とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない













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第5章 『POKE MOA EVIL』
第2話 西部編

「で、次は唐突に荒野ですかい…」


俺は気が付けば荒野に放り出されていた。
この転移?タイミングだけは全く予想出来ず、かなり唐突に俺は世界に放り込まれる。
周りを見る限り、原始編とは空気が違うのを感じた。



「…どこか外国って感じはするが」


カサカサカサカサカサカサッ!


俺の真横をタンブルウィードがカサカサと転がって行った…
もしかしなくても南米かその辺か?
と、なると予想出来るのは…


パァンッ!!



「でっ!? いきなりかよ!?」


俺の足元が突然銃撃される。
俺はその場から飛び退き、前方を見ると馬に乗った荒くれ者っぽいのが短銃を構えていた。
やっぱ西部劇じゃあねーか!?
何でいきなりこんな状況なんだよ!?


フーパ
『だって西部編だもん』


「だもんじゃねーよ!? 可愛い娘振るな!!」



『POKE MOA EVIL』

西武編 『電光』



………………………




「くっそ〜また拐われるオチかよ…」

フーパ
『まぁ、クリアアイテムだからな…そうポンポンその辺に落ちてもらっても困るんだろ』


まぁ、そういう設定なら仕方ないのか?
とはいえ、益々制作者の意図が読めない。
何故、こんな混沌を生み出したのか?
何故、俺たちにこんなゲーム染みた世界で戦わせるのか?
何故、クリア出来る様に作ってあるのか?



(考えても答えは出ない、やはり全ての家族を助けるのが答えになるって事だろうな…)


俺はちなみに荷馬車で運ばれている。
荒くれ者たちはグループで活動している様で、俺は捕まって縄でがんじがらめにされていた。
荷馬車はかなり揺れまくっていて、荷台の中は完全に視界をシャットされており、外を見る事は出来ない。
俺はとりあえず荷台の壁に背を預け、成り行きを見守る。
どうせその内助けが来るだろ…クリアアイテムだってんなら。


ドガァッ!!



「うわっと!?」


突然荷馬車が急ブレーキする。
俺は反動で前に倒れそうになるが、何とか持ちこたえた。
そして外からは銃撃音、どうやら交戦している様だな。
だが、すぐに何やらバチバチィ!と電撃の様な音が響く。
そしてすぐに外は静かになり、ひとつの足音だけがこちらに近付いている様だった。
その足音は荷台の前で止まり、荷台の入り口を仕切っていたカーテンを開ける。
その先にいた者は、俺が知っている者の顔だった…



「唖々帝さん!?」

唖々帝
「聖様!? まさかこんな所で会えるなんて!!」


どうやら、この世界に巻き込まれたのは唖々帝さんらしい。
香飛利の時とは違い、ひとりでも十分戦える人だから戦闘面は安心だな。
しかし、唖々帝さんの服装が完全にガンマンのソレになってるな…
いかにも西部劇って感じのウエスタンシャツにハット。
色はブラウンであえて統一されており、体を覆えるマントみたいなのも羽織っている。
だが、銃の類いは一切持っておらず、丸腰の様だった。



「…まさか、電気技だけで銃と戦ってるんですか?」

唖々帝
「そりゃそうだろ…電気タイプなんだから」
「まぁ、これでも早打ちなら自信はある…素早さは低くてもな」


そう言って唖々帝さんは帽子の鍔を摘まむ。
何か風格あるな…クワガノンだけに、頬から角が伸びてるけど、メインはやっぱそこから電撃だもんな…
つまり、早打ちするなら最初から構えてるんだからある意味反則だ…


唖々帝
「とりあえず、ここを離れよう」
「この辺りはならず者が多いし、面倒なのもいる…」


そう言って唖々帝さんは、俺を縛っている縄を手の電熱で焼き切った。
改めてこういう所は電気タイプだよな…守連や鳴に隠れがちではあるけど、唖々帝さんも電気タイプとしてはかなり力は強いんだ…



「…ありがとうございます」

唖々帝
「どうしたんだ? 当然の事だろう…」
「私たちは、家族と言われた時点で、聖様の事が何よりも大切な存在になった」
「守連たち程にはなれないかもしれないが、私だってそれなりに聖様の事は愛しているよ」


唖々帝さんはそう言って俺の手を引いて外に出してくれた。
その手はゴツゴツとした戦士の手だが、優しさを十分感じられる手だった。


ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…



「改めて荒野だな…」

唖々帝
「この世界に巻き込まれてから、もう15日は経ってるが、どこを進んでもこんな感じだよ」
「街も村もほとんど見当たらない…馬や服はならず者たちから奪ったが、食料は中々大変だな」


俺はギョッとする…15日って事は、俺が原始編で経過させた日にちとほぼ同じだ。
って事は、他の世界では既に同様に時間が経過しているのか?
となると、かなり心配になってくるな…香飛利程にレベルの低い娘は少ないとはいえ、世界の設定にも寄る。
果たして、大丈夫なんだろうか?



「や〜っと見付けたぜ!」

唖々帝
「ちっ…早速面倒臭いのが来やがった」


「何だ…アイツもガンマンか?」


突然馬に乗って現れたのは、黒いウエスタンシャツに身を包んだ西部劇風のガンマンだった。
腰にはホルスターが左右に下げてあり、それなりに風格は感じるな。
見た所男の様で、口には葉巻を咥えている。
黒いウエスタンハットが深々と被さっており、頭部の詳細は解らないが、尻尾が特徴的なので俺はすぐに種族を察した。



「ヘルガー、か」

ヘルガー
「その通〜り! 俺様は人呼んで荒野のマッドドッグ!!」
「賞金稼ぎのヘルガーよ!!」


唖々帝さんは、はぁ…とため息を吐く。
どうやら知り合いらしく、額に手を当てて首を横に振っていた。
相当ウザそうだな…そんなに嫌だったのか?


ヘルガー
「電光のクワガノン…ここ数日間で一気に賞金首として名を上げた凄腕の賞金首だ!」
「今度こそ、その首は俺が頂くぜ!!」


ビシィッ!とその瞬間電光。
唖々帝さんの口から軽く放たれたソレはヘルガーが握っていた手綱を軽く焼き切り、ヘルガーの馬は驚いてヘルガーを振り落としてしまった。
うわ、定番だけどコテコテだな…


ヘルガー
「や、野郎!? またやりやがったな!?」


「ヒヒーーーン!!」


そして馬はさっさと逃げ去ってしまった…薄情な馬だな、忠誠が足りてないぞ。
そして唖々帝さんはすぐに左手の人差し指と親指を口に差込み、口笛を吹いた。


ピィーーーーッ!! パカラッパカラッパカラッ!!


唖々帝
「ハイヨー!!」


「わっと! はは…こりゃまた定番だな!!」


俺はすぐに唖々帝さんに体を引き上げられて馬の背に乗せられる。
そして、慌てて銃を抜くヘルガーを尻目に、唖々帝さんは馬でさっさと駆け抜けて行ってしまった…


ヘルガー
「くっそ、覚えてろーーー!?」


………………………



唖々帝
「…大丈夫か聖様?」


「ええ、慣れてないんで尻は痛いですけど…」
「それより、俺の事は別に呼び捨てでも構いませんよ? 唖々帝さんの方が年上ですし…」

唖々帝
「そうか? まぁ、大将があの呼び方だから私たちも気を使ってたんだが…」


ああ、そう言われればそうか…
唖々帝さんはあくまで浮狼さんの部下だったから、その時の意識がまだ抜けてなかったんだな…



「もう、あの時の様な世界じゃ無いんですから、俺の事は遠慮無く呼び捨てで構いません」
「むしろ、下手に人前でその呼び方だったら、返って疑問に思われますよ?」


実際、悠和ちゃんがそうだったからな…
せめて、人前では区別してもらってるけど、本音は普通にしてほしいのが俺の希望だ。
家族に、格差は作ってほしくないからな…



(とはいえ、愛呂恵さんや浮狼さんは元の性格や仕事のせいもあるから、難しいだろうな…)


更に言うなら華澄と女胤もだ。
まぁ、個性と言えばそうなんだが、俺も華澄や阿須那に関しては呼び捨てだし、曖昧になってる部分も多いか…


唖々帝
「とりあえず了解だ…じゃあ聖、とりあえず何か気付いた事とかはあるか?」


「…俺は昨日まで、香飛利と一緒に別の混沌世界にいました」
「そして、そこでボスを倒して、その世界はクリア…」
「俺たちは妙な孔に吸い込まれて、また離れ離れになってしまいました」

唖々帝
「ボス、ね…つまりはそれを倒せばクリアってのがこの世界の共通ルールになるのか?」


「そうだと思います、そして同じ様に巻き込まれているのが、後5人はいると思われます」

唖々帝
「…結構な数だな、今までこんなケースはあったのか?」


「いえ、初体験です…しかも、今回の混沌はどうにも違和感が多い」
「まるで、別物に感じるんですよね…特に、あのブラックホールみたいな孔とか」


基本的に、俺が今までクリアした混沌は光の粒子となって消えるのが定番だ。
だけど、今回のケースはソレでなく、妙な孔に吸い込まれて移動させられる。
どうにもこの部分に違和感を覚える…本当にこれは混沌世界なのか?


