とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない













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第7章 『バトルフロンティア』
第2話

「うーむ、とりあえず次はどこに行ってみるかな?」


唯ちゃんと別れ、俺はファクトリーを後にしていた。
とりあえず他の家族を探したい所だが…



「泣かない事が強い事だなんて、誰が言ったの?」
「ひとりきりっ泣いて、ほら顔を上げて!」


突然後から歌。
俺はギョッとして振り向くと、そこにはメロディさんの笑顔。
クラシックギターを持ちながら、演奏していた様だ。


メロディ
「あははっ、何だか悩んでるみたいだから声かけちゃった♪」


「…メロディさん、何やってたんですか?」

メロディ
「うん? 私は歌を聞いてくれる所なら、どこにでも行くわよ?」


何だか会話が噛み合わない…
この人、妙な所があるよな…メロエッタって幻のポケモンだけど、この人は何か目的あってここにいるんじゃないのか?
それとも本当に表裏無く、ただ気のままに歌っているだけなのだろうか?
ゲストらしいけど、この人もまさかリィザさんの…?



「あの、メロディさん…リィザと言うムウマージを知っていますか?」

メロディ
「? 聞いた事無いなぁ〜? 私も結構な異世界を渡り歩いたけど、そんな名前のムウマージは知らないわね」


さりげにスゴい事を聞いた…異世界渡り歩きって。
この人は本当に気のままに歌っていそうだ。
やっぱ、そういう所は幻のポケモンなんだな…


メロディ
「何? その人を貴方は探してるの?」


「…いえ、そういう訳じゃないんですけど」


少なくともこの人は氷華が言っていた関係者では無いらしい。
となると、別の事を尋ねてみるか。
俺は軽く息を吐き、ニコニコ顔のメロディさんにこう聞いた。



「メロディさん、この世界でレシラムとかゼクロム見ませんでしたか?」

メロディ
「偉く大物のポケモンね…? 残念だけど、そんな大物がいたらどこかで騒ぎになってると思うけど…」


その直後、突然大歓声。
俺は何事かと声の方を向くが、人混みが集まっててよく解らなかった。
ただ、そこからはまるでプロレスの染みた物騒な掛け声も聞こえてくる。
まさか、喧嘩か何かか?


メロディ
「おっ、ストリートファイトかぁ!?」


「ちょっ!? メロディさん!?」


メロディさんはギターをその場から突然消して走り出す。
かなり速い足で、とても俺が追い付ける速度じゃなかった。
つーか、あの楽器とかってメロディさん自由自在に出し入れしてるのか?
見た感じ、空間から突然消えたみたいな感じだったけど…



………………………



男A
「良いぞやれーーー!!」
男B
「どうしたオッサン!! 子供相手に遊ばれてんぞ〜!?」


俺はとりあえず輪の中に入って状況を確認する。
そこでは何やらバトルが繰り広げられており、ガタイの大きなオッサンと小さな爆乳闘士が戦っていた。
その少女は身軽な動きでオッサンの攻撃を全てかわし、長いポニーテールを揺らしている。
俺はその姿を見て安心感を覚えた。
そこにいたのは紛れもない俺の家族だったからだ。


オッサン
「くそっ!? ちょこまかと!!」

華澄
「もう、その辺にするでござるよ…先程の事は謝ったはず」
「そなたに拙者は倒せませぬ、身の丈に合わぬ挑戦はせぬ方が良いでしょう」


華澄は宙を舞い、オッサンの頭上で人差し指を付き、逆さまに停止して見せた。
その姿に観客は大騒ぎ、オッサンは更に顔を赤くして怒っている。
やれやれ、華澄らしいと言うか…そういうのには遠慮する事も無いだろうに。
仕方ないので、俺はとりあえずこう叫んでやった。



「華澄! 水手裏剣でちょっと懲らしめてやれ!!」

華澄
「!? はっ!!」


華澄は指1本でオッサンの頭から飛び上がり、そのまま空中で回転して片手に水手裏剣を練る。
そしてそれを4枚オッサンに投げてそれ等は地面に着弾した。
オッサンは一瞬の事に反応出来ずその場で立ち尽くす。
華澄はその間にオッサンの背中側に着地し、その瞬間…オッサンの服は下着以外綺麗に切り裂かれた。
哀れ、謎のオッサンはパンツ一丁になり、周囲からクスクスと笑われる羽目になる。


オッサン
「ひ、ひぃぃぃぃぃっ!?」


オッサンはすぐに走り去ってしまう。
やれやれ…とりあえずひとり目か。


華澄
「聖殿! よくぞ、ご無事で…!!」


華澄は俺の前に素早く駆けつけ、膝を着いて頭を下げる。
こらこら…人前でそういう事しない!
俺は極力目立ちたくは無いのだ…


メロディ
「へぇ〜その娘貴方のポケモン? 相当強そうね…?」


「そういうんじゃないですよ…華澄は、家族ですから」

華澄
「…聖殿、この方は?」

メロディ
「初めまして、私はメロエッタのメロディ♪」
「今日は、バトルフロンティアのゲストとして、歌いに来てるの♪」


そう言ってメロディさんはウインクして笑う。
華澄はキョトンとしながら、メロディさんの顔を見ていた。
まぁ、気持ちは解らんでもない。
俺も初見はそんなモンだったし。


華澄
「…とにかく、聖殿が無事で本当に何よりです」
「まだ、他の家族には?」


「ああ、お前が最初だ…他に何人来てるか解らないが、お前もまだか?」


華澄は小さく頷く。
となると、結局はしらみ潰しか…もしかしたら、どこかの施設にいる可能性はあるな。


メロディ
「…家族、ねぇ」
「もしかして、さっき聞いたのも家族の事なの?」


「あ、はい…そうです」
「いるかどうかは解らないんですけど…いたなら合流しないと」


もっとも、メロディさんからしたら伝説ってだけでも大騒ぎになりそうなモンみたいだし、返って騒いでくれた方が解りやすいか?



