とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない













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第7章 『バトルフロンティア』
第4話

「さて、パレスに突入は良いのだが…」

麻亜守
「お母さん、今度は一緒に行くのだ!」

借音
「えっと…どうします?」


麻亜守ちゃんのやる気を削ぐのも可哀想だしな、ここはとりあえず借音さんと一緒にいてもらおう。
俺は俺で家族を探してみるかな?



「行って来てください借音さん、俺は少しここで家族を探してみます」

借音
「そうですか、解りました…こちらでも、誰か見かけたら声をかけておきますね」


俺ははい、と返事をして借音さんたちを見送る。
麻亜守ちゃんは手を繋いで凄く嬉しそうだ。
俺は、そんなふたりの仲を見て、何故か悲しくなった。



(俺には、両親からああいった愛情は受けた覚えがないからな…)


もちろん、姉さんから受けた覚えはある。
俺が小さい頃は、よく姉さんと一緒に公園で遊んだもんだし。



(ただ、俺が12歳の頃には、夢見の雫を使い始めていたからな)


あの頃から、俺は歪み始めていた。
後先考えずに歴史を変え、その度に神様を傷付けた。
そんな俺に下されたのは、当然の天罰。
最愛のポケモンを失うと言う咎まで背負ったのに、俺は心を折られ、自殺を計った。
それから守連たちや、白那さんたちのお陰で俺は何とか立ち直れたものの、俺は本質的には成長していないのかもしれない。



(家族か…華澄はきっと求めてるんだろうな)


昨晩の華澄は明らかに顔が違った。
いつもなら、あの手の話ではすぐに照れて離れる位なのに、あの時の華澄は覚悟をしていた様だ。
そんな華澄の覚悟を、俺は怖いと思ってしまった。



(…阿須那が追い詰められたのも、全部俺のせいなんだよな)


あの時は、本当に危なかった。
阿須那は恐らく家族を殺してでも真実を知ろうとしたのだろう。
その結果、俺を殺す事になっても、多分阿須那は覚悟していたはず。
そして、それは他の家族にも恐らく当てはまる。
普段から従順な女胤や愛呂恵さんでさえ、いつかは爆発する時が来るのかもしれない。



(その時、俺は止められるのか?)


むしろ止めて良いのか? きっと女胤や愛呂恵さんだって1番にはなりたいはずだろうし。
勿論、誰もが俺の1番を求めてる訳じゃないだろう。
ただ、それでも自分が1番幸せにはなりたいと思ってるはず。
そして、それが直接的に表現出来るのが、結婚や出産。
女性であれば、間違いなく幸せの形。
俺は、彼女たちにそれを与えられる、1番の存在なのだ。



(一応、卒業してからと約束はしてあるが…誰を最初にするかは明言してないからな)


下手をしたら卒業式に乱入して発情しかねんバカもいるからな…
その辺は念入りに釘刺しとかないと。



「…はぁ、とにかく今は今を楽しまないと、こんなイベントを企画してくれた人に申し訳ないからな」


「そうそう! 折角なんだから楽しまねぇとな♪」


俺は背後から声をかけられ、ギョッとした。
何と、そこにいたのはレスラー服と覆面を身に着けたガオガエンさんがいたのだ。
何という偶然か…いや、こんなイベントだからガオガエンさんも呼び寄せられたのかも。


ガオガエン
「何だシケた面しやがって? もっと堂々と胸張りやがれ!」


「あ、はは…ガオガエンさんがいるって事は、他の皆も?」

ガオガエン
「いんや、今回は俺とルチャブルだけなんだ」
「いつもだったら団体ごと転移するのに、今回に限っては俺とルチャブルのふたりだけだった」


そうなのか…つまり、ガオガエンさん的にもイレギュラーって事ね。
しかし、そうなるとこれは運が良いな…ガオガエンさんに協力を頼めばパレス攻略も何とかなるかも!



「ガオガエンさん、良かったら協力してもらえませんか?」
「俺、今パートナーが不在で参戦出来ないんですよ…」

ガオガエン
「そうなのか? ふーむ…」


ガオガエンさんは少し考えている様だった。
本当なら、また守連たちと戦いたいとは思ってるんだろうな。
俺と組むって事は、その可能性が低くなるからな。


ガオガエン
「…なら、条件付きでやっても良いぜ?」


「条件…ですか? それは?」


ガオガエンさんはニカッと笑ってそう言った。
そして、やや楽しそうな顔でガオガエンさんはこう言う。


ガオガエン
「実はリングネーム悩んでてな…良かったらイカすの考えてくれねぇ?」
「俺が気に入ったら協力してやる!」


成る程…リングネームねぇ?
流石にそんなの考えた事無いな…しかも気に入らなければダメとな。
俺はとりあえず腕を組んで考えてみる。
この際ネタは無しだ…協力して貰えるかどうかの瀬戸際だからな。
俺は可能な限りガオガエンさんに似合うであろうリングネームを考えてみた。



「ブレイジング・牙皇(がおう)とかどうです!?」

ガオガエン
「おっ! 中々良い響きじゃねぇか!」
「ふむふむ、よしそれで良いぜ!!」
「今から俺は『ブレイジング・牙皇』だ!!」
「まぁ、普段呼ぶ時は適当に呼びやすい様に呼びな」


そりゃそうだわな…現実のプロレスラーだって毎回フルでリングネーム呼ばれる訳じゃないし。
しかし、そうなるとどう呼ぶべきか?



「じゃあ、とりあえず呼びやすい様に牙皇さんで」

牙皇
「おう! そんじゃとりあえず初タッグで行きますか!!」
「おいそこのお前! 良かったらタッグ組まねぇ?」


「ん? 私に言っているのか?」


牙皇さんはいきなり、通りすがった女性にそんな誘いをかける。
タッグって、いきなりですかい…
しかも、その女性はまさかの知り合いだった…



「大愛さんじゃあないすか…まさかアンタも来てたのか?」

大愛
「む…特異点、いや聖だったな」

牙皇
「あん? 何だ知り合いだったのか?」


大愛さんはやや疲れた様な顔で立っていた。
服は青のタンクトップに藍色のジーンズと夏服のスタイル。
タンクトップの背中側には白文字で侠立ちと書かれており、万丁君の趣味が解るな…



「大愛さん、万丁君は?」

大愛
「いや、見ていない…そもそも、ここに転移してるのかも解らんからな」

牙皇
「何だ訳有りか? 折角強そうだから誘ったんだけどな…」


その眼力は一重に誇って良い。
白那さんに負けたとはいえ、大愛さんは紛れもなく禁止伝説だからな。
つーか、ゲームだったらフツーに出禁だっての!
とはいえ、パンフレットには別に禁止事項は書いてないんだよな…

しかし、万丁君は不在で大愛さんだけが巻き込まれたのか?
まだ解らないが、これで恵里香の言っていた意味が理解出来たな。
あの時以上の規模ね…こりゃ、相当数の人数がここに潜んでるって訳か。
非戦闘員も含めたら、探す場所はそれなりに絞った方がいいかもしれないな。


大愛
「ここに来たのはたまたまだが…何だ、組む相手を探しているのか?」
「と、なると…ダブルバトルか」


「とりあえずそうなるな…まぁ、無理には誘わないけど」

大愛
「いや、構わん…宙を探すのに丁度良いかもしれんからな」


成る程、確かに巻き込まれてるなら俺と同じ様に参加してる可能性はあるのか。
それなら参加する意味もあるな。


牙皇
「おっ、良いねぇ! それなら即席タッグ結成だ!!」
「タッグ名何にすっかなぁ〜? 聖、適当に決めてくれよ!」


今度はタッグ名ですかい…確かルチャブルさんとだとファイヤーストームズだったな。
大愛さんはディアルガで時間ポケモンだし…



「よし名付けて『クロノスファイヤーズ』だ!!」

牙皇
「うっしゃあっ! 早速殴り込むぜ!?」


我ながらそのまんまな命名だが、こんなもん即席なんだから解りやすいので良いだろ…
とはいえ、牙皇さん色々と勘違いしてなければ良いんだが。
大愛さんは変に無知な所あるし、何だか始まる前から既に不安だ…



………………………



実況
『さぁ、バトルパレス、マスターランクのダブルバトル!』
『今回の挑戦者はまさかの異色タッグ!』
『えっと…ガオガエンの、ブ…ブレイジング・牙皇!』
『そして、ディアルガ!?の大愛選手!!』
『タッグ名…クロノスファイヤーズの入場だぁ!?』


アカン…完全に色々間違ってる。
実況も意味解らんと言った具合に、もはやプロレスの実況になりかけていた。
とりあえず特殊演出が無いのがヒジョーに残念だが、牙皇さんと大愛さんは入場する。
ちなみに大愛さんも何故か着替えさせられており、プロレス用のピチピチスーツに身を包んでいた。
ぬお…やっぱ良いおっぱいしてるな、流石は白那さんの対と言われるポケモン。
本来なら姉妹の様な関係でもあるらしいし、似た所があるんだろうな…


牙皇
「しゃあっ! とりあえず即席でこれだぁ!!」


牙皇さんは両腕の人差し指を真上に高く上げ、アピールすると共に突如何も無い床からリングが競り上がってくる。
観客は全員どよめき、場が騒然とした。
そりゃ驚くよな…これ、ガオガエンの能力だし。
牙皇さんがスゴいのは、Z技使わずにこれだけ出来るって所でもあるよな…


実況
『何と、突然リング出現!? ブレイジング・牙皇、ロープを潜ってリングに上がったぁ!!』
『相方の大愛はリング外で待機! コイツ等ダブルバトルを理解していない!!』
『ええいもう良い! とにかく1戦目!! 最初の相手はコイツ等だぁ!!』


もはや実況も投げやりになって来たな…解らんでもないが。
とにかく、ようやく相手が現れる。
見た所、ドレス着たドレディアに黒一色の夏服を着た、ゲンガー?



「って! 女胤と櫻桃さんかよ!? こんな場面で遭遇するかフツー!?」

女胤
「さ、聖様が敵に!?」

櫻桃
「あーあ、しかもこれ何? 露骨に嫌な予感しかしないんだけど?」


その予感は多分的中してます。
まぁ女胤には悪いが、運が悪かったと思ってもらうしかないな。


牙皇
「聖は俺が預かってる! 取り返したきゃリングに上がりな!? カッ!!」


実況
『ブレイジング・牙皇、リング上でいきなり威嚇の首かっ切り!!』
『この挑発行為にドレディアの女胤、怒りを露にしてます!!』


女胤
「ふ、ふふ…! 上等ですわ、この痴れ者がっ!!」
「貴女はこの私の手で血祭りにして差し上げます!!」

櫻桃
「あれ? これってダブルバトルじゃないの?」


とりあえず女胤は意気揚々とロープを飛び越えてリングに降り立つ。
大愛さんは完全に傍観体勢で、かったるそうに両腕を胸の下で組んでいた。
とはいえ、とりあえず観客は大歓声。
血の気の多いポケモンや人間も多いらしいし、この異様な空気に当てられて既に熱気が充満していた。


審判
「と、とりあえず! 1戦目、始め……」
女胤
「死になさい痴れ者がぁっ!!」


女胤は開始と同時に不意打ちを行う。
どうやら開始前に『挑発』食らってたらしく、女胤は既に牙皇さんのペースに乗せられていた様だ。
やれやれ、女胤はクールそうに見えて全然そうじゃないからな…
ただでさえ相性最悪なのに、どうする気だアイツ?

とりあえず、女胤は最速のモーションで『種マシンガン』を拡散させる。
お得意のショットガンタイプでまずは牽制か。
あの距離じゃかわせない、牙皇さんはガードすらせずに食らう体勢だった。


ズバァァンッ!!


