『Avenger The After』
第6話 『正義のヒーローと悪党のろくでなし』
『イタリア ローマ』


ティレニア海に注ぐ、テヴェレ川の河口から25km程遡った位置にあるイタリアの首都。
伝説によればローマは紀元前753年、テヴェレ川東岸の『ローマの七丘』のひとつ、パラティーノの丘に建設されたという。
しかし考古学的には、紀元前1000年、既に人が定住していた事が証明されており、歴史的に由緒のある地区は意外に狭く、そのほとんどがテヴェレ川東岸にあるとされる。
そんなローマの過去の栄光を示す記念建造物の大部分は、この地区にあると言われているのだ。



………………………



大護
「ちっ…遠回りしたとはいえ、もう季節は3月か」


ロシアからイタリアまで、海路や陸路でゆったり進んだは良いが、流石に時間がかかっちまった。
ロシアでは2月初旬だったのが、イタリアで3月だからな…おおよそ1ヶ月近くはブラリ旅だ。
まぁ、この依頼は報酬前金で期間も設けられてねぇからな。
特に急ぐ必要は無ぇし、やり易いペースでやるのが1番だ。


カネ
「へぇ〜ここは何だか神秘的な感じがするわね」

大護
「熱心な教徒に支えられてる街だからな…まぁ、宗教的にここは重要地点だし、人が多いのがチト鬱陶しい所だが」


俺は少し周りを警戒しながらローマ街道を歩く。
そして俺はかなりご無沙汰していたタバコを取り出して、一服する事にした。


大護
「ふぅ〜…ったく、ようやく落ち着いて吸えるぜ」

カネ
「イタリアでは歩きタバコも多いのね…?」

大護
「まぁ、愛煙家の国とか言われる事もあるからな」
「基本的にこの国は喫煙にゃ寛容で、ホテルとかでも換気さえしてりゃOKって所も多い」


俺が説明してやると、カネはへ〜と感心していた。
まぁ、ポケモンのカネにとっちゃタバコ自体が文化的に無ぇんだろうけどな。
とはいえ、人間と変わらねぇ体なんだしタバコも好みよりけりってトコだろう。
俺は携帯灰皿に灰を捨てながら、気を付けて歩く。
歩きタバコOKつっても、人にぶつかったら大事だからな。
この辺は子供も多いし、受動喫煙にも気ぃ遣っておかねぇと…


カネ
「ふふ…貴方って変な所で神経質よね?」

大護
「あん? そうか…?」


俺は人のいない方に向かって煙を吐き、そのまま歩き続ける。
カネは何故かニコニコしながら俺の隣で歩いていた。
さながら夫婦にでも見えるんだろうか?
設定的には夫婦なんだが、当然独身の俺たちに夫婦生活なんぞ経験は無い。
それだけに、端から見られたらどう思われるのやら…



………………………



カネ
「…次はゼクロムとか言うのだっけ?」

大護
「あぁ…つっても、ここにいたのはもう2ヶ月も前の話だ」
「それも一般観光客からのタレコミらしいし、イマイチ信用出来るか解らん」
「情報だけでも集めてぇんだが、個人的にこの国には長居したくねぇしな…」


俺は3本目のタバコを灰皿に捨て、もう1度周りを見る。
人気は無ぇな…あからさまで助かる。
天下のローマ街道で『人払い』たぁ、やっぱ俺の勘は当たってるぜ。


カネ
「…何? 人の意識が遮断されてる?」

大護
「ちょっとした手品さ、狙いは俺だろうな」
「お前は俺の背中を守れ、必要だと思うなら攻撃しても構わん」

カネ
「攻撃って…敵なの!?」


俺はあぁ、とだけ言って銃を構える。
いつでも撃てる状態にしておき、俺は全身で違和感を探す。
幸いにもこの手口はもう3度目だ、良い加減慣れた。
俺は背後に銃を向け、カネの側頭部の横からサイレンサー付きで発砲した。
すると空間は歪み、そこから血が流れ始める。
そして間を置かずに、妙なローブを着た男が姿を現し、前のめりに倒れた。
カネはそれを見てギョッとし、すぐに警戒を強める。
いくらエスパーのカネでも、コイツ等の『魔術』は関知出来ねぇのか。
まぁ、超能力と魔術じゃあ相容れねぇのかもな。


