とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない - 第2章 『初めての混沌』
第2話
「僕の目から何かが…これは?」

『涙』

「涙?」

『生き物は身体が痛いとき以外は涙を流さないって。悲しみで涙を流すのは人間だけだって』
『ありがとう』

「え?」

『ありがとう。あなたの涙。でも泣かないで。あなたは生きてるの。生きているって、ね、きっと楽しいことなんだから』





『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲より引用』










………………………



ミュウスリー
「ン…」


「………」


ワタシは聖に抱かれていた。
聖の体は温かく、布団の中でワタシは聖と寄り添って寝ている。
そんなワタシは朝の日差しを目に受け、意識を目覚めさせた。

朝日の日光に目をすぼめ、ワタシは聖の胸に顔を擦り付ける。
すると聖は唸り、体を動かした。
そして…聖は目を覚ます。



「ふあ…もう朝か」
「結局、ミュウツーから連絡は無かったな…」

ミュウスリー
「ウー…」


ワタシは唸って聖に頭を擦り付ける。
すると、聖はワタシの顔を見て微笑んでくれた。
それを見て、ワタシは体が温かくなる。
こんな感覚は、ハジメテだった…

次に、聖はワタシの頭を撫でてくれる。
ワタシは、そのあまりのキモチ良さに思わず目を細めた。
聖の手は、とても優しく、温かい。

聖は、そんなワタシの反応を嬉しく思うのか、微笑みながらゆっくりと立ち上がろうとする。
ワタシはそれをジャマしない様に、少しだけ浮遊して離れる事にした。

そして、聖はワタシに微笑みながらこう尋ねる。



「ん…っと」
「ミュウスリー、良く眠れたか?」

ミュウスリー
「ン…?」


ワタシはその言葉の意味を理解しようとするが、まだ良くワカラナイ。
そもそも、ワタシはまだ人間の言葉を全部理解出来ていないのだ。
だから、今は何となくで察するしかない…ワタシは聖に、今は…スッキリ、とだけ答えた。

すると聖は笑い、ワタシをわざわざ抱き抱えてくれる。
それを嬉しく思ったワタシは、聖の首に手を回し、落ちない様にしっかりとしがみ付いた。
別にこうしなくとも超能力で浮けるのだけど、ワタシはこっちが良い。



………………………



悠和
「おはようございます、聖様」
「ミュウスリーも、おはよう」


ふたりで2階から下に降りると、悠和が既に食事を並べていた。
そして、そこに並べられているのは見た事も無い食べ物で、ワタシは思わず鼻をクンクンと鳴らす。
良い匂いがする…とても、美味しそう。

ワタシは浮遊して聖から離れ、真っ先に椅子へと座った。
続いて、聖、悠和と椅子に座り、3人で丸いテーブルを囲む形となる。



「へぇ、シンプルにパンとスープか」

悠和
「はい…これなら、ミュウスリーも食べやすいと思いまして」
「ほらミュウスリー…先に、おしぼりで手を拭いて?」


悠和はそう言い、おしぼり…という物で、ワタシの手を拭いてくれた。
そして悠和はパン…と呼ばれる食べ物を手に取る。
それをスープという物に浸け、そこから口に運んだ。
ワタシもそれを真似してパンを食べてみる。
そして、その味にワタシはまた酔いしれてしまった。


ミュウスリー
「〜〜〜!?」


「はは、毎回忙しい反応だな…まぁ、悠和ちゃんの料理は美味しいから当然か」

悠和
「そ、そんな…まだまだ私なんて!」


悠和は顔を赤くし、俯いてモジモジしていた。
どうやら恥ずかしかった様だ…聖もそれを見てニコニコしている。
ワタシはとりあえず、パンの山を片っ端から平らげていく事にした。
それを見て聖たちは苦笑していたが、ワタシは一切気にせずに食事を進める。



