常葉 茂編
第3話

#3




 「1階はほぼ、見終わったな」

白那城1階の捜索はほぼ完了した。
今の所外でラランテス、1階でマッギョと、明確な敵と呼べる物は少ない。
ポケモンですらない怪物もいたが、あれはマッギョとセットだったようで、あれ以降でることもなかった。

華澄
 「それにしても、一体何があったのでござりましょうか?」


 「その点なんだがな……多分ここは君たちの思ってる城じゃないんじゃないか?」

愛呂恵
 「成る程、つまりここはよく似た違う城……」

何分俺は本物を知らないから、正確な事は何も言えない。
ただ皆前提から白那城だと思っているが、俺の意見は反対だ。


 「もしもの話だが、パルキアが2人いたら、2つの世界が生まれないか?」

華澄
 「むぅ? どういう事でござるか?」


 「……説明し辛いんだが、パラレルワールドの概念だな」

俺自身仮説だが、例えば俺達は並行世界の数だけ存在している筈である。
俺自身、実際世界線の移動による矛盾に突きつけられ、α世界線の俺とβ世界線にいる俺というのは確認した。
つまり白那というパルキアがα世界線にいたとしても、βには別の白那がいるという可能性だ。
本来ならイレギュラー無しに絶対に出会うはずのない並行世界、だがパルキアであるならば可能性はある。
勿論、外的要因は否定できないし、そもそも本物の白那城はどこに行ったんだ、ていうのは全て放り投げられた訳だけど。

愛呂恵
 「成る程……つまりこの城もパラレルワールドの産物と?」

華澄
 「しかしそれでは、本物はどこへ? それに聖殿がいなくなり、常葉殿が現れた……因果関係は如何に?」


 「うーん……駄目だ、情報がなさ過ぎて推測も纏まらん!」

とりあえず華澄ちゃんも集まって、三人集まれば文殊の知恵と言うが、これはそんな簡単なロジックではなさそうだ。


 「ただ、分かっている事は、俺達は狙われているって事だよな」

華澄
 「拙者が呼ばれたのも狙われたから?」

俺達は自分で入ったが、華澄ちゃんは違う。
華澄ちゃんは家で掃除機を使って1階を掃除していた所、突然眠気に襲われたらしく、気が付けばこの城にいたという。
これはかなり貴重な情報だ。
と言うのも、俺の狙う物の存在は、ラランテスで証明された。
一方で俺だけが狙いならば、マッギョはなぜ愛呂恵さんだけを執拗に狙ったのか?
また華澄ちゃんが呼ばれた理由は不明で。
何れの事項にも、一つでは他と矛盾が生まれ解決にはいたらない。

華澄
 「空模様も赤黒く、嫌が応にも陰鬱な気分になるでござるな……」


 「うむ、全ニンジャ殺すべしなカラーリングは色々と華澄ちゃんが危ない」

愛呂恵
 「成る程、慈悲もなく惨たらしく華澄さんが、爆発四散されるのですね」

華澄
 「な、なんの話でござるか?」

華澄ちゃんは想像すると、身を縮こませた。
愛呂恵さんは意外とネタの守備範囲が広いらしい。
まぁ○キネイター氏も速攻で赤黒を答えたから、今や知名度はある方か。
まぁ冗談はそこまでにするとして、雰囲気からダークなのは確かだ。
そうやって明るい気分にさせないのが黒幕の狙いならば、無理にでも明るい話題を作らないといけないだろう。

不幸なことに愛呂恵さんは自分から話題を振らないし、華澄ちゃんもどちらかというと物静かだ。
華澄ちゃんは生真面目な所が美柑に似ているが、美柑と比べて饒舌ではない点が少し辛い。
愛呂恵さんは茜よりはマシな程度にボキャブラリーがあるが、無表情っぷりはどっちもどっちだな。

愛呂恵
 「ここからは2階の捜索ですが、おそらく敵が待ち構えていると思われます。皆さん警戒してください」

そう言った愛呂恵さんはキッと目付きを鋭くした。
おそらくマッギョの放電を浴びた事を悔やんで、同じ失敗をしないと決意したのだろう。
あれは愛呂恵さんのミスではなく、マッギョ狡猾だっただけだが、本人からすればそれを見抜けなかったのも、人的ミスとして計上してるのだ。
結果的には2時間程(時計がないため、体感だが)休む事になり、それも愛呂恵さんにプレッシャーを掛けたか。

華澄
 「ん? 階段の上! 今火花が!?」

それに真っ先に気が付いたのは華澄ちゃんだった。
俺達が2階に向かう前に階段には踊り場がある。
そこで誰かが戦闘を行っているのだ!


