とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない














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第7章 『バトルフロンティア』
第1話

「………」


俺は夏休みの中、外をひとりで歩いていた。
皆は仕事なり勉強なりでそれぞれ頑張っている。
守連は三海と一緒に勉強、阿須那、華澄、女胤は仕事だ。
愛呂恵さんなんかは…いつもの事とはいえ、家の事を全てこなしてくれてるし…



(…俺も、あまり沈んでいるわけにはいかない)


俺は心を新たに、ただ前を見る。
普段と変わらない、見慣れた景色…
だけど、今の俺には少しだけ違って見えた。

俺はもう、決して誰かを犠牲にしたりはしない。
そして、絶望にも負けない。
強くあると決めた…皆の為に。

だから、俺は決して動じない…この、目の前の『混沌』には。



「って、ざけんなぁ!! いつもながら唐突すぎるだろうがぁ!?」


既に俺は、謎のゲートに吸い込まれていた。
今回は別世界への移動系か!?

俺はここの所、混沌にもいくつか種類があるってのは理解していた。
基本的には2種類、現実の世界に張り付けるタイプか、別の世界に飛ばされるタイプ。
今回は、飛ばされるタイプだな!





第7章 『バトルフロンティア』





ワイワイ…ガヤガヤ…!!



「…あれ?」


俺は突然、テーマパークみたいな場所に飛ばされた。
ただ、そこは明らかに人間の世界じゃない。
目に見える全ての人は、何かしらの人間かポケモンみたいだった。
見た感じ、遊園地みたいな感じだが、どこかに違和感はある。



「…何だこの世界? 皆、何かに引き寄せられてる様な」


それは、まさにアトラクションと言うべきだろうか?
周りを見るといくつか施設がある様だが、それにポケモンたちは集まっている。
俺はどことなく既視感を覚えながらも、その内のひとつに足を運んだ。
すると、俺の目にまず映ったのは…


『ここはバトルファクトリー 君の知識と経験を見せてみろ!!』


俺が見たのは、そんな看板。
つーか、バトルファクトリーって…



「ここは、まさか…」


その時、突然の大歓声。
俺は何事かと振り向くと、そこには宙に浮かぶ巨大モニター。
もはや原理とか重力とか、そっちのけで俺はただ驚く。
200インチはあろうかと言うそのモニターには、ひとりの女性が映されていたのだ…

その女性は、長い緑のウェーブヘアーを靡かせ、額には水色の宝石を付けたヘッドバンド。
そして、右耳には黒いヘッドホン&マイク。
腰には緑のバンドを巻いており、黒のドレスを身に纏うその姿はまるでアイドル。

大歓声の中、モニターの女性はキッとした顔で笑い、突然謎の空間からギターやら何やらの楽器を多数出現させる。
どうやら、女性がいる場所はステージの様な場所の様で、女性はギターを構えた。

そして、どこかで聞いた事のある音楽が、いきなり流れ始める。
彼女の周りにある楽器たちは、使い手もいないのにひとりでに演奏をしていく。
俺は素直に驚くも、それが彼女の『能力』なのだと何となく思う。
楽器を操って、ひとりで全パート演奏とか…忙しい人だな〜

そこから奏でられるメロディは、ノリの良いハイテンポの曲。
彼女の口から放たれるその歌は、俺だけではなく、耳にする者全ての人に、何か力を分け与えてるかの様な印象を受けた。



………………………



シンガー
『ガンガン行くぜ、最後まで!! 完全! 燃焼!!』

会場一同
「イエス! アイム! オーケーーー!!」

シンガー
『ウーーー!! イェーーー!!』


気が付けば、多くの人がそうやって合いの手を入れる。
まるで、全ての人がシンクロしてるライブ会場の様だった。
その熱気は遠くから見てても尋常ではなく、まるで会場ごと震えてるかの様なイメージ。

それだけ彼女の歌には力があり、聴く者全てを巻き込むパワーがあったのだ…



「す、凄いな…あの人、有名人か何かなのか?」


とりあえず曲が終わり、モニターに映る女性は額の汗を拭って笑った。
そして、その場でジャンプして手を上げる。
それに合わせて花火みたいな何かが彼女のバックで上がり、女性は着地してからこう言った。


シンガー
『皆ありがとーーー!! バトルフロンティア、楽しんでいってねーーー!?』


再び大歓声。
拍手やら何やらで称えられ、彼女は手を振って笑っていた。
その顔は本当に嬉しそうかつ楽しそうで、見ている俺も嬉しくなってくる位だ。

そして、俺は改めて気付く。



(ここは、バトルフロンティア!)


それは、ポケモンたちが集ってその技術を競う場所だ。
俺たちはどうやら、こんなエンターテイメントな混沌に巻き込まれたらしい。

どことなく、ガオガエンさんたちの混沌を思い出した。
だとしたら…ここも同じ様に、悪意の無い混沌なのかもしれない。



(他に、どれだけの家族が巻き込まれているかは解らないが…)


とりあえず俺は、バトルファクトリーの施設に足を踏み入れてみる事にした。
こういうのは何事も、チャレンジ精神だ!



………………………




「ふむふむ…ここは、ポケモンをレンタルして勝ち抜いていく施設か」


概ね原作ゲームの設定と同じっぽい…
確かに知識と経験を試される場だな。
ポケモンの各種特性やら技を把握してなきゃ、とても連勝は無理だろう。

とはいえ、俺はここで悩んでしまう。
とりあえず入ってはみたものの、正直無理にやる必要は無い気もしたからだ。
当面家族を探す事を主軸に置くのなら、無駄な時間にもなりうる。
さて…どうするかな?



