とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない













小説トップ
第5章 『POKE MOA EVIL』
第1話 原始編
それは、唐突な誘いだった。



「…!! 混沌、か」


久し振りの違和感。
俺はとある休日の日、たまたま外に出ていたら、突然違和感に襲われる。
それは、ここ最近感じていなかった違和感。
そう、まさしく…混沌世界への誘いだった。



「やっほ〜、ジャリボーイ♪」


「ふぅ…残念だよ、俺は貧乳幼女には発情し難い」

貧乳幼女
「いきなりだねオイ!? っていうか、そもそも君は誰にも発情しないでしょうが!?」


おっと、中々鋭いな…ってか、俺の事ようく知っている様だが、コイツは一体…?
俺はどこかでコイツを見た事があったか? いや、無いな…そのはずだ。


貧乳幼女
「やれやれ、ホントに掴み所が無いね」
「まぁ、良いや…今回はアタシも巻き込まれた組だし」


「成る程、混沌に巻き込まれたのか…そりゃ御愁傷様」


俺は軽く言ってやると、貧乳幼女はケラケラと笑う。
どことなく性格が藍に似てるな…微妙に体型は違うが。
まぁ、藍の方が胸はデカイだろうな。
ちなみに少女の見た目は、褐色で髪色はやや紫がかった短髪。
頭の天辺では小さくポニテにしており、身長は130p程か?
額には金色の円が描かれており、目元にはピンクの隈があった。
更に腕と腰には金色のリングをしており、まるでサーカスの団員の様にも見える。
服は何と言うか…どこか中東風で、布面積はマイクロビキニに近く、露出度は極めて高い。
それは髪色に近い紫色で、これで胸があれば最高だったのだが…


貧乳
「とりあえずアタシはフーパ、よろしくねジャリボーイ♪」


「俺には魔更 聖って名があるんだがな?」
「っていうか、ここ何処だ? 気が付いたら真っ暗闇?」
「まるで時空の最果てみたいだな…」


俺たちがいる場所は、何も無い闇。
だが、最果てとは違って重力の感覚はある。
まぁ、これも混沌世界って事かねぇ…?


フーパ
「…とにかく、これに関してはアタシもどうしようも出来ない」
「アタシもまた、今回は君と同様に巻き込まれただけ…」
「しかも、ご丁寧にアタシの力は封じられている…今のアタシはただの少女に過ぎない」


フーパと名乗った少女は、片手で金色のリングをクルクルと振り回すが、何も起きる様子は無い。
本来ならフーパはゲートを開いて何でも転送する能力があるはずだが、それは封印されているらしい。
とはいえ、仮にも幻と言われるポケモン…本当にただの少女とは思えないが。



(恵里香の例もあるからな…もしここが時空の最果てと同様なら、俺の雫も封印されてるという事になる)


それは、時空の最果ての仕様でもある。
あそこでは、ありとあらゆる力が意味を失う。
全ての終着点であり、力の行き場が存在しない場所。
だが、その中で唯一恵里香のみが力を行使出来る。
未だに原因は不明だが、恵里香によるとそれも進化なのかもしれない…とだけ呟いていた。
このフーパも、もしかしたら…?


フーパ
「何だいジロジロ見て? 欲情した?」


「するかっ」


俺の反応にフーパはケタケタ笑う。
やれやれ、遊ばれてるな…まぁ、こんな何も無い所で男と女がふたり。
冗談でも話さなきゃ気が持たないか…



「で、これから何が起こる?」

フーパ
「知らんのか?」


「?」

フーパ
「…祭りが始まる」


「それは〜紛れもなく〜ヤ〜ツさ〜♪」



………………………



『POKE MOA EVIL』

原始編 『成長』





ドンドコドコドコ! ドンドコドコドコ!


香飛利
「あう〜…ここどこ〜?」


(香飛利!? それにここは一体…?)

フーパ
(これが今回の混沌らしいよ…どうやら、君の家族の何人かがそれぞれ別の世界に巻き込まれてる)
(この世界には、彼女がひとり…ちなみに世界にはそれぞれルールが有り、それに従ってラスボスを倒せば彼女はクリアとなる)


俺はそれを聞いてバカな…?と思う。
よりにもよって香飛利ひとりでボスだと!?
愛呂恵さんや鐃背さんならともかく、何で香飛利なんだ!?
どう考えたって、無理ゲーだろ!?
俺はかなり絶望的な顔をしていたと思う。
だが、フーパはそれを嘲笑うかの様にケラケラと笑っていた。


フーパ
(まぁ、混沌だしね…アタシには何も出来ない)
(だけど、君には特権がある…それは)


「うわっ!?」

香飛利
「ひぃぃっ!?」


俺は突如として世界に具現化する。
さっきまで、フーパと一緒に空中を漂っていたのに…
お陰で結構な高さから落ちてしまった、背中が痛ぇ…


香飛利
「…ガクガク」


「香飛利!!」


香飛利は俺の姿を確認すると、目にも止まらぬスピードで抱き付いて来た。
香飛利はとにかく臆病な娘だ、戦う事なんて到底出来ない。
だが、フーパはボスの討伐がクリアとなると言っていた。
何でフーパはそんな条件を知っているんだ?
だが、考えてる暇は無い…何故なら、今俺たちがいる場所は、形容し難い、儀式のど真ん中にいる最中だったからだ…


部族A
「ウホッ! 食料増えた!!」

部族B
「ウホホッ! 今夜はご馳走!!」


俺たちはキャンプファイヤーみたいな物の側で立ち尽くしていた。
周囲にはまるで原始人の様な格好をした毛深い部族が沢山。
完全に囲まれており、逃げる事は出来ない。
背中側には炎がメラメラと燃え盛っており、正直暑くて汗が止まらない。
さて、いきなり過ぎるがどうする?
香飛利にはボスを倒すという目的があるが、コイツ等がそうなのか?


フーパ
(良い事を教えてあげようか? この混沌はいわばゲームさ)


(フーパ!? 近くにいるのか!?)

フーパ
(いいや、今は暗闇の中だよ…そこから君に声だけを頭に送り込んでる)
(どういう理屈かは知らないけど、それ位は許されるらしい)


俺の頭の中にフーパの声が響く。
恵里香と似た様な状況だが、スマホのスピーカーを介さないと話せない恵里香よりも便利そうだな…


フーパ
(聖君、君は香飛利を信じてあげる事だ)


(香飛利を…)

フーパ
(その娘は確かに今は弱い…でも成長は出来る、さっきも言った様にこれはゲームさ)
(だったら、RPGみたく考えれば良い)


(成る程な、って事は…コイツらはシナリオ上のオープニング、いわばチュートリアルってわけだ!!)


俺は理解し、気を引き締める。
そして香飛利の体を離し、相手に向けさせる。
何モンかは知らねぇが、これがRPGならチュートリアルは雑魚敵!
いくら香飛利が弱くても、経験値を積んでレベルを上げればボスにも勝てるって事だ!!



「香飛利、戦うんだ!」

香飛利
「無理です〜」


「大丈夫、出来る!」

香飛利
「無理です〜」


俺は無限ループに陥りそうになったのでとりあえず香飛利を3歩歩かせる。
そしてもう1度言った。



「戦うんだ香飛利!」

香飛利
「誰と?」


アカン! 全部忘れとる!!
俺は頭が痛くなったから、もうテキトーにやる事にした。
ゲームだってんならもう何でも良いだろ!



「よし香飛利! あっちの方向に何でも良いから攻撃技を撃て!!」

香飛利
「はい〜これで良い〜?」


ゴォォォォォォォォォォォッ!!


部族A
「ギャアァァァァッ!?」
部族B
「熱いーーー!!」
部族C
「逃げろーーー!?」


何と香飛利は容赦無く『熱風』で薙ぎ払った。
かなりの敵が焼け死に、前方は死屍累々…
うわ…まさかここまでとは。
既に敵は全員逃げ出しており、この場には俺たちだけが残った。



「…お前、何で熱風なんて覚えてたんだ?」

香飛利
「解んない〜いつの間にか覚えてた…肉焼くのに便利」


本能的に覚えたのか? まぁ、とりあえず雑魚一掃には便利だな…



「とりあえず、この場を離れよう」
「またどんな敵が来るかも解らないし、まずはどこか安全な所を探さないと…」


「待ちな!! 逃がしゃしないよ!?」


突然現れたのは、これまた原始人の様な皮の服を着た女性。
しかし、女性の頭には動物の耳みたいなのが付いており、どうやらポケモンの様だった。
白髪に耳は左耳だけが赤い、服も赤と白の混合で、赤い部分は稲妻の様な模様になってる。
手首の当たりも赤い毛で覆われており、長く綺麗な白い尻尾がピンと斜めに立っていた。
そして、こちらを睨む赤い瞳に両手には黒く太い爪が伸びている。
その上、鋭く細い目付きで確実にこちらに敵意を抱いていた。


ポケモン娘
「よくもアタシの仲間をやりやがったな!? テメェ等はここでぶっ殺してやる!!」


物凄い物騒な事を言っておられる…つーか、これがボスか?
いきなり香飛利にこんなん倒せるのか!? いかにも強そうじゃねぇか!!


香飛利
「ひぃ〜〜〜〜!?」


「よし逃げるぞ香飛利!?」


俺は香飛利に抱き付き、香飛利は『電光石火』の速度で空中に飛び出した。
相手は驚くも、空中に追い付く術は無い様だ。



「ふははははっ!! 見たか原始人!? これが現代人の知恵よ〜!!」

ポケモン娘
「ざけんな! 降りて来いコノヤローーー!?」


所詮は負け犬の遠吠えよ…この魔更 聖、勝てぬ戦いはしない主義なのだ!


フーパ
(まぁ、妥当っちゃあ妥当かね…やらせてみれば良い勝負するかもしれないけど)


(勘弁してくれ…今の香飛利じゃあんな凶悪そうな相手はビビって戦えない)


とにもかくにも、香飛利は臆病なのだ。
本人が嫌がってる内はとてもひとりでは戦えないだろう。
だが、それもいずれ改善しなきゃならない…この世界には味方はいないのだから。



………………………




「…ふぅ、とりあえずここなら大丈夫か?」

香飛利
「洞窟みたいだけど、隠れられる…うぅ、お腹空いた〜」


香飛利は洞窟内の奥の方で岩肌に身を埋めた。
そんなに大きな洞窟ではないが、雨風を凌げるのは大きいな。
とりあえず完全に深夜みたいだし、今日は寝よう…
香飛利はお腹を押さえながらも睡眠に入った様で、次第に寝息を立て始めていた。
俺も同様にその場で横になり、体が痛くない体勢を探して次第に眠りに入る。


フーパ
(寝込み襲うなら今だぞ? その娘は鈍感そうだから、寝てる間に膣内射精(なかだし)しても多分バレない)


(ド阿呆! 想像したら息子が反応するから止めい!!)
(つか、寝るから干渉するな!? 空気を読め!!)


俺が心の中でツッコムとフーパはケタケタ笑う。
野郎…完全に遊んでやがる。
俺は気を取り直して眠りにつく。
フーパは完全無視の方向に落ち着いた。



………………………




「…う、朝か?」


あまり寝られた気はしないが、朝らしい。
俺は体を起こすが、例によって体が重い。
もしかしなくてもこのパターンはアレだ…


香飛利
「ZZZ…」


「香飛利って、結構おっぱい大きいよな…」


香飛利は俺に抱き着いて寝ていた。
寒かったのか完全に密着しており、俺の背中に腕を絡めて顔を腹に押し当てている。
その際、胸が都合良く股間に密着しており、俺の息子は朝勃ちで猛り狂っていた。


フーパ
(よし! チャンスだ! そのまま服の隙間から胸の谷間にお前のイチモツを差し込め!!)


「朝からいい加減にしろ!!」

香飛利
「はひっ!?」


おっと、つい俺は声に出してツッコンでしまった。
香飛利は声に驚いて目を覚まし、キョロキョロと周りを確認していた。
俺は顔を手で押さえ、とりあえず香飛利を引き剥がした。



「おはよう」

香飛利
「おはよ〜」


香飛利はまだ眠そうだな。
香飛利は元々良く寝てよく食べる娘だから、普段は元気が余ってるはずなんだが…
いかんせん臆病な性格が災いして争い事をとにかく避けてたからな…
せめて、戦う動機でも生まれれば違うのかもしれないが…


香飛利
「お腹空いた〜…」


「俺もだよ…でも、どうすんだこんな世界で?」


一応、原始人らしいのが住んでるって事は、ここはそう言う舞台なのだろうが。
となって来ると、必然的に食料は狩り、か。



「とりあえず、狩りに行くぞ香飛利!」

香飛利
「無理です〜」


「出来なきゃ俺もお前も死ぬんだぞ!?」

香飛利
「…あぅ」


香飛利は少し反応する…涙目ながらも、状況は理解したらしい。
いつも誰かに手を引っ張られ、食べ物は貰うばかりだった香飛利。
今、香飛利は成長しなければならない。
例えひとりでも、ちゃんと戦って生きていける様に。



「大丈夫だ、香飛利だってきっと出来る」
「熱風とか使える位だし、やれば他の技も使いこなせるだろ?」
「とにかく、食料が無けりゃ生きてはいけない…」
「行くぞ香飛利? お前が先頭に立って探すんだ」


香飛利は勇気を出してトボトボ前を歩く。
洞窟から外に出て、香飛利は見渡す光景に立ち尽くした。
そこはまるで広大なサバンナ。
ちらほらと動物らしきものがおり、どうやら狩りをするには適している様だ。



「よし、とりあえずまずは狩り易そうなのを一匹選ぶぞ?」
「あの辺の牛っぽいのにするか…牛肉なら焼けば食えるだろうし」

香飛利
「じゃあ、熱風で焼く〜」


香飛利は後先考えずに翼を前方にはためかせ、熱風を広範囲に放つ。
すると、前方数百mに渡って草木は熱され、放射線上にいた動物たちは焼け死んでいた。



「あちゃ…また目立つ事を」

香飛利
「でも肉〜!」


香飛利はダッシュ(飛行)で倒れている牛の元に向かった。
俺はやれやれと思いつつも、結果オーライという事にする。



………………………




「バッファローって奴かな? しかし、熱風じゃ思いの外焼けてないな…」

香飛利
「とりあえず切るね〜」


香飛利は手から空気の刃を出し、牛の肉を捌いた。
勿論適当なので大きさや部位はお構い無しだが…



「『エアカッター』か…お前って特殊系の技が得意なのか?」

香飛利
「? よく解んない〜でも飛道具が安全」


成る程、生きる上でそういう方向に行きついたのか。
臆病な性格だし、そっちの方が確かに合ってるわな。



「とりあえず、熱風じゃ熱量足りてないみたいだし、どこかで火を起こそう」
「まずは薪集めて来ないとな…香飛利は水場を探してくれ」
「肉はとりあえず俺の鞄に入れよう…」


