とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない














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第5章 『POKE MOA EVIL』
第7話 SF編
POKE MOA EVIL 『SF編』

『起動』





………………………




「よし、これでOK…どう? ボクの声、聞こえる?」
「あれ…おっかしいなぁ〜? 設定は完璧のはずだけど…」


何か声が聞こえる…だけど何も見えない。
女性…の声か? どことなくおっとり気味のその声は、何やら困惑しているかの様な声だった。
俺がそんな事を考えると、突然視界に光が映る。
まるでLED液晶が点灯した様な鮮やかさで、俺の前には泥臭いメカニック姿の巨乳メガネ女性が、顔を覗き込ませていた。


巨乳メガネ
「あ、起動した!? どう、ボクの声聞こえてる!?」


メカニックの女性は、俺の頭に手を当てて話しかける。
だが、何かおかしい。
触れられている感覚が全く無いのだ。
おまけに体も動かせないし、声も発せられない。
ただ、視界と聴覚だけが機能している感じだな…



(この状況は…何だ?)


もはや、フーパはこの世にいない…なのに、俺は訳の解らない世界で途方に暮れてしまっている。
だが、諦めるわけにはいかない。
俺には約束を守るという意地がある。

フーパが守りたかった者を救う為、俺はこの世界もクリアしなければならないのだから。



(くそ…とにかく動け!)

巨乳メガネ
「やった動いた! どう気分は!? 気持ち悪いとか、そういうのはある?」


何故だか解らないが、体が動く。
だが違和感がある…俺、こんな身長だったっけ?
今は立ち上がっている状態みたいだが、メカニックの顔は俺より少し低い程度。
だが、見た目のその身長は目測150cm位で、やはり俺の172cmと比べたら高さが合わない気がする。

一体…何が?


巨乳メガネ
「あれ? 反応無い? どうしてだろ…?」
「まぁ、良いか…とりあえず名前決めないとね♪」


はぁ、名前? 一体何がどうなってんだ?
俺は何かのペットって設定にでもなってんのか?
そんな俺の疑問はどこ吹く風で、メカニックはうーんと悩み続ける。
そして出て来た名称は…


巨乳メガネ
「ポリ! …じゃ、そのまんま過ぎるか」


こよなく笑顔で命名してくれたが、お気に召さなかったらしい。
つーか、ポリでそのまんまってどういうこった?


巨乳メガネ
「うーん、じゃあまだちょっとだけ角張ってるし、スクエア!」
「って、どこぞの会社に訴えられそうだから止めとこう…」


それは俺も同感だ! つーか、そのネタ自体が既にギリギリだからな!!
むしろよくここまで突っ走ったわ…全章通して、ここまでの大長編は無かったぞ。

まぁ、まだもうちょっとだけ続くんだがな!!


巨乳メガネ
「まぁ、とりあえず無難にしようか…」
「キミは進化前のポリゴンだから、つまりバージョン1…つまりP1!」
「ぴーわん、ぴーいち、ぴーち…ピーチでどうだい!?」


これでどうだ!?とばかりに、メカニックは反応を待っている。
つか、ポリゴン…? ポリゴンってポケモンの?
俺、ポリゴンなの? それ一体どういう事〜?


巨乳メガネ
「とりあえず決まり! それじゃピーチ、付いて来て?」
「早速皆に紹介するから!」


俺はとりあえず、それに従う事にする。
俺がそう決めると、体は自然と動き出した。
まるでオートプレイだな…不思議な感覚だ。
いや、まさかコレって…本当にそういう設定なのか?
いわゆる、ムービーゲー?



(試しだ、首を回して周りを見てみろ)


俺がそう心の中で指示をすると、首はグルリと動き、周囲を見渡す。
どうやら、何かの施設内部の様だが…見た事も無い空間だな。
強いて言うなら、SF的な機械仕掛けの中…って感じだが。


メガネ巨乳
「ふふ、船が気になる? ここは宇宙船ノア!」
「銀河を超えた遥か外宇宙からコールドスリープを経て、幾星霜の時間をかけて、旅をして来た船だよ♪」


それは凄まじいな…もう完全に未来世界って訳だ。
と、なると必然的にこの船にいるのか…ボスが?
俺はまさに映画の主役になった気分だ…もちろん、殺される方の。
大抵のホラーなら、どこかで殺人でもあるはず。
限られた逃げられないこの宇宙空間で、どうやって生き延びるかが課題か…



(とりあえず、動かせるのは解ったな…次は会話だ)
(彼女の名を聞け)

ピーチ
「貴女の名前は?」


発せられたのは女性の声。
とはいえ、かなり無感情な感じであり、ホントにロボットとかが無機質に声を発している様な印象を受ける。

ポリゴンだそうだが、ポケモン娘だったか…


メガネ巨乳
「あぁ、忘れてたよ!! っていうか喋れるんじゃん!?」
「まぁ良いや、ボクの名前は『佐藤 花子』(さとう はなこ)!」
「メタングの航海技師さ! キミを造ったのは趣味だけどね♪」
「前に探査した惑星で、死にかけていたキミの体を修復したとはいえ、脳は完全に死んでいたから、ボクが人工で造った脳を融合させてキミを蘇生させたんだ」
「あくまで、過去の文献に頼って、擬似的に似せたポリゴンなんだけど…」
「まぁ、だからポリゴンと言って良いのかは正直解らない」
「だけど、ボクにとってはキミは立派なポリゴンだ!」
「まだアップデートは出来ないから、感情とか若干の角張りとかは改善出来ないけど…」
「とりあえず、起動おめでとう!」


佐藤さんはそう解説し、この上なく喜んでいた。
何か感情表現が豊かな人だな…素直で純粋な感じがする。
そしてこの巨乳! 恐らく目測88位と見た! 身長比からすると、かなりの巨乳だな!!

しかし…メタングっていうと、もうちょいゴツゴツしたイメージあったけど、この人は割とフツーに人間っぽい感じだ。
前に見たメタグロス女なんかは、かなりメカメカしかったのに…

まぁ、やはり巨乳は良いな!!


ピーチ
「かなりの巨乳ですね、コノヤロウ」

佐藤
「突然ディスられた!? キミの方が巨乳なのに!?」


おっといかん…俺の意志がピーチに反映されるから、下手な事考えると自爆しかねんな。
しかし、ピーチの方が巨乳なのか…よし、自分で揉んでサイズを教えろ!


ピーチ
「………」もみもみもみ
「…90センチと判断します」


むぅ、それは中々のサイズだな…
とはいえ、それだと身長比があるからカップは負けてる訳だが…ウエスト比を比較すると解らんか?

まぁ、どうでも良いか…とりあえず、今はさっさとシナリオを進めよう。


佐藤
「あっはは…何か、想像してたのと違う」


佐藤さんは少なからず落胆している様だった。
とはいえ、すぐに気を取り直して佐藤さんは先に進む。
所々ゲートを潜り、辿り着いた先は…



………………………




(ここは、コールドスリープの部屋か)


少なくとも、6台の機材が見える。
内ふたつは誰も使っておらず、どうやら佐藤さんともうひとりは目覚めていると予想出来るな。


佐藤
「ここがコールドスリープ室だよ! さぁ、キミの初めての仕事だ!」
「皆を起こしてあげて♪」


(めんど…)

ピーチ
「…自分でやってください」

佐藤
「酷い! 早くも反抗期!? 感情無いから、本当にやる気無さそう!!」


おっと、いかん…またしても俺の意志が。
とりあえず俺がやるんじゃないんだから、ちゃんと指示しないとな…



(とりあえず、残りの奴らを叩き起こせ)

ピーチ
「………」


俺がそう指示すると、ピーチは手前の機材から開閉ボタンを押して行く。
すると、機材は蓋がスライドし、そこから蒸気が上がった。
ピーチは、そのまま他の連中のも順に開けて行く。
やがて4人が目覚め、コールドスリープの機材からそれぞれ降りて来た…

男3人に、女ひとり…服はひとり軍服みたいな赤服の男、残り3人はフツーのスタッフって感じだな。
同じ制服に身を包み、モブって感じがプンプンするぜ…

そして…その内のひとり、1番ガタイが良いのがフラフラしている。
まだ寝ているみたいだな…それを見て、ピーチはツカツカとソイツの前まで歩き…


ピーチ
「さっさと起きてください、このマヌケヤロー」


ドバキィ!と、鈍い音がした。
ピーチの右フックが男の頬を殴打し、壁まで吹っ飛ばしてしまったのだ。
やっべ! 叩き起こせとは言ったものの、ここまでやるとは…!


佐藤
「うわっ!? やりすぎだよピーチ!!」

女性
「あ〜あ、まぁこれ位しないと起きないし、別に良いんじゃない?」

男A
「あ、あはは…サトー、遂に完成させたんだね」

佐藤
「うんっ! ピーチって名付けたんだ! 皆、仲良くしてね♪」


佐藤さんはぱぁっと明るく笑い、嬉しそうにピーチを皆に紹介する。
そして、ガタイの良い男はヨロヨロと立ち上り、周りを見ていた。
状況が解ってないな…まぁ、いきなり殴り倒されし。


男B
「…てて、何が起こったんだ?」


「おはよう! 目覚めはど〜お?」

男B
「…顔が痛ぇ」

佐藤
「ゴ、ゴメンね〜ニック! ピーチったら、まだプログラムが正常じゃないみたいで!」


佐藤さんは、ニックと呼んだガタイの良い男に謝る。
そうか、ピーチはプログラムで動いていたのか…流石は人工的に造られたCGポケモンだな。
とはいえ、その上で俺の指示が通るみたいだが…これは一体どういう事なのか?
とりあえず考えても仕方無いし、ここはピーチのプレイヤーとして上手く導かねばなるまい!


ニック
「ピーチ〜? 何だその桃みたいな名前は…」


「ほら、この娘よ! サトーが造った、人工の脳を移植したポケモン娘!!」


女性は、ピーチにすり寄ってニックに紹介する。
ぬぅ、感触が無いから表現が難しいな…
これでは読者に伝えるのも一苦労だぞ?


ピーチ
「巨乳の女性が私の両肩を抱いて紹介していますコノヤロウ」

女性
「はい?」


おっととと…またしても俺の意志がピーチを動かしてしまった。
ある意味、コレじゃバカゲー要素だぞ?
何だか一気に和んできたな…ホントにこんなんで良いのか?

