『Avenger The After』
最終話 『有り得なかった世界線』

「はぁ…! はぁ…!!」

大護
「…よう、遅かったな旦那」


俺は若葉家の玄関前でタバコを吸っていた。
既に医者は来ており、今若葉さんは必至に戦っている。
その痛みは、おおよそ俺たち男が計れる痛みではなく、まさに命を産み出す代償の痛み。

ここからでも悲鳴に似た声は聞こえており、俺は改めて彼女がただの女なのだと確信した。
いくら神と呼ばれても、いくら全能と呼ばれても、いくら完璧と呼ばれても…
それでも、ああやって自らの子を産み出そうと痛みに耐えるあの人は、立派な母親だ。


討希
「…お前が、連絡してくれたのか?」

大護
「…さて、な」
「俺はたまたま通りがかっただけだ…」


俺はタバコを吸いながらそう嘘を吐く。
すると討希は、軽く顔をしかめながらもすぐに俺の横を通り過ぎて家に入る。
やや乱暴な位の勢いで、討希は玄関の扉を開けて奥さんの名前を叫んでいた。

俺はタバコを吸い切り、携帯灰皿に吸い殻を捨てて息を吐く…
もう、ここにいる必要は無ぇ…後は俺の仕事だ。


ピース
『…ダイゴ、良いんですか?』

大護
「俺がいて何になる…折角の出産だぞ?」
「俺みたいな疫病神がいたんじゃ…ふたりの幸せに水を差しちまう」


俺は、きっと今怖い顔をしていただろう。
正直、今程自分に怒りを覚えた事は無い。
一体、何故こんな事になってしまったのか?
俺が存在しなきゃ、あのふたりはもっと幸せを享受出来たのか?
これから世界には、審判が下されると言う…

そしてそれは、あの幸せになるはずの夫婦すら絶望に落としてしまう可能性があるのだ。
俺は、それだけは断じて許せないと思った。

王だか何だか知らねぇが、絶対者だか何だか知らねぇが…俺は絶対にそいつを許さない。
例えこの身が砕け散ろうとも、この世界を終わらせたりはしない。
何が審判の日だ…何が想定通りだ……!


大護
「…悪いなピース、約束は果たせねぇかもしれねぇ」

ピース
『良いですよ…ダイゴなら怒って当然ですから』
『旦那の事を、黙って支えるのが良く出来る妻なんですから♪』


俺は、ハッ…と笑う。
こいつはこいつで、不器用だな。
俺みたいな悪党はさっさと切り捨てて、他の男探しゃあ良いのに。


大護
「…最後まで、一蓮托生か」

ピース
『当然です、だって永遠を誓ったんですから♪』


誓ったのはお前だけだがな…とは口が裂けても言えない。
まぁ、ずっと一緒にいてやるとは言ったがな…死んだ後の事は保証しないってだけだ。


ピース
『! ダイゴ、葛さんから連絡です』

大護
「繋げ」


俺が歩きながらそう言うと、葛と繋がる。
すると、葛はややかったるそうな口調で開口一番こう言った。



『大護、ニュース見たか?』

大護
「いや見てねぇ…ちょっとゴタゴタでな」


『ほな、単刀直入に言うたるわ…ゲートが開いた』


俺は?を浮かべる。
ゲート…? 扉? 一体そりゃ何の……


ピース
『確認しましたよ! 北極上空に超巨大ゲート!!』
『大きい…! 今まで観測された中で規格外の大きさですよ!?』


俺はすぐに察する。
ゲート…確か、前にルザミィが調査してたって言う、ポケモンが現れると言われるゲートか!?



『今、近くの駐屯部隊が調査してるらしいが、そこからPKMが現れる様子は無いらしい』

大護
「確か、今年に入ってからすぐにゲートは確認されなくなったんだよな?」

ピース
『はい、ダイゴが羽黒元内閣を殺害してから、まるでそれに呼応したかの様に、ゲートの確認は減りました…』


『それに伴い、各国もゲートの調査は打ち切ってたんや…せやけど、こない急に規格外のゲートが開くとは』


つー事は何だ? そこから本当はポケモンが飛び出すはずだが、結局何も出て来ないってか?
そりゃ…ある意味解りやすそうなサインだな。



「こんな所にいた! ちょっと大護、大変なのよ!!」


突然空から降りて来たのはディアルガだ。
かなり慌てていた様で、Tシャツとスパッツだけの姿で現れやがった…
こいつ…また人の家でネトゲやってやがったな?


