『Avenger The After』
第10話 『肉のお姉さん、夏川 天海!』
琉女
「え、もう行くの…?」

カイオーガ
「うん…やっぱり、私は海が好きだから」


「ほうか…まぁ、無理に引き止めるのも悪いしな」


あれから何日かが経ち、カイオーガちゃんもようやく人間社会に慣れてきた感じやったけど、やっぱり本人としては海に帰りたいらしい。
琉女ちゃんは少し寂しそうに顔を俯けていたが、やがてしっかりとした表情に切り替え、こう答えた。


琉女
「ならば行くが良い! だが忘れるな!?」
「お前には…最高のバディ〜が、いるという事を!!」

カイオーガ
「あ、はは…うん、また…その内会いに来るよ♪」


「ほな、近くの海岸まで送ったるわ…車出すさかい、外で待っとき!」


俺はそう言ってすぐに準備を始める。
琉女ちゃんはこれから仕事やから見送りは出来へんが…


ピーチ
『葛さん、私はどうしましょう?』


「あ〜ほな、琉女ちゃんをサポートしたってや」
「こっちは送るだけやし、今日は裏の仕事も無いやろうから…」


俺は少し考えるも、あえて問題無さそうに言うた。
実際には無い事も無い…まぁ、それは大護が帰って来てからや。
グラードンにも会えたみたいやし、一旦情報整理で日本に帰って来る言うとったからな。
アフリカから空路で帰って来る言うとったし、隠蔽の手配も回しとかんと…


ピーチ
『…本当によろしいのですね?』


「詮索やったら無しやで? 今は動く必要も無いさかい」

ピーチ
『了解しました、それではこれより琉女さんのスマホに常駐いたします』


そう言って、ピーチちゃんは琉女ちゃんのスマホにデータを移行させた。
これで琉女ちゃんの方は大丈夫やろ…まぁ、俺もカイオーガちゃん送ったらすぐ仕事やし。



(用心はするに越した事無い…とにかく琉女ちゃんを守る事が最優先や)



………………………




「ほな、ここで大丈夫か?」

カイオーガ
「はい、どうも有り難うございました♪」
「優しくしていただいて、本当に嬉しかったです♪」
「琉女の事、大切にしてあげてくださいね?」


カイオーガちゃんはこの上無い笑顔でそう言い、すぐに背を向けて海に向かった。
俺はその美しい姿にしばし酔いしれ、少しタバコを吸ってから帰る事にする。



「ええ娘やったな、あの娘…ただ臆病なだけで、ごっつ優しい娘やんか」


俺は腕時計で時間を確認する。
6時過ぎか…もう朝日も昇ってそろそろ起きて来る人間も増えるやろな。



「ふぁ〜あ…琉女ちゃんは早朝勤務やし、頑張っとるよな〜」


あれから琉女ちゃんも自分の給料で色々買うとるし、しっかりしてるわ。
別に金銭関係ならもっと甘えてくれてもええのに、琉女ちゃんはほとんどワガママ言わへんからな〜
見た目は子供っぽいけど、立派に大人の社会で生きてるのはスゴいこっちゃ。



「ふぅ…ほな、俺も仕事行くかな〜」
「最近大城が調子乗っとるし、少しからかったるか?」


大城のアホ、何があったんか知らんが、いきなり結婚したとかぬかしよったからな…
ああ、ちなみに大城ってのは、俺の仕事場の同僚な♪
まぁ、派遣の俺と正社員のアイツやったら立場はちゃうけど…



「うしっ! ほな今日も元気に勤務しましょか〜♪」


俺はタバコを車の灰皿に捨て、そのまま会社まで走る事にした。
法廷速度でも遅れはせんやろ…



………………………



大城
「ひゃっほーい! 今日も愛妻弁当だもんね〜♪」


「やぁ大城君〜幸せそうやね〜? ちょ〜っと体育館裏行こか…」

大城
「何でいきなりヤンキー口調!? 関西弁だから無駄に怖い!!」


もちろん冗談やが、本気にさせてしもたらしい。
うーん、関西弁はむしろ気さくなモンやと思うんやが、やっぱ東のモンはよう解らん…
まぁ、そんな感じで俺は適当に大城の肩を叩きながら、笑顔でからかってやった。
それを見て、ひとりの同僚が言葉を放つ。