 「皆! 戦闘態勢! 行くぞ!」

俺が号令を出すと、二人は構え、そして駆けた。
果たして敵か? それとも味方か?



***



阿須那
 「あーもう! 鬱陶しいなぁ!」

バァァァン!

炎が炸裂する。
ウチは部屋でのんびりしていたら、突然ここにいた。
見たところ白那城やけど、内装は殆ど無茶苦茶でウチらが戦った時の方がよっぽどマシやったように思う。

とりあえずウチの前には西洋甲冑がデカい剣を抱えて、ウチに迫ってきた。
甲冑の中身は空っぽのようで、差し詰めリビングデットか。
幸い数が多いだけで、大した相手やない。
ただ、大文字の一撃を与えても、リビングデットは痛くも痒くもないらしく、寧ろ熱されたまま危険な刃を振るってくる!

阿須那
 「阿呆が! そんなトロい攻撃ウチが当たるかいな! はぁ!」

ウチは接近戦を仕掛けてくるリビングデットにアイアンテールを放つ。
2メートル近いサイズのリビングデッドは、ウチのパワーに負けて押し返された。

リビングデッド
 「……!」

不意にリビングデッドの一体がその大剣を投げてくる!

阿須那
 「やばい!? 避けられん!?」

ウチはアイアンテールの隙を隠す事が出来ず、次の動作に入れんかった。
一か八かオーバーヒートで弾き返すかも考えるが、炎は物理的干渉力が殆ど無い、つまり太陽フレアでも隕石を押し返せへんように、物理的エネルギーには弱い。
一瞬で溶かせれば問題ないが、そんな簡単でもあらへん。

阿須那
 「クソッタレ! 抵抗ぐらいしたるわ!」

ウチは火力を最大限に高める!
炎タイプといえども、溶けた鉄浴びて無事じゃおれんが、死ぬよりマシやろ!

愛呂恵
 「はぁ!」

せやけど、ウチの高めた熱量は放つ事は無かった。
突然ウチの目の前に愛呂恵が現れて大剣を耳で弾き返す!

華澄
 「阿須那殿でしたか! 助太刀致す!」

阿須那
 「愛呂恵、それに華澄も!? なんや分からんけどこれならやれる!」

ウチやと遠距離戦は得意分野やけど、接近戦はそうも言われへん。
愛呂恵や守連程の白兵戦能力はあらへんし、華澄ほどオールラウンダーでもあらへん。
素直にこの援軍は助かった。



***




 「炎の正体は阿須那さんか、それにしてもポケモン娘の身体能力にはついて行けん……」

彼女たちは急な階段を物ともせず駆けていくが、俺は流石に全速力だと息を切らした。
つーか、2階と言ってもここはお城……どんだけ階段長いんだよ……。

俺がようやく踊り場付近に辿り着くと、そこには無数の巨大西洋甲冑が群れをなしていた。
中に人は入っていないようで、幸い彷徨う鎧状態なためか、愛呂恵さんや華澄ちゃんもまるで容赦なく破壊していく。
勝負に決着がつくのに、彼女たち3人はそれ程時間を労さなかった。

愛呂恵
 「敵勢力沈黙、完全勝利です」


 「テーテーテテン♪ MVP華澄」

華澄
 「せ、拙者でござるか!? て、照れるでござる……」

阿須那
 「ちょっと待てや!? なんでウチやないねん!?」

なに、ネタだから気にすることはない。
とりあえず阿須那さんの無事も確認出来たし、これはいい結果だろう。
まぁ案の定魔更君の家族が巻き込まれた点は俺としては責任重大なんだよな。

