常葉 茂編
第4話

#4



阿須那
 「お前を殺す、お前を殺す、でも聖はなんも答えてくれへん」


 「答えてやれよ、聖君−!?」

華澄
 「すっかり二人とも仲良しですなぁ」

まぁいきなりネタでスタートしているが、ネタの神がいるなら仕方ない。
既に俺達は2階の捜索を完了して、残すは3階と最上階。
こういう時こそ、無理にでも明るく努めて、陰鬱にならないのが重要だろう。
幸いその辺り阿須那さんはノリが良くて助かる。
一先ず信用を得ると、彼女はそこそこ饒舌家で場の雰囲気が明るくなったのは確かだろう。

阿須那
 「なぁなぁ茂はん! 茂はんもポケモン娘と住んでたんやろ? 家族にはどない呼ばれてたん?」


 「呼ばれ方?」

ご主人様、だんな様、主殿、茂君、茂さん、ダーリン。
うん、分かっちゃいたけど半数は説明するとき誤解されるよね!?

阿須那
 「なぁなぁ、どうなん?」

華澄
 「これこれ、常葉殿が困っているでござるよ」

俺はどう説明したものか口籠もっていると、華澄ちゃんは空気を察してくれた。
なんて言うのか、見た目は幼いのに華澄ちゃんが一番年上に思えるな。
阿須那さんは見た目はともかく、性格的には華澄ちゃんの方が大人だ。
どうしても平均年齢が魔更君の家族は低いため、やっぱりウチの家族みたいには接しにくい。
それでも、コミュ障だった俺がここまで皆と会話出来てるんだから成長したよな。

愛呂恵
 「所で気になっていたのですが、阿須那さん常葉さんの呼び方が変わりましたね」


 「そう言えば、アイツとかコイツってしか言われてなかった……」

そう考えるとどんだけ嫌われてたんだ俺……。
阿須那さんも少しバツが悪いのか、目線を横に泳がせると。

阿須那
 「いや、ホンマに済まんかった、ウチも気立ってたさかい」

華澄
 「無理もござらん。我々にとって聖殿はそれだけ大切なお方」

それには愛呂恵さんも頷いた。
やっぱり魔更君は相当愛されているんだな。
これはなおのこと、魔更君を悲しませる訳にはいかなくなったな。
可能な限り、全員無事で魔更君に家族を再会させる、その誓いは時間を追うごとの重くなっていった。


 「ま、とりあえず3階だけど、何があるのかな?」

愛呂恵
 「3階には白那様の寝室の他に、城の厨房が御座います」


 「厨房か……なんとなくだが何もしなくても最強の料理人がなんとかしてくれそうだよな」

阿須那
 「沈黙の○艦!?」

まぁ、等の最強のクッキングファイター愛呂恵さんはここにいるから、無いんだろうけどな。
つかここまでの流れから言って、そこに家族がいるのは間違い無いだろう。

愛呂恵
 「もうすぐ厨房です」

阿須那
 「みんな行く!」

華澄
 「御意!」


 「おう!」

阿須那さんはやる気満々で戦闘を歩き、厨房の扉に手を掛けた。
そして勢いよく扉は開かれ……!

ガッ!

阿須那
 「ん? 鍵掛かっとるで?」

愛呂恵
 「鍵ですか……普段は櫻桃(あせろら)さんが所持しているのですが……」


 「あ、セローラ……? うっ!? 脳が!?」

華澄
 「大丈夫でござるか常葉殿!?」

俺はその名前にあの駄メイドを思い出してまう。
今頃保美香辺りに消毒されてそうだが、何分泥を啜ってでも生き延びる執念の塊みたいな奴だ。
次元の壁を越えて、こっちに姿を現しかねんのがアイツの恐ろしい所だ。


 (もし奴が現れたら、俺は全力で皆を守らねば!)

