とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない













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第7章 『バトルフロンティア』
第7話
メロディ
「………」


バトルフロンティアの最西端、とある一角に存在する坑道の様なトンネル。
そこは決して踏み込んではならない領域。
ここに存在するのは悪意その物…人は、それに抗う事は出来ない。
だけど、私は歌う……こんな理不尽な悪意を振り払う為に!


メロディ
「そして、いつも…諦めてた……約束も、果たせなくて」


私は楽器を多数空中に出現させ、演奏と共に歌い始める。
私を中心に歌エネルギーはトンネル内に拡散し、広がろうとする悪意の塊を押し留めていく。
そして、私の目の前にいる小さな少女は、その歌に引き寄せられる様にこちらへ歩み寄って来た。
その姿は以前見た彼女の姿とは違っており、酷く傷付き、血だらけで、そして涙を流していた。
私は感情を揺らし、歌に力を込める。
思いの丈をこの歌に乗せるのだ。
やがて、血塗れの少女は私の目の前まで歩み寄り、糸が切れた操り人形の様に私の胸に倒れかかった。


華澄
「……メ、ロ、ディ…ど………の……」


華澄ちゃんは死にかけていた。
でも、まだ生きている。
私は華澄ちゃんをしっかりと抱き締め、目の前の見えない悪意を睨み付ける。
そして、華澄ちゃんを抱え上げ、私はトンネルに背を向けてこう呟いた。


メロディ
「…ここに来てはダメよ、ここは誰も近付いてはならない領域」
「でも、徐々に徐々に広がっている…このままだと、私の歌でも悪意を抑えられない、か…」


私はバトルフロンティア全体に設置してある各所のスピーカーを通し、歌の力でここに潜む悪意を抑え続けている。
この悪意は、あまりにも危険な意志。
戦いという悪意に巣食われた、欲望の塊…その数は、一体どれ程の物なのか?
私はこれから先の対策も見据え、そろそろ最後の選択を取る必要が出て来たのを
理解する。
やっぱり、あの子の力を借りないと……



………………………




「…何だって、華澄たちが!?」

恵里香
『ちょっとトラブルみたいだね、でも大丈夫みたいだよ』
『どこかのヒーローが助けてくれたみたいだから♪』


俺は恵里香に1度連絡を取っていた。
すると、恵里香の口から突然出て来たのは、絶賛探索中の華澄と三海の話。
どうも、西側の方でトラブルにあったらしく、大怪我をして病院にいるらしい。
一体、大怪我って何があったんだ?
華澄と三海をそこまで追い詰められる奴なんてそうそういないと思ってたんだが…



「悪い恵里香、また後で連絡するよ」

恵里香
『うん…気を付けてね』


恵里香は少しだけ心配そうだった。
しかし、恵里香のレーダー範囲に入ってるって事は、ここからならそう遠くもないのか?
俺は今バトルドームの入り口にいた。
愛呂恵さんや鐃背さんは絶対安静でしばらく動けないし、参加者は軒並み怪我だらけ。
あれから舞理愛は俺や悠和ちゃんと一緒にマルチバトルに再参加し、有言実行で舞理愛はひとりで無双してしまった…
片腕でありながらも、その強さはやはり凄まじく、単純な戦闘能力は守連にも負けていないかもしれない。
短気なのが欠点だけど、バトルの勘は鋭いし、頭も回る。
あそこまで完璧な強さだと、天狗になるのも仕方無いのかもしれない。
舞理愛はとりあえず満足してたし、高笑いしながらもうどこかへ行ってしまった。
というわけで、俺はこれからの行動を決める事にする。



「とりあえず、華澄たちの所に行くか」

白那
「そうだね、最後のタワーは後回しでも構わないし、今はふたりの安否を確かめるのが最善だと思う」

阿須那
「待ちぃや、聖は先にタワーに行き」
「華澄たちはウチと女胤で見に行くわ」


突然、阿須那はそう言い放つ。
既に阿須那は回復しており、とりあえず体に問題は無いみたいだが…



「何でタワーを優先させる? 何か気になる事でもあるのか?」

阿須那
「華澄と三海がやられたって言うんやったら、原因は何や?」

女胤
「…少なくとも、華澄さんたちよりも更に強い誰かが現れた…と?」


阿須那の言葉に女胤が答える。
阿須那はとりあえず頷き、指を1本立てた。


阿須那
「それが、可能性のひとつ……まだ可能性としては」

白那
「同士討ち…って線もあるかもしれないね」


今度は白那さんが少し険しい顔で言った。
阿須那はそれに言葉を詰まらせ、少し間を置く。
どうやら、こっちの方が可能性的には高いと思ってるらしい。


阿須那
「正直な話、確かに強い奴らはこの世界には多い…」
「せやけど、華澄や三海を五体満足で倒せる奴がいるとはあまり思えん」


「…そう、だな」


確かに強い奴はいる。
だけど、華澄と三海は家族の中でもトップクラスの強さだ。
特に華澄は変幻自在の特性と多種多様な技の数々で、どんな相手でも有効に立ち回れる。
三海に至っては時限式だが、その力は誰にも抑えられる代物じゃない。
そんなふたりを相手にして、五体満足…か?


白那
「…成る程、それなら相手も相当なダメージが無きゃおかしい、か」

女胤
「恵里香さんは誰と争ったのかは解らなかったのですか?」


「待て、確認してみるよ…恵里香?」


俺はスマホを再び取りだし、耳に当てて恵里香を呼び出す。
だが、すぐには出て来ず、俺は数秒そのままで待つ事になった。
こんな事初めてだな…いつもはすぐに出るのに。


恵里香
『…ゴメンね、少し遅れた』


「いや、良いが…何かあったのか?」

恵里香
『大した事じゃない…ちょっと物思いに耽ってただけだよ』


物思いに…ねぇ。
まぁ、恵里香だってストレスとか無いわけじゃ無いだろうし、あんな何も無い空間じゃ、たまにそういう事もあるか。


恵里香
『とりあえず、同士討ちは想像通りだよ…でも今はもう大丈夫』
『キミはタワーの方に行くと良い…原因はまだ特定出来ないけど、協力者がいるからきっと大丈夫だ』


「協力者?」

恵里香
『キミも知っている人だよ、だから大丈夫』


成る程、それなら信頼は出来るか。
でも、ここで誰かは明かせない理由でもあるのか?
恵里香の事だから、遊んで隠してる気もするが…



「…はぁ、今なら怒らないから、隠してる事あるなら正直に言いなさい」

恵里香
『だって盛り上がりに欠けるじゃない…ネタバレは天敵だよ?』
『まぁ、読者的にはバレバレなんだけどね♪』


「やっぱ遊んでやがるのな!? ってかメタ発言止めい!!」
「ったく! とりあえず解ったよ…遊びに乗ってやる」


俺はそう言ってスマホを仕舞い、ため息を吐いて皆を見る。
っても、ここにいるのは俺と阿須那、女胤、白那さんのみだけど。



「とりあえず、華澄たちは阿須那に任せる」

阿須那
「何や…何となく察しはしたけど、ええんか?」


俺はとりあえず、ああ…と返した。
そして次に白那さんに頼んで、現状確認出来ている家族を集めておいてもらえる様にした。
後は、タワーに向かう面子だが…



「とりあえず、俺ひとりでタワーに行くよ」

女胤
「聖様!? 流石におひとりでは危険です! また誰かに拐われる事もあるかも…」

阿須那
「…何か考えあるんやろ? 聖に限って考えも無しにひとりで行くかいな」


俺はとりあえず頭を掻き、やや真面目な顔をする。
そして、現状で俺の考えを阿須那にこう告げた。



「今回の混沌は、正直クリア条件が不明だ」
「ひょっとしたら施設全てを回る事が何かの鍵になるかと思ってた」
「けど、何だか違う気がする…同士討ちの原因は何だ?」
「この世界には、何か悪意があるのかもしれない…でも、それは?」

白那
「…原因が解らない以上、自分を囮にするって事か」


俺は小さく頷く。
混沌は大抵俺に関わって何かが起きている。
それならいっそ、ひとりで行動した方が敵の動きは掴めるかもしれない。
もしボスがいるなら、それを倒せればクリアって事も掴めるしな。


阿須那
「…まぁ白那はんがおるし、何かあったらすぐに駆け付けてくれるやろ」
「ほな、ウチ等は病院や! 行くで女胤?」

女胤
「…解りました、聖様が考えて決められたのなら異存はありません」


ふたりはそう言って西へ向かう。
とりあえず任せて大丈夫だろう…後は頼むぞ。


白那
「それじゃあ、オレは皆を纏めておくよ…聖君、何があってもすぐに駆け付けるから」


そう言って白那さんは転移する。
ちょっと心配そうな顔だったな…まぁ、ルナリーさんの時の事もあるし、仕方無いのかもしれない。
俺は改めてひとりになり、周りの人々を眺める。
この世界は人とポケモンが共存しており、現実からしたらまるで夢の様な世界だ。
ある意味、理想的であり非現実。
確かにポケモンたちにとっては何の気兼ねもなく生きていける、一見優しい世界に思える。



(だけど、この世界には悪意がある)


俺はそれが悲しかった。
ここまでに出逢ったポケモンたちは、祭りを楽しんでいるのに。
その裏で何かが蠢いている…それは一体何なのか? そして、協力者とは誰なのか?
俺は平和そうに見えるこの世界で、ひとり歩き始めた。



………………………



阿須那
「…そういえば、西の病院ったってどこの事や?」

女胤
「言われてみれば、正確な場所は一切解りませんね…」


ウチ等はとりあえず歩きながらパンフレットの地図を見た。
1番西側にある施設はバトルファクトリーで、そこより西に施設は無い。
いや、端の方にひとつだけ小さな医院があるみたいや。
少なくとも、地図上では間違いなく1番西にある病院で、ここがそうやと思うんやが…


女胤
「とりあえず、まずは訪ねてみては? 全体で見てもこの世界は狭い空間ですし、総当たりで探したとしてもそれ程時間はかからないかと」

阿須那
「せやな…そうしよか」
「下手に考えるよりここは虱潰しの方がエエやろ」


ウチ等はとりあえず頷き合い、目的の病院を目指す。
それ程時間がかかる事もなく、ウチ等は走って10分程でそこに辿り着いた。



………………………



阿須那
「ここ、よな?」

女胤
「だと、思いますが…看板も何もありませんね」


ウチ等が見ている病院は、およそ病院に見えない小さな建物。
1階建てのコンクリート造りで、パッと見ただの空き家みたいにも見える。
せやけど明かりは点いてるし、誰かがおるのは確かみたいや。
とりあえず、入ってみて誰かに詳細聞いたらええやろ。
ウチはそう思い、まず入り口のドアを開いて中に入る。
チリンチリン!と鈴の音が鳴り、誰かがこちらに近付いて来た。
その姿は、確かに医者という見た目の服装で、やや歳を食った感じのある中年の女性や。


医者
「!? く、お……?」

阿須那
「はい?」


開口一番、何やら意味不明な言葉と共に医者らしき女性は驚く。
何や人を見ていきなり幽霊でも見たかの様に…
せやけど、医者の女性はすぐに表情を変え、長いピンクの髪を掻いてダルそうな目をした。
な、何か妙な雰囲気やな…ホンマに医者か?
つーか、この人ポケモン…よな?


医者
「…ゴメンなさいね、ちょっと古い友人に似てたから」
「で? 見た所患者には見えないけど、別の用事かしら?」

女胤
「あ、申し訳ありません…お聞きしたい事があって」


女胤が一言謝り、そう聞き始める。
医者の女性はダルそうな顔のまま、女胤の言葉を聞いていた。


医者
「あぁ…そういう事ね」
「そのふたりなら、絶対安静…出来れば3日は寝かせた方が良いわ」
「動くだけなら、明日には動けるかもしれないけど」

阿須那
「そうですか、ほんなら良かったわ…とりあえず無事なら何よりや」

女胤
「そうですね…何かあったら聖様に何と言えば良いか」


ウチ等はとりあえず安堵の息を吐く。
そんなウチ等を見てか、医者の女性は軽く微笑み、近くのソファーに座る。
そして、テーブルに置いてあったカップにコーヒーを注いだ。
ええ香りやな、どんな豆使ってるんやろ?
ウチはコーヒー好きとして少なからず興味があった。
それに気付いたのか、医者の女性はクスクス笑って立ち上がる。
すると、コーヒーが注がれたカップをウチに差し出した。


阿須那
「あ、えと…」

医者
「興味、あるんでしょ? それとも、出来立ての方が良いかしら?」


ウチは少し頬を赤らめ、小さく頷く。
な、何かこの人…妙に読めへんな。
まるでこっちの考えが見透かされてるみたいや。
エスパータイプって感じはせぇへんけど、何モンや?


医者
「そっちのドレディアさんは、コーヒー大丈夫?」

女胤
「あ、はい…飲めなくは、ないですが」

医者
「ふむ、紅茶の方が好みかしら?」


見事に当てられ、女胤も驚く。
どうやら年の功なのか、かなりの洞察力があるみたいや。
それとも医者の目ってそんな事まで解るモンなんかな?
とりあえず、医者の女性は受付カウンターの奥にあるコーヒーメーカーを使い、豆を擂り潰していた。
やっぱええ香りや…ウチは思わず鼻をすんすんと鳴らしてしまう。
やがてコーヒーが少しづつ出来始め、医者の女性は棚から紅茶の葉が入ってる瓶を取り出し、そこから紅茶も作る気の様やった。


女胤
「全部、自分で作られるのですか?」

医者
「ん〜…まぁ、ね」
「昔は面倒だったから、インスタントしか飲まなかったんだけど…」
「友人のキュウコンがね、インスタントは好きじゃないって言ってたから」
「気が付いたら、豆から作る様になってたわ…」


医者の女性はダルそうな顔をしながらも、微笑んで紅茶の用意もした。
そんな丁寧な作業をウチ等は立ったまま眺め、やがて出来立てのコーヒーと紅茶がそれぞれカップに用意される。
ウチ等はソファーに座らされ、3人でとりあえずティータイムと相成った。



………………………



阿須那
「あ…! これ、ホンマに美味しい…!」

医者
「そっ…それは、良かったわ♪」

女胤
「紅茶も良い香りです、味も素晴らしいですわ」


女胤も絶賛やった。
ウチは飲んだ事も無い、美味しいコーヒーに酔いしれ、ホッと気を休める。
バトルバトルのこの世界、こういった安らぎはやっぱ重要やな。


阿須那
「そういえば、友人のキュウコンってどんな人なんです? この世界におるんでっか?」

医者
「ん〜ん…あっち」


そう言って医者の女性は人差し指で上を指差す。
ここは2階なんて無いはずやが…?