フーパ
『混沌と言えば混沌さ…ただ、強いて言うなら混沌の中で作られた混沌って所か』


フーパが突然そう説明を入れてくる。
混沌の中…? つまり、混沌世界が最初にあって、その中でこんなゲーム染みた世界を作ったって事か…
と、なると…本命の混沌は制作者のいる世界?
だとしたら、本当の意味でのラスボスも見えて来るな…


唖々帝
「とりあえず、今は流されるしかないな」


「ですね…どうなるかも解りませんし」


俺は唖々帝さんの背中に顔を埋める。
唖々帝さんの背中は意外に大きく、女性としてはやはり逞しい方だな。
元々戦場で戦い続けた人だし、体つきが違うのは仕方ないのかもしれない。


唖々帝
「遠くに灯りが見える…どうやら町があるみたいだ」


前方には確かに町らしきシルエットが見える。
今はすっかり日も沈み、かなり冷え込んでいるのが少々厄介だ。
俺は夏服のままだし、原始編と違ってこの世界は寒い。
せめて、上着でも調達出来れば良かったんだが…



………………………



唖々帝
「…よっと」


「すみません、助かります」


俺は唖々帝さんの手を借りて馬から降りる。
馬はその場で止まり、足を降り立たんで休んだ。
俺たちはとりあえず町の中を見渡し、まずは宿を探す。


唖々帝
「…酒場か、宿もやってるみたいだな」


「だったら、今日はここで宿ですね…でも、金はあるんですか?」


少なくともこの世界の通貨なんぞ俺には解らない。
まず普通の通貨じゃないだろうしな…


唖々帝
「とりあえず、金貨はいくらかある」
「どの位必要かは知らないが、何とかなるだろ…」


そう言って唖々帝さんは腰にぶら下げている革袋を手に取る。
中にはジャラジャラと金貨が入っている様で、そこそこありそうだ。
さて、上手くいければ良いんだがな…



………………………



キィィ…キィ…キィ…


西部劇独特の入り口が古臭く音をたてる。
そして、中から渋い音楽が聞こえ、俺たちは中を見渡した。


客一同
「………」


客たちは俺たちを一瞥し、特にコメントもせずにそれぞれ食事を取っていた。
そんなに客は入っておらず、繁盛してるとは言えない様だが、カウンターの奥にはマスターが酒を入れている様だった。


唖々帝
「…とりあえずカウンターに行くか」


「はい…」


俺たちは案内される事も無く、勝手にカウンターの右端にふたりで並んで座った。
そして、逆の左端に座って飲んでいた客がこう挨拶する。


客A
「おいおい、こんな所にガキが入って来てるじゃねぇか!」

客B
「ここは酒を飲む所だぜ? ガキは帰ってママのおっぱいでも飲んでな!」


いきなりだなオイ。
しかしママのおっぱいとなると、俺には母親がいない。
産まれた頃は飲んでいたのだろうが、その後はまるで記憶に無いからな…
とりあえず想像すると色々アウトなので止めておく。


唖々帝
「マスター、とりあえずバーボン…聖は?」


「水で良いですよ…後、出来れば何か食べれる物を」

マスター
「あいよ…」


マスターは草タイプの様で、フサフサの緑髪が特徴的だった。
角の形状を見る限り、ゴーゴートの様だ。
他の客も何かしらのポケモンみたいだし、やはりここでも人間は俺ひとりみたいだな…


客A
「おいおい、無視かこの野郎?」

客B
「折角こっちが忠告してやってるってのに良い度胸だな!」


やれやれ、典型的な酔っぱらいだな。
服装は白のウエスタンシャツで帽子も露骨にガンマン。
って言うか、この世界ではこれが基本スタイルなんだろうな。
種族は…黒い耳と尻尾から判断すると、ポチエナって所か?
ふたりは足元をフラつかせながらこっちに近付いて来る。
腰には銃が下げられているが、やる気だろうか?


ポチエナA
「おう、アンタ妙なの頬から生やしてるな? 虫タイプか?」

ポチエナB
「こっちは逆に何のポケモンか解かんねぇ…格闘系か?」

唖々帝
「…失せろ、今私は機嫌が悪い」


わお…唖々帝さん相手も見ずにそう言い放った。
少なからず俺を軽視されたのが癇に障ったのかな?
ポチエナたちはそれを聞いて当然怒る。
そして銃に手をかける瞬間、唖々帝さんは左手で電撃を放ち、ポチエナのひとりを黙らせた。
一瞬の電光に店内の全員が唖然とする。
ポチエナの片割れは気絶しており、動く気配は無かった。


唖々帝
「………」


唖々帝さんがギロリと睨むと、ポチエナの片割れは銃から手を離し、倒れた相方を抱えてすぐに立ち去った。
やれやれ、金払ってないんじゃないのか?


マスター
「あんた、相当な腕だね…! あのブラックホースのチンピラを簡単に追い返すとは」

唖々帝
「大した事じゃない、それよりジャーキーをくれ」


唖々帝さんは平然とバーボンをボトルで飲み、マスターは笑ってビーフジャーキーを皿で出してくれた。
唖々帝さんはそれをツマミながらバーボンを飲む。
俺は水を飲みながらとりあえず料理を待った。



「あいよ、お待たせ! ステーキとサラダで良かったかい!?」


「あ…ど、どうも」


コックらしき女性店員が威勢の良い声でそう言って皿を俺の前に乗せた。
200gはあろうかというサイズで、サラダも大盛りだ。
ライスが無いのは仕方ないと割り切るか…
とりあえず俺はナイフとフォークを下手くそに使ってステーキを切り分けた。


女性店員
「ん? あんまりこういうのは食った事ないのかい?」


「いえ、ナイフに慣れてなくて…いつも箸だし」

女性店員
「箸…? 何だいそりゃあ?」


おっと、そこからまず文化が違うのか。
西部劇の時代とかだと、流石にアメリカに箸は普及なんてしてないわな…



「まぁ、気にしないでください…とりあえず食えますんで」


俺はそう言ってとりあえずステーキを一口食べた。
うん、美味い! 予想してたのよりかはよっぽど美味いな。
原始だと味付け無しの肉しか食えなかったからな…久し振りに感じる。


唖々帝
「…ところで、ブラックホースって?」

女性店員
「ああ、最近この辺り一帯を仕切ってるつもりの集団さね」
「ならず者をかなり集めてて、相当な規模のグループに変貌してる」
「この辺りじゃ我が物顔で、シェリフも手が出せやしない…」


成る程、定番の展開だな。
と、なると…この世界ではそれがボスっぽく聞こえるが。


唖々帝
「…聖、どう思う?」


「ボスの可能性は高いですね、さっきのもフラグかもしれません」


唖々帝さんはバーボンを飲んで考える。
唖々帝さんはあまり頭の回転は速い方じゃないと思うけど…実際にはどうなんだろうか?


