『Avenger The After』
第8話 『臆病者のカイオーガ』
ゼクロム
「で、次は誰に会う気なの?」

大護
「そうだな…こっからならアフリカが行きやすい方だが」

カネ
「確かグラードンがいると言われる国ね?」


俺は無言で地図を見る。
ゼクロムは興味深そうに小さな背丈を伸ばして、俺の手に握られている地図を眺めていた。
ちなみに、今俺はホテルの部屋の真ん中で立っているから、ゼクロム的にはマトモに地図を見ようとするとやや身長が足らん。


セーラ
「どうでも良いけど、まさかアンタの道楽に私を巻き込む気じゃないでしょうね?」

大護
「巻き込むも何も、お前の身柄は俺が預かってんだ」
「表向きには、もうお前は死亡者同然なんだから、下手に動くと反って面倒になるぞ?」


俺はそう言ってゼクロムに地図を渡してやった。
するとゼクロムは嬉しそうにニコニコしながら世界地図を見る。
やれやれ、何にでも興味を持ちたがる所は本当に子供っぽいな。


セーラ
「ちっ…本気で考えてんの?」

大護
「心配すんなよ、別にお前を縛り付けて連れ歩こうとは思ってねぇし」
「お前の裏組織もどうせもう終わりだろ? なら、いっその事高跳び気分で付き合え」


俺はケラケラ笑ってそう言うと、ベッドの上で下着姿のまま壁に背を預けて座っているセーラは、鬱陶しそうに頭を抱えて唸っていた。
俺はとりあえず当面の予定を決め、一路アフリカへの道をイメージする。


大護
「車なら約150時間って所か、まっ気長に旅するかね…」

セーラ
「バッカじゃないの!? 何でわざわざ陸路で行くのよ!」
「折角空港有るんだから、使えば良いでしょ!?」

大護
「バカはお前だ、こちとらパスポート偽造してんだぞ?」
「可能な限り、セキュリティがキツい空港は利用したくねぇんだよ…」


ついでに良い思い出も少ないからな。
空路なんて大概トラブルしかねぇし。
海路は間違いなく面倒だし、やっぱ陸路で行くのが1番精神的に良い。
別に、期間は設けられてねぇしな。


カネ
「でも、どうするの? 流石に4人で乗るとなると、荷物もあるから前の車じゃ辛いと思うけど…」

ゼクロム
「あ、僕はここで別れるから安心して♪」
「君たちの事はとっても興味有るけど、僕には僕の目的もあるからね…」


ゼクロムはそう言って地図を眺めながら笑う。
目的、ね…まぁそれならそれで良いだろうさ。


大護
「ちなみに、何の目的だ?」

ゼクロム
「まぁ、平たく言えば暇潰しかな」
「折角、下界に降りて来れたんだし、僕としては興味の有る事は全部見てみたいんだ!」


ゼクロムは嬉しそうな顔でそう言った。
嘘はねぇな…そういう嘘を吐くタイプでも無いだろうし。
こいつは純粋に旅でも楽しみたいんだろう。
俺はそんなゼクロムの素直さが逆に面白いと思い、ケラケラ笑う。
そして、そんなゼクロムの答えをレポートに纏めようと思い、俺は手帳を取ってメモを書いた。


大護
「まぁ、3人なら車は何とかなんだろ…」
「とりあえず、朝食食ってから出発だ! ゼクロム、お前も最後に飯位は一緒に食ってけ!」

ゼクロム
「うんっ! 今日の料理は何かスッゴい楽しみ♪」

セーラ
「やれやれ…天真爛漫なこって」

カネ
「貴女は逆に冷めすぎなんじゃないの?」

セーラ
「こちとら子供じゃないんでね…!」
「それに、そんな精神でやってける程、魔術の道ってのは楽じゃないのよ…」


セーラは目を細めて立ち上がる。
そして壁に掛けらていた赤いワンピースを着用し、頭には黒い帽子を被る。
ありゃフレキシブルハットだな、何気にブランド物じゃねぇのか?
鍔は14cm程あり、小柄なセーラだと顔の半分近くは隠れる位だが。