大護
「何だ? 課金は絶対に許さんぞ?」

ディアルガ
「次のクエストはマジに完走したいんだって!! もう報酬が魅力的で…」
「…って! 違うわよ!?」


何だ違うのか…てっきり金をせびりに来たんだと思ってたが。
どうやら俺は思い違いをしていたらしい…


ディアルガ
「アンタ、ゲートに関して何か知ってる!? 」
「神々のゲートが、いきなり開いたのよ!!」


それは、俺たちが1番聞きたい事の様だった。
成る程、神様の通り道って訳か…だが、誰も出て来ない。
それとも、下等生物にゃあ見えないのか?
どっちにしても、やっぱ行くしかねぇか…


大護
「葛、すぐに北極に行ける様に出来るか?」


『無茶言うな! 流石に今すぐは無理や!!』
『せめて2〜3日はかかるで…?』

ピース
『この騒ぎで各国はどこもゴタゴタですね…多分明日には空港がパンクしますよ?』
『少なくとも北極に行こうなんて飛行機は1機も無いと思います』


俺はチッ…と舌打ちする。
そもそも、日本から北極に行くにしてもかなり時間はかかるわな。
なら、人間以外の手を借りなきゃダメな訳だ。


大護
「おいディアルガ、お前俺を北極に連れて行けるか?」

ディアルガ
「すぐには無理よ…私の時間操作じゃ、そこまでの長距離移動は」


「なら、ボクが連れて行くよ…」


更に俺の背後から声。
やや低めのボーイッシュな声に俺たちが反応すると、そこには見覚えのある人物が立っていた。
服装は普通のカジュアルな冬服で、すっかり人間世界に馴染んでいるのだと思える服装だった。


ディアルガ
「パルキア!?」

パルキア
「…久し振り、って言う程久し振りでもないけど」

大護
「…お前もゲートに反応した口か?」


俺が言うと、パルキアちゃんはコクリと頷く。
そして、彼女もまた俺の所にやって来た…それはやはり、何者かが俺を探しているのだろうか?


パルキア
「あれは神々が潜る時のゲートだ…でも、誰も出て来ない」

ディアルガ
「そりゃそうでしょ! 十柱は全員地上にいるんだから!」

パルキア
「なら、誰がゲートを開いたの? 少なくとも、あの規模のゲートを開けるのは王か育美様しかいない」


ディアルガはうっ…と口ごもる。
俺はそれを聞いて考えた。
王か、アルセウスのみ…ね。
なら、誰かは明白だろうな…


大護
「その辺の論議は良い、パルキアちゃん…俺をすぐに連れて言ってくれ」
「呼ばれてるのは、多分俺だ」


俺が確信めいた口調で言うと、パルキアちゃんは驚く。
だが、元々そのつもりだったのか、彼女は真剣な顔でコクリと頷いた。


ディアルガ
「ちょっと! それならアタシも行くわよ!?」

大護
「ダメだ、お前は若葉さんを守れ」
「何があっても、あの人の子供を守りきれ」


ディアルガはそれを聞いて戸惑う。
俺の表情に何かを感じ取ってくれたのか、ディアルガは心配そうな顔をしながらも俯いてこう言う。


ディアルガ
「…3000円」

大護
「あん?」

ディアルガ
「次のイベント特効のアイテムセット…それ買ってくれるなら言う事聞いてあげる」

パルキア
「…ディアルガ、君はそこまで」


俺は吹き出して笑う。
パルキアちゃんは頭を抱えて呆れていた。
ディアルガは顔を真っ赤にして耐えていたが、とりあえずやる気にはなっている様だ。
まぁ、人生はギブアンドテイクだ…そりゃそれ位はしてやらねぇとな♪