阿須那
「もしかして屋上におるん?」

医者
「ううん、もっと高い所よ…」


ウチ等は同時にバツの悪そうな顔をした。
その言葉で察せたのだ…その人は、もうこの世におらんのやと。
彼女の表情は暗さが残ってる…ウチを見る目は、どこか寂しそうな顔やったもんな…


女胤
「…病気か、何かで?」

医者
「…戦争で、仲間を守る為に犠牲になったわ」
「もう、20年位前だけどね…」


医者の女性は諦めた様な顔で淡々と語る。
せやけど、その思い出は相当重いんやと、ウチは思った。
きっと、この人は…昔はもっとしっかりしてたんかもしれへんな。


医者
「ところで、あのふたりとはどういう関係?」

阿須那
「家族です…かけがえの無い、大切な」


ウチは真剣な顔でそう答えた。
それを聞いて、医者の女性は嬉しそうに微笑む。
そして、何か遠くを見る様な目で、カップの中のコーヒーを見てこう話した。


医者
「家族か…良いわね」
「それなら、大事にするのよ?」

阿須那
「当たり前ですわ! 家族を大事にせぇへん家族なんかおらへん!!」

女胤
「確かに…ですが、そうでない家族も世界には大勢いますからね」


女胤はやや現実的な解答を述べる。
まぁ、そら人間社会からしたら、そうやろうけど…
せやけど、それはホンマに家族なんやろうか?
最近はようけ虐待とかがテレビで報道されとるが、それはホンマに家族なんかな?
ウチは、その辺が割り切る事は出来そうに無かった。


医者
「…やっぱり、似てるわね」

阿須那
「えっ…友人さんに? どの辺が?」


ウチが興味津々にそう聞くと、医者の女性は微笑んでクスクス笑う。
何か、おちょくられてるんかな? どうにも、子供扱いされてる様な感じや。
これでもちゃんとした大人なんやけどな?


医者
「貴女、名前は?」

阿須那
「阿須那です! キュウコンの阿須那!」

女胤
「私は、ご存じの通りドレディアの女胤と申します」


ウチ等がそう自己紹介すると、医者の女性はクスクス笑う。
そんなに嬉しいんかな? 何かやっぱこの人読めへん。


医者
「…私は『アーチェ』、しがない医者よ」
「今は世界を転々としながら、怪我や病気と戦う、一介の『ハピナス』」


ハピナスのアーチェ…そう名乗った医者の女性はどこか寂しそうやった。
せやけど、力強さは何となく感じる。
この人は医者としては多分一流なんやろ。
何となく、ウチにはそう思えた。


アーチェ
「貴女たちは、バトルフロンティアに興味があるの?」

阿須那
「うんにゃ…ウチは少なくともどうでもええですわ」
「ただ、参加したい家族がおるなら応援はするけど…」

女胤
「私も同意見です、バトル自体にそれ程興味はありませんね」

アーチェ
「ふぅん…って事は、巻き込まれただけか」
「まぁ、私もそうだし…お互い様か」


どうやら、アーチェはんもこの混沌には巻き込まれただけらしい。
世界を転々とって言うとったが、とれだけの世界を渡って来たんやろうか?
この人の年齢は、きっとウチの倍以上は多くを経験しとるはず。
その中で、どれ程の死を看取って来たのか…そして、同時に救っても来たのか。
ウチはそんな解りもしない疑問を思い、ただ何となくコーヒーをグッと飲んだ。


阿須那
「ご馳走さんです! とりあえず華澄と三海が治るまでは、ここにいさせてもろても構いまへん?」

アーチェ
「ええ、どうせ患者はそんなに来ないし、好きにしてくれて良いわよ」

女胤
「ありがとうございます、何か手伝える事があれば、どうぞご遠慮なく仰ってください」

アーチェ
「そう? だったら、料理とか出来る?」


女胤はピシッ!と石の様に固まる。
いきなり無理ゲー突き付けられたな…まぁ、流石に助け船出したるか。


阿須那
「料理ならウチが作りますわ! 女胤のは化学兵器やからな…」

アーチェ
「へぇ…阿須那ちゃんは出来るんだ? それなら、助けてもらおうかな…」
「私、どうにも料理は上手く出来なくて、食材はあるから作ってくれない?」

阿須那
「しゃあないな…ほな冷蔵庫見せてもらえます? とりあえずキッチンと機材あるなら何とかしてみますわ!」


ウチはそう言ってとりあえずキッチンに案内してもらう事にした。
とりあえずバトルは聖に任せて、ウチ等はここで家族を守らんとな…



………………………




「ここが、最後の施設…バトルタワーか」


最北端に位置する、天高く伸びる巨大なビル。
これこそがバトルタワーであり、その高さは雲を突き抜けていた。
まるで天空の塔を思い出すが、それと同等以上の高さはあるのかもしれない。
さて、ここには誰がいるのかな? 残り全員いれば万々歳なんだが…



「草〜原を渡〜る船に、乗・ろ・う・か?」


「やっぱり現れましたね? 協力者のメロディさん?」


俺は背中越しに聞こえる歌を聞き、首だけ後ろに向けてそう言った。
微笑む俺の顔を見てメロディさんは笑う。
否定する気も無い様で、とりあえず俺はため息を吐いてメロディさんの方に向き直った。


メロディ
「まぁ、そろそろ気付くかなとは思ってたよ♪」


「恵里香とは、知り合いだったんですか?」

メロディ
「まぁね、少なくとも君より長い付き合いかもね」


それは驚きだ…つまり、メロディさんは恵里香が最果てに到達する前に知り合ったって事なのか?
ただ、そうなると俺がポケモンになって恵里香の世界にいた時に出会ってたんだろうか?
俺は過去にメロエッタにあった記憶は無いが…果たして?



「…とりあえず、華澄と三海の事は感謝します」

メロディ
「良いわよそんなの…私は、あの悪意に絶対負けたくないだけだから」


メロディさんの表情は真剣その物だった。
どうやら、この人は真相を知っているらしい。
だったら、俺は聞かなきゃならない。
この世界を巣くう悪意は何なのか?
そしてクリア条件は何なのか、をだ…



「教えてくださいメロディさん」

メロディ
「だが断る」



「断られたよ!! つか、これネタだよね!?」
「メロディさん、そこまでイジワルじゃ無いよね!?」

メロディ
「ふふ…ホントに恵里香が言った通り面白いよね、聖君って♪」


「からかわないでくださいよ…そういう所、何気に恵里香に似てますね?」


メロディさんはアハハッ!と笑った。
一体どんな経緯で恵里香と関わっていたのかは解らないが、今はこの混沌の悪意を知る事が重要だ。
そして、メロディさんはその正体を知っているはず。


メロディ
「ゴメンね、聖君…この混沌の原因は、出来れば私が解決したいんだ」


「でも、それなら俺も協力を…」

メロディ
「それは最後の手段! 君のその力は、あまりにも卑怯だから…」


俺は言われて狼狽える。
そして確かに思う…夢見の雫は、卑怯なアイテムだと。
いわば公式に認められたチートアイテム。
その力は、正しく使えば間違いなく奇跡を自在に起こせる代物…
だけど、メロディさんは夢見の雫の存在を知っていてあえて使わないつもりなのか?


メロディ
「聖君、君のその力は…必ずしも人を救うとは限らないと、思っていて」


「!?」


それは、否定だった。
俺の考え、行動に対する否定。
俺の優しさが、夢見の雫の使用が、人を救うとは…限らない、か。
だけど、メロディさんも最後の手段だとは言っている。
あくまで、夢見の雫は最後に残される選択なのだ。


メロディ
「君は、確かに救世主だよ…でも、それに頼って救われるだけじゃ、人の心は腐ってしまう」


「心が…腐る?」

メロディ
「私は抗う、その為に歌うの!」
「でも、その力は届かないかもしれない…だから、その時は改めて聖君に頼みたいの」
「私の歌が、届かなくなった時…この世界を救う為に」


メロディさんは強い意志でそう言った。
そして、俺はメロディさんのその強さを改めてスゴいと思う。
夢見の雫は、いわば神の奇跡。
でも、その効果は確かに人の心を腐らせるのかもしれない。
俺が何も考えずに救いをバラ撒いていたら、人はいずれその奇跡が当たり前になってしまうのかもしれないな…
確かに、そうなったらもう人は努力しない。
何もしなくても救われると勘違いしてしまう。
それでは、本当の意味で人は救えないんだ…!



「…分かりました、だったらメロディさんを信じます」
「そして、その時が来るまで俺は雫を使わない」
「メロディさんは、心のままに歌ってください…」

メロディ
「ありがとう、聖君…」
「私は、歌う事しか出来ないから…ただ歌うよ」
「私の歌が、世界をも救えるって信じて!」


メロディさんに、不安や迷いは見られなかった。
メロディさんはただ信じている。
自分の歌でも、人を救えるんだと…



「じゃあ、俺は家族を探しにタワーへ行きます」

メロディ
「うん、たっぷり楽しんで♪ 祭りは後少しで終わりだから…」


そうか、このバトルフロンティアも、もうすぐ閉幕するのか…
だったら、最後まで楽しみますかね…
どうせなんだし、家族も一緒に楽しめたら…それで良い。
俺とメロディさんは、それぞれ背を向けて別の方に歩いて行った。
互いに、誰かを救いたいと思える仲間。
この想いは、誰にも否定する事は出来ない。
だから、俺たちは自分を信じて戦うしかない。
大切な物を信じて、ただ…己を信じて……



………………………



気が付けばそこは戦場だった。
現在、私はバトルフィールドに立っており、目の前には3人のポケモンが相対している。
しかし、相手3人の内ふたりは特殊な壁で隔離されており、こちらへ向かって来る事は出来なかった。
つまり、あくまで私の相手はひとりだけ…でも、このバトルのルールはただの一対一ではない。


実況
『さぁ、ここバトルタワーでは間もなく試合開始となります!』
『今回、マスターランク、ローテーションバトル3体戦で果たして勝ち抜けるのか!?』


守連
「………」


私は落ち着いて体を動かす。
こんな事になったのは成り行きだけど、とりあえず闘わなきゃならなくなった。
相手はよく解らないポケモンが3人だけど、やるからには気を引き締めないと…



………………………



それはたまたま、バトルタワーである人と出会った時の事。
この混沌に巻き込まれてから数日、今日も私は聖さんたちを探す為に歩いていた。
そんなある日、私はひとりの女性に声をかけられたのだ。



「そこのアンタ、中々強そうだね?」

守連
「……?」


私が振り向くと、そこには女性が立っていた。
その女性はピッチリと肌を覆う、長袖の赤いスウェットスーツを上半身に纏い、緑の長ズボンを穿いている長髪の女性。
頭には草タイプを表すかの様な花の蕾が付いており、睫毛が長く目付きは結構悪い。
私はとりあえず?を浮かべながらも、女性の言葉を待つ事にした。


草タイプの女性
「アンタ、ちょっと付き合わないかい? ひとりじゃここには挑戦出来ないからさ…」

守連
「挑戦? 何の事ですか…?」


私はまだこの世界の事を理解出来ておらず、ただ?を浮かべるだけだった。
すると、女性はざっくりとした解説で軽く説明をし、彼女がとりあえずバトルに参加したいだけなのだというのは理解する。
だけど、私はバトルにはあまり興味は無い。
それよりも、家族の皆を探したいんだけど…



「おっ、遂に守連ちゃん発け〜ん!」


突然、横から割り込む様に気楽な声が。
そこには、半袖青シャツ青ズボンの水恋さんが立っていた。
そして、その後ろには茶色の服と黒スカートの舞桜さんも…


舞桜
「良かった…守連ちゃんもいるって事は、聖さんたちもやっぱりいるんだよね?」

水恋
「多分そうでしょ? 夏休みのはずだし、家族で一緒に過ごしてるはずだから」


私はとりあえず少し安堵する。
少なくとも、この混沌には私以外の家族もちゃんといるのがようやく確認出来た。
後何人いるのかは解らないけど、まずはそれも確かめないと…


草タイプの女性
「…何だ、連れかい?」

守連
「あ、はい…家族の、ポケモンなんです♪」


私は笑顔でそう答える。
すると、草タイプの女性はため息を吐き、少し顔を背けた。
少し面倒になった…って風かな?


