終章 『Avenger』
最終話 『Peace』
『石蕗 大護』…彼は大会社の跡取りとして産まれた、裕福な家の子だった。
父親は誰もが認める凄腕の社長、母親も元は一般人だが、絵に書いた様な美人の若い女性だった。
そして、年は離れているが優しく、弟思いの美しい姉。
そんな、誰が見ても羨む程の裕福な家庭に、大護は産まれた。

大護もまた、そんな家族の為には努力を惜しまなかった。
将来は父親の後を次ぐ事を小さい頃から確信しており、未来に思いを馳せる天才少年。
小学生低学年にして、成績はトップクラス。
何をやらせても抜群にこなすという、これまた誰もが羨む才能の持ち主だった。

しかし、悲劇は突然訪れる。
大護が7歳になった頃、夜寝静まった頃に突如悲鳴が響き渡ったのだ。
大護はそれに気付き飛び起きるが、既に恐怖を覚えていた。
聞いた事の無い生々しい音、まるで肉と肉をぶつけ合うかの様な、そんな比喩が合う謎の音。
大護は恐る恐る自室から出て、まずは両親の部屋に向かった。
あえてノックはせず、全身を震わせながら部屋のドアを開ける。
その先にはあまりにも血生臭い臭い。
大護は思わずその場で吐き出すが、状況を確認する。
その眼前に広がっていたのは、布団の上で頭部をザクロにされていた両親の姿だった。
大護は悲鳴をあげなかった。
全力で口を抑え、吐くのを我慢して声を抑える。
これは間違いなく強盗か何かのの仕業だと大護は予想した。
そして、寝ている間にどうやってか侵入され、両親は頭を潰されて殺されたのだ。

大護はすぐに姉の部屋に向かった。
悲鳴は姉の物ではないと信じたかった。
大護は本来ここで逃げるべきだったのに、それでも勇気を振り絞って優しい姉の元へ向かう。
だが、それは間違いだった。
彼は、見てはいけない物を見てしまったのだ。
大護が姉の部屋に入った瞬間、大護は頭部を強く殴られる。
当たりが若干甘かったのか、相手が手加減したのかは解らないが、意識は繋がっていた。
だが大量の出血から頭は呆然としている。
そんな状況で大護は信じられない光景を目の当たりにしていた。

意識が朦朧とする中、黒いフルフェイスのメットと黒いスーツに身を包んだ何者かが、裸の姉に対して腰を打ち付けていた。
姉は人形の様に手足と首をブラブラさせ、その眼は明らかに死んでいる。
そして長い髪を振り回し、血だらけの頭部から血が飛び散った。
大護の顔にまでそれは届き、大護は訳が解らなくなる。
まだ7歳の子供だが、それでも男が何をやっているかは理解出来ていた。

謎の男は、姉の死体相手にSEXをしていたのだ。
メットからくぐもって聞こえる男の喘ぎ声に、大護はただただ恐怖する。
逃げる事すら考えられず、大護は理不尽に犯される姉の顔をただ目に焼き付けてしまった。
もはや、男の事も眼中に入らない、ただ…大護は涙を流して死んだ姉の痴態を目に焼き付ける。
頭から流れ落ちる血は、カーテンの様に己の視界を埋め、やがて大護は次第に正常な思考が出来なくなっていった。
その後、男はビクン!と体を痙攣させ、絶頂を迎える。
姉の死体からぺニスを抜き、それを拭う事もなく、すぐにスーツの中に仕舞う。
そして、男は大護を見た。
大護はビクンッ!と体を震わせ、心臓が止まったかと思う。
自分も殺されるのだろうと確信したのだ。
すると、男は何かの液体をポリタンクからぶちまけ、姉の死体に撒いた。
そしてそこに火を点け、爆発炎上。
途端に家は火災に見舞われた。

男は燃え上がる炎をシルエットに、もう1度大護を見る。
大護はそんな男の口元が笑っていた様に感じていた。
思考が正常化し、気が付くと男はもういない。
大護は絶望に苛まれながらも、体を起き上がらせ朦朧とする意識の中で迫る火の手からただ逃げた。
焼け焦げていく姉の死体を最後に目に焼き付け、大護は走る。

