁ落ち着けって…素直に来てくれりゃ手荒な真似はしないからさ♪」


私ははぁ…っと深くため息を吐き、俯く。
男たちはニヤニヤ笑っており、完全に私が格下だと思ってるみたいだった。
むぅ…CP1000未満でも、これ位は捻れるんだけど。


紫音
「…一応言っときますけど、私が本気になったら怪我じゃ済みませんよ?」

男B
「おお怖い…でも出来るか? 折角入学したってのに、生徒に怪我させたとか、大ニュースになるぜ?」

紫音
「通報されれば、ですけどね?」
「この場で全員黙らせて、行方不明にさせるとか…そういう方法も取れるかもしれませんよ?」


私が冷静に冷たく言うと、男たちは少し息を飲む。
所詮、この人たちはこの程度の人間だ。
オジさんたちみたいに、裏の社会の事は知らない。
でも私は知ってる…オジさんはずっと隠しているけど、私は気付いてる。
裏の世界では、常に何かが動いているんだって。


男C
「随分強気だねぇ〜ハッタリじゃないの?」

紫音
「さぁ…? でも、私に手を出したら、私が何もしなくても、不幸な事は起こるかもしれませんね」
「私には、死神が憑いてるんで…」


もちろんこれは半分ハッタリだ。
だけど、オジさんは必ず復讐に来てくれる。
あの人は、そういう人だから…


男A
「へっ、ハッタリさ! こんな小さなPKMにそんな力があるわけねぇ!」
「俺たちに手を出したら、それこそ大問題だ、ホントはブルついてるんだろ!?」


そう言って私の腕を掴んでる男はキツく私の手首を握り潰そうとする。
流石に痛い…けど、私は表情ひとつ変えずに耐えてみせる。
ここで弱味を見せたらダメだ、でも手を出してもダメ。
噂になるのはこの際仕方無い、とにかく穏便に済ませないと。


男B
「へ、へへ…強がってるんだよ! とにかくこのまま連れてこうぜ?」

男C
「ああ、人が来る前に行こうぜ!!」


私は強く引っ張られ、踏ん張るも足を引きずる。
体重が違うから、馬力ではちょっと勝てない。
どうしよう? このままだと面倒事になりそうなんだけど〜!


チュイーーーン!!


男A
「ぎゃあぁっ!?」

男B
「な、何だ今の!?」

男C
「ビームが出たぁ!!」


そう、突然私を掴んでいた腕を撃ち抜いたのは、一筋の光線。
針みたいな細いそれは男の腕を容易く貫通し、ブスブスと焦げ目を作っていた。
男は痛みで踞り、悲鳴をあげる。
そして、残りふたりが後ろを注目すると…そこには暴食の暴君がいた。


ピース
「モグモグ…あーにやってんですかザコ猫!」
「そんな無能共…ングッ! 捻り殺せば良いでしょう?」


暴君は頬一杯に豚まんを頬張り、食べながら喋る。
手には大きな紙袋があり、まだ大量に入っているのか、湯気が沢山出ていた。
そして袋には○51の文字…有名所だね!!


紫音
「えっ!? でもその豚まんってこっちじゃ売ってな…」

ピース
「デパートで出張販売があったんですよ! 今日はそれを聞いて居ても立ってもいられなくなったのです!!」


そうなのか〜それだけの為に出歩いてたんだね〜
私はかなり哀れむ笑顔をしていたと思う。
でも、それが彼女の原動力でもあり、行動源でもあるのだから侮れない…!