大護
「つか、いつの間にそんなの買ったんだ? ブランド物だよな?」

セーラ
「昨日の服選びの時についでに買ったのよ…」
「ちなみにブランドはヴェッキよ♪」


成る程、そりゃ中々の大手で…
セーラはそれなりに気に入ってるのか、笑いながら感触を確かめていた。



………………………



大護
「ほう、定番のドルチェか」

ゼクロム
「この国だと、大抵フルーツとかスイーツ系が多いよね〜」

セーラ
「まぁ一般的にイタリア人は、朝にしょっぱい味の物を食べないからね」

カネ
「へぇ〜日本とはまるで逆なのね…日本だと塩魚や味噌汁が定番なのに」


まぁ、それもお国柄って奴だ。
今回のはホテルの朝食だし、それこそ定番メニューしか出ねぇだろう。
とりあえず俺はビスケットにカフェラテを付けてかぶり付く。
ん…まぁまぁだな。


ゼクロム
「僕、このヨーグルト好きなんだよね〜♪」

セーラ
「私は基本的にクロワッサンね…カプチーノとの相性が良いもの」

カネ
「基本的に甘い物なのね…あ、でも普通に美味しい」


そんな感じで、俺たちは雑談も交えながら朝食を取る。
やがて荷物の整理もしてから俺たちは車に乗り込んだ。



………………………



ゼクロム
「それじゃ、元気でね? 十柱全員と会うのは大変だろうけど、陰ながら応援してるよ」
「じゃっ、アリーヴェデルチ♪(さようなら、また会いましょう)」

大護
「ああ、お前も元気でな♪」


俺が手を振ってやると、ゼクロムは嬉しそうに笑いながら飛び立って行った。
建物の屋根をとびこえ、すぐに見えなくなる。
ゼクロムがいた跡は若干の紫電を残しつつも、俺は改めて前を向く。
さーて、約150時間の距離を走破する旅だ…大体2週間以上か。
下手すりゃ着くのは4月になりそうだな…



………………………




「おっと、大護からメールか…ほう、ゼクロムに会えたんやな!」

ピーチ
『現在、イタリアからアフリカに向けて車で移動中の様です』


そう言ってピーチちゃんは家のPCモニターに地図を表示させる。
相変わらず陸路か…これやとのんびり行って4月頃になるかもしれへんな。



「ピーチちゃん、大護の口座に金振り込んどいてぇな」

ピーチ
『了解しました、金額は以前よりも5割増程で良いでしょうか?』


俺はニコニコ笑って、ああ…とだけ言うた。
そして椅子から立ち上がり、壁に掛けとった上着を羽織る。
そろそろ暑くはなって来たけど、まだ少し風は肌寒いか…



「琉女ちゃーん! そろそろ出発するでー!?」


俺がそう言うと、琉女ちゃんの部屋のドアが勢い良く開く。
そして扉の先に佇んでいたのは、漆黒のゴスロリドレスに身を包む厨二病患者やった…


琉女
「ふっ…良い機会だ! 今宵は私のカリスマを持って、全ての悪魔を眷属にしてくれよう!!」


「おっ、似合っとるやん♪ まぁ、海に出るにはちょっとアレやけど…」

琉女
「構わん! 我が魔装が今は封印されている以上、妥協は必要だ…」


そう言ってポージングをビシッと決めながら琉女ちゃんは愉悦に浸っていた。
ちなみにあの服も俺の手作りや、例によってコスプレ用やから、某アニメキャラの服やったりするけど…まぁ、マイナー所やし、PKMや思われたらそんなに気にはされんやろ。



「で、ピースちゃんは?」

ピーチ
『既に待機中です、いつでも出れるかと』


俺はそれを聞いてよしっ!と気合いを入れる。
今回はちょっとした小旅行や…目的地は『マリアナ海溝』!
そこには、かの十柱がひとり『カイオーガ』がおるらしい。
とりあえずソルガレオの方は居場所特定したし、この際後回しでも構へん。
大護がアフリカに行くのは解っとったし、それならと俺らは俺らでカイオーガのレポートに向かうっちゅう訳やな♪



「ほな、行くで? 一旦港まで行ってからクルーザー使うさかい」

琉女
「カイオーガかぁ〜相変わらずビクビクしてるんだろうなぁ…」


とりあえず琉女ちゃんから十柱の事は粗方聞いたが、今回のカイオーガってのは、とにかく臆病な性格らしい。
その性格が祟ってか、未だに人前に出るのを怖がってる様で、マリアナ海溝の底でひたすら引き篭もってるそうや。


