とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない













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第7章 『バトルフロンティア』
第6話

(…阿須那はとりあえず、もう少し休ませた方が良いか)


この混沌に巻き込まれてはや5日目…俺は阿須那を病院に置いて外を歩いていた。
付き添いには女胤を残し、俺はとりあえず他の家族と一旦合流する事にする。


白那
「おはよう聖君、もう皆集まってるよ?」


ある程度開けた場所で俺たちは集う。
と言っても、まだ全ての家族は揃わないしそれも探さなきゃならないんだが…



「とりあえず今後の方針だな…わざわざ全員固まって施設巡りとかバカのやる事だし」


藍は少々眠そうにしながらも頭は回転させている様だった。
確かに、後調べてないのはドームとタワー…このふたつには高確率で誰かがいそうだし、わざわざ全員で一丸となって調べに行く必要は無いだろう。
それに、他の施設にもいる可能性はあるし、そっちも手分けして探す方が効率は良いだろうな。


櫻桃
「とりあえず、アタシ等は別動隊で探してみましょうよ…待ち合わせ場所だけ決めて」


「そうだな、地理的にどこからでも集まりやすい中央広場辺りが良いだろう」
「時間はどうするかだが…」


「とりあえず、明日の朝で良いんじゃないか?」
「施設で戦ってるなら、ダメージや疲労もあるだろうし、ある程度回復も見越しておいた方が良いだろ」


ここまでの経験で相当苦戦するのは目に見えて来たからな。
また入院患者が増えなきゃ良いが…


浮狼
「では、ある程度の部隊で分けましょう…こちらは杏と、騰湖殿にお願いします」


「りょ〜かい♪」
騰湖
「良いだろう…異論は無い」


そう言って浮狼さんたちは一足先に移動を始める。
それを見て、藍はため息を吐いた。


「やれやれ、面倒だが仕方ないな…」

櫻桃
「愚痴る位ならホテルで寝ててくださいよ…それとも目覚まし用に唐辛子汁を作ってやろうか?」


「よし頑張ろう! すぐ行こう!!」

麻亜守
「藍お姉ちゃん、躾られすぎ…」

借音
「うふふ…櫻桃さんも気を使遣ってるのよきっと」


そう言って藍たち4人は離れていった。
そうなると、ここに残されたのは俺と白那さんと悠和ちゃんだけとなる。
光里ちゃんたちと万丁君たちは既に別行動をしており、今はここにはいない。
瞳さんと神狩さんはまだ治療途中、一応大事を取ってまだ休んでもらってる。
そっちには女胤が阿須那と一緒に見てくれてるから大丈夫だろう。
わざわざ同じ病院に預けてもらったから、こういう時はまとめて面倒見れて良いと判断した。


白那
「さて、聖君はこれからどうする?」


「俺はドームへ行きます…誰かいる可能性はタワー同様高いですし」

悠和
「私たちはどうしますか?」

白那
「…聖君をひとりにするのは危険かもしれない、オレは付いて行くよ」
「悠和もそうした方が良い、万が一は避けたいからね」


白那さんはことのほか警戒した表情でそう言う。
悠和ちゃんは無言で頷き、とりあえず俺の方を見た。
俺はやや違和感を覚えながらも、とりあえずふたりの同行を受け入れる。



「…まぁ、石橋を叩いて渡ると言うし、用心に越した事はないわな」

白那
「聖君、ひとつ聞かせてくれ…君は今回の混沌をどう見てる?」


それは突然の質問だった。
俺は少し驚くも、冷静に考える。
今回の混沌…1番近いタイプなのは牙皇さんの時のだけど、明らかに違う部分がいくつかある。
ひとつは、期間の問題。
牙皇さんの時は興行という形で混沌が形成されていたので、興行が終わったと同時に混沌はクリア出来た。
だけど、今回の混沌は正直クリア条件がよく解らない。
バトルフロンティアというイベントが混沌その物なら、それが終われば自然と終わるという事だろうか?



「とりあえず、ただのイベントっぽい感じですけどね…今の所は」

白那
「そう…特に違和感は無い?」


違和感…? 一体何の事なのだろうか?
俺には特にそんな物は感じないが…



「…何か気付いたんですか?」

白那
「…いや、そういうわけじゃないんだけどね」
「ただ、何となくなんだ…どこか、何かが、違っている気がして」

悠和
「?? 違い…ですか?」


悠和ちゃんも解ってないって感じだな。
白那さんはテレパシー能力もあるし、白那さんにしか解らない空間的な違和感なのかもしれない。
そうなると俺たちはお手上げな訳だが…


白那
「…ゴメン、今は忘れておいてくれ」
「例え何かがあったとしても、愛する聖君はオレが護ってみせるから♪」


そう言って、白那さんは最後に笑った。
俺は、とりあえずそれで良しとする。
解らない事を考え続けても仕方がない。
とりあえず解っている事から片付けるのが俺のやり方だ…今は、それで良いだろ。


悠和
「ですけど、正直私なんかがこの先付いて行けるんでしょうか?」


「…別に無理をする事は無いさ、悠和ちゃんは悠和ちゃんに出来る範囲で手伝ってくれれば良い」
「むしろ、無理をされる方が肝を冷やす…阿須那がやられたとか心臓が止まるかと思ったし」


実際衝撃だった。
今回の混沌はそれ程にレベルが高いのだ。
氷華は引き寄せられたのかも…と言ってたが、そうなるとまた俺に原因がある可能性は高い。
混沌がある限り、俺は特異点なのだから…


白那
「ふふ…悠和は、もっと活躍して聖君に褒められたいのさ」

悠和
「し、白那さん!? わ、私はそんな大それた事は!!」


それは流石に露骨すぎだな…可愛いのは正義だが。
とはいえ、俺は俺で気を遣わないとな…誰かひとりでも、もし敵に回る事なんかがあったら、それは相当な惨劇になりかねない。
信頼の裏返しは、それ程盲目になる。
俺は全員を信じているが、その肝心の家族全員が、俺を信頼しているとは限らないのかもしれないのだから…



………………………




「ボールを相手のゴールにシュゥゥゥゥゥウッ!! 超! エキサイティン!!」

悠和
「さ、聖様…今度のネタは一体?」


チクショウ! 流石に○クダオリジナルのネタは古すぎたか!!
さしもの悠和ちゃんにもネタの神は降りてこなかったらしい…
とはいえ、今俺たちがいるのはバトルドーム!
ここでは戦略が試される…さて、どうするかな?


白那
「とりあえずエントリーは1〜3人、ルールはシングルかダブルか…と、マルチとかもあるね」


「マルチバトルか…場合によってはそれも面白そうだな」


マルチバトルなら相方は解らない。
ぶっつけ本番でやってみるのも悪くは無さそうだが…


白那
「…オレはとりあえず外で待っているよ、ふたりで挑戦すると良い」


「え…何かあるんですか?」

白那
「何かあるとマズイからオレが残るのさ…何、心配はいらない」
「最低でもふたりは必ず護るから…場合よっては乱入してでもね」


白那さんは明らかに何かを警戒していた。
例の違和感の事なのだろうか?
だが、それは俺には全く解らない。
白那さんは、一体何が見えているんだ?
それとも、見えない何かを警戒しているのか?
どっちにしても、俺はそんな白那さんに少し強めにこう言った。



「白那さん、俺には白那さんが何を警戒してるのかは解りませんけど」
「俺は、誰ひとり失う気はありません! 何かがあるなら、それこそ俺が絶対に白那さんを救います!」


これは俺の誓いだ。
2度と白那さんをあんな悲しみに満ちた世界に置き去りにしないと。
決して、家族を犠牲にしないと。
俺は必ず全員救う! 例え何があっても、俺は決意を曲げはしない。


白那
「…そうだね、聖君はもうあの時の様な弱いだけの子供じゃない」
「でも、オレは心配なんだ…この、言い知れない謎の感覚」
「だから、オレはここに残るよ…ゴメン、聖君」


白那さんは納得はしてるものの、俺たちに背を向けてどこか遠くを見ていた。
言い知れない、謎の感覚か…確かに、ちょっとした恐怖だな。
あの白那さんが、恐怖を感じているのだとしたら、一体この混沌には何が潜んでいるんだ…?



「君がいる…だから愛したい、離れない♪」

悠和
「歌…?」


「メロディさん…! やっぱり、現れましたね」


俺は微笑んで後を見る。
そこにはギターを手にワンフレーズ歌ってくれたメロディさんがいた。
悠和ちゃんは不思議そうな顔をしているが、面識が無いからだろう。
俺は折角なのでふたりにも紹介する事にした。



「白那さん、悠和ちゃん…この人はメロエッタのメロディさん」
「俺にゴールドパスをくれた、奇特な人だよ」

悠和
「あ、そうだったんですね…すみません、私は悠和と言います、シルヴァディです」

メロディ
「シルヴァディ…見たのは初めてね、私より希少なんじゃないの?」


幻扱いされてるメロディさんにレア扱いされるとは…まぁ、シルヴァディはオンリーワンの可能性も高いからな。
世界を跨げば他にもいるのかもしれないけど、それはメロエッタレベルの幻よりも確かにレアなのかもしれない。


白那
「…メロエッタ、君が」

メロディ
「貴女も相当な大物ね…パルキアなんでしょ? チューブでゾロアークと戦ってた」


って事は、メロディさん試合を観てたのか。
まぁ、ブレーン戦なら中継されててもおかしくないし、テレビで見れるのかもしれないしな。


白那
「オレは確かにパルキアだ…名は白那」
「聖君の妻だよ♪」

メロディ
「あら、隅に置けないわね? こんな美人の奥さんいるなんて!」


「いやいやいや!! 俺まだ未成年ですから!!」


白那さんは笑顔で冗談を言ってくれる。
いや、実の所冗談では無いのだろうが…
メロディさんも素直に受け止めなくても…


メロディ
「あはは、でしょうね! 君って何だかそういうの向いてなさそうだし」


どうやらからかわれたらしい。
メロディさんは最初から冗談だと思っていた様だ。
やれやれ…俺がバカ丸出しじゃねぇか。
俺は少し頭を掻き、ため息を吐いた。
しかし、向いてなさそう…ね。


メロディ
「聖君って…本当に好きな娘はいるの?」


「え…?」


俺は意味が解らなかった。
本当に好きなって、どういう意味なんだ?
まるで何かを見透かしているかの様なメロディさんの顔は、何故か俺の胸に突き刺さっていた。


メロディ
「…そっか、いないんだね…本当に好きな人は」


「い、いや待ってくださいよ!? 俺は家族皆を愛してる! 誰かひとりを選ぶつもりは無いんだ!!」

メロディ
「言ってる事は立派に聞こえるね…でも、それはそこの娘に伝わってる?」


俺はメロディさんが厳しめの顔で指差した方向を見る。
そこには、やや俯いて涙ぐんでいる悠和ちゃんがいた。
俺は…訳が解らなくなってきた。
メロディさんは、何を言ってるんだ?
悠和ちゃんは何で悲しんでる?
俺は、間違っているのか…? 俺の愛は……偽りだとでも?


白那
「…そこまでだね、それ以上聖君を惑わすなら、オレが容赦しないよ?」

メロディ
「信頼しているのね…でも、それは聖君を甘やかしてるんじゃない?」
「信頼と愛情は別物よ? 本当に愛しているなら…ここで訴えてみろよっ!?」


メロディさんは急に怖い顔をして、右手の親指を自分の胸に当てた。
今までに無い迫力だった…メロディさんは、本気で怒ってる。
白那さんは冷静みたいだが、内心何かを考えているかの様に見えた。
俺は…何やってんだろうな。



「悠和ちゃん、ちょっとゴメン…」

悠和
「えっ……っ!?」


俺は、人前とか関係無しに悠和ちゃんを抱き寄せて無理矢理唇を奪う。
ズキュゥゥゥゥゥゥンッ!!という効果音を鳴らしたい所だが、悠和ちゃんは俺を突き飛ばす事なく、むしろ顔面を紅潮させて既に沸騰しかけていた。
俺はそのまま唇をゆっくり離し、メロディさんを睨み付ける。
そして、俺はメロディさんと同じ様に右手の親指を自分の胸に当て、こう叫んだ。



「舐めてんじゃねぇぞ!? 俺は軽い気持ちで家族を愛してんじゃねぇんだ!!」


その瞬間、周りから大拍手と歓声。
冷やかすかの様な声から、口笛や称える声まで様々な言葉が飛び交っていた。
冷静になった途端に俺は気恥ずかしくなる。
しかし、啖呵切った手前引き退がるわけにはいかない。


メロディ
「上等じゃん♪ アンタのハートは見せてもらったよ!」
「そんなふたりに、この歌をプレゼントだ!!」
「愛に! 気付いてくださーい!! 僕が! 抱き締めてあーげーるーー!!」


「そこで○マンスかよ!! ノリノリだなアンタ!?」


とりあえず周りの目は一気にメロディさんの方に向いた。
メロディさんの激しいギター音に紛れながら、俺は悠和ちゃんと一緒にバトルドームに逃げるのだった…



………………………



メロディ
「ウォンチュッ!!」

白那
「あはは…君、面白いね♪」


オレは、ひとしきり歌いきってご満悦のメロディちゃんに笑って話しかける。
するとメロディちゃんはギターを一瞬で消して、うーん!と背伸びをした。
あれ、空間操作じゃないよね?
どうやって楽器を出してるんだろ?
いや、むしろ生成と分解か…あのスピードで出来るって事は、そういう能力なんだろうな…


メロディ
「あー! すっきりした!! やっぱ歌は良いよね〜♪」

白那
「…で、何であんなワザと焚き付ける様な真似したの?」
「ああなるって、解っててやったんだよね?」

メロディ
「まっさか!? あんな子供がそこまで覚悟持ってるなんて思ってなかったわよ!」


本気で言ってるのか解らないけど、メロディちゃんは驚いた顔でそう言った。
でも、その顔は嬉しそうで、そして楽しそうだ。


メロディ
「良いな〜やっぱ聞いた通りか…ホントにハーレムで愛するつもりなんだね」

白那
「君は…一体何者だい? もしかして、この混沌の発生源?」

メロディ
「…悪いけど違うわ、でもこの混沌に呼び寄せられたのは運命」
「そして、聖君に出逢ったのも…」


メロディちゃんは何かを覚悟しているかの様な顔だった。
とはいえ、絶望とかそういう感じじゃない。
むしろ、何か希望を見ているかの様な…そんな目をしている。


白那
「もしかして君は知っているのか? 理解不能の違和感の正体を…」

メロディ
「そうね、知ってるわ…でも、今はどう?」


オレは言われて少しハッ…となる。
違和感が…消えている?
ついさっきまで、確かに言い知れない違和感があったのに。
今は不思議と何も感じない…この世界に来たばかりの頃みたいだ。