同僚
「紅恋さん…こんなアホは放っておいて、コンビニ行きましょう!」

大城
「誰がアホだ誰がっ!」


「あ〜悪い夏川…俺、今日は午前でアガリやさかい」


俺は話しかけてきた同僚の夏川にそう言って、やんわりと断る。
すると夏川は残念そうに俯き、この上無いため息を吐いた。



「まぁ、そないに落ち込むなや! それよか、今夜20時に『語呂酎(ごろちゅう)』で待っとるから忘れるなや?」

夏川
「…は?」


「は?や、ないやろ! お前、合コン来る言うたやんけ!」
「今夜はPKMの可愛い娘沢山来るさかい、お前も来たい言うとったやろ?」


俺がわざわざ説明してやると、夏川は思い出したのか、少し慌てながらこう答えた。


夏川
「いや、あれてっきり冗談なのかと…」


「アホッ、こっちは来る思て人数分予約しとんねんからな?」
「会費は俺が持ったるさかい、とにかく来いよ?」
「こっちも知り合いのPKMは誘うつもりやし、マルちゃんたちも来るから、お前も何か知り合いおるんやったら声かけとけや!」

夏川
「って、俺に知り合いのPKMなんて……うん、いません!!」


ん? 何か言いかけとった気したけど、何やろ?
まぁ、別におらんならおらんで構へんねんけどな…
今回はぶっちゃけマルちゃんの結婚祝いやし、合コン言うても、いかがわしいモンとちゃうからな。



「まぁええわ…とにかく、10分前には来いよ!? ほなな〜♪」

夏川
「あ、お疲れ様でーす」

大城
「お疲れでーす」


俺はタイムカードを押してさっさと、移動する。
とりあえず、昼はバーガーでええやろ♪
琉女ちゃんの仕事振りも見たいしな〜



………………………



ワイワイガヤガヤ…



「こら、また大盛況やな…」


俺は琉女ちゃんが働いてる職場を店の外から眺めて絶句する。
あれから、かなり琉女ちゃんも人気になったみたいで、今や店の看板娘になっとった。
何だかんだで、琉女ちゃんの厨二病接客が受け入れられたっちゅう事よな〜
世の中不思議な事だらけや…



「あかんな…流石にこれやと待たな入れんわ」


流石に昼のピークやしな…ドライブスルーも順番待ちやし、こら諦めた方が良さそうや。
俺はそう思って、車を動かす。
すると電話の着信音が鳴り響き、俺はハンズフリーにして通話モードにした。



「もしもし〜?」

マル
『やっほ〜カッツー♪ 今大丈夫?』


かけてきたんはマルちゃんやった。
俺の友人のひとりで、今夜の主賓や♪



「何やマルちゃん? 今夜の事やったら万事OKやで?」

マル
『うん、それは良いんだけど…本当に費用の事良いの?』


「ははっ、何やその事かいな? それなら気にせんでええて!」
「それなりに蓄えもあるさかい、今夜は大人しくもてなされんかい!」

マル
『うん…ゴメンねカッツー、何から何まで…』


「ええんや! 俺らの仲やんけ♪」
「俺はマルちゃんが幸せになってくれるなら、これ位の事はお茶の子さいさいや!」
「せやから、今夜は楽しんでや? 折角の祝いやし!」

マル
『うん、分かったよ…それじゃ今夜ね♪』


俺は、ああ…とだけ答え、電話は切れる。
全く、マルちゃんはええ奴やわ…
結婚は先越されてもうたけど、まぁそれもしゃあない。



(所詮、俺も裏の人間やからな…)


マルちゃんはあくまで表側や。
前は1度だけ協力してもろたけど、もう2度と裏で頼る事は無いやろ。
ましてや、人並みの幸せを自力で勝ち取ったマルちゃんに、そんな仕事させるわけにはいかへん。
せやから、今日のパーティーはあの時のお返しみたいなモンや。