大護の家は、人里からやや離れた山の方にある豪邸だった。
元々両親は静かな方を好んでいた為、あえて自然が多い中に家を建てたのだ。
親子4人で住むには大きすぎた家だが、それも所々から爆発音が聞こえ、すぐに崩れていく。
大護は命からがら逃げ出し、体力が切れ、例え這いずってでも生き延びた。
やがて異常に気付いた通行人に大護は保護され、今回の事件は日本中に報道される事になる。
その結果は…不幸な事故。

大護は理解出来なかった。
何故事故なのだろう? 何故原因不明のガス爆発なのだろう?
一家心中? 家族の争い? 全く大護には理解出来ない。
黒スーツの男に関しては何も話に出て来なかった。

その後、大護は警察に対してもあえて何も言わなかった。
どうせ子供の戯言だと思われるのが解っていたからだ。
だから、大護は決意した。
誰も裁かないのなら、自分が裁こう!と。

それから、大護は母親の親戚に引き取られ、新たな人生をスタートさせる。
まずは体を徹底的に鍛えた。
様々なビデオや本で動きを頭に叩き込み、時には自衛隊の訓練を見に行ったりもした。
当然、学業もおろそかにはしない。
基本は当然とし、その他に様々な薬品や、化学物質の研究、そして武器に対する知識。
どうすれば人は死ぬのか? また生き延びるのか?
大護は全ての青春期を復讐の為に費やした。
やがてその力はとても並の子供のそれでは無くなっていき、大護は人殺しとしてメキメキ成長していく。
そして大護が18歳の時、その時は来た。

ある日、大護の学校でとある学生が自殺しようとしていたのを見かけ、大護はそれを止めた。
理由を聞くと、イジメに耐えられなくなったと大護は知る。
その学生はまだ1年生で、入学してから2学期の終わり頃まで、ずっとイジメられ続けていたと言うのだ。
そして、誰も彼を助けようとはせず、教師ですら見て見ぬ振り。
大護は思った…また誰も裁かないのか?と。
そして、大護は静かにイジメられっ子の彼にこう告げた。


『お前は、生きろ』


大護はその後、それまでに培った全ての技術と金、人脈を駆使し、イジメっ子3人と、教師ひとりを密かに殺害した。
これが、大護にとって初めての人殺しだった。
それでも大護は何も躊躇わない、そこには信念があったからだ。
誰も裁かないのなら自分が裁く。
その考えのままに、大護は自らの手で罪人に死刑を執行した。
そして、これでもう戻れないのだとも確信する。
その後、大護は学校を自主退学、イジメられっ子には何も被害は無かったのを見届け、大護はそのまま日本を去った。

そして…大護はそれから世界を渡り、復讐代行の殺し屋として裏の世界に名を馳せる。
数え切れない程の人間を殺し、そして報酬を受け取ってぶらりと旅立つ。
誉められた仕事ではないが、それでも大護は力無き人間の味方だった。
例えその手は血に塗れ、悪魔の手となっているとしても、大護は迷わなかった。
自分の仕事に誇りを持っていたからだ。
その根底にドス黒い己の復讐があるとしても、それでも誰かの為に力を使いたかった……



………………………



大護
「…お前、本気で言ってんのか?」

羽黒
「もちろんだとも! 私は君をあえて生かし、そして育つのを待った!!」
「だが、長かったよ…君がここに辿り着くまで」


俺は銃を構えながら呆然としていた。
羽黒は口を歪めて笑いながら語る。
こいつは、25年前のあの日から俺に目を付け、あえて泳がせていたのだと言う。


羽黒
「PKMという物を初めて見た時、私は歓喜したよ!」
「何て素晴らしいオモチャなのだと! 私はすぐにひとり殺して貪った!」
「人間と変わらない! なのに湧いて出て来る!!」
「私は自分でも面倒な趣味だと思っているが、死体にしか勃起出来なくてね…」
「更に欲求を抑えられないんだ! だから定期的に誰かを殺して死体を犯さなきゃ満たされない!!」


狂ってやがる…こいつは本当に。
つまり、こいつはそれまでも定期的に殺してたって事だ。
政治家としての権力すら使い、全部闇に葬ってきたのか…!


