『Avenger The After』
第17話 『依頼達成』
大護
「…これで、完了か」


「せやな…まさかキッチリ全員に会えるとはな〜」


俺たちはいつもの深夜、いつもの寺でタバコを吸いながら会合している。
今日はお互いの完成したレポートの交換で、俺と葛は共にスマホを出しあってデータを相互交換していた。


ピース
『はい、終わり〜さっさと帰って愛してね♪』

ピーチ
『相変わらずバグ塗れですね、ヘドが出ます』

ピース
『これはバグではない! 仕様だ!!』
『って言うか、貴女も大概口悪いですよね!? それってつまり根本からそういうプログラムじゃないんですか!?』

ピーチ
『それはマスターでもある、佐藤さんが証言しています』
『曰く…費用ケチって安い言語プログラム入れたからかなぁ?だそうです』


ふたりはそう言ってスマホの中で互いに話し合う。
端から見たら、互いのスマホから音声だけが出ている状況だ。
今回は久し振りにピースもスマホに意識を移してるからな。


大護
「…佐藤ねぇ、えらく普通の名字だな」


「佐藤 花子…ピースちゃん及び、ピーチちゃんを造ったメタングのPKMやそうやが」
「詳細はそれ以上不明や…バックアップでしかないピーチちゃんには、その辺の細かい記録はされてないらしい」

ピース
『……佐藤?』

ピーチ
『そうです、佐藤 花子ですよ?』

ピース
『………』


ん? 何か急に黙ったな?
何かあったのか? それとも、エラーか何かか?


ピーチ
『…まさか、記録から消えているのですか?』


ピースは答えない。
それは肯定の様にも感じたが、だとしたらおかしい。



「待ちぃや、ピーチちゃんはバックアップやろ?」
「せやったら、ピーチちゃんの記録がピースちゃんにも無いとおかしないか?」

ピーチ
『そのはずです…ですので、何かしらのバグで消失したのか』

ピース
『…記録はありますよ、大丈夫です』

大護
「…だそうだが?」

ピーチ
『…分かりました、でしたらそれ以上は何も言いません』


「……?」


とりあえず、この話はこれで終わった。
何か腑に落ちない部分もあったが、とにかくそれ以上は話も続かない。
やれやれ…深刻な問題じゃ無きゃ良いんだがな。



「…まぁええわ、とにかくこれで十柱のデータは揃うた」
「後は俺から依頼主に渡しとくわ…」

大護
「待てよ、それなら俺にも会わせろ…殺しじゃないとはいえ、本来なら依頼主には直接会うのが基本原則だ」


「…まぁ、そう言うとは思っとった」
「ええで…どの道もうすぐ会えるし、このまま待てや」
「今回は、客もおるしな」

大護
「あん? それはどういう…」


俺はタバコの灰を携帯灰皿に捨て、訝しげな顔で葛を見る。
葛はふ〜と煙を噴き、綺麗な夜空を見上げた。
今日は満月…もうすぐ本格的な夏日になるな。
俺はそれを見て言葉を切る。
まぁ、親友さんの言うこった…信じて待とうじゃねぇか。

そして、俺がため息を吐いてタバコを灰皿に捨てると、足音が聞こえた。
その音は、何度か聞いた事がある…そして俺はその人を知っている。
やがて闇から月の光に晒され、その人は俺たちの側まで歩いて来た。



