とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない














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第3章 『混沌だからって、悪意ばかりじゃない』
第5話
ぺラップ
「さぁ舞台も整い、いよいよ戦いが始まろうとしています!」
「かたやレックウザとシルヴァディ、かたやピカチュウとケンホロウ!」
「この戦い、どう見ますか白那さん?」

白那
「そうだね…鐃背さんは格闘技好きだし、それなりにプロレスも研究はしてるはず」
「間違いなく、単体性能なら今大会でもトップだろうけど、その代わりパフォーマンス維持には時間制限がある…」
「ましてや、ズブの素人である悠和が相方だし、タッグとしてどう機能するかが重要だろうね…」

ぺラップ
「成る程…では、やはりマスクドタッグの方が優勢と見るべきでしょうか?」

白那
「さっきのコンビネーションを見ても、タッグ相性は良さそうだね」
「種族としてのの力弱さも、十分テクニックでカバーしてるみたいだし、鐃背さんたちがしっかりとタッグとして機能してないと、苦戦じゃ済まないのは確かだね」

ぺラップ
「どうも、解説ありがとうございました! さぁ、間もなくゴングです!」
「果たして勝つのはどちらかぁ!?」


(意外としっかり解説してたな…流石は白那さん)


実況も中々にテンションが高く、決まってる。
観客は熱気も盛り上がりも十分だ。
さて、とりあえず俺はどっちも応援させてもらうぜ…?
どっちが勝っても遺恨無しだ。



………………………



阿須那
「守連の奴、いつの間にあんな技使える様になっとったんや?」

女胤
「昨日は姿が途中から見えなかったのですが、風路さんと特訓でもしてたのでは?」

華澄
「あり得ますな、少なくとも先程のコンビネーションは、そう簡単に出来る物では無いでしょう…」

愛呂恵
「しかし、鐃背さんは本当に強い…あの方の技をどう捌くかが最も重要なポイントとなるでしょう」

三海
「ン…どっちを応援したら良いの?」

阿須那
「聖が応援する方を応援するんや…解るか?」


三海はそれを聞き、ン…と少し考える。
そして、表情は変えずにこう答えた。


三海
「じゃあ、どっちも応援する…」

阿須那
「正解や…聖なら絶対そうする」


ウチは微笑んで三海の頭を撫でてやった。
三海も嬉しそうにして、リング上の家族たちを見る。



………………………



鐃背
(…精々、維持出来るのは後20分程度か)


妾はここまでの経過時間を計算し、メガ進化維持の残時間を予測する。
入場からここまでで、想像以上に削られた。
これは短期決戦では済まなくなったの。


悠和
「鐃背さん、大丈夫ですか?」

鐃背
「…心配はいらぬ、妾がこの姿で出る以上、負けはせぬよ」


妾は笑ってそう言う。
相手は守連と風路…何故顔を隠しての出場かは解らぬが、やるからには楽しませてもらうとしよう。
これは祭りじゃ…妾にとって勝ち負けなど二の次…


鐃背
(楽しめればそれで良い!!)

Mピカチュウ
「…!!」



ぺラップ
「さぁ、リング内には鐃背とマスクドピカチュウ!」
「レフェリーのワンリキーが、ふたりを見てまず反則への注意を指示…互いにヒールさは見られませんが、試合が始まるまでは戦法も解りません!」

白那
「まぁ、あのふたりなら反則はそう無いだろうね」
「だけど、どう戦うのか…それは見物だね」

ドータクン
「………」


カーンッ!!と、突然解説席の横に座っていたドータクンさんの頭頂部が鏡開きにパカッと開いてゴングが競り上がった。
そして無言のままゴングが鳴り、突如として試合は始まる…

って、ゴング役も兼ねてるのかよ!?



鐃背
「ゆくぞ!!」

Mピカチュウ
「!!」


妾はゴングが鳴ると同時に守連に突進する、観客の歓声を背中に受け、妾は戦意を高揚させた。
守連は口元をキッとし、両手を構えて迎え撃つ体勢に。
妾はそこへ不意打ち気味に開幕からドロップキックを顔面に向けて放った。
飛行タイプが放つこいつは予備動作が少ない、どう捌く!?


ドカァッ!!


Mピカチュウ
「うぐぅっ!?」



ぺラップ
「開幕から顔面強襲ーーー!! 予備動作無しでミサイルの様なドロップキックがマスクドピカチュウを吹き飛ばしたぁ!!」

白那
「いきなりだね…マスクドピカチュウは完全に意表を突かれたって所か」
(って、本当にそうなのかね…? 守連ちゃんの反応なら回避は難しくないと思うんだけど)



鐃背
(あやつ、ワザと受けおったな? 面白い! これぞプロレスよ!!)


妾はニヤリと笑い、ロープまで吹き飛んだ守連へ追撃を狙う。
守連はロープにダラリ…と体を預け、ぐったりとしていた。
妾はそのままタックルの体勢に入り、全力で突進する。
そして守連の体にぶつかろうとしたその瞬間…


ベキャアッ!


鐃背
「がはぁっ!?」



ぺラップ
「ここでマスクドケンホロウが、カウンターのドロップキックをリング外から炸裂ーーー!!」
「マスクドピカチュウ、寸前のタッチで相方に助けられましたー!!」
「そして今度はマスクドケンホロウがリング内に、マスクドピカチュウは外に出て交代ぃぃ!!」

白那
「良いタイミングだね、ワザとロープ際まで呼び込んでのカウンター…タッチもスムーズで、完全に鐃背さんは罠にかかったね」


Mケンホロウ
「はあぁっ!!」

鐃背
「ぐっ!?」


風路は素早く仰け反った妾に接近し、掴みかかる。
が、妾が踏ん張った瞬間に奴は後ろへと回り、妾の腰を両腕でロックした。
妾はマズイ!?と思うも、投げに対しての飛行は反則と言うルールを思い出す。
食らうしかないかっ!?


ズッシャアァァァァッ!!


ぺラップ
「決まったーーーーー!! 鮮やかなジャーマンスープレックスーーー!!」
「鐃背マトモに首から落とされ、マットに沈んだぁー!!」
「レフェリーがカウントに入る! 鐃背返せるのかぁ!?」

白那
「いや、まだだ!」


ベキィッ!!


Mケンホロウ
「くっ!?」

悠和
「簡単にはやらせませんよ!?」


悠和はカウント2の所でリング外から飛び出し、風路の腹に上から飛び蹴りを放った。
悠和に踏み潰され、風路はマットにめり込み声をあげる。
妾はそれでロックを外し、すぐに横に転がって難を逃れた…



ぺラップ
「間一髪!! ここで悠和が大ジャンプして3カウントを阻止!!」
「見事なカットで鐃背は危機を脱出!! 悠和はそのままリング外に戻ります!」

白那
「定石だけど、ちゃんとカットしたね…どうなるかと思ったけど」



危なかったわ…想像以上にこのマットは硬いの。
しかも、あれだけ急降下気味に上から落としてくるとは…風路の奴め、手慣れておるな!?


