とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない














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第5章 『POKE MOA EVIL』
第1話 原始編
…今思い出しても、それは唐突な誘いだったと思う。

ただ、この時の経験は確実に家族の力になったと思うし、終わってみれば、一件落着と言えたかもしれない…

だけど、この時の出会いが更なる悲劇を生んだとするなら…

果たしてそれは、素直に喜べる出来事だったのだろうか?と、後の俺は考えるだろう…











「…!! 混沌、か」


唐突に、久し振りの違和感が俺を襲う。
とある休日の日…たまたま外に出ていたら、突然コレか…と、俺は思わずため息を吐いてしまった。

ここ最近、全く感じていなかった、この違和感。
そう、それは紛れもなく…混沌世界への誘いだった…



「やっほ〜、ジャリボーイ♪」


「ふぅ…残念だよ、俺は貧乳幼女相手だと発情し辛い」

貧乳幼女
「いきなりだねオイ!? っていうか、そもそも君は誰にも発情しないでしょうが!?」


おっと、中々鋭いな…ってか、俺の事をよーく知っている様だが、コイツは一体…?
俺はどこかでコイツを見た事があったか? いや、無いな…確かにそのはずだ。
しかし、相手はこちらを知っている…一体何モンだ?


貧乳幼女
「やれやれ、ホントに掴み所が無いね」
「まぁ、良いや…今回は、アタシも巻き込まれた側だし」


「成る程、混沌に巻き込まれたのか…そりゃ御愁傷様」


俺は肩を竦めて軽く言ってやると、貧乳幼女はケラケラと笑う。
どことなく、性格が藍に似てるな…微妙に体型は違うが。
尚、コイツに比べれば、藍の方が胸はデカイ。
そこだけでもかなりの違いと言って差し支えないだろう。

ちなみに、少女の見た目はかなり黒めの褐色肌であり、髪色はやや紫がかった短髪。
頭の天辺では小さくポニテにしており、身長は約130p程か?

額には金色の円が描かれており、目元にはピンクの隈があった。
更に腕と腰には金色のリングをしており、一見するとピエロの様にも見える。
服は何と言うか…どこか中東風で、布面積はマイクロビキニに近く、露出度は極めて高い。
それは髪色に近い紫色であり、これで胸があれば最高だったのだが…


貧乳
「とりあえずアタシはフーパ、よろしくねジャリボーイ♪」


「俺には魔更 聖って名があるんだがな?」
「っていうか、ここは何処だ? 気が付いたら真っ暗闇?」
「まるで時空の最果てみたいだな…」


俺たちがいる場所は、何も無い闇が広がるだけの空間だった。
だが最果てとは違い、重力の感覚はしっかりとある。
頬をつねれば痛みも感じるし、呼吸も出来るな…

色々と疑問は尽きない世界だが…まぁ、これも混沌世界って事かねぇ?


フーパ
「…とにかく、これに関してはアタシでもどうしようもない」
「アタシもまた、今回は君と同様に巻き込まれただけ…」
「しかも、ご丁寧にアタシの力は封じられている…今のアタシは、見た目通りただの少女に過ぎない」


フーパと名乗った少女は、片手で金色のリングをクルクルと振り回すが、何も起きる様子は無い。
本来なら、フーパはアレでゲートを操り、何でも転送する能力があるはずだが…その能力は現在封印されているらしい。

とはいえ、仮にも幻と言われるポケモン…本当にただの少女とは思えないが。



(恵里香の例もあるからな…もし、ここが時空の最果てと同様なら、俺の雫も封印されてるという事になる)


それは、時空の最果ての仕様でもあった。
あそこでは、ありとあらゆる力がその意味を失う特殊な仕様があるのだ。

その理由は…最果てが全ての終着点であり、力の行き場が存在しない場所だから。
時間も、空間も、破壊も、創造すらも終わってしまったあの世界では、例外を除き、一切の異能を許さない。

その唯一の例外が、恵里香の世界送り(ワールドメール)だ。
本人曰く、能力の発現は未だに原因不明との事だが、恵里香によるとそれも進化の一種なのかもしれない…とだけ呟いていた。

このフーパも、もしかしたらそんな能力が発現したりするのだろうか?
俺はそんな事を考えながら、フーパを見ていた…

闇の中ではあるが、互いの姿はよく見える。
表現は難しいが、強いて言うなら互いの姿だけが輝いている様に見える…って感じかな?

最果てでは、ややボヤけた姿に映るんだが…こっちでは割りとハッキリ見える。
漫画的に表現するなら、背景真っ黒なコマにキャラだけ描かれてる感じか…?
そっちの方が解りやすいかもな…


フーパ
「何だいジロジロ見て? 欲情した?」


「するかっ」


俺のツッコミに、フーパはケタケタと笑う。
やれやれ、遊ばれてるな…まぁ、こんな何も無い所で、男と女がふたり。
冗談でも話さなきゃ、気が持たないか…
俺はため息を吐き、頭を掻いた。

そして、俺はフーパにこう尋ねる…



「で、これから何が起こる?」

フーパ
「知らんのか?」


「?」

フーパ
「…祭りが始まる」


「それは〜紛れもなく〜ヤ〜ツさ〜♪」



………………………



『POKE MOA EVIL』(ポケ モア ライブ)

原始編 『成長』





ドンドコドコドコ! ドンドコドコドコ!


香飛利
「あう〜…ここどこ〜?」


(香飛利!? それにここは一体…?)


俺たちは、突如として謎の世界にワープした。
あまりに突然の事であり、唐突にも程がある。
俺とフーパは現在宙に浮いており、世界を空中から見下ろしている。

そして、その地上にいるのは紛れもなく香飛利…
香飛利は訳も解らないのか、その場であたふたしていた。
ちなみに、周りには他の何者かが踊っている…いきなり四面楚歌か!?


フーパ
(これが今回の混沌らしいよ…? どうやら君の家族の何人かが、それぞれ別の世界に巻き込まれてるみたいだ…)
(そして、この世界にいる家族は彼女ひとり…ちなみにそれぞれの世界には、それぞれのルールが有り、それに従ってラスボスを倒せば彼女はクリアとなる)


俺はそれを聞いて、バカな…?と思う。
よりにもよって、香飛利ひとりでラスボス打倒だと!?
愛呂恵さんや鐃背さんならともかく、何で香飛利なんだ!?
どう考えたって、そんなの無理ゲーだろ!?

俺はこの時、かなり絶望的な顔をしていたと思う。
だが、フーパはそれを嘲笑うかの様に、ケラケラと笑っていた。


フーパ
(まぁ、それがこの混沌のルールだしね…どっちにしても、アタシには何も出来ない)
(だけど、君にはひとつ特権がある…それは)


「うわっ!?」

香飛利
「ひぃぃっ!?」


俺は、突如として世界に具現化する。
さっきまで、フーパと一緒に謎の世界の空中を漂っていたのに…だ。
お陰で、結構な高さから地上に落ちてしまった、受け身は取れたものの、衝撃で背中が痛ぇ…


香飛利
「ガクガク…っ!?」


「香飛利!!」


香飛利は俺の姿を確認すると、目にも止まらぬスピードで飛び付いて来た。
香飛利はとにかく臆病な娘だ、戦う事なんて到底出来ない。
だが、フーパはラスボスの討伐がクリアとなると言っていた。

何で、フーパはそんな条件を知っているんだ?
だが、考えてる暇は無い…何故なら、今俺たちがいる場所は、とても形容し難い儀式のド真ん中にいる最中だったからだ…


部族A
「ウホッ!? 食料増えた!!」

部族B
「ウホホッ! 今夜はご馳走!!」


俺たちは、キャンプファイヤーみたいな物の側で、立ち尽くしている。
周囲には、まるで原始人の様な格好をした毛深い部族が沢山。
それ等に俺たちは完全に囲まれており、とても逃げる事は出来ない。
背中側には炎がメラメラと燃え盛っている…正直、暑くて汗が止まらないな。

さて、いきなり過ぎるがどうする?
香飛利にはこの世界のラスボスを倒すという目的があるが、コイツ等がそうなのか?


フーパ
『良い事を教えてあげようか? この混沌は、いわばゲームさ』


(フーパ!? 近くにいるのか!?)

フーパ
『いいや、今はもう闇の中だよ…そこから君に声だけを頭に送り込んでる』
『どういう仕様かは知らないけど、それ位はルール的に許されるらしい』


俺の頭の中に、フーパの声が響いていた。
恵里香のと似た様な状況だが、スマホのスピーカーを介さないと話せない恵里香よりも、若干便利そうだな…

とりあえず、フーパは感情も特に込めず、淡々とこう告げた。


フーパ
『聖君、君は香飛利を信じてあげる事だ』


(香飛利を…?)

フーパ
『その娘は確かに今は弱いかもしれない…でも、成長は出来るのさ』
『そして、さっきも言った様にこれはゲームだ』
『だったら、RPGみたく考えれば良い…特に、とあるゲームの影響を多大に受けてるからね♪』


(成る程な…って事は、コイツ等は所詮、シナリオ的にオープニングバトルの雑魚、いわばチュートリアルって訳だ!!)


俺はそう解釈し、一気に気を引き締めた。
そして香飛利を体から引き離し、相手に無理矢理向けさせる。
何モンかは知らねぇが、これが並のRPGならチュートリアルはフツーただの雑魚敵!

いくら香飛利が弱くても、経験値を積んでレベルを上げれば、ラスボスにも勝てるって事だな!!



「香飛利、戦うんだ!」

香飛利
「無理です〜」


「大丈夫、お前なら出来る!」

香飛利
「無理です〜」


俺は無限ループに陥りそうになったので、とりあえず香飛利を3歩歩かせた。
そして、もう1度同じ事を繰り返す。



「戦うんだ香飛利!」

香飛利
「誰と?」


アカン! 全部忘れとる!!
俺は頭が痛くなったから、もうテキトーにやる事にした。
ゲームだってんなら、もう何でも良いだろ!



「よし香飛利! あっちの方向に向かって、何でも良いから攻撃技を撃て!!」

香飛利
「はい〜これで良い〜?」


ゴォォォォォォォォォォォッ!!


部族A
「ギャアァァァァッ!?」
部族B
「熱いーーー!!」
部族C
「逃げろーーー!?」


何と、香飛利は容赦無く『熱風』で敵全員を薙ぎ払った。
今の一撃だけで、かなりの敵が焼け死に、前方は死屍累々…
うわ…まさか、ここまでとは。

既に敵は全員逃げ出しており、この場には俺たちだけが残っていた。
俺は思わずポカーンとしてしまい、ボーッとしている香飛利を見てこう聞く。



「…お前、いつの間に熱風なんて覚えてたんだ?」

香飛利
「解んない〜、いつの間にか覚えてた…お肉焼くのに便利だったかし」


いつの間にって…まさか本能的に覚えたのか?
まぁ、雑魚一掃には便利な技だが…
ポケダンとかだと、モンスターハウスで経験値荒稼ぎ出来る技だからな…



「とりあえず、この場を離れよう」
「またどんな敵が来るかも解らないし、まずはどこか安全な所を探さないと…」


「待ちな!! 逃がしゃしないぜ!?」


そう叫んで突然現れたのは、これまた原始人の様な皮の服を着た女性。
しかし、女性の頭には動物の耳みたいなのが付いており、どうやらポケモンの様だった。

白い短髪に、耳は左耳だけが赤い、服も赤と白の混合で、赤い部分は稲妻の様な模様になってる。
手首の当たりも赤い毛で覆われており、長く綺麗な白い尻尾がピンと斜め上に立っていた。
そして、こちらを睨む赤い瞳は完全に敵意を示しており、両手には黒く太い爪が伸びていた。

恐らくアレが奴の特徴だろう…見た感じ、強敵臭いな。


ポケモン娘
「よくも俺の仲間をやりやがったな!? テメェ等はここでブッ殺してやる!!」


物凄い物騒な事を言っておられる…つーか、もしかしてコイツがボスか?
だとすると、いきなり香飛利にこんなん倒せるのか!? いかにも強そうじゃねぇか!!


香飛利
「ひぃ〜〜〜〜!?」


「よし、逃げるぞ香飛利!?」


俺が香飛利に抱き付くと、香飛利は『電光石火』の速度で、空中に飛び出した。
相手は驚くも、空中に追い付く術は無い様だ。



「ふははははっ!! 見たか原始人!? これが現代人の知恵よ〜!!」

ポケモン娘
「ざけんな! 降りて来いコノヤローーー!?」


所詮、負け犬の遠吠えよな〜
この魔更 聖、勝てぬ戦いはしない主義なのだ!


フーパ
『まぁ、妥当っちゃあ妥当かね…やらせてみれば、良い勝負するかもしれないけど』


(勘弁してくれ…今の香飛利じゃ、あんな凶悪そうな相手はビビって戦えない)


とにもかくにも、香飛利は臆病なのだ。
本人が嫌がってる内は、とてもひとりでは戦えない。
だが、それもいずれ改善しなきゃならないだろう…この世界には味方はいないのだから。



………………………




「ふぅ…とりあえず、ここなら大丈夫か?」

香飛利
「洞窟みたいだけど、隠れられる…うぅ、お腹空いた〜」


香飛利は、早速洞窟内の奥の方で、岩肌に身を埋める。
そんなに大きな洞窟ではないが、雨風を凌げるのは大きい。
今は完全に深夜みたいだし、今日はとにかく寝よう…

香飛利は空腹でお腹を押さえながらも、そのまま睡眠に入った様で、次第に寝息を立て始めた。
俺も同様にその場で横になり、体が痛くない体勢を探して次第に眠りに入る。


フーパ
『寝込みを襲うなら今だよ? その娘は鈍感そうだから、寝てる間に膣内射精(なかだし)しても多分バレない』


(ド阿呆! 想像したら息子が反応するから止めい!!)
(つか、今から寝るんだから干渉するな!? 空気を読め!!)


俺が心の中でツッコムと、フーパはケタケタ笑う。
野郎…完全に遊んでやがる。
俺は気を取り直して眠りに着く。
フーパの事は完全無視の方向で、とりあえず落ち着いた。



………………………




「…う、朝か?」


あまり寝られた気はしないが、どうやら朝らしい。
今は、外から日差しが洞窟内に差し込んで来ており、入り口は明るかった。

俺はやや痛む体を無理矢理起こすが、例によって体が重い。
もしかしなくても、このパターンはアレだ…と俺は予測した。


香飛利
「ZZZ…」


「香飛利って、結構おっぱい大きいよな…」


香飛利は俺に抱き着いて寝ていたのだ。
流石に夜は寒かったのか、完全に密着しており、俺の背中に腕を絡めて顔を腹に押し当てている。
その際、胸が都合良く股間に密着しており、俺の息子は朝勃ちで猛り狂っていた。


フーパ
『よし、チャンスだ! そのまま服の隙間から胸の谷間にお前のイチモツを差し込め!!』


「朝からいい加減にしろ!!」

香飛利
「はひっ!?」


おっと、つい声に出してツッコンでしまった。
香飛利は俺の大声に驚いて目を覚まし、キョロキョロと周りを確認する。
俺は顔を手で押さえ、とりあえず香飛利を引き剥がした。



「…おはよう」

香飛利
「おはよ〜」


香飛利は、まだ眠そうだ。
コイツは元々良く寝て、よく食べる娘だから、普段は元気が余ってるはずなんだが…
いかんせん臆病な性格が災いして、争い事をとにかく避けてたからな…
せめて、戦う動機でも生まれれば、また違うのかもしれないが…


香飛利
「お腹空いた〜…」


「俺もだよ…でも、どうすんだよ…こんな世界で?」


一応、原始人らしいのが住んでるって事は、ここはそう言う舞台なのだろうが。
となって来ると、必然的に食料は狩り…か。



「とりあえず、狩りに行くぞ香飛利!」

香飛利
「無理です〜」


「出来なきゃ、俺もお前も死ぬんだぞ!?」

香飛利
「…あぅ」


俺の強い言葉で、香飛利は少し反応した…その顔は、涙目ながらも状況は理解しているって顔だ。
いつも誰かに手を引っ張られ、食べ物は貰うばかりだった香飛利。

今、香飛利は成長しなければならない。
例えひとりでも、ちゃんと戦って生きていける様に。



「大丈夫だ…香飛利だって、やればきっと出来る」
「熱風とか使える位だし、その気になりゃ他の技も使いこなせるだろ?」
「とにかく、食料が無けりゃ生きていけない…」
「行くぞ香飛利? お前が先頭に立って探すんだ」


それを聞いた香飛利は、勇気を出してトボトボ前を歩く。
そして、俺たちは洞窟から外に出たが…香飛利は見渡す光景に立ち尽くした。
そこは、まさに広大なサバンナ。
ちらほらと動物らしきものもおり、どうやら狩りをするには適している様だ。



「よし、まずは狩り易そうなのを1匹選ぶぞ?」
「あの辺の牛っぽいのにするか…牛肉なら焼けば食えるだろうし」

香飛利
「じゃあ、熱風で焼く〜」


香飛利は後先考えずに翼を前方にはためかせ、熱風を広範囲に放った。
すると、前方数百mに渡って草木は熱され、放射線上にいた動物たちは一気に焼け死んでいく。

流石は香飛利さん! 手加減という物を知らない!!



