とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない













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第5章 『POKE MOA EVIL』
最終編 第9話

「…ここが」


俺たちの目の前には、大きな石像があった。
既に日は沈みかけており、夕日がその石像を背中から輝かせる。
禍々しく黒いその石像は、まるで俺たちを取り込もうとしているのではないか?と、そんな不安すら沸き上がる程に、今の状況は緊迫していた。
やがて、俺たちの前には謎の影が現れる。
石像から、剥離する様に出現したその影は、漆黒のローブを纏い、頭にはフルフェイスの仮面を被っていた。
その時点で俺たちは察する…コイツが元凶なのだと。



「待っていたわよ…魔更 聖」
「…私が、魔王よ」


その声は、以前聞いたのと同じ様にエコーがかった声。
仮面越しに聞こえるせいか、やや低く聞こえるが、とりあえず女性だというのは解った。
だが、流石にこれじゃあ何のポケモンかは解らない。
フーパの知り合いってんだから、幻のポケモンとかそう言うのだと思うんだが…


魔王
「ここまで辿り着いた貴方に、ひとつ問うわ…」


「…?」

魔王
「貴方は、今までどの世界においても、ただ家族を救おうとした」
「そして、貴方はそれを全て完遂して来た…」
「でも、貴方の行動によって死んだポケモンもいる…」
「救う為には、何かを犠牲にしていると思わない…?」
「その事について、貴方はどう思う?」


俺は、一瞬心臓が止まったかと思う。
その言葉は、重く俺の心にのし掛かったのだ。
考えていなかったわけじゃない、ただ俺は自分を信じただけ。
それでも、俺のせいで死んだポケモンは、確かにいるんだ…


魔王
「…答えられない? まぁ、それも良いわ」
「でも所詮、貴方が掲げる救済なんて、貴方が目をかけたポケモン位にしか及ばない」
「そんな偽善を振りかざし、堂々と救済を語った所で、その影で死んでいったポケモンたちはどんな気持ちでいると思う?」


「…それが、どうかしたか?」


俺は解っている。
それが偽善だとしても、エゴだとしても、結果的に不幸を他人に撒いたとしても。
それでも、俺は俺らしくあると誓った。
俺は、救えるポケモンは全て救うと決めた。
フーパとの約束で、コイツを救うと約束した!!
俺は…もう2度と諦めない!
例えどれだけ蔑まれても、俺は俺の意志を貫く!!



「そんな問答は、とっくに終わってるぜ?」
「今までの俺を見ていたなら解ってるはずだ…」
「俺は絶対に折れない…何を言われようとも」
「例え偽善と言われようとも…」
「例えエゴの塊だと言われても…」
「俺は、俺の道を貫く! それが、『魔更 聖』だ!!」
「俺はお前を救うぞ? それがお前の大切なフーパとの約束だ…」

魔王
「…やっぱり、貴方もこの世界の人間たちと同じよ」
「どれだけ綺麗事を並べようが、それは自己満足や自己顕示欲の塊でしかない」


魔王は呆れた様な声だった。
だが、その瞬間に重圧が一気に増す。
俺たちはすぐに戦闘体勢に入り、魔王な注目した。


魔王
「やはり貴方は存在する必要が無いわ…だから、この世界の人間たちと同じ様に、絶望に打ちひしがれなさい…」


地震が起こる、だが俺たちは怯まない。
あくまで強い意志を持って、既に戦う事を決めている。


魔王
「そして、別れを告げさせてあげる…」


魔王の力が収束するのが解る。
やっぱり、コイツは強い!
だけど、俺たちには恐怖も絶望も、憎しみも無い!!


魔王
「貴方が信じる、欲望と欺瞞だらけの世界線から!!」


瞬間、世界は闇に覆われる。
魔王を中心に闇は広がり、世界は新たに構築されていく。
次第に俺たちが立っている場所は、レンガ造りの様な赤い石畳の床に立たされているのを理解した。
部屋の様な空間に俺たちは今いる。
そこは半径数100m位の空間で、屋根はそれなりに高い。
戸惑う俺たちの前には、何やら4つのオブジェクトが突如現れた。
それらはそれぞれ、右目、左目、唇、卵?を模した造形の物。
1番後方に出現した卵は本当に形容が難しい…強いて言うなら、何かの蛹の様にも見える。
表面は尖った岩石の様にも見え、直径は140p位だろうか?
とにかくいきなり異形揃いだ! 戦闘は避けられない…ここは適切に指示をしないと!



「ピーチ、解析は!?」

ピーチ
「ほ、ほぼ解析不能です! 解った事は、あの奥の卵の様な物は、彗星の構成物質に良く似ています!」


彗星…? つまり、宇宙の素材で出来てるって事か?
とはいえ、他の目と唇は解析不能と来た…つまりぶっつけでやるしかない!!
絶対に負けねぇぞ…! 俺たちは何があっても必ず勝つ!!



「夏翔麗愛ちゃんは香飛利と左目!」
「瞳さんは唖々帝さんと右目だ!!」
「喜久乃と李さんは唇担当!」
「ピーチは俺とあの卵をやる!!」


全員が一斉に頷く。
編成はなるべくバランスを考えて分けたつもりだ。
とにかく、まずはこの訳解らん悪趣味なオブジェをまずは破壊する!!