大護
「やれやれ…何人来てるのか解らねぇが、熱心なこった」


「石蕗 大護…よくも堂々とここに姿を見せられたものね?」


横から女の声、見るとそこには赤いローブを全身に纏った少女がいた。
他の奴とは明らかに違う雰囲気を醸し出しているソイツは、俺を見て明らかに怒りを露にしている。
まぁ、気持ちは解らんでもないがな。


大護
「久し振り…と言いたいが、会いたくは無かったな『セーラ』」

セーラ
「こっちは逆に腸が煮えくり返ってるよ…! アンタのせいで私の株はガタ落ちさ!!」


そう言ってセーラは右手に杖をどこからともなく出し、それをクルクル回す。
俺は銃を構え、セーラに向ける…が、すぐに撃つ事はしなかった。
代わりに、俺は折角だからこんな質問をする事にする。


大護
「セーラ、この街にゼクロムと言うPKMはいるか?」

セーラ
「はぁ? PKMだぁ? アンタ頭イカれたの?」
「ローマ聖教の司祭たる私が、そんな珍獣知るわけ無いでしょうが!」


珍獣ね…まぁ、コイツにとっちゃポケモンはそんな存在なんだろう。
だがそうなると厄介だな…ゼクロムはやはりここにはいなさそうだ。
コイツ等『魔術師』共がPKMを認めてねぇなら、ゼクロムは必然的に遠ざかるだろう。
面倒なのは目に見えてるからな…力のあるポケモンならすぐにでも異常には気付く。
こりゃ、宛が外れたな…


大護
「…はぁ、面倒は嫌いなんだがな」

セーラ
「御託はそれだけ? ならそろそろ死んでくれない!?」
「アンタの死体はバラバラにしてアドリア海に沈めてやるからさ!!」


俺はとりあえず1発発砲する。
だが当然の様にその弾丸は空中で一時停止し、そのまま真下にカランと落ちた。
セーラは勝ち誇ったかの様な顔をしており、俺は無感情にこう警告をする。


大護
「今のは威嚇だ、次はお前の右肩に弾丸をめり込ませる」
「だが、俺を見逃して逃げるなら何もしない…」

セーラ
「そんな交渉が成立すると思ってんの!?」


俺はセーラが杖を掲げた瞬間、もう1度発砲する。
そして同じ様にセーラの前で弾丸は止まる。
セーラはまたしても勝ち誇った顔をしており、今度は杖を俺に向けて振ろうとする。
だがその瞬間、弾丸は下に落ちる事無く、俺の予告通りセーラの右肩にめり込んだ。

ギチギチギチッ!とおおよそ銃弾がめり込む様な音をたてずに、肉を無理矢理ねじ切るかの様な音が聞こえる。
当然だが弾丸はまだ熱を持っている為、相当熱い。
そして、それを超能力で無理矢理ねじ込んだら、どんだけ痛いのかねぇ?


セーラ
「ぐっ…あああああああっ!?」

カネ
「あら、あっさりと…何だったの今の手品?」

大護
「さぁな…だが、攻撃と同時には出来ない程度の手品さ」
「カネの超能力を一切考慮してないあいつの負けだ」


セーラは激痛で杖を落とし、左手で肩を押さえて踞り、痛みに耐えていた。
例を挙げるなら、肩に熱された鉄の塊を機械か何かで無理矢理押し込まれ、肉を引き千切られる…って所か。
一種の拷問レベルの痛みだと想像するな…これなら普通に撃ち込まれた方が多分楽だろう。


セーラ
「クソがぁっ!! まさか、そっちの女は珍獣だったとはね!!」


俺は無言でもう1発左肩にブチ込む。
するとセーラは一瞬のけ反り、歯を食い縛って床に額を打ち付け、プルプルと震えて痛みに耐えていた。
俺は少し脅かすつもりで声を低くし、こう言ってやる。


大護
「死にたくないなら、2度と俺の前でカネを珍獣と呼ぶな…」
「カネはポケモンだが、俺の大切な家族だ!」


俺はそう言ってセーラに背を向ける。
ついでにカネは何か気に障っていたのか、転がっていた杖を超能力で粉々に砕き割った。
おお怖え…ぶっちゃけ俺より強いんだよな、カネって。
まぁ、宗教的な事情は知らんが、ポケモンの土地神様怒らせたのは天罰ってこったな。


カネ
「…ふんだ、誰が珍獣よ! 伝説系だからってどこぞの幻系とか程忍んでもいないんだから!!」

大護
「気にするのはそこなのな…まぁ、希少性とか俺は解らねぇが」


とりあえず、セーラはそれ以上突っかかって来なかった…しかし俺は結界の中から出られない。
思えばやけに人数が少ない? ここに来たのはセーラと部下ひとりか?
考えてみればおかしい…何でそんな少人数で俺を狙う?
前に来た時は数10人で襲われた、なのに今回はたったふたりか?


