とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない













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第4章 『新たなる再会』
第7話

『はぁ…! はぁ…! はぁ…!!』


アタシはひとり走っていた。
もう、何度目だろう追われるのは?
今のアタシは無一文、味方はひとりもいない。
全てが孤独の中、アタシは強盗でも何でもして生き延びていた。
例え捕まったとしても、アタシは自分の力で切り抜けられる。
アタシは強い、弱者じゃない!
アタシはやがて貧困から徐々に上り詰めて行く。
そしてアタシは次第に自分の運命を感じた。
アタシは、人の上に立つ存在なんだと!!



………………………




「…あぁ、また…あの時の夢か」


アタシは、暗い路地裏で目を覚ます。
うつ伏せに倒れていた様で、全身が泥塗れになっていた。
そしてすぐに空腹の音が鳴る…もう、何日食べていないだろう?
アタシは大分体が痩せこけているのを感じていた。
体を何とか起こし、アタシは足元にある汚い水溜まりに自分の姿を見る。
そこにいたのは、以前からは見る影も無い程、痩せ細った自分の姿だった…
長い髪はもはやボサボサになり、頬骨は浮かんでまるでミイラだ。
服もブカブカでみっともないったらありゃしない…



「…はっ、情けないねぇ、あの女王『アマージョ』たるアタシが、こんな貧困に逆戻りとはね」


思わず笑みが零れる。
そしてあの時の苦しさも思い出す。
あの時もそうだった…アタシは元々は裕福だったんだ。
でも、あの大災害を切っ掛けに、全てを失った…
そこから先は酷いもんさ、力の無い連中は野党に全てを奪われ、貴重な水と食料は力のある物だけが得られる。
でも、アタシは弱くなかった!
野党を返り討ちにし、逆に食料を奪った!
そこからアタシは次第に力をつけ、部下を作り、そして国をも興した…


アマージョ
「…これが、楽園かねぇ?」


アタシは天を仰いで呟く…今は朝というより昼の様で、気温は日陰といえどもそれなりに暑い。
アタシは草タイプだからむしろ活発になるけど、なった所で使えるエネルギーが体に無い。
むしろ、余計に空腹を煽って苦しくなる位だ。
今のアタシは人間の目に写らない様、常にこうやって路地裏に隠れて潜んでいる。
特に地下は良い、臭いは最悪だが、人はまず入って来ない。
所々に地下水路への入り口があるこの街は、ある意味アタシの様な日陰者には暮らしやすかった…


アマージョ
「とはいえ、食事はそろそろ取らないとねぇ…」


いくら草タイプといえども、人化している今の体では光と水だけで生きてはいけない。
光合成だけで動くのにもそろそろ限界だ…どうにかして、生き長らえないと…


アマージョ
(…生き長らえる? 生きる意味…あったかねぇ?)


アタシはもう疲れきっていた。
ラランテスに敗北し、異世界で魔神に踊らされ、今はこうやって人間界でひっそりと逃げ延びている。
こんなアタシに、生きていると言える奴は、いるのかねぇ…?


アマージョ
「あっ…?」


アタシはその場で前のめりに倒れる。
意識が朦朧とし、次第に体から力が失われていく。
情けないねぇ、もう幕引きか…
結局、楽園なんて物は、アタシには無かったんだねぇ〜
アタシは少しでも楽しかった傲慢の日々を思い出す。
戦わなくても良い、働かなくても良い、ただ怠惰に過ごせたあの日々…
あの頃は、1番輝いていたのにねぇ…

アタシはそれでも、少しだけ貧しかった時の事も思い出した。
あの時も苦しかったけど、決して虚しくは無かった。
むしろ生きるのに必至で、何をするにも真新しくて、それなりに楽しかった…かねぇ?