「つーか、華澄は何でストリートファイトなんかやってたんだ?」
「基本菩薩の華澄さんにしては珍しい…」

華澄
「いえ…つい拙者の不注意で先程の男性とぶつかってしまい」
「謝ったのでござるが、聞く耳持たずに襲われたでござる」

メロディ
「うーん、まぁこんなバトル尽くしのイベントだし、皆血の気が余ってるからね」
「喧嘩もここじゃ祭りだし、観客からしたらむしろゲリライベントみたいなモンよ?」


成る程な、それであの野次馬か。
華澄みたいな見た目だと、インパクトもあるから観客受けは良いのかもな…
俺は周りを見ると、既に野次馬たちは散り散りになっており、別のネタを探しに行った様だ。
やれやれ…騒がしいこったな。



「とりあえず華澄は俺と来い、まずは色々回ってみよう」

華澄
「はっ! 拙者もお供致します!」

メロディ
「それじゃ、お姉さんはここで…また会えたら良いわね♪」


そう言ってメロディさんは素早く駆け抜けてしまう。
何なんだろうなあの人も?
色々と謎な人だ…


華澄
「聖殿、あの方は何者なのでしょうか?」


「さぁな…でも、悪い人には見えない」
「まぁ、今は良いんじゃないか? とりあえず華澄と巡り会わせてくれたみたいなモンだし」


華澄は少し心配そうではあった。
解らなくもないが、この混沌が何を目的で作られたかも解らないし、他の混沌に比べても異端だ。
ポケモンだけでなく、それと共に戦う人間のトレーナーがいる。
そして、各施設のブレーンか。
とりあえず、まずはそれ等を目指してみるのも良いかもしれない。
華澄と一緒なら、全施設攻略するのも無理じゃ無いだろうし。


華澄
「…!? 聖殿、退がって!!」


「!? な、何だどうした!?」


突然、華澄が俺を突き飛ばし、戦闘体勢に入っていた。
あの華澄が、最初から構えてるだと?
俺は華澄が見ている先にひとりの女性を見付けた。
その女性は右目に大きな切傷を持ち、右目は見えていない様だ。
だが、開かれた左目は細く吊目で、異様な威圧感を放っている。
身長は190p以上あり、深緑の着物を着ているだけだった。
胸は華澄以上の爆乳で、100以上は間違いなくあるな。
髪は緑の長髪でザンバラ髪。
尻からは太い尻尾が下に伸びており、怪獣系のそれを思わせる形。
どことなく、北辰さんに近い見た目だ。
とはいえ、こちらは間違いなく女性。
それも、相当なポケモンだと予想出来る…華澄の首から流れる冷や汗がそれを物語っていた。
何だこの人は…?


隻眼の女性
「ほう、小生が気を感じ取ったか…やはり出来るな」

華澄
(こ、このプレッシャー…! 並の使い手ではござらん!?)
(こ、声を出すのですら緊張して…!!)


隻眼の女性は笑っていた。
俺には目もくれず、ただ華澄を見ているのだ。
その目は心底嬉しそうに、そして巡り合わせを感謝するかの様な達観した表情。
華澄はやや前傾姿勢に構え、いつでも動ける様に構えていた。
こ、こんな余裕の無い華澄は初めて見るぞ!?
近くには観客が集まり始めている…騒ぎになるか?
だが、それを嫌ったのか隻眼の女性は気を高め、その場で強く地面を右足で踏み抜く。
その瞬間、とてつもない砂嵐が巻き起こり、それはまるでバトルフィールドの様に外と中を隔離してしまっていた。
これじゃ、外からは入れない!
邪魔物は無しでやりたいって事か?


隻眼の女性
「…まずは名乗らせてもらおう」
「我が名は『未来』(みく)! バンギラスの未来!!」
「ゲッコウガの少女よ、そなたとのバトルを小生は所望する!!」


何て堂々とした態度だ。
その目には一点の曇りも無い。
ただ純粋に華澄を強者として見て、そして戦いたいと言うのだ。
華澄は流れる汗を拭う事無く、静かに口を開いた。


華澄
「…理解出来ませぬ、この様な戦いに何の意味があるのでござるか!?」

未来
「意味? 強い者がそこにいる…そして己は強いのか?」
「それは、戦う事でしか証明出来ぬ!」
「そなたは強い…だから戦う事に意味がある!!」


未来さんは強く良い放つ。
華澄は呆気に取られていた。
極力、華澄は争い事を避ける性格だ。
ここまでストレートに勝負を挑まれるのは戸惑いを覚えるだろう。
ましてや、確実な強者。
戦えば、両者共にどうなるか解らない。
タイプで見れば華澄が有利だが…変幻自在の特性故に、そうとは限らないのが悩み所か。
俺は、あえてメロディさんの言葉を思い出す。
喧嘩も祭りみたいなモノ…それなら、これも祭りか。
俺はそっと華澄の小さい背中に手を当ててやった。
すると、震えていた華澄の体から震えが消える。



「やってやれよ…ここじゃ、喧嘩は祭り」
「華澄が選ばれたんなら、全力でやってやれ」
「じゃないと、相手に失礼だぞ?」

華澄
「…解りました、聖殿がそう望まれるなら」
「この華澄、全力を持って受けさせていただきます!!」


華澄はそう言って全身から気を放つ。
もう震えも汗も無い。
華澄は細い目で相手を睨み、踏み込む体勢に入る。
それを見て未来さんは微笑む。
そして、構えもせずにただ右足を前に踏み込んだまま、前傾姿勢で待っていた。
まさか、あえて待とうって言うのか?


未来
「さぁ参られよ! この身体、ちょっとやそっとではビクともせぬぞ!?」


凄まじい気だった。
今まで感じた物とはまるで異質な塊の気に俺は息を飲む。
華澄は、はぁ〜と息を吐き、そして決意してその場から飛び込んだ。
低空ジャンプで未来さんの目の前まで移動し、そこから右手に全力の水手裏剣を練る。
最大まで練られたそれは、1枚の巨大な手裏剣となり、華澄は一瞬躊躇いながらも、それを未来さんの身体に浴びせた。
高圧縮され、高速回転するそれは、鋼鉄すら切り裂く刃となる。
だが、未来さんはそれをガードすらする事無く、身動きひとつ取らずに受けたのだ。
左半身を縦に切り裂かれるが、両断とはいかない。
華澄の迷いが踏み込みを甘くしたか!?
未来さんはそれでも笑っている。
血が飛び散り、華澄は戸惑いの顔を見せるが、その直後。


ドッギャァァァァァァァァッ!!


華澄
「!? がっ…はぁっ!!」


俺は声ひとつ出せなかった。
華澄の一撃が決まったと思った矢先、華澄は直後に腹を貫かれかけたのだ。
未来さんは足元から岩の槍を作り出し、それで華澄に攻撃した。
ストーンエッジか何かみたいだが、あんな無茶苦茶な戦術を取って来るなんて!?