唖々帝
「はっ、ダメだな…私に細かい事を考えるのはやっぱ無理だ」


あっさり諦められた…まぁ、仕方ないのか。
浮狼さんたちの頭脳は杏さんだったみたいだし、唖々帝さんも多分に漏れない様だ…



「とりあえず、今はここで休む事を考えましょう」
「これがフラグなら、きっと後から何か起こるはずです」

唖々帝
「了解だ…私はあくまで戦闘専門、聖に全て任せるよ」


唖々帝さんは微笑んでバーボンを飲む。
酔いも回って来ているのか、少し顔が赤かった。
バーボンって結構アルコール強かったはずだけど、700mlはあるボトルを飲みきりそうだな…


マスター
「ははっ、良い飲みっぷりだ! 今夜はサービスしとくから、思う存分飲んでくれ!」

唖々帝
「ああ、助かるよ…後、私にもステーキを貰えるか?」

女性店員
「あいよ! すぐに作ってやるさな!」


女性店員はそう言って厨房に向かった。
見た目はマスターと同じゴーゴートっぽいけど、角が小さい…進化前のメェークルかな?
という事は、親子だと予想は出来るが…



「あの店員さんは、娘さんですか?」

マスター
「ああ、まだメェークルだけどね…エミナって言うんだ」


む…この世界でもちゃんと個人に名前があるんだな。
エミナさんね…ちゃんと覚えておこう。


唖々帝
「…この店は繁盛してるのか?」

マスター
「まぁまぁかな…今はブラックホースのせいでロクな客は来ないけどね」


マスターはグラスを磨きながら、ため息を吐いていた。
相当ブラックホースってのは幅を聞かせているみたいだな。
店にも普通にチンピラが出入りしてる位だし、あまり良い影響は出てなさそうだ。


唖々帝
「…とりあえず、宿も取りたいんだが部屋は空いてるか?」

マスター
「ああ、それなら大丈夫だ、ここの所は泊まる客も少ないからな…」
「後でエミナに案内させるよ♪」


「助かります」


俺はそう言って礼をする。
マスターは笑ってうんうん頷いていた。
人が良い人だな…こんなマスターならもっと店が繁盛してても良さそうなんだが。



(ブラックホースか…露骨に気になるわな)


少なくともボスっぽくは思える。
それなりに関わってしまったみたいだし、手下の仇討ちとか有りそうだよな…


エミナ
「はいよステーキお待ち! 坊やはお代わりいるかい?」


「いえ、大丈夫です…美味しかったですよ♪」


俺が笑って言うと、エミナさんは笑ってくれた。
豪快そうな性格みたいだけど、大人しそうなマスターとは真逆に感じるな…
腕っぷしも良さそうだし、男勝りって感じだ。


マスター
「エミナ、このふたりは泊まっていくそうだから、部屋と鍵を用意してくれ」

エミナ
「あいよ! ふたりは相部屋で良いんだよね?」

唖々帝
「ああ、その方が安いだろうしな…」


「…え?」


俺は唖々帝さんが軽く言うのに絶句してしまう。
あの〜一応、男と女なんですけど…


フーパ
『やったな! 子作りタイムだ!!』


『ダマラッシャイ!! んな事するかっ!!』


俺は辛うじて心の中でツッコム。
全くフーパのヤロウ…事ある毎に性的なボケを入れおって。
俺は誰ともそういう関係にはまだならないってのに…


フーパ
『まぁ、君の理性は変態の域に達してる位だからね…』
『何で間違いが起こらないのか、不思議を通り越して疑問だよ』


『ひとり許したら、雪崩になるからな…流石に全員とヤるのは身が持たん!』


特に女胤や騰湖は暴走確定するからな…
俺の理性は奴らの抑止力にもなっているのだ。


唖々帝
「ご馳走さん! 酒も肉も美味かったよ♪」

エミナ
「ありがと♪ とりあえず代金はチェックアウトの時で良いから!」


「金額足ります?」

唖々帝
「一応聞くけど、これで足りるのかい? ここの通貨はあまりよく解らないんだけど…」

エミナ
「どれどれ…うわっ、こんだけありゃ当分大丈夫だよ!!」
「食事込みの宿泊で、今回は300P$! この袋には10000P$は入ってるよ!!」


ぐは…そりゃ余裕だな。
唖々帝さん、一体どんな稼ぎ方してたのか?


唖々帝
「そうか、その辺のならず者を討伐して集まったんだが、そんなにあったのか…」

マスター
「っていうか、もしかしてあんた電光のクワガノンじゃ?」

エミナ
「そういや!! 手配書に書いてある…!?」


よく見ると、店の壁に堂々と唖々帝さんの手配書が張ってあった。
賞金首とかそういや言われてたな…金額は、10万P$!?
そ、そんなにかかってる大物なのか唖々帝さんは!?


唖々帝
「…へぇ〜そんなに有名だったのか私は?」

マスター
「…ははっ、あんた相当無茶苦茶やったんだな?」
「私には解るよ、あんたは悪いポケモンじゃない」
「賞金かかってるのも、理由があるんだろうし、少なくとも私は気にしないよ♪」

エミナ
「そうさな…ブラックホースに比べりゃアンタは大分大人しい方だしね!!」


ふたりは笑ってそう言った。
やれやれ、焦ったけどどうやら問題は無い様だ。


唖々帝
「良いのか? トラブルを呼び込むかもしれないぜ?」

エミナ
「そんなのは慣れっこだよ! どうせブラックホースが絡んで来るんだし、トラブルはいつもの事さ!!」


「やっぱり、ブラックホースが問題か…」


当面、ソイツ等をどうにかするのが課題になりそうだな。
とりあえず、まずは体を休めながら作戦会議か…
俺たちはとりあえずエミナさんに部屋を案内され、そこで休む事にした。



………………………



唖々帝
「…どうした聖? いっしょに寝ないのか?」


「い、いえ! 大丈夫ですので!!」


俺はベッドに入らず、部屋の隅で毛布にくるまっていた。
幸い体は温まっており、毛布のお陰で寒さは凌げそうだ。


唖々帝
「…別に、気にする事無いぞ? 私は聖が相手なら何されても…」


それは遠回しに襲って構わないというアピール!?
これは益々ベッドには入れない…俺は不沈艦だが、懐を晒して生き残れる保証は無いのだ!



「とりあえず、もう寝ましょう…」
「明日から何が起こるか解りませんし、体をゆっくり休めない…と……」


俺は気を抜くとすぐに眠気が襲って来た。
よくよく考えれば、原始編から直でこの西部編だ…まともに睡眠を取っていないし、食事も久し振りにまともに食った。
こりゃ…よく眠れそう……だ。


唖々帝
「聖…よっぽど疲れてたんだな」
「安心しろよ、聖は私が絶対に守る…」
「大将が愛している聖だから、私が絶対に守る…」
「大将が泣くのは、もう見たくないから…」



………………………




「…朝か」


俺は部屋の片隅で眠っていた。
毛布を取ると途端に朝の寒さを全身で感じる。
その寒さは日本の冬とはまた違い、改めて日本とは違う気候と言うのが解るな…



「くっそ…やっぱ半袖はキツいな」


せめて上着があれば良いんだが、どうにか調達出来ないだろうか?
ストーブも無い部屋じゃ正直凍えてしまう。
原始の時は気候が暑い位だったから、この寒暖差はキツい。



「聖、起きたか? とりあえず服を調達して来たぞ」


部屋の外から現れたのは唖々帝さんだった。
どうやら先に起きて外に出ていた様だ。
唖々帝さんの手には、長袖のシャツとコートが握られており、どうやら防寒はこれで何とかなるらしい。
俺は唖々帝さんからそれを受け取り、まずは着てみる事にした…



