『Avenger The After』
第4話 『Never end regrets』
『サンクトペテルブルク』


バルト海東部、フィンランド湾の最東端に面するネヴァ川河口デルタに位置する、ロシア西部の都市、レニングラード州の州都。
1月の日平均気温は-5.5℃と、ほぼ常に雪の積もる街。
しかし、街自体は観光地としても有名で、中心地においては人々で賑わっている。
そんなサンクトペテルブルクのとある地において、ふたりの女性が歩いていた。



………………………



ルザミィ
「………」


「………」


私は街でカフェを見付け、足を止める。
もうすぐ2月になるけど、まだまだここは寒い。
人間の私はコート等の防寒具を着込まなければ、たちまちに凍えてしまうのだから。
そんな中、私はひとりのPKMと何故か行動を共にしていた。



「…どうした? 中に入らないのか?」

ルザミィ
「…そうしたい所だけど、貴女まだ付いて来る気なの?」


私は後に立っている無愛想で目付きの悪いPKMにそう言う。
彼女は『イベルタル』…突如としてこのロシアで出逢い、何故か彼女に目を付けられてしまった。
彼女もまた寒いのは苦手なのか、ローブの様な防寒具を首から羽織っている。
彼女の腕は鳥の翼の様に大きな羽毛を持っているので、袖を通すコートを着る事が出来ないのだ。


イベルタル
「…お前は何かを知っている」
「それを聞くまでは、逃がすつもりはない」


彼女は鋭い目をなお細めて睨み付ける。
どこぞの13並に目付きが悪いわね…
私はとりあえずため息をひとつ吐き、カフェに入る事にした。
中はそれ程混んでもおらず、席には余裕がある。
私たちはとりあえず店員に促され、空きテーブルのひとつに案内された。


ルザミィ
「とりあえず紅茶セットをふたつ」

店員
「かしこまりました♪」

イベルタル
「……?」


イベルタルは意味が解っていない様だった。
ただ私の横でボーッと突っ立っている。
この娘、元神だとか言ってもこういったカフェは未体験なのね。


ルザミィ
「早く座りなさい…貴女はただでさえ珍しいPKMなんだから、目を付けられるわよ?」

イベルタル
「………」


イベルタルはそれを聞いて少し周りを見る。
流石にこの店にPKMはひとりもいない。
つまり彼女はそれだけ特異の視線を浴びるのだ。
彼女もそれは良しとしないのか、ゆっくりと私の左にある椅子に腰かけた。


ルザミィ
「…言っておくけれど、私からは情報は得られないわよ?」

イベルタル
「それは私が決める。お前は何かを知っている…私はそれを聞くまでお前を逃がさない」

ルザミィ
「強情ね…仮にそれが何の意味も無い情報だったら無駄な時間を過ごすのよ?」

イベルタル
「その価値は私が決めると言っている」
「お前は、私と離れたいならそれを話せば良い…ただし、嘘を言うならその場で殺す」


イベルタルはこんな場所で構わず物騒な言葉を放つ。
今の時代、暴言ひとつで訴えられる事もあるんだから、少しは自重してほしい所ね。


ルザミィ
「…もう好きにしなさい、私は何も話さないわ」

イベルタル
「…そうか、なら好きにさせてもらう」


イベルタルはそれ以上何も言わず、ただボーッと座っていた。
顔を俯かせ、何を考えているのか全く解らない表情でただテーブルを見つめている。
そして、しばらくして店員が温かい紅茶と冷たいミックスサンドイッチが乗ったトレーを持って来た。


店員
「お待たせしました、紅茶セットふたつになります」
「注文は以上でよろしかったでしょうか?」

ルザミィ
「ええ、ありがとう♪」


私が笑顔でそう言うと、若い女性店員は笑顔を返して伝票を置いていった。
良いわね…ああいうの。
私も、道を外さなかったらあんな風に楽しそうに普通の仕事してたのかしら?
考えた所で、そんなifの物語は私には浮かばないけど。
それに、そうなっていたら…好きな人に出逢う事も、きっと無かったはずだから。


イベルタル
「………」

ルザミィ
「ほら、冷める前にいただきなさい…って、このサンドイッチは元々冷たいけれどね」
「紅茶には砂糖もあるから、必要なら自分で足しなさい」


私はそう言ってイベルタルに飲み方を教える。
初めての紅茶に驚いたのか、カップの温かさに表情を変えていた。
まるで子供ね…ううん、PKMは皆そう。
人間の世界なんて、全く知らない世界。
自分たちが今まで体験した事の無い事ばかりなはずなのよ。
それは、神と呼ばれた彼女だってそう。
きっと、彼女はこれから苦労する事でしょうね。


ルザミィ
(リアが、一体何の目的で神と呼ばれた十柱に接触したのか?)