未来
「…流石は華澄殿、今の一撃をその程度に抑えるか」

華澄
「な、何と言う…! 貴女は、死ぬのが怖くは無いのですか!?」

未来
「死ねばそれまで…しかし、生きればそれは勝利よ!」
「さぁ、小生はまだ生きている! 華澄殿も全力で来られよ!!」


何と、未来さんはまたしてもノーガードで待っていた。
華澄も目を丸くしている。
これは、死合だ…どちらかが死ぬまでやるつもりなのか?
そんな事は流石に許容出来ない!
俺は何とか止めようとするが、声が…出ない!?
止めなければならないのに、俺は何をしている!?
華澄も未来さんも、後一撃耐えられるかは解らない、むしろ本気で直撃すれば互いに即死だ!
それなのに、未来さんは恐怖ひとつ見せずに華澄の攻撃を待っている。


華澄
「…未来殿、命は投げ捨てる物ではござらぬ」

未来
「ほう、それではまるで…小生が死ぬと言っている様な物」
「今の一撃で、小生が力を見切ったと思うのであれば、それは驕りであるぞ!!」


未来さんは更に気迫を増して砂嵐を華澄に叩き付ける。
まるで息を吐くかの様に砂嵐を自由自在に操る未来さん。
華澄は吹き飛ぶものの、すぐに着地してみせ、横腹から流れる血を冷気で凍らせて止血した。
そして、改めて構える。
華澄は…やる気なのか!?
華澄の目に迷いは見えない…未来さんを真っ直ぐに見ている。
華澄はバカじゃない…出来ない事は口にしない。
やるからには、勝つ算段があると言う事。
未来さんは笑っていた。
そして、未来さんは体を一旦起こし、そして軽く右足を真下に踏み込む。
すると、足元から岩の槍が競り上がり、未来さんはその先を右手で掴んで引っこ抜く。
その手に持たれていた物は、まさに刀。
岩で出来たそれは大刀で、未来さんはそれを構えて再び待つ。
華澄は特に驚く事も無く、ただ無心の様に同じ軌道で飛び込んだ。
未来さんも全く驚いていない、まるで予想していたと言う様な微笑み。
華澄は再び水手裏剣を作り、射程距離に入る。
未来さんのカウンターは完璧だ、例え己の肉体が裂けようとも相手を仕留める一撃必殺の精神。
華澄に覚悟が無ければ、勝つ事は出来ない。


華澄
「!!」
未来
「!?」


何と、未来さんに水手裏剣が当たろうかと言う瞬間、華澄は水手裏剣を四散させた。
未来さんに手裏剣は当たらず、目の前で目眩ましの様に弾け、更に未来さんはタイミングをズラされる。
そして華澄は空中で体を捻り、未来さんの差し出されていた右足を内側から自分の右足で素早く払う。
その瞬間未来さんは体勢を崩し、華澄は流れる様に未来さんの首を右手で押さえ、そこから地面に向かって勢い良く引き込む。
この技は…『けたぐり』!?
相手の体重が重ければ重い程、威力の上がる格闘タイプの技!
未来さんは完全に不意を突かれた形でマトモに倒されてしまう。
華澄の全体重ごと顔面を地面に強く叩き付けられたが、未来さんは額から大量の血を流しながらも、歯を食い縛って耐えている。
華澄も追撃を止めなかった。
華澄は尚も倒れている未来さんの背中側から水手裏剣を構える。
だが、倒れている未来さんはその状態で華澄の位置を確認もせずに、自らの腹ごと貫いてストーンエッジを突き立てた。
華澄は予想だにしない反撃のそれをモロに食らい、腹を刺されてそこから血を流す。
だが、それでも華澄は歯を食い縛り、右手の水手裏剣で未来さんの首を狙う。
これはかわせない! 当たれば未来さんは…!?


未来
「…見事」

華澄
「…っああぁぁぁぁぁぁ!!」


華澄は声にならない叫び声をあげ、水手裏剣を未来さんの首に突き付けた瞬間それを四散させる。
そして、その勢いのまま槍から腹を回転して抜き、地面を転がった。
そのまま、華澄は血を吐き天を仰ぐ。
未来さんは、目を瞑ってその結果を噛み締めている様だった。
そして、未来さんは自分ごと貫いた槍を根本から手でへし折り、立ち上がってそれを腹から引っこ抜く。
かなりの出血だが、未来さんは一度深呼吸し、気合いを入れると血は止まってしまった…マジかよ!?
ちなみに、その際に未来さんの着物は腰帯が切れてしまい、完全にはだけてしまっている。
当然、モロに爆乳が見えてしまっていた。
だが色気を出す事も出来ず、その身体に刻まれた多くの傷痕は、逆に俺の目に焼き付いた。
あの人は、どれ程の間こんな戦いを続けたのだろうか?
そして、これからも…どこまで続けるのだろうか?


未来
「…手緩い事だ」
「だが、それに負けたのも、小生の方が弱かった故…か」


未来さんは、仰向けに倒れている華澄の体を片手で掴み、それを俺に向かって放り投げる。
既に砂嵐のフィールドは消えており、野次馬が囲んでいた。
俺は、華澄を片手で抱えたまま、走って未来さんの所に行く。
そして、未来さんの体を後から抱き抱え、無理矢理近くの施設に飛び込んだ。
未来さんは引きずられながら驚いた声をあげたが、俺は無視して突撃する。
そのまま、施設の受付相手にこう叫んだ。



「急患です!! 回復お願いします! ふたり!!」

受付
「え? あ、は、はいっ!! す、すぐに!!」

未来
「なっ…!? しょ、小生は別に……」

華澄
「ふふ…流石は、聖…殿」


未来さんは文句を言おうとしていたが、無理矢理にでも連れて行かれた。
ったく…どんだけ致命傷近いか解ってんのかねあの人?
つーか、何だよこの突発イベント…肝が冷えたわ!
未来さんか…本当に何でいきなり。
俺は近くのベンチで頭を抱えながら、ふたりの治療を待っていた。
すると、突然俺に声をかける女性の声。


女性
「あら、聖さんじゃないですか!」

少女
「お、ホントだ〜」


「…? あ、借音さんに麻亜守ちゃん!?」


何と、こんな所で出会うとは…これも巡り合わせかね?
ふたりとも普段着で白いワンピースを着ていた。
麻亜守ちゃんは何やらお菓子をバリバリと食っており、祭りを満喫していた様だな。


借音
「ふふ…麻亜守ったら、子供の部で7連勝したんですよ?」
「そして、その賞金で沢山お菓子を買ってしまって…」

麻亜守
「ふふん! 同じ子供の中なら私もやれるのだ!」


そう言って麻亜守ちゃんは胸を張って誇らしげにしていた。
子供の部、ね…そんなのもあるのか。
しっかし、麻亜守ちゃんが戦う所とか見た事無いけど、それなりに強いのか?