特に華澄ちゃんと愛呂恵さんは危ない!
セローラはロリ巨乳で無抵抗そうな子を優先で狙うセコい奴だ。
特に華澄ちゃんは危ない、まぁセローラが反撃で死にそうだが。

阿須那
 「ちょっと怪しいな」

愛呂恵
 「強行突破してみますか?」

愛呂恵さんはそう言うと、飛び膝蹴りの姿勢に入った。
ここまで鍵の掛かった部屋はなく、唯一掛かっていたのが厨房だけ。
そうなると必然的に、ここが敵の重要な場所臭い。


 「強行突破してみよう」

愛呂恵
 「畏まりました、はぁ!」

ドン!

愛呂恵さんの強烈な飛び膝蹴り、しかし扉はそれを物ともせず、弾き返した。
愛呂恵さんもそれには驚いたようで、扉は傷一つついていない。

阿須那
 「どうなってんのや?」

華澄
 「拙者も試してみるでござる!」

そう言うと今度は華澄ちゃんが巨大水手裏剣を生成し、扉に投げつける!

鋼鉄の鎧さえ切り裂く刃は扉に激突するとバシャア! と音を立てて大量の水が辺りを水浸しにした。

阿須那
 「あーもう! こうなればウチが焼き切ったる!」


 「多分無駄だ、物理的法則は有効じゃ無いだろう」

業を煮やした阿須那さんは炎で扉を焼き切ろうとするが、俺は溜息を交えて止める。
少なくとも、この扉はおそらく現状では何をやっても開かない。
そう思うべき、だろう。

阿須那
 「ちっ! せやけどそれならどうするん?」


 「先に最上階に行ってみよう」

華澄
 「それしかなさそうでござるな……」

流石にお手上げなると、優先度を変えるべきだろう。
幸いこの城は上に行くほどフロアが狭い。
なんと最上階は一室だけという具合だ。

愛呂恵
 「では、そちらに参りましょう」

俺達は更に階段を登ると、最上階へ向かうのだった。



***



女胤
 (聖様の臭い……ああ、包み込まれるようですわ♪)

私(わたくし)は夢の中で微睡んでいた。
記憶は朧気で、私は聖様の汗や染みの臭いに包まれていた。
なんだかとても幸せで、このまま何もかもがどうでも良くなっていく。

女胤
 「ああーっ! 聖様聖様聖様!!」



***




 「聖様聖様聖様!」


 「……入ってはいけない気がする」

俺達は最上階の階段を登ると、目の前に部屋がある。
かつて魔更君が滞在していた部屋らしいが……。

阿須那
 「この声、十中八九女胤やな」

華澄
 「い、一体何事でござろう?」


 「凄く怖いです、でもやるしかないかー……」

俺はその扉に手を掛けると、扉は簡単に開いた。
部屋の中は比較的に綺麗だが、中央のベッドで何かが蠢く。


 「聖様聖様聖様サトシサマサトシサマサトシサマ……キ・モ・チ・イ・イ」

阿須那
 「女胤はもう考える事すら出来へんし、自分が何をしてるかも、もう分からへん。女胤は自分の力のあまりの強さで自分の人格さえ破壊してしまったんや。とんでもない力の大馬鹿野郎や! 女胤は!」


