『Avenger The After』
第12話 『常葉家の神様?』
セーラ
「日本、ねぇ…相変わらずゴチャゴチャしてるわね」

大護
「否定はしねぇな…だが、大都市なら別に珍しい光景でもねぇだろ?」


俺たちは、それぞれ荷物を持って船から降りて行く。
ここまで海路を使って一旦帰国だ…
車やら、足跡やら、何やらの処分に手間取った分、思ったよりも着くのが遅れちまった。

葛には連絡入れてあるが、どうせ真面目に仕事中だろ…


カネ
「あーっ! ひっさし振りの空気〜♪ 相変わらず淀んでるけど…」

大護
「まぁ、そりゃ他の国よりかは悪いわな…」


俺はそう言って周りを確認し、まず喫煙所を探す。
しかしながら、モロ混みのその参上を見て俺は項垂れた。


大護
「ちっ…どいつもこいつも考えるこたぁ一緒かよ」

セーラ
「アンタの脳ミソはその程度って事よ…ニコチン頭」


セーラは軽くため息を吐いて鞄を肩に担ぐ。
ブランド物のハンドバッグで、それなりの値段はするらしい。
こいつは変に成金趣味みたいな所があるよな…


大護
「やれやれ…タクシー拾うか、行くぞお前ら」

カネ
「はーい」

セーラ
「全く、さっさと案内しなさいよ…」


俺はとりあえず1度セーラの首を捻っておく。
全く…こいつはまず口の聞き方を学習させなきゃな!

とまぁ、俺は苦笑しながらも適当なタクシーを拾い、3人で目的の街まで向かう事にした…

ちなみに時刻は朝の9時…平日だし、駅前の辺りは人がごった返してるな。
そういう光景も、何だか懐かしい感じだ。



………………………




「やれやれ、面倒やな〜」

夏川
「紅恋さん、これ次の資料っす」


俺は夏川から紙面の資料を受け取り、それを見て手早くキー入力していく。
そんな俺のタイピングを見て夏川は感嘆の声をあげていた。


夏川
「相変わらず鮮やかっすよね〜片手で何でそんなに速く打てるんすか?」


「そんなモンは慣れや、こちとら2台同時にタイピングするんやさかい、片手でやれなどないすんねん」


俺はそう言って資料の内容を全部『暗記し』、隣のパソコンでも別のプログラムを並行をして打ち込んだ。
夏川は呆れた顔で何も言わずに去っていく。

まぁ、一般人が見たら驚くわな…
せやけど、こんなんは俺から偽装みたいなスキルや。
ホンマのテクは、リアルタイムで思考しながらプログラム打つからな…
こんな、資料見てその通り打つ作業なんか、目ぇ瞑ってても出来る簡単な作業や。

もっとも、この職場でそこまでやる必要も無いがな…



(大護はもう帰国してるか…一応メールは送っといたけど、まぁそんなに焦って会う必要も無いやろ)


俺はあくびしながら、椅子の背もたれにもたれ掛かる。
この程度の資料やったら、3分もかからんな…
やれやれ…メンドイから早引きしようかな?



「紅恋さん、ちょっと聞いても良いですか?」


その時、ひとりの社員が俺に訪ねて来る。
そいつは特に変哲も無さそうな風貌で、やけに目付きが悪い男や。
まぁ、魚が死んだ目…とでも言えばええか。
実の所、会社ではそれなりに有名なプログラマーで、この部署やと俺の次位には腕ある奴やな。



「何や常葉(ときわ)? えらい分厚い資料やな〜?」
「また、上から難癖でも付けられたか?」


俺はケラケラ笑ってそう言ってやる。
すると、常葉は軽くため息を吐いて、蔑む様に俺を見返した。
やれやれ、冗談の通じん奴やな…まぁ、かなりの堅物やし、しゃあないか。


