『Avenger The After』
第15話 『再会、伝えられぬ想いを…』
中年の男
「…以上が依頼の内容だ、何か質問はあるかね?」

ルザミィ
「…で、その量子コンピュータの試作チップが必要な理由は?」


私はひとりで某機関の基地にいた。
残念ながら公表は出来ないので、表現は控えるけれど、とにかく人には言えない組織だと言っておきましょうか。

私は今回、日本にあるその組織で、仕事の依頼内容を聞かされていたのだ。

暗い部屋で、私たちはふたり話を進める…


中年の男
「詮索は止めていただこう、あくまでこれは内密に処理する為の依頼だ」

ルザミィ
「まぁ、定番ね…けれど、解せないわ」
「何故それを私に頼んだの? そういうのは、もっと信頼出来そうな機関にでも頼めば良さそうだけど…」


もちろん、それが正当な入手方であれば、だけどね。
この組織が狙うのは、あくまで秘密裏に強奪を行うという現実。
そして、そこには相当な金額が動いていると予想する。

そして私は記憶から、今回の件の目的を予想してみた。


中年の男
「…残念ながら、既に失敗していてね」
「少々面倒な事になったのだよ」

ルザミィ
「ふーん、『魔更 准一』の遺産が目的って所かしら?」


私が笑って言ってあげると、依頼主の男は露骨に驚く。
舐められたものね、このタイミングでこの依頼、流石に予想は出来たわ。
そして、裏にいる連中の事も…


ルザミィ
「暗殺しただけじゃ飽き足らず、その遺産まで貪ろうって話か…」
「それも、彼にしか解読出来ないと思われる、最新小型量子コンピュータ『Iris』(イリス)のデータを」

中年の男
「!?」


Iris…それはかの天才、魔更 准一が企画、立案した最新型の量子コンピュータの名称。
…とは言っても、既に17年以上前の企画だから、今考えると少々古臭いかもね。


ルザミィ
「マサラエンジニアリングは実質潰れたというのに、それでもその意志と技術は細々と形になっていった…」
「そして、それをどうしても許せないグループが存在する…」
「貴方は、あの事件に携わった人物かしら?」

中年の男
「流石と言っておこう…やはり君は優れた人材だ」
「その上で聞きたい、この依頼を受けてもらえないかね?」


あら、思ったよりも冷静ね。
という事は、ある程度正体がバレるのは承知の上って事か。
報酬は金額だけ見れば魅力的ね…一生遊んで暮らせるお金だわ。
そして、依頼主に入る金額はそれが霞む程の物って訳ね。


ルザミィ
「…ふぅ、気が乗らない話ね」

中年の男
「何故かね? 君は金の為ならば何でもする人間だろう?」


まぁ、否定はしないわね。
とはいえ、その程度にも寄る。
この報酬は確かに魅力的…難易度もバカみたいに低い。
つまり、リスクとリターンが全く釣り合っていないのよ。

私の勘がこう言ってる…受けても受けなくても消される、と。
私はそれを考えると、ふぅ…とため息を吐いた。
面倒ね…本当に。


ルザミィ
(死ぬのは別に怖くない、でも利用されて死ぬのは我慢ならない)

中年の男
「悪くない条件のはずだ、少なくとも君の流儀には合ってるだろう?」

ルザミィ
「悪くなさすぎるのよ…こんな依頼、その気になれば誰でも出来るわ」


私は少し睨み付ける様な目で言い放つ。
そして胸の下で両腕を組み、私はやや挑発的なポーズでこう言った。


ルザミィ
「重要なデータサンプルとはいえ、所有してるのは今や残党だけの、元マサラエンジニアリング社員たち…」
「リスクなど犯さなくても、交渉だけでそれを手に入れるのは容易のはず」
「データさえ入手出来れば良いのなら、表向きに友好を築いて後から始末すれば良い」
「それこそ、魔更社長を暗殺した時の様に…」