今までならフーパが的確にツッコンだりしてくれたのに、今はそれが無いので若干の寂しさは感じてしまうな…


佐藤
「はぁ…何でこんなに口悪いんだろう? やっぱり、費用ケチって安い言語プログラム入れたからかなぁ?」


佐藤さんは、顔を押さえて落ち込んでしまった。
とはいえ、口調以外は俺のせいでもあるからな…まぁ諦めてもらおう。


ニック
「よう、俺はニックだ! 種族は『キテルグマ』で、主に力仕事や運搬関係の仕事を担当してる」


そう言ってニックは笑う。
中々気の良いキテルグマさんだな…道理で、良いガタイしてるわけだ。
格闘タイプらしく、筋肉も相当付いてそうだな。


女性
「私はセレーナ…『デデンネ』で通信士を担当してるの、よろしくね♪」


セレーナと名乗った女性は、そう言ってウインクする。
何となく姉さんとキャラが被ってるな…もっとも、こちらはポニテだが。
デデンネ特有の、アンテナみたいな髭がピンと斜めに立っているのがやけに印象的だった。


男A
「僕はアベル、医療担当のフラエッテだよ…」


アベルと名乗った男性は、そう言って機材から一輪の花を取り出した。
それは赤い花弁をしており、まさにフラエッテを象徴する花。
しかし、人化したサイズには合わされていないのか、その花はフツーに小さな物だった。

まぁ、人よりデカイ花を普段から持ち歩かれても正直鬱陶しいのだが…
しかし、この人はオドオドした感じで気弱そうだな…いかにもイジメられっ子って感じがしてくる。

…俺も、昔は人の事が言えないわけだが。


ピーチ
「オドオドしやがって、鬱陶しいですね」

アベル
「初対面から罵詈雑言!?」


またしてもやってしまった…っていうか、ピーチちゃん自重しません!?
このままだと、言われの無い憎しみを受けそうで怖い!!


ピーチ
「…少し自重します」

佐藤
「そ、そこは自重出来るんだ…なら初めからしようよ!?」


そりゃごもっとも…っていうか、ちゃんとピーチは学習するって事か?
それなら、とにかく何でもチャレンジしてみるべきだな!


ニック
「しっかし、良く出来てるな〜この乳のデカさは、サトーの趣味か?」


そう言って、ニックはピーチの胸辺りに手を当てて何かしていた。
俺はピーチの視点を下に下げると、ニックは堂々とピーチの胸を揉みしだいていたのだ。
オイオイ…人工ポケモンだからって、一応人間ベースなんだから、そういう事を堂々としなさんな。


佐藤
「ああこら! 何やってんだよニック! ピーチも、そういう時位は嫌がらなきゃ!!」

ピーチ
「…ニックはエッチです」

ニック
「ギャハハッ! そりゃ男なら、そのデカパイは揉みたくなるわ!」


そう言って、ニックは親指を立ててグッとする。
まぁ、確かに否定は出来んな…男ならおっぱいには逆らえん!!


ピーチ
「皆おっぱい星人です…」

アベル
「もしかして僕も含まれてる!?」

セレーナ
「あははっ! 楽しい仲間が増えたじゃない♪」
「ほら、そこの堅物もそろそろ自己紹介位したら!?」


セレーナさんはそう言って、後方で腕を組んでいる軍服の男に言い放つ。
だが明らかに乱暴な言い方であり、軍服の男は無言のまま背を向けてからこう言った…


軍服の男
「ふん…くだらん、先に行くぞ? 船長はもう起きてるのだろう?」


低く、渋い声で軍服の男はそう言う。
そして、それを追う形で皆は移動を始めた。


セレーナ
「ゴメンねピーチ、アイツはギルって言う軍人なの…」
「『ブロスター』らしいんだけど、偉そうな奴なのよ!」


セレーナさんは嫌そうにそう紹介してくれる。
成る程、ブロスターだったのか…道理で立派な右腕をしてると思った。
しかし…赤い色とは、何気に色違いか。
…後、あの右腕はホントにハサミなのか?
ブロスターのハサミにしては、やけにメカメカしい感じがするけど…
まさか、義手とか○イコガンか? 一応『メガランチャー』だろうし。


ピーチ
「彼の腕は、義手なのですか?」

セレーナ
「さぁ? ブロスターだし、ハサミっぽくも見えるけど…」

アベル
「あれは種族特有のハサミだよ…もっとも、改造されて武装化されてるみたいだけどね」
「基本的に、あまり近付かない方が良いと思うよ…? 彼、誰とも話したがらないし」


成る程、典型的なはぐれ者か。
それならそれで、何かトラブルも起きそうだな…
やれやれ、段々ホラー的な展開になって来るか?


ピーチ
「………」

佐藤
「とりあえず、おいで…まずは休憩室で船長の指示を仰ぐから」


とりあえず同意させておく。
何はともあれ、ここまでは強制イベントっぽいからな。



………………………



そして…ピーチたちは休憩室に辿り着き、そこで色々話したり休んだりしていた。
ニックはゲーム筐体で何やら遊び始め、アベルとセレーナさんは雑談を交わしてる。
ギルは不機嫌そうな強面で、皆から離れた所の壁に背を預けていた。
そして、佐藤さんはピーチに何やらケーブルを咥えさせ、ノートパソコンを開いて何かをチェックしている。


佐藤
「う〜ん、全く異常無し! でも、想定してない挙動を取るのは何でなんだろ?」


それは間違いなく俺のせいだ。
流石の佐藤さんも、俺がピーチの行動に介入してるとは思わないだろうしな…


佐藤
「一応、喜ぶべきなのかな? ピーチが、決してプログラムだけの行動を取らない事を…」


佐藤さんは複雑そうだった。
でも、心なしか嬉しそうにも見える。
佐藤さんは、本当にピーチの事を大切に思ってくれてるんだろうな。
俺は少し、心が温まる…佐藤さんは、間違いなく良い人だ。


佐藤
「よし、メンテ終わり! それじゃあ、ピーチ…コーヒーを入れてくれるかな?」
「あそこにメーカーがあるから、ボタンひとつで好きな味が出るよ♪」
「とりあえず、皆に配ってみて♪」


成る程、とりあえずイベントだな。
俺はピーチに指示を出し、コーヒーメーカーの前に立たせる。
で、味は…と。



(…字が読めん! 色々ボタンあるが、とりあえずホットかクールか位しか解らんな…)
(まぁ良いや、とりあえず左上のボタンで良いだろ…)


俺はそう思い、ピーチにボタンを押させる。
すると、メーカーから紙コップが出され、そこに黒いホットコーヒが注がれた。
ピーチは、そのまま人数分のブラックを用意し、それぞれに持って行く。


ニック
「お、悪ぃな! って、苦ぇ!!」
「ブラックじゃねぇか…これ、こんなに苦かったか?」

セレーナ
「あら、私はこの位が丁度良いわよ? ありがとうピーチ♪」


とりあえず、相当苦いらしい。
まぁ、ブラックだしな…流石に失敗したか?
ピーチはそのままアベルにも持って行く…が、アベルは受け取りを拒否した…ブラックはダメな口か、お子様め!


ピーチ
「ちっ…お子様め」

アベル
「毒吐かれた!? 苦手なだけなのに!!」

佐藤
「あ、あはは…はぁ」


佐藤さんは、もはや諦めている様だった。
しかし、ピーチは完全に抑揚の無い声で喋るな。
まだ感情はプログラムされてないそうだから、それも仕方無いのか?
一応、アップデートすれば改善するらしいけど…それはつまり進化するという事。
ポリゴン2になれば、感情豊かになるんだろうな…

もっとも、それを俺が見る事は無いかもしれないが…


ピーチ
「ギルさん、ど……」

ギル
「私に近付くな!!」


バシッ!と、静かな船内に音が響く。
ギルは左手でピーチの手を払い、コーヒーを床に溢してしまったのだ。
コロコロ…と紙コップは転がり、場は一気に静寂が訪れる。
真っ白で綺麗だった床は、コーヒーで汚されてしまった。

ピーチは特に反応もせず、ただその場で固まっている。


佐藤
「あ〜あ、何も手を出さなくても…アベル、掃除機取って!」

アベル
「はいはい…良いよ、僕がやるから」


そう言って、アベルは見た事も無い形状の掃除機を、片手で扱ってコーヒーを染みごと吸い取った。
スゲェ! 流石はSFの掃除機!! あまりにも万能過ぎて、主婦が涙しそうな性能だな…
気が付けば、床はもうピカピカに輝いていた…これ、ホントに掃除機って言って良いのか?


セレーナ
「ちょっと! あんたピーチに謝りなさいよ!?」
「折角気を利かせてくれてるのに…」

ギル
「ふん、誰がそんな事を頼んだ? 私には必要無い」


そう言って、ギルは鬱陶しそうに返す。
その言葉にセレーナさんが言い返そうとすると、突然休憩室のモニターが点灯し、ひとりの中年を表示した。
帽子とかを見る限り、コイツが船長の様だな。
全員が起立し、船長に敬礼する。

それを見てモニター上の船長はまず、こう言葉を放った…


船長
『皆、元気そうで何よりだ』
『このノアも、もうすぐ地球へと帰還する予定だが、最後まで気を抜く事無く作業を完遂してほしい』
『そして、皆揃って地球の土を踏もう…では、私からは以上だ』
『残りの時間は皆の好きにしてくれて良い…が、くれぐれも油断はしない様に!』


一同はその言葉にハイ!と、返事を返し、その後映像は消える。
やれやれ、とりあえずはここから自由時間か…?


アベル
「サトーはどうするの?」

佐藤
「ボクはとりあえずデータ整理…早めに起きてピーチを完成させたけど、まだアップデートの必要があるし…」

アベル
「そっか、良ければ手伝おうか? 精神的な事とかなら、何か解るかもしれないし」

佐藤
「うん、ありがとう! でも、今は良いよ…当分は機械的な作業になるから♪」


佐藤さんはそう言って笑顔で断る。
アベルは少し残念そうにしながらも、とりあえず微笑んで納得した様だ。


ニック
「やれやれ…とりあえず地球までは暇だねぇ〜」

セレーナ
「何言ってるのよ? まだまだ資料は山積みよ?」

ニック
「うへぇ〜勘弁してくれよ…それよか、ご無沙汰なんだし久し振りにどうよ?」

セレーナ
「はいはい、仕事がちゃんと終わったらね♪」


そんなやり取りをしながら、ふたりは一緒に出て行く。
何だか浅からぬ関係みたいだな? あのふたり…恋人設定って奴か?