阿須那
 「とりあえずここは何処や? まさか白那城やあらへんよな?」

華澄
 「それがそうであるとも、そうでないとも言えるのが現状でござる……」

阿須那さんは、召喚されたてで今の所やはり戸惑っているようだ。
戦いの場慣れはあっても、いきなりこんな不気味な場所に呼ばれたら平常心だって失われる。

阿須那
 「なんやねんなそれ……せや、最初に白那城に行ったん愛呂恵やったろ? どうなんや?」

愛呂恵
 「私にもなんとも……」

愛呂恵さんもその点は首を振る。
正直ここがどこなのか、ハッキリ答えられる者はいない。

阿須那
 「出口は? とりあえずこんなけったいな場所はよ離れよ!」


 「それなんだけどな……今の所見つからない」

俺が口を挟むと、阿須那さんは尻尾を僅かだが逆立てる。

阿須那
 「まさかアンタやないやろうな……!?」

それは明確な敵意だった。
阿須那さんは尻尾を震わせ、俺を強く睨みつける。
当然であるが、ここで俺が疑われるか。

華澄
 「お、落ち着くでござる!」

阿須那
 「華澄! アンタかて思わんか? コイツ怪しいで! そもそも聖はどこへ行ったんや!? なんでこの男が現れた!?」

華澄
 「そ、それは……」


 (そうだ……まるですり替えられた。縁もゆかりもない俺と魔更君が!)

阿須那さんは更に俺に食ってかかる。
彼女はその熱量を高めている事に俺は気付いた。

阿須那
 「アンタ一体なんなんや!? 聖を何処へやった!? 正直答えんのやったらウチは!」

愛呂恵
 「阿須那さん、当て身」

阿須那
 「ガッツ!? 愛呂恵、なん、で――」


 「おっと!?」

突然だった、殆ど喋りもしなかった愛呂恵さんが阿須那さんの後ろにそっと忍び寄ると、綺麗に頸椎に手刀を入れる。
見事な手際で、阿須那さんは意識を奪われて、俺は前のめりに倒れる彼女を優しく抱きかかえた。

愛呂恵
 「少なくとも私は常葉さんが虚偽不十分だと思いましたので」

華澄
 「拙者も、少なくとも常葉殿が我々を嵌めているのならば、ここまでの行動が、それが不正解だと証明すると考えるでござる」

二人はそう言って俺を信じてくれるらしい。
俺はやや皮肉げに笑うと。


 「もしかしたら演技かもしれないぞ?」

華澄
 「だとすれば回りくどい、拙者と愛呂恵殿の同士討ちを止めたのは誰か? 愛呂恵殿のピンチを救ったのも常葉殿でござろう?」

そう言うと華澄ちゃんは天使のように微笑んだ。


 「華澄ちゃん、貴方は天使だ……」

華澄
 「て、天使でござるか? 拙者まだそれほどの善行を積んでは……」

愛呂恵
 「それよりも、問題は阿須那さんでしょう」

その通りだ、阿須那ちゃんは今は俺の胸で眠っている。
その寝顔は女の子らしく、さっきの激情が似合わないと思える女の子だった。
もう社会人だと言うし、充分大人扱いするべきなのだろうが、俺の中ではまだ阿須那さんはどこか幼く思える。


 (常識は18歳までに身につけた偏見のコレクションだ……か)

アインシュタインの言葉だ。
俺の中で阿須那ちゃんを見ているのはやはり偏見で、阿須那ちゃんが見る俺もやはり偏見なのだろう。

華澄
 「どうにかして誤解を解くことからでござるな」


 「そうは言っても、阿須那さんにとって俺はまだ会って間もない他人な訳で……そう簡単じゃないと思うけど」

俺自身別に恨まれても構わない。
彼女が零したのは魔更君への寂しさだろう。
多分、茜だって逆なら同じように思うじゃないだろうか。
保美香なんて俺がいなくなったら、山賊の長になってる位だったし、伊吹も一杯溜め込んで再会したら一杯泣いていた。
多分表情に出してないだけで、華澄ちゃんや愛呂恵さんだって、同じように溜め込んでいるんだろう。