白那
「…何をしたんだ?」

メロディ
「私は歌うだけよ…それ以外に取り柄は無いもの」
「でも、多分もう限界は近い…私ひとりの力じゃ、多分防げない」

白那
「防げない?」

メロディ
「貴女は聖君を守ってあげて…私は歌わなきゃならないから」


そう言って、彼女は軽快なステップを刻んで素早く走り去る。
その際に髪色が変わった…って事は、あれがステップフォルムか。
メロエッタのメロディ…どうやら、彼女はかなり重要な人物みたいだね。



………………………



実況
『さぁ、ここバトルドームは既に熱気に包まれている!』
『今回のマスターランクは、マルチバトル! さぁ、計32名のトレーナーが集ったぞぉ!?』



「…マジかよ」

悠和
「さ、聖様…これって」


俺たちはモニターに映し出されたトーナメント表を見て驚愕する。
そこには、俺たちの知る名前が複数存在していたのだ。
パレスの時もそうだったが、ここでもかなりの家族が参加してたみたいだな…



………………………



実況
『まずは初戦!! Aブロック第1試合で戦う2チームが入場だ!!』


祭花
「うわ〜これかなり厳しいんじゃない?」

唖々帝
「の、ようだな…一筋縄ではいかないメンバーだ」


私たちはモニターに表示された対戦表を見てそう言う。
そこには知った名が複数紛れており、聖まで参加していた。
はからずとも目的は達成したわけだが…



「へっ、面白くなってきたじゃねぇか! コイツは負けられねぇな!」

教子
「あ、あの…私と祭花さんがトレーナーで本当に大丈夫なんですか?」


教子はビクビクしながらそう聞いてくる。
そう、今回は祭花と教子には偽装薬でトレーナーになってもらっていた。
最悪、私と李で独自に戦えば問題無いからな。
初戦の相手は知らないふたりだし、まぁここは問題無いだろう。
李はやる気のようだし、付き合うのはやぶさかじゃない。


唖々帝
「お前は見守っていれば良い…戦うのは私たちだ、安心して見ていろ」


「そうそう! 祭花が細かい指示は出すし、教子は応援してくれりゃ良いから♪」


私たちはとりあえずフィールドに向かう。
会場はかなり広いな…端から端まででも100m以上は確実にある。
相手は飛行タイプと地面タイプ…相性はこっちが有利だな。



「祭花、作戦は?」

祭花
「各個撃破! それだけ!」

唖々帝
「了解だ…私は鳥男をやる」


「なら、カバ野郎はアタシだ!」

教子
「ふ、ふたりとも頑張って〜!」


とりあえず、場が出揃った所で審判は開始の合図を出す。
その瞬間、私は抑え目の出力でエアームドっぽい男に電撃を放つ。
効果抜群の技にソイツは呆気なく倒れ、直後に李が遅い足で突進する。
やれやれ…レベル差はあるがそれでも相手の方が速いな。
カバルドンと思われる男は、これまた遅い速度で上半身を振り回し、両手で地面を強く叩いた。
私は瞬時に浮遊し難を逃れるが、李は突進途中でモロに『地震』を食らう。
同時に砂嵐が舞い、視界が悪くなるが李は関係ないとばかりに踏み込んで行った。
ダメージはまぁまぁか…だが倒れないなら効果は薄い。
李は元々打たれ強い方だからな…そして、仕留め損なった分のツケは重い。



「っだらぁ!!」


李は右拳に冷気を纏わせ、カバルドンの顎をアッパーで打ち抜く。
体重の重そうなカバルドン男は数mは高く舞い上がり、無造作に落ちた。
やれやれ、最高ランクの相手でこれか…どうやら、家族関係以外はそれ程警戒する事も無さそうだな。


教子
「ふたりとも強〜い」

祭花
「レベル上がったよね〜…ホントに見違える位」


まぁ、それなりに前の混沌で揉まれる羽目になったからな。
私も李も、確かに以前よりは強くなっているだろう。
だが、それだけでは勝てないのだ…上にいる連中には、それでは勝てない。



………………………



愛呂恵
「………」

明海
「あ、愛呂恵さん?」


不安そうな明海さんに声をかけられながら、私はモニターを凝視していた。
そして、トーナメント表を目に焼き付けて私は静かにそこから背を向ける。
迷う必要はありません。


明海
「き、棄権しませんか? 聖様が見付かったならそれで良いはずですし…」

愛呂恵
「…ですが、それでは他の家族の方に遅れる事になります」


そう、私が退けない理由はここにあります。
聖様が直々に出場なされている。
そこにある大きな目的とは、すなわちひとつ。


愛呂恵
「…聖様はこう思っているはず、このトーナメントで優勝出来る者が、最高のメイドなのだ、と!」


恐らく間違いはありません。
悠和さんに聖様が付いているのは、恐らく悠和さんへの奮起の為。
そして、私たちに対しての試練とお考えなのでしょう。
つまり、ここで逃げるのはメイドの恥。
むしろ聖様専属のメイドである私が退くなど、言語道断です。
聖様最高のメイドは私であると、ここで証明してみせなければ…


明海
「あ…は、は」


明海さんはやる気が無い様でした。
とはいえ、明海さんは今回トレーナー役。
しかもド素人以下の初心者故、いわばいるだけの存在…しかし、それも彼女の実力を考えれば仕方の無い事。
ですが、無駄な存在ではありません…彼女がいなければ今回は参加すら出来なかったのですから。

…まさか他の家族が同じ事を考えて参加しているとは予想外でしたが。
ここまでタイミングが悪いのも、やはり試練なのでしょう。



………………………



実況
『さぁ、次はAブロック第4試合!! 果たして勝ち上がるのはどちらかぁ!?』


愛呂恵
「………」

明海
「ほ、ホントに応援だけで良いんですか!?」

愛呂恵
「構いません」


私はそう言いきってフィールドに向かう。
私の隣にいるのは、胴着を着たダゲキの男。
全くの無関係なポケモンですので、実質連携は期待出来ません。
しかし、今回は相手も見知らぬ相手。
条件はほぼ5分であり、むしろ私が負ける要素は見当たらないでしょう。
このルールはあくまで全滅が敗北条件。
私ひとりしか残らなかったとしても勝利は勝利なのですから。

私は改めて相手のふたりを見据える。
特に変哲もない、ギガイアスとバイバニラの男性たちです。
体は大きく力もありそうですが、あくまで普通の範疇と思えるでしょう。
すなわち、負ける要素無し! 残念ですが無駄な時間をかけるつもりはありません。


審判
「それでは、試合開始!!」

私は直後に強く床を蹴り、ひとっ跳びで相手の目の前に移動する。
床の表面が抉れる程の力で飛び出した私は、その勢いのままに右膝をバイバニラの顎に叩き込んだ。
バイバニラは一瞬で後方に吹き飛び、ゴロゴロと転がって行く。
この時点でまだ誰も動き出してはおらず、皆が呆気に取られている間に私は床に着地、そしてすぐ側のギガイアスに向けて回し蹴りを放った。
もっとも、この場合は『ぶん回す』という悪タイプの技なので、格闘タイプの技ではありませんが。

とはいえ、ギガイアスの顔はメリメリ…ッ!と歪み、私が足を振り抜くとそのままギガイアスの体は吹き飛んだ。
ここまでの所要時間は3秒…こんな物ですね。


実況
『な、何という瞬殺劇!? もはやパートナーすら必要無しと言わんばかりの速攻!!』
『これは凄まじい強さだーーー!!』


愛呂恵
「では、戻りましょう」

明海
「さ、流石愛呂恵さん…」


私たちは試合が終わるとすぐに去る。
去り際に相方のトレーナーたちに見られましたが、私は特に何も言わずその場を離れました。
さて、準決勝ではおそらく唖々帝さんと李さんが相手になるでしょう…早々に対策を練らなければ。
あのふたりを同時にいなすのは相当な難易度ですからね。



………………………




「こりゃ、洒落にならんな…」

悠和
「愛呂恵さん、あれで本気じゃ無いんですよね?」


だろうな…涼しげな顔してるし。
…いや、愛呂恵さんは普段からほとんど表情変えないから判断難しいんだけど。
例え追い詰められていても、顔に出さない人だからな。
とはいえ、相手のレベルを考えたらウォーミングアップにもならないレベルだろ。
ただでさえ、愛呂恵さんにはもう1段上の形態があるってのに…



「やれやれ…面倒な組み合わせになったもんだな」


「んだよ〜面白そうなバトルになりそうなのに…」


俺の横から、そんな男勝りの声が放たれる。
俺と悠和ちゃんが声の方を振り向くと、そこにいるのは176p以上ある長身に黒髪長髪。
首の下辺りを、ゴムバンドで縛ってお下げにしてるのがチャームポイントの家族は、子供の様な笑顔で笑っていた。



「鳴…お前は楽しそうだな」


「だって祭りみたいなもんだろ? だったら俺は楽しむさ!」
「別に勝ち負けとかにこだわるわけじゃないんだし、だったら楽しんだもの勝ちだろ!」


鳴のこういう所は鐃背さんに似てるよな。
ふたりともドラゴンだし、通ずる所はあるみたいだが…



「…とりあえず、結果はどうでも良いから大怪我だけはしないようにね?」


鳴の後でゆらりと浮遊していた棗ちゃんが俺たちにそう言う。
どうやら鳴のトレーナーとして参加してるみたいで、棗ちゃんは偽装状態の様だった。



「このトーナメントで怪我するなは難易度高いな…」
「むしろ死ぬなの方が最善な気がしないでもない」


確実に荒れるであろう組み合わせだからな。
俺たちはトリだからまだ先の戦いだが、勝ち抜いたとすると準決勝で戦うと思われるのは…



………………………



実況
『決まったー!! Bブロック第1試合をひとりで軽く制したのは、天空幼女の鐃背だーーー!!』


俺たちは、確実に強敵を通り越しているであろう相手を見据えて、ため息を吐く。
モニター越しに映る鐃背さんはヒジョーに楽しそうで、満面の笑顔だった。
まぁ、鐃背さんなら楽しむよな…絶対どこかで暴れてるとは思ってたけど。
相方は完全に浮いているであろう香飛利で、トレーナーは土筆ちゃんと未生羅ちゃん…って完全に応援専門じゃねぇか!!
香飛利はやれば出来る娘だが、例によって高空に退避してるな…まぁ、支援型だしあれで良いのかもしれないが。



「…やれやれ、勝てるのかねアレに?」

悠和
「こっちにも鳴さんはいますし、トータルスペックでならそれ程差は無いのでは?」


「…鐃背さんは常に体を鍛え続けている猛者よ?」
「…少なくとも、以前のイメージで考えてたらダメね」


だろうな…鐃背さんは普段から常に鍛練を続けている人だ。
強くなる事に限界は無いと信じている人だし、レックウザという規格外の体はそれに付いてくる。
戦闘能力は確実に家族でもトップクラス…愛呂恵さんは過去にタイマンで勝ったとはいえ、今やったらどうなるかは解らんな。



「まぁ、やれるだけやりゃ良いさ」
「負けても死ぬわけや消えるわけじゃないんだし」


確かにその通りだな。
勝ち負けとか考えたら通夜モードにも程がある。
この際、無理ゲーを笑って楽しめる広い心を持って戦おう。
俺はそんな風に気持ちを入れ替え、 とりあえず出番を待つ事にした。
鐃背さんと戦うのは3戦目…間に家族はいなかったから、まぁその辺は消化試合にしたい所だな…



………………………



実況
『さぁ、いよいよBブロックも第8試合!』
『今大会においても、トップクラスにレアなポケモンを連れて参戦するふたりのトレーナーが登場だぁ!!』


そんな実況の音声と共に、俺たちはバトルフィールドに姿を表す。
鳴は堂々とした振る舞いで先頭を歩いて笑っている。
対して悠和ちゃんは、緊張している。
とはいえ怯えている様子は無く、静かに呼吸を整えている様だった。
棗ちゃんは落ち着いてるな…鳴に指示を出すのは棗ちゃんだが、さて?



(相手は特に印象も無さそうなフツーの男女が相手か)


例によってのモブだろう…俗に言うエリートトレーナーって感じの若い男女だ。
まぁ、言っちゃ悪いがこっちも自信はある。
マトモにやるなら、負ける気はしないな。


実況
『棗選手のゼクロムと、聖選手のシルヴァディ、両者共に普段はまず見る事も出来ないレアなポケモンだ!』
『先の試合でも伝説のポケモン、レックウザが出場しており、今回の観客は実に運が良いと言えるだろう!』
『それに対して、相手はやや力不足感の有りそうなラッタとペルシアンの悪タイプコンビ!』
『果たして、どんな勝負になるのかぁ!? ちなみにCPを比べたら話にならない差があるぞぉ!!』


実況がそう叫ぶと、会場の巨大モニターに顔写真とCPが表示される。
鳴のCPは25411…流石に阿須那たちに比べると劣るって所か。
悠和ちゃんは20005…決して低くはないが、やはり家族の最前線で戦うには辛い所だろう。
ましてや道具の使用は基本制限、悠和ちゃんは1枚だけメモリを持つ事を許されている。
本来なら戦闘中に自由に切り替えられる事が強みのARシステムも、こういった場ではあまり意味を持たない。
今回悠和ちゃんはフライングメモリで飛行タイプになっている、地面が弱点の鳴とは弱点を被せない為の処置だ。

そして相手のCPはと言うと、両者共に15000前後。
マスターランク判定としては、ほぼ最低ラインとも言えるCPで、明らかに数値だけでは劣っている。
とはいえ、どんな癖があるかも解らない。
力技だけで勝てるとは思わない方が良いかもな…



「さ〜て、初戦だし軽〜く終わらせるか」


「油断するなよ鳴? 相手の戦術も解らないんだ、初戦だからこそ気を引き締めろ」


俺が注意すると、鳴は少し表情を変える。
根は真面目な性格だからな鳴は…素直とも言うが。
まぁどっちにしても性格補正は無い…ゼクロムのスペック考えたら、その方がバランス良いかもしれないが。


悠和
「………」


「とりあえず気負わない様にな?」

悠和
「は、はいっ…大丈夫です、聖様にご心配はおかけしません!」


悠和ちゃんも気を引き締めて表情を変える。
さーて、そろそろ試合開始だ。
相手は悪タイプのラッタとペルシアン…タイプ相性は有利でも不利でもないが、トリッキーな戦法を取られると厄介かもな。


審判
「それでは、試合開始!!」

女トレーナー
「猫騙し!」


(行動封じか!? 出遅れたな…!)


