魔更 聖編
第1話

「ん…? な、んだ…ここは?」


俺は開幕からネタを挟む間もなくボケてしまう。
いや、正確にはボケではない…俺はいたってフツーの反応を示してしまったのだ。
何故なら、今俺が寝ているこの部屋は、断じて俺の部屋ではないのが丸分かりだったからな…
とりあえず、まずはベッドから出ないとな。



(完全に見た事の無い部屋…正確な時刻は解らないが、外の光が暗い所を見ると5時前位か?)


俺はとりあえず状況確認の為に窓の外を見た。
空は晴れているが、辺りは暗く灯りは電灯だけ…
そしてそこから見える景色は、俺が初めて見る光景だった。



(ちっ…これも混沌と思うべきか)


俺はとりあえず着替える事も出来ず、その場で立ち尽くす。
壁時計も無い…普段なら、スマホで時間確認するんだが、そんなの当然有るわけ…



(…この部屋の持ち主が使ってる奴か? 電源は…入ってるな)


俺はそう思い、ベッドに放置されてたスマホで時間を見てみる事にした。
そこに書いてある日時は…俺の予想を越える物だった。



(嘘…だろ? 去年の10月!?)


一瞬見間違いかと思ったが、確かに部屋の気温は異様に寒かった。
時刻は6時前にもかかわらず、日はこんなに暗いのだ。
しかし…まさか時間すら越えてしまうとは。
俺はとりあえずそのスマホを耳に当て、こう小声で話した。



「聞こえるか、恵里香(えりか)?」


俺はそう呟く…が、反応は返って来なかった。
しかし、俺はある意味納得する。
時間を越えているって事は、恵里香の世界線から確実にズレているからだ。
恵里香は同一時間軸の並行世界しか目にする事は出来ない。
つまり、俺だけが時間を越えてしまった場合…完全な孤立を証明してしまうという事…



(さて、かつて無い程の恐怖だな…知らない場所に、知らない歴史か)


俺は極力音をたてないように、そ〜っと部屋の扉を開ける。
そして廊下を確認してから、ゆっくり部屋を出た。
どうやら、ここからリビングに直結してた様で、そこは明かりが点いている。
既に誰かがキッチンで何かしている様だ。
それが誰だか解らないが、出来るだけ見付からない様に玄関まで出なくては。



「ヒャッハーーー!! 夜這いだぁーーー!!」


「無駄な事を…!」


俺は冷静に相手の飛び込みを受け止め、柔の拳で軽く投げ飛ばす。
本来ならここからブーキャンかけて吹っ飛ばし、壁コンに移行するのだが流石にゲージが無いので、ここで補正切りする。
俺はとりあえず投げ飛ばした相手を見るが、見た事も無いメイド服の女だった。
しかし、気配は無かったはずなのに、どうやって現れたんだ?
とにかく、襲われた以上ここは危険だ…!
まずは退路を確保しないと…

ボヨンッと、そんな柔らかい音をたてて俺は移動を邪魔される。
前方を確認せずに廊下を突っ走った結果がコレ…と。
そして、俺の顔面がめり込んだのは、ワールドクラスの代物だった…



「あら〜? 茂君、いつの間にか整形した?」


(デ、デケェ……)


それはまたしても見た事が無い、高身長の女性だった。
185p程の長身で、バストは確実に100以上!
俺の家族でもここまでの代物を持った奴はいないと即断出来る程の魔乳だった。
しかし、その人はやけにニコニコしており、温和そうな感じしかしない。
一体…何なんだここは?



「ふっふっふ…まさかいきなり超反応当て身で切り返されるとは思いませんでした!」


「ちぃ! やはり追い打ちをしておくべきだったか!!」


俺は背後の殺気に振り返り、構えを取る。
すると、ゆらり立ち上がった黒髪セミロングのメイド女は瞳を炎の様に揺らめかせた。



「貴様は、まさかゲームセンター○らし!?」

メイド
「必殺! 炎の○マ!!」


ドベキィ!!と、凄まじい音でメイド女の首が曲がる。
そしてメイド女はパタリと倒れ、ピクピクしていた。
俺は冷や汗を垂らしながらその背後を見る…すると、そこには怒りの形相をした謎のブロンド髪女性がフライパンを片手に持っていたのだ。
どうやらアレで殴られたらしい…自業自得とはいえ、手加減が無かったな。


