魔更 聖編
第5話

「…それで、どうするつもりなの?」

保美香
「彼に協力して、だんな様を探します」
「少なくとも敵はだんな様の居場所を知っている…だとすれば、いずれ真相には辿り着くはずですわ」


今、私と保美香はキッチンで料理を作っている。
保美香は病院にいる聖や美拑、伊吹の為にお弁当を作ってあげているのだ。
その一方で、私は保美香から話を聞きながらその手伝いをしている。
凪は華凛を説得しようとしてるけど、どうせ上手くはいかないでしょうね…



………………………



華凛
「くどい、私には確証が得られん…あの少年とダーリンを結び付ける物が本当にあるのか?」
「そもそも、騙されているかもしれない…とは考えないのか?」


「自らの命を捨ててでも、茂さんを救ってくれと懇願した少年だぞ!?」
「それ程の勇気と決意を持った人間が、我々を騙していると言うのか!?」


私はあまりに必至すぎる凪を見て呆れる。
こいつはまだまだ私を理解していないな…
なので、私は簡単にこう告げた。


華凛
「自己犠牲など、所詮独り善がりな自己満足行動に過ぎない」


「何…だ、と?」

華凛
「そいつは周りの事などロクに考えていない証拠だ…結果だけを求めている」
「そんなバカな子供の為に、貴重な時間が割けるか…ダーリンはこの世で1番大事なんだぞ?」
「そいつが犠牲になって救えるなら、それで良かったのではないか?」
「もしかしたら…そいつも元の世界に戻るだけかもしれんしな」


私の無慈悲な回答に凪はわなわなと震えている。
心のどこかでは同じ事は考えたはずだ。
だが、こいつは愚直だからな…ダーリンの事を思うあまり、大局を見失っている。
ここまで話は聞いたが、全ては憶測と疑念だらけだった…
あくまで、あの魔更 聖と言う、謎の存在は何ひとつ解明されていない。
確かに、心意気は良い…あいつは本当に勇気がある少年なのだろう。
しかし、自己犠牲を優先させる精神はいつか大切な物を呆気なく壊す…
私は知っている…そして、1度壊れた。
だからこそ、私はあいつを認められない。


華凛
「そろそろ仕事に行く…今日も沢山のご主人様がハロウィンを楽しみにしているからな♪」


「華凛…最後にひとつだけ言っておく、後悔はするな…」


私はその言葉を聞いて顔をしかめる。
私が…後悔、だと?
残念ながら、凪の真意は読めなかった…だが、凪は何かを決意した様な顔をし、部屋から外に出た様だ。
私は服を脱ぎ、外出用の服に着替える…ダーリンが作ってくれたこの生活は本当に素晴らしい。
だが、今はそのダーリンがいない…


華凛
(何故、代わりにあいつが現れた? そもそも…それこそがどう考えても原因だろう)


これは人間性の問題ではない。
あくまで可能性だが、そこに結果が伴うなら少年の犠牲は最良の策でもある。
が、確かに障害はあるのだ…


華凛
(ダーリンは、その過程を許すまいな…だが、黙っていれば気付きもしまい)


もっとも、それは私だったらの話だ。
凪の様なタイプでは、モロバレル以上に隠し通せないだろう。
つまり、現状では何も動けない…あの少年は、やはり疫病神でしかないのだ。
私としては、さっさとダーリンを取り戻したい所なんだがな…


華凛
(…いっその事、暗殺でもしてみるか?)


原因不明でいなくなれば、状況は変わるだろう。
いや、しかし既に他のメンバーには信頼されきっているからな…いらぬトラブルを生むだけか。
やはり、今の状況を打破する方法は…少ないな。
出来れば私的にはやりたくない…少なくとも、凪の様にホイホイと信じられるか。
別にあの少年の事が嫌いなわけではないが、ダーリンの失踪の原因になっているなら、私は協力出来ない。
むしろ、伊吹の様に巻き込まれて襲われてもいるのだ、やはり関わるべきではなかった。


華凛
(そう、関わってしまったから…ややこしくなったのだ)


