とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない














小説トップ
第5章 『POKE MOA EVIL』
第2話 西部編

「で、次は唐突に荒野ですかい…」


俺は、気が付けば荒野に放り出されていた。
この転移のタイミングだけは全く予想出来ず、かなり唐突に俺は世界に放り込まれたみたいだ…

とりあえず周りを見る限り、原始編とは空気が違うのが解るな。



「…どこか外国って感じはするが」


カサカサカサカサカサカサッ!


俺の真横を、タンブルウィードがカサカサと転がって行った…
もしかしなくても、南米とかその辺か?
と、なると予想出来るのは…


パァンッ!!



「でっ!? いきなりかよ!?」


俺の足元が、突然銃撃される。
俺は思わずその場から飛び退き、前方を見ると馬に乗った荒くれ者っぽいのが短銃を構えていた。
やっぱ西部劇じゃあねーか!?

何でいきなりこんな状況なんだよ!?


フーパ
『だって西部編だもん♪』


「だもん♪ じゃねーよ!? 今更可愛い娘振るな!!」



………………………



『POKE MOA EVIL(ポケ モア ライブ)』

西武編 『電光』







「くっそ〜、また拐われるオチかよ…」

フーパ
『まぁ、クリアアイテムだからね…そうポンポンその辺に落ちてもらっても困るんだろ』


まぁ、そういう設定なら仕方無いのか?
とはいえ、益々制作者の意図が読めないな…

何故、こんな混沌を生み出したのか?
何故、俺たちにこんなゲーム染みた世界で戦わせるのか?
何故、わざわざクリア出来る様に作ってあるのか?



(考えても答えは出ない、やはり全ての家族を助けるのが答えになるって事だろうな…)


俺はちなみに、現在荷馬車で運ばれている。
荒くれ者たちは、どうやらグループで活動している様で、俺は捕まって縄でがんじがらめにされているのだ。
荷馬車はかなり揺れまくっていて、荷台の中は完全に視界をシャットされており、外を見る事は全く出来ない。

俺はとりあえず荷台の壁に背を預け、成り行きに任せていた。
どうせその内助けが来るだろ…クリアアイテムだってんなら。


ドガァッ!!



「うわっと!?」


突然、荷馬車が急ブレーキする。
俺は反動で前に倒れそうになるが、何とか持ちこたえた。
そして外からは銃撃音、どうやら交戦している様だ。
だが、すぐに何やらバチバチィ!と電撃の様な音が耳に響く。

その後…すぐに外は静かになり、何やら足音がこちらに近付いている様だった。
その足音は荷台の前で止まり、荷台の入り口を仕切っていたカーテンをバサッと勢い良く開ける。

その先にいた者は、俺が知っている者の顔だった…



「あ、唖々帝さん!?」

唖々帝
「聖様!? まさか、こんな所で会えるなんて!!」


どうやら、この世界に巻き込まれたのは唖々帝さんだったらしい。
香飛利の時とは違い、ひとりでも十分戦える人だから、戦闘面は安心だな。
しかし、唖々帝さんの服装が完全にガンマンのソレになってる…

いかにも西部劇って感じのウエスタンシャツにハット。
色はブラウンであえて統一されており、体を覆えるマントみたいなのも羽織っていた。
だけど…銃の類いは一切持っておらず、見た感じ丸腰の様だ。



「…まさか、電気技だけで銃と戦ってるんですか?」

唖々帝
「そりゃそうだろ…電気タイプなんだから」
「まぁ、これでも早撃ちなら自信はある…素早さは低くてもな」


そう言って、唖々帝さんは帽子の鍔を摘まんで笑う。
何か風格あるな…クワガノンだけに、頬から角が伸びてるけど、メインはやっぱそこから電撃だもんな…
つまり…早撃ちするなら最初から構えてるのと同じなんだから、ある意味反則なのかもしれない…


唖々帝
「とりあえず、ここを離れよう」
「この辺りはならず者が多いし、面倒なのもいる…」


そう言って唖々帝さんは、俺を縛っている縄を手の電熱で軽く焼き切った。
改めてこういう所は電気タイプだよな…守連や鳴に隠れがちではあるけど、唖々帝さんも電気タイプとしてはかなり力は強いんだ…



「…ありがとうございます」

唖々帝
「どうしたんだ? 当然の事だろう…」
「私たちは…家族と言われた時点で、聖様の事が何よりも大切な存在になった」
「守連たち程にはなれないかもしれないが、私だってそれなりに聖様の事は愛しているよ?」


唖々帝さんはそう言って俺の手を引き、外に出してくれた。
その手は、確かにゴツゴツとした戦士の手だが、優しさを十分感じられる手でもあった。


ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…



「改めて荒野だな…」

唖々帝
「この世界に突然巻き込まれてから、もう15日程経ってるが…どこを進んでもこんな感じだよ」
「街も村もほとんど見当たらない…馬や服はならず者たちから奪ったが、食料の確保は中々大変だな」


俺はギョッとする…15日って事は、俺が原始編で経過させた日にちとほぼ同じだ。
って事は、他の世界では既に同様の時間が経過しているのか?
となると、かなり心配になってくるな…香飛利程にレベルの低い娘は少ないとはいえ、世界の設定にも寄る。

果たして、皆大丈夫なんだろうか?



「や〜っと、見付けたぜ!」

唖々帝
「ちっ…早速、面倒臭いのが来やがった」


「何だ…アイツもガンマンか?」


突然馬に乗って現れたのは、黒いウエスタンシャツに身を包んだ西部劇風のガンマンだった。
腰にはホルスターが左右に下げてあり、それなりに風格は感じるな。
見た所男の様で、口には葉巻を咥えている。
頭には黒いウエスタンハットが深々と被さっており、頭部の詳細は解らないが、尻尾が特徴的なので俺はすぐに種族を察した。



「ヘルガー、か」

ヘルガー
「その通〜り! 俺様は人呼んで荒野のマッドドッグ!!」
「賞金稼ぎのヘルガー様よ!!」


唖々帝さんは、はぁ…と深いため息を吐く。
どうやら知り合いみたいだけど、額に手を当てて首を横に振っていた。
相当ウザそうだな…そんなに嫌だったのか?


ヘルガー
「電光のクワガノン…ここ数日間で、一気に賞金首として名を上げた凄腕の賞金首!」
「今度こそ、その首は俺が頂くぜ!?」


ビシィッ!と、その瞬間電光。
唖々帝さんの角から軽く放たれたソレは、ヘルガーが握っていた手綱を軽く焼き切り、ヘルガーの馬は驚いてヘルガーを振り落としてしまった。

うわ、定番だけどコテコテだな…


ヘルガー
「や、野郎!? またやりやがったな!?」


「ヒヒーーーン!!」


そして馬はさっさと逃げ去ってしまった…薄情な馬だな、忠誠が足りてないぞ。
そして唖々帝さんはすぐに左手の人差し指と親指を口に差込み、口笛を吹く。


ピィーーーーッ!! パカラッパカラッパカラッ!!


唖々帝
「ハイヨー!!」


「わっと! はは…こりゃまた定番だな!!」


俺はすぐに唖々帝さんに体を引き上げられ、馬の背に乗せられた。
そして、慌てて銃を抜くヘルガーを尻目に、唖々帝さんは馬でさっさと駆け抜けて行ってしまう…


ヘルガー
「くっそ、覚えてろーーー!?」



………………………



唖々帝
「…大丈夫か聖様?」


「ええ、慣れてないんで尻は痛いですけど…」
「それより、俺の事は別に呼び捨てでも構いませんよ? 唖々帝さんの方が年上ですし…」

唖々帝
「そうか? まぁ、大将があの呼び方だから私たちも気を使ってたんだが…」


ああ、そう言われればそうか…
唖々帝さんはあくまで浮狼さんの部下だったから、その時の意識がまだ抜けてなかったんだな…



「もう、あの時の様な世界じゃ無いんですから、俺の事は遠慮無く呼び捨てで構いません」
「むしろ、下手に人前でその呼び方だったら、返って疑問に思われますよ?」


実際、悠和ちゃんがそうだったからな…
人前では一応区別してもらってるけど、本音は普通にしてほしいのが俺の希望だ。
家族に、格差は作ってほしくないからな…



(とはいえ、愛呂恵さんや浮狼さんは元の性格や仕事のせいもあるから、難しいだろうな…)


更に言うなら華澄と女胤もだ。
まぁ、個性と言えばそうなんだが、俺も華澄や阿須那に関しては呼び捨てだし、曖昧になってる部分も多いか…?