ピース
「とりあえず、貴方たちは目障りですから10秒以内に視界から消えてください!」
「10! 9!」

男A
「ひ、ひいいいぃぃぃっ!!」
男B
「な、何だよアイツ〜!?」
男C
「け、警察に連絡だ〜!!」

ピース
「8! 0!!」


ピースさんは気に障ったのか、即座にカウントを速めて手から『放電』する。
一応当てない様にはしており、男たちは泣きながら視界の外まで走り去って行った。


ピース
「釣りはいりません! 取っておいてください!!」

紫音
「…うわぁ、まさに暴君だ」
「って、本当に買い物帰りでここに?」
「家は反対の方向じゃ…?」


私がそう言うと、ピースさんは無言で紙袋から豚まんを出してかぶり付く。
う…臭いからして美味しそう。
流石は関西で有名な豚まんだね…


ピース
「モグモグ…ふん! たまたま散歩しながら食べ歩きたかっただけです!」
「ングッ! そしたら…たまたま貴女がエロい事されかけてたので、イラついて手を出したんですよ!」


そうなのか〜たまたまか〜…
私はまた哀れむ笑顔をした事だろう。
口も態度も悪いけど、この人はやっぱりオジさんのパートナーなんだ。


紫音
「…ありがとう、助かったよ♪」

ピース
「ふんっ、生意気にも高校生だなんて…!」
「精々真面目に生きるんですね!!」


そう言って不満そうにピースさんは背を向けて去って行く。
私はとりあえず感謝しながらも、警察に捕まらない様祈っておいた。
まぁ、あの人に限って捕まる事は無いと思うけど…



………………………



紫音
「…今日は、入学式!」


あれから時は過ぎ、遂に私は入学式を迎えた。
私は制服に身を包み、少し温かくなった風を受けて登校する。
今日から私は高校生! ちゃんと真面目に勉強して、友達作って、ちゃんと卒業するんだから!
私は色んな期待と不安を抱きつつも、早足に歩いて行く。
そして、いつものコンビニでつい立ち止まり、私は笑った。


ピース
「…あーに見てるんですか? さっさと登校してください、エロ猫さん」

紫音
「…あはは、いつもそうやって私の事気にしてくれたんですね?」


ピースさんはアメリカンドッグを頬張りながらも、それ以上は何も答えない。
でもそっぽを向いて少し顔を赤くしていた。
この人は、わざわざオジさんと同じ場所で待っていてくれたのだ。
そしてそれは、きっとオジさんのメッセージがある。


『学校、頑張れよ?』


紫音
「行ってくるね♪ 暴君もしっかり働くんだよ〜?」

ピース
「やかましい! 私は家事でてんてこ舞なんですよ!!」


ああ、そう言えば家ではひとりだから家事は全部やらなきゃならないもんね…
蛭火さんや細歩さんは働いてるし、サボってたら怒られるのが目に見えてるし…
私は苦笑しながらもその場から立ち去った。
不思議な感じだけど、背中を押された気がした。
そして、私は強く思う…絶対に看護士になってみせると。



………………………



紫音
「うわぁ…人で一杯〜」

女子
「あ、貴女が橘さん? 初めまして!」


突然ひとりの女子が私に話しかけて来る。
特に変哲も無い黒髪ロングの女子で、制服のリボンの色から同級生なのが解った。
1年生は赤、2年生は緑、3年生は青だもんね。
とりあえずニコニコ笑顔で嬉しそうに私を見つめていた。
私も笑顔でそれに答え、まず自己紹介する。


紫音
「初めまして♪ 私は橘 紫音…チョロネコのPKMで、今日からここの1年生!」

女子
「うん、私もそうだよ! 私は『楠 海南(くすのき かいな)』! これから同じクラスでよろしくね♪」


そっか、彼女はクラスメートだったんだ。
良かった、とりあえず良い子で。
きっとこの娘は私の初めての友達だ。
これから、仲良くなれると良いな♪



………………………




「へぇ〜スゴいね、でも看護士って人気の職業だもんね〜♪」

紫音
「そうなの? 人気あるんだ…」

海南
「うん! 中学の時も結構なりたいって言ってた娘多かったよ〜?」


私は校舎をふたりで歩きながらそんな話をする。
楠さんはまだ特に進路は決めてないそうで、既にそこまで考えている私に少し驚いていた。
聞くと、ほとんどの生徒は1年生で将来を決めてたりはしてないそうだ…