初めから、ひとり送り出していれば、勝手に終わって勝手にダーリンが戻って来ていたかもしれないのに…
なのに、保美香が勝手に関わっていらぬ事になってしまった。
勿論、保美香を責める事は出来ん…保美香からすれば、当然の人情だからな。


華凛
(やはり、ここまで関わった以上は、責任を取ってもらわねば、な…)


魔更 聖…あいつは必ずダーリンを救うと宣言したらしい。
ならば、私はそれが本当に出来るか見極めてやる。
それまでは、私はあえて何も手伝わない…少なくとも、他の家族が危機にでも落ちない限りは、な。



………………………




「…すまない、やはり無理だった」


「うん、知ってた」

保美香
「まぁ、彼女の性格を考えれば当然でしょうね…」


まず理由が無い。
確かに、聖は信用出来るかもしれないけど、だからと言って華凛が関わる必要性が無いもの。
既に保美香、美拑、伊吹、凪と4人も手伝う事を決めている。
この状況でわざわざ華凛が参戦する必要は無い。
少なくとも自分には絶対の自信を持ってた華凛だ。
その自分を打ち負かし、認めた家族を信用してないわけがない。
きっと華凛は、そんな4人に期待しているんだろうな…



「茜はどうする? …って、そもそも戦闘には不向きか」

保美香
「ですが、狙われる可能性は高いかしら…可能な限り一緒に行動した方が良いですわね」


狙われるなら確かに仕方ない。
私も華凛同様、そこまで聖に入れ込む理由は無いけど、保美香たちが一緒なら別に構わない。
何より、ご主人様を助ける手助けが出来るなら、なおの事良いのだ。
私は戦う事は出来ないけど、何かの役には立てるだろう。



「…華凛は放置するの?」

保美香
「言って聞く娘でも無いでしょう? それに、今までの戦いからしてあの華凛を脅かす様な存在がいるとは思えませんわ…」


「昨日のジガルデを除けば…だが」


ジガルデ…話には聞いたけど、相当ぶっ飛んだ相手らしい。
あの凪が怯えて震え、全ての技が無力だったらしいし…そんな相手だと誰がやっても勝てないでしょうね。



(……もしかして、イベルタルでも?)


何故か、そんな結果が予想出来た。
もちろん、意味不明…何故そんな事を思ったのか。
でも、あの時見たイベルタルというポケモンは、凄まじかった。
多分そのジガルデというポケモンも、同じかそれ以上の存在なのかもしれないね…



………………………




「あ、すみませんわざわざ…」

保美香
「お気になさらず、好きでやっている事ですので」


「………」


俺は病院のベッドで保美香さんから受け取った弁当を食べる。
うん、美味しい…やっぱり、保美香さんはスゴいな。
伊吹さんと美拑ちゃんも美味しそうに食べてるし、保美香さんも満足そうだ。



(そうだ、俺はこの笑顔を絶対に守ってみせる…)


今はまだ動けないが、昨日の一件から敵は現れない。
そもそも、ここに5人もいるのであれば、容易に攻める事も出来ないのかもしれない。
今までは、全てが一対一での戦闘。
もしかしたら、敵にも何か制約があるのかもしれないな…



「ところで、昨日言いかけていた疑問、何か解ったのか?」


「…あくまで、俺が何となく思った疑問点ですよ?」


俺は、あくまでそう言って凪さんを見る。
皆が俺に注目し、俺は昨日言いかけていた疑問の答えを、話す事にした。
そもそも、昨日の時点で言っても良かったのだが、治療後はもう夜が更けてたし、その日は一旦解散となったのだ…



「…多分、あのジガルデさんは、単独犯です」


「その理由は?」

伊吹
「本人がわざわざ元凶と言える聖君の所に行っているのに〜、どうしてアタシを利用しようとしたの〜?」

保美香
「…成る程、確かに不自然ですわね」


そう、言動から言ってもジガルデさんが殺害派だと思うのが妥当だ。
だけど、それだと伊吹さんが襲われたタイミングが近すぎる。
ジガルデさん程の実力者なら、部下を使う必要が無い。
なのに、どうして回りくどい策を使おうとする?
どう考えても組織として不自然すぎるんだ…


