『Avenger The After』
第16話 『元破壊の神の休日』
イベルタル
「………」


時刻は朝の7時。
既に日は昇っているものの、まだ少し肌寒いとは言える空気だ。
今、私がいる国は『Japan』というらしく、この国での呼び方は『日本』…

そんな、日本のとある街で、私はひとり歩いていた…



………………………



イベルタル
「………」


今いる場所は、駅前と呼ばれていた。
この街に置ける主要な場所らしく、こんな時間でも多くの人間が歩いているのだ。
私はまだ人間の生活はよく知らない…
だが、今日は確か休日のはずだったな…と記憶はしていた。


学生A
「だってさ〜ウケるよね〜?」

学生B
「マジウケる〜! それありえなくね?」


聞こえてくるのはそんな会話。
若い女が、同じ様な服を着て歩いていた。
制服とかいう物だろうか? とにかく、この国ではそういった物に身を包む集団がある。

私にはよく理解出来ないが、とにかくこの街は人が多いというのはよく解った…


イベルタル
(…さて、どうする?)


私は歩きながら、考えてみる。
ルザミィは遊んで来いと言っていたが、そもそも何をすれば良い?
ルザミィは自分で考えてみろとしか言わなかったし、自分で考えるしかないわけだが…


イベルタル
(…通貨はある、確かそのまま使えるはずだ)


私は昨日ルザミィから貰ったトランクケースを確認する。
この中にはこの国で使える通貨が収められており、それを使えば買い物が出来るはずだ。
そして、今の私がするべき事は…


イベルタル
(……朝食、だな)


ぐ〜と、自分の腹が鳴ったのを確認する。
ホテルでは残念ながら食事は無く、あくまで泊まるだけの施設だったのだ。
つまり、今の私は腹が減っている。
故に、今すべき最優先事項は食事を取る事だ、と私は自分で結論を出した。


イベルタル
(しかし、問題は山積みだ…)


どうやって食事を取る?
この国では多くの人間と店が散見されるが、そもそもどんな所に食べれる物があるのかすら解らない。
コンビニ…とかいうのが妥当だろうか?

いや、ダメだ…あそこではジャンクフードしか無い気がする。
ルザミィはそこでそれら以外を買った試しが無いからな…今は避けるべきだろう。


イベルタル
(…とはいえ、そうなると難易度は更に上がる)


昨日の様な寿司屋はまだ開いていないのだ。
というより、この時間帯ではほとんどの店が開いていない。
おおよそ子供と思われる人間たちが多く出入りしている店は、コンビニばかりだった。
しかも、ほとんどの人間がジャンクフードを手に持って食っている…やはりあそこは論外だな。


イベルタル
(何か無いのか? ジャンクフード以外で食えそうな店は?)


私はしばらく歩きながらキョロキョロしていると、少し良い匂いがして足を止めた。
どうやらとある店から匂ってくるらしく、間違いなく肉の匂いだと確信出来る匂いだ。


イベルタル
(あっちか…? む、しかしどうすれば?)


店の方を見てみると、間違いなく肉の匂いがしていた。
しかし、そこには入り口らしい物が見当たらなく、ただ車が連続で出入りをしている場所だった。

私はそれを遠目でしばらく観察する。
すると、車に乗っている人間が何やらビニール袋を受け取っていた。
私はそれを見て確信する。
あそこで食料を受け取れるのだと…


イベルタル
(だが妙だぞ? 何故車だけしか通らない?)


道を歩く人間は多くいるのに、その店からは車しか出入りしていないのだ。
私は看板などに書かれている文字はまだ読む事が出来ず、ルザミィがいなくては何が書かれているのかも理解出来ない。

いや、読める時もあるにはある…
あそこに書いてあるのは……


イベルタル
(DRIVE THRU?)


何の事か全く解らなかった。
DRIVEは運転の事だが、THRUとは何だ?
そんな言葉は聞いた事も無いんだが、一体…?

とにかく、私は英語しか読む事が出来ないのだ。
ルザミィのお陰もあり、異国で話す事は勉強出来ても、読み書きとなると流石にそうもいかない。
今の私が読み解けるのは、アルファベットの文字のみ…


イベルタル
(…店の入り口は本当に無いのか?)