アタシはその時点で意識を失う。
そして察する、終わりを。
結局、アタシには力が無かった。
アタシが楽園だなんて、ちゃんちゃらおかしかったんだ…



………………………



『お見事です…やはり、私の目に狂いはありませんでした』



アマージョ
『ああ…また、これか』
『もう、何度見たのか…?』
『アタシは…今度こそ死ねたかい?』
『今度こそ…死後の世界に行けるのかい?』
『今度こそ、苦しまなくて…済むのかい?』



………………………



アマージョ
「……あ?」


アタシは気が付くと、どこかの室内にいた。
木造で出来た天井だろうか?
見た事も無い電灯らしき物が設置されてる。
時間は解らない…カーテン越しの窓から漏れる光が無い所を見ると、夜…かい?


アマージョ
「…また、死ねなかったのか」


アタシは呆れていた…何でこんなに死に損なう?
アタシに、何の価値がある?
アタシは、生きなきゃならないのかい…?



「あら、目を覚ました?」


アタシは、寝ながら声を聞いて首だけを動かし、その方を向く。
目は霞んでいるけど、そこにいた男?はハッキリと目に写った。
髪はセミロング、髭は濃く、口髭と顎髭がくっついている。
服装はいわゆるコックの衣装で、料理人だと言うのは理解出来た。
アタシは体を動かす事も出来ず、ただベッドの上で弱々しく息をするだけだった。


男?
「随分、弱っているわね…お粥を作ったけど、食べられる?」


男?は片手にお椀を持っていた。
アタシはそこから匂う良い匂いに少し反応する。
体は弱り切っている、でも食欲はある。
男?はアタシの状態を察してか、スプーンを手に取ってお椀から食材を掬った。
そして、ふーふー…と息を吹き掛け、熱を冷ます。
その後、アタシの口にそのスプーンをそっと差し込んだ。
アタシはそれを熱がりながらも咀嚼して飲み込む。
そこからは、塩と酸味の味が広がり、次第に体が暖まるのを感じた。
アタシはその刺激に感覚を呼び覚まし、次第に食欲が加速していくのを感じる。


男?
「ふふ、気に入ったみたいで良かったわ♪」
「大丈夫、まだお代わりもあるから、好きなだけ食べなさい…」


男?の大きな手はアタシの頬を優しく撫で、子供の相手をする様にゆっくりとスプーンで粥を掬ってくれた。
やれやれ…アタシはそんなに若くも無いんだがねぇ…
だけど、今はそんな事を思ってる余裕は無い。
アタシは、全力で食事を取る事に専念する。
そして、椀の中身を平らげる頃には、意識はハッキリとしていた。


アマージョ
「…アンタは、何者だい?」
「見た所、人間みたいだけど、アタシがポケモンなのは理解しているのかい?」

男?
「気にしなくて良いわよ? アタシはポケモンの娘を養子にしてるから♪」


アタシは寝たままギョッと驚く。
この人間は、既にポケモンと関わりがあったらしい。
だったら納得だねぇ…アタシに何の恐怖も抱かないわけだ。


アマージョ
「…きっと後悔するよ? アタシみたいな悪党を助けたのを…」

男?
「ふふ、自分で悪党と言える人間に、本当の悪党はどれだけいるのかしらね?」


男は笑ってウインクする。
その顔は何の恐れもなかった…癪だねぇ。
今のアタシには、何の威厳も無いって事か…
女王の威厳も…廃れたもんだねぇ〜


男?
「アタシは苧環 勇気、貴女は?」

アマージョ
「…アマージョ、それ以外の名は無いねぇ」


まぁ、ポケモンには別の名を持つものもいる。
異世界で会ったイーブイたち…アイツ等は、別の名を持ってた。
アタシには、そんな名も無い…必要も無かったから。


勇気
「…アマージョね、とりあえず今はゆっくり休んで?」
「ここには、貴女の敵はいないから…」

アマージョ
「冗談じゃないよ…アタシに味方なんかいるもんか」
「こぞってアタシの首を狙う輩はいる…どこにも、アタシに安息なんか無かった」

勇気
「だったら、アタシが守ってあげるわ」
「貴女がどんな過去を持っているか知らないけど、アタシが貴女を守ってあげる♪」


苧環 勇気と名乗った男?は優しくそう言う。
アタシは軽く目眩を覚える…何なんだいコイツは?
何だって無償でアタシみたいなのを助ける?
おかしいだろ…アタシは助けられる様な存在じゃなかったのに。