実況
『おっといきなり女胤の技がクリーンヒットォ!!』
『見た事の無い撃ち方ですが、あれは種マシンガンかぁ?』
『ともかく、ブレイジング・牙皇はモロに食らってしまったぞぉ!?』


牙皇
「ケッ、温い!!」

女胤
「なっ!?」


お返しとばかりに牙皇さんは口から火炎放射を吐く。
全く効いてないな…ただでさえガオガエンはタフな種族だ。
いくら女胤の特攻を持ってしても、あれじゃ豆鉄砲か…
って、んなわきゃない! よく見たら牙皇さんの上半身は服に穴が開いてる。
傷はそれなりにあるじゃないか…あれを温いと言い張るとは、流石だな牙皇さん。


女胤
「ぐうぅっ…! よくも私の顔に!?」

牙皇
「少し黙れ!!」


ドズゥッ!と、牙皇さんの右貫手が女胤の喉に突き刺さる。
こ、これは痛い! あれは、かの有名なヒールレスラー、○ッチャーも危険すぎて使用を禁止したと言われる『地獄突き』!!
女胤は呼吸すら困難になり、悶絶するがその隙を見逃す牙皇さんではない!
牙皇さんは素早く女胤の首をヘッドロックで捕まえ、空いてる左腕を高く掲げて観客にアピールした。
そして、呼吸を読んだかの様に声がシンクロする。


観客たち
「1! 2! 3!!」

牙皇
「ダァーーー!!」


実況
『決まったーーー!! 必殺のココナッツクラーーーッシュ!!』
『女胤の頭はブレイジング・牙皇の膝で砕け散ったぁ!!』


審判
「ワ、ワン! ツー! スリー!!」

牙皇
「っしゃぁ!! まずは1勝だぁ!!」


実況
『ブレイジング・牙皇、嘲笑う様に倒れて動けない女胤の胸を踏んづけてフォールゥ!!』
『あっさりとそのままカウントスリーを許し、クロノスファイヤーズの勝利が決定したぁ!!』
『…って!! これそういうルールじゃねぇから!?』
『そもそもダブルバトルじゃあねぇだろ!?』


そりゃごもっともで…まぁ、トレーナーからしたら応援するだけの施設でもあるし、別に当人たちが納得するなら良いんじゃね?
大愛さんと櫻桃さんは完全に遠い目で見守っていた。
うん、気持ちは解るよ? そりゃ、何してんだろ私?って顔するよねっ!!
しかし、牙皇さんは完全にノリノリで女胤を踏みつけたまま観客にアピールしまくっていた。
楽しそうだなぁ〜牙皇さん。
やっぱ、心底プロレス好きなんだろうなぁ…本職だし。
ある意味ルール無用だが、バトルパレスのルール上は別に不備無いし、とりあえず良いのかね?


審判
「えっと…一応ダブルバトルだからまだ戦う権利あるけど?」

櫻桃
「あ〜いい、いい…やっても勝てる気しないし、何より面倒臭い」
「とりあえず目的は果たしたし、そこのボロ雑巾回収して撤収するわ…」


そう言って櫻桃さんはあっさり棄権する。
まぁ、櫻桃さんも相性悪いからな…女胤ですらあの結果だし、櫻桃さんでも大して変わらんだろうな。
しかも、大愛さんも控えてるし…って、無理ゲー過ぎんだろ!?
よくよく考えたら、これ勝てるタッグいんのか?
守連と白那さん辺りが組んだらあるいは勝てそうだが…そんな偶然流石に無いだろうな。

とりあえず櫻桃さんは女胤の首根っこを掴んでズリズリ引きずって行った。
哀れ女胤…ただでさえ出番少ないのにこの仕打ちとは。(;´Д⊂)



………………………



牙皇
「やれやれ、まぁ1戦目だしこんなもんか…客のノリは良い感じだったがな!」


「ある意味尊敬しますよ、ここまで清々しくプロレスされると」


俺がそう褒めると、牙皇さんはダハハッ!と豪快に笑う。
だが、言う程牙皇さんの傷は小さくないのも見て解る。
牙皇さんの破れた服の穴からは血が滴っており、痛くないとは思えないんだが…


大愛
「とりあえずさっさと治療を受けて来い、見ていて痛々しい…」

牙皇
「こんなモン掠り傷だろ? それに連戦デスマッチと思えば普通だし」


いや、そりゃプロレス的にはね!
とはいえ見ていて良い気分にならないのは同感だ。
とりあえず無理にでも治療は受けてもらうかな…?



「大愛さん、頼んでも良い?」

大愛
「…やれやれ、手間をかけさせるな」

牙皇
「何を…!?」


気が付くと、俺の目の前から牙皇さんと大愛さんが消える。
大愛さんの能力で無理矢理にでも治療室に送ってもらったのだ。
未来さんの時もそうだったけど、マトモに相手の攻撃を受ける瞬間を見るのはキツい…
慣れてないのもあるかもしれないが、相手の攻撃の性質によっては即死も有りうるだけに、見ていてヒヤヒヤするんだよな…
今回は相性有利だったからあれで済んだけど、もし効果抜群だったらどうなってたか…?
考えてもゾッとする…女胤のアレは言う程温くないのだから。


櫻桃
「おっ、とりあえず発見〜♪」


「うわっ!? 櫻桃さん!? 急に壁抜けて来るとは…」


櫻桃さんは横の壁からいきなりすり抜けて現れた。
元々ゲンガーはこういった能力があるみたいだし、突然やられるとホントに心臓に悪いな。


櫻桃
「女胤はとりあえず病院送りだよ…まぁ単発で気絶したのが救いだったね」


「はは…女胤の奴、今頃相当悔しがってるだろうな」

櫻桃
「だろうね…あの性格だから、今頃呪いの呪詛でも呟いてるだろ」


櫻桃さんはケラケラ笑っていた。
櫻桃さんも、こういう所は何気に藍に似てるよな…
ペットは飼い主に似ると言うが、言ったら殺されそうなので自粛しておこう。
櫻桃さん、絶対認めないだろうし…まぁ、藍もだろうが。



「そういえば、女胤たちのトレーナーは?」

櫻桃
「さてね? もうどっか行っちゃったし…元々適当に人捕まえて参加すればその内アンタに会えるだろって、女胤が言い出したからね〜」


そりゃまぁ、良い勘してるわ…
まさに女胤的には大当たりだったわけだが、今回に限って家族外と組んでたのが災いしたか…女胤のダメージ的に。


櫻桃
「とりあえず、一旦女胤の所に戻るから…終わったら解りやすい場所で待っててくれる?」


「解りました、でしたら終わったら施設の前で落ち合いましょう」
「借音さんと麻亜守ちゃんもジュニア部門で参加してますから、後で会えると思います」

櫻桃
「何だ、借音たちも一緒だったのか…そりゃ都合が良いや」
「OK、とりあえず施設前ね…じゃあまた後で」


俺がはい、と答えると櫻桃さんは壁をすり抜けて部屋を出て行った。
やれやれ、とりあえず次はどんな相手かねぇ?



………………………



実況
『さぁ、またまたやって来ましたルール完全無視のタッグバトル!!』
『観客は何気に待っていたのか、盛り上がり方が桁違い!!』
『さぁ、クロノスファイヤーズの入場だぁ!!』


もはや何も言うまい…牙皇さんは楽しそうに飛び出しすぐにリングを競り上げる。
そして当たり前の様にロープを潜って相手を待っていた。
とりあえず、傷は治ってるし服も新しくなってる。
大愛さんは相変わらずかったるそうにため息を吐いていた…

そして、反対側のコーナーからふたりのポケモン娘が現れる。
これまた俺はビックリ…何と出て来たのは浮狼さんと杏さんだ。
そしてトレーナーは何と藍!
どうやら、偽装薬使って人間に成り済ましている様だ。
考えたな…それなら自分が出なくても、兵隊コキ使えば良いもんな!!
つーか、何でこの施設に限って家族集中してんだ!?
皆、他人に命令されるのが気に食わないんだろうか?
まぁ、気持ちは解らんでもないが…



『おい、バカ野郎…何でお前がそこにいる?』


(テレパシーかよ…バレたら摘まみ出されるぞ?)


藍は事もあろうに反則覚悟で俺に語りかけていた。
施設内はある程度ジャミング効いてるはずだが、この辺りは流石アグノムって所か。



『ちっ、まぁ良い…折角の祭りだ、とりあえず楽しませてもらうとするか…』


それだけ言って藍はテレパシーを遮断する。
そしてケラケラ笑い、浮狼さんたちを促した。
浮狼さんと杏さんは互いに顔を合わせ、どちらから行くかを決めている様だった。
うん、バカ正直でよろしい! これ一応ダブルバトルだからふたり同時でも構わんのよ!?
とりあえず、あまりに真面目な顔をしているふたり相手に俺は声を出せずにツッコンだ。



「大将は後詰めで頼む、まずはアタシが出鼻を挫いて相手の引き出しを探るから」

浮狼
「解りました…ですが注意を、相手はあのガオガエン…並外れた強さを持っています」
「無理だと思ったらすぐにギブアップを…怪我をしては元も子も有りませんし」


「りょ〜かい! まっ、こういうのは嫌いじゃないしね〜♪」


話は決まったのか、杏さんがロープを潜った。
浮狼さんにしろ杏さんにしろ、やっぱ相性は悪い。
特に浮狼さんはスピードが無いから、牙皇さんとは闘い辛いだろうし。


実況
『さぁ、相手はどうやらペンドラーの杏で行く模様』
『ブレイジング・牙皇がタイプ的には有利だが、さぁ果たしてどうなる!?』


牙皇
「カッ! さぁ、どっからでも来いよ!?」


「言うねぇ〜? 自信過剰なのは命取りになるよ!?」


言った瞬間、牙皇さんの足元が揺れる。
杏さんはかなり小さなモーションで小型の地震を起こし、いきなり効果抜群の技で攻撃したのだ。
だが、牙皇さんはつまらなさそうに睨む。
速度重視のせいでほとんど効いてない。
だが、それを見て杏さんは不適に笑う。
ああ見えて杏さんは智将の側面を持っている、既に罠を張っているのか!?


牙皇
(ちっ、初速から飛ばしやがるな…! しかも加速してやがる!!)


実況
『杏の速度が速い!! 狭いリングを縦横無尽に駆け回ります!!』
『リングの上に法廷速度は無い! ブレイジング・牙皇、捕まえられるかぁ!?』



「そら! こんな技も使えるぜ!?」


杏さんはリングの端を円上にグルグル回り、そのひとつの踏み込みに『岩雪崩』を混ぜる。
命中するかは考えてない撃ち方で、完全に怯み狙いの撹乱用だった。
とはいえ、当たれば効果抜群! 牙皇さんは舌打ちしながらも頭部をガードして踏ん張っている。
辛うじて致命傷は避けたものの杏さんの足は止まらない。
牙皇さんはじっくりと耐え、杏さんの隙を探している様だ。



(よし、最速のギアに入った…後はじっくりと火力を高める!)


杏さんは更に激しく動く。
いや、あれは恐らく『剣の舞』だ! 杏さん、あの速度で徹底的に能力を高めている。
牙皇さんでもこのままじゃマズイぞ?
最大火力で弱点突かれたら、危険過ぎる!


牙皇
「成る程ね、底が知れたな…」


「!? なら、コイツを食らいな!!」


何と、杏さんはリズムを変えて足に水を纏う。
あんな技見た事無いぞ!?
だけど食らえば効果抜群! どうする気だ牙皇さん!?

杏さんは両手を地面に突き、そこから飛び上がって両足を振り回す。
俺はこの時点で解った、あれは『アクアテール』だ!
本来、ペンドラーは長い胴体を使って振り回すが、人化した杏さんはああやって使うしかないのな…
見た目はカポエラの逆立ち蹴りみたいだが、牙皇さんは
死角からそれをまともに側頭部で受けた。
…が、牙皇さんは少し後にズレただけで怯みもしない。
むしろ攻撃を当てた杏さんの方が驚いていた。



「嘘っ!?」

牙皇
「言ったろ? 底が知れたって!!」


牙皇さんは口元から血を流しながら笑って杏さんの足を掴む。
そして、素早くそれを捻ってクロスヒールホールドに入った。
ここで間接技! こうなったら杏さんはもう動き回る事は出来ない。
杏さんはすぐにマットを叩き、審判は試合終了を宣言。
牙皇さんはそれを聞いて、少し不満そうに杏さんを解放した。


実況
『何と言う結末!! 終始ゲームを支配していた杏が接近戦に出た途端、耐えられてからのサブミッション!!』
『杏、カットも待たずに即ギブアップしてしまったぁ!!』


牙皇
「やれやれ、これじゃ客がフラストレーション溜まっちまうぜ…」


どうやら、牙皇さん的にはそれが気に食わなかった様だ。
良くも悪くも、杏さんの戦法は玄人を唸らせる戦法だったからな。
しっかし、あれだけ能力上げた杏さんの技を耐えきるなんて、ホントに牙皇さんのタフネスは底が知れないな…



………………………



浮狼
「お疲れ様です、杏…良くやった方ですよ?」


「あ〜ん! 良いトコ見せたかったのに〜! 何であんな簡単に耐えられるかなぁ〜?」

浮狼
「ふふ、あれだけ時間をかければ、相手も『ビルドアップ』を最大まで使ってますよ…」


「で…!?」


(やれやれ、あんまり面白くならなかったな…)



………………………




「成る程ねぇ〜ビルドアップかぁ…」

牙皇
「あんだけ長い事ダラダラされたら余裕だわ…」
「いくら攻撃と速度積んだ所で、こっちも防御が上がってるなら耐えれるのは道理だしな」


うーむ、やっぱ牙皇さんは結構考えてるよな…
ぶっきらぼうそうに見えても、その実ちゃんと戦略も見せる名レスラーだ。
あくまでああいう態度はアピールの一貫なのだと俺は理解する。
牙皇さんはワザとああやってヒールを演じてるんだな…


大愛
「しかし、連続で知り合いとはな…」


「確かに、改めて皆の信頼度が解る…どんだけ他の奴に命令されるのが嫌なのか」


この分だとまた出会いそうだ…下手したらパレスにこもってた方が楽に見つかるんじゃないのか?
とはいえ、別動で動いてる華澄と三海も気になるし、あっちはどうなってるやら…?
まぁ、何はともあれこれで2連勝…って後5戦もあるのかよ!?
俺はやや頭を抱えながらも、とりあえず牙皇さんの楽しそうな顔を見てとりあえず満足した。
そうだよな…やっぱ祭りは楽しまないとな!