…まぁ、夏川は実質オマケか。
アイツもPKMの事は好きやろうし、とりあえず実際に触れ合わせてみな進展せん思うて誘うたからな。



「琉女ちゃんは17時まで勤務って言うとったからな…」
「まぁ今日はピーチちゃんが付いてるし、迎えには行かんでも大丈夫やろ」


どうせパーティーは20時からや、そんなに慌てんでも構へん。
それよりもメンバーの方確認しとかんとな〜



………………………




「で、このメンバーが集まったわけか…」

琉女
「ふっ、歓迎するぞ皆の者! よくぞ、今宵の宴に集まってくれた…」

ピース
「晩御飯食いホーダイと聞いて」

蛭火
「まぁ、別に暇ですし…」

細歩
『合コンって初めて〜♪』


とりあえず集まったのはこの4人か…まぁ、色んな意味で凄まじいメンバーやな。
夏川はどうせぼっちやろうし、精々話でもさせたらなな。


マル
「やっほ〜♪ カッツーお待たせ〜」


「おっ、主賓の登場やな♪ 待っとったで!」

優羽
「皆さん、初めまして…」


そして、マルちゃんと手を繋いでペコリと頭を下げるひとりのPKM。
彼女が、マルちゃんの奥さんでアーゴヨンの『優羽(ゆうは)』ちゃんや。
体の節々には種族特有の棘が付いており、そこの部分は服から露出している。
棘の先にはゴムの様な物を付けて防護しており、ぶつかった位やったら一応大丈夫な様にはしとる。


蛭火
「これはまた…私たちに勝るとも劣らない見た目の娘が来ましたね〜」

細歩
『蛭火、それ言いすぎ…』

マル
「あっはは…紹介するよ、僕の嫁でアーゴヨンの優羽♪」
「今日は、僕たちの為にありがとうね♪」

ピース
「むぅ…羨ましいじゃないですか!」
「あ〜! ダイゴも早く指輪のひとつでも渡してくれれば〜!」


ピースちゃんはひとり妄想しながら悶えてた。
マルちゃんと優羽ちゃんの薬指には、確かに指輪が填められており、ふたりの絆を示す物と確信出来る。
改めて俺は嬉しい気持ちになり、早速時間を確認する事にした。



「夏川の奴遅いな〜? 10分前には来い言うたのに…」

ピーチ
『夏川さんからメールが入りました、後5分程で着くので、先に始めておいてくださいとの事です』


俺の胸ポケのスマホからそう音声が響く。
ほんならええわ…とりあえず予約しとるし、さっさと中に入ろうか。



「よっしゃ、ほな入るで〜?」

琉女
「ふふ…これより、世界に轟く邪神会議の始まりだ!」

蛭火
「何ですかそれは…? ただの合コンでしょうが…」

細歩
『男女の人数合ってないけどね〜』

ピース
「そんなのは良いんですよ! お腹一杯になれれば!!」

マル
「あはは…楽しくなりそうだね♪」

優羽
「う、うん…」


優羽ちゃんは不安そうにマルちゃんの手をギュッと握る。
マルちゃんはそれを優しく握り返し、ニコやかに笑って優羽ちゃんを安心させていた。
やるやん…しっかり彼氏しとるわ♪