Mケンホロウ
(まさか、カットされるとは思ってなかった…流石に悠和ちゃんがそこまでルールを理解してるとは思ってなかったわ)

鐃背
「ふくく…! さぁて、反撃開始じゃぞ〜!?」


妾は左手で右肩を抑え、右腕をグルングルン回す。
このパフォーマンスに会場は沸き上がり、観客のボルテージが一気に高まった。
風路は構えて迎え撃つ体勢。妾はそれに向かって突進する。


鐃背
「はあぁ…!!」

Mケンホロウ
「くっ!!」


妾は『神速』の速度で風路に体ごとタックル、風路はガード越しに吹き飛ばされ、ロープの反動でこっちに戻って来た。
妾はそれめがけて右腕で風路の首にラリアットを仕掛ける。


バキィィッ!!



ぺラップ
「強ーーー烈ぅ!! ロープワークからの神速ラリアットーーー!!」
「あまりの速度に、反応すら出来ないマスクドケンホロウ! 首を強襲され、マットに叩き付けられたぁ!!」

白那
「これはキツいよ…? 首の骨が折れててもおかしくない」
「このままフォールすれば試合は終わるかも…」



鐃背
「くくく…さぁ〜て、これでフォールじゃぞ〜?」


妾は仰向けに倒れている風路の首元にヒップドロップでのし掛かる。
そしてレフェリーがマットを叩き、カウントを進めた。


ワンリキー
「ワーーン!! ツーーッ!!」


Mピカチュウ
「くっ!!」


バチバチバチィッ!!


鐃背
「わきゃっ!?」


突然の電撃、妾は思いっきり痺れてその場から横に倒れる。
フォールが外れ、レフェリーは困惑しリング外を見るも、守連は肩をすくめていた。
おのれ…レフェリーがカウントに集中している間に反則とは!!

今回は反則を取られる可能性がある為、あえて『デルタストリーム』は封じておるからの…
流石の妾も電気は痛いわっ。


Mケンホロウ
「あ、危な〜…助かったよ〜」

Mピカチュウ
「早くタッチを!」



ぺラップ
「ここで10万ボルト炸裂ぅ!! 露骨な反則行為ですが、レフェリーが見ていなかった為、反則は取られません!!」
「そしてその隙にタッチで選手交代! マスクドピカチュウが再びリングに入ります!!」

白那
「あ、あはは…いつかやると思ったけど」
「こりゃ鐃背さんも大変だな…ここからは反則も意識しないといけなくなった」

ぺラップ
「ちなみに今回のルールでは、反則は5カウントまで!」
「一瞬で電撃を放つピカチュウみたいなのは流石に問題なので、今回のルールは特殊カウント制となっております!」
「ポケモンの特殊技で反則するごとに1カウント減っていき、5回使用したらその場で反則負けとなります!!」



Mケンホロウ
「気を付けて!? あんまり反則には頼らない様に!」

Mピカチュウ
「分かってます!」


妾は首を横に振って痺れを振り払い、すぐに立ち上がる。
守連は突進して来ている…やはり、ひとりでこのふたりを相手にするのは疲れるの。
とはいえ、悠和にこのふたりを相手にさせるのは正直無理じゃ。
やはり妾が踏ん張らねば!


鐃背
「さぁ、来い!!」

Mピカチュウ
「!!」


瞬間、一瞬の紫電と共に守連は妾の視界から消える。
その瞬間、妾は両腕を上げて頭部へのガードを固めた。
じゃが、次の瞬間妾の足が守連に掴まれる。

上ではなく下かっ!? 打撃がメインのはずの守連が…


鐃背
「くっ!?」


妾は即座に足を踏ん張り、その場で耐え抜いた。
守連は物凄い力じゃったが、妾はそのまま足を掴んでいる守連の腕を強引に取り、そこから思いっきり握力で握り潰しにかかる。


Mピカチュウ
「…っ、ああぁっ!!」



ぺラップ
「これは凄い!! 鐃背、自慢のパワーで無理矢理マスクドピカチュウの腕を握り潰している!!」
「たまらず手を足から離し、鐃背はそのまま力任せにマスクドピカチュウを振り回したぁ!!」

白那
「流石の怪力…! これはマズイよ!?」



ズッシィィィンッ!!


Mピカチュウ
「かはっ…!?」

鐃背
「…!!」


妾は力任せに守連の腕を掴んで振り回し、そこからマットに振り下ろした。
守連は背中からマットに思いっきり叩き付けられ、喀血する。
衝撃で内臓が痛んだか…じゃが容赦せぬぞ!?


鐃背
「ぬあぁっ!!」

Mピカチュウ
「ぐうぅ!?」


バチバチバチィッ!!


妾は再度逆方向に振り回す。
そして、守連は苦し紛れに電撃を放つも、妾は全く怯まずに我慢し、また逆方向に振り落とそうとした。
じゃがその瞬間…


Mケンホロウ
「このおっ!!」

悠和
「何度もやらせません!!」


カットに入ろうとした風路を悠和が迎撃する。
風路は飛び蹴りの体勢で悠和の『エアスラッシュ』を食らい、空中で吹き飛ばされてしまった。
ここで堂々と反則とは、やりおるの悠和!!


鐃背
「ならば! これで終わりじゃ……!?」


妾は最後の一撃とばかりに、全力を込めて振り下ろす。
じゃが、最後の最後で妾は時間切れを察した。
淡い輝きと共に体から力を失い、妾は体を縮めて守連の腕から手を離してしまう。

思ったよりも…早かった、の……


Mピカチュウ
「!? 鐃背さん、ゴメンなさい!!」


次の瞬間、ゴキャァッ!と音が響き、妾はその場で意識を断ち切られる。
そして、そのまま試合は終わる事となってしまった…



ぺラップ
「まさか、ここで鐃背力尽きる!! そして自由になったマスクドピカチュウが、すかさずエルボードロップで急所を強襲ー!!」
「そのままフォールに入ります! ワン! ツー! スリーーー!!」


カンカンカーーーン!!


ぺラップ
「決まったーーー!! 悠和のカットもマスクドケンホロウに阻まれ、間に合わず!!」
「完全に意識を断たれた鐃背、ぐったりとマットに横たわり、そのまま動きません!!」
「しかし、まさかここでメガ進化が解けるとは…これも運命のイタズラだったのでしょうか?」

白那
「後1分続いてたら、逆の絵になってたかもしれない…」
「これは正直、運にも助けられたって所かな」

ぺラップ
「成る程…やはり鐃背は強かった! 観客も彼女たちの迫力で大いに盛り上がり、会場は凄まじい熱気に包まれております!!」



………………………




「何つーか、マジでヤベェなこりゃ…」


初っぱなから反則上等のガチファイト。
プロレスとしてはややアピール不足だったけど、そこは余裕も無かったって所か…
まぁ、一応素人だしこんなモンだろうな。



「さて、次は大本命のファイアーストームズだが…」


俺はニヤニヤ笑うガオガエンさんたちを上から見る。
全然余裕って顔だな…っていうか、本職なんだし当たり前か。
仮に余裕じゃなくても笑うのがプロだ。

ガオガエンさんたちはまさしくプロレスラー…さて、一体どんな試合を見せてくれるのかな?