大護
「…ちっ、カネでも外の情報は探れねぇんだよな?」

カネ
「そう、ね…いつもなら鱗粉を通して意志を感じる事が出来るんだけど、今は何も解らないわ」


だとすると、かなり大規模な作戦なのか?
人払いの結界ってのは、術者を倒せば自然と解除されると思ってたが…
この結界はセーラが張った物じゃないのか?


セーラ
「チクショウ…! クソヤロウがふたりも来るなんて、予想外極まりないわ…!」

大護
「…ふたり、だと? 待てセーラ! まさか俺以外にも敵がいるのか!?」


セーラは歯軋りをし、まだ痛みに耐えている。
そして、悔しそうに額を床に打ち付け、鼻息を荒くしていた。
俺はそこで何者かの気配を感じる。

カツ…カツ…と足音が響き、徐々にこちらに近付いて来るのが解った。
男…か? 体重はそれ程でもない、俺よりかは下って所か?
やがてソイツは俺たちの視界に映り、訝しげな顔をした。
紺色のローブを着ているソイツは、一見セーラと同じ様なタイプにも思えるが、細部がかなり異なる。
俺はすぐにコイツがもうひとりの敵だと理解した。
成る程な…俺の事はついでだったって訳だ。


大護
「…ちっ、ローマ聖教の本命はテメェかよ?」


「…日本人? それに、黒人の女?」


俺はとりあえず銃を構えて威嚇する…が、男は特に感情も込めずに周りを確認していた。
まるでこっちには興味無いって感じだな。
一体何モンだ? 魔術師っぽいのは確かみたいだが…



「…とりあえず好都合だな、さらばだ『sera』」


男は無感情に銃をセーラに向ける。
俺はそれを見るとすぐに男に向かって発砲した。
危険は承知だが、見過ごせねぇ。
理由はどうあれ、セーラを痛めつけたのは俺だ。
そのせいで別の奴に殺されるってのは、個人的に納得出来ねぇ。
だが、男は弾丸を受ける事なくその軌道を反らした。
魔術か…俺には詳細は解らねぇが、下手に連発するのは無駄になりそうだな。
男は銃をセーラに向けたまま、不思議そうに俺を見る。
ローブの下から見える口元からは全く感情が伝わって来ず、どちらかと言うと『こっち側』の雰囲気にしか感じなかった。
そんな魔術師と思われる男は、俺にこう質問する。



「…邪魔をする理由を聞こうか?」

大護
「ハイエナかテメェ? 痛みで動く事も出来ない女に銃を突き付けるとか、イカれてんじゃねぇのか?」


男はそんな俺の言葉に何も答えなかった。
何を考えているのかさっぱり解らねぇが、コイツは普通じゃない。
間違いなくイカれてやがる…俺には何となく解る。
コイツは、どこか俺と似てる気がする…雰囲気とか、そんな感じがだ。
俺は銃を突き付けたまま、男の動向を探る。
この距離じゃ当たらない…どんな細工してるか解らねぇ以上、下手に撃つのは無駄だ。


セーラ
「バカが…! 何で敵の私を助ける!?」
「以前のアンタは、そんなの気にする様な善人じゃないでしょうが!?」


俺は少し目を細めた。
そして、その言葉を聞いて何故か男も不思議そうな顔をする。
互いにこの時点で何を考えただろうか?
ただ、俺にははっきりした事がある。
確かに去年の俺なら、セーラを見殺しにしていたのだろうな、と…


大護
「はっ、悪党の気紛れさ…救いの無さそうな女を見殺しにするのが、単に胸糞悪かっただけだ」


「悪党…ね、俺にはお前が聖人か何かに見えるよ…この魔術師はお前の敵なんだろう?」
「おおよそ、同業者とは思えない行動に感じるな?」


俺はその言葉を聞いて黙る。
同業者だと…? なら、コイツもただの人殺しか?


