『Avenger The After』
第9話 『脳ミソ筋肉のグラードン』
『ケニア共和国』

通称ケニア、東アフリカに位置する共和制国家で、イギリス連邦加盟国。
北にエチオピア、北西に南スーダン、西にウガンダ、南にタンザニア、東にソマリアと国境を接し、南東はインド洋に面する国である。



………………………



カネ
「ここって、アフリカでも東の方よね? グラードンがいるサバンナは中央の方じゃないの?」

大護
「情報通りならな…後、言っとくがサバンナつっても馬鹿広いんだ」
「無策で適当に散策して、人っ子ひとり探すとか正気の沙汰じゃねぇぞ?」

セーラ
「で、私に探知をしろって訳? そこの超能力者の方が速いんじゃないの?」


俺たちはアフリカ、ケニアのナイロビに辿り着いていた。
ここはアフリカじゃかなり大きな都市で、いわゆる観光都市でもある。
俺たちの目的はあくまでグラードンだが、とりあえず情報収集も含めて今はここに待機してるって訳だ。


大護
「カネの能力なら確かに人の心理は探れるが、記憶の中からとなると、そうもいかねぇらしい」

セーラ
「やれやれね、それで私の魔術で精霊に聞けって?」
「まぁ、材料は確かに揃ってるし、出来なくは無いわね…」


俺たちはセーラが要求した物を全て揃えておいた。
とりあえず、土やら石やら水やら、何か良く解らん物まで多数集めさせられたが、とにかくこれで何とかなるらしい。


セーラ
「とりあえず夜を待つわ」

大護
「何か理由があるのか?」

セーラ
「別に…人目に付きたくないだけよ」

カネ
「そんなに秘密にしたいものなの?」

セーラ
「魔術ってのは、それなりに秘密主義なのよ」
「特に私のは特別製だし、他所の魔術師になんか大っぴらに見せられないわね…」


確か、セーラの専門は四大元素を司る、精霊やら神やらの使役だっけか?
とにかくレベルの高い魔術ってのは聞いてるが、逆に見られたら簡単にコピー出来るって代物なのか?


大護
「まぁ、良いさ…なら夜までは適当に過ごすぞ?」

カネ
「適当に、ねぇ…」

セーラ
「私はホテルで準備するわ、仕込みもいるし」


とりあえず、今日はそんな感じで適当に過ごした。
思いの外セーラも協力的な様で今は安心だが、ちゃんと注意して見とかねぇとな。



………………………



そしてその日の深夜、俺たちはホテルから離れ、人気の無い場所でセーラの魔術を見ていた。
一応、人払いとかいうのはやってるらしく、通りすがりが気付く事は無い様だ。
セーラは地面に何やら魔方陣とか言うのを描き、そこに集めた材料を適切に配置していく。
やがてそれらはぼんやりと光輝き、何やら神秘的な雰囲気を醸し出していった。


カネ
「へぇ…これが魔術って奴なの?」

大護
「だそうだ、俺には全く理解出来ねぇがな」

セーラ
「………」


セーラは黙って作業を続けている。
やがて自分の指にナイフを当て、軽く切って血を魔方陣の中心に垂らす。
すると魔方陣は一際輝き、何やら風が巻き上がる。
セーラはすぐに切った指にガーゼを当て、止血した。
そして、軽く上を見て何やら星を見る。
数分程その状態が続くと、やがて魔方陣の輝きは消え、魔術は終了した様だった。


セーラ
「風の精霊が何かを見た様ね…」
「ここから西に3000q程かしら? そこで妙な生物がいるらしいわ」

大護
「3000qでサバンナってなると…中央アフリカの辺りか、だとするとほぼ情報通りだな」

カネ
「そこからあまり動いてないって事?」

大護
「行ったり来たりしてるのかもしれねぇ」


俺はとりあえずタバコを吹かしながら考える。
グラードンの目撃情報は、3ヶ月以上前の事だ。
そこから動いてねぇって事は、そんなにそこが気になるのか?
まぁとりあえず、おおよその場所が解ったんなら後は何とかなんだろ。
車で2日って所か…メンテもそろそろしとかねぇとな。