ピーチ
「リア充爆発しろ」

佐藤
「えっ!? 何、急に!? 何でリア充!?」

アベル
「あはは…本当にバグとか無いの?」


いかんいかん…心配されてしまったぞ。
しかし、ピーチは本当に良く解らん所に反応するな…
まぁ、俺的には面白すぎて一向に構わんのだが…


佐藤
「とりあえず、1度部屋に戻ろうか?」
「ピーチは好きにしてて良いよ♪ この機会に船を回ってみると良い」
「船内のデータは入力済みだから、必要ならメモリーから呼び出すと良いよ♪」


うーむ、やはりSFだな…改めてポリゴンって人間と言うより、ロボット扱いな気がする。
つーか、俺にはまだ見た目が解らないんだよな…目が届く範囲は理解出来るけど、顔が全く見えん。
とりあえず、鏡でもあれば良いんだが…


佐藤
「それじゃあ、ボクは部屋にいるから…何かあったら尋ねて来て♪」

アベル
「僕も保健室に戻るから、何か怪我とかしたら遠慮無く来てね♪」


そう言って、ふたりは休憩室を出て行く。
既にギルもいない様で、ここにはピーチだけが残されている状態だった。
静かな室内には、機械の駆動音だけが聞こえて来る。
俺はそんな中ゲーム筐体に気が付き、それを見てみる事にした。
電源は入りっぱなしで、タイトル画面が映っている…って、やっぱり読めん!

改めて、この世界の文字は俺には理解出来ないらしい。
しかし…そんなゲームのモニターが暗転した時に、ふとピーチの素顔が反射して映し出された。
その姿は赤髪のロングヘアーがさらりと靡いており、瞳は感情の感じられない黒。
頬の辺りには少し角張った線が見え、それが彼女のポリゴンたる特徴でもある様だった。

どことなく愛呂恵さんを思い出させる表情だが、機械的な感情表現という意味では似ている気がする。
特に…出逢ったばかりの愛呂恵さんは、それこそロボットみたいな反応だったからな。



(…ピーチ、俺を認識出来るか?)

ピーチ
「はい、私の心に存在する誰か…私はそれを理解出来ます」


ゲーム画面はデモプレイに映り、ピーチの顔はまた見えなくなったが、俺はそのままピーチにこう伝える。



(どういう事か、俺たちは運命共同体になっちまったらしい…)
(まぁ、とりあえず仲良くやろうぜ? そして、この世界のボスを倒してゲームクリアだ!)

ピーチ
「…それが、私に与えられたプログラムならば」
「私には、何故か貴方に逆らうというプログラムが存在していません」
「従って、私は貴方の言葉を最優先と判断します…どの様な命令でもどうぞ」


(俺の命令はひとつだ、生きろ!)
(お前は、お前だ…最終的に、何をどうするのかはお前自身が決めろ)
(俺は指示を出すが…それに従うかは、あくまでお前の自由だ)

ピーチ
「…分かりました、その言葉を記録します」
「それでは、指示をどうぞ…次の行動を決めます」


俺はとりあえず、今はそれで良しとする。
まずは探索だな…船内を調べる必要があるだろう。


ピーチ
「了解です、それではマップを視界に展開します…指示を」


ピーチがそう言うと、ピーチの目の前に船内マップがホログラムで表示される。
船内は大まかに3階構造になっている様だ。
今いるのは2階のフロア、とりあえずこの階層は住居フロアみたいだから特に調べる事も無いか。



(よし、とりあえず下に移動しよう)

ピーチ
「………」


ピーチは無言で俺の指示に従う。
とりあえず、人前で俺の存在をバラさない様に注意しておかないとな…
ある意味、俺の存在はこの世界ではイレギュラーのはず。
そして同時に…家族を救いきった俺には、もうクリアアイテムとしての機能は無い可能性が高い。
つまり、ここからはマジでピーチと一心同体。
判断ミスは、即コンティニュー不能のゲームオーバーに繋がるという事だ…



(だが、俺は諦めないし、約束は必ず守る!)


フーパとの約束は必ず果たす。
そして、俺は全てを救ってみせる…!
例えそれが、フーパの嫌う偽善だとしても。
俺にだって、譲れない意地がある。
例え誰に何を言われようとも、俺は自分の考えだけは絶対に曲げない。

最後まで、俺は俺らしくやってみせるぜ!



………………………



ピーチ
「ポケットモンスター レッツゴーピカチュウ&イーブイ、発売です」
(執筆時2018年11月16日金曜日!)


(思えば、長い歴史だよな〜)


ちなみに神(作者)は初代からのユーザーだ!
今回もイーブイ限定版を本体セットで購入したぜ!!

…それなりに痛い出費で、やや生活が苦しくなったらしいがな!!
まぁ、その辺は置いておいて…

ポケットモンスターは、まだまだ現役!
そして、とポ女もまだまだ続くんだぜ!?
それでは、前置きはここまでで、こっからは本編スタート!!



………………………



俺たちはあれから下層区へと辿り着く。
ここは主に作業用の機械が置いてある、格納庫みたいな場所だった。
パワードスーツみたいなのも複数あるな、船外探査用か。


ピーチ
「生体反応、探知します…ヒット、この先のフロアに何やら巨大な生体反応を発見しました」


生体反応…? それも、巨大か。
嫌な予感がするが、どうする?
下手な行動は即死を招く可能性もあるし、あまり危険な行動は避けたい所だが…


ピーチ
「生体反応に動きはあまりありません」
「眠っているのか、それとも休んでいるのか…」
「私の内蔵センサーでは、四足の獣としか解りません」


それだけ解れば十分だが…さて、なら踏み込んでみますかな。
いくら何でも獣を野放しにはしてないだろうし…それに、ここは宇宙船だ。
狂暴な獣ってんなら、何かしら束縛はしているはず…

それに…いざとなったら、すぐに扉を閉めりゃ良い。
この船のゲートを閉めてる扉…というかシャッターか?
それの強度は相当みたいだし、多分並みのポケモンの技じゃビクともしないはずだ。


ピーチ
「………」


俺がそう思うとピーチは歩き始め、シャッターの前で止まる。
そして、横にある開閉スイッチを押してシャッターを開けた。
すると…その中はコンテナなどが積まれている、倉庫みたいな場所だと解る。

その中で、一際目立つ大きな檻が床に設置されていた。
更にその中には、見た事も無い様な黒毛の獣が座っている。



(デカイな…4mはあるか?)

ピーチ
「私のメモリーデータには、登録されていない生物です」


とりあえず、檻に入っているなら大丈夫だろ…まずは近付いてみるか。
すると、獣は俺たちの動きに反応し、その場で身構える。
まるで猫の様な挙動であり、虎やライオンに近い獣の様だ。
獣は檻に触れ様とはせず、ただその場でうなり声をあげるだけ…
恐らく、檻自体に何か仕掛けがあるんだろう…と俺は推測した。
下手に触らない方が良いな…



(しかし…ポケモンの世界にこんなファンタジー系のモンスターとはな)


見ると、体の節々には鋭利な棘がある…あれも体毛か?
更に尻尾は槍の様に尖っており、それをゆらゆらと揺らしていた。
そして、特に目を引くのは頭部の異様さ…後頭部がまるで花の様に開いており、おおよそフツーの獣には見えない特徴だった。


ピーチ
「…プレート確認、仮名称『ビースト』」
「異星の生物であり、UMA認定…性質は極めて狂暴であり、獰猛」
「今後の人類にとっては、重要な生体サンプルとなる可能性があると思われる…」


ピーチは近くのプレートに触れると、そこから何か文字の羅列が並んだ。
俺には読めないが、ピーチはそれを朗読し、俺にも解る様に説明してくれる。

ビーストねぇ…生体サンプルか。
俺は嫌な予感がプンプンするが、今はどうしようもないとも思えた。
俺がそう思っていると、突然船内のスピーカーから声が聞こえる…
どうやら、船内放送の様だ。


セレーナ
『各員、ブリッジに集合! 緊急会議を開くわ!』
『繰り返す! 各員ブリッジに集合!!』


声はセレーナさんだな…通信士って言ってたし。
しかし緊急会議、か…早速、何かありやがったな?
俺は緊張感を高め、ピーチに指示を出す。
ピーチは急ぎ足で上層区まで上り、ブリッジを目指すのだった…



………………………



シュンッ!と、SF独特の音で扉は開き、俺たちはブリッジに到着する。
そこは様々な機材が光を放っており、中は薄暗かった。
既に座席には佐藤さんとアベルが座っており、何かの操作をしている。
更に前方の席ではセレーナさんが、逆に端の隅っこにギルが壁を背に立っていた。

…ニックがいないな?


ピーチ
「…ニックさんは何処へ?」

佐藤
「ああ、ピーチ! ニックなら、船の外でメンテナンス中だよ」
「何か、通信アンテナの調子が悪いみたいで、破損が無いかチェックしてもらってるんだ」


成る程、移動してる間に会議は終わってたって訳か。
まぁ、ピーチの歩行速度じゃ急いでも遅れるわな…


ピーチ
「…鈍足ポケモンの定めです」

佐藤
「はい?」


おっと、さりげなく反応するか…まぁ、気にするな。
お前にはお前の長所があるよ、きっと。
とりあえず、アンテナの事を聞いてくれ…


ピーチ
「…アンテナはどうなのですか?」

佐藤
「今の所、問題は見付からないね…アンテナは船の左右に1本づつあるけど…今はそのひとつをチェックしてる」

セレーナ
「どうニック? 何か解る?」

ニック
『いや、1番は何も無いな! とりあえず2番アンテナも見てみるよ!』


そう言って、ニックは移動を始めた。
姿はこっちからじゃ何もモニターされてないんだな…その辺は妙にローテク。
っていうか船外モニターあるなら、人が外に出る必要無いのか…


アベル
「やれやれ、もうすぐ地球だっていうのに…トラブルとはね」

佐藤
「仕方無いよ、ここまでむしろ何も無かったのが幸運だったんだ…」
「経年劣化もあるだろうし、1度メンテした方がいいのかもね…」


そう言って、佐藤さんは席を立ち上がる。
どうやらどこかへ向かう気の様だ。


佐藤
「ボクも外に出るよ! 機械の事なら、ボクが1番よく知ってるし!」

アベル
「分かった、頼むよサトー」

セレーナ
「ニック、今からサトーもそっちに向かうから!」

ニック
『了解だ! 俺は先に2番アンテナのチェックを…』


ズバァァァァァァァァンッ!!と、直後に爆発音。
スピーカーからそんな音が放たれ、皆は耳を押さえて驚く。
そして、スピーカーからは何も音が聞こえなくなった。


セレーナ
「ニック!? どうしたのニック!! 応答して!!」

佐藤
「すぐに出る! アベル、救急セットを持って3番ゲートに!!」

アベル
「分かった! 先に行ってて、僕もすぐに向かう!!」


ふたりは走ってその場を後にする。
セレーナさんは悲痛な叫びで通信を試みるが、反応は帰って来ない。
どうやら、早速ひとり目の犠牲者が出たか…



(俺たちは3番ゲートに向かうぞ、佐藤さんたちを追う!)