羽黒
「だが、あの日は違った…」
「そう! 規格外のポリゴン2が現れたあの日!!」

大護
「!? P、2…」

羽黒
「そうだ! 私は目を疑った! あの時の君の姉とそっくりな容姿!!」
「こんな偶然があるか!? 私はすぐに彼女を捕まえ、解析し、記憶を消去した!!」
「後は裏のルートの売人に彼女を引き渡し、君に連絡を入れさせた…」
「そして計画はようやく最終段階に入れた! 君は運命に引き寄せられる様に日本へと戻り、そして遂にここに辿り着いた!!」
「本来なら、私は君の目の前でPZの死体を楽しむつもりだったが、それは残念ながら叶わぬらしい…」
「本当に残念だよ!! 25年も我慢していたのに!!」
「君のあの絶望と憎悪に満ちた眼は、死ぬ程美味しかったのになぁ〜♪」


羽黒は愉悦に満ちた高笑いしていた。
俺は、逆にこれでもかと冷めていく。
そして、これ以上聞く事はもう無かった。
こいつはただ、前に食った飯の味が忘れられなくて、それをもう1度食いたいと思っただけだ。
それも、25年も熟成させた上物の飯を、だ。
たまたま、それが俺だった…そしてP2だったんだな。
連合の件も、戦争の件も、こいつには遊びの一環に過ぎなかった。
ただ俺を引き寄せる為のエサ…回りくどいのは、釣り上げた時の達成感を引き上げる為、か…

ダァンッ!!と俺は無言で最後の引き金を引く。
その弾丸は高笑いし、首を仰け反らせている羽黒の口内に捩じ込まれ、上顎を貫いた弾丸は外に出る事も無く、奴の脳にめり込んだ。
奴はそのまま笑い続け、後に倒れる。
やがて声は止み、俺はため息をひとつ吐いた。
直後、突然地震。
いや、爆発音だ…まさかあの野郎?


ピーチ
『大護、ビルが崩落します!!』

大護
「…ちっ、最期までやってくれるぜ」
「ピーチ、カネはどこか解るか?」

ピーチ
『南の方向、ビルの入り口から10m付近にいます』


俺はそうか…と言ってすぐに携帯電話をその方角に投げ捨てる。
一瞬ピーチの声が聞こえたが、俺は小さく笑った。
まぁ、しょうがねぇ…屑の末路はこんなもんだろ。
俺は崩れていくビルに巻き込まれ、下に落下していく。
ここは20階建ての高層ビルだ。
まず助からねぇな…


大護
(だが、ようやく終わった…これで思い残す事はねぇ)


いや、あるにはあるんだが…とりあえずそれは他の連中に任せて大丈夫だろ。
とにかく、俺の復讐は終わった。
そして、俺の人生も…
落ち行く瓦礫の上に俺は寝そべり、最期の時を待つ。
案外長ぇな…まぁ40mはあるが。
って、んな訳あるか! 明らかに浮いてるだろこれ!?


大護
「ちっ、えらくお人好しじゃねぇのか?」

カネ
「ふふ、わざわざ私の所に電話を落とすんだから、期待してたんじゃなかったの?」


俺はへっ…と笑う。
別に期待はしてなかった。
単にピーチがいなきゃPZを治せねぇと思ったから放り投げただけだ。
カネなら気付いてくれるとは期待してたが。
助けてくれるとまでは思ってなかった。


大護
「…ヤツは?」

カネ
「もう瓦礫の下ね…確実に死んでるでしょ」

ピーチ
『生体反応ありません、死亡確認です』


そりゃ重畳…まぁサイボーグだし生体反応無くても怪しいんだが。
生きてるならそれはそれだ…俺は何度でもヤツを殺す。
とはいえ、死んでくれる方が助かるのは事実だ。
やれやれ…こんなんでトラウマ治るのかね?