水恋
「あれ? そっちの人って、1号店に住んでるって噂のアマージョさんじゃない?」

舞桜
「あ、そう言えば風路さんから聞いてたわね…茫栗さん、でしたっけ?」


ふたりがそう言って少し驚くと、茫栗さんと呼ばれたアマージョの女性は少しだけ言葉を詰まらせていた。
そして何かを察した様にもう一度ため息を吐き、今度は頭を抱えてこう呟く。


茫栗
「…風路の知り合いか、って事は浮狼の関係者かい?」

守連
「風路さんや浮狼さんを知っているんですか?」


私がそう聞くと、茫栗さんは何も答えなかった。
ただ、面倒そうな顔で私たちを見渡し、少し考える様な仕草を見せる。
やがて、意を決した様に口を開き、私たちにこう言葉を投げかけた。


茫栗
「まぁ、良いさ…それならかえって好都合だ」
「アンタ等、少し付き合いな…腕には自信あるんだろう?」



………………………



こうして、半ば流される様に私たちはこのバトルタワーに挑戦する事になった。
私としては乗り気じゃないけど、最近運動不足だったからある意味丁度良いと割り切る事に。
それに、こういった混沌がある以上、時には闘う事も必要になるのは確かだ。
私は誰かを守る為なら、いつだって前に出て闘うのだから…
とはいえ、今まで勉強にかまけて体を鍛えるのを疎かにしてたのは事実。
そういう意味でも、まずは勘を取り戻すつもりでやろう。


審判
「それでは、試合開始!!」


その合図と同時に大歓声。
私はゆっくりと顔を相手に向け、横目で相手を見る。
相手は完全にこちらを舐めているかの様な顔で、大きな体を動かしてこっちに突進して来た。
見た感じノーマルタイプの様で、頭には牛の様な角が生えている。
スピードは思ったよりも速い、典型的なパワータイプだね…
私はスローモーションの様な相手の動きを見て、とりあえず爪先をコツン…と地面に1回着ける。
その瞬間、私は相手の背後に紫電を纏って移動し、軽く相手の後頭部に掌を添えた。
そしてバチンッ!!と感電する音が鳴り響き、男は前のめりに倒れる。
動く事はなく、完全に気絶していた。
危ない…一瞬やり過ぎるかと思った。(゚Д゚;)
私の電力はちょっとでも調整を間違えると、軽く人を殺しかねない。
可能な限り、電撃を使わずに戦った方が良いかもしれない…


審判
「…あ? ケ、ケンタロス戦闘不能!!」


ワァァァァァァァァッ!!と大歓声。
とりあえず相手のケンタロスさんはさっさと担架で運ばれ、次の相手がフィールドにテレポートする。
このローテーションというルールは、3人のポケモンがひとつのフィールドで常に一対一の条件で闘うという特殊なルール。
主にトレーナーの指示で任意に交代は行われ、その際はテレポートの技術を利用して瞬時にメンバーの交代が行われる。
通常のシングルバトルに似ている形だけど、交代際の攻防がスピーディーになるのが大きな違いだ。
攻めている側は、突然相手が切り替わる場合もあるし、タイプの不利を突かれたら一気に攻勢は逆転してしまう。
とりあえず、油断だけはしない様にしないと…


茫栗
「よし、とりあえず代わりな! 次はアタシがやるよ!!」

舞桜
「えっと、それじゃ守連ちゃんはローテーション!」


なお、今回のトレーナー役は舞桜さんが引き受けてくれた。
タイプの被りを避ける為だそうで、とりあえずの処置だ。
舞桜さんは偽装薬を飲んで今は人間に成り済ましている。
受け付けでも問題は無かったし、偽装は完璧だという事だろう。
私はテレポートし、今度は茫栗さんがいた待機場所で壁の中に移る。
ここは半透明のバリアみたいな壁に仕切られている安全地帯で、外から攻撃を食らう心配はない。
ただし、ここで技を使ったりするのは反則となるので注意だ。
つまり、毒や火傷になったりするとかなり大変になる。
状態異常に対してはかなり注意しないと…


実況
『さぁ、早くもひとり失った青コーナー側は、すぐにヤルキモノにローテーション!』
『対して赤コーナー側はアマージョの茫栗にローテーションだ!』


ヤルキモノ
「っしゃああああぁぁぁぁっ!!」

茫栗
「やれやれ…喧しいねぇ〜」


茫栗さんは耳を人差し指で塞ぎつつ、鬱陶しそうに一瞬身を屈める。
そして相手の突進にタイミングを合わせて『飛び膝蹴り』を放った。
完全にカウンターで食らった相手は顎を跳ね上げられ、空中で派手に回転して地面に落ちる。
それを見て審判は即座に両手を頭上で交差させ、ダウン宣告。
またもや大歓声が起こり、早くも相手はひとりになってしまった。
凄い…今の技は相当な威力だった。
あまり本気じゃ無さそうだったけど、それでもあれか…
茫栗さんの体は、肌は隠しているものの、かなり筋肉質な感じがする。
踏み込む時の姿勢や、飛び上がる時のバネ…一朝一夕の訓練で出来る動きじゃないと思えた。


茫栗
「ちっ…これじゃあ訓練にもなりゃしない、残りも期待出来ないねぇ〜」

水恋
「そんじゃ交た〜い! 次アタシがやりたい!!」

舞桜
「それじゃ、次は水恋ちゃんにローテーション!」


満を持して次は水恋さんが出る。
水恋さんは軽くストレッチをし、笑顔でやる気満々の様だった。
元々水恋さんは運動が得意みたいだし、こういったバトルも楽しんでやるタイプなんだろうな。
相手は最後のひとりで、見た感じこれまたノーマルタイプの見た目。
やや肥満気味で腰には腹巻きを巻いており、少しオジさん臭かった。
頭には愛呂恵さんのみたいな兎耳があり、それを見て私はホルードだと理解出来る。
あの種族はたまに物凄い力を出す時があるから、気を付けないといけないけど…


水恋
「よっし! そんじゃ行きますか〜!?」


水恋さんは軽くステップを踏むと、水を体に纏って舞い上がる。
得意の『アクアジェット』の様で、とりあえず様子見って感じだね。
でも相手は動じずにその場で受け止める気の様だ。
ホルードは確か地面タイプのはず…弱点の水が来てるのに落ち着いてる?
私は少し嫌な予感を覚えるも、水恋さんは高速機動で素早く突っ込む。
とはいえ、真っ正面からではいくらなんでもストレートすぎる。
流石に無策で踏み込むのは危険なんじゃ…?


ホルード
「ふんっ!!」


予想通り、ホルードさんは両手を前にかざして踏ん張った。
水恋さんはそのまま軌道をやや上にズラし、ホルードさんの手を避ける様に斜め上にかっ飛ぶ。
そして、ホルードさんの頭上で技を解き、すぐにホルードさんの後頭部を踏み抜いた。
ホルードさんは反応が出来ず、前のめりに倒れそうになるも、すぐに踏ん張り直す。
だけど、その僅かな隙に水恋さんは右手をホルードさんの背中にかざし、そこから強烈な水の柱を叩き付けた。
あれは『ハイドロポンプ』だね…流石に華澄ちゃんのと比べると威力は劣るけど、それでも相手を倒すには十分だ。
そもそも、フローゼルは本来攻撃が高い種族。
特殊技は水恋さんの得意とする所じゃないからね…


実況
『あっさりと3人撃破! これはかなりの実力を感じさせる3人だ!!』
『しかし、バトルタワーはまだまだ始まったばかり!』
『果たして今回の挑戦者はどこまで上がれるのか!?』


私たちはエレベーターの方に案内され、そこから次の階層に向かう。
このタワーはおよそ100階建てという代物で、最大そこまでは闘えるらしい。
とはいえ、そこまで上れるのはそうそういない様で、今回もまだ到達者はいないそうだ。
一旦の区切りとなる50階まで行ければ、そこにはフロンティアブレーンが待っており、そこを越えればフロンティアシンボルが手に入る…らしい。
とりあえず、茫栗さんがどこまでやるか解らないけど、私も油断だけはしない様にしないと…



………………………




「…あれ?」

毬子
「あ、聖さん?」


俺がバトルタワーに辿り着くと、 まず毬子ちゃんを発見する。
毬子ちゃんはどうすれば良いか迷っていた様で、俺の姿を見てとりあえず安心した様だ。
彼女にとって混沌は馴染みが薄いだろうし、不安が大きいのは仕方ないだろう。
とはいえ、何日か経っているけどひとりだったのか?
とか思ってると、すぐに不意打ちで近付いて来る影が…


夏翔麗愛
「ボス〜♪」


俺の姿を見て、夏翔麗愛ちゃんが胸に飛び込んで来た。
やれやれ、はからずともこれで更にふたりか…結局家族全員が巻き込まれてるみたいだな。
毬子ちゃんは夏翔麗愛ちゃんたちと一緒にいたみたいだ。


喜久乃
「聖さん、ようやく出会えましたね…」


更に喜久乃が現れる。
どうやらこの3人で固まっていた様だ。
下手に動かずに、俺が来るを待っていたのかもしれない。
とはいえ、夏翔麗愛ちゃんの性格だと大人しくしているとは思えないんだが…



「ちなみに他のメンバーは?」

夏翔麗愛
「見てないのですよ〜でも、守連お姉ちゃんと舞桜お姉ちゃん、水恋お姉ちゃんの反応はあっちにあるのです」


そう言って夏翔麗愛ちゃんはタワーを指差す。
む…って事は、今挑戦中なのか。
誰かトレーナーと一緒にいるのかね?
となると、後残ってるとしたら姉さんだけだが…



「風路姉さんの反応は?」

夏翔麗愛
「中にはいないみたいなのです…でも近くに反応はあるのですよ♪」


そうか、それなら安心だな。
しかし、ここに来てようやくサーチ特化の夏翔麗愛ちゃんに出会えるとは…
色んな意味で早く出会いたかった物だ。


喜久乃
「とりあえず、今は待ちましょう…流石にこの施設は長丁場みたいですし、すぐには出て来ないと思いますよ?」
「夏翔麗愛なんか、3日は籠ってましたし…」


「やっぱ挑戦してたのな!! ひとりでやってたのか?」

夏翔麗愛
「ふふん! ちゃんと100連勝してみせたのです!! ジュニア部門で!!」


ジュニア部門かよ!! 確かに小学生以下は参加可能だったな…
まぁ、予想通りの展開だった様で、とりあえず俺は安心する。
そして、とりあえず近くのベンチに腰をかけた。
気温は夏の様に暑く、俺は汗をかきながらもその場で休む。
すると、気を利かせてくれたのか、毬子ちゃんが持っていたタオルを俺に渡してくれた。



「ありがとう、借りるよ」

毬子
「はい! お役に立てて良かったです♪」


毬子ちゃんは笑顔でそう言う。
毬子ちゃんの服は一般的な夏服で、半袖シャツとミニスカート。
薄紫の髪色をしたショートヘアーが動きに対して靡き、髪質は良さそうなのだと何となく思う。
毬子ちゃんはエイパムらしく耳がやや大きい。
そして頭頂部の毛は少しだけ上に立っており、これもエイパムの特徴と言えるだろう。
しかし、やはりエイパムといえばその尻尾。
毬子ちゃんの尻尾も長く伸びており、先端は手の様に使う事が出来る。
その器用さはエイパムの特権で、あの尻尾だけでも自重を支えたり出来る程に力はあるのだ。


夏翔麗愛
「むぅ〜さりげなくアッピールしてるのです! メイド恐るべし!」

喜久乃
「別に良いじゃないですか…家族なんですから」


何やら頬を膨らませてる夏翔麗愛ちゃん。
喜久乃は特に気にした風もなく、グビッと水筒からお湯を飲んでいた。
普段は『熱湯』の技で体型維持してるみたいだけど、PP問題があるからやっぱ水筒は欠かせないんだな…
とはいえ気温が暑い分発汗量は増えるだろうし、喜久乃にとっては夏場が1番しんどいのかもしれない。
基本的には湿地とかに住んでるポケモンだからな…マッギョは。



「そういえば、毬子ちゃんは進化とかまだしないの?」

毬子
「進化ですか? う〜ん、でも私はやり方解りませんし…」

夏翔麗愛
「『ダブルアタック』という技を覚えていれば、すぐにでも進化出来るはずですよ?」


毬子ちゃんは目をパチクリさせている。
とりあえず、まずは技の理解からさせなきゃダメそうだな…
改めて完全非戦闘員の毬子ちゃんが、いこに技に縁が無いか感じる部分だ。



「とりあえず、毬子ちゃんどこまで技使えるの?」

毬子
「えっと、とりあえず『高速移動』なら出来ますけど…」

夏翔麗愛
「だったら、もう少しレベル上げれば覚えますね…ゲーム的には」


あくまでゲームの話だな。
とはいえ現実的にレベルと言われても数値化は難しい。
経験値だってどうやって加算されているのかも解らないし、そもそも意味があるのか?
それにダブルアタックったって、具体的にはどう使うのか…
ゲーム的には尻尾で2回殴るんだろうか?
進化系のエテボースなら尻尾がふたつあるし、やはり尻尾でやる事に意味はありそうだが。


喜久乃
「とりあえず、手っ取り早くバトルすれば良いんですよ」
「私が相手しますんで、適当に攻撃してください…サンドバッグになるんで」

夏翔麗愛
「では毬子お姉ちゃん! ダブルアタックなのです!!」


「って、すぐに出来るわけないだろ…」


毬子ちゃんは?を浮かべて呆然としている。
これは普段から技を使わない人だってのがよく解るな…
まぁ、メイドの仕事で技使う事もそうそう無かったんだろうし。
俺は言ってて専用のスーパーメイドさんを想像した。
うん、あの人は特殊な訓練受けてるからね! 持ち得る全ての技を駆使してメイドしてるからね!