「…ご苦労さんです、若葉はん」

大護
「はぁ? そりゃ名字か? しかも若葉って確か…」

ピース
『…依頼主の名字ですね、つまりはそういう事ですよ』
『わざわざ偽名使って会ってたなんて、どういうつもりなんですかね〜?』


「ふふふ…それは素直に謝ります」
「ですが、出来れば依頼が終わるまでは隠しておきたかったのです」


そう、現れたのは造さんだ。
だが、葛はこの人を若葉と呼び、ピースは依頼主と断言した。
ひとり?を浮かべている俺に造さんは微笑み、ペコリと頭を下げる。



「…初めまして、依頼主の『若葉 育美』です」
「この神社の管理人で、ひとりの主婦…」
「ですが、その正体は……」


「アルセウス…本当にここにいたのね?」


突然、空に穴を空けて降りて来る女がふたり
それはディアルガとパルキアだった。
ふたりはそれぞれ複雑そうな顔をしており、アルセウスと思われる造さんを見ている。

そんなふたりを前にし、若葉 育美と名乗ったアルセウスは顔を上げて、ふたりにも微笑んだ。


育美
「久し振りですね…ふたり共」

ディアルガ
「…そうね、アンタが真っ先に堕ちたんだもんね?」

パルキア
「ディアルガ! ケンカはしないって約束したろ?」


ディアルガはケンカ腰で若葉さんに話しかけるが、それをパルキアが諫める。
ディアルガは舌打ちするも、若葉さんを睨み付けてガンを飛ばしていた。
それを見ても若葉さんは笑顔を崩さず、優しい母親の顔で自らの腹を擦っている。

出産はまだ先になるらしいが、もう結構大きくなってる。
それの姿を見て、ディアルガとパルキアはそれぞれ悲しそうな顔をした。


ディアルガ
「アンタ…それって」

育美
「見たままの通りです…私は人の子を身籠りました」

パルキア
「そんな…!? アルセウス様が、人の子を…?」


ディアルガは何かに耐える様な顔をし、パルキアはあまりの衝撃に呆然としていた。
互いに違う反応か…それぞれ、姉妹でも考える事は違ってるだろうからな。


ディアルガ
「…それ、いつからよ?」

育美
「さて? それは秘密にしておきましょう…」
「ただ、もう少しで…私はようやく本当の母親になれるのです」


若葉さんは幸せそうだった。
この人はアルセウスというポケモンであるが、それでもその顔は既に母親の顔だ。

俺は、それを見て少し昔を思い出す…
昔は俺も、母親は大好きだった。
父親も勿論素晴らしい人で、姉さんは俺の1番大事な人。

きっと、俺の母親も…俺が生まれる前はあんな顔をしてたんだろうな。
そんな、そんな風に…俺は何故か今更思えた。


パルキア
「…後悔は、無いんですよね?」

育美
「あると思いますか?」

ディアルガ
「はっ…とんだ笑い種だわ」
「神の中で1番ドヤ顔してた奴が、1番人の世界に憧れたって事かしら?」

大護
「だったらどうした? それの何が悪い?」


「…大護」


俺はあえてディアルガに割り込んだ。
口を出さずにはいられなかった。
若葉さんは間違いなく今の幸せを望んだんだ。
なら、他の人間がどうこう言う資格は無ぇ。

本人はそれで良いと思ってんだ…なら、素直に祝福してやるのが人情ってモンだろ。


大護
「お前も母親になりゃ、きっと解る」
「人間の母親はな? 自分の腹を痛めて産んだ子には特別な何かがあるんだ…」
「神様だとか、そんな無限にでも生きられる様な連中にゃ解らないかもしれねぇ」
「だけどな、だからと言って神様が幸せになっちゃいけねぇわけじゃ無ぇだろ?」

パルキア
「…確かに、そんな事は」

ディアルガ
「パルキアは黙ってて! それじゃあアンタは責任取れんの!?」
「もし、仮にアタシを孕ませたとして、その時アンタは責任取れる!?」
「神様とは寿命も何もかもが違う! どうせ先に死ぬアンタが、その時アタシに何をしてくれるっての!?」

大護
「愛してやるさ、死ぬまでな…」


俺は表情を変えずにノータイムで答える。
ディアルガは俺を指差したまま、震えていた。
何でそう言い切れる?って面だな…
俺は頭を掻き、胸ポケからタバコの箱を取り出す。

…が、若葉さんを見てすぐに思い止まり、それを元に戻してため息を吐いた。
若葉さんは口元に手を当て、クスクス笑っている。
チクショウ…癖なんだよな〜!

解ってんだよ! 妊婦相手に迷惑だから止めとけってのは!
体が面倒臭いと思ったら、勝手にタバコに手がいっちまうんだよ!