唖々帝
「とりあえず了解だ…じゃあ聖、とりあえず何か気付いた事とかはあるか?」


「…俺は昨日まで、香飛利と一緒に別の世界にいました」
「そして…そこでボスを倒して、その世界はクリア」
「俺たちはその後、妙な孔に吸い込まれて、また離れ離れになってしまったんです…」

唖々帝
「ボス、ね…つまり、それを倒せばクリアってのがこの世界の共通ルールになるのか?」


「多分そうだと思います、そして同じ様に巻き込まれているのが、後5人はいると思われます」

唖々帝
「…結構な数だな、今までこんなケースはあったのか?」


「いえ、初体験です…しかも、今回の混沌はどうにも違和感が多い」
「まるで、今までのとは別物に感じるんですよね…特に、あのブラックホールみたいな孔とか」


基本的に俺が今までクリアした混沌は、光の粒子となって消えるのが定番みたいだった。
この現象は、以前操られていた大愛さんたちを倒した時の現象と酷似しており、恐らくは世界が修正されるのと似た様な物なのだろう…と俺は解釈している。

だけど今回のケースはソレではなく、妙な黒い孔に吸い込まれて移動させられたんだ…
どうにも、この部分に違和感を覚える…本当にこれは混沌世界なのか?


フーパ
『混沌と言えば混沌さ…ただ、強いて言うなら混沌の中で作られた混沌って所かな?』


フーパが突然そう説明を入れてくる。
混沌の中…? つまり、混沌世界が最初にあって、その中でこんなゲーム染みた世界を作ったって事か…?

と、なると…本命の混沌は制作者のいる世界?
だとしたら、本当の意味でのラスボスも自ずと見えて来るか…


唖々帝
「とりあえず、今は流されるしかないか」


「ですね…これからどうなるかも解りませんし」


俺は唖々帝さんの背中に顔を埋める。
唖々帝さんの背中は意外に大きく、女性としてはやはり逞しい方だな。
元々戦場で戦い続けた人だし、体付きが違うのは仕方無いのかもしれない。


唖々帝
「遠くに灯りが見える…どうやら、町があるみたいだ」


前方には確かに町らしきシルエットが見える。
今はすっかり日も沈み、かなり冷え込んでいるのが少々厄介だ。
俺は夏服のままだし、原始編と違ってこの世界は寒い。
せめて、上着でも調達出来れば良かったんだが…



………………………



唖々帝
「…よっと」


「すみません、助かります」


俺は、唖々帝さんの手を借りて馬から降りる。
馬はその場で止まり、足を降り立たんで休んだ。
俺たちはとりあえず町の中を見渡し、まずは宿を探す事に…


唖々帝
「…酒場か、宿もやってるみたいだな」


「だったら、今日はここで宿ですね…でも、金はあるんですか?」


少なくとも、この世界の通貨なんぞ俺には解らない。
まず普通の通貨じゃないだろうしな…


唖々帝
「とりあえず、賞金で稼いだ金貨はいくらかある」
「どの位必要かは知らないが、多分何とかなるだろ…」


そう言って、唖々帝さんは腰にぶら下げている革袋を手に取る。
中にはジャラジャラと金貨が入っている様で、そこそこありそうな感じだ。

さて、上手くいければ良いんだがな…?



………………………



キィィ…キィ…キィ…


西部劇みたいな独特の入り口が、そうやって古臭く音をたてる。
そして…中から渋い音楽が聞こえ、俺たちは中を見渡した。


客一同
「………」


客たちは俺たちを一瞥し、特にコメントもせずにそれぞれ食事を取っている。
そんなに客は入っておらず、繁盛してるとはお世辞にも言えない様だが、カウンターの奥にはマスターが酒を入れている様だった。


唖々帝
「…とりあえず、カウンターに行くか」


「はい…」


俺たちは店員に案内される事も無く、勝手にカウンターの右端にふたり並んで座った。
そして、逆の左端に座って飲んでいた客が、こう挨拶する。


客A
「おいおい、こんな所にガキが入って来てるじゃねぇか!」

客B
「ここは酒を飲む所だぜ? ガキは帰ってママのおっぱいでも飲んでな!」


いきなりだなオイ。
しかしママのおっぱいとなると、俺には母親がいない。
産まれた頃は飲んでいたのだろうが、その後はまるで記憶に無いからな…
とりあえず想像すると色々アウトなので、止めておく。


唖々帝
「マスター、とりあえずバーボン…聖は?」


「水で良いですよ…後、出来れば何か食べれる物を」

マスター
「はいよ…」


マスターは草タイプの様で、フサフサの緑髪が特徴的だった。
角の形状を見る限り、ゴーゴートの様だ。
他の客も何かしらのポケモンみたいだし、やはりここでも人間は俺ひとりみたいだな…


客A
「おいおい、無視かこの野郎?」

客B
「折角こっちが忠告してやってるってのに、良い度胸だな!」


やれやれ、典型的な酔っぱらいだな。
服装は白のウエスタンシャツで、帽子も露骨にガンマン。
っていうか、この世界ではこれが基本スタイルなんだろうな。
種族は…黒い耳と尻尾から判断すると、ポチエナって所か?
ふたりは足元をフラつかせながら、こっちに近付いて来る。
腰には銃が下げられているが、やる気だろうか?


ポチエナA
「おう、アンタ妙なの頬から生やしてるな? 虫タイプか?」

ポチエナB
「こっちは逆に何のポケモンか解かんねぇ…格闘系か?」

唖々帝
「…失せろ。今、私は機嫌が悪い」


わお…唖々帝さん相手も見ずにそう言い放った。
少なからず、俺を軽視されたのが癇に障ったのかな?

ポチエナたちはそれを聞いて当然怒る。
そして銃に手をかける瞬間、唖々帝さんは左手で電撃を放ち、ポチエナのひとりをソッコーで黙らせた。
一瞬の電光に、店内の全員が唖然とする。
ポチエナの片割れは既に気絶しており、動く気配は無かった。


唖々帝
「………」


唖々帝さんがギロリと睨むと、ポチエナの片割れは銃から手を離し、倒れた相方を抱えてすぐに立ち去る。
やれやれ、金払ってないんじゃないのか?


マスター
「あんた、相当な腕だね…! あのブラックホースのチンピラを簡単に追い返すとは」

唖々帝
「大した事じゃない、それよりジャーキーもくれ」


唖々帝さんは平然とバーボンをボトルで飲み、マスターは笑ってビーフジャーキーを皿で出してくれた。
唖々帝さんはそれをツマミながら、バーボンも飲んでいく。
俺は水を飲みながら、とりあえず料理を待った。



「あいよ、お待たせ! ステーキとサラダで良かったかい!?」


「あ…ど、どうも」


コックらしき女性店員が、威勢の良い声でそう言って皿を俺の前に置いてくれた。
その上に乗っているステーキは、およそ200gはあろうかというサイズで、サラダも大盛りだ。
ライスが無いのは仕方無いと割り切るか…

とりあえず、俺は慣れないナイフとフォークを使い、ステーキを切り分けた。


女性店員
「ん? あんまりこういうのは食った事無いのかい?」


「いえ、ナイフに慣れてなくて…いつも箸だし」

女性店員
「箸…? 何だいそりゃあ?」


おっと、そこからまず文化が違うのか。
西部劇の時代とかだと、流石にアメリカに箸は普及なんてしてないわな…



「まぁ、気にしないでください…とりあえず食えますんで」


俺はそう言って、とりあえずステーキを一口食べた。
うん、美味い! 予想してたのよりかはよっぽど美味いな。
原始だと味付け無しの肉しか食えなかったからな…実に久し振りに感じる。


唖々帝
「…ところで、ブラックホースって?」

女性店員
「ああ、最近この辺り一帯を仕切ってるつもりの集団さね」
「ならず者をかなり集めてて、相当な規模のグループに変貌してる」
「この辺りじゃ我が物顔で、シェリフも手が出せやしないんだ…」


成る程、定番の展開だな。
と、なると…この世界ではそれがボスっぽく聞こえるが。


唖々帝
「…聖、どう思う?」


「ボスの可能性は高いですね、さっきのもフラグかもしれませんし」


唖々帝さんは、バーボンを飲んで考える。
唖々帝さんはあまり頭の回転は速い方じゃないと思うけど…実際にはどうなんだろうか?

杏さんとかも一見肉体派に見えるけど、相当な知将だし…案外唖々帝さんも?