………………………




「とりあえず、皆酒はいけるんか?」

蛭火
「嗜む程度なら…まぁ、問題は無いですね」

細歩
『私も大丈夫♪』

ピース
「私は設定上は未成年ですので一応止めときます!」

琉女
「私は飲んだ事無いなぁ…」


ふむ、ほなとりあえずピースちゃんと優羽ちゃん以外は飲めるか?
琉女ちゃんは解らん所やが…まぁ、多分大丈夫やろ。



「ほな、とりあえず生中5つとコーラふたつ!」
「後、枝豆とキムチ、キャベツも頼むわ!」

店員
「はい、かしこまりました!」


俺はとりあえずそれだけ頼んでメニューに目を通す。
この店はいわゆる居酒屋で、それなりに大きい店や。
客もようけ入ってるし、今日は週末やから予約客も多いんやろな〜



「とりあえず何食う?」

ピース
「私は焼き鳥全種いただきます!」

蛭火
「私はサザエの殻焼きとホルモンですね〜」

細歩
「私は鳥丼〜♪」

琉女
「ふっ…やはり私に相応しいのは、漆黒の魔力に包まれた暗黒の永遠鳥!」
「その身を焼き焦がし、深淵に染まった至極の身をいただくとしよう!!」

マル
「あはは…優羽は何にする?」

優羽
「あ…えっと、じゃあ芋の煮っころがし」


それぞれが好きな物を頼む中、優羽ちゃんは恥ずかしそうにメニューを握り締めてマルちゃんにそう言う。
そんな優羽ちゃんの仕草を見てマルちゃんは頬を緩ませ、幸せそうにこう言った。


マル
「うん、それじゃあ僕も同じのを頼むよ♪」

優羽
「良いの?」

マル
「もちろん! 折角のパーティだし、今夜は優羽と一緒に楽しむよ♪」


俺はそんなふたりを見て笑う。
良かったわ…ふたりがホンマに幸せそうで。
俺は陰ながら護ったらなな、この平和な世界を。
もう2度と、悲劇は起こさせん。
俺に出来る事は知れとるやろうけど、それでもやれる事は全部やる。

大護もルザミィも、きっと同じ事を思ってくれてるはずや…


店員
「お待たせしました〜! まずは生中とコーラでーす!」


気が付くと店員がトレーで飲み物を先に持って来た。
俺はとりあえずそれを皆に配られたのを見る。
そして全員がジョッキを持った所で…



「ほな、ひとり足りへんけど先に乾杯しよか?」


と、俺がジョッキ持ってそう言うた所で、近付く足音が聞こえる。
俺はその方に目を向けると、そこには異様な女性が歩いて来てた…
俺はそれを見てまず絶句する。



(ソルガレオやと!? 何でこんなトコに……って)

夏川
「ど、ども〜…」


さらに見ると、2m近くはあろうかという身長のソルガレオの肩には夏川が乗っていた。
メチャクチャな光景やが、これは現実や。
筋肉の塊とも言える屈強なその女性は、身長170cm以上はある夏川を軽々と肩に座らせてた。
ライオンの鬣の様な白髪は、所々に赤や金の色が混じっており、それがソルガレオの特徴。
何よりもこの威圧感…流石は元神か。


琉女
「!? 貴様…は」

ソルガレオ
「ほう! よもやこんな所で会おうとはな!?」
「お前も元気そうで何よりだ!」


予想通り、琉女ちゃんは驚いて固まる。
しかしながら、琉女ちゃんは例によって格好良いポーズを取りながら額に手を当てる。
そして目を瞑り、静かにこう言った…


琉女
「ふっ、歴史に名を残す聖戦が遂に起こるか…」
「皆を巻き込んだ罪は重いが、それでも私は退けん!」

ソルガレオ
「ん? お前何を言っとるんだ?」
「しばらく会わない間に、悪い物でも食ったか?」


ソルガレオは?を浮かべて笑う。
全く気にしてはいない様やが、それで流せるねんな…
とりあえずソルガレオは夏川を豪快に下に降ろし、そのまま椅子を引いて夏川を優先で座らせた。
そしてそんな夏川を守護するかの様に、どっしりと椅子の後で仁王立ちする。


夏川
「いやいや!! これってそういう会議とかじゃないから!?」
「天海(あまみ)さんも座ってください!!」


「天海〜? おま…まさかその人の!?」

天海
「ハッハッハ!! これは勘違いだったか!?」
「これはスマンスマン! では、まず名乗らせてもらおうか!?」
「俺はソルガレオの『天海』! この夏川 慎吾の嫁だ!!」

琉女
「嫁ぇ!? 嘘でしょ!?」

ピース
「生意気言ってんじゃ無いですよ肉のお姉さん!?」

蛭火
「良いから口を挟むな…」

細歩
「あはは〜♪」

マル
「えっと…嫁って、スラングじゃなくて?」

優羽
「……?」


とりあえず、いきなりの爆弾発言に全員が騒ぎ立てる。
幸い店内は他の客も騒いどるから特に気にはされてへん。
…それでもソルガレオ、いや天海はんの存在感には注目が集まっとったが。