………………………



夏翔麗愛
「香飛利お姉ちゃんは空中から援護! 私は吶喊(とっかん)するのです!!」

香飛利
「うう、怖いけど、お姉ちゃんだから頑張る〜!!」


香飛利お姉ちゃんは素早く空を飛び、羽を動かして4枚のエアカッターを放つ。
それらは左目の瞼に直撃し、左目は目を細める。
かなり気持ち悪い造形で不気味なのです!
でも、今のは普通に効いてる…ダメージは有る様ですね。
私はそれを確認し、一気に浮遊して接近する。
そして拳を握り、とりあえず炎を纏わせて殴り抜けてみた。


左目
「!?」


左目は燃え上がるも、瞬きしてすぐに炎を消す。
そして瞳が蠢き、怪しく光る…その瞬間、私は目を合わせてしまい、何か体から力が抜ける様な感覚に陥った。


夏翔麗愛
「かはっ!? こ、これ…まるで『ギガドレイン』みたいな!?」

香飛利
「夏翔麗愛〜!!」


香飛利お姉ちゃんは熱風で援護する。
私はすぐに後ろへ退がり、効果範囲から逃れた。
高温の熱を伴った風は一気に左目を焼き、左目は苦しんでいるかの様に激しく瞬きする。
私はそのまますぐに全力でサイコキネシスを放った。
空間が歪み、左目の全体をねじ切る!
でも、左目は形すら崩れる事無く、未だに健在だった…


夏翔麗愛
「くっ…! しぶといのです!! 射程が解らないドレイン攻撃はかなり厄介なのですよ!!」


左目はすぐに空中の香飛利お姉ちゃんを睨む。
すると香飛利お姉ちゃんは力を失い、すぐに高度を落としてしまった。
私は弱めの念力で香飛利お姉ちゃんを助ける。
地上に激突する前に何とか空中で留め、私はすぐに左目にサイコキネシスを放つ。
左目はまたしても空間ごと捻られるが、それでもまだ倒れない。
やっぱり、体力を吸収している!?
このままじゃ、ジリ貧になるのです!


夏翔麗愛
「香飛利お姉ちゃん、『羽休め』で回復を!」

香飛利
「解った〜!」


香飛利お姉ちゃんはすぐに地上に降りたって羽休めを行う。
幸い、そこまでダメージは無かった様で、すぐに香飛利お姉ちゃんは回復する。
私は左目の攻撃を予測し、守るで防ぐ。
どうやら、このフィールドを突破出来る技じゃない様ですね!
私が守るで凌いでいる間に香飛利お姉ちゃんは回復し、そのまま大声で叫ぶ。
騒ぐの音波で左目はブルブル震え、目から大量の涙を噴出した。
かなり効いてる!? ここがチャンスですね!


夏翔麗愛
「とりあえず、こんな技はどうですか!?」


私は全身から強烈な光を放つ。
至近距離でその光を浴びた左目は目を瞑り、その場で蠢いて苦しんでいた。
やっぱり、『フラッシュ』は良く効きますね…!
香飛利お姉ちゃんはなおも叫び続け、左目を攻撃する。
私はサイコキネシスで追撃をかけ、左目を追い詰めていく。
次第に左目は枯れた様な風貌になっていき、最後に香飛利お姉ちゃんの騒ぐを三度食らって遂に地上に落ちた。
そのまま何やら黒い煙を吹き出し、徐々に霧散していく。
どうやら…やったみたいですね!



………………………




「くっ!? 速すぎる!!」

唖々帝
「直撃しない様に気を付けろ! あの攻撃、当たれば即死するぞ!?」


私たちは、右目を相手に苦戦していた。
右目は瞬間移動を繰り返し、目から圧縮した液体を放って私たちを攻撃して来るのです。
その威力はかなりの物で、私は開幕早々に背後から脇腹を貫かれました。
しかも、酸性なのか傷口が焼かれる様に熱い。
私は歯を食い縛り、何とかして右目を捉えられる様に『電光石火』で動き回る。
距離を詰める度に右目は転移し、私はその度に方向を変えて再度突っ込んだ。


唖々帝
「食らえ!!」


唖々帝さんは予測を立て、あえて何も無い方向に電磁砲を空中から放つ。
私は瞬時にその意図を察知し、すぐに電光石火で移動した。
私は右目が転移する方向を予測し、誘導する様に接近する。
すると、幾度となく転移で攻撃をかわし続けていた右目は、転移した瞬間に電磁砲を食らう。
私の誘導がちゃんと成功しました、私たちの連携が功を奏したのです!
右目は強烈な電気に痺れ、露骨に動きを鈍らせる。
私はすぐに距離を詰め、そっと右手を相手の瞳の側に添える。
そして手が触れたと同時、私は全力で右足を踏み込み、地面を踏み割って全身の力を右手に集約させた。
これはただの『岩砕き』ですが、清山拳の岩砕き。
強烈な震脚から生み出されるパワーは本来の岩砕きと違い、触れた相手の内部から一気に人体を破壊する技となるのです!


唖々帝
「よし、やったか!?」


「はい、手応えは十分です!!」

私は完璧な手応えを感じ、ガッツポーズを取る。
ですが、それがいけなかった…
右目は突然のダメージに耐えきれなかったのか大きく膨らみ、私の近くで大爆発を起こしたのだ。
私は全身で右目の体液を受け、そのまま全身を融かされる様な痛みで覆われた。



「ああああああああああああぁぁぁっ!?」


私はすぐに服を破り捨て、地面を転がる。
そのまま私は『泥遊び』で全身を汚し、無理矢理に体液を落とした。
な、何とか…倒せましたが、こんな手痛い反撃を食らうとは…!


唖々帝
「瞳ぃ!!」


「構わないでください!! 今はすぐに聖様のフォローを!!」


私は強い目で唖々帝さんを睨み付け、そう叫ぶ。
すると唖々帝さんは一瞬躊躇うも、すぐに聖様の方を見た。
そうです、今は私の傷など些細な事…!
死にさえしなければ、負けはしません!!
戦いは、まだ始まったばかりなのですから…!