香飛利
「あい〜」


俺は肩に背負っていたショルダーバッグを取り出し、それに切り分けた肉を詰め込んで行く。
この際、鞄の汚れは無視した…まぁ、川とかあれば洗えるだろ。



………………………



そして俺たちはたまたま川を近くに見つけ、そこで薪を集めてバーベキューの準備となった。



「とりあえずこんなもんかな?」


俺は手頃な石をテキトーに積み上げて石窯っぽいのを作った。
鞄に入ってた肉を全部それに詰め込み、薪はその下に敷いてある。
後は火を起こすだけだが…



「よし、全力で熱風だ! 時間かかるかもしれないけど、頑張れ!」

香飛利
「難しいけど、やってみる〜!」


香飛利は石窯に向かって熱風を放つ。
熱が貯まるまでは時間がかかる、香飛利は辛そうにしながらも翼を何度もはためかせて頑張っていた。
すると、やがて努力は実り、釜の中ではパチパチと音を立て、薪に火が点いた。
香飛利は肩で息をしながらその場にへたりこむ。
俺はそんな香飛利の頭を撫でてやり、釜の方に向かった。
薪に火が点いたので、釜の温度はかなり上がっている。
俺は木の枝で中の肉を動かし、しっかりと焼き上げていった…



………………………




「あちちっ! とりあえずこれ位で良いだろ…調味料は無いけど我慢出来るな?」

香飛利
「あい〜♪ ハムムッ!! 美味しい〜♪」


香飛利は早速素手で食べ始めていた。
俺は軽く息を吐き、木の枝で作った箸を使い肉に口をつける。
ふむ、確かに意外と味があるな。
肉本来の旨味という奴だろうが、しっかりと食える物だった。



「この量だし、香飛利もちゃんと満腹になれるな?」

香飛利
「ハムハムッ!!」


香飛利はもう何も聞こえてなかった。
守連や三海に負けず劣らずの大食いだからな…ある意味香飛利も原始人みたいだ。
ちなみに服は夏服で、今は半袖短パン。
俺もTシャツに夏用のズボンだが、予想以上にこの世界は気温が高い。
加えて全身砂だらけだ、正直清潔感が皆無だな…
改めて愛呂恵さんがいてくれれば、こんなサバイバルでも快適に暮らせるのだというのを知らされる。
香飛利にはそんな器用な事は出来ないからなぁ…



………………………




「…流石に残りを持ってくのは止めとくか」

香飛利
「でも、勿体無い〜」


香飛利は名残惜しそうではあった。
が、俺の小さなショルダーバックじゃ保存が出来ない。
とりあえず、残りは他の動物に差し上げるとして、今は移動だな。



「見つけたぞコノヤロウ!!」


「おいおい、朝イチからかよ…まぁ、肉食って落ち着け」


俺は立ち上がった瞬間に因縁をつけられた。
そして、俺は昨日見た相手と同一だと判断すると、残していた焼き肉を箸で挟み、相手に差し出した。
まぁ、もう冷めてるがな…


ポケモン娘
「くっ、食料で釣ろうってか!?」


「つーか食い切れなくて困ってたからな、良かったら残り全部やるよ」

ポケモン娘
「全部!? い、良いのか!?」


何だ、露骨に釣れたな。
まぁどの道俺たちは満腹だから全然構わない。
放っといたらすぐに腐るしな。



「好きにしろよ、じゃそういう事で…」

ポケモン娘
「待てい! 逃がすとは言ってねえぞ!?」


俺は指差されて止まる…やれやれ面倒な奴だな。


ポケモン娘
「とりあえず食わせてもらうからには、昨日の事はチャラにしてやる!」


チャラかよ! 安いな仲間の命!!
まぁ、弱肉強食のこの世界、弱者の命よりも食料か…


ポケモン娘
「ウメェ!? と、とりあえずお前らには借りが出来た! 俺もお前らに付いて行くぜ!!」


ポケモン娘は肉を頬張りながら頬を膨らませてそう宣言する。
おいおい…妙な展開になって来たぞ?
ここに来て、仲間が増えるのか?


フーパ
(ザングースが仲間になった)


「ナレーションかよ! つか、ザングースだったのな…」


よく見れば特徴は一致してるもんな…とはいえ、見た目はまさに野性児だもんな〜


ザングース
「ウマイ〜♪ 久し振りの肉だ〜」


「あん? お前仮にもあの部族のリーダーだろ? 肉のひとつも食えなかったのか?」

ザングース
「あんな雑魚共じゃ狩りとか出来ねぇよ…」
「ウサギとかネズミならともかく、こんな牛とか絶対無理!」


「いやいや、お前の立派な爪は飾りか!?」
「いかにも強そうな感じだろ! 自分で狩れよ!!」

ザングース
「いやぁ、これはこれで使い難いんだよね〜石だし」


そう言ってザングースは石で出来ていた爪を指から外す。
見た目おかしいとは思ってたが、填めてただけかよ!!
もしかしてコイツ、案外見かけ倒しなのか?



(おいフーパ、お前コイツのレベルとかって解るのか?)

フーパ
(今すぐ香飛利を押し倒すなら教えてやっても良いよ?)


(役に立たんな…もう良い)

フーパ
(ああん待って!? 邪険にされたら返って萌えちゃう♪)


(猫なで声を出すな! 演技なのがバレバレだぞ…)

フーパ
(ちぇっ…まぁ良いや、ザングースのレベルは15ってとこだね)
(ちなみに香飛利は30はあると思うよ)


ぬ…となると香飛利は意外にやれるのか。
まぁ、仮にも進化系なんだし、最低限のレベルはあると思ってたが。



(つーか、倍のレベル差かよ! まぁ今回は香飛利が主人公だし、補正って事でしゃあないとしとくか…)


とりあえず、俺たちは予想外にレベルの低かったザングースを仲間にし、とりあえずザングースの部族が根城にしてる拠点に案内された。
ちなみに、どうやらこの世界ではポケモンたちも名前があるらしく、このザングースも『マリス』という名前があった。



………………………



マリス
「ヒャッハー! 飲め飲め〜!!」

部族A
「ウホッ! ウホッ!」
部族B
「客人客人!」


その日はどんちゃん騒ぎだった。
レベルは低くとも、マリスはしっかりとボスであるらしく、部下のナマケロたちにとっては立派なリーダーの様だった。



(しかし、ナマケロだったのか…ザングースの仲間はいないのか?)

フーパ
(まぁ、色々理由はあるからね…この世界じゃこれが普通なのさ)


(フツー、ね…ちなみに、お前は別次元の世界から呼ばれたのか?)


俺の言葉にフーパは黙る…俺は少なくともそう予想したが。
そして恐らく合ってる…そしてフーパは巻き込まれたと言っていた。
コイツの真意は謎だらけで、正直信用して良いものかは悩み所だが…
こっちはどの位の家族が巻き込まれているか解らない。
しかも、香飛利の様にひとりで何も出来ない様な娘が巻き込まれていたらと考えたら気が気じゃない。


フーパ
(悪いけど答える気は無い、ちなみに信用する必要も無い)


(なら質問を変えてやる、お前は俺の敵か?)

フーパ
(そうだと言ったら?)


(何があっても俺はお前を倒す…!)
(家族を巻き込まれた以上、俺は徹底的にやる)
(例え俺が死んでも、家族の命は絶対に救う!!)


俺は最大の気迫を込めてフーパに感情をぶつける。
フーパはそれを聞いて、少なからず機嫌を損ねた様だ。
だが俺には関係無い…敵だと言うなら、俺は戦うだけだ。


フーパ
(本当にムカつくジャリボーイだよ…自分が犠牲になってもだとか、偽善にも程がある)


(だからどうした? 俺は偽善者と言われても、意志を曲げる事は絶対に無いぞ?)

フーパ
(それが家族を傷付けるとしても?)


その一言で俺は言葉を詰まらせる。
確かに、そういう事もあるかもしれない…
悠和ちゃんの時も、女胤の時も、いやもっと辿れば、阿須那や光里ちゃんにだって…
俺は、少なからず自分のせいで誰かを傷付けている。
だけど、それは皆理解してくれての事のはずだ。
俺は皆に信頼されている以上、その意志を貫き通す。
そして、アルセウスさんとの約束を果たす…



(俺は、俺らしくあれ…そうであれば、俺の歩む道は正しい道となる)

フーパ
(何だいそれ? もしかして神にでもなったつもりなのかい?)


(違う…これは正真正銘、神様が自らの口で俺に伝えてくれた啓示だ)
(だからこそ、俺は自分と家族を信じる)
(例えその為に家族が傷付いたとしても、俺は必ずそれを癒してやる!)


俺の言葉にフーパは数秒黙る。
何を考えてるのかは知らないが、よっぽど俺が気に食わないらしい。
だが、俺は曲げるつもりは無い。
ここまで信じて積み重ねて来た俺たちの絆を、俺は信じて守ってみせる!


フーパ
(もう良いや…これ以上言い合っても腹が立つだけだ)
(どこまで行っても君とは仲良くなれそうに無い)
(やっぱり、君とは敵同士がお似合いみたいだよ…)


それは、諦めに似た言葉だった…本心はどうかは知らない。
だが、互いに譲れない物はある、だったら答えは簡単だ。



(俺は絶対に家族を救う)

フーパ
(アタシは自由に生きる)


それが最後通告とも取れた。
互いに退くつもりはない、ならこっからは正真正銘の敵同士だ。
俺は必ず勝つ、そして全てを救う。



(…何を抱えてるか知らないが、俺は全部救うぞ?)
(例え、敵となったお前の事でも)

フーパ
(…!? 何を言ってる?)


(バレバレなんだよ、大方何か人質でも取られてるんじゃないのか?)
(あわよくば俺の力を利用して救う気だったか…だが破綻したからそうやって敵対心を見せた)
(まるで子供の駄々だな…本当なら自分で何でも出来たんだろうが)


ちなみにこれは俺の勘であり、ハッタリだ。
確信なんて何も無い、だがここまでのフーパの態度を考えて俺はそう推測した。
思いの外外れてもいない様で、フーパは舌打ちだけして言葉が続かなかった。


フーパ
(君は、どうしてそうまでバカなんだ?)


(バカじゃない、大バカなモンでね…)

フーパ
(…本当にムカつくよ、そしてそんな君に頼らないと何も出来ない自分はもっとムカつく!)


フーパは本当に腹を立てている様だった。
とりあえずこれで互いの腹は割れたな…
なら、もう敵対する必要は無い…こっからは共同戦線で互いの大事な者を救う!



(詳細は話せないんだろ?)

フーパ
(ああ、だからアタシが出来るのは君の案内だけ)


(なら俺を信じろ、お前の大事なモノも全部救ってやる!)

フーパ
(はは…本当に、大バカなジャリボーイだ)
(やっぱり…彼とは違うな)


フーパの声は笑っていた。
ようやく割り切れたか…なら、もう論議はいらないな。



(この世界のボスについては何か知ってるのか?)

フーパ
(いや、アタシには解らない…ただ、この世界にとってはあまりに強大な力を持ったボスだと思われる)
(少なくとも、今の香飛利に倒せるレベルじゃないだろうね)


(だが、レベルアップさえすれば…)

フーパ
(きっと勝てる…そう設定されてるはずだ)


設…定? 何だ、それは何かを意味してるんじゃないのか?
いや、考えてみろ、フーパは最初に何と言った?


『この混沌はいわばゲームさ』



(だとしたら、この混沌は作為的に生み出されたのか?)


フーパは答えない…いや答えられない、か。
だったら、想像以上にこの混沌は大きい物かもしれない。
現在、夢見の雫は透き通った透明だが。
だが、もしかしたら何度も使う必要が出てくるかもしれない。
最悪、人質の件もある…なるべく濁りは抑えないとな…


香飛利
「聖さん、どうかしたの?」

マリス
「聖、飲まないのか?」


気が付くと、香飛利とマリスが俺の顔を覗き込んでいた。
おっとっと…心の中でフーパと長らく言い合ってたからな。
流石にぼんやりしていた時間が長すぎたか…



「はは、悪いな…ちょっと疲れてたから」
「後、俺は未成年だから酒は飲めない、香飛利も飲むなよ?」

マリス
「何だよ、ふたりともダメな口か?」
「ちぇっ、折角飲み比べ出来ると思ったのに…」


マリスはそう言って大きな杯で酒をグビグビ飲んでいた。
結構強そうだな…まぁ、酒はとりあえず俺はパスだ。
とりあえず水をもらう事にしよう。


香飛利
「野菜と果物ばっかりだけど、これはこれで美味しい〜♪」


香飛利はやっぱり食っていた。
その様子を見て部族の皆はどんちゃん騒ぎ。
俺たちの事はとりあえず、仲間として認めてくれたらしい。
そして俺は考える…この先の事を。
まずは香飛利のレベルアップだ。
ついでにマリスも強くなってもらった方が良いな。
この世界がRPGなら、きっと雑魚敵を倒し続ければ前に進めるはず。
俺は、そう思い水をグビッと一杯飲んで果物を食べる。
確かに美味いな、これはこれで。
さぁ、明日からは本格的にレベル上げだ!