少なくとも、ここからだとそれらしき扉は見えない。
あるのは従業員用と思われる小さな扉だけだ。
私はもう少し移動してみる事にする。


イベルタル
(…む? 人の流れがあるな)


私は大人の男たちが移動しているのを見かける。
どうやら、何人かのグループがどこかに出入りしてるらしい。
私はそれを見て、そこが店の入り口に続いているのだと予想した。


イベルタル
(成る程…答えは見付かった)


やはり別の場所に入り口はあったのだ。
さっき私がいた場所は駐車場だった様で、そこはいわゆる車専用の窓口…
それ以外の客は、反対側の方にある入り口を利用していたのだ。

それさえ解れば後は何とかなる。
私は人の流れに乗り、そのまま店内へと入る事にした。
その際、商品らしき絵が目に入り、私は何が食えるのかを想像する。


イベルタル
(肉だな…だが、器にあれ程の肉が乗るのか?)


写真ではどうにもそれしか解らない。
そもそも実物大でもないし、食べた事の無い私からしたら、どんな料理かも全く解らなかった。



………………………



店員
「いらっしゃいませー! 空いてるお席にどうぞー!!」

イベルタル
「………」


そこは、とにかく男臭かった。
やけに年を食った客が多く座っており、女性は私ひとり……でもないが。
と、とにかくそれなりに客は多く、私は他の人間の見よう見まねで席に座ってみた。

いわゆるカウンター席という奴だが、ここからどうすれば良いのか全く解らない。
私が途方に暮れていると、店員は私の前に水が入ったコップを置く。
そして、若い男性の店員がこう一言。


店員
「いらっしゃい! PKMのお客さんみたいだけど、注文とか解るかい?」


と、親切に聞いてくれた。
ポケモンの客もそれなりには見るからなのか、店員は特に嫌そうな顔もせずに笑って私を見ていた。


イベルタル
「…何もかもが初めてだ、どうすれば良い?」

店員
「だったら、これを見て好きなのを頼んでくれ!」


そう言って店員が開いて見せたのは、メニューだった。
そこには様々な肉料理のメニューが並んでおり、親切に英語でも書かれている。
これなら私でも意味が解るな…


イベルタル
(…ぎゅう、どん?)


とりあえず、そういう名称で良い様だ。
意味は全く解らないが、牛の肉を乗せた米を食う料理らしい。
他の客は美味そうにそれらを食っており、匂いも確かに美味そうだった。


イベルタル
(量で値段は変わるのか…しかし、単位が解らんな)


書いてある数字は380やら、480やらとなっているが、そもそもYENのレートが解らん。
この580の商品なら、580枚の紙幣で足りるという事か?

それなら、余裕で払えるだろう。
足元のトランクには、確か5000枚は紙幣が入っていたはず。
差し引きしても、まだまだ尽きる事は無い。
だとすると、いっその事1番高いサイズのを食ってみるか?


イベルタル
「…この780YENのを頼む」

店員
「えっ!? それ、超特盛だけど大丈夫か? かなり量あるぜ?」

イベルタル
「構わん、腹は十分に減っている…」


私はそう言って注文を済ます。
そして、水を飲みながら私はしばし待つ事にした。
ふむ…他の客のを見た感じ、サイズごとに量は決まっているわけか。
私が頼んだのは、その中でも1番大きな物…
果たしてどれ程の量が来る?

今の私は相当に腹が減っている。
余程の量でなければ満腹にはなるまい。
少なくとも、隣の客が食っている量なら、倍は食えるはずだからな…



………………………



店員
「はい! 超特盛お待ち!! 伝票はここに置いとくぜ!」

イベルタル
「………」


とりあえず出て来たのは、大きな器だった。
明らかに隣の奴の倍は量があると予想出来る。
成る程、確かにこれは食い応えがありそうだ。
私は木製チョップスティックを割り、早速いただく事にした。

まず、1口目…うむ、これは美味いぞ。
肉の柔らかさもしっかりしているし、濃い目のタレが良いアクセントになっている。
米との相性も抜群だ、これならドンドン食が進むな。

