とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない














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第7章 『バトルフロンティア』
第5話
牙皇
「祝! バトルパレス攻略!!」


ワァーーー!!と、現状集まっている家族 αが騒ぐ。
俺が持ってるゴールドパスを利用して、チト大きめの食堂を貸しきったのだ。
流石に食事代は人数制限有りとの事で、オーバーする分は我慢してもらう。
まぁ、そりゃ仕方無いわな…



「っていうか、牙皇さん入院しなくても大丈夫なんですか?」

牙皇
「たかだかアバラ折れた位で大袈裟な…こんなモン、日常茶飯事だ!」


牙皇さんはガハハッと笑って、早速酒を飲んでいた。
まぁ、この人に限っては心配はいらないか…
俺はそう思ってもうひとりの功労者を見る。


万丁
「大愛さん、これ…」

大愛
「ああ…悪いな」


大愛さんは右腕が使えない為、慣れない左手で食事を取っていた。
万丁君はそんな大愛さんをしっかりとフォローしており、心なしか大愛さんも安心している様に見える。
やれやれ…どうにか肩の荷は下りそうだな。


女胤
「聖様、どうぞ…」

騰湖
「聖殿、これも…」


女胤は何やら怪しい色の茶…か何かか?を出し、騰湖は露骨に怪しい匂いの蛇料理を差し出した。
俺はとりあえずそれらに手を出す事なく、こう言い放つ。



「大方媚薬に精力剤か…隠す気無いなお前ら?」

女胤
「うふふ…だって今夜は♪」

騰湖
「朝まで寝かせません!」


俺はとりあえず無言で立ち上がり、さっさとその場を離れる。
そして調理場に向かい、調理を手伝っている悠和ちゃんの所へ向かった。



………………………



悠和
「あれ、聖様どうかしました?」


「あそこは危険だ…とりあえず、俺もこっちを手伝う!」


あれじゃ、おちおち飯も食ってられない。
どんな異物を混入されてるか、信用もならんからな。
後一応、厨房を手伝う事を条件に全員分の食事を用意してもらうって契約だから、いっその事俺も手伝った方がマシなのだ。


光里
「あはは…聖君モテモテだもんな〜」


光里ちゃんも、料理の練習がてらこっちを手伝っている。
悠和ちゃんが慣れないながらも色々教えているみたいで、光里ちゃんは真剣に料理を勉強している様だった。



『おい、そろそろ追加頼む』


「ん…了解っと」


藍からテレパシーで催促を受け、俺は悠和ちゃんが完成させた料理をテーブルに持って行く事にする。
流石に悠和ちゃんは慣れてるよな…味も文句無しだし、スピードもある。
和食が得意ではあるものの、他のジャンルもちゃんとハイレベルだな♪



………………………




「ほらよ、とりあえず冷麺に唐揚げ!」

櫻桃
「悪いね、これ食べたらアタシも手伝うよ」

借音
「はい、悠和さんたちにも休んでもらわないと♪」

麻亜守
「ハグハグ…これも美味しい♪」


櫻桃さんたちは、そう言って手早く食事を取っていく。
料理人が複数いたのは僥倖だったな、これなら悠和ちゃんも負担が少なくて良い。
ある程度食事が進んだら、交代出来るのは好ポイントだ。



「うん、冷麺ヒヤヒヤでサイコー♪」


「外気温は何気に現実とあまり変わらないんだよな…この世界も大概の暑さだ」


「まぁ、それも混沌次第だからな…夏だと思ったら雪山に飛ばされる事もあるし、今回は気候がいきなり変わらないだけマシな方だ」


藍は、色々考えながらも食事を取っていた。
ちゃんと野菜も食べている様で何より。
穹は…ピキピキに凍りかけてる冷麺を、美味しそうに食っていた。



「神狩さんと瞳さんは結局来れなかったか…」


瞳さんは特にダメージが大きかったみたいだからな。
大事を取って今はまだ入院中だ。
神狩さんは瞳さんに付き添ってくれている…自分だけ楽しむわけにはいかないとの事だった。



「さっとしさ〜ん、飲んでる〜?」


「うわっ!? 杏さん、酒臭いですよ!?」


俺の背後から、杏さんがベロベロに酔って抱き付いて来た。
何気に、杏さんとこういったスキンシップは初めてだからドキドキするな…
杏さんって見た目はテキトーそうな感じだけど、その実頭の回転は速くて、凄く智略が長けてるんだよな…
人を見た目で判断出来ない好例だが、何分こういった弱点もあるのがな…



「聖さん寂しい〜? アタシが今日は添い寝してあげよっか〜♪」
「妹たちなんて、あの歳でまだアタシに甘えてくるんだよね〜」

浮狼
「ふふ、未生羅と土筆は、産まれてからずっと貴女と一緒に生きてきたからでしょう」
「その為に、貴女が辛い人生を歩んだのは悲しい事ですが…」


杏さんは、俺を背中から抱き締めて少し黙る。
杏さんの長い髪が俺の頬に当たり、それはゆらゆらと揺れていた。
ちゃんと石鹸の良い匂いがする。
あれから入浴したんだな…杏さんって、やっぱり見た目は結構気にしてるのかも。
毒虫タイプって背景もあるだろうけど、杏さんは根本的に女性的な悩みが多いのだ。



「…アタシはね、ホントは妹たちを巻き込みたくなかった」
「でも、あの娘たちは力が無いから、あの世界じゃ生きていけなかったかもだし…」

浮狼
「…私が助けた時も、貴女は血塗れで妹たちを守っていましたからね」


俺は想像して少し怖くなる。
あの退廃的な世界で、杏さんは妹ふたりを守りながら生きてきたんだ。
きっとその為にいつも傷付いて、その度に生きる術を学んで…
そして、浮狼さんと出会った事で、ようやく道が開けたんだな。



「なぁ聖さん…妹たち、何か働ける宛とか無い?」
「今は内職位しか出来てないし、本格的に働き口が欲しいんだよね…」


「そう言えば、未生羅さんと土筆さんは今年19歳になるんですよね?」
「華澄と同世代で、職が無いってのも確かに問題はあるか…」

女胤
「だそうですよ、騰湖さん?」

騰湖
「ふ、ふふ……わ、我は戦闘で活躍出来る分、他の同世代とは違う!」


「無職でニートとか、ぷふー!」

騰湖
「貴様も変わらんだろうが!? 櫻桃殿と同世代の癖に、家でゲームばっかりやってニート満喫か!?」

櫻桃
「マジで…? アンタ、その見た目でアタシと同世代かよ!」
「とはいえ、ニート羨まし〜…アタシもそうなりたかったな〜」


やれやれ、向こうは向こうで揉めてるな。
とはいえ、職探しはそろそろ考えた方が良いか…遺産も無限じゃないからな。
ここん所出費も多めだし、対策も考えないと…


浮狼
「私も、定期的には大城戸殿の護衛をさせていただいてますし、そういった職は?」


「あ〜ダメダメ…あの娘たちに単独護衛とか何しでかすか」


「あまり詳しくは知らないんですけど、妹さんたちって得意な事とかあるんですか?」


「食って寝て、走る位しかやらした事無いからなぁ〜」
「そのせいか、未だにホイーガのままだし…せめて早く進化出来れば良いんだけど」


典型的な過保護の末路だな…
とはいえ、杏さんに罪は無い、あるのはあの崩壊しかけた世界だ。
あんな生きるか死ぬかの世界じゃなければ、ふたりはもう少し個性があったのかもしれない。


浮狼
「未生羅も土筆も、双子らしく違いが無いのも問題ですね…」
「見慣れてる私でも、まだ間違う時がありますし」


「アタシは臭いで解るけどね〜♪」


「た、確かに…言われても、どっちがどっちとか解りませんね」


俺は間違いなく無理だと確信出来た。
あのふたり、似すぎてるんだよな〜


光里
「それなら、とりあえず髪型変えるとかどうかな?」
「服装もあえて反対の色にするとか、とりあえず好みの方向を変えていけば、その内自然に見分けられる様になると思うよ?」


いつの間にか、こっちに来ていた光里ちゃんがそうアドバイスする。
流石は現代っ娘…その発想力は、こういう時素直に頼りになるよな〜


浮狼
「成る程、服や髪型ですか…」


「う〜ん、ふたりとも好みの色とか無いんだよね…何やるにしてもアタシの真似しかしなかったから」

光里
「よっぽとお姉ちゃんが好きなんですね…そこまで好かれてると、今から変えるのは難しいかな?」


「いや、逆だろ…むしろ杏さんが勧めれば簡単に受け入れるんじゃないのか?」


「あ〜それはあるかも…」


とりあえず、反論は無さそうだった。
良くも悪くも杏さんありきの性格なら、それを逆手に取るのも一考だろ。


光里
「ちなみに、妹さんってどんな見た目なんですか?」


「えっと…説明するのは難しいかな」


「ホイーガ特有の特徴が目立ちますからね…」

浮狼
「まぁ、いずれ会えましょう…機会があった時に、またお願いします」

光里
「そうですか…だったら、連絡先交換しません?」
「折角、関わり合いになれたんですし、もっと色々知りたいんで♪」


「うむ、それなら私もやりたい…ニート同士でゲーム対決とか胸熱」

騰湖
「堂々とニートを認めるな廃人!」


光里ちゃんはあはは…と苦笑いしながらも、ここにいる家族と連絡先を交換しあった。
基本的に俺の家族には、全員携帯電話を渡してあるから、問題は無い。
都合上、住所合わせる為に会社契約で割引してあるからな…
一応、俺の家はマサラITエンジニアリングの事務所のひとつ、という名目にしてある。
つまり、俺の家族は学生以下の年齢以外は名目上全員社員となっているのだ。

まぁ…これの最大のネックは、税金問題なんだがな!
今の所、成人組は全員ちゃんと年金も払ってる。
三海だけは例外で年齢詐称しているが、ここは致し方無し!
現状は会社の収入も余裕があるし、遺産が尽きる頃にはそれなりに収入は得られてると思うのだが…
可能な限りは、自力で稼いでは欲しい所だな…



………………………



牙皇
「ふい〜食った食った!」

ルチャブル
「今日はご馳走さま、助かっちゃったわ♪」


「いえ、牙皇さんにはお世話になりましたし、この位は気にしないでください」


こうして祝勝会は終わり、牙皇さんたちはこれからふたりで別の宿を探すそうだ。
少し名残惜しいが、ふたりを縛るわけにはいかない。
ここは笑顔で見送ろう。


牙皇
「ありがとな、聖! お前から貰ったリングネーム、大事に使わせてもらうぜ!!」

ルチャブル
「もう…それだと、私も考えなきゃならないじゃない」

牙皇
「はははっ! それならイカすのを考えないとな!!」
「じゃあな聖! 大愛の奴にもよろしく言っておいてくれ!!」


そう言ってふたりは、夜のフロンティアを歩いて行った。
夜中だというのに、ここは本当に賑やかだ。
とはいえ、未だ明確なクリア条件は解らない。
なので…今は楽しむしかない、だな。

牙皇さんたちも、今回はまだ滞在出来てるみたいだし、会う機会はまだあるかもしれない…



(しかし、結局華澄たちは帰って来ないか)


三海のサーチは、結局何だったのだろうか?
華澄が一緒な以上、無茶な事にはならないと思うんだが…



(まさか、戻れなくなった理由が出来たのか?)

華澄
「あ、聖殿…」


「あれ、華澄? 今戻ったのか…三海は?」


何と、予想外に華澄はひとりで戻って来ていた。
近くに三海の姿は見えない…むしろいたら、真っ先に抱き付いて来るはずだからな。
この時点で、俺は何か妙な感覚に陥った。
例えるなら、現実と夢の境目が解らなくなったかの様な…そんな感じ。



「聖さん、気を付けて!! そいつ華澄ちゃんじゃねぇですぜ!?」

華澄?
「!? こ、こんな所にメタモン!? ええい! しょうがない!!」


華澄は、いきなり俺の頭を殴り付ける。
俺はそのまま意識を持っていかれ、あっさりと気絶してしまった…



………………………



華澄?
「悪いけど、貴女たちの愛しの王子様は貰って行くわ!」

メタモン
「お・の・れ! さては、聖さんの精子を独り占めする気かっ!?」
「ゾロアかゾロアークか知らないが、この悶々! 例え地の果てまでも追いかけて絞り尽くしてくれる!!」


「いい加減にしろこのクソボケェ!!」


私は、全力で悶々の後頭部にやかんを投げる。
やかんにはグツグツに煮え滾った熱湯が入っており、悶々に当たってそれはぶちまけられた。


悶々
「熱っ!? ちょっ、これ火傷じゃ済まな…って沙譚さぁん!?」

沙譚
「テメェ…ただでさえ意味不明な世界だってのに、よくもまぁそんだけ性欲爆発させられるわな!?」
「人様に迷惑かけんなっつってんだろうがぁ!!」


熱湯をぶっかけられて悶絶している悶々の頭をアタシは踏み抜き、とりあえず周りを見る。
妙だな…何で誰も注目しない?
端から見たら、こんな光景は人目を集める行為だ。
なのに、道行く人は誰ひとりとしてこちらを見ていなかった。


華澄?
(とりあえずチャンス!)