大護
「とりあえず出発は明日だ、今日はここまでだな」
「お前らはホテルに戻ってろ、俺はタバコ吸ってから行くから」

セーラ
「…ん」

大護
「……? 何だその手は?」


セーラは何やら俺に掌を差し出していた。
左手を差し出しているのは、右手の指を傷付けたからだろう。
俺には意味が解らず、とりあえず呆然としていると。


セーラ
「アンタねぇ…人に依頼しといて、何も払わないつもり?」

大護
「……そういう事は口で言え、つかタダじゃねぇのな」

セーラ
「当たり前でしょうが!? こちとら珠のお肌傷付けてまでやってあげたんだから!」


たかだか指の皮切った位で何言ってやがんだか…
俺は煙を吹き、とりあえずタバコを加え直して財布を取り出す。
そこから適当に札を差し出してやった。


大護
「ほれ、報酬の1万シリングだ」

セーラ
「アンタ、魔術舐めてるでしょ…? バイトじゃないのよ?」


ちなみに1シリングで約1.03円だから、ほぼ日本通貨と変わらねぇ相場だな。
確かにバイトっちゃバイトか…


大護
「やれやれ、ならいくら欲しいんだよ? もっともポケットマネーからしか出ねぇから、そんなには出せねぇぞ?」

セーラ
「ふん、もう良いわよ…材料揃えたのはアンタたちだし、それで多めに見てあげるわ」


セーラはそう言って金をポケットに捩じ込む。
ったく、気ぃ遣ってんだかそうじゃないのか…
とりあえずセーラはそのままカネと一緒にホテルへと帰って行った。
俺は短くなったタバコを最後まで吸いきり、それを携帯灰皿に捨てて息を吐く。
こっちの気候は日本に比べりゃ過ごしやすいよな…
暑くても夜中の気温は26℃位だし、比較的涼しい。
とはいえ、サバンナはもう雨季に入る頃だし、気温はグッと下がるかもしれねぇな。

俺はそんな風に考えながら、ホテルへと向かった。
明日から移動だ…大陸ポケモンのグラードン、どんな奴なのかね?



………………………



『中央アフリカ共和国』

通称、中央アフリカ。
アフリカ中央部にある国家で、北東にスーダン、東に南スーダン、南にコンゴ民主共和国、南西にコンゴ共和国、西にカメルーン、北にチャドと国境を接する内陸国。
首都のバンギはウバンギ川河畔に位置している。
人口は約550万人ほどで、独立以来クーデターが多発しており政情は常に不安定である。
その影響から経済は低迷し続けており、後発開発途上国あるいは失敗国家のひとつにも数えられる。
治安の悪化も深刻であると考えられるだろう。



大護
「…ここからがサバンナだな」

カネ
「思ったよりも涼しいのね…もっと暑いのかと思ってたわ」

セーラ
「もう4月に入って雨季になるからね…」


セーラの言う通り、今やこの辺りの気候は雨季だ。
頻繁にスコールが降るせいであまり気温は上がらない。
日本とは逆に、夏は涼しくなるのがサバナ気候の特徴だな。


大護
「って、言ってる側から雨が降りそうだな…とりあえず車に入るぞ?」

カネ
「確かに急に曇ってきたわね…」

セーラ
「やれやれ、ね…」


しばらく待っていると、途端にザァァァァァァァァッ!!と大雨が降り始める。
典型的なスコールだが、これはあくまで一時的な物で、日本の梅雨の様に1日中降ったりはしない。
だが、この雨季はサバンナにとっては重要な時期だ。
サバナ気候は雨季と乾季を繰り返す事で生態系が保たれているからな。



………………………



カネ
「ねぇ、大護…」

大護
「あん? どしたよ…」

カネ
「あそこ…何かおかしくない?」

大護
「ん…?」


俺はカネの指差す方向を車の運転席から見る。
するとそこには…スコールの最中、まるで雨雲に穴を開けた様な部分があった。
そこからは見るからに熱い日差しが降り注いでおり、俺は異常事態に気付く。