常葉
「ちょっと、転職を考えてましてね…その為の第一歩って所ですよ」


「…はぁっ!? 転職って、お前が…か?」


俺は思わず背もたれから落ちそうになるも、すぐに体勢を整えて椅子に座り直す。
常葉は至って真面目な顔で、冗談で言ってる風や無かった。


常葉
「…紅恋さん、これ1度見てもらえますか?」


俺は常葉から差し出された、分厚い資料に目を通す。
その内容は俺の予想とは全く違う物で、常葉の奴が真面目に転職考えてるっちゅうのがよう解るモンやった…
俺は段々真剣な顔になっとったやろ…気が付いたら片手で軽くキーボードを打ち始める。
そして、簡単なプログラムを完成させ、それを試しに走らせてみた。



「…ほう、プロトタイプにしてはまぁまぁやな」

常葉
「完成したら、それで店を経営しようかと思ってます」


俺が走らせたのは、人工知能AIのテストプログラムや。
あくまで超簡易的なモンで、今動いてるのは打てば誰でも走らせられるモンやけどな…
この資料に書いてあるモン全部打ち込んだら、もっと高度なAIを走らせられるやろ。



「…完成品見な詳しくは言えんが、本気か?」

常葉
「そのつもりですよ、別にこの職種にこだわるつもりは無いですし」


「…花屋のネット通販か、誰の差し金や?」


俺は軽くため息を吐いて資料を常葉に返す。
すると、常葉は軽く苦笑してこう言った。


常葉
「強いて言うなら…家族の、ですかね」


家族…か。
確か常葉は独身で、『人間』の家族とは一緒に暮らしてへんはずやが。
ちゅう事は、100%PKM絡みか。



「…まぁ、本気なら好きにせぇや」
「このプログラムなら、煮詰めりゃとりあえず形にはなるやろ」


俺は目を通した資料の内容を頭の中で組み立て、軽くそう言う。
中身は流し読みして、重要な箇所をいくつかチェックしただけやけど、バグ取りさえしとったらとりあえず問題は無さそうやった。
何より、人生まだまだ時間はあるわ…やりたい事あるなら、やれる内にやったらええねん。


常葉
「…紅恋さんは、いつまでここで仕事をする気なんですか?」


「さて、な…俺は派遣やし、実質フリーみたいなモンや」
「金には困ってないし、気が向いたらすぐにでも別のトコには行くかもな〜」

常葉
「紅恋さんらしいですね…それじゃ、ありがとうございました」


常葉は苦笑して自分の席に戻る。
そして、すぐに自分のパソコンで仕事に戻っとった。
隣では、同僚の大城が少し心配そうな顔しとる。
事情は話してるって顔やな…やれやれ。



(せやけど、えらい急な話の割には、段取り良さそうやな?)


俺は少し気になる事もあり、周りの目や監視カメラに注意しながら高速でキーボードを打ち込む。
そして、俺のパソコンの画面を特殊な画面に切り替えた。
これは、俺のパソコンだけに搭載させてる特殊な機能や。
いわゆる裏稼業用のモードで、こっからある程度ハックやクラックを自由に行える。
もちろん、これは不法でバレたら即アボンや。
せやから、あらかじめこの部署や会社のカメラ関係のデータは全部改竄しとる。

直接人が見ぃへん限りは、怪しまれる事もないやろ…



(花屋…ね、うん? 商店街の一店が買い取り…)


俺は、街の商店データを全部調べあげ、花屋の情報を漁った。
すると、商店街唯一の花屋やった店が、誰かに買い取られとった。
それも土地ごとで、そこにあった店舗も丸ごとや。
敷地面積は大した事無いし、価格にしたらそんな大した事もあらへんけど…



(…それでも、こんな会社で働いてるだけで、ポンと買える額では無いわな)