悶々
「あっ、聖さん!?」

沙譚
「あん? 魔更がいたのか?」


何やら小さな背の少女が、男をひとり抱えて走って行った。
アタシは全く状況が理解出来ず、とりあえず悶々を解放して話を聞く事にする。


沙譚
「おい、お前何か知ってるのか?」

悶々
「だから、あれはゾロアかゾロアークっていうポケモンですよ!!」
「誰かに化けて聖さんを計画的に誘拐したんです!!」
「僕が変身出来なかったから、まず『イリュージョン』で間違いないです!」


アタシは、マジな顔でそう説明する悶々を見て驚く。
だとしたら…アタシは知らなかったとはいえ、誘拐犯を助けちまって事か…!
ざけやがって、よりにもよって知り合い拐われるたぁ、迂闊だったね。


沙譚
「ちっ、ここにはバイクも無ぇし…追うのは無理か」

悶々
「ん? さ、沙譚さん、こんな物が!」


悶々は、足元にあった小さなカードを拾ってアタシに見せた。
名刺よりも少し大きい位のカードだね。
そして…それには全く読めない字で、何か文章が書かれている様だった。
字が汚いとかじゃない、見た事の無い文字なんだ…


沙譚
「何だこりゃ? 全く読めん…」

悶々
「えっと…そちらの愛する王子様は確かにいただいた、取り返したくば、明日バトルチューブへ来られたし…怪盗ルナリー」


ん? 悶々にはこれが読めるのか…って事は、もしかしてポケモンにしか読めない文字なのか?


沙譚
「怪盗だぁ〜? つまり、魔更の野郎がソイツに拐われたって事か…」
「しかし、わざわざ場所を指定とは…罠でもあんのか?」

悶々
「早くしなければ、今夜にでも聖さんの活きの良い精子がどこの馬の骨とも解らん女の子宮に!!」


アタシは、悶々の頭を殴り飛ばして黙らせる。
まぁ、どうせ効きゃしないんだけど…とりあえず意味は通じるだろ。


沙譚
「まぁ、わざわざ時間も場所も指定してんだ…急ぐ必要は無ぇだろ」

悶々
「沙譚さん、よく冷静でいられますね?」

沙譚
「別に、魔更が誰と寝ようが知ったこっちゃねぇよ」
「死ぬ訳じゃねぇなら、とりあえず慌てるこたねぇ」
「それより、魔更の家族とかはいねぇのか?」


アタシはそう言って周りを確認するが、流石に特定は出来ない。
知った顔は美代位だし、流石に都合良くいるとは限らねぇからな。
しかも、この世界はただでさえポケモン人間が多数いやがる。
誰が誰の家族とか、アタシにゃあ訳が解らない…


悶々
「うーん、とりあえず聞き込みでもします?」

沙譚
「仕方無ぇな…アタシのミスっちゃあミスだし、とりあえずバトルチューブに行くぞ?」


アタシはそう言って、前に入手しておいたパンフレットを開く。
運を試す施設ね…やれやれ、面倒そうだ。


悶々
「って、もしかして僕で挑戦するつもりですかぁ!?」

沙譚
「それ以外に誰がいる? お前なら相手の能力は全部コピー出来るんだから、別に不利にはなんねぇだろ?」

悶々
「それ、沙譚さんが全ポケモンの能力と技を把握してれば…ですよ?」
「ただでさえ相手の力も把握出来ないのに、ぶっつけ本番でコピー戦仕掛けるなんて、相当厳しいと思いますけど?」


悶々は、珍しく正論をつらつらと言い放ちやがった。
確かに、アタシじゃポケモンの技とかは解らねぇわな…
だが、逆に悶々に勝手にやらせりゃどうにかならねぇのか?


悶々
「ちなみに、僕バトルとかほとんど無理ですからね?」
「◯ックスバトルなら何Rでもやらせてもらいますけど!!」

沙譚
「分かったもう良い…とにかく指定されてる以上、そこに行くぞ?」
「そこで誰かやれそうなのと組んで挑戦だ…お前も手伝えよ?」


悶々はそれを聞いて、は〜い…と、気の無い返事で答え、アタシの後を付いて来た。
やれやれ…我ながら早速面倒事に巻き込まれたな。
魔更の奴、どうなってるやら?



………………………




「…はぁ」


「そんな深いため息吐く?」
「別に良いじゃん! これもエンターテイメントなんだから!」


俺は、ちょいキツめのグルグル巻きで上半身を縛られていた。
とりあえずほとんど動けないわけだが、俺はどこかの一室で監禁されている。
床に座っている俺の目の前にいたのは、長い赤髪のゾロアーク。
ゾロアーク特有の髪型で、髪の先端を水色の玉で束ねており、
髪の毛の先端は黒くなっている。
耳は人間と同じ位置にあるが、斜め上にピンと突き立っており、イメージ的にはエルフとか魔族とかのそれだ。
そしてツリ目でやや子供っぽい表情だが、レースクイーン系のピッチリした黒タイツで身を固めており、見た目はまさに怪盗らしく◯ャッアイ!
バストも相応に大きく、身長160p程にも関わらず、80後半は確実にありそうだった。



「とりあえず、目的は何だよ?」

ゾロアーク
「バトルチューブの活性化! こんな訳解らない世界に放り込まれて、こっちも頭抱えてんのよ…」
「当面、私の生活費はここのブレーンさんにみてもらう代わり、この施設が流行る様に手伝ってくれって頼まれてるの!」


成る程な、この人も巻き込まれたタイプか。
で、何でそれで俺がピンポイントに狙われるのかねぇ…?



「俺が拐われる事で、何のメリットになるんだ?」

ゾロアーク
「簡単よ、アンタ結構な数のポケモンを率いてるみたいじゃん?」
「だから、アンタをダシに引き寄せようって腹♪」


「それで、何で華澄に化けたんだ?」


俺の疑問はそれだ。
華澄に化けたって事は、華澄と会っていたはず。
肝心の華澄たちが帰って来ない以上、コイツが原因の可能性は高い。
俺はややキツめに睨むが、ゾロアークははぁ…と、バカにする様な目でこう言った。


ゾロアーク
「アンタ根本的に私の特性勘違いしてるみたいだから、一応教えてあげるけど」
「私が使うイリュージョンの特性は、見る者の認識を変える能力よ?」
「つまり、私からしたら別に化けているつもりはないの…」
「ドゥユーアンダースタン!? 解る?」


俺は、ポカーンと口を開けて考えた。
認識を変える…ねぇ。
ゾロアークは少しイラつきながらも、強い口調で言葉を続ける。


ゾロアーク
「もぅ…! つまり、アンタが勝手にそう思い込んでるだけって事!」
「私の特性は、声や姿、感覚まで騙せるから、私が普通にアンタに話しかけても、アンタから見たらその華澄ってのが話してる様に、口調含めて誤認するわけ!」


俺はようやく理解する。
つまり、コイツが華澄の事を知らなくても、俺がそう思い込んでるからそう見えたって事か。
ゲーム中では自分のポケモンに化けるからつい勘違いしちまったな…
コイツのイリュージョンは、認識齟齬を利用した特性なのか…


ゾロアーク
「今度こそ、ドゥユーアンダースタン!?」


「はぁ…そうかよ、それなら悩みが増えただけだ」


詰まる所、華澄と三海の事は何も解らないって事だ。
くっそ…何か、嫌な予感がしてくるな。


ゾロアーク
「…そんなに嫌そうな顔しなくても良いじゃん?」
「無理矢理拐ったのは謝ったし、私だって生活費の為に必至なんだから!」


「別にそれは良いよ…好きにすれば」
「こっちは別件で悩んでんの…まぁ、家族を信じるしかないんだが」

ゾロアーク
「例の華澄って娘? そんなに大事な恋人なんだ♪」


ゾロアークはからかう様にそう言う。
俺は別に慌てる事もなく、ため息を吐いてこう返した。



「ある意味、恋人よりも大事だよ…」
「家族ってのは、そういうモンなんだ」


俺が少し遠い目でそう言うと、ゾロアークはピンと立てていた耳を少し下に垂らす。
何だよ…何か気に障る事言ったか?


ゾロアーク
「な―んか、達観してるね…そういうのって疲れない?」


「…そう、見えるか?」


ゾロアークは特に答えなかった。
だけど、あまり良い印象は持たれていないみたいだ。
少なくとも、つまらなさそうに俺から目を反らしていた。



「つーか、アンタやけに子供っぽいよな?」

ゾロアーク
「誰が子供よー!? これでもピッチピチの21歳なんだからーー!!」


そう言って、ゾロアークはワザとらしくセクシーポーズで胸をブルンブルン揺らす。
ヒジョーに眼福だが、この性格ではなぁ…
色々と勿体無い…やはり個人的にはもっと儚さそうなのが好みかな?
まぁ、ツンデレ系を非難するわけではないが、ここまで露骨なのはウチの家族にいねぇもんな〜
しかし、21歳をピッチピチと言えるかは何ともだな…



「まぁ、良いや…盛り上げるなら好きに盛り上げてくれ」
「俺はとりあえず寝てる…眠いし」

ゾロアーク
「あ〜まぁ、もう深夜だからね〜」
「トイレとか行きたいなら気軽に言ってよ? その状態じゃひとりで出来ないだろうし」


「つーか、逃げないから解いてくれ…結構痛いんだよ」


俺がそう言うと、ゾロアークは少し考えて仕方無さそうにロープを解く。
俺はようやく自由になり、とりあえずため息を吐いた。
やれやれ、痕が残ってんじゃねぇか…道理で痛い訳だ。


ゾロアーク
「ホントに逃げないでよ? もう誘致カードバラまいてんだから…」


そこまでやってたのかよ…確かに、それで俺が逃げたら暴動所じゃないな。
女胤や騰湖辺りは施設ごと爆破しかねん!
俺はとりあえず頭を掻き、改めて周りを見渡した。
倉庫みたいな所だが、布団すら無ぇな…



「とりあえず、逃げないから布団くれ」

ゾロアーク
「えっ…そんな、私まだ心の準備が…!」
「で、でも、どうせなら子供は3人位欲しいかも♪」


コイツは何を勘違いしてるのか、頬を両手で押さえてモジモジしていた。
俺は冷静になり、頭を抱えてため息を吐く。
いい加減耐性付いたよな…変態を複数相手にする事に比べれば、この程度のネタでは、もはや動じなくなってきたわ!



「…はぁ、俺はひとりで寝るから布団をくれと言ってんだ」

ゾロアーク
「あ、そ、そう…そうよね!」
「やだな〜深読みしちゃったよ…私ってエロ可愛いから♪」


自分でエロ可愛いとか言うなよ! そっちの方が恥ずかしいだろ!?
どうも、この人の思考パターンは今までに無いタイプだ…
ツンデレ系で、やや天然で、お馬鹿もあり…属性盛りすぎでバランス最悪だな。
ここん所、コンセプト的にはシリアスか熱血寄りのキャラばっかだったから、ある意味新鮮だが。
ゾロアークさんは、何だか無駄に楽しそうな感じで布団を取りに向かった様だった。
俺はまたため息を吐く…とりあえず、メンドクセェ。



(いや、別に悪い人じゃ無いと思うんだよ…?)


しかし何でかなぁ〜あれには、何故だか女胤と似たよ〜な雰囲気を感じる。
性格も特徴も何ひとつ一致しないのに、何故かそういう臭いを感じるのだ…
これは、つまり女胤と同じタイプの空気ポジになる気がする…?
いや性格的には貴重だし、案外一皮剥ければ目立つかも!?