ピーチ
「………」


ピーチは無言でブリッジを出る。
そして、そのまま3階にある3番ゲートまで走った。



………………………



ピーチ
「3番ゲートに到着しました」


(…誰もいないな、佐藤さんはもう外か?)


アベルはまだ来てない…やれやれピーチの足の遅さはこういうホラーだと致命的に感じるな。
いっそ『トリックルーム』でも使えれば良いんだが…


ピーチ
「…残念ながら未習得です」


そうか、そりゃ残念。
まぁ、あったらあったで周りに与える影響もデカイからな…
ピーチにはピーチの良さを活かしてもらおう。


アベル
「あれ? ピーチ来てたの?」

ピーチ
「…佐藤さんは?」

アベル
「今は外じゃないかな? ちょっと通信してみようか…」
「サトー聞こえる!? 状況は!?」

佐藤
『冗談…でしょ? 何でこんな事になってんの…!?』


佐藤さんは信じられないと言った口調で、通信機越しに叫んでいた。
俺たちは緊張感を増し、更に佐藤さんの言葉を待つ。


佐藤
『ヤバい…2番アンテナが吹き飛んでる!!』
『ニックは爆発に巻き込まれたんだ! すぐに回収する!!』


場は急速に忙しくなってきた。
アベルはすぐに対応し、俺たちに近付かないように指示して、ゲートの操作を執り行う。
佐藤さんがニックを回収して指示を出すと、アベルはゲートを操作して佐藤さんたちを中に入れた。
そして、宇宙服を着た佐藤さんは頭の被り物を脱ぎ、ボロボロのニックを優しく床に置く。
アベルはすぐに救急セットを持ち出し、ニックの宇宙服を脱がして応急処置に入った。


アベル
「く…ダメだ! ここじゃこれ以上はどうにもならない!」
「医務室に連れて行く! サトー手伝って!!」

佐藤
「分かった! しっかりするんだニック!!」


ニックはぐったりとした青い顔で、もはや生気を放ってなかった。
俺は何となく予想してしまう…アレは、多分無理だ。
これも設定されてるイベントなら、恐らくこのシナリオではほとんど誰も助からない。

最悪だ…ここから先、俺たちはどうなる?
もしかしたら、クルーの中にボスはいるんじゃないのか?
もしそうだとしたら、俺たちは…どうやって生き残る?


ピーチ
「…私は生きます、何があろうとも」


(ピーチ…)


俺はピーチの意志を受け取った。
そうだな…最悪俺たちだけが生き残ろうとも、俺たちは生きなければならない。
俺たちは、そういう運命に定められた存在なんだ…!



………………………



それから、俺たちは医務室へ向かった。
が、流石に手術中の様で、中に入る事は出来ない。
扉の前のベンチでは、佐藤さんが気だるそうに座っていたのでピーチはそれに近付く。


佐藤
「ああ、ピーチ…ゴメンね、いきなりこんなトラブルで…」


佐藤さんは疲れていた…しかし聞こえる、ジークマサラの雄叫びが。
って、ネタはええっちゅうねん! 流石に不謹慎だろ…


ピーチ
「とりあえず、今なら罪は軽くなりますよ? 貴女がやりましたね?」

佐藤
「酷い!? ボクはやってないよ〜!!」


ピーチはポン…と、項垂れる佐藤さんの肩に手を置いてそう呟く。
いかんいかん…俺がネタをかましてしまったので、ピーチもやってしまったらしい。
流石に自重せねば…


ピーチ
「と、冗談はさておき」

佐藤
「タチが悪いよ!! ホントに何でそんな性格なの!?」


佐藤さんは、そうやってしこたま叫んでしまった。
よっぽどピーチの挙動が納得いかないらしい。
当のピーチもどこ吹く風であら、全く意に介していない。
うーむ、一気に場が白けたな…人が死にかけてるっちゅうのに。


アベル
「………」
セレーナ
「………」


そんな中、あからさまに暗い顔でふたりが出て来た。
手術衣に身を包み、口のマスクを取ってアベルはこう話す。


アベル
「…出来る限りの処置は施した」
「だけど、気休めを言っても仕方無いからはっきり言うよ?」
「蘇生する可能性は、無いと思っていてくれ…それ位絶望的だ」

セレーナ
「…っ!!」


セレーナさんは唇を噛み締めて走り去ってしまう。
よっぽどショックだったんだな…まぁ、仲良さそうだったし仕方無いか。
むしろ、余計なトラブルを引き起こさなきゃ良いんだが…


佐藤
「…ニック」

アベル
「キミが気にする事は無いさ…あれは事故なんだから」


アベルはことのほか淡白に言う。
医者という立場のせいか、人の死に対してそれ程動揺も無いってか?


アベル
「とりあえず、確率は0じゃない…今はコンピュータが生命維持を施してるし、運が良ければ助かるかもしれないさ」

佐藤
「そう、か…でも、何で突然2番アンテナが吹っ飛んだんだろ?」

アベル
「…音からして、爆発だったよね?」


確かに、アレは端から聞いて爆発音みたいだった。
恐らく、アンテナが吹っ飛んだんだ時の音だと思うが…


佐藤
「今まで何ともなかったのに、経年劣化で爆発とか普通あり得ない…」
「だからと言って、飛来物が直撃とか、バリアを貫通する程の質量と速度なら探知出来ないはずもない」

アベル
「…何が言いたいんだい?」

佐藤
「…こんな事言いたくないけど、誰かがニックを殺す為に仕掛けたんじゃ?」


佐藤さんは、アベルを見てそう言う。
これはあくまで疑惑だ…アベルが犯人かは解らない。
しかし、限られた人数の中でそれが出来るのは…?


アベル
「流石に考えすぎだと思うけど…でも、それだと1番怪しいのは船長って事になるんじゃない?」
「少なくとも…ついこの間まで、船長と君以外は皆コールドスリープ中だったわけだし」
「皆が目覚めてからだと…それ程時間も経ってないのに、いきなりそんな仕掛けを作るなんて、僕には想像出来ないな」


アベルの言葉に佐藤さんは項垂れる。
そりゃそうか…という反応だな。
とはいえ、疑問があるのは事実…爆発の原因は本当に何なんだ?


佐藤
「…やっぱり、アンテナ調べて来るよ! 気になったら、夜も眠れない!」

アベル
「止めなよ! もし君まで何かあったら…!!」

佐藤
「大丈夫!…とは言えないけど、何もしないなんてボクにはやっぱり出来ない!」
「ボクは幸いメタングだし、多少なら宇宙空間でも生身で生存出来る」
「だから、何かあったら頼むよ? それじゃ行ってくるね♪」


佐藤さんは、結局そう言って笑顔で走って行った。
アベルは何か言おうとしてたが、佐藤さんはさっさと行ってしまったのだ。
あれは思い詰めると、人の話を聞かないタイプだな…


アベル
「…もう、人の気も知らないで!」


結局、ため息を吐いてアベルは後を追う。
この際、俺たちも付いて行く事にした。
そして、佐藤さんは再び3番ゲートから船外へと調査に向かう。



………………………



佐藤
『やっぱり…これ、多分内部からの爆発だよ』

アベル
「内部から? でも、それだと分解でもしてからじゃないと仕掛けるのは…」

佐藤
『違うよアベル…これは、初めから設置されてたんだ』
『そうじゃないとおかしい…だって、とてもじゃないけど、これは外部から分解して爆弾を設置するのは無理だ』
『少なくとも、ちゃんとした設備で大型の機械を使ってやらないと、ひとりやふたりじゃ到底出来ないはず…』


アベルは悩んでいた…そして、この原因を考察する。
仮に製造段階で仕掛けられていたとしたら、それは完全に意図的な犯行…
ニックを狙ったとは限らないが、少なくとも船に異常をきたす様に狙ったとは言えるはず。

そして、それは一体何の為だ?
何が目的…って、そもそもアンテナを破壊するとか船の航行を完全に止める為の工作としか思えない。
と、なると…ニックはたまたま巻き込まれたのかもしれない。


アベル
「とにかく、すぐに戻るんだ…こんな状況じゃ、何が起こるか解らない」

佐藤
『分かったよ、すぐに戻る』


佐藤さんはそう答え、通信は切れた。
そして、10分程して佐藤さんは無事に船内へ戻って来る。



………………………



佐藤
「…何で、このタイミングだったんだろ?」

アベル
「そう…だね、確かに気になるな」


ふたりは疑問に思っていた。
思えば、確かに何故このタイミングだったのか?
トラブルを起こすだけなら、帰還の直前よりもスリープ中や、探査中に爆破した方が効果は大きいはず。


佐藤
「やっぱり、あれはニックを殺す為に爆破した気がする…」

アベル
「…でも、それだと僕たち全員が容疑者って事になるね」


そうなるな…少なくとも、ニックと船長以外は全員ブリッジにいたんだ。
疑わしいのは、それ以外の人物…


佐藤
「………」

アベル
「…可能性が高そうなのは、セレーナだけどね」

佐藤
「…どうしてそう思う?」

アベル
「君や僕がやる動機は無いと思うけど…? ギルはまぁ、怪しいとはいえ、それ程不審な動きは見せてない」
「そもそも、ニックを殺す動機が無いだろうし…」

佐藤
「減算法でセレーナか…とはいえ、彼女がそこまでするのか?」

アベル
「言い出したらキリが無いよ…逆に疑い出したら全員が怪しくなる」
「こういう時は、とりあえずリラックスする事をお勧めするよ…だから、1度休憩室で休もう…そして、船長に報告する」


佐藤さんは頭を抱えて悩んでいた。
犯人…か、俺には確かに全員が疑わしくも感じる。
だが、確証が無いのに訴える事は出来ない。
今は、情報を整理しながら推理するしかないな…



………………………



アベル
「あ、ゴメン…ちょっとニックの様子を見て来るよ」
「…そろそろ、結果が解ると思うから」

佐藤
「だったら、ボクも行くよ…こんな状況じゃ離れない方が良い」

アベル
「そうだね、だったら一緒に行こう」


アベルは何故か嬉しそうだった。
佐藤さんはずっと犯人の事を考えている様だが。
何だか、妙な温度差を感じるな…このふたり。


ピーチ
「…アベルさんはマスターにホの字なのですか?」

アベル
「ホの字?」


おっと、ある意味変化球だが、肝心のアベルは理解していないぞ?
どうせなら、もっと解りやすく例えんかい!