カネ
「とりあえず、地上に降ろすわ…恐らく、もう戦いも終わるから」


俺はカネの超能力で地上にゆっくりと降ろされた。
そして、フラフラになりながらも、俺は自分の体に違和感を覚える。
傷が塞がっているのだ。
確かにバルカン掃射の時に体をズタズタにされたのに、今は痛みが薄い。


カネ
「ちゃんと生きててくれて良かったわ…わざわざ保険で鱗粉を体内に吹き込んでおいたんだから」

大護
「体内にって…あれか」


俺は、カネの口付けを思い出す。
そういや、何か吹き込まれた感覚はあった…ただの息だと思ってたが、鱗粉だったのか…
すぐに吐き気が来たから、細かくは覚えてないんだよな。


ピーチ
『カプ・テテフの鱗粉には人の生命を操る力があります』
『今回の場合は、大護の傷を内部から癒してくれたのでしょう』

カネ
「他にも貴方の闘争心を高める効果にもなっていたのよ?」
「まぁ、たまに暴走する事もあるのだけれど…」

大護
「怖ぇな!! リスク込みかよ!?」


人の体に何て劇薬仕込みやがったんだ…まぁ、結果オーライだが。
周りには戸惑うPKMと兵隊。
多くの者が倒れており、カネの力を垣間見れる。
相当な数を倒したみたいだな。
だが、皆死んじゃいない様だ…これもカネの鱗粉の力か。



「オジさーーーん!!」

大護
「…む」


俺は傷が癒えているとはいえ、失った血液のせいでロクに体が動かなかった。
そのせいで俺は高速で飛びかかって来た紫音ちゃんのタックルでアスファルトに組伏せられる。
俺は痛みを堪えてやれやれ…と思った。


紫音
「オジさんのバカバカバカッ!! やっぱりお別れなんてヤダァ!!」
「私、絶対にオジさんに恩返しするんだから、それまで逃がさない!!」


そう言って紫音ちゃんは泣きながら俺の胸に顔を擦り付けた。
俺はとりあえずされるがままになっておく。
まぁ、生きてたんだし…それも良いか。


蛭火
「ふんっ、本当に勝ちやがったんですね…」

細歩
『…うん、ボスは死んでるみたいだね』

大護
「何だお前ら? 幹部らしく俺を殺しに来たか?」


俺は解っててからかってやる。
すると蛭火は露骨に鬱陶しそうな顔をし、細歩はニコニコしていた。
後、何やら見慣れない誰かが背中を向けて去って行くのを遠くに見る。
誰かは解らんが、あれも幹部か? まぁ、とりあえず去る者は追わずだし、今はどうでも良いか。


大護
「細歩、火くれ」

細歩
『ん…はい』


細歩はゲル状の右手を差し出して指から火を出し、俺のタバコに火を点けてくれる。
俺は紫音ちゃんごと体を起こし、タバコを吸った。


紫音
「オジさん…?」

大護
「一服したら、最後の仕事に行く…」



………………………



ドォォォォォォォンッ!!




「クソッタレ! 無茶苦茶な火力やな!?」

ルザミィ
「結果的に三つ巴! しかもこっちはPZちゃんを助けなければならないのに…!」


戦力的にはかなり不利。
武装してても、兵隊の数が多すぎて私だけじゃ捌ききれない。
私たちふたりは物陰に潜み、PZちゃんを狙う兵隊を横から狙撃していた。
これだけでも時間は稼げる。
PZちゃんの大火力も、やはり限界があるのだ…その内残弾が切れる。
そうなったら、蜂の巣は明白。
その時は、何としても確保しないと!!


PZ
「はぁ…はぁ…!!」
「ムカつくんですよ! 後から後から湧いて出て!!」
「これ以上、私に近寄るなぁ!!」


PZちゃんの『放電』が辺り一面を凪ぎ払う。
兵隊はそれに恐れ、攻撃の手が緩まった。
それ所か、何かに戸惑っている?



「情報取れたで!? どうやら、羽黒は死亡!! 大護がやりよった!!」


葛君は携帯電話片手に、ハッキングしていた様だ。
そして私たちはそれを聞いて士気が高揚する。
つまり、表向きの戦いは終わった! あれが羽黒の兵隊だと解っている以上、頭を失ってはもう戦う意味は無い。
兵隊たちは蜘蛛の子が散る様に逃げ出し、ものの数分で全員撤退した。
これで残ったのは私たちだけ。
後はPZちゃんを何とかして説得しないと!