中年の男
「…君は、もっと賢い人間だと思っていたんだがね」


空気を変えたわね?
タヌキめ…私はこう言うタイプが1番嫌いなのよ。
初めから、情報を知る者を生きて残すつもりはない。
それが解ってて、はいそうですか、と軽々しく金に釣られるのはただの無能だわ。

それこそ、安く見られたものね…私も。


ルザミィ
「ひとつだけ忠告しておくわ、貴方にはIrisの謎は解けない」
「いえ、貴方たち…と言っておきましょうか、Rの人?」

中年の男
「君は、やはり危険だったな…!」
「所詮は金の亡者…と思っていたが、残念だよ」

ルザミィ
「私の事を高く買っているなら、何故依頼したの?」
「私が、本当にこの依頼を受けると信じていたの?」

中年の男
「むしろ、君にしか出来ないと思ったんだがね…」
「実質的なリーリエの弟子である、君にしか…」


私は目を細める。
彼女と私の関係を知っている?
これは大護ですら知らない事実よ?
恐らく知っていても、葛君位だと思うけれど…

それを、彼は知っている?


中年の男
「驚いたかね? これでも情報力に関しては自信があってね」
「リーリエ…いや、今はヒガナだったか? とにかく彼女に比肩する程の腕を持った君だからこそ、今回の依頼を受けてほしかったのだ」
「あの、石蕗 大護を殺して貰う為に…!」


私はここでようやく、相手の真意を知る。
そうだったのね…それが、本命。
おかしいとは思っていたけれど、それが本命だって言うなら、納得出来るわ。


ルザミィ
「…さしづめ、リーリエ本人には断られたって所かしらね?」

中年の男
「…ご想像にお任せするよ」

ルザミィ
「なら答えはNoよ、私には荷が重いわ…リーリエでも同じ様な事は言ったでしょうね」


私は即答する。
仕事なら敵になる事もある…それは覚悟していたし、仕方無いと思っていた。
だけど、その矛先その物が大護となるなら話は別。

リーリエなら最悪相討ちにでも出来るかもしれないけど、彼女はそんなリスクを決して犯さない。
そして、ここで彼がリーリエの名を出したという事は、彼女を取り逃がしたという事。

つまり、初めから私は捨て石…それで大護が殺せるなら、安い買い物って事ね。
そして、量子コンピュータのサンプルはその為のお小遣い稼ぎって訳だ…


中年の男
「…それ程に、あの男が恐ろしいか?」

ルザミィ
「恐ろしいわね、この世で誰よりも」
「彼には逆らっちゃいけないわ、狙われたら誰も生き残れない」
「…あの、羽黒元内閣ですら無理だったのだから」


彼はその名を聞いて歯軋りしていた。
やっぱりね…彼は羽黒の元手先。
だとすると、真の目的は復讐か…つまらないわね、本当に。


中年の男
「だからこそ、あの悪魔を殺さねばならんのだ!」
「奴は力を持ちすぎている! そしてその使い方を解っていない!」
「あの力は存在してはならない! だからこそ、何をしてでも抹殺せねば人類に未来は無いのだ!!」

ルザミィ
「盲信ね…まぁ、そういう人間もいる、か」
「……ごめんなさい、やっぱり私には無理だったわ」


私は顔を押さえ、諦めた様に首を横に振る。
それを見て、彼は勝ち誇った様に笑い、肩を竦めてこう言った。


中年の男
「諦めるか、往生際は良い!」
「どの道、生かしておく気は無かったからな…」
「あの世で精々、懺悔でも……っ!?」


瞬間、彼はその場で前のめりに倒れる。
私は俯いたまま、首を振るのを止めた。
そして、少しだけ後悔をする。


ルザミィ
「…本当に、完璧な暗殺ね」

イベルタル
「…不味い命だ、ここまでのは久しい」


突然闇から姿を表したのは、イベルタルだった。
彼女は初めからこの部屋におり、闇に隠れて私を監視していたのだ。
今いる部屋は、他には誰もいない、閉ざされた地下室。
あくまで依頼内容を内密に話す為だけの場所であり、実質処刑場でもある。

まぁ、結果的に処刑されたのは彼だったけれどね。


ルザミィ
「…本当に良かったの? こんな事、したくなかったんじゃ?