借音
「まぁ、出場してるのは、皆年下の幼稚園児ばかりでしたし…」


「小学生の癖に大人げないな!? 麻亜守ちゃん容赦無し!!」

麻亜守
「別に、ルールは守ってるし!」


まぁ、確かにそうなんだろうが…
麻亜守ちゃんが楽しいならまぁ良いのか?
幼稚園児たちと戯れる麻亜守ちゃんをイメージすると、微笑ましくはあるのだが。


借音
「それより、聖さんはひとりで?」


「いえ、華澄が一緒です…アイツ、ちょっと大怪我して今治療中なんですよ」

麻亜守
「華澄お姉ちゃん…怪我したの?」


俺は途端に不安そうな顔をした麻亜守ちゃんに、微笑んで頭を撫でてあげた。
すると、麻亜守ちゃんは少し安心したのか、頬を弛ませる。



「とりあえず、今は治療待ちですね…しばらくはかかるかもしれません」

借音
「そうですか…それでは私たちもここからはご一緒しますね♪」
「治療なら私にも出来ますし、戦闘も最低限ならこなせます」

麻亜守
「うむ、今こそ愛の力でメガ進化だ!」


流石にそりゃ無理だろ…って、櫻桃さんは出来るんだし、案外無理でも無いのか?


借音
「あはは…それは、まぁ出来たら良いですね〜」


空笑いだった…やっぱ無理そうだな。
まぁ、それはさておき…これからどうするかな?
確認もせずにこの施設に入ったけど、ここはどんな施設なんだ?
俺は改めて壁に張られているポスターを見てみた。



「…バトルアリーナ、己の闘志を試せ!か」

麻亜守
「お母さんとやってみる?」

借音
「うーん、そんなに簡単に勝てる訳じゃないと思うけど」


まぁ、借音さんの実力も未知数だからな。
基本的にCPとランキングでクラスが決まるらしいし、借音さんなら初見だから一番下のクラスからかな?
とはいえ、それでも唯ちゃんみたいなのもいると思うと逆に怖いな…
借音さんにあまり無茶はさせられないだろう…櫻桃さんに何言われるか解らないし。



「とりあえず、少し待ちましょう」
「華澄が回復すれば、何とかなるでしょうし…」

麻亜守
「むぅ、お母さんのフラグが立つと思ったのに」


おっと、それはそれで残念だがな…ってフラグは別にエエっちゅうねん!
俺は心の中でツッコミを入れながらもとりあえず3人で雑談でもしながら時間を潰した。
そして、1時間程経った所で俺は受付に呼び出され、状況を確認した。


受付
「魔更様、おふたりの容態ですが…」


「はい、どうなんですか?」

受付
「傷の方は何とかなりますが、出血量が少々深刻です」
「大事を取るのでしたら、今日1日は安静にした方がよろしいかと…」


俺はとりあえず安堵する。
そして、今日はとりあえず華澄は絶対安静だと判断した。



「解りました、今日1日ここでよろしくお願いします」
「その、料金は後払いでも構いませんか?」

受付
「えっと、その前にトレーナーカードを見せていただいても?」


トレーナーカード?
唐突に知らない単語が出て来たぞ…
そんなモン持ってるわけないし…これで代わりになるのか?



「これならあるんですけど…」

受付
「えっ!? ゴールドパス!?」
「し、失礼しました!! まさか特別ゲストの方とは!!」
「これでしたら、お代は結構です! 全て大会経費から出ていますので、どうぞご心配無く!!」


おいおい…何か偉い事になってんぞ?
メロディさん、やっぱ相当大物じゃないのか!?
まぁ、とりあえずこれで費用問題は完全パスってか…
俺はとりあえず出された用紙にサインだけして一旦その場から離れた。


借音
「華澄さん、大丈夫だったのですか?」


「はい、とりあえず今日1日は安静にって事らしいです」

麻亜守
「来た! お母さんの攻略フラグ!!」


おいおい勘弁してくれ…
流石に白魔導士ポジの借音さんをひとりで戦わせるわけにはいかんだろ。


借音
「あ、あはは…それでしたら、他の施設に行ってみませんか?」
「もしかしたら、他の誰かがいるかもしれませんし」


「…それしかないな。華澄は明日迎えに来れば良いだろうし」
「とりあえず、アリーナは後回しに…」


「待たれよ…それならば小生が役に立とう」


俺はギョッとする。
後を見ると、そこには包帯で身体をグルグル巻きにされた未来さんがいたのだ。
着物は切り裂かれたままだか、帯だけ新調した様で、とりあえずはだけてはいない。
それでもノーブラでこの着物は際どすぎるが。


看護婦
「三羅気(ざらき)さん! 安静にしてなければいけません! 貴女の方が重症なんですよ!?」

未来
「問題無い、この程度の傷ならば」


「って、三羅気? 未来さんの名字ですか?」

未来
「うむ、小生の姓だ」
「そなたにも、魔更という姓があるのだろう? それと同じだ」


そ、そうか…未来さんには名字まであるのか。
っていうか、そんな事より!



「未来さん、無理はしないでください!」
「気持ちは有りがたいですけど、別に急ぎではありませんし…」

未来
「だが、そなたの足を止めたのは小生のせいだ」
「華澄殿は、真っ正面から受けてくれた…久し振りに、小生は満たされた」
「ならば、今度は小生がその礼を返す番…!」
「華澄殿の代わりに、小生がこの施設のシンボルを勝ち取ろう!!」


未来さんはまるで変わらなかった。
その力強さは何も変わらず、ただ前だけを見ている。
だったら、俺は受け取らないと失礼だと判断した。
この人の気持ちは、ただ真っ直ぐだ。
そこに悪意や邪念は一切無い。
正直、憧れすら覚える生き様だ。
刹那的ではあるものの、未来さんには迷いが無い。
だったら、信じる事の方が未来さんには力になるのだろう。
ある意味、この人は華澄に似ているかもしれない。
己の言葉に信念を抱き、それを貫く強さ。
未来さんも、そんな華澄に惹かれる物があったのかもしれない。
全く正反対の考え方なのに、ふたりはどこかで似た者同士な所があったのだろう。
俺は少し嬉しくなり、苦笑する。
そして、俺は改めて未来さんに手を差し出した。



「改めてお願いします…その力、俺に貸してください」

未来
「承知…! この三羅気 未来、全身全霊を持って聖殿の剣となろう!!」


未来さんも俺の手を取ってそう言ってくれた。
間違いなく力強い味方だ。
とはいえ、傷は重症…その辺はちゃんと気を使わないと。


借音
「もしもの時は私も治療に回ります、ですのでどうぞご遠慮無く!」

麻亜守
「うう…謎の隠しキャラにルート分岐したぁ〜」


麻亜守ちゃんだけは複雑そうな顔をしていた。
まぁ、ともあれ…とりあえずこれでアリーナに突撃だ!!