大護
「…見た目は魔術師だが、人殺しの専門ってか?」
「俺からしたら、とても同業者には感じねぇがな」


「勘さ…何故かお前とは似た様な臭いを感じる」


俺は何も言わなかった。
雰囲気が似てると思ったのは俺も同感だ…が、俺とコイツはやっぱ違う。
コイツは以前の俺に近い…今の俺とは、微妙に似てない。


大護
「とりあえず、警告しておく…セーラに手を出すならお前を殺す」


「…出来るのか? お前にそれが」


男は俺を見ながら銃をセーラに向けてトリガーに指をかける。
この距離なら、互いに外す事は無い。
セーラは動くに動けない様だ…半ば諦めてやがるな。


大護
「…3秒くれてやる、銃を捨てるか仕舞え」
「3…2…1…0!」


まずは俺の銃が発砲する音が聞こえる。
が、俺の銃弾は例によって別の方向に反れる。
その後、男はトリガーを引く。
が、その弾丸は発射される事なく、銃は突然爆発した。
正確には、発砲はされたがバレル内で誘爆したって所か。



「!?」

大護
「遅ぇ!!」


男は危険に気付き、銃を捨ててすぐに退こうとする。
だが、俺はそれを読んで更に速く近付く。
そして今度は反らされる事の無いゼロ距離で俺は男の額に銃身を当てた。
が、同時に俺の心臓には見た事も無い刃物が…



「…油断したな、まさかポケモンだったのか」

大護
「俺じゃねぇ…さっきのはカネの超能力だ」


そう、発砲の瞬間にカネは銃を超能力で潰したのだ。
だから弾は銃の内部で爆発したって訳だな。



「身のこなしも人間離れしてるな…一瞬でも遅れていたらアウトだった」

大護
「どうする? 俺が撃つのが速いか、お前が刺すのが速いか試してみるか?」


「止めておけ、この石は触れずともお前の心臓を抉れる」
「お前がいかに早撃ちでも、俺は力を込めずに願うだけでお前を殺せるんだからな」


成る程…その辺は魔道具って奴か。
だとしたら、追い詰められてんのは俺の方か。
相手の挙動を見てから撃つんじゃ間に合わない…やれやれ。


大護
「なら、最悪相討ちにでもするか?」
「心臓を抉るったって、人間は即死するとは限らないんだぜ?」


「…ハッタリじゃなさそうだ、確かに命の天秤は等しく傾いてるな」


しばらく俺たちは互いの獲物を突き付け合う。
どちらかが動けば確実に互いの命を奪うであろうその獲物は、互いに使用される事なく数秒が経過した。


カネ
「大護! セーラとか言うのは回収したわよ!」

大護
「OKだ、さてこれで特に争う理由も無くなったが、お前はどうする?」


「…ひとつだけ聞かせてくれ、何故お前はseraを助ける?」
「ソイツはとある秘密組織のボスだ、いわゆる対国家用テロリストだぞ?」


俺は少し驚く。
セーラの野郎、表向きは司祭とか言ってやがるのに、国際テロリストだぁ?
って事は、コイツは正義の味方って訳かよ?
俺はため息を吐き、とっとと銃を納める。
男は刃物を仕舞わなかったが、俺は構わずにタバコを咥えて火を点けた。


大護
「ちっ、そんなのは知らねぇ…俺は助けたつもりもねぇ」
「ただ、俺のせいでセーラが見ず知らずの男に殺されるのは納得出来ねぇだけだ」
「そして俺は単にお前が気に食わないから邪魔しただけ、その結果勝手にセーラが助かっただけだ」