「…あら、どうしたの? 何だか迷ってるみたいだけど…」


「げっ!? あ、貴女は確かさっきモニターで歌ってたシンガー!?」


悩んでる俺の後ろから声をかけたのは、まさかの歌姫さんだった。
周りからは気付かれていないのか、それとも恐れ多いのか、誰も注目すらしていない。
俺の素頓狂な反応を見て、ただ笑うだけのシンガーは、クスクス言いながらどこか楽しそうだった。


シンガー
「ふふふ…そんな事はどうでも良し!」
「ここはバトルフロンティアの施設よ? やるからには全力を尽くすべし!」


「いや、やるとは決めてないんですけど…」

シンガー
「甘い! 今日は久し振りのお祭りなんだよ?」
「失敗を恐れるな! まずは特攻あるのみ!!」


無茶苦茶だこの人…って、祭りねぇ。
そもそも、この手の施設って金取るんじゃないの?
俺、流石にこの世界の通貨は持ってないぞ?



「とりあえず、金無いですし見学だけにしときます」

シンガー
「はい? 何で文無しでここにいるのよ〜?」
「入場料どうやって払ったの?」


ヤバ…いらん事言ったか?
このままじゃ不法侵入に扱われそうだな…さて、どうするかね?


シンガー
「…成る程、訳有りか」
「それなら仕方無い! 少年よ、これをあげるわ!」


そう言って、女性は何やらカードを俺に見せる。
そして、俺はそれを無言で受け取った。
そこには何やら7つの窪みが空いてあり、何かを嵌め込むかに見える。
ただのカードじゃないのは明白だ、明らかに良い物だぞこれ?


シンガー
「それは、このイベントのフリーパス!」
「一部の特別ゲストにしか配布されてないんだけど、それあげるから頑張りなさい!」


「え!? でもこれ、無いとお姉さんが困るんじゃ?」

シンガー
「気にしないで! 私は施設に参加する為に来た訳じゃないし…」
「使わないより、使ってくれる人にあげた方が、きっとそのパスも幸せよ♪」


彼女は、とても嬉しそうな笑顔だった。
俺はそれを見て、快く受け取る。
好意を受け取らないのも、失礼だからな…



「それなら、ありがたく受け取ります」
「ですけど、お姉さんは誰なんですか?」

シンガー
「おっと…さてはアンチだなオメー? って、冗談は置いておいて…」
「知らないなら教えてあげるわ、私は『メロエッタ』…気軽に『メロディ』って呼んでね?」


そう言って、彼女は走り去ってしまう。
その後、場は騒然となり始め、どうやら彼女は相当な有名人だと再確認させられた。
俺はとりあえずそのパスを持って、施設に挑戦してみる事にする。



(失敗を恐れるな…か、ならやってやろうじゃねぇか!!)



………………………




「…さて、この6人からひとりを選べ、ね」


俺は施設専用のパソコンで、候補の6人を見ていた。
開始まではまだ時間があるから、とりあえず熟考だな。
そもそも、誰が当たりとか初見じゃ解るわけ無いし…
しっかし、原作と違って一対一なのか…想像以上に難易度は高そうだな。



「…ん? これ、レートか?」


何やら、6人にはそれぞれ謎の数値が振られていた。
単純な能力値とも思えず、それは別の数字にも表されている。



「…この娘、やけに数字が大きいな」


俺が見たのは、ひとりのブースター。
別に推進装置の事ではない、ポケモンの事だ。
イーブイの進化系で、炎タイプ。
まぁ、その…ネットとかでは唯一王の愛称が有名なポケモンだな。

俺は、その娘のデータをとりあえず注視した。
そして、数字の意味を何となく理解する。



(…この数字は、ランキングみたいなものか)


大きな数字はつまり、ランキング。
つまり勝率がそれだけ低いって事だ。
そして、他にも大きな数値がある…それは、多分戦闘力。
ポケモン的に言うならCPって奴だろう。
それが、彼女は15032と表示されている。
他の5人は誰も10000にも満たない、それなのにランキングは誰もがこのブースターより上。

詰まる所、彼女は地雷って事だろう。
CPは高いのに、弱い。
そこはいわゆる、タイプや特性、覚えてる技にも寄るのだろうが…
CPが高い以上、強い事は強いはずなのだ…なのに結果が出ていない。
俺は、彼女には何かあると踏んだ。

強さの本質を引き出すのは、あくまでトレーナーだ。
俺はとりあえず彼女を指定した。
まずは、会ってみないと話にならない。
強いか弱いかは、この際二の次だ。
俺にはフリーパスと言う反則アイテムがあるからな。
失敗など恐れる必要は無い。

俺は、とりあえずデータを入力し、控え室に入って行った。



………………………



ブースター娘
「あ、あの初めまして! ご指名ありがとうございます!!」


「…風俗じゃないんだから、そんな固くならずともよろしい!」


現れた少女は、年齢15前後だろうか?
まだあどけない表情に、ブースターとしてのもふもふが印象的なロリ巨乳少女だった。
戦闘用ともいえる、ピッチリした赤のレオタードスーツに身を纏い、尻尾をパタパタとさせている。
うーむ、フツーに可愛いな…おおよそ、こんな娘が戦うのとかが想像出来ない位だ。

とはいえ、戦闘力が本物なら、この娘はやれるはずなのだが。



「とりあえず、基本的な技は使えるのか?」

ブースター
「はい! 詳しくはそこのデータベースで調べられます」


俺は言われて、テーブルに置いてあった小型のPCを手に取る。
まるでゲームのポケモン図鑑みたいなそれは、電源を入れると即座にブースターちゃんのデータを表示してくれた。



(Lv107!? これで何で勝てないんだよ?)