夏川
「…ああ、早速話が暴走気味に」

天海
「気にするな慎吾よ! ここは会議でないなら宴会の席だろう!?」
「それならば俺も楽しもう!! 俺にも酒を貰えるか!?」
「もちろん慎吾の分もだ! ハッハッハ!!」


天海はんは豪快に座ってそう笑う。
何て言うか…絵に描いた様な豪胆振りや。
ここまで男らしい女性はそうおらんやろ…
さしものピースちゃんも、存在感食われて空気化しとるし…



「と、とりあえず生中ふたつ追加!」

天海
「何の! 大ジョッキで頼む!!」

琉女
「…やれやれ、変わらんなお前は」


琉女ちゃんは天海はんの豪胆振りにため息を吐く。
そして呆れた様に肩をすくめ、首を横に振って夏川を見た。


琉女
「………」

夏川
「な、何でしょう…?」


しばしの沈黙。
琉女ちゃんは夏川を軽く睨み付け、その瞳は今までに見た事の無い位の緊迫感を持っていた。
隣におる俺まで気圧される位のプレッシャーや。
琉女ちゃん、もしかして怒ってるんか?


琉女
「…ふん、人は見かけで判断は出来ん」
「しかぁ〜し!! 仮にも我が姉の伴侶を名乗るからには、相応の物を示して貰うぞ!?」

夏川
「はぁっ!?」

ピース
「それは面白い! 是非見せてもらいましょうか?」


琉女ちゃんは大袈裟なポーズを取って夏川を指差す。
ピースちゃんは悪ノリして拍手し、煽っていた。
俺はため息を吐き、とりあえずビールを追加注文する。
蛭火ちゃんと細歩ちゃんは自分のペースで既に飲んどるな…
俺はしゃあないから無理矢理にでも司会を進行させる事にした。



「えーーー!! とにかく人数も揃うたので!」
「この度、『流石 丸』(さすが まる)こと、マルちゃんの結婚祝いパーティを始めたいと思います!!」

蛭火
「お〜」

細歩
「パチパチパチ〜♪」


蛭火ちゃんと細歩ちゃんは空気を読んで拍手してくれる。
マルちゃんも笑い、優羽ちゃんは恥ずかしそうに赤くなって俯いていた。
そんなふたりを見て、琉女ちゃんは少し苦笑する。
何か思う所はあるんかな? ピースちゃんなんかは憎たらしそうにしとるが…

とりあえず、注目は逸らせたな!


天海
「ほう! そうかー! おふたりは結婚なされるのか!!」

夏川
「そ、そうだったんですね…知らなかったっすよ」

マル
「うん、ナッツーにはまだ言ってなかったもんね」
「あれから考えたけど、やっぱり僕は結婚するって決めたんだ」
「優羽は僕が必ず幸せにする! だから、やっぱり籍は入れようって…」


夏川は感慨深そうにふたりを見た。
夏川もマルちゃんとは知り合いで、俺ほど深い付き合いでもあらへんけど、PKM関係の話で仲良うなったからな〜


天海
「ふむ…優羽殿、だったか? 貴女は幸せか?」

優羽
「えっ? あ…はい」
「とても、幸せです♪」


優羽ちゃんは胸に手を当て、笑ってそう言うた。
その顔は嘘偽り無く、優しい笑顔。
天海はんはそんな優羽ちゃんに対し、目を細めて微笑む。
そしてキッと顔を引き締め、両手を上に上げてこう叫んだ。