(つーか、そもそも女胤と比較したらいかんな…アイツの不遇属性は、もはや作者公認の神託レベルだからな)


恐らく、今でも必至に俺を探してるんだろう。
俺はそんな女胤たちを想像しながら、少し笑いが込み上げる。
さてさて…少しでも盛り上がれば上々か。
やっぱ、こういう時は素直に楽しめねぇとな♪



………………………



沙譚
「さて、指定通りに来てやったが…」

悶々
「まだ朝の6時ですよ〜? 流石に早すぎません?」


悶々は露骨に眠そうな顔でそう言う。
アタシはため息をひとつ吐き、とりあえず歩いてこう言った。


沙譚
「施設は24時間営業だろ? なら、翌日ならいつ来ても文句を言われる筋合いは無ぇな」

悶々
「うわぁ〜屁理屈もそこまで堂々とされると、何も言えませんね…」


アタシは、悶々の頭を1発ぶん殴ってから施設内に入る。
まずは使えそうなポケモンを探さねぇとな…



………………………



沙譚
「悶々、お前の知ってる奴はいるか?」

悶々
「ん〜と、あ! いますね〜…でも、何か機嫌悪そうですよ?」


アタシは、悶々が指差す方向を凝視する。
すると、確かにあからさまに機嫌の悪そうなケモ耳女が、受付近くで何やら揉めている様だった。


ケモ耳女
「だから何でやねん!? 別にトレーナーおらんでも構へんのちゃうん!?」


関西弁かよ…ポケモンでもそういう方便とかあるのな。
とはいえ、コイツは悶々の知り合いみたいだし、つまりは魔更の野郎と関係があるってこった。
とりあえず、まずは交渉だが。


受付
「ですから、ここはあくまでトレーナーとポケモンが一緒になって競い会う場所で…」

ケモ耳女
「せやから、参加だけでええんや! 別に報酬とかはいらんねん!」

沙譚
「おいアンタ、騒ぐのは勝手だがな…周りが迷惑してんの見えねぇのか?」
「順番待ちが大勢いんだ…とっととどけや?」

悶々
「沙譚さん!? それ、交渉じゃなくて喧嘩売ってますよね!?」


やかましい、アタシなりの交渉だ!
これでも譲歩してんだぞ…関係無かったら問答無用で殴り飛ばしてる所だからな。
とりあえず露骨にイラついた顔で、関西弁のケモ耳女は舌打ちしてアタシの顔を見た。
やれやれ、気性の荒そうな犬だな…躾が足りてねぇぞ魔更。


ケモ耳女
「何やアンタ…? 人間か…偉そうな事言うてくれるやん」


そう言いながらも、ソイツはすぐにその場から離れて行った。
ほぉ…? 場は弁えてるか…ただの短気じゃ無さそうだな。
アタシは少し感心しつつも、ソイツの後を追って行く事にした。



………………………



沙譚
「おい、アンタここに挑戦したいんだろ?」

ケモ耳女
「だったら何や? アンタには関係無いやろ…」

沙譚
「ああ、無いね…あるのは魔更のアホを取り戻す事だけだ」


アタシがそう言ってやると、ケモ耳女は目を見開いて驚く。
解りやすい奴だ…そんなにアイツが大事か。


ケモ耳女
「…人間で聖の知り合いなんて、数える程しかおらん」
「しかも、変態メタモンと一緒って事は、アンタ聖のクラスメートか?」


数える程しか、ね…寂しい奴だな魔更。
…アタシも人の事は言えねぇが。
とりあえず、アタシは冷静にこう返した。


沙譚
「生憎それは去年の話だ、今は別のクラスだよ」

ケモ耳女
「成る程な…さしづめ、ウチを利用して何とかしようって腹か?」


どうやら、頭はキレるタイプの様だな…まさしくその通りだ。
アタシは鼻で笑い、そのまま交渉を開始する事にした。


沙譚
「手柄はくれてやる、だから力を貸せ」

悶々
「交渉下手すぎる! それじゃ無理でしょ!?」

ケモ耳女
「ええで、それで構へんわ…願ったり叶ったりや」

悶々
「良いんですか!? マジで!?」


アタシたちは交渉成立とし、まずは握手を交わす。
まぁ即席のタッグだが、期待はさせてもらうか。


ケモ耳女
「ウチは阿須那や、キュウコンの阿須那」
「そっちは何て言うんや? 肝の座った嬢ちゃん…」

沙譚
「赤城 沙譚だ…嬢ちゃんは止めろ」
「後…悶々の事は知ってんだっけか?」

阿須那
「ああ、聖から聞いたわ…ちなみにコイツも参加するん?」


アタシはあ〜…と、悶々を見て考える。
冷静に考えたら、コイツひとり置いて行くのはマズすぎるな。
となると、ダブルバトルとかいうルールで参加になるんだが…


阿須那
「…役に立つんかコイツ?」

悶々
「もちろんですよ! 絶対に気持ち良いって言わせてからイカせてみせます!!」


その瞬間、阿須那の右手から炎が発射される。
と言っても『火の粉』程度だが、悶々はかなり熱かった様で悶えていた。
少し周りから不思議そうに見られたが、まぁ悶々だし別に良いだろ。


沙譚
「戦力外なのは間違いねぇな…変身能力は大したモンだと思うが」

阿須那
「それも、アンタが相手の情報を素早く把握出来な意味無いからな」
「ウチに声かけたって事は、自信無いんやろ?」


確かに図星だ。
元々それが出来るなら初めからやってる。
だからこそ、頼んだわけだからな。


阿須那
「…放置は出来んしな」

沙譚
「解ってくれるか…? 全くもって同意見だ」

悶々
「そこまで信用されてない!? 大丈夫ですよ、同意の元でしかヤりませんから!!」

沙譚
「お前の場合は、その時点でも問題なんだよ!!」


アタシは手荷物の入ったバッグで悶々の顔を吹っ飛ばす。
どうせノーダメージだから、全力でやってやった。
そして予想通り、悶々は体をうねらせてすぐに元に戻る。


悶々
「だって皆性欲には逆らえないんですし、子供作りたいと思うのは生物の本能でしょ!?」


その理屈は解らんでもないが、お前の場合はアタシの姿でやりかねないから困るんだよ!
しかもその場合は、ちゃんとアタシの遺伝子でデキちまうから余計にタチが悪い。
その場合、身に覚えが無いのに認知しろとかアホな事を言われる事になるからな。
高校生で子持ちとか洒落にならんぞ…


阿須那
「とりあえずダブルやな…その方がマシやろ」
「ふたり位なら、ウチひとりでどうにかしたる!」


阿須那は強気だな、自信もある様だ。
とはいえ、気がかりな所はまだある。


沙譚
「お前、運には自信あるのか?」

阿須那
「…何とも、言えんな」
「強いて言うなら、最近は悪いと言える位や」


アタシは冷や汗を垂らす。
この施設は、とにかく運が重要らしい。
悶々は…良く解らねぇが、アタシもあまり運が良いとは言えねぇ。
そうなると、仮に悶々が幸運だとしても不幸がふたりじゃ割に合わない。
運のパラメータで分岐するとしたなら、確実に不幸側に分岐するって事だろ?
それじゃ、ここは容易にクリアは出来ないはず…
アタシは、一端パンフレットに目を通す。
そこにはルール概要が書かれており、アタシはそれをもう1度確認しておいた。


沙譚
「シングル3体のルールもあるのか…」

阿須那
「そうなると、もうひとりいるわけやが…やるならそっちの方が良さそうやな」
「しかも、幸運属性ならなお良し! やが…」


そこまで都合の良いパートナとかいねぇだろ。
まぁ、実力さえあれば何とかなるだろうし、とにかく強そうなのがいれば良いんだが…



「あれ、阿須那ちゃんじゃない? ここにいるって事は、例のカードの件?」


突然声をかけられて、アタシたちは一斉に振り向く。
すると…そこにいたのは、これでもかという程の美貌を持った美人さんだった。
女のアタシから見ても、一瞬戸惑う程の美しさ。
そして…その姿を見て、阿須那は嬉しそうにこう話す。


阿須那
「白那はん!? ええタイミングですわ!」

白那
「え? と、言うと…?」


アタシたちは自己紹介もかねて、まずは事情を説明する。
すると…白那と言う美人の人は、気の良い返事でこう言ってくれた。


白那
「もちろん良いよ♪ ただ、運の方は期待しないでね?」
「オレ、むしろ振り切ってる位には不幸だと思うから…」


どうやら相当な実力者の様だが、その分犠牲になっている所もあるらしい。
だが、挑戦しない事には何も始まらない。
まずは、この3人で挑戦だ!!



………………………



職員
「それではCP測定しますので、どうぞおひとりづつ」

阿須那
「ほなウチから行くわ…CPなぁ〜どん位なんやろ?」


アタシたちは施設内に入り、まずはクラス分けの為にCP測定という物を受ける事になった。
そして、円形の模様が描かれている床に阿須那が乗ると、阿須那の周りを特殊な光が包み、計測を開始した様だ。


職員
「…えっ!? CP30012!?」

阿須那
「へぇ〜それってどん位なんやろ?」

白那
「流石阿須那ちゃん…これは流石に負けてるかな?」


続いて白那さんが測定される。
すると職員はまたしても絶句していた。


職員
「し、CP…30001?」

阿須那
「おっ、白那さんに勝ったで〜♪」

白那
「はは、これでも結構努力はしたんだけどね…やっぱり単純なレベルじゃ、まだ負けてるか」


職員の顔を見る限り、このふたりの会話は少なくとも天上人のっぽい。
多分、相当規格外なんだろうな…ふたりは楽しそうに笑ってるが。


悶々
「…わぁ〜絶対これ無駄な奴だ〜」


確かに無駄だ…何せ、メタモンは変身して相手の能力をコピーするポケモンだからな。
素の状態を計っても意味無いんじゃないのか?


職員
「えっと、CP777…」


おっ、スリーセブンとは縁起が良いな。
アタシは心の中で悶々を褒めてやる。
運が物を言うこの施設なら、案外意味はあんだろ。


職員
「えっと、一応ルール上マスターランクで出場となりますが、大丈夫ですか?」

沙譚
「ああ、問題無い」

阿須那
「よっしゃ、ほなやったろうで! 聖、待っとれよ!?」

白那
「はは、オレも久し振りに頑張るかな…」

悶々
「僕はとりあえず後方待機で応援します!!」


とにかく編成は決まった。
運のバトルチューブ…さて、せいぜい楽しませてもらおうか?



………………………



沙譚
「…随分静かなんだな?」

阿須那
「ホンマやな…てっきり観客とかおると思っとったのに」

白那
「いや、カメラが設置されてるし、観客自体はいるんだと思うよ?」
「恐らく、ライブ中継されてるんだろうね…」

悶々
「という事は、勝っても負けても晒されるって事ですね!」


言い方は悪いが、正にそういう事だろう。
とにかく、この施設は外観からして特殊な場所だ。
外から見た場合、蛇の姿を模した施設だからな。
つまり、かなりの距離を歩かされると思われるが、逆に言えばほぼ真っ直ぐ進むだけって事でもあるってわけだ。


沙譚
「…早速2択分岐か、ここで運が試されるって訳だな」

悶々
「じゃあ、どうします? これって先頭が結構重要だと思いますけど?」

白那
「とりあえず、オレが行こう…何かあっても空間操作で対処しやすいし」


そう言って、自称ドン底不幸の白那さんが先頭を切る。
空間操作とか訳解らん事言ってたが、一体どういう能力なのか?



………………………



白那
「!?」

阿須那
「な、何やここは!?」

悶々
「いきなり砂漠〜!?」

沙譚
「一体、何の冗談だ…?」


分岐の先にあった扉を潜ると、そこからは突然の砂漠とオアシス。
何やら酒場の様な物が前方にはあり、そこには人間が多数いた。
アタシは完全に理解が追い付かない。
あの施設の形状で、どうやったらこんな空間が広がるんだ!?


白那
「…空間転移の類いじゃない、かといって現実とも思えない」

阿須那
「これも施設の演出か?」

悶々
「でも、この気温とかリアルすぎますよー?」


悶々が言う通り、この場はまさしく砂漠の熱気が立ち込めていた。
肌が焼かれる感覚に、アタシは汗を大量にかく。
阿須那は炎タイプらしいし全然平気みたいだが、白那さんは少し汗を多めにかいていた。

悶々は…グニャグニャになって暑がっている。
アタシはとにかくここにいても仕方無いと思い、まずは酒場に向かう事にした。



………………………



マスター
「何にしやす?」

阿須那
「ホットコーヒーあるん?」

白那
「オレは水で良い」

悶々
「スポド〜…◯カリスエットが最高♪」

沙譚
「コーラを頼む」


アタシたちはそれぞれ注文してみると、ちゃんとそれぞれ頼んだ物が出て来た。
しかもコーラはビン、スポドはペットボトルだ…ちゃんと冷えてるな。


阿須那
「せやけど、どないなっとるんや? 出口とかあるんか?」

白那
「少なくとも飲み物は本物だね…となると、現実と非現実を混ぜてるのか」

悶々
「どういう事なんです?」


悶々が聞くと、白那さんは少し低めの声で説明を始める。


白那
「阿須那ちゃん、藍が作った仮想現実を覚えているかい?」

阿須那
「…成る程な、同質の空間と?」


白那さんはコクリと頷く。
こっちは意味不明だが、ふたりには通じる話らしい。


白那
「解りやすく言うと、ここは多分何かしらの力によって作られた空間だ」
「いや、少し違うな…本来ある空間に、別の世界を張り付けた…って感じかな?」
「まぁ小規模な物だし、それ程大きな力は使われてないと思うけど」


「中々の推察だ…相当頭は良い挑戦者の様だな」


アタシたちは声のした方を注目して振り向く。
そこには、テーブルでひとりトランプを持って何かしている男が。
いや、ただの男じゃないなあれもポケモンか?
見た目は青髪ロングで、耳の辺りから白い羽毛の様な角?が生えている。
とりあえず見て解るのはコイツが男だという事位だった。
服装はカジノのディーラーみたいなのだな。
いかにもって感じで、とりあえずコイツが敵だと思って良さそうだが…


阿須那
「何やアンタ? この妙な空間作った張本人か?」

青髪
「さぁ? それよりここは運を試すバトルチューブ、まずは運試しといきませんか?」

沙譚
「運試しだぁ?」


アタシは訝しげに男を見ると、男は微笑し砂漠を指差す。
するとそこには、1匹の猫が見えた。
どこにでもいそうな縞模様の猫で、見た感じ家猫っぽくは無いが。


青髪
「今から私が、この燻製肉をふたつ投げます」
「そして、あの猫がどちらの肉を先に取るか賭けてみませんか?」


そう言って、男は燻製肉をふたつ砂漠に投げた。
それに猫は気付き、鼻をクンクンと鳴らす。


阿須那
「白那はん、どう思う? かなり怪しいけど…?」

白那
「確かに…普通の賭けとは思えないね、ここは様子を見ても……」

悶々
「あっちですよあっち!! 絶対に左の肉の方です!!」


悶々はノリノリで賭けに応じた。
アタシは頭を抱えるものの、まぁ悶々だし良いか…とは思う。
すると、青髪の男は微笑してこう言った。


青髪
「グッド、楽しくなって来た…それなら私は右の肉だ」


青髪の男はそう言って、悶々とは逆の方に賭ける。
すると、猫は肉の方に徐々に近付いて行き、やがて……


阿須那
「あっ!?」

青髪
「ふふふ…右の肉から順にふたつとも取りましたね、つまり私の勝ちだ」

白那
「も、悶々ちゃん!?」


何と、突然悶々の体から何か魂の様な物が飛び出て来る。
それは青髪の男に向かって行き、やがて粘土をこねる様にしてひとつのビー玉となった。
そして、青髪の男は笑う。


青髪
「これでまずはひとり目…まぁ、バカなポケモンだったが、こんな物だろう」

阿須那
「アンタ!? 一体何をしよった!?」


阿須那はかなり驚いた様で、青髪に対して冷や汗を垂らしながら激昂する。
白那さんは一方、冷静に状況を観察していた。
そして、肉を咥えた猫が青髪の腕に飛び乗る。
コイツ…まさか!?