「あちゃ…また目立つ事を」

香飛利
「でも肉〜!」


香飛利はダッシュ(ホバータイプ)で、倒れている牛の元に向かった。
俺はやれやれと思いつつも、その後を追う…
まぁ、結果オーライという事にしておくか。



………………………




「これがバッファローって奴か? しかし、熱風じゃ思いの外焼けてないな…」


見た感じ現実の動物みたいで、別に異世界のモンスターとかそういうのでは無さそうだ。
良くテレビとかで見る様な感じの動物であり、多分肉は食える…はず!


香飛利
「とりあえず切るね〜」


香飛利は手から空気の刃を出し、牛の肉を捌く。
勿論、切り方は適当なので、大きさや部位はお構い無しのぶつ切りだ…



「今のは『エアカッター』か? お前って、特殊系の技が得意なのな…」

香飛利
「? よく解んない〜、でも飛道具の方が安全」


成る程…生きる上で、そういう方向に行きついたのか。
まぁ露骨に臆病な性格だし、そっちの方が確かに合ってるわな。



「とりあえず、熱風じゃ中まで火が通ってないみたいだし、どこかで別に火を起こそう」
「まずは薪集めて来ないとな…香飛利は水場を探してくれないか?」
「この肉は、とりあえず俺の鞄に入れよう…」

香飛利
「あい〜」


俺は肩に背負っていたショルダーバッグを取り出し、それに切り分けた肉を詰め込んで行く。
この際、鞄の汚れは無視した…まぁ、川とかあれば洗えるだろ。



………………………



その後、俺たちはたまたま川を近くに見付け、そこを拠点とする事にした。
後は薪を集めて、本格的にバーベキューの準備だな。



「とりあえず、こんなモンかな?」


俺は手頃な石をテキトーに積み上げ、とりあえず石窯っぽいのを作った。
前に愛呂恵さんが作ったのを参考にしたんだし、多分大丈夫だろ。

俺は鞄に入ってた肉を全部それに詰め込み、薪はその下に敷いておく。
後は、肝心の火を起こすだけだが…



「よし香飛利、コレに全力で熱風だ! 時間かかるかもしれないけど、頑張れ!」

香飛利
「難しいけど、やってみる〜!」


香飛利は、石窯に向かって熱風を放った。
熱が貯まるまでは、まだ時間がかかる…香飛利は辛そうにしながらも、翼を何度もはためかせて頑張っていた。
すると…やがてその努力は実り、釜の中ではパチパチと音を立て始めた。
薪に火が点いたのを俺は確認し、胸を撫で下ろす。

香飛利は流石に疲れたのか、肩で息をしながら、その場にへたりこんだ。
俺はそんな香飛利の頭を撫でてやり、釜の方に向かう。
薪に火が点いたので、釜の温度はかなり上がっている。
俺は木の枝で中の肉を動かし、それからしっかりと焼き上げていった…



………………………




「あちちっ! とりあえず、これ位で良いだろ…調味料は無いけど、我慢は出来るな?」

香飛利
「あい〜♪ ハムムッ!! 美味しい〜♪」


香飛利は、早速素手で食べ始める。
焼き立てだから相当熱いんだが…香飛利は平気なのか?

俺は流石に軽く息を吐き、木の枝で作った箸を使って肉を頬張る。
ふむ、確かに意外と味はあるな。
肉本来の旨味という奴だろうが、案外しっかりと食える物だった。



「この量だし、香飛利もちゃんと満腹になれるな?」

香飛利
「ハムハムッ!!」


香飛利は、もう何も聞こえてなかった様だ。
守連や三海に負けず劣らずの大食いだからな…ある意味、香飛利も原始人みたいだ。
ちなみに香飛利の服は夏服であり、今は半袖短パン。

俺もTシャツに夏用の薄いズボンだが、予想以上にこの世界は気温が高い。
加えて全身砂だらけだし、清潔感が皆無だな…
改めて愛呂恵さんがいてくれれば、こんなサバイバルでも快適に暮らせるのだというのを思い知らされる。

香飛利にそんな器用な事、とても要求出来んからなぁ…



………………………




「…流石に、残りを持ってくのは止めとくか」

香飛利
「でも、勿体無い〜」


香飛利は、名残惜しそうな顔だった。
が、俺の小さなショルダーバックじゃ、とても保存は出来ない。
とりあえず、残りは他の動物に差し上げるとして…今は移動だろう。

ラスボスがどこにいるか、皆目検討も付かないし、まずは情報収集だ。
と、俺がそんな事を考えて立ち上がったら、いきなり後ろから声をかけられられた…



「やっと見付けたぞ、コノヤロウ!!」


「おいおい、朝イチからかよ…まぁ、肉食って落ち着け」


とりあえず、いきなり因縁を付けられた。
俺はため息を吐き、ソイツが昨日見た相手と同一だと判断し、残していた焼き肉を箸で挟んで相手に差し出す。

まぁ、もうとっくに冷めてるがな…


ポケモン娘
「くっ、食料で釣ろうってか!?」


「つーか食い切れなくて逆に困ってたからな、良かったら残り全部やるよ」

ポケモン娘
「全部!? い、良いのか!?」


何だ、露骨に釣れたな。
まぁ、どの道俺たちは満腹だし全然構わない。
放っといたら、どうせすぐに腐るしな。



「好きにしろよ、じゃそういう事で…」

ポケモン娘
「待てい! 逃がすとは言ってねえぞ!?」


俺は指差されて止まる…やれやれ面倒な奴だな。
俺は鬱陶しそうに頭を掻くも、相手はまずこう言った…


ポケモン娘
「とりあえず、食わせてもらうからには、昨日の事はチャラにしてやる!」


チャラかよ!? 安いな仲間の命!!
まぁ、弱肉強食のこの世界、弱者の命よりも食料か…
背に腹は変えられんのだろう…


ポケモン娘
「ウメェ!? と、とりあえずお前らには借りが出来た! 俺もお前らに付いて行くぜ!!」


謎のポケモン娘は、肉を頬張りながら頬を膨らませ、そう宣言した。
おいおい…何か妙な展開になって来たぞ?
ここに来て、まさか仲間が増えるのか?


フーパ
『ウホウホッ! ザングースが仲間になった』


「ナレーションかよ!? つかコイツ、ザングースだったのな…」


よく見れば、特徴は確かに一致してるもんな…
とはいえ、見た目はまさに野性児だが。


ザングース
「ウマイ〜♪ 久し振りの肉だ〜!」


「あん? お前、仮にもあの部族のリーダーだろ? なのに、肉のひとつも食えなかったのか?」

ザングース
「あんな雑魚共じゃ、狩りとか出来ねぇよ…」
「ウサギとかネズミならともかく、こんな牛とか絶対無理!」


「いやいや、お前の立派なその爪は飾りか!?」
「いかにも強そうな感じだろ! 自分で狩れよ!!」

ザングース
「いやぁ、これはこれで使い難いんだよね〜石で作った奴だし」


そう言って、ザングースは石で出来ていると言う爪を指から外す。
見た目おかしいとは思ってたが、填めてただけなのかよ!!
もしかしてコイツ、案外見かけ倒しなのか?



(おいフーパ、お前コイツのレベルとかって解るのか?)

フーパ
『今すぐ香飛利を押し倒すなら、教えてやっても良いよ?』


(役に立たんな…もう良い)

フーパ
『ああん待って!? 邪険にされたら返って萌えちゃう♪』


(猫なで声を出すな! 演技なのがバレバレだぞ…)

フーパ
『ちぇっ…まぁ良いや、ザングースのレベルは15ってとこだね』
『ちなみに、香飛利は30位あると思うよ?』


ぬ…? となると、香飛利は意外にやれるのか。
まぁ仮にも進化系なんだし、最低限のレベルはあると思ってたが。



(つーか、倍のレベル差かよ!? まぁ、今回は香飛利が主人公だし、補正って事でしゃあないとしとくか…)


とりあえず、俺たちは予想外にレベルの低かったザングースを仲間にし、ザングースの部族が根城にしてるという拠点に案内された。
ちなみに、どうやらこの世界ではポケモンたちもそれぞれ名前があるらしく、このザングースも『マリス』という名前があった…



………………………



マリス
「ヒャッハー! 飲め飲め〜!!」

部族A
「ウホッ! ウホッ!」
部族B
「客人客人!」


その日は、夜までどんちゃん騒ぎだった。
レベルは低くとも、マリスはしっかりとボスであるらしく、部下のナマケロたちにとっては、立派なリーダーの様だ。



(しかし、アイツ等ナマケロだったのか…他のザングース仲間はいないのか?)

フーパ
『まぁ、色々理由はあるからね…この世界じゃ、これが普通なのさ』


(フツー、ね…ちなみに、お前は別の世界から呼ばれたのか?)


俺の言葉に、フーパは黙る…俺は少なくともそう予想したんだが。
そして恐らく合ってる…フーパは巻き込まれたと言っていたし。
だけど、コイツの真意は謎だらけであり、正直信用して良いものかは悩み所だ…

更にこっちは、どの位の家族が巻き込まれているかも解らない。
ましてや、香飛利の様にひとりで何も出来ない様な娘が巻き込まれていたらと考えたら、気が気じゃないからな…


フーパ
『悪いけど答える気は無い、ちなみに信用する必要も無い』


(なら質問を変えてやる、お前は俺の敵か?)

フーパ
『そうだと言ったら?』


(何があっても、俺はお前を倒す…!)
(家族を巻き込まれた以上、俺は徹底的にやる)
(例え俺が死んでも、家族の命は絶対に救う!!)


俺は最大の気迫を込めて、フーパに感情をぶつけた。
フーパはそれを聞いて、少なからず機嫌を損ねた様だ。
だが俺にはそんなの関係無い…敵だと言うなら、俺は戦うだけだからな。


フーパ
『本当にムカつくジャリボーイだよ…自分が犠牲になってもだとか、偽善にも程がある』


(だからどうした? 俺は偽善者と言われても、意志を曲げる事は絶対に無いぞ?)

フーパ
『それが、家族を傷付けるとしてもかい?』


その一言で、俺は言葉を詰まらせる。
確かに、そういう事もあるのかもしれない…
悠和ちゃんの時も、女胤の時も、いやもっと辿れば、阿須那や光里ちゃんにだって…

俺は、少なからず自分のせいで誰かを傷付けている。
だけど、それは皆理解してくれての事のはずだ。
俺は皆に信頼されている以上、その意志を貫き通す義務がある。

そして、俺はアルセウスさんとの約束を果たさなければならない。



(俺は、俺らしくあれ…そうであれば、俺の歩む道は正しい道となる)

フーパ
『何だいそれ? もしかして、神にでもなったつもりなのかい?』


(違う…これは正真正銘、神様が自らの口で俺に伝えてくれた啓示だ)
(だからこそ、俺は自分と家族を信じる事が出来る…)
(例え、その為に家族が傷付いたとしても、俺は必ずそれを癒してやる!)


俺の強い意志に、フーパは数秒黙った。
何を考えてるのかは知らないが、よっぽど俺が気に食わないらしい。
だが、俺は曲げるつもりは一切無い。
ここまで信じて積み重ねて来た俺たちの絆を、俺は信じて守ってみせるさ…!


フーパ
『もう良いや…これ以上言い合っても腹が立つだけだ』
『どこまで行っても、君とは仲良くなれそうに無い』
『やっぱり、君とは敵同士がお似合いみたいだよ…』


それは、諦めに似た言葉とトーンだった…本心がどうかは知らないが。
だが、互いに譲れない物はある、だったら答えは簡単だろ。



(俺は絶対に家族を救う)

フーパ
『アタシは自由に生きる』


それが最後通告とも取れた。
互いに退くつもりはない、ならこっからは正真正銘の敵同士だ。
俺は必ず勝つ、そして全てを救う。



(…何を抱えてるか知らないが、俺は救うからには全部救うぞ?)
(例え、敵であるお前の事でも…!)

フーパ
『…!? 何を言ってる?』


(バレバレなんだよ、大方何か人質でも取られてるんじゃないのか?)
(あわよくば俺の力を利用して救う気だったか…だがそれが破綻したから、そうやって露骨な敵対心を見せた)
(まるで子供の駄々だな…本当なら自分で何でも出来たんだろうが)


ちなみにこれは俺の勘であり、ハッタリだ。
確信なんて何も無い…だが、ここまでのフーパの態度を考えて、俺はそう推測した。
そしてそれは案外的外れでもない様で、フーパは舌打ちだけし、次の言葉がすぐに続かない。

どうやら、少しは真相が聞けそうかな?


フーパ
『君は、どうしてそうまでバカなんだ?』


(バカじゃない、大バカなモンでね…)

フーパ
『…本当にムカつくよ、そしてそんな君に頼らないと何も出来ない自分は、もっとムカつく!』


フーパは本当に腹を立てている様だった。
とりあえず、これで互いの腹は割れたな…
なら、もう形だけの敵対をする必要は無い…こっからはちゃんと共同戦線で互いの大事な者を救うんだ!



(どうせ詳細は話せないんだろ?)

フーパ
『ああ、だからアタシが出来るのは君の案内だけ』


(なら俺を信じろ、お前の大事なモノも全部救ってやる!)

フーパ
『はは…本当に、大バカなジャリボーイだ』
『やっぱり…彼とは全く違うな』


空笑いみたいだが、フーパの声は笑っている。
ようやく割り切れたか…なら、もうこんな論議はいらない。



(この世界のボスについて、何か知ってるのか?)

フーパ
『いや、アタシにそれは解らない…ただ、この世界にとって、あまりに強大な力を持ったボスだと思われる』
『少なくとも、今の香飛利ひとりで倒せるレベルじゃないだろうね』


(だが、仲間を集めてレベルアップすれば…)

フーパ
『きっと勝てる…そう設定されてるはずだ』


設…定? 何だ、それは…? それって、何か重要な事を意味してるんじゃないのか?
いや…冷静になって思い出してみろ、フーパは最初に何と言った?


『この混沌は、いわばゲームさ』



(だとしたら、この混沌は作為的に生み出されたのか!?)


フーパは答えない…いや答えられない、か。
だったら、想像以上にこの混沌は大きい物なのかもしれない。

現在、夢見の雫は透き通った透明だが…
もしかしたら、何度も使う必要が出てくるかもしれない。
最悪、フーパの件もある…なるべく濁りは抑えないとな。


香飛利
「聖さん、どうかしたの?」

マリス
「聖、飲まないのか?」


気が付くと、香飛利とマリスが俺の顔を覗き込んでいた。
おっとっと…心の中で、フーパと長らく言い合ってたからな。
流石にぼんやりしていた時間が長すぎて、不自然に思われたか?



「はは、悪いな…ちょっと疲れてたから」
「後、俺は未成年だから酒は飲めない、香飛利も絶対に飲むなよ?」

マリス
「何だよ、ふたりともダメな口か?」
「ちぇっ、折角飲み比べ出来ると思ったのに…」


マリスはそう言って、大きな杯で酒をグビグビ飲んでいた。
結構強そうだな…まぁ、酒はとりあえずパスだ。
俺たちはフツーの水を貰う事にしよう。


香飛利
「野菜と果物ばっかりだけど、これはこれで美味しい〜♪」


見ると、香飛利はやっぱり食っていた。
その様子を見て、部族の皆はまたどんちゃん騒ぎ。
俺たちの事はとりあえず、仲間として認めてくれたらしい。

そして俺は考える…この先の事を。
まずは香飛利のレベルアップだ。
ついでに、マリスにも強くなってもらった方が良いな。
この世界がRPGなら、きっと雑魚敵を倒し続ければ前に進めるはず。
俺はそう思い、水をグビッと一杯飲んで果物を食べた。

確かにコレは美味いな…新鮮なのもあってか、甘酸っぱさがある。
さぁ、明日からは本格的にレベル上げだな!



