終章 『Avenger』
第7話 『最終局面』
その日は、雪が降っていた。
12月に降る雪としては非常に珍しく、この街では初雪の観測となっている。
だが、街は多くが崩壊しており、今は悲しい風の音が響いていた。
多くの住民は街を去り、残った者も恐怖に怯えながら生活している。
正直、街としては、ほぼ死んでいると言って差し支えないだろう。
そんな街の中でも、様々な覚悟と想いを抱く者たちもいた。



………………………



紫音
「………」


時刻は昼、私は無気力に歩いていた。
ちなみにここはオジさんのいる街じゃない。
私は病院にお見舞いにも行けず、ただトボトボとひとりで歩く。
昨日の事があまりにもショックで、私は自暴自棄になりかけていた。
何の役にも立てない…私の力じゃ、オジさんの力にはなれない。


紫音
(私が、もっと強ければ…)


今頃、オジさんの為に戦っているのだろう。
でも、私にはそんな力は無い。
むしろ邪魔になってしまう…カネってお姉さんもそう言ってた。
でも、それはオジさんが私の事を大切に想っていてくれるから。
決して巻き込みたくないと、そう思っているから。


紫音
「…でも、お別れは、嫌だよ」


「やべぇ危ない!」


ガッシャーン!と私の近くで大きな音。
私は完全に回りが見えておらず、警戒すらしてなかった。
この辺りはまだ安全だと思い込んでいたのがマズかったのかも…



「痛た…どこ見てやがる!?」


「うるせぇ! 女の子が大怪我する所だったんだぞ! つーか、自転車レーンの方走りやがれ!」


見ると、男がふたり言い争っていた。
かなり派手に衝突した様で、互いにアスファルトに座り込んでいる。
ひとりは中年のオジさんで、いかにも無職そうな見た目。
近くに自転車が転がっており、どうやらそれに乗っていた様だ。
対する男は、いかにも会社員ですと言う見た目で、体には擦り傷。
明らかにそれなりのスピードの自転車と衝突していたのは目に見えた。


会社員
「自転車での衝突事故、今じゃ刑法になるんだぜ!? 罪状は過失運転か!?」

中年
「う!?」


中年のオジさんは言い詰められていた。
すると、立場が悪くなったと思ったのか、すぐに自転車を起こし、その場から逃げ去った。
残されたのは私と会社員っぽいオジさんだけ。


紫音
「あの、その怪我大丈夫?」


私は未だに立ち上がろうとしないオジさんに手を差し伸べた。
多分、この人は私を助けようとしてくれたんだ。
本来なら、かわせたはずの衝突事故。
だけど、私は考えすぎるあまり、不注意で人を傷付けてしまった。


大城
「ぐお!? 肋骨折れたかっ!?」

紫音
「た、大変!? 救急車呼ばないと!!」


私はすぐにスマホで連絡を入れる。
救急車が来るまでの間、私は会社員のオジさんを介抱しつつ、今後の事を考えた。
私は、弱いままじゃダメだ。
誰かに守られて、助けられてるだけじゃ、ダメだ…
私の為に傷付く人がいる…私は、そんな人を生み出す存在になってはいけない。


紫音
(戦おう…私は、私に出来る範囲で)



………………………



『喫茶ポケにゃん』…ここは、数少ないPKMが働いている喫茶店。
今やPKM人権法のおかげで法的に働ける様になったとはいえ、この店ではあまり関係は無いようにも思える。
私は、最後の希望として、ある人を頼る事にした。


紫音
「あの…ここに、アブソルの人は?」

アブソル
「お前は、あの時の…」


アブソルの女性は、私を見つけて近付いて来る。
その姿はまさしくエロメイド。
驚愕に値するバストサイズを揺らし、周りの視線を一身に集めていた。


紫音
「…お願いします、助けてください!」


私はその場で土下座する。
よく解らないけど、これが人に物を頼む時の最大限の頼み方らしい。
一瞬、場が騒然となったが、アブソルの女性は軽くひと睨みして場を黙らせた。
そのプレッシャーは凄まじく、土下座している私ですら冷や汗が出る程だった。
その後、アブソルの女性は私の首根っこを掴み上げ、私をつまみ上げたまま別の部屋に連れて行った。
そこには誰もおらず、私たちはふたりきりとなる。
そして、アブソルの女性はため息をひとつ吐いてこう言う。


アブソル
「…何のつもりだ?」

紫音
「えっ!? だ、だから…助けてくださいって」

アブソル
「それは良い、だがあんな頼み方があるか」
「誰に教わったのかは知らんが、土下座などそう容易くする物ではない!」


私はいきなり叱責される。
うう…何でこうなるかなぁ〜?


