とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない














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第2章 『初めての混沌』
第4話
確かに、お前も私も、既に存在しているポケモン同士だ。

この出来事は誰も知らない方がいいのかもしれない。

忘れた方がいいのかもしれない。



「皆、どこへ行くの?」

「我々は生まれた、生きている、生き続ける、この世界のどこかで」





『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲より引用』










………………………



ミュウツー
「……っ」


「…? どうかしたのか?」


俺たちは、そのまま中華料理店の仮眠室で、朝まで休んでいた。
幸いエアコンは機能しており、4人でも寒さに凍える事は無い。
とはいえ布団はひとつしか無かった為、それはミュウスリーにかけてやった。
もっとも、当のミュウスリーは俺に抱き付いて離れない。
なので、俺はミュウスリーに抱き付かれたまま布団に一緒に入っていたのだ。

け、決してやましい事はしてないからね!?


ミュウツー
「…夢を見た」


「その様子だと、あまり良い夢じゃないな」


ミュウツーは肯定も否定もしなかった。
ただ右手で頭を押さえ、何かを複雑そうな顔で考えている様だ。
しかし、すぐに表情をキッとさせ、気持ちを切り替える。
もう時間はあまり無い…今度こそ富士を見付けなければ!



「…これで、ミュウスリーの残り時間は約12時間か」

ミュウツー
「そんなに寝ていたのか…なら、もう余裕は無いな」


「富士の居場所は特定出来るのか?」

ミュウツー
「私の索敵範囲に入れば、識別は出来る」
「アイツからは特殊な波長を感じるからな」


とはいえ、その範囲内に入らなければ意味は無い。
駅前という区画で言えば、ここも一応該当するが…ここからで解らないならどうなんだ?



「そもそも、お前の索敵範囲はどの位だ?」

ミュウツー
「半径500m程だな…その位が限界だろう」


すると、恵里香の半分程度か。
恵里香が問題無ければ索敵は任せられるんだが、もし世界送りに干渉してるって事は、逆探知されかねないとも言える。
フツーなら有り得ないが、夢見の雫が関わってるなら何でも有りと思うべきだろう。

とにかく、慎重に行動しないと。


ミュウスリー
「ン…ウー?」


「ミュウスリー…おはよう」

ミュウスリー
「おは、よ〜?」


ミュウスリーは、よく解ってない様だった。
もう残り半日…それまでに富士を見付けて真相を暴かないと。
この混沌のクリア条件は何だ? もし、それが富士を殺す事だとしたら…
考えると俺は恐ろしくなった…もしそんな条件がルールなら、俺は?


ミュウスリー
「さと、し…ど、した?」


「大丈夫だ、俺がお前を絶対に救うから…」


俺はしっかりとミュウスリーの体を両腕で抱き締めた。
端から見れば、まるで恋人同士の抱擁。
ミュウスリーも、気持ち良さそうに俺に抱き付く。

俺は覚悟は決める…もし必要なら、俺が引き金を引こう。
俺は懐に忍ばせてある拳銃を思ってそう決意する。
昨日、どさくさに紛れて拝借した奴だ。
一般的なハンドガンの様で、残弾は4発。

最悪の場合は、俺が富士を撃つ…!
銃なんて使った事無いけど、ロック外して引き金を引く位なら、多分何とかなるだろ。


悠和
「聖様、朝食の準備が出来ました」

ミュウスリー
「ごは、ンー!」


「わわっ!? 俺ごと移動するな!!」


ミュウスリーは、朝飯と聞いてすぐに飛んで行った。
俺を超能力で持ち上げ、抱き締めたまま移動したのだ…


ミュウツー
「やれやれ…朝から慌ただしいな」

悠和
「ふふ…ミュウスリーにとっては、自分の死期は関係無いのかもしれない」
「ミュウスリーは今を精一杯生きてる…例え、短い寿命だったとしても」

ミュウツー
「ミュウスリーは死なない、何をしてでも私が救う」

悠和
「大丈夫、聖様は絶対にミュウスリーを見捨てない」
「聖様は私たちとの約束を破った事は、ただの1度も無いんだから…」


悠和ちゃんは俺を信じきった瞳でそう言った。
ミュウツーも覚悟は決めていた様だった。
ちなみに、俺は1度約束を破っているが、最終的にちゃんと目的は達成したので、とりあえずノーカン!



………………………



ミュウスリー
「豚…まん?」


「おう、まずはこの下に付いてる奴を外してだな…」
「後は、そのままかぶりつけ!」


ミュウスリーは俺の手本を真似て、熱々の豚まんを食べる。
すると、もはや定例と化したリアクションを見せ、ミュウスリーはバクバク豚まんを平らげていった…


ミュウツー
「やれやれ…朝飯位、落ち着いて食え」

悠和
「ふふ♪ 元気な内は、まだ良いと思う」
「…その方が、私たちも暗くならずに済むし」


悠和ちゃんとミュウツーは、それ以降無言で食事を取る。
結局、豚まんの山はミュウスリーがほとんど食べ尽くし、俺たちはその後すぐに店を後にした。

さぁ…今度こそ何とかしないとな。



………………………




「ミュウツー、どうだ?」

ミュウツー
「敵がちらほらいるな…だが纏まった部隊じゃない…恐らく哨戒の部隊だ」
「全ての目から逃げるのは難しい…要所要所、沈黙させて行くしかないな」


俺たちはモールから外に出るも、敵の哨戒部隊に悩まされていた。
数は纏まってないものの、広範囲に散っている為、見付かる可能性は高い。
だが、ミュウツーはそこに1ヶ所穴を開けた。