「そしてここが、私たちのクラス!」

紫音
「うん…着いたね」


私たちはふたりで何となく感動していた。
お互いに初めてだらけ、でも何とかやってみせないと!
私は意を決して教室に踏み込む。
既に多くのクラスメートが中におり、全員が私を注目した。
私は予想していたので特に驚く事はしない。
元々PKMというだけで、常に奇異の目で見られ続けて来たのだ。
今更この程度で狼狽える程、私はもう弱くない。


紫音
「えっと、どこに座れば…?」


「橘さん、こっちこっち〜! 最初だから好きな所に座ってて良いんだよ〜?」


そう言って楠さんは窓側の最後尾に座る。
私はその隣に座って鞄を置いた。
チラホラと見られるも、楠さんがニコニコしてくれてるお陰か、それ程気にはされなかったみたいだ。
すると、程なくしてひとりの教師が中に入って来る。


担任
「よし、テメェ等席に着けぇ!! 今からHR始めっぞ!?」


その怒号に全員が戦慄する。
現れたのは赤いジャージに身を包んだ女性教師。
右手には竹刀を持っており、髪はオジさんみたいにお下げにしてる。
左頬には斜めに傷が入っており、いかにもな雰囲気の女性だった。
なお、スタイルは抜群…まさに大人の体だね!


担任
「まず俺の名は『赤井 美代子(あかい みよこ)』! 今日からテメェ等の担任だ!!」


そう言ってビシィ!と竹刀で教壇を叩き、気合を入れる。
その姿に全員が息を飲み、これからの学生生活に不安を感じさせていた。
うわ…スッゴい怖そうな先生、どう見ても体育教師っぽいし。
熱血系って感じだね!
おっとり系に見える楠さんも目をパチクリさせて緊張していた。


赤井
「ちなみに俺の担当教科は数学だ!! 覚悟しとけよ!?」


全員がズッこけそうになる。
この身なりと雰囲気で数学教師なの!?
これが理系!?


赤井
「よし、まずは出席を取るぞ!? 阿賀野!!」

阿賀野
「はい!」

赤井
「そのまま自己紹介だ! 気合入れてやれぇ!!」

阿賀野
「オッス! 失礼します!!」


そんな感じで順に出席と自己紹介を気合で進めて行く。
かなり異様な光景に私は苦笑するしかなかった…
そして、次は楠さんの番…


赤井
「次は楠!」


「は、はいっ! く、楠 海南ですっ!」
「中学では陸上部やってました…! これからよろしくお願いします!」


そう言って緊張しながらも楠さんは自己紹介を終える。
最後にペコリとお辞儀をし、楠さんはガチガチのまま着席した。
そして更に順番は進んで行き、遂に私の番が回って来る。


赤井
「よし、橘!」

紫音
「はいっ! 橘 紫音、チョロネコのPKMです!!」


当然ながら、全員が改めて注目する。
しかし、赤井先生がビシィ!と竹刀で教壇を叩くと、ざわめきは一瞬で絶たれる。
静寂に戻った中、私は更に続けた。


紫音
「私は、PKMですけど看護士を目指してます!」
「ちゃんと真面目に勉強して、ちゃんと卒業して、大学に行って、資格を取って看護士になります!!」
「私は看護士になって、誰かを助けてあげたい!」
「その思いでこの学校に入学しました!」
「どうか、皆さんよろしくお願いします!!」


パチパチパチ…と隣から小さな拍手。
見ると、楠さんがニコニコしながら拍手していた。
それに触発されてか、他の人間も拍手をする。
それがひとりひとり繋がって行き、やがて教室にはほぼ全員の拍手が鳴り響いた。
私はそれに苦笑し、あはは…とお辞儀をする。