アマージョ
「…何が望みだい? タダで助ける気は無いんだろ?」

勇気
「貴女、よっぽど不幸だったのね…そこまで人を信じられないなんて」
「でも、アタシは助けるわよ? 何があっても、助ける」
「アタシにとって、お腹を空かせて苦しんでいるだけの存在を助けるのに、理由はいらないわ」
「それこそが、アタシの存在理由だから」
「アタシは、もう2度とお腹を空かして苦しんでいる人を見捨てない」
「例え偽善だと蔑まれても、アタシは貴女を助けるわ」


馬鹿だ、コイツは本当の馬鹿だ。
そんなの、助ける理由にならない。
アタシは知ってる…こんな吐き気のする善人は腐る程殺してきた。
生きる価値なんて無い、そんな物は弱者の建前だ。
アタシは、地獄から這い上がった…だからよく知っている。
そんな物は、戯れ言だと…


アマージョ
「はっ…馬鹿馬鹿しい、信用出来ないね」
「アタシはもう行くよ…今回の事には礼を言うけど、2度とアタシに関わるな」


アタシは弱々しくも体を起こす。
が、服が違うのに気が付いた。
寝巻きの様だが、ピンクの水玉模様と趣味は最悪だった。
アタシはややイラッとし、勇気を睨む。


アマージョ
「…アタシのドレスはどうしたんだい?」

勇気
「それなら、洗濯中よ? と言っても、貴女の体型には明らかに合わないサイズだったけど?」


ちっ…そりゃそうか。
あれから相当痩せてるからね…元の服なんかもう着れるわけない。
アタシは自分の痩せ細った腕を見て顔をしかめる。
太っていた頃の皮だけは残っている。
お陰で見た目よりかは体が重い。
やれやれ…面倒な事だね。


アマージョ
「何か他の服は無いのかい? こんな寝巻きじゃ外に出れない」

勇気
「あるにはあるけど、今の貴女を外に出すつもりはないわよ?」


アタシは更に顔をしかめる。
だけど勇気は一切表情を変えなかった。
今のアタシに、力ずくでどうこうは出来ない…か。


アマージョ
「くそ…何なんだいアンタ?」
「絶対に後悔するよ? アタシなんか匿って…」

勇気
「後悔はしないわ、アタシの意志だもの」
「それに、貴女はそんなに悪い人とは思えないわ」
「本当の悪人なら、そんな悲しい目はしない」
「過去には悪人だったのかしれないけど、今の貴女が悪人だとはアタシには思えない」


アタシは力無く肩を落とす。
もうダメだコイツは…相手をするだけでも疲れる。
こうなったら、利用出来るだけしてやる。
そして、体調が万全になったら、とっととトンズラしてやろう。
コイツと付き合うのは、体調が戻るまでだ。


アマージョ
「…もう良い、好きにしな」
「アタシは生きられるなら生きるさ…その後の事はその時考える」


アタシはそう言って諦め、もう1度布団に包まる。
後はすぐに眠気に襲われた。
ああ…今度は、悪夢は見ないと良いな…



………………………



アマージョ
「…何日振りかね、悪夢を見なかったのは」


アタシは久し振りによく眠れたのを感じる。
体はまだまだ本調子じゃないが、気分は随分良くなった。
上体を起こして、カーテンの隙間から漏れる光に目を細める。
朝…か。


ガチャ…



「あ、起きてたんですね…気分はどうです?」


アタシは開け放たれた扉の先にいた女に目を向ける。
その姿は一見人間に見えたが、アタシにはコイツが人間でないと臭いで解った。
そして、察する…コイツは勇気が言っていた娘なのだと。