「ミュウスリー、ちゃんと体が膨れてきたな」

悠和
「はい、やっぱりほとんど食事を与えられていなかったんですね」


ワタシは、確かに体が太くなった様に感じる。
沢山食べ物を食べた事で調子も良い。
痩せ細っていた指先も、今は太く見える。
ワタシは、ワタシの知らない体に変化している様にも感じた。



「しかし、一体誰がミュウスリーを」

悠和
「気になりますよね…どうして聖様の命を狙わせたのか」


ふたりは、沈んだ顔で会話しながら食事を取っている。
そしていくつか意味不明の言葉を交わし、食事は滞りなく終了した。



………………………



悠和
「あれから誰も近くは通っていない様です」
「武装集団もパッタリと現れなくなってます」


「何で銃撃戦なんて…しかも俺を狙ってるのか?」


ワタシたちは食事後、店を出て探索を開始した。
周りには特に生命反応も感じられず、閑散とした街並みに思える。
そんな中、悠和は足元や建物をよく見ながら、状況を判断してた様だ。


悠和
「もしかしたら、ミュウスリーと一緒に抑える予定だったのかもしれませんね」
「どちらにしても、聖様の命は確実に狙われていると言って良いかもしれません」


それを聞いて、聖は暗い顔をする。
ワタシは、とてもイヤなキモチになった。
聖のそんな顔は、見たくない。
だから、ワタシは聖に問いかけた…


ミュウスリー
「さと、し…どう、した? 」


「えっ? あ、いや…大丈夫、別に気にするなよ」
「お前は俺が絶対に護ってやる、だから信じてくれ」


聖は笑ってそう言う。
ワタシは大半の意味が解らなかったものの、何となく察した。


ミュウスリー
「さと、し…ワタシ、スキ?」


「…そうだな、好きだよ」


そう言って、聖はワタシの頭を撫でてくれる。
ワタシはまた体が温かくなった。
そして、ワタシは聖の事が益々スキになる。
このキモチは、何?

ワタシはその本当の意味が解らないまま、聖たちと共に探索を続ける。
しかし、特に得られる物も無かった…



………………………




「…クソ、やっぱり繋がらないか」

悠和
「ミュウツーですか…一体何故、聖様の番号を知っていたのでしょうか?」


ふたりは、あれからずっと警戒しながら会話をしていた。
主に、これからどうするか?という内容だけど…明確な目的も特に決まらなかった様だ。

ワタシは、聖に抱き付いて聞く事にした。
内容が解らなくても、理解しようとする事は大事。
ワタシはふたりの会話を記憶し、それを学習する。
何となく意味は察した、多分大丈夫…


ミュウスリー
「ミュウ、ツー…どこに、いるの?」


「ミュウツーの事、知ってるのか?」


ワタシはコクリと頷く。
そして、ワタシは少しづつ言葉を繋げた。
まだ上手くは表現出来ないけど…


ミュウスリー
「ミュウ、ツー…ワタシ、の…お姉、ちゃん」

悠和
「姉…ですか」


「…それなら、俺たちはミュウツーに会うべきだ」
「ミュウスリーの姉なら、1番重要な情報を持っている可能性も高い」


聖は何かを決心し、拳を握る。
そして悠和と共に頷き合った…どうやら目的は決まった様だ。
ワタシは聖に抱き付き、そのまま移動を開始する。
だけど、聖は少し辛そうだった…それが解ると、ワタシはすぐに聖から手を離し、超能力で浮遊する。
そして聖の横を並んで移動した。