美拑
「えっと…つまり、ジガルデは単独で、殺害派でも、誘拐派でもない、と?」

保美香
「正確には、殺害派ですが、別の派閥…とでも言いますか」

伊吹
「第4勢力って〜、言った方が〜、美拑には解りやすいかな〜?」


それを聞いて美拑ちゃんは成る程!と意味を理解したみたいだ。
しかし、これは更なる問題でもある。



「一体、敵はどんな相関図になっているんだ?」

保美香
「昨日の城は、誘拐派が使っていたとするのが妥当ですし、そこに単独犯のジガルデが…」

伊吹
「アタシを襲った殺害派は〜、面倒な事になったから〜、アタシを利用するって言ってたよ〜?」
「少なくとも話を聞く限り〜、妥協はしなさそうだったけど〜…」


「となると、殺害派と誘拐派は対立している可能性が出てきたな」
「誘拐派が聖君を拐ってしまったから、殺害派にとっては都合が悪くなったとも思える」


そこでたまたまジガルデさんが現れてしまったから、なおの事意味不明になったんだろうな…
ジガルデさん自身も俺を殺そうとしていたみたいだし…



(…? 本当に、そうなのか?)


俺はもう1度、あの時のジガルデさんの言葉を反芻する。
ジガルデさんは、俺を『殺す』とは、一言も言ってなかったのではないか?


保美香
「ジガルデの乱入は想定外だったとして、確かに誘拐派と殺害派ははからずとも衝突した可能性はあるのかもしれませんわね…」

美拑
「その辺を上手く利用は出来ないんですかね?」

伊吹
「難しいと思うけどなぁ〜、両派の戦力がどれだけ残っているのかも解らないし〜」


「うむ…確かにな、だがそれなら誘拐派はかなりの戦力を消耗したとも言えるのではないか?」
「話を聞いて整理すれば、誘拐派は5人、殺害派はふたりの戦力を失っているはずだが…」


俺も考えてみる、確かに誘拐派は美拑ちゃんが3人、保美香さんがひとり、凪さんがひとりと計5人倒している計算だ。
対して殺害派は保美香さんがひとり、伊吹さんがひとり倒している。
こう考えると殺害派はまだ戦力を隠していると思えるな…



………………………



華凛
「お疲れ様でした」


私は笑顔でそう言って仕事場の店を出る。
やれやれ、今日も忙しかった物だ…全く、凪の奴が来ない分他のメンバーに負担がかかると言うのに。


華凛
(まぁ、それも仕方あるまい)


今は仕事よりもあの少年が大切なのだろうからな…
私は私のやり方で見極めさせてもらうだけだ。
とはいえ、敵は多数存在すると聞く、それならば…


華凛
(私も狙われていると思うべきか)


あえて伊吹が狙われた理由は不明だが、果たして私をも狙う事はあるか?
もっとも、聞いた話では到底楽しめる相手ではなさそうだが…
今の私は、可愛らしいハンドバッグを片手に持つだけの美少女だ。
実質丸腰で、狙いやすいと言えばそうかもしれないな…



………………………



華凛
(さて…時刻ももう夜だ)


私はゆっくりと歩き、日が沈んですっかり暗くなった住宅街を歩く。
ここを抜ければ人通りも増える為、狙うならこことも言えるが…
私の予想に反して誰も襲っては来ず、私はそのまま人通りの多い歩道に出た。
この辺りは多くのビルが立ち並ぶ、いわば専門店街だ。
流石にこんな所で襲うほど愚かな敵でもあるまい。
私は期待外れにため息をし、とりあえず少し足を速めて帰る事にした。


華凛
(…やれやれ、敵の思惑は全く解らんな)


その瞬間、突然の違和感。
一瞬で環境音が消え失せ、周りからはひとりとして人間がいなくなっていた。
私はその瞬間に悟る、これが例の空間なのだと…


華凛
「全く、理解も出来んな…それとも、安心して油断した所を狙おうという安易な作戦か?」
「だとしたら遅すぎる…こういうのは油断している間に暗殺は終えている物だ」