………………………



香飛利
「あう〜」

マリス
「おりゃ!」


私は、朝から早くから特訓をしていた。
まずは実力を見ると聖さんが言ってたので、私はマリスさんと戦わされていたのだ。
物凄く怖かったけど…それでも聖さんの為だと思って、私は頑張っていた。


香飛利
「う〜やっぱり怖い〜」

マリス
「あ、こら空に逃げるな!」


「香飛利! それじゃマリスの特訓にならん!!」


聖さんに強く言われ、私は渋々地上に戻る。
怖い物はやっぱり怖い…でも、やらなきゃ怒られる。
私は、こんな争い事はしたくないのに…



「香飛利の方が強いんだから、何とか頑張ってくれ」
「雑魚戦はともかく、こういう時は相手に合わせてやらなきゃダメだ」


私は、涙目になりながらも頑張る事にした。
マリスさんは地上戦しか出来ない上に、遠距離技も使えないので回避はそこまで難しくない。
とはいえ、飛んで逃げるのは禁止されてるから、それはそれで辛かった…

とりあえず、そんなに速くもないマリスさんの動きを見ながら、私は地上スレスレで飛行し、その攻撃を回避し続けた。



………………………



マリス
「だーーー!! 当たらん!!」


「見事に扇風機だな…」

香飛利
「…スカイロトムだったの?」


「合ってるが違う! 振り回すだけが取り柄のパワーファイターに、しばしば付けられるアダ名だ」


成る程…確かにマリスさんは両腕をぶんぶん振り回すだけで、全く私には当たらなかった。
でも風切り音は凄かったから、そういう意味でも扇風機なのかもしれない。

当たれば凄そうなのにね〜



「とりあえず、香飛利に自信を付けさせる意味もあったんだが、見事に低レベルを露呈したな」

マリス
「しゃあないじゃん! 狩りもロクに出来ないんだから!!」


「偉そうに言うな…まぁ、とにかくお前はその爪の石を捨てろっ」
「それのせいで折角の特徴が、ほとんどスポイルされとるわ…」


聖さんがそう言うと、マリスさんは石の爪を全て外す。
それなりのサイズでもあるし、相当重かった思うけど…



「後は自分の爪で引っ掻いたりしてみろ…仮にもポケモンなんだから」

マリス
「うっし、こうか!?」


マリスさんは、ビュンビュン!と軽快に腕を振るう。
間違いなく、当たれば痛いと私は断言出来た。
聖さんもそれを見て満足げな顔をする。



「そうそう、他にもザングースならではの技とかあるだろうし、その辺はレベル上げて覚えるしかないな」


とりあえず、朝の特訓はここまで。
ここからは、朝食の為に狩りの時間だ。
私は既にお腹をとても空かしており、早く食べたいと心から思っていた…



………………………



マリス
「っしゃあ!」

香飛利
「えい〜…」


マリスさんは2本の足でサバンナを駆け、獲物を追いかける。
私は誘導されたそれに向かって、翼を振るいエアカッターを1枚投げ付けた。
風によって作られたそれは、鋭利な刃物となって獲物の体を容易く切り裂く。
獲物は首を落とし、そのまま体を倒れさせた…

少し残酷だったかもしれない…
私は、力の使い方をもう少し考えなければ…と、心の中で何となく思った。



「良いぞふたりとも! そのコンビネーションを忘れるなよ?」


倒された鹿?は、仲間のナマケロさんたちが回収していく。
部族の食料を確保するには、もう少し獲物が必要だ。


香飛利
「まだ獲物いる?」

マリス
「この辺からは逃げたっぽいな…でも、何か静か過ぎる気がする」


「どうかしたのか?」


マリスさんは鼻をふんふんと鳴らし、その後周囲を見渡していた。
すると何か見付けたのか、マリスさんはひとりで駆け出して行く。
私たちは?を浮かべるも…それを追って、マリスさんが立ち止まるのを待った。

そして、その先にあった物は…これから起こるであろう、何かを予感させる物だった。



………………………



マリス
「あった! 死体だ…」

香飛利
「う〜? でも、臭いが酷い…」


私は思わず鼻をつまんでしまった。
それ位、その死体は凄惨であり状態が悪い。
恐らく、仲間のナマケロさんのひとりと思われる死体だけど、体は何か酸性の液体で溶かされた様な感じになっており、物凄い臭いを発していたのだ…



「何だこりゃ…? まるで腐食させた様な臭いだが…」

マリス
「触るな! 毒が移るぞ!?」


思わず手を出そうとした聖さんは、マリスさんに言われてゲッ!?と言い、すぐに後ずさる。

マリスさんはこの臭いでも平気なのか、真顔でナマケロさんの死体を軽く見回し、そして再び周囲を見渡す。
そして今度は舌打ちし、顔をしかめてすぐに走り始めた。

私たちも、すぐにそれを追う。



「おい、今度は何処に行くんだ!?」

マリス
「敵の臭いだ! 多分、他にも仲間が狙われてる!!」


それを聞いて聖さんはまたギョッとなり、走る足を早める。
とはいえ、マリスさんの足は流石に聖さんより速く、とても追い付けそうになかった。

なので、私はこう言う…


香飛利
「聖さん、運ぶ〜」


「悪い香飛利! 頼むぞ!?」


私はあい〜と返事をし、聖さんを抱き抱えて空を飛んだ。
そんなに高度は上げず、低空飛行で翼をはためかせ、マリスさんの背中を追う。
そして、そのまま10分程移動すると…何かの集団を見付けた。



「何だありゃ? 蛇…って蛇人間!?」

香飛利
「ラミア〜」


前方に見えたのは、下半身が黒い蛇の集団。
だけど上半身は褐色の人肌であり、それは人間そのもの…
そんな集団のほとんどは男だったけど、その中にたったひとり女性がおり、その人だけ妙に威圧感があった。

その人を見て、マリスさんは怒り狂い殺意を露にする。


マリス
「ハブネークの野郎、ぶっ殺してやる!!」


「ハブネーク…? 成る程な、因縁って訳か!」


ハブネーク…確かザングースとは犬猿の中であり、遺伝子レベルで争い続けていると言われている種族だ。
この世界でもそれは例外で無い様であり、マリスさんの殺意は凄まじい物だった…


香飛利
「とりあえず、どうするの〜?」


私が聞くと、聖さんは少し考える。
マリスさんは既に頭に血が上っており、言う事は聞きそうにない。
相手のハブネークたちは男5人組と女性ひとりのグループであり、女性以外は全員、先端に石の矢じりが付いた槍を持っている。

体付きもかなりの物であり、いかにも強そうな見た目だ。



「話し合いは出来そうもないな…よし香飛利! 熱風で、敵だけを攻撃だ!!」

香飛利
「あい〜」


私はその場で急停止し、1度聖さんを地上に降ろした。
そしてすぐに上昇し、翼をはためかせる。
マリスさんはその気配を察知したのか、一旦その場で止まってくれた。

私はそれを確認してから熱風を放ち、ハブネークの集団は高熱の風で一気に体を焼かれる。
だけど、男のハブネークは女性のハブネークを庇う様に体を張り、壁になって守ろうとしていた…


ハブネーク女
「…くっ!? 何だ、あの鳥ポケモンは!?」

ハブネーク男A
「今ので3人やられました! こちらもダメージは甚大です!!」

マリス
「うらあぁぁっ!!」


更にマリスさんの追撃がハブネークたちを襲う。
マリスさんは自身の爪を持って、ハブネーク男の残りふたりを容赦無く切り裂いた。

その鋭さは特訓の甲斐もあったのか、一撃で首をかっさばいた程。
そして、マリスさんはそのまま残りのハブネーク女に目標を定めた。
だがハブネーク女は笑い、口を膨らませて何かを吐き出す体勢に入る。


ハブネーク女
「かっ!!」

マリス
「ちっ!!」


ハブネークの口から放たれた何かを、マリスさんはギリギリ回避してみせる。
マリスさんの後方に着弾した何かは地面を少し溶かし、そこからキツイ臭いを放っていた。



「今のは、まさか『胃液』か…! って事は、アイツ結構なレベルなんじゃ!?」

香飛利
「う〜臭い〜」


マリスさんは今ので距離を離され舌打ちする、それを見たハブネーク女は笑っていた。
そのままハブネーク女は体を大きく振り回し、長い尻尾でマリスさんの射程外から攻撃を放つ。
尻尾の先端には独特の切っ先が着いており、そこから紫のオーラが見えた。
マリスさんは反応するも、その切っ先で頬を掠められる…


マリス
「!?」

ハブネーク女
「はっ! 相変わらず弱いねぇ!!」


ハブネーク女は余裕を見せ、そう言ってマリスさんを嘲笑う。
部下を全て失ったにも関わらず、ハブネーク女は不適に笑っていたのだ。
それは、絶対的な自信の様だった。
マリスさんはワナワナと震え、怒りに任せてこう叫ぶ。


マリス
「クソが…! 今日こそテメェを倒して、ザングースの一族を復興してやる!!」

ハブネーク女
「ハハハッ! アンタみたいな弱者がよく言うよ!!」
「ザングースの落ちこぼれが、デカイ口を叩くな!!」


ハブネーク女の言葉に、マリスさんは言葉を詰まらせる。
相当悔しいのか、マリスさんは震えながらハブネーク女を睨んでいた。



「…ザングースたちは、ハブネークに部族を滅ぼされたのか?」

香飛利
「…でも、マリスさんは生きてる」


思えば、今まで不思議ではあった。
マリスさんは部族のリーダーなのに、他のザングースはひとりもいなかったのだ。
あのハブネーク女は、他のハブネークを従えていたのに、だ。

それはつまり、マリスさんたちザングースはハブネークたちに敗北した…?


マリス
「るせぇ!! 今日こそは、お前を倒す!!」
「仲間の仇は、今日ここで討ってやる!!」


マリスさんは完全に我を失っていた。
仲間の仇の為に、マリスさんは全力で戦おうとしている。
ハブネーク女はそれを見て笑っている…完全にしてやったりの顔だ。

それを見て、聖さんはすぐに遠くから叫ぶ。



「マリス!! 相手の挑発に乗るなーー!!」
「香飛利ー! ハブネークにエアカッターだ!!」


私は指示を受け、すぐに翼をはためかせて風の刃を作った。
少し大きめのそれが2枚飛び、ハブネーク女に真っ直ぐ向かっていく。
運良く急所に当たれば、儲け物だけど…


ヒュンヒュン!!


ハブネーク女
「ちっ!?」


ハブネーク女はすかさず反応し、エアカッターを回避した。
そして、憎らしそうにこちらを見て顔を歪める。
う…物凄く怖い!


ハブネーク女
「…空中で遠距離から攻撃出来る仲間とは、良い人材を見つけたねぇ〜?」
「いくら私でも、あの高度には攻撃出来ない…」
「ありゃ何モンだい? どこで見付けた?」

マリス
「知るかっ! テメェを倒せるならどうでも良い!!」


マリスさんは、エアカッターで体勢を崩したハブネーク女に近付いて爪を振るった。
だけど、ハブネーク女はそれを容易く片手で受け止める。

まだマリスさんの実力では、あのハブネーク女に勝つのは無理に思えた…
それが解っているのか、ハブネーク女は余裕の笑みでマリスさんにこう言う。


ハブネーク女
「少しは強くなったみたいだけど、まだまだ弱い!!」
「その程度で、私に復讐するつもりなのかい!?」

マリス
「ぐっ!?」


ハブネーク女は爪を受け止めたまま、長い尻尾を使ってマリスさんの首を締めた。
マリスさんは苦しそうにもがくも、抜けられそうには無かった。



「マズイ!? 香飛利、エアカッターで尻尾を狙え!!」

香飛利
「あい〜!」


私は再びはためき、エアカッターを1枚放つ。
狙いは、ハブネーク女の尻尾。
当たれば切る事も出来るはずだけど、ハブネーク女はすぐに尻尾を離して回避する。

やっぱり、怖がってる? 私の技を…?


ハブネーク女
「ちっ…こうも邪魔されちゃ、やってられないねぇ…」
「良いさ、今回は見逃してやるよ!!」
「精々自分の弱さを噛み締めな!! アンタに私は永遠に倒せない!!」


そう言って、ハブネーク女は足早に去って行く。
そのスピードは中々の物で、器用に蛇の体を使って逃げて行った。


マリス
「くそっ、逃がす…」

「止めろマリス!! 今のお前じゃ無理だ!!」


聖さんが強く引き止め、マリスさんは止まる。
そして、マリスさんは悔しそうにその場で震えていた。
勝てないのは、自分でも理解しているはず。

だからこそ、聖さんの言葉でちゃんと止まれたのだ。



「多分、あのハブネーク女は今のお前よりも強い」
「追った所で、返り討ちに合うのがオチだ」

マリス
「…だけど、それじゃ仇は討てない!!」


「冷静になれって言ってんだ!! 頭に血が上ったお前で何が出来る!?」


聖さんは、珍しく言葉を荒らげてマリスさんを叱った。
マリスさんは聖さんの気迫に押され、何も反論出来なかった。
ただその場で項垂れ、マリスさんは自分の力の無さを悔やむ事しか出来ない様だ。


マリス
「チクショウ…何で、俺はいつも……」


「泣くな! お前だってまだまだ強くなれる!!」
「強くなって、今度こそ見返してやれ!!」


マリスさんは、涙を拭きながら頷く。
マリスさんは、強い…私だったら、きっと泣いて何も出来ない。
聖さんは、やっぱり凄いんだ…こうやって、いつも誰かを元気付けられる。

私は、そんな事絶対に出来ない…



………………………



マリス
「なぁ、本当に俺は勝てるかな?」


「何言ってんだ…勝たなきゃ、仇は討てないんだぞ?」


私たちは1度拠点に戻り、得られた食料で食事を取っていた。
全員分には肉が足りないけど、足りない分は果物や野菜で補っている。
私は、今日は少し控えめに食べる事にした…



「どうした香飛利? 食べなきゃ力出ないぞ?」

香飛利
「…でも、皆がお腹空いてるのに」


「…ははっ、香飛利が食べ物で他人に気をかけるなんてな」


聖さんは優しく笑い、私の頭を撫でてくれた。
私は体がぽ〜っとなり、体温が上がるのを感じる。
聖さんはやっぱり優しい…私みたいなダメなポケモンでも、ちゃんと誉めてくれる。

こんな私でも…強くなれるのかなぁ〜?



「香飛利は、優しい娘だなやっぱり…」
「臆病で泣き虫だけど、それでも優しい」
「だから、香飛利も強くなるんだ…その手で、誰かをちゃんと守ってあげられる様に」


私は、それに頷く事が出来なかった。
それでも、頑張ってみようとは思う。

聖さんがいるなら、きっと私は頑張れるから…



………………………



…だけど、その日の夜の悲劇は起きる。


パチパチパチパチッ!!


火花をあげ、拠点の家屋が燃えていく。
その時、私たちは完全に眠ってしまっており、いとも容易く敵の夜襲は成功される事となったのだ…


香飛利
「聖さ〜〜ん!! 聖さ〜〜〜ん!!」


火の手に気付いて私は飛び起き、まず聖さんを探した。
私は思いっきり叫ぶも、反応は返って来ない。
どんどん炎は広がってる…私は危険を感じながらも聖さんの姿を泣きながら探した。

この拠点は、いくつかのテントが点在してるタイプだ。
ひとつのテントには、それぞれ何人かのナマケロさんたちが寝泊まりしており、私や聖さん、マリスさんはそれぞれ個人用のテントを使っていた。

聖さんは私のテントの隣で寝ていたはず…それなのに、声が届かないのは流石におかしい。
私は、思わず最悪の結果を想像し、その場で天を仰いだ。


香飛利
「うぅ…ひっくっ! …聖さ〜〜〜ん!!」


私の泣き声は、空しく夜空に響き渡る。
次々と焼け落ちていくテントたちの真ん中、焼けつく炎の明かりに照らされながら、私はただひとり朝まで泣き続けた…



………………………



香飛利
「………」

マリス
「…お前、ずっとここにいたのか?」


気が付けば朝、私は側に近付いて来たマリスさんの姿を、視線だけ向けて見る。
マリスさんは今までどこかに避難していたのか、傷や火傷等は見当たらなかった。

私は視線を外し、三角座りの状態のまま顔を膝に沈めて震える。
そんな姿を見て、マリスさんは舌打ちした。


マリス
「何やってんだお前は!? こんな所で泣いてて、何してんだよ!?」

香飛利
「…ぅぅっ、ひっく、ひっく…!」

マリス
「違うだろ!? 泣くんじゃなくて、立つんだよ!!」
「そんなんじゃ、聖は助けられないぞ!?」


私はガバッ!と顔を上げる。
聖さんが…生きてる?