俺は軽く頭を掻き、画面の表示を切り替える。
そして裏モードを解除してプログラムの足跡を消した。
後はロックかけて、通常モード…監視カメラも元通りにしなな。



「はぁ…やれやれやな」


俺はまた背もたれにもたれ掛かり、両手を後頭部に当ててダラダラする。
そして、思い付いた様にスマホを手に取り、そこから大護にメールを送った。



………………………



一般人A
「うおっ…!? 何だあのふたり…?」

一般人B
「スッゲェ美人…! モデルか何かか?」

ルザミィ
「………」
イベルタル
「………」


私たちは、旅客機から一般客と共に外に出る。
その際に多少の注目を浴び、多くの視線を集める事になった。
日本はもう気温も暑くなってきており、長袖では多少キツいかしらね…
イベルタルにも極力正体はバレにくい様に、両腕の翼が隠せるタイプの大きなローブを着せてある。
幸い、ここまでは適当なPKMを保護してると言い通して来たから、種族の事までは知られていない。

彼女の本当の正体が知れたら、大騒ぎになりかねないものね。
もっとも、そこまでイベルタルの名が知れていれば…だけど。


ルザミィ
「…まずは官邸に向かうわ」

イベルタル
「…ああ」


私は早足で歩き、最小限の荷物を受け取ってタクシーの元に向かう。
あくまでこの国には仕事で来ている…余計なトラブルは可能な限り避けないとね。


ルザミィ
(とはいえ、葛君ならすぐにでも気付くでしょうね…)


堂々と旅客機で一般人に混ざっていたのだ。
勘の良い葛君なら、何かしらの情報を得ているはず。
彼の性格なら、気付いた時点で動く可能性は高い、か。


イベルタル
「…どうした?」

ルザミィ
「…何でも無いわ、行きましょう」


少しづつだけど、イベルタルは私の行動を気にし始めている。
無意識に…とも言えるでしょうけど、最初に出会ったの頃のイベルタルなら、わざわざ自分からどうした?なんて言う娘じゃ無かったものね…

それだけ、彼女は学習しているのだ。
人間として、当たり前の感情と反応を…



………………………



海南
「紫音ちゃん紫音ちゃん! 今日は予定ある?」

紫音
「あ…えっと、ゴメン! 今日はどうしても外せない用があるから…」


今日の授業が全て終わり、海南ちゃんが私に誘いをかけてくれた。
いつもなら一緒に帰って寄り道したりもするけど、今日だけは絶対に行く所がある。


海南
「そっか〜それなら仕方無いね」

紫音
「ゴメンねっ、この埋め合わせはきっとするから♪」

海南
「うんっ、今度デザート奢ってもらうから♪」


私は、あはは…と苦笑し、鞄を担いですぐに靴を履き替える。
それを見て海南ちゃんは?を浮かべ、私はガララッ!と窓を勢い良く開けた。


紫音
「海南ちゃん、悪いけど窓閉めといてね?」

海南
「ほえ?」


私はそれだけ言って窓から飛び降りる。
ここは2階程度の高さだから、私の脚力なら問題無く着地出来るのだ。
しばしの滞空時間の後、私はザシャアァァッ!!と大きな音をたてて運動場に着地する。
その際、他の生徒が驚いていたが、私は気にせずに走る体勢に入った。
が、その前に私の首根っこを掴んで捕まえる何者かが…


赤井
「橘〜!? テメェは何やってやがる!?」

紫音
「うえっ!? 先生、何で!? 下に降りるの速すぎない!?」


そう、私の首根っこを掴んでいたのは、ついさっきまでHRで教室にいた、担任の赤井先生だ。
もちろん、相変わらずの赤ジャージ姿に竹刀装備の出で立ち。
そして顔を引きつらせて私に怒りの形相を向けていた。
私は、苦笑するも、血の気が引いていくのを感じる。
そして次の瞬間…うらぁ!!という、怒号と共に私の脳天には竹刀が振り下ろされた。
私はあまりの痛みに悶絶し、その場で頭を抱える。
が、それでは済まずにビシィッ!!と竹刀が地面を叩き、私の気を更に引き締めさせた。


赤井
「橘ぁ!! 全員に向けて謝罪!!」

紫音
「ゴ、ゴメンなさーーーーーい!!」


私はすぐに意図を理解し、学校の校舎に向かって土下座する。
海南ちゃんは今頃笑っている頃だろう。
他の生徒も苦笑しており、とりあえずその後、赤井先生のお説教を受けて私は帰された。

…普通に帰った方が速かったのは、言うまでもないね!