………………………



浮狼
「成る程、そう言う経緯でしたか」


「はい、とりあえず俺たちも祭りに乗じてって感じですね」


俺は対戦後、浮狼さんと控え室で会っていた。
浮狼さんはとりあえず俺の無事を確認して安心した様だ。
杏さんはとりあえず軽症だった様で、今は軽く治療を受けて外で待っているらしい。


浮狼
「…それでは、私たちも外で待機しておきます」
「もし何かあれば、いつでもご命令を」


浮狼さんはそう言って部屋を出て行った。
そして、それから入れ替わる様に牙皇さんと大愛さんが帰って来る。


牙皇
「やれやれ、いちいち治療するのは面倒だな…」

大愛
「…黙れ、必要な事だ」
「ダメージを引きずって敗北されても、それはそれで鬱陶しいからな」


大愛さんも何だかんだで面倒見は良いよな…
口は悪いけど、ちゃんと気を遣ってくれるし、そういう所はやっぱり白那さんに通じる所はあるんだろうな…



「とりあえず、このまま他の家族と出会いそうな気配ですし、万全を期しましょう」
「牙皇さんも、ダメージが原因で負けるなんて本望じゃないでしょ?」

牙皇
「ん…まぁ、そうだけどな」

大愛
「なら文句を言うな…必要なら私に代われ」
「面倒でないなら、私が蹴散らしても構わんのだぞ?」


大愛さんなりに気遣ったセリフだが、それを聞いて牙皇さんはハハハッ!と豪快に笑った。
牙皇さんは、やはり譲る気は無いらしい。


牙皇
「まぁ、タッグだから交代するのはやぶさかじゃねぇよ」
「だが、客を楽しませんのは俺の本業だ…」
「アンタに頼る時は、俺がちゃんと決める…それまでは見ておきな♪」


牙皇さんはあくまで観客第一か…やっぱプロだよな。
大愛さんははぁ…と深いため息を吐くも、とりあえず納得はした様だ。


大愛
「…まぁ良い、とりあえず好きにはしろ」
「だが、私がやる時は私が決める…その時は文句は言わさん」

牙皇
「…わぁったよ、そん時は譲ってやる」
「俺だけが楽しむのは、確かに勿体無いからな♪」


牙皇さんは本当に楽しそうに笑っていた。
大愛さんとは対照的に明るい笑顔。
大愛さんは、やっぱりどことなく表情が暗いんだよな…
思い詰めている様にも感じる、大愛さんには大愛さんの悩みが大きいんだろう。
やれやれ、万丁君はもう少し大愛さんの心を癒すべきだな。



………………………



実況
『さぁ、もはや違和感も少なくなって来たクロノスファイヤーズの3戦目!!』
『さも当然の様にリングがせり上がりますが、これはプロレスではない!!』
『いいか忘れるなよお前ら!? これはバ・ト・ル・パ・レ・スの! ダ・ブ・ル・バ・ト・ル!! だからなぁ!?』


もはや実況のツッコミも虚しくなっていていた。
例によって牙皇さんはロープを潜り、ひとりで相手を待っているのだから。
そして、相手側からは3人の影。
俺たちはそれを見つめ、相手の姿が見えるのを待った。



「あっれ〜聖君!?」


「げっ!? 光里ちゃん!?」


何と先頭きって姿を見せたのはあの光里ちゃんだった。
まさか、彼女も巻き込まれていたとは…って事は、万丁君もいる可能性が高くなって来たな。
で、今回の対戦相手は…


騰湖
「ぬぅ…まさかこの様な事態になるとは」


「お〜大愛発見」

大愛
「…穹か、少々面倒な組み合わせだな」


まさかの禁伝コンビ。
伝説のドラゴンが3人も揃い踏みだよ…
しっかし、ある意味異色タッグだな…仲良くやれてんのかあのふたり?
少なくとも騰湖は相当苦い顔をしている、ハズレ引いたって顔だな。


光里
「…あれ? ここってこんな施設だったっけ?」


「気にしなくて良いぞ? こっちのスタンスだから、そっちはフツーにダブルバトルやりゃ良い」


そもそも、こっちのルールに無理に付き合う必要は無いっての。
まぁ、牙皇さんがどう出るかにも寄るだろうけど。



「ひとりで戦うの?」

牙皇
「いんや、こっちもタッグだ…必要があれば交代するさ」

騰湖
「ふざけるな、こっちは遠慮無くふたりで同時に……」

光里
「穹ちゃん! ○ガ! フューーーージョン!!」


光里ちゃんはそんな叫び声をあげる。
すると、穹の背中から『遺伝子の楔』が伸び、騰湖の首筋を捕らえて鎖が巻き付いていった。
その瞬間、騰湖は意識を失ったのかぐったりとし、穹は騰湖を体に取り込む。
そして、笑う牙皇さんの目の前には、見た事の無い姿のポケモンが立っていた。



「…むぅ、久し振りの合体だから違和感ある」
「あいつ、また胸大きくなってるし…重い」


声は穹の声が低くなった様な感じだな。
あくまでベースはキュレムって事か。
しかし、風貌はまるで違ってる。
顔の右側はキュレムの角が伸びており、逆側はレシラムの様な白い毛が長く伸びていた。
腕からも美しい白毛が長く伸びており、肩はキュレムのパーツ。
尻尾は灰色のキュレムカラーにレシラムの純白が伸びているかの様な、半分半分の折半デザイン。
見た目はかなり騰湖寄りになっているが、中身はほぼ穹の様で、とりあえずややウザそうに目を細めて体を動かしていた。



「つか、何故に○ングジェイダー!?」

光里
「合体はロマンなんだよ聖君!!」


それは激しく同意する!
あえて勇者的な○ガフュージョンを採用するとは、やるな光里ちゃん!!


牙皇
「へぇ、あえてタッグ性能を捨てて戦うってのか?」
「面白ぇ、それならこっちも……」

大愛
「どけ、コイツは私が相手をする」


気が付くと、大愛さんが代わりにリングに立っていた。
リング外に摘まみ出された牙皇さんは、目をパチくりさせて状況を確認する。
そして、牙皇さんはとりあえずこう叫んだ。


牙皇
「おいっ! 何のつもりだ!?」

大愛
「黙れ、コイツはお前ひとりでは無理だと言ってる」
「私が先に消耗させてやるから、お前はトドメを担当しろ」


これはまさかの展開だ。
あの大愛さんが本気で警戒している。
それもそのはず、目の前にいるのは騰湖を取り込んだ穹だ。
単純なレベル足し算でも、相当なパワーアップを果たしているはず。
それに対して一対一はある意味無謀だ!!



「大愛さん、拘る事は無い! 牙皇さんとふたりがかりで相手を…」

牙皇
「黙ってろ聖!! ここは、アイツに任せる!」


牙皇さんは背中越しに俺を叱責する。
俺はそれ以上何も言えなかった…馬鹿げてるだろ、こんなルール。
どうせ策なんか考えてない、牙皇さんは客を楽しませる事しか考えてないのだから…


実況
『何と、これはまさかの展開!!』
『キュレム、レシラムを取り込んでのパワーアップ形態!!』
『あえてダブルバトルのルールでこれは、一概に賢い選択とも思えないが…』
『相手は全くダブルバトルをする気の無いバカ共!!』
『これでは、逆にキュレムがガン有利だろー!?』


解ってんだよそんな事は!!
でも牙皇さんは聞きゃしない!! 大愛さんもそれが解ってるからあえてひとりで前に出たんだ!
こうなったら信じるしかない…このルールでは、俺に何の力も無いのだから…


審判
「と、とりあえず3戦目! 試合始め!!」

大愛
「さて、少し灸を据えてやるか…」
「私も負ける気は更々無いのでな?」


「すぐに調子に乗るのが貴女の悪い癖」
「今の私は貴女よりも……!?」


突然、穹は全身から冷気を噴出した。
その時点で大愛さんはもう移動している。
そして、大愛さんは穹の後で右手を構えたまま苦い顔をした。


大愛
「…成る程、これは厄介だな」


「貴女の能力は把握してる…触れなきゃ貴女は有効打を打てない」


どういう事だ? 大愛さんの時間停止には制約があるのは知ってるが、触れなきゃ意味が無いのか?



「貴女の時間停止は飛び道具が機能しない」
「仮に撃ったとしても、時間が動いてから私は余裕で対処出来る」
「そして、私が『絶対零度』の壁を纏う限り、貴女は触れる事すらリスクを負う」


成る程…あくまで停止中に動けるのは大愛さんの体のみ。
本来有効な飛び道具は停止中だとそのまま停止するって事か。
しかも、穹はそれを容易に対処出来る、と…そんな状態で大愛さんはマトモに戦えるのか!?


大愛
「やれやれ…舐められたモノだな」
「私が時間停止だけのポケモンだと思っているのか?」


「時間を加速させても無駄、加速するのは貴女の体か触れた相手だけ」
「飛び道具を加速させるには物質に限るはず」
「下手に加速させたら、私の冷気で死ぬよ?」


穹は絶対の自信を持っている様だった。
しかし、そうか…大愛さんの能力は触れなければ効果が無いのか。
便利すぎると思っていたけど、確かに白那さんの能力同様、癖が強いんだな…


大愛
「ふむ…なら、加速させなければ良いのだろう?」


「え…?」


大愛さんは瞬間移動する。
正確には時間を停止させて移動しているので、端から見たらそう見えるだけだが。
穹は少し驚いた顔をするも、穹の周りには絶対零度の冷気の壁が覆っている。
下手に触れれば大愛さんの腕はポッキーの様にポッキリ折れてしまうだろう。
それこそ、全身で受けたら○イアーさんの様にバラバラにされてもおかしくない。
どうする気なんだ大愛さん!?


大愛
「さて、コイツは調整が難しいんでな…とりあえず1発は食らってもらうぞ?」


「!? 真後!?」


穹は振り向かずに冷気の壁を全身に纏う。
どこから攻めても必ず冷気に遮られる。
だけど、大愛さんは構わずに右手を貫手で構え、かなりゆっくりした速度で冷気の壁に突き刺して行った。
指の先端から冷気の壁に突入するが、大愛さんの手は凍らない。
手には鋼っぽいオーラが纏われており、どうやらメタルクローの様だった。
鋼タイプは氷タイプに効果抜群! 耐性もあるからすぐには凍らないのか?
でも、何であんなにゆっくりと差し込むんだ?
穹は状況を掴めずに、ただ冷気の壁に任せて立っている。
そして、10秒以上かけて大愛さんは穹の後首を、掴んだ。



「うぐっ!? そ、そんなバカな!?」

大愛
「言ったろう? 加速させなければ良いと…」
「私は手の表面だけを減速させたにすぎない…お陰で停止させない調整で氷結を緩めるのは面倒だったよ」
「そして、貴様に触れたと言う事は、貴様の時間はもはや私の物だ」


大愛さんは完璧な調整で壁を突破した。
そして、触れれば能力は行使出来る。
だが、それは決して簡単な仕事ではなかったのを俺は理解する。

バキィィイィンッ!!