………………………




「しっかし、気持ち悪い野郎だな…」

喜久乃
「同感です…なんで敢えて唇なんですかね?」


アタシたちは巨大唇相手に構えている。
その大きさは3m程あり、両目の方も2mはありそうだった。
とはいえ、頭の悪いアタシにそんな事を考える必要は無い。



「とにかく殴れるなら殴るだけだ!!」

喜久乃
「ああもう! 李さん、少しはフェイントとかしましょうよ!?」


アタシは喜久乃の言葉を無視して正面から踏み込む。
唇はパクパク蠢き、笑う様に歪んだ。
とりあえず、比較的殴りやすそうな下唇を狙ってアタシは右アッパーを構える。
唇は受けるつもりなのか、回避も防御も見せずに口をしっかり閉じてアタシの拳を待っている様だった。
アタシは構わずに全力でアッパーを打ち抜く。
氷を纏わせた拳は下唇の中心を打ち抜き、唇は30p程上に浮いた。
想像以上に重い!? 当てた時の重量がとてつもなかった。
アタシは一瞬の硬直に舌打ちし、唇はすぐに反撃を行う。
唇は大きく口を開き、規則正しく並んだ綺麗な白い歯を見せていた。
口の中は謎の空間が広がっている様で、その先には何も見えない。
ただ闇が渦巻く、そんな印象。
ただ、その口の中から、突如銀色の光線が複数放たれる。
それらは真っ直ぐに幾何学的な模様を描いてアタシの体を貫く。
アタシは途端に血を吐き、そして足が動かない事に気付いた。
銀色の光線はアタシの体を貫き、最終的に足に食い込んで動きを止めたのだ。
いやが上にもアタシは無防備となる。
そして、ようやく喜久乃がアタシの後から攻撃を仕掛けた。


喜久乃
「だから馬鹿正直過ぎですよ李さんは!!」


喜久乃はアタシの背後から飛び上がり、電気を纏わせた苦無を両手で計6本投げる。
それらは正確に3本づつ上唇と下唇に刺さり、唇は痺れながら怯んだ。
そのまま喜久乃はアタシの肩を踏んづけ、更に前に出る。
アタシはとりあえずまだ動けない、ここは任せるしかないんだが…



「喜久乃! 可能なら誘き寄せろ!!」

喜久乃
「!! 解りました、何か策があるんですね!?」


「足が動かねぇから殴れねぇ! だから引き寄せろ!!」


アタシの言葉に喜久乃はガクッ!とよろめく。
そして、何とも言えない怒りを露にし、アタシにこう叫んだ。


喜久乃
「馬鹿ですか李さんは!? そんな状態でどうする気なんですか!?」


「やかましい! 腕は動くから攻撃は出来るんだ!!」


喜久乃は少し苦い顔をしつつも、何かを思い付いた様だった。
そして、そんなやり取りの間に唇は復帰し、すぐにさっきと同じ光を放つ。
喜久乃は特に動じる事無く、少しだけ歩いて位置を調整し、銀色の光線を全て回避して見せた。
アタシはギョッとなり、言葉を失う。
銀色の光線は規則正しい直線を描くだけで、喜久乃の小さい体には掠りもしていないのだ…


喜久乃
「こんな攻撃、1度見たら回避は簡単ですよ…」
「発射角度も速度も同じ、まして軌道すら同じだと、完全に舐めた行動ですね」


成る程、つまりアタシが食らったのを見て試してみたって所か。
野郎…アタシが攻撃されてるのをワザと見て解析してたわけだ。



「こら喜久乃! 余裕見せてないで早く引き寄せろ!!」

喜久乃
「言われなくてもそうしますよ…はいこれ握ってください!」


そう言って喜久乃はアタシに何か鎖の付いて分銅を渡す。
アタシはそれを握り、喜久乃はそれを確認してヒュンヒュンヒュン!と何かを勢い良く振り回していた。
そして、それを勢い良く投げ、攻撃後で隙だらけの唇に縦に巻き付く。
2回、3回と巻き付いた鎖は唇を縛り、最後に先端の刃が上唇を突き刺さる。
そこから黒い煙が噴出し、アタシはすぐに理解した。



「良くやった喜久乃!! さっきのはこれでチャラにしてやるぜ!!」

喜久乃
「良いからさっさとトドメ刺してください…ここまでお膳立てしたんですから」


アタシは全力で鎖を引く。
すると、唇は一気にこちらへ引き寄せられる。
かなりの重さなので、1回ではまだ遠いが、アタシは2回、3回と徐々に近付けていく。
やがて唇はアタシの射程内に入り、アタシは左手1本で鎖を引き、右拳を思いっきり固めて冷気を集める。
そして、逃げようと足掻く唇の前でアタシはアイスハンマーを全力で振り下ろした。
コキャアッ!!と氷を割るかの様な音で唇は上から叩き潰される。
そのまま地面に叩き付け、アタシは左手を鎖から離して今度は両手を合わせて拳を握り、それでアイスハンマーをもう一発叩き込んだ。
冷気で凍らされ、脆くなった唇はその一撃でバラバラに砕ける。
アタシは勝利を確信し、ふぅ〜と息を吐いた。
足もこれで動く…よっし! なら、次の戦いだ!!


喜久乃
「呆れたパワーですね…そこの所は素直に感服しますよ」


「よ〜し、とりあえず一発殴らせろ! ドレインパンチで体力回復するから!」

喜久乃
「そんな非効率的な回復嫌です!! ちょっと待っててくださいよ!!」


喜久乃は露骨に嫌がり、すぐにアタシを怪しい瞳で睨み付ける。
すると、アタシの体は軽くなり、ダメージが減ったのを感じ取れた。
何だこれ? 一体何が…?


喜久乃
「くふ…! 李さん、どんだけ体力余ってるんですか!?」
「HPなら自信あったのに、李さんの方が相当レベル高いんですね…」


成る程、理解した…痛み分けか、そういや喜久乃は回復にもこれが使えるんだったな。
とはいえ、予想以上に体力差があったのか、喜久乃はかなり疲れている様だった。
まぁ、こちとら体が資本だからな! 喜久乃もまだまだ鍛え方が足りねぇってこった!!



………………………



ピーチ
「全く、動きませんね?」


「ああ、3グループともかなり苦戦はしてるみたいだが、こっちは静かすぎる…」


俺たちの背後ではそれぞれが両目と唇相手に奮闘している。
そんな中、俺たちの目の前にある卵は微動だにしなかった。
だが、その中では大きな力を感じる。
人間である俺ですら感じ取れる程の大きな力。
果たして、俺はこれに勝てるのか?


