とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない














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第4章 『新たなる再会』
第3話
悠和
「………」


もう、あれからどの位の間、聖様と離れて過ごしたのだろうか?
6月も半ばを過ぎ、今日は体育祭後の日曜日。
私は、城の自室でひとり項垂れている。
恐らく、誰が見ても沈んでいるだろうと答える位には、私は落ち込んでいるのだと自覚していた。


悠和
「…解っては、いるのに」


聖様は皆を愛してくれる。
それは、決して誰かひとりだけに向けられる物ではない。
だからこそ、私は悩むのだ。
きっと、こんな風にズルい事を考えてしまって、勝手に落ち込んでいるのは私だけなのだろうから…


悠和
(聖様は、自ら皆に対して宣言なされた…)


聖様は皆を愛し、誰かひとりだけを特別扱いはしないと。
私以外の皆は、割と笑って受け入れていた。
勿論、複雑な顔をした人もいたけど、それはまたきっと私とは別の感情。
少なくとも、露骨に嫌そうな顔をしてしまったのは、私だけだっただろう…



………………………




「この城、白那城は、中世ヨーロッパ時代に建造されたと思われる、極めて古い城である」
「それも、過去の俺の失策で生まれた難民の為に、急遽白那さんが隔離した物だからだ」
「しかも、俺が難民に対して行った施策は、ここまでで入れ物さえ造れば良しとして夢の世界に引きこもり、彼女たちに夢の世界を解放する事はしなかったのである」
「ポケモンの母、アルセウスが人化した移民者、すなわちポケモン娘の自治権を俺に要求した時、母アルセウスは悪意に飲み込まれた」
「そして、その悪意は全ての並行世界を崩壊させると語り、俺たちに独立戦争を仕掛けたのである」
「その結果は諸君らが知っている通り、暴走したアルセウスの敗北に終わった…それは良い」
「しかしその結果、混沌は増長し、並行世界は腐敗し、別時空の俺の様な反家族運動を生み、夢見の雫の継承を騙る、もうひとりの魔更 聖の跳梁ともなった」
「これが難民を生んだ歴史である!」
「ここに至って俺は、ポケモン娘が今後絶対に戦争を繰り返さないようにすべきだと確信したのである!」
「それが、俺の演説によって皆の不和を取り除く作戦の真の目的である」
「これによって、並行世界間の戦争の源である、この世界に居続ける我々の心を是正する」
「諸君! 自らの道を拓く為、ポケモン娘の為の家庭を手に入れる為に、後一息、諸君らの力を俺に貸していただきたい!」
「そして俺は、父准一の元に召されるであろう!」
「ジークマサラ!!」


とある日、突然城でそんな演説が行われた。
当然の様に、深い意味は無い…だって聖様だもの…(;>_<;)


白那
「お疲れ様、聖君…」


「これでは俺は道化だな…」


「とりあえず全く解らんから、普通に説明しろ!」


全くもってその通りである。
ここ最近、真面目にネタを取り扱って無かったからって、少々張り切りすぎたかもしれない…
かなり継ぎ接ぎで台詞合わせてるから、所々変な部分もあるし、突貫工事なのが良く解る無駄に長いネタだった。
とりあえず、聖様は今度は簡単にこう宣言する事に…



「とりあえず、俺は皆の事を等しく愛している!」
「だから、誰かひとりを特別扱いは絶対にしない!」
「それだけは、皆に受け入れてほしいんだ…」

白那
「まぁ…今更だとは思うけどね? 皆、分かってる事だと思うよ…」


私はグサリと、胸を抉られた気がした。
この時の私は、間違いなく嫌な顔をしていただろう。
恐ろしくて、とても皆の顔を見れなかった…私はやっぱり最低だ。



………………………



その後、私は聖様と距離を置いた。
今はあまり一緒に登下校もしていない。
意図的にその時間をズラし、疑問に思うクラスメートたちには適当な言い訳をして誤魔化していた。
どうせ聖様にはバレてるんだろうけど…でもだからこそ、聖様はあんな宣言をしたんだ。
私の浅はかな考えなんて、薄っぺらい膜の様な物でしか、きっとないから…