大護
「ま、まぁ…その、何だ!」
「お前は少し気にしすぎだ…もう少し柔軟になれ」

ディアルガ
「はぁ!? 気にするでしょ普通!? 夫婦よ!?」
「永遠に人生を共にするパートナーよ!?」
「それなのに、旦那は絶対先に死ぬって解ってるのに、どうして気楽に考えられんのよ!?」


「…ほう、つまりディアルガちゃんはあくまで一途でいたい、と」


葛のツッコミを受け、ディアルガは顔を真っ赤にして言葉に詰まる。
若葉さんは声に出してそれを笑い、パルキアは呆れていた。


育美
「あっははは! 貴女はそんな風に考えていたのですね〜?」

ディアルガ
「う、うっさい! アンタだって、旦那は先に死ぬのよ!?」
「それでもアンタは旦那だけ愛せるの!?」

育美
「勿論、その覚悟があるからこそ、身籠ったのですから♪」


若葉さんは迷いなんて無かった。
ディアルガは遂に項垂れ、首を横に振る。
もう諦めた…って顔だな。


大護
「…まぁ、そういうこった」
「後、俺を例に挙げるなら、お前は気にすんな」

ディアルガ
「ど、どういう意味よ?」

大護
「俺が死んでも、次の旦那探せってこった」


ディアルガはまた固まる。
トコトン人間の思考が理解出来ないらしいな。
俺はまた胸ポケに手を入れるが、今度はすぐに出す。
いかんいかん…自粛せねば。


大護
「神様は長生きなんだろ? だったら何度でも幸せになりゃ良いじゃねぇか」
「俺だったら気にはしねぇよ…嫁がモテモテなら反って鼻が高くならぁ」

ピース
『安心してください! 私はダイゴ一筋です!!』

ピーチ
『流石はクソヤロウですね、浮気容認とは…』


「まぁ、大護らしいわな…せやけど、切実よな〜」
「人間とポケモンやったら寿命も違うか…そらなぁ〜」


まぁ、愛し方なんて人それぞれさぁな。
それが行き過ぎる奴もいるが、それも人の闇だ。
だから俺は、好きな奴が誰を愛そうが、誰に愛されようが構わねぇ。
むしろ縛る方がヒデェ話だよ…特に、長生きな神様だなんて。


ディアルガ
「…本当にバカねアンタ」
「ほ、惚れたりなんかしないんだから!!」

大護
「冗談は止せ、俺もお前はアウトコースだ」
「肉体的にはドストライクなんだがな〜」

ピース
『セクハラですよダイゴ!? そんなに触りたいなら私と本番を!!』

ピーチ
『やっぱりバグってますね、同じプログラム元とはとても思えません』

パルキア
「ところで、これって誰が喋ってるの?」


「ああ、それはポリゴンや」
「電脳空間で自由に生活出来るから、こうやってスマホに意識を移す事が出来んねん」
「最も…ピースちゃんはポリゴンZやさかい、ち〜とバグっとるがな」

ピーチ
『…チートだけにですか』

ピース
『誰が上手い事言えと!? 私なら人間よりも精密なTAS動画作れますよ!!』


パルキアは感心しながら葛と話していた。
あいつは意外と順応してそうだよな?
ディアルガとは色んな意味で噛み合わないわけだ…


ディアルガ
「はぁ…もう良い、好きにしたら?」
「そもそも、王は何処へ行ったのよ? アタシ、それを聞きに来たんだけど?」

育美
「…それに関しては、私にも解りかねます」
「予想は出来ますが、確証は無い」


ディアルガはまた訝しげな顔をする。
対して若葉さんは少しだけ不安そうな顔を見せていた。
王…ね、確か全ての上に立つ存在だったか。


大護
「…何だ、お前はさっさと神の国に戻りたい派か?」

ディアルガ
「そういうわけじゃないけど…何か、気になるじゃない」

パルキア
「確かに気にはなるね…どうして、何も言わずにいなくなったのか」


ふむ…まぁふたりからしたら、いわゆる世話になった上司ってとこか。
それなら、どこに行ったのかとかは気になってても仕方無いのかね?