………………………




「これで大分マシになるな…」


長袖はカッターシャツみたいなタイプの白、コートは灰色で唖々帝さんが羽織っているのと同じ様なマント型の奴だった。
生地は革で分厚く、砂塵にも強そうだ。


唖々帝
「ハットも被っとけ…髪に砂が付くと厄介だからな」


俺は言われて帽子も受け取る。
風呂は昨日入ったとはいえ、また砂まみれだと大変だからな…
とはいえ、これで見た目は俺もガンマン風…まぁ銃なんて使えないけど。



「…あれから何かありましたか?」

唖々帝
「いや、特には何も無い…店もいたって平和なもんさ」


俺はとりあえず空腹を感じ、1度食事に向かう事にした。
唖々帝さんもまだ食事は取っていないらしいので、まずは一緒に朝食だな…



………………………



唖々帝
「エミナ、サンドをふたつ貰えるか?」

エミナ
「あいよ! 待ってなっ」


エミナさんは朝から元気良く働いていた。
店内は誰も客はおらず、音楽団の人が3人組で音楽を奏でている。
ハスボー、ハスブレロ、ルンパッパって感じだな…
んで、その近くで華麗に踊っている露出度満点の女性がやけに印象深かった。
見た目は水タイプっぽいが…


マスター
「…さて、今日も奴らは来るかねぇ?」


「ブラックホースですか?」

マスター
「ああ、ここの所毎日来てるからな…ロクに金も払わないで、ツケで飲んで行ってる」
「シェリフは役に立たないし、もう少し何とかなれば良いんだがね…」


マスターはグラスを磨きながらため息を吐いた。
そして、そんなマスターのテンションを上書きするかの様に威勢の良い声が響き渡る。


エミナ
「はいよサンドお待ち! こっちはミルクな!」


エミナさんが定番のホットサンドを持って来てくれた。
日本で言うと、いわゆるホットドッグなのだが、野菜盛り沢山で正直一般的なホットドッグとは明らかに違う物だった。
ボリュームもあるし、中々ヘビィだな…



「とりあえず、いただきまーす!」


俺は一口目をいただく。
パンはまぁ普通、だけどレタスとソーセージが良い感じに味を出してる。
ドレッシングとマスタードが良い感じだな♪


唖々帝
「…しかし、何でブラックホースは急激に大きくなったんだ?」


「そいつは、トップが突然入れ替わったからさ!」


突然、店の入り口から声。
その高らかな声は聞いた事がある。
確か昨日の…


唖々帝
「最悪だな…」

ヘルガー
「おいおい! 綺麗な顔が台無しだぜ!?」
「こちとら馬調達するのに時間かかっちまったんで、着いたのは朝だよ…」


そう、賞金稼ぎのヘルガーだ。
相変わらず葉巻を咥え、堂々と店に入って来るふてぶてしさだが、体は割と砂まみれになっており、かなり苦労したみたいだな…


唖々帝
「…いい加減に諦めろ、私は出来れば関わりたくない」

ヘルガー
「そう言うなよ…こちとらこれが商売だ!」
「とはいえ、やる気の無い奴を相手にするのは主義じゃない…」
「どうだ? 俺に勝ったら情報をくれてやる」
「もちろん、俺が勝てばお前は最低でも刑務所行きだがな」


成る程、条件を付けて来たか。
ヘルガーはニヤニヤと笑い、かなり自信はある様だった。
対して唖々帝さんはややイラッとしている。
とはいえ、情報は必要だ。
俺たちがこの世界をクリアするには、そのブラックホースが絡んでいるはず。
やはり、ここはリスク承知でもやるしか…


唖々帝
「良いだろう、表へ出な…」


唖々帝さんはそう言ってヘルガーの横を通り過ぎ、外に出る。
ヘルガーは笑って葉巻を口から離し、煙を吹いて外に放り捨てた。
タバコのポイ捨ては絶対に止めましょう!



………………………



ざわざわ…ざわざわ…


外ではやけに野次馬が集まっていた。
いわゆる決闘なのだが、はてさて?


唖々帝
「………」

ヘルガー
「ルールは互いに背を向け、3歩歩く!」
「後は振り向いてズドンだ! 数は互い同時に数える!」


唖々帝さんは無言で背を向ける。
ヘルガーも笑って唖々帝さんと背中を合わせた。
ギャラリーは注目し、ふたりの緊張感が高まる。
勝負は一瞬…速い方が勝つ。
とはいえ、ヘルガーは銃、唖々帝さんは電撃だ。
単純な速度ではともかく、技の速度となれば唖々帝さんの電撃はかなり速いはず…


唖々帝&ヘルガー
「ひとつ!」


ふたりは大きく前に踏み出す。
そして、一気にギャラリーも無言になった。
俺は息を飲み、この決闘を見守る。
後、2歩…


唖々帝&ヘルガー
「ふたつ!」


後1歩、タンブルウィードがカサカサと転がって行き、見事に空気を読んだ。
そして、最後の…


唖々帝&ヘルガー
「みっつ!!」


ガォンッ!! バチバチィ!!



「…!?」


何と、互いが撃ったのはギャラリー…に隠れて銃を構えている男がふたり。
ギャラリーはすぐ様散り散りになり、倒れた男ふたりを注目した。


ギャラリーA
「あれ、ブラックホースのメンバーだぜ!?」

ギャラリーB
「決闘の最中に横槍入れるつもりだったのか…」

ギャラリーC
「あのふたり…気付いていたのか!?」


ギャラリーはまたざわざわとざわめき始めた。
ヘルガーはその状況を見て、銃をクルクル回してホルスターに納める。
何気に撃った時、炎が爆発したのが見えたな…
もしかして炎でブーストさせてたのか?
だとしたら、弾速は想像以上に速いのかもしれない…


ヘルガー
「ちっ、水を差されちまったな…」

唖々帝
「…どうする? まだやるのか?」

ヘルガー
「…まぁ、俺もブラックホースにゃ正直狙われる立場だ」
「こうやってふたり同時に狙われたってんなら、つまりはそういう事だろ」


ヘルガーはそう言ってポケットから葉巻を取り出し、指先をパチンと弾いて炎を出す。
そして葉巻に火を点け、それを吸った。


ヘルガー
「…どうだい、ここは一時停戦ってのは?」

唖々帝
「私は出来れば永遠に停戦したいんだけどな…」


ヘルガーは笑って葉巻の煙を吹く。
そして腰に手を当て、やや力を抜いてこう答えた。


ヘルガー
「へっ、そりゃお前さんが賞金首である以上は無理な相談だ…」
「ましてや凄腕の良い女…ブラックホースを片付けりゃあ、そん時はまた敵同士だ」


ヘルガーはあくまで淡白にそう言った。
賞金稼ぎと賞金首…ふたりは、あくまで相容れないのか。
とはいえ、どうにもあのヘルガーは唖々帝さんに何か特別な感情も抱いてそうだが。


唖々帝
「まぁ、良いさ…どの道すぐにおさらばする」
「追いたきゃ好きにすれば良い」

ヘルガー
「へっ、俺は荒野のマッドドッグ…いわゆる狂犬よ」
「1度目を付けたら絶対に逃がさねぇ、覚えときな」


ふたりの間には緊張感がある。
だが、同時に不思議な安心感も感じられた。
敵同士のふたり、それでも今だけは信頼する仲間に見えたのだ。


ヘルガー
「言い忘れていたが、俺の名はロック…『ロック・オーサイト』だ」

唖々帝
「…唖々帝、『飛雲 唖々帝』(ひうん あーてぃ)」
「とりあえず、唖々帝と呼べば良い」


ふたりは互いに名乗り合う。
何度かやりあってそうな感じだったけど、まだ互いの名も知らない仲だったのか…


ロック
「OK〜唖々帝、ならまずは作戦会議だ」
「俺の知っている情報を話してやる…」


そう言ってロックは店の中に入って行く。
俺たちはギャラリーのヒソヒソ声には目もくれず、その後を追った。



………………………




「で、奴らの情報って?」

ロック
「ああ、まずトップが入れ替わったって話なんだが」
「それまではブラックホースはそこまで大きなグループじゃなかった」
「せいぜい5〜6人からなる、ただのありふれたならず者集団だ…」

唖々帝
「だが、頭が入れ替わって急成長した…か」


ロックは頷く…そしてまだ昼前にも関わらずテキーラを飲んでいた。
この世界だと酒は日中夜関係無いらしい…
流石に唖々帝さんは自重しており、軽食のパンをかじりながらミルクを飲んでいた。


ロック
「新しくトップになったのは、『E・カバルス』とか言うフワライドらしい…」
「詳しい事は不明だが、相当気性は荒く、瞬く間にグループを従え、今や20人を越すグループに成長してる」
「間違いなく実力者だとは思われるが、誰も奴の戦いを見ていないから詳細は解らねぇ…」