唖々帝
「はっ、ダメだな…私が細かい事を考えるのは、やっぱ無理だ」


あっさり諦められた…まぁ、仕方無いか。
浮狼さんたちの頭脳はあくまで杏さんだったみたいだし、唖々帝さんもどうやら多分に漏れない様だ…



「とりあえず、今はここで休む事を考えましょう」
「これがフラグなら、きっと後から何か起こるはずです」

唖々帝
「了解だ…私はあくまで戦闘専門、それ以外は聖に全て任せるよ」


唖々帝さんはそう言って微笑み、更にバーボンを飲む。
酔いも回って来ているのか、少し顔が赤かった。
バーボンって結構アルコール強かったはずだけど、700mlはあるボトルを飲みきりそうだな…


マスター
「ははっ、良い飲みっぷりだ! 今夜はサービスしとくから、思う存分飲んでくれ!」

唖々帝
「ああ、助かるよ…後、私にもステーキを貰えるか?」

女性店員
「あいよ! すぐに作ってやるさな!」


女性店員は、そう言って厨房に向かった。
見た目はマスターと同じゴーゴートっぽいけど、角が小さい…進化前のメェークルかな?
という事は、親子だと予想は出来るが…



「あの店員さんは、娘さんですか?」

マスター
「ああ、まだメェークルだけどね…エミナって言うんだ」


む…この世界でも、ちゃんと個人に名前があるんだな。
エミナさんね…ちゃんと覚えておこう。


唖々帝
「…この店は繁盛してるのか?」

マスター
「まぁまぁかな…今はブラックホースのせいで、ロクな客が来ないけどね」


マスターはグラスを磨きながら、そうボヤいてため息を吐く。
相当、そのブラックホースってのは幅を利かせてるみたいだな。
店にも普通にチンピラが出入りしてる位だし、あまり町に良い影響は出てなさそうだ。


唖々帝
「…とりあえず宿も取りたいんだが、部屋は空いてるか?」

マスター
「ああ、それなら大丈夫だ、ここの所は泊まる客も少ないからな…」
「後でエミナに案内させるよ♪」


「助かります」


俺はそう言って礼をする。
マスターは笑って、うんうんと頷いていた。
人の良い人だな…こんなマスターなら、もっと店が繁盛してても良さそうなんだが。



(ブラックホースか…露骨に気になるわな)


少なくともボスっぽくは思える。
既に関わってしまったみたいだし、手下の仇討ちとかは有りそうだよな…


エミナ
「はいよステーキお待ち! 坊やはお代わりいるかい?」


「いえ、大丈夫です…美味しかったですよ♪」


俺が笑って言うと、エミナさんも笑ってくれた。
豪快そうな性格みたいだけど、大人しそうなマスターとは真逆に感じるな…
腕っぷしも良さそうだし、いかにも男勝りって感じだ。


マスター
「エミナ、このふたりは泊まっていくそうだから、部屋と鍵を用意してくれ」

エミナ
「あいよ! ふたりは相部屋で良いんだよね?」

唖々帝
「ああ、その方が安いだろうしな…」


「…え?」


俺は唖々帝さんが軽く言うのに、絶句してしまう。
あの〜? 一応、男と女なんですけど…


フーパ
『やったな!? 子作りタイムだ!!』


(ダマラッシャイ!! んな事するかっ!!)


俺は辛うじて心の中でツッコム。
全くフーパのヤロウ…事ある毎に性的なボケを入れおって。
俺は誰ともそういう関係にはまだならないってのに…


フーパ
『まぁ、君の理性は変態の域に達してる位だからね…』
『何で間違いが起こらないのか、不思議を通り越して疑問だよ』


『ひとり許したら、確実に雪崩になるからな…流石に全員とヤるのは身が持たん!』


特に女胤や騰湖は暴走確定するからな…
俺の理性は、奴らの抑止力にもなっているのだ。



………………………



唖々帝
「ご馳走さん! 酒も肉も美味かったよ♪」

エミナ
「ありがと♪ とりあえず代金はチェックアウトの時で良いから!」


「金額足ります?」

唖々帝
「一応聞くけど、コレで足りるのかい? ここの通貨はあまりよく解らないんだ…」

エミナ
「どれどれ…? って、うわっ! こんだけありゃ当分大丈夫だよ!!」
「食事込みの宿泊で、今回は300P$! この袋には、10000P$は入ってるね!!」


ぐは…そりゃ余裕だな。
唖々帝さん、一体どんな稼ぎ方してたのか?
賞金って言ってたし、賞金稼ぎだったんだろうけど…
でも、賞金首になってるんだよな…?

何でまた、唖々帝さんみたいな人が賞金かけられたんだろ?


唖々帝
「そうか、その辺のならず者を討伐してたら自然と集まったんだが…そんなにあったのか」

マスター
「っていうか…もしかしてあんた、電光のクワガノンじゃ?」

エミナ
「そういや!! 手配書に書いてある…!?」


よく見ると、店の壁に堂々と唖々帝さんの手配書が張ってあった。
賞金首金額は…10万P$!?
そ、そんなにかかってる大物なのか唖々帝さんは!?


唖々帝
「…へぇ〜そんなに有名だったのか私は?」

マスター
「…ははっ! さてはあんた、相当無茶苦茶やったんだな?」
「でも私には解るよ…あんたは悪いポケモンじゃない」
「賞金かかってるのも、きっと何かの理由があるんだろうし、少なくとも私は気にしないよ?」

エミナ
「そうさな…ブラックホースに比べりゃ、アンタは大分大人しい方だしね!!」


ふたりは笑ってそう言った。
やれやれ…焦ったけど、どうやら問題は無い様だ。


唖々帝
「本当に良いのか? トラブルを呼び込むかもしれないぞ?」

エミナ
「そんなのは慣れっこだよ! どうせブラックホースが絡んで来るんだし、トラブルはいつもの事さ!!」


「やっぱり、ブラックホースが問題か…」


当面、ソイツ等をどうにかするのが課題になりそうだな。
とりあえず、まずは体を休めながら作戦会議か…
その後、俺たちはエミナさんに部屋を案内され、そこで一泊休む事にした。



………………………



唖々帝
「…どうした聖? 一緒に寝ないのか?」


「い、いえ! 大丈夫ですので!!」


俺はベッドに入らず、部屋の隅で毛布にくるまっていた。
幸い体は温まっており、毛布のお陰で寒さは凌げそうだ。


唖々帝
「…別に、気にする事無いぞ? 私は聖が相手なら何されても…」


それは、遠回しに襲って構わないというアピール!?
これは益々ベッドには入れない…俺は不沈艦だが、懐を晒して生き残れる保証は無いのだ!

つーか、唖々帝さんどこまで本気なんだ?
仮にも良識ある大人なんだし、変な事は考えてないと思うんだが…



「とりあえず、もう寝ましょう…」
「明日から何が起こるか解りませんし、体をゆっくり休めない…と…」


俺は、気を抜くとすぐに眠気が襲って来た。
よくよく考えれば、原始編から直でこの西部編だ…マトモに睡眠を取っていないし、食事も久し振りにマトモな物を食った。

こりゃ…よく眠れそう……だ、な………


唖々帝
「聖…よっぽど疲れてたんだな」
「安心しろよ、聖は私が絶対に守る…」
「大将が愛している聖だから、私が絶対に守る…」
「大将が泣くのは、もう見たくないから…」



………………………




「…朝か」


俺は、部屋の片隅で眠っていた。
毛布を取ると、途端に朝の寒さを全身で感じる。
その寒さは、日本の冬とはまた違い、改めて違う気候というのが解るな…



「くっそ…やっぱ半袖はキツいな」


せめて上着があれば良いんだが、どうにか調達出来ないだろうか?
ストーブも無い部屋じゃ、正直凍えてしまう。
原始の時は気候が暑い位だったから、この寒暖差は正直者キツい。



「聖、起きたか? とりあえず服を調達して来たぞ」


部屋の外から現れたのは、唖々帝さんだった。
どうやら、先に起きて外に出ていた様だ。
唖々帝さんの手には、長袖のシャツとコートが握られており、どうやら防寒はこれで何とかなるらしい…