イベルタル
「…別に、仕事なんだろう?」
「プロなら、仕事に私情を挟むな…そう言ったのはお前だ」


そうなんだけどね…でも、本当は躊躇ってほしかった。
彼女はまだ、命の重要さについては…解らないのかもしれない。
…私が言うのも、何だけどね。


ルザミィ
「…ありがとう、私なんかの為に」

イベルタル
「…お前の為じゃない、私の目的の為だ」
「お前に死なれては困るからな…」


…格好良い事言ってくれるのは嬉しいけれど、別に私だけでも生き残れたのは内緒だ。
あくまで、私はイベルタルを試してみただけ…
本当に彼女は、私の為に動くのか…その確認の為に。

結果はこれ…暗殺者としては文句無しの満点花丸。
誰が殺したのなんて解るはずもないわね。
死因はさしづめ心臓麻痺かしら?


ルザミィ
「さて、それじゃさっさと撤収しますか」

イベルタル
「…これで任務完了か、楽な仕事だったな」


やはり、まだまだイベルタルには教える事が多そうだ。
こんな時代だからこそ、本当は私の元になんていない方が良いのにね…


ルザミィ
「…今ならまだ引き返せるのよ?」

イベルタル
「なら、さっさと知っている事を話せ」


イベルタルはあくまで頑なだ。
そして義理堅くもある…彼女としても、衣食住の恩はあるのだ。
だからこそ、この危険な仕事を手伝いもしてくれる。
例え、私が望まなかったとしても…



………………………



ルザミィ
「はい、これは貴女の分よ…」

イベルタル
「…? 何だこれは?」


私はイベルタルに大金の入ったトランクケースを渡す。
イベルタルも中身は知っているはずだけど、あえて聞くのね…


ルザミィ
「今回の報酬よ、山分けにするわ」

イベルタル
「…必要無い、既に十分な報酬は貰っている」


それは、彼女の衣食住の保証。
彼女は欲が無いのか、こういった金銭には全く無関心だものね…
私は少し苦笑してこう言った。


ルザミィ
「受け取りなさい、それは正当な報酬よ…」
「貴女は私の為に手を汚してくれた、それに対してだと、全然足りないかもしれないけどね」


イベルタルは無言でケースを眺める。
彼女にとっては、初めての報酬かしら?


ルザミィ
「とにかく、人間の世界で生きるには何かとお金がいるわ」
「貴女も、自分の手持ちがあった方が良いでしょう?」

イベルタル
「…人間、か」


イベルタルは無表情に俯き、考えていた。
彼女は元神、人間の世界で生きる事など、露とも思ってなかった存在。
でも、彼女は理由も解らず人間界に降ろされ、そして理由を探して私の元に来た。

私にその理由は解らないというのに、彼女はそれを私に求めているのだ。


ルザミィ
「…これで日本での仕事も終わり、もう留まる必要も無いけれど」


今回の仕事は、実は羽黒の元派閥を始末する事だった。
つまり、私に先に依頼をしたのは日本の現政府のお偉い様。
ただ、ターゲットには謎も多く、確信に迫るには直接潜り込むしかなかったのだ。

そこで、都合良く向こうから依頼の話が…って訳ね。
結果はあの通りで、見事に任務は達成。
私たちは報酬のお金を受け取ったという訳よ。


イベルタル
「…どうするつもりだ? これから」

ルザミィ
「…貴女はどうしたい? 自分で決めてみなさい」


私はあえてイベルタルにそう言う。
少しでも自主性を出させないと、いつまで経っても彼女は独り立ち出来なさそうだし、ね。


イベルタル
「私はお前を追い続ける…それ以外に今、興味は無い」

ルザミィ
「予想通りの答えをありがとう…でもそれじゃ、ダ〜メ♪」


私は少しイジワルをしてみる。
人差し指を彼女の鼻先にピタリと付け、そしてイタズラっぽく笑い、こう続ける。


ルザミィ
「時間をあげるわ、だから明日1日私から離れなさい」
「私は絶対に逃げたりしないから、安心して♪」

イベルタル
「………」
「……それは、仕事か?」

ルザミィ
「違うわ、休息よ」
「でも、プロを名乗る気ならそれも仕事と言えるわね」


イベルタルは少し考えている様で、何度か私の顔とケースをチラチラ見比べる。
本当に面白いわね…信じようか信じまいか考えてるのかしら?