………………………



ぺラップ
「さぁ、続きましては第2試合! ファイアーストームズ対白黒タッグ!」
「これまでも様々な激闘を繰り広げたファイアーストームズに、ド素人の白黒タッグが果たして勝てるのかぁ!?」

白那
「まぁ素人って言っても、伝説のポケモンだからね…」
「真っ正面から当たったら、ガオガエンでも吹き飛ばされる位のパワー差は多分ある」
「とはいえ、仮にもプロのファイアーストームズがそんな事も解らないとは思いがたい」
「これは開幕から目を離せないね…」


騰湖
「任せたぞ鳴」


「おう、俺ひとりで十分だ!!」


我はとりあえずエプロンで待機し、鳴を送り出す。
鳴はロープを潜り、リング内に入った。
自信満々の顔で、やる気は十分だな…対して相手は?


ルチャブル
「先発は任せたわよ? 後はいつも通りで…」

ガオガエン
「ああ、プロレスってのをしっかり教えてやる!」


ガオガエンが不適な笑みで鳴に歩み寄って来る。
それも露骨に目立つ歩き方で歩き、観客はそれだけで盛り上がっていた。
やれやれ…我々にはよく解らん世界だが、とにかく勝つ…それだけが今は重要だ。


ワンリキー
「じゃあ準備は良いか?」


「いつでも…!」

ガオガエン
「おいレフェリー、ありゃ何だ?」


ガオガエンは突然レフェリーの斜め横を指差し、何かを指摘する。
するとレフェリーが確認の為、顔をその方向に向けた途端…


ドバキィッ!!



「がっ!?」


何とガオガエンは背中に隠していた角材で鳴の脳天をぶっ叩いた。
不意を突かれた鳴は、頭から血を流して怯む。
角材は1発で砕け散っており、ガオガエンはそれを見てさっさと捨てた。
そして、その行為に観客からブーイングの嵐。
直後、すぐにゴングは鳴る。


カーンッ!!



ぺラップ
「これは酷い!! のっけから大反則!!」
「ガオガエン観客相手に舌を出して、いつもの威嚇ポーーーズ!!」
「実にいつも通りの光景に、観客もヒートアップ!!」
「これぞファイアーストームズの切り込み役! ガオガエンのやり方だーーー!!」

白那
「あはは…まぁ、これは流石に警戒してない方が悪いね」
「相手がヒールなのは解ってた事なのに…」



ガオガエン
「おらぁ! まずはこれだぁ!!」


「くっそ!?」


鳴は頭を抱えて反応するも、ガオガエンはすぐに死角に入って小さく屈む。
鳴は目に血が入って相手を見失っているな…やれやれ。


騰湖
「後ろだ鳴! 下から潜り込んで来るぞ!?」


「ちっ!!」

ガオガエン
「なっ!?」


鳴はすかさず尻尾を稼働させ、『テラボルテージ』を発動させる。
それにより、ガオガエンは至近距離で電気の発光を目に受け、思わず怯んだ。
そして鳴はそのまま横回転し、右足で回し蹴りを放つ。
ガオガエンは運悪くそれを顔面にもらい、一気にロープ際まで吹き飛んだ。
そして、ガオガエンは我の目の前で背中を見せる格好となる。


ガオガエン
「野郎、味な真似を…!」

騰湖
「よし、とりあえず動くなよ…」


我は容赦無く、ガオガエンの両腕をロープ外から羽交い締めにする。
そして驚いている矢先に、鳴はダッシュしてケンカキックの体勢に入った。


ベキャアッ!


ガオガエン
「がはっ!!」



ぺラップ
「これは立派な反則だーーー! まさかの待機していた騰湖がガオガエンをロープ越しな羽交い締め!」
「その隙に鳴がケンカキーーーック!! ガオガエン、意表を突かれたか!? モロに腹でもらってしまったーーー!!」

白那
「あっはは…やるねぇ騰湖ちゃんも」



ワンリキー
「ワーン! ツー!」

騰湖
「おっと、反則は5カウントまでだったな…では後2秒」

ルチャブル
「その隙を与えると思う?」


ゲシィッ!!と、我の横っ面が蹴り飛ばされる音がした。
次の瞬間、我はエプロンから落下し、場外に落ちてしまう。
そしてガオガエンは自由になってしまった。



ぺラップ
「ルチャブルここで場外乱闘ーーー!!」
「相手の反則を見かね、相棒を助ける為に反対側のエプロンまでひとっ飛び!!」
「そしてルチャブルはコーナーポストに飛び乗って人差し指を高く上げる!!」
「このアピールに観客は一気に大歓声!! さぁ、出るぞルチャブルの十八番!!」



ルチャブル
「はぁっ!!」

騰湖
「ぐ…!?」

ルチャブル
「フライングプレーーーッス!!」


ドッズゥゥゥンッ!!


ルチャブルは、場外で倒れていた我に追い討ちをかけて来た。
我はそれをマトモに食らい、呼吸を乱す。
ルチャブルはそこからすぐに立ち上り、その場で両手を高く上げて観客にアピールした。

成る程…無駄にも見えるこの行動が、プロレスという訳か。
うむ、全く解らん!!
とにかく我は既に頭に血が上り、もはや怒りに満ちていた。
即座に『ターボブレイズ』を発動させ、我はルチャブルに向かって『クロスフレイム』をダウン中ながらも繰り出した。


ルチャブル
「くっ!? なりふり構わず!!」


ルチャブルはすぐに大ジャンプでそれを回避する。
その瞬間我はほくそ笑む…何故なら、その先にいるのは。


ルチャブル
「ガオガエン!!」

ガオガエン
「おっと!!」


「!!」


ガオガエンは背中越しに迫って来ていたクロスフレイムを横にステップして回避する。
見事な勘だが、甘い…この技の真価はここからだ!!



「くたばれ、このクソ野郎がぁ!!」


クロスフレイムの炎を右手で受けた鳴は、バチバチバチッ!!と激しい音をたて、全身から青白いスパークを放ち始めた。
側にいたガオガエンは目を見開き、状況を理解しようとしている。

だがもう遅い…鳴は目の前、そして両手を構えて『クロスサンダー』の体勢に入った。
鳴はそのまま両手を上から振り下ろし、あえてダブルチョップの様にクロスサンダーを放つ。
まぁ、物理技だからな一応…とはいえ、本来は飛び道具なのだが、真面目なアイツの事だから反則を意識したか?