俺は唖々帝さんからそれを受け取り、まずはソレを着てみる事にした…



………………………




「これで、大分マシになるな…」


長袖はカッターシャツみたいなタイプの白…コートは灰色で、唖々帝さんが羽織っているのと同じ様なマント型の奴だった。
生地は革で分厚く、砂塵にも強そうだ。


唖々帝
「ハットも被っとけ…髪に砂が付くと厄介だからな」


俺は言われて帽子も受け取る。
風呂は昨日入ったとはいえ、また砂まみれだと大変だからな…
とはいえ、これで見た目は俺もガンマン風…まぁ銃なんて使えないけど。



「…あれから、何かありましたか?」

唖々帝
「いや、特には何も無い…店もいたって平和なもんさ」


俺はそれを聞いてまず空腹を感じ、1度食事に向かう事にした。
唖々帝さんもまだ食事は取っていないらしいので、まずは一緒に朝食だな…



………………………



唖々帝
「エミナ、サンドをふたつ貰えるか?」

エミナ
「あいよ! 待ってなっ」


エミナさんは、朝から元気良く働いていた。
店内は誰も客はおらず、流しの音楽団3人組が音楽を奏でているだけ…

それを見ると、それぞれハスボー、ハスブレロ、ルンパッパって感じのポケモンっぽかった…

んで…その近くで華麗に踊っている、露出度満点の水着みたいな格好した女性が、やけに印象深い。
見た目は水タイプっぽい人だが…


マスター
「…さて、今日も奴らは来るかねぇ?」


「ブラックホースですか?」

マスター
「ああ、ここの所毎日来てるからな…ロクに金も払わないで、ツケで飲んで行ってる」
「シェリフは役に立たないし、もう少し何とかなれば良いんだがね…」


マスターは、グラスを磨きながらそう言ってため息を吐く。
そして、そんなマスターのテンションを上書きするかの様に、威勢の良い声が店内に響き渡った。


エミナ
「はいよ、サンドお待ち! こっちはミルクな!?」


エミナさんが、定番のホットサンドを持って来てくれる。
日本で言うといわゆるホットドッグなのだが、野菜盛り沢山であり、正直一般的なホットドッグとは明らかに違う物だった。
ボリュームもあるし、中々ヘビィだな…



「とりあえず、いただきまーす!」


俺はまず、一口目をいただく。
パンはまぁフツー…だけど、レタスとソーセージが良い感じに味を出してる。
ドレッシングとマスタードが良い感じだな♪


唖々帝
「…しかし、何でブラックホースは急激に大きくなったんだ?」


「そいつは、トップが突然入れ替わったからさ!」


突然、店の入り口から大きな声。
そして、その高らかな声は前に聞いた事がある。
あれは、確か昨日の…?


唖々帝
「最悪だな…」

ヘルガー
「おいおい! 綺麗な顔が台無しだぜ!?」
「こちとら、馬を調達するのに時間かかっちまったんで、着いたのは朝だってのに…」
「そう邪険にしなくても、別に良いんじゃねぇか?」


そう、その男は賞金稼ぎのヘルガーだった。
相変わらず葉巻を咥え、堂々と店に入って来るふてぶてしさだが、体は割と砂まみれになっており、ここまで来るのはかなり苦労したみたいだ。


唖々帝
「…いい加減に諦めろ、私は出来れば関わりたくない」

ヘルガー
「そう言うなよ…こちとら、これが商売だ!」
「とはいえ、やる気の無い奴を相手にするのは俺の主義じゃない…」
「どうだ? 俺に勝ったら、ブラックホースの情報をくれてやる」
「もちろん俺が勝てば、お前は最低でも刑務所行きだろうがな…」


成る程、条件を付けて来たか。
ヘルガーはニヤニヤと笑い、かなり自信はある様だった。
対して、唖々帝さんはややイラッとしている。

唖々帝さんのやる気はイマイチだが…情報は確かに必要だ。
俺たちがこの世界をクリアするには、そのブラックホースが必ず絡んでいるはず。
やはり、ここはリスク承知でもやるしか…


唖々帝
「良いだろう、表へ出な…」


唖々帝さんは、そう言ってヘルガーの横を通り過ぎ、外に出る。
ヘルガーは笑って葉巻を口から離し、煙を吹いて外に放り捨てた。

タバコのポイ捨ては絶対に止めましょう!



………………………



ざわざわ…ざわざわ…


外ではやけに野次馬が集まっていた。
まぁ…これから始まるのは、いわゆる決闘なのだが…はてさて?


唖々帝
「………」

ヘルガー
「ルールは互いに背を向け、3歩歩く!」
「後は振り向いてズドンだ! 数は互い同時に数える!」


唖々帝さんは無言で背を向ける。
ヘルガーも、笑って唖々帝さんと背中を合わせた。
ギャラリーは全員がふたりに注目し、緊張感が一気に高まる。

勝負は一瞬…単純に速い方が勝つ。
とはいえヘルガーは銃、唖々帝さんは電撃だ。
単純な速度ではともかく、技の速度となれば唖々帝さんの電撃はかなり速いはずだが…?


唖々帝&ヘルガー
「ひとつ!」


ふたりは大きく前に踏み出す。
そして、一気にギャラリーも無言になった。
俺は息を飲み、この決闘を見守る。
後、2歩…


唖々帝&ヘルガー
「ふたつ!」


後1歩、タンブルウィードがカサカサと転がって行き、見事に空気を読む。
そして、最後のカウントが…


唖々帝&ヘルガー
「みっつ!!」


ガォンッ!! バチバチィ!!



「…!?」


何と、互いが撃ったのはそれぞれギャラリー…に隠れて、銃を構えていた男ふたりだった。
その後、ギャラリーはすぐ様散り散りになり、倒れた男ふたりに注目する。


ギャラリーA
「あれ、ブラックホースのメンバーだぜ!?」

ギャラリーB
「決闘の最中に横槍入れるつもりだったのか…」

ギャラリーC
「あのふたり…まさか気付いていたのか!?」


ギャラリーは、またざわざわとざわめき始めた。
ヘルガーは、その状況を見て銃をクルクル回し、ホルスターに納める。
何気に撃った時、炎が爆発したのが見えたな…
もしかして、炎でブーストさせてたのか?
だとしたら、弾速は想像以上に速いのかもしれない…

本気で撃ち合ってたら、どうなってたか解らないな…


ヘルガー
「ちっ、水を差されちまったな…」

唖々帝
「…どうする? まだやるのか?」

ヘルガー
「…まぁ、俺もブラックホースにゃ正直狙われる立場だ」
「こうやってふたり同時に狙われたってんなら、つまりはそういう事だろ」


ヘルガーはそう言ってポケットから葉巻を取り出し、指先をパチンと弾いて炎を出す。
そして葉巻に火を点け、それを吸った。


ヘルガー
「…どうだい、ここは一時停戦ってのは?」

唖々帝
「私は、出来れば永遠に停戦したいんだけどな…」


ヘルガーは笑って葉巻の煙を吹く。
そして腰に手を当て、やや力を抜いてこう答えた。


ヘルガー
「へっ、そりゃお前さんが賞金首である以上は、無理な相談だ…」
「ましてや凄腕の良い女…ブラックホースを片付けりゃあ、そん時はまた敵同士だ」


ヘルガーは、あくまで淡白にそう言った。
賞金稼ぎと賞金首…ふたりは、やはり相容れないらしい。
とはいえ…どうにもあのヘルガーは、唖々帝さんに何か特別な感情も抱いてそうだが。


唖々帝
「まぁ、良いさ…どの道すぐにおさらばする」
「追いたきゃ好きにすれば良い」

ヘルガー
「へっ、俺は荒野のマッドドッグ…いわゆる狂犬よ」
「1度目を付けたら絶対に逃がさねぇ、覚えときな」


ふたりの間には緊張感がある。
だが、同時に不思議な安心感も感じられた。
敵同士のふたり…それでも、今だけは信頼する仲間に見えたのだ。


ヘルガー
「言い忘れていたが、俺の名はロック…『ロック・オーサイト』だ」

唖々帝
「…唖々帝、『飛雲 唖々帝』(ひうん あーてぃ)」
「とりあえず、唖々帝と呼べば良い」


ふたりは互いに名乗り合う。
何度かやりあってそうな感じだったけど、まだ互いの名も知らない仲だったのか…


ロック
「OK〜唖々帝…なら、まずは作戦会議だ」
「俺の知っている情報を話してやる…」


そう言って、ロックは再び店の中に入って行く。
俺たちはギャラリーのヒソヒソ声には目もくれず、その後を黙って追った。



………………………




「で、奴らの情報って?」

ロック
「ああ、まずトップが入れ替わったって話なんだが…」
「それまでは、ブラックホースはそこまで大きなグループじゃなかったんだ」
「精々5〜6人からなる、ただのありふれた、ならず者集団だった…」

唖々帝
「だが、頭が入れ替わって急成長した…か」


ロックは頷く…そしてまだ昼前にも関わらず、テキーラを飲んでいた。
この世界だと、酒は日中夜関係無いらしい…
流石に唖々帝さんは自重しており、軽食のパンをかじりながらミルクを飲んでいる。


ロック
「新しくトップになったのは、『E・カバルス』とか言うフワライドらしい…」
「詳しい事は不明だが、相当気性は荒く、瞬く間にグループを従え、今や20人を越すグループに成長させた荒くれ者だ」
「間違いなく実力者だとは思われるんだが…生憎、誰も奴の戦いを見ていないから詳細は解らねぇ」