聖は、そんなに体が強くないのだ…



「悪いなミュウスリー…」

ミュウスリー
「ンー…ン」


ワタシはゆっくりと首を横に振る。
その行動が合ってるかどうか解らなかったけど、ちゃんと伝わった様だ。
聖は微笑んでくれた…ワタシはそれが嬉しい。



「ミュウスリーは良い娘だな、よしよし♪」


ワタシはまた撫でられ、目を細めて体を温かくする。
やっぱり、このキモチは何か違う。
ワタシは、聖がスキ…聖も、ワタシがスキ。


悠和
「とりあえず、駅前に向かいましょう」
「そこなら何か情報が得られるかも…」


「多分交通機関も止まってるだろうな…当分は自分の足で移動か」

ミュウスリー
「ン〜…さと、し…?」


「え…おわっ!?」


ワタシは聖の体を超能力で持ち上げる。
聖は驚いたが、それがワタシの力であると解ると安心した様だった。
ワタシはそのまま悠和に付いて行く。
悠和も察したのか、スピードを上げた。
ワタシはそれに付いて行く様にスピードを上げる。
そして聖も一緒に運んで行った。



………………………




「な、何だよ…これ!?」

悠和
「そんな…駅が全壊してる」

ミュウスリー
「ウー…」


ワタシたちは駅前に辿り着いたものの、そこはイヤな臭いが充満していた。
所々、何か赤い液体も飛び散っている。
良く見ると、人の手足の様な物まで転がっていた。



「冗談だろ…死屍累々じゃねぇか!」

悠和
「一体、誰がこんな惨い事を…!」


「惨いねぇ…こっちも問答無用で殺されかけてるってのに、そんな悠長な事を言ってられるのか?」

ミュウスリー
「!?」


気が付くと、ボロ布を被った人間が背後にいた。
いや違う…コイツは人間じゃない。
ワタシと同じ、ポケモンだ。
ワタシの…お姉ちゃん、ミュウツー。


ミュウスリー
「ミュウ、ツー…」

ミュウツー
「やれやれ…随分面倒事になったな」
「まぁ良い、それならそれで計画通りだ…」
「特異点、とりあえずお前を貰う!」

悠和
「聖様!?」


ミュウツーは右手を前にかざし、そこから『サイコキネシス』を放つ。
ソレは足元のアスファルトを抉りながら、真っ直ぐ聖に向かって行く。
悠和は聖の盾となり、それを正面から受け止めた。
衝撃で服の腕部分ざ吹き飛ぶものの、悠和の体は無傷…
ワタシの時と同じだ、悪タイプにエスパータイプは無効。


ミュウツー
「ちっ、悪タイプか…面倒だな」
「おい、ミュウスリー…お前はさっさと消えろ、後は私がやる」
「また追っ手もすぐに来るぞ…?」

ミュウスリー
「ア、ウー!!」


ワタシは一瞬?を浮かべるも、すぐに唸ってミュウツーを睨む。
それを見て、ミュウツーは大きく息を吐いた。
そして、ワタシに向かって黒い球体を1発放つ。
ワタシは咄嗟の事に反応が遅れ、それを顔面に直撃されてしまった。



「ミュウスリー!!」


聖が悲痛な声で叫ぶ…ワタシは爆発音と共に後ろへ大きく吹き飛び、壁にめり込んだ。
かなり痛い…すぐには動けない。
でも、ワタシは目を細めて聖を見る。
聖は怒っていた、ミュウツーに対して。
ミュウツーはそれを見て、またため息を吐く。


ミュウツー
「よくもミュウスリーをあそこまで手懐けた物だな…? おかげで計画にズレが出た」


ミュウツーは顔をしかめ、聖を憎むかの様な感情を見せる。
そして同時に、ワタシへ複雑な感情を感じさせていた。
ワタシは少しづつ理解を始める…ミュウツーは、ワタシを……



「計画だと!? もしかして、お前がミュウスリーを造ったのか!?」

ミュウツー
「勘違いするな、それは私じゃない…最も、ミュウスリーは元々使い捨てだ」
「寿命はせいぜい持って後2日…もうそんなに時間も無い」
「本来なら、さっさとお前を拐って来させる予定だったが、まさか懐柔されてたとはな…」


聖はそれを聞いて黙ってしまう。
そして、ワタシも知った…もうワタシは、そんなに長くは生きられないのだと。
ワタシは獣の様に大声で叫んだ…そしてそれは、ミュウツーの警戒を高める。
ワタシは痛む体を無理矢理動かし、壁から脱出した。
そして全力で超能力をミュウツーに放つ。
空間をねじ曲げ、地面をより強く抉りながらミュウツーの体を引き裂こうとした。