天海
「マル殿と優羽殿に幸あれーーー!!」
「ハッハッハー!! 今夜は宴だー!! 酒はまだかー!?」

店員
「お、お待たせしましたー!!」


店員は天海はんの豪快さに怯みながらも、酒とつまみを持って来る。
そんな感じで祝いの席は滞りなく進み、皆が思い思いのペースで話し、そして飲み食べしていった…

やがて時間も進み、俺らは2時間ほど楽しくやった所でようやく落ち着く。



………………………



天海
「ワハハッ!! 俺はまだまだ行けるぞ〜!?」

細歩
「むぅ…強い」

蛭火
「細歩より飲めるなんてバケモノですかっ!?」

琉女
「流石はソルガレオ…いや、天海よ!!」
「それでこそ我が姉!! やはりその光の力は特筆に値する!!」


「あ〜! 流石に飲みすぎたわ…」

マル
「あはは…そろそろお開きかな?」

優羽
「…zzz」


優羽ちゃんは間違って酒を飲んでしまい、ご覧の様に酔い潰れてしもてた。
今はマルちゃんに寄り添う様にして眠っており、安らかな寝息をたててる。


ピース
「…ふん、どいつもこいつも幸せそうに」

蛭火
「アンタはまず、そのひねくれた性格をどうにかするんですね!」


ピースちゃんは蛭火ちゃんにそう言われてうぐっとなるも、顔をしかめて焼き鳥をまだ食う。
既に全種制覇しとるのに、まだ食えるんか…?


ピース
「…ひねくれてるのは、プログラムのせいですよーだ」

蛭火
「どうだか…? 案外地の性格なんじゃないです?」
「ね〜? バックアップさーん?」

ピーチ
『ノーコメントとさせていただきます』
『少なくとも、私にこんなバグ挙動は存在しませんので』


テーブルに置かれた琉女ちゃんのスマホから、ピーチちゃんはそう反応する。
蛭火ちゃんは顎に手を付け、肘でテーブルに杖を付き、ニヤニヤと笑う。
それを見てピースちゃんは不満そうにピクピク眉を動かしていた。


細歩
「ぷ〜この辺りでギブ〜」

天海
「ハッハッハ! 中々楽しかった!! また次の機会に飲み合おう!!」


細歩ちゃんは遂にギブアップし、ゲル体に顔を納めてプカプカしている。
心なしかゲル体がグニャグニャになっとるな…酔いでサイコパワーが不安定になっとるんか?

とりあえず俺はそろそろ精算して終わる事にした。
問題も無くて良かったわ…またいつかやりたいな。



………………………



ピース
「ごちそうさまでした! また奢ってもらいますね!?」

蛭火
「堂々と言うなニート!! せめて働け!!」

細歩
「おやすみ〜…zzz」

蛭火
「あー! こんな所で寝るな細歩ーーー!!」


そう言って細歩ちゃんのゲル体を頭の脚でバシバシ叩く蛭火ちゃん。
しかし全く効いていないのか、細歩ちゃんは完全に眠ってしまっている様やった。



「しゃあないな…タクシー呼んだるわ、とりあえず待っとき!」
「あ、ちなみに琉女ちゃんひとりで帰れるか?」

琉女
「あ…うん、大丈夫だけど」
「葛さんは?」


「俺はマルちゃんたちを駅まで送って行くさかい」


琉女ちゃんはそれを聞くと笑顔で笑って納得した。
そして、少し不安そうな顔をした琉女ちゃんの頭に天海はんがバシッと手を当てる。


天海
「ハハハッ! 安心せよ葛殿! 俺が琉女を送ってやるとも!!」

夏川
「あ、じゃあ俺も付き合いますよ!」


俺はそれを聞いて微笑む。
そして軽く手を振ってこう言うた。



「ほな頼むで夏川〜? 琉女ちゃんは任せたからな?」


俺はそう言ってマルちゃんと寝てる優羽ちゃんの方に向かう。
マルちゃんは優羽ちゃんをおんぶしており、そのまま連れて帰る様だ。
俺はいわばボディーガードやな…何かあったらマズイし。
深夜回ってマルちゃんと優羽ちゃんだけやったら危険かもしれん…

俺は懐に護身用のスタンガンを隠し、そのままマルちゃんたちと駅に向かって行った…



………………………



琉女
「………」

天海
「…琉女か、良い名前を貰ったな?」


姉さんはそう言って私の頭を撫でる。
姉さんはいつもそうだ。
私とは同い年で双子なのに、こうやって何かと世話を焼いてくれる。
私は元々内気で、カイオーガと変わらない位弱気だったから…