セーラ
「どう考えても、人為的に日差しを強めてるわね」
「でも魔力の類いは感じない…つー事は?」

カネ
「間違いなく『日本晴れ』ね! あそこには少なくともポケモンがいるわ!」

大護
「そりゃあ好都合だ! なら早速会いに行かねぇとな!!」


俺たちは、あからさまに怪しい日差しの元へと車で向かう。
距離は結構あるし、雨で地面がぬかるんでるのが厄介だな。
とはいえ、俺は最短距離を進んで問題の場所へと向かう。



………………………



大護
「ちっ、思ったよりも近付かねぇな」

セーラ
「単に逃げられてんじゃないの? どう見ても移動してるし」

カネ
「移動してるなら日差しは動かないわよ? 日本晴れなら、その場だけの効果のはずだし」

大護
「なら、当たりなんじゃねぇのか?」


俺が冷静にそう言ってやると、助手席に座っているカネは何かを確信した顔をする。
異常事態には違いねぇ、だがその中でも該当するモンが限られてるなら、そりゃ当たりに違いねぇ。


カネ
「…『日照り』の特性」

セーラ
「はぁ? 何なのよそれは?」

カネ
「1部のポケモンが持つ特性の事よ、日照りはそのポケモンが存在する地点に、強い日差しを降り注がせる効果」
「雨雲すらも貫き、いかなる天候にも関わらずその場には強い太陽の日差しが降り注ぐ…」

セーラ
「馬鹿馬鹿しい…どこかの太陽神ってか?」
「世も末ね…地球外生命体ひとつに、天候すら支配されるとか」


セーラの言ってる事もあながち間違いじゃない。
それだけポケモンってのは、影響力がデカイ生き物だ。
だから神だなんて馬鹿げた言い方をされるんだよ…ただの女に対してな。



………………………



大護
「ちっ…雨があがったか」

カネ
「これ以上の追跡は無理ね…もう日差しも普通になったわ」

セーラ
「時間的にもそろそろ日が沈むわね、キャンプするにしても、場所は選んだ方が良いわよ?」


確かに、この辺りはいわゆる湿地だ。
下手に奥まで行くと、戻って来れねぇかもしれねぇな。
スコールの心配もあるし、車は影響の少ない平地に停めるか。


大護
「カネ、ポケモンの気配とか、そういうのは探知出来ねぇのか?」

カネ
「ゴメンなさい、私の鱗粉は良くも悪くも雨に弱いわ…あれだけのスコールの中、そう遠距離までは飛ばせない」


カネは申し訳無さそうに謝る。
俺は頭を掻きながらも、なら仕方ねぇさ…と軽く諦めた。
元々無茶な探索だからな…最悪、またセーラに頼んで精霊さんにでも聞いてもらうか。



………………………



セーラ
「やれやれ、見付かるまで当分車でキャンプ生活? やんなるわね…」

大護
「文句を言うな、タダで飯は食わしてやってんだ…」


俺たちは車から降り、適当な大木の側で火を起こしてキャンプをしていた。
とりあえず食材は多めに積んであるし、日持ちする物を優先で買ってあるから数日は問題ねぇだろ。
ちなみに今は飯ごうで米を炊いてる。
おかずは缶詰めと野菜だが、これも後で炒める予定だ。


セーラ
「こんな所で炊いた米を食う事になるとは思わなかったわ…」

大護
「イタリア人的には炊いて喰うのは珍しいか?」

セーラ
「そうね、ミネストローネにしろリゾットにしろ、調理しながら米を混ぜるから、米だけを直接炊くのはあまり馴染みが無いわね」
「サラダに使う場合は単独で茹でる事もあるけど、日本式のは初めて食べるわ」


俺は飯ごうが吹き零れるのを確認して、火から離す。
そして適当なタオルを巻いて地面に置いた。


カネ
「これで完成?」

大護
「まだだ、しばらくそのまま蒸らすんだよ…だから蓋を絶対に開けるなよ?」

セーラ
「赤子泣いても蓋取るな…だっけ?」

大護
「イタリア人がよくそんな言葉知ってるな…」

セーラ
「何かの資料で読んだのよ…」


一体何の資料なんだか…?
まぁ、今の時代炊飯器の性能も上がってるし、こうやって火加減見ながら炊く事はあんまねぇだろうがな。
こういう基本だけでも知っておいて損はねぇと思うが。