 「こうげきの しょうたいが つかめない!」

女胤
 「はっ!? ここは……?」

○ーグこと、女胤女子は目を覚ますと、ベッドから跳ね起きた。

華澄
 「女胤殿、大丈夫でござるか?」

女胤
 「それどういう意味ですの!?」

どう考えてもトリップしてた危ない女、女胤はどうやら目覚めは良いようだ。


 「例によってご招待って訳か」

阿須那
 「これで呼ばれてないのは守連と三海だけやな」

女胤
 「? ??? 事情を説明して貰えるかしら?」

とりあえ安全そうなので、俺達は事の事情を女胤さんに説明するのだった。



………。



女胤
 「……成る程、厄介な事態に巻き込まれましたわね」


 「理解力が高くて助かる」

あれから女胤さんは皆とは別に、常葉性の住所を探していたようだ。

もしかしたら、そんなに遠くない可能性もあり、遠出した所で突然眠気に誘われたという。
そしてこの最上階でぐっすり眠っていたようだ。

女胤
 「それにしても貴方、中々疫病神ですわね」


 「その点は本当に済まん!」

女胤
 「まぁ貴方に責任を問うても仕方ないでしょう。重要なのはここからの脱出ですわね」

華澄
 「女胤殿、こう見えて知性派ですので、こういう時は頼りになるでござる」

女胤さん、どうやら皆からの信頼は厚いようだな。
見てはいけない内面を見てしまった気がするが、まぁそれは隠し通しておいた方が良いのだろう。
保美香みたいなポジティブな変態は珍しいからな。

女胤
 「しかし偽物に、開かない扉、オマケに脱出経路なし、ですか……はぁ」

女胤さんはそう言うとため息を吐く。
まぁ考えれば考えるほど、自分たちが置かれた状況が不可解だからな。
そもそも魔更君の家族がここに召喚されたのだって、理由が不明だ。
兎に角手がかりになりそうな物を探すしかない。

華澄
 「うーん。怪しい物は見当たらんでござるな」

愛呂恵
 「此方も駄目です……」

全員最上階の捜索を行うが、手がかりになりそうな物も今の所発見なしか。

女胤
 「おそらく、これはゲームですわね」

阿須那
 「あん? ゲーム?」

女胤
 「とりあえず戦闘状況だけを整理致しますと、それぞれ一人ずつ偽物と戦わされています。この状況例えるなら、ゲームマスターが私達を駒にして遊んでいるようですわ」

女胤さんの言い分、俺は妙にすんなり受け入れられた。
確かにまるでゲームだな。
ここまで皆なんらかの理由で偽物と1対1で勝負をさせられている。
確かに抹殺がメインなら、それこそ数に任せて一人ずつ始末していけばいい話だ。
だが、出来る出来ないは問わずとも、妙に休憩スパンが長い事は気掛かりだ。

阿須那
 「ホンマにそうやとしたら気分悪い話やな、何様なんやソイツ?」


 「神様……だったり」

俺がぼそりと呟くと、皆の視線が俺に集まった。

華澄
 「神ですか……確かにアルセウス殿に類する神ならば造作もないかもしれぬ」

女胤
 「ですが、些か幼稚すぎません? この悪趣味な城といい、センスを疑いますわ」


 「……真相はやはり闇の中、か」

仮に首謀者を神様だとしても、目的が分からない。
魔更君の家族を巻き込む事と、俺を巻き込む事がどうしても合致しない。
もしかしたら、そんな理路整然とした理由なんてないんじゃないだろうか?