毬子
「ほ、本気でやるんですか?」

夏翔麗愛
「当たり前なのです! 折角、喜久乃お姉ちゃんがマゾヒズムに目覚めたというのに…」

喜久乃
「とりあえず、やられた分は全部アンタに『痛み分け』しますからね?」


とまぁ、何か知らんがいつの間にか毬子ちゃんの特訓にシフトしていた。
俺たちは完全に頭から守連たちの事を忘れ、毬子ちゃんはダブルアタック習得を目指す事に…



………………………



実況
『さぁ、これで49連勝!! ここまで苦戦すらせずに到達するとはとんでもないトレーナーだぁ!!』
『そして次はいよいよタワータイクーンの登場!!』
『勝てればシンボルゲットだぞ〜!?』


私たちはあれから何時間もかけてここまで来た。
試合毎に治療は受けており、PPも問題は無い。
特に大きなダメージも無く、実に順調な挑戦だった。


茫栗
「やれやれ、ここまで歯応え無しとは思わなかったよ…」

水恋
「いやでも疲れるでしょ? 休憩挟むとはいえ、計150人倒す事になるんですから…」


茫栗さんは特に疲れた風も無く、ため息を吐いていた。
水恋さんも息はあがってないけど、精神的には疲れてるみたいだ。
私は、とりあえずここまでほとんど電気を使わず、格闘術だけで勝ち抜いた。
思ったよりも電気のコントロールは出来てる。
時間が経って蓄電した分も、放電はスムーズだ。
普段からちゃんと訓練してた成果が、こうやって出ているのを私は理解して笑みが溢れた。
最大戦闘レベルの闘いじゃなければ、電気は十分コントロール出来る。
これなら、触れたりするのも…きっと大丈夫。


守連
(長かったな…ここまで)


結局、半年以上もかかったのだ。
ううん、夢の世界も含めたら1年近く。
私は、聖さんに抱き締められる事も避け、ただコントロールの訓練を黙々と続けていた。
白那さんに勉強を教わりながら、放電のコントロール。
それに時間を割いた分、筋肉は衰えちゃったけど…
バトルの勘はすぐに取り戻せた、次で区切りだし少しギアを上げよう。


舞桜
「とりあえず、次で一旦切りましょう…時間も経ってますし、聖さんたちが待っているかも」

茫栗
「そうだね、これ以上やっても仕方ない…次でラストだ」

水恋
「よ〜っし! 最後なら思いっきりやる!!」


とりあえず、私も少し気合いを入れる。
一応、この施設のボスみたいだし、今までとは違うレベルの相手が来る可能性は高い。
とにかく、油断はしない様にだね…



………………………



実況
『さぁ、遂にタワータイクーンの登場です!』
『マスターランク、ローテーション3体戦! いよいよ50戦目が始まります!!』


私たちはフィールドに立ち、まずは先発を決める。
とりあえず様子見も兼ねて、弱点の少ない私がやる事になった。
相手は見た事もない風貌のポケモンが3人。
やや中性的な見た目のトレーナーが後ろにおり、それぞれに何か言葉を放っている。
流石に雰囲気があるね…やっぱり一筋縄ではいかないかも。


タイクーン
「よし、まずは君からだ『フレフワン』!!」


前に出たのは、紫のドレスに身を包む小さな女性。
身長は私よりも低いが、幼さは感じない。
種族の特徴みたいな物なのだろう…とりあえず、素早さはどうなんだろうか?
今まで相対した事のない種族だし、まずはスピードで撹乱をしてみようかな?
審判の合図と共に、私は即座に移動する。
5mは離れていた相手の背後に、私は一瞬で回り込んでスピード差を見せ付ける。
相手は特に驚いた表情もせず、冷静に何か力を溜めていた。
この感じ…エスパー系の能力!?
私は危険を感じ、すぐに拳を握る。
右手には軽めの電撃を纏わせ、私は『雷パンチ』の体勢に入った。
狙うのは後頭部! 一撃で意識を切れば……


タイクーン
「『トリトドン』!!」


それはまさに一瞬の事だった。
私が攻撃しようとしたその瞬間、相手は地面タイプらしき相手に切り替わり、私の雷パンチは正面から受け止められてしまった。
相手の体は軟体の様な柔らかさで衝撃を完全に吸収する。
そして電気は拡散し、相手は何ともない。
間違いなく地面タイプ! 緑色の水着を着たナイスバディのお姉さんは、笑って長い髪を靡かせていた。
私はすぐに、その場から距離を離し移動する。
だけど相手は位置を確認する事無く『地震』を放った。
フィールド全体を揺らす衝撃で、かわすのは無理。
だけど、私はそれを読んでおり、対策は既に取っていた。


実況
『な、何とピカチュウが壁に張り付いているぅ!?』


そう、私は『電磁浮遊』の応用で壁に張り付いたのだ。
正確には壁の中にある鉄筋に磁力で引っ付いている。
本来電磁浮遊は、磁力を反発させて体を浮かせる技なんだけど、これはその逆の使い方。
反発するはずの磁力を逆にして鉄に吸着しているのだ。
とはいえ、この使い方はかなり電力を消費する。
自分の体重を無理矢理引っ付けるには、常に電気を発生させなきゃならないから、そう長くは使えない。
とりあえず私は地震の回避を確認して、すぐに地上に降り立つ。
相手は面を食らっていたのが幸いし、行動が遅れていた。


舞桜
「地面タイプは不利…だったらここは茫栗さんを!」


舞桜さんはローテーションさせ、茫栗さんが代わりに出る。
私はここで少し息を整えた。
思ったよりも相手の判断は速い…素人の舞桜さんじゃ、下手なローテーションは裏目に出るかも…


茫栗
「はっ! 少しは楽しくなってきたねぇ?」


茫栗さんは嬉しそうに笑い、トリトドンさんに突っ込む。
接近戦主体の茫栗さんは決して遅くない足ですぐに間を詰めた。
しかし、タイミングを完全に計られたのか、茫栗さんの目の前にはすぐに赤いセミロングの女性が立ち塞がる。
このローテーションのタイミングはやはり難敵だ、流石の茫栗さんも顔をしかめていた。
そして、熱気に包まれる暑さのフィールドだというのに、まるで探検家の様な服を着ているその女性は、涼しげに佇んでいた。


茫栗
「ちっ! とにかく食らいな!!」

赤い女性
「!! 『トロピカルキック』か…!」


赤い女性は茫栗さんの蹴りを太い腕でガードし、苦い顔をする。
あの技は当てる度に相手の攻撃を下げる技だ。
効果は今ひとつだとしても、後々に響いてくる。


茫栗
「見た事ない種族だけど、炎っぽいねぇ…」

赤い女性
「アマージョか…力はあるけれど、特殊面はどうかしら?」


赤い髪の女性は太い腕を前に翳し、炎を巻き起こす。
よく見たら、彼女の指先は何だか鋼の様な爪が付いていた。
そしてそこから、阿須那ちゃんの火力に匹敵する程の炎が噴射される。
私は目を疑うも、その火力は本物。
茫栗さんは身を翻し、何とか回避するも、腕を焼かれた様で火傷していた。


茫栗
「ちっ! 今の火力…タダ者じゃないねぇ」


茫栗さんは舌打ちするも、焼かれた右腕を左腕で押さえる。
あれじゃ腕はもう使えない…流石に炎タイプはマズイ!


舞桜
「す、水恋ちゃん!!」

水恋
「おおさ! 炎ならアタシの出番!!」

タイクーン
「フレフワン!」


何とこちらのローテーションに合わせて即座に切り替えて来る。
やっぱり生半可な判断じゃ無理だ! このままだと掻き回される!
ここはどこかで無理矢理にでも数を減らさないと…!


水恋
「くっそ〜! とりあえずタイプ解んないけどエスパー辺りと予想!!」


水恋さんはそう言って踏み込み、フレフワンさんの肩に噛み付いた。
いや、あれは『噛み砕く』だ、 相手がエスパーなら抜群のはず!
だけど、相手はほとんど怯まず、耐えながら何やら妙な技を使用した。
すると、いきなりフレフワンさんは高速で動き始める。
今まで鈍重だった感じの印象から、うって変わっての高速機動に私たちは驚く。
水恋さんは何が何だか解っていない様で、いきなり『アクアジェット』を発動させて突撃する。
すると、それはしっかり相手に当たり、フレフワンさんは腹に体当たりされてかなり悶絶していた。
水恋さんはそのまま強引に突っ込む。
連続のアクアジェットでゴリ押すつもりなのか、とにかく突っ込んだ。
だけど今度は相手も黙っていない、水恋さんの目の前にはトリトドンさん。
そしてアクアジェットは完全にトリトドンさんの体に受け止められ、水恋さんは絶体絶命の窮地に陥った。


舞桜
「『トリックルーム』の効果が大きすぎる! 相手は初めから素早さを逆転させる為の編成を組んでいたんだ!」


言われて私も理解する。
これはトリックルーム…効果は素早さの逆転。
こうなると、素早さがウリの私たちは不利でしかない。
ただでさえ防御や体力が低いのに、相手は豊富な体力を生かして速度を上げてゴリ押しして来るのだから。


タイクーン
「よし、『地震』だ!」


指示を受けてトリトドンは素早く地震を起こす。
水恋さんはモロにそれを受け、血を吐いて膝を着いた。
このままじゃやられる! すぐに交代しないと…!


舞桜
「ば、茫栗さん!!」

タイクーン
「『火煉』(かれん)!!」


ほぼ同時に両者が切り替わる。
そして相対するのはタイプ不利。
完全に読まれている…これじゃ常に不利な相対を強いられてしまう!
だけど、茫栗さんは笑っていた。
そして、すぐに『守る』を発動させる。
火煉と呼ばれた女性は瞬時に『火炎放射』を放っており、見事茫栗さんは読んでみせたのだ。


火煉
「!? だけど、連続して防げはしないわよ!!」

茫栗
「ああ、アタシひとりならねぇ!!」


火煉さんは連続で火炎放射を放つ。
しかし、ここで舞桜さんは水恋さんにローテーション。
ダメージの大きい水恋さんは身を呈して炎を食らうも、口から放った水で相殺して何とか生き残る。
そして、すぐに『アクアジェット』で火煉さんの顔面に頭から突っ込んだ。
激しい衝突音と共に、両者は吹き飛ぶ。
水恋さんはそれ以上動けないのか、床に落ちてからは立てなかった。
火煉さんは頭をフラつかせるも、まだ倒れない。
だけどダメージはある…あれは効いてる!
審判は水恋ちゃんにダウン宣告し、会場は大歓声。
そして自動的にローテーションし、今度は私が火煉さんに相対した。
そのまま、トリックルームの効果は切れる。
これで、普段通り闘える!


火煉
「ピカチュウか…電気玉も持たずによくやるわね」


私は睨み付けられるも、怯まない。
そう、今回は道具禁止との事で、私は電気玉を受付に預けているのだ。
つまり、今の私はただのピカチュウ…規格外の電力はとても出せない。
もっとも、それを差し引いても私は負ける気はしなかった。


守連
「炎タイプなのは解るけど、別のタイプもある?」

火煉
「そうよ、私は『ヒードラン』だからね! 鋼タイプでもあるわ!」


成る程、そうだったのか。
確かに言われてみれば、彼女の髪は銀に近い色の白髪。
そしてその髪はやや固そうな髪質をしており、鋼の要素が混じっているのだと予想出来た。
よく見ると額付近の髪は硬質化している様で、真横に角みたいな感じで2本延びている。
手首や足首は赤みが見えており、所々斑点みたいに白い部分が混ざっていた。


守連
「…鋼タイプ、か」

火煉
「容赦はしないわよ!? 全力で相手をしてあげる!!」


火煉さんは両手を真上に翳し、凄まじい炎風を集中させる。
その出力は阿須那ちゃんの炎を凌駕する威力を予想出来た。
そしてそれは、凄まじい効果範囲をも予測出来る。
私は深く息を吸い込み、 拳を握って集中力を高める。
そして、息を止めると同時に全力で踏み込んだ。
ちなみに、高速移動は2回使ってる…トリックルームが無いなら、相手にとっては目に見える速度じゃないはず。


火煉
「!?」

守連
「ふっ!!」


火煉さんが炎を前に放つと同時、私は思いっきり体勢を低くして火煉さんの懐に入っていた。
そして十分に集中力を高めた『気合パンチ』を、私は全力で振るう。
背後で凄まじい爆風が巻き起こるも、私のアッパーは火煉さんの硬い顎を真っ直ぐに打ち抜いた…


タイクーン
「火煉!?」


火煉さんは数mは高く舞い上がり、やがて無造作に床へと落ちる。
やや金属が落ちる様な音も鳴り、火煉さんはそこからピクリとも動かなかった。
し、死んでないよね!? 思わず本気でやっちゃったけど…


審判
「か、火煉、戦闘不能!!」


ワァァァァァッ!!と大歓声。
とりあえず火煉さんは生きている様で、担架で運ばれていった。
私はホッと胸を撫で下ろし、とりあえず安心する。
そして、今度はトリトドンさんにローテーション。
まだ闘いは終わってない、か…


タイクーン
「くっ、トリトドン『地震』!!」


流石に少し遅い。
トリトドンさんは大きなモーションで技を放つも、舞桜さんはここで茫栗さんにローテーション。
茫栗さんはあらかじめ空中に飛んでいたのか、宙に浮いて出現。
そして地震は誰もいない床を揺らしただけ、そのまま悠々と着地し、茫栗さんは素早く踏み込んで軽く回し蹴りを見舞った。
その一撃でトリトドンさんは簡単にダウン。
4倍弱点のタイプだから仕方ないね…


タイクーン
「…ここまでか、降参だ! 君たちの勝ちだよ、おめでとう!!」


最後はタイクーンが降参して試合終了。
これにて、私たちは見事シンボルゲットとなった。
大歓声に包まれ、舞桜さんはタイクーンからシンボルを受け取る。
とりあえず、あれは聖さんへのプレゼントだね♪
喜んでくれるなら、私も頑張った甲斐があるよ…

私は聖さんの笑顔を思い浮かべてニコニコ笑う。
そうだ、早く会いたいな…
お腹も空いたし、久し振りに動いたからそろそろ限界だよ…
私はそんな風に気が抜けると、すぐにお腹が鳴るのが解った。
今なら、5人前は食べられる気がする!
私は勝利の余韻も既に忘れ、家族で楽しく食事をする光景をただ想像していた…



………………………




「ダブル◯マホーク!! ブゥメラン!!」

夏翔麗愛
「教えてやるのです! エイパムの恐ろしさを!!」

喜久乃
「はいはい、良いからさっさとやる…」

毬子
「え? えぇ!?」


開幕のネタに毬子ちゃんはタジタジするばかりだった。
そうか、慣れてないのだな…今までロクに出番与えられてなかったからな。
とりあえず色々ツッコミ所はあるが、俺たちは毬子ちゃんの特訓に心血を注いでいた。
毬子ちゃんは尻尾をブンブン振り回すも、特に進化する様子は無い。
まぁ、いきなり知らない技やれと言われても出来るわけ無いわな…



「せめて経験者がいれば良かったんだかな…」

夏翔麗愛
「そうでなくても、連続攻撃的な何かをやらせれば良いのでは?」

喜久乃
「やっぱり、てっとり早くバトルですよ! ポケモンのレベル上げなら基本!」


やれやれ、あまり物騒な方法取るのもな…
毬子ちゃんの性格でバトルとか無理だろうし、そもそも無理に進化させる事も無いんだけど。
っていうか、守連たちはまだ上ってるのか?