「…やはり、お前は悪党じゃないな」
「俺より、よっぽど正義の味方じゃないか…」


男は俯いて刃物を懐に仕舞った。
これ以上争う気は無くなったらしい。
が、これが奴の仕事だってんなら、俺にも責任がある。
なので、俺はとりあえずこう言ってやった。


大護
「…とりあえず、セーラは俺が責任持って教育する」
「それに免じてとっとと消えてくれや…秘密組織だかは好きに潰してくれ」

セーラ
「何勝手に潰そうとしてんのよ!? 後教育とかふざけないで!!」

カネ
「うるさいわねぇ…大声出さないでよ」


カネは超能力でセーラを浮かせており、セーラはついでに動きも押さえられていた。
カネはその力を少しだけ強め、セーラが喋れない様にした。



「…良いだろう、seraは死亡したとしておく」
「ただ、証拠は欲しいな…この杖の破片で良いか」


男はそう言ってバラバラになった杖の破片をいくつか回収した。
戦利品って所か…まぁ、向こうの事情は知らねぇからどうでも良いが。


大護
「…やれやれ、じゃあこれでおさらばだ」
「こっちの目的は達成出来ねぇし、とんだ無駄骨だったな」


「へぇ? それじゃあ、今から達成してみる?」


俺たちは突然真上から放たれた言葉に首を一斉に空へ向けた。
すると、昼下がりの日光に照らされ、黒い翼を背中から生やす謎の少女が宙に浮いているのが見える。
その姿は明らかに人間ではなく、俺はソイツがポケモンなのだとすぐに判断した。


大護
「…マジかよ、まさかお前がゼクロムか?」

ゼクロム
「ピンポーン! そうです! 僕がゼクロムです!!」


ゼクロムと認めた少女はケラケラ笑う。
身長は130cm程の低身長、服は薄着のビキニアーマーを着ており、露出度は高い。
が、悲しい程に貧相なその体型はまさにガキその物…とても欲情出来るモンじゃないな。
尻尾は前に見たレシラムと似た様な感じだ。
仰々しい見た目とは裏腹にガキ臭いポケモンだな…レシラムとは真逆じゃねぇか。
ゼクロムはそんな俺の残念そうな表情を見て気に触ったのか、ボーイッシュな黒髪ショートヘアーをワシャワシャ掻いて苛ついた顔を見せた。
思ったより短気そうだ…って、何か目的の趣旨が変わってねぇか?


ゼクロム
「ちょっと!? 何でそんなに残念そうなのさ!?」
「こ〜んな美少女が折角降臨したのに、もっと崇めなよ!?」

大護
「10年早ぇよタコ、美少女所か美少年じゃねぇか」
「男惑わすなら、あれ位デカくなれ」


俺はそう言ってタバコを吹かし、左手の親指でカネを指差した。
当然ながらスタイルの差は歴然。
まぁ、カネ位になれは逆に理想高すぎか…って、神様が成長すんのか知らねぇが。


ゼクロム
「くっ! どいつもこいつも巨乳!!」
「何故だ!? 何故誰も僕の体が好みだと言ってくれないんだぁ〜!!」


ゼクロムは頭を抱えてバチバチ放電していた。
どうやら気にしてるらしい…まぁ、そういう風に生んだ親を恨め。
やれやれ…偶然かどうか解らねぇが、とりあえず目的は達成出来て嬉しい所だな。
今の所害は無さそうだし、テキトーに質問してレポート纏めるか。


大護
「とりあえず、お前は何でこの辺でブラブラしてんだ?」

ゼクロム
「え〜? ブラブラしてはいないよ〜…この国は色々興味深いだけさ」


興味深い、ねぇ…一体ゼクロムには何が興味深いのか?
まぁイタリアは住みやすい方の国だし、単に相性が良かったのもかもしれないが。



「…人払いの結界は張られたまま、なのにあいつはここに辿り着いたのか?」

ゼクロム
「へぇ〜キミがアルセウスの言っていた魔術師か、成る程成る程…確かに、理想家みたいだね♪」


男は驚いている様だった。
アルセウスとか言う単語は聞いた事無いが、何かあの男に関係しているのか?


カネ
「アルセウスって、創造ポケモンの!?」
「まさか、アルセウスまでがこの世界に降臨していると言うの!?」


カネはこれでもかと言う程に驚いていた。
どうやら、それだけ大物って事か。
なら、まさか十柱とか言う奴らにも関係している奴なのか?


ゼクロム
「へぇ、カプ・テテフか…どこぞの土地神がこんな所にいるとはね」
「ソルガレオやルナアーラに釣られたか? それともビースト関係?」

大護
「こいつは俺の連れだ…ゴチャゴチャ喚くな」
「とりあえず、お前は十柱って奴なんだろ? 何でお前らはわざわざ人の世に降りて来た?」
「目的は何だ?」


俺は単刀直入に聞いてやる…思えばこの依頼は疑問が多い。
そもそも神であるポケモンの十柱を何故調査させる?
しかも、何故どんな生活をしているか…なんて物を調べる?
あくまで謎の主婦から受けた依頼だが、腑に落ちない事は多かった。
ゼルネアスは医者を目指して勉強中、レシラムは平和にただ人間と過ごしている。
葛からの連絡ではルナアーラとか言うのを引き取ったらしい。
ソイツも変な奴だが可愛い娘なんだそうだ。
ここまで見て来ても、神様は普通に生活してる。
まるで、人間に関わる為に降りて来たかの様に…