イベルタル
「……逃げる為の口実じゃないのか?」

ルザミィ
「バカにしないで、逃げる気ならロシアの時点で逃げてるわよ」
「これでも、潜伏だってお手の物なんだから♪」
「何なら、1週間位かくれんぼしてみる?」


私がそう言うも、イベルタルは理解してない。
そもそも、かくれんぼって言われても解らないか…


イベルタル
「……本当に逃げないんだな?」

ルザミィ
「しつこい! そんなに信用無い私?」

イベルタル
「ロシアからずっと見て来たが、ターゲットを騙す事しかしてないぞお前は?」


おっと、それは否定出来ないわね。
とはいえ、よく見てるのね…ちょっと意外だったわ。
ま、まぁ、この界隈は騙してなんぼの世界だから!


イベルタル
「……明日からで、良いんだな?」

ルザミィ
「ええ、良いわよ…私はちゃんと待っててあげるから、しっかり遊んできなさい♪」


イベルタルは納得しつつも、まだ不安そうな顔をしていた。
よっぽど私の言葉が信じられないのね…
自業自得とはいえ、少し傷付く。
とはいえ、やっぱり面白くもあった。


ルザミィ
(懐かしいわね…私も駆け出しの頃は、大護に遊ばれてたっけ)


あの頃の事を少し思い出す。
何度か大護と仕事がブッキングした事があって、その度にターゲット取られておちょくられたっけ…

当時の私はプライドの塊だったから、プロ意識ばかり気にして、とにかく気持ちだけが先走っていた。
大護にも何度か言われたわね…お前には、ゆとりが足りねぇ!って…


ルザミィ
(あの時は意味が解らなかった…でも、その後ハニートラップ失敗させて、大護に助けて貰ったのよね)


そして、私はその時から大護に惹かれ始めたのだ。
彼には私に無い何かがある…そう思って、彼の背中を追おうとした。

でも、彼には私なんかが想像も付かない程の闇を抱えていたんだ…
私はその意味も知らずに、彼を執拗に追い続けていた…


ルザミィ
(気が付いたら、いつの間にか私たちは親友になっていたのよね…)


大護とは喧嘩も多かったけれど、それでも信頼はどこかに必ずあった。
互いにどこかで危険視し、それでも別のどこかで必ず信頼する。
そんな奇妙な関係を続けて、今の私たちがいる…


ルザミィ
(そして、私はもう大護には…)

イベルタル
「おい」

ルザミィ
「!? な、何かしら?」


どうやら自分の世界に入り込んでいたらしい。
イベルタルは何度か呼んでいた様で、少し不機嫌そうな顔をしていた。
私とした事が…


イベルタル
「…宿はどうする気だ?」

ルザミィ
「そう、ね…とりあえず移動しましょうか」


私たちは人気の無い高架下から移動をする事にした。
時刻は既に夜で、この辺りは特に人気が無い。
その分、誰にも見られない場所としては良い場所なんだけどね。

私はイベルタルを連れ、懐かしくも思う日本の街を歩いた。
もう過去の家は使えないし、新たに探さなきゃならない、か…
とはいえ、長居する気は無いし、泊まるならホテルとかの方が良いわね。

簡単な仕事だったとはいえ、流石に疲れはあるし、もう駅前のビジネスホテルにでも泊まろうかしら?


ルザミィ
「貴女、部屋のランクは気にする?」

イベルタル
「どうでも良い…任せる」


まぁ、そう言うわよね…イベルタルなら。
なら、もう適当で良いか…シャワーと寝床があればもうどうでも良いわ。


イベルタル
「…ひとつ良いか?」

ルザミィ
「あら? 珍しいわね…何か要望?」


イベルタルは軽く手を上げてそう言って来る。
何気に珍しい事だ、イベルタルはほとんど文句とか言わない娘だったし。
一体、何が気になるんだろうか?