ガオガエン
「ぐああっ!?」


ガオガエンは両鎖骨を強打され、後ろによろけてロープに体を預ける。
鳴はそれを見逃さず、ガオガエンの腰に両手を回してリフトアップした。
そして観客は一気にヒートアップ、鳴の技を期待して声を荒らげている。



ぺラップ
「おっと、鳴がここでリング中央まで担いで移動し、投げアピール!! 一体どんな技を繰り出すのかぁ!?」

白那
「う〜ん、何も考えて無さそうだけど…」




「っしゃあ! これでも食らえ!!」


鳴はガオガエンを抱えたまま、リング中央で相手の脳天をマットに落とす。
バックドロップ…っぽいが、何だあの技は?
とりあえずガオガエンの脳天がマットに突き刺さった所で、鳴も手が滑り、自分の後頭部を強打して悶えていた…馬鹿かアイツは。


ルチャブル
「………」


気が付けばルチャブルは自分のエリアに戻っていた。
我もいい加減エプロンに再度上がる。
観客からはクスクスと笑いもあがっており、完全に鳴は馬鹿にされている様だった。



「いっつつ…失敗したぁ〜」

騰湖
「慣れない事をやるからだ…一応反則計2カウント取られてるから注意しろ?」


「へっ、だったらこのまま力技だ!!」


鳴は、未だ倒れているガオガエンに追い討ちをかけようとする。
だが鳴が近付いた瞬間、ガオガエンはその場で両足を斜め上に向け、両手をマットにつけて体のバネでカウンターキックを放った。
馬鹿正直に接近した鳴はモロに顔面で食らい、逆にダウンする。
やれやれ…少しは警戒しろ。


ぺラップ
「ここでカウンターキーーーック!!」
「さぁガオガエンの反撃だー!! ガオガエン、すかさず倒れている鳴の両足を掴み、激しく横回転ーーー!!」

白那
「おっ、ジャイアントスイングだね〜♪」



ガオガエン
「オラオラオラァ!!」


観客は1回転ごとに数字をコールし、どんどん盛り上がる。
ガオガエンは5回転程回してから、こっちとは逆のコーナーに投げ捨てた。
そして、その先にはルチャブルが既に飛び上がっており、飛んで来る鳴の首を両足でロック。
そしてその勢いを殺さない様にクルリと空中で回転し、鳴の脳天はマットに叩き付けられる。



ぺラップ
「出たーーー!! ルチャブルの空中殺法!!」
「ガオガエンとのコンビネーションもバッチリ! 見事なフランケンシュタイナーで鳴をマットに沈めたぁ!!」

白那
「流石は飛行タイプ、実に無駄の無い動きだったね〜」
「投げの後のアピールもしっかりしてるし、やっぱりこの辺りが経験の差だろうね」



ガオガエン
「っしゃあ! そろそろ終わらせて…」

騰湖
「やれやれ、手間をかけさせるな!」


我は逆コーナーからガオガエンに飛びかかる。
だが、次の瞬間ルチャブルに上から踏まれ、我はマットに落とされた。
そして、ガオガエンはギャハハッ!と笑い、コーナーに飛び乗る。
鳴はピクリとも動けず、ただガオガエンの技を待つばかりだった。


ガオガエン
「行くぞオラァ!! ハイパーダーククラッシャーーーー!!」


観客の大声援を受け、ガオガエンは両手の人差し指を天高く上げて観客にアピール。
そしてそのまま空高く飛び上がり、ガオガエンは黒いオーラを纏って上から降って来た。
そのまま無防備の鳴に上からボディプレスし、リングは黒いオーラで大爆発。
ルチャブルは我を羽交い締めにしたまま、その場でやり過ごしていた。
そして視界が見開くと、レフェリーはカウントを開始する。
そのまま無情にもスリーカウントは過ぎ、我らは敗北を喫したのだった…


カンカンカーーーン!!



ぺラップ
「決まったーーー!! トドメのハイパーダーククラッシャーーー!!」
「相変わらずの凄まじい威力に会場騒然! そしてそのままフォール勝ちとまさに黄金パターン!!」
「流石はファイアーストームズ! 貫禄の勝利です!!」

白那
「うん、騰湖ちゃんたちも十分頑張った♪ あの相手に良く戦ったと思うよ…」
(とりあえずは予定通りか…さて、後は頼むよ守連ちゃん、風路ちゃん)



………………………




「うわ…流石に必殺技って感じだったな」
「しっかし、騰湖たちも大概だな…ヒールのガオガエンさんよりも反則多いじゃねぇか」


下手にルール知らないから余計なんだろうな。
騰湖は元々容赦無い所あるし、鳴も頭に血が上ったら周りが見えなくなる。
やっぱり、こういう所がプロとの違いなんだろうな…

ガオガエンさんはヒールと言っても、反則は基本的にアピールにしか使ってない。
ルチャブルさんは流石に正統派を演じてるけど、それでもガオガエンさんの反則には何も言わないし、ちゃんと援護もする。

見ている観客からしたら、不思議な感覚だよな…
ヒールとベビィの異色タッグ…何故かこの不協和音がしっかりと観客の心を捉えてくる。
俺は改めて思った、守連たちはアレに勝てるのか?と…
その答えは誰にも解らない…
そして、その答えは次の試合で出るのだろう…と。



………………………



ぺラップ
「さて、第2試合も終わりいよいよ決勝ですが、いかがでしょう白那さん?」

白那
「そうだね…互いのダメージが気になる所だけど、そうなるとマスクドタッグはキツいだろうね」
「ファイアーストームズは、ダメージ前提のトーナメントなんて慣れてるはずだし、まず弱みにはならない」
「あくまで素人のマスクドタッグは、その辺りをどうカバーするかが鍵だろうね…」

ぺラップ
「成る程、やはりファイアーストームズが優勢と言えそうです!」
「とはいえ、試合は始まってみなければ解らない!」
「さぁ、いよいよ決勝開始! 両選手がそれぞれリングに上がります!!」



………………………



Mピカチュウ
「………」

ガオガエン
「………」


私たちはリング上で睨み合う。
相手はかなり厳つい顔で威嚇しているけど、私は怯まなかった。
風路さんに誘われて今回のトーナメントには参加したけど、やっぱりやるからには勝ちたいとも思っている。

プロレスは見た事もやった事も無かったけど、風路さんや白那さんに教わって最低限のルールや技は覚えた。
だから、これはスポーツなんだし思いっきりやろう…体は軋んでいるけど。



ぺラップ
「おっと〜? 既にリング上ではガオガエンが無言で威嚇しています!」
「マスクドピカチュウは、それに目を背けず、正面から睨み返しています!」
「互いにダメージはあるはずですが、共に先発を務めるこの選択は吉と出るのか凶と出るのかぁ!?」

白那
「ダメージはある、でもそれを押し通す気力はあるってアピールでもあるんだろうね…」
(大丈夫なのか守連ちゃん? 前の戦いで内蔵を痛めているのは明白…そんなにすぐに回復は出来ないはずだが)



Mケンホロウ
(守連ちゃんのダメージはかなりある…それでも、守連ちゃんは自分から行くと言った)
(それなら私は信じる、守連ちゃんの可能性を!)