ルザミィ
「PZちゃん!! 連合はもう終わりよ!? 戦いは終わったの!!」

PZ
「知ってますよ!! ボスの生体反応は消えた!!」
「だったら私はどうなります!? 殺戮機械は廃棄が確定!! 黙って受け入れろと!?」


「安心せぇ! 俺らが絶対にPZちゃんは守ったる!!」


PZちゃんは苦そうな顔をする。
まるでくだらないと見下しているかの様な目で私たちを見ていた。
そして私たちに向け、右手を構える。
私たちは危険を察知し、すぐにその場から飛び退いた。
その直後、とてつもない光線が通り抜けて行く。
放射線状は全て破壊し尽くされ、私たちは余波だけで体が焼け焦げるのを感じた。
そしてそのまま数mは吹っ飛び、私たちはゴロゴロと転がる。



「ぐ…はっ!」

ルザミィ
「ぐ…うぅっ!!」


葛君は荒い息で起き上がれなかった。
今の一撃で葛君は完全にダウンしている。
私は火傷の痛みに耐えながら立ち上がった。
だけど、今ので火器武装もやられた…こっちは丸腰か。
いや、ナイフならある…けど、それでどうにかなるかしら?


ルザミィ
(…バカね、私は逃げれば良いのに)


心の中ではそう否定しているが、体は前へと進む。
私は何度やり直しただろう?
何度やっても私は死んでいた。
どれだけ抗おうとも、私は死の運命から逃れられない。
何100回と繰り返した頃、私は気が付けば諦めていた。
どうせ何をやっても死ぬ…それならもう良い。
ただ、この地獄はいつ終わる?
これは私への罰なの?
金の為なら、躊躇い無く人は殺してきた。
時には依頼主すら裏切り、貶めた。
私は何も属さない、女スパイ。
でも、そんな私の心に残った想いがあった…


ルザミィ
(大護は…生きたのね)


リアは言っていた、大護もPZちゃんも、必ず死んでいたと。
遂に歴史は変わったのよ…だから、私も生きてる。
でも、まだ終わってない。
私には出来る事がある。
PZちゃんは、まだ救われてない!!


ルザミィ
「この、バカポリゴンがぁ!!」


私は全力で駆け抜ける。
PZちゃんに向かい、腰に仕込んでいたサバイバルナイフを構えて。
PZちゃんはさっきの技の反動か、すぐには動けない様で舌打ちしていた。
何故、彼女はあんなにも変わってしまったのか…
全ては羽黒 芸知巣の仕業とはいえ、あの可愛かったP2ちゃんが、こうも変わってしまうなんて…
私は、彼女の事は好きだった。
素直で笑顔が似合って、大護に甘えていて。
私は、羨ましかった。
私もあんな風に素直になれれば、もっと幸せになれたのだろうか?
いや違う…私にはそれは出来ない。
大護には復讐があるし、私は所詮一介のスパイ。
互いが情愛で交わる事は無いのだ。
人として、母親にすらなれない体の私が、何故幸せになれるのか?
その役目は、目の前にいるのだから…


ルザミィ
「プロを舐めるんじゃないわよ!?」

PZ
「下等生物が、図に乗るんじゃないですよぉ!!」


後3mの所でPZちゃんは動く。
私は体勢を屈め、ナイフを前に構えた。
これまで見て、PZちゃんはかなり技を使い果たしている。
使えたとしても、恐らく大技か小技。
私はPZちゃんの大きなモーションを見切り、すぐに横にステップして技を回避した。
出たのはトライアタック。
これまでにもう10発近くは見てきた、モーションは読みやすすぎるわね。


ルザミィ
「ふっ!!」

PZ
「くっ!?」


私は素早く踏み込み、PZちゃんの腹部を蹴る。
横蹴りを食らい、PZちゃんは少なからず体勢を崩した。
私はそのまま接近し、PZちゃんを追い詰めて行く。
これまで見て、接近戦は苦手と踏んでる。
単純な手数と駆け引きなら、人間の私でも彼女には勝てるわ!


PZ
「あああっ!!」

ルザミィ
「遅い!!」


私は右腕を振り上げるPZちゃんの間接を取り、すかさずアームロックで捻って容赦なく腕を折った。
そのまま膝を再び腹部に叩き込み、ナイフですかさず右膝の裏を貫く。
PZちゃんは呻き声をあげ苦しむが、私はナイフを抜いてPZちゃんの首を両腕でロックした。
このままオトせば私の勝ちね!