………………………




「三羅気 未来さん…いや、あえてその名では呼ぶまい…」
「そう! あえて言うならば!!」
「○神装甲!! バンギラス!!」

未来
「…聖殿、それは?」


ふっ、通用しないのは解っていたさ…だが、叫ばずにはいられなかった!!
未来さんは特に呆れた風も無く、ただフツーに疑問に思っているだけの様だ。
俺はとりあえず気にしないでくれ…とだけ言うと、未来さんは?を浮かべつつもそれ以上は言及しなかった。
そして、アリーナ受付の際に行われる検査とやらに俺たちは呼ばれる。
とりあえず、何やらトレーニングルームの様な部屋に案内され、研究員の服を着た眼鏡男がこう説明する。


研究員
「とりあえず、大まかにCPを計測しますので、そこの円の中に入ってもらえますか?」

未来
「ふむ…ここで良いのか?」


研究員はそれを見てOKです、とだけ言う。
すると、未来さんの足元から何か光が立ち上り、未来さんの体からCPを計測している様だ。
CP…いわゆるコンバットパワーの略で、要するに戦闘力だが。
確かファクトリーでは最低ランクとはいえ、平均5000程度のポケモンがほとんどみたいだった。
唯ちゃんはその中でも破格の10000以上だったわけだけど、未来さんはどの位あるのやら…?


研究員
「あれ〜 故障かな? すみません、ちょっとそのまま待っててもらえますか?」

未来
「…?」


「故障〜?」


何やら不調らしい。
俺たちはとりあえずその場で待機する事になった。



………………………



研究員
「主任! CP計測器、故障してませんか?」

主任
「はぁ? 何でいきなり…どういうこった?」

研究員
「それが、新規参加のポケモンを計測してたんですけど、CP3000位の所を30000以上で計測されるんですよ…」
「普通、おかしいですよね? CP30000以上なんて聞いた事無いですし…」

主任
「ああ? そりゃ故障だな…ったく、最新機器の癖に初日で故障かよ!」
「とりあえず、旧式の計測器使え! それならアナログだからある程度大まかには解るだろ…」



………………………



研究員
「お待たせしてすみません! とりあえず、今度はこっちでお願いします!」

未来
「…これは?」


「パンチングマシーンみたいだな…」


そう、研究員が台車から降ろしたのはまさにパンチングマシーンだった。
モニターも付いており、そこに多分数字が出るんだろう。


研究員
「旧式の計測器ですが、とりあえず大まかには計れますので」
「ここに向かって、思いっきり殴り抜けてください!」

未来
「ふむ…とにかく殴れば良いのだな?」


「やれやれ、何かいきなりアナログだなぁ…」


俺はため息を吐きながら未来さんが拳を握り込むのを見る。
あ、これ絶対ヤバイ奴だ…凄いパンチが出そうだな。
未来さんはとりあえず大振りにも程がある構えで、助走もつけずにマシンを殴り抜ける。
するとマシンは軽く吹き飛び、ドンガラガッシャン!と凄まじい音を立てて壊れてしまった。
あらら…予想通りと言うか何と言うか。
とりあえずこれで計測出来んのか?


研究員
「!? あ、えっ!?」

未来
「…それで、もう良いのか?」


研究員は慌ててまたどこかへ行ってしまう。
俺たちはとりあえずまた待つ事に…
そして、しばらくして今度は別の研究員が現れ、何やら平謝りして俺たちを控え室に案内してくれる。
どうやら、やっと通ったらしいな…で、結局未来さんのCPはどの位だったのか?
俺たちには一切それは解らなかった…



………………………



実況
『さぁ、バトルアリーナ マスターランクの開始です!!』
『今回登場するのは、謎のバンギラスを駆る無名のトレーナー!!』
『最高ランクであるマスターランクで、一体どんな戦いを繰り広げるのか!?』


実況と共に歓声。
会場は満員で待ちかねていたという感じだな。
バトルフィールドはまるで道場の様な板張りのフィールド。
サイドには3人の胴着男が立っており、どうやら審判とはまた違う立ち位置の様だ。
多分、あれがジャッジの担当だろう。
ルールブックには目を通しておいたので大体予想出来た。
ここでは一対一、互いに審判の合図で技を繰り出しあう。
その結果、相手を倒せばその場で勝ち、逆もまた然り。
ただ、3セット繰り返して決着が着かない場合は、あそこの3人のジャッジに勝敗を委ねられる。
それまでの心技体を判定され、勝者が決まるのだ。



(とはいえ、未来さん相手に3セット耐えれる相手なんかいるのか?)


甚だ疑問だった。
マスターランクのポケモンがどれ程強いかは解らないが、華澄や未来さんを倒せる相手なんて想像もつかない。
そもそも、華澄たちは暴走状態とはいえ、あのアルセウスさんを倒してるからな…
まぁ、とりあえずマスターランクの難易度を見せてもらいますかね…?

俺がそう思うと、逆フィールドからトレーナーとポケモンが現れる。
現れたのは屈強な体のドサイドン。
間違いなく強そうだが、未来さんは目を瞑ったまま腕を組んでいた。
相手を見る事無く、気だけで探っているみたいだ。
そしてゆっくりと腕を下ろし、未来さんはキッとひと睨みだけする。
すると、相手は若干怯んで狼狽えた。
この時点で程度が見えたな…未来さんもやや複雑そうな顔をしている。
とはいえこれはあくまで真剣勝負。
未来さんもとりあえず開始の合図を待っていた。


審判
「それでは、一本目!! 始め!!」

ドサイドン
「があぁっ!!」


ドサイドンは先制攻撃とばかりに体を震わせて『地震』を起こす。
会場が縦揺れし、未来さんの足元を破砕させる程の揺れで俺はバランスを崩すが、未来さんはマトモに食らっても小揺るぎすらしない。
そして瞬きする間も無く、未来さんは逆に軽く右足を踏み込んで『地震』を返した。
その威力は先程のドサイドンの比では無く、フィールド全てを揺らす程の破壊力。
ドサイドンはその場で後にひっくり返り、地面に押し潰されたかの様な悲鳴をあげてダウン。
うは…まさに圧倒的。
相手トレーナーどころか、審判たちまで呆気に取られている。
やがて、我に帰った審判が勝利判定を下す。
直後に大歓声が起こり、未来さんの勝利が確定した。
未来さんはゆっくりと俺の方に歩いて来るが、俺は未来さんの腹を見て驚愕する。



