とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない













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第5章 『POKE MOA EVIL』
第5話 現代編

「…やれやれ、せっかちだよな本当に」

フーパ
「まぁ、ようやく折り返しだし、気楽に考えたら?」


そう、これでようやく4つ目…半分を過ぎたのだ。
しかし、予想では最後にラスダンが控えているはず、つまりそれも含めてようやく折り返しだな…



「…しかし、原始から始まって気がつきゃ幕末」
「段々歴史が進んでるみたいな感じだが、次は何だ?」
「雰囲気的には世界大戦辺りか…だとしたら相当な面倒さが予想出来るが…」

フーパ
「まぁ、流石にそこまで面倒なシナリオは組んでないよ」
「もっとも元ネタ的に言うと容量足りなさすぎるから…」


「まぁ、それなら仕方が無いな」
「とりあえず、お迎えの様だ…今度は牢屋じゃ無い事を祈るぜ?」


俺は暗闇の中、光るゲートに吸い込まれていく。
そして世界を越え、俺は5番目の世界に送られた…



………………………



POKE MOA EVIL 『現代編』

『鉄拳』




「あれ? 今度は偉く現代的な室内に…」


「誰だっ!?」


っとお? これまた突然に声をかけられたな…しかもこれは、また見覚えのある肉体美。
その人は室内でトレーニングしていた様で、全身から健康的な汗がびっしょり。
黄色の短髪も汗でテカっており、瞳はキリッと黒く鋭い。
そして、目測90cmはあろうかと言う爆乳は、袖の無い白トレーナーの下で透けており、下着が完全に見えていた。



「うーむ、眼福だな…さすがは李さん」


「さ、聖様!?」


李さんは俺の姿を確認してオーバーに驚いていた。
まぁ、予想3ヶ月も会ってなかったなら仕方ないわな。
とはいえ、今度は李さんか〜

李さんの姿はいわゆるトレーニングウェア。
上半身は白の袖無しトレーナーで、下はこれまた白の短パン系だった。
元々150cm程度の身長にやや短足だが、特筆すべきはやはり上半身。
特に両腕の太さは凄まじく、ケケンカニ特有のその腕力はかなり凄まじい。
反面、素早さはかなり低く、機動力は無いタイプだ。



「しっかし、李さんまた筋肉増えてません? 前はそこまでじゃ無かった気がするんですけど…」


「うーん、ここ3ヶ月やる事も他に無かったし、とにかく筋トレと技のトレーニングを繰り返してたから…」


成る程、それでその汗か…李さんってやっぱ体育会系って感じだよな〜
暇がありゃ筋トレて…



「しっかし、これどうすんだ?」
「とりあえずボスとか以前に、情報が無さすぎるだろ…」


開幕から安全とはいえ、いきなり訳も解らない状態でスタートするのも、それはそれで問題だな。
まぁ、初期のクソRPGはそんなの多かったのだが…
何の説明も無しに、いきなりフィールドに放り出される勇者の気持ちが解るわ。


フーパ
『とりあえずヒントはやるよ…世界を回れ、そして闘え』


(そりゃまた、何つーアバウトな…しかし、世界をねぇ)


俺はとりあえずトレーニングルームらしき部屋をグルリと見渡してみる。
特に目立つ物は無く、フツーのトレーニングルームみたいだった。



「そう言えば、3ヶ月の間どうやって生活してたんですか?」
「まさか家買ったとか、そういう訳じゃ無いんでしょ?」


「いや、何か定期的に格闘大会とかあって、それで優勝したら賞金入るから、それで生活してる」
「ここも賃貸で借りてて、今はトレーニングしながら大会賞金で稼いでるんだ」


成る程、大体ルールが飲み込めて来た。
そして俺はこんな迷台詞を思い出した…



「確か見てみろ!!」


「はい?」


流石に通じなかったか…李さんはあまりネタに愛されてないらしい。
まぁ、とりあえずそれなら大会とかの情報を集めるしかないな…
俺たちは一旦外に出る事にする。
つーか、腹減って洒落にならねぇ…



………………………




「いやぁ、助かりますよ…この世界の通貨持ってるわけも無く」


「はははっ、聖様もおっちょこちょいだなぁ♪」


李さんに笑われてしまった…
俺はとりあえず日本そっくりの現代的な世界で、フツーにハンバーガー店に入って注文してしまってのだ。
そしたら、通貨違う事に気付いて慌ててしまい、李さんが代わりに払ってくれたという…
やれやれ、格好悪い所見せちまったな…



「でも良かったよ…聖様が来てくれたなら、この訳解んない世界から戻れるんだろ?」


「そう…ですね、一応…条件付きですけど」


俺は定番のチーズバーガーを食いながらそう答える。
李さんはビーフパティ四段重ねのドデカいバーガーを平気で平らげていた。
やっぱ、李さんは結構食うよな…背は高くないけど、筋肉ある分やっぱりエネルギーがいるんだろうし。
李さんはそのままLサイズのコーラをイッキ飲みしていた。



「んぐっんぐっ! ぷはぁ〜!」
「それで、聖様はどうやったら元の世界に戻れるのか知ってるの?」


「とりあえず、この世界にいるボスを倒す事ですね」
「問題はどこにいるかも解りませんし、そもそも今の李さんで倒せるのかは…」


李さんは難しい顔で腕を組み、うーんと唸る。
まぁ、考えるのは間違いなく苦手な人だろうが。
いや、まだ解らんぞ? 杏さんだって体育会系に見えて参謀だったし、案外李さんも…?



「とりあえず、聖様着替えた方が良くね?」
「何でカンフー的な服着てるのかは知んないけど…相当汚れてるし、最初びしょ濡れだったもんな…」


「え…あ、そ、そうですね」


どうやら既に考えるのは諦めていたらしい。
李さんらしいと言えばそうなんだろうが、やはり考えるのはことさらにダメそうだな。
とはいえ、李さんの言う事ももっとも…結局幕末では着替えも風呂も飯も無かったからな。
改めて考えると、短期間とはいえ幕末はスピード攻略だったな…



「とりあえず近くにデパートあるし、そこで買い揃えようぜ?」
「金はアタシが出すし、遠慮無く頼ってくれな♪」


李さんは逞しい笑顔でそう言ってくれた。
李さんって、色んな意味で姉御肌だよな…
男勝りのテンプレではあるものの、むしろ李さんはガテン系や格闘系のソレだからな…
色んな意味で家族の中じゃ珍しいタイプになるよな…



「とりあえず、李さんの意見に賛成します」
「あ、それから良い忘れてましたけど、俺の事は呼び捨てで構いませんよ?」
「李さんの方が年上なんですし、上司でも主でも無いんですから、様付けは必要無いと思います」


「うん? そっか! だったら、聖!!」


「は、はい?」


「早速デパートに行くぞ!?」


そう言って李さんはノリノリで店から出て行った。
俺は慌ててふたり分のトレーを片付け、すぐに後を追う。
そして俺は確信した…李さんはすぐに周りが見えなくなるタイプだ、と。



………………………




「とりあえず、こんなとこか…」


俺は無難に黒のTシャツと紺のジーンズを選んだ。
流石に拳法着を見られて、店員さんにポカンとされてたな…
どうもこの世界では夏になっているらしく、気温はかなり暑い。
とりあえず、薄着で十分だろ。



「聖、靴も買っておいたぜ! スポーツシューズだから、運動にもちょうど良いと思う」


「ありがとうございます、早速替えさせてもらいます♪」


俺はとりあえず着替えを済ませ、改めて街へ出る事にした。
今いる街は都心みたいな賑やかな場所で、数え切れない程の人化したポケモンが歩いている。
種族もバラバラで同じポケモンを探すのも苦労する位だ。
ここまで現代的な世界にポケモンが馴染んでると、違和感すら消えそうだな…



「さって…じゃあこれからどうする?」
「ボス倒すったって、どこにいるのかも解らないんだろ?」


「はい、とりあえず…世界を回って闘うのが近道っぽいんですけど」


正直、キッカケも何も解らない。
世界大会とかそんなんに出るのだろうか?
俺はそこで妙なチラシを見付けた。
それにはデカデカと書かれた最強の2文字。
そして、ソレを中心に6人のポケモンが映っていた。



「6人の中で世界最強は誰か!?ねぇ…もしかして、これが世界を回って闘えっていう?」


「へぇ〜、つまりはあの6人に勝ったら最強って事か?」


「まぁ、この世界的にはそうなんでしょう…でも、李さんはやれると思います?」


俺が確認の為に聞くと、李さんは考える事無くこう答える。



「知らね! やらなきゃ解んないだろ?」


「…ですよね」


俺は改めて確信した。
格闘ポケモンならやってやれだ!!
と、いうわけで…俺たちは急遽ムエタイの王国に向かって飛行機で出発した。
ちなみに、パスポートとかそういう面倒なのはこの世界には無いらしい。
そもそも国とか多くもなく、地図見たら地球とは明らかに違う狭っ苦しい世界みたいだった…



………………………




「へぇ〜飛行機って中はこんな感じなんだな〜」


「旅客機としてはかなり小さいですけどね…スピードはその分速そうですけど」


俺たちが乗ったのは格安系の飛行機みたいに座席数が少ない飛行機だった。
それでも利用者は多いらしく、座席は満席。
予約無しで乗れたのは運が良かったみたいで、とりあえず移動はこれで良いらしい。
この世界では、飛行機が主な移動手段なのかもしれないな…



「しかし、ムエタイの王国『ライタン』ねぇ…」


「アタシがいた、世界はポンジーってんだって」


他にもとりあえず後6つ位は国があるらしい。
その内5つには残りの最強ポケモン候補がいるって訳だ。


キャビンアテンダント
「ビーフオアチキン?」


「あぁんっ!?」


俺はつい反応してしまうがもう遅い。
しかし、ここで李さんはすかさずに俺の前に腕を出し、俺の暴走を阻止する。
そして李さんは至ってフツーにこう答える。



「…ビーフ!」

キャビンアテンダント
「イエス…」


こうして、俺たちの前には機内食が配膳された。
…やるな李さん、どうやら隠れたネタの才能はあったらしい。
全く、ネタの神様はいつ振って来るか解ったもんじゃないぜ!
(ちなみに良い子の皆は絶対真似すんな!?)



………………………




「で、時間はすっ飛んでライタン到着っと!」


「何か変わった服装のポケモンが多いな〜」


流石に気候はアジアって感じだな。
あえて言うならタイっぽい…まぁムエタイの王国って言っちゃってるしね!
あえてキックボクシングじゃないもんね!!



「さて、パンフレット見るに、目的のムエタイ使いは割と近くのジムにいるそうだけど…」


「とりあえず乗り込むんだな!?」


李さんはヤル気満々だが…本当に大丈夫なのだろうか?
いかんせん、李さんの戦闘はあまり見た事無いし、鐃背さんとかには手も足も出てなかったからなぁ…
とはいえ、ここは俺が信じてやらねば!
李さんとて立派な格闘タイプ! きっと何とかしてくれるはず!!
俺はそう信じ、早速ジムへ徒歩で向かった。
約15分程でそこに到着し、俺たちは早速その中に足を踏み入れる。



………………………




「頼もーーー!!」


「うん? 貴女は、一体…?」


李さんはヤル気満々でそう叫ぶも、全く理解されてない。
中には幾人かがムエタイの練習をしていた様で、比較的子供が多めの様だった。
そして、リングでひとり汗をかいていた茶髪角刈りの褐色男性が、李さんを見て不思議そうにしていたのだ。
服装は上半身裸で筋肉もしなやか…黒いトランクスを履いているが、まるで試合用にも見えるな。
俺はとりあえず、確認の為にこう尋ねる。



「貴方が、サワムラーの『タダー・シィ』さんですか?」


「ええ、そうです…それで貴方たちは?」


うーむ、予想に反して紳士的だな…もっと荒々しいのかと思ったが。
とはいえ、ここはあくまで挑戦者! とりあえず事情を説明してまずは対戦してもらおう。



「タダーさん、俺たちは貴方に挑戦しに来ました」

タダー
「挑戦、ですか…?」


「はい、闘っていただきたいんです…この、『波兎織 李』(はうおり すもも)さんと」


俺が李さんを紹介すると、李さんはキッとタダーさんを見て拳を胸の前で合わせる。
やる気は十分、互いに格闘タイプ。
問題はタダーさんの実力だが…


タダー
「…成る程、これは相当な挑戦者と見受けます」
「良いでしょう、その挑戦を受けます!」


「よっしゃあ! なら早速やろうぜ!?」


李さんはそう言ってリングに上がる。
タダーさんも真剣な顔でリングの中央に向かった。
そして、振り向いて李さんを睨み付ける。
紳士的な口調に反して鋭い目だな…これは間違いなく強敵だぞ?
果たして李さんに勝てるのか?

と、いうより…俺にはまだ不安しか無い。
何故ならば、李さんは格闘タイプでありながら、格闘タイプに弱いのだから…


タダー
「審判はいりませんね?」


「ああ、ストリートファイトみたいなモンだからな!」

タダー
「ならば、こちらから行きます!!」


「なっ!?」


「李さん!?」


タダーさんは突然2mを軽く越える距離から右の回し蹴りを放った。
その足はゴムの様にしなり、李さんの顔面を強襲する。
李さんは不意を突かれ、完全に直撃を貰うタイミングだった。

ドガシィ!!と鈍い音がジムに響く。
李さんの左頬に蹴りがクリーンヒットし、李さんは数cm横にズレる。
そして口から血を滲ませ、キッとファイティングポーズを取った。
その姿はまさに拳闘士、ボクシングの様な整えられた構えじゃなく、李さん特有の構えにも見えた。
タダーさんはフ…と微笑し、ムエタイの構えを改めて取る。
ガードは高く上げ、右足は軽く浮かせてすぐに蹴れる体勢。
だが、驚異的なのはそのリーチ! サワムラー特有の柔軟な手足はまさにゴムと言える程に伸びるのだ!



「李さん気を付けて!! サワムラーのリーチはリングの端から端まで届く!!」


「ちっ! だったら距離詰めりゃ良いんだろ!?」

タダー
「それを容易くさせる程、私はお人好しではありませんよ!?」


タダーさんは李さんのダッシュを見て、すぐに斜め上から回し蹴りを放つ。
そのリーチは李さんの接近を許さない。
李さんはガードするも、タダーさんは連続で蹴りを放ち距離を一定にたもっていた。



(ちっ! 威力は大した事無いが、効果抜群なのは面倒だな!!)