いや、それは結果でしかないのかもしれない。
リアと十柱の間には、特に接点は無いはずだった…
ただの偶然で、今の十柱たちは下界に降りなければならなくなったのかもしれない。
…と、何となく仮説を立ててみるも、それを証明出来る者はもう存在しない。
リアと呼ばれたギラティナの女性は、もう存在その物がこの歴史から消えているのだから…


イベルタル
「…あ」

ルザミィ
「ん? どうかした?」


イベルタルはサンドイッチを一口食べて驚いていた。
私は少し微笑みながらどうしたのか聞くと、イベルタルは少し照れた様に頬を緩ませ、こう呟く。


イベルタル
「…おい、しい、と言えば良いのだろうか?」

ルザミィ
「良いのよ、それで…自分で感じた感情を、そのまま伝えれば良いの」


イベルタルは、決して感情が無いわけじゃない。
ただ、あまりにもそれを伝えるのが不器用すぎるだけだ。
人の世に降りた以上、彼女も同じ様に生きていかなければならない。
今後、PKMを取り巻く環境はどんどん改善されていくだろう。
時代が進めば、きっと人とPKMの間に生まれる子供も増えてくる。
そうなっていったら、もはやPKMと言う区分はただの名称と成り果てるかもしれない…


ルザミィ
(子供…か)


私は考えて可笑しくなる。
私の体は女でありながら子供を作る機能が無い。
正確には、過去に卵巣を取り除いている為、生殖機能を失っているのだ。
これも過去の自分の過ち…

私は駆け出しの頃に、体を使ってとある国の政府高官を落とす事になった。
その際に、私は仕事に確実を求める為、卵巣を摘出したのだ。
体を交渉の武器にするなら、生殖機能は邪魔になる。
当時は、その選択に何も迷いは無かった。
ただ…その仕事の後に、彼に出逢わなければ。


イベルタル
「…どうした? 暗い顔をしているが」

ルザミィ
「…ごめんなさい、ちょっと嫌な事を思い出してね」


イベルタルはそれを聞いて、それ以上は追及しなかった。
むしろ何故聞いたのかしらね…?
彼女にとっては、私の事など気にする必要は無いはずなのに。
彼女が欲しいのは、私の頭の中にある、とある情報だけ。
それも理由は無く、ただ本能的に求めている。
例えそれが彼女に何のメリットをもたらさなくても、彼女はそれを求めてしまっている。
ある意味、滑稽ね…でも、彼女を笑う事は出来ない。
全ては、世界で唯一それを知っている私が原因なのだから…


ルザミィ
「ねぇ…貴女は、人間を愛する事は出来る?」

イベルタル
「…その意味は? 私に何のメリットがある?」


そうよね…やっぱり、そう答えるわよね。
私はクスリと微笑み、紅茶に口を付けた。
そして、私はただ静かにこう語る。


ルザミィ
「私も、同じ事を思ったわ…スパイとして駆け出しの頃、仕事で何人もの男と体を重ねて来た」
「当然、そこに愛情なんて無いし、仕事でなければ何のメリットも無い行動だわ」
「でもね…気付いたのよ、ううん…気付かされた」
「ある日、私は仕事にしくじって命の危機に陥ったの」


私は当時を思い出す。
紅茶をスプーンでかき混ぜ、俯きながらあの日の事を考える。


ルザミィ
「不思議と、恐怖は無かった…こんな仕事なんだから、いつかはこうなる…そう言う覚悟もあったから」
「でも、私は助けられた…ひとりの殺人者に」
「私は、その殺人者にとって何のメリットも無い行動を疑問に思い、こう問いかけたわ」
「どうして、私を助けたの?って…そしたら彼、何て答えたと思う?」