「…とりあえず、これ渡しときますわ」

育美
「はい…ありがとうございました」


葛はスマホからmicro SDカードを取り出し、それを若葉さんに渡す。
若葉さんは優しい微笑みをうかべ、それを優しく握り締めた。


大護
「今更だが、何でこんな仕事を依頼した?」
「あんたなら、俺が殺し屋だってのは知ってたんだろ?」

育美
「…確かに、貴方はそうでしょう」
「ですが、それ以上に何かを持っている人間でもある…」
「あくまで私の考えではありますが、貴方は自分で言う程、酷い人間でもありませんよ」


彼女は微笑んだまま、そう言い放つ。
俺の仕事を知っていた上での答えであり、そして俺への評価。
元神様にそう言われるのは悪い気もしねぇが、それじゃあ俺は納得出来ない。


大護
「俺は人間の屑だよ、そこは揺るぎやしねぇ」
「人の命を何とも思ってねぇし、殺したいと思えば殺す」

育美
「ですが、貴方は十柱を殺さなかった」


俺は言葉に詰まる。
若葉さんは一切表情を変えない。
確信を持っていやがる…癪だが相手は元神様だ、全部見透かしてるんだろうさ。


育美
「貴方たちなら、あの娘たちを導けると思ったのです」

ディアルガ
「導くって…コイツ等がぁ?」

パルキア
「何を根拠に、そんな事を…?」


ディアルガとパルキアは半信半疑。
そりゃそうだ、ただの殺し屋でろくでなしの俺が元神を導くだぁ?
そんなもん、誰が信じるってんだ……この人以外に。


育美
「では、逆に問いましょう」
「ディアルガ、貴方から見て彼は悪人ですか?」

ディアルガ
「…う〜ん、そりゃ悪党って言う程、そうは見えないけど」

パルキア
「ボクには、ディアルガ程適当には思えないですけど…」

ディアルガ
「誰が適当よ誰が!」


ディアルガは不機嫌そうに反論するも、パルキアは真面目な顔で若葉さんに答えを告げる。
ディアルガは少し拗ねていたが、口を挟む気は無い様だ。


パルキア
「…少なくとも、救いの無い悪人では無いです」
「天国には到底行けないと思いますが」

育美
「ふふ…貴女も冗談が言える位には認めている様ですね?」


パルキアはそう返されて俯く。
指摘されて恥ずかしかったのか、顔を赤くしていた。
やれやれ…神様お墨付きで地獄行きだそうだ。
そりゃ死後も退屈はしなさそうだな…



「まっ、真っ当に生きとるわけないからな…」
「どうせ、俺らは裏の人間や…ロクな死に方はせぇへんよ」

大護
「だな…今更生き方を変えるつもりも無ぇし」

ディアルガ
「アンタたちは気楽よね…」

パルキア
「ボクから見れば、君も気楽すぎるよ…」


どうにも、似た者扱いらしい。
ディアルガも、お仲間からはあんま良い印象が無いのかね?
ある意味、1番普通にしてそうなタイプに見えるんだがな。


育美
「ふふ…どうですか? これでも、まだ納得出来ませんか?」

大護
「いんや、もう良い…俺の仕事は信頼が第一だ」
「依頼主がそこまで信頼してくれてんなら、俺は何も言わずに仕事をする」
「それがプロってモンだからな…」


俺はそう言って頭を掻き、若葉さんに背を向ける。
葛も腕時計を見て時間を確認していた。
色々あったが、これで仕事は終わりだ。
また、普段通りの生活に戻る…さて、依頼は来るかな?

俺は考えて少し楽しくなる。
今までとは、違うわな。


大護
「…じゃあな、出産の時は必ず顔を出すよ、旦那との約束だからな♪」

育美
「はい…あの人も喜ぶと思います♪」


俺は若葉さんに微笑まれ、こちらも微笑して背中越しに手を振った。
そしてそのまま、夜の闇へと葛と共に消える…
道中、ピースが少しうるさかったが、それはそれで面白かった♪