ピーチ
「…聖」


ピーチは不安そうな顔で俺の手を握った。
温かい…ピーチの手はまさしく人の温もりを持った手だ。
俺はその手に勇気を貰う。
そうだ、怯んでなんかいられない、躊躇ってなんかいられない!
俺たちは俺たちの戦いだ!!



「ピーチ、相手はどんな状態か解るか!?」

ピーチ
「かなり強大な力場を形成しています!」
「そして、それはどんどん蓄積…! このままだと、この力はどんどん大きくなりそうです!」


ピーチの解析で俺はコイツの恐ろしさを想像する。
このままだと、強くなるわけかそれなら今叩かなきゃダメなわけだ!!



「ピーチ、最大出力で攻撃だ! 遠慮はするな!!」

ピーチ
「…現在、ハイパースペースキャノンは撃てませんが、破壊光線なら撃てます!!」


ピーチほそう言って両手を前に構えて破壊光線をチャージする。
数秒後に光線は一気に放射され、卵に命中した。
しかし、俺たちは絶望を味わう。
全力で撃たせたピーチの破壊光線は卵を傷付ける事すら出来ず、その力を簡単に防がれたのだ。
そして、その攻撃に呼応するかの様に、卵は全身を光らせて反撃を行う。
一瞬の煌めきと共に俺たちは吹っ飛ばされる。
大したダメージじゃないが、これじゃあマトモに近付けない!
かといって、間接攻撃じゃさっきの始末…こんなの、どうすりゃ良いんだ!?


ピーチ
「敵、更に力増大! 今の光で微少な傷も修復されました!!」


何てこった…それじゃ、攻撃自体が逆効果になってる!
どうする? どうすりゃ良い!?
何か弱点は無いのか!? タイプ相性か!? それとも特性!?
そもそもポケモンの範疇でも無いのか!?
俺は半ばパニックになる。
それ位、目の前の状況は絶望的だった。
ただでさえ強大な力が、どんどん蓄えられているってのに、それを見てる事しか出来ないってのか?


ピーチ
「!? 左目消滅! 続けて右目は爆発!? 唇ももう消えます!!」


気が付けば、皆は勝利していた様だ。
だが、見た感じダメージはある…夏翔麗愛ちゃんも香飛利も疲れが見て取れる…
唖々帝さんは比較的無事だが、瞳さんは下着姿!? でも全身ボロボロで火傷が酷い!!
李さんも傷だらけだ…喜久乃は無傷だけどかなり疲労してる。
どうやら、勝つには勝ったが、あまり状況はよろしくないらしいな…


ピーチ
「!? パワー増大!! 一気に溢れ出てる!?」
「そんな…卵が、開く!?」


俺たちは、卵が光るのを見ていた。
そして、その開ききった卵の殻は、まるで花弁の様に美しく輝いて見える。
その花弁の上には、裸の少女が三角座りで眠っている。
頭には金色星形の三角頭巾を被り、両端には短冊みたいな札がぶら下がっている。
俺は、この時点で彼女の存在を理解した。
あの魔王の正体は、彼女の本当の名は……



「遂にPAL編だけで、容量1MB超えたぜコノヤローー!!」

ピーチ
「状況考えてネタねじ込みましょうよ!?」
「わざわざ最終決戦で、それいります!?」
「そんな事報告する前に、早くあの娘の名前を読者に伝えてくださいよ!!」


「へ、ヘルメット助教授!?」

ピーチ
「まぁ、有りちゃっあ有りですけど…」
「もう1度だけチャンスをあげますからちゃんと答えてみなさい!!」


「ポ、ポケモンフラッシュでテレビアニメから永久追放された種族!?」

ピーチ
「バカですか!? そりゃ私の種族の事じゃあ無いですかぁ!!」


ピーチはここに来て最大のノリでツッコンでくれた…うむ、我ながら絶好調だな!
あえて最終決戦でネタをやる事に意味があるのだ!
前作のラストではとてもねじ込む勇気が無かったからな…
そういう意味でもピーチは良い素質をしている、これが最後なのが悔やまれる位には…



「だが、ネタはここまでだ! まさか、『ジラーチ』が魔王の正体だったとはな!!」


ジラーチはその場から動く事はせず、体から光を放つ。
凄まじい震動波が辺り一体を包み、俺に近付いて来ていた家族ごと遥か後方まで全員を吹っ飛ばしたのだ。



「ぐはぁっ!?」


俺は背中を壁に激突させられ、痛みに耐える。
ただの人間である俺の体は所詮脆い。
全身の骨がやられたのでは?と思うが、何とか体は動くらしい。
心配そうに仲間が俺に駆け寄るが、俺は心配をさせまいと叫ぶ。



「俺の事は良い!! 奴を、ジラーチを救うんだ!!」


全員ダメージがある中で、それでもなお体を突き動かしていた。
全員に俺の意志は伝わっている、この戦いは決して憎しみを抱いてはならない。
そして、フーパの為に俺はジラーチを救ってやる!!
俺は夢見の雫を体から出す、それを右手に浮かべ、いつでも発動出来る様に決意を固める。
本来なら一々外に出さなくても発動は出来るのだが、今回は濁りの具合を常に考えなければならない。
その為には視覚的に濁りを認識出来ていた方が調整がしやすいのだ。
いくら全てを救えるチートアイテムでも、調整をミスったら即ゲームオーバーのアイテムでもある。
濁りからいって、半分以上は進行してる…恐らくそれもジラーチがワザとそうさせたと思われる。
完全に掌の上だが、俺たちは訳も解らずに踊るだけの猿じゃない!
その気になれば、掌と解らなくても足元を割る位の気概はある。
さぁ、見せてやろうぜ!