………………………



香飛利
「あう〜」

マリス
「おりゃ!」


私は朝から特訓をしていた。
まずは実力を見ると聖さんが言って、マリスさんと戦わされる。
私は凄く怖かったけど、聖さんの為だと思って頑張ってみた。


香飛利
「う〜やっぱり怖い〜」

マリス
「あ、こら空に逃げるな!」


「香飛利! それじゃマリスの特訓にならん!!」


聖さんに言われ、私は渋々地上に戻る。
怖い物はやっぱり怖い…
でも、やらなきゃ怒られる…



「香飛利の方がとりあえず強いんだから、何とか頑張ってくれ」
「とにかく雑魚戦はともかく、こういう時は相手に合わせてやってくれ」


私はとりあえず涙目になりながら頑張る。
マリスさんはとりあえずそんなに速くないので私は地上スレスレで飛行し、攻撃を回避し続けた。



………………………



マリス
「だーーー!! 当たらん!!」


「見事に扇風機だな…」

香飛利
「…スカイロトムだったの?」


「合ってるが違う! 振り回すだけが取り柄のパワーファイターにしばしば付けられるアダ名だ」


成る程、確かにマリスさんは両腕をぶんぶん振り回すだけで、全く私には当たらなかった。
風切り音は凄かったから、そういう意味でも扇風機なのかもしれない。



「とりあえず、香飛利に自信を付けさせる意味もあったんだが、見事に低レベルを露呈したな」

マリス
「しゃあないじゃん! 狩りもロクに出来ないんだから!!」


「偉そうに言うな…まぁ、とにかくお前はその爪を捨てろっ」
「折角の特徴がほとんどスポイルされとるわ…」


聖さんがそう言うと、マリスさんは爪を全て外す。
石で出来ていると言っていたので、相当重かった思うけど…



「後は自分の爪で引っ掻いたりしてみろ…仮にもポケモンなんだから」

マリス
「うっし、こうか!?」


マリスさんはビュンビュン!と軽快に腕を振るう。
間違いなく当たれば痛いと断言出来た。



「そうそう、他にもザングースならではの技とかあるだろうし、その辺はレベル上げて覚えるしかないな」


とりあえず、特訓はここまで。
ここからは、狩りの時間だ。



………………………



マリス
「っしゃあ!」

香飛利
「えい〜…」


マリスさんはサバンナを駆け、獲物を追いかける。
私は誘導されたそれに向かってエアカッターを投げつけた。
すると、獲物は見事に切り裂かれて倒れる。



「良いぞふたりとも! そのコンビネーションを忘れるなよ?」


倒された鹿?はナマケロさんたちが回収していく。
部族の食料を確保するにはもう少し必要だ。


香飛利
「まだ獲物いる?」

マリス
「この辺から逃げたっぽいな…でも、何か静かな気がする」


「どうかしたのか?」


マリスさんは鼻をふんふんと鳴らし、周囲を見渡していた。
すると何かを見つけたのか、マリスさんはひとりで駆け出して行く。
私たちもそれを追い、マリスさんが立ち止まるのを待った。



………………………



マリス
「あった! 死体だ…」

香飛利
「う〜? でも臭いが酷い…」


「何だこれ…? まるで腐食させた様な臭いだが…」

マリス
「触るな! 毒が移るぞ?」


言われて聖さんはゲッ!?と言って後ずさる。
マリスさんは平気なのか、ナマケロさんの死体を軽く見回し、そして再び周囲を見渡す。
そして今度は舌打ちし、すぐに走り始めた。



「おい、今度はどこに!?」

マリス
「敵の臭いだ! 多分他にも仲間が襲われる!!」


それを聞いて聖さんはギョッとなり、すぐに後を追う。
とはいえ、マリスさんの足は流石に聖さんよりも速く、とても追い付けそうになかった。


香飛利
「聖さん、運ぶ〜」


「悪い香飛利! 頼むぞ!」


私はあい〜と返事をし、聖さんを抱き抱えて空を飛んだ。
そんなに高度は上げず、低空飛行でマリスさんを追う。
そして、そのまま10分程移動すると、何かの集団を見つけた。



「何だありゃ? 蛇…って蛇人間!?」

香飛利
「ラミア〜」


前方に見えたのは、下半身が黒い蛇の集団。
上半身は褐色の人肌で、ほとんどは男。
その中の内、たったひとりだけが女性で、妙に威圧感があった。


マリス
「ハブネークの野郎、ぶっ殺してやる!!」


「ハブネーク…? 成る程な、因縁って訳か!」

香飛利
「とりあえずどうするの?」


私が聞くと、聖さんは少し考える。
マリスさんは既に頭に血が上っており、言う事を聞きそうにない。
相手は5人組で、女性以外は全員石の矢じりが付いた槍を持っていた。



「話し合いは出来そうもないな…よし香飛利! 熱風で敵だけを攻撃だ!!」

香飛利
「あい〜」


私はその場で急停止し、熱風を放つ。
マリスさんは気配を察知したのか一旦止まり、その間にハブネークの集団は一気に熱に焼かれた。


ハブネーク女
「…くっ!? 何だあの鳥ポケモンは!?」

ハブネーク男A
「3人やられました! ダメージは甚大です!!」

マリス
「ざけんなコラァ!!」


マリスさんは自身の爪を持ってハブネーク男の残りふたりを切り裂く。
その鋭さは特訓の甲斐もあったのか、一撃で首をかっさばいた。
そしてそのまま残りのハブネーク女に目標を定める。
だがハブネーク女は笑い、口を膨らませて何かを吐き出す体勢に入った。


ハブネーク女
「かっ!!」

マリス
「ちっ!!」


マリスさんはギリギリ回避してみせる。
マリスさんの後方に着弾した何かは地面を少し溶かし、キツイ臭いを放っていた。



「『胃液』か…! って事は、アイツ結構なレベルなんじゃ!?」

香飛利
「う〜臭い〜」


マリスさんは距離を離され、ハブネーク女は笑う。
そのままハブネーク女は体を大きく振り回し、長い尻尾でマリスさんの射程外から攻撃を放った。
尻尾の先端には独特の切っ先が着いており、そこから紫のオーラが見えている。
マリスさんは反応するも、その切っ先で頬を掠めた。


マリス
「!?」

ハブネーク女
「はっ! 相変わらず弱いねぇ!!」


ハブネーク女はマリスさんを嘲笑う。
部下を全て失ったにも関わらず、ハブネーク女は不適に笑っている。
それは、絶対的な自信の様だった。


マリス
「クソが…! 今日こそテメェを倒してザングースの一族を復興してやる!!」

ハブネーク女
「アハハッ! アンタみたいな弱者がよく言うよ!!」
「ザングースの落ちこぼれが、デカイ口を叩くな!!」


ハブネーク女の言葉にマリスさんは言葉を詰まらせる。
相当悔しいのか、マリスさんは震えながらハブネーク女を睨んでいた。



「…ザングースたちは、ハブネークに部族を滅ぼされたのか?」

香飛利
「…でも、マリスさんは生きてる」


思えば不思議ではあった。
マリスさんは部族のリーダーなのに、他のザングースはひとりもいない。
ハブネーク女は他のハブネークを従えていたのに、だ。
それはつまり、マリスさんはハブネークに敗北した…?


マリス
「るせぇ!! 今日こそはお前を倒す!!」
「仲間の仇は、今日ここで討ってやる!!」


マリスさんは完全に我を失っていた。
仲間の仇の為に、マリスさんは全力で戦おうとしている。
ハブネーク女はそれを見て笑っている…完全にしてやったりの顔だ。



「マリス!! 相手の挑発に乗るな!!」
「香飛利、ハブネークにエアカッターだ!!」


私は指示を受けてすぐに翼をはためかせて風の刃を作る。
手で作るそれよりも威力は高い。
運良く急所に当たれば、儲け物だけど…


ヒュンヒュン!!


ハブネーク女
「ちっ!?」


ハブネーク女はすかさず反応してエアカッターを回避する。
そして憎らしそうにこちらを見て顔を歪めた。


ハブネーク女
「…空中で遠距離から攻撃出来る仲間とは、良い人材を見つけたねぇ〜」
「いくら私でも、あの高度には攻撃出来ない」
「ありゃ何モンだい? どこで見付けた?」

マリス
「知るかっ! テメェを倒せるならどうでも良い!!」


マリスさんはエアカッターで体勢を崩したハブネーク女に近づいて爪を振るう。
だけど、ハブネーク女はそれを容易く片手で受け止めた。


ハブネーク女
「少しは強くなったみたいだけど、まだまだ弱い!!」
「その程度で私に復讐するつもりかい!?」

マリス
「ぐっ!?」


ハブネーク女は爪を受け止めたまま、長い尻尾でマリスさんの首を締める。
マリスさんは苦しそうにもがくも、解けそうには無かった。



「マズイ!? 香飛利、エアカッターで尻尾を狙え!!」

香飛利
「あい〜」


わたしは再びはためいてエアカッターを放つ。
狙いはハブネーク女の尻尾。
当たれば切る事も出来るはずだけど、ハブネーク女はすぐに尻尾を離して回避する。
やっぱり、怖がってる? 私の技を…?


ハブネーク女
「ちっ、こうも邪魔されちゃやってられないねぇ…」
「良いさ、今回は見逃してやるよ!!」
「精々自分の弱さを噛み締めな!! アンタに私は永遠に倒せない!!」


そう言ってハブネーク女は足早に去って行く。
スピードは中々の物で、器用に蛇の体を使って逃げて行った。


マリス
「くそっ、逃がす…」

「止めろマリス!! 今のお前じゃ無理だ!!」


聖さんが強く引き止め、マリスさんは止まる。
そして、マリスさんは悔しそうにその場で震えていた。
勝てないのは自分でも理解している様だ。
だからこそ、聖さんの言葉にちゃんと止まったのだ。



「多分、あのハブネーク女はお前よりも強い」
「追った所で返り討ちに合うのがオチだ」

マリス
「…だけど、それじゃ仇は討てない!!」


「冷静になれって言ってんだ!! 頭に血が上ったお前で何が出来る!?」


聖さんは珍しく言葉を荒らげてマリスさんを叱った。
マリスさんは聖さんの気迫に押されて何も反論出来なかった。
ただ項垂れ、マリスさんは自分の力の無さを悔やんでいる様だった。


マリス
「チクショウ…何で俺はいつも……」


「泣くな! お前だってまだまだ強くなれる!!」
「強くなって、見返してやれ!!」


マリスさんは涙を拭きながら頷く。
マリスさんは、強い…私だったら、きっと泣いて何も出来ない。
聖さんは、やっぱり凄いんだ…こうやって誰かを元気付けられる。
私は、こんなに臆病なのに…



………………………



マリス
「なぁ、本当に俺は勝てるかな?」


「何言ってんだ…勝たなきゃ仇は討てないんだぞ?」


私たちは1度拠点に戻り、得られた食料で食事を取っていた。
全員分には肉は足りないけど、足りない分は果物や野菜で補っている。
私は今日は少し控えめに食べる事にしていた…



「どうした香飛利? 食べなきゃ力出ないぞ?」

香飛利
「…でも、皆がお腹空いてるのに」


「…ははっ、香飛利が食べ物で他人に気をかけるなんてな」


聖さんは優しく笑って私の頭を撫でてくれた。
私は体がぽ〜っとなり、体温が上がるのを感じる。
聖さんは優しい…私みたいなダメなポケモンでもちゃんと誉めてくれる。
私でも…強くなれるのかなぁ〜?



「香飛利は優しい娘だなやっぱり…」
「臆病で泣き虫だけど、それでも優しい」
「だから、香飛利も強くなるんだ…誰かを、ちゃんと守ってあげられる様に」


私は頷く事は出来なかった。
それでも、頑張ってはみようと思う。
聖さんがいるなら、きっと頑張れるから…



………………………



…だけど、その日悲劇は起きる。


パチパチパチパチッ!!


火花をあげ、拠点の家屋が燃えていく。
私たちは完全に眠ってしまっており、いとも容易く夜襲は成功される事となった。


香飛利
「聖さ〜〜ん!! 聖さ〜〜〜ん!!」


火の手に気付いて私は飛び起きてまず聖さんを探した。
私は叫ぶ、でも反応は返って来ない。
どんどん炎は広がるも、私は聖さんの姿を泣きながら探す。
聖さんは別の場所で寝ていた様だったけど、これだけ探して姿が見えないなんて…


香飛利
「うぅ…ひっくっ! …聖さ〜〜〜ん!!」


私の泣き声は空しく響き渡る。
焼け落ちていく拠点の真ん中、焼けつく炎の明かりに照らされながら、私はただひとり朝まで泣き続けた…


香飛利
「………」

マリス
「…お前、ずっとここにいたのか?」


気が付けば朝、私は側に近付いて来たマリスさんの姿を視線だけで見る。
マリスさんはどこかに避難していたのか、傷や火傷等は見当たらなかった。
私は視線を外し、三角座りの状態のまま顔を沈めて震える。
そんな姿を見て、マリスさんは舌打ちした。


マリス
「何やってんだお前は!? こんな所で泣いてて何が出来るんだよ!?」

香飛利
「…ぅぅっ、ひっく、ひっく…!」

マリス
「違うだろ!? 泣くんじゃなくて立つんだよ!!」
「そんなんじゃ、聖は助けられないぞ!?」


私はガバッ!と顔を上げる。
聖さんが…生きてる?


マリス
「ハブネークの野郎たちがここに火を放って聖を連れ去ったんだ!」
「俺はそれを追いかけてたけど、あまりの敵数に邪魔されて振り切られた…」
「んで、お前の姿を探してたらこんな所にいやがって…」


私は手の甲で涙を拭い、ゆっくりと立ち上がる。
まだ、希望は残されていた…聖さんが生きてるなら。


香飛利
「聖さん…助ける……!」

マリス
「あぁ、やってやろうぜ!! 仲間の仇も取るんだ!!」


私たちは共に手を繋ぐ。
そして完全に焼け落ちた拠点から離れ、歩く。
私はふと振り返り、拠点の跡地を見て悲しくなった。
あそこには大勢のナマケロさんたちがいたのに、皆いなくなってしまった。
ナマケロさんたちは、何をするにも鈍臭く、あんな火災の中では全滅してしまったのだ…
私は悲しい風の音を聞いて、ただ祈った。
どうか、安らかに天国へ行けます様に、と…



………………………



マリス
「ほら、これやるから使えよ」

香飛利
「…ナイフ?」


その日の夜、私たちは野宿をする事になった。
私は聖さんに教わった火の起こし方で焚き火を作り、休憩していたのだ。
そして、マリスさんは石を丁寧に削ってナイフを作り、それを私に渡した。
それは刃渡り30p程の物で、結構重い。
何とか振り回せはするけど、切れるんだろうか?


マリス
「まぁ、お前の場合は護身用だよ…接近戦苦手そうだし」
「その分、貴重な遠距離技持ってんだから羨ましいけどな…」


そう言ってマリスさんは革の手袋を身に付けた。
甲の部分には石でガードが付いており、どうやら防御用の様だ。


マリス
「とりあえず、これに仕舞っとけよ」


マリスさんは更に革袋を渡す。
どうやらナイフを入れる為の様で、ベルトまで付いていた。
私はそれを肩に袈裟懸けし、袋にナイフを入れる。
これなら持ち運びも楽ですぐに取り出せる。
マリスさんはそれを確認すると、その場でゴロリと寝転がり、眠る体勢に入った。


マリス
「神経研ぎ澄ましとけよ? いつ何に襲われるか解ったもんじゃねぇからな…」

香飛利
「うぅ…ゆっくり寝たい」


とはいえ、泣き言は本当に言ってられない。
ここは野生の空間なのだから、敵はどこにでもいる。
弱肉強食…私は、いつも弱い立場だった。
でも、もう弱いままじゃいけない。
聖さんを助ける為に、勇気を振り絞らないと…!



………………………



それから数日、私たちはひたすら歩いた。
ハブネークたちの拠点はまだ見つからず、私たちはひたすら野生の動物と戦い、経験を積んで行く。
マリスさんは気が付けば色々な技を覚えていき、私は戦い方の基本を学ぶ。
そして、次第に解り始めてきた…自分の技の使い方と言う物を。


香飛利
「う〜!」


ビュゴゴゴゴゴゴゴッ!!


私は空中でクルリと高速回転し『竜巻』を起こす。
それに巻き込まれた牛は宙へと浮き、身動きが取れなくなる。
竜巻と言っても私が起こすこれはそんなに威力は無い。
あくまでドラゴンタイプの小技なので、こうやって怯ませるのが目的だ。
そして、絶好のタイミングでマリスさんは華麗に宙を舞い、無防備な牛の首を一撃で跳ね飛ばしてみせた。


マリス
「うしっ! これで今日の食料確保!!」


マリスさんは日に日に強くなっていく…
ちょっと前までひとりで狩りも出来なかった人なのに。
やっぱり、聖さんとの出逢いは奇跡を起こすのかもしれない。
マリスさんは何度打ちのめされても挫けなかった。
そしてその度にきっと強くなっていくんだ…



………………………



マリス
「俺な、元々はハブネーク族と互角に戦ってたザングース族の末裔なんだ」

香飛利
「族…?」


マリスさんはコクリと頷く。
その日の夜、私たちは牛肉を焼いて食事を取っていた。
その最中、唐突にマリスさんは語りだしたのだ。


マリス
「俺は当時から弱っちくて、よく苛められて泣いてたんだ…」

香飛利
「え…?」


このマリスさんが、苛められて?
どう考えたってイメージに合わない。
豪快な性格で、変にドジで、闘争本能丸出しのマリスさんが…?