大護
「解ったよ、買ってやるから頼んだぜ?」

ディアルガ
「ホント!? 何でも頼んでみるもんね!!」
「オッケー任せて!! このお姉さんにドンと任せなさ〜い!!」


そう言ってディアルガは自慢の巨乳をアピールして胸を叩く。
パルキアは更にげんなりして頭を抱えていた。
俺はカカカ…と笑って思わずディアルガの頭を撫でてやる。


大護
「…頼んだぜ、お前は家族を大切にしてやれ」

ディアルガ
「…大護?」

パルキア
「とにかく、すぐに行こう! もうあの開き方だと予断は許されないかもしれない!」


その瞬間、俺の見ていた風景は一瞬で北極のそれに変わる。
俺は瞬きする間もなく、とりあえず上空を見上げた。
空気の流れが明らかに違う…まさに異常気象だ。
まるで、俺を中心に空気が渦巻いているかの様な…そんな空気。


大護
「…流石は空間の神様だ、北極でも一瞬かよ」

パルキア
「うん…でも、どうして貴方がここに?」
「呼ばれてるって…どうして?」


俺は無言で空を見上げていた。
赤黒く光る巨大なゲートを見上げ、俺はとりあえずタバコに火を点ける。
そしてそれを吸い、パルキアちゃんに煙を当てない様に噴く。
すると、その煙は渦を巻いてゲートに吸い込まれていった…

まるで、速く来い…と、そんな風に最速するかの様に。


大護
「パルキアちゃん、ありがとな…後はディアルガと一緒に若葉さんを守ってやってくれ」

パルキア
「大護さん!? 貴方は一体何を知っているんですか!?」
「このゲートは、明らかに貴方を呼んでいる…この先にいるのは多分王だ!!」
「貴方はただの人間でしょう!? 何故、王がこんなゲートを開いてまで求める!?」


パルキアちゃんの慌て様は、まるで確信を得たかの様だった。
俺はそれを見て更に煙を噴く…これで俺も確信出来たな。
この先にいるのは、別世界の王…そして、今日が審判の日なんだ。

なら、俺に選択権は無ぇ…行くだけだ、終わらせに。


大護
「…どうやら、お迎えみたいだな」

パルキア
「大護さん!?」


俺は次第に体が宙に浮くのを感じる。
パルキアちゃんは思わず手を出そうとするが、見えない何かに遮られて近寄れなかった。
王様は俺にしか興味が無いらしい…随分一途なこった。


大護
「…さ〜て、一体どんな王様が俺を待ってるのかね〜?」

パルキア
「大護さーーーん!!」


パルキアちゃんの叫びもやがて小さくなり、俺は猛スピードでゲートに吸い込まれる。
その際に、俺の手から落ちた吸い殻だけが北極の宙に漂い、風に流されてそのままどこかへ消えてしまった……



………………………



大護
(何だここは…真っ白な、世界?)


一瞬気を失ったかの様な感覚の後、俺はやがて意識を覚醒させる。
しかし、そこはまるで夢の世界の様な、酷く曖昧な世界だった。
ただただ真っ白な光に包まれた世界で、何も見えない。
だが、何となく歩ける感覚はあった。
曖昧だが両足はちゃんと大地を踏みつけ、自分の意志で歩けるのだと認識する。


大護
(誰かが呼んでる…?)


俺はまるで何か訳の解らない者に導かれる感覚で無造作に歩く。
その際に、胸ポケからタバコを出して口に咥えた。
そして百均ライターを取り出して火を点け様とする。
…が、一向に火が点かない。
どうやら湿気ってるのか、壊れたのか?
ライターは何度やっても火が点く様子は無かった。

俺はふぅ…とため息を吐き、タバコを胸ポケに仕舞う。
そして、かなり遠くに何かを見付ける。
近付くに連れてそれは形を表し、俺は玉座がある…と認識した。


大護
(玉座…そこに、王様がいるのか?)


そうは思うが、そこには誰も座っていない。
いや、何かが玉座の上で浮いてる…あれは、何だ?
俺はどんどんそれに近付き、やがてその姿を確認して驚愕した。


大護
(バ…バカな!?)


『ようやく…辿り着いたねぇ』


俺は目を疑う。
曖昧な白い世界で、そいつは玉座の上で宙に浮いていた。
それも、半壊した頭部だけの姿で…


大護
(羽黒…芸、知巣!?)