守連
「あれ、聖さんだ〜♪」

舞桜
「聖さん! それに夏翔麗愛ちゃんたちも!」

水恋
「おお〜! 一気に合流出来たじゃん♪」

茫栗
「…やれやれ、騒がしくなって来たね」


何て考えていたら、守連たちが施設から出て来ていた。
それなりに激闘だったのか、舞桜ちゃん以外は少し疲れてる感じだな。
まぁ、守連がそれ程ダメージ受けてないみたいだし、軽く突破して来たみたいだが。



「とりあえず、これで姉さん除けば全員集合か…」

守連
「あれ? 風路さんはいないの…?」

喜久乃
「どこかにはいるみたいですよ? 夏翔麗愛が探知してたので」


それを聞いて守連は安心した顔をする。
何だで不安はあったんだろうな…コイツは家族思いな奴だから。
しかし本当に大がかりな混沌だな…ここまでの人数を巻き込むとは。
しかも、ここには明確な悪意がある。
楽しげな祭りの中に、ひっそりと広がっている悪意。
祭りももうすぐ終わろうという中、いよいよクライマックスは近付いているのかもしれない…



………………………



アーチェ
「ご馳走さま…とっても美味しかったわ」

阿須那
「そら、お粗末さまです…こんなん簡単に作れるモンやけどな」

女胤
「その簡単な物を一切出来ない私はどうすれば良いと…?」


おっと、確かに女胤は理由不明の料理下手やったな。
ホンマに意味は解らんが、何回教えてやらせても絶対に不味くなる化学兵器。
もはや呪いとしか思えんコイツの料理はウチでも理解不能や…
あの愛呂恵が匙投げよったからな…女胤には無理やと。
理由は解らんが、絶対に不味くなる。
本人の味覚は大丈夫なのに、レシピ通りやっても失敗する。
いや、もしかしたら勘違いしてるんか?
女胤の料理は仕様通り成功していて、実はちゃんと完成してあの味になっていたのでは?
って、そんなどこぞのストロングスタイルなクソゲーとは違うやろ!
女胤は自分で不味いと評しとるんやから…


アーチェ
「まぁ、誰にでも苦手はある物よ…私だって、医療以外はズタボロだし」

女胤
「そ、それはそれで悲惨ですわね…」

阿須那
「まぁええやん、その分秀でとるトコあるんやし」
「ウチかて出来ん事はあるし、そんなんは皆でカバーしたらええんや」
「守連とか三海見てみぃ? 自分に出来る事優先でやって、後は努力しとる」

女胤
「…そう、ですね」


女胤は少し暗い顔をした。
まだ守連は見付かってへんけど、やっぱ心配やわな。
聖が運良く見付けてたらええんやけど…


アーチェ
「…後、20時間か」

阿須那
「…? 何がです?」


ウチは食事の後を片付けながらそう聞く。
するとアーチェはんは腕時計を見ながら暗い顔でこう呟いた。


アーチェ
「祭りの終わりよ…閉会式の予定」

女胤
「あ、そうなのですね…ですが、それだとこの世界はどうなるのですか?」

阿須那
「プロレスの時と同じちゃうか? 終わったら元に戻るんちゃうん?」


女胤は言われて納得する。
まぁ同じとは限らへんけど、今回のはよう似とるからな。
せやけど、アーチェはんの顔は暗い。
まるで、その先に見たくない物でもあるのか?とでもいう様な、そんな顔に見えた…


アーチェ
「華澄ちゃんが回復するのは10時間程か、三海ちゃんはもうすぐ目覚めるわね」

阿須那
「…アーチェはん、何かあるんでっか? この、世界に…?」


ウチは気になって聞いてみる事にした。
アーチェはんは何か知ってる…それは、華澄らが何であんな同士討ちしたかの意味でもある気がした。
そう、そもそもの疑問なんや…何で華澄と三海がぶつかったか。
ふたりとも、訳も無く喧嘩する様なタイプやない。
必ず、そうなる要因があったはずや…


アーチェ
「…そうね、ここに貴女がいるのは運命なのかもしれないわ」
「よく聞きなさい、阿須那ちゃん…この世界はね、ある『悪意』が潜んでいるわ」

阿須那
「!?」

女胤
「悪意…?」



………………………



守連
「悪意…?」


「ああ、メロディって人が協力してくれてるんだが、もしかしたら俺の力も必要になると言っていた」

喜久乃
「夢見の雫ですか…その人は信頼出来るんですか?」


俺はああと言い、メロディさんと恵里香が知り合いだと話す。
とりあえず喜久乃も納得はした様で、舞桜さんと水恋さんはうーん、と頭を捻らせていた。
そんな中、夏翔麗愛ちゃんは真面目な顔でこう言う。


夏翔麗愛
「…感じる、確かに微量だけど」
「悪意…? ううん、違う……これは、欲望?」

守連
「か、夏翔麗愛ちゃん?」


「何か感じ取ったんだな…夏翔麗愛ちゃんは人の感情を見る事が出来る」
「そこに悪意が潜むなら、夏翔麗愛ちゃんは原因が突き止められるのかも…」


夏翔麗愛ちゃんは西側の方角を見据えてしばらく黙る。
数秒ほど夏翔麗愛ちゃんはそのまま固まり、やがて肩を落として脱力した。


夏翔麗愛
「う〜ん、細かい事は解らないのですが、かなり危険な感情を広げてる何かがいますね」
「それも、巧妙に隠してる感じです…何かグチャグチャに感情を混ぜた様なのが、ひっそりと動いているって、そんな感じです」


「混ざってる…か、確か三海もそんな事言ってたな」

舞桜
「ゴースト的な能力でしょうか?」

夏翔麗愛
「解らないですね…私の能力でも把握しきれないって事は、多分それだけ歌の影響が大きいんだと思うのです」

茫栗
「歌…? そんな物聞こえな…」


いや、聞こえる。
だが、それはあくまでスピーカーを通して聞こえる『音楽』だ。
直接声が聞こえてるわけじゃない。
だけど、今も確かに歌は歌われている…メロディさんの、歌声が。


夏翔麗愛
「この歌、電気信号とか通信媒体とかでは流されてないですね…」
「多分、メロエッタの能力でかなり特殊なエネルギーが歌に乗せられているみたいです」
「そんなエネルギーが、この世界全体に広げられている…特に、西側の一角により強く、です」


西側…阿須那たちが華澄たちを迎えに行った場所か。
って事は、やはりそこに元凶がいる?
しかし、混ざってるって…一体どういう事なんだ?



………………………



メロディ
(段々、力が増して来る…! 私の歌が、押されてる…!)


私はそれでも歌い続けていた。
私の歌には特殊な力があり、聞いた者の感情をコントロールする事が出来るのだ。
勿論、私はそれを悪用する事は絶対にしない。
私の歌は、皆の心を揺さぶり、力を与える歌。
この世界を侵食していく、この悪意の塊を必ず消してみせる!!


『タタカエ! アラソエ! ウバエ!』


凄まじい感情の渦が私の体に突き刺さって来る。
ちょっとでも気を抜けば、私の心をも押し流すだろう。
私は真っ正面から歌を歌い続け、そしてその場から1歩も退かなかった。
バトルフロンティアの最西端、悪意の塊がじわじわと広がるゲートの入り口。
その先には、きっと今でも嘲笑っているクソ女がふんぞり返っているのだろう。
私はそれを思って怒りを歌に込める。
私の歌は更に力強さを増し、悪意の塊とせめぎ合いを繰り広げる。
これは、私の戦い! 私の歌で、必ず勝ってみせる!!
あんなクソ女の計画なんか、私が吹き飛ばしてやる!!


『タタカエ! タタカエ! ウバエ! テニイレロ!!』


メロディ
「そんな、『欲望』に! 負けるかぁぁぁぁぁ!!」



………………………




「よし、俺は西側に行って阿須那たちと合流する」

守連
「それなら私も行くよ!」

夏翔麗愛
「それなら、こっちはお母さんと一旦合流するのです」

茫栗
「…なら、アタシは風路を探す」
「別に世界がどうなろうが知ったこっちゃないけど、アイツには借りがあるからねぇ」

舞桜
「だったら、私たちはどうする?」

水恋
「皆で固まった方が良いんじゃない? 下手に離れたら面倒だし」

喜久乃
「それなら、夏翔麗愛と一緒に行きましょう」

毬子
「うん、白那様たちと合流だね!」


とりあえず、3手に別れる方向に決まったみたいだ。
俺と守連は阿須那たちと合流。
夏翔麗愛ちゃん、舞桜さん、水恋さん、喜久乃、毬子ちゃんは白那さんたちに合流。
茫栗さんは、姉さんの捜索…だな。



「茫栗さん、姉さんの事お願いします!」

茫栗
「はっ、さてね…期待なんかするんじゃないよ、アタシみたいな悪党に」


悪党、ね…確かに、以前のあの人はそうだったんだろう。
だけど、今のあの人からはそんな悪どい感じはしない。
前に浮狼さんと再戦したって話だし、かつての暴君っぷりはもう無い様に感じた。
わざわざ姉さんを探しに行ってくれるんだから、何だで良い方向に向かってるんだと俺は思う。


夏翔麗愛
「それじゃ、私たちも行くのです!」

喜久乃
「そうですね、毬子さんの特訓は後回しでしょう」

毬子
「うぅ…とりあえず助かったよ〜」

舞桜
「悪意か…ちょっと怖いね」

水恋
「まぁ、とりあえず皆で考えよ! 後はきっと聖さんが何とかしてくれるよ!」


5人はそんな感じで夏翔麗愛ちゃんに付いて行く。
俺は少し、気になってしまった。
何とか…ね。
俺はメロディさんの言葉を思い出す。


『君は、確かに救世主だよ…でも、それに頼って救われるだけじゃ、人の心は腐ってしまう』


俺の力は、まさにチートその物だ。
俺が正しい心で願えば、雫はいとも容易くその願いを叶えてしまう。
だけど、俺はそれを気軽には使わない。
あくまで使うのは、本当にどうしようもない時か、使わなければならないと思った時。
そして今回は、メロディさんが自分で解決したいと言っていた。
なら、俺はそれを尊重したいと思う。
今、どんな状況になっているのか解らないが、とにかくメロディさんを信じるしかない。
今回俺が力を使うのは、メロディさんがどうしようもなくなった時だけだ。


守連
「…聖さん、大丈夫?」


「あぁ、大丈夫さ…きっとメロディさんが何とかしてくれる」


俺は笑顔でそう言い、守連と一緒に走る。
華澄たちの無事も確認したいし、急がないとな…



………………………



阿須那
「欲望の…成れの果て?」

アーチェ
「そう、それも…何千年以上も蓄積した、かなり根深い悪意よ」

女胤
「そ、そんな物が何故この世界に?」


ウチ等が聞いたのは、あまりにも解りやすい俗な言葉やった。
華澄と三海が争ったのは、その欲望に支配された悪意に呑まれたから。
その力は、おおよそ普通の生物には逆らえる物ではなく、支配された者は欲望のままに全てを奪おうとするのだという。
ウチは内心、冷や汗を垂らす…前に自分がやった事を思い出した。
ウチ等は、聖の為なら軽く命を賭けれる。
せやけど、その愛は裏返せばとてつもない悪意にもなる。
信じているからこそ、裏切られた時の反動も大きい。
聖への愛情が大きい分、その欲望が増幅されれば誰かを殺してでも奪い取ろうとするのかもしれへん。


女胤
「…そんな悪意ごときに、華澄さんが堕ちたと?」

アーチェ
「…そうよ、どんな欲望があったかは知らないけど」

阿須那
「原因は三海やろな…悪意と気付かずに引き寄せられたんや」
「壮年期を迎えたって言っても、三海は感受性がかなり高い…興味本意で近付いて、欲望に支配されてしもたんかもな…」
「ウチ等は、実質全員爆弾抱えとる…聖を愛するあまりに」


ウチは頭を抱えて恐怖を覚える。
ちょっとした思いから、好きな人を殺す事も有りうるんや…
今回の敵は…そんな怨念みたいな敵なんか?


女胤
「阿須那さん…」

アーチェ
「…とにかく、時間はもう少ないわ」
「歌い手がどこまで持つか解らないけど、華澄ちゃんたちを連れてもう行きなさい」
「回復は眠っていればその内済むはずだから…」


そう言ってアーチェはんは立ち上がる。
ウチは拳を握り、心を強く奮い立たせた。
アカン…マイナスに考えるな! 家族を護るんや!!
もう2度と、迷わへん…ウチは戦う!