イベルタル
「…食事は、ジャンクフード以外で頼む」

ルザミィ
「…そ、そうね、わ、解ったわ」


私は空笑いをしながら、元気無く答えた。
自慢じゃないけれど、私は料理なんて出来ない。
なので、基本的な食事は最も簡単に食べられるジャンクフードが最も多いのだ。
私は全く気にしないのだけど、イベルタルは気になるらしい。

まぁ、食事位はちゃんとした物を食べたいでしょうしね。
…言われなかったら、間違いなくコンビニでホットスナックを大量に買ってたわ。


ルザミィ
「貴方って、好きな食べ物とかあるの?」

イベルタル
「別に無い、が…お前が買って来る物は、いい加減飽きた」


そういえば、ここ最近ホットドックとか、フランクフルトとか、フライドチキンとかその辺ばっかり食べてたわね〜
前に大護にも注意された事あったわ…自炊位しろって。

しかし、面倒な物は面倒なのだ。
私はその辺、家の外と中でキャラを切り替える、残念系の美人なのよ!


ルザミィ
「仕方無い、今夜はどこかで食べてからホテルに行きましょうか」
「何か食べたい物はある?」

イベルタル
「…出来れば魚が食いたいな」


魚かぁ…和食系かシーフード系?
とは言っても、駅前はそこそこ混みそうよね〜
個人的に目立ちたくないし、なるべく目立たない店が良いんだけれど…


ルザミィ
「あ、この選択も有りか…」


私はふと大きな店を目に止める。
そこは日本では定番の食事処で、今でも多くの親子連れが並んで待っていた。
ここなら色んなタイプの家族が紛れてるし、そんなに目立たなさそうだ。
新鮮な魚もしっかり食べられるし、良さそうね♪


イベルタル
「……? あれは何と読むんだ?」

ルザミィ
「お寿司…Japanese Sushi、よ!」


実は私もあまり食べた事は無かったりする。
と言うより、私はフィッシュフライ以外の魚はあまり食べた事が無い。
刺身とか、仕事の付き合いで少し食べさせられた位だしね〜

…改めて自分の食生活がよく解るわ。



………………………



イベルタル
「何だ…? これは、どうすれば良いんだ!?」

ルザミィ
「わ、解らないわ! 一体、これはどうなってるの!?」


私たちは開始から苦戦していた。
私たちが入った店はいわゆる回転寿司なのだけれど、そこは一風変わったシステムだったのだ。
それは…皿自体にある。


イベルタル
「くっ、目の前に魚が流れているというのに、見ている事しか出来んのか?」

ルザミィ
「こ、この蓋みたいなの、どうやったら!?」


そう、流れる皿には、何やらドーム状のカバーが付けられており、容易く中身が取れない様にされていたのだ。
これには私たちふたりして大苦戦。
私自身もこのタイプの回転寿司は初めてで、どうすれば良いのか解らなかった。


女の声
「あの、これってどうやるんですか?」

男の声
「それはな〜この下の皿を握ってな〜」
「ほいっ!と、ちょい上に上げたれば、ほ〜ら簡単やろ?」


隣の席からそんな会話が聞こえた。
私はそれを参考にし、再チャレンジしてみる事に…


ルザミィ
「えっと…下の皿を」


ドーム状の下方には隙間があり、そこには皿の先端が飛び出している。
私はそれを指で握り…


ルザミィ
「ほいっ!」


と、上に少し上げてやると、パカン!と容易くドームは開いた。
これにより、私は見た事の無い寿司ネタをゲットする。
それを見てイベルタルは少なからず驚いていた。
そして、イベルタルも私の真似をして玉子焼きをゲット。


イベルタル
「…おお、しかしこれは魚じゃないな」

ルザミィ
「あっはは…確かに、でもやっと取れたわね♪」


私は笑顔で自分のネタを見る。
…うん、これ何かしら?
私は笑顔で頭に?を浮かべた事だろう。
とりあえず、何だか野菜みたいなんだけど、ライスすらそれには入ってなかった。
そもそも、これ何?