「悠(はる)っち、いる〜?」


コンコン…と、優しくドアをノックされる。
この優しいトーンは、きっと明海さんの声だ。
私は、重々しい歩みでゆっくりとドアに向かった。


悠和
「はい…何か?」


そして私はドアを開き、明海さんの姿を見る。
どうやら、今から仕事に向かうらしい…可愛らしい普段着を着ているのがとても印象的だった。
明海さんたちも、今や正式にこすぷれ〜ん2号店で社員として働いているんだし、普段はとても忙しいんだろう。

でも、店の評判はかなり良いらしく、明海さんたちは毎日楽しそうにしている。
こうやって、先輩たちはちゃんと働いて稼いでいるのに…私は。


明海
「…あれからずっと落ち込んでるみたいだけど、そんな顔を聖様に見せちゃ駄目よ?」

悠和
「…は、はい」


やっぱり見抜かれてた。
明海さんは優しい声で窘めてくれるけれど、私はとてもそれが出来る気はしない。
そして明海さんがこう言うのなら、きっと他の人にも心配されていんだろう…
私は、どこまで落ちれば気が済むんだろうか…?

このままだと、終わりの無い坂道を転び落ち続ける気がしてしまった。


明海
「とりあえず、私たちは仕事に行って来るけど、貴女は少し気を休めなさい」
「今の貴女が悩んでいるのは見て解るけど、ひとりで悩むだけじゃ、絶対に解決なんてしないわよ?」


明海さんは、それだけ言って行ってしまった。
そして私は、更に悩む。
でも、確かに悩んでも解決はしないと、自分でも理解は出来た。


悠和
(だったら、少し外に出よう…)


もしかしたら、それで何か気付く事もあるかもしれない。
私はそう思い、机に置いてあった偽装薬を飲み、ゆっくりと普段着に着替える。
もうすっかり日中は暑いから、私は半袖の白シャツに銀色のミニスカートで外に出る事にした。



………………………



サァァァァァァァァ!


悠和
「…はぁ」


そして、私は速攻ため息わ吐いてしまう。
今は梅雨時期、雨なんか降って当然なのに…
私は一旦城に戻り、上着を羽織ってから傘を持つ事にする。
改めて、私は街の方を歩く事にした。

何か、いきなり嫌な予感がしてくる…



………………………



悠和
「…一応、水タイプに変化しておこうかな?」


私はそう思い、青いメモリを1枚ウエストポーチから取り出して、それを胸の谷間に挟んだ。
これで私は水タイプとなり、水に耐性を得る事が出来る。
雨の冷たさなんかも、一応軽減出来るのが利点だ。
ミニスカートだから、このままだと足元は濡れちゃうし、どうせ濡れるならこの方が良い。


悠和
(とりあえず、どうしようかな?)


私は適当に歩くも、別に目的がある訳では無い。
ただ、雨の中を無駄に歩き続けるのは、殊更に意味が無い気もした。
今日は日曜とはいえ、雨の中をわざわざ歩いている人は多くなく、人気も少ない。
なので、私は1度駅前に向かう事にした。

駅前の方はあまり立ち寄っていないし、何か新たな発見があるかもしれない…



………………………



悠和
(そういえば、明海さんたちの職場ってどんな所なんだろう?)