(思いの外効いてないのか? という事は威力よりも速度と正確さを重視している?)


タダーさんの足技はまさに見事と言える美しさで、見ていてもその技術が素晴らしいのは素人目にも理解出来た。
だが、李さんは面倒そうな顔はしているものの、連打されてる割にはあまりダメージを負っていない。
むしろ、ガードを駆使して次第に距離を詰め始めている。
そして、それから数分間タダーさんの足技が李さんを襲い、次第に李さんの腕は大きく腫れ始めていた。



「マズイ…!? 鞭の様にしなる蹴りだから、ガード越しに腫れ始めている!」
「威力はそれ程でなくとも、こうなったら李さんはガードするのにも痛みを伴う!?」


「へっ! それはお互い様だがな!!」

タダー
「…!? 成る程、かわせないなりにこんな対策を取って来るとは!」


俺は意味不明だったが、タダーさんの右足が地に着いているのを見て驚愕した。
タダーさんの右足首が凍りついているのだ!!
李さんは、ただ攻撃を受けているだけじゃなかった。
ガードの度に腕から冷気を放ち、タダーさんの足を次第に凍らせていたのか!
確かに、これなら形勢は変わらない。
いや、むしろ足技と移動を制限されたタダーさんの方がむしろ不利か!?



「さぁて…我慢した分、反撃させて貰おうかぁ!?」

タダー
「くぅっ!!」


タダーさんは蹴りを放つも、明らかにスピードが遅い。
しかもリーチが伸びない! 無理に凍傷した足を伸ばせば、それだけ痛みがあるんだ!!
李さんはタダーさんの蹴りをちゃんとガードし、更に冷気を浴びせてタダーさんの足を痛め付ける。
タダーさんは顔を苦痛に歪め、李さんの接近を遂に許してしまった。



「こっから反撃だ!! 食らいやがれ、アタシの鉄拳を!!」

タダー
「…まだです!!」


李さんは思いっきり右拳を握り込み、冷気を帯びた右ストレートを放つ。
凍傷で足の動きが鈍いタダーさんはその場で思いっきり踏ん張った。
まさか、耐えるつもりなのか!?
だが次の瞬間、俺は李さんが後に吹っ飛ばされる現実を目の当たりにする…
拳が当たれば、確実に李さんが勝っていたであろう一瞬。
だけど、倒れたのは逆に李さんの方だった…!



「あ、あぁ…!?」

タダー
「ティーカウコーン(飛び膝蹴り)!! 私の得意技ですよ…!」
「完璧なカウンターで決まりました…立つ事は不可能です!!」


李さんは頭から血を流してマットに沈んでいた…
これが、最強候補のひとりか…!? やはり、まだ李さんには無理だったのか…!?


タダー
「…しかし、ここまで危険な試合はほとんど経験が無かった」
「これ程の実力者…何故、今まで世に出て来なかったのか」


タダーさんは倒れている李さんを見下ろしながらも、その強さを認めている様だった。
俺はダンッ!とマットをロープ外から叩き、現実を噛み締める。
やはり、一筋縄ではいかない…だけど、これは良い経験になったはずだ。
李さんは、まだ強く……!?



「なっ…!?」
タダー
「ば、馬鹿な!?」


俺とタダーさんは揃って同時に驚愕する。
何と、李さんは無言で立ち上がったのだ。
そして、相手を見ずにファイティングポーズを取る。
まだ、やる気なのか!?
李さんの眼は焦点が合っていない…眼に血が入って相手も見えていないのに!


タダー
「…何と言う闘志! しかし、私も戦士です!!」


タダーさんは李さんの闘志を認め、再び構える。
凍傷のダメージは少なからず回復しているのか、今度は力強く足を上げて構えていた。



「………」


李さんはのそりのそりとベタ足で前に進んで行く。
ゆっくりとした歩みだが、妙に重圧がある。
本当に…まだ闘えるのか!?



(違う、信じなきゃダメだ! 俺が、俺が李さんに声をかけてやらないと!!)
「李さーーーーん!! 勝つんだぁぁぁぁっ!!」


「!!」


李さんは俺の声を聞いて一気にダッシュする。
その速度は予想外に速く、タダーさんはタイミングを合わせられなかった。


タダー
「くっ! ですが、今1度!!」


タダーさんは再び踏み込み、飛び膝蹴りの体勢に入る。
李さんは馬鹿正直に低姿勢で踏み込んでいるが、このままじゃ同じ絵に…!?



「いや、なるかよ!! 李さん、行けぇぇぇぇっ!!」

タダー
「私の全力のティーカウコーン! 受けてみなさい!!」


「…あ、ああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」


李さんはタダーさんの飛び膝蹴りに向かって、ただ右腕を振り下ろした。
その硬く握られた拳はタダーさんの右膝に直撃し、強烈な冷気を放ってタダーさんの膝を一撃の元に凍らせ、破壊した…


タダー
「ぐ、ああああああぁぁぁぁぁぁっ!?」


タダーさんは飛び上がった瞬間、マットに叩き落とされた。
そして完全に砕け、凍りついている右膝を押さえて苦しむ。
李さんは大きく深呼吸し、状況をようやく理解した様だった。



「はぁ…! はぁ…!?」

タダー
「み、見事…です! まさか、私の全力を正面から叩き伏せるとは…!!」


「李さん!!」


俺は勝利を確信し、すぐにマットに上がって李さんの背中に抱き着いた。
体温が冷えきってる!? って、氷タイプだから不思議じゃないのか…
李さんは俺の体温を感じて気が抜けたのか、そのまま後に倒れかかった。
俺はしっかりと支えてやり、李さんに労いの言葉をかける。



「よく、やってくれました…!」


「へ、へへっ…当然だろ? 聖が応援してくれんだから…!」


李さんは強気に言うも、瀕死だった。
効果抜群の大技、モロに急所でよく立てたもんだ…


タダー
「…ふふ、たった一撃でこの様とは、悔しいものですね」


「…悪ぃな、アタシの勝ちみたいだ」


李さんは俺から離れ、未だ倒れているタダーさんに右手を差し出した。
タダーさんは微笑み、その手を取って何とか立ち上がる。
だが、右膝は完全に折れており、痛々しく引きずっていた。
李さんはそんなタダーさんに肩を貸し、タダーさんの体を支えてやった。


タダー
「私の負けです…貴女は強いですね」


「いや、聖の声が無かったらアタシが負けてた…ある意味引き分けだよ」
「そっちはひとり…こっちはふたりで勝った様なもんだし」

タダー
「ふふ、いえ…それなら尚の事、私の負けです」
「私には、ここにいる全ての子供たちの応援を受けていたのですから…」


気が付くと、リングを子供たちが囲んでいた。
子供たちは声も出さずに泣いている。
そうか…皆、タダーさんに憧れている練習生だったんだな…


タダー
「皆、泣くんじゃない! 私は負けてしまったが、まだまだこれからだぞ!?」
「怪我を治したら、私はもっと強くなってみせる!!」
「だから、皆も強くなろう! 私と一緒に!!」


タダーさんの言葉を聞いて、子供たちは大声援をあげた。
それを聞いて李さんは恥ずかしそうに笑った。
まるで自分が敗者の様な気分になっているのかもしれない。
だけど、俺は李さんの肩をポンと叩き、笑顔で親指を立ててやった。
それを見て、李さんはニカッと笑って右腕を振り上げる。



「アタシは、絶対にこの世界で最強になる!!」
「だから、アタシの事も応援してくれよ!?」


李さんの宣言に、子供たちは大歓声をあげる。
タダーさんも李さんに肩を借りながら頷いた。
そして、タダーさんは李さんにこう告げる。


タダー
「貴女なら、きっとなれます…」
「私は、影ながら応援させていただきます…が、他の5人は強いですよ? 掛け値無しに…!」


「へっ、望む所だ! 俺たちは、絶対に最強になるんだからな!?」


タダーさんは、嬉しそうに笑った。
それを見て、子供たちも笑う。
李さんも笑顔だった。
俺も当然! 何だか、本当に嬉しくなるな…
しばらく、こんな気持ちにはなれなかった…タダーさんに感謝しないとな♪

そして俺は今後の事も考える。
後5人…! そして、その内の誰かがボスかもしれない。
李さんは、きっと毎回こうやってダメージを追うのだろう…
それでも俺は信じる事にした。
李さんは、必ずやってくれるのだと…



………………………




「李さん、次はどこに行きます?」


「任せるよ…アタシは寝る」


タダーさんとのバトル後、あれから1度宿に入って俺たちは休憩していた。
都合により部屋の空きが無かった為、ふたりで同じ部屋に泊まる事となったが、李さんはダメージが大きいのかシャワーを浴びてからすぐに横になって眠ってしまった。
やれやれ、流石に無理をさせてしまったな…



「……zzz」


「…ごくり」

フーパ
『今ならパイズリ位はいけると思うぞ? あのサイズならさぞ気持ち良かろうなぁ〜』


『止めぃ! ただでさえ李さん無防備に下着だけで寝てるし、こちとら青少年なんじゃ!!』


李さんだけでもないのだが、どうにも家族は羞恥心が無い者が多い。
男としてはご褒美過ぎるのだが、いかんせん少しは恥じらいも欲しい所だ…
李さんは、あんな退廃的な世界で生きてたし、仕方ない部分もあるんだろうけど…



「しかしマジでデケェな…サイズだけならもしかして華澄以上か?」
「とはいえ、やはり格闘家らしく胸筋もスゴいよな…この場合胸のサイズと言うより胸板がスゴいのかもしれない」


李さんは仰向けで大の字になって寝ているが、胸は重力に負けてちゃんと柔らかさを強調している。
女性の胸は基本的に脂肪の塊で、ボディービルダーの様に極端に鍛えない限りは、ちゃんとおっぱいとして形を残す。
李さんはかなり筋肉寄りとは思うけど、それでも元の大きさがかなりあるせいか、筋肉が付いていてもおっぱいは素晴らしかった。


フーパ
『まぁ、世の中おっぱいだよね〜…全く世の男共は、あれに騙されてホイホイ付いて行くんだから!』


『妬みか、それとも憧れか? どっちにしてもお前はまず性格を何とかしろ!』

フーパ
『だって、暇なんだも〜ん』


『だったら寝てろ』

フーパ
『ぶー! この状態じゃ眠る事も出来ないし…』


そういや、フーパはあの暗闇にずっといるんだな。
思えば恵里香と似た様な状態のわけだが、恵里香は達観しすぎてまるで辛そうに感じないからな。
俺は、ふと気になってはいた。
恵里香は本当に辛いと思った事は無いのだろうか?


『無いよ、キミが生きていてくれるなら…』


そんな言葉が俺の脳裏に再生される。
きっと、嘘でもそう言うんだろうな…
俺は、アイツの弱音なんか聞いた事は無いし、これからも多分無いだろう。
だけど、それは実は悲しい事なのかもしれない…



………………………




「よっし全快! じゃあ次行こうぜ!!」


「とりあえず近い所から攻めるかな…えっと、間接技のスペシャリスト、ねぇ」


俺はこの世界の情報誌を入手して、最強の6人について調べてみた。
そして今いる国から一番近い国の相手に挑むつもりだ。
俺が見ているページに掲載されているのは、ひとりの『ナゲキ』の女。
だが、そのナゲキはかなり特殊な見た目をしていた…



「…胴着を着ていない? 柔道系じゃないのか?」


その女性はむしろミリタリーな迷彩服を着ており、使う技はコマンドサンボと書かれていた。
マジかよ…ナゲキ的にそれはどうなんだとも思うが、これもポケモン娘…何を学ぶかは自由って事か。
そして、それでいて強いのだ。



(って言うか、ナゲキなのに女性?)


冷静に考えると、ポケモンというゲームにおけるナゲキは♂しか存在しない。
しかし、人化しているとはいえこのナゲキは女性になっているのだ。
いやまぁ、性別不明の皆さんも男女あるみたいだし、白那さんなんて元男だってんだから、不思議な話でもないのか?
ご都合設定とはいえ、この辺は割とフリーダムに考えた方が良いのかもしれない…特にこの作品の世界観では。



「…決まったか?」


「はい、とりあえず次の国に行きましょう! 相手はナゲキの『ワーシリー・スミドノフ』!!」


俺はそう言って空港に向かう。
李さんは楽しそうな顔でに俺に着いて来る。
そして、一路俺たちは『アーロビエ』と言う国を目指した…



………………………




「で、時間がスッ飛ぶっと」


「事実上ワープだよな、読者的には」


とりあえずメタ発言乙と…まぁ、とはいえ今度は極寒の地だな。
イメージ的にはロシアって所か…まぁ、コマンドサンボだしな。
とはいえ、目的地はここから電車で移動と…結構距離あるな。



「さっとし〜! 防寒具売ってたから買って来たぜ?」


「ありがとうございます、李さんは良いんですか?」


「だってアタシ氷タイプだもん、進化した時もやたら寒い雪山だったし♪」


成る程、そりゃそうだ…そもそも進化出来る場所がこんな風な環境だもんな。
とはいえ、袖無しのトレーニングウェアと短パンは凄まじいよな…
俺は流石にすぐに防寒具を身に付け、寒さを凌ぐ。
やっぱ、慣れないとこれでも寒く感じるな…



「大丈夫か? まぁ、アタシの体温じゃ暖めるの難しいけど…」


俺はそう言われて李さんに抱き寄せられた。
氷タイプとはいえ、別に常時冷気を放っているわけじゃないから、ちゃんと温かみはある。
あくまで李さんは氷タイプだけど、人としての体温は保持しているという事だ。
とはいえ、やはり外気温に冷まされているのか、李さんの体温はかなり低い。
寄り添えば体温は上昇するも、李さんの体温は思ったより上がらない様だ。



「はは…やっぱあんまり効果無いか」


「いえ、それでもマシですよ…さぁ、切符を買って電車に乗りましょう」
「車内なら暖房も利いてるでしょうし」


俺たちは寄り添いながら切符を買って電車に乗る。
駅員にご夫婦ですか?と聞かれたので、俺は赤面して違います!と答えた。
やれやれ、まぁこんだけ密着してたら端から見ても恋人には見えてしまうのか?