ルザミィ
「見た感じ、アボカドっぽいわね?」
「でも、ライスに乗ってないって、これお寿司なの?」

イベルタル
「…もぐもぐ、うむ、魚ではないが悪くない」
「…これは、卵と見た」


紛れもなく玉子焼きだからね…
イベルタルも流石に玉子焼きは初めて見るのでしょうね。
私も、とりあえずアボカドらしき物を食べてみる。
うん、紛れもなくこれはアボカドね!
野菜にアボカドが乗ってるのね…それ、お寿司で良いの?


ルザミィ
「まぁまぁね…次は、と」

イベルタル
「…今度は魚を取る」


イベルタルは、まるで獲物を狙う鷹の様な雰囲気で、目を細めていた。
ある意味間違いじゃ無いんだろうけどね。
私も次は流石に普通のネタを取る事に決めた。
あまり捻ったのは食べない様にしないと…



………………………



ルザミィ
「あ〜! 食べた〜!!」

イベルタル
「中々悪くない…気に入った」


イベルタルもご満悦の様だ。
私たちは満腹になるまでしっかり食事を取り、そこからホテルを目指す事に。
少しお酒も飲んだから、酔いもあるわね…


ルザミィ
「は〜…何だか、久し振りだわ…こんな気分になったの」

イベルタル
「…大丈夫か? フラついているぞ?」


私は大丈夫〜と言って手を振る。
たかだか、生ビール5杯位で心配はいらないっての!


ルザミィ
「…う〜ん、ホテルどこだっけ?」

イベルタル
「…私が知るか」


私は何とも記憶が曖昧だった。
駅前ならビジネスホテル位どこにでもありそうな物だけど〜

私は手を水平にし、額に当てて目を細め、グルリと回るが、それらしい建物は見えなかった。
おっかしいな〜…近くに無かったっけ?


ルザミィ
「ん〜仕方無い! タクシー呼ぶか〜」

イベルタル
「…やれやれ、十分酔ってる様だな」


むぅ…そんなに酔ってないっての〜
これ位、大した事無いんだから〜


ルザミィ
「Hey! TAXI〜!!」


私は綺麗な英語でそう叫び、笑顔で手を上げて車を止めた。
そして、車のドアが開き、私たちは後部座席にふたりで乗り込んだ。


運転手
「お客さん、どちらまで〜?」

ルザミィ
「どっか近いビジネスホテルに頼むわ〜」


私たちは座席にもたれ掛かり、少し休む。
運転手はそのまま車を走らせ、とりあえず移動を開始した。


運転手
「お客さん、大分酔ってるな?」

ルザミィ
「んな事無いです〜! ぜ〜んぜん! 酔ってません!!」

イベルタル
「…説得力が無さすぎる」


イベルタルは隣で呆れていた。
も〜! 何よふたりして〜


運転手
「やれやれ、相変わらず酒癖が悪いみたいだな…」

ルザミィ
「え〜? どういう事〜?」


運転手の男は軽く笑いながら、右手1本でステアリングを回す。
そして左手で頭の帽子を少し外し、頭部を一瞬露にした。
私はその瞬間に、バックミラーを見て運転手の顔を確認する。
そして、私は目を見開いて絶句した。

運転手はカカカ…と笑っており、帽子を戻して両手でハンドルを握り直す。


ルザミィ
「…何、で? 大、護…が?」

大護
「何でも屋の仕事でな、今日1日個人タクシーの代理だ」
「その隣にいるのがイベルタルか?」

イベルタル
「…! 貴様、何者だ?」

大護
「まぁ、そう警戒すんな…今はただの運ちゃんだよ♪」


イベルタルは警戒した様にするが、大護笑ってそう言う。
大護に敵意は全く無く、それが解ったのか、イベルタルも警戒を解いた。
私は、少し俯き頭の中を整理しながら、こう紹介する。