ワンリキー
「準備は良いな?」

Mピカチュウ
「………」コクリ

ガオガエン
「いつでも〜」


相手は威嚇を一旦解き、首をコキコキ鳴らして笑った。
そして両腕をグルングルン回して観客にアピールする。
余裕のつもりだね…私も負けてられない。


Mピカチュウ
「…!!」


バチバチバチィッ!!


私は右手を上に上げて一筋の稲妻を上空に放つ。
実の所、残りはあまり無い電力だったけど、どの道試合では反則だからそんなに気にしなくても良い。
それよりも、今はプロレスをする事に意味がある。



ぺラップ
「おおっとぉ! ここでマスクドピカチュウ、観客に電撃アピール!!」
「まだまだ行けるぞと、その威力が物語っていそうです!!」
「このアピールに、観客は驚くもヒートアーップ!!」
「さぁ、間もなくゴングで試合開始です!!」

白那
(頑張れ守連ちゃん、風路ちゃん…)



カーンッ!!


ガオガエン
「ふんっ!!」
Mピカチュウ
「はあぁ!!」


バシシィッ!!


私たちは開幕から互いに水平チョップを見舞う。
タイミングが見事に合ってしまい、私は顔面を、相手は胸の下を強打された。


Mピカチュウ
「っぅ!!」


私は歯を食い縛って耐える。
相手はまだまだ余裕の笑みで、胸を張ってもっと来いと親指で自身の胸を指してアピールした。
これがプロだ…ダメージなんて一切気にしない。
最後に立っていればそれが勝者、そして重要なのはその過程。
私は呼応し、もう1度水平チョップを放つ。
今度は更に力を込め、吹き飛ばすつもりで思いっきり振りかぶった。


Mピカチュウ
「はあぁぁっ!!」


ビシィィィッ!!と、さっきよりも大きな音で私は相手の腹部を強打する。
すると、相手は後ろに1m程ズレた。
だけど、相手はまだまだといった具合に再度笑ってアピール。
その姿に観客は大歓声で盛り上がっている。
私の攻撃を利用して会場を盛り上げている…凄いな、この人は。
でも、私だって負けられない!!


Mピカチュウ
「でぇやぁぁぁっ!!」

ガオガエン
「おっと、引っ掛かったな!?」


私は馬鹿正直にもう1度同じ事をやり、それを容易く利用される。
相手はヒールだ、虚と実を混ぜて戦うのは当たり前なのに…っ!
私は目標を見失って思いっきり空振りした。
相手は私の上体より低く屈んで潜り込み、私の腹に右肩を押し当て、腰に手を回す。
私は投げが来るのを予測し歯を食い縛った。


ガオガエン
「っぇりゃあ!!」


ズウゥゥゥンッ!!と鈍い音で、私はマットに脳天を落とされる。
後頭部を落とされなかったのは有情と言えた…やられてたら一撃で意識を持っていかれてたかもしれない。



ぺラップ
「ガオガエン鮮やか!! 相手の正直さを利用して見事にバックドロップ!!」
「実にヒールらしい立ち回りで、まずはダウンを取ったぁ!!」

白那
「流石だね…ワザと2発受けておき、次を誘って捌くなんて…」



Mケンホロウ
「ピカチュウ、大丈夫!?」

Mピカチュウ
「ぐ…っ!!」


私は風路さんの声を受けて何とか立ち上がる。
たった1発でコレだ…流石に耐久勝負じゃ歯が立たない。
私は相手と打ち合える程体力は多くない…やっぱり、ダメなの…?


ガオガエン
「そらそらそらぁ! 続けて行くぜぇ!?」


相手は低く屈んで突進して来る。
スピードはさほど無いとはいえ、純粋に馬力が違う。
力では勝てても、耐久とテクニックで差がありすぎる。
だから、私は私に出来る事をやる!!


Mピカチュウ
「!!」

ガオガエン
「なっ!?」


私は『高速移動』で瞬時に加速し、相手の視界から消えた。
そして相手の斜め後ろでブレーキし、そこから相手の背中に向かって踏み込む。
後は『電光石火』で背中に体当たりをし、そのままロープまで持って行った。


ガオガエン
「ぐっ!?」

Mケンホロウ
「チャンス!」


風路さんはチャンスと見て大ジャンプ。
私はそのまま相手の背中側から腹に手を回し、抱き抱えてトップロープに飛び乗る。
そして、ロープの反動を利用してそこから空中にジャンプ!


Mケンホロウ
「行くわよ! ツープラトン!!」

ルチャブル
「させはしない!!」

Mピカチュウ
「!?」


空中を飛んで、ルチャブルさんがカットに来た。
狙いは風路さん、奇しくも翼の無い風路さんは飛行タイプでありながらも空中戦は出来ないっ!
私はなりふり構わずここで技を放った!


バチバチバチィッ!!


ルチャブル
「ぐあぁっ!?」

Mケンホロウ
「!? ピカチュウ行くわよ!!」


私は『10万ボルト』でルチャブルさんを迎撃した。
ルチャブルさんは効果抜群の電気で背中からマットに落ちる。
もう、それ程電力は出てない…ダメージは多分薄い。
だからこそ、ここでガオガエンさんを仕留めないと!!


ガオガエン
「調子こいてんじゃねぇぞコラァ!?」


ドバァァァンッ!!


Mピカチュウ
「あああぁぁっ!!」


突然の爆炎に私は吹き飛ばされた。
ガオガエンさんは腰から燃え上がった炎を全身に回し、そこから爆炎を周囲に放って私と風路さんを同時に吹き飛ばしたのだ。
そうか…相手は炎タイプ!
私が電気を使えるなら、当たり前の様にガオガエンさんだって炎は使えるんだ…!



ぺラップ
「ガオガエン、ルチャブルの仇とばかりに反則返し!!」
「強ー烈な『オーバーヒート』で、相手ふたりを吹き飛ばしたぁ!!」
「マスクドピカチュウは直撃でマットに落ちる! マスクドケンホロウは場外に着地ぃ!!」
「そしてガオガエンもマットに着地! 立ち上がったルチャブルはすぐにエプロンへと戻りました!」

白那
「こうなったらどうしようもないね…ただ反則で止めるだけならガオガエンの方が流石に上手だ」
「このままじゃマスクドピカチュウは危うい、すぐに交代するべきだ」


Mケンホロウ
「くっ! ピカチュウ、タッチよ手を伸ばして!!」

ガオガエン
「させねぇよ!!」

Mピカチュウ
「あぐっ!?」


私は這いずってロープに手を伸ばすものの、その前にガオガエンさんに足を捕まれた。
そして、ガオガエンさんはすかさず蠍固めに入る。


Mピカチュウ
「ああああぁっ!!」


右足を攻められ、私は絶叫をあげた。
間接技相手に我慢は限界がある、早くタッチしないと…!
でも、手が届かない…ロープはもうそこなのにっ!!