アブソル
「…遂に、ひとりではどうにもならなくなったか?」


私は耳を垂れ、コクリと頷く。
端から見ても、弱々しい態度だろう。
でも、それでも私は、諦めたくなんかない。
例え私の力が足りなくても、強い人の力を借りられれば、オジさんは助けられる。


アブソル
「…まずは、話を聞こう」
「お前ほどの勇気ある者が、それ程までに追い詰められるとはただ事ではあるまい?」


私は再度頷き、ここまでの事を話した。
アブソルの女性はそれを真剣に聞いてくれ、そして事の顛末を理解した。



………………………



アブソル
「…成る程、な」

紫音
「私は…助けたい」
「例え邪魔だと言われても、それがお別れだなんて私は受け入れられない…」

アブソル
「…ならば、顔を上げろ」


私はハッとなってそうする。
アブソルの女性は強い眼差しで私を見ていた。
そして、アブソルの女性はメイド服を脱ぎ、着替えを始める。
どうやらここはロッカールームの様で、更衣室でもある様だ。


アブソル
「…外で待て、支度をしてから出て来る」
「裏口はそっちにあるから、そこから出ると良い」


私は指差された方の出口から外に出る。
そして、私は表の騒々しさに少し圧倒された。
どうやら、さっきの一件で少しざわついたらしい。
迷惑…かけちゃったな。



………………………



アブソル
「…待たせたな、なら行くぞ」

紫音
「え? あ、あの行くって…」

アブソル
「助けたいのだろう? 石蕗 大護と言う男を…」


私は強く頷く。
でも、私は大護がどこにいるかは…


紫音
(…いや、匂いは探せる!)
(特に、カネさんの鱗粉の匂いは特徴的だ)


少なくとも、カネさんはオジさんと一緒にいるはず。
どちらかの匂いさえ辿れれば…


紫音
「行きましょう! 私が匂いを追って先導します!」


アブソルの女性はコクリと頷き、私たちは移動を始める。
とりあえずは前にいた場所を目指そう。
追跡は、そこからだ。



………………………




「…さて、話を聞いた所かなりトンデモな事になっとるみたいやが?」

リア
「…ああ、PZを救う為にはお前たちの力がいる」

ルザミィ
「…俄には信じがたいけど、ね」


俺らの拠点に突然現れたんは、リアと名乗るPKMやった。
それも伝説のポケモンと言われるギラティナ。
そないな大物が連合の幹部やっとったとはな…
道理で神出鬼没なはずや…この娘の能力で自由に移動しとったんか。



「せやけど、具体的にどないする気や?」

リア
「PZはこれから暴れる事になる」
「今までと同じなら、そこでPZは死ぬ」

ルザミィ
「!? 今まで…って」


ルザミィは突然食い付く。
それは、前にルザミィが言うとったループの事か!?


リア
「…お前は知っているはずだ」
「この世界は、何度も同じ時間を繰り返している事に」

ルザミィ
「どう言う事なの!? 貴女が原因だと言うの!?」
「何故私をこんな体にしたの!? 私は一体…!!」


「ちょっ、落ち着けや!!」


俺はルザミィを無理矢理押さえ付けるが、ルザミィの方が力が強い。
俺は引き摺られながら、ルザミィはリアに詰め寄っていた。


リア
「…恨み言は全てが終わってからいくらでも聞く」
「お前を選んだのは、石蕗 大護に悟られぬ為だからな」

ルザミィ
「!? 大護、に?」

リア
「…一言で言うなら都合が良かった」
「お前はあの日、必ず大護とは別の行動を取っていたからな」
「私はそれに目を付け、お前に『特異点』としての能力を与えた」


「特異点…やと?」


リアはしばし無言になる。
ルザミィは何が何だか解らないと虚ろな顔を両手で覆っていた。
ホンマにトンデモや…何でルザミィがそんな事に?


リア
「訳あって、私は今や異なる世界を行き来出来る存在となった」
「この世界で解りやすく言うなら、ゲートを自由に開いて潜れる…と言う所か」


俺らはギョッとなる。
ゲート…それはPKMが出現する時に必ず発生する扉。
彼女は、そのゲートを自由に出来るんか!?


ルザミィ
「それじゃあ、この世界にPKMが現れたのも貴女のせいなの?」

リア
「残念だがそれは関係が無い」
「そもそも、私がここに辿り着いたのはPZ…いやP2がこの世界に現れた後だ」


P2ちゃんが…ってなると、確かに結構経っとるな。
あの頃はとうにPKMは世界で確認されとったし。


リア
「いまやPZと進化させられたあいつは、もはや未来が無かった」
「そこで、私はお前を特異点…いわばセーブポイントにして同じ時間を繰り返し続けたのだ」
「全ては…PZの為に」


ルザミィ
「それで、都合が良かったから私…ね」


ルザミィはかなり頭に来ている様だった。
気持ちは解るけどな…何も知らずにそんな永久ループとか、気持ち悪いを通り越して最悪や。


リア
「この世界は、必ず崩壊する」
「残念ながら、それを避けるルートには今まで到達出来なかった」
「神を名乗るバカ共が、世界に楔を打っている様だからな」
「だが、私は諦めん…必ずPZを救う!」
「全ては私のミスから始まったこの戦い…」
「ようやく、ようやく…辿り着いたと思いたい」