そして次の瞬間ビシィ!と竹刀の音。
再び教室は静寂に包まれ、緊張感が高まる。


赤井
「さっさと着席しろ橘! そして次ぃ!! 藤堂ぉ!!」

藤堂
「は、はいっ!!」


後はそのまま全員が無難に紹介を終える。
ここまでひとりも欠席無し…全員がちゃんと出席していた。
赤井先生もそれを確認してひとつ頷く。
そして、出席簿をバシン!と勢い良く閉じ、ビシィ!と教壇を竹刀で叩いた。


赤井
「こっからは入学式だ! 全員、出席番号順に並んで体育館に向かうぞぉ!?」


はいっ!!と全員が大声で返事をし、私たちは綺麗に整列して教室を出て行った。
その光景に他のクラスは驚愕している。
そして、ひとりのメガネをかけた男性教師が苦笑いを浮かべていた。


教師
「赤井先生、他のクラスにまで丸聞こえでしたよ?」

赤井
「構うか、それがウチの流儀だ…」
「ただでさえ人類初のPKM入学…初っ端から気合入れてやらねぇと、この先何があるか」


赤井先生は小声で話していたけど、私には聞こえていた。
やっぱり、先生でも不安なんだね…
でも、それはきっと私の事を心配してくれているのだと私は思った。
だから今は強くなろう。
そして誰かを守れる大人になるんだ…!



………………………



校長
「え〜1年生の皆さん初めまして…」


全1年生が集まるこの体育館で、壇上にひとりの先生が立つ。
その人はこの学校の校長先生で、いわゆる1番偉い人だ。
今はその偉い人から有難い言葉を皆で聞いている。
結構な時間それを聞いていると、やがて校長先生はチラリと私を見てこう言った。


校長
「皆さんもご承知だとは思いますが、今年の1年生にはPKMがひとり入学しています…」


少し場がざわめく。
そして、ひとり猫耳と尻尾で異彩を放つ私を、大勢の視線が貫いていた。
だけど、すぐにビシィ!と竹刀の音が鳴り響き、一瞬でざわめきは止まる。
赤井先生はふんっと鼻を鳴らし、そのまま黙っていた。


校長
「人類の歴史に置いて、PKMの入学は史上初…」
「ですが、これはとても栄誉な事だと私は思います…」


校長先生は優しい笑顔で皆を見て言った。
その顔は嘘偽りを感じない素直な顔に見え、私は少しだけ安心する。


校長
「これから先、PKMの生徒は各地で増えるでしょう…」
「ですが、そんな後世のPKMたちに恐れを抱かせてはならないと私は思います」
「ですので、皆さん受け入れてください…」
「そして正しく後世に伝えましょう…」
「PKMでも、学生になって人間と共に歩めるのだと…」


その言葉と共に教師全員が拍手をする。
私たちもそれに倣って拍手した。
やがて校長先生は壇上を降り、話は終わる。
そして、次ぎに轟くのは赤井先生の怒号。


赤井
「橘ぁ!! 壇上に立てぇ!!」

紫音
「は、はいぃっ!?」


突然の無茶振り。
しかし、赤井先生に睨まれて私は退くに退けない。
とりあえず赤井先生の後ろを付いて行き、私はさっきまで校長先生がいた壇上に上って行った。
赤井先生は私の横に並び、まずは竹刀で壇上を叩き、その後下の学生たちに竹刀を向けてこう言う。


赤井
「橘ぁ! PKM代表として宣戦布告だぁ!!」

紫音
「せ、宣戦!?」


とりあえず何か言えという事なのだろう。
私は頭がグチャグチャになりそうだったけど、オジさんの顔を思い出して顔を引き締める。
そして私は皆を壇上から見下ろして、まず一声。


紫音
「私は橘 紫音! チョロネコのPKMです!!」
「これから、色々と迷惑をかけるかもしれませんが、それでも仲良くしてください!!」


パチパチパチ…と小さな拍手。
それは楠さんの物で、そこからまた波紋が広がる様に拍手喝采が始まった。
隣の赤井先生も微笑みながら拍手する。
私は、この学校でこれからやって行くんだ…