ピーチ
『ですが、何か作戦でもあるのですか?』


「作戦って程でも無いけど、まぁやるだけやってからやな」
「流石に11km近くまで潜る方法はあらへんし、出来るだけ上におるのを祈るだけやな」

琉女
「…い、一体どんな方法を?」


まぁ、行けば解る。
今回はピースちゃんも連れてっての小旅行ついでやし。
最悪カイオーガには出会えんでもしゃあないと割り切るつもりや。



………………………



ピース
「はぁ? 釣り上げるって…」


「厳密には網でやるがな…カイオーガかて、腹は減るやろ?」

琉女
「それは…そうでしょうね〜」


今は日本時刻で昼前位、ちなみにここまでで約50時間経っとる。
既に3日目やな…で、ようやく辿り着いたマリアナ海溝付近って訳や。


ピース
「ハイキター!! アンコウゲットですよ!!」
「琉女さん、早速鍋の用意です!!」

琉女
「ふっ、任せろ! この我が魔力を注ぎし暗黒物質(ダークマター)から作られたこの鍋に入れば…たちまちにその魔物は凶悪な眷属と化すだろう!!」


とまぁ、あっちはあっちで楽しそうに釣りを堪能しとった。
ピースちゃんは深海魚の味を直に知りたいと言うとったから、よっぽど楽しみやったんやろな〜


ピース
「新鮮な天然物ですよ!? 今すぐかっさばいてやります!!」
「板前データ! ダウンロード!! 職人モーーード!!」

琉女
「よし! 温度は十分だ!! この機を逃すな!?」


ピースちゃんは何やら包丁を握り、凄まじい速度でアンコウを解体していく。
たちまちにまな板の上はアンコウの旨そうな部位で敷き詰められていった。


ピーチ
「肝、とも、ぬの、だい身、胃、えら、皮!!」
「アンコウの部位で喰えぬ所はほとんど無い!!」

琉女
「全機投入!! 定番の味噌出汁はパァーフェクトォ!!」

ピーチ
「あん肝だけは1分以上加熱ですよ!? でないとアニサキスに寄生される可能性が有りますからね!」


既にグツグツとええ匂いがして来たな。
昼時やし、俺も網下ろしたら貰おーっと♪
俺はそんな風に考えながら、クルーザーの巻き取り機械を使って網を底に沈めて行く。
どの辺におるんかは解らんけど、1番深い所におるんやったらこの辺りの緯度でええと思うんやけどな…
俺はスマホのピーチちゃんに頼んで再度確認。
ほぼ間違いないと確認を取って、とりあえず網は底まで辿り着いたのを確かめた。


ピーチ
『ソナーでの探知開始…魚の反応は有りますが』


「とりあえず続けとってくれ、それらしい反応があったら網は即引き上げるんや」

ピーチ
『了解です』


俺はスマホでピーチちゃんにそう言って任せる。
このクルーザーの電子制御もピーチちゃんがほとんど掌握してるから、ホンマ楽でええわ〜


ピース
「くおおぉ…! こ、この脂身! 流石は東のアンコウと呼ばれる高級魚です!!」

琉女
「ふっ…やはり、この私の様な力ある物にはこれが相応しい!!」
「私はお前を待っていた! さぁ我が血肉となって世界を混沌に沈めようぞ!?」


「楽しそうやな〜俺も混ぜてぇな♪」

琉女
「良かろう! お前と私は一蓮托生!!」
「さぁ、貴様も味わうが良い!!」


ポージングの後、ニコニコ笑顔で可愛く皿を出してくれる琉女ちゃん。
俺もニコニコ笑顔で返し、早速皮から頂く事にした。
おっ、これは美味いわ! 下手な店で食うのよりも多分美味いで?