ブロンド女
「いい加減にしなさいこの雑菌が!! 朝早くから人様に迷惑をかける馬鹿がいますか!?」



「…また知らない人か、しかもポケモン?」


とりあえず、俺は進退が極まった。
アクシデント連発で既に隠れて逃げる事も出来ない。
しかし、デカイ人もブロンドの人も、特に俺を見て敵意は抱いていない様だった。
むしろブロンドの人は不思議な顔で俺をガン見し、ゆらりと髪の毛を触手の様に動かす。
成る程な…頭の帽子っぽく見えるのは、『ウツロイド』の特徴か。


ブロンド女
「…怯える事すらしないのは、肝が座っていると言いますか」


「少なくとも、敵意は感じない…貴女は悪人じゃないと、俺は思いますが?」

ブロンド女
「およそ、見た目ただの子供がそこまで達観しているというのは、逆に不気味ですけどね?」


丁寧な口調だが、俺を信用はしきっていないって所か。
だが当然の反応だ、明らかに俺はただの他人…しかもこの家の人間は恐らく全員ポケモンだ。
と、なると…ここは何かしら俺と似た様な境遇の人間が住んでいる家か?


デカイ女
「保美香(ほみか)〜この子、ゲートから出て来たんじゃない?」

保美香
「…その可能性が1番高いかしら、ですが見た所人間の様ですのに」


ゲート? 聞き慣れない単語が出て来たな。
俺は何かしらの不安と違和感に苛まれつつ、とりあえず大人しく話をまずする事にした。
とにかく、情報を集めないとどうにもならない…



………………………




「…俺から話せる情報は、それだけです」

保美香
「…混沌、ですか」

デカイ女
「だったら、茂(しげる)君と理由があって入れ替わったって事〜?」


俺たちはリビングにて互いの情報を交換していた。
すると、次々に驚きの情報が俺には入って来る。
何とこの世界ではポケモンはPKMと呼ばれ、世界に認知されているというのだ。
この世界においてはポケモンは人間に管理され、人と共に生活をしている。
俺の世界とは、明らかに一線を画す違いだな…


保美香
「とにかく、まずは自己紹介だけでもしましょう…わたくしは、保美香…ウツロイドですわ」

デカイ女
「アタシは伊吹(いぶき)…ヌメルゴンだよ、よろしくね聖君〜♪」


ふたりはそう自己紹介してくれる。
名前の付け方まで似てるのかよ…センスが近いってのは共感が持てるな。
そして、保美香さんがその後残りの家族も紹介してくれた。


剣盾女
「初めまして、ギルガルドの美拑(みかん)です」

鳥女
「ピジョットのナギー…いや凪(なぎ)で構わない」

角女
「アブソルの華凛(かりん)だ…」

茶髪
「茜(あかね)、イーブイ」


とりあえずこれだけらしい。
何かもうひとりいた気がするんだが、どうもアレは数に入らないらしい。
俺は気になってはしまうものの、とりあえず忘れる事にした…
さて、ここからは真っ当に攻略開始だ。
この混沌が何を目的に発生したのかは解らないが、俺は常に中心点の特異点として存在しているはず。
だとたら、まず間違いなく夢見の雫は何かしらのキーアイテムになるはずだ。
使用に関しては、最大限注意しないとな…



………………………



保美香
「…だんな様の部屋はそのまま、荷物も残りっぱなしでしたわね」

伊吹
「だったら、本人が身に付けている物以外は入れ替わってないって事かぁ〜」


「…服が無いのは、ことのほかキツいな」

保美香
「これを着てください、だんな様のお召し物ですが、お貸しします」


俺は保美香さんから男物の服を受け取り、それに着替える事にした。
どうやら体格差が結構あるのか、サイズがブカブカだな…しかし贅沢は言えない。
とにかく、感謝だ…今は味方がいてくれるだけで心強い。
ただ、俺の家族は誰もいないのか?
そこだけは、どうしても引っ掛かる所だな…



(住所は駅近の集合住宅だった…俺の家は割と近くにあるが、とりあえず行ってみるか)


どこまで俺の世界に近いのかは解らないが、とにかく調べるしかない。
今は、少しでも情報を集めないと、フラグのひとつもこなせないだろう。



………………………




「ありがとうございます…ただの他人でしかない俺に、良くしてもらって」

保美香
「構いませんわ…事情がお有りの様でしたし…何よりわたくしたちと立場は似ている」
「わたくしたちも、大切な家族を探さなければなりませんし、貴方に協力する方が近道だとわたくしは判断いたします」