1番近くにいた兵士を、ミュウツーは遠くから『念力』を放ち、頭部を揺らして昏倒させたのだ。
そして倒れた兵士にすぐ近付き、ミュウツーは敵の懐から物色する。

そうして真っ先に取り出したのは…



「…ん、無線か?」

ミュウツー
「ああ…哨戒なら定時連絡があるはずだ、それに答えないとここが怪しまれるからな」


「声でバレないのか?」

ミュウツー
「そんなにクリーンな音声が出る機器じゃない、幸いコイツは女性だし、十分私の声で騙せるだろ」


そう言ってミュウツーは無線を使い、連絡を取る。
どうやら最初から隊長にチャンネルが合っていた様で、ミュウツーは部隊の隊長と通信していた。


隊長
『どうしたNo.16! 何かあったのか!?』

ミュウツー
「はい! 正体不明の小型物質を見付けました!!」
「これは、早急に富士博士に見せた方が良いと思うのですが、どうしましょう!?」

隊長
『よし! ならば、お前はそれを地下にいる富士博士に直接持って行け!』
『我々は引き続き哨戒する! なお、敵を発見したらすぐに連絡しろ!! 以上だ!』

ミュウツー
『了解!』


とまぁ、あっさりと騙されてくれた…それで良いのか隊長さん?
とはいえ、ミュウツーも見事な物だな…演技まで迫真だったし。
っていうか、過去にああいう事やってたのだろうか?
戦闘用に改造されたって言ってたし、元々はクローン兵と共闘していたりしたのかもしれないな。

そして、ミュウツーは無線を持ったまま移動を始める。
まずは地下か…つっても。



「この街で地下なんて地下鉄とか、駐車場位だぞ?」

ミュウツー
「とにかく、侵入経路は?」


「地下鉄なら、1度全壊した駅まで行くしかないな…多分どこかの出入口が無事なのかもしれない」
「駐車場は…流石に無数にあるし、全部回るのは骨が折れるな」

ミュウツー
「なら地下鉄からだ、どっちにしろ近くまで行けば、後は私が補足出来る」


俺は頷き、そのまま移動を始めた。
そしてミュウツーの索敵を生かし、俺たちは何とか敵兵に出会わない様進み続ける。

敵は広域レーダーの様な物は持っていないのか、やけにアナログな手法でしか索敵は出来ないみたいだな…



………………………




「しかし、敵の装備は未来的って訳でもないんだよな…」

ミュウツー
「他の世界の事はよく知らないが、お前の世界じゃ普通の装備なのか?」


俺たちは移動しながら会話をする。
なお、敵に聞かれない様に、ミュウスリーが音を外に出さないようバリアを張ってくれてるから、大声を出しても安心だ。



「普通…つーか、近代的過ぎるっつーか」
「銃にしろ戦車にしろ、あくまで現実的な装備で固めてるのに…無線は妙に古臭かったりしたしな」


ミュウツーが持っている無線はやや大型の物であり、今で言うと古めの機器に見えた。
俺も詳しくは知らないんだが、確か今の軍用無線機ってディスプレイとか付いてるのもあるし、音声ももっとクリアだったはず。

同じ女性の声とはいえ、無線越しで仲間と誤認するレベルの音質ってのはちょっと気になるレベルではある。
…まぁクローン集団らしいし、数も数だろうから一々個人個人の声質なんて把握してないのかもしれないが。


悠和
「そういえば、敵はレーダーの様な物は使ってないんですか?」

ミュウツー
「機材としては、恐らくこの世界には無いと思われる」
「あったとしても、金属探知やサーモ位しか無いだろうな」


益々現実的だな…近未来とかそういうのなら、生体レーダーとかありそうなモンだが。
まぁ、ポケモンを兵器として運用する世界なら、そもそもエスパータイプを使えば済む話か。



「敵にもポケモンの兵はいるのか?」

ミュウツー
「いるだろうな…もっとも、使い捨ての兵として投入するにはコストが高いだろうが」

悠和
「コスト…? クローン兵なら、そこまで損失にはならないんじゃ…」

ミュウツー
「人間のクローン兵と違い、ポケモンの兵隊は少々生産に問題があるらしい」
「単純にクローンを作ろうとしても、同じ技を覚えるとは限らないし、最悪寿命が激減する可能性もある」
「ましてや、人間と比べてオリジナルの数が少なすぎる…失敗した時のリスクは人間の比じゃない」


成る程、ポケモンはポケモンで個体差が出るって事か。
確かに、クローンでコピーしても特別な技とか教え技とかを覚えるとは限らないんだろうな…

最悪、特性すら一致しないかもしれないし、ましてや戦闘能力を有するかも解らない。
人間なら、テキトーに武器持たせりゃ最低限の兵士になるが、ポケモンでそれをやるには時間もコストもかかり過ぎるって訳か。