Mケンホロウ
「ふんっ!!」

ガオガエン
「なっ!?」


ゲシィッ!!と、風路さんはロープとロープの隙間から、ドロップキックでガオガエンさんの後頭部を蹴り飛ばした。
風路さんはロープを掴み、そのまま思いっきり自分の方に引いてから、その反動で水平に飛び出したのだ。
そして私は風路さんに手を掴まれてロープまで辿り着く。
後は風路さんからタッチを受け、私は何とか交代する事が出来た…



ぺラップ
「マスクドケンホロウ見事!! 意表を突くドロップキックで見事に相方を助けましたぁ!!」
「そして、ついにマスクドケンホロウがリングに上がります!」
「さぁ、ガオガエンはどうするのかぁ!?」

白那
「ふぅ、危なかったね…マスクドケンホロウのカットが無かったら終わってたよ」


ガオガエン
「…ちっ、中々しぶてぇな」

ルチャブル
「こっちも交代よ! アレは私がやるわ!」


ガオガエンさんは舌打ちをし、バックステップで軽快にロープ際まで移動した。
そしてルチャブルさんとタッチし、選手交替となる。
前の試合では華麗な飛び技を使っていた…他には一体どんな戦法で来るのかな?


ぺラップ
「さぁここで遂にルチャブルがリングイン!」
「正統派ベビィフェイスのルチャブル、まずはどんな技を見せてくれるのかぁ!?」
「対するはマスクドケンホロウ! 翼が無いが、本当にケンホロウなのかぁ?」
「何かと謎の多そうな選手ですが、果たして実力の程はいかに!?」

白那
「正直、マスクドケンホロウの実力は未知数と言っても良い」
「ここまでルチャブル同様にサポートメインだったし、互いにまずは様子見かな…?」


Mケンホロウ
「……!」

ルチャブル
「………」


ふたりはリング中央で構えながら、円を描く様に互いに動く。
射程距離ギリギリの所で睨み合い、互いに一定の距離を保っていた。
体格やリーチはルチャブルさんの方が上。
風路さんは玄人レベルには戦えるとはいえ、プロ相手にどこまで通用するんだろう?



ぺラップ
「まずは静かな立ち上り…互いにまだ距離は詰めません!」

白那
「迂闊に動くのは危険だからね…とはいえ、プロであるルチャブルがこのままはあり得ない」



ルチャブル
「ふっ!」

Mケンホロウ
「くっ!?」


突然のソバットが風路さんを襲う。
風路さんは咄嗟に両腕を上げてガードするも、バランスを崩してよろめいてしまった。
そして相手はその隙を見逃さない!
すかさず蹴り抜いた体制のまま、飛行タイプの特性を生かしてホバー気味に突っ込んで来る。


ルチャブル
「はっ!」


ルチャブルさんは両足を器用に使い、風路さんの右腕を絡め取った。
そして瞬時に腕十字で関節を極め、そのまま横に大きく円運動して風路さんを遠心力で振り回す。
す、凄い技!? 飛行タイプの空中制御能力をあんな風に生かすなんて!



ぺラップ
「出たーーー!! ルチャブルお得意のアクロバットォーーー!!」
「見た目も派手な技に、観客は一気にヒートアップだぁ!!」
「そしてマットにマスクドケンホロウを叩き付け、そのまま腕十字で攻めるぅ!!」

白那
「凄いな…確かにあれなら客受けは良いだろうね〜」
「だけど、少〜しマスクドケンホロウを甘く見てたかもね…」



ルチャブル
「タップ(ギブアップ)するなら今の内よ!?」

Mケンホロウ
「面白いジョークね!? こっちも火が点いてきたわ!!」


一気に観客は驚愕の声をあげた。
それもそのはず、何と風路さんは腕十字を食らったまま、ルチャブルさんの体を片腕で持ち上げて見せたのだ。
あんな事、私じゃ絶対出来ない…力では出来ても、きっと腕が持たないから。


ルチャブル
「化け物かっ!?」

Mケンホロウ
「はあぁっ!!」


ドッシィィィンッ!!


ぺラップ
「これは凄まじい!! 何とマスクドケンホロウ、無理矢理力技でルチャブルを持ち上げ、腕十字を食らったままマットに片腕1本で叩き付けて腕十字を返したぁ!!」
「こんな化け物じみたパワーを持っていたとは、実に驚きです!!」

白那
「ケンホロウは仮にも力が自慢のポケモンだからね…」
「ましてや『闘争心』の特性が発動している彼女は、空恐ろしい力を発揮するよ?」



Mケンホロウ
「さ〜て、観客も今ので盛り上がったかしら?」

ルチャブル
「やってくれるわね…もしかしてワザと技を受けたの?」

Mケンホロウ
「さて、ね…それは秘密にしておきましょうか♪」


風路さんは口元に右手の人差し指を当てウインクする。
その姿に大歓声が起こり、一気に風路さんは観客を味方につけた。
さ、流石風路さん…お客さんの心を掴むのが抜群に上手い。

風路さんはその動作ひとつひとつが、ほとんどアピールに繋がっている。
立ち振舞いだけでも人の目を引く位で、どうすれば自分が見てもらえるかを十全に理解している、風路さんならではのアピールだ。
逆に、風路さんはお客さんの心を掴むという部分なら、立派なプロなのだと私は思い出した。

この勝負、まだ負けてない!!


ガオガエン
「やるなぁ〜あのケンホロウ! 客の喜びをちゃんと理解してんだな…こりゃ思ったより強敵だぞ?」

ルチャブル
「…考えを改めなきゃならないわね」
「プロレスラーとして、客を喜ばせる事で負けるわけにはいかない!!」


ルチャブルさんは更に気合いを入れ、正面から風路さんに向かって行く。
そして風路さんもそれに答え、互いが両手で両手を掴み合い、力比べが始まった。
観客は大声をあげてふたりを応援する。
正々堂々のこの戦いに反則は無粋だ…ガオガエンさんも両腕を組んだままで、何かする様子は無い。
だったら私も見ていよう…風路さんを信じて。


ぺラップ
「これは凄い力比べだぁ! 先程のパワーを見せられて勇敢に力比べを挑むルチャブル!」
「力対力!! ここはどちらが制するのかぁ!?」

白那
「バカな…いくらルチャブルのパワーでも危険だ」
「それとも、これも布石なのか?」



ガオガエン
(へっ、わざわざ相手の土俵で引き立てようってか!)
(流石にルチャブルは冷静だな…相手はやっぱりプロレスラーとしてはまだまだアマチュアだ!!)