と、そんな感じで私は器を持ち上げ、掻き込む様にして料理を平らげた。
他の奴らもそうしているし、これはそういう食べ方なんだろう。



………………………



イベルタル
「…うむ」


私はあっさり完食する。
少し他の客の目を引いたのか、やや注目を浴びていた。
所々、写真を撮られてもいる様で、何やら珍しい光景だった様だ。


店員
「はは、よっぽど腹が減ってたんだな…」

イベルタル
「ああ…確かにそうだが」
「だが…食ってみて、少し気になった事がある…」

店員
「ん? 何がだ?」

イベルタル
「この、超特盛…値段は並の倍以上なのに、量は1.5倍程しか入っていなかった様だが?」


私がそう言うと、店員はやや顔を引きつらせる。
どうやら、あまり聞かれたくない事だったらしい…


店員
「ま、まぁ…あんまり頼む客はいなしな〜」

イベルタル
「…だが、これなら並を2杯頼んだ方が量もあるし、金額も安いのだが?」

店員
「…その辺は、本社に言ってくれ」


ふむ、所詮末端というわけか。
ならば、確かにこれ以上言っても仕方あるまい。
納得はいかんが、腹が満たされたのは事実。
そして味も良かった、それは素直に認めよう…


イベルタル
「…会計を頼む、日本円は解らんが…これで足りるか?」

店員
「ゲッ!? 札束!? いやいやいや! こんなにはいらねーよ!!」
「これ1枚で1万円だから!!」


私は呆然とする。
1枚で…1万?
だとすると、このトランクに入っているのは…


イベルタル
「……悪かった、とにかくそれで頼む」


私は残りの束を受け取り、それをトランクに仕舞った。
そして、お釣りを多数貰い、私はとりあえずそれをズボンのポケットにねじ込む。
予想以上に面倒だな…硬貨の事は想定してなかった。

財布位は用意しておくべきだったか?



………………………



イベルタル
(さて、腹も膨れた…ここからどうする?)


時刻はまだ8時半…まだまだ朝だ。
駅前はどんどん人が賑わってきており、気が付けば車もかなり交通量が増えている。

…と言うか、渋滞だな。
人も車も、信号待ちで溢れ返っている。
やれやれ…こういう時は空を飛べば楽なんだが。


イベルタル
(ルザミィに絶対飛ぶなと警告されていたからな…)


何でも、法律的に日本は厳しいらしく、飛行タイプのポケモンは飛行が制限されているらしい。
そうなると飛行タイプの意味が問われるが、とにかく飛ぶのはダメだという訳だ。

なので、仕方無く私もこうやって足で歩いているのだが…


イベルタル
(…このまま人混みに紛れていても仕方あるまい)


私はある程度人が少ない方に流れて行った。
そうする事で精神的には楽になる。
どうにも、ああいう人混みは慣れない物だな…



………………………



イベルタル
「………」


そして迷った。
人が少ない方、少ない方へと移動したのが運の尽きで、気が付けば誰もいなかったのだ。

今いる場所は住宅街の様で、外はあまり人が歩いていない。
チラホラとペットと散歩をしている老人は見かけるが、それも少なかった。


イベルタル
(…元来た道を戻れば、駅前には帰れるか)


私は後ろを確認しながらも、そう思ってそのまま進む。
どの道、時間はまだまだある…その気になれば空を飛べば良いのだから…


イベルタル
(…あくまでも、こっそりと!)


そう、要はバレなければ良いのだ。
ルザミィだって、そうして相手を騙しながら仕事をしている。
結果良ければ全て良しと言っていたし、それを上手くやるのがプロだと言っていた。

ならば問題無い…私は私の道を行く。


イベルタル
(しかし、この辺りは老人が多いな…)


私は人間の命を見て、寿命が解る。
姉のゼルネアスもそうだが、私たちにはそういう力がある。
私は命を奪い、破壊する能力。
ゼルネアスは命を与え、生命を育む能力。
相反する力であり、それは表裏一体。

私がどれだけ奪おうとも、ゼルネアスの生み出す能力を上回る事は無い。
これは、生まれた時から既に決められている。
互いの力が必ず均等になる様に、私とゼルネアスは力の配分が決まっているのだ。

