『Avenger The After』
第19話 『審判の日とは?』
大護
「………」


俺は夜に目を覚ます。
今はベッドの上で、自室にひとりだ。
時刻は午前2時、丑三つ時だな…
もっとも、俺は幽霊なんてオカルトは信じちゃいないが…


大護
「…PKMだか何だかがいるんだ、そういうのも出てくんのかもな」


俺は言ってておかしくなる。
今の世の中は、ある意味何でも有りだ…
ポケモンにもゴーストタイプってのがいるし、あの常葉さんがそうらしいからな…
なまじ見た目が人間みたくなっちまってるから、パッと見で判断するのは限界がある。

蛭火や細歩は見た目からアレだが…まぁ、そんなのは人の個性だ。
人間だって色々いんだからな…


ガシャァァンッ!!


大護
「……」


突然俺の部屋の窓ガラスが割れる。
俺は既に体を翻してベッドから離れていた。
が…まだ目が慣れてない所で、俺はベッドの上に転がった物を理解して舌打ちする。


大護
「閃光弾(スタングレネード)!?」


俺は咄嗟に両耳を手で塞ぎ、息を止めて目を瞑る。
次の瞬間、そいつは炸裂して激しい閃光と爆音を放った。
危なかったぜ…マトモに食らってたら流石の俺でも動きが止められてるからな。

俺は光が収まった頃を見計らい、すぐに近くの銃を取る。
俺は今半袖のTシャツにパンツ一丁のほぼ丸腰だ。
このまま突入されても問題は無ぇが、流石に武装されてると面倒すぎる。


大護
(耳も大丈夫だ…音はちゃんと聞こえる)


俺は外の気配を耳で探った。
愛銃を手にし、窓の外に向ける。
そして空気の流れでタイミングを読み、俺は容赦無く銃を発砲した。

ブシュッ!とサイレンサー越しに弾は飛び、窓の割れた所を一直線に飛ぶ。
その瞬間、何者かが窓を破って侵入して来た。
もっとも…そいつは銃弾をモロに受けてるから、普通なら重症でもおかしくないが。


大護
(全身プロテクター…まさか、想定してやがったのか?)


俺は舌打ちし、その場からバックステップする。
次の瞬間、相手は着地の体勢からこちらに回し蹴りを打って来た。
それは空振りに終わり、俺は壁を背にする。
ガシャン!と、同時に机の上の物が飛び散った。
今の動きからすると、明らかに訓練されてる奴だな。
だが、ひとりか? まぁ、スタングレネード使って制圧する気だったなら、少人数でも問題は無ぇだろうが。



「……!」

大護
「ふんっ」


俺は今度は踏み込んでやる。
相手はまた素早い蹴りを放つも、俺は前に出てガードした。
体重が軽い…? まさか女か?
俺は若干の違和感を感じつつも、すぐにそいつの足を掴んで捻ろうとする。
相手はそれを嫌がってすぐに横回転し、体を翻して側転しながら高速でベッドの上へと逃げた。
随分身軽だが、チト無警戒過ぎだな。

俺は相手が動く前に銃を構えており、すぐ発砲する。
銃弾はプロテクターの隙間を的確に狙い、そこにめり込む……はずが。



「!!」

大護
(弾きやがった…! 弾道を予測してたのか!?)


相手は完全に読んでいた…という動きで体を僅かにズラし、銃弾をプロテクターで弾いたのだ。
少なくとも、あのタイミングでそんな事が出来る奴はそういない。
ましてや相手が女だとしたら、世界でまだふたりしか俺は知らない。
そして、ここで俺は思い出す。


大護
(ルザミィは、俺を殺す様に依頼されていた…)


ルザミィは断ったと言っていたし、それは間違いないだろう。
金さえ積まれりゃ話は別だったかも知れねぇが、今回は少なくともリスクに合わないと判断した結果だ。


大護
(かと言って、リーリエでも無い)


体格がそもそも違う。
リーリエはルザミィに比べたら小柄だからな…こいつはどっちかって言うと高身長な方だ。
170近くはある…が、ルザミィよりかは少し小さい。
全身真っ黒のスーツとプロテクターに身を包み、その上であんな動きを見せる女…か。
相手の頭部は真っ黒なヘルメットで覆われており、バイザーも完全に真っ黒。
表情ひとつこちらからは見えず、何を考えているのかも解らなかった。

そんな相手が、ようやく口を開く…



『やはり、想定通りだな』

大護
(ボイスチェンジャー? あからさまだが、正体を明かしたくないって事か?)