確か、別の街の駅前で店を構えてるという話だったけど…
この際、そこに行ってみるのも良いかもしれないと私は思った。
そして私は財布の中身を確認しておく、聖様から定期的にお小遣いをいただいているので、余裕はある。

そう思ったが吉日、私は早速駅の方に入る事に…



………………………



悠和
「……?」


駅に辿り着き、私は切符売場の壁に書いてある料金を確認していた。
そして、電車の切符を購入しようとするのだが…良く考えたら駅名が全く解らない事に気付く。
私はいきなり途方に暮れてしまう…これでは目的地にそもそも辿り着けないじゃない。

と、そんな時…項垂れる私を見た誰かが突然声をかけて来た。



「ん? 何や悠和やんか…こんな所でどないしたんや?」

悠和
「あ…」


切符売り場の前で、不自然に立ち尽くしている私に声をかけてくれたのは、何とあの阿須那さんだった。
そういえば阿須那さんも同じ職場…だったら阿須那さんに聞けば良い。
これは、まさに渡りに船だ。


阿須那
「駅におるっちゅう事は、電車に乗る気なんやろうけど…さしづめどの駅に行けば良いんか解らんっちゅう所か?」


ズバリ当てられた…流石は阿須那さん。
私は顔を赤くして、小さく頷く。
流石にこんな所を見られたのは恥ずかしかった。
阿須那さんはそれを見てクスクス笑い、優しく私にこう言う。


阿須那
「とりあえずどこに行くんや? ウチで解る所なら教えたる」

悠和
「は、はい…実は」


私は阿須那さんに目的地を話し、そこから一緒に切符を購入した。
そのまま、私は阿須那さんと一緒に行く事となる。
阿須那さんは流石に慣れているのか、テキパキとした動きで私を案内してくれた。

やっぱり、阿須那さんは凄いな…



………………………



阿須那
「ふ〜ん、成る程なぁ…まぁ、聖はあの性格やし、多少はしゃあないやろうけど」


私は、ここまでの悩みを全て阿須那さんに打ち明け、助言を貰う事にしたのだ。
今は、駅のホームで電車を待ちながら、阿須那さんと並んで会話している。
後数分もすれば、次の電車が来るらしい…


悠和
「…阿須那さんは、平気なんですか?」

阿須那
「もう慣れたわ…どんだけ誘惑しても聖の特攻は下がらん!」
「アイツ、ホンマは性別不明なんちゃうんか?と思う程や…」


阿須那さんはネタ混じりに、顔をしかめてそう言った。
その後は完全に呆れ顔となり、そこからいかに聖様の牙城が凄まじいかを物語っていた。
阿須那さんだって、こんなに魅力的なのに…そんな人が誘惑しても、聖様は平然としているんだろうか?

ちょっと気になってしまう…なので、私はもっと詳細を聞いてみる事にした。


悠和
「ちなみに誘惑ってどんな事を…?」


しかし、そこから放たれた阿須那さんの言葉は、私の想像を遥かに超越する物だった。
聞かなきゃ良かったと、その後本気で思う位に、それは壮絶な物だったのだ…


阿須那
「とりあえず、裸で迫っても全く無駄やったな…勃起位はしとったはずやが、確認までは取れんかった」

悠和
「は、はだ…っ!? ぼ、勃起!?」


私はいきなり突飛なシーンを想像して蒸せてしまう。
まさかそこまで過激な事をやっていたとは…
そして、それでも何の発情もしない聖様は、逆にどうなっているのだろうか?
少なくとも私のクラスメートたちは、そういった情事に関してはとても敏感だと聞いていたけど…

やはり阿須那さんは大人なんだから、子供の枠で考えてはいけないのかもしれない。


阿須那
「女胤なんか、裸でケツ向けておねだりしてたけど無駄やったで?」
「恐らく、聖を性的に崩すのは無理や…」


聞いてるだけで無茶苦茶だ…普通に考えたら成人指定の内容だというのに!
そしてそれでも聖様はダメだと言うのだから、もはや聖様の精神は仏の域なのかもしれない…

っていうか、私にはそんな恥ずかしい事とても出来ないし、する必要も無いと素直に思えた。
…こんなの何の参考にもならないですよね?