実況
『な、何と大愛が突然吹き飛ぶ!?』
『穹は完全に停止しており動く気配は無いが、大愛は右腕を完全に損傷!!』


俺は理解した…大愛さんの能力は、あくまでひとつの対象しか指定出来ないのだと。
つまり、穹の時間を停止した時点で、大愛さんの右腕は絶対零度の冷気で即氷結。
穹は危険を感じて即座に大愛さんを冷気の噴出で吹き飛ばしたが、どうやら完全に停止したらしい。
とはいえ、停止時間はかなり持続が短かったはず。
大愛さんは動けないのに、これでは…


牙皇
「ハイパーーー!! ダーク! クラッシャァァァァァァァァァ!!」

光里
「穹ちゃーーーん!?」


何と、狙い済ました様に牙皇さんが必殺技を準備していた。
まさに、こうなるのが解っていたかの様な展開に、観客は大興奮。
牙皇さんは高らかに飛び上がり、全力の技を持って穹を強襲する。
穹は受ける直前に停止が解けるものの、もはや遅い。
牙皇さんの渾身のボディプレスに押し潰され、悪のオーラがリングを大きく揺さぶった。
あまりの威力に、大愛さんはロープまで吹き飛んでしまう。
風圧はこちらまで届き、光里ちゃんも驚いて屈んでしまっていた。
そして、リングには倒れた穹とフォールしている牙皇さん。


審判
「あ…ワ、ワン! ツー! スリーーーー!!」


実況
『決まったーーー!! 狙い済ましたブレイジング・牙皇の必殺技が穹に炸・裂!!』
『そのままフォール勝ちだぁぁぁぁっ!!』


牙皇
「ダァーーーーー!!」


牙皇さんは高らかに両腕を上げ、アピールする。
その胸と腹にはかなりの凍傷が確認出来ており、見るからに痛々しかった。
いかに炎タイプの牙皇さんでも、攻撃しただけであそこまでやられるなんて…恐ろしすぎるだろ白キュレム。
牙皇さんは今回は完全にトドメ役のみだったけど、それもちゃんと大愛さんの作戦通りって事か…


光里
「いやぁ〜ん、穹ちゃ〜ん!?」


「そ、空は…良いぞ……」


「そんだけギャグれるなら安心だな…」

大愛
「やれやれ…面倒な戦いだったな」


大愛さんは右腕をダラリとぶら下げ、そのダメージが見て取れる。
完全に凍傷しきっており、下手に触るのも怖い位だった。
ただでさえ吹っ飛ばされた時に冷気を浴びていたし、全身を震わせて寒さに耐えている様だ。


牙皇
「どけ聖! ったく、無茶しやがって…」


牙皇さんは俺を押し退け、大愛さんの腕を熱で温めた。
程なくして、大愛さんは痛みがぶり返したのか、歯を食い縛って耐えている。
血流が戻って一気に痛みが走ったんだな…


大愛
「ふん…勝つには勝ったか」
「やれやれ、手間をかけさせられたな…」


大愛さんは、やはり悲しげな顔だった。
俺には、残念ながらあの感情を読み取る事は出来ない。
ただ、大愛さんはそれでも何かを思い出す様な目で、顔を俯けていた。


牙皇
「ちっ、思ったより酷ぇな…動かせるか?」

大愛
「…無理だな、神経が全て切れている」
「腱もズタズタだ…今後は右腕無しで戦うしかないな」


やはり、相当な重症だったか。
それだけ穹の冷気は異常だったという事だ。
大愛さんじゃなかったら、ホントに触れる事も出来なかったかもしれない。
改めて白キュレムの力が解るな。


光里
「あ、あの…大丈夫ですか?」

大愛
「…ふん、私は敵だぞ? 気にする必要は無いはずだが?」
「それよりも、そこの馬鹿者を治療してやれ…1発とはいえ、並の一撃ではない」
「先に分離させるのを忘れるなよ?」


光里ちゃんは呆気に取られるものの、コクリと頷いた。
そして大愛さんはさっさとリングを降りる。
牙皇さんもため息を吐きながら一緒に降りてリングを消した。
やれやれ、大愛さんって結構人を気遣うんだな…?
自分のダメージは大きいはずなのに。



「大愛さん、とにかくすぐに治療室に!」

光里
「私も穹ちゃん連れて行く…って重い〜!!」


おっと、光里ちゃんにはチト辛そうだな…仕方ない、手伝ってやるか…
俺は穹の体を肩に担いでとりあえず持ち上げてやる。
穹は弱々しい息遣いでとりあえずダメージは大きい様だ。



「おのれ…惚れはせんぞ〜」


「せんで良い、おっぱいの感触は素晴らしいがどうせ騰湖のモンだろうし」

光里
「だよね〜借り物の体みたいだし、これでスタイル良くなっても複雑そう」


穹はその言葉が気に入らなかったのか、すぐに楔を解除して騰湖を解放した。
すると、騰湖は後に切り離され、床を転がる。
俺は驚くも、光里ちゃんに穹を預けて騰湖の方に向かった。
どうやら気絶してるだけの様で、騰湖には何もダメージは無い様だ。
俺はそれを確認して安心する。
ダメージは穹が全部肩代わりしていたんだな…
とりあえず俺はそのまま騰湖をおんぶして抱え上げた。
くっ…やはり騰湖のおっぱいは本物だな!
ドラゴンタイプ独特の弾力性を感じる…白那さんとはまた違う感触!


光里
「穹ちゃん、大丈夫〜?」


「…頭がクラクラする、は、吐き気もだ…この私が、脳を破壊されて、立つ事が出来ないだと!?」


「そこまでやられてないだろ…しかもそのネタはどっちかと言うと大愛さんに言ってほしい台詞だな」


やはり元ネタ的にはそうだろう。
まぁ穹の場合はほぼ○化冷凍法なのだから、同一人物のネタという意味では合ってるのだが…


光里
「う〜ん、でもやっぱり大愛さんってスゴかったんだね…」
「知るが良い! 時間ポケモンの能力が、まさに世界を支配する能力だという事を!!って、感じで…」


「まぁ、実際にはそこまで凄く無いんだけどね」
「制約はかなりあるし、穹はちゃんと対策考えてたし」

騰湖
「ふん…よくも無断で利用してくれたものだ」
「とはいえ、代わりにこの役得だから許してやろう…」


そう言っていつの間にか目覚めた騰湖は俺の背中にたわわな乳房を擦り付けて来た。
乳首を立てているのか、騰湖は甘い息遣いでそれを俺の背中に適度な力で押したり擦ったりしている。
俺はとりあえずすぐに騰湖から手を離し、油断していた騰湖は真下に尻から落ちてしまった。


騰湖
「…!? むぅ、そこまで恥ずかしがらずとも」


「アホゥ! お前のは色々濃厚すぎて表現ヤバイんじゃ!!」
「変態代表の女胤ですら自重してるのに、お前は直球過ぎて股間にデッドボールしか狙ってないだろうが!?」


女胤はあれでも俺の意志は尊重してくれてるからな…
騰湖はその辺のリミッターが無さすぎて、常に全力投球。
城でも自重出来てないみたいだし、色々迷惑はかけているみたいだが…


騰湖
「我は純粋に聖殿の子供が授かりたいだけなのだが…」

光里
「うわぁ〜ここまで直球だと、童貞殺しだね…」


「脳ミソが花畑だし…少しは落ち着け」


光里ちゃんは顔を赤くしてあはは…笑う。
穹は逆にダルそうにしてそう諭した。
そう言えば、穹の方が年上なんだっけか。
騰湖的にはやや不満そうではあるみたいだが。


騰湖
「女である以上、愛する者の子を欲して何がおかしい!?」


「状況考えろ…私、しんどいの」

光里
「あわわっ、早く連れていかないと!!」


「じゃあ、後は任せるよ…俺は騰湖引き取るから」

光里
「う、うんっ! また後でね♪」


光里ちゃんはぐったりしている穹を抱き抱えて走って行った。
そう言えば、穹の奴触れられても大丈夫になってたんだな…
最初の頃は人肌でも熱いと言ってはばからなかったのに。
穹は、ちゃんと成長してるんだな…


騰湖
「さ、聖殿…これでふたりっきりだな」


「よし、俺は控え室に戻るから、お前は外に出てろ」
「他の皆もいるはずだから、迷惑かけないように気を付けろよ?」


俺は素っ気なくそう言い、騰湖を置いて行った。
騰湖はポツーンと立ち尽くしていたが、俺は無視して控え室に戻る。
さて、次は折り返しか…今度はどんな色物が出て来るのか?



………………………



騰湖
「…ふっ、流石は聖殿…我の魅力を持ってしても揺らがないとは」
「だが、構わぬ…我は別に1番でなくとも良い」
「要は、聖殿の子種を頂ければそれで良いのだから…」



………………………




「………」

大愛
「………」

牙皇
「こりゃ、当分後方待機だな」


牙皇さんは大愛さんの右腕を見てそう言う。
本来なら即入院なのだが、それだと試合放棄になる為、大愛さんは強行してここにいる。
最低限の治療は施されてるとはいえ、大愛さんの右腕は動く気配が無かった。


大愛
「この程度、ハンデにしかならん」
「あれ以上の敵が現れるなら少々問題だが、そんなケースは稀だろう」


確かに、単純なスペックであれを上回れそうなのは守連や三海位だろうからな。
まだ守連は見ていないが、アイツの性格だと争い事は嫌いだろうし、こういった施設にはいない気がするんだよな…
三海は華澄と一緒に謎の気配を探しに行ってるし、とりあえず今の所は確かに問題無さそうか。


牙皇
「まぁ、無茶はするなよ? こっからは俺が全部先発するから、お前は緊急時以外ではコーナーから動くな」

大愛
「ふん…まぁ、良いだろう」


つーか、いい加減ダブルバトルというのを思い出してほしいのだが…
牙皇さんの中では完全にタッグマッチになってるもんな…
どうせこのまま最後まで突っ切るんだろうから、もうツッコマんけど。



………………………



実況
『さぁ、クロノスファイヤーズ、遂に折り返しの4戦目!!』
「ディアルガの大愛は怪我をしたままの状態で参戦だが、果たして勝てるのかぁ!?」


牙皇さんは既にリングを用意して待っている。
そして出てきた相手は特に見覚えの無い女性トレーナー。
だが、その後にいたポケモンは例によっての家族だった。



「聖、様…!?」

神狩
「…ガオガエン、後ディアルガ」


「瞳さんと神狩さんか…中々の強敵だな」


相手のトレーナーは特にこちらに興味は無さそうにトレーナーサイドで立っていた。
とりあえず神狩さんは革ジャンを脱いでTシャツ1枚になる。
そして神狩さんはひとっ飛びでロープを飛び越えてリングに上がった。
牙皇さんはニヤリと笑い、背を預けていたコーナーからリング中央に歩く。
神狩さんは無言で睨み、同じ様に中央へと歩いた。
流石に神狩さんもガタイは負けてないな…身長は高いし、バトル向きの性格。
間違いなく強いのは解るし、以前よりも遥かに鍛えてあるのが解る。
神狩さんは普段ボランティア活動で働きながらも、常に戦闘訓練を欠かさない人だし、牙皇さんでも一筋縄ではいかないだろうな。


実況
『これは、暑苦しい! リング中央で炎ポケモン同士が互いに威嚇!!』
『体格はやや神狩の方が上か…? しかしブレイジング・牙皇は不適に笑います!!』


牙皇さんは挑発的なアピールで神狩さんを威嚇するが、神狩さんは冷静に睨みつけている。
いや、神狩さんの場合は無口なだけで冷静ではないか…
こりゃ、開始からぶっ放しそうだな…


審判
「それでは、4戦目! 始め!!」


開幕、神狩さんは即座に踏み込む。
牙皇さんは笑って受ける気満々。
神狩さんは『神速』の速度で右拳を固め、それを牙皇さんの顔面に向けて振り抜いた。
牙皇さんはそれを額で受け止め、踏ん張って止める。
そのまま牙皇さんは懐に踏み込み、神狩さんに組み付いた。


実況
『ブレイジング・牙皇、怯まない!! 神狩の先制攻撃をものともせず、組技に入ったぁ!!』



「神狩さん、投げ技が来ます!!」

神狩
「…!!」

牙皇
「うっらぁぁぁぁぁぁっ!!」


牙皇さんは踏ん張ろうとする神狩さんをあっさり引っこ抜き、バックドロップを放つ。
そのスピードは凄まじく、神狩さんは物凄いスピードでマットに背中から落ちた。


牙皇
「ちっ!?」

神狩
「…!!」


神狩さんはさほどダメージは無いのか、すぐに起き上がって体勢を整える。
牙皇さんは舌打ちして追撃を狙うが、間に合わずに一旦動きを止めた。


大愛
「中々の反応だな…投げに合わせて自分から跳ぶとは」


成る程、それでダメージが薄かったのか。
神狩さんのセンスも侮れないな…あの一瞬でそんな対策を行うなんて…


実況
『開幕の攻防は共にダメージがイマイチの模様!』
『今は互いに距離を保ち、ジリジリと隙を伺う動きが目立ちます!』


牙皇
(流石にスピードは分が悪すぎるな…パワーも中々有りやがるし、速攻は難しいか)

神狩
(密着しての攻防は不利…ミドルレンジで釘付けにしたいけど)


互いに1分以上にらみ合いが続く。
距離を調整しながらリングをグルグル回っており、踏み込みたそうな牙皇さんに対して、距離を保ちたい神狩さんの思惑が見て取れた。
同じ炎タイプでも、戦う距離は違う。
密着しての組技が得意の牙皇さんに対し、神狩さんは手技足技主体の打撃系。
とはいえ、このままじゃ制限時間もある…試合時間は15分、無駄な時間は後々響きかねないが。


牙皇
「どうした? かかって来ないのか?」


牙皇さんはここで指をクイクイと『挑発』する。
神狩さんはそれを受けて動きを止めた。
相手に攻撃を強制させるか…リスクはあるがチャンスも多い。
牙皇さんは明らかに待ちの体勢で、神狩さんは全身を屈めて踏み込む体勢に入った。
神狩さんの踏み込みは神速の速度、とても見て止められるもんじゃない。
だが、牙皇さんのタフさなら、受けた上で反撃が出来る。
神狩さんもそれが解ってるだけにどうするつもりなのか…?


神狩
「…!!」


神狩さんは真っ正面から突っ込む。
そして拳を構え、牙皇さんの顔面に再び拳を突き立てた。
牙皇さんも同じ様に額でもう1度受ける。
牙皇さんの頭からはやや血が滴るものの、牙皇さんの目は神狩さんを見据えていた。
そして、牙皇さんは神狩さんの右手を取る。
今度は間接技! 跳んで逃げるのは無理だ!