PZ
「っ…ざけっ! ぅぅなぁぁ!!」


瞬間、バチバチバチィと電撃が迸る。
私は全身に高圧電流を浴びた様な状態になり、力無く崩れる。
常人なら即死の威力だろう。
もちろん、これは私でも例外ではない。
私の意識は、ここで終わってしまった…



………………………



大護
「…PZ」

PZ
「…? あ、あぁ…っ!?」


PZはボロボロだった。
どれだけの戦いを繰り広げたのかは解らないが、腕も足もブラブラとさせており、眼は虚ろ。
足元にはルザミィらしき人間の倒れた姿が見え、どうやらPZとやりあっていた様に思える。
PZは俺を確認すると、眼をグリグリ動かして首を痙攣させる。
もう、こいつは限界だ。
どれだけ無茶な改造で弄くられたか知らねぇが、もうこいつは限界。
俺の手には一応銃が握られているが、それを引く事は無かった。


大護
「…ピーチ、どうやって治す?」

ピーチ
『接続ケーブルがあれば、それを私と繋げてもらえればすぐに』


成る程、それならいつもP2がやってた様に口にでもねじ込めば解決か。
とはいえ、俺も今はロクに動けない。
そして近くには誰もいない。
紫音ちゃんたちは危険を見越して先に逃がしており、ここには俺たちだけが来ているのだ。
さて…想像以上に厄介だが。


PZ
「石蕗…ダイゴォォ!!」

大護
「…やれやれ、本当に厄介だな」


俺はとりあえずゆっくり歩み寄った。
PZはそこからガクガクと震えているだけ。
ただ、無機質な目で俺を見て、憎らしそうに顔を歪めていた。
本当は、互いに死ぬ予定だったんだろうな。
だが、何の因果か生き残っちまった。
俺にはもう復讐と言う枷も無く、ただ空しいだけの仕事が残っていたのが辛かった。

俺はタバコを1本取り出す。
そして火が無いのに気付いて俺はそれを仕舞った。
俺の癖だな…面倒臭い時はとりあえず一服する。
やれやれ…いつでも火が出せるPKMは便利そうだな。

そんなくだらない事を考えながら歩いていると、俺はいつの間にかPZの側に着いていた。
するとすぐに、俺は意味不明な挙動をしているPZの口にUSBの充電ケーブルを捩じ込む。
そして俺の携帯電話にいるピーチがすぐにバックアッププラグラムを起動させた。
PZの体は激しく痙攣し、体が様々な色に輝き出す。
それは僅か1分以内の出来事で、俺は全てが終わったのを確認してため息をもう1度吐いた。

やがて携帯電話の画面からピーチの姿もアプリのアイコンも消える。
そうか…お前も、終わったんだな。


PZ
「…ダ、イゴ」


PZは俺に向かって倒れ込む。
だが、俺はそれを回避して先に倒れてるルザミィを介抱した。
PZは思いっきりアスファルトに顔面を擦り付け、ピクピクと痙攣している。


大護
「よし、ルザミィも死んでねぇな…ショックか何かで気絶してるだけだ」
「後遺症は心配だが、命に別状はねぇだろ」

PZ
「有り得なくないですか!? ここって、普通は私が優しく抱き止められて、そのままエンドロールでしょ!?」


PZは何とか起き上がり、早速文句を言い放つ。
俺はケラケラ笑い、ルザミィを肩に担いでこう言った。


大護
「行くぞ『ピース』!!」

PZ
「えっ…それって?」


俺はやや恥ずかしく思うも、改めて言い直す。
こんな気持ちになるのは、多分初めてだろうからな。


大護
「お前の新しい名前だよ…もうP2でもPZでもねぇからな」
「本当の名はあったみたいだが、そんなのは昔の話だし」
「だから、お前はこれから『ピース』だ…平和の、Peace」


その時、俺は姉貴の幻影を見た。
ポリゴンZと言う、姉に良く似た顔のPKMは俺に笑いかける。
その時、姉貴はこう言った気がした…


『ごめんね、大護…』


大護
(…謝んなよ、俺は俺がやりたいからやっただけだ)