「俺たちの、家族の絆をーーー!!」



………………………




「くっ…この程度の傷で怯んでいられません!!」


瞳さんはかなりのダメージがあるはずなのに、それでも先頭を走る。
速度的に香飛利位しか追い付けないのもあるが、瞳さんはそれでも歯を食い縛ってジラーチに接近した。
相変わらずジラーチは動かない。
不思議な輝きを放ちながら、近付く瞳さんに向けて銀色の光線が放たれる。
その瞬間、瞳さんはその場から消え、一瞬でジラーチの背後へと回っていた。
銀色の光線は瞳さんのいた場所を幾何学的な軌道を描き、最後に地面に着弾する。
瞳さんはそのまま背後からジラーチへ攻撃を開始する。



「清山拳奥義…!」


瞳さんは全身からオーラを放ち、奥義の構えを取る。
そしてジラーチに向けて右拳をゆっくりと突き出す。
決してスピードは無いが、その威力は凄まじい。
瞳さんの拳から放たれる波動は空間を歪ませ、空間ごと抉り取るかの様に直進して行く。
ジラーチの背中部分にそれは直撃し、何かが弾ける音がした。
瞳さんは反動で後に吹き飛び、倒れる。
直撃はしたはずなのに、ジラーチには効いてないのか!?


唖々帝
「クソッタレ!! コイツも持って行けーーー!!」


今度は唖々帝さんが『ライトニング ショック レールガン』を空中から撃ち込む。
反動で唖々帝さんまで後に吹っ飛ぶも、正確にジラーチを射撃した。
が…ジラーチの体を打ち抜く事は出来ず、レールガンはその場で拡散してしまう。
そしてジラーチはその場からブレる事すら無い。
何なんだこれ? どうすりゃ良いんだよ!?
ふたりの全力技を持ってしても傷ひとつ付かないのか!?
流石の唖々帝さんも倒れながら唖然としている、ここまでの戦力差があるとは思ってなかった…
だが、何か弱点はあるはずだ…! クリア出来ないゲームなんて、ただのクソゲーで失敗作らしいからな!!



(とはいえ、一体どうなっているのか…?)


ジラーチ
「………」


ジラーチは微動だにず、ただ光輝く。
その光を浴び、空を飛んでいた夏翔麗愛ちゃんと香飛利は突然苦しんだ。


夏翔麗愛
「この技…左目と同じドレイン技!?」

香飛利
「うわ〜ん!!」


ふたりは地上に落ち、苦しんだ。
まるで発動が解らない攻撃だ! ヤバいヤバいヤバい!?
どんどん家族が追い詰められていく…早く対処法を見付けないと!


ピーチ
「効いている…無傷じゃない?」


「何だと…?」


ピーチは唖然としながらも、解析していた様だ。
そしてピーチは脳を全力で稼働させ、答えを導く。


ピーチ
「皆さん、攻撃は効いています!! ダメージはあるんです!!」
「見た目効いていない様に見えてても、体力を奪うって事は、ダメージがある証拠です!!」


体力を奪う? 成る程、確かにそれは納得だな。
減っていない体力を回復する必要は無い。
ジラーチの攻撃には広範囲への全体攻撃まで備えているのに、わざわざ範囲の狭い吸収技を使うのは明らかにおかしい。
アレはCPUが操るプログラムじゃない、ジラーチが考えて行動するれっきとした人間操作だ。
それなら、逆に付け入る隙もあるな!!


喜久乃
「だったら、やれるだけやりますよ!!」


「おおっ! 全力で行くぜぇ!!」


喜久乃は思いっきり両手で床を叩き、ジラーチに向けて地震を放った。
ジラーチを中心に強烈な縦揺れが起こり、地震の重圧をジラーチは受ける。
全く動じないものの、ダメージはあるならいつかは何か起こるはずだ!!



「次はコイツだ!! 『フリージング! クラッシャー ナックル』!!」


遂に李さんは技名を公開! 今まで何気に非公開だったからな…
李さんは床を両手で叩き、ジラーチに向け氷の柱を立てる。
そして一気に床を凍らせ、李さんはその上を滑って高速接近。
そのまま動かないジラーチに向け、全力で拳を振り抜いた。

バッキィィィィィンッ!!と氷が割れる音。
パラパラと氷の柱は砕け散り、李さんの拳はジラーチの頭を打ち抜いていた。
しかし、それでもまだ怯まない…どこまで耐えれるんだ!?


ピーチ
「李さん、退がってーーー!!」


追撃にピーチが破壊光線を放つ。
李さんは自分から離れる前にジラーチの震動波で吹っ飛ばされた。
その震動波は全体に及ぶも、ピーチは先に発射する。
震動波で吹き飛ばされつつも、破壊光線はジラーチに着弾し、体を焼いた。
その後、ピーチは壁まで吹っ飛ばされ、そのまま反動で動けなくなる。



「ど、どうなった!?」


さっきの震動波は俺まで及び、俺は再び壁に叩き付けられる。
今度は距離があっただけに、それ程ダメージは無いが…
それよりもジラーチはまだ健在だ! 見た目にダメージが見えないのは本当に辛いな…


キングゴルーグ
「ゴーーー!!」

夏翔麗愛
『こうなったら徹底的にやってやるのです!!』


夏翔麗愛ちゃんはここでまさかの最終兵器、キングゴルーグを召喚する。
いつの間にか乗り込んでいたみたいで、夏翔麗愛ちゃんはスピーカーから叫びをあげ、必殺技の体勢に入った。


夏翔麗愛
『シャドーブレイク! マキシマムパンチ!!』


キングゴルーグは右腕を高く振り上げ、拳にゴーストのエネルギーが集結する。
黒い渦の様な気を纏った拳はキングゴルーグの腕から射出され、真っ直ぐにジラーチへと向かって行った。
そして当たる直前で拳は闇に消える。
そのままジラーチの体を黒い渦が貫き、拳はキングゴルーグの元に闇から戻って再接続する。
だが、キングゴルーグの力はそこまでだったのか、夏翔麗愛ちゃんを外に出して、キングゴルーグは光の粒子となってしまった。
あれはあくまでZ技の一環か…!