神狩
「…あぁぁっ!!」

牙皇
「!?」


神狩さんは腕を取られたまま吼える。
技としての物ではなく、ただ己を奮い立たせるだけの叫び。
神狩さんはそこから更に踏み込み、左手で牙皇さんのボディを全力で打ち抜いた。
牙皇さんは苦悶の顔を浮かべるが、それでも即座に神狩さんの右腕をアームロックで極める。
神狩さんは構わず牙皇さんに頭突きでなおも追撃した。
あれは、ただの暴れじゃない?
1発1発が何かのオーラに包まれてる! 牙皇さんのダメージから判断すると、『インファイト』かっ!?


神狩
「ぬぅぅっ!!」

牙皇
「があぁぁっ!!」


牙皇さんも同様に吼える。
頭からは血が飛び散っているが、牙皇さんは構わず神狩さんの右腕を折った。
骨の折れる音がここまで響き、観客からは歓声と悲鳴が同時に木霊する。
予想はしてたが、神狩さんやっぱやらかしたか…!
神狩さんはそのまま崩れ落ちかけるが、それでも全力で最後の一撃を放つ。
神狩さんの蹴りが牙皇さんの横腹にめり込み、極められた腕を無理矢理引き剥がした。
神狩さんはそのまま反動を利用し、後のコーナーまで倒れる様に跳び退く。
そして、そのままコーナーから瞳さんが飛び出した。
瞳さんは神狩さんに空中でタッチし、そのまま交代する。
牙皇さんはそれ見て不適に笑うものの、反対側のコーナーに体を預けていた。
効果抜群の大技をモロに受けたんだ、ダメージはかなりあるはず。
あの状態で瞳さんと戦うのか…!?


大愛
「…分が悪そうだな?」

牙皇
「へっ…格闘使いはちっと面倒だな、いつもならルチャブルが相手してくれんだが…」


「…ここからは私が相手をします、お覚悟を」


瞳さんはフツーの白Tシャツとミニスカートに茶色のスパッツと、割と一般的な夏服。
しかし、その構えは紛れもなく伝説の拳法家。
今や瞳さんはただの元メイドではない、ダメージのある牙皇さんじゃ危険すぎるぞ!?
しかも瞳さんの必殺技は格闘タイプ! 大愛さんでさえマトモに食らったら危険な一撃だ!!


大愛
「やれやれ…私は面倒は嫌いなんだがな」

牙皇
「!? あっ、テメェまた勝手に!!」

大愛
「ならタッチだな、これで問題無い」


大愛さんはまた時間を停止させてその間に場所を入れ替わる。
そして文句を言いそうな牙皇さんの頭にとりあえず左手を乗せてタッチ。
とりあえず体のどこかならOKだからな…これで交代成立だ。


実況
『クロノスファイヤーズ、ここで大愛にチェンジ!!』
『ブレイジング・牙皇のダメージを気遣ったか!?』
『しかし、大愛も前回のダメージを引きずったまま! 右腕は動くのかぁ!?』



(動くわけねぇだろ! 神経と腱がブチ切られてんだぞ!?)


本当なら絶対安静で入院しなきゃならない怪我だ。
大愛さんにとってはこんな戦いに無理しなくても良いはずなのに、何でそこまでして…?



「…ディアルガの大愛さん、かつて白那様の妻であり、後に敵となった方」
「昔の事は問いませんが、そちらに聖様がいる以上、こちらも負けるわけにはいきません」
「貴女方に勝利し、必ず聖様をお救いします!!」


うん、勘違いしてるね瞳さん!?
別に俺、今回は捕らわれてるわけじゃないよ!?
今回は純粋に祭り楽しもうとして参加してるだけよ!?


牙皇
「へっ! 返してほしけりゃ俺たちを倒すんだな!!」


牙皇さんは楽しそうに舌を出し、中指立ててアピール。
やっぱりやりやがった!! 無駄に話をややこしくするなっちゅーのに!!
大愛さんも既にやる気無くしかけてるよ!
露骨にウザそうな顔してるよ!!
観客も煽りまくってるし、興行大成功じゃん!!



「…良いでしょう! でしたら、私の全てを持ってお相手を致します!!」


瞳さんは完全に本気になっている。
手加減はしそうにないな…まぁ、したら絶対負ける相手だが。
いくら瞳さんでも、大愛さんの時間操作をマトモに対応出来るとは思えない。
瞳さんも肉弾戦特化だし、大愛さんは触れれば勝ちも同然だからな…


大愛
「…やれやれ、ごたくは終わりか? ならさっさと終わらせるぞ…」


「ぐふっ!?」


大愛さんは予兆も無しに瞳さんの懐に入ってボディブロー。
瞳さんの体はくの字に曲がり、悶絶していた。
そして大愛さんはそのまま瞳さんの頭上から突然右足で頭を踏み抜く。
容赦ねぇ!? 流石の瞳さんでも、あんなの見切れるわけ無い!



「つ、強すぎる…!? これが、白那様と同等の力を持つと言われるディアルガ…!!」

大愛
「ほう、まだ立てるか? 大したものだ、並のポケモンなら死んでいる一撃だが」


少しは手加減しよ!? アンタ禁伝でしょうが!!
マッスグマ相手に本気出しすぎじゃないのか!?
だが、瞳さんは口と頭から血を流しながらも、歯を食い縛って大愛さんを睨んでいた。
その瞳は決して死んでいない…まだ、何か手があるのか?



「貴女の動きは、目で見て止められる物ではありませんね…」

大愛
「……?」


瞳さんは構えたまま目を瞑る。
大愛さんは不思議そうに瞳さんを見ているが、それでもすぐに攻撃に入った。
…が、その攻撃は何と空を切る。


大愛
「!? な、に…!?」


「………」


瞳さんは無言のまま、パンチを空振りしている大愛さんの顔面に向けて右回し蹴りをカウンターで叩き込んだ。
メキィッ!!と、大愛さんの頬が歪む程の一撃!
大愛さんは横に顔を弾かれて怯む。
瞳さんは尚も目を閉じたまま、大愛さんの動きを待っていた。


実況
『これはまさしく神業!! 瞳は目を瞑ったまま華麗にカウンターキックゥ!!』
『一体、どんなカラクリなんだぁ!?』


大愛
(見て反応出来ないからといって、予測とスピードで対応するか!)


「………」


確かに神業だ…だが、あの防御方は弱点もある!
瞳さんはその場から微動だにしない…全身で気を探っているからだ。
つまり、あのままだと瞳さんは動く事が出来ない…逆に言えば、接近戦なら大愛さんの時間停止を駆使されても返せると言う証明。
だが、それでは飛び道具に対して無力なんじゃ!?


大愛
「…ちっ!!」


予想通り、大愛さんは左手から『竜の波動』を繰り出す。
かなりの弾速で、見ていてもかわせるかは怪しい速度だ。
だが、瞳さんはそれを軽く横にズレて回避する。
そして、直後マットを全力で踏み込む足音が響いた。


大愛
「くっ!?」


「…貴女の動きは単調です、能力に溺れているのが丸解りですね」
「確かに時間操作は強力無比ですが、攻撃が読めるのであれば対応は出来ます!」


大愛さんは竜の波動を撃った後、瞳さんの回避先に時間停止で回り込んでいた。
だが、瞳さんはそれを読みきっており、神速の速度で逆に大愛さんの後を取ったのだ!
そして、これで大愛さんの時間停止は4回目…あれは『時の咆哮』の効果で発動出来る能力だから、PP的に止められるのは…後1回!!
ヤバイぞ!? まさか大愛さんが追い詰められるなんて!



(動きは手に取る様に解る…気の流れ、筋肉の動き、空気の変化)
(今の私なら、目を瞑っていても格闘戦はこなせる!)

大愛
「褒めてやる、私の能力を正面から攻略したのはお前がふたり目だ…」
「だが、少し惜しかったな…やはり勝つのは『私たち』だ」


大愛さんは最後の時間停止を行使する。
瞬時にバックステップで距離を取り、今度は『波動弾』で瞳さんの胴体を狙った。
だが、回避不能のそれでも瞳さんは悠々と『守る』で防ぐ。
しかし、瞳さんには見えていない…何故大愛さんがこのタイミングで退いたのかという事を。


大愛
「…やれ、後は任せる」

牙皇
「おおよ!! ハイパーーー! ダーーーク! クラッシャァァァァァァァァッ!!」


本日2度目の必殺技!
大愛さんは波動弾の反動で後に加速して飛び、同時にコーナーの牙皇さんとタッチしたのだ。
そしてそれを予想してたのか、牙皇さんは既にオーラを解き放って一気にコーナーから飛び上がった。
瞳さんは守るの効果が残っており、動くに動けない状態。
そして、動ける様になった頃には、真上から牙皇さんのボディプレス。
瞳さんはそれを悟り、神速で回避しようとした。
が、何と落下中に牙皇さんは右手で瞳さんの左襟の辺りを掴んで逃がさなかった。
そのまま、牙皇さんは右腕でラリアットみたいに瞳さんをマットに押し潰す。
同時に悪のオーラが炸裂し、それはリング上に舞い上がった。
やがてそれが収まると、屈んで震えていた審判が恐る恐る状況を確認する。
そこには、完全に気絶している瞳さんと、その上に覆い被さる牙皇さんの姿があった。


審判
「あ…! ワ、ワン! ツー! スリー!!」
「しょ、勝者…クロノスファイヤーズ!!」


再び大歓声。
牙皇さんはややよろめきながらも、立ち上がって両腕を天高く上げて叫んだ。
神狩さんはすぐにリングに入って瞳さんを回収する。
神狩さんはとりあえず息を吐いて安心していた…死んじゃいない様で良かったな。
牙皇さんも手加減はしなかったみたいだから、心配したぜ…
改めてヒヤヒヤする戦いだった…瞳さん、ホントに強くなったな。
牙皇さんは、もう力が続かないのか、リングが即座に消えてしまう。
そして、フラフラしながらも大愛さんが牙皇さんを支えた。


大愛
「ふん…随分調子が悪そうだな?」

牙皇
「抜かせ…片腕で無理しやがって」


ふたりは互いにそう言い合う。
口は悪いものの、互いに認める所はある様だ。
今回はまさにふたりが一丸となって戦った結果だ。
ダメージが事前にあったとはいえ、このふたりがここまで追い詰められるとは…
俺は、少し反省していた。
このふたりならまず負ける事は無い…それは驕りだと気付いた。
ふたりでも、弱点はあるのだ。
タイプ相性はどうやっても覆せないし、いくらチートクラスのレベルや能力をや持っていても、それはタイプや技術で覆るのだ。
改めて神狩さんと瞳さんはそれを証明してくれた。
ここから先、もう油断や驕りは許されないな…



………………………




「………」


今、俺は控え室にひとりでいた。
牙皇さんと大愛さんは治療中だ。
ふたりともダメージは小さくない…特に大愛さんの腕は間違いなくハンデでしかないのだから。
牙皇さんも、効果抜群のインファイトを直撃されたからな…骨とかに異常無ければ良いが。


コンコン…



「はい? どうぞ…?」

突然、部屋をノックする音。
控えめに叩かれたその音に俺は軽く答え、ドアは開いてひとりの女性が姿を見せた。
それは、右腕に包帯を巻いた神狩さんだ。


神狩
「…聖さん」


「神狩さん…その腕、大丈夫なんですか?」


俺が不安そうに聞くと、神狩さんは特に感情も込めずに頬笑む。
大丈夫…との事らしい。
とはいえ、神狩さんの性格だと無理してる可能性は高いからな…結構自己犠牲が過ぎる人だし。


神狩
「…大丈夫、聖さんに心配はかけさせないから」


「…神狩さん、今回はあくまでお祭りです。俺もたまたま牙皇さんたちと組んだだけで、別に捕らわれてるわけじゃ無いですからね?」

神狩
「うん、解ってる…少なくとも私は」


ふむ、となると瞳さんだけが勘違いしてたって事か。
まぁ、牙皇さん的には全力で勝負出来たんだから満足だったんだろうな…


神狩
「…ふたりは、大丈夫?」


「ん? あぁ…牙皇さんと大愛さんは大丈夫ですよ」
「ふたりとも頑丈な体してますし、心配はいりません」


俺はあえて強がっておいた。
実際には、大愛さんは重症だ。
牙皇さんも相当効いていたはず、本当に無事なのかは俺にも解らない。


神狩
「…そう、少なくとも肋骨を何本か持っていった記憶があるけれど」
「…聖さんが大丈夫と言うなら、気にしない事にする」


神狩さんはかなり重い事を言い残してくれた。
肋骨ね…間違いなく牙皇さんのだろう。
だとすると、間違いなく後に響くな…牙皇さんも絶対顔には出さないだろうから。
これで、実質ふたりとも負傷か…
後、3戦もあるのかよ…? こんな状態で持つのか?
いや、そもそも考え方がおかしい…ここまで連続で家族と戦う事自体がそもそも異常だ。
しかも、レベル的にも相当ハイレベル。
むしろ、女胤がポーションになるとは思いもしなかったろう…
ここまで、間違いなくレベル的にはマスターランクのレベルを超越してる。
はっきり言って、華澄や三海と組んでもここまで勝ち進めたかは疑問だ。
改めて牙皇さんや大愛さんのスペックが凄まじいのを感じるな。