マリス
「一族の大人は皆強かった…それこそ、ハブネークたち相手にも劣らない戦士たちだった」
「でも、ある日悲劇は起きたんだ…」

香飛利
「…悲劇?」

マリス
「ハブネークたちは、夜襲を仕掛けてザングース族の村を滅ぼした」
「それまで正々堂々と勝負してきたハブネークが、急に卑怯な手を使って来たんだ」


つまり、寝込みを襲われてマリスさんたちは敗北した…
どうして、急にハブネークたちはそんな行動を取ったんだろう?
少なくともそれまではほぼ互角、互いに拮抗した戦いを続けていたと言う事。
何か、理由があるんだろうか?


マリス
「私は弱いから、その場から逃げる事しか出来なかった」
「ただ泣き叫ぶだけで、強くもなろうとせず、ただ逃げ惑った…」


それは、まるで私の様だった。
私もそうだ…大して力なんか無い。
だからいつも、強いグループに何となく混じって、いつも何となく生きていた。
聖さんたちに出逢うまで、私はただ与えてもらうだけの存在だった…


マリス
「…結局、俺は弱いままだった」
「復讐の事は頭にあっても、勝てる見込みなんか無かった…」
「それでも、強くなる為に大して力も無いナマケロの集団を支配して、それで強くなった気になってた…」
「聖は、俺に教えてくれた…強くなる事の意味を」
「そして、改めて思い出した…ハブネークたちへの復讐を!!」


マリスさんは、いつになく怖い顔で決意を固めていた。
私はそれを見て逆に悲しくなる。
憎しみなんて、嫌だ…
誰かを憎む位なら、私は信じたい…


香飛利
「…私は、聖さんを助けたい」

マリス
「良いじゃないか、私はハブネークを倒したい」
「一応利害は一致してるんだ、なら手を組んで目的を果たそう」

香飛利
「でも、それじゃあマリスさんは聖さんに嫌われる…」


私の言葉にマリスさんは目を見開いて呆然としていた。
意味は解ってない顔だ、私は恐る恐るながらもこう付け足す。


香飛利
「聖さんは、誰かを憎んだりしない…」
「辛い事なのは解るけど、それでも誰かを憎んだら、自分がきっと憎まれる…」

マリス
「…だけど、私はハブネークを許せない」

香飛利
「でも、ハブネークを殺したら、今度はマリスさんがハブネークに恨まれるんだよ?」


マリスさんは顔を俯けて黙ってしまった。
きっと解っているはず、マリスさんは私と同じだもの。
私は争いたくないから、いつも逃げて誰かに与えてもらっていた。
マリスさんも、弱いから誰かに頼って生き延びて来た。
私たちは、互いに似た様な生き方をしている。
だったら、マリスさんには私の気持ちも解るはずだ…


マリス
「ハブネークを、許せって言うのか?」

香飛利
「違うよ…そうじゃない」


私は首を横に振って否定する。
マリスさんの思いも解る、だから単に許すとかそういうのじゃない。


香飛利
「…戦っても良い、でも相手を憎まないで」

マリス
「何だって…? どういう意味だよそりゃ?」


私にも、上手くは説明出来ない。
でも、きっと聖さんならそう言う。
聖さんは、憎しみでは戦わない…例え、仇の相手でも。


香飛利
「聖さんを見たなら、きっと解るよ…」
「だから、憎まないで…」

マリス
「意味が、解かんねぇよ…でも、お前がそこまで言うなら、考えてみる」
「お前は、俺よりも強いもんな…」


強い…の? 私が…?
私には全く理解出来なかった。
私は1度たりとも自分が強いと思った事は無い。
だからいつも逃げて、泣いて何かにすがっていた。
でも、今は聖さんを助けたい…私は、強くなったの?
聖さんは、誉めてくれる?
私は、頭を撫でてくれる聖さんの手の温かさを思い出す。
そして、次第に涙する。
私は、聖さんを助けたい…でも争いたくない。
戦わなければならないの? 私は、強いの?
聖さんがいたら、何て言ってくれるんだろう?
頑張れっ、て…背中を押してくれるのかな?
きっと、笑って言ってくれる気がした。
そして、臆病な私でもその時は強くなれる気がした。
だから、頑張ろう…


香飛利
(聖さんを、助ける為に…)



………………………




「さしづめ、囚われの王子様ってか?」

ハブネーク女
「まぁ、気の毒だがな…」


俺はどこかの洞窟に連れ込まれ、穴蔵に監禁されていた。
牢屋の様な類いでは無く、俺の手足は岩壁に蔦の様な物で縛り付けられている。
かなり頑丈に作られている様で、俺の力ではとても千切れる代物じゃなかった。
ハブネーク女は俺を見下ろして妖艶に笑う。

改めて見ると、美人だな…
腰の下まで伸びる紫の長髪ストレート、釣り眼かつ細目の瞳は妖艶で大人の魅力を感じる。
服は黒の布巻を胸と腰に巻いてるだけ。
ぶっちゃけ下半身蛇じゃなきゃエロさは満点だ。


ハブネーク女
「お前は予言にあった異端者だ、後に我々の為に生け贄となり、我々は神の恩恵を授かる…だそうだ」


「生贄…だと?」


「その通り…お前は存在してはならぬ異端者よ」


ハブネーク女の背後から歩み寄って来たのは、何やら布の紫ローブを身に纏った老人だった。
白い前髪は目の上を覆っており、頬骨はやや痩せこけていた。
右手には緑の扇子?みたいな物を持っており、それは葉っぱで出来ているみたいだ。
腰は曲がっており、歩くのもしんどそうな感じだな…


老人
「この世界に人間という者は存在しない、故にお前は予言にあった異端者だと断定出来る」


「…俺以外に、人間が来てたという可能性は無いのか?」

老人
「その可能性は否定出来ない、だが予言では現れるのはひとり」
「私は予言を受け、7の月と15の日が過ぎた時、人間と呼ばれる異端者が現れると突如知らされた…」
「我らと同じポケモンではない、人間と呼ばれる生き物」
「それは、この世界に破滅をもたらし、やがて我々を滅ぼすとされる…」


何てこった…そこまでデタラメ言われるとは思わなかった。
何の根拠があって俺がそこまで恐れられる?



(…雫の暴走を示唆してるのか?)

フーパ
『それはあくまでシナリオだよ、そいつ等は踊らされてるにすぎない』


フーパはそう言って呆れている様だった。
つまりはこのシナリオもゲームの一環に過ぎない…
逆に言えば、俺はそのシナリオに沿って流されるしかないって事か。


ハブネーク女
「まぁ、もったいないけどねぇ〜折角の良い男だってのに…」
「なぁ、殺す前に種位もらっちまっても良いだろ?」


この場合の種とは、もしかしなくても子種の事でしょうか?
色々とマズそうな展開になってきたな…


フーパ
『…少し、期待してんだろ?』


「するかっ! 俺は不沈艦だ!!」


俺はつい叫んでしまった。
ハブネーク女と老人は?を浮かべている。
いかんいかん…少しは冷静ならねば。
老人は息を吐いて気を取り直し、こう言う。


老人
「いかんぞ長? この人間とやらの種など残すべきではない」
「ましてや、どの様な異形の子が産まれるかも解らぬ、お前とて種を脅かす可能性は望まぬだろう?」


ハブネーク女は長と呼ばれていた。
成る程…って事はこのハブネーク女がハブネークたちのトップって事だ。
しかしこの老人は何モンだ? 見た感じ類人猿系に見えるがナマケロ系列じゃないな…
俺は見た目の特徴から予想する…そして、割とすぐに答えは出て来た。



(ヤレユータンか…賢者ポケモンと言われるだけありそうだな)

フーパ
『正解、流石にポケモンに関しては詳しいな』


あくまで自称ライトプレイヤーだがな…
それに守連たちに出逢ってからはゲーム起動してないしな。
まぁ、それでもネットとかで知識は得てる。
現実のゲーム内設定ってのは、案外人化したポケモンたちにとっても重要な要素になる。


フーパ
『とりあえず、生贄イベントは避けられない』
『今は流れに身を任せれば良いさ…どの道、君は絶対に死なないんだから』


『!? どういう意味だ?』

フーパ
『簡単な事だよ、君はゲームにとってはクリアアイテムなんだから』
『君が死ねば、ゲームはクリア不能のクソゲーと化す』
『それはゲームデザイナーからしたらただの失敗作だ』
『だから、製作者が君を必須アイテムに設定してる時点で、君は何があっても死なない…』
『ただし、痛みや絶望は味わうかもしれないけどね…』


フーパはククク…と笑い、恐怖を煽ろうとする。
だが、俺は逆に落ち着いてしまう。
それならそれで返ってやりやすい。
俺は俺の役目を全うすれば良い…それなら、きっと香飛利が助けてくれる。


ハブネーク長
「…アタシは興味あるけどねぇ、こいつの種で何が産まれるのか?」
「産まれるのは、人間? ハブネーク?」
「それとも、もっと異形の何か?」
「アタシは確かに種の存続は最優先だ、だけど歴史に名を残せるならそれもまた重要な意味を持つ」

ヤレユータン
「よせ、それは予言に無い結果を生む!」
「良いか? 決してその男には手を出すな! これは神の力を授かる為の試練なのだ!!」


そう釘を刺し、ヤレユータンは重たそうな体を動かして去って行った。
ハブネークの長はそれを見てため息を吐き、肩をすくめる。
そして、妖艶な笑みを浮かべて俺の顔を一瞥し背を向けた。
何だ…? あの女、何かを企んでる?


ハブネーク長
「そうそう、言い忘れてた…アタシはぶっちゃけ神の力とか何の興味も無い」
「あるのは種の繁栄と恒久の安心!」


ハブネークの長は俺に背を向けたまま、両手を横に広げてそう宣言する。
そして、首だけをこちらに向け、横目で微笑みこう呟く。


ハブネーク長
「アタシの名は『セヴァ』…もし機会があったら、子を成そう♪」


「………」


セヴァと名乗ったハブネークの長はそれだけ言って去って行った。
やれやれ、これは一層気を引き締めないとな…
後、蛇女の体ってどこを繋げるんだろうか?


フーパ
『そりゃ、あんな体でも突っ込む穴はちゃんとあるって事だ』


「…ですよね」


俺は頭を抱えてため息を吐く。
繋がれた蔦は長さは余裕があり、手足は割と自由ではあったのが幸いでもあった。
しかし…この状態で便所はどうなるのだろうか?
見た所それっぽい器材は見当たらないが…


フーパ
『…まぁ、その辺の端っこでするしかないんじゃないの?』
『ああ、ちなみにアタシの事は気にするなよ?』
『君のピー!なんか見ても欲情しないから♪』


「やかましい! 仮にも小さな女の子が卑猥な言葉を堂々と放つな!!」


まぁ、ピー音で隠してはいたが、この作品で異例の処置だ。
流石に他作品からのゲストにいらん事言わせるのはアレだからな…
これはあくまでゲスト! だから一応少し気を使ってるの!!


フーパ
『まぁ、今更だけどな〜』


「…はぁ、とりあえず寝てよ」


俺はその場で横になりとりあえず眠る事にした。
布団も何も無く、ぶっちゃけかなり寒かった…
やれやれ、生贄とはいえ扱いは最悪だな…



………………………



セヴァ
「やれやれ、全くこんな時に男共は出払ってんのかい?」


アタシはため息を吐き、少々性欲を持て余していた。
いつもならこういう時はイキの良い男とまぐわるもんだけど…
どうやら狩りに全員出ているらしく、残っているのはまだ幼い子供たちばかりだった。


子供A
「ママ〜♪」

子供B
「ママ、また狩りに行くの?」


アタシは笑って近寄って来る、ふたりの子供の頭を撫でてやる。
基本的に、一族の大人の女は長のアタシだけ…
他に大人の女は存在せず、一族の存続はアタシの手に委ねられている。
無論、子供たちには女もいるし、それが育てば新たな長となるだろう。
だけど、予言は既に正確に歴史を彩り始めた。
もう、子供たちが大人になるまで猶予は残されていないらしい…
だからこそ、あの異端者を生贄とし、予言を完遂させて種を守らなければならない。
だけど、アタシは正直予言なんて信じていない。
ヤレユータンの『オラングル』はバカみたいに信望してるけど、それが何だと言うのか…
確かに、予言通りに今は進んでいる。
だけど、あの少年が本当に世界を滅ぼす様な存在なのだろうか?
アタシには、何か裏がある気がしてならない。


セヴァ
「そうだな、お前たちの食料がいるからな…」


今いる子供たちは総勢10人。
その中で女はひとりだけ…どうにもアタシからは男ばかりが産まれるのは何かの呪いなのかねぇ?
同世代の女も皆死んだ、過去にザングース族を滅ぼそうとした時、戦いには勝ったものの、失った損失も無視は出来なかった…
女の不足…残されたアタシは当時若くして長となり、種の存続の為に子を成す役目が与えられた。
だけど、アタシはあまり良い母体ではないらしく、産まれてくる子供の多くはすぐに病死したり、他の生物に食われたりした。
その為、多くの子を成したにも関わらず、生き延びているのはたったの10人…
奇しくも、この世界を生き抜くにはアタシたちの力は大きくない。
他の一族の連中も、隙あらばアタシたちの拠点を狙ってる。
予言云々ではなく、アタシたちにはこの今を生きると言う現実の方が大問題なのだ。
その為には、低い可能性に賭けてでも、あの異端者の人間に賭けた方が良いのでは?とさえ思っている。


子供A
「頑張ってママ! ママが1番強い!!」

子供B
「アタシも、ママみたいに強い女になるからね!?」


アタシは唯一の娘を抱き締める。
この娘だけは、絶対に守ってみせる…
例えアタシが死んでも、この娘が生きてくれれば種は残る。
だから、アタシは戦う…子供たちの為、種の存続の為。


セヴァ
「じゃあ、行って来るよ…期待して待ってな!」


アタシは特注の石槍を持ち、出撃する。
通常の槍とは違い、全てが石を削り出して作られたそれは、アタシにしか使えない。
その重量は大人の男衆でもまともには扱えないからだ。
だけどアタシはこれを片手で軽く扱える力がある。
故にアタシは長なのだ…長は1番強くなければ長ではない!



………………………



セヴァ
「…ん? 空気が温い?」


アタシはサバンナを進んでいると急に空気が温くなったのを感じた。
そして風を感じて何があったか推測する。
それは、既にアタシが体験した風に似ていた。


セヴァ
(この風、温度…あの鳥ポケモンか!)