だが、例外もある。
それは、明確なタイプの差。
私は悪タイプで、ゼルネアスはフェアリータイプ。
私がどれだけオーラを高めようとも、ゼルネアスのオーラを超える事は出来ない。
つまり、結果として私はゼルネアスに勝つ事が出来ないのだ。

全く同じ風に能力を振られているのに、全く出せる力の総量は同じなのに、ゼルネアスには勝てない。
戦えば私が負ける…そしてそれは、生まれた時から絶対に超えられない現実。


イベルタル
(何故、そんな風に造ったのか? 私には、何も解らない)


気にする必要も無いと言える。
そもそも、私とゼルネアスが相対する事自体が有り得ないのだから。


イベルタル
(…少なくとも、神の座にいた頃なら、な)



………………………



時刻は9時過ぎ、次第に人の喧騒が増え始めた。
いや、というよりも何かがおかしい?


イベルタル
「…何だ、この人の流れは?」


私は、妙に太ましい人間が多数歩いているのを目撃する。
そして、それらは段々と増え始め、やがて多数の集団を生み出していた。
私はそんな人間たちの命を見て、絶句する。


イベルタル
(何だ、こいつ等の命は? 一体、何が原因でそんなに滾っている!?)


そう…言葉にし難いが、あえて言うなら滾っている、だ。
こいつ等は他の人間たちと違い、命の色が赤い。
それはまさに魂を震わせているとでも呼ぶべきか…とにかく、そんな感じの色だ。

私はそんな人間たちの集団が気になり、後ろを付いて行く。
何度か道を曲がりながら、目立たない住宅街の道を歩いて行った。
すると、その先には…何やら妙な家があった。



………………………




「いらっしゃいませ〜! ただいま『ポケにゃん』では期間限定イベント中でーす!!」


その声と共に、人間の男たちは更に命を燃やす。
このままでは燃え尽きてしまいそうな位の勢いで、男たちは奇声をあげながら飛び回ったり、踊ったりしていた。


イベルタル
(…理解が、出来ん)


その光景は、明らかに私の思考回路をショートさせていた。
何やら華やか(?)な衣装に身を包んだポケモンの少女たちが、男たち相手に何かを配っているのだ。
どうやら紙の様だが、男たちはそれに何かスタンプの様な物を押されて一喜一憂している。

あれが、この熱気の原因か?



男A
「グフフッ! これでスタンプ3つ目!! 目標の30個にまた1歩近付きましたぞ!?」

男B
「うむっ! この調子でコンプを目指すお!! 目標、華凛殿の水着ブロマイド!!」

イベルタル
(何だと? 何だそれは? ブロマイド…とは、臭化物の事だが)


益々理解が追い付かない。
むしろ引き離されている。
一体何が嬉しくて臭化物を求めるのだろうか?
いや、待て…一言に臭化物と言っても意味は様々だ。
この場合、意味として当てはまる物と思える物質を予想すれば…


イベルタル
(……鎮静剤辺りか?)


確か、人間の世界に置いて臭化物の代表的な物が、臭化カリウムを用いた鎮静剤だったはず…
しかし、それはそれで副作用も確かあり、あまり悪戯に配布したりする物では無いと思うのだが…

そもそも、何故鎮静剤なんだ?
確かに人間たちの熱気は狂喜的ではあるが、薬を自分で求めるというのもおかしな話だ。

つまり、全く見当違いだと思うべきだろう…
私は軽くため息を吐き、とりあえずこの熱気の原因を突き止める為に、謎の家(?)に潜入する事にした。



………………………



ポケモン娘
「いらっしゃいませ〜♪ ご主人様〜」


私が中に入ると、カランカラン…と小気味の良い音が中に鳴り響き、そして複数のポケモンたちが私に挨拶をする。
皆、同じ服を着ており、種族は様々…
しかし、全員が女性であり、皆笑顔で何やら接客をしていた。


イベルタル
(……接客?)