神狩
「…聖さん、本当に大丈夫?」


「…大丈夫です、俺はふたりを信じてますんで」

神狩
「…うん、聖さんがそう言うなら、私も信じる」
「ゴメンなさい、もう行くね…瞳が心配だから」


「瞳さん、大丈夫なんですか?」

神狩
「…ダメージは大きい、でも後遺症とかは無いから」
「多分、明日まで眠れば全快するだろうって…」


そうか…それなら安心だな。
しかし、それでも1日眠らなければ全快しないダメージか。
瞳さんは真面目だし、今回の敗北は素直に悔しがるだろうな…



「神狩さん、瞳さんが目覚めたら事情を説明してあげてください」
「多分、勘違いしたままだと思うんで…」

神狩
「うん…解った、ちゃんと伝える」


そう言って神狩さんは部屋を出て行った。
また、俺はひとりになる。
ことのほか静かなのが気になるな。
次の試合まで後10分か…そろそろ牙皇さんたちも戻って来ると思うが。



「…何だ? 何か、妙な感覚が…?」


俺は突如目眩に襲われる。
だが、それは一瞬の事で特に気にもならなくなった。
座ったまま立ち眩みしたのか? 俺も気が張りすぎたのかね?
やっぱり、ただ見てるだけってのはそれなりに辛い。
しかも相手が家族となれば、否応無しに俺は両方心配しなければならない。
まさか、本当に後3戦出くわすんじゃないだろうな?
俺はとにかくそれが怖かった…もはや出会わない事を望む日が来ようとは思わなかったぜ。


牙皇
「う〜っし! 次の相手は誰だ〜!?」

大愛
「慌てるな…まだ解らんだろう?」


ふたりは一緒に戻って来た…表情からは特に暗さは見当たらない、少なくとも牙皇さんは。
大愛さんは、やっぱりどことなく暗い。
戦う事はやぶさかじゃないが、それでも何かを気にしてはいる様だった。



「…大愛さん、辛くないのか?」

大愛
「…? 何故、お前が気にするのだ?」
「別に私はたまたま組んだだけだ、お前は運が良かったと思って使い潰せば良いだろう?」


…また、どっかで聞いた台詞を。
この人も、割と自己犠牲なのかもしれないな…
ったく、万丁君には1度腹割って話し合わないといかんなこれは?



「大愛さん、確かに俺はかつての敵だ」
「だけど、今はそうじゃないだろ? だったら、もっと親身になれないか?」

大愛
「…親身にとは、な」
「笑わせるな…私は、まだ仲間になった気はない」
「ただ、少し気になっただけだ…パルキアが、白那が愛した、お前の事を」


そうか…そうだったのか。
俺はようやく理解した。
大愛さんは、未だに理解が出来ないんだ。
何故、白那さんが俺を愛したかを…その愛を持って、何故白那さんが勝ったのかを。
大愛さんには、それが疑問でしかない。
恐らく、マトモに考える事すらした事無いのだろう。
時間を超越する事すら可能なディアルガの力の前に、対等な相手などパルキアの白那さん位しかいなかったのだから。

しかも、大愛さんは長らく暴走したアルセウスさんに操られていた。
狂信者とも言えるレベルで信仰し、疑い無く邪魔物を消して来たのだから。
ただ、それでも白那さんは愛して欲しかったと言った。
せめて、子供たちの事位は…と。



(おい、聞こえるか藍?)


『何だ? 反則がバレたら摘まみ出されるぞ?』


外で待機しているはずの藍は、それでもあっさり答えてくれる。
何だかんだで、コイツは俺の事を心配してくれてるんだろ…
そう思うと、少し微笑ましい。
俺は、そんな藍にこう尋ねた。



(藍…お前、大愛さんの事どう思ってる?)


『…唐突だな? まぁ過去の母親だよ、今は他人だ…』


(…そうか、それは今の大愛さんを見ても、同じ気持ちか?)


俺がそう聞くと、藍は少し黙る。
考えてはいるのだろう。
今の大愛さんが敵じゃないのは藍なら解ってる。
ただ、それでも過去の事を全て無かった事には到底出来ない。
過去の彼女は、白那さんや藍たちを捨てたのだから…



『…何を考えてる?』


(別に…今の大愛さんを見てたら、可哀想だと思っただけだ)


『はっ、天下の時間ポケモンが可哀想ね…相変わらずめでたい思考パターンだな』


(そうかな? 俺には、あの時の白那さんと同じに見えるよ…)


俺が真面目に言うと、藍はまた黙った。
あの時…そう、夢の世界で俺を愛してくれた白那さんと同じ。
ただ、白那さんと違うのは、大愛さんには一切希望が無い。
いや、本当はあるのだ…だけどそれがまだ見えない。
だから、大愛さんはただ戦っている…それが自分のやるべき事なのか知る為に。
だけど大愛さんは一切満足出来ていない。
戦う事でも、勝利する事でも、満たされない。
大愛さんは、迷路に迷っているんだ。
制限時間の無いルールで、延々と続く、出口の見付からない迷路に。



『…はっきり言え、俺様に何を求めてる?』


(…大愛さんの事を、許してあげてくれないか?)


それは、俺の願いだった。
多分、藍に頼むのは1番難しいのも知ってる。
きっと、夏翔麗愛ちゃんや棗ちゃんならすぐに頷いてくれるだろう。
でも、藍はそうじゃない…姉妹の中でも特に思慮深い方だし、何より家族思いでもあるから。
そんな藍にだからこそ、俺はあえて頼みたかった。



『…許すも許さないも無いだろ? 俺様たちは勝者だ』
『決めるのは、そいつだろ…俺様は知ったこっちゃない』
『ただ、今更母親面して来ないなら、友人や親戚レベル位には応対してやるさ…』
『それ位なら、今の俺様にも余裕がある…』


(解った、それで良い…だったら、大愛さんと話をしてやってくれ)


『ちょっと待て! 今からか!?』


俺は時間を確認してそれを告げる。
5分あれば会話は出来るな。



『ちっ、まぁ仕方ないか…だが、どうなっても知らんぞ?』


(良いよ…ありがとう、藍)


藍は俺の礼を受けて少し照れた様だった。
そして、藍はテレパシーで大愛さんと会話する。
それは、本当に何10年振りかの、かつての家族の会話だろう…
俺はあえて何も聞かない事にする。
ただ、大愛さんの顔が少しだけ緩むのを見て、俺は間違ってなかったのを察した。
やっぱり、必要な事なんだ…例え過去でも、家族が会話するっていう事は。


牙皇
「…ふぅ、おい聖!」


「は、はいっ!?」

牙皇
「とりあえず、色々考えてるみたいだが、楽しんでるか?」


「あ、えっと…む、むしろ心配でそんな気分になれません!」


俺は正直にそう言った。
すると、牙皇さんはハハハッ!と大笑いする。


牙皇
「お前って、本当にお人好しだよな?」
「俺からしたら、燃えまくって血が滾るってのに!」
「だから、お前も楽しめよ? 確かに俺たちは傷付くかもしれない」
「でも、俺は少なくとも、傷は勲章だと思ってる」
「そりゃ、お前には辛いかもしれないけどさ…それでも信じろよ?」
「俺は、絶対にお前や観客を裏切ったり、情けない試合はやらねぇから!」


牙皇さんは、ただ真っ直ぐだった。
正直、俺には眩しすぎる位だ。
牙皇さんはあくまで誰かの為に戦っている。
自分の為でもあるだろうけど、それでもこの人の根幹は誰かを楽しませる事にあるのだ。
だからこそ、その為には傷付く事も厭わない。
傷は男の勲章…って昔の人は言ったらしい。
だけど、この人にとっても、それは当てはまるのだ。
だったら、俺は信じなきゃダメなんだな…
牙皇さんも、大愛さんも、そして家族をも…



………………………




「牙皇さん、肋骨は大丈夫ですか?」

牙皇
「…問題ねぇよ」


牙皇さんは、気持ちワンテンポ遅れて答えた。
ホントはキツそうだな…簡易的な治療じゃ骨までは治らないみたいだし、やっぱ強敵との連戦はかなり辛いか。


大愛
「………」


逆にこっちは落ち着いてる。
藍のおかげか、気持ち表情が明るくなった気もする。
少なくとも何かをずっと悩んでいるかの様な顔では無くなった。
右腕は動かないままだが、精神的には安定してると言えるだろう。

さて、とにかく次は5戦目…まだ出て来るか?



………………………



実況
『さぁ、段々違和感が無くなって来たクロノスファイヤーズのタッグマッチ!』
『しかし、今回はどうも相手側が何か訴えてるぞ〜?』


相手トレーナー
「おい、これはダブルバトルだぞ!?」


「ですよねぇ〜」

牙皇
「うっせぇなぁ…なら、まとめてリング上がれよ」

大愛
「その方が手っ取り早いな、同感だ」


とりあえず相手が文句を言っているのはルール…と言うか、暗黙の了解だったというか。
要はこのプロレスルールが納得出来んと言うのだ。
至極、マトモな意見で助かる…むしろ何で今まで非難されなかったのかが解らん!
流石に今回は牙皇さんも鬱陶しそうにため息を吐いていた。
ちなみに、相手は特に家族と関係無いモブポケモン。
マスターランクだけに弱そうには見えないが、チト牙皇さんたち相手には物足りない所だな。


リザードン男
「とりあえず、とっとと始めようぜ?」

カメックス男
「おう! こちとらイライラしてんだ!!」


うわ…ただのチンピラだなコイツ等。
ここまで気が張りつめてただけに、ようやくのポーションに俺は安堵した。
とりあえずさっさと終わってほしいもんだな…


牙皇
「ったく、しゃあねぇ…おい審判、コール」

審判
「そ、それでは5戦目! 始め!!」

リザードン男
「食らえ!!」

大愛
「何をだ?」


開幕からリザードン男が口を開いて『火炎放射』の体制に入る。
だが、既に大愛さんはソイツの後に回っており、リザードン男の後頭部を掴んでグイッ!と前に突き出す。
と、同時に牙皇さんが狙い済ましたラリアット。
リザードン男は火炎放射を放つ暇も無くツープラトンで憤死した。
いや、まぁ死んじゃいないんだがなっ!


実況
『これは鮮やか! 息もピッタリのクロノスファイヤーズ!』
『油断してたか、リザードンは早くもダウンだぁ!』
『つーか! やっとマトモにダブルバトルな気がするぜ!!』


やれやれ、こりゃ本格的に消化試合だな…
カメックス男も背中の砲門を構えるが、いかんせんスローすぎてあくびが出る!!
大愛さんは牙皇さんの前に立ち、カメックスの放った『ハイドロカノン』を左手1本で弾く。
砲弾の様に放たれたそれは弾け飛び、大愛さんはほぼノーダメージの様だった。


実況
『まさに圧倒的!! ここに来てカメックスの技は全く威力が足りてない!』
『もはやかわす必要も皆無だー!!』


牙皇
「気が乗らねぇが、観客を退屈させるわけにもいかんわな…」

大愛
「なら、少しでも盛り上げるか?」


大愛さんがそう言うと、時間操作ですぐにカメックス男の背後からヘッドロックを仕掛けて動きを止める。
体格差があるが、いかんせん馬力が違う。
大愛さんは容易くカメックス男の巨体を捻り、落ちない程度に首を締め付けていた。
そして、すぐに牙皇さんが相手側のコーナーポストに飛び乗る。
そこで右腕を上げて観客にアピール。
観客の大歓声を受け、牙皇さんはニヤリと笑って飛び上がった。
そこに大愛さんがカメックス男を空中に遠心力をかけて放り投げる。
カメックス男は泡を吹きながら無造作に宙を舞い、牙皇さんの狙い済ましたドロップキックが空中でカメックス男の顔面に直撃した。
そのまま牙皇さんは反動を利用し、後方に宙返りして華麗にマットに着地。
カメックスは無惨にマットに沈んで大愛さんはソイツの胸を踏みつけてフォールした。


審判
「カ、カメックス戦闘不能! よって勝者クロノスファイヤーズ!!」


実況
『決まったーーー!! これまた鮮やかなコンビネーションでカメックスも一撃!!』
『今回は完全にクロノスファイヤーズの独壇場だー!!』


牙皇
「全く相手にならねぇ!! カッ!!」


牙皇さんはコーナーに上って相手トレーナーに舌出して首カッ切り。
それを見て観客は楽しそうにブーイング。
牙皇さんはケラケラ笑って観客にアピールを続けていた。
相手トレーナーはポカーンとしている。
うん、まぁ鍛え方が足りなかったって事で!