俺は玄関先で保美香さんと言葉を交わしていた。
あれから朝食もご馳走になり、この家の人たちは皆良い人だと俺は確信出来たのだ。
しかし、それだけに解らない事もある…何故こんな交代劇が起こった?
それに意味が無ければ成り立たないのだが…入れ替わったのは何故だ?
少なくとも、入れ替わったもうひとりの常葉さんとやらが、俺と同様の何か特殊な能力でも持ってなければ意味は無いはず…
そうでないなら、俺ひとりを呼び付ければ済むはずなのだから…

そう、俺の雫が目的だと仮定するのなら…な。


保美香
「もしかして、このままひとりで行くつもりかしら?」


「…協力は嬉しいです、ですが俺と一緒にいたら誰かが死ぬかもしれない」
「俺ひとりなら、ある程度無理は効きますし、多分迷惑はかけないと思いますから」


俺の言葉を聞いて、保美香さんは触手をダラリとさせてため息を吐く。
何となく、予想はしていた…って顔か。
この人は、多分相当なお節介タイプなのだと俺は思った。


保美香
「貴方が、今までどんな経験をして来たのかは、わたくしには解りません」
「ですが、簡単に死ぬかもしれないから…等と、そんな事を言われて…はいさようなら」
「…そんな無情な事は、無いでしょう?」


「…ですが、もしこの交換劇が俺のせいであれば、俺は常葉さんに申し訳が立たなくなります!」
「危険があるなら、これ以上巻き込むわけにはいかない…最悪、俺ひとりで常葉さんは救ってみせる!」

保美香
「子供は、素直に大人を頼りなさい!」


俺はビクッ!と体を硬直させた。
保美香さんの声は、駄々をこねる子供を叱りつけるかの様な口調で、俺はまるで母親に叱られているかの様な気分になった。
良くも悪くも…姉さんは叱りつける様な事はほとんど無かったからな。


保美香
「聖さん…もう、わたくしたちは巻き込まれています」
「そして、だんな様を救う為なら、わたくしは死など恐れない!」
「もちろん、死ぬ気はありませんので、そこはご安心を…」


「…分かりました、なら俺は何も言いません」
「ただ、約束はします…俺は絶対に常葉さんの家族を守ってみせると」
「そして、この混沌の謎を解き明かして、常葉さんを救ってみせると!」


俺は保美香さんとその後無言で握手する。
互いに同じ想いなら、もう問答はいらない。
やるしかないんだ…俺の辞書に、犠牲という2文字は存在しない!



………………………



保美香
「…それでは、まずはその住所のお宅に?」


「はい、少なくともこの世界は俺のいた世界と酷似しています」
「だとすれば、俺の家も存在している可能性は高い…そして、そこに家があるなら」

保美香
「だんな様も、そこにいる可能性がある、と…」


俺たちは頷き合う。
あくまで希望的観測に過ぎないが、情報が何も無い以上、可能性が少しでもある方に俺は賭けるさ…
俺たちはそう思い、ふたりで街を歩いていく。
この間、茜ちゃんたち他の家族も別の場所を調べてくれている。
あくまで俺と共に行動をしてくれるのは、保美香さんだけだ。



「…迷うと思う方がバカらしくなってくるな」

保美香
「それ程にまで似ているという事なのですね…」


街の風景は、ほとんど違和感が無い。
季節が違う事を除けば、全く同一世界だと思える位、違いが解らなかった。
そして、しばらく話をしながら歩いた所で、俺は近所の公園に辿り着く。
そこで…俺は初めて違和感に気付いた。



「え…? 『ダイヤモンド小公園』…?」

保美香
「どうかしたのかしら? ただの小さな公園の様ですが…」


そう、小さな公園だ。
いつも通り誰も遊んではいなく、寂しげな公園。
しかし、この公園は俺の知っている公園ではない。
遊具の位置やベンチの位置が反転しているのだ。
しかも公園名が違う…ここは、『パール小公園』のはずだったのに!