そう、そいつは紛れもなく羽黒だった。
顔面が斜めに半壊しており、首から下は何も無い。
出血の類いも確認出来ず、傷痕(?)からはぼんやりと光を放って中身は見えなかった。

羽黒は何かを悟ったかの様な顔で安らかに俺を見ている。
その顔は、以前見た外道の顔ではなく、まるで全てを見通しているかの様な悟った顔だった。


羽黒
『…永かった、ここまで来るのに』
『136532回目の世界…ようやく、君はここへ辿り着いた』

大護
(ふざけてんのか!? 何でテメェがここにいる!?)


俺は声にならない声をあげる。
この世界ではそもそも認識の概念が違うのか、俺は本当に声を出しているのか解らない位だった。
だが、それでも羽黒にはちゃんと伝わっているのか、羽黒は嬉しそうに目を細めて口元を弛める。

その表情は本当に嬉しそうな顔で、半壊した頭部が怪しく微笑んでいる様にしか見えず、ただただ不気味に思えた。


羽黒
『…ここに自ら来たのなら、私がどういう存在かは理解出来ていると思うが?』

大護
(そういう事を聞いてるんじゃねぇ!! 何でテメェが『王』の玉座にいるかって聞いてんだ!!)


羽黒がいるのは、玉座…
装飾とかそういうのは良く解らないが、少し質素な風にも見える。
羽黒はそんな玉座の真上で頭部だけを浮遊させて笑っていたのだ…


羽黒
『やれやれ…一々説明するのは面倒だ』

大護
(何…をっ!?)


羽黒の眼が怪しく光ったかと思うと、突然俺の頭に何かが刷り込まれる。
まるで記憶を上書きされる…とでも言えば良いのだろうか?
次々と俺の記憶に何かの光景がフラッシュバックする。
それは、ほとんどが俺の死ぬ光景…

ある時は子供を助けて車に轢かれ、ある時は素性も知らぬ女を庇って銃弾に撃たれる。
そしてある時は、PKMに殺された…

そんな光景が何十…何百…何千…何万と繰り返され、ほんの僅かな時間で俺は十万を超える死の体験を刷り込まされた。
あまりの体験に脳が追い付かず、俺は吐き気を催す。

だが口を抑えるも吐き出せる物は無い。
ただただ気持ち悪かっただけだった…
そして、俺はここまでの細すぎる綱渡りというのを理解する事になった…


大護
(な、んだ…? この、光景は……?)

羽黒
『それが、君の辿った歴史だよ…』
『君は、ほんの一筋の可能性だけに存在する、小さな…小さな小石なんだ』
『だが、それは私にとっては…とても掛け替えの無い原石なんだよ』


羽黒は少し上を向き、感慨深そうに笑う。
逆に俺は意味不明な記憶を無理矢理刷り込まれ、気分が最悪のまま、羽黒を睨み付けていた。
あまりの気持ち悪さに涎が口元から垂れる…俺はそれを拭う事無く、ただ愛銃を羽黒に構えて威嚇する。
羽黒はそれを見もせずに、ただフフフ…と笑い続けていた。


羽黒
『私は…ただただ暇だった』

大護
(……?)


羽黒は淡々と語り始める。
俺は銃を構えながらも、その言葉を待ち続けていた。


羽黒
『王というのは、怠惰だ…』
『欲しい物は望めば手に入るし、世界すらも作り替えられる』
『この世界にも王はいたが、私はただの人間となってこの世界に潜んだのだよ…』
『それこそ、無力な人間を装って…ただ自分の欲望の為だけに!』

大護
(何…だと?)


それは、おおよそ俺には理解出来ない語りだった。
だが、羽黒は大真面目な目で俺を見る。
羽黒は世界の王…だが、この世界の王という訳では無い様だった。


羽黒
『何でも思い通りになる…だがそれはあくまで自分の世界でだけだ』
『この世界の王は、自分の欲求の為にもっと不毛な手段を選んだ様だが、まぁそれは良い』
『私は、あまりに代わり映えしない自分の世界に飽き飽きしていたのでね…』

大護
(それが、何で俺に関わる…!? お前は、何で殺戮を繰り返した!?)