ましてや失敗したら、それもオジャン…水の泡って事ね。



「なら、投入されてる兵士はほぼ人間って事か?」

ミュウツー
「少なくとも、銃器を持った敵は確実だろう」
「もちろん、武器を使用するポケモン兵もいなくはないが…」
「そういうエリート兵は、雑兵と一緒に行動する事はあまり無いだろうな」


って事は、最悪富士の近くに配備されてる可能性が高いって事か。
やれやれ…地下への突入までもう少しだが、苦労しそうだな。

俺たちはそんな風に会話を挟みつつ、更に進み続ける。
もう駅までそんなに距離は無い…敵部隊も、今は哨戒部隊しかいない様だった。



………………………



ミュウツー
「妙だな…本当に敵がいないのか?」


「いくら何でもあっさり過ぎるだろ…敵もミュウツーたちの能力は知っているはずだし」
「富士がボスって言うなら、敵が少ないのは不自然だ」

悠和
「つまり、罠…ですかね?」

ミュウスリー
「ンー…?」


俺たちは不安を抱きながらも、駅には辿り着いていた。
そして地下への入り口を俺は探す…よし、近くにあるな。
俺は全壊した駅から少し離れた、交差点の先を指差して皆にそれを知らせた。
どうやら入り口は無事の様で、俺たちはそこから地下へと入って行く。

敵は誰ひとりとしてそれに気付かず、あまりにあっさりと侵入が成功した。


ミュウツー
「ちなみに、ここはどういう所なんだ?」


「地下鉄だよ、駅だ」
「でも、そんなに大きな駅じゃないし、中には改札とホームがある位だけど」

悠和
「では、事務室が怪しいですね」


俺は納得し、駅の事務室を目指す。
確か改札の側にあるはずだ。
俺たちは階段を降りきり、切符売り場の側にある事務室に向かった。

既にミュウツーも富士を補足している…罠かどうか解らないが、いるのは確実らしい。
やれやれ、緊張するな。



………………………




「ここだな…さて、皆覚悟は良いか?」

ミュウツー
「ああ…さっさと入るぞ」

悠和
「…行きましょう」

ミュウスリー
「アー…ウー…!」


皆、顔を引き締めて頷く…覚悟は良い様だ。
俺は事務室のドアをゆっくりと開けた。
すると、狭い部屋の中にひとりの老人がいる。

顔はボサボサの髪と髭でほとんど覆われており、目元が少し見える程度。
後ろ髪も、肩の下位まで届く程長く、その全てが白髪だ。

体はやや小さめの160cm程度であり、体には汚い白衣を身に纏っている。
右手には杖を持っており、腰は少し曲がっていた。
だが、その目は精気に溢れている。
真っ直ぐにこちらを睨み、僅かに俺を見て奴は微笑む。

そして、まず第一声が…


富士
「ようこそ、夢見の雫」


「アンタ、一体何者だ!? まさか本当に先々代なのか!?」


俺がそう叫ぶと、富士はほう…と感心した様に声をあげる。
そして軽く笑いながら言葉を放ち始めた。
俺は少しゾクッとする…コイツの目は、フツーじゃない!
まるで、人間味を感じない目だ…コイツは、人間である俺を見ていない気がする。


富士
「自力でその答えに辿り着いたのか? それとも、誰かの入れ知恵か?」


「一体、この世界は何だ!? 何でアンタは生きてる!?」
「アンタは、世界を滅ぼして一緒に消えたんじゃないのか!?」


俺の更なる叫びに、富士はククク…と不気味に笑う。
余程嬉しいらしい…そんな顔をしてやがる。
こっちはさっきから心臓が爆発しそうだ…それ位緊張してる。
この狭い部屋で敵兵は誰ひとりいない…なのに富士はただの余裕しか無く、まるで勝利を確信してるかの様な態度だ。

こちとら、不安で叫ばないと怖い位なんだがな…

そんな俺の心持ちとは裏腹に、富士は笑みを浮かべた顔で真相を語り始める…


富士
「オリジナルのワシは、既に存在せんよ」
「夢見の雫の暴走によって、世界ごと存在を抹消されたからの」
「今のワシは、そのクローンに過ぎない…オリジナルの本名さえ、もう覚えていない…」


「待てよ…? クローンにしたって、もう雫は無いはずだろ!?」
「一体どうやったら、世界を重ねたり、建物をコピペしたり出来るんだ!?」

富士
「まどろっこしいな…正直に考えを言え」
「既に、正体は解っておるのだろう?」


そう言って、富士は真っ黒な球体を体から出す。
俺は瞬時に理解し、そして嫌悪した…
アレが、アレこそが全ての元凶なのだと…!



「夢見の、雫!?」

富士
「無論、オリジナルは貴様の物だ…つまり、これはそのレプリカに過ぎない」
「だが、コレはワシの最高傑作よ…」
「オリジナルの様に歴史を改変する程の力は無いが、世界間転送程度なら、ほぼノーデメリットで可能とした」


世界間転送…? それを、ほぼノーデメリットだと!?
しかもレプリカって、どうやって造った!?