ミュウツー
「ちっ…! バカ力が!!」

悠和
「今だ! これでも…!!」


悠和は動きを止めたミュウツーに向かい、拳から黒い嵐を巻き起こす。
あれはワタシが昨日食らった技だ…確か悪タイプの技。
ミュウツーはワタシたちの同時攻撃に苦しみ、被っていたボロ布が吹き飛ぶ。
そしてミュウツーの全身の姿が露になった。

その姿…髪は短いが綺麗な薄紫で切り揃えられており、頭には角の様な突起が2本生えている。
ワタシのそれと違い、ミュウツーのは太く短かった。
服は紫のシャツに白のズボン、尻からは長い尻尾が生えており、怪しく動いている。


ミュウツー
「邪魔だぁ!!」


ミュウツーは目に見えない速度で飛ぶ、『波導弾』で悠和を吹き飛ばす。
あれは確か格闘タイプの技だ…悠和は効果バツグンの技で地面に倒れ、頭から血を流して起き上がれなかった。

ワタシは更に力を強める。
だけど、ミュウツーはそれを押し返し始めた。
それでもワタシは必至に力を込める。
ミュウツーは笑い、それを両手で抑え込んだ。

このままじゃ、ワタシはやられる…!
ワタシがやられたら、聖が死ぬ!!



「クソッタレがぁ!!」

ミュウツー
「何っ!?」


何と聖は、ミュウツーの後ろから突如飛び蹴りを放った。
ミュウツーは背中にそれを貰い、仰け反ってバランスを崩す。
その瞬間、ミュウツーはワタシの超能力の奔流を全身で浴びる事になった。


ミュウツー
「ガッ…アアアアアァァァッ!!」


「ど、どうだ!?」

ミュウツー
「な、めるなぁ!!」


ミュウツーは波動弾をワタシに放つ。
ワタシはそれを顔面に直撃され、地面に落下した。
辛うじて、叩き付けられる前には減速出来たけど…痛い。


ミュウツー
「はぁ…はぁ…手間をかけさせるな!」


ミュウツーはすぐに体を輝かし、次第にダメージを再生させていく。
ワタシもそれを真似し、同じ様に再生してダメージを回復させた。
この『自己再生』が有る限り、ワタシたちはそうそう倒れない。

でも、このままじゃダメだ…ワタシの今の力だと、ミュウツーは倒せない。
なら…どうすれば、聖を護れる!?



「くっそ…やっぱり反則的な強さだな!」

ミュウツー
「ふん、もうあんな不意打ちは通用しないぞ?」
「その勇気は見事だが、もうお前を護る者は存在しない」


ミュウツーはそう言って右手を聖にかざす。
そして同時に左手をこちらにかざし、またワタシに向けて波動弾を放った。
ワタシはそれでまたも吹き飛ばされ、地面を転がる。
そして、ミュウツーは余ってる右手で聖を狙った。


ミュウスリー
「アアアアアアアアアァァァッ!!」


ワタシは全力で咆哮する、そして脳内ですぐに対処法の演算を開始し、最速で解法を導き出した。
後は最速で超能力を練る…威力はいらない、ただ動きを止めれれば良い!!