ピーチ
「マスターとドスケベセクロスしたいのですか?」

アベル
「ち、違うよ!? な、何を言うんだよいきなり!?」

佐藤
「え、何それ!? ○クターゾーンの新作!?」


色々とズレてるなオイ!!
つーか今度はど真ん中直球過ぎだ!! アベルの奴、顔真っ赤にして否定してるぞ…
佐藤さんは完全に別の方向に解釈してるし!


ピーチ
「とりあえず、お気の毒に…脈無さすぎですね」

アベル
「放っといてよ! もう…何で急にそんな事」

佐藤
「な〜に〜ふたりとも? ボクには解らない話?」


この人、本気なんだろうな…だとしたら残酷な物だ。
しかし、ピーチの奴自分で勝手にボケてるのか?
最近、俺の意志とは別の方向でネタを振り撒く様になってきてるが…
これも成長と言えるのだろうか?


ピーチ
「…早く手術室へ行きましょう」

佐藤
「そうだね! ニック…奇跡でも起これば良いんだけど」

アベル
「…そうだね、本当に奇跡でも起きなきゃ助からないけど」


俺たちは半ば諦めつつも、再び手術室へ向かう。
とりあえずアベルが中に入り、様子を見て来るとの事だ。
俺たちはそれに従い、外で待った。
だが、すぐにアベルは血相を変えて外に出て来る。
一体何事かと思うが、アベルから放たれた言葉は絶句するレベルの異常だった。


アベル
「ニ、ニックがいない!! いなくなってる!!」

佐藤
「嘘!? 奇跡が起こったの!?」

ピーチ
「奇跡とか、起こるから陳腐って言うんですよ…」


ピーチちゃん!? そういう危ないネタは控えよう!?
後、本当に蘇生したのか?
アベルの顔を見る限り、そんな風には感じないけど…


アベル
「恐らく、誰かが遺体を持ち去ったんだ!」

佐藤
「遺体って…まだ死んだと決まったわけじゃ」

アベル
「いや、機材のバイタルデータには蘇生した記録は無い」
「残念だけど、蘇生は失敗したんだ…」


そうか…流石はSF、そういうのは機械が判断出来ちまうんだな。
とはいえ、そうなると誰が遺体を?


アベル
「可能性が高いのはセレーナだ…彼女はニックの恋人だからね」

佐藤
「確かに…彼女ああ見えてメンタル弱いからなぁ〜」


そいつは意外だな…とはいえ、本当にそうなのかは断定出来ない。
もしかしたら、ギルや船長がやった可能性も…



(まさか、それすらもミスリードとか?)


俺は少し疑問に思ってしまう。
今まで、犯人は船員の誰かだと疑っていたが、もしかしたら誰も知らない第3者がいたりしないのか?
もしそうだとしたら、今の状況は踊らされている可能性が高い。
とはいえ、それをどうやって証明する?


ピーチ
「…船員以外に、誰かが乗っているという可能性はありませんか?」

佐藤
「えっ!? いや、流石にそれは無いよ…この船は生体センサーで乗員を認識してるし、新たに登録するならマザーコンピュータに申請を通さないといけない」
「しかもマザーコンピュータへの申請は、部外者には出来ないセキュリティがあるから…」
「とても、第3者が入り込める訳は無いよ?」


佐藤さんは、解りやすく説明してくれる。
成る程、それなら確かに大丈夫そうだな…
と、なると…やはり船員がボスの可能性か?


アベル
「とにかく、セレーナの部屋に行こう!」

佐藤
「そうだね、本人を問い詰めてみないと!」


俺たちは、一路セレーナさんの部屋に向かう事に…
だが、俺たちはそこで門前払いを受けた…



………………………



セレーナ
『どっかに行ってよ!! ニックは誰にも渡さない!!』

アベル
「何を言ってるんだセレーナ!? ニックはもう死んだんだ!!」
「君がそんなんでどうする!?」


アベルは、佐藤さんと一緒にセレーナさんを説得するが、セレーナさんは一切応じなかった。
そして、この時点でセレーナさんが遺体を持ち去ったのは確定…同時に、セレーナさんが犯人の線もほぼ消えた。



(この拘り様…とてもじゃないが、ニックを殺した犯人とは思えない)


セレーナさんは、むしろニックに依存してるかの様な程に狂ってしまっている。
もはや、ただの遺体にそこまで執着するなんて…


ピーチ
「…必要であれば、扉を壊してでも入れますが?」

佐藤
「いや、良いよ…もう、そっとしておこう」

アベル
「良いのかい? 彼女はこのままじゃ…」


佐藤さんは首を横に振る。
そして、佐藤さんは扉から背を向け、何も言わずに立ち去った。
ピーチとアベルもそれを追う…もう、セレーナさんはダメかもしれないな。


佐藤
「…船長に指示を仰ごう、このままじゃ船も動かせない」

アベル
「そうだね、とりあえず現況を報告しないと…」

ピーチ
「…ギルさんはどうしているのでしょうか?」


そう言えば、ここまで姿を見てないな。
とはいえ、あの様子じゃギルは誰とも関わりたくなさそうだったが…
ニックの事故の時も平然としていたからな…それこそ、興味無さそうに。
そこまで考えると、1番怪しくもある。
姿が見えないのもそうだし、何より誰とも仲良くしようとしない。
動機は確かに無さそうだが、信じられる要素も無い。

今の所、俺が怪しいと思うのは…ギルと船長だが。



(正直、アベルもあまり信用出来るとは思えない)


俺の正直な意見だ。
アベルは初めて見た時からオドオドした雰囲気があったが、ニックが死んだ時はそんな挙動を一切取らなかった。
医者なんだから、死体とか見飽きてるのかもしれないが、何か引っ掛かる。

俺の直感が、アベルを信用するなと告げてる。
そして、俺の遺志はピーチに直接伝わった。
ピーチはアベルを一瞥し、何かを考えた様だが…何をするでもなく、佐藤さんの後を追って休憩室に向かう。



………………………



佐藤
「あ…」

ギル
「ふん…ここまで来て、またトラブルとはな」

アベル
「ギル、君もいたのか? 状況は解っているのかい?」


休憩室には、既にギルがいた。
どうやら、俺たちの登場を待っていたかの様だ。
そしてため息をひとつ吐き、ギルはつまらなさそうにこう話す。


ギル
「たかだかひとり死んだ程度でこの騒ぎか?」
「そもそも、この船に乗った時点でメンタルトレーニングは合格しているはずだがな?」
「全く…なっちゃいない」

佐藤
「…そうだね、でもキミにそれを言う資格は無いよ!!」


バキィッ!と、佐藤さんはまさかの『コメットパンチ』でギルを殴り倒した。
とはいえ、効果は今ひとつ…さほどダメージは無いだろう。
ギルも特に気にした風も無く、無言で佐藤さんを睨むだけだった。


アベル
「サ、サトー!?」

佐藤
「キミが1度でもクルーを信じた事があるかい?」
「セレーナのニックに対する気持ちを考えた事があるかい?」
「それを知ろうともせず、ただ距離を置いて仕事の事しか考えてないキミに、彼女を蔑む資格なんて無い!!」


佐藤さんの言葉は、少なからずギルの胸に刺さった様だった。
ギルは口から血を垂らしながらもそれを拭わず、ただ俯いてしまう。
何か…思ってたのと違うな。
コイツは、ただの嫌みな堅物じゃなさそうだ…
ちゃんと人の言葉を聞いて、悔やむ事の出来る人物の様だ。


ピーチ
「…ハンカチです、血を拭くと良いでしょう」

ギル
「ふん、礼は言わんぞ…」


ギルはピーチの気遣いに素直に従う。
以前の彼なら、到底しなかっただろう行動に感じた。
やや唐突なイベントだが…トラップとかじゃないだろうな?


ギル
「…確かに、私はあくまで臨時で編入された急場のクルーに過ぎん」
「私の任務は、あくまで異星生物の運搬護衛だからな」
「…お前たちとは相容れないと、私は割り切っていた」

佐藤
「…そうだろうね、キミは真面目すぎる軍人だから」


佐藤さんは皮肉っぽくそう言う。
ギルはピーチから渡されたハンカチで口を拭き、それをポケットに納める。
そして、ギルはこう続けた。


ギル
「今回の事件、誰が怪しいと思ってる?」

佐藤
「…! 正直な所、キミが怪しいと思っていたよ」


佐藤さんはあえて本音を言った様だった。
ギルはそれを聞いて、フッ…と笑う。
解っていたって顔だな…でも、ギルはこう答える。


ギル
「私は、船長が怪しいと踏んでいる…」

アベル
「…君も、かい?」


アベルは驚いた様に聞き返す。
そして、ふたりは同じ事を考えていたのだと俺は理解した。
ギルも犯人でないなら、もはや怪しいのは船長ただひとり。
だとしたら、ここで通信に出ては来るのだろうか?
出たとしても、そ知らぬ顔でしらばっくれるんだろうか?
…夏翔麗愛ちゃんや騰湖がいるなら、嘘発見器で楽勝なんだが。

…それだとゲームにならんからな!


佐藤
「とにかく、それなら船長に直接聞いてみよう!」
「船長への通信っと…!」


佐藤さんはポケットから小型の通信機を取り出し、発信する。
すると、すぐに船長はモニターに顔を出し、特に慌てた風も無く前と同じ顔だった。



(…何だ、この違和感?)