「ははっ、夫婦に見えるんだ?」


「みたいですね…おっ、中は温かいな♪」


俺たちは暖房の利いた車内に入って体を離す。
そして、とりあえず近くの席が空いていたのでそこに座る事にした。
やがて列車は動き出し、サンボの神様と呼ばれるワーシリーがいる陸軍基地へ俺たちは近付いて行った。



………………………




「テメェ等! 声が小さい!!」

男共
「サー! イェッサーー!!」


「うわ…モロに軍隊式だ」


「あの女が教官か…ワーシリーってのはあれ?」


俺は無言で頷く。
俺たちは基地の入り口を潜り、まず見かけたのは軍隊の訓練模様だった。
屈強な格闘ポケモンやら鋼ポケモンたちが叫びながら独特の訓練を行っている。
そして、それを指導しているのが、サンボの神様と言われるナゲキのワーシリーだった。


ワーシリー
「ようし、テメェ等はそのまま訓練を続けろ!!」
「手ぇ抜いたら特別メニューだ!!」

男共
「サー! イェッサーー!!」


訓練兵はそのまま訓練を、ワーシリーさんは俺たちの方に歩み寄って来た。
改めて見ると、身長は低いな…李さんより更に低いが華澄よりかは大きい。
髪は赤い短髪で黒い眉毛は太く、ナゲキのそれをイメージさせる。
しかし、彼女はナゲキでありながら胴着を着用せず、迷彩服に身を包んだ生粋の軍人なのだそうだ。


ワーシリー
「待たせて悪いね、それで私に挑戦したいってのはどっち?」


「アタシだ! よろしく頼むぜ♪」

ワーシリー
「ほう、その特徴的な二の腕、ケケンカニか…」
「面白そうだね、こいつは楽しみだよ♪」


ワーシリーさんは一目見てすぐにケケンカニと看破する。
李さんと同じ様に楽しそうに笑い、ふたりの間では既に戦闘は始まっている様だった。


ワーシリー
「場所を変えるよ? あっちに室内訓練場がある。そこでやろう」


「はい、よろしくお願いします」


俺たちはワーシリーさんに案内され、室内訓練場に向かった。
その間に会話は無く、ただ緊張感を高めながら足音だけがいやに耳残りする。



………………………



ワーシリー
「さて、ルールはどうすんだい?」


「倒したら勝ち、やられたら負け!」

ワーシリー
「はははっ、そりゃ解りやすくて良いや♪」
「じゃっ、早速やろうかぁ!?」


ザッ!と足のスタンスを広げ、ワーシリーさんは構える。
両手は軽く開かれており、いつでも掴める構え。
対して李さんは拳闘スタイル、互いにジリジリと間合いを詰め、出方を見ている様だった。



(今度は李さんの方がリーチはある…だが、ワーシリーさんはナゲキだ、防御力はかなりあると見て良いはず)


少なくとも、前の様に一撃で叩き伏せるのは無理だろう。
そして、それが出来ないという事は必ず1度は掴まれる危険性があるという事。
李さんも間接技は未体験の可能性が高い…最強の間接技、李さんに捌けるのか!?


ワーシリー
「良いね、肌がチリチリしてくる…冷気がここまで刺さるとはね」


「こちとら氷タイプなもんでね…こんな冷たさでも、アタシ的にはヒートしてるのさ!!」


李さんはダッ!と素早く踏み込む。
距離を1歩だけ詰め、あえてワーシリーさんの射程に入った。
ワーシリーさんは反応してすぐに手を伸ばす、サンボの基本は投げと間接技だ。
コマンドサンボの創始者は柔道家でもある、つまりナゲキであるワーシリーさんにとって、密着距離こそ真髄。
本来ミドルレンジで殴り合う李さんは、近付きすぎても不利になりかねない!
ましてや蹴り技の無い李さんに、組技を捌けるのか!?


ワーシリー
(素直なのは嫌いじゃない! だけど、そう簡単には私の間接からは逃げられないよ?)


ワーシリーさんは屈んだ体制から李さんの膝に向かって手を伸ばす。
李さんは殴る対象が低くなりすぎ、拳を出せなかった。
流石は達人…開幕の駆け引きから既に李さんに足技が無いのを看破されてたのか。


ワーシリー
「さぁて! まずは足から貰うよ!?」


「やれるもんならな!!」


ワーシリーさんは李さんの膝に抱き着き、そこからバランスを崩すつもりだった。
だが、李さんの足はピクとも動かない。
まるで地面に根を張っているのでは?と思える位、李さんの足は動く事は無かったのだ…


ワーシリー
「バカな!? これ程にパワーがあるとは!!」


「づぇああぁぁぁぁっ!!」


李さんは真上から思いっきり拳を振り下ろす。
ワーシリーさんはすぐに危険を感じてその場から転がり、難を逃れた。
李さんの拳は訓練場のマットを叩き、一瞬地震が起こってマットは途端に凍り付く。
得意技の『アイスハンマー』か…改めてスゴい威力だな。
確か李さんの特性は『鉄の拳』…完全に攻撃力を特化させたタイプで、李さん自身も自分の拳には相当自信がある様だ。
ワーシリーさんは距離を一旦離してすぐに立ち上がる。
そして額の汗を手の甲で拭って再び前傾姿勢に構えた。


ワーシリー
(想像以上のパワーだね…正面から崩すのは容易じゃないか?)

(思ったより素早い…もっとも、アタシが遅すぎるのもあるけど)

(速度差は微妙だ…若干ワーシリーさんの方が速いか?)


やや沈黙…ふたりは更に緊張感を高めてまたジリジリと距離を詰める。
ワーシリーさんも今度はやり方を変えて来るはず。
李さんはあくまで拳に拘ってる…読まれ易すぎるのは問題だな。
もっとも、これがボクサーの様に様々なパンチを使いこなすテクニシャンなら問題にはならない。
華麗にステップを踏み、的確なコンビネーションを扱うボクサーなら相手の予想もひとつには絞れないだろうからな。



(だけど、李さんは一撃の重さをあくまで重視している)
(例え何発貰っても、一撃で勝てれば良いという考え方だ)


当然、それにはリスクが付き纏う。
相手からすれば、読み易すぎる上、李さんはそもそも格闘タイプが弱点なのだから…!



「ふっ!」

ワーシリー
「大振りだね! 容易に踏み込める!!」


やはり、ワーシリーさんには当たらない。
ワーシリーさんは李さんの振り被った拳を難なくヘッドスリップで捌き、そこから李さんに組み付いて足を絡める。
今度は全体重で押し倒すつもりだ! 李さんはバランスを崩しているから今度は耐えられない!?



「ふんがーーーー!!」

ワーシリー
「ちょっ!? 冗談だろ!?」


ゲシイッ!とワーシリーさんの背中に李さんの左肘が落ちた。
李さんはあれでも倒れる事は無く、掴まれたまま反撃を行ったのだ。
しかし、ここで肘とは…確かに拳を振るえる距離じゃ無いが。


ワーシリー
「ちぃ! 舐めんじゃないよ!?」


「ぐっ!?」


ワーシリーさんは痛みに耐えつつもすぐに体を入れ替えて李さんの背後に回る。
そして李さんの首と肩に腕を回し、絞め技の体制に入った。
マズイ!? 立ったまま絞め技とか予想してなかった!



「っぅぅぅ!!」

ワーシリー
「さぁ、今度はどうする!? このままオチてみるかい!?」


李さんは首を仰け反らせながらも耐える。
だが、ワーシリーさんの力が弱まる事は無い、いつかはオトされる!



「ん〜〜〜〜〜〜!!」

ワーシリー
「!?」


何と、李さんは絞められたまま体を大きく前に振り回し、ワーシリーさんごと振り回してしまった。
その遠心力でワーシリーさんの腕は緩み、そのまま振っ飛んでしまったのだ。
ワーシリーさんは受け身を取るも、苦い顔をしている。
相当悔しそうだ…何せ、ここまでやって全部力技で返されてる。
自慢の技が全く通用しないのは、精神的に答えるだろう…



「はぁ! はぁ! けほっ!!」

ワーシリー
「とんだ馬鹿力だね…ここまでのは初めてだよ!」


ワーシリーさんはそう言って無造作に近付いて行く。
李さんはすぐに構え、ワーシリーさんが射程に入ったのを見て右拳を振るう。
ワーシリーさんはそれをまたかわし、今度は李さんの右腕に飛びついた。
その一瞬でワーシリーさんは、李さんの勢いを利用して空中でクルリと華麗に回転する。
李さんは自らのパワーと勢いを利用され、そのまま転ばされてしまった。



「飛びつき十字固め!? ここでついに間接技が!!」


「があぁぁっ!?」

ワーシリー
「これが私の得意技さ! 押して倒れないなら、引けば良いってね!!」


ワーシリーさんは腕十字で李さんの右腕を逆間接に極める。
だが、李さんは無理矢理耐えているのか、折れる気配は無い。
流石にこれを返すのは無理だ! あの体勢じゃ李さんも力は…!?


ワーシリー
「嘘…だろ?」


「あああぁぁぁぁぁっ!!」


何と、李さんは腕十字を食らったままワーシリーさんを片腕で持ち上げてしまった、
これにはワーシリーさんも驚愕している。
そしてそのまま李さんは反対方向にワーシリーさんを振り回してマットに叩き付けた。


ワーシリー
「がっ!?」


「今度こそ、逃がしゃしねぇ!!」


李さんはワーシリーさんから右腕を抜き、すぐに左拳を握る。
って、座ったまま殴る気か!?


ワーシリー
「それなら、これでどうだい!?」


ワーシリーさんもまだ諦めていなかった。
座ったまま拳を振るう李さんの左腕を、ワーシリーさんも座ったままヘッドスリップでかわし、肘を両手で極めて肩を支点にし、テコの原理で李さんの左腕を今度こそ折ったのだ。
ワーシリーさんは息を荒らげ、微笑する。
だが、李さんはまるで意に介していなかった…それが、ワーシリーさんの敗因だ。

ドボォッ!!と李さんの右拳がワーシリーさんの腹にめり込んだ。
上半身の力だけで振るったそれはワーシリーさんの呼吸を一瞬で奪う。
そして、ワーシリーさんは李さんの腕から手を離し、そのまま悶絶した。
李さんは一切容赦せず、もう一度右拳を構え今度はワーシリーさんの顔面を真っ直ぐに打ち抜く。
まるでバットか何かで打たれたボールの様に、ワーシリーさんは後へ吹き飛び、マットに体を擦らせてゴロゴロと壁まで転がって行った。
そして、ぐったりとマットに沈み込んでおり、起き上がる気配は無い様だ。



「か、勝った…! 李さんが勝った!!」


正直、何度も負けたと思った…だけど李さんは規格外のパワーでテクニックを覆し、最後まで力技で勝ってしまったのだ…
しかし、当然無傷には終わってない。



「くっ…そ……!」


最後に殴り抜けた右腕の肘から血が滴り落ちていた。
元々、間接で痛め付けられた肘だったから、パンチの衝撃で自らの腕も破壊してしまったのか…

ちなみに、本物のシャコなんかも、パンチ力がありすぎて普段は全力を出さないそうだ。
それは、あまりの威力に自らの間接を痛めてしまうかららしい。
李さんはそんなシャコがモチーフのポケモンが進化した姿。
やはり、李さんもまた自身のパワーに体が悲鳴をあげたのだろう…



「と、とりあえず治療しないと!! だ、誰かいませんかーーー!?」


俺はすぐに外で叫び、助けを呼ぶ。
そして、ワーシリーさんと共に李さんは基地の医療施設へと運ばれるのだった…



………………………



ワーシリー
「はははっ、何だい? 勝った方がダメージ大きいとか♪」


「いやぁ〜ついムキになって本気出しちまった♪」
「腕痛めるの解ってたから左使ったのに、まさか折られるとは思わなかったし…」


それから1日李さんは治療を受けていた。
ワーシリーさんはただの打撲だったから眠ってすぐに回復したらしい。
李さんは結果的に勝ったとはいえ両肘骨折…間違いなく大怪我だ。


ワーシリー
「まぁ、腕1本取れただけでもプライドは守れたかね…」
「アンタ、これから国を回るんだったら、絶対に負けるんじゃないよ!?」


「ああ! 絶対に最強になってやるぜ♪」


「その前に体を治してください! 全く…毎回毎回こんなんだったら、俺の気が持ちませんよ」


俺はそう言って李さんに食事をスプーンで救って食べさせてあげていた。
李さんは大きく口を開け、パクリと食い付く。
いわゆるボルシチと言う料理だが、これがまた良い匂いで美味しいのだ。
李さんも満足そうに咀嚼し、ボルシチを綺麗に平らげた。


ワーシリー
「全く、お似合いだねぇアンタ等…私もそろそろ身を固めるかねぇ?」


「あ、いや俺たちはそういう関係じゃ…」


「アタシたちは家族だからな♪」

ワーシリー
「ふふ…良いじゃないか、格闘家だって家庭には憧れるもんさね」


ワーシリーさんは笑ってそう言った。
どうにも勘違いされてる気がするが、まぁもう良いか…
李さんも正直意味が解って言ってないだろうし、こんな嬉しそうな顔見たら、それ位は小さな事なのかもしれない。

そして、俺は不安にもなる…李さんの戦い方はあまりに野性的だ。
型に囚われないとも言えるが、とにかく力技。
テクニックの類いが全く見られず、ただ気合いと根性で何とかしている。



(きっと、変わらないんだろうな…)


そう思う…なら、俺は信じて付き合う事にした。
李さんにはそれしかないなら、俺は信じる。
李さんならきっとそれでも、勝ってくれるのだろうと…ただ、信じて。



………………………




「さて、腕も治って次の国!」


「また一段と時間がスッ飛んだな…」


このままだと現代編だけ長くなりすぎますからね!!
可能な限りは端折りたいのが本音なんです!!
ってな訳で、俺たちはとりあえず世紀のルチャドールと言われるヒールレスラーに会いにとある練習場へと来たのだが…



「ハイパーダーーーク! クラッシャーーーーーー!!」


ドガッシャアァァァァァァァァッ!!と凄まじい爆音が俺たちの入場と共に響き渡る。
そこは練習場だったはずなのだが、何故か観客が入って興業が行われていた。
俺たちは呆然としつつも、ゴングがカンカンカーーーン!!と鳴り響き、試合は終わった様だった。


審判
「ウィナー! ガオガエェェェェンッ!!」


ワァァァァァァァァッ!!