大護
「よし…カネ、そこにある蓋取ってくれ」

カネ
「蓋ってこれ? 何に使うの?」

大護
「フライパンだよ…コイツはサバイバル用の飯ごうセットでな、内蓋がフライパンの代わりになるんだ」


俺はそう言って蓋を受け取り、炒め物用の金網台座を設置して、その上に蓋を裏返して置く。
後は油を適度に引いてから、刻んだ野菜と缶詰めの中身をいくつかぶち込んだ。
味付けは缶詰めの汁がそのまま野菜にも染み込むから、そのままでも美味しく食える。
火を通すだけでも、食感は違うし味わいも変わって来るからな。
後はお好みで調味料をパラパラ…と。


セーラ
「へぇ、簡単な魚とスパムの缶詰めだけで、結構良い匂いするわね」

大護
「実際、まぁまぁ美味いぞ? ほれ、先に食ってみろよ」


俺は軽く皿に取ってやり、出来立てのおかずをセーラに渡してやった。
すると、セーラは思いの外上手に箸を使い、おかずを口に運んで行く。
表情は特に変えなかったが、別に味には文句は無い様だ。


大護
「何気に箸使うの上手いんだな…」

セーラ
「今はイタリアでも日本食ブームとかあるしね…気が付いたら使える様になってたわ」


俺は軽く笑って、そうか…とだけ言っておく。
そして、米の蒸らし時間を気にしながらも、先におかずをカネに渡してやった。
俺の分も最後に取り分け、後は出来上がった飯ごうからご飯をそれぞれに配る。

さて、これで今夜の晩御飯は完成だ。


カネ
「あ、結構美味しい…」

大護
「だろ? まぁ、有り合わせになっちまうが、ちゃんと調理すりゃ意外にいけるもんさ」

セーラ
「ちょっと、リンゴ出してよ」


既に飯を食い終わっているセーラがそう要求する。
食うの速ぇな…と思いながらも、俺はクーラーボックスからリンゴをひとつ取ってやった。
そしてそれを軽く水で洗い、セーラに渡してやる。


セーラ
「…そのまま食えっての?」

大護
「腐ってやしねぇよ…切るのは流石に面倒だから自分でやれ」


セーラはため息を吐きながらもそのままかじる。
何だかんだでコイツ面倒臭がりだよな…その癖やたら要求多いし。
ある意味暴君だが…ウチの姫さんに比べりゃまだ素直か。



………………………



ピース
「ペックシ!!」


「何や風邪か?」

ピース
「ズズ…きっと地球の裏側辺りで、私を呪い殺そうとしているヒロインが!?」

琉女
「ふっ…成長したな、我が眷属よ! 遂にヒロインの体を内部から蝕む程とは!」

ピース
「って、アンタの仕業ですか!? すり潰してカイオーガの餌にしてやりますよ!!」

カイオーガ
「…美味しくなさそうだから、ヤダ」

琉女
「既に食べる前提!?」


「あ〜ええから、騒ぎなや…ただの冗談やねんから」


俺はそう言って、宅配ピザの注文を取る。
とりあえず今は無事にカイオーガちゃんを保護して、拠点で寛いでもらっとる。
ピースちゃんは…とりあえず飯の匂いがすると言って、乗り込んで来てた。
まだ注文してへんかったのに…未来でも見えてるんか!?



………………………



大護
「………」

セーラ
「………」


次の日の朝、俺はまたセーラに頼んで探知をしてもらった。
例によって材料は俺とカネで集め、セーラは魔術を行使するだけ。
割りと簡単そうに見えるが、これはセーラ位の適性と才能がなきゃそうそう出来ねぇらしい。