………………………



ピース
「ふんふんふ〜ん♪」


私はジャァァァァァッ!!と大きな音をたててご飯を炒めていた。
今の私が1番美味しいと思える料理で、とりあえずもうすぐ完成ですよ!


ピース
「ふふふ…この時をどれほど待ち望んだ事か!」


私は愛する旦那の帰りを待ちながら、最高の夕飯で出迎える計画を立てていた。
あらかじめ夕飯を作っておけば、私の奥さんポイントはうなぎ登り!
更にいつでも入浴出来る様に、お風呂の準備も万端!!
更に更にぃ!! 欲求爆発の旦那を受け止める体の準備もパーペキです!!


ピース
「ふっ! 私の勝負下着を前にしたら、即その場でエンドロールですよ!!」

蛭火
「ただいま〜今帰ったですよ〜」

細歩
『ただいま〜良い匂い〜♪』


ちっ、タイミング良く帰って来やがりましたか…
しかし、今日はやけに早いですね? まだ16時前だってのに…
ポケにゃんでの仕事は19時までのはずですけど…


ピース
「今日はサボりですか!? 炒飯抜きにしますよ!?」

蛭火
「誰がサボりですかっ!! 今日はアホが帰って来るって聞いたから、早めに帰らせてもらったんですよ!!」

細歩
『炒飯抜きはイヤ〜』


成る程、そういう事ですか…
ちぃ…それだと、私のズッコンバッコン幸せ未来計画♪が、破綻するじゃないですか!


ピース
「とりあえず炒飯やるので、しばらく出掛けてもらえませんか?」

蛭火
「アホですかっ! 何の為に早く帰って来たと!?」


むぅ…流石に蛭火さんを懐柔するのは無理ですね。
大体、この家での序列は基本的に蛭火さんが1番上。
下手に私が逆らうと、今後の食事事情が最悪の物に変化するやもしれません。
それだけは絶対に避けなければ!


細歩
『ピース…欲望と悪意が駄々漏れ』

ピース
「細歩さん!? 触れずして心を読むとは…!!」


細歩さんはランクルスであり、基本的にはサイコパワーを自身の体の維持に使っている種族です。
あの体を覆っているゲル体も、細歩さん自身の体がひとりで自由に動けないからこその物であり、あれが無ければ細歩さんは歩く事すら出来ないのです。

そういう事情もあってか、細歩さんはエスパータイプとしてはかなり異端な方で、読心とかそっち系の能力はあまり得意じゃ無いはずなんですけど…
いつもなら、直接触れないと読めないはずですからね。


蛭火
「アンタの頭から漏れてんでしょうが…私にでも何考えてるか解りますよ!」

ピース
「つ、遂に蛭火さんが超常能力に目覚めた!?」
「ただでさえ悪質系力技の能力者なのに、更に!?」


瞬間私の頭を蛭火さんが頭の脚でバシッ!と叩く。
あくまでヒトデの脚なので、そこまで痛くはありませんが。
無駄に重量はあるから、クラっとは来るんですよね〜


蛭火
「くだらない事言ってないで、料理に集中してください!」
「ったく、炒飯だけ作ってどうする気ですかっ」


そう言って蛭火さんは鞄を細歩さんに渡し、近くのエプロンを取って身に付ける。
その際に頭の脚は前方だけ開けており、貴重な蛭火さんのナイスバディが少し目に映った。


ピース
「まさか、その体で料理をするつもりですか?」

蛭火
「体は関係ありませんよね!? これでも基本はアンタよりも出来る自信ありますよ!?」


な、何ですと…!?
あの毒吐く位しか取り柄の無かった蛭火さんが、料理の基本〜!?
家でも基本的に買って帰るだけで、マトモにそんな技術を学んでいる風は無かったのに!?