私は無表情を貫き通しながらも、自分で疑問に思った。
何故接客なのだ? ここはそもそも何の家だ?
中に入ってみると、これでは喫茶店の様ではないか。

私がそんな事を考えながらキョロキョロしていると、ポケモン娘は空いてる席に案内してくれた。
私は無言のままそれに付いて行き、そしてそのまま席に座る。


イベルタル
「………」

ポケモン娘
「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びくださいね〜♪」


ジグザグマと思われるポケモンの少女は、私の前に水を置いて別の所に向かう。
既に席は満席近くにまで埋まっており、改めてこの店が喫茶店なのだと私は気付いた。

しかし、こんな住宅街にこんな店を出すとは…


イベルタル
(やれやれ、まさかただの喫茶店だったとは…)


私はメニューを見てとりあえず考える。
腹はまだ余裕だ…だから頼む必要は無い。
しかし、客として認識されている以上、何か頼まなければただの迷惑客になるからな…
そう思った私は、とりあえず簡単な飲み物だけを頼む事にする。


イベルタル
「………」


…が、どうすれば良いのか解らずに固まった。
テーブルにはボタンの様な類いはなく、ディスプレイも存在しない。
となると、必然的に誰かを呼ばなければならないのだが、近くには誰もおらず、他の客たちに何やら様々なアピール(?)を行っていた。

そのアピールに人間の男たちは大興奮。
私には全く理解の出来ない行動で、何がそんなに嬉しいのかは解りそうに無かった…



『ご主人様、ご注文はお決まりですか〜?』


それは、私に向けて放たれたと思われる声。
…なのだが、いやにくぐもった声で放たれており、私は思わず振り向いて確かめた。
すると、そこにはゲル(?)の何かに身を包んだ、妙な少女がニコニコして浮かんで……い、た?

と、とにかくどう表現すれば良いのか解らない。
強いて言うなら、水着か下着か解らない物だけを身に付けている背の低い少女が、人の形をしたゲル体みたいな物に全身を包んでいるのだ。
そして理解出来ない事に、そのゲル体は他の店員と同じ服を着ており、妙とかそういう時空を初めから超越していた…


イベルタル
「………」

ゲル女
『どうかしましたか〜? えっと、コーヒーで良いんですかね〜?』


心でも読んでいるのか、彼女は私が頼もうとした品を当ててみせる。
そして私はすぐに察した…この少女は、エスパータイプだと。

……で、思った時点でおかしく思う。
私は悪タイプだ、エスパーの能力は基本的に無効化出来る。
読心は出来ないはずだが…


ゲル女
『あれ…? もしかして外れた?』

イベルタル
「…いや、それで良い」
「コーヒーを頼む…冷たいので良い」

ゲル女
『ありがとうございます〜♪ 少々お待ちくださいね〜』


そう言ってゲル女はゲルの手を操り、伝票に書き記していた。
器用だな…あの太い指で良くやる。
私はこの時点で相手の種族を理解する。
人化しながらもあそこまでポケモンの特徴を残すとは珍しい物だ…


イベルタル
(…ランクルスか、あまりにも他の店員と容姿がかけ離れているな)


しかし、人間の男たちはそんなのお構い無しといった感じでそのランクルスに声援を送る。
彼女は彼女でにこやかに笑い、子供っぽい表情で人気を得ていた。


イベルタル
(だが、何故ゲル体に服を着せるんだ?)


全く理由が解らない。
服を着るなら、中身…というか本体が着るべきではないのか?
しかし他の客は気にしていない様だし、あれはあれで良い様だ。
私は様々な疑問を持ちながらも、他の店員たちを見ていた。


イベルタル
(…ジグザグマに、ミミッキュ、あれはドラミドロか?)


他にも、ニャスパーやズガドーンらしきポケモンまでいる。
そして、一際人気を得ているのがふたり…


客A
「華凛殿〜〜〜!!」

華凛
「ふ…懲りずに会いに来てくれたか、ご主人様!」

客B
「凪ちゃんも負けてないですぞ〜〜!!」


「あ、はは……」


見た所、アブソルとピジョットの様だ。
互いに声援はほぼ二分しており、人気は一見互角に見える。
とはいえ、両者の表情には差があり、余裕たっぷりのアブソルに対し、やや表情の重いピジョット…
私は何となくそのふたりを見てしまい、そして妙な気分を覚えた。


イベルタル
(…あのふたり、妙な色をしている?)