「待てよ、それなのにトップに君臨してるのはおかしくないか?」
「戦ってもいないのに、この実力世界で上に立つのは…」


俺がツッコムと、ロックはあ〜あ〜!と手をかざして制する。
俺は喋るのを止めると、ロックはため息を吐いてこう付け足す。


ロック
「言い換えてやる、誰も奴との戦いで生き残った奴はいねぇ…」
「つまり、誰も知らねぇんだ…生きてる奴じゃ」
「まぁ、流石にグループのメンバーなら知ってるだろうが、恐ろしくて誰かに喋ったりはしないだろうしな…」


成る程、どこぞの暗殺拳みたいだな…
確かに毎回皆殺しにして目撃者を消してれば、誰にも正体は解らないのか…
この時点で相当危険人物なのが解るな…まさに暴君か。


唖々帝
「…それで、どうやってそいつを追い詰める?」

ロック
「それは…」


「おい、外を見ろ!! お前らに対して宣戦布告が入ったぞ!?」


ガタンッ!と椅子から立ち上り、俺たちは駆け足で外に出る。
すると、店の外にはひとりのガンマンの死体があり、そこにはメモが張り付けてあった…
ロックはその紙を拾い、内容を読んでいる。


ロック
「ちっ、奴ら…明朝この町を襲うと言ってるな」
「逃げるのなら、その先々全ての町を滅ぼしていくと注意書が書いてやがる」


「図らずとも決戦か…!?」

唖々帝
「まぁ、その方が気楽で良いな」


唖々帝さんはさほど動揺もせず、あっけらかんと答えた。
ハナから迎え撃つ気満々だな…


ロック
「ちっ、まぁしゃあねぇな…こうなったらやるしかねぇ」
「今更じたばたしても始まらん、明朝決戦だ!」


そう言ってロックはまた店に入る。
唖々帝さんも黙って後を追った。
俺はやれやれ…と思いながらも店に向かう。
今回は予想以上に早い展開で終わりそうだな…



………………………



マスター
「ふたりとも、大丈夫なのか?」

唖々帝
「問題無いさ…責任は私たちだし、キッチリと後始末はつける」

ロック
「そういう事よ…まぁ、怖い奴はさっさと逃げる事だ」
「流れ弾が来ないとは限らんからな」


ふたりは極めてマイペースだった。
敵は20人を越すグループで、全員が銃を持ってるってのに…
それだけ、自信があるって事なのか?


エミナ
「あんたら、これを持って行きな!!」


エミナさんが突然ドンッ!とカウンターに置いたのは、何やらダイナマイトの様だった。
って、ダイナマイト!?
露骨に古いタイプだが、これがあるって事は時代は1880年前後なのか?
まぁ、設定的な物だろうし、そもそも炎タイプのロックなら、もっと凄い爆発とかも出来そうだけど…


ロック
「ほう、ダイナマイトとか珍しいモンがあるじゃねぇか…」

エミナ
「前に来た客が、飯代の代わりに置いていったのさ!」
「この線に火を点けたら数秒で爆発とか言ってたよ!」


うーむ、もしかしてその人はかなり凄い御仁だったのでは…?
とはいえ、たった1本で役に立つのかね?


ロック
「まぁ、牽制にはなるか? 馬ごと吹き飛ばすなら丁度良いな」

唖々帝
「大人数が相手なら、有効な火力って事か…」

ロック
「1発限りとはいえ、それなりの威力だ…まぁ俺の炎で誘爆させりゃかなりの範囲を吹き飛ばせるだろ」

マスター
「ふたりとも、死ぬなよ…?」


ふたりは笑っていた。
心配そうなマスターとは裏腹に、唖々帝さんたちは何の不安も見えない。
俺もまた、そんなふたりを見て安心する。
何だで唖々帝さんは戦いには慣れてる、きっとやってくれるさ。


エミナ
「だけど、何でアンタたちはあえて戦おうとするんだい?」
「普通なら、ブラックホース相手に戦うなんて無謀も良い所なのに…」

ロック
「どの道奴らは追って来る…逃げ場はねぇよ」

唖々帝
「…それに、逃げればその度に誰かが犠牲になる」
「それだけは、私は許す事は出来ない…」


唖々帝さんは俯いて何かを思い出している様だった。
唖々帝さんも浮狼さんたちと同様、あの世紀末的な世界の住民だ。
絶望の中、ただ戦って生きてきた戦士。
唖々帝さんは、そんな過去の事を思い出していたのかもしれない…


マスター
「…何故、君が賞金首になっているのかは知らない」
「だけど、君が優しい心の持ち主だとは私にも解る」
「だから、頑張ってくれ…私たちは応援する事しか出来ないが」

唖々帝
「…大丈夫だ、誰かに信頼されるという事は、それだけで力になる」


俺は決心した…ならば信頼しようと。
唖々帝さんは、誰かを守る為なら戦う人だ。
本来の性格はどうだったのかは解らないけど、唖々帝さんは戦おうとしている。
そして、皆の為に勝つのだろう…俺は、その勝利を信じる!

その日、唖々帝さんとロックは他愛も無い話をしながら時間を潰す。
その関係は昨日今日出会った物には思えず、まるでふたりは親友の様にも見る事が出来た…

そして、その日の夜…



………………………



唖々帝
「どうした? また、そこで寝るのか?」


「大丈夫ですよ、俺は男だから女性には良い所を譲ります」


そう言って俺は昨日と同じ場所で毛布にくるまる。
すると、唖々帝さんはベッドから降りて俺の方に近付いて来た。
俺は唖々帝さんの体を見てドキリとなる。
虫タイプ特有、それもクワガノンらしさを強調したパーツの様な頬の角、電気を溜める腹の模様、そして腰のウイング…
唖々帝さんは自分の見た目にはそれなりにコンプレックスがあるみたいだけど、それでも長い金髪はサラリとしており、胸も大きめで体のラインはとても綺麗だ。
唖々帝さんは今、下着に上だけシャツを着ていると言うアダルト仕様。
否が応でも俺の息子は反応してしまう。


フーパ
『よし、行け! 今がチャンスだ!!』


『ええ加減にせい! お前最近ソッチ系の台詞しか無いやんけ!!』


俺は思わず関西弁でツッコンでしまう。
フーパの野郎、台詞が少なくなってると思ったら、こういう時だけでしゃばりやがって…


唖々帝
「…聖がそこで寝るなら、私もここで寝る」


「…そんな、ベッドで寝てください」
「明日は決戦なのに…しっかりと休まないと」


唖々帝さんはベッドから毛布を引きずり下ろし、俺の隣で毛布にくるまった。
そして顔を俯かせ、こう呟く。


唖々帝
「大丈夫だ…私は負けない」
「誰かの為に戦えるなら、私は絶対に勝利してみせる」


「唖々帝…さん?」


何故か、唖々帝さんは思い詰めている様だった。
そして、俺は聞かなければならないと思った。
唖々帝さんを今支えてやれるのは、俺だけなのだから…



「唖々帝さんは、一体どんな風に育ったんですか?」

唖々帝
「ん? 私か…私は、いたって何も取り柄の無いアゴジムシだったよ」
「特に目立たず、普通にデンヂムシに進化して、気が付いたら大災厄に巻き込まれた…」


唖々帝さんは特に感情も込めずにつらつらと説明する。
本当は、辛い思い出なのかもしれないな…


唖々帝
「災厄の後、私は家族や親戚たちと一緒に高山地域に逃げた」
「ロクに戦う術を持たなかった家族は、次々と野盗に殺され、食料も水も無くなって私はひとりクワガノンに進化した」
「それからは、気が付けば地力で野盗を殺し、地力で食い物を奪っていた…」


唖々帝さんはうろ覚えの様に語る。
実際には、相当な苦難があったんだろう…でも、その記憶が霞む程にその当時の生活は苦難だったのだ。


唖々帝
「山でずっと独り暮らしを続ける内、私は大将に出会ったんだ…」
「その瞬間、私は光を見た…そして悟ったんだ」
「この人が、私の救世主なんだって…」


それは子供が夢見るかの様な羨望の眼差しだった。
唖々帝さんは虚空を見つめ、その当時の光景を思い出している様だ。
浮狼さんは、やはり唖々帝さんにとってそれ程強烈な光だったのか…?