羽黒
『殺戮…? 君たち人間にはそうかもしれないが、私にとってはただの遊戯だよ』


それは全く感情すらこもらない回答。
改めて俺は、こいつが同じ感性の世界にいないのだと理解する。


羽黒
『そう、遊戯だ…言ってしまえばお遊び』
『だが、私にとっては唯一無二の玩具なんだ…♪』


羽黒は恍惚とした笑みでそう語る。
もはやこいつに人間としての倫理を語る事自体が間違いなのだと俺は思う。
俺は迷わずに銃のトリガーを引くが、空撃ちするだけで弾は出ない。
俺は舌打ちするも、羽黒は笑った。


羽黒
『銃が通用すると本気で思っているのかね?』
『私がその気になれば、君はまた同じ人生を最初から行う事も出来るのだよ?』


俺はゾッとする…まさにそれが王の力。
人の力や文明が通用する世界じゃない。
俺の持っている銃はただのオモチャだ。
だが、それでも俺には譲れねぇ物が今はある!


大護
(テメェの考えはもうどうでも良い…)
(だが、この世界は終わらせねぇ…! 俺の命を賭けても、この世界は存続させる!!)

羽黒
『ふふ…そこまで深く考える事は無い』
『私が君を求めたのは、至ってシンプルな理由だよ…』
『君に、王の座を譲りたいのだ…』


俺は固まる。
こいつは一体何を言っているんだ?
俺には何一つ理解が出来なかった。
だが、羽黒は全てを見透かした様な顔でこう続ける。


羽黒
『この世界に、もう王はいない…私はそこに突け込んだに過ぎない』
『だが、君が望むのであれば、私は君を王に出来る』
『君が王になれば、全て思いのままだ…誰かを助ける事も、殺す事も』
『世界は君を中心に回り始める…気に入らなければ、全部壊して造り替えれば良い』
『どうだい? 魅力的な話だろう?』


俺は空笑いをしてしまう。
そして妙に頭が冷静になった。
そして俺は軽くこう疑問をぶつける。


大護
(何でそれを俺に渡す? そんなに魅力的なら、お前が独占すりゃ良いだろうが!!)

羽黒
『解らん奴だな…私は疲れたのだよ』
『だからこそ、ただの人間として人生を謳歌した』
『君たちにとってはただの外道だったかもしれないが、私は実に充実していたよ…』
『特に、君を見た時は1番心が震えたなぁ〜♪』


羽黒は目を細めて嬉しそうに俺を見る。
この時点で俺は何となく解った…こいつは、ただ暇潰しで俺の人生を弄んだんだ。
何でも出来る…そんな王の立場に飽きて、こいつは人里に身を落とした。

その中で、たまたま俺の家族が目に入っただけだ。
そこに恐らく大した理由は無い…言ってしまえば、子供が目に入ったオモチャに興味を持ったに過ぎないのだから。

ただ…こいつは執念深く、大人になってもそのオモチャの楽しさが忘れられなかっただけで…


羽黒
『新鮮だったよ…! 君だけは私を睨み付けた!』
『ゾクゾクしたねぇ〜! 人から明確に恨まれる感覚を覚えたのは始めてだったから!!』
『だからこそ、私はそれを熟成させて更に楽しみたかった…!』
『君は私の想像通りに成長し、想定通りに私を殺した!!』
『嬉しかったよ…この今の姿は、その時の思い出を忘れたくないから、この姿でいるんだ…♪』


狂ってやがる…正真正銘こいつはイカれてる!
何だそりゃ? 俺の家族はそれだけの理由で殺されたのか?
俺の大好きだった姉貴は、その為だけに犯されたのか!?

もはや頭の中はグチャグチャだ…自分でもどうしたら良いか解らない。
ただ、撃てない銃を構える俺は、酷く滑稽に映った事だろう…



『大護……』

大護
(!? あ、姉…貴!?)


突然、俺の横に現れたのは、紛れもなく俺の姉貴だった。
だが、首から下は黒いプロテクターで覆われ、俺はその姿を思い出して吐きそうになる。
まさか……!? あの時の刺客は……!?


羽黒
『どうだ? それは君の姉だよ?』
『もちろん、創ろうと思えばいくらでも創れる』
『世界をやり直す度にそれは死に、君の生存を観測し続けていてくれたよ…♪』

大護
(テメェ…!! 何でこんなクソみたいな事だけ考え付く!?)