私の正面には、筋骨粒々の大男が立っていた。
体の節々は人間の筋繊維とは明らかに違い、甲殻類か昆虫のそれを思わせる物。
だが、真の特徴とも言える頭から伸びる1mはあろうかという角を見て私は何者か確信した。


華凛
「ほう、『ヘラクロス』か…成る程タイプ相性位は考慮してると見えるな」

ヘラクロス
「貴様とはまず交渉したい…魔更 聖の殺害についてな」

華凛
「したければすれば良い、ただしダーリンの返却が先だ」


交渉と言うからには当然対価は要求する。
男は特に表情も変えず、すぐにこう答えた。


ヘラクロス
「特異点たる継承者が死ねば、自ずとその目的は果たされる」
「本来の目的が達成出来なくなれば、そちらの主に価値など無くなるのだからな」

華凛
「…解せぬな、それなら何故ダーリンは拐われた?」
「あの少年が目的ならば、ダーリンを拐う必要は無い、なのに何故こんな交換染みた作戦を取る?」

ヘラクロス
「そんな物は我々が知る所ではない…我々が目的とするのは、この世界の秩序を保つ事だ」
「そこに魔更 聖が現れた事で、この世界の秩序は既に乱れている」
「常葉 茂の事など、我々にはどうでも良い事、勝手に救い出せば良いだろう」


話にならんな…何が交渉だ。
とどのつまり、こいつらは極力楽をしてあの少年を殺したいだけ。
その為に私を体よく利用しようとしているだけか…笑わせる。


華凛
「ダーリンを救うのは最低条件であり、絶対条件だ」
「その為に魔更 聖がどうなろうと構わんが、それで他の家族が勝手に巻き込まれるのは、少々面倒だ」
「貴様の言葉は何ひとつ信用に値しない…悪いがさっさと空間を戻して失せろ」
「今後2度と顔を出さぬのなら、見逃してやる」

ヘラクロス
「…残念だが、それは出来ん」
「交渉が失敗するのならば、脳を支配してでも利用しろとの命令だ」


まぁ、そんな所だろうな…あまりに予想通り過ぎて呆れる。
私は軽くハンドバッグを縦に回転させて振り回し、どこぞのギャルの様に可愛らしく立ち振る舞ってこう言った。


華凛
「ねぇ〜ん? 常葉 茂と魔更 聖、交換しな〜い?」

ヘラクロス
「行くぞ!」


ちっ、折角のネタを無視されるとは…私がやるには若すぎただろうか?
やはりもう少し大人の雰囲気があった方が受けは良いのかもしれないな、このネタの場合…
私はそんな風に考えながらも、ヘラクロスの突進を冷静に見据える。
ヘラクロスは馬鹿正直に体勢を低くして角をこちらに向けて来た。
間違いなく『メガホーン』だろうが、私は右手を前に出して軽くそれを掴んで止めてみせる。
衝撃はそれなりにあり、私が踏み込んでいた足元のアスファルトは割れ、同時にヘラクロスの足元も割れた。
やれやれ、猪だなこれでは…干支が来るのはまだ先だぞ?


華凛
「温いな…これではワンクの足元にも及ばんぞ?」

ヘラクロス
「…!! う、動かん!? この細腕のどこにこんな力が…!!」

華凛
「笑わせるな…これでもカイリキー相手にすら力比べで負けた覚えはないぞ?」


もっとも今やったらどうなるか解らんがな。
こいつは筋肉だけはあるが、全く技術が無い。
ただの力技でアブソルの馬力を越えられると思われるとはな…
私はとりあえず角を掴んだまま真後ろに片手で投げ飛ばしてやる。
まるでゴミでも放る様に軽く投げ捨て、私はクルクルとハンドバッグを回転させて笑った。


華凛
「もう1度だけチャンスをやる…ダーリンを寄越せ、その後は魔更聖などどうでも良い」

ヘラクロス
「勘違いをするな…! 我々は常葉 茂の存在など……」


言いかけた所で、ヘラクロスの体は縦に半分消える。
誇張抜きに、見たままの事だ。
瞬きもしない一瞬で、ヘラクロスの半身は消えていた。
その後、失った部分から大量の血が飛び散り、アスファルトを血の海に沈める。
そして死体となった男の後ろには、ひとりの女の姿があった。
身長は185p程はある長身、灰色に染められた薄汚い長髪。
服はビリビリに破れたタンクトップとファッションかどうかも解らない穴だらけのズボン。
胸の辺りは露出しかけており、一見すると痴女の様にすら見えた。