まずはペルシアンが鳴に向かって猫騙しを放つ。
一瞬で距離を詰められ、鳴は頭を後方に弾かれて怯んでしまった。
それを見て、ラッタが突進して来る。
悠和ちゃんは反応が完全に遅れており、鳴は無防備状態でラッタに噛み付かれた。



「ぐあぁっ!!」


鳴は殊の外大きく苦しむ。
どうやら『怒りの前歯』だったか!
これで鳴の体力は一気に半分…だが、迂闊な距離だぜ!



「…鳴さん、目の前に『クロスサンダー』」


「っぅ! うおらぁぁぁっ!!」


バチバチバチィ!!と激しく両手から電撃を纏わせる鳴。
同時に尻尾は激しく稼働し、テラボルテージが発動する。
目の前にはラッタがおり、攻撃後で逃げる暇は無い!


女トレーナー
「くっ! ペルシアン、『守る』で止めなさい!!」


「悠和ちゃん、タイミングを計って『シザークロス』!!」

悠和
「はいっ!!」


まずはペルシアンがラッタの前に立って守るを展開。
クロスサンダーは凄まじい威力でぶつかるも、ペルシアンたちはノーダメージ。
だが、その終わり際に悠和ちゃんが飛行し、上からラッタにシザークロスを放つ。
両手でXの字にラッタの頭を切り裂き、効果抜群の技にラッタは軽く沈黙した。


審判
「ラッタ戦闘不能!」


ワァァァァァァァァッ!!と大歓声。
先手は取られたものの、基本的にはスペックが違うのだ。
的確に攻撃さえ当てられれば、こちらが負ける事は有り得ない。


実況
『開幕から互いの技が交錯! 強大なCPを持つ相手にペルシアンたちが果敢に挑みましたが、ラッタは早くも撃・沈!!』
『ペルシアンだけで、果たして勝てるのかぁ!?』



「こっちは俺に任せろ!!」


「バカ!! 勝手に動くな!?」

相手トレーナー
「今だ、『イカサマ』!!」

ペルシアン
「ふっ!!」


完全に鳴のミスだ。
勝手に判断した結果、鳴は相手のスピードも考えずに懐を取られ、ペルシアンのサマーソルトキックで顎を跳ね上げられる。
しかも、それは鳴の力と同じパワーで、だ…


実況
『カウンターのイカサマがクリーンヒットォ!!』
『あまりの威力に鳴の体が空高く舞い上がったぁ!!』


鳴は空中で完全に気絶していた…そりゃそうだ、ただでさえ体力半分なのに、あの威力のイカサマを食らったらな。
悠和ちゃんはすぐにエアスラッシュを地面に放ち、下から上昇気流を生み出して鳴を風で受け止める。
これにより鳴は高所からの落下を助けられ、最小限のダメージで済んだ。


審判
「ゼクロムの鳴、戦闘不能!!」

実況
『1発でタイに持ち込んだぁ!!』
『これで戦況は一変! 大きくCPを上回られる相手を見事に打ち倒してみせましたぁ!!』
『相手のポケモンは強くても、戦略はまだまだ甘い様です!』


返す言葉もねぇな…ちゃんと鳴をコントロール出来なかったこちらの落ち度だろう。
とはいえ、もうそんなミスは起こさない。
悠和ちゃんは尖った能力が無い完全バランスタイプのシルヴァディだからな。
あのペルシアンとは速度もそこまで変わってない。
イカサマにさえ気を付ければそれ程辛くないはず。


女トレーナー
「よし、『バークアウト』!」

ペルシアン
「!!ーーー!!!」


ペルシアンは大きく口を開き、途端に耳障りな騒音を放った。
バークアウト…特攻を下げてきたか!
恐らく相手の特性は『ファーコート』…物理には相当自信があるんだろうな。
特性無視出来る鳴が早々にやられたのは、やはり誤算だったかもしれない。
だが、俺は悠和ちゃんを信じている。
この程度の騒音で、凌げると思うなよ!?



「『怖い顔』!!」

悠和
「!!」


悠和ちゃんは目を細め、鋭い牙をチラつかせて相手を睨み付ける。
その鬼気迫る気迫の顔に相手はビビり、速度を低下させた。
さて、自慢の速度はもう無い…ここからは先手を貰うぜ!


女トレーナー
「くっ! 『イカサマ』よ!!」

「『エアスラッシュ』!!」

悠和
「はあっ!!」


悠和ちゃんは両手から風の刃を作り出し、それを振りかぶってペルシアンを攻撃する。
特攻が下げられているせいか、いつものよりも弱く見えるが、それでもその剣はペルシアンを容易に吹き飛ばした。
数m程吹き飛び、ペルシアンは攻撃に失敗する。
俺はそのまま次の指示を出した。



「『シグナルビーム』!!」


悠和ちゃんは両手から赤と青のビームを交差させる。
それらは綺麗に交わり合い、シグナルビームとして怯んだペルシアンに追い討ちをかけた。
今度は効果抜群の一撃、ペルシアンは…立たない!


審判
「ペルシアン戦闘不能! よって勝者、聖&棗!!」


悠和ちゃんは軽く息を吐き、戦闘体制を解いた。
そして相手に一礼をし、悠和ちゃんは俺の元に駆け寄って来る。
俺はそんな悠和ちゃんの頭を優しく撫でてやった。
悠和ちゃんは顔を真っ赤にしてモジモジしてしまう。
何か、久し振りに見た気がするな。



「お疲れ様、頑張ったな」

悠和
「は、はいっ! 聖様に誉めていただいた…♪」


悠和ちゃんは可愛く振る舞う。
やれやれ、鳴はまるで良いとこ無かったな…こりゃ作戦練らねぇと。



「…これで鐃背さんとやるなんて、気が重くなるわね」


棗ちゃんは気絶して運ばれている鳴を横目で見送ってそう呟いた。
違いないな…格下相手にこれじゃ先が思いやられる。
また次も知らない相手だし、もう少し上手くやれる様にならないとな…



………………………




「唖々帝、どう思う?」

唖々帝
「鳴も悠和も強力な種族には違いない」
「だが、付け入る隙は十分あるだろう…もっとも、それ以上に問題そうなのがその前に控えてるんだがな」


私たちは聖たちのバトルをモニターで観戦し、意見を交わしていた。
概ね怖いのは鳴のパワー…当たれば誰もが一撃で打ち倒されるであろう威力の電撃は、流石に同じ電気タイプから見ても恐怖を感じるレベルだ。
だが、その分欠点は私と似ている。
鳴は確実にスピードを犠牲にしているタイプだ、いわゆる重戦車。
私と同じタイプの、だな…

だが腐っても相手はゼクロム。
正面衝突でどうにか出来る程の『腕力』は私には無い。
恐らく李でも力勝負は無理だろう。
あれに力技で対抗出来るのは鐃背さん位のものだからな。


祭花
「愛呂恵さんか…正直強敵よね」


「スピードもテクニックも桁違いだからな…タイマンで鐃背さんに勝ってるって話だし、間違いなく今大会の優勝候補だろ」

唖々帝
「だが、同時に相方には恵まれていない…いくら愛呂恵でもふたりがかりなら隙は突けるはずだ」

教子
「うーん、でも愛呂恵さんは手足と耳でそれぞれ器用に攻撃出来るし、多対一は慣れてると思いますけど…」


だろうな…そんなのはこっちも解ってる。
むしろ、それ位しか望みが無いというのがこちらの現状だ。
そもそもの経験値が違いすぎるのだから…


祭花
「とにかく速攻よね! メガ進化する前に必殺技でズドン! これが1番でしょ?」

唖々帝
「そうしたいのは山々だが、私たちのZ技は隙が膨大だからな…」


「あのスピードにぶつけるのは、確かに難しいわな…」

教子
「うーん…」


私たちのZ技は一撃必倒と言える威力は出せるが、それだけにただブッ放して当たる代物でもない。
ましてや愛呂恵なら対策してる可能性が高いからな…聖から詳細は聞いているだろうし。
やれやれ…どうにも良い案が出て来ない。
結局、ふたりがかりで隙を作るしか無さそうだ。



………………………



愛呂恵
「………」

明海
「悠っち、流石にやるわね…」

愛呂恵
「…ですが、あれでは鐃背さんには勝てませんね」
「やはり最高のメイドは私がなるべきなのでしょう」


いかに聖様や棗様と言えど、有り余る力を操るのは難しい。
鳴さんは強敵ではありますが、単純すぎます。
悠和さんは、逆に慎重すぎて反応が遅い。
あの状態では、コンビネーションも何もありませんね。
もっとも、こちらもあまり人の事は言えませんが…
コンビネーションが無いのはこちらも同じ、ハンデとも言えますが仕方の無い事。
この状態で、鐃背さんと香飛利さんのタッグを打ち負かすのは、相当な難易度でしょう




………………………



鐃背
「…ふむ」

土筆
「鐃背さん、どうしました〜?」

鐃背
「いや…少々悩んでおるだけよ」

未生羅
「悩む〜?」


双子でそっくりな土筆と未生羅がシンクロしてるかの様な動作で共に首を傾げる。
妾はモニターから目を反らし、少し息を吐いた。


鐃背
「…つまらぬ闘いにはしたくないのぅ」

香飛利
「うぅ…何でこんな事に〜」

鐃背
「これ、泣くでない香飛利! そなたは数合わせなのじゃから、無理に闘わんでも良いのじゃ」
「妾が負ければ、降参すれば良い…」


香飛利は優しすぎるのが玉に瑕じゃな…闘う力はちゃんとあろうに。
とはいえ、それを妾が強制するわけにはいかぬ。
これはあくまで妾が望んだ闘いなのじゃから。


土筆
「香飛利〜泣くな〜!」

未生羅
「泣いたらお腹空くぞ〜!」

香飛利
「うぅ…もう空いてる」

鐃背
「やれやれ…仕方あるまいな、何か売店で買って来るが良い」


妾はそう言ってこの世界の紙幣を3人に渡してやった。
これは、この世界で手に入れた、いわゆるファイトマネーじゃ。
香飛利の腹を満たす位の額はあろう。


土筆
「おお〜! 何食べる〜!?」

未生羅
「焼き肉が良い!!」

香飛利
「肉〜♪」


3人は喜んで駆け出して行った。
やれやれ…香飛利はともかく、土筆と未生羅はちと落ち着きが無さすぎるの。
姉の杏はしっかりしておるのに、あの双子はとても18歳とは思えん。
同世代の中では明らかに浮いておるんじゃよな…



………………………




(結局、特に波乱も無しか…)


あれから2回戦をモニターで見ていたが、唖々帝さんたち、愛呂恵さん、鐃背さんたち、全員が苦も無く勝利を納めていた。
唖々帝さんと李さんは、前衛と後衛を完全に分け、息の合ったコンビネーションを見せる。
長く共に戦っていた経験は、確実に強みになっているだろう。
何気に祭花さんも要注意だ…虫とフェアリー特有の能力なのか、とにかく空間把握力が高い。
実戦でもレーダー係だったし、ある意味頭脳とも言える存在だろう。

愛呂恵さんは例によって問答無用の速攻。
相手に行動すら許さず、先手を取って一撃で相手を倒している。
下手に手を出そうとしたらカウンターで逆に仇となる。
あのスピードとパワーは、やはり凄まじいな。
総合力なら間違いなくトップクラスの性能…本当に一介のミミロップなのか?と思ってしまう位愛呂恵さんは強い。
今まで有り得なかったけど、敵に回った時はここまで絶望感を味わう物なのか…
あれに勝った華澄はやはり異常なのだと、改めて思う。

そして鐃背さん…文句無しに最強キャラだ。
通常形態ですら、片手で軽く相手を捻れる余裕さ。
愛呂恵さんと違うのは、相手に全力を出させないと気が済まない所か。
故に、やや遊びがあるのは鐃背さんの弱点とも言える。
いかに強いと言っても、弱点はあるのだ。
鳴の逆鱗や、悠和ちゃんの氷マルチアタックとかを直撃させれば、勝機はあるはず。



「…そろそろ出番よ?」


「ああ…次は油断しねぇぜ!」


鳴は右拳を左手にバシン!とぶつけ、気合いを入れていた。
前のダメージは大して無い様で安心だ。
悠和ちゃんも落ち着いてるし、次は楽に勝ちたい所だな。
…と、口にしたらフラグになりそうな気もするから、あえて心の中で止めておいた。



「行こう、悠和ちゃん」

悠和
「はいっ、必ずお役に立ってみせます!」



………………………



実況
『さぁ、いよいよBブロック2回戦も最終戦!』
『果たして準決勝に挑めるのはどちらのタッグか!?』



(…今度の相手は、普通の男トレーナーがふたりか)


連れているポケモンはひとりが、フライゴンみたいな風貌の男。
もうひとりは、暗めの青いツインテールの髪を靡かせる、やや身長の低いポケモン娘だった。
目は吊り目で細く、黄色の瞳がこちらを一瞥すると、フンッと鼻を鳴らして目を反らす。
腕…と言うより、手首から刃の様な髪色と同じ色の何かを生やし、尻からは大きな尻尾が同じ色で生えている。
この時点で俺は察した…彼女は、ガブリアスだと。
しかも、ただのガブリアスじゃない…?
何でかは知らないが、彼女は赤いドレスに身を包んでいるのだ。
こんなバトルに何でドレスなんだよ!?
どう考えたってバトルには無意味としか思えないその姿は、尋常じゃない何かを俺に予感させた。

ちなみに、前の彼女の試合は見逃していたのでよく解らない。
あの時は鐃背さんのインパクトが強すぎて、その後の試合は頭に入らなかったからな。


実況
『さぁ、片やガブリアス&フライゴンの地面ドラゴンタッグ!』
『片や伝説のドラゴンのゼクロムと、人工ポケモンのシルヴァディ!!』
『1回戦では片やガブリアスの地震で3秒KO! 片やゼクロムを倒されたもののシルヴァディがふたりを倒して勝利と、互いの結果は一目瞭然!』


マジか…3秒KOって、流石は厨ポケと言うべきか。
どうやら、かなりの実力を予感させるが、あれもイレギュラーじゃないだろうな?
と言うか、今までの経験上、十中八九そうだと思うんだが。
このタイミングでわざわざぶつかるってんだ、相当に嫌な予感がしてきたな…


実況
『ちなみにCP差は、かなり微妙だ! ガブリアスの舞理愛(まりあ)は今大会、2位の29999!』
『1位の鐃背には劣るものの、そのスペックは流石ガブリアスと言うレベルの高さだ!!』
『相方のフライゴンは16002と低めではあるが、その分をあまり余って補う強さ!』
『下手をすればワンサイドゲームも有り得る! さぁ、聖選手はどう対抗するのかぁ!?』


2位って、愛呂恵さんよりも上だと!?
こりゃ間違いなくイレギュラーだ!!
ヤバイぞ、そうなると未来さんやルナリー並と思うのが妥当、鳴たちで勝てるのか!?