セーラ
「地の精霊がざわついてるわね、そして炎の精霊が活発化してる」
「逆に風と水が弱い…それも、あの方角に向かえば向かう程ね」


セーラは更に西を指差してそう言う。
俺にはよく解らねぇが、とにかくそこが怪しいって訳だ。


カネ
「グラードンは地面タイプで、日照りによって草タイプや炎タイプに恩恵を与えるわ」
「逆にそれは水をも蒸発させ、時には陸を広げるとさえ言われている…」

セーラ
「どこぞの巨神じゃあるまいし、本当に人間サイズの生物がそんな現象起こせるの?」

大護
「さぁな、仮にもポケモンの中じゃ神って呼ばれてる奴だ」
「それなりの理由が無きゃ、そんな呼ばれ方はしねぇだろ」


とにかく、グラードンがそこにいるのは間違いなさそうだ。
距離がどれだけあるか解らねぇが、早めに見付けねぇとな…



………………………



大護
「…雨は降らねぇな」

カネ
「でも日差しは強くなってる気がするわ…日照りを発動させてるのかも」

セーラ
「…気温37℃か、確かに雨季のサバンナとしては高い気温ね」


37℃だと…?
確かにそりゃあまり見られねぇ気温だ。
乾季の最高気温なら40℃前後あるが、雨季になれば自然と気温は下がる。
昨日の雨もあるし、まだ朝方でその気温は高過ぎる気がするな。


大護
「近付いてるってのは、確かなんだよな?」

カネ
「私の鱗粉には反応が無いわ…でも多分近付いてる」
「グラードンは足が速い種族じゃないし、車で走れば普通追い付くはずよ?」

セーラ
「…雨雲が避けてる? いや、あの日差しに押し退けられてる?」


セーラが空を見てそう言うと、俺たちも空を見る。
確かに、雲の動きが妙だ。
まるで、ある一点の日差しを中心に、雲が押し退けられてる感じ。
確実にいる…そして近付いている。
この先は広大なサバンナで、野生の動物も多い。
観光客もここには誰ひとりおらず、要するに危険な地帯って訳だ。
肉食動物も多く生息してるからな…下手に迎え撃つ訳にもいかねぇし、銃はご法度だ。
さて…適度な位置で車から降りねぇとな。



………………………



大護
「準備は良いか?」

カネ
「ええ、間違いなく近くにいるわ、気を付けて」

セーラ
「私も行くの? そこまで付き合う理由は無いんだけど…」

大護
「お前ひとり残せるか…何しでかすか解らねぇのに」


俺はそう言って無理矢理にでもセーラを引っ張る。
するとセーラは多少抵抗するも、渋々自分から歩き出した。
やれやれ、面倒をかけさせるなよ…


セーラ
「さっさと離しなさいよ…!」

大護
「ならキビキビ歩け! 相手が友好的とは限らねぇし、下手に刺激すんじゃねぇぞ?」

カネ
「…ここからは私が先導するわ」


俺たちはカネに付いてサバンナを進んで行く。
まだまだ昼前だが、気温はどんどん上昇しており、40℃を越えそうな気温になりつつあった。
俺は汗を拭い、集中力を高めておく。
水分は貴重だ、ちゃんと計算して飲まねぇとな。



………………………



カネ
「!! いたわ、目視距離に」

大護
「………」


俺は双眼鏡を使って広大なサバンナを見渡す。
すると、明らかにおかしな風貌の原住民…ではなく、あからさまな非人間が猫背で歩いていた。
身長は150p程と小柄、見た目は明らかな少女の顔付きで、幼い。
だが、その目付きは鋭く、何やら黄色く明滅する筋みたいな物が体中に走っている。
服装は原始人かと思う様なボロボロの布だか、革だかの何かを身に纏っているだけ。
おいおい、下手すりゃ胸がポロリだぞ…?
それ位際どい衣装だな。


セーラ
「何よアレ? ただの原始人じゃない」

カネ
「それでも陸を司る神と呼ばれるポケモンよ?」
「その気になれば、海さえ削り、大陸を広げる」
「あれは紛れもなく、本物のグラードンだわ」


あのカネがそこまで言うのだから間違いないだろう。
ただ、あいつからは他の連中とは違う毛並みを感じる。
野性味と言うか、あからさまな獣の臭いって奴だ。
ああいうタイプは、大抵話が通じない。
つまり、大抵は力技がモノを言うって訳だな。


大護
「………」

セーラ
「麻酔銃とはお優しい事ね? あんなのは即射殺じゃないの?」


俺はギロリとセーラを睨み付け、即黙らせる。
そして、麻酔銃のカートリッジをセットして俺はいつでも撃てる状態にしておいた。
後はそれを腰のホルスターに収納し、とりあえず俺ひとりで前に出る。