イベルタル
「……?」


私はクスクス笑い、彼の言葉を思い出す。
今考えても、彼はそういう殺人者だった。
多分、それが私の初恋だったんだと思う…


ルザミィ
「…別に助けたわけじゃない、俺の邪魔だと思ったから敵を始末しただけだ」

イベルタル
「……? それが真実なら、何が可笑しいんだ?」

ルザミィ
「そう、だから…可笑しいのよ」
「彼はただの殺人者、でも誰かを助けるのに、理由は作らない殺人者だったのよ…」

イベルタル
「…理由、助ける…理由」


彼は、間違いなく私を助けてくれた。
でもその理由は存在しないから、彼は適当に理由を繕って答えたにすぎない。
私は、あの時も笑ってしまった。
そして、知った…あぁ、こんな裏の世界にも、こんな大馬鹿がプロを名乗ってるんだと。
その瞬間、私のそれまでの経歴は途端にちっぽけになった。
プライドやプロ意識で塗り固めたその実績など、その日は何の役にも立たなかったのだから…


ルザミィ
(しまったなぁ〜、やっぱりリアに頼んで願い叶えてもらえば良かったかなぁ〜?)


後悔は先に立たない。
結局、私はいつだって後悔しながら生き続けているのだ。
でも、それは自分で選んだ道…だから覚悟はしている。
イベルタルは、私に似てるかもしれない。
何も知らなかった頃の私に…


ルザミィ
「…貴女は、私から情報を聞いたらどうするの?」

イベルタル
「その内容にも寄る…だが、どちらにしてもそれ以上はお前に用は無くなるな」

ルザミィ
「じゃあ、私が話さないなら、死ぬまで付いて来るつもり?」

イベルタル
「……そうなるな」


私はまたクスリと頬笑む。
不器用ね、本当に…
他の生き方を、まるで見付けられない、不器用な子供みたい。
こういう所は、ある意味大護に似てるわね…


ルザミィ
「…貴女も、多分いずれ気付くわ」
「人間って言うのは、本能だけじゃ生きていけないっていうのに」



………………………



イベルタル
「…どこへ向かっている?」

ルザミィ
「ヨーロッパ方面よ、次の仕事はドイツの予定だから」


私たちは車で移動している。
雪でもしっかり走れるタイプで、私たちは大型のそれに乗ってエストニアの入り口に向かっていた。
ちなみに陸路を選んだのは特に理由は無い。
空路は何となく嫌な予感がしたから避けただけだし。
ここからだとドイツまでは大分かかるから、少し長めの旅になるわね…


イベルタル
「…仕事か」

ルザミィ
「そっ…これでもスパイだからね♪」
「もっとも、もうPKM関係やゲート関係の仕事は当分無いだろうけど」


いわば通常営業だ。
またどっかの政府関係に潜入しろとか言われるんだろう…
まぁ慣れた仕事だし、無難にこなせば問題は無いはず。
ただ、イベルタルが付いて来るとなると不安は若干ある。
大丈夫かしらね?



………………………



イベルタル
「………」

ルザミィ
「今日はここまでね…車で寝るから、貴女も寝袋を使いなさい」
「エンジンは切るから、そのままだと凍え死ぬかもしれないわよ?」

イベルタル
「…この中に入るのか?」


イベルタルは寝袋を見て不思議がっていた。
私はとりあえず彼女を寝袋に入れさせ、後部座席の方に寝かせる事にする。
私は運転席のシートをリクライニングさせ、そこに体を預けた。
この時期の気候は極寒だ。
朝起きたらまずは雪かきになりそうね……



………………………



ルザミィ
「…ぅ」


朝日が車に差込み、私は目覚める。
頭を次第に覚醒させ、私は寝袋から体を出した。
そして、違和感に気付く。
朝日…ですって?


ルザミィ
(この時期、雪が途切れるなんて…それに、雪が積もってない!?)


私は車の周りを見て驚愕する。
昨晩、あれだけ降り続けていた雪がひとつも地面に残っていないのだ。
気温は-3℃…氷点下だと言うのに、雪が全て溶けるのは不自然すぎる!