アマージョ
「…はっ、アンタが勇気の娘かい?」
「何のポケモンか知らないけど、随分と酔狂な事だねぇ…」


「…確かに、私はケンホロウです」
「だけど、私は苧環 風路という名前を貰った日本人です」
「決して、酔狂じゃありませんよ?」


コイツはコイツで気に入らないねぇ…父親と同じ目をしてる。
血は繋がってないのに、意志を受け継いでいるのを感じた。
何なんだいホントに…


風路
「とりあえず、動けますか?」

アマージョ
「…動けないと言ったら担いでくれるのかい?」

風路
「ええ、無理矢理にでも♪」


ムカつく程に笑顔だった。
アタシはため息を吐いて立ち上がる。
体は思いの外動く。
アタシは立ち上がってベッドから降りる。
すると、風路は少し驚いた様な顔をした。


風路
「アマージョさん、スタイル良いですよね?」
「痩せてはいるけど、胸はちゃんと張りがありますし、ウエストも理想的、ヒップもバランス良いんですよね〜」

アマージョ
「…はっ、そんなのどうでも良いよ」
「スタイルが良かろうが、アタシはロクな扱いは受けなかった」
「世の中結局力さ…暴力が支配するんだ」


アタシがそう言うと、風路は少し悲しそうな顔をした。
そしてすぐにアタシに肩を貸し、一緒に歩き始める。


アマージョ
「ちっ…甘ちゃんだねホントに」

風路
「そうですか? 私たちにとってはこれが普通です」


その言葉には一切の迷いも感じなかった。
本気で言っているのは解る…だけど、それが何の役に立つ?
それとも、この世界はそこまでお人好しの世界なのかい?


………………………



アマージョ
「………」


アタシは弱った体に食事を取らせていた。
昨日と同じお粥に、サラダとフルーツが別の皿に盛られている。
アタシはそれらを軽く平らげる。
食欲は以前に比べたら減少したのを感じた。
むしろ、貧困だった頃のハングリーさが甦り、必要最小限の食料で生きていたあの時に戻った様だった。


風路
「どうでした? 口には合いましたか?」

アマージョ
「ああ、シンプルな物だけど味は良かったよ」
「アンタが作ったのかい?」


アタシが聞くと、風路は笑顔ではい、と頷いた。
ちっ、嬉しそうな顔をして…癪だねぇ。
アタシはその場から立ち上り、再び寝室に戻る事にした。
体は動くが、本調子ではない。
まだまだ、休む必要はある。


風路
「あ、良かったらお風呂もありますんで、いつでも言ってくださいね?」
「着替えも部屋に置いておきますんで、後で着替えておいてください」


そう言って風路はバタバタと動き始めた。
やれやれ、慌ただしいね…それとも何かあるのかい?
音をよく聞くと、どうも家の中で何かを運んでいる様な感じがしていた。
まるで引っ越しみたいだね…?
アタシはそれ以上は特に気にせず、寝室に戻って眠る事にした。
この調子なら、後数日には本調子になるだろう。



………………………



そして、昼頃になってアタシは目を覚ます。
ドタバタとしていた音も今は止んでいたが、代わりに凄まじい歓声が外から聞こえる。
アタシは何事だい?と思い、カーテンを少し開けて外を見てみると、その光景にギョッとした。

眼下に広がっていたのは、人の行列。
そしてそれらが少しづつこの建物に入って行くのを見た。
何なんだい一体? 1階には何が?


風路
「あ、目が覚めたんですね? すみません、騒がしかったんじゃ?」

アマージョ
「…ああ、相当ね」
「こいつは一体何の騒ぎだい?」

風路
「いえ、これが家の仕事なんで♪」
「ウチ、喫茶店やってるんですよ…コスプレメインの」


アタシは?を浮かべ、理解は出来なかった。
だが、仕事でそうなっているというのは理解した。
風路から細かく説明されるもアタシには大半が理解出来ない。
精々解ったのは、ここが飲食店であるという事だけだった。



………………………



サァァァァァァァァァッ…


アマージョ
「…久し振りの、水浴びだねぇ」


アタシは汚れに汚れた体の汚れを石鹸で落とす。
この世界の石鹸は変わってるねぇ…ポンプで泡が出て来る。
髪には髪専用の石鹸もあるし、他にも洗顔、トリートメント?とかいうのもあるけど、とりあえず解らないから下手に使うのは止めておく。
アタシはとりあえず、鏡越しに自分の体を改めて見た。
昨日に比べてもマシになってる…腕も少し膨らんでいるね。
腹の皮は大分残ってるけど、これも太っていた頃の名残だ。
腕と太股にも同様の伸びた皮が残ってる。
そしてアタシは自分の胸に手を当て、それを掬う様に持って上下させてみた。