細歩
『蛭火、お店ではちゃんと勉強して料理覚えたもんね〜♪』

蛭火
「これでも店長からは平均点以上貰ってますよ!」

ピース
「バ…バカな!? この私の○テライトサービスを上回ると!?」


なお、実際にダウンロード出来るのはネットを介してのレシピとか情報だけであり、達人の技術をコピーして完璧に真似るなんて芸当は私には出来ませんがね!
どこぞの高性能○イドロボが規格外スペックなだけです!!


蛭火
「な〜にがサービスですか、下ネタの方しかサービス出来ない女が!」

ピース
「蛭火さんに言われた!? 舐めんじゃありません!!」
「それなら、どっちが大護に美味しいって言わせるか、勝負ですよ蛭火さん!!」

蛭火
「ほ〜う? こちとら既に半年近く喫茶店で経験積んでるんですけど、それでもやると?」


私はふっ…と俯いて笑い、額に手を当てて斜めに構える。
あからさまに挑発した態度で、蛭火さんは少しイラッとしていた。


ピース
「笑止! この私の炒飯に勝てる愛妻料理など存在しません!!」

細歩
『頑張れ蛭火〜♪』

ピース
「細歩さん!? 私には応援してくれないんですかっ!?」

蛭火
「アンタの人望が本当にあると思ってんですか?」
「まぁ、良いでしょう…これを機にどっちが家で上か、上下関係をはっきりさせておきますよ!」


い、いえ…既に上下関係は、はっきりしているのですが。
し、しかし! これは私にとって好機!!
絶対に勝って、ダイゴの信頼を1番に勝ち取らなければ!!



………………………



大護
「…やれやれ、ようやく帰って来たな」

カネ
「そうね、思ったよりも久し振りかも」


俺たちは、半年近く留守にしていた家がある団地に戻って来た。
時刻は夕方過ぎで、もう夕日は沈みかけてる。
良い感じで夕飯時ってトコか。


セーラ
「ったく、何でここまで歩いて行くのよ?」
「タクシーのひとつでも拾えば良いじゃない!」


セーラは歩き疲れたのか、項垂れながらも後ろから追い付く。
やれやれ、魔術師ってのは体が貧弱だねぇ〜
とはいえ、これからはコイツも俺が面倒見なきゃならんし、手綱だけはしっかりと握らねぇとな…


少女
「……? カプ・テテフ…」

カネ
「!? 子供…? いえ、貴女確か『理奈(りな)』、だったかしら?」


俺たちの更に背後で、ひとりの少女が目に入る。
だが、その姿は子供でありながら青髪に2本の尻尾。
服装は一般的な物で、長袖のシャツに膝まで伸びるスカート。
年齢は、中学生にもいかねぇ位か?
カネは知ってるみたいだが、この団地に住んでんのかね?


理奈
「はい…覚えてて、くれたんですね?」

カネ
「一応ね、こうやって話すのは初めてだけど」

大護
「ん? 知り合いって訳じゃ無かったのか?」

理奈
「初めまして…この棟の405号室に住んでる、『アグノム』の常葉 理奈です」


そう言って少女はペコリとお辞儀をする。
ちゃんと躾を受けているのか、礼儀はしっかり出来てるみたいだな。
しかし、アグノム…ねぇ? 俺が解るわけも無ぇが、どんな種族なのやら。