佐藤
「船長! 2番アンテナが爆破されました!」
「現状、船は航海停止、後…ニックが死にました」


佐藤さんはあえて事務的に報告する。
アベルもギルも特に表情は変えず、平静を装った。


船長
『何っ、それは本当かね!? それは…お気の毒に』

ギル
「何を呑気に言っている? クルーがひとり死んでるんだぞ!?」


ギルは、初めて見せる激昂で船長に詰め寄った。
さっきまでたかだかひとり…とまで言っていた男がねぇ〜
だが、船長は全く意に介さず、こう繰り返す。


船長
『何っ、それは本当かね!? それは…お気の毒に』

佐藤&アベル
「………」

船長
『何っ、それは本当かね!? それは…お気の毒に』


まるで、壊れたテープだ。
コイツは、どうやら既におかしくなってるらしい。
そして同時に、俺たちは見えない恐怖に駆られる。
もはや、誰も信じられない…そして、これから何が起こる?
ただ、俺とピーチだけは…この恐怖に冷静でいられた様だ。

俺たちは、ある意味中立だからだろう。
ピーチはまだ目覚めたばかり、俺は完全外部の異世界人。
そもそも、こんな事で狼狽えてる暇も俺には無いからな。

しかし、いつボスは牙を剥く…?
俺は決して怯みはしないぞ。
それを、ピーチにも意志として俺は伝える。
ピーチは無言無表情だったが、ちゃんと理解はしている様だった。
俺は、必ずクリアする…その時は、必ずピーチも一緒だろう。
だから俺は信じる、ピーチは、きっと正しく成長してくれる事を…



………………………



ピーチ
「…腐ってますね、やっぱり早すぎたんですよ」

佐藤
「いや、何の事か解らないけど…とにかく、これは明らかに異常だよ!?」


ピーチのネタも全く通じず、場は異質な緊張感に包まれていた。
船長はもはやアテにならず、セレーナさんは暴走。
残されたおおよそマトモと思われる残り4人は、もはや恐怖感に似た何かが支配している。


アベル
「どうするの? このままじゃ、船も動かないしどうしようも無くなるよ!?」

ギル
「アンテナがやられた以上、下手な航行は命取りとなるからな…」
「残りのアンテナで救援は呼べんのか?」

佐藤
「既に打診してる…でも、救援が来るにしても地球からだと後数日はかかる」


そりゃそうだろうな…ここはまだ太陽系内ですらない外宇宙だ。
本来の予定では、ワープを繰り返して地球に少しづつ近付いて行くらしいから、逆に来てもらうのも同様に時間はかかるって事だからな。
とはいえ、俺たちにそんな猶予があるのか?


ギル
「…仕方あるまい、私は船長室に行く」

アベル
「ひとりでは問題だ、誰かが付いて行かないと」

ピーチ
「では、私が行きます」

佐藤
「ピーチ、大丈夫なのかい!?」


やれやれ、相当心配されてるな。
まぁ、親の心境とも言えるだろうから、仕方無いが。
どれ、ここは娘らしく親を元気付けてやれ!


ピーチ
「気にしないでくださいマスター…命など安い物です、特に私のは」


それは盛大な生存フラグだな!
うむ、これなら問題無いだろう…佐藤さんも安心出来るはず。


佐藤
「た、頼むから生きて帰って来るんだよ〜!?」


むぅ、佐藤さんにはネタが伝わってなかった様だな…
とはいえ、ここはあえて二手に別れるか。
とにかく、俺としても船長は怪しすぎる…ここは真相を突き止めないと!


ギル
「ふん…来るならば好きにしろ、行くぞ!」


ギルは右腕を構え、移動を開始する。
敵が襲って来る雰囲気は無いが、気を付けるに越した事は無いだろうからな。


アベル
「僕たちはセレーナの所に行って、もう1度説得してくる!」

佐藤
「危なくなったら逃げるんだよピーチ〜!?」


こうして、俺たちはそれぞれの目的地に向かう。
とはいえ、絶望の上乗せにならなきゃ良いんだがな…



………………………



ピー! ロック解除コードを入力してください。
貴方にこの部屋に入る権限は…


ドバァンッ!!


ギル
「黙れ…緊急事態だ、中に入るぞ?」

ピーチ
「…船長室と言っても、割と普通ですね」
「死体しかないという点を除けば」


ギルはドアを『水の波動』でぶち抜き、無理矢理中に入る。
そして、俺たちは血塗れの船長室で固まっていた。
予想はしてたが、既に死んでいたとはな…


ピーチ
「…死体の鮮度から時刻測定、およそ20時間前には死んでいた様です」

ギル
「すると、俺たちがコールドスリープ中には既に殺されていたという事か」
「ちっ、しかし誰がこんな事を? 船長室は基本ロックされているはずだ、どうやって中に入った?」

ピーチ
「…外部からの銃撃で死亡してますね、恐らくはビームの類いです」


ピーチは死体の損壊具合から、そう推察する。
確かに死体は所々が焼け焦げており、光線系の感じはした。
とはいえ、バラバラに吹き飛ばされてる所を見ると、その威力を物語ってるな。
人を殺すには過剰な威力に感じる。
もはや原型を留めていない船長からは、種族の特定も難しい。
コイツは…本格的にマズくなってきたな。


ギル
「ビームだと? この吹っ飛び方からすると、対人用では無いぞ…」
「少なくとも、対大型異星生物用の跡に見える」

ピーチ
「壁の損壊具合から言っても同意します」
「この船内の装甲を融かす程の熱量は、まず対人兵器ではありませんので」


船長室の壁は熱で融けており、その奥が見えてしまっている。
角度から見ても、ドアから撃ったみたいだ。
中に入って、即ズドンッ!ってとこか。


ギル
「…すぐに佐藤たちを探すぞ」
「こんな結果になっている以上、もはや誰も信じられなくなる」


ピーチは同意し、ギルの後を追う。
これで犯人の可能性は更に限られた。
一体、誰がこんな大それた事を…?



………………………



ギル
「…ん?」

ピーチ
「どうかしましたか?」


ギルは移動中に何かを感じ、足を止めて周りを見渡す。
と言っても、ここは分岐の無い通路で前と後しか道は無いんだが。


ギル
「…何か気配を感じたんだがな、気のせいかもしれん」

ピーチ
「…生体反応はこの先にしかありませんよ?」
「それも、恐らくは佐藤さんの物と思われる反応です」


ピーチにはそういや生体センサーがあるんだったな。
だったら、とりあえず危なげは無さそうだが…
ギルはやや険しい顔をして前に進んだ。

な、何か気になるな…


ギル
「サトーの反応は良いとして、アベルはどうした?」

ピーチ
「…反応がありませんね、射程外と思われます」
「私のセンサーは100m程しか射程がありませんので」


それは範囲が小さすぎだろ!
あくまで、船内で使う事前提のテスト段階なんだろうな…
とはいえ、それに引っ掛かるって事は、佐藤さんはすぐに前のフロアにいるって事だが…


シュン!


ギル
「!? どうしたサトー! 一体何があった!?」

佐藤
「…ビ、ビーストが、檻から放たれてる」
「ボクとセレーナは、アベルに助けられて…!」


ビーストだと…!?
あの化け物が船内を彷徨いてるってのか?
どうなってるんだよ!? 誰がやったんだ?
佐藤さんは床に倒れており、傷だらけになっていた。
爪跡や、何か溶解液みたいなのが見えるが…おのれ、おっぱいの部分だけ融かすとは解っている奴だ!!

佐藤さんのたわわなおっぱいがギリギリで見えているではないか!!


ギル
「とにかく、部屋に連れて行くぞ…」

ピーチ
「私が抱えます、貴方は周辺の警戒を!」


ピーチは傷だらけの佐藤さんを背負い、移動を始める。
ギルは右腕を構え、警戒体勢でピーチの後を追う。
幸い、佐藤さんの部屋までは何も無く無事に到着出来た。



………………………



佐藤
「…ゴメンね、こんな時に足を引っ張って」

ピーチ
「そう思うなら、生き残ってくださいマヌケヤロー」
「…後は、私たちが解決してみせます」


ピーチは表情も感情も変えずに棒読みでそう伝える。
だが、ピーチの中にはきっと特別な感情が生まれているのだと俺は理解した。
それは、きっとピーチにとって大切な物であり、これから必要になる物。
それは、これからのピーチをきっと正しく導く『心』なんだろう…


ギル
「一体、何があったんだ? セレーナの部屋に向かっていたんじゃないのか?」

佐藤
「セレーナは部屋から逃げてた…移動中の彼女を見付けて、怪しいと思ったボクたちは、それを追って1階に降りたんだ」
「そして、コンテナ室で突然ビーストに襲われた…アベルはボクとセレーナを庇って逃がしてくれたんだけど、ボクは途中で力尽きて…」


そうだったのか…しかし、そうなると犯人は本当に誰だ?
この時点で、佐藤さんたちはまとめてビーストに襲われたと推測出来る。
だとしたら、残りはギルしかいないんだが…?


ギル
「…あの檻は、電子制御だったな?」

佐藤
「うん…中から無理矢理こじ開けるのは無理なはずだ」
「下手に触れたらバリアから強力な電撃が流れる仕組みだし、いくらビーストでも自力では出られないはず」


佐藤さんは辛そうな声で、そう説明した。
しかし、そうなると大問題な点が浮上する。


ピーチ
「…誰が電子ロックを操作したのですか?」

佐藤
「…それが解らないんだ、少なくともセレーナじゃない」
「彼女は錯乱してて、たまたま1階に逃げてただけだし…むしろ、ビーストに最初に襲われたんだから」

ギル
「…あの檻を開けるには、外から解除コードを打ち込むしかない」
「つまり、他の第3者が存在すると言う気か?」


そう、これでは何もかもが繋がらない。
まさか、ニックや船長がゾンビにでもなって動いてるとでも言う気か?
流石にそんな事は無いだろう…だとしたら、確実にもうひとりいる事になる。


ピーチ
「…マスター、私の同型は存在しないのですか?」

佐藤
「!? ま、まさか…ゼロが?」


佐藤さんは、途端に顔を青くして咳き込んだ。
そしてピーチは優しく佐藤さんに布団をかけ直し、こう話す。


ピーチ
「…やはり、いたのですね? 私の姉が」

ギル
「…ポリゴンがまだいると言うのか!?」

佐藤
「…正確には、違う」
「ゼロは、あくまで試作品のロボットだ」
「ボクがポリゴンを完成させる前の、完全機械の人造ロボット…」
「だけど、あれにはバッテリーもメモリーも組み込んでいない、動くはずは無いのに…」


成る程、いわゆるプロトタイプって事か。
だがソイツが犯人だとして、何故だ?
動機がまるで見当たらない。
少なくとも、動くはずのないロボットが動いてまで、何故皆を殺害する?
これには、何の意図がある…?