「大したもんやな〜、琉女ちゃんも料理とかちゃんと出来る様になってるもんな〜」

琉女
「えへへ〜♪ 喜んで貰えて嬉しい♪」

ピース
「ちっ! 見せ付けてるんじゃあないですよ!?」
「後、あん肝は私の物です! 最後の一切れも…」


ピシュウゥンッ!と突然琉女ちゃんの右人差し指から黒いビームが飛び出す。
その瞬間、ピースちゃんの箸は真ん中の辺りが消滅し、捕まれていたあん肝はボチャンッ!と箸の先端ごと鍋に落ちた。


琉女
「貴様は既に二切れも食っただろうが!? 最後の一切れは我が友の物だ!!」

ピース
「ほぅ、良い度胸ですね…! 微乳の小娘ごときがこの私に逆らうとは…!!」


微乳…とは言うても、身長比から言うたら割と普通なんやけどな…
むしろ最近の食生活から考えたら、大きなってる気もする位や。
元神でも、体の成長はまだまだあるっちゅう事なんかな?


琉女
「ふっ、貴様ごときに私の魔装を貫く事は出来んぞ?」

ピース
「上等ですよ! ゴーストか悪技4倍の分際で勝てる気ですか!?」


そう言ってピースちゃんは『シャドーボール』を右手に練る。
琉女ちゃんは特に動じる事無く、頭に右手の人差し指を当て、ククク…笑った。


琉女
「クク…止めておけ、その程度の暗黒では私の黒き輝きに飲み込まれるぞ?」

ピース
「だったら見せてみなさい!! 生きていればですけどねぇ!?」


何て言うか、どっちが悪党か解らへん…
台詞だけ聞いたらピースちゃんが完全にド悪党なんやけど、彼女この作品のヒロインよな?


ピーチ
『今は悪魔的ヒロインが微笑む時代ですよ』


「それでええんか旧バージョン!?」


とりあえずピースちゃんは容赦無く琉女ちゃんにシャドーボールを投げ付ける。
琉女ちゃんは高速で向かって来るそれに対し、右手の人差し指から黒い光線を放って相殺した。


琉女
「チッチッチッ!」


琉女ちゃんは人差し指を顔の前で3回横に振り、ピースちゃんを挑発する。
それを見てピースちゃんは激昂…する事もなく、チッ!と舌打ちして冷静に分析している様やった。


ピース
「生意気にも禁伝ですね…! ゴーストにゴーストぶつけても埒が明かないですか」

琉女
「ふっ、弱点技など当たらなければどうと言う事は無い!」
「しかも私にはまだもうひとつ隠している必殺技がある…その意味が解るな?」

ピース
「あった所でこちとらゴースト無効ですよ!」
「だから不毛過ぎてやる気が起こらねぇんですよ!!」
「こっちの切り札も無効ですしね…!」


あぁ、互いに相殺し合うタイプやからなぁ…
ノーマルとゴーストって、互いに無効やからそら不毛やわな。


ピーチ
『とりあえず速く食べた方が良いかと』


「せやな、とりあえず余ってるの適当に貰うか…」


とりあえず俺は美味しくアンコウ鍋をいただき、当面の食欲は満たした。
さてと、後はソナーに反応あればええんやけどな…



………………………



ピース
「かかった! オニキンメゲットです!!」

琉女
「攻撃始まったら無理ゲーのヒュージバトルシップだーーー!!」


って、まだ釣り上げる気か!
あれから数時間は釣っとるが、片っ端から食っとるな…
ピースちゃんが大食いなんは知っとったが、もう5〜6匹は釣ったんちゃうんか?
流石に琉女ちゃんももう食べて無いしな…



「やれやれ、ソナーの反応はまだ無いんか?」

ピーチ
『…深度が深度ですので、正確に人型の物を見分けるのは困難とも言えます』
『もしかしたら、似た大きさの魚と誤認してる可能性も有りますが…』


「逆に考えよか…動いてない反応を探すんや」

ピーチ
『成る程、臆病な性格を逆手に取る、と…』


ピーチちゃんの言葉に俺は頷く。
カイオーガは臆病…ほんなら海底で丸くなって動いてない可能性が高い。
しかし、そうなると網の上にはおらん可能性も高いんよな…
この網は底引き用の網ではあるが、下手に動くと警戒されて逃げられるかもしれん。
そうなったら2度と探すのは無理になるやろ…出来るだけ確実に捕獲したい所や。