「未来さん!?」

未来
「気にするでない、大した事は無いのだから」
「それよりも、次に備えよ…ここから先もこの程度とは限らぬ」


未来さんは冷静だった。
まるで、傷が勲章とばかりの発言。
だが、俺には苦痛だった…未来さんの腹からは血が滲んでいる。
効果抜群の大技をマトモに食らってるんだ…無事な訳がない!!
それでも、この人は何ひとつ回避や先手を取ると言う手段を取らない。
あくまで、相手の全力を受けた上で勝利すると言う、己の信念で戦っている。
これは、想像以上に辛いな…



………………………



実況
『またしても一撃ぃ!!』
『マスターランクの相手を物ともせずに、既に5連勝!!』
『その全てで相手の技を食らっているにも関わらず、それ等を全てはね除けております!!』
『このまま、全て勝ち進むのかぁ!?』


冗談じゃない…未来さんの傷はそんなに浅くないんだ!
試合の度に簡易的な治療は受けられるが、あくまで応急処置の様な治療。
今の未来さんの傷を完治させるには、ちゃんとした入院が必要なはずなのに…


未来
「………」


未来さんは呼吸すら乱さずに相手を見据える。
今度の相手はボスゴドラ…また強そうな感じではあるが。
明らかに未来さんからしたら格下の雰囲気。
しかし、何かヤバイ気がする…?


審判
「一本目、始め!!」


ボスゴドラ
「!!」

未来
「………」


実況
『おっと〜? 互いに沈黙…どちらも攻撃の意思を見せません!』
「このままだと互いにペナルティが入ってしまうぞ〜?」


(ヤロウ! 予想通りカウンター戦術か!?)


最悪の相手だ…『頑丈』の特性に任せて無理矢理突破する捨て身の戦術。
未来さんにとって、これ程危険な相手はいない。
しかも、未来さんはあの性格だ…間違いなくこうなったら自分から攻めるはず!



「未来さん、相手はカウンター待ちだ!! まずは小技で様子見を…」

相手トレーナー
「ちっ…!」


相手は露骨に舌打ちした。
やはり、こっちの戦術も読まれてたって所だな。
だが、読めるなら対応は出来る。
頑丈の特性はあくまで体力満タン時に限り1発耐えるだ。
適当に小技で削れば、もはや機能しない!



未来
「面白い…小生の一撃をあえて受けると言うか」


未来さんは右足を踏み込み、床板を突き破って岩を突き出す。
それを右手で握ると、岩はパラパラと余分な部分が剥がれ落ちていき、やがてそれは刀の柄になった。
そして、未来さんはそれを両手で握り直し、床板をバリバリバリィ!!と破って巨大な刀身を作りあげた。
そのサイズは長さ約5m…分厚さはまるで、石板だ!!
あまりに圧倒的なその光景に、俺たちは息を飲む。


未来
「ならば、見事耐えて見せよ!! これぞ我が渾身の一刀なり!!」
「一刀! 両断!!」


未来さんは真上に上げたそれを、ボスゴドラに向けて全力で振り下ろす。
その速度は尋常ではなく、まさに瞬速。
一瞬にして床は叩き割られ、大量の埃と木材を破裂させた。
やや視界が曖昧だが、段々と状況が解ってくる。
そこにあったのは、破砕された床板だけ。
当のボスゴドラは無様に横に転がって逃げていた。
相手トレーナーは後でひっくり返って気絶している。
おいおい…どうすんだこれ?


審判
「…あ、えっと…し、試合放棄と判断!!」
「よって、勝者バンギラスの未来!!」


ワァァァァァァァァァッ!!と大歓声。
流石に今の一撃は観客にしても驚きだったろうからな…
まぁ、何はともあれ相手は既にビビって逃げちまった。
何とか、ダメージは受けずに済んだか…


未来
「…何と空しい」


「まぁ、ここじゃ未来さんを満足させる様な相手はいないんでしょう…」


未来さんは不満そうな顔を微妙にしつつも、控え室に戻った。
俺は未来さんの傷を気遣いながらも、この後の最終戦を見据えている。
間違いなく強敵が来るはず…唯ちゃんの時は、あからさまに唯ちゃんのCPに合わせたかの様な相手だったが。
今回も、その可能性はあるのか?
そうなったら、未来さんの傷はハンデにしかならないが…



………………………



借音
「未来さん、早く治療室へ!」

未来
「いや、ここで構わぬ…どの道、治療等受けた所でドクターストップがまたかかるだけだ」
「それならば、ここで待つ…心配はいらぬ」
「小生は戦いこそが全て…そして戦いで散れるなら、本望」


「それで、誰かを傷付けても…ですか?」


俺は控え室で静かにそう言った
未来さんは何も答えず、ただ静かに目を瞑っている。
俺はそんな未来さんにこう言葉を続けた。



「…貴女の信念に対してどうこうは言いません」
「だけど、貴女が傷付く度に、苦しむ人がいるという事も覚えておいてください」

未来
「………」

借音
「未来さん、聖さんは貴女の事を心配しています」
「ですから、どうか…」


未来さんは少しだけ俯いた。
そして薄く目を開き、やや悲しそうにこう呟く。


未来
「…聖殿は、甘いな」
「そなたにとって小生は、所詮敗北者に過ぎぬのに…聖殿は気にする事など無いはず」
「体の良い鉄砲玉が手に入ったと思えば良いのだ」
「そして、それを使い潰せば良い…小生はそれでも聖殿に勝利を約束してみせる」


「貴女にその信念がある様に、俺にも絶対に退けない信念があります!!」


未来さんは、ここで初めて狼狽えた顔を見せた。
そして、未来さんは更に俯いてしまう。
それは、この人が見せる初めての弱さだった。
この人は、いわば鬼だ…人の摂理なんか通用しない次元で生きていた人なんだろう。
だけど、そんな鬼でも勝てない相手はいた。
それを打ち負かした相手は、何よりも誰かを救いたいと思う、甘い存在の華澄だった。


未来
「…理解は出来る、そしてそれに負けたのも小生だ」
「だが、それでも小生はこの信念を曲げる事は出来ぬ」
「聖殿の気持ちは、信念は理解した…だが、それでも小生にはこれしか出来ぬのだ!」


「…解ってますよ、未来さんが不器用な事位は」
「ただ! それでも、俺は貴女を死なせたくはないし、傷付いてほしくもないんだ!!」


ここで俺は遂に叫んでしまう。
俺も理解している…互いにこの主張は交わらないのだと。
未来さんは未来さんの生き方、俺には俺の生き方がある。
そして、互いにそれは絶対退く事の出来ない絶対的な信念。