ルザミィ
「イベルタルは寝てるか…予想出来るのはPKMの能力と思ったけど」


少なくともイベルタルにそんな能力がある様には感じない。
この娘はそもそも悪、飛行のタイプで、雪や熱を操るタイプでは無いだろう。
と、なると…別のPKMの仕業か。


ルザミィ
(とりあえず、外に出てみましょうか)


何事も確認しなければ始まらない。
私は車から外に出る。
外気温は間違いなく寒い…雪は降っていないものの、地面は凍っていた。
空は徐々に雪雲が覆いかけている…やっぱり、意図的に雪を止めた様な感じね。
一体、何の為に?
この辺りは林位しか目立つものは無いけれど…


ルザミィ
「…湖? そう言えばこの辺りはエストニアに近いから、湖があったわね」


私はスマホで方角を確かめる。
そして比較的近くにある湖の方に向かって行った。



………………………



ルザミィ
「…何よこれ?」


私は違和感に包まれる。
何故か、湖に近付く度に気温が上昇しているのだ。
明らかに異常気象。
ここは本当にロシアなの?
私は次第に汗が出ているのを感じる。
気温は10℃…有り得ないわ。



「何者だ貴様…? ひとりか?」


私は突然横から声をかけられ、驚く。
油断してたわけじゃないんだけど、どうやら気付かなかったらしい。
そして、私はその存在を見て納得する。
この極寒のロシアで、防寒具も使わずに白い普段着。
白いロングヘアーに青い目、そしてイベルタルと同様に腕から翼が生えている。
しかし、こっちは殊更に特殊な尻尾が印象的。
まるで機械仕掛けにも見えるその尻尾は、グルグルとモーターの様に回転しており、熱を発しているのが解った。


ルザミィ
「…この異常気象は貴女の仕業ね?」


「それがどうした?」


彼女は傲岸不遜に言い放つ。
明らかにこちらを見下している顔。
どうやら女性型のPKMみたいだけど、ある意味男性的にも見える。
何より衣服の生地の薄さに対して、胸に膨らみが見えない…女だとしたら、相当なまな板ね。
でも声は女性に思えるし、女性で合ってるのだと思うのだけれど…


ルザミィ
「貴女、女なの? それとも男?」


思わず聞いてしまった。
だって、気になるもの!
もしかしたらやたら美形なイケメン男子かもしれないし!



「…何が目的だ? それを聞いて貴様は何をする?」

ルザミィ
「別に…ただ気になったから聞いただけよ」
「答えないなら勝手に女と思っておくけど、構わない?」


私がそう言うと、彼女(?)は少し苦い顔をする。
もしかして違ったのかしら?
ともかく、どうにも彼女は扱いが難しそうなPKMみたいね。


ルザミィ
「特徴から察するに、『レシラム』みたいだけど、十柱のひとりが何でこんな所に?」

レシラム
「!? 貴様…何故それを知っている!?」


当たりか…まぁ、これだけ解りやすい特徴なら当然だけどね。
十柱の事に関してはイベルタルから粗方聞いている。
確か彼女は、真実のレシラム…


ルザミィ
「…とりあえず、気候を変えていたのは貴女で確定ね」
「こんな事をしていたら、その内誰かに目を付けられるわよ?」

レシラム
「それがどうした? その時は俺の炎で全てを焼き尽くすのみ…」

ルザミィ
「俺、ね…随分強気だけど、人間を舐めない方が良いわ」
「貴女ひとりがいかに強くても、数の暴力には勝てないのよ?」


レシラムはそれを聞いてなお外気温を上げる。
やれやれ…かなり無鉄砲なタイプの様ね。
何を考えているのかは知らないけど、迷惑を考えていないのは問題ね。


ルザミィ
「何を庇っているの? この先にある小屋に何かあるのかしら?」

レシラム
「!? 貴様ぁ…! やはり、あのふたりが目当てかぁ!?」


レシラムは突然両手に青い炎を纏う。
かなりの熱量で、私は危険を感じた。
どうにも話が通じない。
これは相当融通が利かないタイプね。
面倒な事だわ…


ルザミィ
「勘違いしないの! 私は通りがかっただけ…そこで気候が妙だから調べに来たのよ!」

レシラム
「……ちっ!」


レシラムはそれを聞いて炎を消す。
どうやら納得してくれたみたいね。
私はため息を吐き、とりあえず頭を抱えてこう言う。


ルザミィ
「貴女、短気すぎるわよ? 考え無しに行動してる様じゃ、この先人間とは生きていけないのよ?」

レシラム
「そんな事はどうでもいい…俺は、あのふたりを守れればそれで良いのだから」


守る…ね。
それは立派な台詞だけど、この現代社会においては全く守れてない。
少なくともこんな目立つ温度差があったら、その内調査隊なりが派遣される。
そしてそれを毎回力ずくで対処していたら、自分の首を絞めるだけだっていうのに。