いや、ある意味聖様が不沈艦だというのが解ったのは、大いに参考になったのだけど…


阿須那
「まぁ、ウチ等は付き合いも長いし、聖の発言どうこうでイチイチ目くじら立てたりはせぇへんよ」
「アンタが悩むのは、実に自然や…ウチかて最初は悩みに悩んだ」
「せやけど、どんだけ悩んでも聖は考えを変えん」
「気が付いたら、もうどうでも良うなったわ…聖がウチ等の事好きなんは確定やし」
「ウチ等は、聖が選んでくれるのを待つだけや」

悠和
「聖様が…選ぶ?」


阿須那さんは、諦めを込めた表情でそう言うものの、そこに希望は残している様だった。
そう、それはある意味希望なのかもしれない。

そして私は、それを立場で有利にしている…
私は、そんな立場に甘えて聖様に近付いていたんだ…それがある意味、自分で許せなかった。
思わず俯いてしまった私を見てか、阿須那さんはぶっきらぼうにこう言ってくれる。


阿須那
「…アンタはアンタで好きにし」

悠和
「…え?」

阿須那
「アンタはまだ縁が浅い方やし、少し位優遇されても構へんねん」
「どうせ聖はアンタひとりを特別扱いなんてせぇへんねんから、思いっきり甘えたったらええんや!」
「…まぁ、その後にドン底に落ちるやろうけど、それもええ経験やろ!」


阿須那さんは、まさに自分が体感したのであろう経験を思い出して苦笑している様だった。
阿須那さんたちは、本当に凄いな…私なんか、全然聖様の気持ちも、皆の気持ちも解ってないのに。
やっぱり、選ばれた人は違うのかもしれない…

そう思った私は、悪気は全く無いものの、つい弾みでこんな事を言ってしまった…


悠和
「阿須那さんたちは、自分たちが既に選ばれた存在だというのは理解していますか?」

阿須那
「…そらそやろ? 何でアンタ等がウチ等殺してまで聖を奪おうとしたんか、知らん訳は無いで?」


阿須那さんは、少し睨む様な目でワザと厳しめにそう言った。
私はまたも胸を抉られる…こんな言い方は、多分卑怯だったから。
あの夢の世界での惨劇は、決して忘れてはならない事件だ。

私たちは当時、庭園でメイドたちと一緒に祈っていたけど、城で何が起こったかは予想出来た。
爆発音、破壊音、そして絶叫…
あの時の苦しさは、悲しさは…皆同じだったはずなのだ。


阿須那
「ウチ等は確かに選ばれた…そう言う意味やと、聖の中でも特別かもしれん」
「せやけど、それを理由に聖はアンタ等を軽視なんかせぇへん」
「もし、自分でそれを勝手に負い目に感じとんなら、アンタは家族失格やで?」

悠和
「…!?」


阿須那さんの言葉は、真っ直ぐに私の邪な心を貫いた。
そう、私のコレはただの嫉妬でしかない。
そして、阿須那さんはそれを察して叱ってくれているのだ。
そんな嫉妬ですら、阿須那さんは優しく諭してくれてる。
改めて、私は何て弱いのか…?


阿須那
「アンタが聖を独り占めしたいと思うのは、女として当然の欲求や」
「そんなんウチ等かてそうや…せやけどそれは、ウチ等が勝手に決める事やあらへん」
「それを決めるのはあくまで聖や、聖の選択がウチ等の全てや」
「アンタがそれを信じられへんねやったら、それはそこまでやで?」

悠和
「…はい」


阿須那さんは、暗にこう言っているのだ…正々堂々戦おうと。
聖様に選んでもらえる様に、自分を磨いて。
そして聖様を信じて、聖様に付いて行く。
それが出来るからのそ、真に聖様の家族なのだ…