「…相当ハズレを引いたみたいね、棄権するなら今の内じゃない?」


「…とはいえ強いのはひとりだ、こっちはふたり…やってやれなくは無いと思うが」


鳴は最悪の相性…速度でも勝てるわけ無し!
悠和ちゃんは飛行タイプで、可もなく不可も無く。
確かに、ハズレだなこりゃ…



「聖…こういう時は笑え」


「は…?」


鳴はニヤリと笑っていた。
勝算があるとは思えない、頭はダメな方なんだから!
とはいえ、鳴は楽しそうな顔をしていた。
つまり、楽しめと…そういう事か。
やれやれ、仕方ないな…それなら俺はもう信じる事しか出来ない。



「鳴、悠和ちゃん…無理はするなよ?」

悠和
「はい、例え力及ばずとも、必ず一矢報いてみせます!」


「こういうのは腹括った方が勝つんだ! タイプ相性なんざ気合いで乗りきりゃ良い!!」


鳴はバチィ!と拳を合わせて電気を放つ。
しかし、悲しいかな…その電気は今回役に立たないのだ。
純粋にドラゴンとしての力だけで戦わなければならないのは、相当不利なんだがな…


審判
「両者、バトルフィールドへ!」


審判の合図で4人はバトルフィールドに立つ。
互いの距離は5m程、向こうは悠々と地震で先制を放てる距離だ。
開幕の1発は覚悟しなきゃならんな…


審判
「それでは、試合開始!!」


ドッギャァァァァァァァンッ!!


突然の地震。
その威力は凄まじく、軽くフィールドの床を抉ってクレーターを作ってしまった。
が、その場に鳴と悠和ちゃんはいない。
ふたりはすでに空に舞い上がっていたのだ。


実況
『これは見事! シルヴァディの悠和、先制攻撃を読んでの飛行で相方ごと空へ避難したぁ!!』
『しかし、あのノーモーションから放たれるガブリアスの地震をかわすとは思いませんでした!』


そう、悠和ちゃんは開始と同時に鳴を掴んで飛行したのだ。
いくら地面弱点でも、飛んでいればそれは無効。
悠和ちゃんのアシストは見事に相手の思惑を潰してくれた。
まぁ、相手のフライゴンが最初から飛んでたからまさかとはと思ったんだがな。


舞理愛
「…意外と反応が速いじゃない、気に入らないわね」

フライゴンのトレーナー
「フライゴン、『竜の波動』で撃ち落とせ!!」


フライゴンは翼をはためかせて飛行し、両手で波動を練る。
当たればそれなりの威力を予想出来るが、思ったよりもタメが長い。
大愛さんのと比べれば明らかに格下の波動だな。



「やれやれ…有効な飛び道具が無いと思うなよ!?」


鳴は両手を胸の前で構え、小さく震えて何かのエネルギーを練り始める。
その力は相手とは比較にならない大きさで、その分タメも長そうだった。
相手はその隙に波動を放ち、それは高速で鳴に向かって行く。
鳴はそれをかなり遅れる形で迎撃に入った。
ほぼ目の前で波動は鳴のエネルギーとぶつかり、鳴の技は悠々とそれをかき消してしまう。
そして、そこから大量の竜エネルギーが相手のフィールドに降り注ぐ。
そう、まるで…流星の様に。


フライゴンのトレーナー
「フ、フライゴン!?」


かなり激しくフィールドは荒らされた。
鳴が放った『流星群』は大地を食い荒らし、数々のクレーターを作る程に至る。
マトモに巻き込まれたフライゴンは無力に床へと落ち、起き上がる気配は無かった。
ガブリアスの舞理愛は姿が見えない、吹っ飛んでしまったのだろうか?
いくらなんでもあの技に巻き込まれたら、ガブリアスといえどタダでは済まないはずだが…?


審判
「フライゴン戦闘不能!」


実況
『決まったーーー!! 鳴の流星群がフライゴンを直撃!』
『舞理愛は地面に潜って難を逃れるものの、いきなり相方を失ってしまったぁ!!』


地面にだと? って事は穴を掘って逃げたのか…
そうなるとマズイな…どこから出て来るかも解らない。
ここは高度を維持して回避するしか……


ズダンッ!!



「…ちっ」


「鳴!? さっきの技で落ちてしまったのか!?」


鳴は着地には成功したものの、かなり疲れを見せていた。
使えば反動が来る大技…鳴は元々特攻が高い方ではないし、ガクッと下がった所でそれ程不利にはならないが。
それでも精神的な疲労は堪えるはず…大丈夫なのか?


悠和
「くっ! 鳴さん、気を付けて! 下から来ます!!」


「野郎の姿が見えねえのは気になるが、関係ねぇ…」
「俺が思う確かな事は、次にテメーの姿を見た瞬間、俺は…プッツンするという事だけだぜ」
「来や…がれ!」


「勝利フラグみたいに聞こえるけど、多分ネタ的にはそれダメな奴だから〜!!」


俺のツッコミも空しく響き、ドガァァッ!!と、鳴の背後から舞理愛が姿を表した。
マッハポケモンらしく、そこから凄まじい速度で鳴の背中に体当たりし、鳴はエビ反りに仰け反る。
効果抜群の技だ、間違いなく大ダメージ!
鳴は口から血を吐くが、それでもズレただけで吹っ飛ぶ事は無かった。
まさに意地…いや、気合いだ!!



「うおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

舞理愛
「ちっ!?」


舞理愛は危機を感じてすぐにバックステップする。
だが鳴は振り向き様に右腕を乱暴に振るい、舞理愛を攻撃した。
惜しくも当たらなかったが、かなりの威力は見て取れる。
そして鳴は怒り狂う様に舞理愛を追い、更に攻撃を仕掛ける。
あれは…『逆鱗』かっ! 文字通りプッツンしちまったんだなアイツ…!


舞理愛
「扇風機ね、まるで! パワーだけの技で私に通用すると思ってるの!?」


「悠和ちゃん、『エアスラッシュ』!!」

悠和
「はいっ!!」


舞理愛は素晴らしい速度で鳴の追撃から逃れるが、悠和ちゃんはその逃げる先に向かってエアスラッシュを放つ。
空気を切り裂く風の刃は舞理愛の動きを確実に止め、当たらずとも隙は作ってみせた。
舞理愛は目をキッと見開き、急ブレーキで止まる。
そして、目の前には鳴が突っ込んで来る。
これはかわせない! 当たればいくらガブリアスでも…!


グシャァッ!!



「なっ!?」

俺は目を疑った。
完璧に隙を作って鳴の逆鱗をヒットさせる流れだったはずなんだ…
なのに、アイツは…あのタイミングでカウンターを合わせやがった!!



「かっ……はっ!」


鳴は顔面に左腕の鰭(?)をめり込まされ、血を吐いて後に倒れる。
鳴の拳は辛うじて舞理愛の右肩に当たり、ダメージは確実に与えてはいた様だが…


審判
「…ゼクロムの鳴、戦闘不能!」


実況
『舞理愛、素晴らしいカウンター!』
『鳴と悠和がふたりがかりで攻めるも、それを的確に返して鳴を沈めたぁ!!』


舞理愛
「ちっ! 左腕が上がらない…! あの馬鹿力め…!!」


舞理愛は目を細めて左肩を押さえ、痛みに耐えている様だった。
左腕はプルプルと震えており、それ以上動く様子は無い。
鳴の爪痕は、確実に残ったんだな…



「…降参するならこのタイミングよ?」
「…悠和の身を案じるなら、退くべきだわ」


棗ちゃんの意見はもっともだ…あの化け物に悠和ちゃんが勝てるとは思えない。
手傷を負っているとはいえ、あのパワー、スピード、テクニック。
間違いなく、今大会でもトップクラスの性能だ。
悠和ちゃんの身を案じるなら、ここで退くのがトレーナーとしての選択だろう。



「審判! ここで降参する!! こっちの負けだ!!」


実況
『な、何と聖選手! ここで敗北宣言!!』
『ポケモンの身を案じたのか、英断とも取れる降参を選びましたー!!』
『しかし、彼を攻める事は出来ません! 舞理愛の力はそれ程に高い!!』
『自分のパートナーを助けるのもトレーナーの仕事! 聖選手、棗選手、ここで敗退となります!!』



………………………



唖々帝
「…聖」


「…アイツ、相当な強さだな」

祭花
「私たちはそれよりも先の戦いだよ! 次は愛呂恵さんとのバトルなんだから!」

教子
「わ、私は頑張って応援しますね!」


確かに…今は自分たちの戦いか。
愛呂恵の力は、家族の中でもトップクラス…特に近距離戦闘においては、無類の強さを誇る。
どうにかして、活路を見付けなきゃな…



………………………



愛呂恵
「………」

明海
「あ、愛呂恵さん?」

愛呂恵
「…行きましょう、次の試合はもうすぐです」


私は、聖様の敗北を目にして、少なからず動揺していた。
鐃背さんならばいざ知らず、その他モブに敗北を喫してしまうとは…
しかし、これも試練なのでしょう。
そして、明確に目的も出来ました。
もし、彼女たちが決勝に上がる事があるのでしたら、その時は私が必ず倒します。
…まぁ、有り得ないとは思っているのですが。


愛呂恵
(今の鐃背さんを倒すのは、それだけ難しいですからね…)



………………………



鐃背
「………」

香飛利
「…あう」

土筆
「聖さん…」

未生羅
「負けちゃった…」


妾は、厳しい顔で次の相手を見据える。
あのガブリアス…確かに強い。
しかし、あの舞理愛という少女…一体何者じゃ?
あれ程の強者(つわもの)、そうそう見られる者ではない。
鳴も悠和も、そんじょそこらのポケモンではないのに…そのふたりを相手にあの程度のダメージで済ませるとは。


鐃背
「…諸行無常、か」

香飛利
「? 何それ〜?」

鐃背
「形あるものは、いずれ崩れる…そういう意味じゃ」
「さて、妾たちも気を引き締めねばな! 次の相手は強いぞ!?」


妾はそれでも楽しみであった。
家族以外でここまで心を振るわせられるのは久し振りじゃ。
やはり、妾は闘いの中でこそ1番自分が輝いていると感じる。
ガブリアスの舞理愛…誠に楽しみな相手じゃ!



………………………




「…鳴は?」


「…それ程大きな怪我でもないわ、少し休めばすぐに目覚めるそうよ」


俺はそれを聞いて安堵する。
結構派手に倒されたから、気になっていたんだ…
悠和ちゃんはほぼダメージも無いし、とりあえず体に問題は無いが。

俺たちはとりあえず施設の受付にある入り口近くのベンチで休んでいた。
ここでもモニターから試合の内容は見れるし、とりあえず鳴の治療もあってここで待機する事にしたのだ。


悠和
「………」


俺の隣で座ってる悠和ちゃんの顔は、明らかに沈んでいた。
さっきの試合の結果が堪えてるんだろう…だが、力が及ばないのは仕方ない。
それとも、可能性がある限り彼女は最後まで戦いたかったのだろうか?
俺はそれを聞く事はあえてせず、モニターの方に顔を向ける。
次からは準決勝…どちらも激闘になりそうだな。



「とりあえず、皆続行か…鐃背さんはともかく、愛呂恵さんたちも続ける気なんだな」


実はやや意外でもあった。
皆、基本は俺を探す為に参戦してたはずだろうし、目的が達成出来たなら最後までやる必要は無いと思うんだが。



「…明確に目的が生まれたものね」
「…舞理愛さん、だっけ? 彼女…全員に目の敵にされたでしょうから」


俺は言われて色々察する。
そうか、そういう事か…皆俺が負けたから、仇討ちの思いが出てしまったんだな。
そうなると、相手には不憫で仕方ない…例え勝てても、その度に凄まじい恨みをぶつけられるのだから。
…まぁ、恨みは言い過ぎだが。
そこまで拘るのは、愛呂恵さん位だろうからな…逆に言えば、今の愛呂恵さんはデストロイモードって位の心境なんだろうか?



「…棗ちゃん、そっちから見て愛呂恵さんの心境はどう思う?」


「…見る事は出来ないけど、予想出来る範囲で単刀直入に言いましょうか?」
「…死人が出ないのを祈るべきね」


俺は頭を抱えた…ですよね〜
愛呂恵さんが本気になったら、トンでも無い事になるだろうからな…
とはいえ、鐃背さんが勝ってくれれば溜飲は下がるだろうし、それに期待した方が良さそうだ。
…唖々帝さんと李さんは、いわゆる八つ当たりの対象にされそうだが…



………………………



唖々帝
「…さて、行くか」


「愛呂恵さんか…とりあえず、作戦通りやれば良いんだな?」

祭花
「最初が肝心だからね? ミスったらその場でアウトだから!」

教子
「が、頑張ってください!」


私たちは戦場に赴くかの様に気を引き締めて行く。
ある意味、これは戦争だ。
誰が聖の仇を討つか…愛呂恵の性格なら、相当頭にきているはずだろう。
だが、逆に言えばそれはチャンスでもある。
普段冷静沈着な奴ほど、それが崩れた場合は判断力が落ちる。
今回は、その隙が突けるかどうかの勝負だ!