ピース
「とりあえず、煮付けか刺身ですね」

琉女
「煮付けだと時間かかるよ?」

ピース
「なので、煮付け用は時間かけて煮込むとして…」
「それまでの間は刺身で一部いただきましょう!」


ピースちゃんは嬉しそうに包丁でオニキンメを捌いていく。
刺身と煮付けと半分位に分けて、まずは煮付け用の鍋に半身を入れた。
残りの半身は刺身として捌く。
見事なモンよな〜能力はダウンロードしとるとは言え、流石はポリゴン種や。
改めてピースちゃんの万能さが良く解る。
あれで性格が暴君やなかったら、完璧なメイドロボ属性なんに…



「天は二物を与えず…か」

ピーチ
『まさにその通りでしょうね…我が本体ながら、頭が痛い物です』


まぁ、ピーチちゃんはあくまでバックアッププログラムやからな…
緊急時にピースちゃんのデータを修復するのが本来の目的やし。
ピーチちゃんからしたら、P2時代の性格の方が良かったと思っとるんかもしれへんな…



「…釣り針は使いた無いんやけどな」

ピーチ
『そもそも、それで釣れると思っているのですか?』
『網ですら、現実的では無いと思うのですが…』


そらそうやろ…俺もそこまで楽観的には考えてない。
あくまで、可能性が0やないから試してるだけやからな。
そもそも、そんな運にでもすがらんと深海10qにいる伝説のPKMには出会えん。



「カイオーガとはいえ、何かを食って生きてはいるはずや」
「網には人間でも食える食料を引っ掻けてある、それに食い付いていれば、チャンスはあるはずや」

ピーチ
『…ほぼギャンブルですね、もし怒りでも買えば、こんな船は一瞬で藻屑となりますよ?』


「そん時は神頼みや…こっちにも神様は付いとるで?」


俺はそう言って楽しそうにポージングする琉女ちゃんを見た。
ホンマに楽しそうや…俺的にはあの笑顔が見れただけでも意味があるからな。


ピーチ
『神頼み…ですか』
『ルナアーラの力でカイオーガに勝てるのでしょうか?』


「そんなんは俺には解らへん…せやけど、俺は信じるで?」
「琉女ちゃんやったら、きっと俺たちのピンチを救ってくれるって…」


ピーチちゃんはそれ以上何も言わない。
本音は、琉女ちゃんを争いに巻き込みたくはない。
琉女ちゃんには、可能な限り普通の生活をしてほしいんやから…
俺らの本当の仕事は裏稼業…琉女ちゃんにそれを手伝わせるのは、本意や無いんや。



………………………



そして夜…時間的には深夜に差し掛かる位の時間帯。
俺は時計で時刻を確認し、スマホでピーチちゃんに指示を出した。
ピースちゃんは食べまくった挙げ句、船室でグースカ寝とる。
琉女ちゃんはひとりポーズを取りながら星空を見ていた。
さて、これで上がって来れば仕事はほぼ完了やが…


ピーチ
『今の所、網に大きな衝撃は有りません』
『ですが魚も含めて多くのモノがかかっているはず…後は祈りましょう』


独特の機械音と共に、網は高速で巻き上げられる。
しかし深海10qの深度から上げるのには、かなりの時間がかかる。
重量も相当あるはずやからな…2時間以上はかかるか。



「少し仮眠取るわ、巻き上がる手前で起こしてくれ」

ピーチ
『了解です、お任せを』


俺は少し息を吐いて、近くの簡易ベッドで横になる。
すると、トコトコと琉女ちゃんが近付き、俺の体に布団をかけてくれた。


琉女
「この時間は冷えますよ? 仮眠でも体は冷やさない様にしないと…」


「おおきにな…琉女ちゃんも休みや?」


俺がそう言うと、琉女ちゃんはニコニコ笑ってくれた。
俺はそんな幸せそうな笑顔を見て、目を瞑る。
後は…待つだけや。


琉女
(不安なんですね、でも葛さんは弱音を吐かない)
(私は、守ります…何があっても、例えカイオーガと戦う事になろうとも)
(私はこの人の、ヒーローになるんですから…)



………………………



ピーチ
『葛さん! そろそろ時間です!!』


「!? …ほうか」


俺は少し重い頭を抱えてベッドから起き上がる。
そして側におった琉女ちゃんから水の入ったペットボトルを受け取り、それで喉を潤した。



「…どないや?」

ピーチ
『…後少しです、深海魚は沢山かかってますが』

琉女
「いる…! この感覚、奴が近付いて来る!!」


琉女ちゃんは確信めいた真剣な表情で目を光らせる。
琉女ちゃんはエスパータイプでもある、感覚の鋭さは人一倍やろ。
つまり、この下には確実にカイオーガがおるっちゅう訳や!