「待てよ、それなのにトップに君臨してるのはおかしくないか?」
「戦ってもいないのに、この実力社会で上に立つのは…」


俺がツッコムと、ロックはあ〜あ〜!と手をかざし、俺を制する。
俺が喋るのを止めると、ロックはため息を吐いてこう付け足した。


ロック
「言い換えてやる、誰も奴との戦いで生き残った奴はいねぇ…」
「つまり、誰も知らねぇんだ…生きてる奴じゃ」
「まぁ、流石にグループのメンバーなら知ってるだろうが、恐ろしくて誰かに喋ったりはしないだろうしな…」


成る程、どこぞの暗殺拳みたいだな…
確かに毎回皆殺しにして目撃者を消してれば、誰にも正体は解らないのか…
この時点で相当危険人物なのが解るな…まさに暴君だ。


唖々帝
「…それで、どうやってそいつを追い詰める?」

ロック
「それは…」


「おい、外を見ろ!! お前らに対して宣戦布告が入ったぞ!?」


ガタンッ!と椅子から立ち上り、俺たちは駆け足で外に出る。
すると、店の外にはひとりのガンマンの死体があり、そこにはメモが張り付けてあった…
ロックはその紙を拾い、内容を読んでいる。


ロック
「ちっ、奴ら…明朝この町を襲うと言ってるな」
「逃げるのなら、その先々全ての町を滅ぼしていくと注意書が書いてやがる」


「図らずとも決戦か…!?」

唖々帝
「まぁ、その方が気楽で良いな」


唖々帝さんはさほど動揺もせず、あっけらかんと答えた。
ハナから迎え撃つ気満々だな…


ロック
「ちっ、まぁしゃあねぇ…こうなったら、やるしかねぇからな」
「今更じたばたしても始まらん、明朝決戦だ!」


そう言って、ロックはメモをビリビリと破り捨て、また店に入った。
唖々帝さんも、黙ってその後を追う。
俺はやれやれ…と思いながらも、一緒に店に向かった。

何だか、今回は予想以上に早い展開で終わりそうだな…と、心の中で思いながら。



………………………



マスター
「ふたりとも、大丈夫なのか?」

唖々帝
「問題無いさ…責任は私たちだし、キッチリと後始末はつける」

ロック
「そういう事よ…まぁ、怖い奴はさっさと逃げるこった」
「流れ弾が来ないとは限らんからな…」


ふたりは極めてマイペースだった。
敵は20人を越すグループで、全員が銃を持ってるってのに…
それだけ、自信があるって事なのか?


エミナ
「あんたら、これを持って行きな!!」


エミナさんが突然ドンッ!と、カウンターに置いたのは…何やらダイナマイトの様だった。
って、ダイナマイト!?
露骨に古いタイプだが、これがあるって事は時代は1880年前後なのか?
まぁ、設定的な物だろうし、そもそも炎タイプのロックなら、もっと凄い爆発とかも起こせそうだけど…


ロック
「ほう、ダイナマイトとか珍しいモンがあるじゃねぇか…」

エミナ
「前に来た客が、飯代の代わりに置いていったのさ!」
「この線に火を点けたら、数秒で爆発とか言ってたよ!?」


うーむ、もしかしてその人はかなり凄い御仁だったのでは…?
とはいえ、たった1本で役に立つのかね?


ロック
「まぁ、牽制にはなるか? 馬ごと吹き飛ばすなら丁度良いな」

唖々帝
「大人数が相手なら、有効な火力って事か…」

ロック
「1発限りとはいえ、それなりの威力だ…まぁ俺の炎で誘爆させりゃ、かなりの範囲を吹き飛ばせるだろ」

マスター
「ふたりとも、死ぬなよ…?」


ふたりは笑っていた。
心配そうなマスターとは裏腹に、唖々帝さんたちは何の不安も見えない。
俺もまた、そんなふたりを見て安心する。
何だで唖々帝さんは戦いには慣れてる、きっとやってくれるさ。


エミナ
「だけど、何でアンタたちはあえて戦おうとするんだい?」
「普通なら、ブラックホース相手に戦うなんて無謀も良い所なのに…」

ロック
「どの道奴らは追って来る…逃げ場は無ぇよ」

唖々帝
「…それに、逃げればその度に誰かが犠牲になる」
「それだけは、私が許す事は出来ない…」


唖々帝さんは、俯いて何かを思い出している様だった。
唖々帝さんも、あの浮狼さんたちと同様、あの世紀末的な世界の住民だ。
絶望の中、ただ戦って生きてきた戦士。

唖々帝さんは、そんな過去の事を思い出していたのかもしれない…


マスター
「…何故、君が賞金首になっているのかは私たちは知らない」
「だけど、君が優しい心の持ち主だとは、私にも解る」
「だから、頑張ってくれ…私たちは、こうやって応援する事しか出来ないが」

唖々帝
「…大丈夫だ、誰かに信頼されるという事は、それだけで力になる」


俺は決心した…ならば信頼しようと。
唖々帝さんは、誰かを守る為なら戦う人だ。
本来の性格はどうだったのかは解らないけど、唖々帝さんは今戦おうとしている。
そして、皆の為に勝つのだろう…俺は、その勝利を信じる!

その日、唖々帝さんとロックは他愛も無い話をしながら、時間を潰した。
その関係は昨日今日出会った物には思えない程であり、まるでふたりは、長い時を超えた親友の様にも見る事が出来た…

そして、その日の夜…



………………………



唖々帝
「どうした? また、そこで寝るのか?」


「大丈夫ですよ…俺は男だから、女性には良い所を譲ります」


そう言って、俺は昨日と同じ場所で毛布にくるまる。
すると、唖々帝さんはベッドから降りて俺の方に近付いて来た。
俺は、ふと唖々帝さんの体を見てドキリとなる。

虫タイプ特有、それもクワガノンらしさを強調したパーツの様な頬の角、電気を溜める腹の模様、そして腰のウイング…
唖々帝さんは、自分の見た目にはそれなりにコンプレックスがあるみたいだけど、それでも長い金髪はサラリとしており、胸も大きめで体のラインはとても綺麗だ。

そんな唖々帝さんは今、下半身が下着姿であり、上だけシャツを着ていると言うアダルト仕様。
否が応でも、俺の息子が反応してしまう危険なラインだった。


フーパ
『よし、行け! 今がチャンスだ!!』


(ええ加減にせい! お前最近ソッチ系の台詞しか無いやんけ!!)


俺は思わず関西弁でツッコンでしまう。
フーパの野郎、台詞が少なくなってると思ったら、こういう時だけでしゃばりやがって…!


唖々帝
「…聖がそこで寝るなら、私もここで寝る」


「…そんな、ベッドで寝てください」
「明日は決戦なのに…しっかりと休まないと」


唖々帝さんはベッドから毛布を引きずり下ろし、俺の隣で毛布にくるまった。
そして顔を俯かせ、こう呟く。


唖々帝
「大丈夫だ…私は負けない」
「誰かの為に戦えるなら、私は絶対に勝利してみせる」


「唖々帝…さん?」


何故か、唖々帝さんは思い詰めている様だった。
そして、俺は聞かなければならないと思った。
唖々帝さんを今支えてやれるのは今、俺だけなのだから…



「唖々帝さんは、一体どんな風に育ったんですか?」

唖々帝
「ん? 私か…? 私は、いたって何も取り柄の無いアゴジムシだったよ」
「故郷でも特に目立たず、普通にデンヂムシに進化して、気が付いたら…大災厄に巻き込まれてた」


唖々帝さんは、特に感情も込めずにつらつらと説明する。
本当は、辛い思い出なのかもしれないのに…


唖々帝
「災厄の後、私は家族や親戚たちと一緒に、高山地域へ逃げた」
「ロクに戦う術を持たなかった家族は、次々と野盗に殺され、食料も水も無くなり、私はひとり戦う内、やがてクワガノンに進化した」
「それからは、気が付けば地力で野盗を殺し、地力で食い物を奪っていた…」


唖々帝さんは、うろ覚えの様に過去を語る。
実際には、相当な苦難があったんだろう…でも、その記憶が霞む程に、その当時の生活は苦難だったのだ。


唖々帝
「山でずっと独り暮らしを続ける内、私は大将に出会ったんだ…」
「その瞬間、私は大将に光を見た…そして悟ったんだ」
「この人が、私の救世主なんだって…」


それは、子供が夢見るかの様な羨望の眼差しだった。
唖々帝さんは虚空を見つめ、その当時の光景を鮮明に思い出している様だ。
浮狼さんは、やはり唖々帝さんにとって、それ程強烈な光だったのか…?