………………………



愛呂恵
「………」

明海
「…あ、愛呂恵さん、少し落ち着いた方が」

愛呂恵
「私は冷静ですよ? 落ち着いています」


私はそう言って早足でバトルフィールドに向かう。
そう、私は冷静です。
ただ、少しだけ別の目的が生まれただけの事。
多少高揚はしていますが、自分を見失う様な事は有り得ません。


明海
「愛呂恵さん、聖様ももう敗退してしまいましたし、ここは棄権した方が…」

愛呂恵
「それは出来ません」
「ここで逃げれば、聖様の家族は臆病者だとレッテルを張られるでしょう」
「それだけは避けねばなりません…これは、聖様の名誉の問題です」


そう、これだけは絶対に退きません。
私は聖様の名誉の為に勝ってみせます。
明海さんは不安そうな顔をしていましたが、私はそれに少し苦言を呈しました。


愛呂恵
「明海さん、もっと胸を張ってください」
「貴女もまた、立派な聖様の家族なのですから」
「貴女がそんな顔をしていては、聖様の不安を煽るでしょう」

明海
「…! は、はい…」


明海さんは、優しい女性です。
その優しさがあるからこそ、他のメイドも付いて来よう…と思うのでしょうから。
瞳さん、毬子さん、教子さん、そして悠和さん…
この4人が明海さんを信頼しているのは、ひとえに彼女の優しさと人望。
正直、人望という点においては、私は明海さんよりも劣るでしょう。
恐らく私では、性格的な面で人を惹き付ける事は出来ません。
てすが、明海さんにはそれが出来る。
それは、十分誇って良い長所だと私は思います。


愛呂恵
「さぁ、唖々帝さんたちが待っています…行きましょう」



………………………



実況
『さぁ、遂に準決勝の始まりだ!!』
『Aブロックを勝ち抜いて来たのは、これまた中々の強者揃い!!』
『まずはクワガノンの唖々帝! CPは20058で遠距離特化の電気・虫タイプ!!』
『相方を勤めるのはケケンカニの李! CPは20037で近距離特化の格闘・氷タイプだ!!』


唖々帝
「………」


「…へへっ、楽しみにしてたぜっ!」


ふたりはそれぞれやる気の顔でこちらを見据えていますね。
やはり、狙いは私ひとりですか…仕方の無い事ですが、苦戦は免れませんね。
とはいえ、負けるつもりは毛頭ありません。
ここは聖様最高のメイドとして実力を見せておかなければ。


実況
『続いて現れるのは、本大会3位のCPを誇る、ミミロップの愛呂恵!』
『そのCPは28112と種族の能力を考えれば、凄まじいレベルの高さを感じます!』
『ここまでもひとりでほぼ相手ふたりを瞬殺!』
『その戦闘時間も2戦合わせて約10秒と驚異的!』
『パートナーのダゲキはここまでほとんど活躍無し! CP的にも明らかに格下扱いですが、今回は活躍出来るのかぁ!?』


隣にいるダゲキさんは明らかにやる気が見えませんね。
レベルの違いは理解出来ているという所でしょうが、下手に手を出しても返り討ちが関の山。
決してそれは彼が悪いのではありません…ただ今回は相手が強いだけなのですから。


審判
「…それでは、試合始め!!」


私はそのかけ声と同時に床を強く踏む。
そして、前衛の李さんに向かって飛び膝蹴りの体制に入った。
李さんは両腕でガードを固め、受ける体勢に入っている。
いかに李さんのパワーといえど、正面から受けられるとは……


愛呂恵
「!?」


ピキィィィィン!! と、目の前に障壁の出現。
私は瞬時に危険を感じ、両耳を前面に突き出して無理矢理ブレーキをかけた。
辛うじて障壁に耳を突き立てる事で膝の衝突は免れ、反動を受けるのを回避する。
危ない所でした…下手をすればまた内蔵破裂の可能性もありましたね。
どうやら、祭花さんの作戦の様です…李さんの性格ならば突っ込んで来ると踏んでいたのですが。


唖々帝
「その隙は絶対に逃さん!!」


すぐに空中から唖々帝さんが全方位に『放電』をバラ撒いた。
李さんは『守る』で完全防御、こちらは無理矢理止まった為にかわし様が無い。
私は両腕を頭の前に交差して構え、耐える方を選ぶ。
かなりの高電圧に、全身が痺れる…これは、いきなりやられましたね。


実況
『見事に戦略がハマったぁ!! これぞドームの醍醐味!!』
『李を囮にして、狙い済ました唖々帝の全体攻撃! ついでに食らったダゲキはこれであっさりとダウンだぁ!!』


審判
「ダゲキ戦闘不能!」

祭花
「やったぁ! 作戦成功!!」

教子
「李さん、今です!!」


「おおよ!! 手加減なんてしねぇぜ!?」


李さんは障壁解除と同時に踏み込んで来る。
『インファイト』ですか…! マトモに食らえばダウンは確実。
ですが、当たれば…の話です。


愛呂恵
「!!」


「なっ!?」


まずは李さんの右ストレートを私はヘッドスリップでギリギリかわす。
そして体が流れた李さんの首に耳を巻き付け、ロックして腹に膝蹴りを放つ。
李さんは呻き声をあげるも、耐えてすぐに上から左のハンマーブローを落とす。
私はすぐに体を横に90度回転して回避する。
その際に耳は首から離しており、李さんは既に自由になっていた。
そして李さんの鉄拳は床を抉り、地面を揺らす。
同時に地面から冷気が放出、私の左足は瞬時に凍り付き、床に張り付けられて動きを止められた。


唖々帝
「李ぉ! 十分だ離れろ!!」


私は危険を感じる。
空中の唖々帝さんはオーラを纏い、凄まじい電気エネルギーを腹に溜めていたのです。
そしてそれは口の発射口へと集約され、青白い高圧電流が流れているのが目に見えた。
話に聞いてはいましたが、見るのは初めて。
あれが、唖々帝さんの全力技!


唖々帝
「撃ち抜く!! ライトニングショック! レェェェルガンッ!!」


それはまさに光速の電磁砲。
とても見てかわせる技ではありません。
そう…見てからでは、ですがね。

ドッバァァァァァァァァンッ!!と凄まじい爆発がおき、床を貫いて粉塵が舞い上がる。
視界は途端に悪くなり、それと同時に唖々帝さんは空中でフラついていた。
やはり、反動がありましたね?


実況
『何とここで唖々帝の隠し玉!? まさか見た事も無い大技で愛呂恵を強襲!!』
『李はバックステップするも、その威力に大きく吹っ飛んだぁ!!』
『直撃した愛呂恵は無事なのか!? 姿が見えない! まさか消し飛んだのかぁ!?』


唖々帝
「ど、どこに行った!?」

愛呂恵
「ここですよ!」


私は唖々帝さんの頭上から声をかける。
そして唖々帝さんがこちらを見る前に、私は全力で上から飛び蹴りを放った。
格闘タイプでは半減ですが、これはただの『八つ当たり』なのでタイプ一致です。
まぁ、運が悪かったと思っていただけると幸いでしょう。

私は唖々帝さんの背中を踏み抜き、そのまま地上に落ちる。
大技の後だけに唖々帝さんは完全に動きを止めており、問題無くヒットしましたね。
とはいえ、この代償は…大きかったです。


明海
「!? あ、愛呂恵さんの足が!!」


明海さんは悲鳴に似た叫びをあげる。
そう、これが代償です。
凍った足を無理矢理引き千切ったせいで、左足は靴ごと破れて完全に足の裏の皮が剥げ、肉もいくつか削げました。
しかし、その代わりに唖々帝さんは倒せた…後は李さんのみ!


審判
「ク、クワガノンの唖々帝、戦闘不能!!」


実況
『何と、左足を犠牲にしてあの大技をジャンプ回避! そのまま唖々帝をダウンまで持って行ったぁ!!』
『愛呂恵はそのまま李を見て構え直す! 左膝を軽く上げ、右足1本でも戦う気の様だぁ!!』


祭花
「嘘っ!? そこまでやる!?」

教子
「あ、愛呂恵さん…やっぱりスゴすぎる!!」


かなり痛みはありますね…左足首は完全に死んでいます。
膝は打てますが、動きは著しく制限されるでしょう…しかし、この程度であればまだハンデ同然です。
こちらはまだ本気にすらなっていませんからね。



「へへ…やっぱ強ぇなぁ! あんだけやっても上取られんのかよ!?」

愛呂恵
「降参する事を推奨します…一対一なら、まだ私は負けるとは思えません」


「そいつは有り得ねぇな! こんな機会でもなけりゃ、アンタと本気でやりあえねぇからな!!」


李さんは遅すぎる足で突っ込んで来る。
しかし、彼女の全身からもオーラが発され、再び私の頭は危険信号を発した。
そして、私は片足で大きく飛び上がる。
『高速移動』の効果で速度を倍加していますので、李さんの速度ではまず反応出来ないでしょう。



「生憎だが! アタシの必殺技は空中にも打てるんだぜ!?」

愛呂恵
「!?」


李さんは凄まじい冷気で床を叩き、そこから氷の柱を上空に打ち立てる。
空中で姿勢制御の利かない私の体は、その柱に囲まれ一気に凍結させられた。
これが、彼女の全力技!?



「フリージング!! クラッシャーーー! ナァァックル!!」


李さんは思いっきり両腕で地面を叩き、その衝撃で自身を氷柱の上に乗せて加速する。
スピードスケートの様な加速で一気に私の懐に近付き、冷気を帯びた右拳を私に打ち付け様とした。
しかし、私は抵抗してみせる。
私は両手と両耳の先端から炎を発し、周囲の凍結を溶かした。
そして上半身は動く様になり、高速で突っ込んで来る李さんの拳に合わせて、私は右耳をカウンターで迎え撃つ。
私の耳は『炎のパンチ』となり、李さんの顔面を綺麗に打ち抜いた。
そして李さんの拳は私に当たる事無く、直前で止まる。
その後、氷柱は粉々に砕け散り、美しい輝きを残して私たちと一緒に下へと落下して行った。
…が、李さんは、まだ諦めていなかった。



「うおぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁっ!!」


落下中にも関わらず、李さんは私の右耳を掴んで自分の方に引き寄せた。
そして硬く右拳を握り、ただそれを全力で振るう。
私は、それを腹でモロに食らう事になった。


愛呂恵
「!!」


凄まじい衝撃に私は吐血し、ダメージの度合いを測定する。
腹部内蔵に甚大なダメージ…ただの打撃ですが、これ程の威力とは…!

ズッシャァァァァァァッ!!とその後大きな音をたて、私たちは床に激突する。
互いに受け身も取れなかった為すぐには立てず、私は手で腹を抑え、耳を使って支えにし、何とか片足で立ち上がった。
李さんもヨロヨロとしながらも両腕をダラリ…と垂らしてこちらを見て笑う。
そうですか、楽しんでいるのですね…李さんは。


愛呂恵
「…見事、と言っておきます」
「正直、私自身に傲りがあったのだと、今は自分を戒めましょう」
「ですので、そんな貴女には特別にお見せします…」
「私の、本気の姿を…!」


私は遂にメガストーンの使用を解禁する。
本当なら鐃背さんとの戦いまで取っておくつもりでした。
準決勝から決勝までのインターバルで、再使用が出来るとは限らなかったですからね…
しかし、ふたりは予想を越えて強かった。
通常形態でも勝てる…その傲りが、この事態を招いたのですから。


実況
『な、何だ!? 突然愛呂恵の体が発光! 凄まじい光で視界が見えないぃ!!』



「出たか…これが!!」

祭花
「愛呂恵さんの…!」

教子
「メガ進化!?」

愛呂恵
「!!」


私は、形態変化が終わったと同時、李さんの顎に膝を叩き込んだ。
既に高速移動で速度は倍加、そしてこの形態の私の速度は更にもう一段上がります。
李さんはその圧倒的な速度に反応すら出来ず、飛び膝蹴りの直撃を食らって後に回転してダウンする。
私は激しく痛む左足を床に落とし、両腕を床に着いて息を荒らげた。
今ので、確実に意識は断ったはず…


審判
「…ケ、ケケンカニの李、戦闘不能!!」


その瞬間大歓声。
すぐに明海さんが私の元に駆け寄り、肩を貸してくれました。
私はその優しさに甘えます…今は、とにかく体を休めなければ。
片足に、内蔵に、メガ進化の使用…想像以上に大きな代償を支払ってしまいましたね。



………………………




「…愛呂恵さん、あそこまでして」

悠和
「…聖様、聖様は、あの姿がお望みですか?」


「そんなわけないだろ…! 俺は、本当は誰ひとり傷付いてほしくなんか無い!!」


「…でも、やらなきゃならない時はあるものよ」
「…特に、李さんは楽しんでいたしね」


そうだ、だからこそ愛呂恵さんも全力で応えたんだ。
例え自分が傷付いても、俺の為に勝つのだと証明する為に。



「悠和ちゃん、傷付くのは俺は望まない」
「だから、例え負けても俺は家族が傷付かない方を選ぶ」
「これは、別に命を賭けるバトルじゃないんだ…負けても、良い」
「でも、その中でも本気で闘いたいと思う家族もいる…俺はそれに関しては認めてあげたい」


「へへ…だから俺たちは聖が好きなんだ♪」


突然、横から鳴が現れる。
顔には包帯が巻かれており、斜めに巻き付けられていた。
だが鳴は笑っており、別に悔しさとかそういうのは無い様だ。
そういえば、鳴ってどっちかって言うと好戦的なイメージあるけど、実の所はどうなんだろうか?
とはいえ、今はそれは良いか…それより鳴の容態は大丈夫なのか?



