常葉 茂編
第6話

#6




 「三海ちゃん、大丈夫かな?」

食事の後、三海ちゃんは直ぐに眠りについた。
彼女は普通の子より起きていられる事件が短いそうだが、今回は事情が事情だけに、俺は心配した。

阿須那
 「三海の事はウチらも完璧に把握している訳やないからな……」

愛呂恵
 「呼吸音も正常です、とりあえず大丈夫かと」

俺は三海ちゃんを落とさないように背中におんぶしているが、今の所大丈夫らしい。
さて、俺達が今向かっているのは地下、具体的に言えば作戦司令室と闘技場だな。

逆走中も不気味な雰囲気は変わらないが、今の所襲撃もされていない。
幸い最初の頃と違って人数が増えたから、周囲を警戒しながら進むスピードも上がっている。
最初はそれこそ疑心暗鬼で、お互いたちの事でさえ、信用しきる事が出来ない有様だった。
だけど今は違う、色々と変わっていた。
互いの目的は一緒で、そして結末が少しだけ違う。


 (魔更君を取り返す方法……おそらく奴なら知っているはず!)

俺はこの城で何かをしているあの黒幕を思い浮かべた。
現状唯一の明確な敵、人間なのかすら怪しい相手だが、アレこそが元凶であり鍵だろう。

女胤
 「作戦司令室は……駄目ですわね」

薄暗い地下、まず確認したのは作戦司令室、その中は特に無残で、壁に掛けられた複数の液晶モニタは悉く破壊されており、手元のコンパネも焦げ付いて、放置されている。
当然人の気配なんてない。


 「となると、最後の捜索ポイントは闘技場、か」

闘技場は作戦司令室の近くだ。
おそらく作戦司令室から直接モニタ出来たのだろうが、現状ではそれも不可能か。


 「Training Room……か」

ドアに掛けられたプレートに見慣れたフォントで描かれていた。
外付けのようで、扉に手を掛けると、扉はギギギと音を立てて開いた。

阿須那
 「光や、当たりか!?」

闘技場の中は光があった。
天井のライトが生きており、高い天井に広い円形のフィールド、地面には硬い土が敷き詰められていた。

男?
 「やぁようこそ」


 「ここにいやがったか!」

ソイツは俺たちの反対側、フィールドを挟み合うように俺達は対峙した。

華澄
 「聞きたい事もあるでござるな、なぜ拙者たちを巻き込んだ!?」

男?
 「ふふ、楽しいからだよ。私にとってね、これは暇つぶしさ!」

女胤
 「もしそれ本当なら、貴方は何者なのですか!? これ程の大規模な混沌をただの人間に起こせるわけがない!」

男?
 「ふぅ、いけないな〜君たち、何でも答えが貰えると思わない方がいい、私は敵だよ?」


 (そうだ敵、なんだ……! だが敵だというなら敵になる目的が筈だ! 敵対するにはそれなりの理由がいる!)

彼女たちの舌戦を後ろに俺は冷静に奴の言葉を分析していく。
奴は口が堅い方でもないだろうが、だからと言って確信には中々触れさせてくれない。
徐々に苛立ちを覚える阿須那さんたちとは対称的に、男は余裕を見せている。

阿須那
 「上等や! それなら火傷治しの用意はええか!?」

阿須那さんはそう言うと炎を噴き出す。

男?
 「やれやれ、まぁ想定通りだが」

阿須那
 「その余裕! ウチが砕いたらぁ!」

阿須那さんの火炎放射!
男は手を翳すと、炎は拡散していく!


 (ナツメのサイコバリアと同質の物か!?)

男が扱ったのは明らかに念動力だ。
それはおそらく三海ちゃんから頂いたという力なのだろう。
阿須那さんは苦虫を潰すような顔をすると、炎を止める。
代わりに上から、水手裏剣が襲う。

華澄
 「お覚悟を!」

男?
 「全く忙しい事だ、それじゃそろそろ彼女に出て貰おうかね」

男は水手裏剣を片手で弾くと、横から迫る愛呂恵さんを見た。
愛呂恵さんは雷パンチの体勢のまま突っ込んだ!
しかし!

バチィン!