『勘の良いお前なら、そろそろ気付くか…』

大護
「…家族に何をしやがった?」


『何、邪魔をしない様に眠ってもらっている』
『用があるのは、お前だけだからな』


酷く無感情な声だ。
そいつはそのままベッドの上で立ち上がり、俺を見下ろす。
俺は銃を構えたまま威嚇するが、そいつは全く動じていない。
相手は武装している様には見えるが、武器は一切使わなかった。
まるで、こっちを試しているかの様な動きだったが…


大護
(ここまで誰も起きて来ねぇのは、流石におかしいんだがな…?)


どうやら何かはしているらしい。
相手の口振りからは、そんなに危機的な感じはしないが…
俺に用とは、一体何の話だ?
とてもじゃねぇが、依頼の話とは思えねぇしな。



『…石蕗 大護、神々の王がお前に会いたがっている』

大護
「!? 王…だと?」


俺は目を見開いて絶句する。
神々の王…それはまさか、若葉さんやディアルガたちを従えていた王の事か?
何故そんな奴がこの女を差し向ける?
会いたいなら、全知全能と言われる神様の力を使って呼び出しゃ良いだろうに…



『…これで、136572回目のリトライだ』

大護
「…は?」


『お前は、どんな手を使ったとしても136571回、既に死んでいる』


俺は訳が解らなくなった。
死んでいる? 俺が? 何を言ってやがるこいつは?
じゃあ今の俺は何だ? ニセモンか? クローンか?
あの悪名高い、某アメコミヒーローのクローンサーガとかそういうオチか?
なら、最終的には本物と偽物で戦ってどっちが本物か決めようって風に展開すんのか?

馬鹿馬鹿しい…んなアホな事あるわけねぇだろ。



『未だ、1度としてお前は王の元に辿り着けていない』
『その前に必ず死ぬ…いつか、どこかで』
『この世界線は…その中でも最も未来の世界線』
『136572回目の世界…お前はようやくこの日まで辿り着いた』

大護
「お前は何者だ!? 一体何を企んでいる!?」


『いずれ解る…お前が王に会えれば』
『そして、本当に想定通りなら、お前は今度こそ王に会える』
『ようやくここまで来た…審判の日まで』

大護
「…審、判?」


『石蕗 大護…これが恐らく最後だ』
『全てを捨てるか、全てと共に無へと消えるか…お前が選べ』
『王は待っている…審判の日に』
『恐らく全てはクリアした…もうこれで、私の存在も必要は無い』

大護
「!? ま……」


そいつは次の瞬間、爆発した。
爆発したと言っても、それはプロテクターの内部で肉体だけがグチャグチャになったという具合…
今頃相手の体は、一般人なら卒倒する位おぞましい肉塊になっているだろう。
俺はベッドの上にガシャン!と、倒れるそれを見て目を細める。
これじゃ…身元すら解らねぇだろうな。
ベッドの上に落ちたプロテクターの肉体は、もう人間の原型を留めていない。

俺は銃を下ろして首を振る…一体、王ってのは何を考えてやがる?
何でこんな刺客を差し向けた? 役目が終わったら自爆だと?
それも俺を殺す為じゃなく、身元をバラさない為の自爆。
爆発音すら最小限にし、まるで俺の目の前で死ぬ事が決定事項みたいな感じだった。


大護
「審判の…日だと?」


奴はそんな事を言っていたが、全く意味が解らない。
何か重要な日だとは思えるが、一体何なんだ?

…そんな事をひとりで考え続けるも、何の回答も得られずに俺は棒立ちしてため息を吐く。
結局、こんな騒ぎが起きたというのに誰も目は覚まさず、全員が眠ったままの様だった。
俺は夜の内に、ひとり肉塊となった謎の女の遺体を人知れず処分し、それから重たい頭のまま朝を迎える…



………………………




「…審判の日、ねぇ?」

大護
「結局何もかも解らねぇ…あの襲撃自体、ニュースにすらならなかったからな」


俺は昼に葛と会っていた。
葛は昼休みの途中で、今はレストランで飯を食いながら話している。
俺は無難に美味かったパスタを平らげ、今は食後のコーヒーを飲みながら葛と話していた。