アマージョ
「スタイル…ねぇ」


アタシの身長は172p程、胸のサイズは88位かね?
緑の髪は膝下まで伸びており、アタシの頭には王冠の様な形の赤い蕾が着いている。
睫毛が赤く長いのもアマージョの特徴だ。
だけど、他の部分は人間と変わらず、草タイプの中ではアタシは特に人間に近いと言えるだろう。


アマージョ
「…力はまだ戻らないか」


アタシは拳を握り締めるも、それ程力は入らない。
これでもアマージョと言う種族は力に自信がある。
単純な力比べなら、アタシはあの閃光のラランテスにすらひけは取らないはずだ。
だけど、アタシはあれからロクに訓練はしていない。
今じゃあ、見る影も無いねぇ…


アマージョ
「…なら、取り戻してみるか?」


アタシはそう思った。
かつてのハングリーだった自分を取り戻す。
もう、あの傲慢だった頃に興した国は存在しない…だったら、また自分の力でのし上がらないといけない。
その為には力がいる。
アタシにはそれがあった…なら。



………………………



アマージョ
「ふっ! ふっ!」


アタシは寝室で動きやすいタンクトップと短パンに着替えて運動を開始する。
まずは全体的に筋力を取り戻す。
アマージョは脚力が自慢のポケモンだけど、それ以外も鍛えておく方がバランスは良い。
蹴りはあくまで主力なだけ、手も使えた方が格闘戦なら有利だ。
アタシは腕立て伏せでまずは上半身を鍛える。
その後も全身をくまなく筋トレし、アタシは汗を流した。



………………………



勇気
「精が出るわね、体は調子良さそう?」

アマージョ
「まぁまぁだね…以前に比べたら全然さ」
「まぁ、人間的に言えばもう若さも衰え始めてるし、多少は仕方ないだろうね…」


アタシはもう25歳だ。
人間的にはまだ若いとは言えるが、やはり全盛期と言うにはピーク過ぎ。
ポケモンの体がどこまで人間と同じ様に衰えるのかは不明だけど、やはり本来のポケモンとしての姿で無い以上、同じ感覚ではいられないだろう…


勇気
「努力をしようとするのは、人間の常よ?」
「そしてそれを続けられる人間は、必ずどこか優れた部分が生まれる」
「貴女だって、きっと何かを見つけられるわ♪」


勇気はそう言って笑う。
端から見ても、勇気はコックとしては異端な程体つきが良い。
その体はむしろ格闘家のそれに近く、明らかに鍛えられている体なのは一目で解るレベルだった。
恐らく、本人も努力を惜しまなかったのだろう。
そんな勇気の言葉は、想像以上にアタシに突き刺さっていた。



………………………



それから、半月が過ぎた。
アタシは結局、喫茶『こすぷれ〜ん』に居候したまま、体を鍛える日々を過ごしている。
風路はあれから隣街に引っ越し、今は2号店に直接居を構えたらしい。
ちょくちょく顔は出しに来るが、明らかにその頻度は減っていっていた。


勇気
「もう、大分筋肉もついてきたわね」

アマージョ
「まぁ、元々鍛えてあったモンだからね…元に戻しただけさ」
「それでも、やっぱり5年前の様な体には戻らない」
「ここからは、独自に鍛えて超えるしかないね」


アタシは拳を握り、力が入るのを感じた。
以前程ではないにせよ、今なら十分戦える。
そして、アタシは決意する。
これは…アタシの望んだ戦いだ。



………………………



アマージョ
「………」

浮狼
「………」


アタシはあの閃光のラランテスに勝負を挑んだ。
まさか、アイツもこの世界にいたなんて知らなかったよ。
だけど、それを風路から聞かされた時、アタシの想いは爆発した。
あのラランテスに勝つ…! アタシには明確な目的が出来たんだ。
アタシはあの時の情けない女王ではない。
もっと以前の、力で女王にのし上がった頃のアタシだ!