唖々帝
「私は、土下座して大将に部下にしてくれと頼んだ」
「だけど、大将は笑ってこう言ってくれたんだ…」


『いや、私とは仲間になってほしい』


唖々帝
「あぁ、この人は根本から違うんだ…と、私はすぐに理解した」
「その辺で偉そうにしてる野盗共とは、何もかも全く違う」
「この人は誰かの為に戦って、何かを成し遂げようとしてる」
「私はそれに付いて行って、そして見届けたいと思った…」


「それで、レジスタンスに身を?」


唖々帝さんはコクリと頷く。
唖々帝さんは、決して誰かを憎んでレジスタンスに入った訳じゃない。
ただ、浮狼さんという輝かしい光に導かれて、仲間になったんだ…


唖々帝
「それでも、聖が初めて来た時は目を疑った…」


「…え?」

唖々帝
「あの大将が、ただの女になっていたんだ…」
「でも、聖と一緒にいる大将は、それまでで1番強かった…」
「アマージョの城を落とした時、私は確信したよ」
「大将は聖と一緒なら、あんなにも強くなれるんだと…」
「本当に守りたいモノがあるなら、どこまでも強くなれるんだと…」


唖々帝さんは、当時の想いをつらつらと語る。
そのひとつひとつには、かなり強い思いが込められているのが俺にも解った。
そして…唖々帝さんは浮狼さんの事が、それ程大切だったのだ。


唖々帝
「全部終わった後…軍は解散した」
「でも私や杏姉妹、祭花や李は、自ら志願して統一王となった大将に付いて行ったんだ」
「だけど、何故か満たされなかった…充実はしているはずなのに」
「私は、その時やっと自分の本当の望みが解った…」
「私は…誰かを守る為に、戦いたいのだと」


唖々帝さんは段々と弱々しくなっていく口調で語り、俺の肩に頭を寄せた。
そして、唖々帝さんが泣いていたのを俺は理解する。
唖々帝さんの涙が頬を伝わり、角の先からポタリと布団に零れ落ちたのを見て、俺は少し歯を食い縛った。

唖々帝さんの本音を俺は聞いた…そして、支えなきゃならないと思ったからだ。
唖々帝さんも、俺の家族なのだから!

だから、俺は信頼を最大限に込めてこう言う…



「…だったら、戦ってください」

唖々帝
「ああ、私は戦うよ…聖の為に、この町の人たちの為に」
「だから…今だけで良い、私の光になっていてくれ」


唖々帝さんは、俺に身を寄せてそう呟く。
俺は毛布を重ね合わせ、今夜は唖々帝さんと寄り添って眠る事にした。

そして信頼する、唖々帝さんは必ず勝つと…
決戦は…明日の朝だ。



………………………



私は夢を見ていた…
それは、とても心地が良く、そして暖かい夢…
私はこの時だけは、女でいられる…
愛する人と、抱き合える夢…
いつまでも、この夢に捕らわれていたい…

だが、私は戦わなければならない…
そんな私は夢から目を覚まし、現実へと戻る…



………………………



唖々帝
「………」


まだ時刻は夜明け前、私は目覚める。
そして、すぐ側で寝息を立てている聖の体から私は離れ、聖に毛布をかけ直してやった。

流石に、この時間は寒さが突き刺さるな…
私はそう思い、すぐに服を着て準備をする。

決戦は、もうすぐだろう…



………………………



唖々帝
「………」

ロック
「よう、もう起きたのか?」


私が下に降りると、既にロックが店のカウンターに座っていた。
どうやら、私よりもなお早かったらしい。
ある意味感心するが、調子は大丈夫なのだろうか?


唖々帝
「…随分早いんだな」

ロック
「それが特性なモンでね…少ない睡眠量でも、俺はパフォーマンスが落ちねぇのさ」


成る程、『早起き』な訳だ…それなら特に問題は無いか。
私もカウンターに座り、ただ淡々と時間を待つ。
今の時間は誰も起きておらず、店内はシーンとしていた。


唖々帝
「………」

ロック
「緊張してるのか? 綺麗な顔が険しくなってるぜ?」


ロックは、軽口でそう指摘してきた。
緊張は別にしていないんだが、思う所はある。


唖々帝
「一応…先に言っておく、私たちはこの世界の住民じゃない」

ロック
「ほう、それで?」


ロックは特に驚く様子も無く、愛銃の手入れをしていた。
入念にバラしてから掃除をしており、細かいパーツにも目を配っている様だ。
私は、そのまま言葉を続ける。


唖々帝
「私たちは、目的を達成すればこの世界から自然と消える」
「つまり、それでオサラバって事だ…」

ロック
「成る程…そしてその目的とやらが、ブラックホースの壊滅って訳かい?」


ロックはパーツを組み立てていき、銃を元に戻す。
私は頷く事無く、ただ無言で肯定した。
ロックはそんな私の答えを見る事も無く、特に感情も込めずにこう言う…


ロック
「…生憎、俺にはお前さんたちの都合は関係無ぇよ」
「俺ぁ、賞金稼ぎだ…賞金首を追う事に命賭けてる商売よ」
「そこに、別の世界だとかオサラバとかは関係無ぇ」
「俺にあるのは…そこに仕事場があるってぇ、現実だけだ」


そう言ってロックは、組み直した愛銃を私の横顔に突き付ける。
と言っても、ハンマーも引いていないので弾は出ないのだが…

ロックはただ、今という現実だけを見ていた。
そこにやる事がある…それなら、コイツはそれだけで動くのだ。
だから、私たちの素性や目的なんて露知らず。
ただ、仕事だからやる…それだけなのだろう。


唖々帝
「…そうまでして、私に拘る理由は何だ?」

ロック
「言ったろ? 俺は荒野のマッドドッグ…狂犬だって」
「1度目ぇ付けたら、絶対に逃がさねぇ」
「お前さんは、そういう厄介なのに狙われてるってこったよ…」


そう言って、ロックは葉巻を咥える。
私には理解が出来なかった。
だけど、もうどうでも良い。

こんな問答自体、既に意味が無いのだ…コイツは、銃でしか語れない不器用な男なのだから。

それ以降は特に会話も無く、ただ時間だけが過ぎていった。
やがて夜明けを迎える頃、私たちはふたりだけで店の外に出る。



………………………



ロック
「来たな、ブラックホースの連中だ」

唖々帝
「20人以上とは言っていたが、本当にそんな物か?」


私たちは町の門で待ち伏せていた。
奴らを町に入れるつもりは無いからな。
敵は遥か前方から砂煙を巻き上げ、多数の馬の足音を響かせている。

その数は、確かに20以上の数を予想させる物だった。


ロック
「…まぁ、推定だからな」
「減ってる可能性もあるが、まぁ誤差だろ」
「俺たちにとっちゃ、20も100も大して変わんねぇよ」


私は微笑する。
確かにそうだ…雑魚が群れた所で、所詮は烏合の衆。
本当に強いのは、どの道最後に残る!
私たちは戦闘体勢に入り、まず先行部隊を潰しにかかった。



………………………



ロック
「そらそらそらっ! どんどんかかって来やがれ!!」


ロックは群れに正面から突っ込み、両手で二丁の銃を乱射していた。
その弾丸は全て炎に包まれており、的確に敵を馬から落としていく。

僅か数秒で、敵は6人程減った。


唖々帝
「ボスは何処だ? それらしいのは見当たらないな…」


私は低空で『浮遊』し、地上の雑魚共を電撃で一掃していく。
敵の部隊は特に連携なども無く、ただ野盗の様に突っ込むだけ。
馬から銃は撃ってくるものの、下手くそ過ぎて当たりはしない。

ロックもこれには少々呆れており、もはや適当にあしらっていた。
ここまで弱いとは思わなかったが、やはりボスのE・カバルスが問題という事か?


ロック
「おいおい、もう終わりかよ? ブラックホースってのは、こんなモンか?」

唖々帝
「随分呆気無い物だな…所詮は、数を揃えて押しかかるだけのならず者か」


結局、数分かからずに敵は全滅した。
私たちは共にほぼ無傷であり、多少掠り傷が出来た程度だ。
もちろん疲労はある…あれだけの数を相手にする以上、技の多用はそれなりに辛いからな…



「成る程、テメェ等か? ウチのモンをコケにしてくれたのは!」

唖々帝
「!? なっ…」


気が付くと、上空から何者かが銃を構えていた。
しかもただの銃じゃない、あれは…


ロック
「ガトリングだと!? 避けろ唖々帝!!」


私は反射的にその場から飛ぶ。
すると、凄まじい勢いで弾が放たれ、私のいた位置は地面が蜂の巣にされた。

間違いなく、あれがボスのE・カバルスだ!
フワライドの飛行性能を持って空中から銃撃とは…まるで戦闘ヘリだな!