ミュウツー
「ぐっ!?」


「くっそ、ミュウスリー!!」


ワタシが必要最小限の超能力でミュウツーの動きを止めると、聖はすかさずこちらに駆け寄って来た。
ワタシはそれを確認してすぐに飛び立ち、同時に聖を超能力で持ち上げる。
そして、ワタシは最高速でミュウツーの方に向かい、彼女の顔面に向けて波動弾を放った。

見よう見真似の技だけど、効果はそれなりにあったとワタシは確信する。
ミュウツーは回避も出来ずに、それを直撃されたのだ。


ミュウツー
「がっ!?」


そして爆発音と共に、ミュウツーは吹き飛ぶ。
威力はいらない、確実に当てるのが重要…成る程、覚えた。
ワタシはミュウツーが体勢を整えるよりも早く、すぐに悠和の近くまで移動し、そこからテレポートして離れる事にした…



………………………




「ぐはっ!?」

ミュウスリー
「はぁ…はぁ…」


ワタシはテレポートを完了し、大きく息を吐く。
聖は突然地面に落ちたショックで、痛みに声をあげていた。
咄嗟の判断だったから、それは仕方無い…それよりも重要な事が今はある。


悠和
「………」


ワタシはすぐに虫の息の悠和の側に寄り、両手から波導を放つ。
ワタシの両手から出る淡い光は悠和を優しく包み、みるみる内に彼女の傷は治っていった。

それを見てか、聖は大いに驚く。



「!? お前、まさか『癒しの波導』が使えるのか!?」

ミュウスリー
「ウ…? よく、解ら…ない」
「でも、これで…傷、治せる」

悠和
「う…! こ、ここは…?」


悠和は意識を取り戻し、目を覚ました。
ワタシはまだ癒し続ける…全快までは、もう少しかかる。
その間、聖は周りを見て場所を確認していた。



「ここは、こすぷれ〜んの1号店か…戻って来たんだな」

悠和
「あ、ありがとうミュウスリー…もう、大丈夫」

ミュウスリー
「…ン」


ワタシは大方回復した悠和に頭を撫でられた。
悠和のも、とてもキモチが良い…ワタシは目を細めてそれを表現した。
そして、悠和は真剣な顔をして立ち上がる。
聖も真剣だった…そして聖がまずこう言った。



「ミュウツーは、初めから俺が目的だったのか?」

悠和
「そうですね…ミュウツーは計画とか言ってましたし」
「聖様を拐うのが目的だった様ですが…」


聖は考える…ワタシは、良く解らない。
でも、聖の事は助けたい…聖の事は、スキ…だから。
悠和の事も、スキ…
でも…ワタシはミュウツーの事を考えて、とても心が痛くなった。
ミュウツーは、本当は優しい娘のはずなのに…
ミュウツーは……

ワタシは、次第に自らの記憶が整理出来始めた。
ミュウツーとの過去、計画、そして今。

そしてワタシが記憶を整理している間、聖はこう判断を下す…



「とにかく、現段階でミュウツーは危険過ぎる」
「ただでさえ他にも敵がいるのに、ミュウツーまで相手をしてたらこっちが持たない」

悠和
「ですが、妙じゃありませんか? どうして駅前にあれだけの大惨事があったのか…」
「そして狙い済ましたかの様に、ミュウツーとの遭遇」
「もしかして、ミュウツーはあの武装集団と戦っていたのでは?」
「それらしい事も言っていましたし、武装集団はまた別口なのかも…」


聖はそれを聞いて黙る。
そして、考えている様だった。
だけど、突然聖は眉を潜める…何かを思い付いた様だけど、あまり良い考えじゃなさそうだ。



「どっちにしても、ミュウツーは危険過ぎる」
「躊躇いもなく人を殺せる様な奴なら、尚更だ…」


やはり、ミュウツーは聖に認められなかった様だ。
ワタシの記憶にあるミュウツーは、優しい…でも敵に容赦はしない。
ミュウツーはきっと、不器用ながらもワタシの事を心配しているのだろう。
だから、聖を攻撃する…彼女は、それを選んだから。

やがてワタシは記憶の整理が終わり、自分なりに結論を出した。
だから、ワタシは聖にワガママをひとつ言う事にする。


ミュウスリー
「さと、し…」


「ん…どうしたミュウスリー?」

ミュウスリー
「ミュウ、ツーは、助け、たい…」


聖は顔を一瞬しかめる。
でも、ワタシのキモチは理解してくれた様だった。
聖はすぐに笑い、ワタシの頭を撫でてくれる…ワタシは目を細めてそれを受け入れた。
そして、聖は優しい声でこう言う。