大護
「…俺は304号室の石蕗 大護だ、よろしくな嬢ちゃん」

セーラ
「…ふん、私は名乗らないわよ?」


セーラは鬱陶しそうにそっぽを向いてしまう。
理奈って娘は特に気にしない様で、やや無感情に俺たちを見回した。
何て言うか、少し不気味な所があるな。


カネ
「改めまして、私はカネよ」

理奈
「はい、よろしくお願いします」


理奈ちゃんは少しだけ笑ってカネにお辞儀する。
やれやれ、まだ子供って所か…感情があまり表に出せねぇんだろうな。
しかし、この時間帯でひとり外に出ていたのか?
こんな少女がひとりで…ねぇ。


大護
「良かったら、送ってやろうか? まぁ、危険は無いと思うが」

理奈
「…はい、お願いします」


予想外に、受け入れられた。
俺は断られるつもりで言ったんだが…まぁ、それならそれで良いか。
俺は軽く笑い、とりあえずこう言う。


大護
「なら、さっさと帰るか! カネ、お前はセーラ連れて先に帰っててくれ」
「俺はこの娘を家まで送る」

カネ
「分かったわ、エレベーターまではどうせ一緒だし、そこまでは行きましょう」

セーラ
「…なら、さっさと行くわよ」


セーラはやや不機嫌そうにしていた。
まぁ、コイツはポケモンにあんまり良い感情抱いてはいないからな…
非現実を簡単に現実に変える、そんな存在がセーラは許せないんだろう。



………………………



大護
「405だったな…ならあっちか」

理奈
「あの…手、握ってもらえますか?」


俺は?を顔に浮かべ、差し出された理奈ちゃんの右手をそっと握る。
やや温もりを感じる体温に、俺は一瞬戸惑うも、優しくその手を握ってやった。


理奈
「…やっぱり、間違いじゃない」

大護
「あん? 何か言ったか?」


俺がそう聞くも、理奈ちゃんはフルフルと首を横に振るだけで、俯いて黙ってしまった。
俺はそんな理奈ちゃんを目的の部屋にしっかり届け、やがて理奈ちゃんから手を離す。


理奈
「…ありがとうございました」

大護
「良いさ、気にすんなよ♪」
「この街は、夜が怖ぇんだ…だからお安いご用さ」


俺が笑ってそう言うと、突然家の扉が開く。
どうやら家の人が気付いた様で、中からは長身の女性が出て来た。
デケェな…180cm以上はあるか? 俺とそんなに変わらねぇ位だ。

だが、その女性は一目見て人間とは思い難かった。
赤い瞳に、真っ直ぐ伸びた銀髪、更に美しく真っ白な肌と、おおよそ普通の人間とは思えない美人さんだ。
頭には金の冠みたいな物を被り、何故か俺はその女性を見て違和感を覚えた。


大護
(何だこの女…? 俺は、どこかで会った事があったか?)


あまりに朧気で、何の確信も無い。
そもそも記憶には全く覚えが無く、あくまでただの違和感だ。
強いて言うなら、本能的に何かを感じたって所か?
しかし、彼女からは何も悪意の類いは感じない。
あくまで、ただの一般人みたいだ…


銀髪の女
「えっと…どちら様ですか?」

理奈
「ただいま、お母さん」


俺の存在を疑問に思う女性を余所に、理奈ちゃんは小さくそう言った。
お母さんって…おいおい、まさか人妻かよ?
見た感じまだ若そうなのに、こんな子供がいるのか?
つーか、いつ産んだんだよ!? PKMって何年前から確認されてんだ!?

俺は頭がこんがらがりそうになったが、お母さんと呼ばれた母親のPKMはクスクス笑い、優しく理奈ちゃんを抱き上げた。
俺はそれを見て、細かいツッコミは不要だと気付く。
理由や仮定はどうあれ、このふたりは立派な家族みたいだ。
それなら、部外者の俺がどうこう言う資格は無ぇな…


大護
「…まぁ良いか、じゃあな嬢ちゃん」

理奈
「あ…おじさん」

母親
「あ、あの! 貴方は一体?」

大護
「…下の304号室に住んでる石蕗だ」
「たまたま、その娘がひとりだったから、ここまで送っただけさ」


俺はそれだけ言ってふたりに背を向ける。
そして軽く背中越しに手を振り、そのまま立ち去って行った。
へっ…相当美人の奥さんだ、誰だか知らねぇが良い嫁さん貰ったみたいだな♪