 「俺に出来ることは、皆を無事魔更君と再会させることだ……俺は君たちを巻き込むつもりもなかったし、このような事態に巻き込んだ事は謝罪する」

俺は改めて二人に頭を下げた。

華澄
 「それは拙者とて同じでござる。常葉殿を必ず無事お返しする事が拙者の使命」

愛呂恵
 「それに、因果関係が常葉さんに収束しているのであれば、貴方の近くが最も真相に近いでしょう」


 「……真相、か」

果たして本当にたどり着けるのか?
明確に俺達は狙われている。
だが、なんのために?
そこには必ず理由があるはずだ。
俺と魔更君の家族を巻き込んだ理由。
俺だけが理由じゃない、俺だけならば隔離すればいいだけの話。
なにゆえ俺が魔更君の家族と引き合わされた?
そこに真相が隠されているのか……?



***



阿須那
 「う……く?」


 「おっ、気が付いたか」

2階の捜索中、俺は阿須那さんを落とさないように気を付けながら、お姫様抱っこの状態でいた。
阿須那さんは事態を飲み込むと、顔を真っ赤にして暴れる。

阿須那
 「ちょ、ちょい待ち!? なんでウチお姫様抱っこされとるん!? 離せー!」


 「あ、暴れるな! 暴れたら……!」

阿須那さんは手足をジタバタさせると、流石に俺も支えきれない。
俺は自分の力弱さを呪いながら、その場に転げるのだった。

阿須那
 「痛た……頭打った〜……」

華澄
 「大丈夫でござるか? ほら、立たれよ」

愛呂恵
 「常葉さん、どのぞお手を」

阿須那ちゃんは頭をさすると、立ち上がる。
俺は愛呂恵さんに手を引かれて、ゆっくりと立ち上がった。

阿須那
 「なぁ二人とも? なんでコイツをそんなに信用できるん?」

華澄
 「常葉殿は誠実な御方です、阿須那殿をずっと支えてくれたのも常葉殿ですぞ?」

阿須那
 「う……まぁ、そこは感謝するわ、あんがと」


 「俺こそ済まない、正直想定外の事態としか言えんが」

華澄
 「阿須那殿、今はみな無事に帰る事を優先されよ」

阿須那
 「ええわ、せやけどウチはアンタのこと信用はせえへんで? なんか変な動きみせたら……」


 「後ろから撃ってくれてどうぞ」

俺はテンプレだが、そう返すと阿須那さんはもう何も言わなかった。
阿須那さんにとってやっぱり俺を信用するには材料が足りない。
ポケモン娘とて、人を無条件に信じられる訳ではない。

華澄
 「常葉殿……その身には御自愛を」


 「華澄ちゃん?」

華澄ちゃんは、なぜかその時とても暗い顔をしていた。
華澄ちゃんは意を決するとある昔話をする。

華澄
 「拙者がまだ未熟だった頃、一人の男性を助けました。ですがその男性を拙者は心から救うことは出来なかった……。その人は次の日自殺して、拙者の手元にはその時頂いた一万円があるのでござる……」


 「自殺……ですか」

華澄
 「拙者、未熟だったが故にあの方の心を理解できなかった……ですが今でもなぜあの方を拙者は救えなかったか自問自答してしまうのです……だからどうか、常葉殿は命を軽く扱うのは止めていただきたい……」


 「ごめん、華澄ちゃん」

俺はそんな辛い過去の話を打ち明けた華澄ちゃんに謝ることしか出来なかった。
きっと華澄ちゃんは俺が死ねば、それさえ自らを呪う呪縛に返るのだろう。


 (その人はきっと華澄ちゃんを恨んでなんかいないんじゃないだろうか……だけど華澄ちゃんはそれを呪いに変えようとしている)