「分かった…ミュウスリーがそう言うなら、俺はミュウツーを救うよ
「だけど、教えてくれ…何故ミュウツーは、俺を攻撃しようとするんだ?」


ワタシは存在する記憶から、該当すると思われる事項を呼び起こす。
そして、思い付く限りの考えを聖に述べた。
とはいえ、記憶の整理は出来たものの、呂律はそこまで回らない。
言葉の発音というのは、まだ完全に学習出来ていないのだから…


ミュウスリー
「ミュウ、ツー…は、ワタシを…助け、たい」
「で、も…特異、点…邪、魔」


「どういう事だ…? ミュウスリーを助けるのに俺が邪魔?」

悠和
「まさか、聖様の雫に何か関係あるのでしょうか?」


聖は難しい顔で考えている。
ワタシは更に言葉を続ける事にした。
やっぱり、この呂律で正確に伝えるのまだ難しい。


ミュウスリー
「さと、し…拐う、さと、し…狙われ…てる」
「敵、一杯…特異、点…邪魔」
「ン〜…伝える、の…難し、い」


「俺が狙われてる? …敵、一杯?」
「くっそ、断片的すぎるな」

悠和
「…もしかして、この世界にはもうひとり特異点がいるのでは?」


聖はそれを聞いて絶句する。
悠和にはどうやら伝わったらしい…ワタシは内心ホッとした。
そして悠和は、そこから色々推測を立て始める。


悠和
「かなり紛らわしかったですが、特異点は恐らく聖様を含めてふたりいる」
「ミュウツーの真意はともかく、この特異点を拐う…という部分が、何かしらミュウスリーに関わっているのかも…」


「まさか…ミュウツーは夢見の雫を狙ってるのか?」
「ミュウスリーを助ける為に、雫の力を?」


聖はワタシを見てそう言う。
ワタシにはよく解らない…そこまでは聞かされてないから。
ワタシは、ミュウツーに指示されて聖を拐おうとはした。
だけど、その時ミュウツーが何を計画していたのかは、ワタシにはよく解らなかった。

確かに特異点はふたりいる…聖と、もうひとり。
敵は一杯…今は潜んでるけれど。
ミュウツーはそれを沢山殺した…それでも敵はやって来る。
もう、時間も無い…ワタシは、2日以内に死ぬのだから。

その前に…ミュウツーを助けなければ。


悠和
「やはり腑に落ちません…本当に雫が必要なら、ミュウツーは聖様に普通に頼めば良いはず」
「それとも、何か頼めない理由が…?」


「余程、意地っ張りな性格なのか…それとも、単に俺が信用出来ないだけなのかもしれない…」

悠和
「ですが、それではどうやって雫を使う気なのでしょうか?」
「そもそも、聖様が協力しなければ、計画自体が頓挫してしまうはずです」


ふたりは話し合うものの、決定的な確信は得られない様だった。
ワタシもその詳細は解らない…ただ、聖の存在が必須だというのは、唯一解る事…



「仮に…俺が死ねば、次の雫の継承権は完全ランダム抽選となるらしい」
「つまり、俺を殺したからと言って、そこから狙って他者が得られる権利じゃないって事だな」
「そこから想定出来る計画ってなると…俺を洗脳して利用するって所か…? ゾッとするな…」


聖は顔を押さえ、少し青くなる。
とても辛そうだった…ワタシは胸が痛くなる。
でも、聖はすぐに立ち直り、キッ顔を引き締める。



「とにかく、もうひとりの特異点が何者なのか解らないのが気になるが、きっとロクな奴じゃないだろ」
「今は…何とかミュウツーを説得した方が良さそうだ」

悠和
「そうですね、ミュウスリーの寿命もあります」
「慎重に、迅速に動きましょう」


とりあえず、どうするかは決まった様だ。
ミュウツーを助ける…それにワタシは付いて行く。
聖は特異点…それでも、ワタシはスキ。
ミュウツーも、きっとスキになる…ワタシのお姉ちゃんだから。