青髪
「ちなみに、コイツは私の猫さ」

沙譚
「テメェ…まさかイカサマかよ!?」

青髪
「イカサマはバレなければイカサマではない…」
「いわゆる、騙された方が負けなんだよ」
「さぁ、ゲームを続けようか? もちろん、このメタモンを見捨てて先に進んでも構わんがね?」


そう言って、ビー玉になった悶々を青髪は手で転がす。
確実に挑発だが、相手が悪すぎたな…


阿須那
「よし、なら先に進むで?」

沙譚
「ああ、アイツは元々戦力外だからな…人質の価値も無い」

青髪
「いや待って!? どんだけ信頼無いのこのメタモン!?」

白那
「あ、あはは…流石にここは、一応続けない?」


アタシと阿須那は軽く撤退体勢に入ったが、白那さんが弱めに静止して、とりあえず踏み留まる。
ちっ、体よく生け贄で進めると思ったんだがな。


青髪
「…ゴホン! さぁ、次はどうするね? このメタモンを取り戻したければゲームを続けるしかない」

阿須那
「悶々はどうでもええけど、とりあえずアンタは気に入らんな」
「ええやろ、そこのトランプを取りぃや…ポーカーで決着着けたる!!」

沙譚
「正気か阿須那!? 相手はイカサマ上等なんだぞ!?」

青髪
「グッド! それは私が最も得意とするゲームのひとつ!」


そう言って、青髪はトランプを集めて準備する。
阿須那はドカッ!と、わざとらしく音をたてて椅子に座り、腕を組んで待っていた。
つか、ここまで露骨なパク…げふん! ネタをかまして大丈夫なのだろうか?
色々とアウトな気もするが、アタシは不安しかなかった…


白那
「ところで、キミはラティオスで構わないのかな?」

青髪
「ああ、良い忘れていましたね…そうです、私はラティオス」
「このバトルチューブで、ギャンブルの担当をさせてもらっています」


ギャンブルって…運否天賦のかよ。
しかもイカサマ有りって、運以前の問題じゃねぇか。


阿須那
「ラティオスねぇ…まぁ、どうでもええわ」
「はよカード配らんかい? あ、白那はんはイカサマ見張っててや?」

白那
「ん、了解…イカサマ見付けたら指折るからね♪」

ラティオス
「そ、それは怖い…見えない様にシャッフルしなければ」


そう言って、ラティオスはカードを丁寧にシャッフルする。
素人には全く訳解らんが、とりあえずラティオスは順にカードを配り始めた。
そして、互いに5枚のカードが配られた時点でラティオスはカードを見る。


ラティオス
「…私は1枚チェンジだ」

阿須那
「………」


ラティオスは1枚カードを変えて、ほくそ笑む。
阿須那はそれに対してカードに手も付けず、椅子の背もたれに背中を預けていた。


ラティオス
「何をしてるんだ? 早くチェンジするカードを決めてくれたまえ」

阿須那
「…このままでええ」


アタシとラティオスは耳を疑う。
阿須那は、ただ一言そう言ったのだ。


ラティオス
「え〜と、聞き間違いかな? 今、そのままで良いとか聞こえたんだが?」

阿須那
「言葉通りや、そのままでええ」

ラティオス
「そんな事は解っている!! ただ貴様はそのカードを見てもいないという事だ!!」


そう、阿須那は配られたカードを手にすらしていないのだ。
それなのに、阿須那はチェンジする必要は無いと宣言した。


阿須那
「このままでええ…」


阿須那はかなり自信がある様だった。
アタシには意味は解らないが、とにかく阿須那の顔は自信に溢れている。
白那さんは汗を流しながらも、不安そうに見ていた。
一体、あのカードには何が潜んでいるんだ?


ラティオス
「ふ、ふふ…暑さにやられて頭がどうかしてしまったのかね?」
「良いだろう、ワタシの手札は!!」

沙譚
「なっ!? Aのフォアカードだと!? ざけやがって…露骨なイカサマかよ!!」


流石にこれはたまった物ではない。
白那さんが何も出来なかったって事は、見切れないレベルのイカサマだったのか…?


阿須那
「やれやれやな…ほなこっちは何かな?」


阿須那は全く動じる事なく、1枚づつカードをめくる。
まずはスペードの10…


ラティオス
「えっ!?」

阿須那
「何がえっ!?や…アンタが配ったカードやろ?」


阿須那はわざとらしくそう言い、更にカードをめくる。
するとスペードのJ、スペードのQ、スペードKと、凄まじい並びが出て来た。
ラティオスは意味不明といった顔で?を浮かべて、冷や汗をダラダラ垂らしている。
しかし、問題は最後だ…肝心のAは相手が使ってる、つまりこれを勝てる手にするには、ジョーカーしか無いわけだが…流石にそこまで都合良くいくわけは無いだろう。
が、阿須那が最後のカードをめくると、そこにあったのはしっかりとしたジョーカー…


ラティオス
「バ、バカなっ!? 私のシャッフルは完璧だったはず! 何故こんな手が成り立つ!?」

阿須那
「アンタ相当アホやな…よりにもよって、ウチ等にイカサマ仕掛けようなんて」

白那
「ちなみに、本来の阿須那ちゃんの手はこれかな?」


そう言って白那さんはいつの間にか右手に5枚のカードを持っていた。
そこに描かれているのは、何の揃いも無い露骨なブタだった…
だがラティオスはガタガタと震えている…成る程、それが本当なら阿須那の手になるわけだったんだ。


阿須那
「白那はんはパルキアやで? その気になったらアンタが瞬きする間にカードをすり替えるとか朝飯前や」

ラティオス
「パ、パパパパ! パルキアァッ!? 伝説の空間の神!?」


神だと…? そんなスゴい人なのか白那さん?
成る程、しかしそれなら納得だ…阿須那が何の焦りも無いわけは、白那さんの能力を信頼していたからって事か。


沙譚
「よく打ち合わせも無しに、そんな作戦が成立したな?」

白那
「まぁ、何となく予想は出来てたし、阿須那ちゃんがわざわざ手にも取らずにラティオスの注目を集めてくれてたからね♪」

ラティオス
「そ、そうか…! 私が彼女と言い合ってる間に、空間操作ですり替えていたとは!」
「見事だ…流石にそこまでは読めなかった、正にパルキア相手にカード勝負とは、無謀だったという事だな」

悶々
「あ…う〜ん?」


気が付けば、悶々は目を覚ました。
どうやら抜かれた魂は戻って来たらしい。
つまり、ラティオスは負けを認めたってこったな。


ラティオス
「さぁ、次の部屋はあっちだ…果たしてどこまで行けるかな?」


ラティオスが指差した先には、光の扉が輝いていた。
これも演出なんだろうが、とりあえずクリアってわけだ…
アタシたちは、そのまま出口に向かった。


白那
「とりあえず、阿須那ちゃんお疲れ様♪」

阿須那
「まぁ少しは焦ったわ…まさかこんな勝負させられるとは思わんかったし」
「白那はんがおらんかったらゾッとしとったな…」

沙譚
「つーか、運関係無ぇし!!」


ただのイカサマ勝負じゃねぇか! これに運とか絶対絡んでねぇだろ!?
まぁ、とりあえずクリア出来たし良いか…予想通り悶々は役に立たなかったが。


悶々
「あ〜気持ち良い夢見てたのに勿体無い!」

沙譚
「なら永遠に寝てるか? アタシは一向に構わんぞ!?」

悶々
「うーん、悩ましい所ですね…僕的にはずっとそういう夢が見れるなら、それも良いと思ってしまう!」


忘れてた…コイツは異常思考の持ち主だと。
コイツにとっちゃ、欲望やら快感が満たされればそれで良いと思うんだ。
精神的に壊れてんだから、マトモな脅しも通用しないか…


沙譚
「ちっ、とっとと先に行くぞ?」


アタシたちは無言で先に進んで行く。
悶々も特に気にせず、楽しそうに笑って付いて来ていた。
さて、こっから先には何が待ってるのか…? まさか、こんなくだらねぇのが連続すんのか?
だとしたら、面倒極まりないんだがな…



………………………




「う〜ん! 不味い!!」

ゾロアーク
「えぇ〜? 普通には食えるじゃん!」


俺はゾロアークから渡された朝食を食って、一言不味いと評する。
ただのサンドイッチだが、極めて不味いのだ。
どうやらゾロアークはかなりの味音痴みたく、自分ではこの不味さを認識出来てないらしい。
あの壊滅的な女胤でさえ、料理の不味さは自覚していたというのに…!
まぁ、ゾロアークのは食えるだけマシなのだが…
女胤のは化学兵器だからなっ。



「…これなら自分で作った方がマシだな」

ゾロアーク
「え、作れんの?」


「舐めんな! これでも小学生から自炊してんだぞ!?」


俺は不味いながらも、サンドイッチを全部平らげてそう言った。
ゾロアークはそれに対して相当驚きながら、不味いサンドイッチを食っている。
やれやれ、これは重症だな…



「つーか、専属のコックとかいねぇのか?」

ゾロアーク
「え〜? だって、アンタの分は費用に入ってないし…」
「これだって、私が頑張って作ってあげたんだからね!?」


その好意は素直に嬉しいが、味は付いて来なかったな。
好意だけでは腹は簡単に膨れないという好例だ。
俺はため息をはぁ…と吐き、今後の食事事情を鑑みる。
とりあえず、早く誰か助けに来てほしいもんだな…既に俺はテンションが下がりきっているわ…!



………………………



阿須那
「…次は何も無いんか?」

白那
「みたいだね…ただの空き部屋だ」


アタシたちは謎のオアシスを出ると、その後再び分岐に出くわした。
例によってテキトーに2択を選んだら、今度は何も無い部屋に出たって訳だ。


沙譚
「これも運ってわけか」

悶々
「毎回これなら楽ですよね〜♪」


悶々は気楽にそう言うが、こっちは全く安心出来ない。
運で難易度が決まるってのは、つまり落差があるって事だ。
少なくとも、良い時があるなら悪い時がある。
今度は悪い方にならなきゃ良いが…


阿須那
「とりあえず先行こうや、何も無いなら時間の無駄や」

白那
「そうだね、先を急ごう」


アタシも同意する。
時間をかけたからって、運が傾くとは限らねぇからな。
まぁ、何があっても驚かない位の覚悟はしておくか。



………………………



阿須那
「お、また分岐や」

白那
「基本的にはこれの繰り返しみたいだね」

沙譚
「計7セットあるからな…これで3つ目か」

悶々
「今度はどっち行きます?」


アタシは迷わず右を選ぶ。
つーか、運なんだから迷う必要無ぇだろ。
アタシはそう思い、ダルそうにしながら扉を開いて潜る。
その先には人間とポケモンが3人いた。
ちっ…ハズレか。


阿須那
「何や、今度はストレートにバトルか?」
「上等や、全員焼き尽くしたる!」


そう言って、阿須那が先頭に出る。
やる気は満々なのか、途端に部屋の気温が上昇したのを感じた。
やれやれ、暑苦しいこって。


白那
「阿須那ちゃん、手加減しなよ〜? 本気出したら殺しかねないから」

阿須那
「相手次第ですわ! 精々ストレス解消に使ったる!!」


相手は特に変哲も無い若い男だ。
ただ、ポケモンの方はそれなりにゴツいのを集めてる。
見た目以上には強そうだが…さて?