「何かおかしいな…警察すら動き無いで?」

大護
「…家の連中所か、隣の住民ですら眠っていたらしい」
「邪魔をしない様に眠ってもらっている…とか言ってたが、言葉通りの意味だったって訳だ」


あれから、本当に何の騒ぎもなく朝を迎えた。
精々俺の部屋がメチャクチャになってたのに家族からツッコマれた位で、近隣住民からは何の苦情も無し。
それ所か、そんな事あったの?とか言われる始末だった。

まるで…街全てが眠っていたかの様な。



「…警察の記録洗ってみたが、何もあらへんわ」
「夢やったってオチやないんよな?」

大護
「だったら俺の部屋に招待してやろうか? 血痕がべっとり残ったベッドで寝かせてやる」


葛はそれを聞いて嫌そうな顔をする。
ったく、夢ならいっそ覚めてほしいもんだ…
死体はひっそりと処理したとはいえ、何でこんな訳の解らない真似を?
それも徹底的に情報をシャットアウトするとか、どうやってコントロールしてんだ?



「とにかく、こっちでも審判の日っていうんを調べてみるわ」

大護
「ああ、何か解ったらすぐに連絡をくれ…どんな些細な事でも良い」


俺はそう言って立ち上がる。
ここじゃタバコも吸えねぇからな。
俺は自分の分の伝票を持ってレジに向かい、そのまま店を出た。



………………………



大護
「………」

紫音
「ち〜っす♪ オジ……って臭ぁ!?」


突然いつものコンビニで現れた紫音ちゃん。
すると、あまりの異臭に怯んだのか、紫音ちゃんは鼻を抑えて後ずさってしまった。
俺はタバコを吸いながらクンクンと袖の臭いを嗅ぐ。
しかし、俺には何の臭さも感じなかった。
ちゃんと着替えたし、風呂にも入ったんだがな?


紫音
「どうしたの〜? 何か血の臭いが凄いけど…?」

大護
「マジか…? これでも体はしっかり洗ってんだがな〜」

紫音
「体って言うより、その鞄とかから臭うよ〜?」


紫音ちゃんは、俺が肩から袈裟がけでかけてるショルダーバッグを指差してそう言う。
成る程、そりゃ盲点だ…部屋に置いてあったこいつに染み付いてたとはな。
とはいえ、消臭剤を粗方撒いてたのに、それでも解るモンなのか?
だとしたら、相当な嗅覚だな…流石はポケモン娘か。


紫音
「もしかして、また何かあったの? まさかまた拐われそうになったりしたの?」


紫音ちゃんは心底心配そうな顔をして耳を垂らす。
俺はそんな紫音ちゃんの項垂れる頭にそっと手を置き、優しく撫でてやった。
すると紫音ちゃんは涙目になりながらも、上目使いで俺を見る。
くそ…可愛いじゃねぇか!


大護
「まぁ、心配すんな…何があっても俺は死なねぇよ」

紫音
「うん…」


俺は言ってて馬鹿らしくはなる。
こんな仕事やってて、死なない…ね。


『お前は、どんな手を使ったとしても、136571回死んでいる』


大護
(意味が解らねぇ…何の事なんだ? 何でそんな具体的な回数を数えてやがる?)


そして、王とは何だ?
例の神々の王って奴なのか?
だとしたら、手っ取り早く聞く相手がいるにはいるが…


紫音
「オジさん?」

大護
「…大丈夫だ、心配すんな」


俺は笑ってやる。
すると、紫音ちゃんも笑ってくれた。
事情は知られているとはいえ、紫音ちゃんはあくまで一般人だ。
面倒事に巻き込むわけにはいかねぇ…


大護
「紫音ちゃん、これだけは約束してくれ…例え俺の身に何があっても、危険な事には首を突っ込まないと」

紫音
「…!! それって、何かあるって事?」

大護
「ああ、だが今度は必ず戻って来る」
「絶対に約束は守る…だから、頼む」


俺は紫音ちゃんを優しく撫でてそう頼む。
すると紫音ちゃんはコクリと頷き、今度はしっかりした顔で俺を見た。
その眼差しはちゃんと信じる者の目で、紫音ちゃんが俺の事を信頼してくれているのがよく解る。