女胤
 「しかし1対1ですか……私の場合苦手なタイプが多いのですよね……」

女胤さんは早速頬に手を当てて悩んでいた。
まぁ手口を聞けば、もはや常識の範疇ではないのが分かるだろう。
阿須那さんなんて、鏡の中に押し込まれたからな。

女胤
 「それにしても気になるのは、どうして私達の知っている方々の偽物ばかりなのでしょう?」


 「どういうこと?」

女胤
 「考えてみれば、常葉さんのご知り合いならば楽に常葉さんを仕留められそうですわよね?」

む……確かにいきなり茜が現れたら油断するかもしれない。
つか、過去に偽茜に騙されたことあるから、本気で笑えんのよな。

華澄
 「……確かに、理由があるのでしょうか?」

阿須那
 「単純に考えれば、制限があるんかもな」

愛呂恵
 「制限……敵にも、なんらかの事情があると?」


 「もっと偽物をバンバン投入すれば、それだけこっちはピンチだもんな」

無論、相手の戦力が分からないウチはあまり過信したくないが。

女胤
 「とりあえず、捜索できる範囲は終わったのでしょう?」

愛呂恵
 「厳密には地下が残っていますが……」

この城の地下は、地上の構造物よりも広く、深いらしい。
捜索するには手間が掛かると、地上の構造物から調べる事になったのだ。

女胤
 「もう捜索の段階は終わったのでしょう……それに」

突然女胤さんは空を見上げた。
この最上階、天井がぽっかりと穴を開けており、赤黒い空が広がっている。
女胤さんはそんな赤黒い空に何かを発見したようだ。

女胤
 「私への刺客のようですわね」

皆はその言葉に空を見上げた。
空には鳥らしき影がある。

愛呂恵
 「香飛利さん?」


 「またもやそっちのお知り合いか」

阿須那
 「なんや? 見えへん壁があるで!?」

それはおそらく女胤さんを隔離する為だろう。
最上階の部屋半分を境にして、俺達と女胤さんは隔離されてしまう。
だが、それは俺達が安全というわけでもない。
寧ろ地面から当然湧き出る影のような人型のモンスター。
そのフェイスレスたちが俺たちを取り囲む。

愛呂恵
 「常葉さん、離れないようお願いします」


 「とりあえず抵抗はしてみます」

俺は手近にあった棒を手に取ると、正中線に構えた。
その一方で女胤さんの方を見る。


 (実力的には疑わないが……!)

1対1と言うのは一切フォローが出来ない。
元々ポケモン同士の戦いに踏み込めるほど強くはないが、それでも彼女たちが傷付くのは俺の心が痛む!



***



女胤
 (香飛利さん、の偽物ですわよね?)

今偽香飛利さんは上空をグルグルと回っている。
香飛利さん自身の力は私には遠く及ばない。
それを考慮してか、相手も恐れをなしているのでしょうか?
確かに元の香飛利さんなら迷わず逃げるでしょうからね。
とはいえ、逃げる様子もなしですか。

女胤
 「相性上は不利、ですが!」

私は先に蝶の舞いを舞って、能力を高める。
さて、どういう出方で来ますかね!?

オニドリル
 「オオオオオオオオ!」

偽物は突然上空で吼えた。
そして、その翼を羽ばたかせると、熱風が私を襲う!

女胤
 (くっ!? 威力はともかく避けられない!)

熱風は広範囲に広がり、その分威力も減衰しているがそれだけ回避も難しい。

女胤
 「届きますかね!?」

私は光をチャージした。
その間にも偽物はギャアギャアと騒いでいる。

女胤
 「とりあえず落ちなさい! カトンボ!」

私はソーラービームを空に向かって放った。
些か届くか怪しいですが、偽物は翼を掠め、態勢を崩した。

女胤
 「高度が落ちる! この隙を逃さなければ! 問題ありませんわ!」

私は降下する偽物の照準を合わせた。

女胤
 「さぁ全弾持っていきなさい!」

私は種マシンガンを偽物に放った。
それらは偽物に皮膚を突き破り、致命傷を与える。

オニドリル
 「……!」

香飛利さんの偽物はそのまま墜落していった。

女胤
 「ふ、呆気ないですわね。まぁ私が相手ならば仕方ありません」



***




 「打ち止め……てことは」

フェイスレスたちは、無尽蔵に召喚されていったが、ある境をもって打ち止めになった。
俺は女胤さんの方を見ると、完全勝利のようだった。

阿須那
 「お、まぁ流石女胤やな、もう勝ったか」

華澄
 「ふう、それにしても敵の狙いはなんでしょうか?」

……敵の目的は分からん。
だが、残る家族が後2人と考えると……己ずと答えは近いのではないだろうか?
なんとなくだが、俺はそう思った。



突ポ娘 X とポ女

#4 敵の正体

#5に続く。


Yuki ( 2019/05/01(水) 21:42 )