でも、今は違う。


琉女
「ふっ! 姉さんもまさかこんなパートナーを得ているとは思っていなかった!」
「しかし! それもまた廻り合わせ…やはり神は私に試練を与えたがっているのだろう!!」

天海
「? 良く解らんが、元気そうで何よりだ!」
「お前はいつも内気で、カイオーガと一緒によくウジウジしていたからな〜」

夏川
「そ、そうなんですか? 何か、今の姿からは想像出来ないけど…」


私は華麗にポーズを決めながら夏川さんを見る。
ややタジタジになる夏川さんに対し、私はビシッ!とポーズを決めて夏川さんを指差した。
その際、体は斜に構え、やや流し目で見る様に視線を向ける…
そして声にドスを効かせ、低音でこう言った。


琉女
「人は見かけで判断するな…」
「もちろん私もお前を見た目では判断しない」
「理由はどうあれ、お前は姉に選ばれた」
「それなら…精々あがけ、そして生きろ」


そう言って私は背を向け、家の方に歩き出す。
道は覚えてる…帰ろうと思えばひとりでも帰れる。
だけど、そんな私の隣を姉さんは堂々と並んで歩いて来た。


天海
「そういう所は変わらんな…」

琉女
「…姉さんが、変わらなさすぎるだけ」

天海
「ハッハー! そうかもしれん!」
「しかし、俺は嬉しいのだ! お前がそうやって自分で何かを決めて生きているのを見れて!」


そう言って姉さんは豪快に笑う。
この人に嘘とかそういうのは存在しない。
ただ本能のままに行動し、本能のままに言葉を放つ。
だけど、それはグラードンの様に野性味に溢れた態度じゃない。

姉さんは明確に自分の意志を持ち、そして理想を持って真実を捉える。
それだけの力も持っているし、行動力も伴っている。
だけど、そんな姉にも明確な欠点は存在するのだ。


琉女
「…私も、安心した」
「姉さんは頭で考えて行動しないから、今頃誰かに騙されたりして酷い目に合ってるんじゃないかと心配してたから…」


そう、姉はバカなのだ。
良くも悪くも真っ直ぐしか知らなく、迷い無く進む事しか出来ない。
何があっても動じず、自分で決めた事なら何ひとつ曲げない。
そんな…頭の悪い脳筋、それが姉なのだ。


天海
「は、ははは…ま、まぁそんな事は良いではないか!!」

夏川
「まぁ、騙されてと言えば間違ってもいないですもんね…」


どうやら手遅れだったらしい。
だけど今の姉さんを見るに、この夏川さんが姉さんを救ってくれたのだろう。
私にはそれが解る。
双子だもの…その存在の価値も、私には痛い程解る。


琉女
「…姉さんは、幸せ?」

天海
「そういうお前は違うのか?」


聞き返される。
姉さんは肯定してる…笑顔がその証だ。
私は、笑えなかった。
だからそれも肯定。


琉女
(私は…)

天海
『お前の事だ、どうせウジウジ悩んでいたんだろ?』


姉さんはあえてテレパシーで私の頭に言葉を送った。
互いに双子でエスパータイプだ、この位のやり取りは当たり前に出来る。
姉さんが気を遣ってくれているのがよく解った。
バカな姉だけど、そういう所は誰よりも優しい。
だから、私はこんなバカな姉が大好きなのだ…


天海
『お前が幸せになれるかは解らん』
『だが、その資格はお前にもある! 今はそれを信じるが良い…』


姉さんはそれだけ言って通信を切る。
私は俯き、軽く震えるが、それでも前を向いて歩いた。
私でも幸せになる資格はある。
それなら、もう少し頑張ろう…せめて、胸を張って幸せだと言える様に。


琉女
(優羽さん、とっても幸せそうだった)


私はあのふたりの顔を忘れない。
人の子とポケモンが繋いだ確かな絆。
姉さんも手に入れた、その絆。
私にも…それは手に入るのだろうか?

でも、今はまだ…遠くにある気がして仕方無かった……










『突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語』

スピンオフストーリー 『Avenger The After』


第10話 『肉のお姉さん、夏川 天海!』


To be continued…

Yuki ( 2019/10/12(土) 13:29 )