そして、やはり俺の予想は当たっていた…!
コイツはよりにもよって、夢見の雫をコピーしたんだ!
そして、自分の世界からクローン軍団を呼び出し、俺を狙わせた…

ミュウツーたちすらも利用して。


富士
「ワシは、この日をずっと待っていた…異なる世界線が交わる、唯一の時間…」
「同一時間軸の並行世界で、唯一世界と世界が傘なり合う瞬間を、ワシは偶然発見した!」
「そして、ワシはそれまで長きに渡ってクローンを造り、自分自身すら造り続けたのだ!」
「もう何百回繰り返したか解らない程の数を造り、ワシはついに夢見の雫の力を一部コピーし、ようやくこの日を迎えた!!」


「それをどうやって造った!?」
「その黒さは、既に邪悪に満ちている気がするぞ…!?」


そう、夢見の雫は本来無色透明。
だが使用を続ければやがて邪気が溜まり、その色は次第に汚れていく…
だが、俺はあの黒さを見た事が無い。
実際に暴走させれば、あそこまで黒くなるものなのだろうか?
どっちにしても、アレからは嫌な予感しかしない!!

富士は俺の言葉を聞き、肩を震わせて笑った。
そして、そのままこう言葉を放つ…


富士
「聞きたいか? そのミュウツーから、何百ものクローンを造り、その脳髄をかき集めた話を?」


ミュウスリー以外の全員が固まる。
そして俺は理解した、コイツは絶対に許しちゃいけない外道だと!
人間性が無いのは、コイツの本質だ。

もう、コイツにはそういう感情とかが存在してないんだ。
そんな富士は呆気に取られる俺たちを見て、大きく笑う。
その姿はマッドサイエンティストその物であり、それすらも生温いのではないか?と思う程狂気に溢れていた気がした。


富士
「ふはははははっ!! ミュウツーの強力なサイコパワーは、かき集めれば空間すらねじ曲げる事をワシは証明したのだよ!?」
「そして、それを応用する事で、このレプリカは長い実験の末に完成した!」
「だが、これではワシの本当の目的は果たせん!!」


富士は黒い雫を掌の上で浮かべ、ククク…と俺を見て笑う。
そして本当に嬉しそうな顔で笑い、俺の体温は何℃か下がった様に思えた。



「目的…一体何だそれは!? 世界征服でもしたいってのか!?」

富士
「ククク…そんなちっぽけな目的ではない」
「ワシの本当の目的とは…オリジナルのいた世界をもう1度甦らせる事だ!!」

ミュウツー
「何だと…? オリジナルの、世界!?」


富士はそんな事を軽く明かした。
もう隠す必要も、騙す必要も無いって事か…?
どっちにしても、世界征服すらちっぽけとはな…
そのオリジナルの世界にはそんな物騒な何かがあるって事なのか?


富士
「そこから先は、貴様らが知る必要は無い…さぁ、貴様の力を使わせてもらうぞ!?」
「何、貴様の脳髄を抜き取るだけの簡単な作業だ…貴様は永遠に夢見の雫の器として、ワシの力となるが良い!!」


完全に狂ってやがる…コイツはもう人間じゃない。
完全に俺は理解した、コイツはもう生かしておいてはいけないと。
そして、この業は俺が背負わなければならないのだと!

俺は、すかさず上着の内ポケットから銃を取り出す。
安全装置は外し、片手で狙いを定めた。
迷いはもう無い…正しい継承者として、俺が片を付けてやる!


富士
「!?」


「俺が、ここでお前を終わらせてやる!」
「正しき夢見の雫の継承者として、お前の暴挙を許すわけにはいかない!!」


俺は目を細め、富士の心臓に狙いを付けた。
頭は外す可能性が高い、最悪連射してでも…


悠和
「聖様ダメぇ!!」


俺がトリガーを弾こうとした瞬間、悠和ちゃんが後ろから力ずくで俺の腕を押さえた。
俺は暴発を恐れ、慌てて安全装置をかけ直す。
悠和ちゃんは、そのまま俺を押さえて後ろに退いた。
富士はそれを見て、クククと笑う。


富士
「愚かな娘よ、今のは千載一遇のチャンスじゃった」
「そしてもうそのチャンスは無いぞ?」

ミュウツー
「ちっ! なら私が始末してやる!!」


ミュウツーはそう言って、全力の『サイコキネシス』を富士に放った。
空間を歪める程の念動力で練られたそれは、狭い部屋をメチャクチャにしながら富士を襲う。
だが、富士は一切笑みを崩さずにそれを耐えてみせた。

いや、違う…? 耐えたんじゃない…無効化したのか!?
まるで、悠和ちゃんが悪タイプになった時みたいに…?
ミュウツーはそれを見て舌打ちした。

そして悔しそうにミュウツーはこう言う。


ミュウツー
「エスパータイプの技を無効化するフィールドか…!」

富士
「貴様の危険性は初めから解っておる」
「わざわざ、対策しない方がおかしいと思え」


ならば!と、ミュウツーは矢継ぎ早に『波導弾』を放つ。
悪タイプなら効果抜群、しかもかわすのは無理!
…が、それでも富士を傷付ける事は出来ず、波導弾は富士の体をすり抜けてしまった。