「保美香さん、この公園って何か改修工事とかはありました?」

保美香
「さぁ…あまりこの辺りには足を運びませんし、解らないかしら」


…俺は異様な感覚に捕らわれる。
何故ここだけ露骨に違うんだ?
この公園は、俺にだけは特別な意味を持つ場所…
姉さんとの思い出の場所であり、前にアルセウスさんと夢で約束した公園でもある。
だけど、今目の前にあるこの公園は…俺の知らない公園なのだ…
俺はその公園に踏みいる…必ず何かある。
そして次の瞬間、俺たちは謎の違和感に包まれる。
俺はその後、一瞬で目の前が真っ赤に染まり、そのまま意識が断ち切られた……



………………………




保美香
「聖さん!? おのれぇぇ、一体誰がぁ!?」


あまりに突然の事態に、わたくしは怒りを露にする。
謎の違和感の後、空間が変わったかの様な感覚と共に、聖さんが顔面を切り裂かれて血塗れになったのだ。
聖さんは仰向けに倒れ、砂埃を上げて意識を失っていた。
わたくしはすぐに触手で聖さんの生命活動をチェックする。
良かった…死んでは、いない。
しかし、安心するのも束の間…敵は確実にそこにいるのです。
わたくしは触手をプルプルと震えさせ、怒りで我を忘れそうになるのを我慢する。
そして、改めて敵の姿を見た。
そこにいたのは小さな少女で、刃物の様な右腕を舌舐めずりしている。
それには聖さんの血が付着しており、彼女の狂気性を物語っていた。


少女
「へぇ…あの一瞬で半歩退いて致命傷を逃れるなんて、人間にしては良い反応だね」
「でも、ウツロイドといるなんて意外だよ…それとも、それアンタの餌?」
「ウツロイドって、確か人間の脳を補食するんでしょ?」
「だったら見せてみてよ!? その代わりソイツの死体だけ頂戴♪」


少女は狂っているかの様な狂気の笑みでそんなバカな事を言う。
少女の体は小柄で、姿はまるで和紙で和服を着たかの様な姿。
ですが、両腕の肘辺りから手の甲の先まで伸びている鋭利な刃物は、確実に危険な特徴だと認識出来た。
足元近くまで到達する長さのその刃物は、聖さんを傷付けた明らかに危険な凶器。
頭には兜らしき物を被っており、一見するとそれは武将の様にも見える。
わたくしはこの時点で相手の種族を特定し、そして大きなため息を吐いた。


保美香
「いつか何かが起こるとは思っていましたが、ここで『カミツルギ』とは…」
「やはり、聖さんには何かがあるのですですね?」
「後、わたくしは別に脳を食べるわけではありませんよ?」
「正確には、『寄生』して共存するのが本来の特徴です」

カミツルギ
「あーそうなの? アハハッ、まぁ別にどっちでも良いや」
「で、それくれるの? 何ならアンタが殺してからでも良いよ?」
「アタシが欲しいのは死体だけだから♪」


カミツルギのネジが外れた思考回路にわたくしは嫌気が差す。
もはや怒りを通り越して呆れ、わたくしは冷静にこう告げた。


保美香
「貴女、本格的に狂ってますわね」

カミツルギ
「そ〜お? ウツロイドだって、人間を苗床にして吸い尽くしたら、すぐにポイッじゃないの?」

保美香
「もう1度言いますわ、ウツロイドは『寄生』をするんですよ」
「つまり…宿主が死んだ時は、ウツロイドも死ぬという事…」
「それ故に、わたくしたちウツロイドにとって『寄生』とは、人間で言う結婚の様な物なのです」
「それは生涯を共に、愛する物と添い遂げるという決意の現れ!!」
「それを、貴女の様な下衆なポケモンが軽く汚して良い言葉では無い!!」


わたくしはそう叫んで触手を蠢かす。
明らかな威嚇行動にカミツルギは笑っていた。
恐怖は感じられない、むしろ嬉しそうに口元を歪めている。
一体何が目的で、彼女は動いているのかしら?


カミツルギ
「お〜怖い怖い♪ まっ、別に計画変更するわけじゃなし」
「とりあえず予定通り殺してでも奪い取るよ〜?」
「まぁ、戦闘の最中、ついソイツぶっ殺しちゃっても文句言わないでね?」


カミツルギはなおも狂人の笑みを零し、わたくしをおちょくっていた。
わたくしはそれに対し極めて冷静に徹する。
この戦いは、時間が無い…!
聖さんの傷はかなり深く、出血が止まってないのだ。
そしてこの空間はわたくしとカミツルギの一対一…助けは、多分来ない!