ゼクロム
「目的、ねぇ…そんなの僕が知りたいけど」
「むしろ、キミが知ってるんじゃないの? アルセウスに関わってるならさ?」


ゼクロムは男を見て笑った。
それを聞いて、男は黙る。
知っているが、お前の態度が気に入らない…って感じだな。



「…さぁな、俺には何が何だか」

ゼクロム
「ふふ、運が良かったね? 今のがレシラムだったらキミは焼き尽くされていた所だ」

大護
「…言いたくねぇってだけだろ」
「が、俺も気にはなってる…アルセウスってのは何だ?」


俺はゼクロムにそう聞くと、ゼクロムはゆっくり床に着地し、首の後に腕を回して笑った。
何が楽しいのかは解らないが、コイツはやけに陽気な感じだな…控え目そうなレシラムとはホントに真逆だ。


ゼクロム
「アルセウスは僕たち十柱を統括するリーダーさ」
「そして…今回の神墜ちの中、真っ先に人の世に墜ちた大罪人さ」

大護
「大罪人…だと?」


「………」


男は何も言わなかった、が…どこか怒りに近い感情を俺は感じ取る。
その瞬間、俺は察した。
そのアルセウスとか言うポケモンは、アイツの大切な人なんだな…


ゼクロム
「まぁ、大罪って言っても皆同罪だし、そもそも…創生主がいなくなったからね」

大護
「創生主だぁ? まだ上に何かいるってのか?」


どうやら、俺が思ってた以上に神様ってのは格差社会の様だ。
要するに十柱がいて、その上にアルセウス、更にその上に創生主様とか言うのがいるわけだな。
やれやれ、何だか面倒そうな話になって来たな。


ゼクロム
「う〜ん、とりあえず全知全能の神様と思えば良いよ…ポケモンですらない存在だし」

大護
「…ポケモンですらない、だと?」

ゼクロム
「限り無く概念に近い存在だからね、まぁそれももういないし、語るだけ無駄だけど」


ゼクロムはケラケラ笑いながら説明する。
どうやら、あまり上司が好きじゃなかったみたいだな。
コイツ的には、今の状況はむしろ嬉しいみたいだ。


ゼクロム
「とにかく、僕は今が充実している♪」
「レシラムは腑抜けちゃってるけど、まぁそれも彼女が望んだみたいだし」
「他の十柱たちも、それぞれ好きに生きてるみたいだし、結果的には良かったんじゃないかな?」

大護
「神の世界が無くなったのが、か?」


ゼクロムはアハハッ!と笑って頷いた。
本当に楽しそうな顔するな…見た目通り子供っぽい様だ。
まぁ、神様の年とか気にするのはアホなんだろうが。


ゼクロム
「とりあえず、キミは十柱の調査とかしてるんでしょ?」

大護
「知ってんのか? 誰から聞いた?」

ゼクロム
「ルナアーラからさ、何かやけに意味不明な単語を連発されて戸惑ったけど…」


あぁ、何か厨二病とか言ってたな…
そうか、琉女ちゃんから聞いてたのか…葛め、口が軽いぞ。
まぁ、別に知られた所で困る仕事でもないんだがな…ただの突撃レポートだし。


ゼクロム
「ルナアーラも元気にやってるんだよね…ちょっと羨ましいよ」
「僕も誰かと一緒になろうかな〜?」


そう言ってゼクロムは俺をチラチラ見て目をぱちくりさせる。
露骨すぎるだろ…こちとら流石にそこまで面倒見れん。
神様とか増やしたら姫が暴走するわ!