未来
「…聖殿、小生はもはやこの生き方しか出来ぬ」
「故に、その上で願いたい…小生を戦わせてくれと」
「次の戦いが終われば…その時は聖殿の言う事を何でも聞こう」
「だから、頼む…どうか、今だけは」


この人は、どうあっても折れない…信念に命を賭けているからだ。
俺は後悔した…何故、受けてしまったのか。
断れば良かったのだ…例え、縁を失っても、その方がまだ良かっただろうに。

…はっ、言っててバカらしくなった。
そんなのは、魔更 聖じゃ無いのにな…
そうだ…俺は絶対に未来さんを救う。
未来さんが折れないのならそれは仕方ない。
だが、それなら俺は絶対に未来さんを死なせはしない!
その為に、俺は最善の事をしよう。
もう、問答は止めだ…時間が惜しい。



「借音さん、治療をお願いします!」

借音
「は、はいっ! どこまで回復するかは解りませんが…体力はある程度戻せるはずです!」

麻亜守
「お母さん、ガンバ〜!」

未来
「恩に着る…そして、必ず答えよう」



………………………



実況
『さぁ、遂に7戦目到達!!』
『ここで現れるは、アリーナキャプテン!!』
『さぁ、勝利出来ればプラチナシンボルゲットだ!!』


俺の不安を他所に、アリーナキャプテンは堂々と現れる。
女性の様だが、服装からして格闘家みたいな風貌。
やや拳法着の様な格好に、金髪のツインテール。
表情はキッとしており、既にやる気は満々の様だ。


キャプテン
「ここまで来たって事は相当強いみたいね!」
「だけど、ここはただ普通のバトル感覚で勝てる施設じゃないわ!」
「それを貴方たちに教えてあげる!!」
「さぁ、来なさい! 貴女の闘志を見せてもらうわ!!」


キャプテンが腕を横に振ると、更に後方から誰かが現れる。
その姿はやや小柄で、可愛らしい見た目。
水タイプなのは何となく解るが、特徴的なのは頭から生えている二本の長い耳。
愛呂恵さんのに比べると短いが、イメージは近い。
服は空手の様な胴着を着ており、見た目以上に力強さを感じる。
尻尾も生えており、先端が浮きの様な丸く青い形…
この時点で俺は察した、またしても相性最悪の相手かよ…と。


キャプテン
「さぁ、マリルリ! 行くわよ!!」

マリルリ
「はいっ!!」


マリルリはどっしりと構える。
スタイルも空手系か、間違いなく特性は『力持ち』!
下手したら未来さんよりも力は強いかもしれない。



(だが、俺は未来さんを死なせはしない!!)


最悪、反則負けでも俺は未来さんを助ける。
恨まれようが構うか…! 俺の目的は、誰かを失って得られる物じゃない!!



「未来さん、どうせ命令は聞いてくれないんですよね?」

未来
「…小生の戦い方は小生が決める。誰にも邪魔はさせぬ」


だろうな…ならこっちもそのつもりでやる。
俺には俺のやり方があるって事を未来さんにも知ってもらうさ。


審判
「それでは、一本目! 始め!!」

キャプテン
「『アクアジェット』!」


まずはマリルリが水を纏い、高速突進してくる。
未来さんは構える事無く、マトモに食らう気の様だった。
マリルリは頭から思いっきり突撃し、未来さんの顔を軽く弾く。
そのままマリルリは横にズレて未来さんの後に着地した。
未来さんは構わずそこにストーンエッジを放つ。
…が、そこに相手はいなかった。


未来
「……?」

審判
「そこまで! 続いて二本目に入ります!!」


(アクアジェットの硬直に見せかけて、攻撃を誘うなんて…)


マリルリはわざと着地硬直を見せたのだ。
当然それに釣られて未来さんはバカ正直に反撃する。
すると、マリルリはすぐさまアクアジェットの勢いを再加速させて回避して見せたんだ。
これで判定は間違いなく不利。
これが、アリーナにおける定石か。



「と、なるとマズイ…!? 相手は倒す気でいない!?」


相手は判定勝ちを狙っている可能性がある。
そうなったら、かなりマズイ!
未来さんは真っ向勝負しか出来ないってのに!!
あの人に、搦め手とかそう言う戦略は何ひとつ無い。
全てが、相手の全力を受けた上での反撃。
もしくは、己の全力を持って叩き伏せるかの二択!!
相手からすれば、読みやすい事この上ない。
未来さんは勝てるのか…?

いや、違うだろ…俺が信じないで誰が信じる!?
未来さんは未来さんのやり方しか出来ない、それなら俺には俺にしか出来ない事をやる!
それは、信じる事だ!! 俺は夢見の雫にこう願う。
未来さんの痛みを、俺とリンクさせろと!!
そして、俺の心を未来さんにリンクさせる!!



「ぐっ!? があぁっ!!」

未来
「!? 聖殿!?」

キャプテン
「な、何?」

マリルリ
「?」


俺は思いっきり呻き声をあげてしまった。
そして、改めてゾッとする…未来さんはこんな痛みを平然と耐えているのか…?と。



(…トンデモないな、こんな状態で戦うとか)

未来
(聖殿の声が頭に!?)


未来さんの声が頭に響く。
これで、俺たちは強制的に一心同体だ。
未来さんが死ねば、俺も死ぬ。
未来さんの痛みは、俺の痛み。
そして俺の痛みも、未来さんの痛みとして伝わる。


未来
(これは、一体…!?)


(これが俺のやり方ですよ…俺にも退けない信念がある!)
(未来さんが変われないなら、俺は俺のやり方で戦います)
(さぁ、やりましょうか…こっから先は、俺も同じダメージを受けますんで!)


キャプテン
「とりあえず、次よ!」

審判
「二本目! 始め!!」

未来
「くっ…! 戦いに雑念は不要!! さぁ、来られよ!!」

キャプテン
「じゃ、遠慮無く! 『滝登り』!!」

マリルリ
「はっ!!」


マリルリは大して速くもないスピードで突っ込んで来る。
だが、俺には恐怖でしかない、1発だって耐えれる自信は無い。
未来さんを信じる事しか俺には出来ない。
さぁ、どうする!?


未来
「……っ!」


未来さんの痛みが俺にも伝わった。
腹の痛みが尋常じゃない…俺は痛みに耐えるだけで息を荒らげている。
こんな状態で、強打を貰ったらどうなるのか?