紫音
「うんっ! オジさんがそう言うなら、私は信じる!」
「だから、絶対に約束守ってね♪」


紫音ちゃんの眩しい笑顔を見て、俺は軽く笑ってタバコを吸う。
そして腕時計で時間を確認し、俺はタバコを吸い切って灰皿に吸い殻を捨てた。
そして軽く背伸びをし、首を鳴らす。


大護
「さ〜て、そろそろ動くか」

紫音
「頑張ってね、オジさん♪」


俺は、ああ…と笑って手を振り、その場を後にする。
そして、俺はひとり歩いて目的地へと向かった。
場所は葛から聞いている…とりあえず今は情報が必要だからな。



………………………



ピース
『ダイゴ…本当に信用出来るんですか?』

大護
「それを確認する為に会いに行くんだ」
「少なくとも、納得出来る話は聞けると思ってる」


俺はあまり人も歩いていない、やや閑散とした住宅街を歩いている。
イヤホンからはピースの声が聞こえており、俺は歩きながらピースと会話をしていた。
例によってピースはスマホの中だな…


ピース
『次の十字路を右に、そこから約50m直進で、左側の建物に目的の住居と思われる場所に着きますよ』

大護
「ああ…」


俺はそれを聞いてその通りに進む。
時刻はまだ15時前…ただの『主婦』なら多分家にいるだろ。
もっとも、そんなカテゴリは何のアテにもなりゃしねぇんだが。



………………………



大護
「…ここか」


俺はそこまで大きくは無い、一戸建ての住居を目の前にして立ち止まった。
表札には何も書かれてはおらず、残念ながら誰の家かは確認出来ない。
まぁ、最近は防犯の一環で出してない家庭も多いからな。


大護
「ピース」

ピース
『生体スキャン開始……ひとりがヒット』
『99.9%、あの自称主婦と同一と判断しますよ』


俺はそれを聞いて軽く笑う。
ピースはスマホの中からでも、こういった仕事が出来る。
流石に有効射程は落ちるそうだが、それでも周囲100m程度の距離は生体スキャンが可能らしい。
そしてその精度は抜群…少なくとも人間であるならほぼ確実に個人を特定出来る優れモンだ。
まぁ、間違いなく犯罪行為なんだがな…今更って話でもあるが。


大護
(悪党に、ん〜なルールがあるかっての)


俺はそう思いながらとりあえずインターホンを鳴らす。
すると、実にありきたりな音が鳴り響き、俺は少しの間立ち尽くしていた。


大護
「………」

ピース
『動きませんね…』


ピースの反応からだと、動きが無いらしい。
寝てるのか? だとしたら相当な寝坊助さんだが。
俺は少し間を置き、もう1度インターホンに指を当てる。
そしてそのまま押そうとすると……



「わざわざ何の用でしょうか?」

大護
「!?」

ピース
『一瞬で背後に!?』


突然背後から声をかけられる。
俺はその場で固まり、軽く冷や汗が出るのを理解した。
何の気配もさせずに接近されただと?
そもそも、何でそこにいる?
俺は様々な思考を一瞬で巡らせるが、その人物の正体を思い出した時点で全てが無意味だと悟った。

そして俺は深いため息を吐き、頭を掻いてゆっくり向き直る。
すると、そこにはニコニコした顔で現代をエンジョイしてそうな、ただの『主婦』が立っていた。


育美
「ふふ…随分怖い顔をしてましたが、驚かせてしまいましたか?」

大護
「…心臓には悪かったな、下手すりゃ反応して撃ち殺してた所だ」


俺は冗談交じりにそう返す。
そう、そこにいたのは若葉 育美と呼ばれる『アルセウス』…
ディアルガの産みの親でもあり、かつて神と呼ばれた十柱を率いていたポケモン。
今は人里に降り、ただの女としてここに住んでいる様だが…


育美
「ふふ…その割には冷静に判断していたみたいですけど」

大護
「相手が相手だ、反応出来たとしても結果は知れてる」
「俺はあくまで人間相手が専門だ…それ以外の相手は基本的に想定してねぇ」

育美
「成る程、それで今日は何の用で?」

大護
「…ワザと言ってるのか?」


俺は少し顔をしかめてそう言うと、若葉さんはクスクス笑う。
そしてそのまま俺の横を通り過ぎ、玄関まで歩いて行った。
鍵はかけていなかったらしく、そのまま玄関のドアを開けて若葉さんは俺たちを見て笑う。


育美
「どうかしましたか? 話があるのでしょう?」

大護
「…やれやれ」


俺はそのまま家にお邪魔する事にした。
まぁ、立ち話ってのも何だからな。
本当に底が知れねぇ神様だ…予想通り、全部予知でもしてたのかね?