マリス
「ハブネークの野郎たちが、夜ここに火を放って、聖を連れ去ったんだ!」
「俺はそれを追いかけてたんけど、あまりの敵数に邪魔されて振り切られた…」
「んで、お前の姿を探してたら、こんな所にいやがって…」


私は手の甲で涙を拭い、ゆっくりと立ち上がる。
まだ、希望は残されていた…聖さんが生きてるなら。
私は…私がやるべき事は。


香飛利
「聖さん…助ける……!」

マリス
「あぁ、やってやろうぜ!! そんで、仲間の仇も取るんだ!!」


私たちは、共に手を繋いだ。
そして完全に焼け落ちた拠点から離れ、ふたりだけで歩く。

少し歩いてから、私はふと振り返り、拠点の跡地を見て悲しくなった。
あそこには大勢のナマケロさんたちがいたのに、皆いなくなってしまった。
ナマケロさんたちは何をするにも鈍臭く、あんな火災の中ではきっと全滅してしまっただろう…

私は、悲しい風の音を聞いて、ただ祈った。
どうか、安らかに天国へ行けます様に、と…



………………………



マリス
「ほら、これやるから使えよ」

香飛利
「…ナイフ?」


その日の夜、私たちは野宿をする事になった。
私は聖さんに教わった火の起こし方で焚き火を作り、休憩していたのだ。
そして、マリスさんは石を丁寧に削ってナイフを作り、それを私に渡した。

それは刃渡り30p程の物で、結構重い。
何とか振り回せはするけど、ちゃんと切れるんだろうか?


マリス
「まぁ、お前の場合は護身用だよ…接近戦が苦手そうだし」
「その分、貴重な遠距離技持ってんだから、羨ましいけどな…」


そう言って、マリスさんは革の手袋を身に付けた。
甲の部分には石でガードが付いており、どうやら防御用の様だ。
指先には穴が空いており、そこから指先が出ている。
あれなら、爪での攻撃も問題無い。


マリス
「とりあえず、これに仕舞っとけよ」


マリスさんは更に革袋を渡す。
どうやらナイフを入れる為の様で、革のベルトまで付いていた。
私はそれを肩に袈裟懸けし、袋にナイフを入れる。

これなら持ち運びも楽で、すぐに取り出せる。
マリスさんはそれを確認すると、その場でゴロリと寝転がり、眠る体勢に入った。


マリス
「神経研ぎ澄ましとけよ? いつ何に襲われるか解ったもんじゃねぇからな…」

香飛利
「うぅ…ゆっくり寝たい」


とはいえ、泣き言は本当に言ってられない。
ここは野生の空間なのだから、敵はどこにでもいる。
弱肉強食…私は、その中じゃいつも弱い立場だった。
でも、もう弱いままじゃいけない。

聖さんを助ける為に、勇気を振り絞らないと…!
この世界には、他に助けてくれる家族はいないのだから…



………………………



それから数日、私たちはひたすら歩いた。
ハブネークたちの拠点はまだ見付からず、私たちはひたすら野生の動物と戦い、経験を積んで行く。

マリスさんは、気が付けば色々な技を覚えていき、私は戦い方の基本を学ぶ。
そして、次第に解り始めてきた…自分の技の、使い方という物を。


香飛利
「う〜!」


ビュゴゴゴゴゴゴゴッ!!


私は空中でクルリと高速回転し『竜巻』を起こす。
それに巻き込まれた牛は宙へと浮き、身動きが取れなくなった。
竜巻と言っても、私が起こす物はそんなに威力は無い。

あくまでドラゴンタイプの小技であり、こうやって獲物を怯ませるのが主な目的だ。
そして、絶好のタイミングでマリスさんは華麗に宙を舞い、無防備な牛の首を一撃で跳ね飛ばしてみせた。


マリス
「うしっ! これで今日の食料確保!!」


マリスさんは、日に日に強くなっていく…
ちょっと前まで、ひとりで狩りも出来なかった人なのに。
やっぱり、聖さんとの出逢いは奇跡を起こすのかもしれない。

マリスさんは、きっと何度打ちのめされても、挫けなかったから強くなれるんだろう。
そして、あんな風にまだまだ強くなっていくんだ…

私も、強くなれるんだろうか?
守連ちゃんや、鐃背さんみたいに、少しでも近付けるんだろうか?
そうしたら、聖さんを守る事も出来るんだろうか?



………………………



マリス
「俺な…元々ハブネーク族と互角に戦ってた、ザングース族の末裔なんだ」

香飛利
「族…?」


マリスさんは、コクリと小さく頷く。
その日の夜、私たちは牛肉を焼いて食事を取っていた。
その最中、唐突にマリスさんは語りだしたのだ。

私は肉を頬張りながらも、その話を真剣に聞いていた。


マリス
「俺は当時から弱っちくてよ、よく苛められて泣いてたんだ…」

香飛利
「え…?」


このマリスさんが、苛められて泣いていた?
どう考えたって、今のイメージに合わない。
豪快な性格で、変にドジで、闘争本能丸出しのマリスさんが…?


マリス
「一族の大人は皆強かった…それこそ、ハブネークたち相手にも劣らない程に」
「でも…ある日、悲劇は起きたんだ…」

香飛利
「…悲劇?」

マリス
「ハブネークたちは、夜襲を仕掛けてザングース族の村を滅ぼした」
「それまで正々堂々と勝負してきたハブネークが、急に卑怯な手を使って来たんだ」


つまり、寝込みを襲われてマリスさんたちは敗北した?
どうして、急にハブネークたちはそんな行動を取ったんだろう?
少なくとも、それまではほぼ互角、互いに拮抗した戦いを続けていたと言う事なのに…

何か、理由があったんだろうか?


マリス
「私は弱いから、その場から逃げる事しか出来なかった」
「ただ泣き叫ぶだけで、強くもなろうとせず、ただ逃げ惑っていた…」


それは、まるで私の様だった。
私もそうだ…大して力なんか無い。
だからいつも、強いグループに何となく混じって、いつも何となく生きていた。

聖さんたちに出逢うまで、私はただ与えてもらうだけの存在だったんだ…
そうしなければ、生きてはいけなかったから…


マリス
「…結局、俺は弱いままだった」
「復讐の事は頭にあっても、勝てる見込みなんか全く無い…」
「それでも力を誇示する為、大して力も無いナマケロの集団を支配して、それで強くなった気になってたんだ…」


つまり、ナマケロさんたちの事はあくまで利用するだけの存在だった?
でも、マリスさんはとても楽しそうにナマケロさんたちと酒を飲んだりしてた。

仲間がやられたら、怒って仇を取ろうとする。
そんなマリスさんが、ただ力を誇示するだけの理由ででナマケロさんたちを従えるとは、私には思えなかった。


マリス
「でも、聖は俺に教えてくれた…強くなる事の本当の意味を」
「そして、改めて俺は思い出した…ハブネークたちへの復讐を!!」


マリスさんは、いつになく怖い顔で決意を固めている。
私はそれを見て、逆に悲しくなった。
憎しみなんて、嫌だ…

誰かを憎む位なら、私は騙されたとしても信じたい…


香飛利
「…私は、聖さんを助けるだけで良い」

マリス
「それで良いんじゃないか? 俺はハブネークを倒したいだけだし…」
「一応利害は一致してるんだ、なら手を組んで共に目的を果たそう」

香飛利
「でも、それじゃあマリスさんは聖さんに嫌われる…」


そんな私の言葉に、マリスさんは目を見開いて呆然としていた。
意味は解ってない顔だ、私は恐る恐るこう付け足す。


香飛利
「聖さんは、誰かを憎んだりしない…」
「辛い事なのは解るけど、それでも誰かを憎んだら、自分もきっと憎まれる…」

マリス
「…だけど、俺はハブネークを許せない」

香飛利
「でもハブネークを殺したら、今度はマリスさんがハブネークに恨まれるんだよ?」


マリスさんは、顔を俯けて黙ってしまった。
きっと解っているはず、マリスさんは私と同じだもの。
私は争いたくないから、いつも逃げて誰かに与えてもらっていた。
マリスさんも、弱いから誰かを頼って、利用して生き延びて来た。

私たちは、互いに似た様な生き方をしている。
だったら、マリスさんには私の気持ちも解るはずだ…
きっと、マリスさんも優しい人のはずだから…

傷付けられる事の、痛みを知っているのだから…


マリス
「ハブネークを、許せって言うのか?」

香飛利
「違う…そうじゃない〜」


私は、首を横に振って否定する。
マリスさんの思いも解る…だから、単に許すとかそういう事じゃなくても良い。


香飛利
「…戦っても良い、でも相手を憎まないで〜?」

マリス
「何だって…? どういう意味だよ、そりゃ?」


私にも、上手く説明出来なかった。
でも、きっと聖さんならそう言うと思う。
聖さんは、憎しみでは戦わない…例え、仇の相手でも。

私は、絶対に聖さんならそうだと、確信していた。
だって…信じているから。


香飛利
「聖さんを見たなら、きっと解るよ…」
「だから、憎まないで…」

マリス
「意味が解かんねぇよ…でも、お前がそこまで言うなら、ちょっと考えてみる」
「お前は、俺よりも強いもんな…」


強い…の? 私が…?
私には全く理解出来なかった。

私は生まれて此の方、1度たりとも自分が強いと思った事などは無い。
だからいつも逃げて、泣いて何かにすがっていた。

でも…今は聖さんを助けたいから、踞ってもいられない…そんな私は、強くなってたの?
なら、聖さんは誉めてくれる?

私は、頭を撫でてくれる聖さんの手の温かさを、ひしひしと思い出した。
そして…それを思い出して、次第に涙する。
私は、聖さんを助けたい…でも争いたくない。
それでも、私は戦わなければならないの? 私が、強いから?

聖さんがいたら、何て言ってくれるんだろうか?
頑張れっ、て…背中を押してくれるのかな?
きっと、笑ってそう言ってくれる気がした。

そう思うと、臆病な私でも、その時は強くなれる気がした。
だから、まだ頑張ろう…


香飛利
(聖さんを、助ける為に…)



………………………




「さしずめ、囚われの王子様ってか?」

ハブネーク女
「まぁ、気の毒だがな…」


俺はどこかの洞窟に連れ込まれ、穴蔵に監禁されていた。
ただ、別に牢屋の様な類いでは無く、俺の手足は岩壁に蔦の様な物で縛り付けられているだけだ。
とはいえ、かなり頑丈に作られている蔦の様で、俺の力ではとても千切れる代物じゃない。
ハブネーク女は、俺を見下ろして妖艶に笑っていた。

改めて見ると、かなりの美人だな…
腰の下まで伸びる紫の長髪ストレート、釣り眼かつ、細目の瞳は妖艶で大人の魅力を感じさせる。
服は黒の布巻を胸と腰に巻いてるだけであり、かなりの爆乳。
ぶっちゃけ、下半身蛇じゃなきゃエロさは満点だ。


ハブネーク女
「お前は予言にあった異端者らしい、後に我々の為に生け贄となり、我々はそれで神の恩恵を授かる…だそうだ」


「生贄…だと?」


「その通り…お前は存在してはならぬ異端者よ」


ハブネーク女の背後から歩み寄って来たのは、何やら布の紫ローブを身に纏った老人だった。
白い前髪は目の上を覆っており、頬骨はやや痩せこけている。
右手には緑の扇子?みたいな物を持っており、それは葉っぱで出来ているみたいだ。
腰は曲がっており、歩くのもしんどそうな感じだな…


老人
「この世界に人間という生き者は存在しない、故にお前は予言にあった異端者だと断定出来る」


「…俺以外に、人間が来てたという可能性は無いのか?」

老人
「その可能性は否定出来ない、だが予言では現れるのはひとり」
「私は予言を受け、7の月と15の日が過ぎた時、人間と呼ばれる異端者が現れると突如知らされた…」
「我らと同じポケモンではない、人間と呼ばれる生き物」
「それは、この世界に破滅をもたらし、やがて我々を滅ぼすとされる…」


何てこった…そこまでデタラメ言われるとは思わなかった。
何の根拠があって、俺がそこまで恐れられる?



(それとも…雫の暴走を示唆してるのか?)

フーパ
『これはあくまでシナリオだよ、そいつ等はそれに踊らされてるにすぎない』


フーパは、そう言って呆れている様だった。
つまり、これもシナリオの上でイベントみたいなモンか…
そしてそれも、所詮ゲームの一環に過ぎない…

逆に言えば、俺はそのシナリオに沿って流されるしかないって事か?


ハブネーク女
「まぁ、勿体無いけどねぇ〜? 折角活きの良さそうな男だってのに…」
「なぁ、殺す前に種貰っちまっても良いだろ?」


この場合の種とは、もしかしなくても子種の事でしょうか?
だとすると、色々とマズそうな展開になってきたが…


フーパ
『…少し、期待してんだろ?』


「するかっ! 俺は不沈艦だ!!」


俺はつい叫んでしまった。
ハブネーク女と老人は?を共に浮かべている。
いかんいかん…少しは冷静ならねば。
とりあえず、老人は息を吐いて気を取り直し、ハブネーク女にこう言った。


老人
「いかんぞ長? この人間とやらの種など残すべきではない」
「ましてや、どの様な異形の子が産まれるかも解らぬ、お前とて種を脅かす可能性は望まぬだろう?」


このハブネーク女は、長と呼ばれた。
成る程…って事は、このハブネーク女がハブネークたちのトップって事だ。
しかし、それならこの老人は何モンだ? 見た感じ類人猿系に見えるがナマケロ系列じゃないな…
俺は見た目の特徴から予想する…そして、割とすぐに答えは出て来た。



(ヤレユータンか…賢者ポケモンと言われるだけに、知能はありそうだな)

フーパ
『正解、流石にポケモンに関しては詳しいね』


あくまで自称ライトプレイヤーだがな…
それに守連たちに出逢ってからは、ゲームも起動してない。
まぁ、それでもネットとかで知識は得てるんだが…

現実のゲーム内設定ってのは、案外人化したポケモンたちにとっても重要な要素になるからな。


フーパ
『とりあえず、生贄イベントは避けられない』
『今は流れに身を任せれば良いさ…どの道、君は絶対に死なないんだから』


(!? どういう意味だ?)

フーパ
『簡単な事だよ、君はゲームにとってはクリアアイテムなんだから』
『君が死ねば、ゲームはクリア不能のクソゲーと化す』
『そんなの、ゲームデザイナーからしたら、ただの失敗作だろ?』
『だから、製作者が君を必須アイテムに設定してる時点で、君は何があっても死なない…』
『ただし、痛みや絶望は味わうかもしれないけどね…』


フーパはククク…と悪党っぽく笑い、俺の恐怖を煽ろうとする。
だが、俺は逆に落ち着いてしまった。
それならそれで、返ってやりやすい。
俺は俺の役目を全うすれば良いって事だからな…なら、きっと香飛利が助けてくれるさ。

アイツだって、やれば絶対に出来るって信じてるからな!


ハブネーク長
「…アタシは興味あるけどねぇ、こいつの種で何が産まれるのか?」
「産まれるのは、人間? ハブネーク?」
「それとも、もっと異形の何か?」
「アタシは確かに種の存続は最優先だ、だけど歴史に名を残せるなら、それもまた重要な意味を持つと思ってる」

ヤレユータン
「よせ、それは予言に無い結果を生む!」
「良いか? 決してその男には手を出すな! これは神の力を授かる為の試練なのだ!!」


そう釘を刺し、ヤレユータンは重たそうな体を動かして去って行った。
ハブネークの長はそれを見てため息を吐き、肩をすくめる。
そして、妖艶な笑みを浮かべて俺の顔を一瞥し、それから背を向けた。
何だ…? あの女、何かを企んでるのか?


ハブネーク長
「そうそう、言い忘れてた…アタシはぶっちゃけ、神の力とか何の興味も無い」
「あるのは種の繁栄と、恒久の安心のみ!」


ハブネークの長は俺に背を向けたまま、両手を横に広げてそう宣言する。
そして首だけをこちらに向け、横目で微笑みこう呟いた…


ハブネーク長
「アタシの名は『セヴァ』…もし機会があったら、その時は子を成そう♪」


「………」


セヴァと名乗ったハブネークの長は、それだけ言って去って行った。
やれやれ、コレは一層気を引き締めないとな…
後、蛇女の体相手だと、どこで繋げるんだろうか?


フーパ
『そりゃ、あんな体でも突っ込む穴はちゃんとあるって事だ』


「…ですよね〜」


俺はそう呟き、頭を抱えてため息を吐く。
繋がれた蔦の長さには余裕があり、手足は割と自由ではあったのが幸いだな。

しかし…この状態で便所とかはどうなるのだろうか?
見た所それっぽい器材は見当たらないが…


フーパ
『こういった洞窟生活では、穴を掘ってそこに用を足すんだよ』
『そんで、臭いがキツくなったらそこを埋めて、次は別の穴を掘るんだよ』
『ああ、ちなみにアタシの事は気にするなよ?』
『君のピー!なんか見ても、別に欲情しないから♪』


(やかましい! 仮にも見た目幼女の女が卑猥な言葉を堂々と放つな!!)


まぁ、ピー音で隠してはいたが、この作品で異例の処置だ。
流石に他作品からのゲストにいらん事言わせるのはアレだからな…
あくまでゲスト! だから一応、少しは気を遣ってるの!!