阿須那
「…行くで女胤!」

女胤
「は、はい! とにかく、聖様に合流ですね!」


ウチ等は『眠る』で回復中の華澄と三海を引き取り、病院を出た。
ウチは三海を背負い、女胤は華澄を背負う。
三海はかなり痩せ細っており、呼吸もあまり良くは無さそうに感じたが、意識は何とか保っている様だ。


アーチェ
「…阿須那ちゃん、これを三海ちゃんに付けてあげて」

阿須那
「これ、鈴?」


ウチが去り際にアーチェはんからもろたんは、紐で繋がれたふたつの鈴やった。
腕とかに付ける様なタイプのアクセサリみたいやけど、何かの意味があるんか?
とりあえず、ウチは三海の左手首にそれを付けてやる。
すると、チリン…と綺麗な音色が鳴り、ウチは心が何故か安らぐ。
何ていうか…凄い、落ち着く。


アーチェ
「お守りよ、三海ちゃんがちゃんと回復するようにって…」

阿須那
「ええ音色ですね…もろてええんでっか?」


アーチェはんは笑顔で頷く。
そして、軽く手を振って見送ってくれた。
アーチェはんは、大丈夫なんやろか?
どうも元凶は西側にあるみたいやのに、アーチェはんは動く気は無いみたいやし。
せやけど、ウチ等も止まれん…とにかく聖と合流して作戦考えな。
欲望、悪意…そんなモンに対抗するんやったら、やっぱ聖の力が必要やろ。



………………………



メロディ
「…はぁ……はぁ……はぁ」


私は、遂に息を切らした。
もう、ここまでの様だ。
情けない…まだ相手は引きずり出せもしないのに!


メロディ
(欲望が、悪意が……流れ込む)


私の体を素通りし、悪意の流れは広がって行く。
止められなかった…! 私の歌は、届かなかった…!!
私は涙を流し、その場で前のめりに倒れる。
もう、抵抗する事も出来ない。
結局、この程度だった…私の歌なんて、こんな欲望の塊すらコントロール出来ない。



「フフフ…無様ね、メロディ」
「アッハハハハハハッ!! やっぱり賭けは私の勝ち!!」
「所詮、人間もポケモンも、欲望には勝てないのよ!!」



………………………



それから、数時間後…各所で異変は起き始めた。
それも唐突に、そして異変はどんどん拡大していく。
今、バトルフロンティア全体に、欲望という悪意が侵食していく…



「ど、どうしたんですか皆さん!? 何をやってるんですかぁ!?」


突然、ファクトリーの周辺で喧嘩が起こった。
それは良い、問題はその規模。
何人もの人間とポケモンが血を飛び散らせて争っているのだ。
あまりに凄惨なその状態に、一部からは悲鳴があがる。
人間もポケモンも関係無く、多数の技が飛び交った。
それを食らった人間は体を吹き飛ばされたり、手足が吹き飛んだり、もはやメチャクチャだ。
私は恐怖に負けそうになるが、自分とて安全ではない。
私に向かって来る多数のポケモンは拳や爪を構え、無慈悲に迫って来る。
私は目を瞑り、覚悟を決めた。
そして瞬時に『電光石火』でその場を駆ける。
この場は異常すぎる、どんどん人が狂っていく!
私は声を張り上げて説得し、せめて無事な精神の人を安全な所に誘導した。



「皆逃げて!! 早く!!」


私は炎を地面に放ち、壁の様に炎を立ち上らせて暴徒の侵入を防ぐ。
だけどお構いなしに体を燃やしながら突っ込んで来た、人間は体を焼けただらせ、ポケモンは火傷しながらも正気じゃない目でこちらに向かって来る。
一体、何が目的なの!? どうしてそこまでして…!!



「皆正気じゃない! どうして、こんな事に…!?」


「世界に欲望が渦巻いている、これはその影響さ」


突然、私の前にひとりの女性が現れる。
美しいパールホワイトの長髪が靡き、その人が片手をバッと振るうと、前方にいた人たちは全て消えてしまった。
い、今のは何!? もしかして超能力!?


白那
「…やれやれ、 まさかこんな事になるなんてね」


「…この辺りで暴走した人たちは大体終わったわね」


「とりあえず、母さんが送った先で眠ってもらってる…が、各所で同時には対処出来ない」
「しかも原因を究明しない限り、同じ事は他にも起こるぞ?」


な、何か小さな女の子が浮遊して周りを見ていた。
い、一体この人たちは?
とりあえず、助けてくれたみたいだけど…


白那
「君、怪我は無い? 心は、大丈夫かい?」


「あ、は…はいっ!」


長い髪の綺麗な女性は優しく微笑み、私の身を案じてくれる。
私は周りを確認して安全なのを確認する。
良かった…とりあえず、収まったみたいで。



「…ちっ、個人差が相当あるみたいだな」
「暴走するにしても、やっぱ荒っぽい奴が優先みたいだ」


「…最悪、私の力で記憶ごと対処するわ」
「…でもそう何度も使えないから、可能な限り力技で何とかした方が良いわね」

白那
「とにかく、皆を信じよう…夏翔麗愛を通じて状況を確認する」
「棗は酷い所に優先的に向かってもらおう」


何だか、テキパキと作戦を立てていく3人。
す、凄いな…私なんかとは全然違う。


白那
「君、出来るだけ動き回らない様に気を付けて」
「そして、心を強く持つんだ…絶体に欲望なんかに負けないって…」


そう言って、3人はいきなりその場から消えてしまう。
テレポートだろうか? エスパータイプみたいな風にも思えたけど…
とにかく、何とか助かった…私は安堵し、大きく息を吐く。
そして、綺麗な女性が言った言葉を思い出し、私は自分の名前を思い出した。



(私は唯…聖さんが名付けてくれた、唯ひとりのブースター)


私はもう弱くない…きっと強くなる。
そして、弱い人をちゃんと守ってあげるんだ!
私は心に強くそう思い、助かった皆の所に向かう。
絶体に、逃げたりなんてしない!



………………………




「た、助けてー!!」

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃっ!!」


バトルアリーナの周辺では、多くのポケモンが暴走していた。
その中で逃げ惑う人やポケモンも大勢おり、それらが小生の横を通り過ぎて行く。
小生は涼しげな顔でその状況を立ち尽くす。
暴走するポケモンたちはそんな小生に向かって来ており、小生は軽く右足を1歩踏み込んだ。
その際、砂嵐が正面に巻き起こり、近くにいたポケモンや人間は吹き飛んでしまう。


未来
「物足りん! ここから先に進みたくば、小生を超えてみせよ!!」


小生は地面から岩の剣を作り、それを右手に握る。
そして気迫を込め、暴走する者共を睨み付けた。
小生が気に相手は怯えたか、踏み込むのを躊躇っている。
むぅ…躊躇いがあるとは、完全に感情を支配されてはいないのか?
いや、中にはジリジリと間を詰めて来る者もいる。
どうやら、個人差がある様だな…ならば!!


未来
「良かろう、我が名は未来!! この名を覚えておくが良い!!」
「そして、そなた等の心に巣食う悪意! 我が一刀で断ち切ろう!!」


小生はその場で剣を横薙ぎに振り回し、同時に砂嵐を巻き起こす。
その威力と風圧で前方の者たちは全て吹き飛び、すぐには起き上がらなかった。
さて、異変があるのはここだけでは無さそうだが、他に対応出来る者もおらぬ。
ならば、ここは小生が立ち塞がろう。
闘いの中に悪意を持ち込む等、断じて許せる事ではない。
ふ…恐らく、聖殿もどこかで奔走しているのだろう。
小生はそれを思うと、微笑する。
出来れば、また会いたいものだ…!



………………………




「…あれ、加勢いるか?」

騰湖
「必要無さそうだ、なら他を当たるぞ…かえって好都合だ」

光里
「あんな強い人もいるんだね〜それに、良い人そう♪」


「…嫌な悪意」


穹ちゃんは何だか嫌そうな顔をしていた。
気に入らない事があるのか、顔を背けている。
とりあえず、私たちはここを離れて別の所に向かう事にした。
結構怖いけど、穹ちゃんたちが一緒だから私も頑張る!
それに、聖君が戦ってるなら、私だって助けるんだから!!



………………………



櫻桃
「ちっ、数が多すぎる!!」

借音
「とにかく『催眠術』で眠らせていきましょう! 眠らせれば無力化出来ます!」

麻亜守
「眠らせたのは、私が『テレポート』で運ぶ!」


アタシたちはピラミッドの周辺でとにかく眠らせまくった。
これなら短時間とはいえ相手を傷付けずに無力化出来る。
麻亜守と借音がそれをテレポートで別の場所に送り、そこで別動隊に任せる…ってのが一応作戦だ。
しかし予想以上に相手が多い、いくら何でも同時に催眠術はかけられないし、人数ケチッたのが失策だったね!



「苦戦してるわね、手を貸すわ!!」


突然空中から声。
すると、見た事のある姿のマスク女が颯爽と敵の真っ只中に飛び込んだ。
そして、その内のひとりを軽く掴み上げ、ソイツを振り回して近くの奴らもまとめて吹き飛ばす。
おおっ、豪快だね〜


櫻桃
「確かルチャブルさんだっけ? 助かるよ!」

ルチャブル
「ふふっ、覚えていてくれて嬉しいわ♪」
「だけど、今の私は『ブルーゲイル・茶武』(ちゃむ)!!」
「吹き荒ぶ大鷲よ!!」


何かいきなりそんな風に名乗ったルチャブルは、群がる相手を華麗に捌いて的確に気絶させて行く。
その速さは私でも正確には捉えられず、まさに疾風。
気が付けば気絶した暴徒がどんどん積み上げられていた…


櫻桃
「こりゃ、凄いわ…一気に楽になったな」

借音
「とにかく、残りも集めましょう! まとめれば一気にテレポート出来ます!」

麻亜守
「うおー! やれー!! ぶっ飛ばせーー!!」


やれやれ、麻亜守はすっかりノリノリだな…
まぁとにかく、心強い協力者のお陰でこっちはどうにかなりそうだし、後は聖次第だな。



………………………



浮狼
「皆、可能な限り手加減して!」


「おおさ! 全員、やり過ぎるなよ!?」

土筆&未生羅
「私たちは、救助するね!」


ここバトルパレスで私たちは暴徒の鎮圧を担当する。
各々に杏が指示を出し、私たちは適宜暴徒を相手にした。
仮にも相手は悪意に飲まれただけの被害者、決して傷付けすぎない様にしなければ!


唖々帝
「とりあえず、ポケモンは『電磁波』で動きを止める!」


「アタシは足元を凍らせてやるよ!!」

祭花
「皆、気を付けて! 反対側からも暴徒が!!」


私たちはハッと振り向くも、すぐには対応出来ない。
しかし、反対側からも暴徒が多数迫っており、戦う術の無い人たちが巻き込まれ様としていた。
私はすぐに反転するも、間に合わない。
だが、諦めてなるものかぁ!!



「D〜D〜!! ラァリアットォォォォォッ!!」


そんな叫び声が響き、突如として凄まじい竜巻が巻き起こる。
それは黒い悪タイプのエネルギーを放っており、向かっていた暴走を全て吹き飛ばしてしまった。
そこに立っているのは、赤の短髪に赤の半袖と白いズボンの誰か。
猫の様な尻尾も有しており、間違いなくポケモンだろう。
背中側からは誰かが解らないが、その体は確実に鍛えられた証。
そしてその女性は、いつの間にかマスクを被っており、グルグルと右腕を振り回した。


牙皇
「ったく、折角の祭りだってのに、楽しそうな乱闘してるじゃねぇか!?」


その声を聞いて私は確信する。
あの方は、ガオガエンの牙皇殿だ…この非常時に駆け付けてくださったのか!
私は一般人が無事なのに安堵し、すぐに牙皇殿の元に駆け寄った。


浮狼
「加勢、感謝致します! 私もここは助力を!!」

牙皇
「ハッハッハー!! 来やがれ雑魚共! カッ!!」


牙皇殿はこんな状況でもアピールを欠かさなかった。
それを見て、一般の方はブーイング。
それを受けた牙皇殿は笑い、楽しそうに暴徒の群れに入って行った。
そして、手前のポケモンひとりを掴み上げ、豪快に投げ捨てる。
それに巻き込まれて暴徒は吹き飛び、雪崩式に倒れていった。
そのまま牙皇殿は更にひとりをぶん投げ、すぐに近くの相手もぶん投げる。
その様は、まるで人間を引っこ抜いているかの様な見た目で、人形の様に暴徒は宙を舞っていた。
私は思わず呆然としてしまい、そのまま立ち尽くしてしまう。
気が付けば、こちらは牙皇さんひとりで全て薙ぎ倒してしまっていた…



………………………



大愛
「やれやれ面倒な事だな…」


「どうなってんだ!? これが、例の悪意とかの影響なのか!?」

悠和
「とにかく、対応しましょう! この状況は普通じゃありません!!」


「私が先行します! 悠和さんはフォローを!」


瞳さんは『神速』で踏み込んでいき、的確に相手を気絶させて行く。
す、凄い…! 複数の相手に対してしっかりと対応してる…わ、私も頑張らないと!
ここバトルチューブでもかなりの人数が暴徒と化してしまっている、聖様が言っていた悪意は、きっとこれなんだと確信出来た。


ルナリー
「ちょっと! 何、台無しにしてくれてんのよ!?」
「こんな所で暴れられたら給料減るでしょうが!!」


今度は別の人が乱入して来る。
その人は瞳さんをも越える速度で暴徒を倒していく。
凄まじい強さに私は一瞬狼狽えるも、とにかくフォローに徹した。


大愛
「…宙、私の後ろにいろ」


「え!? でも…」


大愛さんは私たちの背後を守った。
気が付けば暴徒は更に押し寄せている。
大愛さんはそれに対して一瞬で対応し、瞬きする間に数十人の暴徒を鎮圧していた。
け、桁が違う…! もしかして、私ってこの中じゃいらない娘なんじゃないの!?
何だかひとりレベル場違いな所に放り込まれている気がする…
これも、私の持つ不幸属性の影響なんだろうか?
とりあえず、私は大した活躍もせずにこの場は収まるのだった…



………………………



舞理愛
「はぁ…全く相手にならないわね!」

鐃背
「はっはっは! しかし、あまりやり過ぎるなよ?」
「あんなのでも、望んで闘っている訳ではない…こんな闘いは何の意味も無いわ!」


妾はそう言って『ハイパーボイス』だけで暴徒を気絶させて行く。
舞理愛は鬱陶しそうな顔で軽く『地震』を起こし、バトルドーム周辺の暴徒を倒していた。
ふ〜む、意外に繊細よな…力加減の難しそうな地震をああも簡単に調整するとは。
やはりこの者は良い才能を持っとるの!