浮狼
「よもや、こんな時が来ようとは思いませんでした…」

アマージョ
「そりゃアタシもだよ…だけど、今はこの廻り合わせに感謝してる」
「そしてあえて聞いてやるよ…上から見下ろす気分はどうだい女王?」


アタシが皮肉を込めてラランテスを指差し、そう聞いた。
すると、ラランテスは一笑に付し、軽くその場でステップを踏む。
ここは、ラランテスが住んでいる城の地下闘技場。
アタシは風路に頼んでラランテスに果たし状を送ってもらったのだ。
そしてアタシたちは互いに動きやすい服で闘志を高める。
今回の戦いはあくまでメインは格闘戦。
殺し合いは望まないとラランテスが言い出した事だ。
故に、どう考えてもアタシに分がある。
気に入らないけど、ラランテスも自信はある様で気合いは入っていた。


浮狼
「まず、最初に言っておきます…私の名は浮狼」
「以降はその名で呼んでいただきたい」

アマージョ
「ああ、そうかい…なら浮狼、前の借りは万倍にして返させてもらうよ?」

浮狼
「本来ならばこの様な私闘は望む所ではありません」
「ですが、今の貴女からはあの時の様な弾圧するだけの傲慢さは感じられない…」
「故に、私は貴女の挑戦を受けました」
「約定通り、一対一で他者の介入無し」
「肉体以外の技は使用禁止で、相手を倒した方が勝ち」
「以上、特に問題はありませんか?」


アタシは無言で頷く。
そして、軽く足を伸ばし、コンディションを確認した。
パワーは恐らく5分、スピードなら上、体力は…微妙な所かね?
正面衝突は向こうの望む所だろう…さて、どう攻めるか?
アタシたちは互いに臨戦態勢に入り、構える。
浮狼は腕を使った戦法がメイン、アタシは足を使った戦法がメイン。
だけどアタシは手技も使える、接近戦ならアタシの方が択は多いはず。


アマージョ
「さぁ、始めるよ!? 覚悟しな!!」

浮狼
「!!」


低く上半身を屈め、迎え撃つ体勢の浮狼。
元よりスピードには差がある、浮狼から動くのは得策ではないだろう。
だがアタシは承知の上で正面から突っ込む。
これは挑戦だ、アタシの力が浮狼に通用するかを確かめる為の!!


アマージョ
「おおっ!!」


アタシはその場で軽く飛び、空中から回し蹴りを放つ。
その鋭さは全盛期の時とさほど変わらない物で、アタシは改めて強さを取り戻したのを実感した。
浮狼は両腕を高く上げ、ガードに入る。
アタシの蹴りは浮狼の腕に遮られ、あえなく先制は防がれてしまった。
だが浮狼は衝撃で後ろにズレ、反撃は出来ない。
アタシはその隙に着地し、すかさず追撃の右回し蹴りを腹に向けて放った。


浮狼
「くぅ!!」


ガシィ!と浮狼は左腕を下げて今度は片腕で防いでみせる。
アタシはすぐに足を引くも、浮狼はその隙に踏み込んで来た。
望みの接近戦。浮狼は右拳を握り込んでアタシの腹を狙う。
だが、アタシはここまで予測済み。
ニヤリと笑いその場でアタシは『高速スピン』で回転し、浮狼の拳を横に受け流した。
そして同時に体が流れた浮狼の顔面に向かって右手で裏拳を見舞う。
浮狼は反応出来ずにそれを側頭部で受け、頭を弾かれるも歯を食い縛って耐えた。


アマージョ
(ちっ、パーリングに集中したせいで当たりが甘かったか!)

浮狼
「ぬうぅっ!」


浮狼は尚も踏み込んで来る。
決して速度は無いものの、その馬力はまさに重戦車。
ちょっとやそっとの打撃では到底揺るがないだろう。
だからこそ、アタシはそれを正面から叩き伏せる!
パワーは互角、ならスピードとテクニックで上回ればアタシは負けない!!


浮狼
「はっ!!」


浮狼は作戦を切り替え、低い体勢でタックルして来た。
アタシは一瞬反応が遅れ、蹴りが出せずに腰に手をかけられる。
アタシは危険を感じ、その場で浮狼の腹に膝蹴りを放った。


ドボォッ!と浮狼の腹にアタシの右膝がめり込む。
浮狼は大きく息を止めるも、必至にしがみ着き、そしてアタシを後方にぶん投げた。


ズダァァァァンッ!!


