常葉 茂編
第5話

#5




 「さて、今回は至って大真面目にやるわけだが」

女胤
 「まるで今までは真面目じゃなかったみたいですわね」

華澄
 「……」

さて、のっけからこんなテンションで、華澄ちゃんも女胤さんを流し目で見ているが、前回は酷すぎただけだ。
俺達は現在最上階で、これから何処に向かうべきか皆と話し合う。

阿須那
 「そりゃ、厨房やろ? どう考えても怪しいで」

華澄
 「しかし鍵がないでござろう? 一体どのように突破するか?」

女胤
 「地下も調べていないのでしょう? ならばそっちでは?」

愛呂恵
 「作戦司令室に、地下闘技場があります」


 「うーむ」

俺はそれぞれの意見を吟味する。
完全にマッピングを完了させることを優先させるか……。


 「うむ、どの道厨房は通り道だ、駄目なら地下を目指そう」

どの道選択肢は多くない。
と言うか、意図的と感じられるほどまるで此方の攻略順序を把握しているかのように、魔更君の家族が配置されている点も気になる。
女胤さんは敵のゲームではないかと考察していたが、もし事実ならば解法は用意されているだろう。
相手にとってのクリア条件が分からないが、こっちは少なくとも相手の用意するものを突破していくしかない。

阿須那
 「……なんやかんや、茂はんも馴染んできたな」

華澄
 「うむ、不思議な方ですが、悪いようには感じない」

女胤
 「まぁそれでも一番は聖様ですがね!」

愛呂恵
 「……当然です」


 「ははっ、愛だねぇ」

俺は苦笑するが、それだけ魔更君は愛されているのだろう。
ここまでゾッコンになる相手ってなら相当のイケメンなのか。
いずれにせよ、俺と魔更君は何か不思議な縁があるようだな。


 (茜、保美香、美柑、伊吹、凪、華凛。俺も皆愛してるよ)

俺は心の中でそう呟くと、最上階を出て、3階に向かう。



***




 (しかし悪趣味な程不気味だよな)

既にこの城でどの位の時間が経過したのだろうか。
気分を明るくしよう努めても、それを無駄と嘲笑うかのような禍々しさ。
それさえ演出なら何が狙いだ?
相手の目的が見えない事がこれほど不気味とはな。

阿須那
 「ほな、もう一回やるで?」

3階厨房はさっきの部屋の真下にある。
なんだってそういう構造しているのか謎だが、一体どういう設計コンセプトなんだろう?
阿須那さんはそんな厨房の扉に手をかける。
しかしやはり扉が開くことはなかった。

阿須那
 「あかんか……」

愛呂恵
 「待ってください、中から音が!」


 「音っ!?」

愛呂恵さんはその大きな垂れ耳が証明するように耳がとても良いらしい。
欠点として高周波は聞き取れるが、俺のような低周波の声は聞き取り辛いという原種のウサギのような特徴があるようだ。
そんな彼女は耳を扉に押し付けると、中の音を探った。

愛呂恵
 「これは……三海さん!?」

華澄
 「三海殿ですか!」

女胤
 「くっ! 閉じ込められているのですね!?」


 (三海ちゃん!? くそ! 俺の声が聞こえるか!?)

俺は中にいるであろう三海ちゃんに念を送る。
ナツメなんかだと、俺のような常人の念でも的確に捉えてくれた。
これが三海ちゃんでも可能かは、エスパータイプの適性が分からんが、仮にも伝説のエスパータイプポケモン、ナツメの以上の適性を信じるしかない!

三海
 『し、げる?』


 (その声三海ちゃんか! 今どうなってる!?)

三海
 『う、ううー!』

これは三海ちゃんの念か!?
三海ちゃんが送ってきた念には三海ちゃんが見ている映像が映る。
それは荷物の散乱した厨房、そして三海ちゃんを取り囲む影で出来たような人型たち。
三海ちゃんは念動力でそれらフェイスレスたちを弾き飛ばすが、フェイレスはその度に数を追加されていく。


 『おやおや、もう少しゆっくり出来ないのかね?』


 「なに!?」

それは俺の知らない声だった。
三海の見せる念に男の声が紛れ込む。
そいつは影のような男だ、ただ俺より年齢が高いように思える。
そいつは三海の念の後ろにいる俺を『見て』言った。

男?
 『もう少しで私の用事も終わるから、大人しくしていたまえ』


 「用事だと!?」

阿須那
 「茂はん!? 一体どないしたんや!?」

!? 阿須那さんの声が横から聞こえた!?
念の映像から、自分の映像に切り替わるとそこには心配そうに顔を近づける。
よく見ると、俺の周りには他にもそんな様子の子たちがいた。