突然、空からの電撃!
愛呂恵さんは目の前に落ちた電撃に怯み、技をキャンセルして後ろに跳んだ。

男?
 「さて、最後のゲームだ。これに勝てば君たちはゲームクリアだよ」

ストン!

男の目の前に、ピカチュウに似た少女が降り立った。
その体には紫電さえも纏わせて。

女胤
 「守連さん?」

阿須那
 「どうせ偽モンやろ!? 遂に守連の偽モンまで出してきたか!」


 (偽物? 本当にそうか?)

俺は一度しか顔を合わせていない守連ちゃんの事はまるで分かっちゃいない。
だけどここまでの経緯から、アレが偽物だと言うには不十分だと脳が訴えている。


 (守連ちゃんだけが、巻き込まれていない? そんな話あるのか!?)

阿須那
 「偽モンなら、守連以下やろ! くらいや!」

阿須那さんはそう言うと、火炎放射を守連ちゃんに向ける。
だが、守連ちゃんは。

バチィン!

阿須那
 「なっ!?」


 「速っ!?」

守連ちゃんの足下にスパークが走った瞬間だった。
阿須那さんの目の前には守連ちゃんが迫り、アイアンテールが襲う!

阿須那
 「かはっ!?」

避ける間もない、阿須那さんが吹き飛ばされ、フィールドを転がる。

女胤
 「阿須那さんが一瞬で!? まさか本当に守連さんでは!?」

男?
 「ふふふ、さて君たちは何処までやれるかな?」

守連
 「ああああああ!?」

守連ちゃんが吼える。
その目には涙が零れていた。
狂気だ、悪意が守連ちゃんを縛っている!


 「お前!? 守連ちゃんに何をした!?」

男?
 「教えてあげたのだよ、独り善がりな善意が起こす悪意をね!」


 「なんだと……!?」

華澄
 「常葉殿! 話は後でござる! 今は下がって!」

女胤
 「愛呂恵さん! 呼吸を合わせますわよ!?」

愛呂恵
 「了解」

三人守連ちゃんに向かう。
兎に角守連ちゃんを止めなければならない。
一方で守連ちゃんは虚ろな瞳で、狙いを定める。

守連
 「うう、ああああ!」

バチバチバチ!

10万ボルト、いや放電か!?
守連ちゃんはフィールドに無差別な電撃をばらまく。
その一撃を貰ってしまったのは女胤さんだ。
女胤さんは電撃に吹っ飛んだ。

女胤
 「あああっ!?」

華澄
 「女胤殿!? くっ!」

華澄ちゃんが地面に手を突ける。
影討ちだ、しかし守連ちゃんはゴーストタイプに変化するより速く『電光石火』で、華澄ちゃんの腹部に鋭い蹴りを入れた。

華澄
 「なっ……!?」

華澄ちゃんはその蹴りを受けて、前のめりに倒れた。
残ったのは愛呂恵さんのみ。

愛呂恵
 「くっ!」

守連
 「!!」

守連ちゃんは直ぐさま愛呂恵さんの元に向かう!
愛呂恵さんはその独特の体技で守連ちゃんを寄せ付けないが、守連ちゃんは愛呂恵さんの肩に触れた、その瞬間。

バチィン!

愛呂恵さんは痙攣して、膝から崩れた。

愛呂恵
 「すみま……せん……」

ドサァ!

男?
 「はっはっは! これは想定外、予想より難易度が高すぎたかな?」


 「く……! 皆……」

女胤
 「うう……」

阿須那
 「こな、くそぉ……!」

華澄
 「か、は……! はぁ、はぁ!」

皆無事ではある。
だけど直ぐに戦える状態じゃない。
それにもう一度戦えたとして、守連ちゃんに勝てるか?
おそらく不可能、それ程までに守連ちゃんが強い。

男?
 「では守連ちゃん、最後をお願いしようか?」

守連
 「! あ……あ!」

守連ちゃんはその虚ろな瞳が俺の目を覗き込む。
ゆっくりと、ゆっくりと彼女は俺に近づいた。


 (くそぉ!? せめて三海ちゃんは守らないと!)