アマージョ
「かはっ!?」


闘技場の中央にいたにも関わらず、アタシは壁まで一直線に叩きつけられる。
そして、異常に気付く。
浮狼のこのパワー、ただ事ではない。
少なくともアタシを容易く上回っている。
アタシの予想じゃパワーはほぼ互角だと踏んだってのに…!


浮狼
「たったさっきの1投でもう足が止まりましたか?」
「こちらもそろそろ本領発揮と行きます…覚悟を」


浮狼は呼吸を整え、すぐに突進する体勢に入る。
アタシはタックルを予想し、正面から迎え撃つ体勢に。
すると、浮狼は同じ様に低い姿勢でタックルを仕掛けて来る。
アタシはそれにタイミングを完璧に合わせ、右の飛び膝蹴りを浮狼の顔面に合わせた。
当たれば一撃で意識を刈り取る事も出来る、これで終わりだよ!


ガシィッ!!


アマージョ
「なっ!?」


アタシの膝蹴りは浮狼の両手で容易く止められる。
やはりおかしい! 何故急にこんなパワーが出る!?
浮狼との力差はそこまであったって言うのかい!?


浮狼
「ふっ!!」


ズダァァァァンッ!!


アタシは膝を捕まれたまま、また力任せにぶん投げられる。
今度はより近くの壁に叩きつけられ、アタシは全身の骨が軋むのを感じた。
意識はまだある、だけど…体が……!


ズシャァァッ!!


アタシはうつ伏せに倒れ、全身を震わせた。
体が悲鳴をあげてる…くっそ、ここまでかい。
たったあれだけの攻防でこの体たらく…ホントに情けないねぇ〜


浮狼
「…貴女の敗因は、私の特性を知らなかった事ですね」

アマージョ
「と…く、せい?」


アタシは首だけを動かし、アタシを見下ろしている浮狼の顔を見た。
浮狼は軽く息を吐き、勝ちを確信して力を抜く。
そして、特に感情も込めずに機械的にこう言い放った。


浮狼
「私の特性は天邪鬼…貴女のトロピカルキックを食らう度に、私のパワーは上がるのですよ」

アマージョ
「…!?」


そういう事かい…本来なら相手の攻撃力を削ぐアタシの蹴りが、浮狼には逆に働くとはね…
そして理解する…あの馬鹿力も、浮狼のパワーアップに繋がるのか。
不可解なパワーの正体はそれ…何て単純な答えだい。


浮狼
「…今回は私の勝ちですが、運勝ちだと言う事にしておきます」
「少なくとも、こちらの情報が知られていたら、こうも容易くは勝てなかったでしょうから…」

アマージョ
「…はっ、ざけんじゃないよ」
「こちとら、死ぬ気でやってたんだ…次なんて考えてなかったよ…」


アタシがそう吐き捨てて顔を床に落とすと、浮狼は少し悲しい顔をした様だった。
そりゃ、相手からしたら因縁かけられて付き合わされただけだ。
こんな戦いに意味なんて持ってなかったろうさね…


浮狼
「…ひとつ、聞かせてほしい」
「貴女は…何故あんな暴君となったのですか?」
「今の貴女を見ていると…とてもあの外道に落ちた理由が解りません」

アマージョ
「…バカじゃないのかい? アタシは最底辺から這い上がったモンだ」
「非道を尽くし、暴力を持って国を興した女王だ!」
「力があるから、民は付いて来る…アタシは暴君である事が誇りで、自由こそが幸せだった」


アタシは自分が行って来た非道をどうこう言うつもりは無い。
あんな物は生きる為、国を強くする為の施政さ。
アタシは象徴であり、女王。
確かに、調子に乗って油断はしてた。
自ら戦う事を止め、国力を持って他を征する。
アタシは恐怖政治を持って君臨し、国をひとつとして大きくしたのに、それはあっさりと霧散してしまった…