フーパ
『まぁ、今更だけどね〜』


「…はぁ、とりあえず寝てよ」


俺はその場で横になり、とりあえず眠る事にした。
布団も何も無く、ぶっちゃけかなり寒い…
やれやれ…生贄とはいえ、扱いは最悪だな。



………………………



セヴァ
「やれやれ…全くこんな時に、男共は全員出払ってんのかい?」


アタシはため息を吐き少しイラつく…今は少々性欲を持て余しているからね…
いつもなら、こういう時はイキの良い男とまぐわるもんだけど…
どうやら狩りに全員出ているらしく、残っているのはまだ幼い子供たちばかりだった。


子供A
「ママ〜♪」

子供B
「ママ、また狩りに行くの?」


アタシは笑い、近寄って来るふたりの子供の頭を撫でてやった。
基本的に、一族で大人の女は長のアタシだけ…
他に大人の女はまだ存在せず、一族の存続はアタシの手に委ねられている。

無論、子供たちには女もいるし、それが育てば新たな長となるだろう。
だけど、予言は既に正確な歴史を彩り始めた。
もう、子供たちが大人になるまで猶予は残されていないらしい…
だからこそ、あの異端者を生贄とし、予言を完遂させて種を守らなければならないのだ。

だけど、アタシは正直予言なんて信じちゃいない。
ヤレユータンの『オラングル』は、バカみたいに信望してるけど、それが本当に何だと言うのか?
確かに、予言通りに今は進んでいる。
だけど、あの少年が本当に世界を滅ぼす様な存在なのだろうか?
アタシには、何か裏がある気がしてならないよ…


セヴァ
「そうだな、お前たちの食料がいるからな…」


今いる子供たちは、総勢10人。
その中で女はひとりだけ…どうにも、アタシからは男ばかりが産まれるらしく、これは何かの呪いなのかねぇ?
同世代の女も皆死んだ、過去にザングース族を滅ぼそうとした時、戦いには勝ったものの、失った損失も無視は出来なかったのだ…

それは、女の不足…残されたアタシは当時若くして長となり、種の存続の為に子を成す役目が与えられた。
だけど、アタシはあまり良い母体ではないらしく、産まれてくる子供の多くはすぐに病死したり、他の生物に食われたりしたのだ。

その為、多くの子を成したにも関わらず、生き延びているのはたったの10人…
奇しくも、この世界を生き抜くにはアタシたちの力は大きくない。
他の部族の連中も、隙あらばアタシたちの拠点を狙ってる。

予言云々ではなく、アタシたちにはこの今を生きるという現実の方が大問題なのだ。
その為には、低い可能性に賭けてでも、あの異端者の人間に賭けた方が良いのでは?とさえ思っている。


子供A
「頑張ってママ! ママが1番強い!!」

子供B
「アタシも、ママみたいに強い女になるからね!?」


アタシは、唯一生き残ってくれた娘を優しく抱き締めた。
この娘だけは、絶対に守ってみせる…
例えアタシが死んでも、この娘が生きてくれれば種は残る。
だから、アタシは戦う…子供たちの為、種の存続の為。


セヴァ
「じゃあ、行って来るよ…期待して待ってな!」


アタシは特注の石槍を持ち、出撃した。
通常の槍とは違い、全てが石を削り出して作られたそれは、一族ではアタシにしか使えない。
その重量は、大人の男衆でもマトモには扱えないからだ。

だけどアタシはこれを片手で軽く扱える力がある。
故にアタシは長なのだ…長は1番強くなければ長ではない!



………………………



セヴァ
「…ん? 空気が温い?」


アタシはサバンナを適当に進んでいると、急に空気が温くなったのを感じた。
そして、風を感じて何があったか推測する。
それは、既にアタシが体験した風に似ていた。


セヴァ
(この風、温度…まさかあの鳥ポケモンか!?)


間違いなく熱風の後だろう。
このサバンナには、そんな技を使える種族は数少ない。
炎タイプ自体は存在しているものの、部族としては小規模だからね。
それに、そんな力を持った部族はこの辺じゃ聞いた事も無いし…


セヴァ
(地面には焼けた後が無い、地面を焼かずに空気だけを焼いたのか?)


アタシはそう推測してみる。
だとすると、相手はかなり技の使い方を心得てる可能性が高いと思えた。
そして、この近くにいたとなると…あの異端者を取り戻しに来ているのか?


セヴァ
(なら、結構な所まで近付いてるねぇ…あれから10日以上は経過してるってのに)


アタシは槍を強く握り締め、周りを見回す。
そして、割りとすぐに目標は見付かった。
アタシはすぐに舌打ちする…見ると、前方からザングースのバカが駆けて来ているのだ。
臭いで感付かれたな…交戦は避けられないか。

アタシは戦闘体勢に入り、移動を開始した。
ザングースは一足先にこっちへ接触する。
鳥ポケモンはやや後方から追いかける形だ、なら先にザングースを瞬殺して一対一に持ち込む!!


マリス
「ついに見付けたぞ! このクソッタレがぁ!?」

セヴァ
「はっ! 雑魚がイキがんじゃないよ!?」
「貴様はここで殺してやる! さっさと諦めな!!」


アタシは上段に槍を振り上げ、ザングースの射程外から脳天を狙う。
この槍は全てが石材だ、先端以外が当たっても脳ミソはぶちまけられる!
アタシは速度を見定め、正確に打ち下ろした。
だが、その先端は地面を抉るだけ…
ザングースは一瞬で横に身を捻り、アタシの槍を回避したのだ。


セヴァ
「バカなっ!?」

マリス
「テメェの槍はもう『見切れる』ぜ!? 今度はテメェが地面を這いつくばる番だ!!


ザングースはそう言って調子に乗り、爪を構える。
いつもの馬鹿げた石爪ではない、己の爪でアタシの首を狙っていた。
スピードもかなり上がっている、この短期間で何故こうも強くなれる!?

アタシは危険を感じ、咄嗟に上体を後ろに反らしてザングースの爪をかわし、左手を地面に着けた。
その体勢でアタシは尻尾を縦に振り回し、ザングースの首に『ポイズンテール』を放つ。
ザングースは首を捻り、頬を掠めるに留めた。
そしてその頬からアタシの毒が入り、奴はこちらをギロリと睨む。

その瞬間、アタシはマズイ…と思った。
奴の特性は、ザングース一族でも特に珍しい『毒暴走』!
下手に毒を浴びれば、パワーが倍増する!


マリス
「あああっ!!」

セヴァ
「ざけんじゃないよぉ!!」


アタシは、すぐに口から胃液を吐いた。
だが、それは着弾前に空中で風に打ち落とされる。
あの鳥ポケモンだ、風で胃液を吹き飛ばされた!
ザングースはその瞬間に間を詰める、アタシはすぐに体勢を立て直し、槍を横凪ぎに振るった。
だが、アタシはその瞬間戦慄する。


バシィィィッ!!


セヴァ
「なっ!?」

マリス
「こんなモンかよハブネーク!? どうやら、パワーもスピードもアタシの方が今は上の様だな!!」


悪夢だった…アタシがパワー負けする等。
絶対の自信を持っていたアタシの腕力を、よりにもよってあの雑魚ザングースが片手で止めたのだ。

そして、同時に恐怖が生まれる。
絶対にこいつらを拠点に近付けてはならない。
子供たちを危険に晒すわけにはいかない!
一族は、アタシが守らなきゃならない!!


セヴァ
「図に乗るな雑魚が!! 貴様なんぞに、アタシが負けるわけがない!!」
「アタシは一族の長だ!! ただの一介のザングースとは違うんだよ!?」


アタシは叫び、魂を奮い立たせた。
決して屈してはならない、諦めてはならない、恐怖してはならない。
アタシの背中には、愛する子供たちの命が乗っている。
決して、こんな粗暴なだけのザングースを近付けさせるわけにはいかない!


セヴァ
「くたばれ雑魚が!! 例え死んでも、貴様はここで殺す!!」

マリス
「くっ…! パワーを上げてきただと…!?」


アタシは捕まれた槍に力を込め、ザングースの腕ごと振り飛ばした。
それによりザングースは体勢を崩す。
アタシは間髪入れず、振り抜いた槍を地面に差して、それを軸に体を回転させ、尻尾でザングースの顔面を頭上から振り下ろした。


ズゥゥゥゥゥン!!


マリス
「ぐうぅ!!」

セヴァ
「おのれ…! これでも止めるか!?」


ザングースは両腕を交差させ、正面から尻尾を受け止めていた。
だが地面に背中から叩き付けられ、ダメージはそれ程軽減出来ていない
ザングースは口から血を滲ませ、歯を食い縛って耐えているのだ。

アタシは、そのままザングースの首に尻尾を巻き付け、締め落としに入ろうとする。
だが、またしても空気の流れを感じた。
アタシはすぐにそれを察し、槍を片手で振る…そして空中で空気が爆ぜた。
アタシの槍は、見事に鳥ポケモンの技を相殺したのだ。


セヴァ
「邪魔をするな鳥女!!」
「こいつを殺してから、貴様はゆっくり…」

マリス
「があぁっ!!」


アタシは尻尾に激痛を感じる。
見ると、ザングースはアタシの尻尾に噛み付いていたのだ。
無論、技としての行動ではない。
ザングースはただのヤケクソでそうしただけ。
だが、ザングースの牙とて肉食獣のそれ…アタシは痛みに耐えれず、尻尾を離してしまった。


セヴァ
「おのれぇ…よくも!!」

マリス
「舐めるなぁ!!」


ザングースは、すぐに立ち上がって反撃して来る。
そして俊足を生かし、間合いはすぐに接近戦となった。
ザングースの顔は既に青くなり始めている、毒が回っているのだから当然だろう。
いくら特性でパワーが上昇しているとはいえ、ダメージは確実にあるのだ。

つまり、長期戦になれば自ずとこちらが有利となる。
ならば殺せずとも、生き残れば勝つのはアタシだ!!


セヴァ
「ちぃぃっ!?」


ザングースの爪は、鋭くアタシの頬を切り裂いた。
頬に爪痕が走り、アタシは熱を持って出血したのを理解する。
だが、そんな痛みに怯むわけにはいかない、ザングースは連続で切り裂いて来るのだから…

接近戦では、流石に分が悪いと言えるか…よくもここまで強くなれたものだ!
だが事戦いに置いて、経験が違うという事がどれ程の意味を持つかを教えてやる!!


マリス
「うああぁっ!!」

セヴァ
「これならどうだ!?」


アタシはあえて相手に突っ込み、体ごとぶつかって『連続切り』を止めた。
体重はアタシの方が数段重い、ザングースはアタシの重量を支え切れずに地面へとマウントされる。
アタシはすぐにそこから口から胃液を吐き、至近距離でザングースの顔面を胃液まみれにした。


マリス
「ぐあああぁっ!?」

セヴァ
「クククッ! 直接ダメージは少なくとも、多少は溶解性がある…そして、これで貴様の特性は消えた!!」


アタシは勝ちを確信する。
ザングースのパワーは、あくまで特性ありきの物。
素の力であれば、まだアタシの方が上のはずだ!!
アタシはすぐにそのままザングースを組伏せ、首筋に噛みつこうとする、が…またしても空気の流れを感じ、アタシはその場で転がって難を逃れた。


ズバババッ!!


空気の刃が3発地面に着弾する。
ザングースには当たらない様に、綺麗なカーブを描いて着弾させるとは…!


セヴァ
(やはり、あの鳥女は侮れん! 底知れぬ何かを感じる…)


鳥女はやや高空で羽ばたいており、こちらからの攻撃は到底届かない。
だが、それ故に技を回避するのは難しくなかった。
ザングースを気遣っているのもバレバレだ、そのせいで思い切った攻撃を放てないでいる…

さて、どうしたものか…?


マリス
「くそ…はぁ…はぁっ!」


ザングースは毒が十分に回っていた。
もはや体に力は感じられん、ロクに動く事は出来んだろう。


セヴァ
「ここまでだな…強くなったのは認めてやるが、まだアタシを倒すには経験不足だ」

マリス
「舐め…んなっ! まだ、俺は戦える…!!」


ザングースは顔面蒼白ながらも、まだ闘志を捨てていなかった。
そんな状態でもまだ諦めんか…そうまでして、アタシを倒したいのか。
その気持ちは解らんでもない…が。


セヴァ
「ふん…一族の仇か? だが、ここで貴様が息絶えれば、それで一族は途絶えるのだぞ?」

マリス
「そんなの…解ってる! だけど、お前を倒さなきゃ…俺は一歩も前に進めない!!」


それは、もはやただのプライドなのだろう。
ザングース族の生き残りで末裔、本来ならば仇など忘れ、種の存続の為に母となれば良いだろうに…


セヴァ
「警告はしてやる、このまま全てを忘れて去るなら見逃してやろう…」
「だが、それでも進むと言うならば…アタシはハブネークの長として、断固ここで貴様を殺す!」
「アタシと貴様では、背負っている覚悟が違うのだ!!」


アタシは槍をクルクルと軽快に回転させ、矢じりを上にして地面に突き刺し、ザングースにそう言った。
そんな堂々たるアタシの姿を前にし、ザングースは足を引きずる様に前に出て来る。

あえて死を望むか…なら、慈悲はいらんな。
アタシは無言でザングースを睨み、槍を地面から抜いて構える。
せめて苦しまぬ様、一撃で絶命させてやる!


マリス
「はぁ……はぁ……」


ザングースの目は、もう死にかけている。
毒で感覚ももはや曖昧だろう。
だが、それでもなお歩みは止めないか…


ビュオゥ!!


セヴァ
「!?」

マリス
「……あ?」

香飛利
「もう、止めよ…?」


アタシとザングースの間に、空気を切り裂いて空中から降りて来たのは、あの鳥女だった。
鳥女は悲しい瞳でザングースを見て、その体を抱き止める。
ザングースはそれで緊張の糸が切れたのか、そのまま鳥女に抱き止められて気絶した様だった。


香飛利
「もう、眠って〜…そうしたら、きっとまた戦えるから」

セヴァ
「…貴様は、何者だ? あの人間の何だ?」

香飛利
「家族、です…大切な〜」


その言葉は、ことのほか重く感じた。
家族、か…しかし、それはつまり。


セヴァ
「貴様の旦那だったか…それならば、気の毒な事だな」

香飛利
「ち、違う〜…よく解らないけど、多分違う〜」


泣きそうな顔で否定された。
何なんだこの女…? そもそも何のポケモンなんだ?
鳥なのは解るが、あまり見ないタイプに見える。
服とかも、あの人間同様に見た事が無い物だし、こいつも異端者なのだろうか?


セヴァ
「とりあえず、貴様は何のポケモンだ?」

香飛利
「えと、オニドリル…です〜」


オニドリル…?
オニドリルって、あのオニドリル、か?
オニスズメの進化系で、その辺にもゴロゴロいる様な雑種?
少なくとも服装から何まで、オニドリルにはあまり見えない。
だが、翼は確かに言われればそう見えるな…


セヴァ
「…オニドリル、ねぇ」
「にしたって、熱風放ったりエアカッター使ったりとか、そんなオニドリルは聞いた事無いが?」


アタシがそう言うと、オニドリルはう〜と唸って悩んでいた。
どうやら、オツムの方は足りないらしい…
自分の事すら、よく理解出来ていないのか?


香飛利
「私は、誰かの技を見て覚えたから…」

セヴァ
「『オウム返し』か? だが、それならその時でしか使えないはずだな…」


こいつはつまり、見ただけで技を習得したという事か?
だとしたら、潜在的なセンスは相当だな…自分で理解出来ていない天然みたいだが、理解すれば恐ろしい才能を発揮するかもしれん。


セヴァ
「…とりあえず、貴様はどうする?」
「あの人間を取り戻したいなら、アタシを倒す他無いぞ?」

香飛利
「聖さんを、返して〜」


オニドリルは、ただ泣いて懇願していた。
アタシは困惑する、何故ここで泣く?
少なくとも、この少女は強い…ザングースと比べても、戦って勝つ力はあるはすだ。

なのに、何故泣いてすがる?
戦って勝ち取るという意志は無いのか?