覚えてる技も申し分ない、基本的なブースターの技は全て習得済み、他にも優秀な技をいくつも覚えてる。
これで勝てないって…それはつまり。



(よっぽど、ヘタクソな相手にしか使われなかったか…)


単純に数字は強さの証明だ。
それが高ければ、使用率は高いはずだろう。
だが、それに勝率が伴わなければ使用率は落ちる。
彼女の顔からは、自信の欠片も見えない。
きっと、負け続けて自信を無くしていったんだろうな…
他にも、彼女の性格もあるのかもしれない。
戦う以上、優しさや臆病さはまず足を引っ張る。
愛情も友情も無いトレーナーと、いきなり息を合わせろってのは、相当難しいとも言えるんだろうな…


ブースター
「………」


俺は、垂れたままの彼女の耳を見て心を痛める。
そして、俺はそんな彼女の頭を優しく撫でてあげた。
彼女はビクゥッ!と、体を震わせて驚くも、俺の笑顔を見て大人しくなる。

そうか、この娘は臆病なんだな…
きっと強くても、その力を相手に向けるのが苦手なんだ。
だから例え数値上強くても、勝つ事には繋がらない。
この娘には、まずその自信を付けさせてあげなきゃな…



「とりあえず、リラックスしなよ…別に勝てなくても怒りゃしない」

ブースター
「は、はい! …えっ?」


「俺は、期待はしても勝利は求めない」
「俺は、君がちゃんと戦える様に応援するだけだ」
「そうだな…とある有名な名言を君に授けてやろう!」
「Stand & Fight! 立って、そして戦いなさい…」


俺の言葉を受け、ブースターちゃんは目を潤ませた。
そして、信じられないといった顔で俺の顔を見る。
俺はそんなブースターちゃんに、ただ微笑みを向けた。

その内、彼女は嬉しそうにはにかみ、顔を俯ける。
その後は、すぐに真剣な顔をした。
俺は安心する…この娘は、間違いなく強い。
今までは、きっとこの娘の力を誰も引き出せなかっただけだ。
数値上の高さだけに目を付け、彼女の性格や人柄には目も向けていなかった。

今回は、俺がそれを払拭してやろう。
今日は俺のデビュー戦でもあり、ブースターちゃんにとっても、スターロードを歩ませてやる!!



………………………



実況
『さぁ、いよいよ始まります! バトルファクトリー!!』
『今回のエントリーは、果たしてヘッドまで辿り着けるか!?』
『まずは挑戦者の入場だーーー!!』


大歓声に俺たちは迎えられる。
ブースターちゃんは少し暗い顔をするも、俺が背中を優しく押してやると、すぐに尻尾をピンと立ててやる気になった。
この娘に必要なのは、勇気だ。
それをこの戦いで証明してやる!


実況
『共に現れたのは、ここの所全く勝ちの無いブースター!』
『ぶっちゃけ、相手からしたら幸運極まりない!』
『さぁ、今回も相手に勝ち星を届けてくれるのかぁ〜!?』


散々な言われ様だな…
さて、なら唯一王の怖さを少しは味わってもらうかね?


実況
『まず、最初の相手はヘラクロスだぁ!!』
『CPは8709とブースターには大きく劣るが、レートは倍近い差を持っている!』
『観客的にも解りきった結果で、正直あくびが出るレベルだろう!』



「…タイプ不利相手に、どんだけ酷い扱いなんだよ」

ブースター
「あ、はは…私、本当に勝った事無いんで」


空笑いだった。
それだけ苦渋を舐めさせられたって事か…やれやれ。



(CP下の相性有利に負けたら、そりゃそうも思われるわな…)


俺はキッと相手を睨み、戦闘体勢に入る。
相手のトレーナーは、どこにでもいそうなオッサンだった。
ヘラクロスは白い空手胴着を来ており、男のポケモン。
頭の角は高く伸びており、力強さは感じる。
だが、俺は何も恐れてはいない。

ブースターちゃんの背中は、そんな程度に負ける様な弱い背中じゃないはずだ。
だから、俺は託した…このブースターちゃんに勝利を。
そして、ブースターちゃんはきっと答えてくれる。
後は、俺が適切にそれを導くだけ…



(舐めんなよ? 自称ライトユーザーだが、基本的な知識はあるつもりだぜ!?)

審判
「それでは、試合開始!!」

トレーナー
「よし、『瓦割りだ』!!」


「アホか、距離が遠いだろ『オーバーヒート』」


ヘラクロスは、そこそこの足で無警戒に正面から突っ込んで来る。
本来なら、ブースターは接近戦が得意と思われがちだからな。
大概、そのせいで正面衝突は速度差で覆されてしまう。
ブースターは防御力はイマイチな種族だ、相打ちOKじゃ勝ち目はそりゃ薄い。

しかも、このブースターちゃんは恐らく臆病な性格…正面衝突とか性格的にもありえねぇ…


ブースター
「う、わあぁぁぁぁっ!!」


ブースターちゃんは、全身から炎を巻き起こす。
その火力はかなり凄まじく、並の虫タイプが受け切れる火力じゃないのは目に見えた。
さて、どうするかね?


トレーナー
「やばい…!? ヘラクロス、炎を切り裂け!!」


「おっと、無理しやがるな…!」


だが、適切だ。
ブースターちゃんが全力で放った炎は自分を中心に爆発した為、ヘラクロスはまず回避不能。
だからこそ、目の前の炎を瓦割りで切り裂いて直撃を免れたのだ。

これで、ブースターちゃんの特攻はガクッと下がった。
端から見たらこれで一方不利なのだが、このブースターちゃんはそもそもCPの桁が違う。
こんなものは、牽制にしてハンデでしかない。



「ブースターちゃん、『火炎放射』だ!」

ブースター
「くっ、あぁっ!!」


ブースターちゃんは、口から火炎を放つ。
オバヒ後のせいもあり、阿須那とかに比べたら弱々しいにも程がある炎だが、それでも虫タイプのヘラクロスが受ければ大ダメージは避けられない。
開幕で弱点技を使わなかった所を見て、俺は相手に有効打が無いと踏んだのだ。

それなら、基本遠距離攻撃安定。
相手は常に接近戦を意識しなければならないのに、これではジリ貧だろう。


トレーナー
「ヘラクロス、前に出ながら『堪える』!!」


「おいおい、バカかアンタ?」


俺は呆れながら、火炎放射を耐えるヘラクロスを見た。
間違いなく致命傷だ…体から妙なオーラが出始めてる、ありゃ『虫の知らせ』か?
つまり、もうヘラクロスは余力が無い。
だが、こんな状況を覆す技も確かにヘラクロスにはある…それは。