ピーチ
『!! ウインチを使用します! 頭上に注意を!』


最後に網を釣り上げるウインチを動かし、網を引っ掻ける。
そして遂に大量の魚と共に、俺たちの目の前にそれは現れた。
網はゆっくりと船の甲板に下ろされ、網から大量の魚がビチビチ跳ね回る。
その中心付近、完全にビクビクして震えながらキョロキョロしてるPKMの姿があった。

そいつの目は金色で、その周りが紅く縁取られており、彼女の感情に反応しているのか激しく明滅しとる。
まるでサファイアを思わせるかの様な美しい髪には、白い斑点模様が描かれ、手の甲には目の縁と同じく紅く明滅する模様。
尻付近には尾びれもあり、まるで水棲哺乳類を思わせる物や。
身長は約160p程、何故か幾何学模様の和服に似た服を着とる。
コイツが…カイオーガ、か?


カイオーガ
「…あ、うう!?」

琉女
「…久し振り、で良いのかな?」


琉女ちゃんはビチビチ跳ねる魚を踏まない様に歩き、カイオーガに近付く。
その姿を見て、カイオーガは少しだけ表情を緩めていた。
何や、別に仲が悪い…って訳でも無いんやな。


カイオーガ
「ルナ…アーラ?」

琉女
「そう! 我こそはルナアーラであり、そうではない!!」
「今の私は、混沌の探求者! ルナティック! カオス! ディザイア!! だっ!!」


琉女ちゃんはいつものポージングでそう名乗る。
カイオーガは目を潤ませながら?を浮かべて泣きそうになっていた。
お、臆病とは聞いとったが、こら筋金入りっぽいな…


琉女
「…相変わらず、みたいですね?」

カイオーガ
「そっちは何があったの…?」


そうか、琉女ちゃん仲間内には厨二病見せてなかったんやな…
元々は前に下界でテレビ見て影響受けたって言うとったけど、その時はまだ今のキャラは完成してへんかったんか…



「とりあえず、荒っぽい事して堪忍な…立てるか?」

カイオーガ
「ひぃっ!? 近付かないで!!」


カイオーガは水飛沫を上げ、琉女ちゃんに抱き付く。
俺は今のでびしょ濡れになるも、はぁ…とため息を吐いた。


琉女
「こらカイオーガ〜! 失礼でしょ?」

カイオーガ
「で、でもでも!!」

琉女
「あの人は、私の大切な人なの! だからせめて挨拶する!!」


琉女ちゃんはまるで姉の様な言い方でカイオーガを叱った。
ちょっと意外な一面やな…


カイオーガ
「…どうしたの? ルナアーラ、前はそんな事言う娘じゃなかったのに」


琉女ちゃんはそう言われて、少し俯く。
何か、あったんやろか? 俺にはまだ解らん…琉女ちゃんの複雑そうな顔を見てそう思った。


琉女
「…私は、変わったから」
「ううん、これからも変わっていくから…」

カイオーガ
「………」


カイオーガは不安そうに琉女ちゃんを見ていた。
せやけど、その顔はまるで家族を心配するかの様な顔。
神であった頃の琉女ちゃんしか、カイオーガは知らんねやろな…
きっと、今の琉女ちゃんの生活を見たら、驚くやろ。
あんな…誰が見ても厨二病な琉女ちゃんが、真面目に仕事して、人間と生活してるんやから。


琉女
「大丈夫だよ、あの人は優しい人だから」

カイオーガ
「…本当、に?」

琉女
「信じたくないならそれでも良い、でも話だけはして貰うから」


カイオーガは俯いて考えている様だった。
そしてしばし静寂に包まれた最中…


ぐ〜〜〜っ


カイオーガ
「!? あ、あう…!」

琉女
「あ、はは…お腹空いてるんだね」
「どうせ君の事だから、マトモな食事は取ってないと思ってたけど…」

ピース
「今回は特別に腕を振るってやりますよ!! 覚悟なさい!?」

カイオーガ
「ひぃぃぃぃっ!? 怖い人(;Д;)キターーー!!」


突然船室から勢い良くドアを開けて現れたピースちゃんは、包丁を片手に魚を捌いていく。
凄まじい勢いで甲板を跳ね回っている深海魚の数々をピースちゃんは刺身にしていった。
カイオーガはそれを見てビビりまくっている。
まるで次は自分が食われる…とでも思っていそうだ。