………………………



大護
「うっし、帰ったぞ〜?」

紫音
「オッジさーーーん!! 会いたかったよーーー!!」


まず、1番最初に姿を現したのは、紫音ちゃんだった。
猫ポケモンらしい野性的な飛び付きで、俺は一瞬倒れそうになるもしっかり紫音ちゃんの体を抱き止めてやる。
すると、紫音ちゃんは本当に嬉しそうな声で唸り、俺の胸に自分の顔を擦り付けていた。


大護
「はは、本当に猫みたいだな」

紫音
「だってチョロネコだも〜ん♪」

ピース
「くらぁ泥棒猫!? いい加減に離れなさい!!」


次に現れたのは我らが暴君のピースだ。
相変わらず変わらない様で、暴君っぷりを発揮しているみてぇだな。
俺は紫音ちゃんを片手で抱えたまま、ピースの方に歩いてとりあえず頭をポンポン、と叩いてやった。


大護
「元気そうで何よりだ、長い間悪かったな…」

ピース
「ふ、ふんっ! 解ってるなら、ちゃんとご褒美貰えるんですよね!?」

大護
「まぁ、慌てるな…それは飯食ってからにしよう」
「おっ、何か良い匂いすると思ったら、炒飯じゃねぇか!」
「中華とか久し振りだな〜ここしばらく食えてなかったから、ありがたいぜ!」


俺は皆が集まっているリビングに踏み込み、そして顔ぶれを見た。
いつもの家族に、居候がもうひとり…とりあえず、全員揃ってるな。


蛭火
「ふん、まぁ無事そうで何よりですよ」

細歩
『大護、お帰り〜♪』

大護
「おう、ふたりともご苦労さん…今まで助かったぜ」


俺は蛭火と細歩に手を振り、労いの言葉をかけて座布団に座る。
紫音ちゃんは、その際に俺から離れて隣に座る。
さて、上手そうな飯もある事だし、少し時間は早いが食い始めるか?


カネ
「どうするの? もう夕飯にする?」

セーラ
「どっちでも良いけれど、このままじゃ冷めきるわよ?」


確かに、既に置いてある以上、食わないと冷めるわな。
つーか、既に湯気は出きっているみたいで、そこそこ時間は立っているみたいだった。


ピース
「とりあえず、その前に決着を着けますよ!?」

蛭火
「上等ですよ…まぁ、私が負けるとは思えませんけど?」


俺はあん?と思いつつも、ピースたちからふたつの皿を差し出される。
テーブルの上に乗せられているそれには、炒飯が盛られていた。
うん? 良く見ると微妙に材料が違うのか?


大護
「…何を考えてんだ?」

紫音
「どっちが美味しいか、判定してほしいんだって」


紫音ちゃんはやや呆れた顔で横から教えてくれる。
俺は、ああ…と思い、その意味を理解した。
成る程ねぇ〜あのピースと蛭火が、ふたりして料理とは…


大護
「へっ…嬉しくなってくるじゃねぇか」
「なら、しっかりと食って判定してやらねぇとな…」


俺は早速レンゲを片手に、右の皿から一口分掬う。
具材は一般的な物みたいで、特に変わったモンは入って無ぇな。
確かこっちは、蛭火が差し出した方だな…
俺は一口をゆっくりと咀嚼し、味と食感をゆっくり味わった。