トレーナー
「よし、行け『起死回生』!! これで終わりだ!!」


「『電光石火』…それ位読めよマヌケ野郎」


相手のトレーナーは心底アホな顔をしてた。
こっちが接近戦出来ないと思ってんのか?
こちとらCP15000以上の化け物だぞ? 8000台の相性不利ポケモンが太刀打ち出来るレベルじゃない。

ブースターちゃんは俺の指示を受け、その場から瞬間移動に近い速度でヘラクロスの目の前にジャンプして移動した。
そして、ヘラクロスが何かをする前にブースターちゃんは両手を合わせて真上からハンマーナックルをヘラクロスの後頭部に浴びせる。
その威力は電光石火の威力とは思えぬ威力であり、ヘラクロスの顔面は床にめり込んでしまった。

当然だが、立てるわけ無し!
完全勝利だな。


審判
「…あ、ブ、ブースターの勝利!! 1回戦勝ち抜き!!」


その後歓声。
相手は何が起こったのか解らずに、倒れたヘラクロスを見ていた。
俺はとりあえず頑張ってくれたブースターちゃんの頭をこれでもかと撫で、ブースターちゃんは息を荒らげながら勝利が信じられなかったみたいだった。


ブースター
「や、やりました!? 私、私…初めて勝てました!!」


「よしよし、よくやった! まだまだ頼むぜブースターちゃん?」

ブースター
「えっ!? まだまだって…それ」

審判
「挑戦者、次の戦いの為にポケモン交換はしますか!?」


「いらん! 俺はこの娘と最後まで戦う!!」


俺の宣言に、会場はざわめく。
相当異端なんだろうな…本来ならそれがルールのはずなんだから。
だが、俺は決めた。
相性も運も、全部この娘で覆す!
やれるかは解らないが、俺は信じている。
別に負けても良い、だってこれは祭りなんだから。

なら、全部楽しまないとな…♪



………………………



実況
『またしても勝ち抜きぃ!!』
『かつて、このブースターをここまで勝ち進ませたトレーナーはいない!!』
『魔更 聖、一体何者だぁ!?』


俺たちはそのまま3人目まで撃破した。
基本的に相手の情報は全く無く、互いに出たとこ勝負でバトルする事になるから、まさに知識と経験の戦いだ。
本来なら、その都度ポケモンを切り替えて戦うのがセオリーみたいだが、俺はあえて一本槍でやってやると決めた。
それに、その方が息は合わせやすいからな。

ゲームと違って、人としての信頼ってのは重要だ。
何たって、戦うのは人化したポケモンなんだからな…



「大丈夫かブースターちゃん?」

ブースター
「は、はいっ…! 回復施設に入れば体力はすぐに全快しますし、大丈夫です♪」


そう言って、彼女は尻尾をパタパタと振って嬉しそうに俺の方に寄って来た。
本当に可愛い娘だな…年齢は俺よりも上の20歳らしいが、見た目は本当に幼く見える。
まぁ、ある意味華澄さんとかと同じタイプか…
なので…俺はもう今更と思い、失礼とは思いつつもあえてタメ口のまま話す事にした。

ブースターちゃんも、特に気にはしていないので少し安心する。



(さて、とはいえ次は4戦目だ…7戦目がラストらしいが、果たしてどうなるやら?)


俺たちはそのまま控え室に戻り、作戦を練る事にする。
まぁ作戦つっても、ほとんど雑談だが…



………………………




「ふーん、つまりブースターちゃんはこの施設専属のポケモンって訳か」

ブースター
「は、はい…私の場合、勝率が最下位なので基本的に1番下のリーグでのバトルになるんです」
「ですので、今回の連勝で私のランキングは一気に上がりますね〜♪」


ブースターちゃんは、パアッとした笑顔でそう言った。
やれやれ…これで自信が付いてくれれば良いが、あまり調子に乗りすぎるのも問題だな。



「良いか、浮かれすぎるなよ?」
「今回はたまたま俺みたいなバカがトレーナーだから、たまたま勝てたみたいなもんだ」
「これから先、どんなトレーナーと一緒でも勝てるかは、自分次第なんだからな?」

ブースター
「あ…は、はい…そ、そうですよね…聖さんと一緒に戦えるのは、もしかしたらこれが最後…」


ブースターちゃんは、露骨に寂しそうな顔をする。
おいおい…この施設のポケモンならそれ位で気を落とすなよ。
俺は軽く息を吐き、頭を掻いてこう言う。



「そういう所は、直した方がいいぞ?」
「出会いも別れも、この施設で戦うなら常だろ?」
「だったら、もっと笑って自然にしてろ」
「そうしてりゃ、他のトレーナーも気負い無く指示してくれるさ」


ブースターちゃんは、それでも俯いていた。
実際にはそう上手くはいかないのかもしれない…だが、これはブースターちゃんへの試練だ。
ただ甘いだけの性格じゃ、バトルには勝てない。
こっから先は、それも踏まえて指示を出さないとな。



………………………



実況
『さぁ、次はいよいよ4戦目! 快進撃は続くのか!?』
『連勝中のブースターが次に戦うのは、このトレーナーとポケモンだ!!』


先にフィールドへ出た俺たちの前には、ひとりの女性。
スーツを着込んで、眼鏡をした大人の女性だ。
どっかの社長秘書みたいなイメージだな。
女性は特にコメントも放たず、その場で俺たちと対峙する。
そして、女性の後ろから颯爽とジャンプして現れるポケモンの影。
かなり身軽なポケモンの様で、見た目は女性型。
赤い髪に、特徴的な手足の毛並み、猿みたいなその風貌は格闘タイプを予想させる。
って、事は…


実況
『さぁ、ブースター対モウカザル!! 試合開始だーーー!!』


(やっぱりか! となると相手は接近戦が主体)


しかも炎同士だから、互いの遠距離技は効果が薄い。
スピードは勝てそうにないが、パワーなら分がある。
そうなると、小細工位はさせてもらうかね…


相手トレーナー
「『マッハパンチ』!」


「ちっ! 『砂かけ』!!」


モウカザルは素早く踏み込んで、一瞬の内にブースターちゃんの顔面を殴る。
所詮牽制技だが、体重軽めのブースターちゃんは首を仰け反らせて若干怯んでしまった。
だが、すぐに体勢を建て直し、右足を床に突き付けて砂を発生させる。
そのまま砂を蹴り上げて相手の顔面に砂を浴びせ、モウカザルは怯んだ。
砂が無いからって使えないとは限らない、これはあくまで地面タイプの技だからな!