セヴァ
「…わざわざ、自分で拐った相手をみすみす返すと思うのか?」

香飛利
「うぅ…思わない、です〜」


アタシは益々困惑する。
一体、この少女は何を期待しているんだ?
アタシには、一切このオニドリルの考えが読めなかった。
あくまで天然、何の考えもある様には感じない。

強いて言うなら、アタシが了承すると期待しているのか?
だとしたら、甘いを通り越して馬鹿馬鹿しい。
普通に考えてあり得ない考え方だ…何故こんなバカが、今まで生きて来れた?
アタシはもうどうでも良くなり、構えを解く。
コイツには敵対意志は無い、警戒するのが馬鹿馬鹿しい。


セヴァ
「…貴様は話にならない、そんな考え方が通用する訳がないだろう?」
「人間を助けたいなら覚悟を決めろ…アタシを殺してでも、奪う覚悟をな!!」
「それが無いならさっさと去れ! 追って来るならその場で殺す!!」


アタシはそれだけ言って、背を向け去って行く。
それを見て、オニドリルは唸りながらザングースを抱えて付いて来た。
アタシは鬱陶しくなり、振り替えってこう叫ぶ。


セヴァ
「バカか貴様は!? 追うなら殺すと言ったはずだ!!」

香飛利
「あぅ…でも、聖さん助けたい…!」


ダメだ…もう我慢ならん!
アタシは槍を構え、オニドリルを狙った。
その気迫を察してか、オニドリルは顔を泣きそうな顔にし、まるで命乞いをするかの様な顔で何かを無言で訴えている。

子供だ…こいつは正真正銘の。
その顔は、アタシに攻撃を躊躇わせる。
アタシだって母親だ、子供には愛情がある。
こんな…敵意も悪意も無い、無邪気な子供を殺すのは、戦士の恥だ。

だからアタシは、警告した。
それでもこいつは追って来た…なのに、こいつはまるで闘志が無いのにだ。
アタシが槍を構えても、ただ恐怖して震えるだけ…

戦う力はあるのに、何故戦おうとしない?


セヴァ
「今すぐ決めろ、追うのを止めて生きるか、追って死ぬか」

香飛利
「どっちも嫌です〜」
「聖さんは助けたい、私も死にたくない…」

セヴァ
「そんな物はただのワガママだろうが!? 大人を舐めてるのか!?」
「これが最後通告だ! 後5秒以内に消えろ!!」
「さもなくば問答無用で殺す!!」
「5!! 4!! 3!!」


アタシのカウントを聞き、オニドリルはビクッと体を震わせた。
そして、涙を流して恐怖している。
アタシは構わずカウントを進め、そして5秒数え終わった…

アタシは槍を大きく振りかぶり、それをオニドリルの胸めがけて投げ付ける。
槍は真っ直ぐに標的に向かい、1秒以内にオニドリルの胸を貫くだろう。
アタシは空しくなった…そしてこれがこの世界の掟だと納得した。
あんな子供でも、追って来るなら容赦は出来ない。
こっちにだって子供たちの命を背負ってる、決して曲げる事は出来ないのだから…

だが…アタシは次の瞬間、信じられない事に直面する。


香飛利
「ぅぅ……『バカーーーーー!!!』」


そんな罵声と共に槍は吹き飛び、アタシも衝撃で後ろに吹っ飛ばされた。
凄まじい音波でアタシは脳を揺さぶられ、一瞬で意識を失ったのだ。

そして理解した…この少女は、勝とうと思えばいつでも勝てたのだと。
温情をかけられていたのは、アタシの方だった…
アイツは、死ぬのが嫌だから戦わなかったんじゃない…

アタシを殺すのが嫌だから、戦わなかったんだ……



………………………



セヴァ
「……?」

香飛利
「あぅ…目が覚めた〜?」


気が付くと、時刻はもう夜中。
既に日は沈んでおり、動物たちも寝静まっている…
そんな中、私は薪を炊いて夜営の準備をしていた。
草で作った簡易のベッドに、マリスさんとハブネークさんを隣り合わせに寝かせており、ハブネークさんは先に目覚めて体を起こす。

そして周囲を確認し、頭を抱えていた。
まだ、何が起こったのかも理解してないのかも…


セヴァ
「…何故生きてる? アタシは負けたんだろ?」

香飛利
「………」


私は、何も答えられなかった。
私には、この人を殺す事なんて出来ないのだから…
結局、私はふたりを助ける事を優先したのだ。
聖さんの事は、確かに1番大事だけど…それでも、このふたりを見捨てる事は私には出来なかった。

きっと、聖さんならそうするはずだから…


セヴァ
「…はっ、笑い話だねぇ」
「アタシを殺さないでどうする? 今度は貴様の寝込みを襲うかもしれないんだぞ?」

香飛利
「でも、死んだら、ダメ…」


私は、か細い声でそう呟く。
そして、自分の力で狩った獲物の肉をしっかりと焼き、木の枝に刺してそれをハブネークさんの所に持って行った。
ハブネークさんは無言でそれを受け取り、複雑そうな顔をする。


セヴァ
「本当に、バカだよ…」

香飛利
「…バカでも、良い」
「聖さんも、そうだから…」


私がそう言うと、ハブネークさんは小さく笑う。
余程私の答えがおかしかったのか、肩を震わせて笑っていた。
そして無言で肉を食い始め、私は次の肉を用意する。

それからは特に会話も無く、私はハブネークさんと一緒に食事を取った。
ハブネークさんは何ひとつ文句も言わず、私が焼いた肉と生野菜を食べてくれる。
それからはすぐに就寝…マリスさんは、結局朝まで起きる事は無かった。



………………………



香飛利
「…あぅ」


私は朝になって目覚める。
そしてすぐに周囲を確認し、いるはずのふたりを見るが…


香飛利
「…ハブネークさん、いない」


気が付くと、草のベッドにはハブネークさんの姿が無かった。
マリスさんはもう起きていたのか、ベッドの上に座ってボーッとしている。
顔色はすっかり良くなり、毒が抜けたのが解った。
とりあえず…狩りに行かないと。


香飛利
「マリスさん、動ける〜?」

マリス
「…あぁ、何とかな」
「ところで…何で、寝床が3つあるんだ?」


私は、マリスさんが気を失った後の事を説明する。
すると、マリスさんは呆れた様な顔をしてため息を吐いた。


マリス
「…バカだな、お前」

香飛利
「うぅ…マリスさんにまで言われた」
「でも、良いもん…本当にバカだから」


私が涙目にそう言うと、マリスさんはハハハと軽く笑った。
そして、フラフラと立ち上がってこう言う。


マリス
「行こうぜ…聖、助けるんだろ?」

香飛利
「うん…でも、マリスさんお腹空いてない?」

マリス
「まぁ、空いてるけど…あんまりグズグズしてもいられないだろ?」
「もう、10日以上は経ってるんだ…何が起こっているのかも解らないし」


「いや、食事は取ってから行け…」


そんな声と共に、ドスンッ!!と大きな音が鳴る。
どうやら牛を丸ごと1頭置いた様で、それを地面に下ろしたのはあのハブネークさんだ。
どうやら、ひとりで先に狩りに行っていた様で、右手には得物の石槍を持っている。
あれは確か…重すぎて私じゃ持って来れなかったから、結局諦めた奴だ。

改めて、それを片手で軽く扱うハブネークさんは凄い力だな〜


マリス
「な、何でお前が…!?」

セヴァ
「さぁな、バカが移ったんだろ?」
「アタシは敗北者だ…だから生かすも殺すも、それは勝者の判断だ」
「好きにすれば良いさ…ただ、殺すならアタシだけにしてくれ」
「どうか…アタシの子供たちにだけは、手をかけないでくれ…」


ハブネークさんはそう言って土下座し、マリスさんに懇願する。
その姿はまるで、獲物を献上して命乞いをする弱者の様にも見えた。
だけど、この人は決して弱者なんかじゃないと私は知っている。

ただ、この人も大事な人の為に戦っていただけなんだ…


香飛利
「…皆、生きる為に戦ってる」

マリス
「…そうだな」

セヴァ
「………」


私は土下座し続けるハブネークさんの側に歩き、屈んで手を差し伸べた。
そして、私はこう約束する。


香飛利
「大丈夫、です〜…」
「私は、誰も殺したくないから…」

セヴァ
「…すまない、恩に着る」


ハブネークさんは、私の手を取って泣いていた。
この人は、ただ自分の子供を大切に想う母親なんだ。
私にはまだよく解らないけど、それでもそれはとても尊い事だと思える。
私はハブネークさんと手を繋いだまま、ハブネークさんを立ち上がらせ、そしてマリスさんの側まで連れて行った。


マリス
「…香飛利?」

香飛利
「握、手〜…仲直りの」


私は、ふたりの手をやや強引に取り、握手をさせる。
これまで、戦う事しか出来なかったふたり。
でも、今はきっと仲良く出来ると思ったのだ。
きっと…きっと、仲良く…出来る。


マリス
「…もう良いよ、復讐も仇も馬鹿馬鹿しくなった」
「お前だって、家族を守る為に必至だったんだから…」

セヴァ
「…そうだ、アタシにとって子供は命よりも大事な宝だ」
「種の存続としても、一族にはもう女は小さな娘がひとりだけ…」
「アタシは長として、母としてそれを守り、育てなければならない」

マリス
「良いよな、そういうの…俺もなれるかな?」

セヴァ
「なれるだろうさ、ただ…別の種と交わる形にはなるだろうがな」
「何なら活きの良い男をくれてやろうか? まぁ、最初は大変かもしれんが…」

マリス
「い、いやまだ良いよ…何か怖いし」


ふたりは、そんな会話をして笑っていた。
良かった、もうふたりは争わなくても良い。
これからは、きっと手を取り合って生きていける。

これで、良いんですよね…聖さん?



………………………



マリス
「生贄、ねぇ…」

セヴァ
「詳細は解らん、だが何かが起こるのは確かな様だ」
「アタシが裏切る事まで予言に入っているのかは知らないが、想定外かどうかは微妙だろうな」

マリス
「だったら、ハブネーク族その物が危険に晒されるんじゃ…!?」

香飛利
「急ごう…! セヴァさんの子供も、助けてあげないと!!」


私たちは、徐々に危機感を感じ始めていた。
そして、セヴァさんの案内で拠点に向かい、私たちは聖さんとセヴァさんの子供を救出に向かったのだけど…



………………………



セヴァ
「…皆、帰ったぞ!?」

マリス
「…反応が、無い?」


セヴァさんは、すぐに奥へに入って行く。
拠点は広い洞窟になっており、地下に向かって道が続いていた。
私は、マリスさんと一緒にセヴァさんを追う。
セヴァさんは悲しい叫びをあげながら、仲間や子供たちを必至に探していた。



………………………



セヴァ
「…そんな、誰もいない」

マリス
「聖の姿も見えねぇ…一体どうなってんだ?」

香飛利
「…どうして?」


私の頭では、何が起こっているのかがまるで解らない。
ただ、ここにいたはずの住民は誰ひとりおらず、完全に無人となっているのだ。
まるで、一斉に逃げ出したかの様な…?


マリス
「…この臭い、微かに聖のだな」

香飛利
「解るんですか?」


マリスさんは、やや自信が無さそうだけど頷く。
そして、今はその鼻に賭けるしか手は無さそうだった。


セヴァ
「ならば行くぞ! もはや猶予が無いかもしれん…!」
「既に生贄の準備をしている可能性が高い…一族も、恐らくオラングルに付いて行ったか」

マリス
「よし! とりあえず臭いの方向に向かうぜ!!」

香飛利
「あぅ…聖さん〜!」


私たちは、すぐに移動を開始した。
マリスさんは臭いを頼りに先頭を走り、私は空中から周囲を見渡す。
セヴァさんはマリスさんの背後から追い、左右に目を光らせていた。

だけど、その日は結局何も見付からず、私たちは夜営を張る事に…



………………………



マリス
「くっそ、臭いが解らなくなってる…!」

セヴァ
「雨が降ったからな…夜中だけとはいえ、臭いは完全に流されたか」

香飛利
「うぅ…どうするの?」

セヴァ
「…ある程度方角は解ってる、このまま行けば渓谷に辿り着くはずだ」
「道中には曰く付きな神聖な山もある…このどちらかにいる可能性は高いだろう」


だったら、まずは近い方を調べたいけど…
もし違ってたら、多大なロスを晒す事になる。
こういう時は、どうすれば良いんだろう〜?


マリス
「…俺は渓谷に行く、可能性はそっちのが高い気がする」

セヴァ
「ふむ…だが山の方も曰く付きだ、オラングルの信望さも含めると何かある気はする」

香飛利
「どうするの? 私にはよく解らないです〜」


ふたりは少し悩む。
どちらにも可能性はあるとはいえ、ここで意見が割れるのは得策じゃない気がした。


セヴァ
「香飛利、貴様はひとりで山に向かえ」
「そして、何も無ければ飛んで渓谷まで急行しろ」
「飛行タイプの貴様なら、一足先に向かってすぐに戻っても来れる」
「だが、もしオラングルたちを見付けたらすぐに引き返せ」
「ひとりでは決して戦おうとするな、まずアタシたちを呼びに戻るんだ」

香飛利
「あ、あい…でも、もし手遅れになりそうだったら〜?」


あくまで最悪の場合だけど、その時私はどうすれば良いのだろう?
きっと、何とかしようとは思うのだろう…聖さんの為に。


セヴァ
「…その時は、貴様が自分で判断しろ」
「例え命を落としてでも救うのか、無駄死にするか…」
「アタシたちも、渓谷に何も無ければ山に向かう」

マリス
「大丈夫だよ、香飛利は強い」
「いざとなったら、自分できっと何とか出来る」
「俺は、信じてるぜ?」


私は、少し恥ずかしくなった。
誰かから、信じてるなんて言われたのは始めてだ。
でも、きっと聖さんはずっと信じてくれてるはず。

だから私たちも、聖さんを信じられるんだから…



………………………



香飛利
「じゃあ、山に行きます〜」

マリス
「おう、頑張れ!!」

セヴァ
「…無理はするなよ?」


次の日の朝、私たちはそれぞれ目的地を定め、二手に別れた。
私は空を飛び、遠めに霧がかって見える大きな山を見定め、そこの山頂付近へと飛んで行く…



………………………



香飛利
「う…高度あるなぁ〜」


少なくとも、2000m以上はありそうな高さだ。
私は空気の薄さに肺を苦しめながらも、一気に飛び上がる。
前に比べたら、肺活量もずっと上がった。

以前の私だったら、きっと途中で落ちてるはず。
少しの間だったけど、私は大きくレベルアップしているのに自分で気付き始めていた。

今なら…もっと強く、もっと速く飛べる気がする。


香飛利
(だったらやってみよう…限界まで〜!)


私は山頂を目指し、雲を突き破る。
そして、そこから見えたのはまさに絶景…雲から少しだけ突き出る山頂は、確かに神秘的に見えた。


香飛利
「…これが神聖な山〜?」


私はゆっくりと羽ばたき、山頂に着陸する。
そこはまるで、石で出来た祭壇の様になっており、祭壇には何か謎の石版?が建てられていた。

だけどそれには別に何も描かれておらず、いわば真っ白な壁。
私はそれに歩み寄り、直接触れてみるが特に何も起こらない。
そしてふと足元を見ると、何か宝石の様にも見える菱形の石があったので、私はそれを拾った。

それは茶褐色で何の石かは解らない。
だけど、それを拾った瞬間、突如頭に何か声が響き渡る。



『ようやく、辿り着いたのね…』

香飛利
「!? だ、誰〜?」


『選ばれし者よ…貴女に、大切な者を救える力を…』


その声と共に石は輝き、私は力を感じた。
そして全身にオーラの様な何かを纏い始めたのを理解する。
こ、これは…一体!?


香飛利
「…あ、あれ?」


気が付くと、不可思議な感覚は消えていた。
だけど、私の手には茶褐色の石。

きっと、これは何か意味がある石なんだ…と直感で理解する。
私は、それをマリスさんが作ってくれた革袋に入れた。
そして私は気を引き締め、すぐにその場から飛び立ち、一路渓谷を目指す事に。
ここに聖さんはいなかった…だったら、マリスさんたちの方が本命のはずだ。



………………………



マリス
「ちっ、こっちが当たりだったか」

セヴァ
「ウチの若い衆も一緒だな…子供たちは、無事か」


セヴァは子供たちの安全を確認し、胸を撫で下ろしていた。
何だかんだで母親だよな…何よりも、腹を痛めた子供には気を遣うモンなんだろう。
俺たちは、とりあえず死角に隠れて状況を観察していた。

オラングルはハブネークの男衆に囲まれ、聖を連行してる。
聖はグルグルに蔦で縛られており、とても自力で逃げ出すのは無理だと思えた。


マリス
「どうする? 生贄って事は、何かに食わせるってんだろ?」

セヴァ
「恐らくはな…そして、それにより神の力を授かると奴は言っていた」
「奴が崇める神とは何か知らんが、少なくともアタシにはあの人間が世界を滅ぼすとは思えない…」


世界を滅ぼすねぇ…? あの聖が、そんな事考えてるとは思えねぇけど。
どうにも、あのオラングルってのは信用ならねぇな…
なーんか、別の思惑があるんじゃねぇかと思うんだが…


セヴァ
「とりあえず、香飛利が戻るまでは尾行だ…」
「この先はかなり長い渓谷が続く…儀式的な何かをするなら、最奥までは行くと思うが」

マリス
「最奥には何があるんだ?」

セヴァ
「解らん…そこまで辿り着いた者は存在しないと言われている」


マジかよ…そんな危険なのか?
それとも、そこに行くのに聖という生贄がいるってのか?
とにかく、何が起こるか全く解らない…気を付けて尾行しねぇと!