………………………



牙皇
「ったく、ここに来て微妙な相手だったな〜」

大愛
「元々苦戦する方がおかしいんだ…あれがむしろ普通だろう?」


それは全くの同意だな。
何をどう間違ったらこのふたりが連続で苦戦するのか…?
改めて運なんだろうな…と俺は思った。
とりあえず、ここまででいきなり大量に家族が見付かったし、収穫は大きかったが。
とはいえ、ここまでに万丁君の姿は無しか…まぁそこまで上手くはいかないのかもしれない。
まぁ、まだ後1戦は通常トレーナー戦だ。
その時に出会う可能性に期待しますかね…



………………………



実況
『さぁ、とうとう6戦目! これに勝てば次はパレスガーディアンとの対決だぞ!?』
『とはいえ、気は抜くな!? ここで負けて泣くトレーナーもまた多いんだからな〜?』


大愛
「…む」

万丁
「ゲェッ!? 大愛さん!?」


あらら、本当に見付かったよ。
まぁ、これも運命なのかね…ってか、光里ちゃんもそうだが、やっぱ万丁君もポケモン任せにした方が良いと判断したな。
万丁君もポケモンは詳しく無いみたいだし、その方が安牌か。
とはいえ、今度の相手はまた……


悠和
「!? 聖、様…」

ルチャブル
「あら…見ないと思ったら、そっちで組んでたの?」

牙皇
「おっ、ルチャブルじゃねぇか!?」
「何だよ、お前も出てたのか…奇遇だな♪」

ルチャブル
「そっちの娘にお誘いかかってね…貴女の姿も見失ったし、案外ここに出場してるんじゃないかと思って出てみれば、案の定…か」


ルチャブルさんはクスリと笑ってそう言った。
だが、これは和んではいられないな…
ここに来てルチャブルさんが相手となると、牙皇さんは否応無くハンデが付きまとう。
ただでさえ格闘タイプはこちらが不利…ましてや、牙皇さんと同格の強さと思われるルチャブルさんが相手となると、否応無く嫌な予感がしてくるな…

悠和ちゃんは普段着の灰色Tシャツと、青色のスカート。
だが問題なのは悠和ちゃんの髪色…ピンクって事は、間違いなくフェアリータイプ!
あくまで偶然だが、トコトン相性はこっちに不利に働いてやがる…!


万丁
「魔更先輩…」


「話は後でする…悪いが、こっちは笑ってられない状況になった」


牙皇さんはリングをせり上げ、ロープを潜る。
示し合わせた様にルチャブルさんも飛び上がり、華麗にリング中央へと着地した。
大愛さんと悠和ちゃんはお互いにコーナーの側。
今回はあらゆる意味でプロレスになる…大丈夫なのか牙皇さん!?


実況
『おっとぉ…? ブレイジング・牙皇とルチャブル、静かに対峙』
『互いに露骨なレスラー服を着ているだけに、これはまさにプロレスの雰囲気だ!』
『だが、忘れるなよ!? 大事な事だからもういっぺん言うぞ!?』
『ここは、バトルパレスで、ルールはダブルバトルだからなぁ〜!?』


万丁
「…何でプロレス?」

悠和
「気にしない方が良いよ…もうノリだから!」


悠和ちゃんも複雑そうだな…以前は守連たちに負けたから牙皇さんたちとは戦えてないが。
果たして戦っていたらどうなるのか…?
今回はあくまでバトルパレスのルールだ。
ぶっちゃけ、反則とか無いにも等しい。
牙皇さんとルチャブルさんは暗黙の了解でプロレスだろうけど、大愛さんと悠和ちゃんがそれを守る必要は無いのだ。



(…信じるしか、無いか)


俺に出来るのはそれだけだ。
割り切るしかない…今回はある意味解ってる相手でもあるし、そこまで無茶な事にはならないと信じよう。


審判
「それでは、6戦目! 始め!!」


実況
『さぁ! 早速ブレイジング・牙皇とルチャブルがガッチリと組み合う!』
『互いにまずは力比べだが、流石に馬力はブレイジング・牙皇の方が上かぁ!?』


牙皇
「…!!」
ルチャブル
「……?」


歯を食い縛って力を込める牙皇さんに対し、訝しげな顔をするルチャブルさん。
どうやら早くも気付かれたな…


ルチャブル
「…貴女、怪我してるの?」

牙皇
「リング上でごたくかぁ!?」


ルチャブルさんが一瞬油断した瞬間、牙皇さんはルチャブルさんを押しきって体を抱えた。
そのままルチャブルさんを引っこ抜き、逆さまにした状態で牙皇さんはマットに向けてボディスラムを仕掛ける。

ズダァァァンッ!!と、凄まじい音でマットを揺らし、ルチャブルさんはやや苦い顔をした。
牙皇さんはそのまま倒れているルチャブルさんにエルボードロップを仕掛ける。
ルチャブルさんはそれを背中でマトモに食らうも、すぐ立ち上がってアピールする牙皇さんの隙を見て牙皇さんの足を取った。

ハッ!?となる牙皇さんだが時既に遅く、ルチャブルさんは飛行タイプの特性を生かして真っ直ぐに飛び上がる。
牙皇さんは逆さまの状態で足を吊り上げられ、ルチャブルさんはある程度の高度から一気に降下。
ルチャブルさん得意の空中殺法だ! 軽めの『フリーフォール』みたいだが、牙皇さんは受け身すら取らずにマットに背中から叩きつけられる。
そして今度はルチャブルさんが観客にアピールし、観客のボルテージは最高潮。

だが、牙皇さんはまだまだといった感じで素早く起き上がり、ルチャブルさんの背中を取ってバックブリーカーを仕掛ける。
ルチャブルさんはかなり苦しむも、ギブアップはしない。
牙皇さんはゆさゆさとルチャブルさんの体を弓なりに揺さぶり、ダメージを蓄積させていく。
そのままリングを歩き、舌を出して観客にアピール。
観客のブーイングを受けて牙皇さんはルチャブルさんの背中をマットに叩き付けた。
そのままフットスタンプでルチャブルさんの腹を踏み抜き、中指立ててアピール。

何というプロレスか…もはや観客の頭にはバトルパレスという施設の事は記憶から消えているだろうな。
しかし、ここまでの攻防はあくまでアピールの一環。
事、勝負という意味では馴れ合いに近い物だろう。
ふたりのダメージからしても、それが予想出来る。


大愛
「おい、既に5分以上経ったぞ? 残り時間を忘れるなよ?」

牙皇
「やれやれ、制限時間が短いのが難点だな…」


牙皇さんは少し険しい顔をする。
肋骨の痛みは少なからずあるはず。
正面からルチャブルさんを相手にするのはかなり辛いだろうに。


ルチャブル
「さて…そろそろこっちもギアを上げようか?」

牙皇
「上等だ…俺の方が上だって教えてやるよ!」


ふたりは突進する。
互いの体がぶつかり合い、先に動いたのはルチャブルさん。
アクロバティックな動きで牙皇さんの首を取り、空中で大きく体を回して牙皇さんを1回転させる。
そのままの勢いで牙皇さんの背中をマットに叩き付け、そこから腕十字の間接技に移行した。


牙皇
「ちっ!」


牙皇さんは力技で右腕を引き抜き、そこから蹴りを放ってルチャブルさんを引き剥がす。
そして両者は1度立ち上り、再び組み合う為に近付いた。
だが、牙皇さんは組み合うと見せて突然の火炎放射。
腰のベルトから噴出したそれを、顔面で食らったルチャブルさんは不意を突かれて怯む。
直後に観客のブーイングを受け、牙皇さんは軽く観客に舌を出してアピールし、水平チョップを連続でルチャブルさんの胸に叩き込んだ。
そして、一気にロープまで押し込んでから牙皇さんは組み付く。
ルチャブルさんを腰から抱え上げ、そのままロープの最上段に飛び乗って反動を利用する。
そして後方にバックドロップ! 凄まじい勢いで落とされたルチャブルさんは、かなり効いたのかすぐに立てなかった。
牙皇さんはチャンスと思い、フォールの体勢。

それを見て悠和ちゃんが動く。
が、悠和ちゃんの背後にはいつの間にか大愛さんがいた。
大愛さんは悠和ちゃんの頭を左手で掴み、悠和ちゃんは動きが鈍化する。


大愛
「悪いが邪魔はさせん…」

悠和
「こ……れ……は………!?」


時間操作でスローになったのか、悠和ちゃんは異様にゆっくりになった…あれじゃカット出来ないな。
改めて大愛さんはプロレスルールじゃ反則その物だ。


ルチャブル
「くぅっ!!」

牙皇
「くそっ!」


ルチャブルさんは気合いを込めて肩を上げ、フォールから脱出する。
すぐに立ち上がるも、やや肩で息をし始めていた。
それでもまだまだスタミナには余裕がありそうだな。


牙皇
(ちっ、流石にまだ無理か…とはいえ、必殺技はそう何度も使える訳じゃない)
(仮に使えても、効果今ひとつのルチャブル相手には決定打になり難いからな)

ルチャブル
(多分肋骨を何本かやってるわね…もう息が切れてる)
(ただでさえ格闘タイプは苦手でしょうに、負けず嫌いなのは変わらない、か…)


ふたりはここでにらみ合う。
制限時間は迫っている、このルールでタイムアップしたら判定だ。
だが、ふたりはそれを望まないだろう。
両者ともに笑っているのがその証明だ。


牙皇
「そろそろ決着つけるかぁ!?」

ルチャブル
「そうね! どっちが上か教えてあげるわ!!」


再び両者はガッチリ組み合う。
互いに技を仕掛けようとするが、そこはお互いに技を知り尽くした者同士。
中々、決定打になる大技は決めさせてもらえない。
そんな中、徐々に牙皇さんのキレが落ちてきた。
やはり、連戦による疲れも溜まってるんだ。
その隙を見てルチャブルさんは牙皇さんの背後を取る。
そして牙皇さんの体を掴んで一気に上昇し、後首を右腕1本で掴んで天井に顔面を叩き付ける。
そして、そのまま今度は逆さまになり、牙皇さんの両腕をロックしてきりもみ回転!
今度はマットに真っ逆さまだ! これは流石にマズイ!?


ルチャブル
「終わりよ! フリーーー! フォーーーーール!!」


ズッ…! シィィィィィィィィィンッ!!!


凄まじい揺れと音。
ルチャブルさん必殺のフリーフォールが今度こそ全力で放たれた。
脳天からマットに突き刺された牙皇さんは、無造作に沈む。
ルチャブルさんは軽く両手を上げてアピールし、そのまま飛び込む様にフォールを……


ズダンッ!


ルチャブル
「えっ!?」

大愛
「悪いな、交代だ…」


何と気が付いたらマットには牙皇さんはいない。
ルチャブルさんは誰もいないマットにフォールをしにいっていた。
牙皇さんはコーナーに背を預けており、大愛さんは無理矢理牙皇さんの右手にタッチ。
そのまま牙皇さんをロープの外に出して自分がマットに降り立った。


実況
『またしても大愛のタイムマジック!!』
『しかし、これこそがディアルガの真骨頂!!』
『さぁ、あわやフォール負けかと思われたクロノスファイヤーズですが、まだ負けてはいません!!』
『しかし、残り時間は3分!! もはや猶予は無い!!』


大愛
「だ、そうだ…悪いがすぐに終わらせてやる」

ルチャブル
「くっ!? これがディアルガの能力!!」


大愛さんは時間を操作して自身を加速させる。
あえて停止はしないって事は、PPの節約か、それともまだ回復してないのか?
どっちにしても、加速や減速は出来るんだな…あれだけでも相当厄介だぞ。


ルチャブル
「かはっ!?」

大愛
「ふん…」


大愛さんは涼しげな顔でルチャブルさんを左手だけで殴る。
ただでさえ疲労が溜まり始めていたルチャブルさんだ、流石に大愛さん相手は辛そうだな。
ただでさえ大愛さんの攻撃は見てから反応するのは無理ゲーレベル。
神速の使い手である瞳さんだからあれは反応出来た様なモンだからな…


悠和
「くっ…! ここからじゃタッチも出来ない…」


悠和ちゃんは歯軋りしていた。
大愛さんは絶妙な位置で攻撃しており、タッチを許さない。
だが、忘れているかもしれないがこれはダブルバトルだ。
その気になりゃ攻撃しても良いはずなんだがな…
基本真面目な悠和ちゃんじゃ、その発想は無いか。


大愛
(時間はギリギリか…こっちも時間操作はそろそろ限界だ)
(ヤツは…行けるな?)