きっと辛い事も苦しい事も沢山ある。
でも、それでも同じ位楽しい思い出も見付けてみせる。
そして、誰かを助けてあげられる様に戦うんだ…
私の大好きなオジさんが、そうしてくれた様に…



………………………




「橘さ〜ん、格好良かったよ〜♪」

紫音
「あ、あはは…何か退くに退けなかったし」
「でも良かった♪ 思ってたよりも皆良い人みたいで…」


私たちは昼前に下校していた。
楠さんも私の家の近くらしく、帰り道は同じみたいだ。
何か…色々偶然だね。



「…うん、でも気を付けてね? 何だか、上級生では怖い話もあるみたいだから」

紫音
「そうだね、でも大丈夫♪」
「私は、何があっても絶対に諦めないから!」


私は笑顔でガッツポーズを取る。
楠さんも、それを見て笑ってくれた。
そして楠さんは私に手を差し出し、こう言う。



「橘さん、良かったらこれから友達になってください…」

紫音
「もちろん! って言うか、もう友達でしょ?」


私はしっかりと楠さんの手を握り、笑い合う。
友達、そう友達だ。
きっと楠さんとはこれからも一緒に頑張れる。
私はそう確信していた。



「ふふふ、それじゃあ私の事は海南って名前で呼んでください♪」

紫音
「良いよ! それじゃあ私の事も紫音って呼んでね?」


互いに信頼が生まれた気がした。
まだまだお互いの事は深く知らないけど、それはこれから知っていけば良い。
とりあえず初めての友達なんだから、大事にしよう…絶対に。


海南
「それじゃあ紫音ちゃん、もうすぐお昼だし良かったら一緒に食べない?」

紫音
「うん、良いよ! どこで食べるの?」


私は海南ちゃんに手を引かれ、駅前に向かう。
どこか場所は決めてあるのか、海南ちゃんは迷う事無く人混みの中を歩いて行った。
この間に、私は携帯電話でお婆ちゃんにご飯は食べて帰ると伝えておく。
そうしないと、心配しちゃうもんね…



………………………



海南
「到着〜♪ 今日はここで買って食べよ?」

紫音
「あ、ここ知ってる! 何か最近有名になったんだよね? …PKMの店員で」


私たちが辿り着いたのは普通のハンバーガーチェーン店。
どこにでもある有名なバーガー店で、説明不要のレベルだ。
この駅前でも同じ店はいくつもあり、あえてここを選んだのには訳が有るのだろう。
何せ、この店ではPKMが働いており、一躍有名な店舗になったのだから…


紫音
「うわ、でも行列だね?」

海南
「うん、皆PKMの店員さんが目当てなんだろうね〜」
「売上も倍以上になったってTVで言ってたし、人気スゴいよね〜」


そうなんだ…スゴいなそのPKMの人。
ちゃんと働いて稼いで、人気もあって、きっと沢山努力したんだろうな〜
とりあえず私は楽しみにしながら行列に並ぶ。
店内ではとても食べられないので、ほとんど皆テイクアウトの様だ。



………………………



店員
「ようこそ我らが晩餐へ!! さぁ欲望のままに己が求める魔導具を選ぶが良い!!」

紫音
「……はい?」

海南
「あ〜ん、やっぱり琉女さん可愛い〜♪ 人気有るのも解るよね!」


か、可愛いのだろうか?
私には何かに毒された悪魔の遣いにしか見えなかった。
その店員はPKMらしく特徴的な角(アンテナ?)が側頭部から上に伸びており、髪は白髪で目は赤。
口元にはキラリと八重歯が見えており、何やら大袈裟なポーズを取って応対していた。
しかし、その接客は私の想像を遥かに越える代物で、とても脳の処理演算が追い付くとは思えない。
そんな中、オーダーを伝える時だけはやけに可愛らしく振る舞うから謎は深まる。
可愛い…確かに可愛い……!!
だけど、何故なの…!? 皆不思議には思わないの!?