………………………



マリス
「…川、か」

セヴァ
「ここから先、歩いて行くなら地下水路に入る…気を付けろ」


見ると、川はかなりの急流であり、水タイプでもなければ自力で泳ぐのは無理がありそうだった。
香飛利の様に飛べれば別だろうけど、オラングルたちは近くにある地下への入り口に入って行く…


マリス
「地下か…結構広いのか?」

セヴァ
「まぁ、大ワニみたいなのは多数いる…精々食われない様にしろよ?」


俺はそれを聞いてゲッ…となってしまった。
ワニかぁ…食ったら美味いかな?
とはいえ、あまり出会いたくないのは確かだな…



………………………



マリス
「…アイツ等、やけに迷わず進めるな?」

セヴァ
「明らかにルートを把握してるな…オラングルの奴、初めからこの渓谷の事を知り尽くしているのかもしれん」


見た感じ、地下水路はかなり広く、下手したら迷う位には道が分岐していた。
おおよその方角で解るというレベルではなく、入り組み過ぎていて付いて行ってないと間違いなく迷ってるというレベルだ。
それなのに、ヤツ等は平然と迷わずに歩いて行く。

出て来るワニたちもハブネークの男たちが全て撃退し、俺たちの方に被害は回って来なかった…


セヴァ
「む…どうやら出口の様だ、地上に出るぞ」


オラングルたちが出口に消えると、私たちも早足でそれを追う。
そして地上の光が差し込んでいる出口から私たちは地上に出た…が、そこは既に罠が張ってあった。


マリス
「げっ!? 何だこの網!?」

セヴァ
「ちっ! バレていたのか!!」

オラングル
「馬鹿者が、貴様たちの尾行など初めから気付いておった」
「だから、あえてここまで誘導したのよ…」
「ここならば出口はひとつ、後から来るなら罠を張るのも容易い」


クソッタレ、頭はやっぱ良さそうだな…
私は網に爪を立てるが切れない。
蔦とかじゃない…? 何で出来てんだコレ!?


セヴァ
「捕獲用の特殊網だ! 何重にもミノムッチの糸を重ねて作っているから、爪や牙では到底切れない!」


何じゃそりゃあ!? ミノムッチの糸ってそんなに凄いのかよ!!
確かに、ミノムッチは木にぶら下がる時に糸で固定するって聞いてたけど…


オラングル
「ミノムッチは、その生活をほぼ木にぶら下がって生きる」
「故に、その糸は並大抵の強度ではなく、例え台風が起きてもそう切れる事は無い物だ」
「それを何重にも重ねた時、その糸は大岩を持ち上げたとしても切れる事は無い!」


成る程、そりゃ確かに無理そうだ。
となると、別のアイデアがいるわけだが…


マリス
「『火炎放射』とか出来ねぇ?」

セヴァ
「出来るなら即やってる! お前こそ『大文字』位使えんのか!?」

ザングース
「無茶言うな!! 俺は物理専門なんだから!!」


当然の様に、じたばたするだけでは網は切れない。
どうする? いきなり絶体絶命かよ!?



「もうよせオラングル! 生け贄は俺だけいれば十分だろ!?」
「セヴァさんの子供まで人質にするな!!」


何だって…? 子供を人質に取ってんのかよ!?
どこまでゲスな野郎だ…!!


セヴァ
「貴様ぁ…! 子供たちに手を出せば、タダでは済まさんぞ!?」

オラングル
「負け犬が何を言うか、状況を理解しろ」


ドバァン!!


突然、空間が爆ぜてセヴァの頭が揺れる。
訳の解らない状況に俺は焦るも、セヴァは歯を食い縛って耐えていた。
頭から大量の血が出てる、何だったんだ今の技!?


息子A
「ママーー!!」

「ママを傷付けないでーー!!」
息子B
「ママ、死なないでーーー!!」


セヴァの子供たちが、こぞって叫んでいた。
セヴァはその声を聞いて、不適に笑う。
そして自信満々の顔で、セヴァは子供たちに笑ってこう叫んだ。


セヴァ
「心配するな子供たち…! ママは、お前たちがいるなら無敵だ!!」

オラングル
「愚かな、まだ食らい足りないと見えるな…」


「いい加減にしろぉ!!」


聖は縛られながらも、無理矢理体当たりしてオラングルにぶつかった。
オラングルは、そのせいでよろよろとバランスを崩し、その場で尻餅をしてしまう。
この隙に、聖はこちらに駆け寄って来た。


オラングル
「おのれ…余計な邪魔を!」


「ざけんな!! ふたりはこれ以上傷付けさせないぞ!?」


聖は両手が縛られて自由でないにも関わらず、そう叫ぶ。
これが、魔更 聖という人間なのだ。
例え勝算など無くても、コイツは誰かの前に出て、誰かを守ろうとする。
あの香飛利が、絶対的な信頼を置いている人間…


オラングル
「貴様は所詮生贄に過ぎん、別に手足の2、3本をへし折ってから生贄にしても良いのだぞ?」


「やってみやがれ!! 俺は絶対に退かねぇぞ!?」


明らかな脅しに対し、聖は全く動じていない。
むしろ、怒りで奮い立ってる感じだ。
聖は本気で…私たちの為に体を張ろうとしている。


マリス
「クソが…こんな網さえ無けりゃ!!」

セヴァ
「くっ、子供たちや一族の者が目の前にいるというのに…!!」


私たちはもがくも、何ともならない。
セヴァの石槍と腕力を持ってしても切れないのだ。
何で、何でこんな時に何も出来ない!?

俺はどうして、こんな時に足を引っ張る!?
何の為に強くなった! 何の為に生きて来た!?
この時の為だろ!? なら、助けるんだ!!


マリス
「うああああああぁぁぁぁぁっ!?」


ブチブチブチィ!!


セヴァ
「なっ!? お前、手から炎を…!?」

マリス
「よく解かんねぇけど、これなら焼き切れたぜ!!」


俺の両手から、突如炎が出た。
それは手が燃える程度の炎だが、自分では大して熱さを感じない。
そしてこれは、自分の新たな技なのだと理解した。

香飛利が熱風を使える様になったみたいに、俺にも炎タイプの技は使えたんだ!!
俺は手の炎で更に網を焼き切り、そこから脱出する。
そして聖の前に走り出て、俺はオラングルを睨み付けた。


マリス
「舐めんなよ!? こっからは俺たちの反撃だ!!」


「マリス! 先に蔦を切ってくれ!!」

マリス
「おう! 任せろっ!」


俺は、手際良く聖を縛っていた蔦を爪で切り落とした。
聖はそれでようやく両腕が自由になり、改めて敵を見る。


オラングル
「ふん…やや予想外の展開だが、仕方あるまい」


オラングルは手に持った扇子(元ネタ的には羽扇っぽいが、葉っぱだから草扇、葉扇?)を前に振ると、ハブネークの男衆がずらずらと前に出て来る。
アイツ等は、多分無理矢理戦わされてるだけだ、そうまでして、無駄な血を流させる気かっ。


セヴァ
「…これも、長であるアタシの弱さが生んだ罪か」

男A
「お許しを長! 子供たちを人質に取られてる以上、我々は逆らえません!!」


先頭にいた短髪の男は、震える手で槍を握り、とても辛そうな顔をしている。
対するセヴァはしばし目を瞑り、槍を片手でクルクル回転させた。
そしてキッと目を開き、槍を男衆の前に向ける。

その威圧感は凄まじく、男衆は明らかにたじろいだ。


セヴァ
「サンダ…お前は、3番目の子の父親だったな、心中は察するぞ」

サンダ
「!? お、長…!」

セヴァ
「あの子は、お前のせいで死んだのではない、アタシの弱さがあの子を殺したのだ」
「故に、遠慮はいらん…命を賭けてかかって来るが良い」
「こちらも容赦はせん、子供の為に互いに退けぬのなら!!」


セヴァは槍を構える。
一体、何が原因で子供死んだのかは知らないが、あの男はセヴァとの間に子供がいたらしい…
でも、その子は死んじまった…その時の辛さを、アイツは覚えてるんだな。

男衆は覚悟を決めた顔で震えを止め、表情を引き締めて前に出る覚悟を決める。
だが、ここで更に下衆な横槍をオラングルは入れた。


オラングル
「手を出すな長よ、こちらには人質があるという事を忘れるな?」
「貴様ら3人が手を出せば、そこの子供の命は無い」


「クソが…! テメェは命を賭けて、覚悟決めてる奴らの意志をも踏みにじる気か!?」

オラングル
「何とでも吠えるが良い、これが戦術だ」
「失敗は許されん…貴様の様な危険人物は、なおの事徹底して排除せねば」


オラングルは、特に感情も込めずにそう言う。
コイツの信望している神って、一体何なんだ!?
コイツにとって目的さえ果たせるなら、他の存在は全く意に介さないのか!!


セヴァ
「…どうした? アタシは抵抗出来ない、今がチャンスだぞ?」


セヴァは槍を地面に突き入れ、棒立ちでそう言う。
だが、男衆はそれを見てまた震え始めた。
アイツ等は戦闘民族だ、戦って、勝って奪うのが信条だ。
なのに戦う事すら否定されて、アイツ等はどうすりゃ良いのか…?


男B
「我ら誇り高き一族が、またしてもこの様な屈辱を味わうのですか!?」

セヴァ
「…それを決めたのは、アタシの母だ」
「母がオラングルを取り入れ、一族は確かに豊かになったのだからな」
「だが、確かに一族にとっては屈辱とも言える…特に、宿敵たるザングースに夜襲をかけた時はな!」


その言葉を聞いて、俺はハッ!?となってセヴァを見た。
セヴァは俺を見ずに、男衆の方を見てこう言う。


セヴァ
「オラングルの策略とはいえ、敵の寝込みを襲い、無抵抗の女子供を人質に取って虐殺するなど、一族の名折れだった…」
「だが、長である母はそれでも強行した…一族の繁栄の為にと!」
「結果…ザングースの一族は、ひとりの子供を残して滅びたのだ!」

マリス
「…お前は、あの時は長じゃ無かったのか?」

セヴァ
「当たり前だ、何年前だと思ってるんだ?」
「あの時のアタシはまだ16歳だ…夜襲には参加したが、後方で待機させられていた」
「…思えば、あの時逃げ惑うお前を見逃したから、こうやって肩を並べる事になったんだろうな」


セヴァはそう言って微笑んでいる。
別に悔しかったり、空しかったからじゃない。

ただ、何か残念そうな顔には見えた…


セヴァ
「やはり、オラングルを取り入れたのは母の失策だった…」
「繁栄は出来ずとも、例え滅ぶのだとしても、それならば戦って、誇りと共に散れば良かったのだ!」

マリス
「…あの夜襲は、オラングルの策略」


俺は複雑か気分だった…
ザングースたちを滅ぼそうとした、あの夜襲はセヴァにとってはただの遺憾。
種の繁栄の為に、やむを得ず宿敵を滅ぼそうとしたに過ぎない。
だが、それは今を生きるセヴァや男衆にとっては、ただの屈辱だったのか…


男C
「長! それでもお覚悟を!!」

セヴァ
「良いだろう、来い! トワング…お前はあそこにいる10番目の子の父親だからな、私が死んでも立派に育ててやってくれ…」


セヴァは優しい顔で笑ってそう言う。
セミロングの男は涙を流し、槍を構えた。
セヴァの奴…かなりの子沢山みたいだが、自分が産んだ子供たちの父親は誰か全部覚えてるのか…?



「まさに、エレガントだな…」

オラングル
「時間が惜しい、さっさと始末せよ!」


男衆は一斉に槍を構える。
セヴァは一歩も退かずに、表情すら変えなかった。
側にいる俺も、悔しそうな顔で震えているしかない。

俺は、どうするか悩んでいた。
俺にも、何か出来る事は無いのか!?
だが…どう考えても、子供たちの命が握らている以上抵抗は出来ない。

俺が少しでもおかしな行動を取れば、即座に子供たちは殺されてしまうだろう。



(クソッタレ…! こういう時はヒーローが来るんだろ!?)


聖は、まだ見ぬヒーローを待っている様だった。
そして…ギリギリのタイミングで、遂にそれは現れる。

風を切り、遥か上空から迫るひとりのポケモン娘。
俺は誰が来たかすぐに察し、期待を膨らませる。
そして次の瞬間、オラングルは遥か後方に吹き飛んだ…



………………………



ビュゴゴゴゴゴォッ!!


オラングル
「ぬうぅ!?」

子供たち
「キャアァッ!?」


近くにいた子供たちは、皆で寄り添って風に吹き飛ばされない様にしていた。
対してオラングルは、突如発生した竜巻に巻き込まれ、数10mは軽く吹き飛ぶ。

そして、子供たちの前にはひとりの鳥ポケモン。
その姿は、おおよそヒーロー等と呼べる様な面構えでなく、ビクビクと顔を強張らせて、何かに耐えている様だった。

ソイツは小さな石のナイフを両手持ちでヘタクソに構え、ゆっくりと起き上がるオラングルに向けている。

俺は、とりあえず安心はした。
そして、改めてこう声をかける…



「ナイスタイミングだ、香飛利!!」

香飛利
「うぅ…! こんな小さな子をイジメちゃ、ダメ〜!」

オラングル
「…むぅ、まさかこの様な者がいたとは!」


オラングルは、少なからず焦っている様だった。
そしてすぐに状況を理解し、オラングルは目を光らせる。
ヤレユータンはエスパータイプ、どんな戦術を取って来る気だ!?


香飛利
「な……に、こ……れ……?」


「お姉ちゃん!? 動きが急に…」


「ヤバイ、『トリックルーム』だ!! 素早さが逆転するぞ!?」


オラングルは、倒れている間にこんな技を仕込んでいやがった!
流石に策士だな…あの状況で、すぐに有効な手を打ってくるとは!


セヴァ
「貴様ら! 子供たちをすぐに保護しろ!!」
「マリスは近付くな! ルームの外で皆を守れ!!」


セヴァさんはすぐに的確な指示を出し、男衆はすぐに反応する。
そしてセヴァさんが先頭を進み、男衆はフォーメーションを組んで後追いした。
さながら、訓練された軍隊の様にスムーズに動く。
これが、長を信頼する男衆の動きなんだな…


オラングル
「流石は長…いかにトリックルームの中とはいえ、ハブネークたちの速度ではそう有利には働かんか」
「しかし、目的はそれではない…そちらの思う様にはいかんよ!」


「なっ!?」


俺は、突然体の自由を奪われる。
そしてそのまま宙に浮き、俺はオラングルの方に引き寄せられた。
って事は奴の『念力』かっ。
そういや、俺は生贄だったのを忘れてた…
うっかり射程に入られてたとは!


香飛利
「さ…と…し……さ…〜…ん…〜…!!」


香飛利は、スローモーションで叫んでいた。
速度差が顕著に出てるな…それだけ香飛利はこの中じゃ素早いって事だが。
こうなったら、とても香飛利は戦力にならない。
しかも俺が人質にされれば、また誰も手出しが出来なくなる。
くっそ…こんな時に足を引っ張っちまうなんて!!


サンダ
「長、子供たちはお任せを!!」

子供たち
「頑張れママーーー!!」

セヴァ
「任せておけ! オラングル、もはや貴様は必要無い!!」
「アタシたち一族は、今日から生まれ変わる!!」


セヴァさんは突進する。
俺は既にオラングルの側に引き寄せられており、奴はニヤリと笑っていた。
堂々と盾にする気かもしれないが、それならそれで、こっちにも考えがあるぜ!?


セヴァ
「…どこまでも汚い手を!」

オラングル
「何とでも言え、貴様は母と違い甘いのだ!」


予想通り、俺を盾にされてセヴァさんは躊躇っている。
俺はここで、セヴァさんに向けてこう叫んだ。



「セヴァさん! 俺ごとやれ!!」

セヴァ
「何だと!?」
オラングル
「貴様、何を…!?」


ふたりは同時に驚く。
俺はニヤリと笑い、セヴァさんを見てこう叫んだ。



「俺に考えがある! 遠慮無くやってくれ!!」

セヴァ
「!! 分かった、ならば行くぞ!!」

オラングル
「…く!? このままではやられる…?」


予想通り、オラングルは焦ってるな。
俺を念力で縛ってる間は、他の技はそう放てないだろ?
そして、セヴァさんはここで遠慮する程甘くも無い。
さぁ、どうする? 何でも俺はクリアアイテムらしいからな…何があっても死なないぜ!?