阿須那
「さて、電車来たで? 折角2号店に来てくれる言うんや、今日はサービスしたるからな♪」


阿須那さんは、もう既に笑顔だった。
私は苦笑しながらも、涙を堪えて頷く。
そして私は決意した…聖様を信じると。
必ず信頼を、絶対に裏切らないと。

その為には、ちゃんと前を向こう。
そして知ろう…阿須那さんたちが、どんな風に戦っているのかを。



………………………



明海
「こすぷれ〜ん2号店へようこそ! こすぷれ〜ん♪ チュッ♪」


明海さんは雨の中、傘を差しながら、店頭でお客さんたちにアピールしていた。
今の動作は2号店用にアレンジした新モーションだそうで、最後に投げキッスをして締めるのが特徴らしい。
そして、チュッ♪の部分がツー(つまり2)の意味を込めており、ここが2号店なのだというアピールでもある。

ちなみに、今日のコスチュームは定番と言われるメイド服で、凄く綺麗だった。


阿須那
「とりあえずカウンターに案内したるから、アンタは中に入り…」
「ウチは着替えて、すぐ戦場に出るから」


阿須那さんは平然と戦場に、とか言った。
とはいえ、見れば解る…この大行列。
既に最後尾が見えない程の人が並んでおり、中には外国人の人も大勢いた。
改めて、この店は異次元なのだと思わされる。

1号店の方は1度見た事あるけど、あそこは2号店程大きくはなかった。
に対し、この2号店は1号店の倍近く座席数があり、店員も同様に12人体制と1号店よりも増員している。
ちなみに、基本的な営業内容は1号店と同じらしいから、1号店のコスプレと被らない様に配慮しているそうだ。

つまり、今1号店ではメイド以外のコスプレをやっているという事が逆に解る。
これならメインの客層が被らず、互いに客を食い合わなくなるという訳だ。



「悠っち、こっちへ…」

悠和
「は、はい…凄いですね、コレ?」


私は瞳さんに店奥のカウンターへと案内され、そこに座る。
カウンターの座席は計8席…既に半分は他の客で埋まっていた。
確か、カウンター席は一般客優先のはずで、ただ食事がしたいだけのお客さんはこっちに座る事になってたはず…

つまり、他のカウンター客は単純に風路さんの料理が目的で来てくれてるって事ね…
私は、俄に期待感が高まった。
海に行った時でも、風路さんのデザートやサンドイッチは食べたけどアレは本当にレベルが違う代物だった。

あの愛呂恵さんも絶賛してたし、改めて風路さんは料理だけでも一流なのだと私は感心したものだ。



「それじゃあ、まずは軽く店内ルールを説明するわね?」


そう言って、瞳さんはまずメニューを片手に、私に店内でのルールを説明してくれた。
基本的には1号店と同じであり、カウンター席は一般客用だけど、混雑の際には時間制限有り…か。

私はその説明や注意を一通り受けてから、まずメニューを見てみる。
やっぱり洋食が多め…とはいえ、作ってるのは何よりもあの風路さん。
どれも間違いなく美味しいはず…これも良い経験にしないと!

私はそう思い、ドキドキしながらも注文を決めた。


悠和
「1番人気のオムライスをお願いします!」


「分かったわ、少し待っててね♪」


あのクールな瞳さんが、可愛らしい接客スマイルでそう言ってくれた…
瞳さんのあんな笑顔、始めて見た…

そして、瞳さんはすぐに身に付けてる無線で厨房にオーダーを伝える。
それは見た目では全く目立たず、一見すると本当に通話出来ているのか不思議になるレベルだ。
いわゆるハイテクという物なのだろうけど、やっぱり現代科学って凄い…


悠和
(う…何か緊張する!)