琉女
「いらっしゃいませ〜♪ ご注文はお決まりですか〜?」

海南
「お薦めをお願いします!!」


海南ちゃんは楽しそうに目を輝かせてそう言う。
え、ここってもう店員さんが決めていくスタイルなの?
確かに皆不思議とオーダーは店員任せにしてたけど、ここではそれが普通なの?


琉女
「良かろう! ならば我が血の盟約により召還する!!」
「闇より昏き、漆黒の血液を身に纏った深遠なる牡牛!!」
「そして甦るは渾沌の黄金鳥! その羽ばたきで深淵を光に変えろ!!」
「『ゴッド・エンド・ベヒーモス』!! さぁ、契約を結ぶか?」

海南
「はいっ! ふたつセットでお願いします!! あ、ドリンクはアイスコーヒーで!!」

琉女
「○グチセット2〜♪ ドリンクはアイスコーヒー2でーす!」


そう言ってオーダーを伝える店員さん。
その最後の仕草が可愛くて確かに癒される…
海南ちゃんなんか、顔を押さえて身悶えていた。
私は、とりあえずどうしたら良いのか解らない笑顔でただ優しくその光景を眺めていた…



………………………



紫音
「…味は、普通だね」

海南
「そだね〜でも、琉女さんのスマイルがあるからやっぱり最高!」


海南ちゃんは美味しそうにバーガーとポテトを食べていた。
私たちはとりあえず帰り道の公園に立ち寄り、そこでセットを食べていたのだ。
この小さな公園はあまり人がおらず、いつも寂れている。
今は気温も暖かいし、ベンチに座って食べるには丁度良かった。


紫音
「海南ちゃんって、あんな一面もあるんだね?」

海南
「あ、あはは…私、可愛い物が大好きで」
「TVで琉女さんのスマイル見た時、キュンってなってね〜♪」
「それから、琉女さんに会う為に小まめに通ってるんだ〜♪」


紫音
「そ、そうなんだ…」

海南
「あ、もちろん紫音ちゃんも可愛いから大好きだよ!?」


海南ちゃんはそう言って顔を近付け、目を煌めかせてガッツポーズを取る。
ほ、本気だね…これは。
うーん、私百合には興味無いんだけど…


海南
「ご馳走さま〜、あ〜今日も良い天気〜♪」

紫音
「うん、丁度良いよね…」


海南ちゃんはうーんと背伸びをして空を見上げる。
日差しはあるけど、まだそこまで暑くはない。
でも、これから徐々に暑くなるんだよね…
私がこの世界に来てから、初めての春。
そして、ほとんど未体験の夏が待ってる。
それが終われば、また秋がやって来る。
この世界では季節が流れ、そうやって歴史を繋いで行く。
そんな歴史の中で、私は名を残さなければならない。

人類初のPKM高校生…
その卒業生になる為に…
そして、その後に続くPKMの学生の為に…


紫音
「海南ちゃん、そろそろ帰ろ?」

海南
「あ、うんっ」
「でも、私こっちだから…ここまでだね」


私はそっか…と少し残念に思うも。
すぐに笑顔で手を振る。


紫音
「じゃあまたね海南ちゃん! 明日からもよろしくね!」

海南
「うん! これからもふたりで頑張って行こうね♪」


私たちは互いに手を振り、背を向けて歩く。
私は初日から大切な友達を見付けた。
きっと、これからも一緒に学校生活を歩んで行くであろう、大切な友達に…

そして私は目指す、誰かを助ける為に。
看護士という、目標に辿り着く為に。
私の愛する、ただひとりの男性の為に……










『突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語』

スピンオフストーリー 『Avenger The After』


第7話 『橘 紫音の入学式』


To be continued…

Yuki ( 2019/08/11(日) 13:59 )