「今度はゴーストタイプ!? 格闘タイプもダメなのか!?」

ミュウツー
「くっ…! しかも瞬時に切り替えている!」
「一体、どういうカラクリだ!?」

富士
「馬鹿者が…ワシの手にあるレプリカは転送だけが取り柄では無いのだぞ?」
「お前の技は全て無効化出来る、言ったはずだ…お前のクローンの脳髄をかき集めたと」


ミュウツーは明らかに狼狽える。
そして、ミュウスリーも少し顔を歪めた。
コイツはハナからミュウツーたちを利用する事しか考えてなかった。

ミュウスリーを餌にし、俺をここまで誘き寄せる。
初めから兵士も必要は無かったのかもしれない。
そもそも、これじゃあ誰も富士を殺せないのだから…


ミュウツー
「ミュウスリーは…お前の計画の道具として産み出されたのかぁ!?」


ミュウツーは怒りだけで効かない技を連発する。
電気、炎、水、氷…ミュウツーが使用出来るあらゆるタイプの技を富士に食らわせるも、全ては無力。
富士は黒い雫をボゥ…と輝かせ、全て無傷に終わらせていた。
ミュウツーはそれを見てガクリと膝を着く。

どうやっても力技じゃ倒せない。
まさに…無敵かっ!


富士
「ククク…諦めが着いたか?」
「本当に惜しい事をしたのぉ…あの時に撃っていれば、ワシは力を使う前に死んでいたかもしれんのに」


「…くっ!!」


俺は悠和ちゃんに抱き締められ、身動きが取れないまま歯軋りした。
そして右手の銃を見て、俺は顔をしかめる。
もう、こんな物は役に立たないかもしれない…
だが、効かないとも限らない…か?


富士
「さて、無駄な浪費をこれ以上したくは無いのでな…」
「そろそろ、貴様の脳髄を頂くとしようか?」


富士がそう言うと、黒の雫は輝いて空間に穴を開ける。
そして、そこからこの狭い部屋に、何人もの武装した兵が現れたのだ。
これが、例の転送能力か!


ミュウスリー
「ンー! さと、し…護、る!!」

悠和
「ミュウツー! しっかりしなさい!! 聖様を守れればまだ希望はある!!」

ミュウツー
「…っ!! くっ…そぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


悠和ちゃんは俺を抑えたまま、ミュウツーに檄を飛ばした。
ミュウツーは怒りに震えるも、敵の武装だけをを次々と破壊し、そしてミュウスリーが兵士を気絶させていく。

幸い部屋が狭いだけに、そこまでの数は同時投入出来ていない。
ただ、倒された先から転送させて、新しく無限沸きしてやがる!
このままだとまたPP切れに追い詰められるぞ!?



「悠和ちゃん、離すんだ! ここで奴をやらないと、取り返しのつかない事になる!!」

悠和
「ダメです!! 聖様が人を殺すなんてダメぇ!!」


悠和ちゃんは、一向に離してくれなかった。
富士はそれを見て、嬉しそうに笑っている…確実に勝ち誇った目だ。
俺は、このままではダメだと確信する。

ミュウスリーたちは俺を護る為に奮闘しているが、仮にどうにかしたとしても富士は倒せない。
何か…何か打開策は無いのか!? どうすれば、奴を止められる!?

その時…俺の頭にあの時の言葉が浮かぶ。



(俺は…俺らしく、あれ…?)


そして、必ず見ている…と、神様は言ってくれた。
俺が正しい道を歩むなら、いつでも背中を押すとも。



(今の俺は、俺らしくないのか…?)


俺は自問自答した…
誰かを殺すだなんて、俺らしくない?
俺は、ポトリ…と銃から手を離した。
それを見て、悠和ちゃんは安心したのか腕の力が緩む。
瞬間…俺は悠和ちゃんを振り払って、真っ直ぐに駆け抜けた。

そして、ただ真っ直ぐに富士を睨み付け、俺は一直線に駆ける。
距離は短い、後数歩で踏み込める!
俺の目的を察してくれたのか、俺の目の前にいた兵士はミュウスリーたちが横に凪ぎ払ってくれる。
俺はそのまま射程に入る富士を見据え、全力で拳を握り、全力で振りかぶった。
後は…勢いのまま思いっきり殴り抜ける。

それが効くかどうかなんて、もう考えてもいなかった。
そして、予想外にもメキャアッ!!と音をたて、富士の顔面に俺の拳はめり込む。

後は、もう無心で振り抜くだけだった…



「うおおおおおおぉぉぉっ!!」

富士
「!? ぐばぁっ!!」


富士は事務室の壁に強く叩き付けられ、口から血を吐く。
こ、拳が痛ぇ…! もしかしたら砕けたかも…!
だけど痛がってる余裕は無い! 効いたのは予想外だが、もうコレしか俺には解決法が浮かばない!!



(危険だが、やるしかない!!)


俺はすぐに、宙を浮いている黒い雫を握り込んだ。
ひしひしと感じる…コイツの内に秘められた邪悪性を。
そして俺は信じる!! 神様…どうか俺に力を貸してください!!