私は心臓が爆発しそうな程ドキドキし、それを紛らわすかの様にミネラルウォーターをグビッと飲んだ。
そうして冷たい水で頭を冷やしながら、私はオムライスの到着を待った…
そんな中、私は皆の仕事振りを見回してみる事に…


阿須那
「ワンテーブル、スペシャル入るでーーー!?」


阿須那さんの大声と共に、店内はいきなり大歓声。
一体何事かと思って見ると、阿須那さんはテーブルに乗っているオムライスの皿に、ケチャップでハートマークを綺麗に描いて見せたのだ。
そして、その後何やら呪文の様な言葉を呟いて、最後に可愛く投げキッスをオムライスに放った。
その瞬間、そのテーブルの客は思いっきり喜んで体を震わせる。
店内はその後大盛り上がりで、他の客からも大歓声があがって場を盛り上げていった…

私はそんな店内の空気に圧倒され、思わず呆気に取られてしまう。


悠和
(す、凄い…このテンションが、閉店まで続くの?)


阿須那さんだけじゃなく、他のメンバーにも固定ファンが既にいるのか、それぞれ色んなアピールをしていた。
舞桜さんはややドジをしながらも堅実に、水恋さんは元気良く活発に。
李さんは力強く逞しく、祭花さんは可愛く愛らしく。
毬子さんと教子さんも、いつもとはまるで違うメイドの仕事なのに、見た事無い位生き生きとしていた。
明海さんと瞳さんもそう…ここは、私が知らない戦場なんだ。


悠和
(でも、これが…皆が望んだ仕事場)


人間の店員も含め、皆が素晴らしい笑顔だった。
特に阿須那さんは凄い…間違いなくこの店で1番人気だ。
この中でも、ひとり異彩を放っているのが傍目に解る。
噂には聞いていたけど、本当に普段とは別人の様な雰囲気なのね…

私がそんな感じで呆気に取られながら見ていると、遂に出来上がった料理が私のカウンターテーブルに置かれる。
その匂いの素晴らしさだけで、私は思わずビクッと反応してしまう程だった。



「はい、お待たせ…当店自慢のオムライスよ♪」

悠和
「は、はい…ありがとうございます!」


私は遂に来てしまったオムライスに思わず喉を鳴らす。
見た目からして既に美味しそうだ…
パッと見はシンプルな見た目なのに、卵の乗り方が実に絶妙で、今にもトロリと流れ落ちててしまいそうなそれは、実に食欲をそそる。

私はスプーンを片手に、まず一口頬張った。
そして、全身に雷撃を受けたかの様な衝撃を感じる。
コ、コレが…あの愛呂恵さんですらショックを受けたと言う、オムライスの破壊力!?

いや、そもそもオムライスとはこんな食べ物だったのか?とすら思える程、全く別次元の食べ物に感じた。
私もオムライス位は作れるけど、とてもこんなオムライスは作れないと断言出来る。
っていうか、本当にオムライスなのコレ!?



「…随分驚いたみたいね、無理も無いわ」
「店員皆が、初見で同じ反応してるもの…阿須那さん以外は」

悠和
「…阿須那さんは違ったんですか?」


「まぁ、阿須那さんは以前から本家の味を知っていたみたいだから」
「その時は、流石の阿須那さんも驚いていたと思うけど…」


ですよね…それ位この味は衝撃的だ。
私は温かい内に、全ていただく事にする。
ぐは…ライスの中心に行く程、味の濃さが絶妙に変わっていく!
コレは人の味覚の裏を突くギミックだ!!
こんなの、気が付いたら一気に無くなっちゃう!!

結局5分もしない内に、私はこのオムライスを全て平らげてしまった。
ぷは…オムライスだけでこんなに幸せになれるなんて〜♪
私は、この味を体に刻み、絶対に忘れない様にと心に誓った。



………………………



悠和
「…本当に凄かったな、風路さんのオムライス」


私は結局、あのオムライス一杯だけで満足してしまい、それから程無くして店を出た。
今も外から大歓声は聞こえて来る…アレがこの店の通常営業なのだからやはり凄まじい。
そして…皆、何より楽しそうだった。
それに比べて、私は…