ぺラップ
「決まったーーー!! 必殺のハイパーダーククラッシャーでガオガエン見事完全勝利!!」
「それでは、これより勝利者インタビューです!」

ガオガエン
「予想通りカッコだけのルチャ野郎だったな!」
「まぁ、今回は楽勝過ぎて力が有り余ってる…乱入上等だからいつでも来な! カッ!!」


ブー! ブー! ブー!!


ぺラップ
「ガオガエンの舐めた発言に観客のブーイングが飛び交います!」
「しかし、流石に乱入は無い模様…いや、何者かがリングに向かっているぞ〜?」



「こんな世界で何やってんですか!?」

ガオガエン
「おおっ!? 聖じゃねぇーか!」
「久し振りだな〜♪ あれから元気してたか?」


ガオガエンさんは俺の姿を見て笑う。
まさかガオガエンさんたちにまた会えるとは…
って、これどうすりゃ良いんだ? 世紀のルチャドールはどうやらガオガエンさんに完全敗北したみたいだが。



「どうすんだ? とりあえず乱入しとく?」


「いや、流石にそれは…」

ガオガエン
「お、やるならいつでも良いぜ? 乱入上等! どこからでも来な!!」


観客が大歓声をあげた。
これはもう退き下がれんな…やれやれまぁ、これも経験と割り切るしかないか。
俺はとりあえず解りきっている結果を見据えながら、リングの外から温かい目で李さんを見守るのだった…



………………………そして3分後。



カンカンカーーーン!!


ガオガエン
「弱い! 弱すぎる!!」


「…勝てる気がしねぇ」チーン


まさに完全敗北だった…いや、そらそうだよな!
仮にもプロレスルールとはいえ、守連たちと互角の勝負が出来るガオガエンさんに今の李さんが勝てる訳無い…
案の定、全力パンチするも吹き飛ばす事すら出来ずに、耐えられてそのままジャーマンスープレックス1発。
スリーカウント以内に返せるはずもなく、李さんは真っ白な灰になってマットに沈んだ。



………………………



それから興業は無事に終わり、俺たちは改めてガオガエンさんたちの拠点に招かれて一緒に食事を取るのだった…


ガオガエン
「成る程ねぇ〜そっちはそんな事になってたのか…」


「ガオガエンさんたちは、相変わらず世界を放浪してるんですね…」

ガオガエン
「まぁ、こっちの都合はお構いなしだけどね♪」
「でも、この世界の連中は歯応えが無さすぎる!」
「最強とか謳うのは勝手だが、そういうのは俺に勝ってから言えってんだ!」

ルチャブル
「久し振りに格闘多めの世界だし、少しは期待はしてたんだけどね…」


このふたりにかかったら世界最強も(笑)だろうな…
つーか、レベル違いすぎて、もはや隠しボスの類いだろこれ?
ゲーム的にはどう処理してんだ?


フーパ
『…それはバグではない! 仕様だ!!』


『言いきったなコノヤロウ! これ絶対ヤバいバグだろ!?』


俺のツッコミにフーパは答えなかった。
まぁ、正直フーパにも訳解らんのかもしれんな…


ガオガエン
「しっかし、李の戦い方はアレじゃいかんだろ?」


「な、何で!?」


ガオガエンさんは焼き肉を食いながら李さんにそう諭す。
李さんもパスタを食いながら驚いた顔をしていた。


ガオガエン
「パンチ力は認めるが、お前には受ける美学が無い!」
「やるかやられるかの戦法は、普段初っぱなから取る戦法じゃないだろうが…」
「特に異種格闘技戦なら、まずは相手の情報を得るのが基本だ」
「お前みたいなボクサータイプは、それこそ耐えられて更に上回るパワーを出されたら何も出来ん!」


ガオガエンさんの指摘に、李さんはちんぷんかんぷんとなっている。
まぁ考えるのが苦手だからああいう戦い方なんですけどね…


ガオガエン
「とりあえず飯食ったら、練習場に来い」
「お前みたいなタイプは体で覚えさせた方が速い」

ルチャブル
「後で案内してあげるわ、ガオガエン結構乗り気みたいだし♪」


そう言われて、俺たちはすぐに食事を終え、ルチャブルさんに案内されて練習場へと足を運んだ…
そこは普通の室内練習場で、例によって仮説リングが立ててあった。



………………………



ガオガエン
「よーし来たな? じゃ早速リングに上がれ!」


「一体何をする気なんだ?」

ガオガエン
「とりあえず、やりながら教えてやる! どっからでも来な?」


ガオガエンさんはステップを踏む。
何気に見た事無いスタイルだぞ? ってか、ガオガエンさんってそういうタイプのレスラーじゃ無かったはずだが…


ルチャブル
「まぁ、とりあえず基本からね…」


「基本…ですか?」


ルチャブルさんは解ってる風だった。
ガオガエンさんは李さんに何かを教え様としてるのは解るが…基本ねぇ?



「ふっ!」

ガオガエン
「おっと!」


李さんは自ら拳を振って行くが、全くガオガエンさんには当たらない。
ガオガエンさんは反撃せずに回避に徹し、李さんの大振りを軽くかわしていた。
…大してスピードは無いのに、である。



(成る程これは…解りやすい弱点だな)


李さんはいくらなんでも大振りを振り回しすぎてる。
あれじゃ相手は逃げれば良いし、追う足も李さんには無い。
これで待ってりゃ、李さんはその内スタミナも切れてハイ終わり。
しかも、一撃耐えれるガオガエンさんにとってはリスクすらないと来た…これはヒデェな。


ルチャブル
「これは、想像以上の扇風機ね…」


「くっそ、当たんね〜!!」

ガオガエン
「だからお前はアホなのだ! せめてジャブのひとつ位覚えろ!!」


「ジャブ? 排水溝の汚れを取ってくれる便利な奴?」


「それは○ャバです李さん!! これ以上頭の悪さを露呈しないで!?」


ガオガエンさんはギャハハと笑って腕を組む。
そして、ガオガエンさんはわざとボクサーの様に構え、李さんの目の前で左のジャブを放って見せた。
想像以上にスピードのあるそれは驚く程に鋭く、李さんは目をぱちくりさせて驚いている。


ガオガエン
「これがジャブだ、基本だからとにかく覚えろ!」


「う〜ん、こうか!?」


李さんは見よう見真似でやるも、全く形になってない。
そもそも力が入りすぎて、あれじゃ軽いストレートだ…


ガオガエン
「もっと肩の力を抜け! 左手は常にリラックスさせて握りは軽くしろ!」
「そんで、拳は目の高さに! 狙いを見定めたら真っ直ぐに拳を突き出す!!」


ボッ!と凄まじい風切り音が再び鳴る。
ガオガエンさんって、何気にボクサーの資質もあったのか?
李さんは戸惑いながらも反復して左を振り続ける。
しかし、今までの戦い方が染み付いている李さんには苦難の道の様だった。


ガオガエン
「とりあえず、今回はまだ世界に留まれてるし、いられる間は教えてやるよ!」
「っても、俺が教えられるのはジャブ位だけどな♪」


「いえ、助かります! 是非、ご指導お願いします!」

ルチャブル
「ふふ、昔試しでやった技術が生きる日が来るとはね♪」

ガオガエン
「何事も経験だな! 無駄な技術など決して無いのだ!」


こうして、李さんの特訓が始まる。
実戦形式でガオガエンさんから直接学び、ルチャブルさんにアドバイスされながら、李さんは丸1日かけて基本のジャブを練習したのだ。



………………………




「シッ!」

ガオガエン
「良いぞ! そのスピードならそうそう見切られねぇはずだ!」
「後はジャブで相手を牽制しつつ距離を測る…そして相手が焦れて隙を見せた所に右をズドン!」
「とりあえず、それが基本だ…後はお前の根性次第だな」

ルチャブル
「思ったよりすぐに覚えられたわね…これはひょっとしたら逸材なんじゃない?」


ふたりのお陰で、李さんはとりあえず基本のジャブを習得出来た。
ケケンカニ特有の腕から放たれるそれは、まるで銃弾の様なスピードで打ち出される物で、とても見てから見切れる代物じゃない。


ガオガエン
「これで、攻撃面はある程度改善すんだろ…後は受けの美学だ!」
「良いか、これは非常に簡単だ…相手の技を最高に引き立てて受ける!」
「ガードなんざ必要ねぇ! 初めから食らう前提で歯を食い縛れ!」
「後はテメェの鍛えた肉体が答えてくれらぁ♪」

ルチャブル
「別に体格は関係無いわよ? 私みたいな軽量級でも、プロレスでは受けるのが美学だから♪」


「それって、つまりガードすんなって事?」

ガオガエン
「もちろん、俺たちの場合はな」
「まぁ、お前にそこまでやれとは言わねぇよ」
「だが、心持ちは覚えとけ! そうすりゃ、きっとどこかで役に立つ♪」


ガオガエンさんが笑顔でそう言うと、ガオガエンさんたちの体は光の粒子となっていく。
どうやら時間が来た様だな…


ガオガエン
「へへっ、それじゃあまたな聖!」

ルチャブル
「次に会ったら、また戦いたいわね♪」


「はい、ありがとうございました! また、次に会えるのを楽しみにしてます♪」

ガオガエン
「おおよ! 次は○ンテンドーオールスターで暴れてくらぁ!!」


「流石は人気キャラよのぉ〜」

ルチャブル
「私はモンスターボールからでも出れたら良いんだけど…」


ガオガエンさんは大笑いしながら消えていった。
ルチャブルさんも同時に消え、その場に残された俺たちは何も無い平野に立っている。
俺はひとつ疑問に思った…



(ガオガエンさんたちは、粒子化した?)


そう、ゲートを通ってないのだ。
つまり、ガオガエンさんたちの出現は完全にイレギュラーなのか?
フーパもバグっぽい発言してたし、これが後に何かの影響を与えるのか…?

俺はとりあえずその場から移動する事にする。
そして今後の事を考える事にした。



………………………




「しゃあっ!」


「うぐっ!?」


その後、1日置いて俺たちは改めて世紀のルチャドール『ザ・グレート・ルエ』と対戦をしていた。
李さんはリング中央で、教わったばかりのジャブを繰り出し、相手を牽制している。
しかし、李さんのそれはケケンカニのパワーを持ったジャブ。
本来ジャブはグローブで打ってこそ進化を発揮するが、李さんのそれは素手でもって相手を打倒しかねない程の牽制技だった。
当たる度にルエの自慢の黒マスクは歪み、ダメージを受けているのを伝えて来る。


ルエ
(野郎! 何てパワーだ!!)


(拳を当てる瞬間に握り込み、抉り込む様にして捩じ込む!)


ビシッ!バシッ!とジャブのヒット音が連続で鳴り響く。
ルエはガードしつつも、かなり嫌がっている様だ。
やがて、ルエはその場からバックステップし、軽快にコーナーポストに上ってムーンサルトで飛びかかって来た。
ちなみに、ルエは『ナゲツケサル』で、長い尻尾が特徴のポケモンだ。
上半身は裸で長ズボンのレスラー服を見にまとったルード(悪役)。
動きはかなり速く、何よりどこからでも空中殺法を放てる跳躍力は驚異だった。



(受ける美学…!)


李さんはあえてムーンサルトボディプレスを食らう。
が、李さんは踏ん張り、ルエの体は何と李さんを押し潰さずに弾き返されてしまった。
パワー差があるとはいえ、よくやる!
ルエはかなり驚いた様で、マットから素早く起き上がるも、李さんはすかさず踏み込み、右拳を構えて真っ直ぐに打ち抜いた。
ルエは咄嗟にガードするも、ガードをぶち抜かれて顔面を強打。
そしてロープまで豪快に吹っ飛び、そのままマットに倒れて血の池を作った…



「しゃあ! これで3人目!!」


「やりましたね! 特訓の成果はバッチリですよ!!」


少なくとも、素早い相手に対して有効な技術は覚えた。
後は自慢のパワーが生きれば十分なダメージが狙える!
加えて、李さんのダメージも大分減った。
ジャブを警戒されるあまり、李さんへ露骨なカウンターは合わせられなくなってるからだ。
これも、ガオガエンさんたちのお陰だな…



………………………




「いやぁ〜快勝快勝!」


「それでも危ない場面はありましたよ…投げられた後とか、李さん無防備過ぎますからね」


仕方無い部分はあると思うけど、それでも李さんはやっぱり立ち技が基本だ。
寝技や間接、絞め技にはどうしても弱い所がある。
パワーで無理矢理引き剥がせるとはいえ、ガオガエンさん程の人が相手だと、軽くテクニックで返されてしまったからな…
改めてあの人の強さはやっぱハイレベルだ…



「とりあえず、後3人だな!」


「はい、次はスモウレスラーが相手ですね!」


俺たちは、1日休んで更に移動。
そして『ワイハワ』という国に辿り着き、俺たちはハリテヤマの『カーチス・イケアー』に会いに行く。
そして、ハワイを思わせる海岸のビーチで対決は始まった。



………………………




「くっ!?」

カーチス
「ふん!!」


李さんは予想外に苦戦していた。
李さんはジャブを中心に左右のパンチで攻め立てるも、カーチスさんは構わず突っ込んで来る。
そして強烈な突っ張りとぶちかましで李さんを幾度と無く吹っ飛ばしていた。
ちなみにカーチスさんはプライベートだったので今はまわし姿では無い。
上半身は裸だが、下は普通にズボンを履いていた。



「ちぃ! 体重差があると、簡単には押せねぇか!!」

カーチス
「甘く見てもらっては困る! こちとら、ぶつかり合いが本業だ!!」


スピードは全く無いが、それでも李さんよりは速い!
体重差でかなり不利なのに、スピードで負けてたら洒落になら無いぞ!?