Mケンホロウ
「ふぅぅっ!!」

ルチャブル
「…くぅぅっ!!」


風路さんはルチャブルさんを軽く押していく。
やっぱり力勝負なら風路さんが圧倒的だ! このままなら一気に…


Mケンホロウ
「しまっ!?」

ルチャブル
「もう遅いわよ!?」


何とルチャブルさんはここで一気に力を抜き、自ら後ろに倒れ込む。
途端に勢いで風路さんは前に倒れ込んでしまい、ルチャブルさんはマットを背に風路さんの腹を両足で思いっきり蹴り上げた。
その瞬間にルチャブルさんは両手を離し、風路さんだけが空中に蹴り上げられる。

そしてルチャブルさんはすぐにその場からジャンプし、空中に浮かされた風路さんは為す術無く、ルチャブルさんに体を両腕で掴まれ、ロックされた。



ぺラップ
「この体勢はぁ!? 出るぞぉーーー! 必殺!! フリーーー! フォーーーーーゥルッ!!」
「マスクドケンホロウの力をテクニックでいなし、ルチャブルが上空にマスクドケンホロウを運送!!」
「そしてそこから錐揉み回転で、マットに向かって急降下ーーー!!」

白那
「このままだとマズイ! あの高さから叩き付けられたら…!!」



ルチャブル
「さぁ、これで終わりよ!!」

Mケンホロウ
「…くっ!」


風路さんは一気にマットまで落とされて行く。
抵抗してるみたいだけど、あまりにも速すぎてかなりのGがかかってる…あれじゃまともにが動けない!
例え振り払えても落下は確実…このまま、終わるの!?


ズッ…シィィィィィィィィィンッ!!


無情にも風路さんはマットに叩き付けられた。
ルチャブルさんは技の後に風路さんの体を離し、華麗に宙返りしてマットに降り立つ。
そして両手を上げて観客にアピールし、会場は更に盛り上がった。

私は顔を青くして風路さんの姿を見る。
下手したら死んでいてもおかしくない…!
風路さんは力無く体をマットに沈め、そのまま動かなかった。
そして、ルチャブルさんはアピール後にフォールの体勢に入る。

私は動けなかった…本当はカットしないとならないのに。
カウントがゆっくりと聞こえる…まるで時間が緩やかになったかの様に…

私は何が何だか解らなくなる、一体どうすれば良いの?
このままじゃ確実に負ける…でも負けるのは嫌。
でもどうする? 風路さんが起きなければ交代も出来ない。
頭がグチャグチャになっていくのを感じる。
もう、私には何も決断出来ない…!!


ワンリキー
「ツー!! ス…」

Mケンホロウ
「ああぁぁぁっ!!」

ルチャブル
「なっ!?」

ガオガエン
「嘘だろ!?」


2.5カウントで風路さんは肩を大きく上げた。
これにより、フォール負けは回避。
そして倒れたまま、ルチャブルさんを蹴り上げて吹き飛ばし、よろよろと立ち上がる

その後、両腕を高く掲げて風路さんは咆哮をあげた。
頭から大量の血を流しているのか、マスクが赤く染まっている。
その姿を見て、観客は更に大歓声をあげた。
そして、まだ試合は終わってないのだと私は理解し、声をあげる。


Mピカチュウ
「ケンホロウーーー!!」


風路さんは無言で両腕を突き上げ、ガッツポーズを取った。
その力強さに、私は涙目で安心する。
風路さんは決して諦めてない! 私は強く心を持った。
あの背中には、絶対に答えなきゃならない…!
私がこんな弱くてどうするの!? 風路さんは立ち上がったのに…
最後まで諦めちゃダメだ! 戦うんだ、最後まで!!



ぺラップ
「マスクドケンホロウ、ここで執念を見せたーーー!!」
「必殺のフリーフォールをマトモに受け、なおも立ち上がってアピールする、その根性!!」
「観客は一斉にケンホロウコールだーーー!!」

白那
「…アレで立ち上がるなんて、本当に大丈夫なのか?」



ルチャブル
「…まだタップする気は無いの? ここから先は命の保証はしかねるけど」

Mケンホロウ
「…生憎、大馬鹿な性分なのよ」
「私、諦めるとかそういうの…大っ嫌いだから!!」


風路さんは、これでもかという大声で叫んだ。
私は更に勇気を貰う…風路さんの背中は本当に大きい。
やっぱり、あの人は聖さんのお姉さんなんだ!
あの背中を見て、私も最後まで戦おう!


ルチャブル
「仕方無いわね、貴女の勇気は尊敬するわ!」
「だけど、勝負は勝負!! 勝つのは私たちよ!!」


ルチャブルさんは両腕を斜め横に構え、大きく踏み込んで飛ぶ体勢に入った。
風路さんは無言で構え、迎え撃つ体勢を取る。
マトモに動けるとは思えない、でも私は信じる!
風路さんなら、きっと勝つって! 逆転するって!!


Mピカチュウ
「頑張れ、ケンホロウーーー!!」


私の叫びに観客が呼応し、ケンホロウコールが鳴る。
だけど、同時にルチャブルコールも鳴り、互いに歓声を真っ二つにした。
その声を受けて、風路さんが力強くなっていくのをひしひしと感じる。
風路さんはやっぱり、お客さんの為に戦ってるんだ…!


ルチャブル
「はあぁっ!!」

Mケンホロウ
「うあああぁっ!!」


ルチャブルさんは高速で飛びかかって来た。
だけど、瞬時に風路さんの後方から凄まじい風が吹く。
その一瞬の『追い風』に、ルチャブルさんは驚いて空中でのバランスを崩してしまった。
風路さんは逆にその追い風を利用し、相手の想定外の速度で一気に踏み込む。
ルチャブルさんはそれに反応出来ず、風路さんに掴みかかられてしまった。
そして、風路さんはルチャブルさんの後ろを素早く取り、全力でスープレックスの体勢に入る。


ルチャブル
「!?」

ガオガエン
「ヤベェ!?」


風路さんが凄まじい力でルチャブルさんを持ち上げ、投げる体勢に入った。
それを見て、ガオガエンさんがロープを潜ってカットに来る。
私は呼応して、それを止めに入った。
そして、スピードなら当然負ける気はしない!!
この追い風は、私にも恩恵を与えるのだから!!


ガオガエン
「ぐっ!?」

Mピカチュウ
「邪魔はぁ…させないーーっ!!」


私は風路さんが投げ終わるよりも速く、ガオガエンさんの目前に駆け抜けた。
ガオガエンさんは完全に予想外の顔で、私のタックルをモロに受ける。
そして遂に風路さんは、渾身のジャーマンスープレックスをルチャブルさんに決めてみせた。


ズゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!