ルザミィ
「…石蕗 大護、それが彼の名よ」

イベルタル
「…!! ターゲットの、男…」

大護
「…その反応って事は、俺の暗殺でも依頼されたか?」


流石は大護、ご明察ね。
イベルタルは、まだ感情をコントロールして誤魔化せはしない。
纏う空気だけで大護に悟らせた…依頼をターゲットに悟られる様じゃ、プロとしてはまだまだね。

もっとも、その依頼は蹴ったのだけれど。


大護
「成る程、正直モンだな…噂で聞くより、良い娘みたいじゃねぇか♪」


大護は嬉しそうに笑っていた。
イベルタルの噂、って…大護は一体何を?


大護
「お前が何してようが、俺が口を出す事じゃねぇ…」
「だが、狙いが俺なら…」

ルザミィ
「待って! 貴方は関係無いわ!! その依頼はもうご破算だから!!」


私は思わず叫んでしまう。
酔いが一気に冷めた気分だ。
大護はやや気を高めたものの、すぐにそれを戻した。
そして、大護は口笛を吹きながらカーブを曲がる。
極力Gをかけない様に、ゆっくりとしたスピードで、優しく車を曲げた。


大護
「…まぁ、そうだろうな」
「お前は感情のコントロールがイマイチだからな」
「どうせ、リスクと天秤にかけて蹴ったんだろ?」

ルザミィ
「誰がイマイチかっ! 今なら、貴方位簡単にハニートラップで仕留められるんだから!」

大護
「へーへー、そりゃ成長したこって」


大護は明らかにバカにしていた。
もう…いつまで経っても自分が上だって思ってるんだから。


イベルタル
「…お前は、ルザミィの何だ?」

大護
「おっと、気になるのか? まぁ、ただの親友だよ♪」


大護は笑ってそう言い、やがて車をゆっくり停める。
目的地に着いた様で、ドアは自動で開いた。
イベルタルはやや躊躇ったものの、すぐに荷物を持って外に出る。

私は、まだ酔いが回っているせいか、少し足取りが定まらなかった。
それを見てか、大護が外に出て、私の体を抱き上げてくれる。
私は一瞬驚くものの、大護は優しく微笑むだけだった。


ルザミィ
「だ、大丈夫だから〜!」

大護
「どこがだよ…ひとりで車も降りれねぇじゃねぇか」
「ったく、そんなに強くない癖に酒なんて飲むからだ!」


私はきっと顔を真っ赤にした事だろう。
大護は多分気付いていない。
私は、忘れたはずの想いを、少しだけ思い出した気がした…


ルザミィ
「…もう、良いわ」
「はい、お釣りはいらないから」

大護
「毎度〜って! 札束じゃねぇか!? 流石に出しすぎだ!!」
「1日でこんだけ収入入ったら、怪しまれんだろうが!!」

ルザミィ
「あ〜! もうやかましいー!! だったらポケットマネーで取っとけバカヤロー!!」


私はそう言ってイベルタルの側まで走る。
そしてイベルタルに抱き着き、私は大護を見てベーっと舌を出した。
それを見て大護はため息を吐き、札束をポケットにねじ込んで帽子を深く被ってから車に乗る。
そのまま何も言わずに車を発車させ、その場には私たちだけになった。

夜の風が体を冷やす。
季節は夏に近付いているけれど、まだそれは少し先だ。
この時間は…まだ寒いわね。


ルザミィ
「…ごめんね、イベルタル」

イベルタル
「…気にするな、それよりも歩けるのか?」

ルザミィ
「……ごめんね」


私はそのままイベルタルに抱かれ、眠りに誘われる。
そして意識は夢へと落ち、私はイベルタルに抱かれてホテルへと連れて行かれるのだった…

…その日見た夢は、よりにもよって私が死ぬ夢。
もう何度も繰り返した、変えられぬ運命。
私は…夢ですら幸せになれないのだと、夢で絶望していた……










『突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語』

スピンオフストーリー 『Avenger The After』


第15話 『再会、伝えられぬ想いを…』


To be continued…


Yuki ( 2019/11/23(土) 22:01 )