間違いなく熱風の後だ。
だけど、地面には焼けた後は無い、地面を焼かずに空気だけを焼いたのか?
だとすると、相手はかなり技の使い方を心得てる可能性が高い。
近くにいるとなると、あの異端者を取り戻しに来ているのか…


セヴァ
(結構な所まで近付いてるねぇ…あれから10日以上は経過してるってのに)


アタシは槍を強く握り締め、周りを見回す。
そしてすぐに目標は見付かった。
アタシは舌打ちする。地上からザングースのバカが走り寄って来ているのだ。
どうやら匂いで感づかれてるな…交戦は避けられないか。
アタシは戦闘体勢に入り、移動を開始する。
ザングースは一足先にこっちに接触する。
鳥ポケモンはやや後方から追いかける形だ、なら先にザングースを瞬殺して一対一に持ち込む!!


マリス
「ついに見付けたぞこのクソッタレがぁ!?」

セヴァ
「はっ! 雑魚がイキがんじゃないよ!?」
「貴様はここで殺してやる! さっさと諦めな!!」


アタシは上段に槍を振り上げ、ザングースの射程外から脳天を狙う。
この槍は全てが石材だ、先端以外が当たっても脳ミソはぶちまけられる!
アタシは速度を見定め、正確に打ち下ろす。
だが、その先端は地面を抉るだけだった。
ザングースは一瞬で横に身を捻り、槍を回避したのだ。


セヴァ
「バカなっ!?」

マリス
「テメェの槍はもう『見切れる』ぜ!? 今度はテメェが地面を這いつくばる番だ!!」


ザングースは調子に乗って爪を構える。
いつもの馬鹿げた石爪ではない、己の爪でアタシの首を狙っている。
スピードはかなり上がっている、この短期間で何故こうも強くなれる!?
アタシは上体を後ろに反らし、ザングースの爪を交わして左手を地面に着けた。
その体勢でアタシは尻尾を振り回し、ザングースの首に『ポイズンテール』を放つ。
ザングースは首を捻り、頬を掠めるにとどめる。
そして、その頬から毒が入り、奴はこちらを睨む。
アタシはマズイ…と思った。
奴の特性は、ザングース一族でも特に珍しい『毒暴走』!
下手に毒を浴びればパワーは倍増する!


マリス
「あああっ!!」

セヴァ
「ざけんじゃないよぉ!!」


アタシはすぐに口から胃液を吐く。
だが、それは着弾前に空中で打ち落とされる。
あの鳥ポケモンだ、風で胃液を吹き飛ばされた!
ザングースはその瞬間に間を詰める、アタシはすぐに体勢を立て直し、槍を横凪ぎに振るった。
だが、アタシはその瞬間戦慄する。


バシィィィッ!!


セヴァ
「なっ!?」

マリス
「こんなモンかよハブネーク!? パワーもスピードもアタシの方が今は上だ!!」


悪夢だった…パワー負けする等。
アタシは絶対の自信を持っていた腕力を、よりにもよってあの雑魚ザングースに止められたのだ。
そして、同時に恐怖が生まれる。
絶対にコイツらを拠点に近付けてはならない。
子供たちを危険に晒すわけにはいかない!
一族はアタシが守らなきゃならない!!


セヴァ
「図に乗るな雑魚が!! 貴様なんぞにアタシが負けるわけがない!!」
「アタシは一族の長だ!! ただの一介のザングースとは違うんだ!!」


アタシは叫び、魂を奮い立たせる。
決して屈してはならない、諦めてはならない、恐怖してはならない。
アタシの背中には、愛する子供たちの命が乗っている。
決して、こんな粗暴なだけのザングースを近付けさせるわけにはいかない!


セヴァ
「くたばれ雑魚が!! 例え死んでも貴様はここで殺す!!」

マリス
「くっ…! パワーを上げてきただと…!?」

アタシは捕まれた槍に力を込め、ザングースの腕を振り飛ばす。
ザングースは体勢を崩し、アタシは振り抜いた槍を地面に差して、それを軸に体を回転させ、尻尾でザングースの顔面を頭上から振り下ろした。


ズゥゥゥゥゥン!!


マリス
「ぐうぅ!!」

セヴァ
「おのれ…! これでも止めるか!!」


ザングースは両腕を交差させ尻尾を受け止めていた。
だが地面に背中から叩きつけられ、ダメージはそれ程軽減出来ていない
ザングースは口から血を滲ませ、歯を食い縛って耐えてみせていた。
アタシはそのままザングースの首に尻尾を巻き付け、締め落としに入ろうとする。
だが、またしても空気の流れを感じた。
アタシはすぐに察して槍を片手で振る、そして空中で空気が爆ぜる。
アタシの槍は見事に鳥ポケモンの技を相殺したのだ。


セヴァ
「邪魔をするな鳥女!!」
「コイツを殺してから貴様はゆっくり…」

マリス
「があぁっ!!」


アタシは尻尾に激痛を感じた。
見ると、ザングースはアタシの尻尾に噛みついていたのだ。
無論、技としての行動ではない。
ザングースはただのヤケクソでそうしていたのだ。
だが、ザングースの牙とて肉食獣のそれ、アタシは痛みに耐えれず、尻尾を離してしまった。


セヴァ
「おのれぇ…よくも!!」

マリス
「舐めるなぁ!!」


ザングースはすぐに反撃して来る。
俊足を生かし、間合いはすぐに接近戦となる。
ザングースの顔は青くなり始めている、毒が回っているのだから当然だ。
いくら特性でパワーが上昇しているとはいえ、ダメージはあるのだ。
長期戦になれば自ずとこちらに有利となる、ならば殺せずとも生き残れば勝つのはアタシだ!!


セヴァ
「ちぃぃっ!?」


ザングースの爪は鋭くアタシの頬を切り裂く。
頬に爪痕が走り、アタシは熱を持って出血したのを理解した。
だが、そんな痛みに怯むわけにはいかない、ザングースは連続で切り裂いて来る。
接近戦では、流石に分が悪いと言えるか…よくもここまで強くなれたものだ!
だが事戦いに置いて、経験が違うという事がどれ程の意味を持つかを教えてやる!!


マリス
「うああぁっ!!」

セヴァ
「これならどうだ!?」


アタシはあえて相手に突っ込み、体ごとぶつかって『連続切り』を止める。
体重はアタシの方が数段重い、ザングースは重量を支え切れずに地面へとマウントされた。
アタシはすぐに口から胃液を吐き、至近距離でザングースの顔面を胃液まみれにした。


マリス
「ぐあああぁっ!?」

セヴァ
「クククッ! 直接ダメージは少なくとも、多少は溶解性がある、そしてこれで貴様の特性は消えた!!」


アタシは勝ちを確信する。
ザングースのパワーは特性ありきの物。
素の力であれば、まだアタシの方が上のはずだ!!
アタシはすぐにそのままザングースを組伏せ、首筋に噛みつこうとする、が…またしても空気の流れを感じ、アタシはその場で転がって難を逃れた。


ズバババッ!!


空気の刃が3発地面に着弾する。
ザングースには当たらない様に、綺麗なカーブを描いて着弾させるとは…!


セヴァ
(やはり、あの鳥女は侮れん、底知れぬ何かを感じる…)


鳥女はやや高空で羽ばたいており、こちらからの攻撃は到底届かない。
だが、それ故に技を回避するのは難しくない。
ザングースを気遣っているのもバレバレだ、思い切った攻撃を放てないでいる…
さて、どうしたものか…


マリス
「くそ…はぁ…はぁっ!」


ザングースは毒が十分に回り始めている。
もはや体にに力は感じられん、ロクに動く事は出来んだろう。


セヴァ
「ここまでだな、強くなったのは認めてやるが、まだアタシを倒すには経験不足だ」

マリス
「舐め…んなっ! まだ、俺は戦える…!!」


ザングースは顔面蒼白ながらもまだ闘志は捨てていなかった。
そんな状態でもまだ諦めんか…そうまでしてアタシを倒したいのか。


セヴァ
「ふん…一族の仇か、だがここで貴様が息絶えればそれで一族は途絶えるのだぞ?」

マリス
「そんなの…解ってる! だけど、お前を倒さなきゃ…俺は前に進めない!!」


それは、もはやプライドなのだろう。
ザングース族の生き残りで末裔、本来ならば仇など忘れ、種の存続の為に母となれば良いだろうに…


セヴァ
「警告はしてやる、このまま全てを忘れて去るなら見逃してやる」
「だが、それでも進むと言うならば、アタシはハブネークの長として、断固ここで貴様を殺す!」
「アタシと貴様では、背負っている覚悟が違う!!」


アタシは槍をクルクルと回転させ、矢じりを上にして地面に突き刺してそう言った。
堂々たるアタシの姿を前にし、ザングースは足を引きずる様に前に出て来る。
あえて死を望むか…ならば、慈悲はいらぬな。
アタシは無言でザングースを睨み、槍を地面から抜いて構える。
せめて苦しまぬ様、一撃で絶命させてやる!


マリス
「はぁ……はぁ……」


ザングースの目は死にかけている。
もはや毒で感覚も曖昧だろう。
だが、それでもなお歩みは止めないか…


ビュオゥ!!


セヴァ
「!?」

マリス
「……あ?」

香飛利
「もう、止めよう…」


アタシとザングースの間に、空気を切り裂いて空中から降りて来たのは鳥女だった。
鳥女は悲しい瞳でザングースを見て、その体を抱き止める。
ザングースは緊張の糸が切れたのか、そのまま鳥女に抱き止められて気絶した様だった。


香飛利
「もう、眠って…そうしたら、きっとまだ戦えるから」

セヴァ
「…貴様は、何者だ? あの人間の何だ?」

香飛利
「家族、です…大切な」


その言葉は、ことのほか重く感じた。
家族、か…しかし、それはつまり。


セヴァ
「貴様の旦那だったか…それならば気の毒な事だ」

香飛利
「ち、違う〜…よく解らないけど、多分違う〜」


泣きそうな顔で否定された。
何なんだこの女…そもそも何ポケモンなんだ?
鳥なのは解るが、あまり見ないタイプに見えるが…


セヴァ
「とりあえず、貴様は何のポケモンだ?」

香飛利
「えと、オニドリル…です〜」


オニドリル…?
オニドリルって、あのオニドリル、か?
オニスズメの進化系で、その辺にもゴロゴロいる様な雑種?
少なくとも服装から何までオニドリルには見えない。
だが、翼は確かに言われればそう見えるな…


セヴァ
「…オニドリル、ねぇ」
「にしたって、熱風放ったりエアカッター使ったりとか、そんなオニドリルは聞いた事無いねぇ〜?」


アタシがそう言うと、オニドリルはう〜と唸って悩んでいた。
どうやら、オツムの方は足りないらしい…
自分の事をよく理解出来ていないのか?


香飛利
「私は、誰かの技を見て覚えたから…」

セヴァ
「オウム返しか? だが、それならその時でしか使えないはずだが…」


コイツはつまり、見ただけで技を習得したという事か?
だとしたら、潜在的なセンスは相当だな…自分で理解出来ていない天然だが、理解すれば恐ろしい才能を発揮するかもしれん。


セヴァ
「…とりあえず、貴様はどうする?」
「あの人間を取り戻したいなら、アタシを倒す他無いぞ?」

香飛利
「聖さんを、返して〜」


オニドリルはただ泣いていた。
アタシは困惑する、何故ここで泣く?
少なくとも、この少女は強い…ザングースと比べても、戦って勝つ力はあるはすだ。
なのに、何故泣いてすがる?
戦って勝ち取るという意志は無いのか?


セヴァ
「…わざわざ自分で拐った相手をみすみす返すと思うのか?」

香飛利
「うぅ…思わない、です」


アタシは益々困惑する。
一体、この少女は何を期待しているんだ?
アタシには一切このオニドリルの考えが読めなかった。
あくまで天然、何の考えもある様には感じない。
強いて言うなら、アタシが頷く事にでも期待していたのか?
だとしたら、甘いを通り越して馬鹿馬鹿しい。
普通に考えてあり得ない考え方だ…何故こんなバカが今まで生きて来れた?
アタシはもうどうでも良くなって構えを解く。
コイツには敵対意志は無い、警戒するのが馬鹿馬鹿しい。


セヴァ
「…貴様は話にならない、そんな考え方が通用する訳がないだろう」
「人間を助けたいなら覚悟を決めろ…アタシを殺してでも奪う覚悟をな!!」


アタシはそれだけ言って背を向け去って行く。
それを見て、オニドリルは唸りながらザングースを抱えて付いて来た。
アタシは鬱陶しくなり、振り替えってこう言う。


セヴァ
「バカか貴様は!? 追うなら殺すと言ったはずだ!!」

香飛利
「あぅ…でも、聖さん助けたい…!」


ダメだ…もう我慢ならん!
アタシは槍を構え、オニドリルを狙う。
その気迫を察してか、オニドリルは顔を泣きそうな顔にし、まるで命乞いをするかの様な顔で何かを無言で訴えていた。
子供だ…コイツは正真正銘の。
その顔が、アタシには攻撃を躊躇わせる。
アタシだって母親だ、子供には愛情がある。
こんな、敵意も悪意も無い、無邪気な子供を殺すのは、戦士の恥だ。
アタシは、警告した。
それでもコイツは追って来た…なのに、コイツはまるで闘志が無い。
アタシが槍を構えても、ただ恐怖して震えるだけ…
戦う力はあるのに、戦おうとしない…


セヴァ
「今すぐ決めろ、追うのを止めて生きるか、追って死ぬか」

香飛利
「どっちも嫌です〜」
「聖さんは助けたい、でも私は死にたくない…」

セヴァ
「そんな物はただのワガママだろうが!! 大人を舐めてるのか!?」
「これが最後通告だ! 後5秒以内に消えろ!!」
「さもなくば問答無用で殺す!!」
「5!! 4!! 3!!」


アタシのカウントにオニドリルはビクッと体を震わせる。
そして、涙を流して恐怖していた。
アタシは構わずカウントを進め、そして5秒数え終わる。
アタシは槍を大きく振りかぶり、それをオニドリルの胸めがけて投げつけた。
槍は真っ直ぐに標的に向かい、1秒以内にオニドリルの胸を貫くだろう。
アタシは空しくなった…そしてこれがこの世界の掟だと納得した。
あんな子供でも、追って来るなら容赦は出来ない。
こっちにだって子供たちの命を背負ってる、決して曲げる事は出来ない。
だが、アタシは次の瞬間、信じられない事に直面した…


香飛利
「ぅぅ……バカーーーーー!!!」


その言葉と共に、槍は吹き飛び、アタシは衝撃で吹っ飛ばされる。
凄まじい音波にアタシは脳を揺さぶられ、意識を失ったのだ。
そして、瞬間で理解した…この少女は、勝とうと思えばいつでも勝てたのだと。
温情をかけられていたのは、アタシの方だった…
アイツは、死ぬのが嫌だから戦わなかったんじゃない…
殺すのが嫌だから、戦わなかったんだ……



………………………



セヴァ
「……?」

香飛利
「あぅ…目が覚めた…?」


時刻はもう夜中。
日は沈み、動物たちも寝静まり、私は薪を炊いて夜営の準備をしていた。
草で作った簡易のベッドに、マリスさんとハブネークさんを隣り合わせに寝かせており、ハブネークさんは先に目覚めて体を起こした。
そして周囲を確認し、頭を抱える。
まだ何が起こったのかは理解してないのかも…