「鳴、傷は大丈夫か?」


「ああ、包帯は大袈裟だって言ったんだけどな…」
「女の顔に傷が残ったら大変だから、こうしとけ!って医者に言われちまった…」


そうか…とりあえず無事ならそれが1番だ。
俺は安堵し、気を楽にする。
重症度合いなら、愛呂恵さんの方が酷いからな…



「聖は、心配が過ぎるんじゃないか?」


「…そう、か?」


俺は鳴に言われ、疑問に思う。
ベンチに座ったまま俺は俯き、合わせていた手を強く握る。
汗が滲むのを感じ、俺は体温が上昇しているのを理解した。
心配が過ぎる…か。



「…気持ちは解らなくもないけど、確かに過保護かもしれないわね」

悠和
「…でも、それが聖様の優しさでは?」


「俺たちはそこまでバカじゃねぇよ…聖に心配かける様な事はわざわざしない」
「でも、この世界みたいにバトルを楽しむ場所じゃ、その優しさは少し邪魔になる」


鳴の言葉は俺の胸に突き刺さっていた。
優しさが、邪魔…か。
だけど、理解はしている。
バトルが好きで闘ってるポケモンに心配しすぎていたら、トレーナーは務まらない。
むしろ、トレーナーなら背中を押してやるべきなんだ…
俺は…その辺やっぱり臆病なんだろうな。
特に、仲間同士で怪我してまでやりあうのはやはり辛い。
まぁ、今更ではあるんだけど…確かに、少し心配は過ぎたかもしれないな。



「…俺は、やっぱり偽善者だな」


「…そうね、でもそれが貴方らしさなら、良いんじゃないの?」


俺は少し力を抜く。
そして思い出す、俺は俺らしくあると。
でも同時にこう思う…俺の我を、家族に押し付けてはいけないとも。
認めてやらなきゃならないんだ、皆の闘いたい気持ちも。



「…なら、俺は見届けるか」
「どうせこうなったからには、もう止まらないんだ…」
「無事だけ祈って、皆を応援するさ…」

悠和
「聖様…」


「良いんじゃないか? 皆、聖が好きなんだから、文句なんて言わねぇよ♪」


ふたりは笑っていた。
安心したって顔だな…俺はやっぱり、皆に心配をかけてしまっている…
それが解ると、俺も笑いが込み上げて来た。
そして楽しめと言う言葉を思い出す。
そうだ、これは祭り…楽しまなきゃ、損か。



………………………



鐃背
「…ほう、愛呂恵の奴が本気になるとはの」
「あのふたりも、強くなっておったからの〜♪」
「うむうむ! 怪我は心配じゃが、楽しみなのは変わらぬ!」
「さて、次は妾の番じゃ! さぁ、行くぞ香飛利!?」

香飛利
「はい〜…」

土筆
「頑張れー!」

未生羅
「私たちは全力で応援だー!」


妾たちは駆け足で試合場に向かう。
さて、聖を負かした相手じゃ…どこまで楽しめるかの?



………………………



実況
『さぁ、次はBブロックを勝ち抜いた4人の登場だ!!』
『まず現れたのは、本大会最高のCP32089を誇る天空幼女、鐃背!』
『見た目は愛らしい子供だが、その力は伝説のポケモン、レックウザ!!』
『これまでのバトルでも、圧倒的な力で相手を薙ぎ払って来た!』
『まだ本気になった彼女は見られていない! このバトルで遂に見れるのかぁ!?』


はてさて、それはどうかの?
まぁ、相手も相当な強者みたいじゃし、期待感はあるがの。
しかし、幼女とは何じゃ幼女とは!
これでも大人じゃぞ妾は…見た目がこれなのは仕方無いのじゃが。


実況
『続いて現れたのは、CP18202とやや低めのオニドリル、香飛利!』
『ここまで一切攻撃はしておらず、ただ空を飛んでいただけのマスコット!』
『一体どんな技を使うのかも判明しておらず、強いのかも全く解らない!!』


まぁ、臆病すぎるからの香飛利は…実力はあるはずなんじゃが。
今回も香飛利は見ているだけじゃろう…実質一対一じゃからな。


実況
『さぁ、対戦相手も現れた! 強敵を打ち破っての準決勝進出!』
『見事なまでのスペックで戦うその姿は、美しくも強靭!』
『赤いドレスに身を包む、ガブリアスの舞理愛が入場!!』


出て来た相手を妾は笑って見る。
相手は鬱陶しそうにため息を吐き、ツインテールの髪をサラリと右手で靡かせて、ふん…と笑ってみせた。
自信はある様じゃな、気負いも全く無い。
間違いなく面白い闘いになろう。

そして、特に語る事も無い相方のフライゴンも現れる。
ぶっちゃけ、場違いにも程があるポケモンじゃ。
あ、いや…別にフライゴンをディスっておる訳ではないぞ!?
むしろ、作者的にはフライゴンはお気に入りじゃしの…活躍するかは置いておいて!
まぁ、今回も活躍はあるまい…ファンの者には残念じゃが。


審判
「双方、準備は良いか?」

鐃背
「うむ! いつでも良いぞ!」

舞理愛
「うふふ…無様に地を舐めさせてあげるわ!」


中々の大口じゃの…これは自信過剰という奴じゃな。
まぁ、実際に実力はある様じゃし、ある程度は仕方ないかの。


審判
「それでは、初め!!」

鐃背
「…? そなた、右腕が動かんのか?」

舞理愛
「!! それがどうかしたのかしら? これ位ハンデでしかないわ!」

鐃背
「成る程、鳴の残した爪痕か…くふふ♪ どうじゃ? 鳴の一撃は重かったろう?」


妾は試合中だというのに、笑ってそう言ってやる。
すると、舞理愛はイラついた顔で髪をかき上げ、キッ!とこちらを睨んだ。


舞理愛
「ふんっ! あんな程度の相手、弱すぎて話にならなかったわ!」
「まぁ、私の強さに怯えて降参する様な臆病者ですもの、その程度よね♪」
「私の体に傷を付けたのはあくまで運! たまたまの結果よ…」

鐃背
「…成る程、これは少々調子に乗りすぎておる様じゃの」
「少し、『灸を据えてやろうか!?』」


妾がそう言うと、衝撃波が巻き起こり舞理愛は後に吹き飛ぶ。
その衝撃波はフライゴンも吹き飛ばし、フライゴンは後方の壁に叩き付けられた。
不意の一撃になってしもたの…少々強めの『ハイパーボイス』じゃったから、気絶したかの?


審判
「え? あ…フ、フライゴン戦闘不能!!」


実況
『唐突なハイパーボイス!! 舞理愛は何とか踏み止まるも、フライゴンは壁に叩き付けられて速攻ダウン!』


大歓声と共に観客は思い思いの声を出していた。
妾は少し舞理愛を睨み付け、両腕を組んで少し浮遊する。
舞理愛は鬱陶しそうな顔で目を見開いて睨み返して来た。


舞理愛
「不意討ちとはやってくれるじゃないの!?」
「覚悟は出来ているという事ね! なら無様に散りなさい!!」

鐃背
「少し黙れ!」


余裕を見せすぎている舞理愛相手に、妾は『神速』で突っ込む。
偉そうに喋っている舞理愛を余所に、妾は舞理愛の顔面を左手で掴み、それを床に叩き付けた。
衝撃で床は少し砕け、妾はすぐに手を離して少し離れる。
舞理愛は顔を抑えて怒りを露にし、その場ですぐに立ち上がって左腕を横に薙いだ。
妾はそれを容易く左手1本で受け止める。
舞理愛は驚いた顔で目を見開き、早くも息を荒らげていた。


鐃背
「どうした? 偉そうな割には大した事無いの?」
「自慢のパワーとスピードはどうした?」

舞理愛
「くっ! 舐めるんじゃ無いわよ!!」


舞理愛は突然体を震わせ、妾の腹に突撃して来る。
その速度は尋常では無く、音が遅れて聞こえて来た。
まさに、音速を越えた『ドラゴンダイブ』! こ、これは流石に効いたの…!
じゃが、ダメージを顔に出しては調子に乗られよう…!


鐃背
「くふっ! それでこそよ!!」


妾は左手で『ドラゴンクロー』を返す。
舞理愛はすぐに回避するも頬を切り裂かれ、後方によろめく。
妾は飛行し、その場で横に回転して『ドラゴンテール』を放った。
妾の長い尻尾は舞理愛の体に当たるも、舞理愛は右腕でガードし、その場で踏み止まって吹き飛ぶ事を拒否する。
やりおる…! 妾の一撃を正面から止めるとは!


舞理愛
「こんな程度で…私に勝てると思わないで!!」


舞理愛は再び体を震わせる。
妾はすぐに『神速』で空中に飛んだ。
舞理愛は音速を越えた速度で突撃するも、そこに妾はいない。
いくら速くても、モーションがバレバレじゃ…あれでは発動前にかわせるわ。
そして、妾はハッハッハ!と空中で笑い飛ばした。
舞理愛はバカにされたと思ったのか、ワナワナと震えて怒りを表現する。
短気な奴じゃのう…しかも自信過剰じゃし、実力はあるのにそれを引き出せておらん感じじゃな。
まぁ、恐らくは今まで好敵手に恵まれなかったのじゃろう…それは勿体無い事じゃ。


鐃背
「舞理愛よ! 少しは楽しめ!!」

舞理愛
「はぁっ!? いきなり何を言うのよ貴女は!?」
「私を楽しませたいなら、さっさと木偶にでもなりなさいな!!」


これはドSと言う奴なのか?
1部のマニアには需要があるという?
まぁ、それは置いておき、舞理愛はそもそも闘いに置ける考えがこちらとは違いすぎる様じゃな…


鐃背
「そなた、何で闘うんじゃ?」

舞理愛
「決まっているでしょう!? 勝つ為よ!!」
「勝利こそが至上! 圧倒的な力の前には全てが小さく見える!!」
「そしてその壇上に立つのは常に私! そうでなくてはならないの!!」


うーむ、これは重症じゃな…流石に妾も予想しておらんかった。
とはいえ、世界は広い…聞き分けの無さすぎる相手もいよう。
ならば仕方はあるまい…それなら相手のやり方で教えてやるしかないの。


鐃背
「舞理愛よ! そなたは確かに強い! じゃが、その強さを全く使いこなせておらん!!」
「そして! 強さとは相手を倒す事だけで身に付く物ではない!!」

舞理愛
「何が言いたいのよ…貴女はぁぁ!?」


舞理愛は空中の妾を狙って飛び上がって来る。
その顔は怒りに狂い、『逆鱗』の効果だと一目で解る物だった。
妾は、もはや言葉はいらぬと判断し、その場で後方に一回転する。
そして体を煌めかし、まるで星々が輝く様な光を纏って妾の体は光となる。
そのまま、妾は左拳を前に突き出して突進する。
逆鱗で向かって来る舞理愛を正面から打ち砕き、妾は反動に体を痛めるも顔には出さずゆらりと床付近で浮遊した。
舞理愛は錐揉みしながら斜めに吹き飛び、遅れてドッシャァァァァッ!!と大きな音をたてて地上に落ちる。
これで、終わりじゃな…


審判
「ガブリアスの舞理愛、戦闘不能!!」


その宣言と共に大歓声。
妾は地上に降り、つかつかと舞理愛の元に歩いて向かった。
どうやら気絶はしておらぬ様で、意識はある様じゃ…本当に大した者じゃな。
妾はそれを見下ろし、とりあえず無事を確認して安堵する。
少々本気になってしまったからの…『画竜点睛』は危険すぎる技だけにあまり使いたくは無かったんじゃが。


鐃背
「少しは解ったか? 相手に見下げられる辛さが…」

舞理愛
「………」


舞理愛は声を出せない様じゃった。
意識は朦朧としておるか…じゃが、声は聞こえている様じゃ。
妾は舞理愛を左手1本で持ち上げてやり、それをトレーナーの元に届けてやる。
トレーナーは特に感情も出しておらぬな…成る程、それがあやつの敗因か。
本当に、勿体無いのぉ…


鐃背
「舞理愛よ! もし今より強くなりたいならば、魔更 聖に会うが良い」
「そして、妾の決勝を見届けよ…」


それだけ伝えて、妾は背を向ける。
さて、次はいよいよ愛呂恵との闘い。
どうなる事かの…?



………………………




「流石だな、鐃背さん…」


「やっぱスゲェよな〜あの強さはちょっと憧れるぜ」


鳴も種族上は同じ位のスペックがあるはずなんだがな…それでも鐃背さんとの差はかなり大きい。
まぁ、鳴は今体を鍛えてないし、戦闘力やレベルで劣るのは仕方ないと思うけど。



「…妥当と言えば妥当ね、予想通りのカードって感じ」

悠和
「そうですね…両者共に強さは申し分無いですし」


「後は愛呂恵さんの回復次第か…」


今までの経緯で考えて、大怪我はすぐに回復しない。
愛呂恵さんの足は、間違いなく治らないはず。
腹にも一発貰って喀血してたからな…李さんの鉄拳は相当効いてるはずだ。
だとすると、ほとんどダメージの無さそうな鐃背さんが圧倒的に優位すぎるが…



「…鐃背さん、顔に出す人じゃ無いからダメージは解らないわね」


「ああ、あのドラゴンダイブを直撃されて、無事だって言うだけでおかしいと思うんだよな」


ドラゴンタイプはドラゴンタイプに効果抜群。
鐃背さんは平気な顔して歩いていたけど、ホントに何ともないのか?
少なくとも、並じゃない威力に思えたけど…



………………………



鐃背
「…かっは!!」


ビチャァッ!と洗面台が妾の喀血で真っ赤になる。
やれやれ…これは内蔵をやられとるな。
肋骨も数本折れとる…たった一撃じゃったが、我ながらよく耐えたもんじゃ。
しかし、愛呂恵とて負傷しておる…むしろこれ位のダメージがある方が対等であろう。


鐃背
(…聖なら、止めるのであろうな)


妾は血を洗い流して笑う。
一応治療は受けておくか…無駄かもしれぬが、足しにはなろう。
聖もきっと見ているはずじゃし、それに舞理愛に見ろと言ってしまったからの。
とりあえず、決勝を華々しく戦わねばなるまいて…
妾はそう思って顔を洗い、すぐに治療室へと向かう。
折れた骨は仕方ないにしても、内蔵だけでも止血出来れば良い。
とにかく、見る者に心配はさせぬ様にせねば…



………………………



実況
『さぁ、遂に決勝が始まろうとしております!』
『ここまで激戦を潜り抜け、上り詰めた4人のトレーナーとポケモンはどんなバトルを見せてくれるのか!?』


愛呂恵
「………」


実況の声と共に私はフィールドへと歩く。
左足は包帯を巻いており、普通に歩く事も難しい状態です。
内蔵も辛うじて応急処置はされたものの、体力の低下はやむ無し。
この状態で鐃背さんに勝つのは…難しいでしょうね。


鐃背
「………」


鐃背さんは香飛利さんと一緒に歩いて来る。
ただでさえ無傷の香飛利さんまでいるのですから、ひとりで戦うというのは辛い物です…

ちなみに、今回は事前に相方のトレーナーには手を出さない様に伝えてあります。
ここまでの戦い、もはやいるだけの存在も同然。
それならば、初めから安全地帯にでもいてもらった方がマシという物ですので。


審判
「両者、準備は良いか?」

愛呂恵
「…はい」

鐃背
「…うむ」


互いが頷くと、審判はコールする。
そして、あまりにも不利が解りきっている決勝は、始まってしまった…



………………………




「始まったな…」


「…マトモなら試合にならないレベルね」


愛呂恵さんの傷は相当深いはず。
足は間違いなくマトモに動かない…スピードだって、どこまで出せるのか?
対して鐃背さんは見た目的には無傷。
が、何故か半袖の黒シャツだった上着が赤シャツになってる。
着替えたみたいだけど、何かあったんだろうか?