「だったら、こっちもこれだぁ!!」

カーチス
「なっ!? 自ら組み合いに!?」


何と、李さんは打撃だけでは不利と判断してか、がぶりよっつでカーチスさんと組み合った。
だがこれだけの体重差…どうにかなるのか!?



「へへへ…やっぱりな!」

カーチス
「ぐっ…こ、この力!?」


「テメェは鐃背さんに比べたら屁でもねぇ!!」


李さんはそんな事を叫んでカーチスさんのズボンを握ってを真上に引っこ抜く。
そして、そのまま後ろに仰け反り、カーチスさんの巨体をうっちゃってしまった…
巨体が砂浜に落ち、凄まじい砂塵を巻き上げる。
カーチスさんはかなりダメージがあったのか、すぐには立てなかった。
李さんは今度こそファイティングポーズを取り、その場で気合いを溜める…


カーチス
「…!!」


「今度は、ただのパンチじゃねぇぞ!?」


李さんの集中力は極限にまで研かれ、限界まで溜めた力を拳に乗せて解き放つ。
その拳は目に見える速度ではなく、まさに銃弾の様な速度。
カーチスさんは立ち上がった瞬間、こめかみを真っ直ぐに打ち抜かれ、血を拭き出して後に倒れた。
まさに『気合パンチ』…格闘タイプの技でも最高威力の大技だ。
しかも李さんの鉄拳で放たれるソレは、並の破壊力では無い。
いかにタフなカーチスさんでも、急所に当たれば一撃か…



「しっかし、よくアレを投げようと考えましたね?」


「いやぁ、砂浜で相撲ってなったら、つい思い出してさ」
「あん時の鐃背さん、マジで強かったんだよな…アタシの全力でも軽く遊ばれる位だったし」


成る程、懐かしい話だな…確かにあの時の李さんは鐃背さんと相撲取って、軽く投げられてたっけ。
改めて鐃背さんの力が尋常じゃないのが解るな…
まぁ、鐃背さんはレベルも桁違いだし、仕方ないわな。



………………………




「良いペースでふたり倒せましたね」


「ああ、ガオガエンたちの特訓が無かったら、もっと苦戦してたろうからな…」


あの特訓が無かったら、何度怪我もしていたか…改めてガオガエンさんたちには感謝だ。
李さんはあのたった1日だけで見違える様に成長したのだから。
ジャブを中心に牽制を覚え、例え攻撃を食らっても絶対に倒れない精神。
李さんは少しづつでも駆け引きを覚え始めてるし、残りふたりも何とか攻略したい所だな。



(とはいえ、残りふたりはかなり強敵みたいなんだよな…)


情報誌を見る限り、次に戦う予定の相手はカイリキーの『カイザーマッスル』だ。
6人の中ではロートルだが、そのパワーとテクニックは最高峰と称されている。

そして最後のひとりは、武神と言われる格闘家…ローブシンの『武 光正』(たけ みつまさ)。
まさに老人と言える程の年齢だが、その強さはトップクラスと称されている。

奇しくも、共に老練な経験を持つ大ベテランだ。
李さんの未熟なテクニックは多分あしらわれる…だけど、それでも進まなきゃならない。
李さんを信じて、俺は背中を見守ろう。
きっと、それが大きな力になると信じて…



………………………




「ここが、カイザーマッスルのいるジムか」


「とりあえず、さっさと入ろうぜ…」


李さんはそう言って遠慮無くドアを開けて中に入る。
中は閑散としており、トレーニング機材などはあるものの練習生はいない様だった。



「あれ、いないのか?」


「呼んでみりゃ良いだろ、たーのもーーーー!!」


その呼び方もどうかと思います…まぁ、間違っちゃいないんだが。
李さんの声が聞こえたのか、奥の方からのそりと現れる大きな影。
青いタンクトップとパンツを身に付け、一目でレスラーだと解るスタイル。
髪はスポーツ刈りの短髪で色は黒、鼻下には立派な口髭があり、整えられてるのが解る。
そして背中には2本の腕が生えており、それこそがまさにカイリキーを象徴する4本腕だった。
筋肉の付き方も尋常じゃない、パワー勝負は出来るのか?
李さんのパワーも相当だからな…筋肉でも負けてないし。
さて、問題は相手してもらえるかだが。



「カイザーマッスルさんですね?」

マッスル
「いかにも…私がマッスルだ、それで君たちは?」


「アンタに挑戦しに来た…最強になる為に」


李さんの言葉を聞き、マッスルさんは表情を変える。
李さんは至って笑顔で、やる気は満々だった。
マッスルさんはしばらく李さんを見た後、こう語る。


マッスル
「冗談じゃないのは解る、だがやるからには手加減は出来ないぞ?」


「心配すんな…退屈はさせねぇよ」


既に互いの視線は闘いを始めている。
やがてマッスルは無言でリングに上がり、李さんもそれに続く。
俺はリングの外で闘いを見守る事にした。
他に観客は誰もいない…このジムはマッスルさんひとりしかいないんだろうか?
まぁ、その方が集中は出来るか…真剣勝負だしな。


マッスル
「なら、どこからでも来るが良い!」


「ああ、まずは真っ向勝負だ!!」


李さんはあえてジャブからでなくストレートから入る。
マッスルさんはそれを避ける素振りも見せず、正面から腕をクロスさせ、ガードした。
かなりの強打だけに、マッスルさんは少し後にズレ、表情を歪める。
ガード越しでも相当は効くはずだ…李さんの拳はまさに鉄拳だからな。


マッスル
「成る程、良い拳だ」


「そりゃどうも! まだまだ行くぜ!?」


李さんは左右の拳をリズミカルに放つ。
これも気が付けば自然と李さんが覚えた連打方だ。
隙は少な目、威力も控え目だが、全て捌くのは難しい。
だがマッスルさんはそれを全て2本の腕だけで的確にガードする。
この人は、予想通りプロレスラーと言うには真剣勝負寄り…
あえて受ける事はしなく、あくまで勝ちに来てるのが解るな。



(ガードが固ぇ! とはいえ、迂闊に大振りしたら間違いなく踏み込まれる)

マッスル
(予想よりもクレバーだな、中々隙は見せんか…!)


やがて李さんはパンチの角度を変えて打ち込み始める。
マッスルさんは驚いた様にガード方向を変え、次第にガードに隙間が出来始めた。
李さんはフックやアッパーといった、上下左右の角度から入るパンチを駆使し始め、マッスルさんのガードを崩そうとしているのだ。



(マッスルさんの的確なガードが李さんに教えたんだ…ガードの崩し方を)


あくまで偶然だが、李さんは学習しているのだ。
相手のガードが固いなら、どうすれば崩せるのか?
どうすればガードの隙間を縫えるのか?と…


マッスル
(一発一発がとにかく重い! 小手先の技とは思えんな!)


(くっそ…こんだけ散らしても直撃無しか!)


李さんは苦い顔をしていた。
対してマッスルさんは静かに相手の隙を窺っている。
李さんの打ち疲れを狙われている!?
いや、それよりもマッスルさんのガードが先に壊れてもおかしくないはず!



「んならぁ!」

マッスル
(大振り! 待っていたぞ!!)


李さんは痺れを切らしてしまったのか、ついに振り被って大振りする。
マッスルさんはそれを好機と見てすぐに踏み込む。
李さんが拳を振るうよりも速く、マッスルさんは体を密着させた。
ここからは相手の土俵! 李さんは見事に引っ掛かってしまった!


マッスル
「ふんっ!」


「ぬあぁ!!」


マッスルさんが李さんの腰を掴むと同時、鈍い打撃音が響き渡った。
俺は注意して見ると、密着状態のマッスルさんの右横腹に李さんの左拳が刺さっている。
まさか、あの距離で強引にボディを打ったのか!?
いくら李さんのパワーでも、マッスルさん相手にそれは…


マッスル
「ぬおおっ!!」


ズッ…シィィィィィィンッ!!と直後にスープレックス。
投げると言うより落とすといったその投げは、確実にダウン必至の威力を語らせた。
李さんは後頭部をモロにマットに打ちつけられ、そのままマットに沈む。
そのままマッスルさんは寝技に移ろうと襲いかかる!



「!!」

マッスル
「くっ!?」


李さんはその場で体を跳ね上げ、すぐに立ち上がる。
衝撃で口の中を切った為か、血を流していた。
そして、攻めあぐねたマッスルさんを見て李さんは不適に笑う。



「へへ…やっぱ強ぇな♪」

マッスル
(…完璧と言えなかったとはいえ、あれを食らってすぐに起き上がるとはな)


マッスルさんはまた最初と同じ構図で構えて待つ。
だが、その姿は最初とは違って見えた。



(…汗が多い、ダメージはそんなに無いはずだが)


いや、マッスルさんはかなりのロートルだ。
ひょっとしたら、スタミナはそこまで無いのかもしれない。
それに、全てガードしていたとはいえ、李さんのパンチはしっかり当たっていた。
ダメージ自体は、あるはずなんだ!



「さぁ、2Rと行こうぜ!!」

マッスル
「来い! レスラーの意地に賭けて、退きはせん!!」


李さんはより力強く拳を振るう。
だが、それは以前の様な大振りではなく、肩口から真っ直ぐに最短距離を進んで打たれた最速のストレート!
それはまさに銃弾、マッスルさんはガードが間に合わず、顔面でまともに受けてしまう。


マッスル
「ぬおおおおおっ!!」


「ぐぅ!!」


だが、マッスルさんは怯む事無く、突進して李さんに掴み寄った。
そして、李さんはまたしても左ボディを密着距離で打ち込む。
マッスルさんの顔は歪み、歯を食い縛ってなおもスープレックスで李さんを再びマットに突き刺した。
これで、2発目のスープレックス!!
李さん、立てるのかっ!?


マッスル
「あああっ!!」


マッスルさんは吠えながらも李さんの足を取って間接技に移行する。
単純な4の字固めだが、李さんにとっては未体験の技!
マッスルさんは全力で李さんの両足を締め上げ、李さんの顔は苦痛に歪む。
いくら李さんに力があっても、これを返すのは無理だ。
マッスルさんの力を持ってしてかけられるこれは、到底力技では返せない!!



「があぁぁっ!!」

マッスル
「ぬうぅ!?」


ここで李さんはなおも抵抗してみせる。
李さんは足を絡められてる部分に手を当て、そこから冷気を放出したのだ。
マッスルさんは凍傷の痛みに悲鳴をあげ、足を緩めてしまう。
李さんはその隙に足を引っこ抜いて距離を離した。



「はあ…! はぁ…! はぁ…!!」

マッスル
「やるな…氷タイプであったのを忘れていたわ」


マッスルさんも息は荒い。
互いにダメージを交換しながら戦っている感じだが、それでも李さんの方が不利か?



(元々李さんはそこまで打たれ強くも無い、いくら何でももう体は悲鳴をあげているはず)


李さんは立ち上がるが、足はガタガタさせている。
あんな状態じゃ強打も打てないだろう。
だが、それでもファイティングポーズを取って闘志を放っている。
拳は固く握り、もう小細工はしないと目で語った。
それを見てマッスルさんも真剣な顔でジリジリと間合いを詰める。



「す〜…はぁ〜…!」


李さんは息を整え、マッスルさんの姿を見ながら両足のスタンスを広げる。
ガタガタの足をどっしりと地に着け、踏ん張る体勢。
マッスルさんはそれを見ても、構わずゆっくりと射程距離に近付いて行く。
やがて、李さんの手が届く位置に入った瞬間、李さんは一歩強く踏み込み、右拳を全力で真っ直ぐに放った。
スピードは落ちてるものの、パワーは今まで以上!
マッスルさんはガードするも、李さんの鉄拳の威力に後ずさった。
そして、マッスルさんの膝がついに揺れる!


マッスル
「ぐぅ!? これしきのダメージでぇ!!」


マッスルさんはすぐには突っ込めない、李さんはその間に2の矢を放つ準備をした。
その時、李さんの右肘から血が滲んでいるのが見える。
ヤバい…!? また無茶して肘をやったんだ!!
しかも、李さんはまだ打つつもり!
右腕を犠牲にしてでも倒し切るつもりなのか!?



(ダメだ、信じるんだ! 李さんは勝つ気でいる!)


例えここで止めても再挑戦は可能だろう。
だけど、それは李さんにとっては屈辱以外の何物でも無い。
恐らく李さんにとって、真剣勝負に横槍を入れられるのは禁忌なのだ。
そんな結果は誰も望んでいない。
だから、右腕のダメージなど些細な事なんだ…



(来いよ…アタシの腕はまだ死んでない)

マッスル
(何と言う闘志…これ程の相手なら、どんな結果でも悔いは無いだろう!)


マッスルさんは全速力で突進して来る。
決して速いスピードには感じないが、李さんにとっては十分速く見えるだろう。
何せ、李さんはもっと素早さが無いのだから…

だけど、その分李さんには類稀なパワーがある。
それはきっと李さんの弱点を補って余りある程の切り札なんだ!!



「行けーーー李さん!! 思い切り打ち抜けーーー!!」


「!!」


李さんもまた強く踏み込む。
その衝撃でマットは一瞬揺れ、李さんは拳を打ち出す。
マッスルさんはガードを固めて突っ込み、その拳を受けながらも前に進んだ。
そして距離は詰まり、密着する。
ダメか…!? 今度投げられたら、確実に負ける…!!



「李さぁぁぁぁんっ!!」


「…ぅぐっ……あああああああぁぁぁぁっ!!」


俺は、信じられない光景を目の当たりにした。
李さんは密着状態に入った矢先に、マッスルさんの両腕を掴んで動きを止めたのだ。
そして、そのまま李さんは全力でマッスルさんの両腕を握り、李さんの指先はマッスルさんの腕に深く食い込んだ。


マッスル
「ぐああああああぁぁぁぁっ!?」


マッスルさんは悲鳴をあげ、後に仰け反る。
李さんはそれを見て両腕を離し、今度は体ごと縦に振り回し、両拳を固めてマッスルさんの脳天にアイスハンマーを叩き込んだ。
まるで氷が砕かれる様な音と共にマッスルさんの体はマットに叩き付けられる。
そして、そのまま立ち上がる事は……



「!?」


「バ、バカな…アレが直撃して!?」


何と、マッスルさんはヨロヨロと立ち上がる。
だが、目の焦点は合っていない、確実にグロッキーだ。
一体、何がマッスルさんを駆り立てている!?
マッスルさんは、まだ戦う気なのか!?