セヴァ
「…何故生きてる? アタシは負けたんだろ?」

香飛利
「………」


私は何も答えられなかった。
私には、この人を殺す事なんて出来ないのだから…
結局、私はふたりを助ける事を優先した。
聖さんの事は1番大事だけど、それでもこのふたりを見捨てる事は私には出来なかった。
きっと、聖さんならそうするから…


セヴァ
「…はっ、笑い話だねぇ」
「アタシを殺さないでどうする? 今度は貴様の寝込みを襲うかもしれないんだぞ?」

香飛利
「でも、死んだら、ダメ…」


私はか細い声でそう呟く。
そして、自分の力で狩った獲物の肉をしっかりと焼き、木の枝に刺してそれをハブネークさんの所に持って行った。
ハブネークさんは無言でそれを受け取り、複雑そうな顔をしている。


セヴァ
「本当に、バカだよ…」

香飛利
「…バカでも、良い」
「聖さんも、そうだから…」


私がそう言うと、ハブネークさんは小さく笑う。
余程私の答えがおかしかったのか、肩を震わせて笑っていた。
そして無言で肉を食い始め、私は次の肉を用意した。
それからは特に会話も無く、私はハブネークさんと一緒に食事を取る。
ハブネークさんは何ひとつ文句も言わず、私が焼いた肉と生野菜を食べてくれた。
それからはすぐに就寝する、マリスさんは結局朝まで起きる事は無かった…



………………………



香飛利
「…あぅ」


私は朝になって目覚める。
そしてすぐに周囲を確認し、ふたりを見るが…


香飛利
「…ハブネークさん、いない」


気が付くと、草のベッドにはハブネークさんの姿が無かった。
マリスさんは起きていたのか、ベッドの上に座ってボーッとしている。
顔色はすっかり良くなり、毒が抜けたのが解った。
とりあえず…狩りに行かないと。


香飛利
「マリスさん、動ける?」

マリス
「…あぁ、何とかな」
「ところで…何で、ベッドが3つあるんだ?」


私はマリスさんが気を失った後の事を説明する。
すると、マリスさんは呆れた様な顔をしてため息を吐いた。


マリス
「…バカだな、お前」

香飛利
「うぅ…マリスさんにまで言われた」
「でも、良いですもん…バカだから」


私が涙目にそう言うと、マリスさんはハハハと軽く笑った。
そして、フラフラと立ち上がってこう言う。


マリス
「行こうぜ…聖、助けるんだろ?」

香飛利
「うん…でも、マリスさんお腹空いてない?」

マリス
「まぁ、空いてるけど…あんまりグズグズしてもいられないだろ?」
「もう、10日以上は経ってるんだ…何が起こっているのかも解らないし」


「いや、食事を取ってから行け…」


ドスンッ!!と大きな音を立てて牛を地面に下ろしたのはハブネークさんだった。
どうやら、ひとりで先に狩りに言っていた様で、右手には石の槍を持っている。
あれは確か重すぎて持って来れなかったから諦めた奴だ。
改めてそれを片手で扱うハブネークさんは凄い力だな…


マリス
「な、何でお前が…?」

セヴァ
「さぁな、バカが移ったんだろ?」
「アタシは敗北者だ…だから生かすも殺すも勝者の判断だ」
「好きにすれば良いさ…ただ、殺すのはアタシだけにしてくれ」
「どうか…アタシの子供たちだけは、手をかけないでくれ…」


ハブネークさんはそう言って土下座し、懇願する。
その姿はまるで、獲物を献上して命乞いをする弱者の様にも見えた。
だけど、この人は決して弱者じゃない。
ただ、この人も大事な人の為に戦っていたんだ…


香飛利
「…皆、生きる為に戦ってる」

マリス
「…そうだな」

セヴァ
「………」


私は土下座し続けるハブネークさんの側に歩き、屈んで手を差し伸べる。
そして私は約束した。


香飛利
「大丈夫、です…」
「私は、誰も殺したくないから…」

セヴァ
「…すまない、恩に着る」


ハブネークさんは私の手を取って泣いていた。
この人はただ子供を大切に想う母親だった。
私にはよく解らないけど、それでもそれはとても尊い事だと思える。
私はハブネークさんと手を繋いだまま、ハブネークさんを立ち上がらせ、そしてマリスさんの側まで連れて行く。


マリス
「…香飛利?」

香飛利
「握、手…仲直りの」


私はふたりの手をやや強引に取り、握手をさせる。
これまで、戦う事しか出来なかったふたり。
でも、今はきっと仲良く出来ると思った。
きっと…きっと、仲良く…出来る。


マリス
「…もう良いよ、復讐も仇も馬鹿馬鹿しくなった」
「お前だって、家族を守る為に必至だったんだな…」

セヴァ
「…そうだ、アタシにとって子供は命よりも大事な宝だ」
「種の存続としても、一族にはもう女は小さな娘がひとりだけ…」
「アタシは長として、母としてそれを守り、育てなければならない」

マリス
「良いよな、そう言うの…私にもなれるかな?」

セヴァ
「なれるだろうさ、ただ…別の種と交わる形になるだろうがな」
「何なら活きの良い男をくれてやろうか? まぁ、最初は大変かもしれんが…」

マリス
「い、いやまだ良いよ…何か怖いし」


ふたりはそんな会話をして笑っていた。
良かった、もうふたりは争わなくて良い。
これからは、きっと手を取り合って生きていける。
これで、良いんですよね…聖さん?



………………………



マリス
「生贄、ねぇ…」

セヴァ
「詳細は解らん、だが何かが起こるのは確かな様だ」
「アタシが裏切る事まで予言に入っているのかは知らないが、想定外かどうかは微妙だろうな」

マリス
「だったら、ハブネーク族その物が危険に晒されるんじゃ…!?」

香飛利
「急ごう…! セヴァさんの子供、助けないと!!」


私たちは徐々に危機感を感じ始める。
セヴァさんの案内で拠点に向かい、私たちは聖さんとセヴァさんの子供を救出に向かった…



………………………



セヴァ
「…皆、帰ったぞ!?」

マリス
「…反応が、無い?」


セヴァさんはすぐに奥に入って行く。
拠点は広い洞窟になっており、地下に向かって道が続いていた。
私はマリスさんと一緒にセヴァさんを追う。
セヴァさんは悲しい叫びをあげながら仲間や子供たちを探していた。



………………………



セヴァ
「…そんな、誰もいない」

マリス
「聖の姿も見えねぇ…どうなってんだ?」

香飛利
「…どうして?」


私の頭では何が起こっているのかがまるで解らない。
ただ、ここにいたはずの住民は誰ひとりおらず、完全に無人となっていた。
まるで、一斉に逃げ出したかの様な…?


マリス
「…この臭い、微かに聖のだ」

香飛利
「解るんですか?」


マリスさんはやや自信が無さそうだけど頷く。
そして、今はその鼻に賭けるしか手は無さそうだった。


セヴァ
「ならば行くぞ! もはや猶予が無いかもしれん」
「既に生贄の準備をしている可能性が高い…仲間も、オラングルに付いて行ったか」

マリス
「よし! とりあえず臭いの方向に向かうぜ!!」

香飛利
「あぅ…聖さん」


私たちはすぐに移動を開始する。
マリスさんは臭いを頼りに走り、私は空中から周囲を見渡す。
セヴァさんはマリスさんの背後から追い、左右に目を光らせていた。
だけど、その日は結局何も見付からず、私たちは夜営を張る事になった…



………………………



マリス
「くっそ、臭いが解らなくなってる…!」

セヴァ
「雨が降ったからな…夜中だけとはいえ、臭いは完全に流されたか」

香飛利
「うぅ…どうするの?」

セヴァ
「…ある程度方角は解ってる、このまま行けば渓谷に辿り着くはずだが」
「道中には神聖な山もある、このどちらかの可能性は高いだろう」


だったらまずは近い方を調べたいけど…
もし違ってたら、多大なロスを晒す事になる。
どうすれば良いんだろう?


マリス
「…俺は渓谷に行く、可能性はそっちのが高い気がする」

セヴァ
「ふむ…だが山の方も曰く付きだ、オラングルの信望さも含めると何かある気はする」

香飛利
「どうするの? 私にはよく解らないです〜」


ふたりは少し悩む。
どちらにも可能性はあるとはいえ、ここで意見が割れるのは得策じゃない気がした。


セヴァ
「香飛利、貴様はひとりで山に向かえ」
「そして、何も無ければ飛んで渓谷まで急行しろ」
「飛行タイプの貴様なら、一足先に向かってすぐに戻っても来れる」
「だが、もしオラングルたちを見付けたらすぐに引き返せ」
「ひとりでは決して戦おうとするな、まずアタシたちを呼びに戻るんだ」

香飛利
「あ、あい…でも、もし手遅れになりそうだったら?」


あくまで最悪の場合だけど、その時は私はどうするのだろう?
きっと、何とかしようと思うのだろう…聖さんの為に。


セヴァ
「…その時は貴様が自分で判断しろ」
「例え命を落としてでも救うのか、無駄死にするか…」
「アタシたちは渓谷に何も無ければ山に戻る」

マリス
「大丈夫だよ、香飛利は強い」
「いざとなったら、自分できっと何とか出来る」
「俺は、信じてるぜ?」


私は少し恥ずかしくなった。
誰かから、信じてるなんて言われたのは始めてだ。
でも、きっと聖さんはずっと信じてくれてるはず。
だから、私たちも聖さんを信じられるんだから…


香飛利
「…うん、じゃあ山に行きます〜」

マリス
「おう、頑張れ!!」

セヴァ
「…無理はするなよ?」


私たちはそれぞれ目的地を定め、二手に別れる。
私は空を飛び、遠目に霧がかって見える大きな山を見定め、そこの山頂付近へと飛んで行った。



………………………



香飛利
「う…高度あるなぁ〜」


少なくとも2000m以上はありそうな高さだ。
私は空気の薄さに肺を苦しめながらも、一気に飛び上がる。
前に比べたら、肺活量も上がった。
前だったら、きっと途中で落ちてる。
少しの間だったけど、私は大きくレベルアップしているのに自分で気付いた。
今なら、もっと強く、もっと速く飛べる気がした。


香飛利
(やってみよう…限界まで!)


私は山頂を目指し、雲を突き破る。
そしてそこから見えたのは絶景…雲から少しだけ突き出る山頂は、確かに神秘的に見えた。


香飛利
「…これが神聖な山」


私はゆっくりと羽ばたき、山頂に着陸する。
そこはまるで、石で出来た祭壇の様になっており、祭壇には何か謎の石版?が立っていた。
だけどそれには別に何も書かれておらず、いわば真っ白な壁。
私はそれに歩み寄り、直接触れてみるが特に何も起こらない。
私は、ふと足元を見ると、何か宝石の様にも見える菱形の石を拾った。
それは茶褐色で何の石かは解らない。
だけど、それを拾った瞬間、突如頭に何か声が響き渡った。



『ようやく、この声が届いたのですね…』

香飛利
『!? だ、誰〜?』


『選ばれし者よ、貴女に大切な人を救う力を…』


その声と共に石は輝き、私は力を感じる。
そして全身にオーラの様な何かを纏い始めたのを理解した。
これは、一体…?


香飛利
「…あれ?」


気が付くと、不可思議な感覚は消えていた。
だけど、私の手には茶褐色の石。
きっと、これは何か意味がある石なんだ。
私はそう思い、それをマリスさんが作ってくれた革袋に入れる。
そして、私は気を引き締め、すぐにその場から飛び立ち、一路渓谷を目指した。
ここに聖さんはいなかった、だったらマリスさんたちが本命のはずだ。



………………………



マリス
「ちっ、こっちが当たりだったか」

セヴァ
「ウチの若い衆も一緒だな…子供たちは、無事か」


セヴァは子供たちの安全を確認して胸を撫で下ろしていた。
何だかんだで母親だよな…何よりも腹を痛めた子供には気を使うモンなんだろう。
私たちはとりあえず死角に隠れて状況を観察する。
オラングルはハブネークの男衆に囲まれ、聖を連行してる。
聖はグルグルに蔦で縛られており、とても自力で逃げ出すのは無理だろう。


マリス
「どうする? 生贄って事は、何かに食わせるってんだろ?」

セヴァ
「恐らくはな…そして、それにより神の力を授かると奴は言っていた」
「奴が崇める神とは何か知らんが、少なくともアタシにはあの人間が世界を滅ぼすとは思えない…」


世界を滅ぼすねぇ…あの聖がそんな事考えてるとは思えねぇけど。
どうにもあのオラングルってのは信用ならねぇな…
なーんか別の思惑があるんじゃねぇかと思うんだが…


セヴァ
「とりあえず、香飛利が戻るまでは尾行だ…」
「この先はかなり長い渓谷が続く…儀式的な何かをするなら、最奥までは行くと思うが」

マリス
「最奥には何があるんだ?」

セヴァ
「解らん…そこまで辿り着いた者は存在しないと言われている」


マジかよ…そんな危険なのか?
それとも、そこに行くのに聖という生贄がいるってのか?
とにかく何が起こるか解らない…気を付けて尾行しねぇと…



………………………



マリス
「…川、か」

セヴァ
「ここから先、歩いて行くなら地下水路に入る…気を付けろ」


見ると、川はかなりの急流で、水タイプでもなければ自力で泳ぐのは無理がありそうだった。
香飛利の様に飛べれば別だろうけど、オラングルたちは近くにある地下への入り口に入って行った…


マリス
「地下か…結構広いのか?」

セヴァ
「まぁ、大ワニみたいなのは多数いる、食われない様にしろよ?」


私はそれを聞いてゲッ…となってしまった。
ワニかぁ…食ったら美味いかな?
とはいえ、あまり出会いたくないのは確かだな…



………………………



マリス
「…アイツ等、やけに迷わず進めるな?」

セヴァ
「明らかにルートを把握してるな、オラングルの奴、初めからこの渓谷の事を知り尽くしているのか…」


見た感じ、地下水路はかなり広く、下手したら迷う位には道が分岐している。
おおよその方角で解るというレベルではなく、入り組み過ぎていて付いて行ってないと間違いなく迷ってるというレベルだ。
それなのに、ヤツ等は平然と歩いて行く。
出て来るワニたちもハブネークの男たちが撃退し、俺たちは特に被害は回って来なかった…


セヴァ
「む…どうやら出口の様だ、地上に出るぞ」


オラングルたちが出口に消えると、私たちも早足でそれを追う。
そして地上の光が差し込んでいる出口から私たちは地上に出る…が、そこは既に罠が張ってあった。


マリス
「げっ!? 何だこの網!?」

セヴァ
「ちっ! バレていたのか!!」

オラングル
「馬鹿者が、貴様たちの尾行など初めから気付いておった」
「だからあえてここまで誘導したのよ…」
「ここならば、出口はひとつ、後から来るなら罠を張るのも容易い」


クソッタレ、頭はやっぱ良さそうだな…
私は網に爪を立てるが切れない。
蔦とかじゃない…? 何で出来てんだコレ!?