「夢見の雫よ、浄化を!!」


俺は自分の透明な雫を出し、ほれにコイツの邪気を吸わせた。
所詮は紛い物…俺の雫の容量を全て使えば、全部納める事も出来るはずだ!!
黒い雫はスゴい勢いで力を奪い取られ、やがてヒビが入る。
そのまま邪気はオリジナルに吸い付くされ、最後にレプリカは粉々に崩れ去った…

俺は勝利を確信し、かなり黒ずんだオリジナルの雫を握り締めてこう叫ぶ。



「…賭けは、俺たちの勝ちだ!!」


そう、まさしくギャンブルだった。
成功するかどうかも解らない、完全な分の悪い賭け。


俺の拳が届くかも解らない…

俺が兵士の隙間を縫えるかも解らない…

そもそも、俺の拳が富士に効くのかも解らない…

そして…俺の雫で全ての邪気を吸えるのかも、解らない。


そんな…無謀が連続した賭けだった。
だけど、俺たちは勝った。
俺が突っ込む時、悠和ちゃんは最後に笑ってくれた…信じてくれたから。

ミュウツーとミュウスリーは何も言わずにフォローしてくれた…俺なんかを信じてくれたから。

そして、最後は神様に背中を押してもらった…力も、貸してもらった。
だから…俺は天を仰ぎ、目を瞑って、ただ感謝する。
今も、きっと微笑んで見てくれているであろう、あの神様に。

やがて、俺は気を取り直して富士を見る。
富士は壁に叩き付けられたまま、杖も手放して立つ事も出来なかった様だ。
俺はそんな富士を上から見下ろし、こう言葉を放った。



「富士、これでもうアンタは無力だ」
「レプリカの消滅により、それで造られていたこのハリボテ世界は、恐らくもう消える」
「そして…俺たちは、正しい世界に帰るんだ」

富士
「正しい、か…ワシにとって、正しい世界などもう無い」
「この結末は、正直予想外じゃったよ…まさかお前にそこまで度胸があったとは」
「流石に…人間ごときの拳を無効化する記述は、盛り込んでいなかったからの」


富士は小さく笑いながらも、そう説明する。
度胸…ね、本当に自分でもよく出来たと思うよ。
それ位、不安しかなかった。
出来るかも解らないけど、やるしかないと思った。

そして…俺は成し遂げた。
俺らしい、やり方で!


富士
「思えば、ミュウスリーを造った時点で、ワシは失敗していたのかもしれんな」


富士は口から血を滴らせながら、天井を仰いで静かに呟く。
そして悔やむ様に、憎悪する様な目で、俺たちを見た。


富士
「ミュウツーが、ミュウスリーを連れて反逆するのは予測していた」
「だが、ミュウスリーがただの人間に懐くなどとは、ワシには予想出来なんだ…」
「結果、本来貴様をミュウツーたちに捕らえさせる作戦は失敗し、この様という訳か…」


富士はもう抗う気力も無くなったのか、笑みすら消え失せる。
そして、全てを諦めた様な顔をし、今度は顔を俯かせた。
そんな富士を見て、ミュウツーはこう声をあげる。


ミュウツー
「結局…お前は私たちを利用しようとしただけだったな」
「私も、ミュウスリーも、他のクローンたちも…今を生きてるのにだ!!」

富士
「ククク…本来、戦う為にお前たちは造られたのだ」
「そして、計画の為にお前のクローンたちは礎となった」
「ミュウスリーは確かにお前が助けたのかもしれんが、他のクローンたちは脳髄だけを抜き取られレプリカの贄となったのだからな…」


富士はそれでも笑い、ミュウツーを煽る様な事をあえて言う。
ミュウツーはもうどうでも良い…という風に首を横に振り、深くため息を吐いた。
これで、本当に終わりだろう…と、誰もが思っていたその時、富士は再びニヤリと笑い、こう叫んだ。

富士
「ワシの計画は確かに潰えた! だが、ワシの最後の切り札を見せてやろう!!」


富士はそう叫び、何やらリモコンの様な物を白衣のポケットから出した。
そして、それのボタンを富士は迷わず押し、突如ミュウスリーが苦しみ出す。

全員が呆気に取られる中、ミュウスリーは絶叫の悲鳴をあげ、一気に場が戦慄に包まれた。


ミュウスリー
「アアアアアアァァァッ!?」

ミュウツー
「ミュウスリー!? どうしたんだ!?」

悠和
「い、今のは何のスイッチ!?」


「富士ぃ!! 今すぐスイッチを切れ!!」

富士
「無駄だ、1度起動すればもう止まらん!!」
「さぁ、ミュウスリーよ! 自爆して、この場を吹き飛ばせ!!」
「計画が失敗なら、もう何も必要は無い!! だが、ケジメは付けさせてもらう!!」
「ワシと共に、この世界で消えて無くなるがいい!!」


富士は狂った様に笑っていた。
逆に俺は一気に冷静になる…そして富士が選んだ最後の選択を思い、虚しくなる。



(結局、アイツは救いが無いって事なのか?)


既に、世界は段々光の粒子に変わり始めていた…
もちろん、この世界が消える予兆だ…
でも、俺はまだ大切な家族を救ってない。

俺は、俺らしくあらねばならない!