夏翔麗愛
「今のは確実に効いたはずですよ!?」


「つーか、あれで無理だったらむしろ手詰まりだろ!?」


フツーならまず対人で使うはずの無い大技だ。
現にジラーチは全身を震わし、遂に動きを見せていた。
花弁の様な台座にはヒビが入り、ジラーチの頭巾は粉々に砕け散る。
そして台座も砕けると、ジラーチは遂に自らの体を動かし始めた。
裸の体には、徐々に水着の様な黒いスーツが張り巡らされ、それには謎の紋様が金色に光っている。
ジラーチは思いっきり後に仰け反り、全身を震わせた。
その後、ジラーチの震えはピタリと止まり、ゆっくりと仰け反った体勢を整え、俺たちを見る。
その開かれた目は、キッと見開かれ、俺たちに怒りの感情を向けていた。
どうやら、こっからが本番の様だな!!



「ジラーチ…これで終わりにしてやる!」

ジラーチ
「黙りなさい、俗物がっ!」
「何でここまで足掻けるのよ? 所詮貴方は偽善者でしょう!?」


それは、まさに怨嗟の声だった。
ここまで無言で戦い続けたジラーチは、急に感情的になって俺に憎しみをぶつけて来たのだ。
俺は逆に冷静になる…何で、ジラーチはそこまで俺を憎むんだ?
そもそも、ずっと疑問だった…何で家族を巻き込んでまでこんな戦いを挑んだ?
どうして、フーパのコピーを作って俺に差し向けた?
どうして…俺ひとりを、狙わなかった?



「…お前は、何でこんな混沌を作ったんだ?」

ジラーチ
「貴方を試す為よ!! 貴方がただの偽善で、口だけのヒーローだと確認する為の!!」


何、だと…?
そんな、そんな下らない事の為に、俺の家族は巻き込まれたってのか?
俺は頭がどうにかなりそうになるが、それでもやはり怒りは沸いてこなかった。
むしろ、呆れている…コイツは、何なんだ?


ジラーチ
「でも、貴方は全部クリアしてみせた! ただの1度も失敗せずに家族を助けてみせた!!」
「どうしてなのよ!? 何で口だけのヒーローじゃないの!?」


「…俺には、お前が理解出来ねぇよ」


俺の声は震えていた…逆に泣きそうだった。
こんな、こんな訳解らない理由で、俺の家族は寂しい思いをしたのか?
訳解らない世界にひとりで放り出されて、俺の事を信じて待ってて…
ピーチに至っては、ただ巻き込まれただけじゃないのか?


ジラーチ
「あえてフーパの模造品を案内役にし、近未来の世界では対立させた!」
「それでも、貴方は何ひとつブレない…ものともせずにフーパを撃破した…」
「最後には、家族と関係の無いポケモンにまで取り憑かせたのに…」
「それでも! 貴方は!! 救ってしまった!!」


ジラーチは泣いていた、涙をボロボロ流して俺を糾弾している。
俺は首を横に振って精神を落ち着け様としていた。
俺は…一体何なんだよ? 違うだろ…根本的に。


ジラーチ
「どうして? どうして、貴方はそんなにもヒーローなのに!!」
「どうして!! 私とフーパは、助けてくれなかったのよぉぉ!?」


遂に、ジラーチの本音を聞いた。
そして、俺はやっと理解する…ジラーチは、助けてほしかったんだと。
俺は所詮、ひとりの人間だ…特殊な力を持っているとはいえ、所詮出来る事は、目の届く範囲で救える者を救う事。
俺は、フーパもジラーチも知らなかった…その結果、ジラーチは俺に逆恨みをしているんだ。
何て…何て、ガキなんだよ?
そんな、そんな子供染みた理由で、俺たちは巻き込まれたのか?
生き死にの駆け引きすら要求される世界に放り込まれたのか?
関係の無い、大多数の世界のポケモンまで巻き込んで…


ジラーチ
「貴方の事は知っていた…前に偶然見かけたもの」
「そして、その世界ですら、貴方は見ず知らずのポケモンたちを救ってみせた」
「なのに…私たちは、救われなかった!!」
「どうしてよぉ!? ヒーローなら、どうして救ってくれなかったのよぉ!?」


俺は、頭が真っ白になった。
そして、当初の約束を改めて思い出す。
そうだ、これが俺だ。
グダグダと下らないご高説を聞かされて、一瞬忘れかけてたが、これが俺。



「…悪いなジラーチ、確かに俺はヒーローかもしれねぇ」

ジラーチ
「…? 何、を…?」


俺は夢見の雫を差し出し、ジラーチに見せる。
そうだ、ようやくハッキリした…ジラーチはちゃんと救ってほしかったんだ。
こんな、馬鹿げた混沌を起こしたのは仕方がない。
だけど、俺は俺だ! 魔更 聖だ!!
俺は、目の前で救いを求めている者を、決して見捨てたりなんてしない!!



「任せろジラーチ、救ってやるよ…ちゃんとな」

ジラーチ
「な、何…を!?」


俺は笑って雫の力を行使する。
その瞬間、俺は右腕にはめていた金色のリングを転移させた。
本来なら時空移動にはかなりの濁りを進行させるんだが、今回はただリングを過去に送っただけだ。
ジラーチはポカンとしており、状況が掴めていない。
だが、俺の予想が正しければ、これで事件は解決だ。
今回の雫には、ギリギリまで濁らせても、何とか耐えれる程度で複雑な条件をリングに指定してある。
所詮意志も何も無いアイテムに過ぎないリングなら、時空転移させても、それ程濁りは進行しない。
それを逆手に取り、俺はあえて複雑な条件を願いに組み込んだ。
結果的に、夢見の雫はこれで使用不能だがな…帰り道までは計算してないし。
とはいえ、それはそれ…救いを求める声が聞けたなら、俺は後先なんて考えない。
何せ、ヒーローらしいからな、俺は?