………………………



ディアルガ
「………」

パルキア
「ディアルガ、君はどうする?」


ディアルガは俯き、まだ答えを出せずにいる様でした。
パルキアは既に決めているのか、迷いの無い顔をしていますね…


育美
「自由にすれば良いのです…もう、何にも縛られる事は無い」

パルキア
「…はい、ボクは探してみようと思います」
「こんなボクでも、受け入れてくれる人がいるのかを…」

育美
「必ずいます、私が保証しましょう」


私がそう言うと、パルキアは少し笑う。
不安はあるのだろう…でも、前に進もうという遺志は感じる。
これも、きっと大護さんたちとの出逢いがくれた、大切な宝物です。
きっとひとりでは、それは得られなかった…皆、皆それを持っている。

そして、ディアルガにも…


ディアルガ
「………」

パルキア
「…さよなら、ディアルガ」
「その内、会いに来てね? ボクは…待ってるから」


そう言ってパルキアは最後に微笑み、その場から消えた。
一体何処へ向かったのか?
それは解りませんが、もう心配はしていません。
あの娘はひとりでもちゃんとやれる。
ふふ…今度はあの娘の子供が楽しみですね♪


育美
「…まだ、答えは出ませんか?」

ディアルガ
「パルキアも、ティナも、自分で生き方を見付けた…」
「でも、私は解らない…どうしたら良いの?」

育美
「貴女はもう、理解しているはずですよ?」

ディアルガ
「それが解らないから聞いてるんじゃない!? 何でいつもそんな風に知った風に返すの!?」


相変わらずの癇癪。
こんな姿は幾度と無く見て来た…
私は表情を変えず、あくまで微笑んだまま、こう呟く。


育美
「貴女は『生きている』のですよ?」

ディアルガ
「生きて…?」

育美
「そう、彼からそれは教わったのでしょう?」


ディアルガは、ハッとなり…何かを思い出した様にして俯く。
そして拳を握り、自分に何かを言い聞かせている様だった。


ディアルガ
「…生きる、か」

育美
「確かに、私たち神々は老いません」
「ですが、死は存在しますし、その逆も然り」
「貴女も私も、ひとりの女ですよ…違いますか?」


ディアルガはもう解っている。
答えは出ているのです…ただ、それを自分自身が許せるかどうか。


ディアルガ
「アンタは、今幸せなのよね?」

育美
「勿論…偽り無い気持ちですが?」

ディアルガ
「なら…アタシも幸せになる」
「いつになるかは解んないけど、探してみる」

育美
「はい、待っていますよ…吉報を」


私の笑顔を見て、ディアルガは不満そうに顔を膨らませる。
そしてプイッと顔を背け、そのまま時空の彼方へ消えて行った。
本当に良かった…彼らに頼んで。


育美
「皆…皆、居場所を見付けられた」
「ようやく…肩の荷が降りそうです」
「もう、私が心配しなくても、皆この世界で一緒に生きていられる…」


「…やはり、全ては貴方が計画していたのか?」


私の背中から、聞いた事のある声が響く。
私は振り向く事無くその場で微笑み、そしてその者の名を呼んだ。


育美
「貴女も久し振りですね…イベルタル」
「そして、初めまして…ルザミーネ・エーテルさん」

イベルタル
「………」

ルザミィ
「やっぱり気付いてたのね? 食えない神様だわ…」
「とりあえず初めまして♪ 私の事はルザミィで良いわよ?」


イベルタルと一緒に現れたのは、あの石蕗 大護さんの親友。
曇りの無い笑顔で私に挨拶をし、私に向かってウインクしていた。
私はそのままゆっくり振り返り、改めて彼女たちと相対する。


育美
「…ではルザミィさん、一体何の用ですか?」

ルザミィ
「大護とはどんな関係? もしかして愛人とか?」


私はそれを聞いてクスクス笑う。
解っていてワザと聞いていますね…面白い方の様です。


育美
「さて…? 貴女にはどう見えるのですか?」

ルザミィ
「そうねぇ〜さしづめ、幸せに満ちた家庭を持てて、人生絶頂〜!って感じの主婦に見えるわね♪」

育美
「ふふ…聞きたい事は、それでは無いのでしょう?」


私が軽く流してそう言うと、ルザミィさんは軽く息を吐いて肩を竦める。
正直、既に理解はしている。
だけど、彼女は私を試す為にワザと冗談を交えた。
ふふ…本当に面白いですね、この私を試そうとは。