ミュウスリー
「アアァッ!? アァッ!! アーーーーーー!!」

ミュウツー
「止めろミュウスリー!! 自爆なんてするんじゃない!!」
「こんなの、こんなの私は認めない!!」
「聖…聖っ! 頼む!! ミュウスリーを…助けてくれぇぇぇぇっ!!」


ミュウスリーは自爆命令を強制され、涙を流して抗っていた。
凄まじい痛みがあるのか、ミュウスリーは頭を抱えて泣き叫び、その絶叫は俺の心を容赦無く貫く。

また、ミュウツーもそんなミュウスリーに抱き付いて涙を流していた。
そして、最後まで俺の事を信じ、ミュウツーは泣き叫んで懇願してくれたのだ。



「富士…やっぱアンタは、二流以下の継承者だ」
「俺のことを何も理解してない…だから、こんな無駄な足掻きをするんだ」

富士
「まさか雫を使う気か!?」
「馬鹿な! その状態で使えば間違いなく暴走するぞ!?」
「それとも、最後の最後に自ら滅ぶ気か!?」


俺はあからさまに慌てる富士を見て、ニヤリと笑う。
そして…迷う事無く、即座に雫の力を行使した。



「こんな…こんな、悲しい事は絶対にあっちゃいけない」

悠和
「はい…だから、救ってあげてください」


悠和ちゃんは俺を信じきってくれている。
失敗するなんて微塵も思ってない。

そうだ…ミュウスリーには、まだ生きててほしいから。
だから、俺はこう願うよ。



(どうか、あのふたりを救ってくれ…)


もう戦わなくても良い、ずっと平和な世界に、長く生きていける様に…
その為に、俺の命を使ってくれても良いから…
だから、皆が生きていられる様に…!


俺の雫は限りなく黒く濁っていた。
レプリカの邪気を吸収した為に濁ってしまったのだが、一応レプリカ程には黒くない。
とはいえ、富士が言う様に、この状態で願いを叶えれば暴走する可能性は高いだろう。

だけど、それでも俺は即断した…約束を護る為に。
そして俺は確信している、必ず願いは叶うと。
俺には、神様が付いてくれている…きっと見てくれている。



(だから、絶対に願いは叶う!)


俺は雫から白い輝きが放たれるのを見て安心し、最後に富士を見た。
富士は、本物の夢見の雫の輝きを見て、何故か涙している。
そして静かに俯き、何かを悟った様な顔で、富士は懐から拳銃を取り出し、それを自らのこめかみに当て、迷わず引き金を弾いた。


パァンッ!


そんな、乾いた音が事務室に鳴り響く。
富士は最後には自決し、自ら幕を下ろしたのだ…
最後の胸中に、何を思っていたのか…それはもう誰にも解らない。

富士は何故オリジナルの世界を求めたのか?
そこに何があったというのか?
そんな疑問も、もう答えてくれる存在はいなかった…



「さて…これでお別れだな」

悠和
「はい…そうですね」


名残惜しいものの、俺たちはミュウスリーを見て安心する。
雫が放った優しい輝きに包まれ、ミュウスリーの痛みは止まっていたのだ。
これで、もう自爆する事も無いだろう…

俺は、最後にミュウスリーたちに向かって微笑んでやる。
ミュウスリーは、泣きながら顔をクシャクシャにして、俺を見ていた。
そして、姉であるミュウツーに抱き締められながら、ミュウスリーは右手を伸ばして俺に触れようとしている。
俺はそんなミュウスリーの手を、最後に優しく取ってやった。

この瞬間、俺の体は光の粒子となって消える…
続いて悠和ちゃんも消え、最後にミュウツーとミュウスリーだけが遅れて粒子に変わって行った…

そして、ミュウスリーは消えてしまった俺に向け、ただ一言…こう叫んだ。



ミュウスリー
「ヤ、ダ…聖ーーーーー!! 聖、聖ーーーーー!!」


その声は聖に届く事は無かったが、この時ミュウスリーはハッキリと聖の名前を正確に叫んでいた。
今まで、片言の様にしか発音出来なかったはずのミュウスリーが、ハッキリ『聖』と叫んだのだ。

そして、それを聞いてミュウツーは悟る…これが、聖の救いなのだと。
彼は本当に約束を守ってくれたのだと…
ただ、ミュウスリーや自分を救う為に、この選択を選んだだけなのだと…

それを理解したミュウツーは泣き叫ぶ妹に対し、姉として強くこう嗜めた。


ミュウツー
「ミュウスリー! 信じろ、聖を…!」

ミュウスリー
「ミュウ、ツー…?」


ミュウツーは強い口調で、涙を流すミュウスリーに対して笑顔で言う。
そして、今にも消え行くミュウスリーを優しく抱き締め、静かにこう告げた。


ミュウツー
「大丈夫だ、聖にはまた会える」

ミュウスリー
「ホン、ト?」

ミュウツー
「ああ、だから…生きていこう、ふたりで…また」

ミュウスリー
「ミュウ、ツー…ワタシ…生きて、良いの?」


それを聞いて、ミュウツーは当たり前だ!と、最後に強く言って笑う。
そして、ミュウスリーは最後に満面の笑顔を見せて頷いた。
やがて、ふたりも完全に光の粒子となり、新たな世界へと旅立って行ったのだ……