阿須那
 「あー、なんかウチが悪役になっとるみたいなんやが? そんな事よりこの部屋怪しいで!」

阿須那さんは場の雰囲気に耐えかねたのか、ある部屋を指差した。
その部屋はドアが半開きで、僅かに中が覗いている。


 「? 奥の鏡があるな」

阿須那
 「うーん、他に怪しい物もなし、空き部屋みたいやな」

愛呂恵
 「次の部屋へ行きましょう」

華澄
 「そうでござるな」

愛呂恵さんと華澄ちゃんは中へは入らず、外から覗いただけで次の部屋へと向かう。
俺も次の部屋に向かおうとした、その刹那。

阿須那
 「あ、待ってーや、ウ―――」


 「阿須那さん?」

突然阿須那さんの声が途切れた。
俺は後ろを振り返ると、そこに阿須那さんがいない事に気が付く。
そこにあったのは大きな鏡だけだった。



***



阿須那
 「――チも行くさかい……て、え?」

ウチは振り返ると、そこには誰もおらへんかった。
いや、冗談言ってるんやないで?
ホンマに小部屋の中にはウチしかおらん。
少なくとも中にはアイツもおった筈やし、華澄と愛呂恵の気配もあらへん。

阿須那
 「嘘やろ!? 華澄ー! 愛呂恵ー!」

ウチは小部屋を出ると二人の名を叫んだ。
せやけど、案の定声は返ってこおへん。
まさかとは思うけど、これも常葉茂の仕業ちゃうやろな?
兎に角、これが罠ならもしかしなくてもウチ大ピンチ!?

ガションガション!

それは足音やった。
しかも一つや無い。

阿須那
 「挟み撃ちかいな……最悪やが、たたでやられると思うなや!?」

ウチは体内の熱量を上げる。
炎はゼロからは出えへん、こうやって内部の熱を暖める必要がある。
ウチは熱量を最高潮まで上げると、相手の姿を確認した。



***




 「阿須那さんが消えた……だが、これは熱?」

阿須那さんは小部屋の中で消えた。
だが、俺はその部屋で熱量を感じた。
とても熱い、炎タイプのそれをだ。


 「オカルトか……そりゃもう見飽きたよなぁ!」

俺はこの部屋でたった一つだけ怪しい物に目星を付ける。
それは壁に掛けられた大きな鏡、俺はそれに真っ先に手を伸ばす!
俺がこれまでの人生で得た常識という名の偏見は、あり得ないという常識はあり得ないという事!

鏡に触れると、俺は前後左右が入れ替わった形で小部屋にいた。
目の前には炎を放ち、戦う阿須那さんがいた。

阿須那
 「くっそ! ちったぁ足止めろや!!」

阿須那さんを左右から挟み撃ちするリビングデッド。
阿須那さんは前方のリビングデッドに火炎を浴びせ続け、足を止めるが、その一方で後ろからリビングデッドが迫る!

リビングデッド
 「……!」

阿須那
 「やば!?」

後ろのリビングデッドが阿須那さんを有効リーチに捉えた!
俺は真っ直ぐ駆ける!


 「うおおおお!」

俺は阿須那さんの後ろから迫るリビングデッドに体重を乗せたタックルを放つと、リビングデッドは後ろによろめいた。

阿須那
 「うそ……なんで? アンタが……!?」


 「阿須那さん! 後ろはなんとかするから、前の奴を!」

阿須那さんは俺が助けに現れた事に驚いた。
だけど俺は彼女たちを皆無事に魔更君にさせると誓ったんだ!

リビングデッド
 「……!」

リビングデッドは中身が無いせいか、見た目よりは体重が軽い。
しかしパワーはあり、その豪腕が振り上げられる。


 「この距離は俺の距離だ!」

俺はリビングデッドに密着した!
リビングデッドは俺に剣を振るうが、この距離では届かない!
俺は凪の言葉を思い出す、彼女は剣は中距離の武器だと言った。
そして剣士の苦手な距離は密着戦!

阿須那
 「く! さっさと燃え尽きろや−っ!」

阿須那さんは俺を見て、前方から迫るリビングデッドに火炎放射の圧を強める。
リビングデッドは熱を物ともしないが、次第に鎧は赤熱して溶け始める!
そして遂にリビングデッドはドロドロに融解して、動かなくなった!