E・カバルスは頭に白い帽子を被っており、体型はかなりゴツいマッチョ体型。
顎を覆う無精髭が印象的であり、頬からは布の様な触手が伸びていた。
それらは2対で計4本あり、ガトリングの砲身をガッチリと固定している。
そして、奴は赤く光る瞳でこちらを憎らしそうに睨んでいた。
服は紫のガンマンコスチューム。

流石に威圧感はあるな…!


ロック
「ちっ! これでも食らいやがれ!!」


ロックはダイナマイトを懐から取り出し、空中のE・カバルスに投げ付ける。
そして、それをすぐに銃弾で撃ち抜き、ダイナマイトはE・カバルスの近くで大爆発を起こした。

あの威力ならバラバラになっててもおかしくはないが…


E・カバルス
「ハッハッハッ!! 残念だったな!?」


奴は容易く『守る』で難を逃れていた。
あの空中機動とガトリング、しかも守るによる防御…まさに空中要塞だな!
私はすぐに電撃を放ち、守るの合間を狙う。


E・カバルス
「おっと、危ねぇ! そういや電気タイプか!!」


流石に距離がありすぎた為、あっさりと回避される。
私の速度では追うのは無理だ、かと言って逃げる足も無い。
どうする…? 私の機動力では、回避も難しいというのに…!


ロック
「ちっ、まさかこんな化け物とはな!」


ロックは空中の相手に弾を放つも、やはり当たらない。
狙いが例え正確でも、距離があっては相手は回避も防御も思いのままなのだ。

そして、隙を見て奴はガトリングを手回しで掃射してくる。
その弾丸は良く見ると黒い気で覆われており、恐らく『シャドーボール』だと予想出来た。
秒間で3〜4発は発射されており、私たちは逃げ回る事しか出来ない。

このままじゃ、ジリ貧だ!


E・カバルス
「ハッハッハッ!! いつまで逃げられるかな!?」
「こちとらまだまだ元気だからな! 精々疲れながら動き回れや!!」


奴は、大笑いしてガトリングを掃射する。
幸い、重量もあってか命中制度は低い。
回避は簡単だが、当たれば即死と実に解りやすいな…


唖々帝
(どうする? 当てられるかアレに?)
(いや、当てても防がれる可能性が高い…それなら弾切れを狙うか?)
(駄目だ…こちらの方が体力は少ない、持久戦は確実に不利だ)


考えても、私には良い考えなど一向に浮かばない。
元々考えるのは苦手なんだ、作戦とかそういうのは別の奴が考えれば良い。
そう思っていた結果が、これか…!


ロック
「ちっ…あの巨体で、あれだけ動くとはな!」

唖々帝
「ロック、奴はどこまで撃てると思う?」

ロック
「あん? 残弾の事か? だったらいつかは切れんだろ…その間まで逃げられりゃあな!!」


私たちは、すぐにその場から散開する。
固まっていたら、狙い撃ちにされる…離れた方が無難だ。
私は低空で浮遊しながら、電撃を放ち牽制する。

奴は一定の距離を保ちながら、確実にかわせる距離を維持し続けていた。
なまじ回避出来なくても、守るがあるからそうそう直撃は受けない。
タイプ相性はこちらが有利なのに、武器と戦術の差でこうまで覆されるとは…


唖々帝
(やるしかない、か…)


私は、胸元からひとつの石を取り出す。
それは青白い水晶の様な、菱形の石。
これは、この世界でたまたま拾った私の切り札だ。

そして…まだ誰にも見せてはいない、正真正銘のとっておき…!


唖々帝
(だが、当てられるか?)


奴は絶対の自信を持っている。
しかも、この技は足を止めなきゃ撃てない大技だ。
奴に隙は少ない、そんな大技を撃つ余裕が生まれるか?

だが、考えるのは苦手だ。
だったら、やるしかない!!


ロック
「あいつ…!?」

E・カバルス
「何をする気だ? 足を止めて諦めたか!?」


E・カバルスはこちらのオーラに気が付き、銃身をこちらに向ける。
私は構わずにガッチリと両足で大地を踏み締め、両手を角の前に突き出した。
そして、角から手に向かって電磁のレールが敷かれる。
私は全電力を腹から口に集め、全電力を集約させた。


E・カバルス
「バカめ! 隙だらけだな!!」

ロック
「そうは問屋が下ろさねぇってな!!」


ロックは、すぐに2丁拳銃でE・カバルスを狙う。
E・カバルスは回避する事無く、守るでそれを防いだ。
そしてその後に片手を上げ、そこからシャドーボールをロックに放って牽制する。

ロックはそれに吹き飛ばされ、体勢を崩して次弾が撃ち込めなかった。
E・カバルスはしてやったりの顔で、また私に照準を合わせる。

私のチャージはまだかかる…この技にまだ慣れてないのも原因だ。
使ったのも、前に1度試し撃ちしただけ…その時は反動で思いっきり後ろに吹っ飛んだからな。

つまり、今度もまともに発射出来るとは限らない…だが、私は絶対に奴を仕留める!!


E・カバルス
「死ねぇ!!」


ガトリングの弾が、連続で私に向かって来た。
かわすのは無理、防御も無理、私の発射まで後数秒。
こうなったら、死なばもろとも…!



「うおおおおおおおおっ!!」


そんな中、大声をあげて走り込んで来ている少年がひとりいた。
その少年は私の前に立ち、何か鉄板の様な大きめの板で、ガトリングの弾を代わりに受けたのだ。

だが、当然そんな物では完全に防げない。
少年は鉄板ごと無様に吹き飛ばされ、私の横を転がっていく。
私は、その少年の姿を見て目付きを変える。

そして、なおもガトリングをこちらに構えているE・カバルスに向かい、全電力を解き放った。


バチバチバチィ!!



「行っけーーーー!! 唖々帝さーーーーんっ!!」

唖々帝
「あああああぁぁぁぁっ!!」


私の口から最大電力の塊がレールの上に乗る。
そしてその瞬間、その塊は光速の速度で敵に向かって直進した。


唖々帝
「聖に手を出した罪を思い知れ!! 『ライトニング ショック レールガン』!!」

E・カバルス
「なっ!?」


それは、まさに一瞬の電光。
E・カバルスは、回避も防御も出来ずに体を貫かれる。
E・カバルスの心臓は的確に撃ち抜かれ、空けられたその孔からは、プスプスと焼け焦げる音が聞こえた。

そして、あまりの熱量にE・カバルスの体は真っ赤に燃え始める。
瞬間、E・カバルスの体は爆発四散した。
フワライドの特性は『誘爆』…見事に、空中で跡形も無く吹っ飛んだ様だ。


ロック
「…あの野郎、やりやがった」

唖々帝
「はぁ…! はぁ…!!」


私は、息を切らして体の軋みを感じる。
やはり、反動は凄まじく大きい…今回は吹っ飛ぶ事無かったものの、全身がバキバキに軋んでいた。



「唖々帝さん!!」

唖々帝
「…くっ! だ、大丈夫だ…!」
「それよりも聖!! お前は大丈夫なのか!?」


私は自分の体よりも、聖の体を案じる。
いくら鉄板で防いだとはいえ、生身の聖がガトリングの掃射を受けたのだ、骨が折れていてもおかしくない。



「お、俺は大丈夫ですよ! ちょっとアバラをやっただけです!」
「それよりも、敵は!? 今のでやったんですか!?」


私は、地面に落ちたE・カバルスの惨状を改めて確認する。
そしてそこには、目を疑う光景が映っていた…


ロック
「な、何だありゃあ!? 馬…か?」


ロックはE・カバルスが爆発四散した後の光景を目の当たりにし、驚愕していたのだ。
それはそうだろう…E・カバルスは、体が爆発四散したのに馬になっていたのだから。


ロック
「あの馬…まさか、奴はあの騎兵隊の生き残りか!?」


「騎兵隊? 何か知っているのか?」


聖はロックに疑問を投げ掛けるが、ロックは疑心暗鬼気味に躊躇ってこう言う。
それは、まさに荒唐無稽な話であった…


ロック
「聞いた事がある…かつて、有名な騎兵隊の隊長がいたんだが、その隊長はとある戦場で戦死したんだ」
「そして、その時の愛馬が行方不明になり、気が付いたら騎兵隊の隊長は甦っていたと言われる…」
「馬鹿な話だとは思っていたが、まさか…コイツがそうだったとはな!」