ルザミィ
「…OK、良いわ」
「じゃあ本題に入るわね? この娘を引き取ってくれない?」

イベルタル
「……おい?」


ルザミィさんは隣で訝しげにしているイベルタルを親指で指差し、そう言って笑った。
当のイベルタルは到底納得出来ていない様で、ルザミィさんを睨んでいる。
私は表情を崩す事無く、微笑んだままこう答えた。


育美
「その必要があるとは思えませんが?」

ルザミィ
「本気で言ってるの? 彼女は私といるべきじゃないと思うけど…」

イベルタル
「…勝手に決めるな、私の事は私が決める」

ルザミィ
「貴女の目的は、神の座の崩壊に関する理由と原因」
「なら、私じゃなくて彼女に聞くのが速いんじゃないの?」


イベルタルは黙る…それもそうか、とは思っていますね。
しかし残念です…その理由は私にも解らない。
そもそも王が勝手に消え、勝手に終わらせた。
結果的に私の本来の目的は達成されたものの、今まで練り上げて来た計画は全てパァ…

あの時ばかりは、王を少し恨みましたよ…
まぁ、結果オーライではあるのですけど。


イベルタル
「…知っているのか? 貴女は?」

育美
「さて? 残念ながら理由はともかく、原因は解りませんね」

ルザミィ
「理由は解るのね…それは何?」

育美
「それは言えません」


私はあえてそう言う。
本当は言っても構わないのですが、少し意趣返しをしたい。
今度は、私が彼女を試します。


ルザミィ
「…言えない、ね」

イベルタル
「…なら、これは解るか?」
「コイツの中にある、何か…その意味を」


イベルタルはルザミィさんを指差し、真面目な顔で聞いて来る。
私はルザミィさんを凝視するも、特に『問題』は見当たらない。
そう、問題は…


育美
「彼女はただの人間ですよ…それ以上でもそれ以下でもない」
「少なくとも、貴女が執着する様な物は何もありませんね」

イベルタル
「…何、だと……?」


イベルタルは珍しく狼狽える。
いつも表情を崩さず、仏頂面のイベルタルが目を見開いて呆けているのだ。
私は思わず笑いそうになるものの、完璧な態度を持って微笑みを絶やさない。
ここで笑っては、折角のお遊びがご破算になってしまう。


ルザミィ
「イベルタル、少し黙っててくれる? ちょ〜っと、お姉さん…大人の話があるから♪」


ルザミィさんはワザとらしく笑ってイベルタルを宥める。
どうやら乗り気の様で助かります。
さて、どんな手で来ますかね?


ルザミィ
「…貴女、どこまで知ってるの?」

育美
「さぁ? 私には何の事か…心当たりが多すぎるので」


まずはジャブの様な物ですね…互いに牽制です。
彼女は私が何かを知った上で、仕掛けて来ていると思っているはず。
本当は何も知らないのですが、彼女は私の態度から何かあると踏んだ。

これが今回のお遊び…ゲームです♪
ただの戯れであり、双方失う物も特に無い…強いて言うなら時間ですか。
さて、彼女は正解に辿り着けますかね?


ルザミィ
「…ふ〜ん、言いたくないって事ね」

育美
「何故そう思うのですか? 本当は何も知らないかもしれませんよ?」


更に揺さぶりをかける。
虚と実を織り交ぜて話すのは、話術の基本ですからね。
とはいえ、少し危険な橋でもあります。
下手をすれば、この時点で気付きかねない。


ルザミィ
「知っているか、知っていないかは問題じゃないわ」
「貴女はイベルタルを使って遊んでいる…違う?」

育美
「さて? どうでしょうか?」


探っていますね…ふふ、ここでイベルタルの名を出したのは中々です。
これがディアルガでしたら、すぐにでも反応して顔に出すでしょう。
やはり、彼女は強敵ですね…だからこそ遊び甲斐がある♪


ルザミィ
「ふぅ、表情ひとつ変えないわね…どっかの誰かさんを思い出すわ」


ほう、それは興味がありますね…
とはいえ、彼女に余裕が見える…答えに辿り着きましたか?