カネ
「気を付けて大護…多分会話にならないわよ?」

大護
「だろうな、雰囲気で解らぁ…だからフォローは任せるぜ?」


俺が真剣な顔でそう言うと、カネは小さく頷く。
そして俺のやや後ろを歩き、俺たちはグラードンに接触する事にした。



………………………



大護
「よう、お前がグラードンってのか?」

グラードン
「ああ!? 何だテメェは?」


こりゃ、予想以上の荒くれ振りだ。
益々面倒極まりねぇ…
俺はため息を吐き、とりあえず交渉だけする事にした。


大護
「ちょっとした仕事でな、お前さんのライフスタイルが知りたいのよ」

グラードン
「らい、ふす…た〜? 訳解んねぇぞ!?」


よし、とりあえずコイツはアレだ!
まず、語学から何とかせにゃならん!!
つーか、フランス語かよ!! 意外にメジャーな公用語だな!?


大護
「おいセーラ! 魔術で翻訳しろ!!」

セーラ
「出来るかアホっ!! いや、出来るけどやるかアホ!! フランス語位、普通に話せ!!」


チクショウ…セーラは流石に理解してんだな。
まぁ俺も一応話せるのは話せるから良いんだが…
そもそも、いきなり日本語で話しかけた俺がアホなのか?
カネに至っては既に?を複数浮かべてる。
ゼクロムの時は普通に日本語話してたんだよな〜
セーラも一応合わせてくれてるし、この辺は気の遣い合いか…


大護
「…ったく、とりあえず、おたくの生活にインタビューしたいの!」
「ちゃんとフランス語だぞ!? 理解出来るな!?」

グラードン
「生活…に、いんたびゃ〜? 何じゃそりゃ…?」


ダメだ…そもそも難しい横文字は理解出来ないタイプだコイツは。
何だか途端にやる気が無くなって来た…もうとりあえず原始人の生活してましたってレポート書いとくか?


カネ
「全く言語理解出来ないけど、どうなの?」

大護
「もう面倒だから帰るか…」


既にやる気が無い。
下手に関わるのも何だし、とりあえず原始人だし、それでレポート書けば多分伝わるだろ。


グラードン
「とにかくテメェ等は何だ? 妙な格好しやがって…」

大護
「原始人ルックに妙とか言われた…!」


俺は頭を抱えて何とも言えない気持ちになる。
つーか、コレに説明しても絶対理解出来ないだろ!


大護
「俺たちはとある会社の派遣で来ててな、君みたいな恵まれない子供を助ける為に、色々調査してるんだよ!」


等と適当にのたまってみた。
後方ではセーラが爆笑している…ヤロウ。


グラードン
「よし! とりあえず喧嘩売ってるんだな!?」

大護
「セーラさん! 翻訳お願い!!」

セーラ
「(・∀・)ニヤニヤ」


セーラは左手を口に当て、笑いを堪えながら右手の中指を立てる。
コノヤロウ! 楽しんでやがるな!?


大護
「ったく…勘弁しろよ」

グラードン
「随分自信満々だな!? 覚悟しやがれ!!」


そう言ってグラードンは、あくびが出る程のスローさで突っ込んで来る。
馬力は有りそうだが、掴まれなきゃどうって事は無さそうだ。
俺はギリギリまでため息を吐き、グラードンの射程に入る直前で身を捻って横に避ける。
そして定番の足払いでグラードンはいとも容易く地面を転がった。


カネ
「あらら…大丈夫?」

グラードン
「くっそ! 次は投げ飛ばしてやる!!」

大護
(ん…? コイツ、少なからず格闘技かじってんのか?)