唖々帝
「私は、土下座して大将に部下にしてくれと頼んだ」
「だけど、大将は笑ってこう言ってくれたんだ…」


『いや、私とは仲間になってほしい』


唖々帝
「あぁ、この人は根本から違うんだと理解した」
「その辺で偉そうにしてる野盗共とは全く違う」
「この人は、誰かの為に戦って、何かを成し遂げようとしてる」
「私は、それに付いて行って、そして見届けたいと思った」


「それで、レジスタンスに身を?」


唖々帝さんはコクリと頷く。
唖々帝さんは、決して誰かを憎んでレジスタンスに入った訳じゃない。
ただ、浮狼さんと言う輝かしい光に導かれて仲間になったんだ…


唖々帝
「それでも、聖が初めて来た時は目を疑った…」


「…え?」

唖々帝
「あの大将が、ただの女になっていたんだ…」
「でも、聖と一緒にいる大将は、それまでで1番強かった…」
「アマージョの城を落とした時、私は確信した」
「大将は聖と一緒なら、あんなにも強くなれるんだと…」
「本当に守りたいモノがあるなら、あんなにも強くなれるんだと…」


唖々帝さんは当時の思いをつらつらと語る。
そのひとつひとつには、かなり強い思いが込められているのが解った。
そして、唖々帝さんは浮狼さんの事がそれ程大切だったのだ。


唖々帝
「全部終わって、軍は解散した」
「でも私や杏姉妹、祭花や李は、自ら志願して統一王となった大将に付いて行った」
「だけど、何故か満たされなかった…充実はしているのに」
「私は、その時やっと自分の事が解った…」
「私は…誰かを守る為に戦いたいのだと」


唖々帝さんは弱々しく語り、俺の肩に頭を寄せる。
そして、唖々帝さんは泣いていた。
涙が頬を伝わり、角の先からポタリと零れ落ちる。
唖々帝さんの本音を俺は聞いた…そして、支えなきゃならないと思った。
唖々帝さんも、俺の家族なのだから!



「…だったら、戦ってください」

唖々帝
「ああ、私は戦うよ…聖の為に、この町の人たちの為に」
「だから…今だけで良い、私の光になっていてくれ」


唖々帝さんは俺に身を寄せてそう呟く。
俺は毛布を重ね合わせ、唖々帝さんと寄り添って眠る事にした。
そして信頼する、唖々帝さんは必ず勝つと…
決戦は…明日の朝だ。



………………………



私は夢を見ていた…
それは、とても心地が良く、そして暖かい夢。
私はこの時だけは、女でいられる。
愛する人と、抱き合える夢…
いつまでも、この夢に捕らわれていたい…

だが、私は戦わなければならなかった…
私は、夢から目を覚まし、現実に戻る…



………………………



唖々帝
「………」


まだ夜明け前、私は目覚めた。
そして、すぐ側で寝息を立てている聖の体から私は離れ、聖に毛布をかけ直してやる。
流石にこの時間は寒さが突き刺さるな…
私はそう思い、すぐに服を着て準備をした。
決戦は、もうすぐだろう…



………………………



唖々帝
「………」

ロック
「よう、もう起きたのか?」


私が下に降りると、既にロックが店のカウンターに座っていた。
どうやら私よりもなお早かったらしい。
ある意味感心するが、調子は大丈夫なのだろうか?


唖々帝
「…随分早いんだな」

ロック
「特性なモンでね…少ない睡眠量でも、俺はパフォーマンスが落ちねぇのさ」


成る程、早起きな訳だ…それなら特に問題は無いか。
私もカウンターに座り、ただ時間を待つ。
今の時間は誰も起きておらず、店内はシーンとしていた。


唖々帝
「………」

ロック
「緊張してるのか? 綺麗な顔が険しくなってるぜ?」


ロックは軽口でそう指摘してきた。
緊張は別にしていないんだが、思う所はある。


唖々帝
「…一応、先に言っておく、私たちはこの世界の住民じゃない」

ロック
「ほう、それで?」


ロックは特に驚く様子も無く、愛銃の手入れをしていた。
入念にバラしてから掃除をしており、細かいパーツにも目を配っている様だ。
私は、そのまま言葉を続ける。


唖々帝
「私たちは目的を達成すればこの世界から消える」
「つまり、それでオサラバって事だ…」

ロック
「成る程、そしてその目的とやらがブラックホースとの決戦って訳かい?」


ロックはパーツを組み立てていき、銃を元に戻す。
私は頷く事無く、ただ無言で肯定した。


ロック
「…生憎、俺にはお前さんたちの都合は関係ねぇよ」
「俺ぁ、賞金稼ぎだ…賞金首を追う事に命賭けてる商売よ」
「そこに、別の世界だとかオサラバとかは関係ねぇ」
「俺にあるのは…そこに仕事場があるって現実だけだ」


そう言ってロックは銃を私の横顔に突き付ける。
と言っても、ハンマーも引いていないので弾は出ないのだが。
ロックはただ、今という現実だけを見ていた。
そこにやる事がある、それならコイツはそれだけで動くのだ。
だから、私たちの素性や目的なんて露知らず。
ただ、仕事だからやる…それだけなのだ。


唖々帝
「…そうまでして私に拘る理由は何だ?」

ロック
「言ったろ? 俺は荒野のマッドドッグ…狂犬だって」
「1度目ぇ付けたら、絶対に逃がさねぇ」
「お前さんは、そう言う厄介なのに狙われてるってこったよ…」


そう言ってロックは葉巻を咥える。
私は理解は出来なかった。
だけど、もうどうでも良いのは良く解った。
こんな問答は意味が無いのだ…コイツは、銃でしか語れない不器用な男なのだ。

それ以降は特に会話も無く、ただ時間だけが過ぎていった。
やがて夜明けを迎える頃、私たちはふたりだけで店の外に出た。



………………………



ロック
「来たな、ブラックホースの連中だ」

唖々帝
「20人以上とは言っていたが、本当にそんな物か?」


私たちは町の門で待ち伏せていた。
奴らを町に入れるつもりは無いからな。
敵は砂煙を上げながら、多数の馬の足音を響かせていた。
その数は確かに20以上の数を予想させる。


ロック
「…まぁ、推定だからな」
「減ってる可能性もあるが、まぁ誤差だろ」
「俺たちにとっちゃ、20も100も大して変わんねぇよ」


私は微笑する。
確かにそうだ…雑魚が群れた所で、所詮は烏合の衆。
本当に強いのはどの道最後に残る!
私たちは戦闘体勢に入り、まず先行部隊を潰しにかかった。



………………………



ロック
「そらそらそらっ! どんどんかかって来やがれ!!」


ロックは群れに正面から突っ込み、両手で二丁の銃を乱射していた。
その弾丸は炎に包まれており、的確に敵を馬から落としていく。
僅か数秒で敵は6人程減った。


唖々帝
「ボスは何処だ? それらしいのは見当たらないな…」


私は低空で浮遊し、地上の雑魚共を電撃で一掃していく。
特に連携なども無く、ただ野盗の様に突っ込むだけ。
馬から銃は撃ってくるものの、下手くそ過ぎて当たりはしない。
ロックも少々呆れており、もはや適当にあしらっていた。
ここまで弱いとは思わなかったが、やはりボスのE・カバルスが問題という事か。


ロック
「おいおい、もう終わりかよ? ブラックホースってのはこんなモンか?」

唖々帝
「呆気ない物だな…所詮は数を揃えて押しかかるだけのならず者か」


結局、数分かからずに敵は全滅する。
私たちは共にほぼ無傷で、多少掠り傷が出来た程度だった。
もちろん疲労はある。
あれだけの数を相手にする以上、技の多用はそれなりに辛いからな…



「成る程、テメェ等か? ウチのモンをコケにしてくれたのは」

唖々帝
「!? なっ…」


気が付くと上空から何者かが銃を構えていた。
しかもただの銃じゃない、あれは…


ロック
「ガトリングだと!? 避けろ唖々帝!!」


私は反射的にその場から飛ぶ。
すると、凄まじい勢いで弾が放たれ、私のいた位置は地面が蜂の巣になる。
間違いなく、あれがボスのE・カバルスだ!
フワライドの飛行性能を持って空中から銃撃とは…まるで戦闘ヘリだな!