トレーナー
「よし、行けドサイドン!」

阿須那
「順当すぎるチョイスやな…ほな、覚悟してもらおか!?」


阿須那はコートの袖を捲り、右手にかなりの熱量を持った炎球を作り出す。
相手はそれにたじろぐ事も無く、冷静に迎え撃つ気の様だった。
相手は鼻からドリルが生えてるイロモノだ。
プロテクターの様な肩パッドを装備しており、頑丈そうではある。
しかし、鈍重すぎて回避も出来なさそうだな。
阿須那はそんな当てやすすぎる的に、ワザとらしく振りかぶって野球の投手の様に炎球を投げ付けた。


チュッ…ドォォォォォォォォォンッ!!!


そして大爆発。
阿須那の炎球はドサイドンとかいう奴の目の前に着弾し、凄まじい爆炎をあげて爆発したのだ。
その威力に床は焦げ付き、上からパラパラと燃えカスが落ちている。
相手は完全に呆然としており、状況を飲み込めてない様だった。


阿須那
「あ〜外したぁ! 『煉獄』1発で倒すつもりやったのに〜!」

白那
「あ、はは…だから、手加減しよ?」


阿須那の奴、ワザとなのかそうじゃないのか…
明らかに威嚇とも取れる今の炎。
相手はプルプル震えながら、どうすれば良いのか解らずにトレーナーを見た。


阿須那
「よし、次は当てるで!?」

トレーナー
「ま、参った降参だ!! これで諦める!!」


と、相手は簡単に降参した。
阿須那は少し不満そうにしながらも、ひとつため息を吐く。
そして、捲った袖を元に戻して戦闘体勢を解いた。
すると、相手はモーゼの十戒の様に扉への道から退く。
阿須那はそれを見て堂々と進んで行った。
アタシたちもそれに続いて先へと進む…やれやれ、とりあえずこれで4つか…楽勝だったな。



………………………



沙譚
「阿須那、さっきのはワザとか?」

阿須那
「さて、な…当たろうが当たるまいがどっちでも良かったんは確かや」
「仮にも岩タイプで体力あるドサイドンやし、アレ位の火力なら当たっても死にはせぇへん思うたし」

白那
「そうなの? てっきり骨も残さず灰にする気だったのかと、ヒヤヒヤしたよ…」


白那さんの言葉を聞いて、阿須那は言葉に詰まる。
まぁ、そこまで細かい計算はしてなかったっぽいな。
とはいえ、確かに当たってもハズレても相手が降参するのは変わらない、か。
ある意味これも運試しだな…阿須那はそういう意味では運が悪かったわけだが。


悶々
「まぁ、煉獄は命中50%って言われる位当て難い技ですし、当たらなかったのは完全に相手の運が良かったって事ですね♪」

沙譚
「何とも言えねぇ結果だな…まぁ、とにかく先を急ぐぞ」


アタシはまた次の分岐を適当に選ぶ。
そして、またしても次はがらんどうの部屋だった。



………………………



沙譚
「これで5つか」

阿須那
「後ふたつやな…つっても、ラストはフロンティアブレーンとかが相手やろし、次が実質最後の分岐やろ」


アタシは成る程と思い、そのまま先を目指す。
そして最後の分岐と思われる先の扉を、アタシは迷わず潜り抜けた。
その、先には…



………………………



阿須那
「な、今度は海!?」

白那
「無人島…じゃないね、どうやらまた特殊なイベントらしい」


アタシたちが入った部屋は、前の砂漠同様に謎の空間となっていた。
そして…小さな島と思われるここには、ひとつのテーブルと何故かゲーム機。
後、クローゼットみたいなのもあるな。
冷蔵庫もある。
更にこのリアルさ…やっぱりコイツも。



「ようこそ、私の舞台へ…私はラティアスと申します」
「この施設でメイドをやらせてもらっているポケモンです」


ラティアスと自ら名乗ったポケモンは空から降りて来た。
メイドとか言ってたが、服装は全然メイドじゃない。
むしろ執事と言った方がしっくり来る身だしなみで、特徴は前のラティオスと非常に似ている。
色が赤になって、男が女になった…って所だな。


阿須那
「ラティアスやと…? ほな、まさかアンタ」

ラティアス
「はい、先の戦いで貴女たちに敗北したラティオスの妹です」


やはり、そういう関係か。
名前も似てるし、そんな感じもしたが、やれやれまた面倒なネタが放り込まれるのか?
個人的にこういうのは魔更の時だけやってほしいんだがな?
つーか、同じ系統のネタをすぐにやらかすのは流石に問題だろ!?
ネタ的にいかにもやりやすかったってのが見え見えだぞ!!


白那
「ちなみに、ここは君が作った空間かい?」

ラティアス
「言う必要はありません」

阿須那
「なら、他のポケモンの能力か?」

ラティアス
「そうかも…」

悶々
「バックと正常位とならどっちが好み!?」

ラティアス
「そりゃやっぱり正常位でガンガン♪ …って、言う必要はありませんよね!?」


思いっきり暴露したな…やれやれ、頭は悪そうだ。
とにかく、ネタなのは解ったからさっさと初めて欲しい。


阿須那
「言えへん言う事が多いな?」

ラティアス
「私は兄と違って嘘を吐く理由が無いからですよ」
「私は兄とは違います、嘘やイカサマは絶対に利用しません」

沙譚
「とりあえず、テメェに勝ったらここから出られるんだろ?」

ラティアス
「exactly!(その通りでございます!)」


ラティアスは丁寧にお辞儀をしてそう答える。
アタシは少しイラッとしながらも、とりあえず流される事にした。
良いからさっさとやれっての…もうこちとら呆れてんだ…


阿須那
「このいやに丁寧な物腰、シャクに触るな…」

白那
「まぁ、とりあえずイベントだしね…で、今度は何をすれば良いの?」

ラティアス
「簡単ですよ…私とゲームをして勝てればここはクリアです」

沙譚
「で、負ければ魂を奪うってか?」


ラティアスはそれを聞いてふふふ…と笑う。
そして、クローゼットみたいな棚を開き、そこからは多数のぬいぐるみが声を出して唸っていた。
って、もう良いだろそこは! 一々やる必要あんのか!?


阿須那
「…こいつはとんだサイコ女やな、吐き気がするわ」

白那
「やれやれ、流石のオレもこれが本物なら黙ってられないけどね?」

ラティアス
「ご安心を、これはバイトの演出ですので! 仕事が終わればちゃんと解放します!」


バイトかよ! 給料いくらか逆に気になるな!?
人形に魂入れられるバイトとかやりたくねぇが…


阿須那
「とりあえず何やこれ? あんま聞いた事無いソフトばっかやで?」

悶々
「そもそも、この黒いハード何です? ◯レイステーションじゃないですよね?」

ラティアス
「バカモノ! それは天下の◯ガドライブですよ!!」
「全く、最近の若いのはこんな有名ハードも知らないんですか!?」


知るわけねぇ…いや、アタシは聞いた事はあるが、実機見るのは初めてだな。
つか、他にも見た事無いハードが多数ある。
コイツ、レゲーマニアか?


白那
「あ、これならオレでも出来るかな…確か夏翔麗愛が遊んでたし」

悶々
「これも黒いですね…でもディスク系じゃない?」

ラティアス
「お目が高い! それは◯オジオですよ!!」
「ソフトふたつ持てば凶器と言われる、あの100メガshockです!!」


ああ、それならアタシも聞いた事あるな…確か◯日本企画の作った奴だったか?
格ゲー多めだが、対戦するなら確かにやりやすそうだ。
結構前にミニも出てたしな…


阿須那
「お、これならウチの得意分野や! よし、真◯ムで勝負したる!!」

ラティアス
「グッド! それでは早速起動しましょう!」


ラティアスは嬉しそうに◯オジオをポータブルテレビに接続して、ドデカイソフトカートリッジをハードにブッ差す。
改めてデケェな…アーケード完全移植らしいし、ほとんど基盤差してんのと変わんねぇもんな。


ラティアス
「では対戦です、私は◯神で」

阿須那
「ほな、ウチは◯コルルや…」


ふたりはすぐにキャラを決め、対戦を開始する。
そして、まずは注目の一本目…ふたりはこれまたドデカイ専用スティックを構えて開始を待った。


阿須那
(まずは奇襲や!)


阿須那は開始と同時に◯ンヌムツベで奇襲をかける。
だがラティアスには読まれていた様で、あっさりとしゃがみガードで防がれた。
そしてすかさずラティアスは、しゃがみ強切りをカウンターヒットさせる。
この時点で、ごっそり阿須那は体力を奪われた。
うわ…古いゲームだけに大味なダメージだな。

しかし、まだこれでは終わらない。
何とラティアスはそのまま仰け反った◯コルルに、遠立ち強切りを直撃させたのだ。


阿須那
「嘘やろ!? 何で繋がんねん!?」

ラティアス
「ふふ、残念ですがこれで終わりです」


何と◯コルルはピヨっていた。
ラティアスはそれが解っていた様で、すかさずダッシュしてもう1度しゃがみ強切りをヒットさせ、そのまま遠立ち強切りのコンボを食らわせて問答無用の一本。
阿須那は為す術無くワンチャンで死んだ。
そのまま阿須那は成す術無く二本目も取られ、あっさりと魂を抜かれる。


悶々
「ああっ、阿須那さんの魂が〜!?」

ラティアス
「ふふ…少しあっさりすぎましたか? しかし、これでひとり…」
「まだゲームは続きますよ? さぁ、次は誰がやりますか?」


阿須那はあっさりとぬいぐるみに魂を封じ込められた。
やれやれ、出落ち担当とか笑えねぇな。


白那
「良いだろう、ここはオレが…」
沙譚
「退がっててくれ白那さん、ここはアタシがやる」


ラティアス
「良いのですか? トレーナーである貴女が負ければその時点でゲームオーバーですよ?」

悶々
「そうですよ沙譚さん! そもそも、沙譚さんゲームとか無縁でしょ!?」


沙譚
「黙ってろ…コイツはただのゲーマーじゃない」
「それに、この面子じゃ誰がやってもあんま変わんねぇだろ…?」
「なら、ここでアタシが終わらせてやる」
「テメェとは、このポケモンスタジアムで勝負したい…」


アタシが選んだのは、これまた黒いハードの◯64。
そして、その中のソフト…ポケモンスタジアムを選択した。


ラティアス
「グッド! そのゲームは私がもっとも得意とするゲームのひとつ!」

悶々
「さ、沙譚さん!? 流石に無理でしょ!?」

沙譚
「なぁに、ポケモンのルールは知ってる…操作はやりながら覚えるさ」

白那
「無茶だ沙譚ちゃん! それならオレがやった方が…」


アタシはそれでも強行する。
どの道勝たなきゃ先には進めねぇ…なら、こっちもそれなりのやり方でやらせてもらうさ。


ラティアス
「都合上、カートリッジが無いのでレンタルのみでの対戦となりますが構いませんね?」

沙譚
「ああ、持ってねぇからなカートリッジなんざ」


アタシはとりあえず白那さんに相談し、使えそうなポケモンを選択してもらった。
ルールはLv30戦…まずはここからが難しい所だな。
ちなみにアタシのパーティはこれだ…


ニドキング
スターミー
スリーパー
マルマイン
ガルーラ
ストライク


ラティアス
「では、私はこのパーティです」


まずは選択画面に入る。
見合い3体戦だから、互いにパーティを見せ合ってそこから選択だ。
相手のパーティは…


ゴローニャ
レアコイル
ゲンガー
ケンタロス
ギャラドス
プテラ


白那
「奇しくも、被り無しとはね…」

悶々
「でも、レンタルですしそこまで不利にはならないんじゃ?」


確かに、一見すれば互いにバランスはそこそこ取れている様に見える。
だが、この時代のポケモンってのは、とにかくバランスが悪かったらしいからな。
とにかく、やってみない事にはアタシにも解らない。
まぁ、その分相手にもこっちの考えは読めないだろうさ。


ラティアス
「それではポケモンを3体選択してゲームスタートです!」


遂にバトルが始まる。
アタシは白那さんの助言を受けて3体選択、ラティアスはニヤニヤ笑いながら選択していた。


ラティアス
「ほう、先発はストライクですか…これは中々の強敵ですね」


しかし、相手はゴローニャ…開幕から相性最悪らしい。
白那さんも露骨に嫌な顔をする。
コイツは開幕から辛そうな感じだな。


白那
『沙譚ちゃん、聞こえる?』

沙譚
(!? 頭の中に声…?)

白那
『オレのテレパシーで直接会話してる…これなら多分読まれないと思う』


多分…ね。
しかし、ラティアスはニヤニヤ笑ったまま…気に入らねぇな。
負けるはずがないと思ってる顔だぜ、アレは?


白那
『挑発に乗っちゃダメだ、ストライクは岩に弱い! ここは交換でニドキングに変えよう』
『あのゴローニャは地面技を持ってないから不利にはならない』


成る程、苦手ならそういう戦法もあるのか。
確かにそれなら被害は薄い…アタシはとりあえずストライクをニドキングに交換する。


悶々
「あぁ!? ゴローニャのメガトンパンチが直撃ですよ〜!」


何と、相手は岩技を撃って来なかった。
とはいえ、所詮はタイプ不一致のノーマル技。
ニドキングは幸い半分も減っていない…これなら逆にこっちは弱点で攻めれるぜ!