悠和
(聖様…寂しいよ、やっぱり近付きたいよ…)


私は、聖様の事を考えて思わず泣きそうになる。
だけど、それはあくまで聖様が言い出した事。
私は聖様が1番好きだけど、それでも距離は置かなきゃならない…
でもやっぱり、辛いよ…



「…あれ? アンタ、美代さんじゃ?」

悠和
「え…あ、貴方は…万丁、君?」


突然私に話しかけて来たのは、いつもリーゼント姿をしているあの万丁君だった。
休日にこんな所で出会うなんて…もしかして万丁君、この辺りに住んでるんだろうか?

彼は雨の中、透明のレインコートで身を包んでいるも、自慢の髪型は全て覆えずに、若干雨に濡れている様だった。
私は思わず涙目の瞼を腕で拭き、すぐに表情を戻す。
すると、万丁君はやや訝しげにこう聞いてきた。


万丁
「何かあったのか? その…泣いてたみたいだったが」

悠和
「ううん、大丈夫…これは私の問題だから」


私は、やや強めの声でそう言った。
他の人に、もう弱味は見せられない。
私はあくまで聖様の家族であり、聖様を護る兵士でもなければならないのだから…

そんな私の顔を真っ直ぐ見て、彼は少し心配そうな顔をするも、納得はしてくれた様だった。


万丁
「…そうか、それなら別に良いんだが」

悠和
「万丁君は、この街に住んでるの?」

万丁
「え? あ、いや…今は別の街さ、学校から徒歩15分のマンション」
「今日は、たまたまダチに会いにな…」


そうだったのね…でも、万丁君の顔は何だか悲しそうにも見える。
この街には、彼にとって何か不安な事でもあるのだろうか?
それとも、そのダチというのが問題なのだろうか?

私はやや疑問に思うも、正直万丁君の事はほとんど知らない。
席が隣で、話しかけられる事はよくあれど、別に互いを詮索する様な会話はした事無いのだ。
あくまで、彼と私はただのクラスメートでしかない。


万丁
「それより、美代さんは?」
「美代さん、確か魔更先輩の家に居候してんでしょ?」


正確には違うのだけど…入学する際に必要となった住所登録の都合上、そうしてもらってるのが現状だ。
なので、住民票的には聖様の家と同じとなっている。

私は変に勘ぐられない様、平静を保ってこう答えた。


悠和
「今日は、先輩の仕事場に来てたの」
「ほら、あの行列のお店…あそこで働いてる人が、私の先輩なの」

万丁
「へぇ…確かあの店、最近出来た店だよな?」
「大した先輩だな…あんな繁盛店で働いてるなんて」


万丁君は凄く感心した顔でお店を遠目に見る。
やっぱり、万丁君にとってもあの店は凄いらしい。
そりゃそうだよね…あんな行列、そうそう見れなさそうだもん。


万丁
「開店時なんて、テレビで報道されてたからな…あの有名喫茶店の2号店がオープンって」

悠和
「そ、そうなの? 私、あまりテレビ見ないから知らなかった」


凄い…それじゃあ皆もう有名人なんだ。
だから、こんなにもお客さんが来てるのかな?
それとも、やっぱり風路さんがスゴいから…?

きっと、両方なのだろう…
阿須那さんたちの働き振りを見ても、それは一目瞭然と思えた。
皆があんなに楽しそうに働いているお店なんだから、きっとお客さんも幸せになってくれてるはず。

あのお店は、そんなお客さんを喜ばせる為に存在しているのだろうから…


万丁
「…さて、俺はもう帰るけど」

悠和
「あ、私も帰るね…万丁君は電車なの?」

万丁
「ああ…いや、俺は原付で来てるから」

悠和
「…原付?」


私が?を浮かべてると、万丁君は複雑そうな顔をする。
何で知らないの?って、顔だね…
流石に、この世界の物はまだ解りきっていないし…
でも万丁君は、別に嫌そうな顔をする事もなく、親切にこう説明してくれた。