セヴァ
「捕獲用の特殊網だ! 何重にもミノムッチの糸を重ねて作っているから、爪や牙では到底切れない!」


何じゃそりゃあ!? ミノムッチの糸ってそんなに凄いのかよ!!
確かミノムッチは木にぶら下がる時に糸で固定するって聞いてたけど…


オラングル
「ミノムッチはその生活をほぼ木にぶら下がって生きる」
「故に、その糸は並大抵の強度ではなく、例え台風が起きてもそう切れる事は無い物だ」
「それを何重にも重ねた時、その糸は大岩を持ち上げたとしても切れる事は無い!」


成る程、そりゃ確かに無理そうだ。
となると、別のアイデアがいるわけだが…


マリス
「『火炎放射』とか出来ねぇ?」

セヴァ
「出来るなら即やってる! お前こそ『大文字』位使えんのか!?」

ザングース
「無茶言うな!! 俺は物理専門なんだから!!」


当然の様にじたばたするだけでは網は切れない。
どうする? いきなり絶体絶命かよ!?



「もうよせオラングル! 生け贄は俺だけいれば十分だろ!?」
「セヴァさんの子供だって人質にしてるんだろ!?」


何だって…? 子供を人質に取ってんのかよ!?
どこまでゲスな野郎だ…!!


セヴァ
「貴様ぁ…! 子供たちに手を出せばタダでは済まさんぞ!?」

オラングル
「負け犬が何を言うか、状況を理解しろ」


ドバァン!!


突然、空間が爆ぜてセヴァの頭が揺れる。
訳の解らない状況に私は焦るも、セヴァは歯を食い縛って耐えていた。
頭から大量の血が出てる、何だったんだ今の技!?


息子A
「ママーー!!」

「ママを傷付けないでーー!!」
息子B
「ママ、死なないでーーー!!」


セヴァの子供たちがこぞって叫ぶ。
セヴァはその声を聞いて不適に笑った。
そして、自信満々の顔でセヴァは子供たちに笑いかける。


セヴァ
「心配するな子供たち…ママは、お前たちがいるなら無敵だ!!」

オラングル
「愚かな、まだ食らい足りないと見えるな…」


「いい加減にしろぉ!!」


聖は縛られながらも、無理矢理体当たりしてオラングルにぶつかった、
オラングルはよろよろとバランスを崩し、その場で尻餅をしてしまう。
この隙に聖はこちらに駆け寄って来た。


オラングル
「おのれ…余計な邪魔を!」


「ざけんな!! ふたりはこれ以上傷付けさせないぞ!?」


聖は両手が縛られて自由でないにも関わらず、そう叫ぶ。
これが、魔更 聖という人間なのだ。
例え勝算など無くても、コイツは誰かの前に出て誰かを守る。
あの香飛利が絶対的な信頼を置いている人間…


オラングル
「貴様は所詮生贄に過ぎん、別に手足の2、3本をへし折ってから生贄にしても良いのだぞ?」


「やってみやがれ!! 俺は絶対に退かねぇぞ!?」


聖は全く動じていない。
むしろ怒りで奮い立ってる感じだ。
聖は本気で私たちの為に体を張ろうとしている…


マリス
「クソが…こんな網さえ無けりゃ!!」

セヴァ
「くっ、子供たちや一族の者が目の前にいるというのに…!!」


私たちはもがくも何ともならない。
セヴァの石槍と腕力を持ってしても切れないのだ。
何で、何でこんな時に何も出来ない!?
私はどうして、こんな時に足を引っ張る!?
何の為に強くなった! 何の為に生きて来た!?
この時の為だろ!? 助けるんだ!!


マリス
「うああああああぁぁぁぁぁっ!?」


ブチブチブチィ!!


セヴァ
「なっ!? お前、手から炎を…!?」

マリス
「よく解かんねぇけど、これなら焼き切れたぜ!!」


俺は両手から突如炎が出た。
あくまで手が燃える程度の炎だが、大して熱さは感じない。
これは、自分の力なのだと理解した。
香飛利が熱風を使える様になったみたいに、俺も炎タイプの技は使えたんだ!!
俺は手の炎で網を焼き切り、そこから脱出する。
そして、聖の前に走り出て、俺はオラングルを睨み付けた。


マリス
「舐めんなよ!? こっからは私たちの反撃だ!!」


「今だマリス! 蔦を切ってくれ!!」

マリス
「おう! 任せろっ!」


マリスは手際良く、俺を縛っていた蔦を爪で切り落とした。
俺はようやく両腕が自由になり、改めて敵を見る。


オラングル
「ふん、やや予想外の展開だが、仕方あるまい」


オラングルは手に持った扇子(元ネタ的には羽扇っぽいが、葉っぱだから草扇、葉扇?)を前に降ると、ハブネークの男衆がずらずらと前に出て来る。
アイツ等は無理矢理戦わされてるだけだ、あくまで無駄な血を流させる気かっ。


セヴァ
「…これも、長であるアタシの弱さが生んだ罪か」

男A
「お許しを長! 子供たちを人質に取られてる以上、我々は逆らえません!!」


短髪の男は震える手で槍を握り、辛そうな顔をしていた。
対してセヴァさんは、しばし目を瞑り、槍を片手でクルクル回転させる。
そしてキッと目を開き、槍を男衆の前に向けた。
その威圧感は凄まじく、男衆はたじろぐ。


セヴァ
「サンダ…お前は、3番目の子の父親だったな、心中は察するぞ」

サンダ
「!? お、長…!」

セヴァ
「あの子は、お前のせいで死んだのではない、アタシの弱さがあの子を殺したのだ」
「故に、遠慮はいらん…命を賭けてかかって来るが良い」
「こちらも容赦はせぬ、子供の為に互いに退けぬのなら!!」


長は槍を構える。
一体、何が原因で死んだのかは知らないが、あの短髪さんはセヴァさんとの間に子供がいたのか…
でも、その子は死んでしまった…その時の辛さをあの人は覚えてるんだな。

男衆は覚悟を決めた顔で震えを止め、表情を引き締めて前に出る覚悟を決める。
だが、ここで更に下衆な横槍をオラングルは入れた。


オラングル
「手を出すな長よ、こちらには人質があるという事を忘れるな?」
「貴様ら3人は手を出せば子供の命は無い」


「クソが…! テメェは命を賭けて、覚悟決めてる奴らの意志をも踏みにじる気か!?」

オラングル
「何とでも吠えるが良い、これが戦術だ」
「失敗は許されん、貴様の様な危険人物はなおの事、徹底して排除せねば」


オラングルは特に感情も込めずにそう言う。
コイツの信望している神とは一体何だ!?
コイツにとっては目的さえ果たせるなら、他の存在は全く意に介さないのか!!


セヴァ
「…どうした? アタシは抵抗出来ない、今がチャンスだぞ?」


セヴァさんは槍を地面に突き入れ、棒立ちでそう言う。
だが、男衆はそれを見てまた震え始めた。
アイツ等は戦闘民族だ、戦って、勝って奪うのが信条だ。
なのに、勝てると解ってるこんな勝負を強要されて、何になると言うのか…


男B
「我ら誇り高き一族が、またしてもこの様な屈辱を味わうのですか!?」

セヴァ
「…それを決めたのはアタシの母だ」
「母がオラングルを取り入れ、一族は確かに豊かになったのだからな」
「だが、確かに一族にとっては屈辱とも言える…特に、宿敵たるザングースに夜襲をかけた時はな」


その言葉を聞いてマリスはハッ!?となってセヴァさんを見た。
セヴァさんは見ずに男衆を見てこう言う。


セヴァ
オラングルの策略とはいえ敵の寝込みを襲い、無抵抗の女子供を人質に取って虐殺するなど、一族の名折れだった」
「だが、長である母はそれでも強行した…一族の繁栄の為にと!」
「結果、ザングースの一族はひとりの子供を残して滅びたのだ!」

マリス
「…お前は、あの時は長じゃ無かったのか?」

セヴァ
「当たり前だ、何年前だと思ってるんだ?」
「あの時のアタシはまだ16歳だ、夜襲には参加したが後方で待機させられていた」
「…思えば、あの時逃げ惑うお前を見逃したから、こうやって肩を並べる事になったんだろうな」


セヴァさんはそう言って微笑んでいた。
別に悔しかったり、空しかったからじゃない。
ただ、残念そうな顔には見えた。


セヴァ
「やはり、オラングルを取り入れたのは母の失策だった…」
「繁栄は出来ずとも、それならば戦って散れば良かったのだ!」

マリス
「…あの夜襲は、オラングルの策略」


マリスは複雑そうだった。
自分たちを滅ぼそうとした夜襲はセヴァさんにとっては遺憾。
種の繁栄の為に、やむを得ず宿敵を滅ぼそうとしたに過ぎない。
だが、それは今のセヴァさんや男衆にとっては屈辱だったのか…


男C
「長! それでもお覚悟を!!」

セヴァ
「良いだろう、来い! トワング…お前はあそこにいる10番目の子の父親だからな、私が死んでも立派に育ててやってくれ…」


セヴァさんは優しい顔で笑ってそう言った。
セミロングの男は涙を流し、槍を構える。
セヴァさんはかなりの子沢山だと思うが、自分が産んだ子供たちの父親は誰か、全て覚えているのか…?
何とエレガントな…


オラングル
「時間が惜しい、さっさと始末せよ!」


男衆は一斉に槍を構える。
セヴァさんは一歩も退かずに表情すら変えなかった。
側にいマリスも悔しそうな顔で震えている。
俺は、どうするか悩んでいた。
ここはかなりの山場だ、セヴァさんたちを失う事はシナリオなのか?
俺にも、何か出来る事は無いのか!?

だが、どう考えても子供たちの命は握られている。
俺が少しでもおかしな行動を取れば、即座に子供たちは殺されてしまう。



(クソッタレ…! こういう時はヒーローが来るんだろ!?)


俺はまだ見ぬヒーローを待っていた。
そして、ギリギリのタイミングでついにそれは現れる。
風を切り、遥か上空から迫るひとりのポケモン娘。
俺は誰が来たか察し、期待に膨らむ。
そして次の瞬間、オラングルは遥か後方に吹き飛んだ。


ビュゴゴゴゴゴォッ!!


オラングル
「ぬうぅ!?」

子供たち
「キャアァッ!?」


近くにいた子供たちは皆で寄り添って風に吹き飛ばされない様にしていた。
対してオラングルは、突如発生した竜巻に巻き込まれ、数10mは吹き飛ぶ。
そして子供たちの前にひとりの鳥ポケモン。
その姿はおおよそヒーロー等と呼べる様な面構えでなく、ビクビクと顔を強張らせて何かに耐えている様だった。
小さな石のナイフを両手持ちでヘタクソに構え、ゆっくりと起き上がるオラングルに向けている。

俺はとりあえず安心はした。
そして、改めてこう声をかける…



「ナイスタイミングだ、香飛利!!」

香飛利
「うぅ…! こんな小さな子をイジメちゃ、ダメ〜!」

オラングル
「…むぅ、まさかこの様な者がいたとは」


オラングルは少なからず焦っている様だった。
そしてすぐに状況を理解し、オラングルは目を光らせる。
ヤレユータンはエスパータイプ、どんな戦術を取って来る気だ!?


香飛利
「な……に、こ……れ……?」


「お姉ちゃん!? 動きが急に…」


「ヤバい、『トリックルーム』だ!! 素早さが逆転するぞ!?」


オラングルは倒れている間にこんな技を仕込んでいやがった!
流石に策士だな、あの状況ですぐに有効な手を打ってくるとは…!


セヴァ
「貴様ら! 子供たちをすぐに保護しろ!!」
「マリスは近付くな! ルームの外で皆を守れ!!」


セヴァさんは的確に指示を出し、男衆はすぐに反応する。
セヴァさんが先頭を進み、男衆はフォーメーションを組んで後追いした。
さながら訓練された戦車隊の様にスムーズに動く。
これが、長を信頼する男衆の動きなんだな…


オラングル
「…流石は長。いかにトリックルームの中とはいえ、ハブネークたちの速度ではそう有利には働かんか」
「しかし、目的はそれではない…そちらの思う様にはいかん!」


「なっ!?」


俺は突然体の自由を奪われる。
そしてそのまま宙に浮き、俺はオラングルの方に引き寄せられた。
って事は奴の念力かっ。
そういや、俺は生贄だったのを忘れてた…
うっかり射程に入られてたのか!


香飛利
「さ…と…し……さ…〜…ん…〜…!!」


香飛利はスローモーションで叫んでいる。
速度差が顕著に出てるな…それだけ香飛利はこの中じゃ素早いって事だ。
こうなったらとても香飛利は戦力にならない。
しかも俺が人質にされればまた誰も手出しが出来なくなる。
くっそ…こんな時に足を引っ張っちまうなんて!!


サンダ
「長、子供たちはお任せを!!」

子供たち
「頑張れママーーー!!」

セヴァ
「任せておけ! オラングル、もはや貴様は必要無い!!」
「アタシたちは、今日から生まれ変わる!!」


セヴさんは突進する。
俺は既にオラングルの側に引き寄せられており、奴はニヤリと笑う。
堂々と盾にする気かもしれないが、それならそれでこっちにも考えがあるぜ!?


セヴァ
「…どこまでも汚い手を!」

オラングル
「何とでも言え、貴様は母と違い甘いのだ!」


予想通り、俺を盾にされて長は躊躇っている。
俺はここでセヴァさんにこう叫んだ。



「セヴァさん! 俺ごとやれ!!」

セヴァ
「何だと!?」
オラングル
「貴様、何を…!?」


ふたりは同時に驚く、俺はニヤリと笑い、セヴァさんを見てこう言った。



「俺に考えがある! 遠慮無くやってくれ!!」

セヴァ
「!! 分かった、ならば行くぞ!!」

オラングル
「…く!? このままではやられる…?」


予想通りオラングルは焦ってるな。
俺を念力で縛ってる間は他の技はそう放てないだろう?
そしてセヴァさんはここで遠慮する程甘くは無い。
さぁ、どうする? 俺はクリアアイテムらしいからな、何があっても死なないぜ!?
…とはいえ、痛みは覚悟しよう。



(さぁ、伸るか反るかだ!? 頼むぜセヴァさん!!)

セヴァ
「はあぁぁっ!!」


セヴァさんは一直線に槍を構え、俺の体ごと貫こうとする。
俺は歯を食い縛って覚悟を決める。
最悪、腹を上手く突き抜ければ、生き残る可能性は高い!


オラングル
「!!」


「でっ!?」


何と、オラングルは俺を解放し回避に徹した。
セヴァさんは一瞬狙いをつけ直し、槍を構え直す。
その隙にオラングルは手をかざし、セヴァさんに技を放とうとした。
もしかしなくてもサイコキネシスかっ!?



「させるか、バカ野郎!!」


俺はセヴァさんに向かってタックルし、射線からズラす。
ほぼ同時に空間が捻れ、サイコキネシスは辛うじて回避出来た。
ハブネークは毒タイプだから、当たれば即死もあり得る…間に合って良かったぜ!