白那
『一応警戒はしてね? 相手には飛行タイプが2体いた』
『交換されたら地震は無効にされるからね?』


くっそ…そういう事かよ。
ラティアスの奴はなおもニヤニヤしてやがる。
かなりシャクに触るが、経験が違うのは証明済みだ。
とりあえずアタシはあの鼻っ柱をへし折ってやると頭で思い、技を選択した。


悶々
「あっ、交換です! 出て来たのはギャラドスだぁ!!」

沙譚
「そうかよ、ならコイツは抜群だな!?」


アタシは地震を撃たずに雷を撃つ。
ギャラドスは水と飛行、確かどっちも電気は抜群のはずだ!


ラティアス
「!? ふ、ふふ…残念ですが外れた様ですね」
「危ない危ない…当たっていたらやられていましたよ」


残念ながら交換読みの雷は空振りに終わる。
こうなったら今度はこっちが不利だ。
地面は水に弱い…食らえば残り体力のニドキングじゃ耐えられないか…?


白那
『だけど、素早さは上回ってる…もう1度雷を当てられれば倒す事も不可能じゃない』


成る程、博打か。
しかし、これはかなりこっちに不利だ。
仮に当たったとしても倒せる保証は無い。
ゴローニャの存在も厄介だ…ストライクじゃ勝てなさそうだし、この後の事も考えなきゃならねぇのに…


ラティアス
「ふふふ、ここで私は予告をする!」
「私は雷読みでゴローニャに交換する! さぁ、信じますか?」


いきなり、奴は意味不明の予告をした。
しかし、これはかなり面倒な予告だ。
雷はただでさえ命中が悪いのに、完全無効のゴローニャを出すと言うのだ。
もちろんニドキングなら読んで地震を撃てば良いのだが、対面はギャラドス。
もし奴が嘘を言っているのであれば、こっちは無条件でニドキングを失う事になりかねないのだ。


悶々
「あんなの嘘に決まってますよ! 遠慮無く雷撃ちましょう!」

白那
「確かに、そっちの方がリスクは少ないけど…まだ最後の1体も判明してないのに」


どっちにしても、アタシはここでニドキングを失うわけにはいかない。
それなら、とりあえず交換されても雷を撃ってやる!
交換ならまだニドキングは落ちないからな!
アタシのニドキングは雷を選択する。
だが、ラティアスは交換せずにギャラドスで雷をモロに受けた。
しかし、ギャラドスはギリギリで耐える。
そのまま、ギャラドスは波乗りでニドキングを倒してしまった。


ラティアス
「ふふ、まず1体…ダメージは大きいですが、これは後に響きますよ?」


奇しくも、予告は嘘だった。
いや…それにしたって、わざわざギャラドスで倒しに来るとは予想出来なかった。
つまり奴は知っていたんだ…ギャラドスなら耐えると…


沙譚
(しかもそれだけとは思えねぇ…あのヤロウ、まさかアタシの考えや白那さんのテレパシーを読んでいたんじゃ?)

白那
『そういう事か! そうなると、このバトルその物が完全不利だ!!』
『読みが重要とされるポケモンバトルにおいて、何が来るか解るのは勝ったも同然と言える!!』

ラティアス
(ふふ、私は読心術に長けています)
(相手が何をするかとか、全て解るんですよ…しかも、こっちはダメージの算出も全て頭に入っている)
(よって、この私がこのバトルで負ける事はありえません!)


沙譚
「………」

白那
「ど、どうするんだい沙譚ちゃん!? 相手はこっちの心が読める! このままじゃ負けるよ!?」

沙譚
「………」

悶々
「え…鞄を?」


アタシは無言で鞄をモニターの上に立てる。
それを見て、その場の全員が訝しげな顔をした。


ラティアス
「ふん、バカめ…兄の様にイカサマをしてるとでも思ったのか?」

白那
「違うよ沙譚ちゃん! あの娘の能力はそういった物じゃない!」

沙譚
「な〜に、ちょっと面白い事を思い付いてね、その伏線さ」
「そしてアタシは次にスターミーを出し、技宣告をする!」
「次に使うのは『体当たり』だ!」

白那
「な、何を言ってるんだ沙譚ちゃん!? 相手は心が読めるんだよ!?」

沙譚
「だから予告するんだ! 今からアタシは体当たりを選択する!!」

白那
「はっ!? さ、沙譚ちゃん…!」

悶々
「沙譚さん、無謀ですよ〜? 体当たりじゃギャラドス倒せないかもしれないのに…」
「バブル光線でも倒せるじゃないですか〜!」


確かにそうだろう。
まぁ、もはやギャラドスにはストライクもスターミーも倒せないんだがな。
速度の差がある以上、ギャラドスは何も出来ずに落ちるのが妥当だ。
しかし、スターミーには影分身と言う技もある。
更に自己再生もあるし、ギャラドスをそのまま戦わせるなら起点になる可能性もあるはず。
何せ、この時代の影分身は大層嫌われた技らしいからな…


ラティアス
「ふん、マヌケか?」
(私の読心能力は完璧! 嘘は全て解りますよ!?)

沙譚
(体当たりだ…アタシは体当たりを使う)

ラティアス
(マジだ…マジで体当たりを使う気だ、全く意味が解らないが)
「ふふ、このままストレートで終わらせてやりますよ!!」


そう言うと、ラティアスはケンタロスに交換した。
だが、スターミーはバブル光線を放つ。
ケンタロスにはあまり効いていないが、それでも3割以上は持っていった。
つまり、後2発で倒せるって事だ。


ラティアス
(バ、バカな!? 相手は確実に体当たりを使うつもりだった…そのはずなのに!?)

白那
「……!!」

悶々
「え、えっ?」


さぁ、こうなると今度は相手が大変だ。
速度は確かスターミーの方が僅かに速い。
なら、先に当てられる方が有利だもんな?


ラティアス
「こ、こんなバカな事…!?」


ラティアスは慌てていた。
それこそ露骨に、だ。
ギャラドスは死にかけ、ゴローニャは水で即死、そして唯一の切り札ケンタロスはダメージレースで遅れる…か。
こりゃスターミー無双も有りうるな…まぁ、技が外れなければだが。
この頃は、絶対必中な技は無いらしいからな。
この辺はチューブらしく、運任せと行くか!


沙譚
「なら、次も体当たりで行くぜ!」

ラティアス
「ふざけやがって! 貴様一体何を仕込んだぁぁぁ!?」


ラティアスは怒りに任せて、そのままケンタロスで戦う。
だが、先手はスターミー。
バブル光線が先に当たり、ケンタロスの体力はもう後1発も耐えられない。
ケンタロスは苦し紛れに冷凍ビーム。
しかし、健闘空しくスターミーは凍らなかった。
もはや勝負は決している、後は確率の勝負だがな。


ラティアス
「…あ、あぁ」

阿須那
「ん…あれ? ウチ…?」

悶々
「あ、阿須那さんが戻ったー!!」

ラティアス
「し、しまった〜!? ついうっかり魂を解放してしまったぁ!!」


バトルの途中で阿須那は元に戻る。
それを見てアタシは席を立ち、鞄を手に持った。


沙譚
「うっかりって事は、心の中でテメェは負けを認めたって事だな」

ラティアス
「え…!? 沙譚のコントローラーに妙な空間の歪みが?」

白那
「おっと、これはうっかり…」

ラティアス
「こ、こんなくだらね〜事…まさか、コントローラーを操作していたのは、沙譚ではなく、キサマか白那!?」

沙譚
「まっ、そう言うこった…くだらねぇが、効果はあったろ?」
「アタシの考えが読めるなら、アタシ以外に操作させれば良いんだからな」


そう、これが種明かしだ。
白那さんは空間が操作出来ると聞いていたし、離れた所からでもこれ位は出来るってこった。
鞄は単に注目を集めるだけのブラフだ。


沙譚
「とりあえず、これで仕舞いだ…やれやれだぜ」

白那
「あれ、オラオラはやらないの?」

悶々
「りょう〜ほ〜ですかぁ!?」

阿須那
「何や、終わったんかいな…今回はホンマウチも運無いなぁ〜」


とりあえず、特にここからは何も無くアタシたちは新たに開いた扉を進む。
さて、この先に魔更がいんのかね?
ようやくラストって訳だが、まぁ面倒じゃなきゃ何でも良いか…



………………………




「…で、アンタは何が目的でこの世界に来たんだ?」

ゾロアーク
「目的なんて無いわよ…巻き込まれただけだし」
「私は怪盗よ? 目当ての物を盗むのが仕事♪」


「残念だが俺の心は盗めねぇぞ?」

ゾロアーク
「いらないわよ、そんなの…」


正直に言われると少し寂しい…グスン。
とはいえ、つまりコイツは犯罪者って訳か。



「…とりあえず110番だな、大人しくお縄につけ」

ゾロアーク
「絶対ヤ! って言うか、怪盗に対してそういう事言う?」


「でも犯罪者は犯罪者だろ? 人の物を盗むのは泥棒だぞ?」

ゾロアーク
「…それが、元々自分が持っていた物だとしても?」


俺は言葉に詰まる。
ゾロアークは、突然険しい顔でそう答えたのだ。
元々、自分が持っていた物ね…ホントに◯ャッツアイみたいな設定かよ。
だが、それは難しい問題だな。
理由はどうあれ、犯罪は犯罪。
いくら大義名分掲げてても、方法が問題じゃ話にならないだろ。



「法的に取り返せば良いんじゃないのか?」

ゾロアーク
「バッカみたい! それが出来るなら最初からやるわよ!!」
「解んないの? 力が無きゃ生きていけないのよ!?」
「確かに、盗みは悪い事かもしれない…それでも、私はそうしなきゃ生きていけなかった!!」
「何でも誰かから与えられた人間と一緒にすんな!!」


ゾロアークの言葉は、容赦なく俺の胸に突き刺さった。
そうか…コイツも、無駄に悲惨な人生送ってたんだな。
だが、俺はため息を吐いてこう言ってやった。



「そっちこそ舐めんな…! 産まれてすぐに親に死なれて、親戚からも虐待染みた扱い受けて育った人間をな!!」

ゾロアーク
「!? ぅ…な、何よそれ?」


「不幸な生い立ちで育ったのは、そっちだけじゃねぇんだよ…」
「自分だけが不幸だとか思ってんなら、自惚れんじゃねぇ!!」


俺がやや強めに言うと、ゾロアークは肩を震わせて泣き出してしまった。
俺はギョッとするが、言い過ぎたとは思わない。
コイツだって、不幸なのを盾に怪盗なんてやってんだ。
俺は違う…不幸でも絶対に誰かを同じ目に合わせ様とは思った事無い。
俺は、正しいと思う事しかやらないと決めたんだ…


ゾロアーク
「ひっく…何よぉ〜偉そうに?」
「私だって、生きる為に必至だったんだから…」


「知らねぇよ…それなら泣くな」
「それしか出来なかったなら、誇れよ…」
「そんで、自分は間違ってないって言えば良いんだ」

ゾロアーク
「…何それ? おかしくない?」


自分で言ってて矛盾してるとは思う。
だけど、人間なんて誰でも矛盾の中で生きてるんだ。
その中で、例え犯罪に手を染めてても、自分が間違ってないって思うならそれがソイツの個性だろが。
俺は、そういう強さに関しては悪も正義も無いと思ってる。
ただ、その結果どうなるかは俺は知らない。
狂人や、純然悪の人間だっているんだ…そんな奴らが相手なら、俺だって戦う。
あくまで、それが認められるかは別なのだから。



「アンタはアンタで好きにしろよ…だけど、後悔だけはするな」
「それが間違ってないと思うなら、きっと誰かひとり位は応援してくれるさ…」


俺は、ある意味自虐的になったと思った。
何てバカな事を言ってるんだろうな…?
俺なんて、後悔も絶望も体験してるのに…


ゾロアーク
「…ルナリー」


「あん?」

ゾロアーク
「私の名前…ルナリーって、これからは呼んで」


突然、ゾロアークはそう言った。
ルナリー…ねぇ。
まぁ、名前があるなら呼ばねぇと失礼だからな。



「分かったよ、ルナリーさん」

ルナリー
「ん…そろそろ出番みたいだから行くね?」
「ひょっとしたら、これが最後かもしれないけど…また会えたら今度は美味しいサンドイッチの作り方教えてね♪」


ルナリーさんはおおよそ大人とは思えない子供っぽさで笑う。
少しは、吹っ切れたのかもしれない。
俺は逆に少し不安だった。
ひょっとしたら、軽率な事を言ったのかもしれない。
ルナリーさんはルナリーさんの目的と悩みがあるのに…
俺は所詮子供だ、その言動も。

そんな俺は、ルナリーさんにとってはどう影響したのだろうか?
俺にはそれが全く予想出来なかった…



………………………



メロディ
「友情って名前のシンドローム、出口の無い永久迷路〜♪」


私は歌を口ずさみながら歩いていた。
すると、何やら集団で走る女の子たちが見える。
どうやらバトルチューブに向かっている様だけど、何かあったんだろうか?