浮狼
「…確かに、あの世界は地獄だった」
「一瞬で全てが失われ、あるべき秩序は失せてしまった」

アマージョ
「そんな中…力のある者だけが世界に認められた」

浮狼
「私は、弱者を守る為に…」

アマージョ
「アタシは全てを征する為に…」

浮狼
「道は違えど、到達する結果は共に平和だったのかもしれませんね…」
「貴女が征していた世界は、それは恐怖政治であろうと、確かに秩序が生まれていたのかもしれません」
「だが、私にはそれは許せなかった…そして貴女も私を」

アマージョ
「はっ、買い被るんじゃないよ…アタシは自分の為だけにやったんだ」
「アンタが言う外道がアタシの正体さ…」
「いつだって…アタシは自分の為に戦うんだ」
「いつもひとりだった、アタシの為に…」


アタシは自然と涙が出るのを感じた。
悔しかった…アタシはコイツとは違う。
アタシは間違ってないと証明したかった…それでも勝てなかった。
アタシは…結局弱かったんだ。
ただ、自分は弱い癖に、自分より弱い奴らをイビって楽をしてた…
もう、アタシには何の拠り所も無い。
本当に…空っぽになっちまった。


浮狼
「貴女は、こんな事で折れる方ではないと私は思います」
「貴女は、私に勝つ為に努力をしたのでしょう? 例えそれが短期間であっても」

アマージョ
「…何が言いたい?」

浮狼
「貴女は、ここで埋もれるには惜しいと言う事です」
「かつて悪行を働いた暴君とはいえ、国を興し、大きくした貴女の功績は高く評価します」


浮狼は真面目な顔でそんな事を言う。
コイツの事だ、本気で言ってんだろうね…
アタシは少しだけ、考える事にした。
諦める事なんて、いつでも出来る…か。


浮狼
「さぁ、立ち上がってください」
「貴女がこの先、正しい道を歩むのであれば、私はこうやって手を差し伸べましょう…」


浮狼は屈んでアタシの眼前に手を伸ばす。
こちとら体がガタガタになってるってのに、厳しいモンだね。
アタシはため息を吐いて、その手を払いのける。
そして自分の力だけで立ち上がってみせた。
浮狼は一瞬驚くものの、すぐに微笑する。
アタシはそれから何も言わずに浮狼に背を向け、闘技場を出た。


アマージョ
(正しい道、ねぇ…)


ちゃんちゃら笑いが出る言葉だ。
アタシは今まで自分に正直に生きて来た。
そこに正しいも間違いも無い。
アタシはいつだって自分が1番さ…ただ。


アマージョ
(…自分より上がいるなら、ソイツが正しいのか)

浮狼
「アマージョ殿、こういった試合で良いのなら、私はいつでも受けましょう」
「他にも、この世界には強い者は沢山います…それらの者と競い合ってみるのも、良いかもしれませんね」


アタシは、当面の目的を定める事にする。
強い奴はいくらでもいる…か。
それなら…


アマージョ
「だったら、アタシの目標はまずアンタだ」
「次やる時は、アタシが勝つ…」

浮狼
「分かりました、楽しみにしておきましょう…」

アマージョ
「後、これからはアタシの事はこう呼びな…」
「茫栗(ばうり)…それを今からアタシの名とする」


浮狼は少し呆けるも、すぐに受け入れた様だった。
ちなみに読み方を変えると、そのままアタシのモチーフとなる果物の名前だよ…
我ながら安直だけど、まぁ良いだろう。
この世界で生きるなら、名はいる。
それなら、誰かに名付けられるのは癪だ。
アタシの生き方を決めるのはアタシ。
だから、名を名付けるのも…アタシさ。

アタシは急に笑いが込み上げて来た。
良いね、楽しくなって来た。
小さな目標でも良い、アタシにとってそれは楽園の鍵さ。
今なら、魔神の言った言葉も少し理解出来る。
そう、それこそが…今のアタシなんだ!


茫栗
(あぁ…お前も、笑ってくれるのかい? ナッシー……)










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第7話 『女王、堕ちて尚…』


To be continued…

Yuki ( 2019/05/02(木) 22:20 )