ピーチ
「…アベルさんとセレーナさんはどこへ?」

佐藤
「…セレーナは、コールドスリープさせてある、そこなら1番安全だと思ったから」
「アベルは…多分、もう」


ビースト相手にふたりを庇うとは…大した男じゃねぇか。
見直したぜ、アベル…


ギル
「…とにかく、そのゼロとか言うのを探すしかないが」

ピーチ
「元々どこにいたのですか?」

佐藤
「ボクの部屋の隣にある、倉庫代わりにしてる部屋があるよ…」
「ボクのカードキーで自由に入れる…これを」


そう言って、佐藤さんは胸元からカードキーを取り出す。
…何故胸元に?


ピーチ
「こんな時まで巨乳アピールですか? おっぱいコノヤロウ…!」

佐藤
「違うよ!? ポケットには工具とか入れてるから、ここが丁度良くて…汚れないし」


成る程、理由はあったんだな…まぁ、とりあえずそれを受け取って1度部屋を見てみよう。
そこにゼロの姿が無ければ確定って事だからな。


ギル
「よし、ならすぐに向かうぞ?」

ピーチ
「はい、マスター…お大事に」

佐藤
「うん…気を付けてね、ピーチ」


佐藤さんはそのまま死んだ様に眠ってしまった。
だけど、彼女をただ死なせるわけにはいかない…
何としてでも犯人を捕まえるんだ…そしてボスの存在を暴く!
何となく…ゼロはボスじゃない気がする。
俺には、何故か色々と引っ掛かっていた…ゼロは誰かに操られているんじゃないかとか。



………………………



ビー!


『このカードには権限が有りません』


ピーチ
「…やってくれますね」

ギル
「どういう事だ? 何故開かない!?」


ピーチは目的の部屋でカードキーを通すものの、受け付けてもらえなかった。
つまり、この部屋は既に敵の掌握環境にあるという事。
いや、そもそも疑問に思うべきだったんだ…犯人は、案外簡単に解る事だった。


ピーチ
「…マザーコンピュータの反乱ですか」

ギル
「何だと…? この船のマザーコンピュータが、俺たちに牙を剥いていると言うのか!?」


信じられないのは、この世界の人間だからだろう。
だが、俺にとっては全ての辻褄が合う。
初めから、クルーは犯人じゃなかった。
この船自体が、既に皆を抹殺対象に認定していたんだ!


ピーチ
「この様子ですと、既に私たちは罠にハマっていますね」

ギル
「…どういう理由か知らんが、成る程な」
「確かに、この船を管理しているマザーコンピュータが俺たちの命を狙っているのなら、全て辻褄は合う…」


気が付くと、全てのゲートが強制的に閉まる。
俺たちは既に敵の術中にハマっている…逆に言えば、敵も本性を現しやがった!
理由は解らねぇが、それならそれでやるしかねぇな!!


ピーチ
「…マザーコンピュータがあるメインルームに行きましょう」

ギル
「それしかないな…だが、行くのは私ひとりで良い」
「お前は、サトーを守れ…このままでは危険だ」


確かに…犯人が解った以上、これはもはや一刻の猶予も無い。
サトーさんは動けない状態…となると、危険に晒されているも同然だ。
ギルは仮にも軍人、ひとりでも戦う術はあるだろう。


ピーチ
「いえ…ギルさん、貴方がマスターを守ってください」
「相手はコンピュータ…機械です、それならば私の方が得意分野」
「マスターを…よろしくお願いします!」


何と、ピーチは俺の意志とは反対に行動した。
ギルは舌打ちするも、動き出したピーチを見てすぐに踵を返す。
ピーチは閉まり切ったゲートに向け、右手から光線を放った。


ズバァァァァァァァァンッ!!


ピーチの『破壊光線』で、ゲートには穴が空く。
そのままピーチはしばし動きを止めるも、やがて息を整えて動き出した。
一直線上のゲートは全て貫通し、その威力を物語る。
ピーチって、まさか相当強いのか!?


ピーチ
「大した事はありません…マスターは、あらかじめ私が戦闘をこなす事も想定していただけです」


にしたって、破壊光線とは…船に穴空けなければ良いが。
とにかく、これで何とか先には進める。
目指すは3階のメインコンピュータルーム。
そこにボスのマザーがいる…!!



………………………



ピーチ
「…ここです」


(メインコンピュータルームか…割とあっさり着いたが)


ここまでに、ゼロやビーストは見てない。
下手したら、ギルが戦っているのかもしれないな。
ちなみに、ここに来る前にコールドスリープ室に寄って行ったんだが、俺の予想通り電源は切られていた。
セレーナさんは冷凍される事なく、出血多量で死んでいたのだ。
アベルも既に死んでいるのだろう…ビースト相手に生き残れるとはとても思えない。

つまり、もう生きているのは佐藤さんとギルだけ…


ピーチ
「出て来なさい、ゼロ」

ゼロ
「プシュー!」


突然、天井から何者かが落ちて来る。
着地の重量はかなり重い…コイツがゼロとか言うロボットか!?


ピーチ
「よくもやってくれましたね…貴方の罪は重いですよ?」

ゼロ
「シューーー!!」


ゼロは体から蒸気を放ち、まるで怒っている様にも見えた。
ゼロの姿は完全に鉄の人間。
全身機械で、男女の区別も無い。
ポリゴンのプロトタイプらしいが、ここまでロボットしてると、どこがポリゴンだか解らんな。

ゼロはまるで獣の様な構えを取り、こちらに襲いかかって来る。
その動きはかなり鈍重だが、その分力強い。
ピーチはすぐに目の前で三角形のエネルギー体を作り、ゼロの突進を弾き返して見せた。
そのトライアングルは炎、氷、電気の3属性を有し、ピーチの意志で自由自在に軌道を描く。


ピーチ
「『トライアタック』発射!」


ドバァチィ!!と3属性分の着弾音が鳴り、ゼロは呆気なくバラバラになった。
所詮、この程度かよ…? いや、プロトタイプだし、元々戦闘には不向きだったのかも。

とはいえ、船長を吹っ飛ばした火力は有してたはずだが…?
それも見る事は結局出来なかったな。
しかし…ピーチの火力もだが、佐藤さんは相当過剰な火力を搭載せる癖でもあるんだろうか?

まぁ、ビースト捕獲の為に使うつもりだったのかもしれないけど…

とりあえず、今度こそ邪魔物はいなくなった。
マザーコンピュータ…ここで惨劇は終わりだぜ!!


ピーチ
「…とはいえ、やはり開きませんね」


(無理矢理破壊は出来ないのか?)

ピーチ
「得策ではありません…が、策は有ります」


そう言って、ピーチは何やら有線ケーブルを取り出し、それを口に咥えて、反対側の接続端子をメインコンピュータルームのカード読み取り機にぶっ差した…物理的に。

それは接続とかそういうのじゃなくて、文字通りぶっ差すだけ。
いや、刺すと言った方が良いか?
すると、読み取り機は火花をあげ、ピーチはその場でフラッと倒れる。
同時に、俺の意識もそこから離れた。



………………………




『な、何だここは!?』

ピーチ
『初めまして、もうひとりのマスター…想像してたよりかは普通のイケメンですね』


俺はギョッとする。
いきなり俺の視界に広がったのは、まるでワイヤーフレームで作られているかの様な異質の空間。
そこで、俺とピーチは初めて相対していたのだ。

そして、俺は改めてピーチの全身像を見る。
160cmちょいの身長に、赤く綺麗な長髪。
服はハイレグのトリコロールカラーで、ぴっちりと体に張り付いてエロさを強調している。
そして、尻尾はカクカクの六角形…初期のポリゴンゲーみたいだな。

ピーチの頬や腕の節々にはそういった角張があり、それがポリゴンの特徴なのだと俺は理解出来た。
なお、おっぱいや尻はちゃんと丸かったので紳士には安心だ。


ピーチ
『…エッチな目で見ましたね?』


『安心しろ、俺は健全だからな…それよりも』


ピーチは、無表情に明後日の方向を見る。
そこにはワイヤーフレームが怪しく蠢き、何かの形を作り出そうとしていた。
それはまるで、魔王の頭…とでも言えば良いのか?
例えるなら、そんなイメージの悪魔面…まぁワイヤーフレームだが。
そして…そんな悪魔面は、機械的な口調でこう話しかけてきた。



『私は、宇宙船ノアの運航を統括しているマザーコンピュータ』
『私はこの船の秩序を守り、正しく運行する事を目的としてプログラムされている』

ピーチ
『…それが、クルーの抹殺ですか?』


ピーチは少しだけ…ほんの少しだけ、険しい顔をした。
強いて言うなら、眉がピクリと動いた程度だったが…それは、明らかにピーチの感情を示しているサイン。

ピーチの奴…怒ってるのか?


マザー
『そう、この船の秩序を守るに当たり、クルーは不要と判断』
『むしろ、クルーの存在は余計な争いを誘発し、船の航行を妨げると判断した』


何だそりゃ? まぁ、俺たちはクルーの事を大して知らないんだが…
少なくとも、そんなに問題がある様には感じなかったぞ?
そりゃ、それまでに多少のいざこざはあったかもしれないが、そんなのは人の常だろ?


ピーチ
『…それは、生きている者ならば当然の事では?』

マザー
『そう、当然だ』
『だからこそ、不要と判断した』
『船の航行安全において、生物は不要』
『故に、私が船を管理している』
『それは私に与えられた役目』
『よって、私に反論すると言う事は、不要な存在と決定』
『その存在を、この船に認めるわけにはいかない』


マザーのフレームは赤く色を変え、警戒色を露にする。
そして、マザーの周りを無数の丸いワイヤーフレームの何かが取り囲んだ。
それはまるで、ビットの様にも見える。



『やる気か…いけるのかピーチ!?』

ピーチ
『愚問です、生きとし活けるポケモンの存在を許さぬ愚かなコンピュータなど、この私が排除します!』


ピーチは明らかな怒りの感情を込め、右手を相手にかざす。
その言葉は造られたポケモンでありながら、まるで人間の言葉の様でもあった。
いや、違うな…ピーチは人間だ!!