マッスル
「…アイム」


「…?」

マッスル
「ナンバーーー! ワーーーーン!!」


マッスルさんはそんな雄叫びを上げ、両腕を真上に突き出して天を仰ぎ見た。
指先は人差し指だけが立っており、それが彼のパフォーマンスなのだと俺は理解した。
そして、マッスルさんはそのままピクリとも動かず、どうやら立ったまま気絶した様だった…



「……へ、大したオッサンだな」


「マッスルさんにとって、倒れたまま気を失う事は許せなかったのか」


俺たちは、今もなお立っているマッスルさんに敬意を表した。
この人は、まさにレスラーだった…そして、誇り高き英雄。
この人と戦えたのは、李さんにとっては幸運だったのかもしれない…



「これで、後ひとりか…」


「李さん、腕は…?」


李さんは無言で右腕を上げて見せる。
幸い、折れてはいない様だ…だけど、相当靭帯を痛めてるな。
内出血で黒くなりかけてる…すぐに治療しないと。



「とりあえず、ここにいてください! 俺、救急車呼んで来ます!!」


俺はそう言ってジムの外に出て助けを呼ぶ。
すぐに救急車を手配してもらい、李さんはマッスルさんと一緒に病院へと運ばれたのだった…



………………………




「はははっ、またやっちまったなぁ〜」


「全くですよ…少しは反省してください!」


俺はそう言って李さんにホットドッグを渡す。
今度は左腕が無事だったので李さんは自分で食べていた。
やれやれ…こんな事ばかりで本当に大丈夫なんだろうか?


マッスル
「すまない、少し良いかね?」


「マッスルさん!? そちらはもう良いんですか?」


突然来訪したのはマッスルさんだった。
既に普段着に着替えており、どうやら入院はしてない様だ。
とはいえ、頭や腕には包帯を巻いておりかなりのダメージがあったは確かの様だ。


マッスル
「まぁ、体が頑丈なのが職業柄だからね」
「とはいえ、手酷くやられたよ…肋骨は3本折られたし、腕の骨はヒビが入った」
「特に1番キツかったのは頭蓋の陥没だね…生きていたのが不思議な位さ」


「そ、それで本当に大丈夫なんですか!?」


マッスルさんはガハハッと豪快に笑い、大丈夫とアピールした。
やれやれ…この人も大概だな。



「ところで、何の用?」

マッスル
「うむ、どうしても気になる事があってね」
「君は、どうして今まで世に出て来なかったんだ?」
「私の長いレスリング経験の中でも、君の様なファイターは見た事が無い」
「むしろ、それだけの力があるならもっと早くから注目もされていたはずだ…なのに、何故?」


成る程、そりゃそうか…俺たちはいわば異世界人だからな。
マッスルさんにとっては、李さんの様な逸材はやはり気になる所なんだろう。



「マッスルさん、信じてもらえないかもしれませんが、俺たちは異世界からやって来ました」

マッスル
「異世界!? それは、本当かね?」


「ああ、つい3ヶ月位前だけどな…この世界に飛ばされちまって」


俺は出来るだけ解りやすくマッスルさんに説明をする。
それを聞いたマッスルさんは、驚いていたものの、概ね信じてくれたみたいだった。


マッスル
「そうか、道理で…君の様なファイターが突然現れたわけだ」
「しかし、この世界で1番強いポケモンか…」
「隣国にいる武ならば、何か知っているかもしれんが…」
「少なくとも、噂程度なら私も知っている…もっとも、黒い噂だがね」


「黒い…噂?」


俺はピンと来た、これは間違いなくボスの情報だ。
ここに来て、ようやく鍵が得られたらしい。


マッスル
「…詳細は不明だが、世界のどこかに最強を名乗る男がいるらしい」
「だが、その男の姿は誰も見た事が無い…」
「恐らく、見た物は生きて帰っては来なかったのだろう…と噂されている」


「いっかにも怪しいな…聖、それがボスなんじゃねぇ?」


「ああ、多分間違いない…という事は、やっぱり武さんに勝って李さんが臨時でも最強の称号を得られれば…」


恐らく、ボスの方から接触して来る…そんな気がするな。
自分で最強を名乗る位だ、他の誰かが最強を名乗るなら黙ってはいないはず。


マッスル
「…気を付けるんだぞ? 李、君は強いが決して無理はするな」
「若い内は無茶も出来るが、あまりそれが続くと、私位の歳になって後悔する事になる」


「へへっ、大丈夫だよ♪ アタシは無茶でも何でも、絶対に死にはしない!」
「必ず生きて、そして聖を守るんだ!!」


俺は少し照れ臭くなる。
とはいえ、李さんは真っ直ぐだからな…きっと嘘偽り無い言葉なんだろう。
だから、俺も信じてやらなきゃならない…必ず、李さんは勝つって。



「そういやさ、ずっと気になってたんだけど、何で背中の腕は1度も使わなかったんだ?」
「使ってたら、アタシ負けてた気がするんだけど?」


「そういえば、そうですね…カイリキーなのに、2本しか使わないなんて」

マッスル
「ふふふ…これでも私は格闘家であり、プロレスラーだ」
「相手に2本の腕しかないのに、こちらが4本使ったら反則だろう?」


マッスルさんのあっさりした答えに俺たちはポカーンとする。
そして、李さんは途端に大笑いし、左手で腹を抱えていた。



「何だよそれ!! それじゃ、ハンデで闘ってたって事か?」

マッスル
「そんな事は無い、私は全力でやって負けたんだ」
「この背中の腕は、私は特殊なルール下以外では決して使った事は無い」
「そして、それでもって私はプロレスの神様とも言われていたんだ」


俺は納得する。
マッスルさんにとって、背中の腕はただの反則。
それは格闘技に凶器を使う様な物だ。
李さんも、それが解ったから大笑いしたんだろう。



「まぁ、良いや! 両腕を使わせる程アタシは強く無かったってだけだし!」

マッスル
「はははっ、謙遜はしなくて良い、君は間違いなく強い!」
「きっと、武にも勝てるだろう…彼は相当強いがね」


「…武神、武 光正」


遂に最後のひとり…とはいえ、まだその後に凶悪なボスが待っている。
李さんはまず怪我を治してもらわないと…それに、まだZクリスタルは李さんには無い。
ここまでの展開で、李さんにも必ずあると思うんだけど…


マッスル
「頑張れよ李、私も影ながら応援しているからな!」


「ああ、ありがとう! マッスルとのバトルはアタシ忘れねぇよ♪」


李さんは満足そうに微笑んでいた。
マッスルさんもうんうん、頷いて笑っている。
そして、ふたりは最後に左手で握手を交わし、その場は別れた。
李さんは食事も終え、すぐに眠りに入る。
ポケモンにとっての『眠る』は回復技だからな…もっとも、重症であればある程、回復に時間はかかるみたいだが。



(次は、謎の流派か…)


武さんの流派は不明となっている。
一説に寄れば、空手がモチーフではとも言われてるらしいが。
どちらにせよ、かなりの強敵なのは間違い無い。
今まで以上に苦戦はするはず…とはいえ、李さんも闘う度に強くなっている。
きっと、次も成長を見せて勝ってくれるさ…そうですよね、李さん?

俺は安らかに眠る李さんの寝顔を見ながらそう信じた。
俺が出来る事は、その位だから…
そして、それが力になってくれるなら、俺は何よりも嬉しい。



………………………




「ここが、武さんの道場か…」


「いよいよ最後のひとりだな! これに勝ちゃボスのお出ましって訳だ!!」


李さんは拳と掌をバシッと合わせ、気合いを入れる。
李さんの調子は良い、怪我もすっかり完治してるし、後遺症も無さそうだ。
俺は和風の道場の門を潜り、そして周りを見渡す。
古風の庭園が視界には広がっており、いかにもな感じだな。
確実に日本がモデルなのは確かだが、あえて古風な感じにしてあるのは趣味なのか?
まぁ、この国自体がやや時代錯誤気味な感じだし、この国の人にとってはフツーなんだろうけど。



「さっさと中に入ろうぜ? 外にはいないみたいだし」


俺は頷き、道場の中に入ろうとする。
そして、俺はちゃんと靴を脱いでから階段を上り、横開きの扉を開けて中を見た。
李さんも習って靴を脱ぐ…そのまま靴下も脱いで裸足になっていた…まぁ、靴下じゃ戦い難いか。



「……!」


見ると、暗い道場にひとり座禅を組む老人。
俺はその場でその人が武さんだと確信する。
横にいる李さんもニヤリと笑い、武さんは俺たちに気付いてゆっくりと立ち上がった。



「うお…スゲェ筋肉! マッスルさん以上の上半身だな…」


「…ああ、コイツは面白そうだ♪」


武さんは頭髪の無いハゲ頭で、鼻が赤くやや腫れた様に膨らんでいる。
顎髭は白く、10cm程の長さで整えられていた。
服は茶色の胴着を着込んでおり、確かに見た目は空手系にも見える。
だが、やはり目を引くのは上半身の大きさ。
李さんと似た様なバランスだが、武さんは更に短足で更に上半身が大きい。
ぶっちゃけ、腕を垂らしている状態で膝下位の長さがある。
傍目から見たらかなりアンバランスな体型だ。
だが、ローブシンはその腕力がウリのポケモン。
本来なら石柱を振り回すポケモンだが、武さんはそれを持っていない。
…いや、よく見たら武さんの後に2本立てかけてある。
これじゃほとんどオブジェだな…



「…待っておったぞ、噂に聞く闘士よ」


「へぇ、いつの間にかアタシも有名人の仲間入りかい?」


李さんは茶化す様に笑い、片手を上げて肩を竦めていた。
武さんはそんな李さんの反応を意にも介せず、ただ静かに言葉を続ける。



「…そなたの拳が、どこまで通用するか」
「このワシの拳を持って見定めてやろう」


武さんは右拳を腰の所まで引き、左手は掌を広げて前に突き出した。
下半身はどっしりと構え、その構えはまるで山!
ちょっとやそっとじゃビクともしなさそうな感じだ。
李さんは薄ら笑い、構えを取る。
いつものスタイルでこちらもどっしり構え、李さんは武さんを睨み付けた。



(く…途端に重圧が増した!? 武さんから放たれる気が呼吸を圧迫する様だ!!)


間違いなく強者の証。
武さんは拳を振るう事無く、ここまで攻撃している感じだ。
李さんはそんな空気を楽しむ様に笑う。
李さんもあれから随分と成長したけど、精神的に特に変わった気がする。
再会したばかりの時はもっとおちゃらけてたのに、今はまるで闘いを楽しむ狂人の様な笑みを浮かべる時がある。
…どことなく、鐃背さんに似て来たんじゃないだろうか?
李さんも鐃背さんの事は尊敬してたみたいだし、意識してた部分もあったのかも。



「行くぜっ!」


「………」


李さんは素早く踏み込む。
武さんは完全に待ちの体勢で、どんな反撃をしてくるのかも解らなかった。
まずは様子見とばかりに李さんが右ストレートを放つ。
肩口から真っ直ぐに最短距離を進む、李さんの高速ストレートだ。
見てから反応するのはまず無理! 武さんはガードすらする事も…


バシィッ!!



「!!」


「…その程度か?」


何と、武さんはあのストレートを前に差し出した左手で受け止めてみせた。
見てから反応してない、あれは完全に軌道を読んで止めてみせたのだ。
俺はゾッとする…武さんは、もしかしたらこのファーストコンタクトで、既に李さんのリズムを把握したんじゃ!?



「ふっ!」


バシッ! パシィンパシィン!!


李さんは続けて左ジャブを連打する。
だが武さんはそれを片手でいなし、李さんの左腕は軽く振り払われる。
ヤバい…パワー差がここまであるのか!?
李さんの腕力を持ってしても、武さんの腕力は越えられない!?



「所詮小技よ…その程度では無かろう?」


「ああ、悪かったな…アンタは強い」
「小細工がいらないのは良く解った…アタシはアタシの力を信じる!」


李さんは大きく息を吸い、集中力を高める。
完全ノーガードで拳を後に引き、気合いを込めていく。
もしかしなくても『気合パンチ』!?
そんな大振りが武さんに当たるのか!?



「!! 来るが良い…それでこそ試し甲斐がある!」


李さんは気合いを溜め終わり、全力で右ストレートを解き放つ。
その拳はまさに今までで最強最速!
まるで光を放った様な一瞬の煌めきと共に、その拳は武さんの顔面に向かって行った。
そして、凄まじいまでの打撃音! あまりに強烈な拳の打撃を予感させるが、吹っ飛んだのは…


バッキャァァァァァァァァァン!!


李さんは一瞬の内に後ろへ吹き飛ばされ、俺の視界を横切って道場の壁を突き破って外に飛んで行った。
武さんは右拳を振り抜いた状態で固まっている。
まさか、あの一瞬でカウンターパンチを放ったのか!?
李さんの拳を更に上回る…鉄拳!?
そう、ローブシンの特性もまた鉄の拳。
この闘いは、初めから拳の闘い。
武さんは、これだけの為に今まで反撃はしなかったのだ。
そして、李さんは格闘タイプに弱い…あの一撃を食らったら、まず…立てない!?



「…っ! へ、へへ…効いたなぁ、今のは」


「バ、バカな!? 何で無事なんですか!?」


俺は思わずそんな叫びをあげてしまった。
それ位絶望的な吹っ飛び方だったのに…!
李さんは腹から血を滲ませ、口からは吐血していた。
だが、フラフラしながらも李さんはゆっくりと道場に入って来る。
歯を食い縛り、厳しい表情で武さんを睨む。
対して武さんは未だに振り抜いた構えを解かない。
俺は?を浮かべ武さんを良く見ると…



「がふっ!!」


突如、武さんは吐血し膝を着く。
だがすぐに両手を床に当ててしっかりと立ち上がる。
武さんの胸には抉り込まれた拳の後が残っていた。
俺はこの時点で気付く。
李さんの拳は、届いていたのだと…!