相手トレーナー
「その程度で! 『火炎車』!!」


そのまま接近戦かっ。
とはいえ、すぐに指示を出すとは恐れ入ったぜ。
相手は相当好戦的だな…クールそうな見た目とは裏腹ってか。



「『穴を掘る』だ!」

モウカザル
「!!」


まずはモウカザルが先制する。
全身から炎を噴き上げ、高速回転してブースターちゃんを狙った。
さて、相手には悪いがこちとら『貰い火』の特性だ、攻撃は吸収…


ドゴォアッ!!


ブースター
「ぐうぅ…!!」


な、何でダメージ受けてんだ!?
相手が『型破り』なはずないだろ!? こんな事って…



(しまった!? ブースターの特性は貰い火しか無いと、俺は決め付けていたのか…!?)


オーノーこんな事ってあるのかよ…! つまり、あのブースターちゃんの特性は『根性』!
良くも悪くも使い難い特性じゃねぇか…しかも彼女の性格にも合ってない。
しかし、これはこれ、それはそれだ。



「大して効いちゃいねぇ! 行けぇ!!」


ブースターちゃんはすかさず穴を掘り、地中に潜る。
所詮は炎タイプの小技、ブースターちゃんに大きなダメージは与えられない。
大してモウカザルは弱点攻撃に怯えなきゃならない…さて、どう対応する!?


相手トレーナー
「ふ…こちらも『穴を掘る』!」

モウカザル
「!!」


何と相手も同じ技を使って来る。
これはしまった…こうなったら後出しが完全有利だ。
ブースターちゃんは、出て来た所を狙われてしまう。
だが、ここで慌てないのが名トレーナーよ。


ブースター
「くっ!?」


「ブースターちゃん、下から来るぞ、気を付けろぉ!?」

ブースター
「折角なので、私は真下に『馬鹿力』を放ちます!!」


おお、ブースターちゃんはやはり成長している。
久し振りのネタに完璧な切り返しを混ぜるとは…
そして、ブースターちゃんが構えた所でモウカザルは足元から飛び出て来る。
そう、必ず足元から来るんだ…それが、この技の弱点でもある。


ブースター
「ああぁっ!!」

モウカザル
「なっ!?」


ブースターちゃんは持ち前の馬鹿力で、足元から出て来たモウカザルの体を掴み止める。
ダメージが無い訳じゃない、でも止めた。
そして、目の前には無防備なモウカザル。
後はトドメの一撃を見舞うだけだ!


相手トレーナー
「くっ、能力の下がっているブースターの攻撃なら耐えられるわ!」
「モウカザル、耐えて反撃するのよ!!」


「なら、こんなレア技食らってみるか!?」


俺が笑って言うと、相手は目を丸くする。
俺もデータ見て驚いたからな…フツーならほぼお目にかかる事の無いレア技だからな。



「行けぇ! 『シンクロノイズ』!!」

ブースター
「うぅ…!!」


直後、謎のノイズがフィールドに響き渡る。
が、そのノイズは俺たちには何の影響も無い。
このノイズはその仕様上、同じ『タイプ』にしか効かない…エスパータイプの技だからな。


モウカザル
「………」


ドサッ!と、モウカザルは無言で倒れる。
効果の程は良く解らなかったが、格闘タイプには抜群の大技だ。
まぁ、炎タイプだったのを悔やむんだな…


実況
『あ…? ま、まさかのシンクロノイズで、モウカザルがダウン!!』
『よもや、ブースターにこんな技が隠されていたとは!?』


そりゃそうだろうな…例え覚えてても、わざわざ使う場面はかなり少ないし、そもそも使い方を理解してるトレーナーも稀だろう。
とはいえ、バカにしてはいけない…仮にも効くなら威力120の大技だからな。
炎タイプでも、エスパーに弱けりゃこいつは効果抜群だよ。

まっ、大技だけに隙が大きすぎるのが難点なんだがね…
あんな風に抑え込んだ状態じゃなきゃ、多分食らっちゃもらえなかったろう。


審判
「ブ、ブースターの勝利!! よって5戦目に進出決定!!」


大歓声を受け、俺たちはまた勝ち進む。
さて、後3戦か…最後には何が待ってるのかな?



………………………



実況
『決まったーーー!! 遂に6戦目も撃破!!』
『あの最弱と呼ばれたブースターが、遂にフロンティアブレーンに挑戦です!!』


(フロンティアブレーン! ボス登場って所か…)

ブースター
「私が…ブレーンに、ヘッドに挑戦!?」


ブースターちゃんは、心底信じられない様だった。
とはいえ、これは夢でも何でもない。
それに、勝てるかどうかも解らない。
後は、信じるだけだな…

俺たちは一旦控え室に戻り、ブースターちゃんは回復を受ける。
基本的にこれで体調は万全…とはいえ、メンタル面まで回復する訳じゃない。
ブースターちゃんが最後まで戦えれば良いが。



………………………



実況
『さぁ、いよいよ始まります! ノーマルランク7戦目!!』
『これに勝てば見事にランクアップ! だが、その壁は分厚いぞ!?』
『フロンティアブレーンのひとり、ファクトリーヘッドの入場だ!!』


凄まじい大歓声。
俺たちの前に現れた男は、いわゆる研究者系の服装に身を包んだ男。
深々と白い帽子を被り、表情は良く解らない。
だが、その気迫はここからでも伝わって来る。
間違いなく強いな…さて、素人の俺にどこまでやれるか。