俺はただ、自分の意志に従っただけ。
あくまで復讐を目的とし、理不尽な何かと戦っただけ。
俺ぁ、やっぱり外道さ…ただそれでも。


ピース
「ありがとうございます、ダイゴ!」
「私…その名前、大切にします!!」

大護
「ああ、そうしてくれ…多分2度と付け直さねぇつもりだから」


少なくとも、この目の前にいるひとりの女位は守れたらしい。
今は、それで満足する。
これから先に、何が待ってるのかは知らないが、俺はとりあえずゆっくり考える事にした。
時間は…たっぷりあるさな。










『突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語』

スピンオフストーリー 『Avenger』


最終話 『Peace』


The End…










………………………





「待ってよ、君は一体?」

リア
「…この世界のディアルガか」


全てを見届け、私は世界を出て行こうとした矢先だった。
唐突にふたりの少女が現れる。
身体的特徴から、私はふたりをディアルガ、パルキアと判断した。


パルキア
「この世界に何故干渉したの? 理由によっては…」

リア
「…ひとりの女を救ってくれと頼まれた」
「そして、ようやく助けられた…それだけだ」


私は髪を靡かせ、風を感じる。
ここまでかかったが、無事に生き残って良かった。
ピーチとしての存在は曖昧になってしまったが、あれはあれで問題は無いだろう。
大護が生きてさえいれば、ピーチはきっと幸せになれる。
それが、例え終わる世界でも…せめて幸せのままでいてほしい。


ディアルガ
「君、どうやって時間をループさせたの? 少なくともそんな事が出来るのはこの世界では…」

リア
「神を名乗るなら、視野の狭い事を言うな」
「私が別の世界から来たのなら、別の世界の貴様も存在すると言う事だ」


とはいえ、力の一端を封じ込めた宝石を使ってやったんだがな。
しかも使い捨てで、もう2度と使う事は出来ないし、私の体には無効の代物だ。
その代わりに、私はループした世界を逐次観測出来る能力も得ている。
痛し痒しだが、ルザミィのお陰で今回は救われたと言う所だ。

ちなみに、今はもうルザミィも自由だ…願いを叶える約束は結局断られてしまったが、ルザミィもそれなりに満足そうだった様だし、そういう意味では、私も救われたものだな。


パルキア
「…ギラティナの能力の領分を明らかに超えてる、少なくともその力は創造主と同等以上に感じる…一体何者?」

リア
「…知らぬ方が身の為だ」
「既に何億年と生きた身ゆえ、もはやいくつの世界を渡ったかも覚えていないしな…」


私はそう言って大鎌を出し、空間を切り開く。
するとそこには光輝くゲートが開き、私はそれに向かって歩む。


ディアルガ
「リアと言ったね、君のその名は?」

リア
「…ただのニックネームだ、知り合いが皆そう呼んでる」
「ちなみに、我が本当の名は『レイソムリア』」
「かつて、神のひとりとして自らの世界を守り、今は…こうやって異世界のどこかで、人助けをする『愚か者』だ…」
「さらばだ、この世界の小さき神よ…そして、くだらぬ理の中で一時の安寧を享受するが良い」
「ただ、誰かの幸福を犠牲にしての平穏など、どれ程の罪なのだろうな…」


私はそれだけ言ってゲートを潜る。
その瞬間、私に関する記録は全てこの世界にとって無かった事になる。
これで、正真正銘終わりだ…



………………………



ディアルガ
「…あれ?」

パルキア
「どうして、ここに?」


理解が出来なかった。
私たちはふたりして理解不能の何かを思い出そうとするけど、全く思い出せない。
試しに過去に戻ってみたが、それでも何も解らない。
どうやら…本当に気のせいらしい。
だけど、世界は変わらない。
いずれまたこの世界は、創造主によって創り変えられるだろう。
今は、何も起こらないけど、きっと遠くない未来にそれは訪れる。


ディアルガ
(幸福か…その引き換えに、ここまでの混沌を生むとはね)
(それでも、彼が幸せなら…その他の存在はどうでも良い、か)
(本当に、これで良いのかな?)










Never End…?

Yuki ( 2019/07/05(金) 19:59 )