夏翔麗愛
「ボス、やったの?」


「ああ、多分終わりだ…これでやっとな」

喜久乃
「でも、それだけ濁らせたらもう帰るのには…?」


「まぁ、仕方ないさ…後は保険に任せる!」

ピーチ
「保険…ですか?」


俺は笑った…とりあえず作戦は成功だと確信したからだ。
突如、この空間に穴が開き、そこから金色の光が差し込んで来る。
ジラーチはそれを見て震え、ガタガタと顔を押さえて声になら無い呻き声をあげていた。
そう、その穴からゆっくりと現れたのは、褐色肌で、ポニテの小さな少女。
その娘は俺を一瞥してニヤリと笑う。
俺も同じ様に笑い返してやった。
そして、ジラーチは…


ジラーチ
「フーパーーー!?」

フーパ
「おいおい、何だいその格好? 随分エロティックな服だね〜?」


ジラーチはフーパに抱き着いて泣き叫ぶ。
フーパはやれやれ…といった大人の対応でジラーチを宥めていた。
俺は息を吐き、とりあえず雫を仕舞ってその場に座り込む。
すると、家族全員が俺を囲んで来た。



「…皆、お疲れ」

香飛利
「うう…これで帰れるの?」


「聖様、お疲れ様でした」


「やっと終わりか…まぁ、それなりに楽しかったかな?」

唖々帝
「やれやれ…気楽な物だな」


フーパはジラーチを抱き締めたままこちらに近付いて来る。
俺はクスリと笑い、フーパはそれを見てため息を吐いた。


フーパ
「随分手の込んだ事したね…?」


「まぁ、結果的に帰り賃まで投げ捨てちまったがな」

ジラーチ
「一体…どういうカラクリなの?」


何だ、本当に理解出来てないのか?
つーか、割と簡単な理屈だと思ったんだがな…



「リングを持ち主に返しただけさ、ちょっと細工してな」

フーパ
「驚いたよ、まさかあの状況でリングが放り込まれるなんて…」
「お陰で、こうやって歴史改変まで起こして私を甦らせるんだから、中々の博打だよ♪」


フーパは楽しそうに微笑んでいた。
つーか、『この』フーパはちゃんと何が起こったか理解してるんだな…
その辺までは俺も予想してなかったが…

ちなみに、ジラーチはまだよく解っていない様だ。
仕方ないので、俺はテキトーに解説する事にする。
まぁ、難しい事はほとんど無いんだけどな。



「俺は、ふたりが殺される直前辺りに、このリングを転送したのさ」
「そんで、フーパがそれに触れる事で、俺が設定した本命の願いが発動する様にしてたんだ」
「願いの内容は、フーパの力を元に戻せ、だ…」

フーパ
「そっ、あの時のアタシは転移に失敗してリングを失ってしまってた」
「だからアタシは聖の願いで力を取り戻し、あの場から逃げられたって訳…」

ジラーチ
「ま、待ってよ!? じゃあ過去のフーパがここに来たの!? そんな事したら、過去の私はどうなるのよ!?」
「過去のフーパがここにいたら、タイムパラドックスが…」


「だから、それはお前が自分で解決したんだよ」


ジラーチは驚き、ポカンとしている。
まぁ、そりゃそうか…俺もぶっちゃけ賭けだったからな。
ジラーチは願い事ポケモン…その気になれば、世界の破壊も創造も不可能じゃない。
これはまだ言ってないが、あのリングにはメッセージを込めてあった。
ジラーチに、たったひとつ…願いを叶える事を。


フーパ
「過去のジラーチは未来の聖の願いを叶え、アタシを復活させたのさ」

ジラーチ
「なっ…!?」


「簡単だろ? ジラーチにはその力があるんだから」
「むしろ、何でその力でフーパを助けなかったのか…」
「俺には理解に苦しむよ…憎悪と怒りで我を忘れて1番大事な事を忘れるなんて」


ジラーチはガクリと膝を着いて呆然としていた。
本当に思い付きもしなかったんだろうな…
ジラーチの願いは、1000年に1度使えると言われる。
つまり、その願いを復讐に使った時点で、選択肢はもう無かったのだろう。
何て、無駄な事をしたのか…全く、精神的には見た目通りの子供の様だな。


ジラーチ
「…私は、ただ無駄な事をしていたの?」

フーパ
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄…」


「ウダウダウダウダウダウダ」

夏翔麗愛
「貴様は血を吸って殺すと予告しよう! なのです!!」


俺たちのネタラッシュにジラーチは少しイラッとした様だ。
とりあえず、俺はため息を吐き、ジラーチに優しくこう告げた。



「まぁ、これも教訓としておけ…憎しみなんて、何の意味も無いってな」

フーパ
「全くだよ…アタシが死んだ位で暴走するなんて」

ジラーチ
「それを貴女が言う!? 私が攻撃されただけで暴走した貴女が!?」


フーパはギクッ!となり、言葉に詰まる。
おやおや、フーパも大概似た者同士か。
俺は、改めてこのふたりが大事な親友同士なのだと理解した。
このふたりは、やはり一緒にいなきゃならない。
約束は…これで果たせたかな?