保美香
(だとしたら、短期決戦で勝利出来ねば、聖さんの命が危うい!)

カミツルギ
「ハハハッ! さぁ、どうしようかな!?」
「ワザと逃げ回って時間稼いであげようか? それとも遠距離から広範囲に技をばら蒔く!?」
「どっちにしても、もうすぐ死ぬよソイツは!?」

保美香
「黙りなさい…! 死なせるものですか…!!」
「例えここで貴女を殺してでも、聖さんは生かしてみせますわ!!」


わたくしは体勢を低くし、攻撃体勢に入る。
カミツルギはそんなわたくしの気迫に一瞬たじろぐも、すぐに狂気の笑みで腕をブンッ!と高速で素振りした。
間違いなく速く、そして鋭い! 恐らく聖さんを切った事で『ビーストブースト』が発動しているはず。
その場合、わたくしは一太刀すらも受ける事は許されない。
鋼タイプかつ、全ポケモン中でも最高クラスの攻撃力を持つと言われるカミツルギの斬撃…岩タイプのわたくしの皮膚など、紙を切る様な物でしょう…


カミツルギ
「ククク…良いね…その殺気♪」
「やっぱりアンタもUBだ! 本質的には狂ってる!」
「そう、アタシ等は皆そうさ!! 本当は殺して殺して殺し尽くしたい!!」
「さぁ、初めよう!? 最高の殺し合いをさぁーーー!?」


カミツルギは叫んだ途端、凄まじい速度で飛びかかって来る。
しかし、その速度は攻撃力と比例してもそこまで速くはない。
これならば、回避は容易かしら!


保美香
(相手は鋼草の混合タイプ、わたくしの技のほとんどが通用しない)


しかし、相手はこちらの技がどんな物かまでは恐らく予測出来てない。
故に、そこには傲りがあり、わたくしの勝利の秘訣があるかしら!
わたくしはカミツルギの突進を見て薄ら笑いを見せる。
そして、互いの体が一瞬淡い光に包まれた後、カミツルギは右腕を真上から振り下ろした。
…が、わたくしはそれを片手で軽く外側にパーリングしてみせる。
カミツルギはあからさまに驚いた顔をしてこう叫んだ。


カミツルギ
「!? まさか、『パワーシェア』かっ!!」

保美香
「迂闊過ぎましたわね! これで貴女の高い攻撃力はわたくしにも宿ります!!」


わたくしはカミツルギの懐で拳を握る。
これだけの力が宿れば技は必要ない、単純に腕力で殴り抜ければ十分かしら!
しかし、そんな好機のタイミングで放った拳は空しく空を切る。
カミツルギは一瞬でわたくしの背後に回り込み、次の攻撃を狙ったのだ。


保美香
「『見切り』ですか!? 中々にやりますわね…!」

カミツルギ
「今度は先にぶち込む! 同じ力でも、リーチはアタシの方があるからね!!」

保美香
「致し方ありませんか…出来れば、穏便に済ませたかったのですが」


ビチャア!と突然の毒液がカミツルギを襲う。
それはわたくしの触手から大量に放たれた『ベノムショック』の毒液です。
毒は鋼に無効…と普通のポケモンならそう思うでしょうが、これは人化したポケモン娘の戦い。
なので、劇薬であるベノムショックの毒液を人体が受ければどうなるか?
その結果は…これです。


カミツルギ
「なっ…? がっ、あああああああああっ!?」


予想通りカミツルギは絶叫。
彼女は腕を乱暴に振るい、毒液を振り払おうとする。
ですが、腕に付いたそれは人体に染み込み、そうそう取れる物ではない。
そしてそのまま、カミツルギは顔を蒼くしてガタガタと震えていた。


保美香
「それが、人化したポケモンの限界ですよ…」

カミツルギ
「なん…でだよぉ!?」


カミツルギは涙目になりながらもわたくしを睨む。
自分の油断でこうなったのが気に入らないのでしょうね…そして、まだ目は諦めていない。
わたくしはこれ以上の時間を望まない。
だからこそ、容赦もする気は一切無かった。


カミツルギ
「があぁぁぁぁっ!!」

保美香
「………」


カミツルギは悪足掻きの様に左腕を振るって来る。
しかし、わたくしは冷静にその攻撃を腕で弾き飛ばす。
カミツルギはバランスを崩しそのまま転倒し、わたくしは迷わずにベノムショックを続けて放つ。
本来なら毒状態の相手に使って威力を上げる技なのですが、わたくしは自力で相手を毒に出来ない為、この技は空気にも程がある技。
ですが、現実においてこの技は、容易に人を毒殺出来る技でもある。
わたくしにとってこの技は、本来封印すべき狂気の技です。


ビチャア!!