万丁
「…スクーターの事だよ、原動機付自転車の略」
「一応16歳だからな、高校入ってすぐに免許取ったんだ」
「金さえ工面出来りゃ、普通二輪の方取ってたんだが…」

悠和
「スクーター…バイクとは違うの?」

万丁
「バイクは一般的に普通二輪とか、大型二輪の事だよ」
「美代さん、成績良いのに妙に当たり前の事知らないんだな?」


私は少し言葉に詰まる。
やっぱり人間世界の常識はまだまだ知らない事だらけだ。
これ以上ボロを出すと、変に怪しまれるかもしれない。
それだけは避けなければ…私はそう思い、やや唐突に会話を切る形でこう言った。


悠和
「ゴメンね、私…もう急ぐから」

万丁
「ああ、じゃあまた明日ガッコでな!」


万丁君はそう言って別の方向に走って行く。
私もそれを見送り、ひとりで駅に向かった。
今度は駅名も覚えたから、きっと大丈夫。
そして帰ったら、聖様に会いに行こう…阿須那さんも良いって言ってくれてたし、少し位は…

私はそう決心し、駅で切符を買って意気揚々と電車に乗った。



………………………



悠和
「………」

駅員
『え〜次は〜上野〜〜上野に〜止まります』


そうして余裕を見せていたのが実に運のツキであり、私はよりによって上り線と下り線を間違えて乗ってしまい、案の定車内で途方に暮れたのだった…


悠和
(うう…ベタ過ぎる)(;ω;)


私は結局上野駅で下車し、そこから逆向きの電車に乗り換える。
そして今度こそと、もう1度路線図をしっかり確認し、今度は確実に目的の駅に向かって出発した。



………………………



悠和
「うう…もうこんな時間」


そうこうしている内に時間は夕方を回っており、もう日が暮れかけていた。
とはいえ、何とか聖様の家には辿り着き、私はかなり疲れを感じながらもインターホンを押す事にした。


ピンポーン!


守連
「は〜い! あ、悠和ちゃ〜ん♪ ようこそ〜♪」

悠和
「どうも、守連さん…あの、聖様は?」

守連
「聖さん? 聖さんなら、愛呂恵さんや三海ちゃんと一緒に買い物に行ってるよ〜」
「用があるなら、中で待ってる?」


私は意気消沈する…何てタイミングが悪いのか?
とはいえ、あまりワガママばかり言うのも問題だし、ここは1度部屋に戻って出直そう。
夕飯前には戻って来るはずだし、その時にでも…


悠和
「えっと、それなら出直します…」
「また時間を見計らってから来るので…」

守連
「うん、分かったよ〜それじゃあね〜♪」


守連さんは相変わらず弛めの声で笑いながらそう言う。
守連さんは本当に気楽そうだな…きっと幸せだからだろう。
阿須那さんもそうだけど、この家で聖様と過ごしている皆はきっと幸せなんだ。

私は、それをとても羨ましく思いつつ、胸がまた傷んだ。
そして私は守連さんに一礼し、そのまま踵を返す。
その後自室に戻り、1度仮眠を取って時間を潰す事にしたのだけど、何故か熟睡してしまい、目覚めたら夜に…

結局、迷惑を考えて私は今日会うのを断念。
そして、その日は聖様に会えなかった所か、夜寝る事も出来なかった…


悠和
(もしかして、私呪われてる? きっと神様が私に天罰を下したんだ〜!)


私は自分の行いを悔やみ、心を入れ換える事にした。
もうワガママは止めよう…嫉妬するのも厳禁!
これからは、もっと謙虚に生きないと…

そして、私はその後気付く事になる…私は、実は致命的に運が無なったという事に…










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第3話 『嫉妬の罪 美代 悠和』


To be continued…

Yuki ( 2019/05/01(水) 22:24 )