「貴方が魔更 聖とか言うトレーナー?」


「ん…? あれ、お前は確かガブリアスの…」


突然声をかけて来たのは、包帯まみれの舞理愛だった。
最後の一撃は強烈だったからな…むしろよく動けたモンだ。
しかし、何で俺を…?
彼女は何やら鬱陶しそうな顔で目を細めていた。
はぁ…と息を吐き、少し顔を背ける。
そして、呟く様なトーンの声でこう話した。


舞理愛
「何よ…誰かと思えば、降参して逃げ出した臆病者じゃない」


いきなりだなオイ…まぁ、別に良いけどな。
今の発言で少し悠和ちゃんが反応したが、舞理愛は特に気にしてなかった。
棗ちゃんと鳴もモニターに集中している。
もう試合開始だからな…初っぱなからどうなるか。


舞理愛
「………」


舞理愛は訝しげな顔をしながらもモニターを見た。
何を思ってここに来たのかは知らないが、別に邪魔をするでもなく、ただ観戦しに来ただけの様だ。
最後に鐃背さんが何か言ってたみたいだけど、それに関係あるんだろうか?



………………………



審判
「試合、初め!!」

愛呂恵
「…!」

鐃背
「………」


遂に試合が始まった。
妾は腹部の痛みに耐えながらも、愛呂恵を睨み付ける。
あくまで平静を装い、ダメージなど無いのだと相手には思わせる。
愛呂恵はそんな妾の顔から何かを読み取ったのか、すぐには攻めて来ず、慎重になっている様じゃった。
愛呂恵にしては珍しいの…攻める時は基本先手を取って来るはずじゃが。


鐃背
(予想以上に足のダメージは大きいか?)

愛呂恵
「………」


実況
『おっとぉ…意外にも静かな立ち上り』
『愛呂恵と鐃背は構えたまま自分からは攻めず!』
『ダゲキと香飛利は後方待機で、戦う気すら感じません!』


やれやれ…あの足じゃから、攻めるよりもカウンター狙いという所かの。
しかし、そう簡単に行くかな?
妾は意を決し、神速で踏み込む。
1秒かからずに妾は射程距離に入り、そこから愛呂恵の腹めがけて右の掌低打を放った。


愛呂恵
「!!」

鐃背
「!?」


しかし予想されておったのか、愛呂恵は既に回避動作に入っており、右足を軸に横回転して妾の掌低を捌く。
そして間髪入れずに右耳で妾の首を狙う。
妾はそれを後方に回転してかわした。
そのまま妾は宙を舞い、愛呂恵の顔面に向けて横から右の蹴りを放つ。
愛呂恵はそれが当たる瞬間に首を捻り、蹴りの衝撃を逃がしてしまった。
やりおる! ここまでは想定済みか!?
妾はその勢いのまま一旦飛行して距離を取る。
空中で体勢を変え、妾はゆらり…と1m以上は離れた位置で着地した。
愛呂恵は片足を上げたまま、追撃はしない。
あくまで迎撃重視、動けないなりの作戦じゃな。


鐃背
(さて、ああなると崩すのは厄介じゃの)


愛呂恵の手数と勘はズバ抜けておる、真っ向勝負ではすぐには崩せまい。
妾も全開で動けるのには限界がある。
もし少しでも動きを鈍らせれば、その時は一気に攻め込まれよう。
愛呂恵は必要最小限の動きでスタミナを節約しておる…動きの大きい妾の方が消耗は速いか…
とはいえ、ここで飛び道具に頼るのは無粋という物。
やはり持ち得る格闘術で打ち倒してこそ闘いよ!
ましてや愛呂恵も接近戦重視、相手が使わぬのに小細工を弄するのは弱者のする事。
それが命を賭けたやり取りならばいざ知らず、この様な祭りの場でそんな無粋な真似は観ている者が不愉快になろう。

妾はここで微笑する。
愛呂恵は表情ひとつ変えず、構えてこちらを待っておった。
やはり、行くしかないの…!



実況
『目の覚める様な一瞬の攻防からまた静寂!』
『互いに隙あらば、一瞬で相手を倒しかねない力の持ち主!』
『このバトル、まだまだ始まったばかりです!! 果たして、どちらが先に隙を晒すのか!?』


鐃背
「ふっ!!」

愛呂恵
「!!」


妾はあえて正面から飛び掛かる。
飛行して接近し、尻尾を揺らめかせてくねる様に移動した。
愛呂恵はこの動きを冷静に見ておるが、迷いは生まれたはず…
妾の攻撃は、飛行タイプ故に手、足、尻尾を自在に操れる。
その気になれば風をも操れるが、それは今使う力ではない。
愛呂恵は手、足、耳を自在に操るが、それはあくまで地上に立っての戦法。
ましてや片足を痛めている今の愛呂恵では、捌くにも限界はあるという事よ!


愛呂恵
「!?」

鐃背
「はっ!!」


妾は愛呂恵の射程距離に入ったと同時に、体を縦回転させて上から尻尾を振り下ろす。
愛呂恵は一瞬だけ反応が遅れるも、それを両耳でしっかりと受け止めた。
そして尻尾を掴み、それを自分の方に引き寄せて今度は拳を構える。
妾は逆さまの状態で引き寄せられるが、構わずそこから尻尾を上に振り回す。
すると、片足でしか踏ん張れない愛呂恵はいとも容易く宙に浮いた。
妾はそのまま地面に振り回すが、愛呂恵は耳を途中で離して難を逃れる。
しかし、それは妾の策。
空中で身動きの取れぬ愛呂恵は格好の的!
妾は落下し始めている愛呂恵に向かって体勢を整え、そしてそこから飛行して間を詰める。
そのまま愛呂恵の腹部に向けて妾は爪を向けた。
愛呂恵は危機を感じ取ったのか、空中で迎え撃つ体勢に入る。


鐃背
(カウンター狙い!? 確かにリーチは妾の方が短いが…!)

愛呂恵
「!!」


互いの技がほぼ同時に交錯する。
妾は空中で軌道を調整し、何とか愛呂恵の蹴りをかわした。
しかし、同時に体が流れて妾の爪も当たらない。
これ以上はタイミングが合わせられず、愛呂恵はすぐに着地してしまった。
ぬぅ…! やはりリーチの差はいかんともしがたいか…



………………………




「互いにまだ有効打無しか…」

悠和
「ですが、鐃背さんが攻めあぐねてますね…愛呂恵さんの防御はほぼ完璧です」


「だけど、愛呂恵さんは足が本調子じゃない…いつかは捕まるはずだぜ?」

舞理愛
「…それも鐃背のスタミナが持てばでしょ?」
「かなり無理してるみたいだけど、鐃背のダメージも相当のはずよ?」
「少なくとも内蔵破裂と肋骨数本は折った感覚があったから」


俺たちはギョッとする。
凄まじい一撃だとは思ってたが、そんな状態で鐃背さんはあの動きをしてるのか!?
だとしたら、自分から常に動いている鐃背さんは…?


舞理愛
「少なくとも一撃で倒すつもりで放った物よ?」
「それを食らって、あそこまで平気そうな顔されたら、こっちとしては不愉快極まりないわね…」


舞理愛は鬱陶しそうにそう言う。
それだけ、手応えもあったんだろうな…それを鐃背さんは悟られない様に振る舞ってるのか。


舞理愛
「…屈辱だわ、左手しか使わなかった相手に負けたなんて」


「…そういえば、お前の時は左手でしか攻撃してなかったな」


思えば、あの時の鐃背さんは少し不自然だった。
だが、理由を考えればすぐに解る。
舞理愛にとっては、ただ不愉快なだけだったんだろうけど。


舞理愛
「…何であんなに楽しそうに戦えるのよ」


「そりゃ、鐃背さんだからなぁ」


俺は軽くそう言う。
モニターから鐃背さんたちの闘いを見ながら、俺も少し微笑した。
鐃背さんは笑いながら闘っている。
あの人は何をやるにも常に楽しんでがポリシーだからな。



「鐃背さんがお前に左手しか使わなかったのは、お前が右手を使えなかったからだ」

舞理愛
「…何でよ? わざわざ自分を不利にする理由は無いでしょ?」


「あるよ、あの人には」


俺が即答すると、舞理愛は心底解らないという顔で?を浮かべる。
俺は呆れた顔でこう説明してやった。



「あの人は、常に何かを楽しまないと気が済まない人だ」
「ことバトルにおいては、鐃背さんは1番楽しむ」
「その為なら、自分が不利になろうが関係無い…結果楽しくなるなら、あの人にとっては勝ち負けすら二の次だ」

舞理愛
「理解出来ないわ…じゃあ何故鐃背は戦うのよ?」


「楽しむ為さ…あの人は勝つ為に闘ってるんじゃない」
「楽しむ事が、楽しい事が、あの人は幸せなんだ…」


俺はモニターを見ながらそう呟く。
鐃背さんは今も存分に楽しんでいる。
本来ならメガ進化して圧倒する事も出来るのに、それをあの人はしない。
あくまで対等、楽しめるならハンデはいくらでも構わないという人だ。
弱い者は弱いなりに策を練る事も、鐃背さんにとっては喜ばしい。
例え多対一でも、それが弱者の努力と知恵なら笑って認めてくれる。
鐃背さんの根底にあるのは、あくまで楽しみ。
だからこそ、相手をする者も楽しんでくれるのが、鐃背さんにとってはベストなんだろうな…


舞理愛
「…理解出来ないわ、でもそれで私より強いだなんて」


「お前だって強いさ…言う程鐃背さんと差は無いだろ」
「ただ、お前は鐃背さんとは闘いの捉え方が違いすぎる」
「心に余裕が無い様じゃ、鐃背さんにはまず勝てないだろうな」


舞理愛は不愉快そうな顔でモニターを睨み付けていた。
鐃背さんは愛呂恵さんと幾度も攻防を繰り返し、段々と動きを鈍らせている。
愛呂恵さんも無傷では無い、鐃背さんの技はいくつか貰って息を荒らげていた。
もうそろそろ、決着は見えて来るか?



………………………



鐃背
(ちぃ…意識が一瞬遠退いたか)


先程の攻防で愛呂恵の蹴りをこめかみに貰ってしまった。
痛めている足でも平気で蹴りを放つあやつは恐ろしい執念よな…
愛呂恵の痛めている足からは既に血が滴り、尋常ではない痛みがあるはずだと予想出来る。
妾も腹部の痛みは増すばかり…折れた肋骨が内蔵を刺しておる。
長引けば不利なのは解っておった…じゃが、妾は楽しい♪
愛呂恵は強い女よ…妾はこれ程の相手と楽しめる闘いに幸福を覚える。
やはり、良いのぉ〜♪


鐃背
(じゃが、勝つのは難しくなったか…)


恐らく動けて後数分。
メガ進化すれば勝てようが、それでは卑怯でしかない。
愛呂恵は既にメガ進化を使っておる、この試合では使えまい。
それなのに、妾がメガ進化するのは平等ではない。
観ている者も嫌な気分になってしまう…妾はそれだけは譲れぬ。
妾は…自分だけではなく、他の者にも楽しんで欲しいのじゃから…


愛呂恵
「……審判、私はここで降参を選びます」

審判
「えっ!?」

鐃背
「な、何じゃとぉ!? 待て愛呂恵! 妾はまだ…」


愛呂恵は構えを解き、審判に降参を告げる。
妾は止め様とするも、審判はすぐにコールし、妾の無条件勝利が決定してしまった。
それでも大歓声は轟き、観客は十分楽しんだのだと理解はする。
妾は痛む腹を押さえながら、その場で俯いた。


実況
『遂に決着!! ラストはまさかの降参宣言!!』
『ダメージが限界だったのか、愛呂恵が敗北を宣言する形で試合終了!』
『相方のダゲキもこれを受け入れ、鐃背と香飛利の勝利が決定したぁ!!』
『そして、これにて鐃背、香飛利の両者は最後のバトル、このドームのスーパースターと対戦だぁ!!』


妾はそれを聞いてハッ!?と顔を上げる。
そして同時に理解した…何故愛呂恵が降参したのかを。


愛呂恵
(あのまま闘えば、勝つ事は恐らく可能でした)
(ですが、そうなれば私もダメージが重なり、その後の相手にひとりで勝つのは無理だと判断しました)


愛呂恵は、妾に託したのだ。
聖の為に、この後の闘いを制しろと…
愛呂恵のダメージでは、もう次の試合は闘えぬ…という事か。
妾は右拳を硬く握る。
そして、腹の痛みに耐えてその場から離れた。
おのれ…最後に良い所を譲りおって!
妾は笑う、それなら存分に楽しまねばな!!