カミツルギ
「あああああぁぁぁぁぁっ!?」


毒液は倒れたカミツルギの両足に着弾し、もはや彼女に身動きすら取れない様にする。
もはや、勝負は決している…これ以上の戦闘は無意味です。
早く、この空間を脱出して聖さんを病院に運ばなければ!


保美香
「これでもう動けないでしょう? 大人しく空間を元に戻しなさい…そうすれば命までは取りません」

カミツルギ
「ざ、けんな…! アタシが死ぬまでお前らはここから出られない!」
「出たけりゃ、殺して出なよ!?」


彼女は本気で言っている様だった。
だとしたら、わたくしは本当に殺してでもここを出なければならなくなる。
もはや聖さんには一刻の猶予も無い! わたくしはカミツルギを無視し、すぐに聖さんの元に飛んだ。
そしてわたくしは服の袖を引き千切り、それで聖さんの止血を優先する。
とりあえず応急処置ですが、これで失血はせずに済むでしょう…


カミツルギ
「チクショウ…何だよ、アタシは無視かよ?」

保美香
「…優先度の問題かしら、貴女を殺さなければここから出られないのですし」
「わたくしは、出来れば殺したくはありません…」


わたくしの顔はさぞ雲っていた事だろう。
彼女を傷付けるだけでも心苦しいのに、わたくしには守らなければならない命がある。
その為に、わたくしは望まぬ殺害を迫られているのですから…!


保美香
「最後に教えてください…貴女は誰に命令されてこんな事を?」

カミツルギ
「さぁね…アタシはそこの『魔更 聖』とかいう奴の死体を持って来いって言われただけだ」

保美香
「…その、理由は?」

カミツルギ
「知るか…アタシはやり遂げたら、元の世界に帰してくれるって話を信じただけだ」


わたくしはその言葉を聞いて考える…つまり、彼女は別の世界から来た存在?
わたくしたちが別世界に飛ばされた時の様に、彼女たちはこの世界に来てしまったのでしょうか?
しかし、目的が達成されれば帰してくれる…?
それはつまり、首謀者はゲートを操れるとでも…?


保美香
「…誰が貴方に指示を?」

カミツルギ
「さぁな…アタシは末端に過ぎないよ」
「だが、良い事を教えてやる…これは私怨から生み出された混沌だ」
「魔更 聖には何かある、もう巻き込まれてるんだぜ? そして、戦いは始まってるんだ…」


ガシャァン!


カミツルギは胸元に隠していた何かを左腕で割る。
音からすると、ガラスか何かの様でしたが…その瞬間に突如空間は元に戻ったのを実感する。
先程の様に隔絶されたかの様な世界ではない…環境音が耳に響き、人々の喧騒もちゃんと聞こえる。
カミツルギは残念そうな顔をして、小さくこう呟いた。


カミツルギ
「クックック…死ななきゃ出られないってのは、スマン…ありゃ嘘だ」
「あ〜チクショウ…もっと暴れたかったなぁ…じゃっ、後は頑張れや♪」


ドシュウッ!!


保美香
「!?」


カミツルギは、唯一動かせる左腕で、自分の首を跳ねた。
公園内に血生臭い臭いが立ち込め、わたくしは呆然とする。
そして、数秒間わたくしは彼女の死体の前で立ち尽くした。
やがて、その死体は黄金の粒子になって消えていく。
気が付くと、そこには死体も血痕も存在してなかった。


保美香
「これは一体何なのですか!? こんな現象、見た事が無い…」
「はっ!? そ、そんな事は今はどうでも良いかしら!」
「聖さんを病院に! 急ぐかしら!!」


私は完全に意識を失っている聖さんの体を持ち上げ、その場から飛び立った。
既にパワーシェアの効果は失われており、急に力が入らなくなる…
しかし、今は一刻を争う事態! 聖さん、どうか生きてください!!










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』

X

『突然始まるポケモン娘と歴史改変する物語』



第1話 『異常事態』


To be continued…

Yuki ( 2019/05/01(水) 21:35 )