俺は三海ちゃんを優しく降ろすと、守連ちゃんに対峙した。
出鱈目な強さ、それが本来の守連ちゃんなのか分からない。
ただ、俺を殺傷するだけの力は充分で、彼女の右腕に紫電が走る。

守連
 「ああああ!?」

守連ちゃんの雷パンチ!
俺は歯を食いしばった!
だが、その手は直前で止まった。

三海
 「だ、め……!」

三海ちゃんだ、具合が悪そうなのに彼女はサイコキネシスで守連ちゃんをギリギリ止めてみせる。

守連
 「あ、あ……!」

守連ちゃんはずっと泣き続けている。
まるでやりたいことの真逆をするように。

三海
 「茂……守連、哀しいの」


 「三海ちゃん!?」

その瞬間、俺は真っ暗闇にいた。
目の前には体育座りで縮こまる守連ちゃんがいた。


 (ここはもしかして守連ちゃんの意識の中か?)

もしかしたら三海ちゃんが繋げたのかもしれない。
兎に角俺は守連ちゃんに近寄ると。

守連
 「聖さんがいないの……」


 「聖、魔更聖君だね……」

守連ちゃんは俺には気付かないようで、ただ俯いたまま独り言を続けた。

守連
 「聖さんを取り返すには、倒さないといけないって教えられた……私は嫌だった。でも私はそうやって自分のために何人も傷つけてしまった……。私は悪い子だ、聖さんや皆に甘えてばかり、挙げ句皆を傷つけている」


 「……この世に完璧な奴なんていないよ、人は誰かを傷つけて生きる……でも、傷を舐め合う生き方ってのもあるんだぜ」

俺は彼女の隣に座った。
彼女はその時、初めて俺の方を向いた。

守連
 「常葉さんは私が怖くないの?」


 「逆に言うけど、守連ちゃんは俺が怖いかい?」

守連
 「……私は傷つけることが怖い……もう少しで取り返しのつかない所だった」


 「そうだな、だけどそれは間違ってもいい答えなんだよ」

守連
 「え?」

俺は少しだけ守連ちゃんの傍による。
決して彼女には触れない距離で、だけど彼女を大切に思って。


 「君が間違いを犯しても、それは終わりじゃない。重要なのは償いだ……君が俺を殴っても、ごめんなさいで終了なんだ」

守連
 「で、でも! 大怪我させちゃうかも!」


 「そうだとしても、君がちゃんと向き合えば、俺は笑って許すよ?」

俺はそう言って微笑んだ。
守連ちゃんはキョトンとする。

守連
 「皆は、許してくれるかな?」


 「君は少し傲慢だな、君の行いで100人中100人を幸せには出来ない。だからこそ人は答えを急がずに悩むんだよ……もう少し勇気を持つといい」

守連
 「勇気を……!」

守連ちゃんはきっと、とても優しい子なんだろう。
だけど自らの善意が時に悪意に変わることを知らない。
施された者が、それを善意と受け取るか悪意と受け取るかは人それぞれだ。
だからこそ、人間は答えを急がない。
彼女はそう言う意味では理想家だろう。
俺はそれが嫌いじゃないが、そう言った子供らしさを時に咎めるのも大人の仕事だと思う。


 「ほら、立とうか守連ちゃん?」

守連
 「常葉さん……」


 「後悔は後でするから後悔なんだよ。先立つ不幸を認めるくらいなら、先に後悔しない選択肢を選ぼうぜ!」

守連
 「……うん!」

守連ちゃんが俺の手を握った。
そして立ち上がる。
その時彼女の心に広がった闇は晴れていく。
その悪意は、彼女の心を縛ったが、それでも彼女はもう一度善意を取り戻した。
善意と悪意は表裏一体、だからこそ人は両方の性質を持つ。