だが、女が放つ狂気の笑みはその異常性を簡単に物語る。
どうやったのかは知らんが、こいつは突然この隔絶された空間に現れ、ヘラクロスを両断(?)してしまったのだ。
そして、ズンッ!と大きな音をたてて、女は爬虫類系のそれを思わせる長い尻尾をアスファルトに叩き付けた。
アスファルトは軽く抉れ、砂埃が舞う。
女は全身をプルプル震わせ、片手で顔を抱える…そして我慢してたのを解放するかの様に…



「ハッハッハッハッハ!! またやっちまったよ〜!」
「ゴメンな〜♪ つい手元が狂っちまった! 綺麗に全身消すつもりだったのに〜♪」

華凛
「何なんだ、こいつは…!?」


放たれてる狂気のプレッシャーは尋常ではない。
この私ですら軽く恐怖を覚える程だ。
だが、私は軽く女を睨み付ける。
女は何が楽しいのか全く理解出来ないが、腹を抱えて大笑いしていた。
もはや意味が解らんな…



「あ〜笑い死ぬかと思った〜! でもまぁ良いや♪ じゃあそろそろこの子貰っていくよ♪」


「!? な、何がいきなり!?」

華凛
「なっ!? 何故、そいつがここに!?」


瞬きしたかと思えば、既に女の手には魔更 聖が捕まれていた。
聖は病院で支給された服を身に付けており、まだまだ怪我が治っていないのが解る状態。
つまり、この女は一瞬で聖をここに引き寄せたという事。
一体、どんなカラクリがあるのだ!?



「ククク! 折角ゲーム感覚で楽しんでたけど、やっぱり娘の様には演出出来ないわな〜♪」
「でも、もうタイムオーバーだ! 君たちは常葉 茂を見付けられなかった!」

華凛
「!? 貴様が、ダーリンを!?」


私は力を込める。
遂に見付けた真犯人かつ首謀者。
私は踏み込む体制に入り、ハンドバッグを捨て……られない!?
いや、正確にはハンドバッグは、消されていた。
私は残された部分を見つめ、それを足元に落とす。



「あ〜! また間違えた!! 腕を落とすつもりだったのに〜!!」


私はゾッとする…わざとかどうかも解らないその言葉に、私は冷や汗しか出なかったのだ。
まるで見えもしない、気が付けば何かが消されてる…下手をすれば、私もあのヘラクロスの様になるという事か…?
そして、同時に察する…恐らくこれは警告だ、やるなら殺すと…


華凛
(だが…! ダーリンの手がかりを目の前にして、恐怖などに負けられるか!!)


今ここにいるのは私だけ、刀すら無く、丸腰で理解不能の能力を放つ敵と戦わなければならない!
だが、負けはしない…ダーリンの為ならば!!
この女を倒して、必ずダーリンを取り戻してみせる!!


華凛
「覚悟しろ化け物が…! この私が必ずダーリンを取り戻す!!」


「『動くな』アブソルの女」


私の背後からそんな声。
私の体からは途端に力が失われ、全身が震えて硬直するのが解った。
抑揚が一切無く、感情ひとつ込められていない無機質なその声は、異様なまでの『気』を放っていた。
そしてそれを見たのか、聖はこう叫ぶ。



「ジガルデさん!?」

ジガルデ
「ようやく見付けたぞ、異物…遂に姿を見せたな」


「…? な、んだ…!? こ、この…感覚は!?」


女は聖を足元に落とし、私と同じ様に震えていた。
そして私の背後にいたジガルデという女は、私の背中をすり抜け、何事も無かったかの様に前に出て来る。
触れられた感覚も無い、まるで奴はそこにいないかの様な曖昧さだ。
だが、今私の前を進んでいる蛇の足をした女は確かにそこにいた。
もはや思考が正常に追い付かない…私は、夢でも見ているのか!?