女胤
「急ぎますわよ!? 聖様を取り戻すのです!!」

騰湖
「やれやれ、どこの馬の骨か知らんがやってくれたな!!」

神狩
「…聖さん、絶対に取り戻す!」


「おい、怪我人は無理するな! これ以上手間をかけさせるんじゃない!!」


聖…って、確かあの聖君よね?
って事は、あの集団は聖君の関係者かしら?
聖君、本当に大勢のポケモンと関係持ってるのね…


メロディ
「…? そう、もう時間が無いのね?」
「……うん、分かってる、その為に私が歌うんだから」
「でも、私ひとりじゃダメかもしれない…その時は貴女も手伝ってね?」



………………………



実況
『さぁ、遂に挑戦者がここまで辿り着いたぁ!!』
『バトルチューブ、マスターランクシングル3体戦! チューブクイーンの登場だぁ!!』


沙譚
「………」


アタシたちは最後の部屋に辿り着いていた。
そこは、今までとは違う洒落た感じの大部屋。
そして、そこにはひとりの長身長髪女性が立っている。
バトルフィールドはスタンダードなタイプの様で、特に捻りも無い。
ただ、ここからは観客が満員だった。
会場はさながら、スポーツ選手権の決勝みたいな熱気が渦巻いている。


阿須那
「成る程な、最後は大々的にボス戦ってわけや!」

白那
「だけど聖君の姿は見えない…ここがラストのはずなのに」


確かに、周りを見渡してもそれっぽいのは見付からない。
どういう事かは解らないが、少なくともボスを倒せば解るってのが定説か。


沙譚
「ちっ、面倒臭ぇがやった方が速いのは確かだな」

阿須那
「同感やな、蹴散らしてさっさと聖探すで!」

クイーン
「威勢が良いチャレンジャーだな…ここまで来た運は大した物だが、果たして最後まで運に愛されるかな?」
「さぁ、とりあえず出番だギャラドス!!」


クイーンの後方から高速で飛んで来たのは青い髪、青い服、青い尻尾のバカデカイポケモン男だった。
身長は2m以上ある、しかも空を飛んでやがるとは…


白那
「どうする? オレがやろうか?」

阿須那
「ちっ、水タイプか…」

沙譚
「行け悶々、とりあえず死んで来い」

悶々
「酷くありません!? 負ける前提ですよね!?」


アタシはツッコム悶々を睨み付けて、前に出させてやる。
とりあえず相手の強さも解らねぇなら、変身させて確かめりゃ良いだろうが。


白那
「…ある意味最善手か、頼んだよ悶々ちゃん」

悶々
「う〜! もうどうなっても知りませんからね!?」


実況
『さぁ、クイーンはギャラドス! チャレンジャーはメタモンの悶々』
『まもなく試合開始、さぁ幸運の女神はどっちに微笑むのかぁ!?』


審判
「それでは、試合開始!」

沙譚
「『変身』だ悶々!」

悶々
「だってそれしか出来ないですからね!!」


そう言って、悶々はすかさず謎のポーズを取って変身に入る。
この間に多少隙があるのが弱点だが、同じタイプならそう有効打は放てねぇだろ。
だが、悶々はポーズを構えたまま硬直する。
アタシは何事かと目を細めるが、悶々は一向に変身しない。
そして次の瞬間、ギャラドスとかいう奴から何か巨大な球体が放たれた。
かなりの速度で放たれたそれは、茶色っぽい色の球体でまるで気の塊とでも言えば良いだろうか?
とにかくいかにも破壊力のありそうなそれは、悶々に直撃する。

直後、ズバァァァァァァァンッ!!と大爆発。
火力的な音ではなく、まさしく気の爆発って感じだったが、悶々はアタシたちの遥か後方、壁まで吹っ飛んであえなくダウンした。


審判
「メタモンの悶々、戦闘不能! よってギャラドスの勝ち!!」

阿須那
「待てや!? 何でギャラドスが『気合球』使えんねん!?」

白那
「違う! あれは『イリュージョン』だ!! 悶々ちゃんが変身出来なかったのは、それが原因だ!」


アタシはとりあえず意味不明だった。
しかし、阿須那と白那さんはすぐに状況を理解し、まずは阿須那が前に出る。
苦虫を噛み潰した様な顔だったが、やる気は満々の様だった。


阿須那
「クソッタレが! ゾロアかゾロアークか知らんが、舐めた真似してくれるやんけ!?」

審判
「それでは、試合開始!!」


阿須那は手早く袖を捲り、その腕から炎を練る。
かなりの威力が予想出来たその技は、阿須那の手から一直線に放射された。
まさに火炎放射だ、だが次の瞬間…そこに敵はいなかった。


阿須那
「!?」

ギャラドス?
「舐めた真似、ねぇ〜?」
「本当に舐めてんのは、一体どっちなのかしらね?」


ギャラドスは、気が付けば阿須那の目の前にいた。
そして、明らかに男の姿なのに女の声が放たれる。
やがてギャラドスの姿が段々ボヤけ、その姿は偽りであったのだとアタシはようやく理解した。
その直後、阿須那の顎は真上に蹴り上げられる。


白那
「!? やはり幻影だったのか! 飛行していたのも全部嘘…!」


そう、相手は初めから地上にしかいなかったのだ。
そして阿須那の火炎放射を悠々と横にかわし、阿須那の顎を蹴り上げたわけだ。
その姿は、阿須那とどこか似た様な風貌。
耳の位置が違うが、獣型のポケモンだってのは理解出来る。
だが、重要なのはそこじゃない。


沙譚
(アイツ…強い!?)


アタシはゾクッと背筋を凍らせた。
少なくとも、阿須那の実力は素人目で見ても半端じゃないはず。
なのに、あの黒女はそんな阿須那に臆する事なく、堂々と『不意討ち』をかましやがったんだ。


阿須那
「っ…のぉ! クソッタレがぁ!!」

黒女
「ご苦労様ね…とっとと退場したら!?」


阿須那はすぐに体勢を整え、右手に炎を集中させた。
しかし黒女はその場で高速移動し、阿須那の背後に回る。
明らかに速度差で負けてる! 阿須那はまるで狙いが定められてない!!
そして、黒女は背後から阿須那の後頭部目掛けて膝蹴りを放つ。
その勢いのまま、黒女は目にも止まらぬスピードでクイーンの背後まで移動した。
直後、クイーンは手を振って指示を出す。
そして出て来たのは、今度こそ本物のギャラドス男の様だった。



実況
『これは鮮やか! ゾロアークのルナリー、圧倒的なスピードで『「とんぼ返り」! チャレンジャーを掻き回します!!』


白那
(マズイ、あのゾロアーク…レベルがオレたちよりも一回りは上か!?)

クイーン
「正直、そちらのCPは驚愕に値するレベルだ」
「だが、運が悪かった…このルナリーは私にとっても規格外のポケモンだったんだね」
「参考までに教えてやる、ルナリーのCPは35042…お前たちよりもレベルは遥かに上だ!」


5000も上かよ!? そうなると、阿須那がタイマンで勝てる見込みは薄い。
ここは白那さんと協力しながらやらねぇと!!


沙譚
「白那さん、頼む!」

白那
「了解だよ、阿須那ちゃん退がって!」

阿須那
「ちっ! 覚えとけよあの女狐!?」


それはお前の事でもあるがな…とアタシは心の中で思っておく。
とはいえ、こんなハイレベルなバトルでアタシは何も出来ない。
もはや、白那さんに何とかしてもらうしかないんだ…!


クイーン
「ギャラドス、『逆鱗』だ!!」


ギャラドスは指示と同時に突然暴れまわる。
そして白那さんに向かって一直線に飛びかかった。
白那さんは冷静にそれを見て、次の瞬間ギャラドスの背後に回る。
本当に一瞬の事だった。
瞬きひとつしたら、白那さんは移動しているのだ。
これが、白那さんの空間操作か!?


ドッズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!


直後、強烈な力でギャラドスは真下に叩き付けられる。
白那さんは直接触ってすらいない。
ただ腕を上から下に振り下ろしただけだ。
それだけの動作で、あのギャラドスの巨体は1発で沈黙した。


審判
「ギャラドス戦闘不能!!」


実況
『これは凄まじい! 流石は空間ポケモンと言われるパルキア!!』
『圧巻の性能に会場はヒートアップ! まだまだバトルはこれからだー!!』


クイーン
「…流石は伝説のポケモンだね、あのギャラドスを一撃とは!」

白那
「生憎だが、オレは阿須那ちゃんの様に油断はしない」
「イリュージョンがあるとはいえ、解ってしまえばそれ程の脅威は無いよ」


白那さんは冷静にそう言う。
そして、実際そうなのだろうとアタシは予想する。
CPとかいうのでは負けてるが、それはあくまで単純な指標にすぎないのだとアタシは理解出来た。
白那さんは能力込みで考えれば、多分阿須那よりも強い。
いくらあのゾロアークとはいえ、正面衝突で白那さんに勝てるのだろうか?


クイーン
「…行け、テッカニン!!」


指示と同時に強烈な羽ばたき音が聞こえる。
虫の様なその羽音はあまりに高速で振動しており、アタシは耳を思わず塞いでしまった。
しかし、問題なのはそこではない。
相手の姿が全く見えないのだ。


白那
(速い!? 流石はテッカニン…既に加速し始めてる)
(このままじゃ、オレでも容易には当てられない!)


クイーン
「『剣の舞』!」


テッカニンとかいう姿が見えないポケモンは、指示を受けて更に強烈な音を出した。
白那さんも目を細めて耐えている。
だが、姿の見えない相手に攻撃するのは無理なのか、白那さんは躊躇っている様だ。


白那
(技のタイミング中なら一瞬停止する! そこを突けば、一撃で落とせるはず!!)


クイーン
「『身代わり』!」


白那さんはそれを聞いてすぐに腕を振る。
すると何か打撃音が鳴り、煙を出して空間が歪んだ。
しかし、羽音は止まない。
まだテッカニンは健在なんだ!


白那
(マズイ! このままじゃ厄介な事になる!!)
(ここは、阿須那ちゃんと交代して流れを変えるべきか…? だけど、その指示は沙譚ちゃんに委ねられている!)
(仕方無い、少し隙を作るけど…)
『沙譚ちゃん、交換の指示を! 急いで!!』

沙譚
(!? し、白那さんの声が…!)


アタシはすぐに状況がマズイのを理解した。
そして、アタシは大声を出してこう叫ぶ。


沙譚
「交代だ! 出ろ阿須那!!」

クイーン
「『バトンタッチ』!!」

白那
(くっ!)


アタシの指示とほぼ同じタイミングで、クイーンは技を指示する。
白那さんは直後にその場で阿須那と居場所を入れ替え、全くのラグ無しに交代を済ませてしまった。
阿須那はそのまま、すかさず技の体勢に入る。
だが、敵は目の前にいない。
阿須那はそれでも構わず両腕から炎を吹き出し、それを思いっきり足下の地面に叩き付けた。

すると、阿須那の周りは強烈な『熱風』に包み込まれ、近寄る事も危うい程の勢いで炎の柱が立ち上ったのだ。
すると、直後に悲鳴が聞こえる。


ルナリー
「ああああああぁぁぁっ!!」


実況
『これは見事! キュウコンの阿須那、相手の行動を読んだのか即座に対応!!』
『あまりにも速すぎるスピードが仇になったか、ゾロアークのルナリー、モロに熱風を食らってしまったぁ!!』


阿須那
「そのまま…くたばれやぁ!!」

ルナリー
「!! …アンタがね!!」


阿須那は、トドメとばかりに火炎放射を追い討ちで放つ。
だが、相手はその上で距離を一瞬にして0にした。
阿須那の火炎を腕ごと左手ではね除け、ルナリーは右拳を固く握り締めてそれを全力で振るう。
阿須那は思いっきり側頭部を打ち抜かれ、意識を断たれる。
そして、そのまま起き上がる事は…無かった。


審判
「キュウコンの阿須那、戦闘不能!!」


実況
『チャレンジャー追い詰められたぁ!! だが、ゾロアークのルナリーもかなりのダメージを受けている!』
『パルキアの白那、ここで巻き返せるのかぁ!?』


白那
(いける! 彼女はさっきの無理が祟って、動きが鈍っている!)


白那さんは腕をコンパクトに振りかぶり、審判のコールも待たずに戦闘に入る。
ルナリーも同じく待つ気は無い様で、既に姿を一瞬で消していた。
だが、その上で白那さんは更に上を行く。
白那さんは的確にルナリーの移動地点を予測し、両手を組んで真下に振り下ろしてルナリーを床に叩き落としたのだ。


ルナリー
「ぐぁぁっ!?」

白那
「チェックメイトだ! もう君にはこれ以上の抵抗は出来ない!」


白那さんはうつ伏せに倒れるルナリーを見下ろして、そう宣言する。
白那さんはハッタリを言う様な人じゃない、これでアイツは本当に終わったんだ…
アタシはどっと疲れが噴き出して来たのを感じる。
直接戦うわけでもねぇのに、こんなに疲れるのかよ…?