羽黒
『必要だからだよ! 君が王になるなら、妃は必要だろう?』
『それはその為の人形さ…』


意味が解らない。
姉が妃? ふざけてるにも程があんだろうが!!


羽黒
『神の世界に置いて、近親相姦など当たり前だよ?』
『選ばれた者が生き残り、そうでない者は消えるだけなのだから…』
『君は、その姉が1番好きなのだろう?』
『なら、受け入れたまえ…1番好きな女性と交わえるのだから!』

姉貴
『大護…さぁ、受け入れて』

大護
(これ以上…俺にトラウマを植え付ける気かよ?)
(俺に…! 姉貴を撃てって言うのかぁぁぁっ!?)


俺は撃てないはずの銃を姉に向けて撃つ。
俺は血の涙を流していただろう…
それ位、やりたくなかった仕事だ。
だが、俺は撃たなきゃならなかった。
こんな…こんなクソみたいな理由で、あの幸せな夫婦を犠牲に出来るかぁ!!

ダァン!!と銃撃の音が耳に響き渡る。
俺の放った銃弾は姉貴の顔をした人形の脳天に突き刺さり、それは無造作に倒れる。


大護
(羽黒ぉ!! 俺は王になんざならない!!)
(テメェを必ず殺して、世界は存続させる!!)


俺はそのまま、血の涙を流しながら羽黒に銃を向けた。
羽黒はそれを見て、なお微笑む。
まるで、ここまでの展開が予想通りだと言わんばかりに…


羽黒
『ふふふ…やはり、君は最高だ』
『最後の最後まで、君は私の期待に答えてくれた』
『もう、思い残す事は無い…さぁ、撃ちたまえ』


羽黒は全てを悟った顔でそう言う。
俺は目を細めて羽黒の半壊した頭部に狙いを定める。
迷いは無い、痛みはあるが、狙いは外さない!
俺は視界を紅く染めながらも、無心でトリガーを引いた…
乾いた銃声が響き、俺は意識を微睡ませる。
世界は全てが白く消え、もう俺にも何が何だか解らなくなっていた。

やがて、俺はそのまま意識を失おうかという時、最後に羽黒の呟きを聞いた……


『もう、王はいらない……この世界は、君たちが好きにすると良い』



………………………



育美
「…あ」

討希
「頑張ったな…育美!」
「立派な、男の子だぞ!?」


それは…誕生した命。
赤ん坊は泣き叫び、愛おしき父と母に囲まれて生の産声をあげた。
母親となったその女は幸せそうに微笑み、何かを悟った様に微笑む。
それを見て、夫の男は誕生した息子を抱き抱えて複雑そうにしていた…


討希
「…しまったな、突然すぎて名前を考えていなかった」

育美
「大丈夫よ…私が、考えてあるから♪」
「この子の名前は………」



………………………



ディアルガ
「…ゲートは、消えたわね」

パルキア
「うん…でも、大護さんは」


私たちは、アルセウスの家の前でふたり空を見ていた。
澄み渡る快晴…その先にはもうゲートの存在は感じない。
終わったのだ…きっと。
だけど、大護の存在は…どこにも感じられなかった。
私たちはその意味を理解し、何となく俯いてしまう。


ディアルガ
「…きっと、その内顔を出すわよ」

パルキア
「そうかもね…いや、そうだと良いね」



………………………




「……ゲートが消えた? やったんか大護!?」

琉女
「…大護、さんが?」


俺たちは家でパソコンを見ながら情報を集める。
ゲートの消滅は何とか確認出来たものの、肝心の大護に関しては生死不明やった…


ピーチ
『ゲートの消滅は確認…ですが、ダイゴさんの反応は消滅…』


「アホッ! あいつが簡単に死ぬかいな!!」
「きっと今頃、どっかで美女とよろしくやっとるわ!!」


それは、あくまで希望的観測。
正直、ホンマはどうなってるか解らん。
せやけど、あいつか死んでるとは絶対に思いたくないんや!