カネ
「とりあえず他を当たりなさい…大護は私のモノよ!!」

ゼクロム
「良かろう、ならば戦争だ! 神の力、その目に焼き付けるが良い!!」

大護
「やれやれ、争うなら俺の目に入らない所でやれ…」
「後、本気じゃないなら煽るな…お前楽しんでるだけだろ?」

ゼクロム
「あ、解った? へへ〜♪ だって、こんな風に人と話すのも新鮮だし、出来るだけ楽しみたいんだ〜♪」


ゼクロムは舌を出してテヘペロする。
非常に可愛らしい仕草で、この辺は美少女らしくもあった。
しかし、フリーダムだねぇ〜…



「…やれやれ、俺はもう行く」

ゼクロム
「あ、待ちなよ〜? アルセウスの事聞かせてよ〜!!」

大護
「止めとけ、触れられたくねぇモンは誰にでもある」


俺はゼクロムの肩を掴んで止めた。
男はそのまま振り返る事も止まる事もせず、俺たちの視界から消えた。
やがて、結界が消えたのか、人々の喧騒が戻って来る。
俺たちはとりあえず、一旦その場から離れる事にした。
セーラの教育もあるからな…やれやれだぜ。



………………………



セーラ
「バカじゃないの? ってかバカでしょ!?」

ゼクロム
「誰がバカだこのバカたれ!! こちとら元神だぞ!? 偉かったんだぞ!?」


俺たちはホテルに戻り、とりあえず落ち着いていた。
ゼクロムは楽しそうだからという理由だけで付いて来てしまったのだ。
で、今はセーラとゼクロムが不毛な喧嘩をしている、と。


セーラ
「ローマ聖教舐めてんの!? 堕天使とかもう神じゃなくて悪魔だから!!」

ゼクロム
「そんなの知るか〜!! お前司祭の癖に偉く現実的だな!?」
「神を崇めてるならもっと理想掲げろよ!?」

大護
「無茶言うなよゼクロム…セーラは多神教者じゃねぇんだから」


ちなみにセーラは別に縛る事もせず、自由にしてある。
代わりに一度身ぐるみ剥いで別の服を着せてやってるが。
セーラは身長150p程で、金髪セミロングの見た目は少女。
ゼクロムよりかは大きく、色んな意味でゼクロムよりかは大人だった。
ってか、セーラは25歳だからホントに大人なんだけどな…


カネ
「全く貧乳共が醜い争いを…」

セーラ&ゼクロム
「黙れ魔乳!! その無駄な脂肪切り落として牛に食わせてやろうか!?」


完全にシンクロしていた…スゲェ。
まぁ、カネのスタイルは反則レベルだからな。
女としては、何だで憧れる物なのだろう…


大護
「とにかく、もう夜だからあまり騒ぐな…外にまで聞こえちまうぞ?」


俺は部屋の窓を開けてタバコを吹かしていた。
とりあえずこれからどうすっかな? セーラは公式には死亡扱いだし、ゼクロムは付いて来るし、色々面倒になって来たが…
と、俺が外の景色を見ながら考えていると、俺は見覚えのある人影を見付けた。
ここは2階だし、俺は窓から軽く飛び降り、近くの木の枝に着地する。
そして、俺はタバコを咥えたまま、ソイツの近くに着地した。


大護
「よう、まだ何か用か?」


「…少し、話をしてみたかった」


ソイツは紺色のローブの男。
どうやら結界を張ってるらしく、通りすぎる人間は誰も俺たちに気付かない。
話、ね…あまり他人には聞かれたくないのかね。


大護
「…で、何が聞きたい?」


「…お前は、アルセウスに関わりがあるのか?」

大護
「アルセウスとか言うのは、今日初めて聞いたよ…まぁ、ゼクロムの話から関わりはあるみたいだが」


少なくともゼクロムたちの上司らしいし、直接ではないにしろ関わりはあるのだろう。
そして、この男はアルセウスに深く関わる男って訳だ。
俺は無言でタバコを差し出す、が…男は手を掲げて拒否した。