大愛さんはチラリとコーナーを見た。
そこには、よろめきながらもコーナーに立っている牙皇さんの姿。
観客は一気にどよめく。
牙皇さんは魂のままに天高く叫び声を上げ、両手を真上に突き上げた。
やるのか、3発目!?
だが、牙皇さんはオーラを纏っていない。
やはり、無理なのか?
だがそれでも、牙皇さんは獣の様な顔で、咆哮して飛び上がる。
あれじゃただのボディプレスだ。
だけど、大愛さんは笑ってルチャブルさんの体を左腕1本でマットに叩き付ける。
それを見て牙皇さんは全身に炎を纏った。
ま、まさかフレアドライブ!?
ここで牙皇さんはまさかの自傷覚悟の大技を慣行。
予想外の大技に、ルチャブルさんは身動き出来ず食らうしかなかった。


悠和
「このぉ!!」


ここに来て遂に悠和ちゃんが動く。
だが、決断が遅すぎたな…遮る様に大愛さんが悠和ちゃんの射線上に立ち塞がった。
大愛さんはガードすらせずに、悠和ちゃんの『マルチアタック』を直撃される。
フェアリータイプのエネルギーを込められた悠和ちゃんの拳をモロに受け、大愛さんはククク…と笑った。
瞬間、大爆炎。
マットに燃え上がるその炎は大きく弾け、そしてふたりのレスラーが倒れた。
審判はすぐにそれに近付いてカウントを始める。


審判&観客
「ワン!!」

悠和
「どけぇぇっ!!」

大愛
「ククク…勇ましいが、無理だ」


大愛さんは悠和ちゃんの攻撃を受けても決して退がらない。
そして無情にカウントは進む。


審判&観客
「ツー!!」


悠和
「ああぁっ!!」

大愛
「…ククッ、ククククッ!」


悠和ちゃんは全力でマルチアタックを放ち続ける。
決して威力の低くないそれを、大愛さんは微笑しながら受け続ける。
大愛さんのダメージは間違いなく大きい。
しかし、大愛さんは恐らく時間操作用のPPをもう残していないのだろう。
ガードするにも右腕は動かない。
ただ、大愛さんは笑いをこらえてただ壁になったのだ…


審判&観客
「スリーーー!!」


カウントは無情にも3つ刻まれる。
ゴングが無いのは本当に残念だが、戦いは終わった…
これで6連勝…後は、ブレーン戦を残すだけだが…結果は見なくても良さそうだな。
まぁ油断は出来ないんだが、恐らくそこまで苦戦もしないだろう。
何となく、こういう時の俺の勘はよく当たるからな。


実況
『遂に決着!! 制限時間ギリギリでクロノスファイヤーズがフォール勝ちぃ!!』
『もはや観客も完全にプロレス気分! だが、もはやどうでも良くなってきた!!』
『紛れもなくこれは名勝負! 負けた方も、十分評価に値するぞぉ!?』


万丁
(こ、これがポケモンバトルなのか…?)
(初めて見たが、こんなに凄まじい物とは思わなかった)
(人外と人外…その戦いがこれかよ)


万丁君は立ち尽くしていた。
あまりの事にどうすれば良いのかも理解出来てないって顔だな。
改めて万丁君は現実的な考えの人間だと俺は感じる。
それだけに、疑問だろう…何故大愛さんが身を呈してまで壁になったのか。
何故、悠和ちゃんがあそこまで必至になったのか。
何故…牙皇さんはあんなにも楽しそうなのか、とか。


牙皇
「へっ…ダメだぁ〜これ以上アピール出来ねぇ」

ルチャブル
「全く…ホントに無茶苦茶なんだから」


倒れそうになる牙皇さんをフラフラのルチャブルさんが支える。
牙皇さんはケタケタ笑っていた。
大愛さんは息を吐く。
その顔はどこか満ち足りているかの様な顔だな。
そして悠和ちゃんは…悔しそうに俯いて震えている。
そうだ、悔しい気持ちは忘れるな。
今回はたまたま敵だったが、悠和ちゃんもまだまだ強くなれるさ…


ルチャブル
「…まぁ、後1戦頑張りなさい」

牙皇
「おう! また、後でな♪」

大愛
「ふん、まだ後があるんだったな…仕方あるまい、主の無事が確認出来ただけでも儲け物としてやる」

悠和
「………」


それぞれ、互いのトレーナーの元に戻って来る。
俺は牙皇さんに肩を貸し、そのまま治療室まで連れて行く事にした。
あえて向こうには何も言わない…勝者から声をかけるなんざ嫌味も良い所だからな。



………………………



ルチャブル
「ごめ〜ん、負けちゃった…」

悠和
「いえ、ルチャブルさんは凄かったです! 私なんて、結局何の役にも立てなかったし…」

ルチャブル
「まぁ、あれが相手じゃしょうがないわよ…時間操作とか、チート能力だし」

万丁
「…あの、お疲れさんです!」


俺は、とりあえず深くお辞儀して労う。
この人は、本気で凄い人だった。
プロレスなんてショーだと思ってた俺の考えを、完璧に打ち砕いてくれたんだから。


ルチャブル
「こら、トレーナーならそういう事しない!」
「負けたんだから、もっと悔しがれば良いのに…」

万丁
「す、すんません…何分、初見だったもんで」

悠和
「はぁ…ホントに最悪だよ、どうしてよりによって聖様に当たるのかなぁ〜?」


美代さんは泣きそうな顔で項垂れていた。
やっぱ、美代さんは魔更先輩の事好きなんだな、
確かに、魔更先輩はスゲェな。
あんなバトルの前なのにまるで物怖じしてなかった。
むしろ、拳を握り込んで力を送ってるかの様な力の入れ具合だ。
そして、大愛さんはそんな魔更先輩の信頼に体を張って応えていた。
俺に、あんな事出来るか?
絶対無理だ…大愛さんはきっと、俺なんかの為にはあそこまでやらない。
俺は…こんなにも弱いのか?


ルチャブル
「とりあえず、後が使えてるからさっさと戻る!」
「そんで、ガオガエンたちが戻ったら祝勝会しよ?」

悠和
「あ、良いですね〜♪ 聖様も喜んでくれるかな?」

万丁
「分かりました、とりあえず気持ち切り替えます!」


俺たちはとりあえず退場した。
一応、ルチャブルさんと悠和とゃんは治療室に送らないとな…



………………………




「…で、わざわざ何の用だ?」

万丁
「…すんません、どうしても聞きたい事があって」


現在牙皇さんと大愛さんは治療中。
俺はひとりで控え室にて待機していたら、突然万丁君が訪ねて来たのだ。


万丁
「魔更先輩、大愛さんは本当は俺の所にはいない方が良いんじゃないっすかね?」


「…何で、そう思う?」


俺は極めて冷静に答えた。
本当なら今のは有無を言わさずぶん殴る所だが、ここは大人の対応でまだ抑えておく。


万丁
「俺、正直解かんねぇっす…ポケモンの事とか」
「何で、俺こんなトコにいるんすかね? 何で俺、大愛さんと離ればなれにされたんすか?」
「こんな事、魔更先輩に言ったって何の意味も無いのも解ってます」
「ただ、それでも…魔更先輩と大愛さんが一緒にいるのは、運命みたいなモンなんじゃないっすか?」


「…はぁ、ある程度予想はしてたが、こりゃ一々ぶん殴るのも面倒だな」


俺は深くため息を吐いて万丁君を見る。
どっから叱れば良いのか…そもそもそれ以前の問題だろこれ?
コイツは全く理解していない…これじゃ大愛さんがあんな顔してたわけだ。



「お前、大愛さんとどれ位会話してる?」

万丁
「えっ? そんなの…ほとんど、無いっす」
「聞かれた事には答えるっすけど、自分から話しかけた事とかは、あんまり…」


「お前、大愛さんの事何だと思ってんだ?」


俺は少々凄んだ声でそう言う。
明らかに怒気を込めた俺の声に気圧されたのか、万丁君は少し驚いていた。



「当ててやろうか? どうせ人外の化け物だとか、人以外の何か程度にしか考えてなかったろ?」

万丁
「!? そ、それは…だけど!」


俺は椅子から立ち上がり、問答無用で万丁君の顎を蹴り上げた。
万丁君は思いっきり吹き飛び、壁に叩き付けられて尻餅を着く。
やれやれ、とりあえず久し振りドタマに来たぜ…!



「ポケモン舐めてんじゃねぇぞ、このクソヤロウ!?」
「良いか覚えとけよ!? ポケモンは俺にとって家族だ!」

万丁
「!?」


「人間なんだよ、心があんだろ!?」


俺は自分の胸に親指を立てて叫ぶ。
万丁君にはまずは認識から変えてもらう。
少々荒っぽくなるが、万丁君ならその方が効くだろ。



「大愛さんは、きっとお前から話しかけられる事を待ってたはずだ」
「大愛さん、ずっと悲しそうな顔してたぞ? 色々予想してみたが、案の定お前が原因のひとつかよ!」

万丁
「何で…? 何でアンタはそんなにも割り切れる!?」
「俺の反応が普通だろ!? 何が間違ってる!?」
「俺は、人間として当たり前の反応をしただけだろ!?」


俺はツカツカ歩いてもう1発、尻餅を着いたままの万丁君を蹴り上げる。
やれやれ…これ以上怒らせないでもらいたいんだがな?



「確かに、俺はフツーじゃないだろうさ」
「だが、俺は望んでこうなった」
「そりゃ、万丁君は純粋に被害者だ…悪かったとは思ってる」
「だが、選んだのは大愛さんだ! 俺は、それを信じたかった…」

万丁
「…っ! それなら、なおの事! 魔更先輩が引き取ってくださいよ!?」
「こちとら、生活も四苦八苦してるのに、突然現れて、突然住み着かれて、突然こんな訳解かんねぇ世界に巻き込まれて!!」
「こんな、俺が!! 何で選ばれたんすか!?」


万丁君は勢い良く立ち上り、俺の襟首に掴みかかってそう叫ぶ。
涙を流し、理不尽みたいなこの展開をどうしたら良いのか解らない様だった。
俺はとりあえず万丁君のリーゼントに向けてパチキをかます。
万丁君は後によろめき、頭を抱える。
俺はそんな万丁君にこう言ってやった。



「だったら、聞いてみろよ直接!」
「後、生活苦なら一言くらい言えバカ」
「生活支援くらい、面倒見てやるっての!」


万丁君は全身を震わせて涙を流す。
正直、俺は万丁君の事はほとんど知らない。
彼には彼なりの悩みや、夢があるんだろう。
でも大愛さんの来訪は、そんな万丁君にとっては重荷でしかなかったのかもしれない。
だけど、選んだのは大愛さんだ。
そして、それを受け入れた以上、万丁君には責任がある。



「泣いてれば助けが来るとでも思うなよガキが!?」
「俺はお前が強くなるまで何度でも叩き直すぞ!?」
「テメェは、大愛さんを幸せにしてやりたいとは思わないのかよ!?」


万丁君は、泣きながらもゆっくり立ち上がる。
その顔は、複雑そうな顔だった。
そして、万丁君は叫びながら俺の顔面を思いっきり殴り付ける。
良いパンチだ…鍛えてるのが解るな。
だが、その程度じゃ今の俺は怯まない。
俺は切った口の中から血をペッ!と吐き出す。
そして、改めて万丁君を睨んだ。
今度は、万丁君も怯まない。


万丁
「俺だって…誰かを幸せにしてやりたいとは思ってるよ!!」


「…なら、大愛さんと向き合え!」
「あの人は…悲しい人なんだ」
「娘にすら1度避けられて、全部後悔して…それでも!」
「あの人は、今を共に生きる事を望んだんだ!!」


俺も、気が付けば涙が出ていた。
大愛さんは、過去を悔やんでいる。
藍に頼んで話をさせたのも、それを少しでも和らげる為だ。
だけど、本当にそれをやらなきゃならないのは、選ばれた万丁君だろうに!


万丁
「魔更先輩…俺に、出来るんすか?」


「まだ、やられ足りねぇか? 出来る出来ねぇじゃねぇだろ!?」

万丁
「…すんません、こんなの…男じゃ無かったっすね」
「やります!! やってやろうじゃねぇか!!」
「俺が大愛さんを助けますよ! それが、俺が選んだ道だ!!」
「俺が選ばれたんなら…俺も選んでやる!!」


万丁君は、迷いを断ち切った顔だった。
俺は安心する…これで、きっと大丈夫だと。
これからも、色々トラブルはあるだろう。
それでも、万丁君と大愛さんならきっと乗り切れる。
俺は、ふたりをただ信じてやりたかった…



「…もう行け、そろそろ大愛さんたちが戻って来る」

万丁
「は、はい! どうも、ありがとうございました!!」


万丁君は律儀にお辞儀をして立ち去る。
やれやれ…若いな新入生は。
って、俺もまだ高校生なんだよな…?
何だか、老けてきたのかねぇ?
そんな事を考えていると、俺はクスリと笑みが零れる。
何言ってんだかな…? 俺なんて、去年はただやさぐれてるだけの弱者だったのに。
あの頃の自分だったら、俺も万丁君と同じ様な事を言っていたのかもしれない。
全てに絶望して、諦めたあの時…
俺は、自ら命を絶つ程度には追い詰められていたっけか…
それに比べたら、万丁君は強いじゃないか…
昔の俺は、体もモヤシで、とてもあんなヤンキーとは殴り合えなかったのにな…

俺は、考えれば考える程おかしかった。
俺も、成長したのか?
そして、俺は俺で、後輩に渇を入れる位には強くなれたんだな…
だけど、俺はまだ満足してはいけない。
俺には俺の家族の悩みがある。
それを棚に上げて、万丁君を叱るなんて、俺は傲慢だったのかもしれない……










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第4話 『バトルパレス、ぶつかり合う先輩と後輩』


To be continued…

Yuki ( 2019/05/14(火) 07:24 )