 「皆! 三海ちゃんの他に誰かいる!? なんかやばいぞ!?」

華澄
 「それは本当ですか!?」

阿須那
 「ちっ!? 開けやこのドア!!」

阿須那さんは両手で炎を吹き出して、ドアを焼き付ける!
しかしそれだけでは足りない。

女胤
 「くっ、兎に角侵入出来ればいいのでしょう!?」

女胤さんはそう言うと、壁向かって種マシンガンを放つ。


 「くっ やれるだけやってみるか!? 皆! 部屋の四方から厨房へ攻撃! 愛呂恵さんは下の階から! 華澄ちゃんは上の階! 阿須那さんはそのまま扉を! 女胤さんは側面から狙って!」

愛呂恵
 「了解」

華澄
 「分かるました! やってみるでござる!」

女胤
 「可能性を信じるしかありありませんか!」

阿須那
 「こうなれば、やれるだけやったるわ!」

皆それぞれを動き出すと、俺は目を瞑って三海ちゃんに念を送る。


 (三海ちゃん! 今からそっちに侵入を試みる! なんとか持ちこたえてくれ!)

三海
 『ン〜! 頑張る!』

三海ちゃんは今も増え続けるフェイスレスたちを念動力で、弾き飛ばしていく。
三海ちゃんの力は圧倒的だが、無限ではない。
特に彼女はなにか不安定な感じがした。
詳しい事情は分からないが、彼女になにか問題があるのだろう。

男?
 『やれやれ、もう少しゆっくり攻略してくれれば、何事もなく彼女を返却したのだがなぁ?』


 (なんだと!?)

男?
 『ふふふ、とりあえず君はこれを見ない方がいいと思うよ?』

男はそう言うと三海ちゃんに近寄る!

三海
 『うぅ〜! 悪意! こっちに来るな〜!』

三海ちゃんはそれに念動力を放つ。
しかしその男は、平然と三海ちゃんに近づいていく。

男?
 『ははは、怖がらなくてもいいのだよ?』

三海
 『うう〜!』


 (三海!?)

男が三海ちゃんに触れると、三海ちゃんは目を見開いて背筋を仰け反らせる。
その時俺は三海ちゃんの念の逆流を浴びてしまう。


 「うぐ!?」

頭の中に電撃が走るような痛み、三海ちゃんの一瞬の念は恐怖だった。
俺は精神感応をシャットダウンされて、その場に跪く。

阿須那
 「茂はん!? 大丈夫か!?」


 「お、俺より三海ちゃんを……!」

ガタン!

その時だ、突然扉が崩れ落ちる。
まるでもう用済みだと言わんばかりに。

阿須那
 「なんや突然!? 三海!?」

散乱した厨房、そこには倒れた三海ちゃんがいた。
そして三海ちゃんの目の前には謎の男。

ドガァン!!

阿須那さんが突入すると同時に、壁を突き破り、3人も厨房へと突入する。
俺は遅れて中へと入った。

華澄
 「突然突破出来? はっ!? 三海殿!?」


 「三海ちゃん大丈夫かっ!?」

俺は三海ちゃんのもとに駆け込むと、三海ちゃんを抱き上げる。
そしてその男を睨みつけた。

男?
 「はっはっは、怖いな君たち」

女胤
 「貴方が黒幕でしょうか?」

阿須那
 「三海に何をした!? 返答次第じゃ容赦せえへんで!?」

男?
 「なに、少し彼女と遊んであげただけだよ、別に命に別状はない。少し力は頂いたがね?」

愛呂恵
 「力を頂いた?」


 (コイツ……一体何者だ? 本当に黒幕なのか? 一体なんの目的で俺たちを集めたんだ?)

男?
 「常葉茂君? 君は私が何者か疑問に思っているね? そう、私こそがこの事件の黒幕だよ」

華澄
 「黒幕!? ならば今すぐここから返して頂きたい!」

男?
 「ふ〜む、時が過ぎれば返してあげてもよいが、まだしばし『彼』の方は時間が掛かるか」


 (彼だと!? 一体誰のことだ!? 共犯者がいるのか!?)

阿須那
 「アンタ……一体何様や? こっちはそっちの都合なんて関係ないんやで!?」

皆その男に戦闘態勢を構える。
しかしその男はその殺意にまるで動じていない。
いや、俺自身何かが警告していた。
このままじゃ勝てない……と!

男?
 「とりあえず今は君たちと戦うつもりはないよ? まずは彼女たちと遊んで貰おうか?」

男はそう言うとその周辺に3人の浮遊する少女たちを召喚した!
それは黒い霧の中から現れ、これまでの偽物と同じ表情をしている。

愛呂恵
 「藍様、棗様、夏翔麗愛様!」

それぞれはどうやら容姿からアグノム、ユクシー、エムリットらしい。
この男は偽物を召喚した、つまりこれまで偽物を差し向けたのはコイツなのか!