………………………



大護
「…案外、フツーの家だな」

ピース
『特に妙な物は数点しか有りませんね…広さ的にも4〜5人暮らし用の一般家庭と思われます』


まぁ、見たままってこったな…妙な物が数点ってのは納得だ。
所々にコメントし辛いオブジェが置いてある。
あれは彼女のセンスか? それとも旦那の趣味か?
セーラとかなら、いかにも興味を示しそうな形だが、何でそんなモンを飾ってるのか…?


育美
「お茶をどうぞ…熱いのでも良かったですか?」

大護
「ああ…お構い無く」


俺は湯気の立つ湯呑みを目の前のこたつに置かれ、若葉さんはそのまま俺の向かい側に座った。
俺たちは今、普通のこたつを挟んで互いに茶を飲んでいる。
端から見たら異様な光景に映るかもしれねぇな…


育美
「…それでお話は?」

大護
「…審判の日ってのを、知ってるか?」

育美
「………」


若葉さんは少しだけ笑顔を崩す。
しかし、それはほんの一瞬でしかなく、すぐにまた微笑みの顔に戻っていた。
とりあえず反応はしたな…なら、確実に何か知ってるってこった。


大護
「俺には意味が解らねぇが、その日に俺は王に会うと言われた…」

育美
「…王、ですか」


彼女は表情を変えずに、両手で湯呑みを持って茶を飲む。
俺は少し間を置き、更に言葉を続けた。


大護
「王っての、何か知ってるのか?」

育美
「…さて、詳しくは」
「そもそも、私が知っているであろう王は、もうこの世界には存在しないので…」


俺はそれを聞いて考える。
ディアルガたちも王はもういないと言っていたが…まさか、存在その物がもう消失しているのか?
若葉さんは冷静に答えるが、その意味は大きい。

なら、俺に会いたがっている王ってのは何だ?
一体、誰が俺を待っている?


育美
「…申し訳ありませんが、私ですらその先は見えません」

大護
「…!!」

育美
「正直に言えば、見えなくされてるとも言えますね」
「我々の王が、この世界から消えた時点で神の座は崩れましたし…」


若葉さんは、やや悲しそうに俯いて語り始める。
そしてそれは…今まで知る事の無かった、神の世界の真実だった。


育美
「…私は、ある計画を立てていました」
「全ては、この幸せな生活の為であり、自由の為」
「ですが、その計画は唐突に無意味な結果に終わりました…」

大護
「…無意味?」

育美
「王は、自ら世界を去ったのです」


世界を去った…要するに、この世界から消えた。
それは世界にとって、どんな意味を持つのだろうか?
そもそも、俺たち人間にとって神なんて物は、あってない物だと思っている。
信じる奴は信じる、そうじゃない奴は信じない。

それだけの事で、特に何があるわけでもない。
何のトラブルも無く一生を終える奴でも、一々神様のお陰とか考えるだろうか?
まぁ、人はそれぞれだが…少なくとも俺には無意味な存在でしかない。

神が何をしてくれる?
神が人の人生を決めるのか?
なら、俺の家族は神が殺したのか?
俺がこんな風になったのは、全部神の創ったシナリオか?

馬鹿馬鹿しい…俺は少なくとも神とか信じちゃいない。
確かにいるのかもしれねぇが、そんな物は俺には関係無いはずだ。


育美
「…理由は、今を持って不明」
「恐らく、世界を去る際に何かを施したと思われますが…」
「結果は、今のこの世界だけ…」

大護
「…あんたは、それで満足してるのか?」

育美
「…どう、見えますか?」


俺は、少し不安そうに自らの腹を擦る彼女を見て、お茶を啜る。
そして軽く息を吐き、俺はあっさりとこう言った。


大護
「結局、過程なんてどうでも良かった…」
「今が幸せなら、それで良いんじゃねぇのか?」

育美
「…そうですね」
「ですが、それももうすぐ終わる」

大護
「……?」


若葉さんは何かを悟った様に目を瞑る。
俺は?を浮かべ、少し黙った。
すると、若葉さんは少し間を置いてから言葉を続ける。
その言葉は、あまりにも衝撃的な内容だった…