ヘッド
「…とりあえず、まずはよくやったと誉めてやる」
「が、ここから先に行けるかはお前たちの知識と経験次第だ」
「俺に勝てれば、ノーマルシンボルをくれてやる!」
「さぁ、出て来い『氷華』(ひょうか)! 相手をしてやれ!!」


突如、冷たい空気が俺たちを襲う。
そして、気が付けば粉雪の舞う中、ひとりの美しい少女が現れた。
いや、それよりも氷華…? あの娘には名前があるのか!?
ヘッドから氷華と呼ばれた少女は、ゆっくりと空中から地上に降り立ち、抑揚の無い表情で俺たちを見た。

第一印象は、鳥…青い翼にビキニを身に着けただけの際どい衣装。
髪は肩にかかる位のセミロングで、美しき青。
全身から冷気を放っているのか、周りの気温はかなり下がっている。
ブースターちゃんは大丈夫そうだが、俺は少し寒く感じた。
ただでさえ夏服だからな…半袖じゃ流石にキツい!



(しかし、ありゃどう見てもフツーじゃないぞ!?)

ブースター
「あんなポケモン、初めて見る…」

ヘッド
「こいつは特別なゲストでな…訳あって、今ここで働いてもらってる」
「種族は『フリーザー』…伝説と言われるポケモンだが、臆する事はねぇ」
「遠慮無くかかって来い! シンボルが欲しいならな!!」


フリーザーかよ!?
とはいえ、別段驚く事は無い…こちとら既に準伝も禁伝も見て来てるからな!
それこそ、レベルが足りてなけりゃそこまで驚異じゃない!
これは、あくまで最底辺のノーマルランクだ。
だったら、勝てる見込みの無い相手を用意するわけが無い!



「よし、行くぞブースターちゃん!! 俺たちの力を見せてやるんだ!!」

ブースター
「は、はいっ! や、やります!!」
「聖さんと一緒なら、きっとやれる!!」
「ううん…例えひとりでも、やれる様になってみせる!!」


ブースターちゃんはそう叫び、自身の熱量を上げていく。
さながら焦熱地獄と氷結地獄の戦いだ。
だが、この時俺は予想もしていなかった。
相手は、想像を絶する斜め上のポケモンだと…


ヘッド
「行け氷華、『つつく』!」


「いきなり接近戦かよ!?」


まさかの行動に俺たちは出遅れる。
いや、そもそも相手が速い! もう射程距離に入ってる。
氷華は右手を貫手で構え、真っ直ぐに突いてくる。
ブースターちゃんは辛うじて反応し、首を捻ってかわすが、頬を切られそこから血が飛び散る。

ただの小技であの切れ味かよ!?
とはいえ、この距離はブースターちゃんの得意距離でもある。
まずは炎を食らってもらうぜ!?



「『噴煙』だ!!」

ヘッド
「『風起こし』!」


まずは、ブースターちゃんが至近距離で噴煙を放つ。
自分の周囲から吹き出した高熱の噴煙は、氷華の体を熱する。
だがあまり効いていないのか、氷華は軽く目を細めただけで、すぐに羽を羽ばたかせて風を起こした。
その風であっさりと噴煙は撒き散らされ、氷華は涼しげな顔でゆらりと地面に着地する。

くっそ…イヤな予感がプンプンしやがる。
な〜んか隠してやがる気がする…何でこんな小技で攻めて来るんだ?
誘ってやがるのか…? だが、こっちも択は少ない。
いかんせん、ブースターという種族は覚える技が貧乏なのだ。
こんな時に、気の利いた打開策がある訳じゃない。
良くも悪くも、実直に攻めるしかないか…!



「ブースターちゃん、恐れるな! 『火炎放射』だ!!」

ブースター
「あぁっ!!」


ブースターちゃんは口から火炎を放つ。
氷華はそれをマトモに食らい、やや顔を歪めた。
効いては…いるのか?


ヘッド
「…中々の威力だ、同ランクでここまで強ぇのはいねぇだろう」
「氷華、『鋼の翼』!!」

氷華
「…ふっ!!」


何と、氷華は炎に焼かれながら突っ込んで来る。
ブースターちゃんはそれに驚き、放射を止めて身構えた。
俺はそれに合わせて回避の指示を出す。



「今だ!!」

氷華
「!!」


ドガァッ!!と、凄まじい音で床が抉られた。
フツーの破壊力じゃない!? 冗談じゃないぞ…!?


ヘッド
「…スイッチが入ったか、こうなると簡単には止まらんぞ?」


一体、何の事か理解出来ない。
が、その答えはすぐに解った。
氷華は床に刺さった翼を支点にし、グルリと横回転してブースターちゃんの顔面を蹴り抜いたのだ。
俺はギョッ!?とするも、すぐに状況を理解する。

とにかく、氷華が得意としてるのは接近戦!
それも、体術を絡めた格闘戦術!?


ブースター
「うぅぅ…!!」

氷華
「っ!!」


怯んだブースターちゃんに、氷華の強烈な追撃の回し蹴りがブースターちゃんをガードごと吹き飛ばした。
ブースターちゃんは打たれ強く無い、このまま攻められるのはマズイ!!



「『炎の渦』!!」

ブースター
「はっ!!」


ブースターちゃんは首を後に仰け反らせて、その後口から炎の玉を吐く。
それは至近距離で氷華に着弾し、竜巻の様に氷華を包んだ。
その火力は中々凄まじく、氷華は顔を歪めて耐えている。
だが、服すら焼ける事は無く、氷華の全身から放たれる冷気は尚も衰える事は無かった。


ヘッド
「こうなったら、もう俺の指示は聞かねぇな…」
「やれやれ、とにかく頑張るこった…まぁ想定内だがな」


随分無責任な事言ってくれるな!?
少なくとも、あの氷華は闘志剥き出しの顔でブースターちゃんを睨み付けている。
すぐにでも渦から抜けて来そうな感じだ…どうする?
どうすれば良い!? 相性有利なのに、倒せるイメージがまるで湧かない。
これが、伝説のポケモンの力…?