男?
 「さて、私は最後の仕上げもあるので、ここで退場させてもらうよ?」


 「なっ!?」

男はそれだけ言うと、黒い霧に包まれて消えてしまう。
そしてそこには偽物だけが残っていた。

アグノム
 「アググググググ!」

ユクシー
 「シイシイシイイ!」

エムリット
 「エエエエエ!」


 「皆!」

阿須那
 「下がっとき! 偽物らはウチらが片付ける!」

四人は偽物相手に構えた。
俺は三海ちゃんを担いで後ろに下がる。

三海
 「し、げる……?」


 「三海ちゃん、ごめん!」

三海ちゃんはゆっくり目を開けると、弱々しい声を上げた。
俺はそんな彼女に謝ることしか出来ない。
だけど三海ちゃんは。

三海
 「ンー、シゲル、もっとナデナデして」


 「三海ちゃん……」

三海ちゃんはかなり怖い思いをしたはずだ。
少なくとも念の逆流にはそう言った感情が含まれていた。
だけど今の彼女は穏やかに笑っている。
その時、俺は彼女には謝るのではなく、強い大人を見せるべきだったと悔やんだ。


 「三海ちゃん、よく頑張ったね……」

三海
 「シゲルのナデナデ、スキ〜♪」

三海ちゃんはエスパータイプだから、俺の精神にも敏感なんだろう。
だから俺だけは彼女を不安にしてはいけない。
俺はなるべく微笑みかけると、三海ちゃんも笑った。
今、目の前では魔更君の家族たちが偽物と戦っている。

阿須那
 「ち! 行くで!?」

阿須那さん両手から小さな炎を出すと、それを投げつける。
アグノムがそれを止めると、炎は周囲に飛び散った。
弾ける炎か、まずは相手の行動を阻害したようだ。

華澄
 「はぁ!」

華澄ちゃんは地面に手を突けると、影が伸びる。
それはエムリットを掴むと、エムリット事件に叩きつけた。

愛呂恵
 「はっ!」

そしてそれを見て、愛呂恵さんはエムリットに蹴りを放つ。
エムリットは直撃を受けて、厨房の奥へ吹き飛んだ。


 (く……流石にあまりこれは精神衛生によろしくないな)

ぱっと見では子供のアグノムたち。
無論相手には良心の呵責もないだろうし、ポケモンにおいて見た目は二の次なのだろうが。
そんな俺を見かねたのか、三海ちゃんが俺の頬に手を伸ばす。

三海
 「ンー、シゲル、不安?」


 「……大丈夫だよ、俺は大丈夫」

そうだ、これは別に俺が苦しむ必要はない。
そしてそれは今戦っている彼女たちだってそうなのだ。


 (だけどアイツは何者なんだ?)

俺は三海ちゃんから何かを仕掛け、そして去ったあの男の事を考える。
ぱっと見では40代位、声は俺より少し渋いようだった。
身長は同じくらいで、顔は影のようになっていてよく分からなかった。
人間らしさと怪物らしさが同居しているような雰囲気を俺は覚えていた。
あのポケモンとも違う、異質のプレッシャーはなんだったんだ?

女胤
 「容赦はしませんわよ!」

女胤さんは周囲の動きを見ながら、ユクシーの後ろに回ると種マシンガンを放つ。
それはショットガンのように扇状に広がり、ユクシーの背中を蜂の巣にした。

ユクシー
 「!?」

まず一人ユクシーが脱落し、闇へと変わっていく。

阿須那
 「これでしまいや!」

華澄
 「終わりでござる!」

やがて、残り二人も順次にやられた。
準伝のポケモンとはいえ、その力は彼女たちには敵わないようで、特に苦労はなかった。
正攻法なら彼女たちと戦えるのはそれだけ稀なのだろう。