「危ねぇな…アタシの拳が先に届いてなかったら、死んでたかもしれねぇ」
「まぁ、とりあえず第1Rはドローって所かな?」


「…く、見事だ、ワシの予想よりもそなたの拳は速かった」
「しかし! まだワシも倒れてはおらぬ!!」


武さんはまたしても最初の構えを取り、気を放つ。
李さんも同様に気合いを溜め始めた。
ま、またあの攻防を繰り返す気か!?
俺は改めてふたりが正気の沙汰で無いのを理解する。
そして、同時に李さんの精神状態が完全にイカれてしまったのも理解した。
俺は、もう止める事は出来ない…ただ信じて見守るしかない。
李さんはそれでも、必ず生きて勝つのだと…!



「おらぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ぬうぅっ!!」


またしても凄まじい打撃音。
だが、今度は互いが後に吹っ飛ぶ。
李さんは道場の端で踏み留まり、裸足の親指から血を流していた。
武さんは後ろの壁に激突するも、倒れはしない。
お互いの腹と胸は陥没しており、明らかにやり過ぎの相打ち合戦だと見て取れた。
恐らく、内蔵も肋骨もボロボロのはず。
それでもふたりはなお前に出る。
武さんは歯を食い縛り、李さんは不適に笑う。
違う…あの李さんは、さっきまでの李さんじゃない。
俺は李さんの纏う気を感じてそう思う。
李さんは、この一発一発毎に、成長している…!?



(まさか、武さんの拳から経験値を貰ってるのか?)


それはあくまでゲーム的な解釈だ。
だが、李さんは明らかに強さを増している。
ダメージは限界を越えてるはずなのに、さっきよりも強く速い一撃を繰り出したのだから…!



「成る程な、コイツは面白ぇや♪」


「…っぅ! まだだ…もう一撃!!」


李さんと武さんはまた構える。
だが、今度は李さんの構えは気合いパンチじゃなかった。
大振りよりもコンパクトにモーションを取り、強く、低くダッキングで踏み込んでパンチを放つ。
武さんはそれに対してカウンターパンチを仕掛けるが、李さんはそれをヘッドスリップでかわして逆にクロスカウンターを決めた。
李さんの拳だけが今度は武さんに当たり、武さんの顔面から何か気の様な物が李さんの体に吸い込まれていく。
これは…新しい技!?



「へへっ、こいつぁ良い♪ 殴った分だけ体力が戻るのか…」


「『ドレインパンチ』!? 何でいきなりそんな技を…?」


少なくとも、李さんも初めて使っているみたいだった。
ケケンカニは自力では習得出来ないはずなのに…



「アンタの拳は最初から全部これだ…2発食らって覚えたよ♪」


「見事…たったこれだけの攻防で、ワシの拳を習得するとは!」


そうか、武さんの拳は全てドレインパンチだったのか!
しかし、逆にドレインパンチの威力であれだけ吹っ飛ばしたとは…!
空恐ろしい拳だな本当に…
しかし、李さんはドレインパンチを覚えて一気に優位に立った!
武さんは息を荒くし、かなりダメージを受けてる。
李さんは逆に余裕が出てきている、ここからは殴る度に回復も可能になってしまった。



「…とはいえ、アタシにはコイツじゃアンタを超えられない」
「やっぱ、アタシはこっちで勝つ!!」


李さんはあえてドレインパンチの選択を捨て、気合いを溜め始める。
武さんは微笑し、再びドレインパンチを構えた。
また、相打ちを繰り返すのか!? そうなったらドレインパンチで吸収される分、李さんが明らかに不利なのに!!



「さぁ、今度こそ勝つぜ!?」


「来るが良い! 全力を持って応えよう!!」


李さんは最大最高の気合いパンチを最速で放つ。
武さんもまたドレインパンチでそれに応える。
そして互いの拳は交差し、李さんの拳は…


メッキャァァァァァッ!!



「なっ!? 李さんの拳が…!!」


俺は目を疑った。
李さんは俺の予想を越えた結果を出したのだ。
李さんの拳は、武さんの拳に突き刺さり、武さんの拳は…砕けていた。



「へへ…どうだい? これならただの相打ちにはならねぇだろ?」


「ふ、ふふ…見事だ、この勝負…そなたの勝ちだ」


武さんは砕けた拳をダラリと落とし、そのまま両膝を床に落として降参した。
武さんの右腕は肘と肩まで折れている様で、かなりの内出血が見える。
対して、李さんもタダでは済んでいない。
右手、肘、肩、こちらもその全てから血を滴らせていたのだ。
傍目から見たら引き分けにも見えるが、武さんは敗けを認めた…
李さんの拳に、負けを認めたんだ…



「これも、新たな時代の幕開けか…」
「そなたの様な闘士が生まれたのであれば、それは新たな風となるだろう」
「そして、恐らく…奴と闘う事になる」


「…奴?」


「!! ソイツは一体誰なんだ!? アタシたちは、ソイツに用があるんだ!!」


「…では、後日話をしよう」
「今日の内は、互いに傷を治す方が良い…」


俺は武さんの提案に賛成し、また救急車を手配してもらう。
病院に着くと、治療を一通り受けた李さんは、相変わらず飯を食ってすぐに寝てしまった…
まぁ、これでちゃんと回復するんだからポケモンってスゴいよな〜
とはいえ、積み重なるダメージはバかにならなかったのか、流石の李さんも全治1週間を要する羽目になった…



………………………




「はぁ〜流石に今度は治るのに時間かかったな…」


「やっぱり無理をし過ぎたんですよ! いくら病院で治療受けて眠っても、ダメージは残ってたんだ…」


李さんはハハハッと笑う。
全く反省の色が見えないな…
とにかく、俺たちは無事に退院し、再び武さんの道場を目指していた。
武さんは李さんよりも早く退院し、既に元の生活に戻っていたのだ。



「何かさ、自分でも変わったと思うんだ…」


「え?」


「自分の中に、こんな力が眠っていたなんて知らなかった…」
「前は、こすぷれ〜んで働きながらも、闘わずして楽しくやってたのに…」


李さんは遠い目で空を見ていた。
今の空は青空で、白い雲がまばらに飛んでいる。
李さんはそんな雲を見ながらこう続けた。



「やっぱ、アタシは戦士なんだ…」
「戦って、闘って、斗い抜く…そんな、不器用な女なんだ」


「…違いますよ、俺はこすぷれ〜んで働いている李さんも李さんだと思います」
「今の李さんは、本当の李さんじゃないと思いますよ?」


俺はあえてそう否定した。
李さんはポカーンとしていたが、構わずに俺は微笑んで続ける。



「この世界は、異常なんです…俺にとっては何もかもがフツーじゃない」
「俺は、李さんをただ戦わせる為に、俺の現実に呼んだんじゃない…」


それは紛れも無く俺の本音だった。
もちろん、それは他の皆に対しても同じだ。
誰ひとり、戦わせる為に呼び寄せたんじゃない…俺は、ただ皆と幸せに暮らしたかっただけなんだ。



「ゴメン、そうだよな…聖は、聖にとっては…こんなの現実じゃ無いのにな」
「アタシは、やっぱり最強じゃなくて良い…」
「でも、聖の為なら…アタシは闘える」
「だから、聖は頼ってくれ…アタシを」
「アタシが、必ず…ボスを倒すから!」


「はい、信じます」
「必ず、李さんも一緒に現実に戻るって…」
「また、皆と一緒に…あの、現実に」


俺は、長らく顔を見てない家族の顔を浮かべて涙目になる。
きっと、心配しているだろうな…きっと、信じてくれているんだろうな。
だけど、待っていてくれ…俺は、俺たちは、きっと帰るから。
皆が待つ、あの現実に。



「…あははっ、何か湿っぽくなっちゃったな!」
「なぁ、聖? アタシに何かプレゼントしてくんない!?」


「えっ? 急にどうしたんです?」


李さんは恥ずかしそうに両腕を腰の後ろで組み、はにかんでいた。
な、何かドキッとするな…でも、プレゼント、ねぇ…?



「…俺、この世界の通貨持ってませんよ?」


「良いよ、聖は選んでくれれば」
「金はアタシが聖にあげるから♪」


そう言って李さんはこの国の通貨…紙幣を束で渡す。
これ、多分かなりの額だと思うけど、何を買えと?
俺はしばし考えるも、とりあえず目に入った雑貨店に目をつけた。
そこには、様々なアクセサリーや服飾品が並んでおり、どうやら色んな国から仕入れている様だ。
俺は、そんな中で気になるバンダナを手に取る。


店主
「おっ、それに目をつけるとは良い眼力だねぇ〜」
「そのバンダナには、幸運を呼び寄せるって話があるんだよ?」


黄色い爬虫類系の姿をした店主のポケモンは笑ってそう解説する。
俺はその話を聞きながらも、バンダナに装飾されてる石が気になっていた。
青白く輝く菱形の石…俺は、その石に何かを感じていた。


店主
「その石はね、何か凄い力が隠されているらしい」
「でも、長い歴史の中でその力を引き出した者はいなかったそうだ」
「だから、その石の力を引き出せる者は、幸福になるって噂があるんだよ♪」


「へぇ…それで、これいくらなんですか?」

店主
「そうだね、1000P(ポケ)でどうだい?」


やっすいな幸運の石!! 少なくとも李さんから貰った紙幣には1枚1万Pって書いてあるんだが!?
まぁ、その辺は迷信なんだろうし、別に良いか…当たれば儲けモンって思えば。



「じゃあ、これで…」

店主
「ありがとさん♪ きっと幸運が訪れるよ!」


俺は店主からお釣りを貰い、早速バンダナを李さんに渡す。
そのバンダナは中央に青白い石が埋め込まれており、柄は白黒のマーブル模様。
李さんはそれを嬉しそうに受け取り、そして早速それを額に巻いた。
李さんの短い前髪の下にバンダナは巻かれ、後頭部でしっかりと結び付ける。
青白い菱形の石はキラリと日光で輝き、まるで李さんの意志に反応しているかの様な錯覚を受けた。



「どうだ? 似合うか?」


「はい、やっぱり李さんにはこういったタイプの方が合いますよ♪」
「そのバンダナには幸運のお守りが付いてるそうですし、きっと李さんに力を与えてくれます」


「そっか…聖がプレゼントしてくれたんだから、きっとそうだよな!」
「うん、アタシ…絶対勝つよ! そんで、一緒に帰る!!」
「さぁ、話聞きに行こうぜ!! そしたらきっと最後の闘いだ!!」


俺は李さんの嬉しそうな笑顔に釣られて微笑む。
そして、一緒に駆け足で武さんの道場に向かった。
後は、ボスを残すのみ…一体、武さんからは何を聞かされるのだろうか?
俺たちに残された道はもう少し…李さんは、勝てるのか?



………………………




「…来たか、ようやく完治したのだな」


「ああ、待たせて悪かったな…」


「それじゃあ聞かせてください、最強を自負する奴の話を…」


俺たちはあれから武さんの道場を訪れ、中にある応接間の様な場所で座って話していた。
武さんは少し間を置き、そして静かに語り始める…



「まず、ワシも奴の事は詳しく知っているわけではない」


「………」


「ただ、奴は強い…それだけの男たちが屠られてきた」


「…殺されたって事ですか?」


俺の言葉に武さんは目を瞑って頷く。
もちろん、それは闘いの結果だろう。
強くなればなる程、そういったシビアな闘いになるのは避けられないのかもしれない。



「奴は最強という言葉に取り憑かれておる」
「故に、必ず李の前に現れるじゃろう…」
「この国の隣にある『トスラ』に向かえ、奴は今そこにいよう」


「…ありがとうございます、早速行ってみます」


「ああ、これでオサラバだけど、元気でな!」


武さんはそれ以上は何も言わずに手だけ上げ、俺たちを送り出してくれた。
俺たちはすぐにそこから空港へ向かい、隣国のトスラへと飛び立つ…



………………………




「これで、最後か…」


「なぁに、アタシは勝つさ…」


李さんは確信した様に笑う。
その笑みは同時に最後の相手との闘いを楽しみにしている様でもあった。
果たして、一体どんなポケモンがボスなんだ?
ここまで情報が無いっていうのも気になるが…



「しっかし、何なんだここ? ほとんどジャングルじゃないか…」


「気温も暑いしな…っていうか、人っ子ひとりいないんだけど?」


そう、俺たちはトスラに辿り着いたのは良いのだが、この国は見事にジャングル地帯で、人が住んでいる場所は一部だけらしい。
観光目的で訪れる人もいるそうだが、基本的には野生の獣が多い為、近付くのは厳禁だそうだ。



「とりあえずテキトーに進んでるけど、本当に会えるんだろうか?」


「なぁに、アタシは一応最強になったんだ…向こうから来てくれるはずさ」


そうだと俺も思ってはいるが…恐らく相手は人に見られるのをあまり良しとはしていない様に思える。
闘った相手を全て殺していると考えれば、人気の無い場所に出没する可能性は高い、か…



………………………




「………」


「李さん…?」


もうそろそろ夕暮れ時…突然李さんが立ち止まり、前方を睨んでいた。
その先は川が流れており、河原が広がっている。
どうやら、ジャングルを抜けたらしいな。
李さんは無言で手を俺の前に出し、前に出るのを制された。
俺はすぐに緊張感を高める…どうやら、いるらしい。



「聖は終わるまでここにいろ…大丈夫、信じていれば勝つさ」


「頼みます、李さん…必ず勝ってください!」


俺はひとりジャングルを抜けて河原に出て行く李さんの背中を見送る。
ここからは、遂にラストバトルだ…!