………………………



蛭火
「…今日の晩御飯は何にします?」

細歩
『私、焼き鳥食べたい〜♪』

蛭火
「ふむふむ…なら、帰りにスーパーで買って帰りますかね!」
「暴君も、主人も待ってるでしょうし♪」


私たちは仕事帰りにそんな話をする。
そして、晩飯を心待ちにしているであろう家族の事を考えて、私たちは寄り道をして商店街に向かった…



………………………



カネ
「……っ」

セーラ
「やっぱり死んだ?」

カネ
「冗談でも止めて! 大護は…絶対に帰って来るわ」


私たちは家で大護の帰りを待つ…
私は大護に僅かに残していた鱗粉を通して状況は何となく理解していた。
途中から、鱗粉の反応は消失。
普通に考えたら、もう大護は…
恐らく、セーラもそれを予想して言っていたのだ。
だけど、私は信じたくなかった…

だって、初恋は実らないって言っても…死別なんて、嫌じゃない。



………………………



ティナ
(…大護、さん)

常葉
「どうしたティナ? 何かあったのか?」

ティナ
「う、ううん…ごめんなさい、何でもないの」
「さぁ、早く配達に行かないと! すぐに済ませてくるね♪」

常葉
「ああ、頼むよ♪」


私はすぐに受注した注文を見て商品を手に取る。
私の能力を使えば移動は簡単だ。
ゲートの存在は気になるけれど、もう反応は消えてしまった。
多分そこには大護さんがいたのだと思う…
でもその反応はもう……ううん、きっと大丈夫!


ティナ
(だって、あの人は綺麗な眼差しをしていたもの…)



………………………



天海
「…? 終わった、のか…」

夏川
「天海さん? どうかしました?」

天海
「いや、何でもない…! さぁ、今夜はどうする!?」
「そろそろ子作りでもしてみるか!?」

夏川
「え、ええっ!?」


私は半分冗談交じりに旦那を誘惑してみる。
ゲートが何やら開いていた様だが、もうその反応も無い。
きっと、誰かが問題は解決したのだろう…
なら、今はやるべき事をやらんとな!!



………………………



ターニャ
「………」

お婆さん
「ターニャ…どうかした?」

ターニャ
「いや、また吹雪くな…と、思ってな」

お爺さん
「はははっ、ここにはターニャがいるから、吹雪いてもどうという事は無いわい♪」


俺はそんな老夫婦のにこやかな笑顔を見て少し和む。
もう、この空気にも慣れて来たな…
だが、まだ問題は山積みだ…


ターニャ
(ゲートの反応は消えた…結局、何も無かったか)
(だが、こっちはこっちでやる事がある…)
(絶対に、奴の好きにはさせん…!)


こう言った吹雪の日には決まって奴が現れる!
俺は何としてでも、この夫婦を守ってみせる。
それこそが、この胸に掲げた誓いなのだから!!



………………………



ゼクロム
「あ〜! このイベント、結構難易度高いな〜」

信者
「神様! 今月のお布施が届きました!!」


悩める私の前に、信者の男が金を貢いでくれる。
これこそが私の資金源であり、力でもある!


ゼクロム
「よーっし!! これだけあれば十分だ! この金でイベントは完走だね!!」


私はそう言ってほくそ笑む。
やっぱりネトゲは金だよ! 金!!
いや〜働かなくても手に入る金って最高だなぁ〜♪
やっぱ僕が美少女なのがいけなかったんだね!



………………………



グラードン
「…反応が消えた、結局何だったんだ?」
「まぁ良いか…もう関係無いしな」
「…あった、新しい冠コレクション♪」
「この大地には…まだまだ新たな発見があるな!」


俺はそう言って大地に埋まっていたコーラの瓶を拾い上げる。
それにはまだ見た事も無い蓋が付いており、俺はそれを無理矢理外して蓋だけを懐に入れた。
この世界には未知の発見が盛り沢山だ…
まだまだ、楽しみは尽きそうにないな!



………………………



カイオーガ
(そう…何も無かったのね)
(この深海では、誰もが等しく光を失う)
(でも私には、この海底が1番落ち着く……)


私は眠りながら、光すら差さない深海で生命の動きを感じ取る。
ここなら、誰にも見付かる事は無い。
人間にも良い人はいるけれど、全てがそうじゃない。
私はまだ…全てを信じる事は出来ないから。

でも、いつかは琉女の様になりたいとも思う。
私にも…いつか、大切な人が……



………………………




「…よしっ、これでどう?」

少年
「ありがとうホリィさん! 大分楽になったよ♪」


私は覚えたばかりの治療法で男の子を治療する。
ホントは少し能力使って痛みを消してるけど、それは見なかった事に!!