ピース
「ビクビクオドオドしてんじゃありませんよ!?」
「さぁ、この盛り合わせを食べなさい! キンキンに冷えた醤油でねぇ!?」

琉女
「何でそんな脅し文句で進めるんですかっ!? カイオーガがドン引きしてますよ!!」

カイオーガ
「ひぃぃぃぃぃっ! これがジャパニーズ鬼ぃっ!?」


「って、あんさんは外人なんかい!」


俺は横からビシッ!と遠くからエアツッコミをする。
つーか神様PKMって言うても、そもそも出身国とか無いやろ…
むしろ、どこの国に行っても話通じるPKMの語学力が凄まじいわっ。



「つか、とりあえず腹減ってるならそれ食いぃ」
「俺らに敵意はあらへん、そこのピースちゃんは態度最悪やけど、悪人…?や、無いはずやから」

ピース
「葛さん!? 今さりげなく?浮かべましたよね!?」
「私は正常ですよ! 男の事で功を焦ってなんかいません!!」

琉女
「…良いから黙っててくださいよ、カイオーガが既に涙目で震えてますから」
「はぁ…ほら、お腹空いてるなら食べて、毒なんか入ってないから」


琉女ちゃんはピースちゃんから皿を取り上げ、それをカイオーガに差し出す。
醤油が注がれた小皿も手に取り、琉女ちゃんは箸を使って刺身の一切れを醤油に付けてあげた。
そしてそれをカイオーガに差し出す。


カイオーガ
「………」


カイオーガは震えながらも琉女ちゃんが差し出した刺身を咥える。
そしてモグモグと口を動かし、やがてその顔は驚きの顔に変わっていった。


カイオーガ
「美味…しい」

ピース
「当然ですよ! 鮮度が違いますからね!! 次はわさびも付けますか!?」


「こらこら、いきなりわさびは難易度高いやろ…」

琉女
「うーん、でも少しなら試してみる?」


琉女ちゃんはそう言ってあらかじめ持って来ていた山わさびを少しだけ刺身に乗せた。
カイオーガは恐る恐るそれを手に取り、琉女ちゃんが持ってる醤油の皿に浸す。
後はそのまま口に運んでみた。


カイオーガ
「!? 少し…辛い」

琉女
「薬味ですからね、気に入らなかった?」

カイオーガ
「ううん…初めてだけど、これはこれで美味しい♪」


カイオーガは、初めて笑った。
俺はその顔を見て、あぁ…良かった、と思う。
彼女も、やっぱり普通の女の子なんやと。
ただ臆病なだけで、知らない事に怯えるだけの、弱い娘なんやと…

俺は確信した。
やっぱり大護の言う通りや…神とかそんなのは幻想。
確かにそれだけの力を彼女らは持っとるかもしれん。
せやけど、その内に秘められてる感情は人間と変わらん。
ただ、知らない事に怯えて、嬉しい事に喜んで、悲しい事には泣いて。
そんな彼女たちが、どこが人間と違う?
ちょっと変わってるだけや…見た目や特殊な能力があるだけ。

やっぱ、俺の選択は間違ってなかった。
俺はこんなPKMを救いたい! 幻想でしか無かった、夢の少女たち…
どんだけクソッタレな世界でも、俺は彼女たちを守ったる!
裏の仕事は確かに汚いけど、それでも俺は絶対に救う!
改めて俺は決意した…この世界に住むPKMを影から支えようと。
こんな俺を慕ってくれる、琉女ちゃんを絶対に幸せにしよう、と…



(それで、ええんや)


俺は嬉しそうに笑う琉女ちゃんとカイオーガを見て微笑む。
きっと、大丈夫や…きっと上手く行く。
例え苦難が待ってても、俺や大護、そしてルザミィが絶対に見捨てたりなんかせぇへんねんから…










『突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語』

スピンオフストーリー 『Avenger The After』


第8話 『臆病者のカイオーガ』


To be continued…

Yuki ( 2019/08/16(金) 23:55 )