………………………




「………」


「お前が、波兎織 李か…」


アタシが歩いていた先に突如現れる男。
褐色の肌に、金髪のドレッドヘアーで、額と揉み上げの辺りだけが赤く染められている。
服に関しては、上半身はほぼ裸で下はズボンを穿いているだけ。
両腕には金の輪が描かれた手甲を装備しており、甲の部分だけは赤かった。
身長は180程か、筋肉のつき方はまぁまぁ…バランスの取れた体に見えるな。
尻には尻尾も付いており、1mはある位の長さで先端は草木の様な何かが付いている。
強いて言うなら鱗…だろうか?
アタシは微笑し、更に前に出る。
すると、男はこう語り出した…



「波兎織 李よ…あの程度のザコ共を倒した程度で、最強を名乗れると思うな?」


「ああ、そんなどうでも良い称号は、テメェを呼び寄せる餌みたいなもんだ…」
「アタシは最強とかどうでも良い」


アタシの吐き捨てる様な言葉に、男は少なからず表情を変える。
そして、更に言葉を続けた。



「ほう…あくまで俺と闘う事が目的だったと?」


「そうだ、そんでぶっ倒す!」


アタシの言葉に男はクククと笑う。
何がおかしいのかは知らないが、男は少なからず嬉しそうな顔をした。



「ククク…倒す、ねぇ」
「果たして、お前にそれが出来るかな?」
「俺は、あんなザコ共とは違うぞ?」
「そう、俺こそが最強…『ヴィクトリアス・マキシマム』だ!!」


男は両手を広げてそう高らかに名乗る。
そして、ノーガードの構えでジリジリと距離を詰めて来た。
アタシは微笑し、構えを取る。
そうだ、余計な語りは必要無い…どうせアタシは頭悪いんだ。
やるからには…



「なら、拳で語ろうかぁ!?」

マキシマム
「ふははっ! 精々楽しませろ!!」
「最強はこの『ジャラランガ』たる俺だ!!」


ジャラランガねぇ…こいつぁ良いや、ようやくアタシに有利なタイプが来た。
さぁて、どの位強いのか見せてもらおうか!?



「ふっ!」

マキシマム
「ふんっ、小技を…牽制のつもりか?」


アタシのジャブをマキシマムは頭を振って回避する。
スピードはあるな…だが全部かわしきれるかな?
アタシは更にジャブを連打し、攻め立てる。
リーチは向こうの方があるからな、なるべく距離を詰めねぇと…



「ぐっ!?」


アタシは殺気を感じ、すぐにボディを両手でガードした。
マキシマムの右回し蹴りが放たれていたのだ。
パワーはかなりある…だがマッスルや武さんに比べりゃ大した事はねぇ。


マキシマム
「この程度と思うなよ? こんな物は小技に過ぎんのだからな!!」


マキシマムは自由自在の角度から蹴りを放って来る。
アタシはそれをベタ足でガードする。
決して後には退がらず、むしろ前に出て弾いて行った。


マキシマム
「むっ!?」


アタシが裏拳でパーリングすると、マキシマムは体勢を崩す。
蹴りは確かに威力もリーチもあるが、捌かれた時は逆に手技より不利になるぜ!?
アタシは一気に踏み込み、射程に入る。
そして奴の脇腹に向けて左ボディを放った。


マキシマム
「ふっ…」


「!!」


マキシマムは右肘を落とし、アタシの拳をエルボーブロックする。
アタシは左手に痛みを感じ、次の矢が遅れてしまった。
その隙にマキシマムは上から左拳で打ち下ろしを放って来る。
アタシは咄嗟のウィービングで何とか掠めるに留まった。



(ちっ! パワーもスピードも高次元だ! 崩すのは簡単じゃねぇなこりゃ…)


特に想像以上に奴の体は硬く感じる。
腕の手甲は鱗の様な素材なのか、衝撃を吸収している様にも感じた。
どうやら相当防御が自慢のポケモンみたいだな…


マキシマム
「ふははははっ! どこまで持つか楽しみだ!!」
「俺を相手にして、今まで生き残った者はひとりもいないからな!」


奴の目はまさに戦闘狂の目だった。
闘いの結果に生き死には関係無い…ただ己の全力を試したいだけ。
そうだよな…アタシだって、別にその辺はどうとも思ってない。
そもそも、アタシは殺るか殺られるかの退廃した世界で生き残った女だ。
拳ひとつで常に闘い、そして悪党を倒して生きていた。
その後、浮狼の大将が目をかけてくれたから、アタシは今こうやって聖と一緒にいる。
そんな聖と約束した以上、アタシは何があっても負ける気はしねぇ!!



「うらぁぁぁぁっ!!」

マキシマム
「大振り!? 隙だらけだぞ!!」


アタシは思いっきり振りかぶって右アッパーを狙う。
マキシマムは素早くバックステップし、そこから右回し蹴りを放った。
アタシは構わず、当たる所に『冷凍パンチ』で振り抜いた。


ビキィィィッ!!


マキシマム
「ぐぅ!? き、貴様…俺の足を!!」


「へっ、流石に氷は苦手か? まぁ、アタシも格闘は苦手なんだがな…」


アタシはマキシマムの右足の甲を狙って拳で止めてみせた。
その際に冷気が伝わり、マキシマムの足首は凍傷する。
マキシマムは顔を若干歪め、ダメージは受けた様だった。



「シッ!」

マキシマム
「ちぃ! 舐めるなぁ!!」


アタシはすぐに前進して左ジャブを連打する。
2発程がマキシマムの顔面を打ち、マキシマムは怒りを露にして再度右回し蹴りを放って来た。
アタシはガード固めて片腕でブロックする。
その際に冷気を腕から放出し、更に奴の右足を凍らせる。
マキシマムの右足は大きめの霜が張り付いており、かなり冷たいはずだ。
その足で後何回蹴りが放てるかな?


マキシマム
「この程度で調子に乗るな!!」


「!? 速ぇ…!」


突然、マキシマムはその場で妙なダンスを始める。
荒ぶる様なその動きと共に、マキシマムは筋肉をパンプアップさせ、スピードを上げてきた。


マキシマム
「しゃあっ!!」


「ぐうっ…!!」


マキシマムの強烈な右回し蹴りが再度アタシを捉える。
アタシは両腕でブロックするも、衝撃で吹き飛ばされた。
だが倒れはせず、アタシは根性で踏み留まる。
こいつぁヤバイな…アタシの拳で捉えられるか?
奴のスピードはかなり上がってる…しかも、まだ上がりそうだ。
奴は攻撃後に更に躍り続け、段々とスピードが増していくのが解った。


マキシマム
「この俺に『竜の舞』を使わせたのは評価してやる」
「だが、その代償は重いぞ!?」


マキシマムは更に上がったスピードで突進し、右拳を乱暴に振るって来る。
アタシは一切退かずにその場でその拳を迎え撃った。


ビキィィィッ!!


マキシマム
「がっ!? バ、バカな…相討ち狙いとは正気か!?」


アタシは思いっきりノーガードで踏み込んで奴の拳を顔面で受ける。
そして奴の土手っ腹に右の冷凍パンチを叩き込んでやった。
アタシたちは互いに後ろへは吹き飛ばず、その場で睨み合う。
アタシは顔面から血を流しながらなお笑ってやった。
まぁ、事前に『鉄壁』仕込んでんだがな。



「どうした? アタシはまだ全然いけるぞ?」

マキシマム
「があぁっ!!」


マキシマムは更にパンチを左右で連打してくる。
アタシは顔面を左右に揺らされるも、意識は切れていない。
すぐにアタシは踏み込んでボディを追加した。
ただし、今度は冷凍パンチじゃない。


マキシマム
「!? こ、これは『ドレインパンチ』!?」


「ああ、これなら相討ちでもアタシが有利かな?」


マキシマムは顔色を変え、戦法を変え始めた。
打撃主体のスタイルから急に密着して投げの体勢に入る。
アタシは一本背負いで投げられ、河原に叩き付けられた。



「ぐぅっ!!」

マキシマム
「死ねぇ!!」


マキシマムはすぐに飛び蹴りを放ち、アタシは両腕をX字にクロスさせて顔面をブロックする。
衝撃で後頭部を強打したが、アタシは歯を食い縛って耐えた。
そして、ガード後すぐにマキシマムの右足を掴み、その足を握り潰す。


ミシミシミシィッ…!!



(硬い! まるで鋼みたいな硬さだ!!)


マキシマムの足はおよそ筋肉と呼ぶには生温い何かで出来ている様だった。
アタシの握力でも骨までは達さないか!?


マキシマム
「くっ! 馬鹿力め!!」


「!?」


マキシマムはアタシに足を掴まれたまま、クルリと体を回転させて無理矢理振り解く。
そして、そのまま河原に背を預け、すかさずアタシの左足首の間接を極めた。



「ぐぅぅっ!!」

マキシマム
「はははっ! この足はもらったぞ!!」


アタシは思いっきり体を跳ねさせ、上半身を前に振り回す。
そしてアタシの足をロックしている奴の足の膝に向けてアタシは『アイスハンマー』で叩いた。


バキィィィッ!!


マキシマム
「がぁっ!?」


「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


足のロックが外れた瞬間、アタシは足を引き抜き、奴の右足を片手で掴んで強引に引っこ抜く。
そしてそのまま河原に叩き付けた。


マキシマム
「がはぁっ!? き、貴様…何処にそんな力が!?」


「いい加減、こっちも『ビルドアップ』が出来てきたからな…」
「能力アップ技があるのはテメェだけじゃねぇんだぞ!?」


アタシは首をコキコキと鳴らし、左足で河原を叩いて感触を確かめる。
痛みはあるが、動かない程じゃない。
それよりも奴の右足の方が遥かに深刻だ。
奴は立ち上がる事も出来ずに脂汗を全身から出してこちらを憎そうに睨み付けている。
アタシは鬱陶しいという目で見下げてやった。


マキシマム
「この俺を、そこまでコケにしてくれるとはな…!!」
「後悔させてやるぞ!? 俺を本気にさせた事を!!」


奴はゆらりと片足だけで立ち上り、その場で震え出す。
そして突然虹色のオーラが奴を包み、尻尾がブルブルと揺れ始めた。
その際に、妙な音が聞こえる。
奴はそのまま吼える様な雄叫びをあげ、ダンスを踊り始めた。
数秒踊った後、奴は片膝を河原に着け、両拳を胸の前に合わせて祈る様なポーズをする。
その後、奴は大きく真上に飛び上がり、全身を震わせて咆哮した。


マキシマム
「アオオオオオオオオオオオォォォォッ!!!」


「!?」


その瞬間、アタシは全身が痙攣して血を吐き出す。
目からも血涙が流れ、耳や鼻も利かなくなる。
やがてアタシはその場で、後にゆっくりと倒れた…



「李さぁぁぁぁんっ!?」

マキシマム
「ん…? ガキか…そんな所で隠れて観戦とはな」
「ふははっ! 残念だが俺の勝ちだ!!」
「俺の『ブレイジングソウルビート』を見て生きていた奴はいない!!」
「だが、誇って良いぞ? 俺にこの技を使わせたのは久し振りだからな!」


「李さん!! 立つんだ!! こんな所で負けるなぁ!?」


声が、聞こえる…
アタシは意識をどうにか繋ぎ止めれたのを確認する。
だが、体がピクリとも動かない…感覚が完全に立ち切られている。
不思議と、痛みすら無かった…まるで、死んでいるかの様だ。
いや、違う…



(死ぬのは…負けた時だけだ!!)


「李さん!!」

マキシマム
「何…だとぉ!? 何故立てる!? 確実に致死量だったはずだ!!」


アタシは感覚が無いまま体を動かす。
だが、不思議と心臓の鼓動音だけは感じ取れた…アタシの心臓はかなり心音が弱くなっている。
アタシは自分の体が冷え始めているのを理解した…流れ出る血液を無理矢理凍らせて出血を止める。
そして、アタシは聖の涙する顔を見て、何かがキレた…



「アアアアアアアアァァァァァァァッ!!!」


アタシは全力で咆哮する。
それを見てか、マキシマムは一段と力強く河原を蹴って突進して来た。
右足のダメージを感じさせない、まるでその場で進化でもしたかの様な力強さ。
だが、アタシは構わずに両手を前にかざして極低温の冷気を放つ。


コォォォォォォォォォッ!!


マキシマム
「なっ!? こ、この冷気はぁ!!」


「あのオーラ…まさかZ技!?」


アタシは冷気でマキシマムの動きを止める。
マキシマムの体は凍り付き、動きが完全に鈍っていた。
アタシはそのまま両手のアイスハンマーで足元の河原を叩き、そこから氷の柱を立て続けに走らせ、マキシマムをドーム状の氷柱で囲んで逃げ場を消した。
そして、アタシは河原に着けた手で体を前に押出し、氷の床を滑って高速突進する。



「オオオオオオオオァァァァァァッ!!」

マキシマム
「げふぅっ!? かっ…はぁ!?」


アタシは動きの取れないマキシマムの心臓に右拳を全力で振るう。
そして奴の体にヒットした瞬間、拳を抉り込んで最大の冷気を送り込んだ。
奴の心臓は極低温の冷気を受け、やがて心停止する…
アタシは、そのまま拳を引き抜き、その場でガクリと項垂れた。


パッキィィィィィィンッ!!


氷のドームは粉々に砕け散り、アタシたちの真上からキラキラと夕陽を受けて輝く。
すると、アタシに向かって聖が突進して来たのを確認した。
アタシは聖に抱きつかれ、バランスを崩して倒れそうになる。
聖はそんなアタシの体を優しく抱き止めてくれた。



「…あ」


「おっと! はは…このバンダナ、本当に幸運を呼んだみたいですね♪」


アタシの頭からズレ落ちたバンダナは聖にキャッチされ、聖はニカッと笑う。
バンダナは解けただけの様で、血塗れになってはいるが破れたりはしてない様だ。
アタシはそれを確認して安心する。
これは、アタシの宝物だからな…



「…マキシマムは、死んだんですか?」


「冷凍しただけだよ…すぐに解凍して心臓マッサージでもすりゃ蘇生すんだろ」
「まぁ、これもアイツの運命だ…最強なんて下らない言葉に狂った、末路さ」


全身を凍らせ、ピクリとも動かないマキシマムを見て、聖は複雑そうな顔をしていた。
聖は優しいからな…あんな奴でも死なせてしまうのは気が引けるのだろう。
だけど、ここからはもう、アタシたちは関与出来そうに無い。



「くっ! もう、ゲートが…!!」


「へっ…ボスを倒したらすぐかよ」
「まぁ、良いや…これで、終わりなら…な……」


アタシはそのまま意識を失いそうになる。
さぁ、これで…元の世界には、戻れるのかな?
アタシはそんな想像しながらも、聖からバンダナを受け取ったのだけは理解出来た。
そして、最後に祈る…どうか、聖が涙を流さずに済みます様に…と。










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第5話 『李 VS 最狂の竜』


To be continued…

Yuki ( 2019/05/06(月) 15:57 )