イベルタル
「相変わらずだな…レシラム」

レシラム
「!? 貴様はイベルタル!! 何故ここにいる!?」


突然歩いて来たイベルタルに対し、レシラムは異常に警戒していた。
同じ十柱でありながら、このふたりはまるで印象も雰囲気も違う。
冷静で落ち着きのあるイベルタルに対し、己が感情をひたすらにぶつけるレシラム。
ふたりは共に元神だと言うのに…


イベルタル
「私の居場所は私が決める…それをお前にどうこう言われる謂われは無い」
「たまたま通りがかっただけだ…気候が妙だったからな、故にお前などに用は無い」


私はクスリと思わず笑ってしまった。
あの娘ったら、私と同じ事を言ってるし…♪
たまたま…ね。


ルザミィ
「レシラム…貴女の理由を聞かせてちょうだい?」
「どうして貴女は、あの小屋にいるふたりを守りたいの?」

イベルタル
「小屋…? ふたり…成る程、確かにふたりいるな」
「年齢にして70歳前後の男女か…」


イベルタルはそこまで正確に判断する。
彼女の目には、いわゆる生命が視覚的に見えるそうだが、それから年齢まで把握出来るのね…


レシラム
「何が目的だ…? 貴様は一体何を考えている?」

ルザミィ
「深読みしすぎよ…私は別に貴女たちをどうこうするつもりはないの」
「ただ、貴女があまりに無鉄砲そうだから、放っておけなくなっただけ…」

レシラム
「馬鹿な!? 今日会ってすぐの俺に、何故そんな感情を抱く!」


レシラムは心底驚いた顔でそう叫ぶ。
何て言うか…十柱って皆こんな感じなのかしら?
色んな意味で心配になるわね…他の十柱はちゃんと生活出来てるのか逆に気になってしまうわ?


ルザミィ
「レシラム…これは、ただの親切よ」
「こうやって出会ったのは何かの縁…だから、良かったら話してくれない?」

イベルタル
「…何故そこまで親身になれる? コイツは所詮お前にとってプラスの存在にはならないと思うが?」

ルザミィ
「損得勘定だけで人を語るのは止めなさい」


私はイベルタルの言葉にやや強い口調で反論する。
イベルタルは少し驚いた様だが、目を細めただけでそんなに表情は変えてなかった。


ルザミィ
「はぁ…貴女たち十柱とかいうのは、どうにも効率主義者の集まりみたいね」

レシラム
「それの何が悪い!? 俺たちは所詮、創造主の為に生み出された神だ!!」
「むしろ、何故非効率的な行動を人間は取る!?」
「貴様のやろうとしている事は、理解出来ない!!」

イベルタル
「理解出来ないのは同感だが…私にはお前の行動も疑問しか湧かない」
「何故、真実の裁判官であるお前が、あんな老夫婦ごときに力を貸す?」
「お前の役目は、神や人間の反逆に対し、真実に基づいてそれを裁く存在」
「そんなお前が、何故人間を守る等とほざく?」


レシラムの言葉をイベルタルは無感情に返す。
それが癇に触ったのか、レシラムはギリッ!っと歯軋りをさせながらイベルタルを睨み付けた。


レシラム
「俺はその理由を知りたいのだ!」
「…あのふたりは、俺を見ても何も恐れていなかった」
「俺の炎を見ても、ただ笑っていた…」
「ふたりは子供もおらず、ただ余生を安らかに過ごすだけの老夫婦」
「何故だ!? 何故人間はこうも愚かなのだ!?」
「俺は神だ! 真実の基に悪を断罪する裁判官だ!!」
「その俺の力を持ってしても…あの老夫婦を焼く事は出来なかったんだぞ?」


レシラムはそこまで言ってガクリと膝を落とす。
彼女には、彼女の悩みがあるのは解った。
でも、それで何故そのふたりを守るの?
その理由がまだ語られていない。
一体、何がレシラムをそこまで…?