(いや、んな事あるか!! あれでも同じポケモンだ!!)
「ブースターちゃん、全力で『フレアドライブ』だ!!」

ブースター
「はいっ!! うあぁ…っ!!」


ブースターちゃんは全身に炎を纏う。
そして、渦から抜け出した氷華を正面から迎え撃った。
氷華は拳を握り、それを高速で振るう。
ブースターちゃんはそれを顔面に貰うも、仰け反ったまま炎を更に噴き上げた。
そして氷華の腕を掴み、全身の熱量を一気に迸らせる。

ドオオオォォォォォンッ!!と、直後大爆音。
ふたりは同時に吹き飛び、互いにダウンした。
だが、氷華はまだ立ち上がる…右腕を完全に焼け焦がしながらも、それでも闘志を失ってない!

対するブースターちゃんは、息を荒らげ、反動に耐えている。
くそ…無理か!? そこまで力の差があるのか!?


ヘッド
「…!!」

ブースター
「………」


何と、ブースターちゃんは震えながらも立ち上がった。
間違いなくガタガタの体で、それでも立ち上がったのだ。
その瞳には、力が無い…それでも彼女は前傾姿勢で構えを取った。
きっと、彼女は俺の言葉を真に受けているんだ…
だから、例え勝てないとしても、立って…戦おうとしてる。


氷華
「…っ!!」


氷華は左腕だけを構えて突っ込んで来る。
さっきと同じ構図だが、ブースターちゃんのダメージは深刻だ。
打たれ弱い中で反動ダメージ、体力はほぼ残ってないはず。
それでも、ブースターちゃんはまだ諦めてなかった。


ガブゥッ!!


氷華
「!?」


「なっ!?」


ここで、ブースターちゃんはまさかの行動を取ったのだ…
向かって来る氷華の拳に、ブースターちゃんは噛み付いた。
そして、そこに牙を立てて炎を放つ。
そのまま、俺の指示を待つ事無く、ブースターちゃんは口から大量の熱を放ち始めた。
それはまさしく『オーバーヒート』!
ブースターちゃんは、最後の最後で完全に燃え尽きる覚悟でそれを放った。

氷華の体は腕から大爆発し、またしても互いに吹き飛ぶ。
ブースターちゃんは口から煙を吹き、間違いなくダウンするであろう反動だ。
氷華も同様に、もはや両腕を失った状態。
背中から床に落ち、美しい羽に傷が付いていた。


ヘッド
「…やりやがった」

審判
「あ…? ひ、引き分け…?」


「無理か…? 立てないか…!?」


両者共に、立てなかった。
しばしの沈黙、そんな中ヘッドはゆっくりと俺の前に歩き、そして俺の手に何かを置いた。
それは、ブロンズに輝く紋章の様な物…いや、これがまさか?


ヘッド
「そいつはくれてやる…この勝負はお前らの勝ちだ」
「正直、あの氷華を倒すとは思ってなかった」
「最も、パワーをセーブさせてあの結果なんだがな」
「だが、それでも大したもんだ…ノーマルランク所か、スーパーランクのポケモンでもそうそう勝てるもんじゃない」


そうか…そんなにあの氷華は強いのか。
そして、それに相打ちかましたブースターちゃんは、間違いなく強者って事だな…


ヘッド
「おい、早く担架だ!!」
「ふたりとも重症だぞ!? さっさと運べ!!」
「そして、勝者は魔更 聖!! シンボル獲得だーーー!!」


その言葉で、会場騒然。
大歓声が俺を称え、そしてブースターちゃんたちはすぐに担架で運ばれてしまった。
俺は思わず手を出そうとしてしまったが、俯いて止まる。
これで良い…もうあの娘は自分の力でやって行ける。
俺は、彼女の背中を押しただけだ。


ヘッド
「…本当に大したもんだな」
「少なくとも、氷華はセーブした状態でもCP15000はある化け物だ」
「本来なら、ノーマルランク用に10000位まで抑える予定だったんだが、そこまでのリミッターは容易出来なかった…」
「つまり…アレに勝ったって事は、想像以上にあのブースターは成長してやがったってこったな」
「結果的に、リミッターが一部外れてああなっちまったが、それでもねじ伏せるとは思わなかった…」


「…あの氷華って娘、ゲストって言ってましたけど、どういう娘なんですか?」

ヘッド
「…詳しくは本人から聞け、この戦いを望んだのは他ならぬアイツだ」
「後で控え室に向かわせる…しばらく待ってろ」


それだけ言って、ヘッドは去って行く。
望んだ…? 一体、何者なんだ、あの氷華って娘は?



………………………



俺は訳が解らない状態のまま、とりあえず言われた通りに控え室で待っていた。
すると、ひんやりとした空気を纏いながら、氷華が控え室に入って来る。


氷華
「……どうも」


「あ、あぁ…どうも」


何となく、俺は畏まってしまう。
彼女は戦闘時の荒々しさとは真逆に、丁寧に頭を下げて礼をした。
あまり口数は多くなさそうだな…だけど、目はやや吊り目で真剣その物。
ただ、どことなく達観したその瞳は、何故か悲しくも見えた。
傷は…完全には回復出来なかったのか、両腕には包帯が巻かれていた。

どうやら、ゲームみたいに何でもかんでも即回復とはいかない様だな。
一応、今後は注意する様にしよう…


氷華
「……貴方が、リィザさんの?」


「!? リィザさんを…知ってるのか!?」


氷華は無言で頷く。
そして、彼女は静かにこう語り始めた。


氷華
「…私は、とある方法で次元の壁を超え、ここに来ました」
「とはいえ、それはあくまで時間制限付き…もうすぐ元の世界に帰らなければなりません」
「ですから、教えてください…リィザさんは、どこにいますか?」