E・カバルスは頭に白い帽子を被っており、体型はかなりゴツいマッチョ体型。
顎を覆う無精髭が印象的で、頬からは布の様な触手が伸びていた。
それらは2対で計4本あり、ガトリングの砲身をガッチリと固定している。
そして、奴は赤く光る瞳でこちらを憎らしそうに睨んでいた。
服は紫のガンマンコスチューム。
威圧感はあるな…!


ロック
「ちっ! これでも食らいやがれ!!」


ロックはダイナマイトを懐から取り出し、空中のE・カバルスに投げ付ける。
そして、それをすぐに銃弾で撃ち抜き、ダイナマイトはE・カバルスの近くで大爆発を起こした。
あの威力ならバラバラになっててもおかしくはないが…


E・カバルス
「ハッハッハッ!! 残念だったな!?」


奴は容易く『守る』で難を逃れていた。
あの空中機動とガトリング、しかも守るによる防御…まさに空中要塞だな!
私はすぐに電撃を放ち、守るの合間を狙う。


E・カバルス
「おっと、危ねぇ! そういや電気タイプか!!」


距離がありすぎた為、回避される。
私の速度では追うのは無理だ、かと言って逃げる足も無い。
どうする…? 私の機動力では回避も難しいというのに…!


ロック
「ちっ、まさかこんな化け物とはな!」


ロックは空中の相手に弾を放つも、当たらない。
狙いが正確でも距離があっては相手は回避も防御も思いのままなのだ。
そして、隙を見て奴はガトリングを手回しで掃射してくる。
その弾丸は良く見ると黒い気で覆われており、恐らくシャドーボールだと予想出来た。
秒間で3〜4発は発射されており、私たちは逃げ回る事しか出来ない。
このままじゃジリ貧だ!


E・カバルス
「ハッハッハッ!! いつまで逃げられるかな!?」
「こちとらまだまだ元気だからな! 精々疲れながら動き回れや!!」


奴は大笑いしてガトリングを掃射する。
幸い、重量もあってか命中制度は低い。
回避は簡単だが、当たれば即死と実に解りやすいな…


唖々帝
(どうする? 当てられるかアレに?)
(いや、当てても防がれる可能性が高い…それなら弾切れを狙うか?)
(駄目だ、こちらの方が体力は少ない、持久戦は不利だ)


考えても私には良い考えなど浮かばない。
元々考えるのは苦手なんだ、作戦とかそういうのは別の奴が考えれば良い。
そう思っていた結果がこれか…


ロック
「ちっ…あの巨体であれだけ動くとはな!」

唖々帝
「ロック、奴はどこまで撃てると思う?」

ロック
「あん? 残弾の事か? だったらいつかは切れんだろ…その間まで逃げられりゃあな!!」


私たちはすぐにその場から散開する。
固まっていたら、狙い撃ちにされる…離れた方が無難だ。
私は低空で浮遊しながら電撃を放ち牽制する。
奴は一定の距離を保ちながら、確実にかわせる距離を維持し続けていた。
なまじ回避出来なくても、守るがあるからそうそう直撃は受けない。
タイプ相性はこちらが有利なのに、武器と戦術の差でこうまで覆されるとは…


唖々帝
(やるしかない、か…)


私は胸元からひとつの石を取り出す。
それは青白い水晶の様な、菱形の石。
これはこの世界でたまたま拾った私の切り札。
まだ誰にも見せてはいない、正真正銘のとっておきだ…!


唖々帝
(だが、当てられるか?)


奴は絶対の自信を持っている。
しかも、この技は足を止めなきゃ撃てない。
奴に隙は少ない、そんな大技を撃つ余裕が生まれるか?
だが、考えるのは苦手だ。
だったら、やるしかない!!


ロック
「あいつ…!?」

E・カバルス
「何をする気だ? 足を止めて諦めたか!?」


E・カバルスはこちらのオーラに気が付き、銃身をこちらに構える。
私は構わずにガッチリと両足で大地を踏み締め、両手を角の前に突き出した。
そして角から手に向かって電磁のレールが敷かれる。
私は全電力を腹から口に集め、威力を集約させた。


E・カバルス
「バカめ! 隙だらけだな!!」

ロック
「そうは問屋が下ろさねぇってな!!」


ロックはすぐに2丁拳銃でE・カバルスを狙う。
E・カバルスは回避する事無く守るで防いだ。
そしてその後に片手を上げ、そこからシャドーボールをロックに放って牽制する。
ロックはそれに吹き飛ばされ、体勢を崩して次弾が撃ち込めなかった。
E・カバルスはしてやったりの顔で私に照準を合わせる。

私のチャージはまだかかる…この技にはまだ慣れてないのも原因だ。
使ったのも、前に1度試し撃ちしただけ…その時は反動で思いっきり後ろに吹っ飛んだからな。
今度もまともに発射出来るとは限らない、だが絶対に仕留める!!


E・カバルス
「死ねぇ!!」


ガトリングの弾が連続で向かって来る。
かわすのは無理、防御も無理、私の発射まで後数秒。
クソ…間に合わない!?



「うおおおおおおおおっ!!」


大声をあげて走り込んで来ている少年がいた。
その者は私の前に立ち、何か鉄板の様な大きめの板でガトリングの弾を受けたのだ。
だが、そんな物では完全に防げない。
少年は鉄板ごと吹き飛ばされ、私の横に転がっていった。
そして、私はその姿を見て目付きを変える。
私はなおもガトリングを構えているE・カバルスに向かって全電力を解き放った。


バチバチバチィ!!



「行っけーーーー!! 唖々帝さーーーーんっ!!」

唖々帝
「あああああぁぁぁぁっ!!」


私の口から最大電力の塊がレールの上に乗る。
そしてその瞬間、その塊は光速の速度で敵に向かって直進した。


唖々帝
「聖に手を出した罪を思い知れ!! 『ライトニング ショック レールガン』!!」

E・カバルス
「なっ!?」


それはまさに電光。
E・カバルスは回避も防御も出来ずに体を貫かれる。
E・カバルスの心臓は的確に撃ち抜かれ、その孔からはプスプスと焼け焦げる音が聞こえた。
そして、あまりの熱量にE・カバルスの体は真っ赤に燃え始める。
瞬間、E・カバルスの体は爆発四散した。
フワライドの特性は誘爆…見事に空中で跡形も無く吹っ飛んだのだ。


ロック
「…やりやがった」

唖々帝
「はぁ…! はぁ…!!」


私は息を切らして体の軋みを感じる。
やはり、反動は凄まじく大きい…吹っ飛ぶ事は無かったものの、全身がバキバキに軋んでいた。



「唖々帝さん!!」

唖々帝
「…くっ! だ、大丈夫だ…!」
「それよりも聖!! お前は大丈夫なのか!?」


私は自分の体よりも聖の体を案じる。
いくら鉄板で防いだとはいえ、生身の聖がガトリングの掃射を受けたのだ、骨が折れていてもおかしくない。



「お、俺は大丈夫ですよ! ちょっとアバラをやっただけです!」
「それよりも、敵は!? やったんですか!?」


私はE・カバルスの惨状を確認する。
そこには、目を疑う光景が映っていた…


ロック
「な、何だこりゃあ!? 馬…か?」


ロックはE・カバルスが爆発四散した後の光景を目の当たりにし、驚愕していた。
それはそうだろう…E・カバルスは、爆発四散したのに馬になっていたのだ。


ロック
「…まさか、奴はあの騎兵隊の生き残りか?」


「騎兵隊? 何か知っているのか?」


聖はロックに疑問を投げ掛けるが、ロックは疑心暗鬼気味に躊躇ってこう言う。
それは、まさに荒唐無稽な表現でもあった…


ロック
「聞いた事がある…かつて、有名な騎兵隊の隊長がいたんだが、その隊長は戦死したんだ」
「そして、その時の愛馬が行方不明になって、気が付いたら騎兵隊の隊長は甦っていた…」
「馬鹿な話だとは思っていたが、まさか…コイツがそうだったとはな!」