育美
「審判の日…その日を境に、この世界は崩壊します」

大護
「何……だ、と!?」


それは、唐突な終演の予告。
今までの生活は何だったのか?と思いたくなる位、突然の発言だった。
若葉さんは悲しそうな顔をしながら、子供がいるであろう腹を優しく擦る。
果たして、今彼女はどんな想いを抱いているのか?
俺には、それはとても計り知れない物に思えた。


育美
「…王がいなくなったこの世界は、いわば捨てられた家」
「その後、誰も住まないと判断された家は、現実だとどうなります?」

大護
「…取り壊し、って事か? この世界には、腐る程人間がいるってのに!?」

育美
「では、その家に勝手に住み着いていた害虫などはどうなります?」


俺は言われて怒りを覚える。
害虫はそのまま駆除か、家ごと廃棄…
つまり、俺たち人間は…ただの害虫ってか?
世界を創れる神にとっては、そこに住む人間は虫以下の存在…


育美
「…あくまで例えですが、恐らく審判の日とは、この世界の未来を決める日」
「そして、今のままでは…恐らく世界の廃棄が決定される」

大護
「あんたならどうにか出来ねぇのか!? 仮にも神様のリーダーだろう!?」

育美
「無理ですよ…私とて、王にとっては虫以下の力を持った存在でしかないのですから」


それは絶望の予告…
何でいきなりこんな話になる?
一体、誰が俺と会いたがってるんだ?
この世界の王は消えた…なら、俺を待っている王とは何だ!?

若葉さんはあえてこの世界を家と例えたが…なら、王ってのは家主だ。
そして、この世界…家は空き家で、もう廃棄が決定している。
なら、別の王がその家を壊そうって事か!?


大護
「…別の、王?」

育美
「恐らくは…何者かは解りませんが、この世界に干渉しようとしている、別の世界の王がいるのでしょう」
「そして、それは元いたこの世界の王と同等か…」
「とにかく、近い内に審判は下される…この世界が必要か、どうか」

大護
「待て…そんな王が何で俺を指名する?」
「俺は、王に会う為に10万回以上死んだとか言われたぞ!?」
「どういう意味だ!? 俺は一体何なんだ!?」


俺は勝手に怒鳴り散らして錯乱する。
すぐに冷静になるも、もう頭の中はメチャクチャだ。
この世界が終わる? 審判の日? その日に俺は王に会う?
全く理解が出来ねぇ…何でそんな事になったんだ!?


育美
「…そう、ですか」
「もう、そんなにも繰り返していたのですね…」
「私ですら気付かない内に…」

大護
「!? 何か、知ってるのか?」


若葉さんは極めて冷静に茶を啜る。
そして…特に感情も込めず、彼女は静かにこう言った。


育美
「貴方は、どことも知れぬ王に選ばれた」
「そして、その王はその為に何度もやり直した」
「ですから、後は貴方次第なのでしょう…」

大護
「俺次第だと…? 王に選ばれた? 何度も、やり直した?」


考えても意味は解らない。
だが、神様ですら虫扱いの王様が何かやってるってんだ…
そんなの相手に、俺が?


育美
「多分…後は、あな……た、が…っ!?」

大護
「!? 若葉さん、どうした!?」


突然、若葉さんはその場で横に倒れ込む。
そして顔から汗を大量にかき、腹を抱えて唸っていた。
俺はすぐに理解する…これは陣痛だ!
腹のデカさと妊娠期間から考えて、恐らく出産が近いんだ!


大護
「ピース! すぐに産婦人科に連絡だ、住所伝えて来てもらえ!!」

ピース
『了解です! すぐにコールしますよ!!』


ピースは手際良く連絡を入れ、手配を済ます。
俺はその間に出来る限りの対応をし、若葉さんを助けようとした。
まさかこんな唐突なタイミングで来るたぁな…!

唐突に告げられた世界の終わり…
そして、そんな中でも産声をあげようと努力する子供がいる。
俺は戦う若葉さんの姿を見て、素直に助けたいと思った…

この世界を終わらせる訳にはいかない。
まだ、俺たちは終わってはいない!
だから、抗おう……そう、思った。










『突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語』

スピンオフストーリー 『Avenger The After』


第19話 『審判の日とは?』


To be continued…

Yuki ( 2020/01/06(月) 10:50 )