阿須那
 「茂ー! そこのくんや!」

阿須那さんが後ろに振り返る。
俺は後退すると、リビングデッドは剣を振りかざす!
しかし、阿須那さんが速い!
阿須那さんは素早く懐に踏み込むと、その全身から熱気を放つ!

阿須那
 「オーバーヒート!」

ドォォン!

阿須那さんを中心に放たれる大量の熱波、それは爆風を起こす。
リビングデッドは、大きく吹き飛ばされ、動かなかった。

阿須那
 「はぁ、はぁ! 茂……無事か?」


 「ああ、俺はなんとか。それより阿須那さんこそ大丈夫か?」

阿須那
 「オーバーヒートの反動で疲れただけや……すぐ元に戻るわ」

阿須那さんはそう言うと、息を整えていく。
火が有効とはいえ、頑丈な相手で骨が折れたことだろう。
あれが鋼ポケモンなら痛覚なりが悲鳴を上げるだろうが、痛覚のない相手では溶かすまで熱するしかなかった。
これが愛呂恵さんや華澄ちゃんなら、物理的にボコボコにしていくだろうが、結果的に阿須那さんのは相性が悪かったのだろう。
だが、追加敵の様子もなく一先ずは安全が確保出来ただろう。

阿須那
 「あ、あんな……? しげ――」

その言葉、俺は途中までしか聞けなかった。
何故なら俺は後ろから攻撃を受けたのだから。
俺は倒れながら後ろを見た。
そこには赤く長い鬣のような髪をした犬耳の女性だった――。



***



ドサァ!

阿須那
 「あ、あ……!」

ウチの不注意やった。
そこにいたのは聖が家族と認めた相手やから、警戒が遅れてもうた。
せやから茂が傷付いた。
ソイツは茂を無造作に殴り倒したのだ!

阿須那
 「神狩ぃー!! アンタ何をやってんのや−!!!」

ウチは激昂した。
ソイツは神狩にめっちゃ似ている。
神狩っちゅうのはウインディの女や。
本来なら例え敵として出ても不意打ちなんかせえへん正々堂々とした奴やったはずや。
せやけど、コイツの目は濁っとる。
茂を倒して、口角を歪めて笑っとる!

ウインディ
 「ハハハハハハ!」

神狩似の女は狂笑した。
そのまま神速でウチにぶつかってくる!

阿須那
 「ぐう!?」

速い、せやけどそれだけや。
まるで重くない、ウチはその場で踏みとどまると相手の顔面を殴り抜いた!

阿須那
 「ざけんなや偽もん! 茂はウチを守ってくれた……触れれば簡単に壊れるのに……! ならアイツはウチが守る! お前なんかにくれてやるかーっ!!」

ウチは身体の中の全ての熱を肉体のエネルギーに変換する!
そのまま奴の顔面を殴り抜く!



***



華澄
 「確かにこの部屋でござる、二人が消えたのは」

拙者たちは突然二人を見失ってしまう。
まさか、少し目を離した隙に神隠しに遭うとは思わなかった。
しかし問題は阿須那殿だ、常葉殿と一緒に消えた事で、阿須那殿が何かしなければ良いが。

愛呂恵
 「鏡から!」

愛呂恵さんは小部屋に掛けられた鏡を差した。
そこには茂君を背負って此方に歩いてくる阿須那殿の姿であった。
その瞬間、拙者たちの前に阿須那殿たちは現れた。

阿須那
 「華澄、愛呂恵……」

華澄
 「阿須那殿……?」

阿須那
 「すまん! ウチの不注意や……! 茂が……!」

阿須那殿の背中では常葉殿が眠っている。
それを阿須那殿は後生大事に抱えている。


 「う……痛ぇ……!」

阿須那
 「茂!? 気がついたんか!?」

愛呂恵
 「常葉さん、何処が痛むのでしょうか? 手当を致しましょう」

華澄
 (……阿須那殿、もう心配はいらなさそうでござるな)



突ポ娘 X とポ女

#3 常識とは偏見

#4に続く。


Yuki ( 2019/05/01(水) 21:41 )