つまり、この黒い馬が、騎兵隊の隊長に化けていた?
いや違うのだろう…コイツはむしろ怨念だ。
フワライドはゴーストタイプ、自分の無念を愛馬に乗り移らせたのか…



「ヒヒーーーンッ!!」


黒馬は、悲しそうな鳴き声をあげて逃げていった。
まるで、主人の死を慈しむかの様な…そんな声で。


唖々帝
「…終わった、のか」

ロック
「みてぇだな…お前さんのとっておきのお陰だな」


「あれ、Z技ですよね? 一体いつの間に?」


私は、全ての電力を使い果たして踞った。
もう、ロクに動く事は出来ない…力は使い果たした。
ロックはそんな私を見てため息を吐く。


ロック
「ちっ、そんな状態じゃあ決闘所じゃねぇな…」
「仕方ねぇ、決着は後回しだ! まずはゆっくり休みな!」


そう言ってロックは私を担ぎ、ゆっくりと歩く。
私はなすがままに担がれ、マスターの店に担ぎ込まれた…



………………………




「…大丈夫ですか?」

唖々帝
「…ああ、それより聖は?」


「俺は大丈夫ですよ…どうせ死にはしませんから」


聖はあっけらかんと言い放つ。
その言葉には確信がある様だった…つまり、聖は解っていてあんな無謀な事をしたのか?



「俺は、絶対に死ぬ事は無いそうです」

唖々帝
「…え?」


「この混沌は、俺が生き延びる事を前提に製作されてる」
「だから、俺は何をやっても死ぬ事は無いんだそうです…」


それは、驚愕の事実だった。
聖は、絶対に死なない?
つまり、この混沌は聖ありきで存在している。
何故、聖がそんな扱いなんだ?


唖々帝
(考えても、答えは出ない…か)


どうやっても、私には何も思いつかない。
聖の意味を理解しようとしても、私には何も解らない。
だけど、信じる事は出来る。


唖々帝
「…もう、終わったんだよな?」


「…多分、でもまだ終わってないのかも」


聖は不安そうな顔をしていた。
それは、まだこの混沌が終わっていないという事。
そして、私はその意味を何故か理解出来た。
私には、まだやり残した事があるのだ…



「唖々帝さん!? まだ動いちゃ…!」

唖々帝
「いや、この混沌はE・カバルスがボスじゃなかった」
「本当のボスは、もう外で待ってる…私は、それを避ける事は出来ない!」


私はまだ軋む体を動かし、店の外に出る。
マスターやエミナが見送る中、私と聖は店の外でひとりの男を見た。


ロック
「…来たか、体調はどうなんだ?」

唖々帝
「…安心しろ、問題は無い」


私は自信満々にそう言う。
実際、体は軋んでいる。
Z技の反動はまだ大きい…だが、この戦いは避けられない!


ロック
「…嘘が下手だなお前さんは」

唖々帝
「それでも、私は逃げない!」

ロック
「へっ…嬉しいねぇ、そこまで覚悟されてるとは…!」
「なら、お互い加減は無しだ…! 決着を着けようぜ!!」


私は笑って背を向ける。
ロックも苦笑して私の背に背中を預けた。
そして、その背中からは信頼を感じる。
私は、その温かさが少し残念だった…


唖々帝
(こんな世界じゃなけりゃ、いい友人になれたろうにな…)

ロック
(気持ちは解るぜ、だが俺には俺のプライドがある…)

唖々帝&ロック
「ひとつ!!」


私たちは大きく一歩を踏む。
ギャラリーは多数集まっていたが、私たちには何も見えていない。


唖々帝
(これが、最後なんだろうな…)

ロック
(だが、満ち足りている…俺ぁこの瞬間が1番好きなんだ!)

唖々帝&ロック
「ふたつ!!」


やがて音は聞こえなくなる。
互いに緊張感はマックスだ…! 後一歩で全てが終わる。


唖々帝
(私は、帰るんだ…聖と一緒に!)

ロック
(俺の事は、小さな存在なんだろうな…だが、俺はそれでも勝つぜ!?)

唖々帝
(絶対に、負けない!!)

ロック
(これは、俺の生き甲斐全てだ!!)

唖々帝&ロック
「みっつ!!」


その瞬間、時は止まったかの様な印象だった。
互いにほぼ同時に構え、互いの技を放つ体勢に入る。
その瞬間、私たちは互いの顔を見た…その顔は互いに満ち足りていた。
どんな結果でも、遺恨無し!
私たちは、言葉無くともそのルールが心にあった…
そして、私たちは互いに全てを賭けて技を放つ。
その、結果は……?



………………………




「……!!」
マスター
「……っ!」
エミナ
「…!?」


時は止まっているかの様だった。
私たちは互いに右手を前に出し、時間だけが過ぎて行く。
一瞬だった…その一瞬に私は全てを賭けた。
ロックもそうだろう…だから、私も加減はしなかった。
ロックの体には電撃の後が紫電となって走っている。
私の体には、何の傷痕も無かった…


ロック
「へっ、楽しかった…ぜ……!」


ドシャアッ!!とロックは前のめりに倒れる。
私は、何の傷も無くただ右手を下ろした。
そして涙する…これが、結果だから。



「…唖々帝、さん」

エミナ
「ロックが…負けたのね」

マスター
「ああ、まさに電光…唖々帝の方が、一瞬速かった」


ロックの銃からは、弾は放たれなかった。
その前に私の電撃がロックを捉えたのだ。
だが、それはまさに一瞬…コンマ数秒の世界。
一瞬でも遅れていれば、逆の絵になっていたのだ…



「…唖々帝さん、おめでとうございます」
「そして、知っていたんですね? ラスボスは、ロックだって事…」


私は無言だった。
だけど肯定している。
E・カバルスはボスだけどラスボスじゃなかった。
この混沌は、ロックこそがラスボスだったのだ…
私は涙する…こんな結果にしてしまったのは、私の弱さだ。
だから、ロックには謝りたい。
すまなかった…私には、こんな選択しか出来なかった。
そして、私と聖を中心に何か孔が開く。
それは、まるで私たちを吸い込む様に、その世界から私たちを弾き出したのだ……



………………………




「くっそ…こんなにも、イヤな気分になるなんて」

フーパ
「まぁ、それもシナリオだからな…少なからず怒ってるかい?」


俺は何も答えなかった。
そして、また感じない…唖々帝さんの気配を。
香飛利の時と同様、完全に隔離されている様だ。



「…ふたりは無事なのか?」

フーパ
「それは大丈夫だろう…シナリオだからね」
「ただ、その先は解らない…アタシには全容は理解出来ないからね」


俺は、スマホを取り出し、耳に当ててこう呟く。



「…聞こえるのか?」

フーパ
「無理だよ…ここは、違う世界線だ」
「君が頼るであろう、相棒はここには関知出来ない」


俺は、予想は出来ていた。
フーパが、この立ち位置にいる時点で、恵里香は俺と繋がっていないのだ。
そして、その異常性も理解する。
ここは、恵里香ですら関知出来ない程、理解不能の混沌なのだ。
つまり、世界送り(ワールドメール)の射程外。
下手をすれば、俺の雫すら正常稼働しないのかもしれない…
その中で、俺はひとり異能生存体として世界に存在している…
一体、こんな混沌を造ったバカは何を考えているんだ?


フーパ
「…深くは考えない事だ、どの道君は逃げる事は出来ない」


「するつもりもないがな…で、どうせまだ続くんだろう?」

フーパ
「ああ…もちろん。君が、全てを救うまで…」


フーパのその言葉と共に、俺はまた転移の感覚に捕らわれる。
やれやれ…せっかちな制作者だ。
俺は意識を研ぎ澄ませる。
何があっても、絶対に家族は救う!
例えどれだけ悲しい結果でも、俺は救える命は全部救ってやる!!










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第2話 『決戦と決闘』


To be continued…

Yuki ( 2019/05/04(土) 23:19 )