彼女の表情は真剣その物だった。
そして、同時にリィザさんへの想いも何となく理解する。
彼女は、リィザさんに会いたいんだな…

だが、そんな彼女の期待には俺は答える事が出来ない。



「…悪いが、それは俺にも解らない」
「だけど、信じている…彼女はどこかで生きていると」
「約束を覚えてる限り、きっと彼女は今でも、どこかで人助けをしているはずさ…」


虚空を見ながら言う俺の顔を見て、氷華は少し考えていた。
そして、無表情ながらも静かにこう言う。


氷華
「…そうですか」
「ありがとうございます…そのお話を聞けて、良かった」
「戦って貴方を試してみましたが、間違いなく貴方はリィザさんの信じる人ですね…」


そう言って彼女はゆっくり俺に背を向ける。
俺は、その背に向かって言葉を放った。



「待ってくれ! 氷華、お前はどうやってこの世界に来たんだ?」
「そして、何故リィザさんを『覚えて』いる!?」


それは、何となく気になった部分だった。
断片的な会話だったが、あの時俺は聞き覚えていた言葉を思い出したのだ。
それは、リィザさんやリアさんが潜った扉の先…

その先に行けば、全てから忘れられる…と。

まるで、あの理の様な仕様…
忘れられる…っていうからには、そういう事なんだと思うんだが。
氷華はリィザさんの事を覚えている…だとしたら、同類なんじゃないのか?

俺はそんな風に思ったが…彼女もまた、俺の期待に答えられる答えは出さなかった…


氷華
「…それは言えません」
「ただ、気を付けてください…今後、私と似た様な存在に会うかもしれない」
「そして…それは恐らく、ほとんどがリィザさんと何かしらの関わりを持つ者」
「敵か味方は、貴方次第…」


それだけを言って、氷華は光に包まれ粒子化して消える。
いつもの粒子ジャンプか…という事は、これがタイムリミット。
氷華は、時間切れとなったんだな…



………………………




「…行ったか」


「あ、聖…さん」


氷華が消えた後、俺のいる控え室にブースターちゃんが現れる。
ダメージはそこまで無いのか、その表情は明るく、パタパタと尻尾を振って小動物の様に近付いて来た。
俺はその姿を見て頬笑む。
そして、ブースターちゃんの頭を優しく撫でてやった。


ブースター
「えへへ…気持ち良いです♪」


「頑張ったな…あの氷華に勝ったのは、相当スゴかったらしいぞ?」

ブースター
「? 氷華って、誰ですか?」


俺は彼女の頭に手を置いたまま固まる。
そして、すぐに理解した。
やはり、氷華はリィザさんと同類…つまり、別の次元の存在なのだ。
目的を果たしたから、世界から消えた。
それも、俺以外の記憶から完全に…か。



「悪ぃ、忘れてくれ…とにかく、ありがとな♪」

ブースター
「え? 私なんて…そんな、大した事……」


「こらっ! そう言う謙遜は、相手を傷付けるぞ?」


俺の言葉に、ビクッと体を震わせるブースターちゃん。
だが、すぐに目を真剣にし、俺の言葉を真摯に受け止めた。
よし、もう大丈夫だな…


ブースター
「…聖さん、もう行ってしまうんですよね?」


「ああ、シンボルもとりあえずゲット出来たし、家族を探さなきゃならない」
「そういや、この世界では皆名前とかは無いのか?」

ブースター
「名前…ですか? ニックネームでしたら、たまに付けてる人はいますね」
「でも、それはまずトレーナー専属のポケモンですし、私たちみたいな施設専属のポケモンには、あまり無いですよ?」


そうか…なら、やっぱ氷華は本当に特別ゲストだったんだな。
去る時は歴史からすら消去されてそうだ。
立つ鳥跡を濁さずとは言うが、今後も同じ様なゲストは現れる…か。


ブースター
「あ、あの…聖さん?」


「ん…? どうかしたか?」


何やらブースターちゃんはモジモジしていた。
何か顔を赤くしてるが、可愛いな…って、そうじゃなく!!


ブースター
「そ、その…もし、良かったら…付けてもらって良いですか?」
「その…ニック、ネーム……」


それは、彼女の願いだった。
俺は少し悩むも、別にそれ位なら構わないか?とも思う。
どこぞの異世界と違って名前に縛りなんか無いし、とりあえず望まれたなら付けるのはやぶさかじゃない。
俺はとりあえず、天から降り注いだネーミングセンスでこう名付ける事にした。



「じゃあ『唯』(ゆい)ってのはどうだ?」

ブースター
「唯…ですか、何か意味はあるんですか?」


唯一王…とは、口が裂けても言えない。
とはいえ、俺的にある意味この娘は唯一のブースターだと思えた。
それなら、唯と言う名前は俺には意味がある。
まぁ、気に入るかは解らないが、な…



「強いて言うなら、唯一の唯」
「俺と出会った君は、俺にとって唯一の唯だよ…」

ブースター
「…あ、は、はいっ!!」
「唯…唯!!」
「ありがとうございます! 私、この名前でこれからも頑張ります!」
「聖さん、私にとっても、貴方は唯一です!!」


唯ちゃんは、そう言って俺に抱き付く。
かなり体温が上昇してるのか、やけに熱かった。
ちなみに、ブースターの体温は平均900℃らしい…
当然だが、そんな体温で抱かれると…



「ぎゃーーー!? 熱い!? 唯様熱いです!!」


「あわわわわっ!? み、水、水ーーー!?」


俺の服は容赦なく発火し、俺は火だるまになる。
炎ポケモン怖い!! 下手に抱き締めない様にしないと!!
改めて、阿須那はちゃんとコントロールしてるのだと理解した。
これがマグカルゴだったら、俺はマジでメルトダウンしていただろう…
とはいえ、唯ちゃんとまぐわる男は危険だなマジで…
そんなバカな事を考えながら、俺は唯ちゃんから水をぶっかけられて難の逃れるのだった…










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第1話 『唯一王の根性』


To be continued…

Yuki ( 2019/05/11(土) 22:29 )