真っ逆さまにマットへと落とされるルチャブルさん。
後頭部を一気に落とされ、どうやらそのまま意識を断たれた様だ。
後は、カウントを待つのみ!!


ワンリキー
「!! ワーーーン!!」


早速レフェリーがカウントに入った。
私はこのままガオガエンさんを全力で抱え込み、カットを阻止する。

私も、絶対に諦めるもんか!


ガオガエン
「ぐおおおおおっ!?」

Mピカチュウ
「あああああぁぁっ!!」


私は肩に噛みつかれるも、叫びながら耐えた。
そしてカウントは2、今度はガオガエンさんが腰から炎を爆発させる。
だけど、それでも私は耐えた…そして諦めない!

体が火傷するのを私は感じる…服とマスクも、今ので半分以上燃え尽きた。
それでも、私はガオガエンさんを睨み付けて尚耐えてみせる。
そして、遂に最後のカウントが…


ワンリキー
「スリーーーー!!」

ドータクン
「……!」


カンカンカーーーンッ!!



ぺラップ
「決まったーーーー!! マスクドケンホロウのジャーマンスープレックスが遂に炸裂!!」
「そして、ガオガエンのカットをマスクドピカチュウが決死で阻止!!」
「決着は、マスクドタッグの勝利で幕を下ろしたーーー!!」

白那
「…うん、これぞ明日に掛ける黄金橋だね」
(お疲れ様、ふたりとも…本当に、よくやったよ♪)



ガオガエン
「…ちっくしょ〜! まさか、負けるなんて〜!!」

Mピカチュウ
「…はぁ、はぁ」


私は、もうすぐにでも意識を無くしそうだった。
今は痛みで無理矢理に覚醒している様な状態だ。
そのまま、私はガオガエンさんに寄りかかる様に倒れ込んでしまう。
それを見て、ガオガエンさんはワハハッと笑った。


ガオガエン
「ははっ! ちっこいのに根性あるなお前!!」
「まさか、あれだけやって離れないとは思わなかったぜ!」

Mピカチュウ
「ど、どうも…」


もう、答える気力も残ってない。
私はそのままガオガエンさんに抱え上げられ、リング中央に連れて行かれた。
そして倒れているルチャブルさんを見下ろし、ガオガエンさんは、ふぅ…と息を吐く。


ガオガエン
「完全に気絶してるな…あそこまで綺麗に決まったら仕方無いか〜」

Mケンホロウ
「…あ、はは、流石に手加減出来ませんでしたからね〜」


風路さんも息絶え絶えみたいだった。
ただでさえ、あんな大技食らった後だもんね…
むしろ、よく反撃まで出来たと思う…私だったら間違いなくKOだった。

正直、今回は風路さんがいなかったら、どうにもならなかったかも…
それ位、あのふたりは強かった…!


ガオガエン
「まぁ、客も大満足だし、良い試合だった!」
「やっぱ、プロレスは最高だぜ!!」

風路
「同感です…私も実戦は初めてでしたけど、良い経験になりました…」


その言葉を受けて、ガオガエンさんは私の肩を抱いたまま、もう片方の手を腰に当てて大笑いする。
そして、どこに隠していたのか突然マイクを取り出し、すぐにこう宣言した。


ガオガエン
「優勝は、マスクドタッグだーーー!!」


ワアアアアアアァァァァァァァァッ!!


今日1番の大歓声…私たちは改めて勝利を噛み締めた。
そして、いつの間にか解放されてた聖さんが、私たちにゆっくり歩み寄って来る。
ガオガエンさんは笑って私を聖さんに預け、私は聖さんに抱かれて安心した。



「バカッ! お前、こんなになるまで無茶しやがって!!」

Mピカチュウ
「ゴメン、なさい…」

Mケンホロウ
「ふふ、今日だけは許してあげて…」
「この娘も、貴方を助けたくて頑張ったんだから…」


私は優しく聖さんに抱かれ、その心地良さに意識を失う。
やっぱり、聖さんは優しい…ね……



………………………



守連
「………」


「あらら、気絶しちまったか…」

ガオガエン
「はははっ! 大したモンだよホントに!」
「まぁ、正直嬉しかったよ! 俺たちの試合でここまで盛り上がったのは、多分初めてだ…」


ガオガエンさんは遠い目をして、観客を見渡しそう言った。
そして、気絶しているルチャブルさんを軽く肩に抱え上げ、ガオガエンさんはまた笑う。


ガオガエン
「今回はありがとな!! 本当に楽しかった♪」
「客もこんだけ喜んでくれたんだから、興業は大成功だ!!」


ガオガエンさんがそう言うと、途端に世界は光の粒子に変わっていく。
って、やっぱりこれがクリア条件だったのか!?
プロレスで観客を喜ばせる事…まさかこれがクリア条件?


ガオガエン
「ははっ…どうやら、またすぐに移動みたいだ! じゃあな! 今度会う時は、必ず勝つからな? カッ!!」


ガオガエンさんは最後にヒールっぽく舌を出し、首カッ切りアピールをする。
そして、同時に客も大歓声。
俺たちは笑い、その姿を見守って混沌世界のクリアを達成したのだった…



………………………




『ってなわけで、今回は雫も濁りませんでした』

アルセウス
『そうか…それは、良かったな』


俺はその後、例によってアルセウスさんと夢の中で会っていた。
何かこれから恒例になりそうだけど、とりあえず今回は浄化はいらない。
アルセウスさんも、まだちょっと辛そうに見えるし、無理をさせなくて良いなら安心だ。


アルセウス
『すまぬな…想像以上に、本調子では無い』


『大丈夫です、今回は浄化の必要もありませんし』
『前の影響も大きいでしょうから、まだゆっくり休んでください…』


俺がそう言うと、アルセウスさんは優しく頬笑む。
安心してくれたんだな…良かった。


アルセウス
『ありがとう、聖』
『こんな我にでさえ、気遣ってくれて…』


そう呟いて、アルセウスさんはすぐに消えてしまった。
あの人から、ありがとう…か。
何だか、意味深に聞こえてしまうな…

でも、気遣っているのは本当だ。
俺は、もうアルセウスさんを絶対に悪意に染めない。
あんな絶望はもう起こさせない。
そして、今後何があろうとも、悪意には絶対に負けない。
家族を護る為に、俺は……

やがて…俺はすぐに意識を現実に戻す。
そして、またいつもの日常だろう。
その次は、また混沌だろうか? それとも何も起こらないのか?
それは…誰にも解りはしなさそうだった。










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第5話 『決着! 明日へ掛ける黄金橋!!』

第3章 『混沌だって、悪意ばかりじゃない』




To be continued…

Yuki ( 2019/04/30(火) 07:32 )