俺はグラードンの動きを見て何となくそう思う。
素人丸出しだが、体重のかけ方とかは何となく柔道とかのそれに近い。
俺は試しにグラードンと組み合ってみる事にした。


大護
「!!」

グラードン
「掴んだ! うりゃあ!!」


次の瞬間、グラードンは背中から地面に落ちる。
このバカは露骨に隙だらけの一本背負いを狙ったが、俺はすぐに悟って払い腰で返したのだ。
もっとも、胴着が無いから擬似的に腕と脇を掴んでやったがな。
当然柔道なら反則だ。


グラードン
「チ、チックショウ! 何だ今のは!?」

大護
「おいド素人、まるでなってねぇぞ? ちゃんと相手の動きを感じて崩しを入れろ!」


グラードンは訳も解らず再び起き上がって組付いて来る。
俺は先にグラードンの体を横に崩し、グラードンはそれに反発して起き上がろうとする。
俺はその反動を利用して逆方向に投げ飛ばした。
グラードンはまたしても天を仰ぎ、息を切らしている。
何だ、体力馬鹿に見えて意外とそうでもないのか?
こちとら暑さでしか汗はかいてねぇってのに…


グラードン
「っはぁ! 何で気が付いたら投げられてんだ!?」

大護
「だから素人なんだよ…お前、基礎をすっ飛ばして技だけ覚えたタイプだろ?」
「本物の柔道家が相手だったら、お前よりも小さな子供でも多分簡単に投げ飛ばせるぞ?」


グラードンはそれを聞いて???を浮かべる。
全くオツムも足りてない様で安心だ。
こりゃ、体で染み込ませた方が速そうだな。


グラードン
「訳解んねぇ!! とにかくテメェは絶対ぶん投げる!!」

大護
「よーし来い! オジさんが優しく手解きしてやろう!」


何だかいかがわしい台詞に聞こえるがその気は無いので安心してくれ!
断じて寝技でムフフ…♪な変態行為には及ばないぞ!?



………………………



グラードン
「………」ちーん

大護
「全く勝負たならんわ!!」

カネ
「大護、誤植誤植!」


おっと、流石に俺も疲れたのか、ネタの神に侵食されかけたらしい…
いかんいかん…俺はあくまで正統派のつもりなのに。
つーかテコンドーでも空手でもねぇ!


大護
「さて、そろそろ帰るか…」

グラードン
「ま、待て…コノ、ヤロ…!」


グラードンは顔を真っ青にしながらもまだ立ち上がった。
俺は軽くため息を吐き、今度は初めて俺から組みに行ってやった。
グラードンは驚くも、俺の崩しに反応してまた体を反発させる。
俺はそれに合わせてワザと自分の体を崩した。
そして、俺はワザと逆に体を起こし、グラードンはほとんど力も入れずに自然体で俺の体を宙に投げ飛ばす。
俺はちゃんと受け身を取り、地面に背を預けた。
投げた当人は自分で何が起こったのか解らず、???を浮かべるだけだ。


大護
「どうだ、スッキリしたか?」

グラードン
「は、はぁっ!?」


俺はクククと笑いながら立ち上がる。
そして付いた土を手で払い、そのままグラードンに背を向けた。


グラードン
「お、おいお前…!!」

大護
「じゃあな…少しは言葉の勉強もしろ!」


俺は、鞄に入れてあったコーラの瓶をグラードンに投げ渡す。
グラードンはそれを受け取り、何故だか表情を和らげた。
流石にアイツの顔は既に熱中症寸前だ…とりあえず早めの水分補給ってな。



………………………



カネ
「あれで良かったの?」

大護
「知らねぇ、だがアイツの事は良く解ったよ」
「相変わらずただのガキンチョだ…どこが神様だよ?」

セーラ
「熱っ苦しい肉体言語はもう終わり?」

大護
「ああ、今は気分が良いからな〜お前にも教えてやるよ!」
「もちろん間接技でみっちりとなぁ!!」


俺はセーラにコブラツイストをかける。
セーラは強情にも耐えやがったので、俺はそのままスリーパーホールドに移行して首を絞めた。
これには流石のセーラも音をあげて降参するが、俺は適当に落としてから、そのまま失神したセーラを担いで車まで戻った。

やれやれ…残るは、4人か。
葛もカイオーガ保護したって言ってたし、そろそろ日本に戻る時期かね?










『突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語』

スピンオフストーリー 『Avenger The After』


第9話 『脳ミソ筋肉のグラードン』


To be continued…

Yuki ( 2019/08/19(月) 11:16 )