………………………




「…雨、か」


俺は、ひとり放課後の廊下で窓を眺めていた。
そこではしとしとと雨が降り、やがて窓を濡らしていく…天気予報はしっかりと当たったな。

そして、どうやら今回も俺は何とか生きてるのを実感する…改めて運の良いこって。
俺は大きく息を吐き、そのまま歩き始めた。
そして、1年生の教室がある2階に降り、俺は大切な後輩を見付けて安心する。


悠和
「あ、聖先輩! ちょっと、待っててくださいね? 今日は掃除当番なので♪」


「ああ、また昇降口で待ってるよ」


俺は1年生の楽しそうな姿を見て、ただ頬笑む。
良かった…こっちの世界は結局何ともない様だ。
俺は、ちゃんとこの世界が正しく回っているのを改めて理解する。

そして、同時に解った事もある。
どうやら、あのハリボテ世界での出来事は、俺たちの体にとっては無かった事になったらしい…
体は一切の傷も無く、服も空腹感も元通り。
時間ですら巻き戻った様で、俺の記憶以外にあの事件の事はもう残っていないのかもしれないな…

俺は少し寂しく思った…あの出逢いを、無かった事にしてしまうのが。
だが、これも俺と雫が選んだ選択だ。
俺は昇降口に向かって廊下を歩きながら、スマホを耳に当て、電源も入れずにこう呟いた。



「愛って…何だ?」

恵里香
『躊躇わない事さ!』


「…それは、大変だな」


恵里香はクスクス笑っていた。
どうやら、手違いでもあったらしい…何で恵里香と繋がるのかね?



「まさか、もう次の混沌に巻き込まれてるのか?」

恵里香
『と、言うより…世界がそれを選んだ様だね』
『今はしっかりと、キミの世界が最果てから見えるよ…だから、久し振り』


「…ああ、そうだな」
「お帰り…って言うのも、おかしいか?」


何とも奇妙な会話だ、端から聞いたら電波な会話にも聞こえるかもしれない。
だけど、俺は笑っていた…恵里香も笑っている。

その時…俺は2階廊下の窓から見える裏庭の樹に、ひとりの少女が枝に立っているのを見付けた…俺はそれを見て驚愕する。

彼女は綺麗なピンクのワンピースを着ており、俺を見てニコリと笑う。
雨の中だというのに、彼女は傘すら差しておらず、なおかつひとつも濡れていない。
よく目を凝らして見ると、少女の周りにはバリアの様な膜が張っており、それで全ての雨水を弾いている様だ。

その後、少女は迷わずに空を飛んで俺の方に突っ込んで来た。
俺はつい反応してそれを咄嗟に受け止め様とするが…


ビターーーン!!


と、彼女は窓に激突した…って、感動の再会がコレかよ!?
俺は慌ててすぐに窓を開放してやり、少女を廊下に入れてやる。
思いっきり顔を押さえて痛がってるな…とりあえず窓が割れなくて良かったわ。

俺は安心して息を吐き、改めて再会出来たエスパー少女にこう語りかける。



「ミュウスリー! お前、まさかこっちの世界に来ちまったのか!?」
「何だよ…一応、平和な世界って指定はしたけど…まさかこの世界だなんて」

ミュウスリー
「聖! 会いたかった!! ワタシ、あれから言葉上手くなった!」
「もう、離れない! ずっと…ずっと一緒♪」


気が付けば、ミュウスリーは言葉をしっかり話していた。
まだ少々片言な所もあるが、それでもスゴい進歩だろう。
そのまま、嬉しそうにミュウスリーは俺の首の後ろへ両手を回し、唇を俺の唇に重ねる。

突然の接吻に、俺は顔を真っ赤にして固まってしまった。
そして、その姿を見た野次馬が…


男子A
「ヤロウ!? 廊下で堂々と接吻か!? しかも美少女と!!」

女子A
「うわ、だいたーん♪」

男子B
「くっそ、巨乳じゃねぇか!? リア充死すべし!!」

女子B
「外国人かしら…薄紫の髪ね?」

女子C
「って言うか、あんな髪飾り見た事無いよね〜? 何処で売ってるんだろ?」


ヤバ…まさか、ミュウスリーがこんな大胆な行動に出るとは!?
俺はモテない男たちが嫉妬の炎を燃やしているのを感じ、思わずミュウスリーを抱き締めて廊下を駆け抜けた。


男子A
「待ちやがれ、俺にも抱っこさせろ!!」
男子B
「生かして返さん!!」
男子C
「貴様の死に場所はぁ! ここだぁぁっ!!」


「ざぁけぇぇんなぁぁぁっ!!」


俺は○っと団を蹴り倒しながら、昇降口へと走る。
その際、後ろから悠和ちゃんの応援する声が聞こえて来た…
チクショウ、悠和ちゃんも忘れてはいなかったのな!?

俺はミュウスリーを優しく抱き締め、ミュウスリーは幸せそうに笑う。
そして、俺は確信した…これから、また大変になるな、と。

それでも、俺は前を見た。
俺の選択が間違ってなかったなら、きっと神様は許してくれる。
だから、せめて俺は大事にしよう…この、新しい家族との絆を。


ミュウスリー
「聖、大スキ♪」










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第2章 『初めての混沌』 完

第4話 『新しい家族、ミュウスリーはココニ在り』


To be continued…

Yuki ( 2019/04/22(月) 14:52 )