マリルリ
「はぁっ!!」


マリルリは右拳に水を纏わせ、更に足元から水柱を噴き上げる。
それは未来さんの顔面を打ち、同時にマリルリのアッパーが未来さんの顎に直撃。
痛みは一瞬、俺はあっさりと意識が断ち切られた。
その場で前のめりに倒れ、場が騒然とする。
未来さんは反撃する事無く、その場で歯を食い縛って耐えていた。
そして、倒れている俺に未来さんはこう叫んだ。


未来
「小生の、小生の戦いはぁ!! こんな事の為の戦いではない!!」


俺は未来さんの心の叫びを聞いて意識を取り戻す。
不思議なもんだ…痛くてしょうがないのに、苦しくして仕方ないのに。



(それでも、立ち上がれるもんなんだな…未来さんの本音が聞けたんなら!!)


そう、俺は確かに聞いた。
口に出した言葉じゃない、未来さんの魂の叫びを俺は心で聞いた。
そうだよな…こんな戦いは未来さんの求める戦いじゃない。
だけどな…!



(これが、俺の戦いだぜ未来さん!?)

未来
「ああああぁぁっ!!」


ビュゴォォォォォォォォッ!!と、凄まじい砂嵐が起きる。
未来さんは特性を発動させ、近くにいたマリルリを砂嵐のパワーだけで吹き飛ばす。
そして右手を前に構え、そこから強烈な電撃を放った。
砂嵐により動きを封じられ、マリルリは電撃をモロに浴びて悲鳴をあげた。


キャプテン
「マリルリ!?」

審判
「それまで!! 二本目終了!! 三本目に入ります!!」

未来
(聖殿…これは、一体何故!?)


(これが、俺の戦いですよ…貴女が絶対に退かないから、俺も同じく退きません)
(俺は貴女の流儀に合わせます…俺が死んだら貴女の勝ち、俺が生き残ったなら、俺の勝ちだ!!)


そう、これが俺の挑んだ戦い。
今の俺は、ぶっちゃけアリーナキャプテンとか眼中に無い。
何がなんでもこの未来さんに勝つ!
俺は俺のやり方で、未来さんの信念を折る!!


未来
(こんな…こんな下らない事にそなたは命を賭けるのか!?)


(下らない…? 俺にはこれ以上の勝負は出来ない!)
(逃げるのか未来さん!? 俺は賭けたぞ!?)
(貴女の信念に勝つ為に、俺は命を賭けた!!)

未来
(馬鹿な…そこまでして、何故そなたは小生を?)
(小生は、そこまでされる程の女ではない!!)


段々、未来さんの本音が見えて来たな。
俺は今にも途切れそうな意識をギリギリで繋ぎ止めている。
痛みで正直感覚がどうにかなってる…
だが、俺は気力が沸いてくる。
そりゃそうだよな…何たって、未来さんのこんな声が聞こえるんだ。
何がなんでも勝ってみせるぜ!?


キャプテン
「くっ、大丈夫マリルリ!?」

マリルリ
「は、はい…何とか、やれます!」

キャプテン
「…判定ならまだ勝てるけど、それじゃあ個人的には納得出来ないわよねぇ」
(弱点で2回も攻撃してるのに、小揺るぎもしない…屈辱的よこれは!!)

審判
「三本目、始め!!」


ついに、最後のセットが開始した。
相手もダメージは大きい、だがキャプテンは何がなんでも倒すって顔だ。
良いじゃねぇか…こちとらそっちの方が都合が良い。
これが俺の最後になるか、それとも生き残るのか、ワンオアエイトと行こうぜ!?


キャプテン
「全力で行けマリルリ!! 『馬鹿力』!!」


ここに来て、キャプテンは小細工無しに最高効果の技を宣言する。
格闘技はバンギラスにとって最も大きなダメージが見込めるタイプだ。
ましてや、特殊よりも物理の方がよりダメージは与えやすい。
さぁ、どうする未来さん? マトモに受けるなら俺は間違いなくショックで死ぬな。


未来
(死ぬ…? 聖殿が、死ぬ……)
(何をやっている小生は? 小生は、何故聖殿と戦っている!?)
(こんな…こんな戦い、小生は望んでないのに……)

マリルリ
「今度こそ…倒れろぉぉぉっ!!」


マリルリは全力で未来さんの顔面に向けて腕を振り回す。
凄まじい威力なのは解る…さぁ、伸るか反るか?
未来さんは目を瞑っていた…だが心の声は聞こえる。
…が、未来さんは何も考えていなかった。
俺は少し焦る…が、もうどうにもならない。
俺は信じるしかなかった…自分の勝利を。


バキャァァァァァッ!!


凄まじい打撃音。
まさに、骨が砕ける…そんな音に相応しかった。
だが俺はどうやら生きている様だ。
しかし、痛みは走る…これは、つまり……


マリルリ
「…あああああぁぁぁぁっ!?」

キャプテン
「そ、そんな……!?」

審判
「それまで!! 試合終了!!」
「これより判定に入ります! まずは心のジャッジ!!」

心のジャッジ
「判定、マリルリ!!」

審判
「続いて技のジャッジ!!」

技のジャッジ
「判定マリルリ!!」

審判
「最後に体のジャッジ!!」

体のジャッジ
「判定バンギラスの未来!!」

審判
「以上! 2対1により、勝者アリーナキャプテン!!」


それが、結果だった。
俺の右拳には、ズキズキと痛みが走っている。
最後の一撃、未来さんはマリルリの技に対してただ拳を振るって相殺した。
結果的にはマリルリの方が腕を壊されていたが、これが結果。
俺は雫に再度願い、リンクを切り離す。
そしてそのまま、俺は気が抜けて後に倒れた。
そんな俺に向かって、未来さんはトボトボと歩いて来る。
未来さんは満足気に倒れている俺に向かって、こう呟いた。


未来
「…この勝負、聖殿の勝ちだ」


「引き分けですよ…俺は勝った上でキャプテンを倒す気でしたから」


俺は軽く笑う。
リンクを切ったお陰でもう痛みは無い。
俺はとりあえず体を起こし、頭を掻いてため息を吐いた。
そして、背中を向けて俺はこう言う。



「ありがとうございました未来さん」
「俺、未来さんの事は忘れません…だから、これからもお体を大切に」
「さようなら…」


俺はそう言って会場を去った。
敗者がこれ以上語る事は無いからな…やれやれ、流石に精神的疲労がヤバい。
俺も今日はもう休もう…



………………………



その日、俺はとりあえずアリーナに設置されてる宿泊施設に泊まる事にした。
借音さんと麻亜守ちゃんも今回は一緒に泊まり、とりあえず家族の捜索は後回しにする。
あれから未来さんの事は見ていない…今頃ちゃんと治療してるのかな?
俺はそんな事を考えながら、とりあえずゆっくりと体を休めるのだった…










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第2話 『聖VS未来! 譲れない信念!!』


To be continued…

Yuki ( 2019/05/12(日) 16:55 )