フーパ
「…結局、君は本当に全部救ってしまったんだね」


「…お前のコピーと約束したからな、全部救うって」


フーパは笑う…その顔は子供の様に無邪気そうだった。
ジラーチも、そんなフーパの笑い声に釣られて微笑んでいた。
やっと…終わったんだな、これで。


フーパ
「さて、そろそろ行こうか…ジャリボーイ、感謝するよ?」


「良いさ、代わりに俺たちを元の世界に戻してくれるなら…」

フーパ
「お安いご用だよ♪ でも、その娘はどうするんだい?」


フーパはウインクして快諾してくれるが、ひとりの少女を見る。
それは、ひとり俺の家族でない者だった…


ピーチ
「…あ」


「良かったな、ピーチ…これで、佐藤さんの所に帰れるぞ?」


ピーチは露骨に辛そうな顔で俯く。
やれやれ…まぁ、気持ちは解らんでもないがな。



「ピーチ、お前には本当に感謝してる」

ピーチ
「…止してください、私は利害の一致で協力してただけですから」


おやおや、心にも無い事を…とはいえ、それも別れ際には丁度良いか。



「なら、これでお別れだ、元気でなピーチ…」
「ちゃんと佐藤さんの役に立って、ポリゴン2の役目を果たせよ?」

ピーチ
「…はい」

フーパ
「それじゃ、彼女は元の世界に返すんだね?」
「本当に良い?」


フーパは念を押す様に聞いてくる。
これが、選択肢なら重要な分岐なんだろうな。
だが、俺は何ひとつ迷わない。



「ああ、元に戻してくれ…それがピーチには1番良い」

ピーチ
「…聖、私は」


「ダメだ」


俺はピーチの言葉を遮る。
これはフラグだ…だが、俺はそれを受け入れる訳にはいかない。
ピーチにはピーチの居場所がある。
それは、ただ偶然出会っただけの俺の側じゃない。
ピーチには大切に思ってくれる家族がいる。
俺は、佐藤さんの為にも、ピーチを元の世界に戻すと決めていたんだ。


フーパ
「本当に良いの? 今なら新しい愛人ゲットチャンスだよ!?」


「黙れ俗物!! シーン台無しだから!!」

ピーチ
「聖、最低です…」


ほら勘違いされた!?
フーパはケタケタ笑い、ご満悦の様だった。
ヤロウ…今度あったら覚えとけよ?


フーパ
「アハハハッ!! やっぱジャリボーイをからかうのは面白いや!」
「じゃあ、さっさと送るよ! ジャリボーイの世界はこっちのリング!」
「ピーチは、こっちのリングを潜りな…」


そう言ってフーパはウインクし、ふたつのリングを広げた。
左は俺たちの世界、右はピーチの世界だ。
これで、正真正銘お別れだな…



「じゃあ先に行くぜ! あばよっ、結構楽しかったぜ♪」

唖々帝
「じゃあな…出来ればこんな混沌は2度と御免被りたいが」


李さんと唖々帝さんはふたり並んでリングを潜る。
フーパはニヒヒと笑い、ジラーチは罰が悪そうに目を逸らしていた。



「経験は正直貴重でした…私は、老師に出会えて良かったと思っています」
「そして、教えは忘れません…必ず、清山拳の伝承者として正しく継承していきます!」

喜久乃
「…私は2度とこんなのは体験したくないですね」
「全く…色々最悪でしたよ」


瞳さんは前向きだが、喜久乃は悪態だらけだな。
まぁ、それも仕方は無いか…


香飛利
「やっと帰れる〜!」

夏翔麗愛
「早くお母さんたちに会いたいのです!」


香飛利と夏翔麗愛ちゃんもさっさと潜って行った。
香飛利はよく頑張ってくれたな…夏翔麗愛ちゃんは1番小さかったのに、本当に頼りになる娘だった。


ピーチ
「聖…」


「行けよ、お前はあっちだ…」


俺は右のリングを指差し、ピーチはその方を向く。
その背中は微かに震えており、自分に何とか言い聞かせている様だった。



「ピーチ、お前は良い女だから、きっとその内良い男に出会えるさ」
「そしたら、今度はその男に尽くしてやれ…そしたら、絶対に幸せになれるさ♪」

ピーチ
「言われなくても、幸せになってみせます…!」
「絶対に、貴方より良い男見付けて、幸せになります!!」


ピーチは泣いているのが俺には解った。
そして察した…ピーチは俺の事を好いていてくれたのだと。
だけど、俺はピーチの気持ちを受け取らなかった。
家族はきっと受け入れても何も言わなかっただろう。
それでも、俺は受け入れなかった。
既に、これ以上家族を増やすのは問題だとも思ってるし、ピーチにはちゃんと帰る場所がある。
三海たちの様に、帰る場所が無い娘じゃないんだ…


ピーチ
「さようなら…仮マスター」


「ああ、本当のマスターによろしくな♪」


俺はそう言ってピーチの背中を見送る。
悲しそうに歩くピーチは右のリングを潜り、元の世界に帰って行った。
俺はそれを見届け、右のリングが閉じるのを見届ける。


フーパ
「さぁ、後は君だけだよ? それとも、アタシたちと一緒に新婚旅行でもするかい?」


「冗談はよせ…子供と結婚する気は無い」

ジラーチ
「あら、てっきりロリコンかと思ったのに…」


どんな目で見られてんだよ!?
俺どっちかって言うと年上が好みよ!?



「とにかく、これでやっと終わりだ…」

フーパ
「そうだね、名残惜しいけど…」

ジラーチ
「…私を憎まないの?」


「…何言ってんだ? 子供の喧嘩みたいな物だろ?」

フーパ
「まぁジャリボーイも子供だけどね!」


否定は出来ないな…確かに。
俺はクククと笑い、すぐにふたりに背を向ける。
そして、右手の人差し指と中指を立てて手を振った。



「じゃあな! また、会う事があったら、その時は思いっきり遊んでやる!!」

フーパ
「楽しみにしてるよ! 君とは思ったよりも気が合いそうだし♪」

ジラーチ
「それはどうかしらね…私としては2度と会いたくないかも」
「…感謝は、してるけど」


はははっ、要は恥ずかしくて会えないって事だな。
俺は笑いながらも、力強くリングを潜る。
そして、真っ先に思ったのは、守連たちの顔だった。
早く、会いたいな…アイツ等に。
もちろん、他の家族にも…そして、光里ちゃんたち友人にも。
後、アルセウスさんにはいつでもスライディング土下座出来る様に練習しておこう…今回はマジで心配されてそうだから!!










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第9話 『救済、そして帰還…』


To be continued…

Yuki ( 2019/05/07(火) 21:02 )