それは、命の形…とも言える。
私とゼルネアスのみが見る事の出来る、命の色。
そしてその色や形、大きさ、動きなどを見て、対象の寿命や強さを計る事が出来るのだ。


イベルタル
(他の店員とは明らかに違う…特に、力の差は圧倒的だな)


大雑把ではあるが、かなりの物だ。
並のポケモンの10倍以上は軽くあるか…?
普段は相当抑えている様だが、間違いなくレベルが違う。

とはいえ、この世界は私の様な元神もいる世界だ。
それこそ、王が集めたポケモンたちは千差万別。
あの様な者たちがいても、さほど不思議では無いのかもな…



「お待たせしました、コーヒーです」

イベルタル
「………」


私は無言でまた固まる。
今度はまた違う見た目の、少……女?



「ん? PKMのお客さんですか…」
「伝票はこちらに置きますね〜ごゆっくり♪」


そう言って、頭に巨大な何かを被った少女?は笑顔を見せてから背を向けた。
冷静になって考えると、あれはドヒドイデだというのに気付く。
た、確かにあれはシェルターの様な物に身を包んで体を守るポケモンだが…
あそこまで、原種に寄った素体は始めて見るな…

世の中には色んなポケモン娘がいる…
私のこの腕の翼など、些細な特徴に見えてしまうな…
そう思いながら、私は自身の腕をしばし見て、コーヒーを一口頂く。
味は想像以上に良く、私は少しの間その味に酔いしれた。



………………………



イベルタル
「………」


あれからコーヒー一杯だけで私は店を出た。
それからどこへ向かうわけでもなく、ただひとりで歩き続ける。
孤独感は特に無い、ひとりはなれているからな。
ただ、何となく虚しく思う事は、無いでもない。


イベルタル
(私は…何がしたい?)


唐突な疑問。
目的はある…だが、それで何かを得られるわけでもない。
なら、私は何故そうする?


イベルタル
(命令でも、仕事でもなく…私自身はどうしたいのだ?)


ルザミィは何も話さない。
恐らく、死ぬまでそうするだろう。
あいつはそういう決意を持って生きているからだ。

ルザミィの命は…酷く白かった。
そして、あそこまで儚く、細い命は見た事が無い。
それなのに、ルザミィは全く死ぬ様な事は無く、ごく普通に生き続けているのだ。

恐らく、ゼルネアスが見ても同じ事を言うだろう。
何故、生きていられるのか?と…


イベルタル
(私は、何かあるのだと確信している)


でなければ、あんな命の形が生存出来るわけ無い。
あれは、いわば死ぬ前の命よりもか細い糸だ。
ただ、細いが長い。
だからと言って、それでも生きていられる形ではないのだが。


イベルタル
(…王が突然消え、私たちはこの地に降りた)


何故消えたのか、誰もそれは知らない。
唯一、アルセウスのみがそれを知っていると思われるが、奴は絶対に話さない。

だからこそ、私はルザミィが知っていると思うのだ。
あいつは、何があったのかを知っている。
あの命の色と形は、恐らくそれに関わったから…

そう、唯一あのか細い命に近いと言える者…
それこそが、王だったのだ…


イベルタル
(もっとも、王の命など私には計れないが)


だが、形を見る事は出来る。
それが創られた物かは解らないが。
私が見た、王の命の形は…いわば虚無。
何も無い…一点の曇りも無い、完全な白き無。

それに対し、形とはおかしな話だが、他に形容も無いのだ。
そして、ルザミィの形はそれが最も近い。
ルザミィのあのか細い命も、いわば無に近いと言える。

本来ならば、生きてはいられない細さの命。
なのに、ルザミィは生きている。
それはつまり、死んでいる様に見えているだけで、実際には王の様に計り知れない形なのでは?と、私は思うのだ。


イベルタル
(だから、私はルザミィを追い続ける)


本当にあいつが死ぬのなら、それを見届けるまで。
そうでなく、ルザミィが永遠に生き続けるのであれば、それこそ私も永遠に…


イベルタル
(それこそが…今の私の生きる、道)










『突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語』

スピンオフストーリー 『Avenger The After』


第16話 『元破壊の神の休日』


To be continued…

Yuki ( 2019/11/28(木) 16:16 )