「そう♪ でも無理はしないでね?」

少年
「うんっ、またね〜ホリィさ〜ん♪」


少年は私の能力に疑問も抱かず、笑顔で立ち去ってしまう。
やれやれ…もっとしっかりしないと、あの人をがっかりさせてしまうわね!



(ゲートは結局消えてしまった…何も、無かったのかしら?)


私は遠くに感じていた反応が消失したのを確認し、少し不安になる。
けれど、考えても仕方無いと思い今はひたすら勉強の毎日だった…



(イベルタル…貴女も元気よね? 私も、頑張るからっ)



………………………



ルザミィ
「どう? 生きてる?」

イベルタル
「ああ、問題無いな…元気な物だ」


それは、北極海の陸から離れた場所。
そこには防寒具に身を包んだふたりの女が流氷の上に立っていた。
女のひとりは優しく微笑み、凍り付く程寒い海に漂う、ひとりの男を見ていた。


ピース
『こらぁ!? 笑ってないで助けるんですよ!!』
『人の旦那がピンチなんですよ!?』

ルザミィ
「あらそうねぇ〜? ピースちゃんが諦めて私に彼をくれるなら無償で助けてあげても良いわよ?」

イベルタル
「…ちなみに、心臓停止まで後30秒だ、それまでに決めろ」

ピース
『ふざけんなですぅ!? 人がデータ化してるからって鬼ですかアンタ等はぁ!?』


北極の果てで、そんな怒号が響き渡る。
既にゲートは消滅し、全ての調査隊は去ってしまっていた。
つまり、ここに残されているのはひとりの漂流者とふたりの救助隊(?)だけ。
そんな漂流者を見て、ルザミィは嬉しすぎるのかこう呟く。


ルザミィ
「全くもう…本当に、心配ばっかり……かけるんだから」

イベルタル
「……泣いてるのか?」

ルザミィ
「目にゴミが入っただけよ…さぁ、早く引き上げましょう!」


ルザミィは目を擦ろうとするが、既に水分は凍っている。
イベルタルはそんなルザミィを見て、特に追求せずに漂流者を引き上げた。
そしてそんな漂流者の胸ポケットからけたたましい声が響き渡る。


ピース
『おお、勇者よ死んでしまうとは情けない! どうか神のご加護があらん事を〜!!』

イベルタル
「…破壊の神で良ければ、良い棺桶を紹介するぞ?」

ピース
「もはやアイテムボックスにしかならない!!」

ルザミィ
「こらこら…遊ばないの! ほら、すぐに蘇生させるわよ?」


ルザミィはそう言って、漂流者の唇に躊躇いなく自分の唇を合わせる。
そしてそのまま慣れた手付きで心臓マッサージを施し、漂流者を蘇生させた…

男は目を覚まし、見慣れた顔を見て微笑む。
けたたましい声を耳に受けながら、彼は顔を青くしながらもルザミィたちにこう言った…


大護
「……また、死にそこなっちまったか」



………………………



紫音
「…あ?」

海南
「紫音ちゃん?」


私たちは下校中にふと立ち止まる。
そして私は何となく思った…


紫音
「オジさんが…帰って来る♪」

海南
「オジさんって、いつも紫音ちゃんが話してる?」

紫音
「うんっ! 私の、最っ高のヒーローなんだよ♪」










それは、誰も知らない世界線…

もしかしたら、あったかもしれない世界線…

そして決して、有り得ない世界の選択…

これは、誰も気付かなかった……世界の選択に迫った歴史改変…

この限りなく細い糸の世界で生きる人間たちは、果たして幸せなのか?

神が見捨てた世界で、人は何を目指すのか?

その先の選択は……その世界に生きる者にしか、選ぶ資格は無い…

どうか…その世界で生きる者たちに、恒久の幸あれ………










『突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語』

スピンオフストーリー 『Avenger The After』


最終話 『有り得なかった世界線』


…The end
BACK | INDEX | NEXT

Yuki ( 2020/01/12(日) 01:40 )