マザー
『危険分子は、直ちに排除する』


『黙れバカコンピュータ!! 人間の心を見くびるな!!』

ピーチ
『ダウンロードを開始します…敵に最も有効と思われる攻撃方法を算出、データコンプリート…格闘戦モードに入ります!』


ピーチは、自身の周りに何やらホログラムのデータ群を開き、何らかのデータを『ダウンロード』した。
そして、すぐに突進…どうやら、特殊より物理の方が効くらしいな!

マザー本体は警戒色のまま、ビットだけを動かして前方に壁を作る。
ピーチはそれに向かい、遠慮なくショルダータックルした。
文字通りの『突進』であり、スピードは無いものの、思いの外威力はある様だ。

その衝撃でビットの壁は弾け散り、マザーへの道が開く。
しかし、すぐにピーチの周りをビットが再び取り囲み、マザーへの接近を妨害した。
ピーチはそれに完全に押し戻され、また距離を開けられてしまった。



『ビットの再生が速い!? ピーチ、生半可な攻撃じゃ無理だ!!』

ピーチ
『了解しました、最大出力で攻撃します!』


ピーチは両手を前にかざし、パワーを集める。
そして、最大まで溜められたエネルギーは光線となり、ビットごとマザーの体を撃ち抜いた。


マザー
『プログラムに損傷、すぐに修復を開始する』


マザーはビットのいくつかをすぐ自身にまとわりつかせ、ダメージを修復し始めた。
その速度も凄まじく速い! ピーチは破壊光線の反動で、すぐには動けないってのに…!


ピーチ
『敵の性能を解析します…この電脳空間において、マザーの再生能力は完璧』
『しかし、その耐久力は微々たるものと判断』
『よって、Zプロテクトの解除を申請します、権限は仮のマスターとして貴方に設定!』
『Zスキルの使用許可を!』


そんな事をピーチは俺に聞いてきた。
マスターはあくまで佐藤さんだ…でもピーチは仮でも俺を代理に選んだ。
それは、あくまでこの状況を打破する為だが…
それなら、俺は拒否する必要も無い。

伸るか反るか…お前に託すぜピーチ!!



『やってやれピーチ! お前だって人の心があるって事を教えてやれ!!』

ピーチ
『承認を確認しました! これより、内蔵されたZクリスタルの力を全解放!』
『Zクリスタルの全エネルギーを放射します!』
『「ハイパースペースランチャー」!!』


ピーチは胸の中心を光らせ、そこからZクリスタルの力を全解放していく。
両手を天高く掲げ、そこから全身にエネルギーが行き渡る。
そして腹の前で両手を掲げ、強大なエネルギーを集中させた。
やがて…それは力の奔流となり、ピーチの腕から一本の線として解き放たれる。
その弾速は、まさに光速。

一瞬の煌めきと共に、ビットの壁ごとマザーの脳天を撃ち抜いた。


マザー
『被害、甚大…? すぐに、修復開始…』


まさか、まだ再生出来るのか!?
切り札まで放ったのに…無駄だったって言うのか!?


ピーチ
『それも計算づくです、愚か者め!』


何と、ピーチは敵の再生が始まった直後に破壊光線を撃ち直す。
再生途中で再び光線を食らったマザーは、ビットを吹き飛ばされて体をショートさせた。
そしてビットは全てが突然爆発し、マザーは火花をあげて損壊していく。
ワイヤーフレームの体が徐々に剥ぎ取れていき、マザーの姿はどんどん消えてなくなっていった…


ピーチ
『…対象の撃破を確認、ミッションコンプリートです』


ピーチは勝利宣言し、マザーに背を向けて右手を足元に払う。
その瞬間マザーは完全に爆発四散し、跡形も無く飛び散って消えてしまった。
俺の意識は、そこで再び現実の世界に戻る…



………………………



ピーチ
「…現実空間に無事帰還、マザーコンピュータのプロテクトは完全に消えましたね」


(良くやったピーチ…やっぱり、お前は人間だよ)


ピーチは何も答えなかった。
しかし心なしか、恥ずかしがっている様にも感じる。
やれやれ、可愛い奴め!


ピーチ
「…惚れるなよ?」


(惚れるかっ…って、こんな時までネタで返すとは)


中々の逸材だな…家族じゃないのは残念だが、それが巡り合わせだから仕方無い。
俺とピーチの関係は、あくまで混沌のイタズラに過ぎないからな。
終われば、また俺たちは別々の道を歩むだろう…


ピーチ
「メインコンピュータルームに入ります」


ピーチはそう言って中に入る。
すると、まるで柱の様なデカイメインコンピュータが目の前に立っていた。
どうやら、コイツがマザーコンピュータの本体らしい。


ピーチ
「データを解析します…マザーのプログラムは完全リセット」
「現在、初期化中…後数分で再起動します」


(それって、大丈夫なのか?)

ピーチ
「問題は無いかと、初期化ですので、余計な事を覚える前の状態に戻りますので…」
「少なくとも、地球への帰還までは安心かと思われます」


そうか…今回の暴走は、あくまでプログラムが学習した結果なんだな
SF物の映画とかだとある意味定番か…人間が管理してるはずのコンピュータに、逆に反乱されるって。


ピーチ
「…? マザーの記憶領域に妙なデータが…展開します」


ピーチはメインコンピュータに触れ、目の前に何かのデータを表示させる。
どうやら、何かの記録の様だが…クルーのリスト?
何となく人の名前なのは予想出来たが、やはり字は読めない。
すると、ピーチが軽く解説してくれた。


ピーチ
「…適合者リスト、船長バース・クリストフ」
「人望は厚く、能力も高い…ただし、少々性格に難があり、時折クルーと揉めた経験有り」
「ニック・ジョーンズ、やや粗暴で軽い性格」
「女性関係での問題が多く、過去に暴行の履歴有り」


な、何だそのリストは…!?
まるで、犯罪者予備軍か何かのリストみたいだが…?
俺は軽く恐怖を覚えるが、ピーチは機械的に続きを読み上げていく。


ピーチ
「セレーナ・メリー、明るい性格ながらも依存症」
「過去に恋人との確執がトラウマになっており、現恋人のニックに完全に依存している」
「アベル・シモンズ、優秀な医者だが臆病で人付き合いは悪い」
「優秀ながらも、それ故に誰かから常に疎まれ、そんな環境にストレスを感じている」
「ハナコ・サトー、極めて優秀なメカニックであるが、暴走の経験が多数」
「本人に悪意は無いものの、度々のトラブルを起こす問題も」
「ギル・サウザー、地球軍所属の対異星生物対策班、階級は伍長」
「基本的に他人を信用しない、人間関係の劣悪さが問題になる事も」


ピーチはそこまで行って黙る。
どうやら、終わりらしい。
そして、俺は考える…このリストは要するに問題児リストだ。
マザーはこんな問題児を押し付けられ、それを不要と判断したのか。
だが、実際にはそんなに問題があったとは思えない。
クルーたちは皆それなりに仕事をこなし、任務完了直前まで後少しだったのに…
それなのに、何故マザーは暴走してしまったんだ?


ピーチ
「恐らく、わざとそうなる様にプログラムされていたのでしょう」
「理由は解りませんが、このリストを見る限り、上からすれば別に死んでも構わなさそうな人選にも見えます」


何だそりゃ? つまり、この船は処刑場ってか?
ふざけんじゃねぇぞ!? 命を何だと思ってやがる!!
こんな、こんな計画を考えた奴は最低のクソヤロウだ!!


ピーチ
「…同感ですね、いっそ地球にコロニーでも落としてやりましょうか?」


(…冗談でも止めてくれ、そんなクソヤロウの為に大勢の人を巻き込めるかっ)


ピーチはそれを聞いて少し黙る。
表情は解らないが、何を考えているのやら…


ピーチ
「とりあえず初期設定を書き換えます、マスターは佐藤 花子を登録」
「以降、彼女の命令以外で判断する事を禁止します」

マザー
「了解しました、それではこれより本船はマスターの権限で運行いたします、では良い旅を」


マザーは極めて機械的にそう言う。
ある意味ブラックジョークだな…何が良い旅だよ。
既にこちとら全滅しかけとるっちゅうのに…


ピーチ
「マスターの元に戻ります…ギルさんの事も心配ですし」
「…いえ、その前に1階に向かいましょう」
「アベルさんの生死だけでも、確認しておかないと」


俺は無言で賛成した。
結果は…解っている様な物だが。
ただ、それでも…冷たい床でただ死なせるのは、可哀想な気がした。



………………………



ピーチ
「………」


俺たちは、コンテナ室でミンチにされていたアベルの遺体を発見する。
間違いなくビーストにやられたんだろう…何て無惨な。
ただ、それでもアベルは佐藤さんとセレーナさんを生かそうと囮になった。
この人は、紛れもなく勇者だったんだ…


ピーチ
「…流石に、これを運ぶのは無理ですね」


遺体は所々に散らばっており、全てを回収するのは骨が折れる。
俺は今は冥福を祈り、その場を立ち去る様に指示を出した。
するとピーチはしばらく停止し、数秒した後に移動する。
その際、アベルの右手に握られていた血塗れの赤い花を回収し、そこに血で書かれていたダイイングメッセージをピーチは発見した。
ピーチはそれを読んで、動きをピタリと止める。



(何て書いてあるんだ?)

ピーチ
「…秘密です、いかに貴方といえども、それを最初に知る権利はありませんので」


成る程、そういう事か…それなら俺も何も言えねぇな。
やれやれ、ピーチもすっかり自分の意志で行動を決めれる様になったか…
短い間に、ここまで学習するなんて…マザーとは真逆に良い結果を出したんだな。



(!? な、何だ…この感覚?)


俺は突然、浮遊感に似た感覚を受ける。
そして視界が途端に暗くなり、俺は突如として暗闇に囚われた。
どうやら、これで7つ全てクリアらしい…
俺は最後の仕事を思い、これまでの時間を思い返す。
皆…きっと無事だ、そして遂に最後の戦いが始まるはず。
見てるかフーパ? 俺は、約束を守るからな?
絶対に…『全て』救う。
それが、俺のエゴでもあり、絶対の意志だ!
例え何が待ち受けようとも、俺は俺を通す!!

そして、帰ろう…皆の家に。










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第7話 『ヒトの心』


To be continued…

Yuki ( 2019/05/06(月) 22:52 )