ルナリー
(くっ、そ…! 本当にチートな能力ね…)
(ダメかぁ…やっぱ、こういうのは私らしくないんだなぁ〜)


ルナリーは頭から血を流し、息をゆっくり吐いていた。
白那さんは、いつでも攻撃出来る体勢でまだ構えている。
ルナリーがいくら速くても、あの状態じゃもう打つ手は無いだろう。


クイーン
「…ここまでか、審判! 試合終了だ!! この勝負、チャレンジャーの勝ち!!」


クイーンはルナリーのダメージを案じたのか、自ら敗北宣言をする。
そして審判が勝鬨を上げ、会場は大歓声。
どうやら、アタシたちは勝利した様だった…


白那
「…立てるかい?」

ルナリー
「止めてよ…嫌味のつもり?」


白那さんが屈んで差し出した手を、ルナリーは取る事なく自力で立ち上がる。
阿須那の炎で服は焦げ付いている。
かなり良いスタイルなのは見て解るな…ボロボロすぎてチト気の毒だが。


ルナリー
「…はぁ、本当に最悪」

白那
「で、それは良いけど聖君は?」

ルナリー
「どっかにいるわよ…勝手に探せば?」


ルナリーは何かを呟いて背を向ける。
白那さんはため息を吐いて、目を瞑っていた。
こっからじゃ会話内容も聞こえないな…歓声がうるさすぎる。


白那
『聖君、聞こえる?』


『白那さん!? まさか、白那さんが来てるんですか?』

白那
『…すぐ助けに行くよ、場所は解る?』


『あ、えっと、その…ルナリーさんは?』


白那さんは目を開くと、ルナリーの背中を見ていた。
彼女はトボトボと肩を落として、去って行っている。
そんな中、クイーンはポンポン…とルナリーの頭を軽く叩き、激励している様にも見えた。


白那
『…とりあえず、座標は割り出せたから後で迎えに行くよ』


『あ、はい…』


白那さんはふぅ…と息を吐き、アタシの所に戻って来る。
悶々も阿須那も気を失ったままだ…改めて強敵だったな。
白那さんじゃなきゃ、勝てた気がしない…


白那
「沙譚ちゃん、聖君は見付かった…これで、目的は達成だ」
「君は…どうする? 聖君には会って行くかい?」

沙譚
「…いや、良い」
「アタシは悶々を連れて病院に行く、後はそっちに任せるよ…」


アタシはそう言って、悶々の首根っこを掴んでを引きずる。
やれやれ…ホントに役に立たなかったな、コイツ。
とはいえ、これで後腐れ無しだ。
このまま元の世界に戻れたら、万々歳なんだがな…



………………………



白那
「やぁ、聖君…」


「あ、白那さん…お疲れ様、で良いんですかね?」


白那さんは、とりあえず無傷の様ではあった。
だけど、見た目以上に疲れている風には見える。
こんな白那さんは、中々見た事無いな。


白那
「…久し振りに疲れるバトルだったよ、阿須那ちゃんなんかKOされたし」


「阿須那が…!? そんなに強敵だったんですか?」


タイプ相性もあるかもしれないが、あの阿須那がKOされるとはな…
ルナリーさんがやったんだろうか? アイツ、そんなに強かったのか?


白那
「ルナリーって言ったっけ? あの娘、何者なの?」
「怪盗ってカードに書いてあったけど、聖君の知り合い?」


「…いえ、俺も昨日初めて会いました」
「この混沌に巻き込まれて、生活費の為にここで働いてるそうですよ?」

白那
「…それで、何で聖君が?」


そりゃ、もっともな疑問だろう。
しかし、ルナリーは頭が悪いから単純明快な理由で俺を拐ったのだ。
それを真面目に話して白那さんはどう思うだろうか…?



「…ルナリーさんは、生きる為に必至なんですよ」

白那
「成る程、訳有りか…まぁ聖君らしいね」
「とりあえず、帰ろうか? 阿須那ちゃんも会いたがってたし、病院に行けば会えるけど?」


「…他の連中は来てませんでした?」


俺は念の為に聞くが、白那さんは思い当たらない様だった。
となると、まだひと騒ぎありそうだな…
俺はそう思い、白那さんにちょっと頼み事をする。
そして、俺は白那さんの力で外に出る事にした。



………………………



ルナリー
(そりゃ…いないよね、もう)


私は、ひとり地下倉庫で立ち尽くしていた。
魔更 聖…所詮利用するだけの存在だったんだから、別に問題は無い。
ただ…この地下倉庫は寒く、音もほとんど伝わらないから酷く寂し気に感じる。
私は、特に用も無くなったこの部屋からさっさと外に出た。
あれから、チューブには多くの挑戦者がなだれ込み、それなりに忙しかった様だ。
私はあのバトルの後、治療に入っていたから詳細は解らないけど…
クイーンの満足そうな顔見たら、それなりに成功したのだと理解出来た。
私の方も特別ボーナス貰えたし、ここにいる間なら遊んで暮らせる位の余裕はある。


ルナリー
「…まぁ、こんなの私の本業でも無いけどね」


私は、未だ戻れる気配の無い元の世界を思う。
全てに捨てられ、全てを奪われ、そしてそれを取り戻す為に私は盗人になった。
その仕事もまだまだ中途半端…出来れば早く戻りたいんだけどね。


ルナリー
(アイツ、元気かな? 今でも姫と仲良くやってんだろうなぁ…)


私は、元の世界にいるであろう友人を思う。
本当は友人と言える程仲良くもないけど、まぁそれは別に良いでしょ。
私は、何となく過去を思い出し、微かに微笑む。
そして何となく勝ち誇った。
端から見たら滑稽にも思えるかもしれないけど、私はそれなりに楽しかった。
この気持ちだけは、悪くは無かったかな…


ルナリー
(あぁ…サンドイッチの作り方、聞いときゃ良かった)


私はそれだけ後悔していた。
今度アイツに食わせる時は、絶対アッと言わせるつもりなのに…



………………………




「やれやれ…ようやく終わりか」

阿須那
「ったく、ホンマ敵わんわ…偉い目におうたで」

女胤
「私たちは出会いませんでしたけど、そんなに強い方がいたのですか?」


俺たちは阿須那の病室で見舞いに来ていた。
既に家族たちの挑戦は終了しており、今は俺と女胤だけで阿須那の所にいる。
他の人間はおらず、この病室は阿須那専用みたいになっていた。


阿須那
「ムカつく女やったが、マジモンに強かったわ…あんなんが紛れてるとは予想もしてへんかった」


阿須那は、そう言って目を細めた。
相当堪えたみたいだな…自信たっぷりに挑んで返り討ちなら。
ルナリーさんもそうだけど、この混沌は本当に強者が多い。
自惚れてた訳じゃないが、正直華澄や阿須那たちと互角以上に戦える人が複数もいたと言うのは予想外だった。
その点を考えたら、唯ちゃんはちょっと他よりも強い…って位で収まってたんだけどな。
もしかしたら、他にもトンでもなく強い人は隠れてるのかもしれないな…


女胤
「牙皇さんたちもそうでしたけど…私たちの力というものは、他の世界的に見れば、それ程大した物ではないのかもしれませんね…」


女胤は俯いてそう呟いた。
だが、女胤は悔しがっている様でもある。
元々プライドは高いからな女胤は…とはいえ、自分の実力不足は実感してる様だ。
女胤だって、十分強すぎる位なのにな…やはりポーション事件は可哀想だったと言わざるを得ない!


阿須那
「…なぁ聖、リィザって、強かったん?」


「…昔のムウマの事か? う〜ん、そりゃ強かったのは強かったと思うけど…」
「それでも、成長したお前たちからしたら、流石に見劣りすると思うぞ?」

女胤
「まぁ、過去の話ではありますからね…」
「当時の私たちでは、それ以下の可能性も高かったわけですし」


あくまで守連たちは何度も失敗を繰り返して強くなっていったからな。
まぁ、それでも結局俺は当時諦めて絶望したわけだが…


阿須那
「…でも、リィザはアルセウスに勝ったんよな」

女胤
「…はい、それも聖様をただ信じて、離ればなれになってもその心を強く持って」


俺は胸が痛んだ。
リィザさんは、俺の意志に関わらず大きな事を成し遂げた。
結果として、リィザさんは永遠存在となり、今もどこかの世界を彷徨っているらしい。
そして、どこかで誰かを助け続けているんだろうな…



(そういや、氷華の時はあっさり皆の記憶が消えてたけど、他の娘はそうじゃないんだよな?)


考えてみるが、他には類例が無い。
未来さんの事も華澄は覚えていたし、阿須那もルナリーさんの事は覚えてる。
氷華は時間制限と言っていたが、あくまで時間が足りなかったのは氷華だけだったのかな?


阿須那
「…何なんやろうな、ホンマ」

女胤
「…自分の存在意義を疑う様な混沌ですものね、今回は」


まぁ、気持ちは解らんでもないか。
阿須那はともかく、女胤は完全に悲劇だったからな。
華澄だって未来さんには勝ってるし、確かに結果だけ見れば格差はあるかもしれないが…



「…お前たちはよくやってるよ、ただ運が無いだけだ」

阿須那
「運、ねぇ…」

女胤
「身も蓋もありませんが、そうかもしれませんね」
「これも私たちに与えられた試練なのかもしれません」
「やはり、聖様の童貞を奪うのは並の努力では無理なのだと!!」


女胤はそんな事を言って、凄まじい形相で拳プルプルをしている。
端から見たら悪党っぽいが、女胤ならハマリ役だから大丈夫だろう。


阿須那
「…聖は、そういうのは興味無いみたいやけどな」


阿須那は阿須那で冷めていた。
まぁ、求められた所で応じないのは確かだからな。
とはいえ阿須那には悪いと思ってはいる。
俺はとりあえず、学生の内は守り通すつもりだからな…


女胤
「はぁ…まぁ、解ってはいるのですけれどね」
「ですが、聖様としては最初に子種を授けるのなら誰が最初なのでしょうか…?」


この台詞には、流石の阿須那もガタッ!とベッドを揺らした。
おっと、何だか妙な方向で話が進み始めているが…?


阿須那
「確かに気にはなるな…聖的には、卒業後の子作り計画はもう決めてるんか!?」


「アホか…そんなの決めてるわけないだろ、どっちにしてもお前らは無い」

女胤
「既に無理ゲー!?」

阿須那
「…ちっ、既にそこまでドン底か」


まぁ、この辺は俺の好みにも寄るからな。
阿須那はまだしも、女胤は流石に無い。
最初ってのは流石に意味のあるワードだし、誰もがそれは望む事でもあるだろう。



「…守連なんて、まだ1度もそういう事言わないのにな」

阿須那
「あ……」

女胤
「た、確かに…守連さんは聖様と1番長い付き合いなのに、本当に達観してますよね…」


そう…守連は自分の特性もあって、特に俺とは触れ合いたがらない。
守連は力の強すぎるピカチュウでありながら、その力を未だにコントロールが安定してないのも理由だが…
守連は優しい娘でもあるし、ある意味1番リィザさんに近い性格なんだけどな…



「…とりあえず、お前らは少し守連を見習えってこった」
「華澄ですら、ワガママを言う事はあるんだからな…」


阿須那
「何やねん、それ…ウチ等が聖に相応しくないみたいやんか」


俺は、何も言えなかった。
そして同時に、阿須那の気持ちも少し理解出来た。
俺は…そこまで阿須那を追い詰めていたのか、と…



「阿須那…俺は別に」

阿須那
「気にすんなや…ただの愚痴や」
「ウチが聖好きなんは変わらん…せやけど、思う所はあるってだけや」

女胤
「…聖様、私たちは聖様に相応しくないですか?」
「聖様の子を成したいと思うのは、傲慢ですか?」


俺は何も言えなかった。
阿須那と女胤も、真剣に悩んでいる。
だけど、俺はそれに対して答える事は出来ない。
ふたりの気持ちは解っている、その上で俺はふたりを遠ざけているのだ。



「…俺は、誰も選ばないよ」
「慕ってくれる気持ちは嬉しい、それでも…俺は選ばない」

阿須那
「聖らしいわな…解ってはおるけど」

女胤
「はい、聖様は決して自分の気持ちを曲げる事は無いのですから…」


俺は、一体何様なんだろうな?
偉そうに言いながら、ただ人を傷付けているだけなのかもしれない。
俺は過去を捨てた…あの過ちは無かった事にした。
ただ、それでも俺は忘れられないのか?
俺にとって、それだけリィザさんの存在は大きいのか?
アルセウスさんは、俺らしく生きろと背中を押してくれた。

俺は、それを信じたい。
でも、阿須那や女胤は不信感を持っている…?
それは、まさかとてもマズイ事なんじゃないのか…?
俺の存在は、それ自体が既に不和を生み出しているのかもしれない……










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第5話 『想いの交差』


To be continued…

Yuki ( 2019/05/14(火) 14:16 )