ルザミィ
「それで、大護はどうだった?」

育美
「どう、とは?」

ルザミィ
「もちろん、夜の話よ! ただの関係じゃ無いんでしょ〜?」


彼女は笑っていやらしそうに笑う。
成る程、そう切り込みますか…ですが、これ位では狼狽えませんよ?
完璧という二つ名を持つ、このアルセウス。
果たして読み取れますかね?


育美
「ふふふ…そうですね、そうかもしれないし、そうでないかもしれない」

ルザミィ
「嘘が出たわね…はい、チェックメイト」

イベルタル
「……?」


私は固まる。
何故、このタイミングで?
ブラフですか? ハッタリで言っている?
だとしたら乗るわけにはいきませんね…


育美
「何が嘘なのですか? 私は肯定も否定もしていませんが?」

ルザミィ
「そうよ、だから嘘なの…」
「だって彼、女相手に勃たないのよ?」

イベルタル
「……?」


私は思考を巡らせる。
大護さんが…勃たない? 女相手に?
それはまさか、そういう意味なのでしょうか?
いや、そんなはずは…確か彼は過去に強烈なトラウマが有り、それが原因のはず。


育美
「…彼は、そういう性癖だったのですか?」

ルザミィ
「まさか、ハッタリよ♪ お疲れ様…全部解ったわ」


彼女はそう言って笑い、ため息を吐いて肩を落とす。
予想とは違った…そんな顔ですね。


ルザミィ
「…そこで思考を張り巡らせるって事は、大護のトラウマの事まで知ってるって事」
「じゃなきゃ、ノータイムで返って来るはずよ?」
「だって貴女、完璧すぎるもの…」


私はポカンとしてしまう。
そして、それを理解するのに時間はいらない。
思わず笑いが先に出てしまいましたね。


育美
「ふふふ、アハハハ! 成る程、それで…答えは出ましたか?」

ルザミィ
「…何にも解らないし、答えなんて持ってない、そうなんでしょ?」


私は笑いに耐え、口を抑えて我慢した。
久し振りですね、こんなに笑ったのは。
やはり、彼女は思った通りの人間だった。
だからこそ、彼女を預けられる…


育美
「正解です、お見事」

ルザミィ
「全く…こんな遊びを即興で思い付くなんて」
「結局、何も解らないじゃない…無駄骨よ」

イベルタル
「……?」


イベルタルは固まったままだった。
そもそも、私たちのやり取りを理解していないのでしょう。
自ずと、目的も果たされていたのですが…


ルザミィ
「…やれやれ、結局振り出しか」

育美
「ですが、受け入れるつもりだったのでは?」

ルザミィ
「そうね、でもそれはイベルタル次第かな…」

イベルタル
「……?」


未だに仏頂面で?を浮かべているイベルタルを見て、ルザミィさんは微笑んだ。
そして、そのまま背中を向けて歩き出すと、イベルタルも無言で付いて行く。
そうですか…それ程信頼しているのですね。


育美
「ルザミィさん、その娘には名を与えないのですか?」

ルザミィ
「やぁよ、そんなの…縛られたりするのは、嫌じゃない?」

イベルタル
「…当然だ、こちらも必要無い」


私はまた笑いが込み上げる。
そうですか…そうですね。
私は改めて安心をする。
そして今度はしっかりとした微笑みを作り、こう最後に伝えた。


育美
「イベルタル、貴女も自由に生きなさい…自分の事は……」

イベルタル
「自分で決めるさ……もう、貴女の部下じゃないからな」


背中越しにそう言って、イベルタルはルザミィさんの背中を追って闇に消えた…
それを見送り、私は箒を持って境内に向かう。
今夜は綺麗な満月…月明かりだけでも明るいですね♪


育美
(そして、もうすぐ終わる……最後の審判も)


それは、物語のラストシンフォニー…
全ては巡り、そして紡がれる…それがアンコールされるのか?
それとも…フィナーレとなるのか?
全ては……神のみぞ知る。










『突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語』

スピンオフストーリー 『Avenger The After』


第17話 『依頼達成』


To be continued…

Yuki ( 2019/12/10(火) 17:12 )