大護
「…味は文句無ぇな、その辺の店と比べても遜色は無さそうだ」

蛭火
「当然ですね! 実際に店で客に出してる腕ですから!!」


蛭火はそう言って両腕を組んで偉そうにドヤる。
それなりに嬉しかったらしく、少しだけ頬が赤らんでるな。


大護
「しかし、肉と野菜のバランスがおかしくねぇかコレ?」
「炒飯って、もっと米が主張してそうなモンだが…」

細歩
『あ〜それ余り物で作ったから…蛭火、もったいないから全部使うって言って』

蛭火
「い、良いじゃないですか!? 消費期限ギリギリだったんですよ!!」


成る程、それでか…
まぁ、それなら今日位は大目に見てやるかな…
普段なら、暴君が余計に食うから多めに保存してたんだろうし。


大護
「とりあえず、次はピースの…」


俺は目をキラキラさせるピースに皿を差し出され、その炒飯を見て固まった。
匂いは確かに良いんだが、何だコレ?
俺は、皿の上に乗っている物体を見て、軽くレンゲで掬ってみた。

うお…カリッカリに炒めてやがる。
コレは炒飯っつーか、ドライカレーみたいな?
何か水っ気が全然無くて、パッサパサなんだが?


大護
「……無駄に味は美味ぇな」

ピース
「無駄ってどういうコメントですか!?」


正直、食感は最悪の一言だが、食えるには食える。
味はしっかり炒飯しており、感覚的には炒飯味の何かを食っている気分だ。
…ぶっちゃけ、変なスナック菓子って言った方が的確か?


ピンポーン!


大護
「ん? 一体誰だ?」


俺は突然のインターホンに驚き、とりあえず炒飯もどきを置いておいて玄関に向かう。
そして、皆の視線を背後から受けながら俺はドアを開けた。
外の空気を体に受け、俺は少し体をブルつかせるが、目の前にいた女性を見て俺はギョッとなってしまう。
そこにいたのは、ちょっと前に顔を合わせただけの人妻だったのだ。


理奈の母
「あの…突然、すみません」

大護
「あ、ああ…何か、用か?」


俺は苦笑しながらも、彼女に笑いかける。
すると、彼女は少しだけ恥ずかしそうに俯き、俺の前に大きめの皿を差し出した。
それは使い捨て用の皿で、上には炒飯が乗っている。
ラップでちゃんと保護されており、どうやら俺にこれを持って来た様だ。


大護
「これ…家に、か?」

理奈の母
「は、はい…少し作りすぎてしまって、理奈の事のお礼も兼ねて、よろしければ」


俺は素直に、それを笑っていただく事にする。
人の好意は素直に受け取るのが俺の流儀だ。
じゃないと、持って来てくれた相手に失礼だからな。


大護
「ありがとうな、すぐにいただかせてもらうぜ♪」

理奈の母
「はい、それでは…」


彼女はニコッと笑ってお辞儀し、そのまま帰って行く。
ホント良い人だな〜わざわざ、お礼に来てくれるなんて♪


蛭火
「…今の、常葉さんですよね?」

大護
「ん? そういや、そんな名字だったな…」


俺がそう言うと、蛭火は呆れた様な顔をする。
何だよ…蛭火は知ってたのか?


蛭火
「まぁ、知らないのは無理無いですか」

大護
「何だよ…お前は知り合いだったのか?」

細歩
『ティナさんって、言うんだよ〜♪』
『凪とか、華凛とか、他にも沢山のPKMと一緒に住んでるんだって〜』


沢山の…ねぇ。
って事は、PKMの共同生活みたいな感じなんだろうか?
確か、PKMは保護責任者がいなきゃ、まだマトモに生活は出来なかったと思うが。


ピース
「…『ギラティナ』のPKMが、何でダイゴに?」

大護
「ギラティナ…ってのか? ……ギラ、ティナ」


俺は、何故かその名を頭の中で反復する。
いや、むしろ反射して脳内で響き渡る感じと表現すべきか?
そして、俺は『あの』資料に書いてあったひとつの名を思い出す。


大護
(ギラティナ……神の、番外…!?)










『突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語』

スピンオフストーリー 『Avenger The After』


第12話 『常葉家の神様?』


To be continued…

Yuki ( 2019/11/13(水) 21:52 )