リアの目は寂しそうやった。
一体、これまで彼女はどれだけの地獄を潜って来たのか?
どれだけの失敗を繰り返してきたのか?
そして、ルザミィもまた…か。


リア
「ルザミィの生存は、PZの生存に繋がると私は踏んでいる」
「例えどんな手順を踏もうとも、ルザミィの死が確定している段階で、PZと大護は死が確定していた」
「だが、今回だけは初めてルザミィが生き残った…私はこのルートを信じる」
「全てはもうすぐ始まる…今までと同じなら、PZは無差別テロに入り、やがて人間たちに殺される」
「そして、大護は羽黒 芸知巣によって殺される」
「この戦いは、両者の生存が絶対勝利条件だ」


俺たちは考える。
突拍子もない話やが、ルザミィの体がリアの言葉を証明しとる。
どこまで本当かは解らんが、それでもリアのあの目は、本当にPZちゃんを想ってるのが伝わってきた。
俺は、それを信じたいと思う。



「ええわ、俺はやるで?」

ルザミィ
「葛君!?」


「PZちゃんを救う為に元々俺は行動しとった」
「ほんなら、俺らがやるのはそれを全力や!」
「PZちゃんを死なせてたまるか…! 絶対に守ったる!!」


リアの奇っ怪な能力は今はええ。
味方なら心強いわ、後は俺らが信じてやるだけ。
ルザミィには酷やが、これは好機や。
少なくともやる事は変わらへんねんからな。


リア
「…頼む、力を貸してくれ」
「もし、成功したらお前の言う事を何でも聞いてやる」

ルザミィ
「…! 解ったわ、その言葉忘れない事ね?」


そう言って、ルザミィは部屋に置いてあった大きめの箱を開ける。
中にはバズーカやらマシンガンやらが所狭しと詰め込まれていた。
ヤル気満々やな…こいつはこいつで心強いわ。


ルザミィ
「上等よ…PZちゃんは絶対に死なせないわ!」
「私が生きているのに意味があるのなら、私はそれを全力で進んでみせる!!」

リア
「…感謝する、私は今から連合に戻るが、これから言うポイントに向かってくれ」


俺らはリアから指定の座標を聞いて覚える。
GPSの座標に照らし合わせたらすぐに解る場所やった。
さ〜て、ようやく俺らの出番やで?



………………………



蛭火
「リーダー! いい加減にしなさいよ!?」

PZ
「誰に命令してるんです? すり潰されたいんですか!?」


今日も私は街で破壊活動を行う。
いい加減、ちらほらと私の命を狙う連中が現れてますね。
とはいえ、私の生体レーダーは射程1km。
スナイパーライフルですら容易に狙撃出来る距離ではありません。
ましてや、当たった所で私は自己再生可能。
殺す気なら、それこそ無差別破壊兵器でも持って来なければ私は死にません。


細歩
「蛭火、ここを離れる…」

蛭火
「はぁ? 何かあるんですか?」


何やら、ふたりはヒソヒソと会話をしていた。
私は特に構わずひとりで暴れ続ける。
人間の兵隊相手では遊びにしかなりませんが、今はそれでも構いません。
とりあえず、八つ当たり用のサンドバッグになってもらえれば!!



………………………



大護
(…後、数分か)

ピーチ
『目標、ビル内に入りました』
『内部には他の人間は確認出来ません』

大護
「おう、ヤツが最上階に着いたら突入するぞ?」

カネ
「随分、突拍子も無い作戦考えるのね?」


俺はニヤリと笑う。
ちなみに、俺は今はカネに抱えられて上空2000mにいる。
後はヤツが最上階に現れればそのまま降下って寸法だ。


カネ
「…本当に大丈夫なの?」

大護
「心配すんな、パラシュートあんだし問題ねぇよ」
「お前は俺を落としたら、そのままビルの周りを警戒しろ」
「多分、護衛位は外に配置してんだろ」
「中には誰も突入させるなよ?」


カネはやや躊躇いながらも了承する。
後少しだ…後少しで、全部終わる。
姉貴…だからそろそろ、俺の中から消えてくれや。
もう、その顔で俺を見ないでくれ。

俺の脳裏には、今でも死んで犯されている姉貴の血塗れの顔がこびりついている。
有り得ないはずなのに、まるで笑っているかの様に微笑みかけてくるのだ。
その度に俺は吐き気すら催す。
断ち切らなければならない…もう、こんな悪夢は。


大護
(…PZ、紫音ちゃん、ルザミィ、葛)


俺は世話になった連中に心で感謝する。
こんな屑の俺に、力を貸してくれたんだから…


ピーチ
『目標が最上階へ到達!』


さぁ、ラストダンスだ。
カネは俺を垂直に落とし、俺は猛スピードで降下する。
後はタイミングを見てパラシュートを開き、一気にヤツを叩く。
考える暇すら与えねぇ…狙われる恐怖も無いんだろうが、今回はそれをたっぷりと味わわせてやる!!










『突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語』

スピンオフストーリー 『Avenger』


第7話 『最終局面』


To be continued…

Yuki ( 2019/07/05(金) 18:58 )