舞理愛
「ふん…覚えておきなさい、貴女は後で私が倒すんだから!」

鐃背
「良かろう! その時はいつでも相手をしてやるぞ?」



………………………



舞桜
「私が『影縫い』で動きを止めます!」

水恋
「じゃあその隙に気絶させるよ!!」


私たちはバトルタワーで起こっている暴徒を鎮圧していた。
ちなみに愛呂恵さんは聖さんの元に向かっている。
まだ怪我は完治してないはずだけど、大丈夫だろうか?
でも
こっちはこっちで余裕は無い…かなり多くの人が暴走している。


喜久乃
「とりあえず、痺れろ!!」

神狩
「ふっ!」


喜久乃ちゃんが電気で痺れさせ、その隙に神狩さんが気絶させる。
シンプルだけど、とりあえずこれで地道に数を減らすしかない。
だけど、思ったよりも手が足りない! これじゃ一般人を助けられないかも…!


火煉
「手を貸すわ! こっちは任せなさい!」


そう言って現れたのは、確かヒードランの女性だ。
確か火煉さん…だったと思うけど、彼女は鋼のエネルギーを使って暴徒を気絶させて行く。
威力の調整は上手い…あれならそこまで大きな怪我は無いはず。


舞桜
「人間とポケモンが混ざっていますので、誤射しない様に気を付けてください!」

火煉
「解ったわ! 私はなるべくポケモンを狙うから、人間の足止めはお願い!」


私はそれを聞いてその場から真上に飛び上がる。
そして火煉さんに近付く暴徒の内、人間の影のみを私は同時に撃ち抜いた。
それを確認して火煉さんは『ラスターカノン』でポケモンのみを吹き飛ばす。
ただの人間は素手で軽く小突いて気絶させた。


舞桜
(これなら大丈夫! ここは私たちが必ず守ってみせる!!)



………………………




「バトルフロンティア編に突入してからどれだけの時間経っただろう〜!?」

守連
「擦り〜傷切〜傷仲間の数〜それはちょっと自慢かな♪」


よし、フロンティア編も終盤に入った所でバッチリネタは決まったな!
しかし、俺は守連と共に西側へ走っているが、かなり不安が大きくなっている。
何て言うか、空気が明らかに変わり始めていた。
西側はファクトリーの近くでもあるのだが、何やら騒ぎに近い多数の声があがり始めているのだ。
そして、遂に俺たちの元にも悪意が近付きつつあった。


暴徒
「オアァッ!」

守連
「このぉっ!!」


突然のポケモン襲来に守連は素早く反応する。
ガタイの良い男は守連に平手ではっ倒され、軽く吹き飛んだ。
それなりに手加減はしていたのか、気絶させただけの様だな。



「…成る程な、これがメロディさんの戦ってる敵か」

守連
「どうなってるの? 何だか、どんどん同じ様な人が増え始めてる!」

愛呂恵
「聖様! 守連さん!」


俺たちの背後から、暴徒らしき者たちを倒して近付いて来る愛呂恵さん。
どうやら追いかけて来てくれた様で、俺たちはこれで3人となった。
そして、前方からは阿須那たちの姿も。
阿須那は三海を背負いながら炎を撒き散らせて暴徒を足止めする。
が、暴徒はお構いなしにその炎を乗り越えていた。
流石の阿須那もギョッとしており、体を焼けただれさせながらもゾンビの様に踏み込んで来る。
明らかに正気じゃない! このままじゃ死人が量産されるぞ!?



「阿須那ーー!! 炎は使うな!」

阿須那
「クソッタレ!! 使役するモンはどうなってもええって言うんかぁ!?」


阿須那は見えない黒幕に対し激しく激昂、そして炎を控えてこちらに飛び込んで来る。
ポケモンだけでなく、人間まで混ざってる。
しかも、全てが俺たちを狙ってる…明らかに、敵意が向いてるのが解った。


女胤
「くっ! 聖様、華澄さんを! 私が『眠り粉』で暴徒を眠らせます!」


俺は女胤から包帯だらけの華澄を受け取り、しっかりと抱き締める。
かなりのダメージを受けてるのが解る…相当な争いだったんだな。
三海もすっかり痩せこけてるし、ふたりはとても戦える状態じゃない。
女胤は周りに素早く眠り粉を撒き散らし、周囲の暴徒を眠らせていった。
どうやら状態異常は通用する様で、現状では女胤が1番相性良い様だ。
とりあえず、女胤を先頭にここは強行突破するしかない!



「女胤、そのまま道を切り開け! 一気に西側へ突破する!!」

女胤
「この先へ行くのですか!? どんな危険があるのか解りませんよ!?」


「…愛呂恵さんは後方をお願いします! 阿須那、守連も行けるな!?」


俺の言葉に愛呂恵さんと守連はコクリと頷く。
三海を背負っている阿須那は何かを考えてたが、それでもキッと表情を引き締め、西側に体を向ける。


阿須那
「ならさっさと行くで! 守連は女胤と進路を確保せぇ!!」

守連
「分かったよ! 女胤ちゃん、やろう!」

女胤
「分かりました、聖様がお覚悟ならば!!」

愛呂恵
「背中はお任せを! 何人たりとも近付けさせはいたしません!」


俺たちは家族一丸となって一点突破する。
暴徒は女胤と守連の力で的確に無力化していく。
きっとこの先にはメロディさんがいるはず!
そしてこの危機的状況、メロディさんは失敗したのか…
だけど、それなら俺はメロディさんを助けてみせる!!
あの人の想いは、こんな事位で沈む様な弱さじゃ無いはずだ!!



………………………



明海
「こっちよ! 正気の人は東側に誘導して!!」

教子
「はい!」

毬子
「こっちですよ〜!!」

沙譚
「ちっ…やっぱり面倒事かよ」


アタシは、魔更の知り合いたちと一緒に一般人を誘導していた。
アタシには意味不明だが、とりあえずこの状況が異常なのは流石に解る。
どう考えても喧嘩の域を越えているこの争いは、普通の精神じゃないと思えたからだ。


悶々
「…何だろ? 何でこんなに面倒な事を?」

沙譚
「おい、どうした? 何か気になる事があるのか?」


アタシは何やら不思議そうな顔をしている悶々に尋ねてみる。
コイツはコイツでポケモンだからな…アタシに解らない事も解るんだろうが…


悶々
「何だか、欲望まみれの何かが広がってるんですけど、何でそんなのが必要なんだろ?って、思いまして…」

沙譚
「は? 欲望だぁ〜?」

悶々
「欲しいなら欲しいと言えば良いのに、何で争ってまで欲しがるんだろ?」


アタシはチンプンカンプンだった…時折理解不能の言葉を言うバカではあるが、今回はことさらに意味不明だ。
とりあえずアタシは悶々の髪を掴んで引きずり回した、とにかく異常事態なんだ!
こっちだけサボるわけにはいかねぇだろうが…!


香飛利
「あう〜!!」


突然空中から大声。
どうやら魔更の仲間のひとりが何か技を放った様だ。
その先には吹っ飛ぶ暴徒が見えており、既に近くまで暴徒が迫っているのは理解出来た。
ちっ、あんな弱そうなのでも戦ってるのに、人間のアタシはここで戦う事も出来ないってか。
しかし、それも仕方はない、アタシはどこまでいっても人間でしかないのだ。
そんな中、魔更のバカは立ち向かってやがるのか…


風路
「茫栗さん、こっちもお願いします!」

茫栗
「はっ…雑魚の相手かい」


向こうは近付く暴徒を相手していた。
片方は確か、魔更の姉貴だったよな…?
軽くポケモンを吹き飛ばしてるが、やっぱ強ぇな…ってかあの人もしかしてポケモンか?
とりあえず気にはなったものの、わざわざ聞くのもどうかと思い、アタシは救助の方に専念する事にした。



………………………



メロディ
「………」


意識が遠退いていく。
私は指1本動かす事が出来ずに、欲望の海に飲み込まれる。
賭けには、勝てなかった…か。
悔しいなぁ…私って、そんなに無力だったのか。
負けたくないなぁ…諦めたくないなぁ……


チリン…


鈴の音が聞こえた。
その瞬間、私の意識は覚醒する。
体は…動く!
まだ、私は……!!



「メロディさーーーん!!」

阿須那
「何や三海!? どないかしたんか!?」

三海
「あ……ぁ……!」


聞いた事のある声が私の心を突き動かす。
私はヨロヨロと立ち上り、まだ歌えるのかを自問自答した。
歌える…歌えない…違う…歌うんだ……


チリンチリン!


また鈴の音が聞こえる。
そして私は口を開け、大きく息を吸い込む。
その後大きく息を吐き、私は近付いて来る聖君たちを見た。
心配そうにしている彼は、私の側まで走ると息を切らしていた。
すると、痩せ細ったままの三海ちゃんは阿須那ちゃんに背負われたまま、左手を私の胸に当てる。
その際に、手首に付けられていた鈴がチリンと鳴る。
この音色は、とても心が安らぐ…この鈴が、私を…ううん、きっと三海ちゃんを守ってくれていたんだね…
三海ちゃんは左手から何か力を発し、その力は私に力を与える。


メロディ
「今のは…『癒しの波動』?」

阿須那
「三海…そない無理せんでも!」


「礼がしたかったんだよ…三海は」


三海ちゃんはその後、力を失って腕をダラリと垂れ下げる。
また鈴が鳴り響き、私はその音色を耳に焼き付けた。
そっか、これは『安らぎの鈴』…アーチェ先生の特製か。
ありがとうございます、先生…先生はここまで読んでいたんですね。
私は改めて自分の無力さを噛み締める。
だけど、チャンスは貰った。
それなら、私は最後まで歌い続ける!!


メロディ
「…聖君、ゴメン」


「良いんです、俺はメロディさんを助けたかっただけですから」


私は俯きながら、笑う。
空笑いだったけど、でもそんな聖君の迷い無き言葉が、私にはただ嬉しかった。
そして、私は決意する。
やっぱり、これしか勝つ方法は無い。
もう時間も少ないし、最後の手段を躊躇ってはいられないわね…
私はキッと強い表情をし、聖君を見た。
聖君は無言で頷き、そして夢見の雫を出してくれる。
その雫は少しだけ濁りがあるものの、綺麗に透き通った透明色で、見る者の心をまるで写しているかの様だった。


メロディ
「お願い聖君、私に力を貸して…」


「勿論です、その為にここまで来たんですから」
「俺がメロディさんを助けます! だから、メロディさんは世界を!!」


聖君は雫を輝かせ、私の願いを叶える為に力を行使する。
私は目を瞑り、夢見の雫の力でその場から転移した。
私が向かった目的の場所は……



………………………



メロディ
「………」

恵里香
「久し振りだね、そしていつでも良いよ?」

メロディ
「ありがとう…ゴメンね〜啖呵きっといて、やっぱひとりじゃ無理だったわ〜!」


私はそんな風にふざけながら、笑顔の恵里香を見て楽器を多数出す。
そう、ここは全ての可能性が終結した時空の最果て。
そして、ここには私の親友の恵里香がいて、いつも皆を見守ってくれている場所でもある。


恵里香
「ふふ、どうだった? 聖君、良い男でしょ?」

メロディ
「さぁてね〜♪ 私にはちょ〜っとお子様過ぎるかなぁ〜?」


私は楽器の調律をしながらそう答える。
恵里香はクスクス笑いながら、やがて私の周囲を光輝かせた。
さて、準備はOK…リハは無しで行くわよ!


メロディ
「さぁ、サブカルクソ女に思い知らせるわよ!! 私のこの想いを!!」


私は演奏を開始する。
今回歌うのは、初めて歌う新曲!!
曲調はバラードで、ちょっと切ない歌詞の歌。
ゆっくり目のピアノからイントロが始まり、やがて私の声が響く。
恵里香は『世界送り』(ワールドメール)で私の歌をバトルフロンティア全体に送り届ける。
そう、これが最後の手段…スピーカーを通してでなく、生で私の歌を世界全体に届けるのだ。
恵里香の力が無ければこんな事は到底出来ない、だからこそ最後の手段…
聖君の力も借りて、私は歌を広げていく。
私の髪色はステップフォルムに切り替わり、私はゆっくり躍りを加えながら歌を続けた。



………………………




「!! この歌…」

守連
「わぁ…綺麗な歌声〜♪」

阿須那
「…これが、メロエッタの歌」

女胤
「恐らく『古の歌』だとは思いますが、現代風にアレンジされている様ですね…」

愛呂恵
「しかし、良い歌です…とても、心に響く」


俺たちはその歌声に酔いしれていた。
優しくも強いその歌声は、世界全体を包み込み、悪意を塗り潰していく。
メロディさんの歌の歌詞は、愛を唱え、欲望に抗う悲しさを秘めた物だった。
後半は悲しい旋律と共に、それでも愛を貫く強い意志が込められている。
やがて、気が付けば喧騒は止み、メロディさんの歌声だけが…世界に満ちていた。



「勝った…」

守連
「うん…!」

阿須那
「メロディはんの、勝ちや!」

女胤
「ふふ…まぁ、聖様のお力があったのですから当然でしょう♪」

愛呂恵
「はい…ですが、それだけではありません」


俺はスマホを取り出し笑う。
そしてもうひとりの立役者を俺は呼び出した。



「…ここまで計画通りか?」

恵里香
『そうだね、メロディが負けるのは解ってたし…』


酷い言いぐさだな! メロディさん完全にピエロじゃねぇか!!
とはいえ、メロディさんはそんな中でも誰かに助けられて勝利をもぎ取ったんだ。
欲望に負けない執念が、実を結んだんだろうな。
俺は時計を見て笑う。
後1時間で、日付が変わる…恐らく、それがバトルフロンティアの閉幕だ。
黒幕が誰かは結局解らなかったが、これ以上何かやらかすかね?