つまり…この黒い馬が、騎兵隊の隊長に化けていた、と?
いや違うのだろう…コイツはむしろ『怨念』だ。
フワライドはゴーストタイプ…自分の無念を、愛馬に乗り移らせたのかもしれないな…



「ヒヒーーーンッ!!」


黒馬は、悲しそうな鳴き声をあげて逃げていった。
まるで、主人の死を慈しむかの様な…そんな声で。


唖々帝
「…本当に、終わったのか?」

ロック
「みてぇだな…お前さんのとっておきのお陰だな」


「あれ、Z技ですよね? 一体いつの間に?」


私は、全ての電力を使い果たして踞った。
もう、ロクに動く事は出来ない…力は全て使い果たしたからな。
ロックは、そんな私を見てため息を吐く。


ロック
「ちっ、そんな状態じゃあ決闘所じゃねぇな…」
「仕方無ぇ、決着は後回しだ! まずは宿でゆっくり休みな!」


そう言ってロックは私を担ぎ、ゆっくりと歩く。
私は拒む事も出来ず、なすがままに担がれて、マスターの店に担ぎ込まれた…



………………………




「…大丈夫ですか?」

唖々帝
「…ああ、それより聖は?」


「俺は大丈夫ですよ…どうせ死にはしませんから」


聖は、あっけらかんとそう言い放つ。
その言葉には何やら確信がある様だった…つまり、聖は解っていてあんな無謀な事をしたのか?

聖は、やや空笑いしながらも、私に笑ってこう言った…



「俺は、絶対に死ぬ事は無いそうです」

唖々帝
「…え?」


「この混沌は、俺が生き延びる事を前提に製作されてる」
「だから…俺は何をやっても、死ぬ事は無いんだそうです」


それは、驚愕の事実だった。
聖は、絶対に死なない?
つまり、この混沌は聖ありきで存在している。
何故、聖だけがそんな扱いなんだ?


唖々帝
(考えても、答えは出ない…か)


どうやっても、私には何も思いつかない。
聖の言葉の意味を理解しようとしても、私には何も解らない。
だけど、信じる事は出来る。


唖々帝
「…もう、終わったんだよな?」


「…多分、でもまだ終わってないのかも」


聖は不安そうな顔をしていた。
それは、まだこの混沌が終わっていないという事。
そして、私はその意味を何故か理解出来た。

それはそうだ…私には、まだやり残した事があるのだから。



「唖々帝さん!? まだ動いちゃ…!」

唖々帝
「いや、この混沌はE・カバルスがボスじゃなかったんだ…」
「本当のボスは、もう外で待ってる…私は、それを理解した以上…避ける事は出来ない!」


私はまだ軋む体を動かし、店の外に出た。
マスターやエミナが心配そうに見送る中、私と聖は店の外でひとりの男を見る。

そこにいた男は、葉巻を吸いながら余裕そうに佇んでいた。


ロック
「…来たか、体調はどうなんだ?」

唖々帝
「…安心しろ、問題は無い」


私は自信満々にそう言う。
実際、体は軋んでいる。
あの技の反動は相当大きい…だが、この戦いは避けられない!


ロック
「…嘘が下手だな、お前さんは」

唖々帝
「それでも、私は逃げない!」

ロック
「へっ…嬉しいねぇ、そこまで覚悟されてるとは…!」
「なら、お互い加減は無しだ…! 改めて決着を着けようぜ!!」


私は、笑って背を向ける。
ロックも苦笑し、私の背に背中を預けた。
そして、その背中からは信頼を感じる。
私は、その温かさが少しだけ残念だった…


唖々帝
(こんな世界じゃなけりゃ、いい友人になれたろうにな…)

ロック
(気持ちは解るぜ、だが俺には俺のプライドがある…)

唖々帝&ロック
「ひとつ!!」


私たちは、大きく一歩目を踏む。
ギャラリーはいつのまにか多数集まっていたが、私たちには何も見えていない。


唖々帝
(これが、本当に最後なんだろうな…)

ロック
(だが、満ち足りている…俺ぁ、この瞬間が1番好きなんだ!)

唖々帝&ロック
「ふたつ!!」


やがて、何も音は聞こえなくなる。
互いに緊張感はマックスだ…! 後1歩で、全てが終わるのだから…


唖々帝
(私は、帰るんだ…聖と一緒に!)

ロック
(俺の事は、所詮小さな存在なんだろうな…だが、俺はそれでも俺の為に勝つぜ!?)

唖々帝
(絶対に、負けない!!)

ロック
(これは、俺の生き甲斐全てだ!!)

唖々帝&ロック
「みっつ!!」


その瞬間、私は時が止まったかの様な感覚に陥る。
互いにほぼ同時に構え、互いの技を放つ体勢に入っていた。
私たちは互いの顔を見る…その顔は、互いに満ち足りていた顔をしていた事だろう。

つまり…どんな結果でも、遺恨無し!
私たちは、言葉無くとも、そのルールが心にあった。
そして、私たちは互いに全てを賭けて技を放つ。

その、結果は……?



………………………




「……!!」
マスター
「……っ!」
エミナ
「…!?」


まだ、時は止まっているかの様だった。
私たちは互いに右手を前に出したままの体勢で、時間だけが過ぎて行く。
一瞬だった…その一瞬に、私は全てを賭けた。
ロックもそうだろう…だから、私も加減はしなかった。

ロックの体には、電撃の後が紫電となって走っている。
私の体には、何の傷痕も無い…
つまり…勝ったのは……


ロック
「へっ、楽しかった…ぜ……!」


ドシャアッ!!と、ロックは前のめりに倒れる。
私には何の傷も無く、ただゆっくりと右手を下ろした。
そして、思わず無言で涙する…これが、私の選んだ結末だから。



「…唖々帝、さん」

エミナ
「ロックが…負けたのね」

マスター
「ああ、まさに電光…唖々帝の方が、一瞬速かった」


ロックの銃からは、弾は放たれなかった。
その前に、私の電撃がロックを捉えたからだ。
だが、それはまさに一瞬…コンマ数秒の世界。
一瞬でも遅れていれば、逆の絵になっていたのだろう…



「…唖々帝さん、おめでとうございます」
「そして、知っていたんですね? 本当のラスボスは、ロックだって事…」


私は無言だった。
だけど、肯定している。

E・カバルスは、ボスだけどラスボスじゃなかった。
この混沌は、ロックこそがラスボスだったのだ…
だから私は涙する…こんな結果にしてしまったのは、私が弱いからだ。

だから、ロックには謝りたい。
すまなかった、と…私には、こんな選択しか出来なかったのだから…

そして、私と聖を中心に何か空間に孔が開く。
それは、まるで私たちを吸い込む様に…その世界から私たちを弾き出したのだ。



………………………




「くっそ…こんなにも、イヤな気分になるなんて」

フーパ
「まぁ、それもシナリオだからね…少なからず怒ってるかい?」


俺は、何も答えなかった。
そして、また感じられない…唖々帝さんの気配も。
香飛利の時と同様、完全に隔離されている様だ。



「…ふたりは無事なのか?」

フーパ
「それは大丈夫だろう…シナリオだからね」
「ただ、その先は解らない…アタシには全容は理解出来ないからね」


俺はそれを聞いてスマホを取り出し、耳に当ててこう呟く。



「…聞こえるのか?」

フーパ
「無理だよ…ここは、全く違う時間軸の世界線だ」
「君が本来頼るであろう相棒は、ここを関知出来ない」


俺は、予想が出来ていた。
フーパがこの立ち位置にいる時点で、恵里香は俺と繋がっていないのだと…

そして、その異常性も改めて理解する。
ここは、恵里香ですら関知出来ない程、理解不能の混沌なのだ。
つまり、世界送り(ワールドメール)の射程外。

下手をすれば、俺の雫すら正常稼働しないのかもしれない…
その中で、俺はひとり異能生存体として世界に存在している…
一体、こんな混沌を造ったバカは何を考えているんだ?


フーパ
「…深くは考えない事だ、どの道、君は逃げる事は出来ない」


「するつもりもないがな…で、どうせまだ続くんだろう?」

フーパ
「ああ…もちろん、君が全てを救うまで…」


フーパのその言葉と共に、俺はまた転移の感覚に捕らわれる。
やれやれ…せっかちな制作者だ。
俺は意識を研ぎ澄ませた。

何があっても、絶対に家族は救う!
例えどれだけ悲しい結果でも、俺は救える命は全部救ってやる!!










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第2話 『決戦と決闘』


To be continued…

Yuki ( 2019/05/04(土) 23:19 )