セヴァ
「く…何と言う無茶を!」


「すみません、攻撃のチャンスだったのに…!」


オラングルは距離を離している、徐々に徐々にだが渓谷の奥に近付いているな。
この先には何かがいるらしいが、果たして何なのか?


オラングル
「…やむを得んか、もはや猶予は無い」
「神よ…どうかこの私にお力を!」


オラングルは何と背を向けて逃げ始めた。
渓谷の奥に向かって走り、セヴァさんはそれを見て追撃する。
トリックルームはその後効果を失い、香飛利とマリスがようやく追い付いて来た。


マリス
「子供たちは無事に逃がしたぜ!」

香飛利
「セヴァさんを追わないと〜」


「ああ、行こうふたりとも! 恐らくオラングルはこの先にある何かを利用するつもりだ!!」


それを聞いて香飛利は俺を抱き抱え、すぐに飛び立つ。
マリスは健脚を生かして走った。
やがてセヴァさんの背中に追い付き、俺たちはオラングルを追走する。



………………………



オラングル
「はぁ…はぁ…!!」


「何だ…何か妙に不気味な感じが」

セヴァ
「気を付けろ! 何かデカイのがいるぞ!?」

マリス
「な、何だありゃ!?」

香飛利
「嘘〜〜〜!?」


俺たちは全員が絶句する。
オラングルの目の前にいたのは、目を疑う様な巨体の恐竜がいたのだ。
いや、正確には恐竜とは違う…あれは、まさか!?



「ガチ…な、ゴラスさん?」

マリス
「二重の意味でガチだな!!」

セヴァ
「ボケている場合か!? あれは普通じゃないぞ!?」

香飛利
「人化…してない〜?」


そう、人化していないのだあのガチゴラスは。
だが、その大きさは図鑑が詐称だと思える程の規格外サイズ。
おおよそ15mはあろうかと思われる巨体のそれは、軽くオラングルを見下ろしていた。


オラングル
「おお、山の神よ!! どうか、どうかあの者たちを!!」
「あれは貴方様への生贄にございます!!」
「さぁ、どうぞご賞味……」


バキッ! ボキボキィッ!! グチャッ!!


それは、オラングルが言い終わる前の惨劇だった。
ガチゴラスは大きく口を開き、オラングルの全身に食い付き、バラバラに噛み砕く。
オラングルは血を噴出し、葉扇を持っていた右腕だけが地面にボトリと落ちた…


マリス
「な…!?」

セヴァ
「愚かな奴だ、あれが神だと? ただの野生の獣ではないか!!」

香飛利
「ででででで、でもっ! あんな大きなのどうするの!?」


香飛利は涙目でビビりまくっている。
まぁ、仕方ないわな…アレ見た後じゃ。
俺は確信した、コイツが間違いなくラスボスだ。
理由は解らないが、規格外の大きさ、人化していない素のポケモン。
しかも、知能はおおよそ感じず、躊躇いなく人を食った…
あれは、完全に人を下位の存在だと思っている行動だ。
人間など、餌でしかないと言わんばかりの暴虐。
ガチゴラスは次に俺たちをターゲットに見据えた。



「…やるぞ香飛利!?」

香飛利
「無理ですー!!」

マリス
「バカヤロウ! やらなきゃ死ぬんだぞ!?」

香飛利
「絶対にアレは無理〜!!」


「よし、とりあえず3歩歩かせて…」
「やるぞ香飛利!?」

香飛利
「何を〜?」

セヴァ
「何もかも忘れてるではないか!?」


よし、見事なコンビネーションだ!
改めて俺は団結の力を感じた。
とりあえず1度恐怖を消せば香飛利は命令を素直に聞くはず!!



「香飛利、とにかく1番強い技を真っ正面に放て! 全力でだ!!」

香飛利
「あい〜……す〜…」


香飛利は予想通り命令を聞く。
そして、後ろに頭を引き、大きく息を吸い込んだ。
何だ? 何かを吐き出す気か?


セヴァ
「ヤバい…!!」
マリス
「げっ!?」


何故か突然マリスたちは耳を塞いだ。
俺はこの時点でしまった…と思うがもう遅かった。
香飛利は全力で技を放つ。


香飛利
「ギャーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

ガチゴラス
「!? グオオッ!?」


それは凄まじい音量の声だった。
俺はその音をマトモに近くで聴き、頭をフラつかせる。
何とか、倒れはしなかったものの、すぐに耳を両手で塞いだ。


香飛利
「ガーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

ガチゴラス
「グワァァァッ!!」


2発目、香飛利は命令をされる事無く連続で同じ様な技を放っていた。
何だこれ!? オニドリルは『ハイパーボイス』なんて覚えないのに…!


マリス
「相っ変わらず、うるせぇな! この騒ぎ方…!!」

セヴァ
「至近距離で食らったら1発で意識を持っていかれるからな…!」
「だが、あの巨体にはそこまで効かないか!?」


成る程、『騒ぐ』か…
って事は、あの○ギャナイザーみたいなシャウトは音波技って事だ。
何気にタイプ一致のノーマル技だから、岩タイプのガチゴラスには通用し辛い様だな。


ガチゴラス
「ガァァァァァッ!!」

香飛利
「ひぃぃぃぃぃぃっ!?」


おっと、騒ぎ終わってまたビビってしまったか。
ガチゴラスは香飛利をギロリと睨み、その場から突進してくる。
速度はそれ程でもないが、いかんせん馬力が違いすぎる。
正面衝突はまず無理、ならここは分散だ!



「香飛利、上空で注意を引き付けろ!!」

香飛利
「いやぁ〜!! 逃げる〜!!」


ダメだこりゃ…もう、とりあえず放っとくしかないな。
ガチゴラスはハエの様に飛び回る香飛利をしつこく追っており、奇しくも狙い通りにはなった様だ。



「よしマリス、お前格闘技とか使えるか?」

マリス
「よく解かんねぇけど、殴るんだったら任せろ!」


おいおい大丈夫か? まぁ、ザングースはスピードあるし、見切りもあるから簡単には当たらないか…?



「セヴァさんはサポートを!! まずは一睨みお願いします!」

セヴァ
「良いだろう、任せておけ!!」


まずはセヴァさんがガチゴラスを睨み付ける。
しかもこれはただの睨みじゃない、『蛇睨み』だ!
ガチゴラスはセヴァさんと目を合わせた為、その場で動きを鈍らせる。
よし、例えデカくてもポケモンはポケモン!
状態異常はしっかり効く様だな!



「よし、行けマリス!!」

マリス
「うっしゃあ!! とにかくやってやらぁ!!」


マリスは警戒にステップを踏みながら踊る様に突進して行く。
あの野郎、『剣の舞』を無意識にやってやがるな…こりゃ威力は期待出来そうだ。
マリスはそのままガチゴラスの懐に入り、ガチゴラスの右足を全力でオラオラと拳を連続で叩き込む。
もしかしなくても『インファイト』か!?
何気に高レベル技だぞ? いつの間にそんなに成長してたんだ…?


ガチゴラス
「グアアァァァッ!!」


ズドォンッ!!と突然の地震。
そして、渓谷の岩山が突然崩れ、上方から『岩雪崩』が襲いかかって来た。
ヤバい…直撃はかなり死ねる!!


マリス
「チックショウ!?」

セヴァ
「聖はこっちに来い! 『守る』で防ぐ!!」


「香飛利! …は遥か上か、大丈夫だな」


俺はセヴァさんに引き寄せられギュッ…と抱き締められた。
その際、当然の様に豊満なおっぱいに顔を埋めさせられ、セヴァさんは守るを発動して岩雪崩を防ぐ。
マリスはその間、必至に見切って全弾回避していた。



(むぅ…この柔らかさ、サイズ、素晴らしいおっぱいだ!)

セヴァ
「どうした聖? どこか怪我でもしたか?」


「ああ、いえいえ! とても良い物…ゲフン!!」
「と、とりあえず追撃が来ます! 俺は一旦退がるんで!!」


俺は誤魔化しながらとりあえず後方に退がる。
セヴァさんたちは1度構え直し、ガチゴラスを改めて見た。
ガチゴラスは怒り狂っており、ギャアギャア!とわめき散らしている。
本当に野生の獣だな…ポケモンとは思えない程だ。
とはいえ、やはり体力も桁違いでまるで衰えている様に見えない。
さっきの攻撃を警戒しているのか、ガチゴラスも安易には近付いて来なくなった。
奴には遠距離攻撃手段がある…迂闊には近寄れないぞ?
かといって待ってくれる程お人好しでもない、ならここは攻撃だ!!



「香飛利ーーー!! 何でも良いからとにかく技を撃てーーー!!」


俺は全力で上に叫び、香飛利にそう伝える。
香飛利はそれに気付き、状況を悟った様だ。


香飛利
(私がしっかりしないと…聖さんたちが)
(怖いけど、恐ろしいけど、それでも聖さんは助けたい…!)
(だったら、どうか助けて!!)


香飛利は突然全身にオーラを纏い始める。
まるで虹の様な輝きに、俺はある光景がフラッシュバックした。
そう、あれはあの時、舞桜さんが1度見せてくれた…



(Z…技!?)


香飛利は騒ぐ時と同じモーションで頭を思いっきり後ろに引く。
そのまま大きく息を吸い、全力で叫ぶ体勢に入った。
だが今度のは迫力が違う、一体どんな音波が飛び出すんだ!?
俺たちは全員思いっきり耳を塞ぐ。
今度は上から下だからモロに音はこっちまで届く。
とにかく、頼むぜ香飛利!?


香飛利
「聖さんに…近付くなーーーーーーーーーーーっ!!!!」

ガチゴラス
「ガ…!?」


それは、まさしく香飛利の全力技。
その技は通常の音波とは訳が違った。
何せ、台詞が物理的にガチゴラスを襲ったのだ…どこぞの○ギャンやギャグ漫画の様に。
説明し難いが、文字が顔面にドカッ!とぶつかるイメージかな?
まぁ、そんな感じ。○ロディウスのメガホンと言っても良いな。
とにかく、マトモに食らったガチゴラスはその巨体を震わせ、その場で倒れてしまった。


ドッ…ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!


大轟音…ガチゴラスは見事に倒れ、地響きと共に粉塵が宙に舞った。
俺たちは遠目にそれを注視し、ガチゴラスの様子を探る。
動く気配は…無い。
香飛利は上空で息を荒らげながら、フラフラとこっちに降りて来た。
俺はそんな香飛利を上手く抱き止め、香飛利の頭を優しく撫でてやる。



「良くやったぞ、香飛利…!」

香飛利
「はひぃ…はひぃ…」


香飛利の手には茶褐色の石が握られている…
これがZクリスタルか…見たのは舞桜さんの時以来だな。
しかし、あんなZ技は聞いた事も無いが、何だったんだ?
香飛利の負担も相当みたいだし、ただ撃つだけでも相当辛そうな感じだな…


マリス
「すっげぇじゃねぇか! 何だあの技!?」

香飛利
「はひ…よく、解んない〜」

セヴァ
「ふむ、自分でも謎の力と言う所か」
「だが、結果はアレだ…」


セヴァさんが背中越しに親指で指差した先にはガチゴラスのピクリとも動かない姿。
完全に気絶しているのか、それともショック死したか…
恐らく騒ぐからの起動だから、ノーマル技だとは思うんだが…
効果今ひとつでアレなら、威力は相当だろうな…反動もやむ無しか。



「結局、アイツは何で人化してなかったんだろうな?」

セヴァ
「さてな…アタシもあんなのは初めて見たし、聞いた事も無い」
「オラングルは知っていた様だが、もはや聞く術も無しだしな」


残されたオラングルの片腕だけが、空しく地面に残っていたのを見て、俺はこの世界の無情さを思い知る。
あのガチゴラスは完全に人とは相容れない存在だ。
ガチゴラスにとっては人間は餌でしかない存在。
オラングルは神だと崇めていたが、そんな物はただの幻想なんだと俺は思う。



(これで、この世界の混沌はクリアって事か)

フーパ
『その通り、良くやったね香飛利は』


久し振りにフーパが語りかけて来る。
その声は楽しそうな感じで、結果には満足している様だった。



『だが、俺たちはまだここにいるぞ?』

フーパ
『それもタイミングがあるのさ…ゲームにはエンディングがある』
『とりあえず、しばらくこの世界のエンディングを楽しむ事だ…まぁ、微妙かもしれんけど』


それだけ言ってフーパはまた無言になる。
やれやれ、エンディングねぇ…しかも微妙かもと。
期待するなって事ね。


マリス
「とりあえず、アレどうする?」

セヴァ
「食ってもマズそうだしな…とりあえず放置しておこう」
「この渓谷から出ては来ないだろうし、近寄らなければ危険もあるまい」


「あんなのでも、生きてるからな…」


俺の言葉にマリスとセヴァさんは少し俯く。
この世界は非情だ…でもそれだけに命の重みはある。
ガチゴラスだって、こんな渓谷に住んでいるなら、あまり餌も無いんだろう。
人食いなのは危険だが、それだけの理由で殺すのは可哀想な気はする。


香飛利
「仲良くは、なれないのかな〜?」

マリス
「…さぁね、向こうがその気ならやぶさかじゃないけど」

セヴァ
「それは、まだ先の話だ」
「今は、アタシたちですら種族間抗争は絶えない」


そう、この世界ではまだ争いだらけなんだ。
そして、ザングースとハブネークはこうやって和解出来た。
これは、何気に歴史的瞬間な気がする。
本来、遺伝子にインプットされてる程、ザングースとハブネークは敵対しているというのに、このふたりは見事に手を取り合ったのだ。
ポケモンたちは、こうやって解り合える…それが解っただけでも、収穫は大きいだろう。


香飛利
「…あ?」

「え?」


俺と香飛利は同時に呟く。
気が付けば、暗い闇が広がる孔が空間に空いていた。
俺と香飛利はそれに吸い込まれる。
それはさながらブラックホールの様で、別れの言葉を交わす事すら無く、俺たちはその世界から弾かれたらしい…

そして俺はひとり、また暗い闇の世界にいた。



………………………




「…やれやれ、気紛れな制作者だな」

フーパ
「アタシもそう思うよ…でもまぁ、原始編クリアお疲れさん♪」


フーパが突然現れてそう労う。
原始編、ねぇ…原始って言うにはツッコミ所は多かったが。


フーパ
「まぁ、世界観設定は結構適当みたいだからね」
「さぁ、後6つの世界がある…次は何処に着くかな?」


「…そんなにあるのか、つまりそれだけ家族が巻き込まれてるって事か」


フーパは無言で頷く。
香飛利の居場所が気になるが、クリアしたんだし案外元の世界に戻っているのかもしれないな…
とりあえず、後は誰が巻き込まれているのか…?


フーパ
「楽観的にはならない方が良い」
「君がいかに不死身設定でも、一歩間違えれば植物人間になる事も有り得るんだから…」


俺は言われて気を引き締める。
今回は五体満足だったが、次はそうとは限らない…か。
俺は改めて拳を握り、決意した。

必ず、家族を全員救うと!
そして、フーパをも救ってみせると…!










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第1話 『明日への道標』


To be continued…

Yuki ( 2019/05/04(土) 20:58 )