………………………




「…愛呂恵さん」

悠和
「あの愛呂恵さんが、降参するなんて…」


「…あくまで愛呂恵は、家族の誰かが勝てば最低構わないというスタンスだったんでしょうね」
「…でも、共倒れに近い形で鐃背さんを倒しても、それは施設の攻略にはなり得ない」


「あくまで、最後のブレーンを倒してクリアだもんな」

舞理愛
「…自分の勝利には拘らないのね」


愛呂恵さんの降参はあくまでドームの攻略を見据えての事だ。
鐃背さんのタッグは香飛利が無傷だし、最悪鐃背さんが負傷してても勝つ目は十分ある。
だけど、愛呂恵さんは実質ひとり…愛呂恵さんが負傷してしまったら、それで試合終了なのだ。
それでは、鐃背さんに勝っても意味が無いと判断したのか。
ある意味、愛呂恵さんらしい判断だな…鐃背さんを信頼してるからこそ、降参を選んだんだ。


舞理愛
「…どっちにしても、鐃背はかなりのダメージよ? 勝てる見込みはあるの?」


「…まぁ、そうだな」

悠和
「…鐃背さんの事だから」


「相当本気になるだろうな…」


「…誰かに本気で頼まれたら、それこそ手加減を忘れかねない人だものね」


舞理愛は?を浮かべていたが、俺たちは容易に想像出来ていた。
愛呂恵さんに託された鐃背さんが、どんな顔して闘うのかを…



………………………



実況
『さぁ休憩を挟み、いよいよフロンティアブレーンとの激突!』
『本来ならマルチバトルですが、この戦いのみはブレーン側はひとりでふたりのポケモンを使用します!』
『さぁ、果たして挑戦者は勝てるのか!?』


スーパースター
「よくぞここまで! 君たちのタクティクスは素晴らしい!!」
「そして、これが最後のバトルだ! さぁ始めよう!!」


そう言って現れたのはふたりの男。
かなりの強さには思えるが、それでも今の妾には物足りぬ。
しかし、今回は愛呂恵に託された以上、手加減はせぬ。
先程の治療でダメージは幾分回復したが、内蔵のダメージは相当大きい…


審判
「それでは、試合初め!!」

鐃背
「悪いが、今回はこちらも余裕が無いでの…少々遺憾じゃが、本気を出させてもらう」


実況
『な、何だぁ!? 突然鐃背の体が煌めき始める!!』


妾は試合開始と同時にメガ進化を解放する。
数秒後に進化は終わり、妾は久し振りに変化した体を動かして感触を確かめた。
うむ、やはり内蔵のダメージはそのままじゃな…体躯が大きくなってもダメージは変わらぬ証拠よ。
そして、妾は少し目を細めて相手ふたりを睨んだ。
妾の眼光を受け、明らかに怯むふたり。
やれやれ…これは到底楽しめそうにはないの。


実況
『て、天空幼女が、突然天空美女に!?』
『一体これは何なのか!? レックウザにまさかのフォルムチェンジ!?』


ほう…この世界では妾のメガ進化は認知されておらぬか。
まぁ、それも仕方あるまいな…妾もこの形態は維持が大変じゃからの。
ましてや大怪我をしている今の状態…持って5分かの。
もっとも、そんな時間をかける気は毛頭無いが。


鐃背
「では、行くぞ…頼むから、死ぬではないぞ?」


妾はそう言って神速を使う。
その瞬間に血を吐きそうになるが、歯を食い縛って耐える。
そして、いきなり面食らった相手の片方、赤い髪と服を予想するに、炎タイプらしき者の顔面に右の裏拳を見舞った。
すると、打撃音と共にそいつは吹っ飛ぶ。
じゃが、数m程床を滑っただけで倒れはしなかった。
むぅ、浅かったか…やはりダメージが大きく、神速の直後は意識がブレるの…


実況
『いきなりの先制攻撃!! 神速の速度で攻撃し、ゴウカザルが吹っ飛ぶぅ!!』


スーパースター
「ラグラージ! 『冷凍ビーム』!!」

ラグラージ
「!!」


ラグラージと呼ばれた青髪青服の男は口を開けて冷凍ビームを放つ。
攻撃直後の妾には隙が出来ており、かわすのは無理。
すぐに反撃の指示をするとは、流石よの。
食らえば流石にタダでは済まんが…


鐃背
「温いわ!!」


ズバァァァァン!!と途端に大爆発。
妾は左手で『火炎放射』を放ち、冷凍ビームにぶつけて相殺した。
その際に妾の周りは大量の水蒸気で覆われ、霧がかかる。
しかし、妾はその霧を一瞬で消してみせた。
直後に妾を中心に乱気流が巻き起こる。
いかなる気象現象ですら、妾の前には全てが無力!
これぞ我が特性…『デルタストリーム』よ!!


実況
『会場が乱気流に覆われている! これは『エアロック』の効果ではない!?』


スーパースター
「さ、流石はレックウザ! まさに神がかり的な力だ!!」
「しかし! これはポケモンバトル! タイプ相性を覆す事は出来はしない!!」
「ゴウカザル! 『ストーンエッジ』!!」


ゴウカザルはその場で地面を拳で叩く。
その瞬間、妾の真下からいくつもの鋭利な岩の刃が飛び出して来た。
しかし、その刃は乱気流の影響で勢いを弱める。
妾の体を傷付けはするものの、それは到底致命傷には至らなかった。
そして妾は怯む事なく、ストーンエッジを食らいながら、まずはラグラージに向けて『竜の波動』を放った。
それは一直線にラグラージへと向かい、ラグラージは咄嗟にガードするも、耐えられずに吹き飛ぶ
そして背中から床にダウンし、立ち上がる事は無かった。
やれやれ…飛び道具は個人的に苦手なのじゃがな。


審判
「ラグラージ戦闘不能!!」

スーパースター
「一撃とは…! だが、私は最後まで諦めない!!」
「ゴウカザル、『ビルドアップ』!!」


ここに来てゴウカザルは能力を高める。
その意気や良し! 妾も少しは楽しくなって来た!
妾は微笑し、首をコキコキと鳴らす。
時間は後2分程か…後一撃が限界かの。
もっとも、妾が倒れた所で香飛利がおるが。
今回ばかりは負けるわけにはいかぬ…故に、香飛利にも今回は万が一の詰めは任せておる。
もっとも…出番があるかは解らんがの。


スーパースター
「…黙って待つとは恐れ入る! しかし、慢心は大敵と知るがいい!!」
「行けゴウカザル! 『インファイト』!!」


ゴウカザルは恐れる事なく接近して来る。
良い面構えじゃ、主を信頼しておる証拠じゃの。
まだまだ力不足ではあるが、努力の後も感じ取れる…良い関係の様じゃの♪
妾は軽く目を瞑り、そして大きく息を吐く。
やがて、ゴウカザルが射程距離に入り、全力で拳を振るって来た。
妾はその拳よりも更に速い速度で、ゴウカザルを吹き飛ばして数m前に移動する。
同時に時間が切れ、妾は通常形態に戻った。
右拳を振り抜いた格好で妾は立ち尽くし、やがて血を吐く。
やはり…限界じゃったの。
妾は笑ってそのまま意識を失う…最後の『神速』、内蔵が反動には耐えられなんだ……



………………………




「…結局、鐃背さんの一人舞台か」


「だけど、限界だったんだな…最後の一撃で気絶しちまってる」

悠和
「それでも立ったまま気絶なんて…鐃背さんらしいと言うか」


「…そうね、鐃背さんだから、最後まで笑っていられたんでしょうし」
「…本人も満足だったんじゃない?」


確かに、鐃背さんは満足そうな顔だった。
例え気を失っても、鐃背さんは倒れる事なく笑っているんだから…
本当に、らしい闘いだな。


舞理愛
「…何よ、あれ? あんな変身を隠してたの?」
「私相手には、それを使う必要すら無かったって事?」


舞理愛は呆然としてワナワナ震えていた。
悔しいんだろうな…プライド高そうだし。
でも、きっと鐃背さんはそんな自分のバトルを見せて、舞理愛に教えてやりたかったのかもしれない。
楽しんでバトルをする事が、どれだけ重要なのかを…


舞理愛
「気に入らないわ…! ちょっと貴方!? 後で私に付き合いなさい!!」
「今度は私が優勝して、まだ負けていないという事を証明してあげるわ!!」


「な、何で俺が!? お前にはトレーナーがいるんじゃないのか!?」

舞理愛
「あんなのはいるだけの存在よ! 昨日今日出会っただけの関係!」
「光栄に思いなさい! この私が直々に指名してあげたんだから! 精々私の力になれる様に努力なさい!!」


そう言って舞理愛は対抗心メラメラでやる気になっていた。
って、片腕やられてるくせに何言ってんだか…
しかし、そんな事も舞理愛は考えていないんだろう。
きっと、今は鐃背さんに追い付きたい一心で言ってるんだろうから…



「やれやれ…またマルチでやるつもりか?」

舞理愛
「当然よ! でも安心なさい! この私がひとりで全滅させてあげるわ!!」


とんでもないビッグマウスだ…本気なんだろうな。
しかし、ことのほか舞理愛は楽しそうだ。
俺も少し微笑ましかった。
鐃背さんの目的は、きっと全部達成されたんだろうな…



………………………



華澄
「…はぁ、はぁ、はぁ……!」
「ぐぅ…!! み、三海…殿!?」


拙者は、窮地に立たされていた。
今、拙者たちがいる場所は、バトルフロンティアの端…最西端のとある路地裏。
そこは暗く、トンネルの様な場所になっており、その先は何も見えぬ漆黒の闇。
そこで、ぼんやりと体を光らせ、三海殿はカタカタとカラクリ人形の様な挙動で虚ろな目をしていた。
三海殿の周囲には、死屍累々の死体が多数。
元々、この辺りを根城にしていた集団だった様で、会うなり拙者たちを攻撃して来たならず者。
だが、三海殿は突如暴走し、全てをバラバラの死体へと変えてしまった。
拙者は意味も解らず、三海殿を止めようとしたが、反撃されて既にボロボロ。
まさか、ここまで三海殿が強いとは思っていなかった。
しかし、三海殿はその余りある力が諸刃の剣。
既に三海殿は痩せこけ、力の使いすぎで生命力が低下していた。
聖殿が危惧していた通り、三海殿は長時間戦える体ではない。
このままでは、三海殿が自滅してしまう! 何としても止めなければ!!


華澄
「三海殿ぉ!! どうか気を確かに!!」

三海
「ア…アァ……」


三海殿は明らかに正気ではない。
いや、拙者も他人事ではないのだ…


『タタカエ……タタカエ……タタカエ……!』


華澄
「ぐうぅぅっ!? こ、この声は一体!?」


そう、不定期に頭に響くこの謎の声。
集団で囁かれる様に拙者を蝕み、意識を遠ざけさせる。
そして、拙者の体は自分の意識から切り離されて動きそうになる。
これは危険すぎる!! 恐らく、三海殿はこの声に干渉されて暴走しているのだ!
拙者は無理矢理精神力で抑え込んでいるものの、並の人間では逆らえないのかもしれぬ。
つまり、ここに屯っていた者たちも、その影響で襲い掛かって来た可能性が高い。
ここには、一体何があると言うのだ!?


『タタカエ……! タタカエ……! タタカエ……!』


華澄
「止めろぉ!! 拙者に、三海殿と殺し合えと言うのかぁ!?」


拙者は必至に耐える。
息を荒らげ、天を仰いで咆哮した。
このままでは、三海殿か拙者が死ぬ!!
いや、最悪どちらも死ぬかもしれぬ! それだけは、それだけは避けなければ!!

拙者は全力で身構え、決して無意識には動かぬ姿勢を取った。
三海殿はほぼ限界、これ以上戦えばもはや命は無い!
チャンスは恐らく1度のみ…三海殿を気絶させて、すぐにこの場から離れさせる。
それさえ出来れば、三海殿は助かるはずでござる。
いや、むしろそれしか無い! 拙者の命を賭けても、必ず三海殿は生還させなければ!


華澄
(…申し訳ございませぬ聖殿、この華澄…やはり、恩知らずでござる)


聖殿がいれば、両方救ってくださるのだろう。
しかし、拙者にそんな力は無い…精々、どちらかが生き残る道しか選べぬ。
ここで三海殿を見捨てるか、拙者が死ぬか…
両方生き残るのは、あまりに難しすぎる賭け。
失敗すれば両方死ぬ。
拙者は…臆病者かもしれぬ。


華澄
(もう時間は無い…一瞬で懐に入り、超能力を悪タイプで無効化しつつ三海殿を気絶させる!)
(後は三海殿を外に投げ捨てれば終わり…! 拙者の命は二の次で良い!!)


拙者は事前に悪タイプになっている為、今は三海殿のエスパー技は無効化出来る。
しかし、三海殿は賢い…すぐに別のタイプで攻撃して来るやもしれぬ。
速度が自慢の拙者でも、三海殿には到底追い付けぬ…それ程に三海殿は規格外。
今なら弱っている為、そこに隙は生まれると信じたい…!


華澄
(三海殿…どうか、生きてくだされ)


拙者は死を覚悟する。
タイミングは一瞬…失敗すれば、両者助からぬ!
拙者は意を決して突っ込む。
三海殿は反応し、我武者羅に超能力を放つ。
しかし拙者にはそれは通用せず、空間と地面だけが抉られる。
拙者は真っ直ぐ射程に入り、そしてタイミングを測った。
三海殿は右手に力を集中し、波動を練る。
後先考えない力の集中…体の負担は限界だというのに…!


華澄
「しかし! それがミスでござる!!」


拙者はここで『影打ち』を使用し、三海殿の足を攻撃してバランスを崩した。
三海殿は構わずに拙者を『波動弾』で攻撃するも、それは拙者の体をすり抜ける。
拙者はその隙に三海殿の側頭部、耳の裏を拳で強打し、三海殿の意識を断ち切ってみせた。
そして、間髪入れずに三海殿の襟元を掴み、その場でトンネルの外に向けて投げ飛ばす。
三海殿は人形の様に外へと飛んで行き、恐らく安全地帯だと思われる所まで到達した。


華澄
「…やはり、ここまで…か」


拙者は意識を乗っ取られる。
謎の声…戦いを強要するかの様なこの集団の声が、拙者の体を突き動かす。
もはや、何も解らぬ…考えられぬ…拙者は、どうなってしまうのだ?


『タタカエ! タタカエ! タタカエ! タタカエ!』


段々声は強くなっていた。
同時によりハッキリと声が伝わる。
まるで憎悪に染まった声、一体この声の主たちはどうなってしまったのだろうか?
それを最後に…拙者は意識がプッツリと……途絶えた。










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第6話 『鐃背VS愛呂恵再び! そして…迫り来る何か』


To be continued…

Yuki ( 2019/05/15(水) 09:30 )