ジガルデ
「堕ちたパルキアよ、ここまでだ…お前はこの世界に必要無い」


「!? ちっ!!」


パルキアと呼ばれた女はすぐ空中にバックステップし、右手を軽く振る。
すると、ジガルデの体は斜めに切り取られ、上半身を消された。
そのまま下半身は大量の正立方体としてバラバラになる。
それ等は光の粒子となり、その場から消滅した。
何なんだ? 呆気なさすぎるだろ!?
しかし、私の動きを止めている謎の圧は解けていない。
奴は、まだ死んでいない…?


ジガルデ
「私のオーラを受けて、そこまで動けるのは驚きだ」

パルキア
「がはっ!?」


突然、パルキアがアスファルトに叩き付けられる。
ジガルデはいつの間にかパルキアの背後に現れており、足元が光ったかと思えばパルキアは何故かアスファルトに叩き付けられたのだ。
まるで地面タイプの技だが、何がどうなって空中の相手を真下に落とせる!?


ジガルデ
「だが、それでは勝てぬ」
「そして、終わりにしよう…お前を消してこの世界の秩序を戻す」
「これ以上いたずらにこの世界を刺激するな…全てが消えかねん」

パルキア
「な、何なんだお前は…!?」

ジガルデ
「私はジガルデ…世界の秩序を護る監視者」


世界の秩序を護る監視者…?
とにかく普通じゃない…あの戦いは常識を越えている。
私ですら、この戦いには参加権すら与えられないのだ。
下手に巻き込まれれば、一瞬で消されかねない…



「パルキア…? あの人、どこかで…?」
「うぐぁ!? あ、頭が…割れそうに…!!」

ジガルデ
「…記憶が戻るか、それで良い」
「お前の記憶が戻れば、自ずと秩序は保たれよう」
「優しき継承者よ…己を信じよ」


ジガルデは優しい微笑みを常に携えている。
その微笑みを一切崩す事なく、ジガルデは聖にそう語りかけた。
一体、魔更 聖とは何者だ? ジガルデは何を知っている?


パルキア
「クソがぁぁぁ!!」


パルキアはまだ足掻く。
一瞬で姿を消してしまい、ジガルデからの攻撃を逃れた様だった。
すると、途端に環境音が戻って来る。
どうやら、妙な空間は現実世界に戻ったらしい。


ジガルデ
「!! 成る程、考えたな」


ジガルデはそう言って自らの体をバラバラにし、光の粒子となって消え去る。
その瞬間に私は自由となり、呼吸を荒らげてその場で倒れそうになった。
だが、この時を無駄にしてはならない。
ジガルデとパルキアがいなくなった以上、すぐにこの場を離れなければ危険だ。
私は倒れて動けない聖の元に走り、聖を抱き抱えてやった。
聖はかなり苦しそうにしており、記憶を取り戻そうと戦っていた様だ。



「…俺を信じろ?」

華凛
「もう、悠長な事は言ってられん様になった…!」


私はとりあえず家に向かって走る。
ここから病院は反対側だからな…とりあえず家に帰って戦う準備を整えなければ!
そして私はジガルデの言葉の意味を考える。
聖の記憶が戻れば、秩序は保たれる…だと?
つまり、この少年は相当重要な鍵を握っているという事だ。
記憶が戻れば、それこそあのジガルデが言う秩序を保てる程に…
そして、その記憶が戻るのは近い…ならば、その間位は私が守ってやる!
あのパルキアやジガルデ程の相手にどうこう出来る自信は皆無だが、それでも逃げる位の事はしてやる!
今はプライド等安い物だ! 例え無様でも、生き延びられれば必ず勝機はある!


華凛
(そして、その鍵は…この少年が持っている)


私は、ここで凪の言葉を思い出す…後悔するな、か。
後悔など、私はもうしない! ダーリンがいてくれるなら、私は幸せになれるのだから…
その為には、この少年を守らなければならない…この少年は、ダーリン救出への鍵なのだから……










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』

X

『突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語』



第5話 『鍵』


To be continued…

Yuki ( 2019/05/01(水) 21:37 )