………………………




「バカな…!? 何故あの歌にそこまでの浄化が!?」
「ここまでに蓄積させた欲望は、メロディの歌を確実に飲み込めたサイズのはず!!」

恵里香
「だからキミはサブカルクソ女なんだよ…宝石姫♪」


ボクが笑って彼女の背後からそう言ってやると、彼女はドレスを翻して振り向く。
その顔は信じられないといった顔で驚いており、完全に予想外の出来事で狼狽えている様だった。
ここは、バトルフロンティアの最西端のトンネルの先。
いわば異空間のゲートで、ここは彼女が主に移動で使っている空間だね。
最果てと同様、完全に暗闇の漆黒世界。
その中で、ボクと彼女だけが光輝き、姿を認識出来る。
とりあえず、解説だけしておこうか…

彼女の名は『ぺルフェ』、種族は『ディアンシー』だ。
彼女はダイヤの様に煌めく髪を長く靡かし、額にはダイヤの様な宝石が埋め込まれているのが特徴。
また、後頭部には頭飾りを付けており、それもダイヤと同様の輝きを放っている。
しかし、それはあくまで本来のディアンシーとしての特徴だ。
彼女はボクと同様、理から外れたポケモンのディアンシーで、彼女のその色はいわばブラックダイヤ。
そう、本来のディアンシーとは違い、彼女は黒い色で統一された姿。
ドレスさえも暗闇に紛れる程の黒さで、それは彼女の悪意を象徴している。

彼女はボクに対して憎悪を膨らませていた。
ボクはそんなぺルフェに何の感情も抱かず、ただ見下す様に細目で見つめる。
ぺルフェはそんなボクに激昂した。


ぺルフェ
「何故可能性の死んだ貴女がここにいるのよ!? 一体、どういうカラクリなの!?」

恵里香
「さてね…少なくともキミに答える義理は無いよ」
「一応、秘密の必殺技みたいなものさ♪」


ぺルフェはワナワナと震え、更に憎悪を膨らませる。
彼女の怒りは憎しみ。
かつて人間やポケモンの欲望に全てを奪われ、黒化してしまったディアンシーの成れの果て。
そんな彼女はもはやマトモな思考は持っていない。
欲望を操る能力を開花させ、こうしてたまにボクたちにちょっかいをかけて来る。
たけど、今回はちょっとオイタが過ぎた…流石のボクも今は怒ってる。


ぺルフェ
「…! どんな能力か知らないけど、好都合だわ!!」
「ここで貴女を殺して因縁を終わらせてあげる!!」


ぺルフェは全身を輝かせ、『ダイヤストーム』を放って来る。
それはダイヤの散弾が吹き荒れる嵐、マトモに食らえば人体は簡単にミンチになるだろう。
そしてボクの体はバラバラに吹き飛ばされ、その場から粒子化して消え去ってしまう。
ぺルフェは勝ち誇り、高笑いして頭を抱えていた。


ぺルフェ
「アッハハハハハハハハッ!! 何よ呆気無い!!」
「これで終わりだわ! もうどうでも良い! 貴女がいなければもうメロディの歌も意味を成さな…」


メキメキィ…!!とぺルフェの顔が大きく歪む。
ボクの拳は正確にぺルフェの顔を打抜き、ぺルフェは派手に吹っ飛んだ。
ボクは拳が砕けて血だらけになった腕を見てため息を吐く。


恵里香
「やれやれ、硬い顔だね…殴る方が痛いよ」

ぺルフェ
「ばっ!? な、何故…!?」


ぺルフェは鼻血を出しながら顔を押さえてこちらを向く。
ちなみに、ここは重力があるし、地面も見えないだけでちゃんとあるから、吹っ飛ぶと地面を転がるよ♪


恵里香
「キミは少し頭が悪いよね…ボクがここにいる時点で、どういう意味を持つか解ってない」

ぺルフェ
「ま!? まさか…!!」


ぺルフェはようやく理解したのか、全身を震わせて恐怖する。
そう、この時点で彼女は完全に敗北しているのだと理解したはず。
ボクはそんな彼女を笑い、そしてこう話した。


恵里香
「ボクは、一体『何時(いつ)』のセレビィなんだろうね?」

ぺルフェ
「ひっ…!? ど、どうしてそんな事が!?」
「貴女は可能性の終わった世界で、永遠に止まったままの存在じゃ無かったの!?」

恵里香
「そうだよ、だけどあれから色々あってね…たまたま見付けちゃったんだ」
「並行世界のボクをね…」

ぺルフェ
「!? そ、そんな事があったとして、何故こんな風に……っ!?」


彼女は言ってて気付いた様だ、そうそれがだってボクの能力だもん。
ボクはクスクス笑い、絶望に顔を歪めるぺルフェを見ていた。
知った所で絶望の上塗り…むしろ、希望を失って可哀想♪って感じだね…


恵里香
「ボクは、本来同一時間軸の並行世界にしか力は使えない」
「だけど、こういった混沌が繰り返される内、ボクはもうひとりのセレビィを見付けたのさ」
「そしてボクはその子の力を借りて、ようやく聖君と同じ世界に降り立つ方法を見付けた」
「もっとも、聖君には明かすつもりは無いけどね♪」


あくまでこれは裏技だ。
下手に使えば、アルセウスに目を付けられる。
だから、今回はあくまで特別さ…
じゃないと、ボクは無限に歴史改編が出来てしまうからね。


恵里香
「とりあえず、今回はその1発で許してあげるよ」
「だけど忘れない事だ、もしまた聖君を無差別に巻き込む様なら、その時はより強い恐怖をキミに与える、と…」


ボクはそれだけ言ってその場から消えた。
ぺルフェはガクリと項垂れ、敗北を確信する。
やれやれ…とりあえずこれで当分は大人しくなるだろう。



………………………



メロディ
「…ふぅ」

恵里香
「お疲れ様…やっと終わったね♪」


私は一通り演奏を終え、恵里香と共にフロンティアの状況を確認する。
良かった…皆、元に戻ったんだね。
私は頭を掻き、とりあえず勝利を確信して拳を握る。
そして感謝した…最後まで私を信じてくれた協力者に。


恵里香
「どうする? まだ少しならあの世界に行けるよ?」

メロディ
「良いわ、歌でお別れは済ませたし…これ以上言う事は感謝しかないもの♪」
「だから、別の世界に送って…こっからはまた別行動!」


私はそう言ってバトルフロンティアの世界が見える場所から背を向ける。
その先には何も無いけど、恵里香が道を作ってくれればそこには私の未来がある。


恵里香
「分かったよ、キミらしいね…」

メロディ
「ゴメンね、そんでありがとう♪」
「どうせ、ぺルフェのバカはアンタがお仕置きしたんでしょ?」


恵里香は少し目を背けて黙る。
バレたか…って顔ね、全く解りやすい。
とはいえ、どうやったのかは想像もつかない。
何も言わないって事は、秘密の能力かもしれないしね…
それに、聖君の事もある…か。
とりあえず私はそれ以上考えるのを止め、恵里香が示してくれた光の軌跡を走る。
その先に何があるのかは解らない、それでも私はきっと歌うのだろう。


メロディ
(聖君、また会おうね! 私はまだまだまだまだ歌い続けるから!!)



………………………




「…終わり、か」


バトルフロンティアの世界は時間を迎え、閉幕のアナウンスと共に大歓声。
怪我人は多数出たものの、事件は終わったと皆は思ったのだ。
そして、世界は何とか祭りの雰囲気のまま、やがて光の粒子になっていく。
とりあえず、何とか乗り切れたか…それでも犠牲は結構あった。
多分、見えない所では死者も相当数出てたんだろう。
それでも、俺たちは乗りきった。
だけど、俺は俺で後始末をする。
この世界に残った憎しみは、俺が全部吸い上げておこう。


阿須那
「聖…?」


「出来るだけ、こういうのは残したくないんだ」


俺は夢見の雫で、この世界に残された悪意を吸収しておく。
思ったよりも濁る事はなく、改めてメロディさんの歌が効果抜群だったか解るな。
俺は軽く笑い、そして皆にこう言った。



「よし、じゃあこれで今回の混沌終了! 後はまた普段通りだ!」

守連
「はーい♪」

阿須那
「やれやれ…やな」

女胤
「とにかく、皆無事で良かったですわ」

愛呂恵
「戻ったらすぐに食事の準備ですね…三海さんに沢山食べさせてあげなければ」


俺たちは世界と共に混沌から解放される。
結構長かったな…でも、良い経験だった。
色んな人に出逢えて、新たな絆を見付けられた感じだ…きっと、またどこかで会える気がする。
そう思うと、俺は安らかな気分になり、そして意識が微睡む。
そして、俺は予想通りの光景で意識を覚醒させた。



………………………




『あぁ…やっぱり』

アルセウス
『ふふ…嬉しそうな顔だな』


俺は微睡んだ夢の中の公園で、いつもの様にアルセウスさんと並んで座っていた。
そして、俺はとりあえず無言で夢見の雫をアルセウスさんに差し出す。
それを見て、アルセウスさんは少しだけ顔をしかめた。
な、何か問題でもあったのかな?
しかし、アルセウスさんはすぐに無表情になり、すぐに雫の浄化をしてくれる。
今回は濁り的にも特に問題は見られない…やれやれとりあえず安心か。


アルセウス
『聖よ、今回の混沌は恐らく様々な結果を導く』


『様々な、結果?』

アルセウス
『平たく言えば、分岐点だ』


分岐点だって…?
まさか、また並行世界が増えすぎて問題が…?
だけどアルセウスさんの表情からは危機的な答えは感じられない。


アルセウス
『可能性は、本来無限にある』
『しかし、その内の99%以上は我の力によりひとつの可能性に収束される』
『そうする事により、全ての並行世界は本来安定するのだ』


『99%以上!? そんなにも、でも…それじゃ別の並行世界は一体?』

アルセウス
『多かれ少なかれ、いずれかの近い可能性の世界に混ざるのだ』
『可能性は無限でも、世界の器は無限ではないのだから…』


成る程、いわば器とはHDDの事だ。
だけど、セーブデータを作れば作る程、その容量は埋まっていく。
そして限界を迎えれば、異常をきたすって訳だな。


アルセウス
『例えば…とある世界で小石を蹴ったとする』
『しかし、その小石が左へ転がるか、右へ転がるか…そんな些細な分岐があったとすれば、その分岐世界はどうなると思う?』


『…限りなく未来が似てるだけのコピー世界って所ですか?』


アルセウスさんはコクリと頷く。
つまり、RPGで言うなら1秒先に同じ状態のセーブを別の場所に作るって所だ。
そしてもし一本道のシナリオしかないゲームなら、そこから先はほとんど結果が変わらない。
そうなったら、その複数のデータは何の意味があるのか?って所か…
アルセウスさんは、そんな限りなく近い可能性の世界を整理して、世界を保ってくれているんだろう。


アルセウス
『話を戻そう…今回の混沌によって多くの分岐が生まれた』


『はい…でも、それは一体?』

アルセウス
『そなたが選択出来るのは、あくまでひとつ…しかし、並行世界のそなたは恐らくその全てで別の未来を築いてしまうだろう』


俺は考えてゾッとする。
つまり、ここから先はそんな遠い可能性の並行世界が、どっと増える可能性があるって事。
そして、恐らくアルセウスさんは俺に問いかけているんだ…
別の分岐を見捨てるか、どうかを…
俺はこの時点でひとつの結論に達した。
アルセウスさんがこう問うって事は……



『…世界は、もう限界なんですか?』

アルセウス
『…むしろ、常に限界だった』
『我が創れる器は、そなたの優しさを全て納める事は出来ないのだ』


そうだったのか…俺は、初めからそんな負担をかけ続けていたのか。
アルセウスさんはそんな中、俺たちの為にギリギリの器を保ち続けてくれた。
俺は、やっぱワガママが過ぎたんだ。
それなら、俺は選択しよう。
これ以上、俺は誰かを苦しめたくない。



『アルセウスさん、俺は選びます…その他の可能性は、諦めて』

アルセウス
『そなたらしくないのだな…諦めるなど』


アルセウスさんは予想外といった感じだった。
確かに、いつもの俺なら全て救うと言う所だ。
だけど、その結果この人が苦しむのであれば、それは別問題だ。
俺は、アルセウスさんをもこれからは救ってみせる!



『アルセウスさん、俺は誰ひとり見捨てたくは無いです』
『でも、そんなただのワガママで貴女が苦しむのであれば、俺は他の可能性を諦めてみせます』

アルセウス
『…! ふ…人の子が、神である我を救うと?』


俺は無言で頷く。
躊躇いは無い、何故ならこれも俺なのだから。
アルセウスさんは今まで見せた事の無い顔で俯いた。
それは、まるで悲しみ…あるいは喜び?
アルセウスさんは雫を俺に返し、俺はそれを受け取ってアルセウスさんの言葉を待つ。
アルセウスさんは、何も映らない虚空の空を見上げ、やがてこう告げた。


アルセウス
『選択は、そなたに委ねよう』
『我は、そなたを信じている…そなたが、正しい継承者なのだと』


アルセウスさんはそう言って消えてしまった。
俺もそれに合わせて微睡む。
目を覚ませば、また日常が始まる…
そして、可能性は……ひとつ、か。










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第7話 『バトルフロンティア閉幕、限られた分岐点』


To be continued…


Yuki ( 2019/05/15(水) 09:37 )