「悪いがタバコは止めておく…妻がうるさいからな」

大護
「おっと、既婚者だったか…こりゃ失礼」


俺は気を遣い、タバコを携帯灰皿に捨てた。
すると、男はローブのフードを取り、素顔を見せる。
黒髪…日本人か? そういや、まだ名前も聞いてなかったな。


大護
「おたく名前は?」


「討希…『若葉 討希』(わかば うつき)だ…そっちは石蕗 大護だったな?」

大護
「ん…? 名乗った覚えは無いが、まぁ良いか」


俺は特に気にせず、頭を掻く。
3月とはいえ、気温は寒いな…上着もう1枚着とくべきだったか。


討希
「…お前は、殺し屋だろう? 何故十柱の調査なんて仕事をしている?」

大護
「生活の為さ…日本にはもう3人程養う家族がいるんでね」

討希
「家族…か、奥さんや子供か?」

大護
「まさか、全員ポケモンだよ…まだ俺は結婚とかする気はねぇな」
「おたくは? そのアルセウスってのが奥さんなんだろ?」


俺が横目で笑って言うと、討希は少し微笑んだ。
何だ、ちゃんと笑えるんじゃないか…無愛想な奴と思ってたが。
どうやら、不器用そうなのは似た者同士らしい。


討希
「…息子が産まれるんだ」

大護
「ほう! そいつはめでたいな…成る程、神様の子供とか作れるモンなんだなぁ〜」

討希
「俺も驚いたよ…そして、同時に確信もした」
「やはり、神なんてモノは幻想なんだと…あいつは、ただの女だと」


討希は何か遠い物を見るかの様な目で空を見る。
やや暗い感じのするその瞳は、夜空の月に照らされ微かに輝く。
俺は逆に地面を見て俯いた。
違うんだな、俺とは見ている物が。


討希
「お前は、どうして殺し屋を?」

大護
「…俺は、悪党で外道でろくでなしだ」
「だから、復讐の為だけに殺しの技術を身に付けた」
「その復讐ももう終わっちまったが…俺には汚れた手しか残らなかったよ」


俺は自分の右手を見てそう言う。
この手は血に塗れている。
罪は永遠に消える事はない…だからこそ、この手で救える物がある内はその為に人を殺す。
救いが無い誰かの為に戦えるなら、俺はいつだってこの手を汚そう…


討希
「…お前は、優しいんだな」

大護
「よせよ…おたくは正義のヒーローだろう?」
「子供が産まれるんなら、堂々としてろ…子供はそんな親の背中を見て育つんだ」


俺の言葉に討希は黙る…そして少し複雑そうな顔をしていた。
何か思う所はあるんだろう、だが互いに汚れ仕事。
お互い、不安なんだろうな…


討希
「俺は、世界平和を願う様な夢想家だ…神の施しを蹴ってでも理想を選んだ愚者」

大護
「世界平和ね…それこそ幻想だ」


俺はあえてバッサリ切り捨てる。
俺は悪党だ、平和なんて物が存在しないのはよく知ってる。
だからこそ、俺はあえて討希にこう言ってやった。


大護
「平和なだけの世の中は、きっと人を殺す」
「世界は残酷だが、何も怖くない世界なんて人は育たない」
「世界平和が本当に実現されたら、その時は人類が滅びる時だろうな…」

討希
「なら、例え理不尽でも受け入れろと? 力や運の無い者は切り捨てられろと?」

大護
「そんなのは知らねぇ…生きてる連中が全員一々そんな事を嘆きながら生きてんのか?」


俺の言葉に討希は黙る。
だが、言いたい事は解る…討希はそんな理不尽が許せないから戦ってるんだ。
けど、俺は違う…俺は悪党だ。
だから、目の届かない場所で何が起ころうが俺は知ったこっちゃない。
ただ…そんな理不尽が許せないと思う人がいるなら、俺はその人に悪魔の地塗られた手を差し出すのが仕事だ。


大護
「俺はこう思ってる…この世は理不尽でも、救いの手はあるんだと」
「例え地塗られた悪魔の手でも、誰かが救われる事はあるんだと」

討希
「…それが、お前の戦う理由か」


俺は答えなかったが、肯定はしている。
そして互いに理解出来ただろう…俺たちは、全く違う人種なのだと。


討希
「…お互い、不器用だな」

大護
「違ぇねぇや…基本的に身勝手だからな♪」


俺たちは笑い合う。
互いにもう大人だ…今更生き方は変えられねぇ。
だから、間違っていても自分の信念を貫く。
俺たちの原動力は、道が違ってても同じだ。
その根底には、護りたい誰かがいる。


討希
「…話が出来て良かった、貴重な意見をありがとう」

大護
「あぁ…子供が産まれたら祝いに行くよ、それまで息災でな…」


討希は最後に微笑んで背中を向ける。
再びフードを頭に被り、そのまま闇夜に消えて行った。
俺はタバコを咥え、火を点ける。


大護
(さ〜て、次は何処に行くかな?)


肌寒いイタリアの夜。
様々な人々が行き交うローマ街道は、実に平和な街だった…










『突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語』

スピンオフストーリー 『Avenger The After』


第6話 『正義のヒーローと悪党のろくでなし』


To be continued…

Yuki ( 2019/08/09(金) 13:00 )