守連
 「……みんな、ごめんなさい!」

その時、俺の目の前には拳を降ろす守連ちゃんがいた。
視界は現実に戻り、そして守連ちゃんが俺に背中を向ける。

阿須那
 「元にもどったんか……?」

華澄
 「この感じ、確かに守連殿でござる……」

愛呂恵
 「ダメージ大、ですが……!」

現実に戻ると、皆ボロボロになりながらも立ち上がろうとしている。
唯一無事の守連ちゃんは俺に背中を向けながら、呟いた。

守連
 「ありがとう、常葉さん……」


 「……ああ、それよりも!」

俺達は男を睨みつけた。
男は守連ちゃんの様子に気付いてようで、初めてあの笑い声がなくなった。

男?
 「悪意を振り払った?」

守連
 「私は独り善がりな善人かもしれない、それが悪意なのかもしれないけど……それでも私は進むよ! 例え魔王と言われても!」


 「アンタ……そう言えばまだ名前知らないな?」

男?
 「私に名前はない、敢えて言うなら常葉茂だよ」

守連
 「ええ!?」

阿須那
 「な、なんやて……!?」

女胤
 「ど、どういう事ですの!?」

茂?
 「私は悪意の総体、だから厳密には常葉茂ではない」


 「悪意の総体だと? それがなんで俺を名乗る!? それも俺より10歳以上は年上の姿で!?」

総体
 「ふふふ、君が特異点だからだよ」

守連
 「特異点……て?」

女胤
 「確か、所謂歴史転換点などに干渉する存在、事象の事だったかと……」

特異点……俺が?
だからと言ってそれは答えなのか?
なぜ相手が特異点を模するのだ。

総体
 「フフフ、君は世界にどれだけ干渉しているか分かるかね? 分からないだろう?」


 「分かるように言え!」

総体
 「簡単に言おう、私が常葉茂なのは君が歴史に干渉して、生まれた悪意だからだよ」

華澄
 「つまり、常葉殿のなれの果てだとでも?」

総体
 「あながち間違ってもいないな、この姿になるのには一応の意味もあるのだろうしね」


 「……その悪意の総体が、なんで俺だけじゃなく魔更君とその家族を巻き込んだ!?」

総体
 「魔更聖に関しては、ある都合が合ってね……もうそろそろ結論も出る頃だろうが、まぁ家族を巻き込んだのはその余興だよ」

悪意の総体はそう言うと、世界を暗闇に包み込んでいく。
それは悪意の色を持った闇だ。
それが煙のように俺を包み込み、そして守連ちゃん達を飲み込んだ。


 「皆!? ち……悪意の総体、お前だけは俺に用があるんだよな?」

総体
 「当然だとも、でなければこんな陳腐な芝居劇を行いはしない」

闇の中には俺と総体だけが立っていた。
気が付けば魔更君の家族たちは影も形もない。
総体は俺の目の前に近づくとこう言った。

総体
 「世界の終わりについて考えた事はあるかね? 私は予言しよう、世界はそう時間もかからず滅びると!」


 「真面目に答えろテメェの頭の中身はカニミソか!」

総体
 「信用できないか、まぁいい、君は特異点であり世界線を変動させ続けた……今は……なるほど1.365221%か」


 (くそ、俺の理解力が足りないのか? コイツなんの話をしてんだよ)

総体
 「君に世界線の話をしても仕方がないが、君が特異点となって世界はいくつもの枝葉を伸ばすのだよ……」


 「ようするに、パラレルワールドだろう?」

総体
 「その通り、だがこの枝は無限に広がり続けたらどうなると思う?」


 「は? そんなの分かるわけが……」

その時だった。
俺は真っ新に漂白された世界を幻視した。
それがなんなのか俺には分からない。
ただフラッシュバックしただけで、俺は頭を抱えていた。


 「消える? 消えていく……?」

総体
 「ふはは、そうだよ……増えすぎた世界は消えていく、そしてその数だけ君は死ぬんだよ……私はそんな君の可能性から抽出した悪意が自我を持った者……故に悪意の総体である」

俺はなぜ、アレを知っている?
世界が突然真っ白になって消えていく幻覚。
それは今も行われている可能性だとでも言うのか?
ならばコイツの言う通り、この世界もそう待たずに消え去ると?


 「お前の本当の目的はなんだ!? 俺をこの場で殺すことか!?」

総体
 「その行為に意味はない、もう数えるのも馬鹿らしい次の周回が始まるだけだ。だが君を試したいのだよ?」


 「俺を試したい……だと?」

総体
 「歴史は幾つもの転換点を乗り越えて分岐していく……2000年問題の時、2018年の大転換、そして2034年の審判……君が私である限り、君もまた世界の悪意なのだよ!」



突ポ娘 X とポ女

#6 悪意の総体

#7に続く。


Yuki ( 2019/05/01(水) 21:43 )