愛呂恵
 「敵勢力沈黙」

女胤
 「ふぅ、一先ず片づきましたわね」

華澄
 「うむ、ですが……あの男何者でござろう?」

阿須那
 「得体がしれへんな……あんな不気味な相手は初めてやで」


 「皆、お疲れさま」

俺は三海ちゃんを大事に抱えながら、皆の元に向かうと一先ず三海ちゃんの様子を窺った。

華澄
 「三海殿、大丈夫でござるか?」

三海
 「大丈夫♪」

阿須那
 「とりあえずこれで守連だけやな」

女胤
 「まぁ守連さんなら心配はいらないのではないですか?」

三海
 「ンー、お腹空いた〜」


 「お腹が空いたって……」

三海ちゃん唐突過ぎて空気読まないなぁ。

愛呂恵
 「……冷蔵庫、無事のようです」

愛呂恵さんはいち早く冷蔵庫を確認すると、中身を見た。
大丈夫と言っても、その中身が安全なのか激しく気になるが。

阿須那
 「もしかして、作る気か?」

愛呂恵
 「いずれにしても、休憩は必要だと判断します」

華澄
 「まぁ三海殿も、お腹が空いているようですからな」

そうして、愛呂恵さんは様々な機材をチェックし、駄目な物は技で代用しながらテキパキと作業進めるのだった。



***



阿須那
 「はぁ〜、よくまぁこんなダンジョンでこれだけ料理を用意できるもんやな」

三海
 「いただきま〜す♪」

愛呂恵さんは冷蔵庫の中身を片っ端から使ったらしく、随分と豪勢な食事が完成した。
一応大丈夫かどうか、阿須那さんチェックしていたが、三海ちゃんは既に食べているし、心配するだけ形骸か。

女胤
 「この匂いに釣られて、あの大食ネズミ現れませんかね?」

華澄
 「いくら守連殿でも……、言い切れないのが恐ろしい所でござるな」


 (あの子、そんなに食い意地張ってんのか?)

今朝、俺が見たのは茜もビックリの食べっぷりを見せる姿だった。
三海ちゃんも大概だが、三海ちゃんや茜にそこまで意地汚いイメージが湧かないのは何故だろう。

女胤
 「しかし問題は黒幕ですわね……」

阿須那
 「同感や、アレは人間か? ポケモンじゃあらへんよな?」


 「皆もやっぱりアイツの得体のしれない何かを感じてたのか」

愛呂恵
 「気のせいか、声、容姿共に常葉さんに似ていたように思えました」

似ている、それに真っ先に反応したのは阿須那さんだった。

阿須那
 「いやいや、せやけど年齢が違いすぎるやろ!? あれはおっさんやったで!?」

三海
 「ンー……、アレは、悪意……」

三海ちゃんは食べながら目を閉じた。
そして最も直でそれを見た彼女は静かに言った。

三海
 「とっても大きな悪意……、そのコアがシゲルの似ている」

女胤
 「悪意のコア?」

三海ちゃんはそれ以上は上手く説明出来ないらしく、口籠もってしまう。
それにしたって、俺に似ているってどういうことだ?
俺はいたって普通の会社員、そのはずだ。
だけどアイツとオレ、一体なんの共通点があるんだ?

阿須那
 「まさか生き別れの兄とか!?」


 「待てぇい! だとしたら俺も人間止めてるのか!?」

華澄
 「しかし、確かに空気感と言えるでしょうか? 同じ物を拙者も感じたのです……」

皆共通でアイツが俺に似ていたと言うが、肝心の俺にはさっぱり不明だ。
第一まだ奴の目的が判然としない。


 (アイツは何度も時という言葉を使った……まだ時間が掛かると)

ここにはいない誰かと、アイツは共謀しているようだった。
或いはそれさえも利用しているのか?
いずれにせよ、今の所時間稼ぎいがい、目的が読めないが。

三海
 「シゲル? 不安?」


 「……正直不安と言えば不安だわ、ごめんな」

華澄
 「も、申し訳ござらん……、常葉殿とて辛いのでござるな」


 「……まぁな、でも少しだが答えが近づいてきた気がするんだ」

そう、俺は突然巻き込まれ、そして謎を追いかけて……もうすぐ答えに辿り着けそうなんだ。
俺は確かに異能の力なんてなにも持っていない普通の男だ。
そんな俺がなんでこんな数奇な運命に振り回されるのか俺にはさっぱり分からない。
それでも、俺はこの数奇な運命を愛しよう。
彼女たちと必ず起きる別れ、それを辛い物にはしたくないから。



***



男?
 「ふふふ……さて常葉茂と魔更聖。両方とも上手くやってくれるかなぁ?」

男……その悪意はそう言うと、足下に転がる物を見た。

男?
 「何時まで抵抗するのかね? ふふふ無駄なことを」

足下に蹲っていたのはギザギザの尻尾と頬に電気袋を持つピカチュウ娘だった。
その少女は呻き声をあげながらもただ只管に何かに耐えていた。

男?
 「ふふ……ははは! 君の中にある怖れ、誰かを傷つけたくない、誰も傷付いて欲しくない……だがその裏には悪意があるよ……」

男は待つ、これは余興のような物だ。
後は共犯者がどのような結果を出すか見届けるだけ。
そのためにこれ程大きなステージを用意したのだ。



突ポ娘 X とポ女

#5 悪意の存在

#6に続く。


Yuki ( 2019/05/01(水) 21:43 )