…とはいえ、痛みは覚悟しよう。



(さぁ、伸るか反るかだ!? 頼むぜ、セヴァさん!!)

セヴァ
「はあぁぁっ!!」


セヴァさんは一直線に槍を構え、俺の体ごと貫こうとする。
俺は歯を食い縛って覚悟を決めた。
最悪、臓器の隙間を上手く突き抜ければ、生き残る可能性は高い!


オラングル
「!!」


「でっ!?」


何と、オラングルは俺を解放し回避に徹した。
セヴァさんは一瞬止まり、狙いをつけ直して槍を構え直す。
その隙にオラングルは手をかざし、セヴァさんに技を放とうとした。
もしかしなくても『サイコキネシス』かっ!?



「させるか、バカ野郎!!」


俺はセヴァさんに向かってタックルし、射線からズラした。
それとほぼ同時に空間が捻れ、サイコキネシスを辛うじて回避。
ハブネークは毒タイプだから、当たれば即死もあり得る…間に合って良かったぜ!


セヴァ
「く…何と言う無茶を!」


「すみません、攻撃のチャンスだったのに…!」


オラングルは既に距離を離している…そして、徐々に徐々にだが、渓谷の奥に近付いている。
この先には何かがいるらしいが、果たしてソレは何なのか?
そろそろ、ラスボスって奴の登場なのかもしれない…!


オラングル
「…やむを得んか、もはや猶予は無い」
「神よ…どうかこの私にお力を!」


オラングルは、何と背を向けて逃げ始めた。
渓谷の奥に向かって走り、セヴァさんはそれを見て追撃する。
トリックルームはその後効果を失い、香飛利とマリスがようやく後ろから追い付いて来た。


マリス
「子供たちは無事に逃がしたぜ!?」

香飛利
「セヴァさんを追わないと〜!」


「ああ、行こうふたりとも! 恐らくオラングルは、この先にある何かを利用するつもりだ!!」


それを聞いて香飛利は俺を抱き抱え、すぐに飛び立つ。
マリスは自身の健脚を生かして走った。
やがてセヴァさんの背中に追い付き、俺たちは4人でオラングルを追走する。



………………………



オラングル
「はぁ…はぁ…!!」


「何だ…何か妙に不気味な感じが」

セヴァ
「気を付けろ! 何かデカイのがいるぞ!?」

マリス
「な、何だありゃ!?」

香飛利
「嘘〜〜〜!?」


俺たちは、全員が絶句した…
オラングルの目の前にいたのは、目を疑う様な巨体の恐竜がいたのだ。
いや、正確には恐竜とは違う…あれは、まさか!?



「ガチ…な、ゴラスさん?」

マリス
「二重の意味でガチだな!!」

セヴァ
「ボケている場合か!? あれは普通じゃないぞ!?」

香飛利
「人化…してない〜?」


そう、人化していないのだ…あのガチゴラスは。
だが、その大きさは…ポケモン図鑑が詐称だと思える程の、規格外サイズ!
おおよそ15mはあろうかと思われる巨体のソイツは、軽くオラングルを上から見下ろしていた。


オラングル
「おお、山の神よ!! どうか、どうかあの者たちを!!」
「あれは貴方様への生贄にございます!!」
「さぁ、どうぞご賞味……」


バキッ! ボキボキィッ!! グチャッ!!


それは、オラングルが言い終わる前の惨劇だった。
ガチゴラスは大きく口を開き、オラングルの全身に食い付いて、バラバラに噛み砕く。
オラングルは全身から血を噴出し、葉扇を持っていた右腕だけが地面にボトリと落ちた…


マリス
「な…!?」

セヴァ
「愚かな奴だ…あれが神だと? ただの野生の獣ではないか!!」

香飛利
「ででででで、でもっ! あんな大きなのどうするの!?」


香飛利は涙目でビビりまくっている。
まぁ、仕方無いわな…アレ見た後じゃ。
とりあえず俺は確信した、コイツが間違いなくラスボスだ。
理由は解らないが、規格外の大きさ、人化していない素のポケモン。
しかも、知能はおおよそ感じず、躊躇いなく人を食った…

アレは、完全に人を下位の存在だと思っている行動だ。
人間など、餌でしかないと言わんばかりの暴虐。
そんなガチゴラスは、次に俺たちをターゲットに見据えていた。



「…やるぞ香飛利!?」

香飛利
「無理です〜!!」

マリス
「バカヤロウ! やらなきゃ死ぬんだぞ!?」

香飛利
「絶対にアレは無理〜!!」


「よし、とりあえず3歩歩かせて…」
「やるぞ香飛利!?」

香飛利
「何を〜?」

セヴァ
「何もかも忘れてるではないか!?」


よし、見事なコンビネーションだ!
改めて、俺は団結の力を感じた。
とりあえず、1度恐怖を消せば香飛利は命令を素直に聞くはず!!



「香飛利、とにかく1番強い技を真っ正面に放て! 全力でだ!!」

香飛利
「あい〜……す〜…」


香飛利は予想通り命令を聞く。
そして、後ろに頭を引き、大きく息を吸い込んだ。
何だ? 何かを吐き出す気か?


セヴァ
「ヤバい…!!」
マリス
「げっ!?」


何故か、突然マリスたちは耳を塞ぐ。
俺はこの時点で、しまった…と思うが、もう遅かった。
香飛利は迷わずに、全力で最大攻撃力の技を放つ。


香飛利
「ギャーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

ガチゴラス
「!? グオオッ!?」


それは、凄まじい音量の『声』だった。
俺はその音をマトモに近くで聴いてしまい、頭をフラつかせる。
何とか倒れはしなかったものの、すぐに耳を両手で塞いだ。


香飛利
「ガーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!」

ガチゴラス
「グワァァァッ!!」


2発目、香飛利は命令をされる事無く連続で同じ様な技を放っていた。
何だこの技!? オニドリルは『ハイパーボイス』なんて覚えないのに…!


マリス
「相っ変わらず、うるせぇな! この騒ぎ方…!!」

セヴァ
「至近距離で食らったら、1発で意識を持っていかれるからな…!」
「だが、あの巨体にはそこまで効かないか!?」


成る程、『騒ぐ』か!!
って事は、あの○ギャナイザーみたいなシャウトは音波技って事だ。
何気にタイプ一致のノーマル技だが、岩タイプのガチゴラスにはタイプ的に通用し辛い様だな。


ガチゴラス
「ガァァァァァッ!!」

香飛利
「ひぃぃぃぃぃぃっ!?」


おっと、騒ぎ終わってまたビビってしまったか。
ガチゴラスは香飛利をギロリと睨み、その場から突進してくる。
速度はそれ程でもないが、いかんせん馬力が違いすぎる。
正面衝突はまず無理、ならここは分散だ!



「香飛利、上空で注意を引き付けろ!!」

香飛利
「いやぁ〜!! 逃げる〜!!」


ダメだこりゃ…もう、とりあえず放っとくしかないな。
ガチゴラスはハエの様に飛び回る香飛利をしつこく追っており、奇しくも狙い通りにはなった様だ。



「よしマリス、お前格闘技とか使えるか?」

マリス
「よく解かんねぇけど、殴るんだったら任せろ!」


おいおい大丈夫か? まぁザングースはスピードあるし、見切りもあるから簡単には当たらないと思うが…



「セヴァさんはサポートを!! まずは一睨みお願いします!」

セヴァ
「良いだろう、任せておけ!!」


まずは、セヴァさんがガチゴラスを睨み付ける。
しかもこれはただの睨みじゃない、『蛇睨み』だ!
ガチゴラスはセヴァさんと目を合わせた為、その場で動きを鈍らせた。

よし、例えデカくてもポケモンはポケモン!
状態異常はしっかり効く様だな!



「よし、行けマリス!!」

マリス
「うっしゃあ!! とにかくやってやらぁ!!」


マリスは警戒にステップを踏みながら、踊る様に突進して行く。
あの野郎…『剣の舞』を無意識にやってやがる!
こりゃ、威力は期待出来そうだ。

マリスはそのままガチゴラスの懐に入り、ガチゴラスの右足を全力でオラオラと爪を連続で叩き込み始めた。
もしかしなくても『インファイト』か!?
何気に高レベル技だぞ? いつの間にそんなに成長してたんだ…?


ガチゴラス
「グアアァァァッ!!」


ズドォンッ!!と突然の地震。
そして渓谷の岩山が突然崩れ、上方から『岩雪崩』が襲いかかって来た。
ヤバい…直撃はかなり死ねる!!


マリス
「チックショウ!?」

セヴァ
「聖はこっちに来い! 『守る』で防ぐ!!」


「香飛利! …は遥か上か、大丈夫だな」


俺はセヴァさんに引き寄せられ、ギュッ…と抱き締められた。
その際、当然の様に豊満なおっぱいに顔を埋めさせられ、セヴァさんは守るを発動して岩雪崩を防ぐ。
マリスはその間、必至に見切って全弾回避していた。



(むぅ…この柔らかさ、サイズ、実に素晴らしいおっぱいだ!)

セヴァ
「どうした聖!? どこか怪我でもしたか?」


「ああ、いえいえ! とても良い物…ゲフン!!」
「と、とりあえず追撃が来ます! 俺は一旦退がるんで!!」


俺は誤魔化しながらも、とりあえず後方に退がった。
セヴァさんたちは1度構え直し、ガチゴラスを改めて見る。
ガチゴラスは大分怒り狂っており、ギャアギャア!とわめき散らしていた。

本当に野生の獣だな…ポケモンとは思えない程だ。
とはいえ、やはり体力も桁違いみたいだし、まるで衰えている様には見えない。
さっきの攻撃を警戒しているのか、ガチゴラスも安易には近付いて来なくなった。
奴には遠距離攻撃手段がある…迂闊には近寄れないぞ?
かといって、待ってくれる程お人好しでもない…ならここは攻撃だ!!



「香飛利ーーー!! 何でも良いから、とにかく技を撃てーーー!!」


俺は全力で上に叫び、香飛利にそう伝えた。
香飛利はそれに気付き、状況を悟った様だ。


香飛利
(私がしっかりしないと…聖さんたちが〜)
(怖いけど、恐ろしいけど、それでも聖さんは助けたい…!)
(だったら、どうか助けて〜!!)


香飛利は、突然全身にオーラを纏い始めた。
まるで虹の様な輝きに、俺はある光景がフラッシュバックする。
そう…アレはあの時、舞桜さんが1度だけ見せてくれた…?



(Z…技!?)


香飛利は、騒ぐ時と同じモーションで頭を思いっきり後ろに引く。
そのまま大きく息を吸い、全力で叫ぶ体勢に入った。
だが今度のは迫力がまるで違う、一体どんな音波が飛び出すんだ!?

俺たちは、全員思いっきり耳を塞いだ。
今度は上から下だからモロに音はこっちまで届く。
とにかく、頼みますぜ香飛利さん!?


香飛利
「聖さんに…近付くなーーーーーーーーーーーっ!!!!」

ガチゴラス
「ガ…!?」


それは、まさしく香飛利の全力技。
その技は通常の音波とは訳が違った。
何せ、台詞が物理的にガチゴラスを襲ったのだ…どこぞの○ギャンやギャグ漫画の様に。

ヒジョーに説明し難いが、文字が顔面にドカッ!と、ぶつかるイメージかな?
まぁ、そんな感じ。○ロディウスのメガホンと言っても良い。
とにかく、それを顔面でマトモに食らったガチゴラスは、その巨体を震わせ、その場で倒れてしまった。


ドッ…ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!


大轟音…ガチゴラスは見事に倒れ、地響きと共に粉塵が宙に舞う。
俺たちは遠目にそれを注視し、ガチゴラスの様子を探った。
動く気配は…無い。

俺たちはとりあえず安心し、大きく息を吐いて勝利の余韻を噛み締めた。
そんな中、香飛利は上空で息を荒らげながら、フラフラとこっちに降りて来る。
俺はそんな香飛利を上手く抱き止めてやり、香飛利の頭を優しく撫でてやった。



「良くやったぞ、香飛利…!」

香飛利
「はひぃ…はひぃ…」


香飛利の手には、茶褐色の石が握られていた…
これがZクリスタルか…見たのは舞桜さんの時以来だな。
しかし、あんなZ技全く知らないが、何だったんだ?
香飛利の負担も相当みたいだし、ただ撃つだけでも相当辛そうな感じだな…


マリス
「すっげぇじゃねぇか! 何だあの技!?」

香飛利
「はひ…よく、解んない〜」

セヴァ
「ふむ、自分でも謎の力と言う所か」
「だが、結果はアレだ…」


セヴァさんが背中越しに親指で指差した先には、ガチゴラスのピクリとも動かない姿。
完全に気絶しているのか、それともショック死したか…
恐らく騒ぐからの起動だから、ノーマル技だとは思うんだが…
効果今ひとつでアレなら、威力は相当だろうな…反動もやむ無しか。



「結局、アイツは何で人化してなかったんだろうな?」

セヴァ
「さてな…アタシもあんなのは初めて見たし、聞いた事も無い」
「オラングルは知っていた様だが、もはや聞く術も無しだしな」


残されたオラングルの片腕だけが、空しく地面に残っていたのを見て、俺はこの世界の無情さを思い知る。
あのガチゴラスは、完全に人とは相容れない存在だ。
あのガチゴラスにとって、人間は餌でしかない存在。
オラングルはそれを神だと崇めていたが、そんな物はただの幻想なんだと俺は思った。



(これで、この世界の混沌はクリアって事か)

フーパ
『その通り…良くやったね、香飛利は』


久し振りにフーパが語りかけて来る。
その声は楽しそうな感じであり、結果には満足している様だった。



(だが、俺たちはまだここにいるぞ?)

フーパ
『それもタイミングがあるのさ…ゲームにはエンディングがあるだろ?』
『とりあえず、しばらくこの世界のエンディングを楽しむ事だ…まぁ、後の事考えると微妙かもしれないけど』


それだけ言って、フーパはまた無言になる。
やれやれ、エンディングねぇ…?
これが終わっても、まだまだ先があるってのに、か…


マリス
「とりあえず、アレどうする?」

セヴァ
「食ってもマズそうだしな…とりあえず放置しておこう」
「恐らく、この渓谷から出ては来ないだろうし、近寄らなければ危険もあるまい」


「あんなのでも、生きてるからな…」


俺の言葉に、マリスとセヴァさんは少し俯く。
この世界は非情だ…でもそれだけに命の重みはある。
あのガチゴラスだって、こんな渓谷に住んでいるなら、あまり餌も無いんだろう。
人食いなのは確かに危険だが、それだけの理由で殺すのは可哀想な気はする。


香飛利
「仲良くは、なれないのかな〜?」

マリス
「…さぁね、向こうがその気ならやぶさかじゃないけど」

セヴァ
「それは、まだ先の話だ」
「今は…アタシたちですら、種族間抗争は絶えないのだから」


そう、この世界ではまだ争いだらけなんだ。
でも、ザングースとハブネークはこうやって和解出来た。
これは、何気に歴史的瞬間な気がする。

本来、遺伝子にインプットされてる程、ザングースとハブネークは敵対しているというのに、このふたりは見事に手を取り合ったのだ。
ポケモンたちは、こうやって解り合える…それが解っただけでも、収穫は大きいだろうと、俺はひとりで納得していた…


香飛利
「…あ?」

「え?」


俺と香飛利は、同時に呟く。
気が付けば、暗い闇が広がる孔が空間に空いていたのだ。
俺と香飛利は、それに吸い込まれていく…

それはさながらブラックホールの様で、別れの言葉を交わす事すら無く、俺たちはその世界から弾かれたらしい…

そして俺はひとり、また暗い闇の世界にいた。



………………………




「…やれやれ、気紛れな制作者だな」

フーパ
「アタシもそう思うよ…でもまぁ、原始編クリアお疲れさん♪」


フーパが突然現れてそう労う。
原始編、ねぇ…原始って言うにはツッコミ所は多かったが。


フーパ
「まぁ、世界観設定は結構適当みたいだからね」
「さぁ、後6つの世界がある…次は何処に着くかな?」


「…そんなにあるのか、つまりそれだけ家族が巻き込まれてるって事だな」


フーパは無言で頷く。
香飛利の居場所が気になるが、クリアしたんだし案外元の世界に戻っているのかもしれない…
とりあえず、後は誰が巻き込まれているのか…?


フーパ
「楽観的にはならない方が良い」
「君がいかに不死身設定でも、一歩間違えれば植物人間になる事も有り得るんだから…」


俺は、そう言われて気を引き締める。
今回は五体満足だったが、次もそうとは限らない…か。
俺は改めて拳を握り、強く決意した。

必ず、家族を全員救うと!
そして、フーパをも救ってみせると…!










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第1話 『明日への道標』


To be continued…

Yuki ( 2019/05/04(土) 20:58 )