イベルタル
「…嘘偽りの無い誠意に対して、お前は刑を執行する事は出来んからな」
「情に絆されたか…お前ともあろう者が、堕ちたものだな」

レシラム
「黙れ、死神が…ただ淡々と仕事をこなすだけの貴様と俺を、同列に比べるなよ?」
「俺は知りたいのだ…あのふたりに何が出来るのかを」
「俺にも、誰かを『護る』事は出来るのかを…」


レシラムは再び立ち上り、そう呟く。
初めの印象からは売って変わって弱々しく見える。
だけど、私は彼女を応援したくなった。
彼女は、変わろうとしているのだ。
ただ傲慢なだけの神から、恩赦を受けたひとりの人間として…


イベルタル
「確かに、同列ではないな」
「私はお前の行動を理解出来ない…」
「お前がやろうとしている事は、メリットが見当たらない」
「何故、そんな無駄な事をする気になった?」
「焼く事が出来ないのなら、放っておけば良いだろう?」

ルザミィ
「違うのよ、イベルタル…」
「彼女は、恩を返したいのよ…でもその方法が何も解らない」
「だから自分で勝手に考えて、誰にも感謝されなくてもあのふたりを護ろうとしてるの」


イベルタルは納得出来ていないみたいだった。
レシラムは首を横に振ってただ泣きそうな顔をしている。
私からすれば、ふたりとも子供ね…
きっと、その老夫婦も…レシラムを子供の様に思っているのかもしれない。
だからこそ、初めて受けた愛情にレシラムは戸惑う事しか出来なかったのだ。


イベルタル
「理解出来ない…が、反論もしない」
「私も…そういう意味では人の事は言えそうに無いからな」

レシラム
「……?」

ルザミィ
「はいはい! 何だかしんみりしてきたから、暗くなるのはここまで!」
「レシラム、貴女は何もしなくても良いわよ?」

レシラム
「!? ど、どういう事だ?」


レシラムは目を見開いて?を浮かべる。
私はクスリと笑い、優しくこう言ってあげた。


ルザミィ
「貴女は、ただ…そのふたりの側にいて、声をかけて、元気を与えてあげなさい」
「きっと、それだけでそのふたりは笑ってくれると思うから」

イベルタル
「…何故解る?」

ルザミィ
「女の勘よ」


実際にはある程度の材料から推測しただけなんだけどね。
まぁ勘には違いない。
当たっているかは本当に解らないから。


レシラム
「何も…するな、か」

ルザミィ
「むしろ何かしたら、それだけふたりに危険が及ぶわよ?」
「本当に守りたいなら、まずは人間らしく生活出来る様に勉強しなさい!」


レシラムはそれを聞いて、ほんの少し顔を明るくした。
そして拳を握り、目を瞑って何かを堪える様に震える。
やがてダラリと腕を下ろし、レシラムは私たちに背を向けた。


レシラム
「感謝はしない…だが、参考にはさせてもらう」

ルザミィ
「それで良いわ、くれぐれも力を無闇に使うんじゃないわよ?」
「貴女の力は強すぎて、余計な敵を呼び寄せてしまうから…」


レシラムは答える事なく歩いて行った。
辛いかもしれないけど、これは彼女が自分で選んだ道。
神と呼ばれた裁判官が、人と一緒に暮らす為の、試練なのでしょう。


イベルタル
「…良いのか? あの老夫婦は、恐らく後半年もしない内に死ぬぞ?」

ルザミィ
「!! そう…それは寿命で?」


イベルタルは無言で頷く。
私はそれを見て、何も言わなかった。
レシラムは、知っているのだろうか?
いや、多分知らないのだろう。
生命が見えるイベルタルだからこそ、死に対してもそれが計れるのだろうから。
でも、残酷ね…彼女は、その時笑っていられるのだろうか?
私は、また後悔した。
せめて、別の道を示してあげれば良かったのかもしれない。


ルザミィ
(ダメね、私…いつまで経ってもこうやって後悔してばっかり)


私も、結局まだ子供みたいな物なのかもしれない。
あの地獄のループ世界の中で、私は数えきれない程死んだ。
何度も後悔して、その度にやり直して。
気が付けば、今はそれに解き放たれてまた後悔している。
ひょっとしたら、私の生命はとても複雑な色でもしてるのかもしれない。
だからこそ、イベルタルは私に疑問を持っているのかもしれないわね…


ルザミィ
「………」

イベルタル
「行くのか?」


私は無言で歩き始める。
気が付けば、空は雪雲に覆われ吹雪始めていた。
また寒くなるのだろう。
私は汗がすぐに凍っていくのを感じて身震いする。
少し、その時レシラムが羨ましいと思った。
だって、彼女には…心さえも温かくしてくれる、素敵なふたりがいるのだろうから…











『突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語』

スピンオフストーリー 『Avenger The After』


第4話 『Never end regrets』


To be continued…

Yuki ( 2019/07/28(日) 17:31 )