………………………




「で…段々死体が増えてるんだが?」

悠和
「酷い有り様ですね…生きる為とはいえ、凄惨です」

ミュウスリー
「ミュウ、ツー…容赦、しない」
「敵なら、倒す…」


もう所々に敵の死体が転がっていた。
いずれも手足が千切れたりしており、グチャグチャに潰されてるのもある。
全てが銃やら銃器を持った敵…やらなければやられる、か。



「アイツは近くにいるのか?」

ミュウスリー
「多、分…いる」
「ミュウ、ツー…ワタシたち、探す」

悠和
「聖様、伏せて!!」


瞬間、銃撃。
悠和は聖を地面に伏せさせ、自身の体で銃弾を弾いた。
今、悠和の体は鋼タイプになっている為…とても硬い。
ワタシはその後、超能力で敵の銃だけを破壊していく。
聖とのヤクソク…人は、殺すな。


敵兵A
「くそっ、全武器やられた!」
敵兵B
「退却だ! 奴も来るぞ!?」


敵は一目散に逃げ出す。
それを見て、悠和はすぐにメモリを切り替えた。
ワタシは感じる…ミュウツーの存在を。
そして向こうも感じてる…ワタシの存在を。

ワタシたちは、同じ遺伝子を持つポケモンなのだから…


ミュウツー
「覚悟は決めたか? 特異点…」


「待てミュウツー! 何故、俺を狙う!?」
「ミュウスリーを助けたいなら、何で協力しない!?」


聖の叫びを聞き、ミュウツーは顔をしかめる。
そして、イラついて聖を睨んだ。
だけど聖は怯まない、聖も強い表情でミュウツーを見ている。

ミュウツーはそんな聖に対し、怒りを含んだ声色でこう言い始めた。


ミュウツー
「お前の存在は不確定要素だらけだ、だから信用出来ない」
「だから、私はサブプランを選ぶ事にした!」
「ミュウスリーがお前に懐いたのは、本当にイレギュラーだよ…!」
「本来なら拐って洗脳すりゃ、さっさと夢見の雫とかいうのを使うだけの予定だったんだからな!」


「馬鹿な!? 何で、そんな無理矢理な方法を選ぶ!?」
「ミュウスリーを助けたいのは、同じなんだろ!?」


聖はミュウツーを説得しようと試みる。
だが、ミュウツーの心は全く揺れない。
でもそれは仕方の無い事だ…ミュウツーは決して人間を信用しないのだから。


ミュウツー
「冗談じゃない、私はお前を信用しない!」
「人間なんて信用出来るか…! 私やミュウスリーを生み出した人間なんか!!」
「ミュウスリーは私が必ず助ける…もう、時間が無いんだ!」


ミュウツーはそう言って手をかざす。
ワタシは無言で聖の前に出た。
それを見て、ミュウツーは更に顔をしかめる。
それこそ、まるで痛みに耐えるかの様に…

そして、ミュウツーはそんなワタシに冷たくこう言う。


ミュウツー
「どけ、ミュウスリー…邪魔だ」

ミュウスリー
「どか、ない…さと、し…スキ」
「ミュウ、ツーも…スキ」

ミュウツー
「止めろ、もうこっちに帰って来い!」
「そいつはお前を救えない! どうせ見捨てられる!! 本当に救えるのは私だけだ!!」


ミュウツーは尚も否定し続ける。
確かに、人間は信用出来ない生き物かもしれない。
だけど、ワタシはそんな人間にも種類があるのだと学んだ。
少なくとも、聖や悠和はワタシの事を助けようと思ってくれている。

そして…ミュウツーの事も。


ミュウスリー
「信、じる…きっ、と、大…じょ、うぶ」

ミュウツー
「お前は使い捨てのまま死ぬ気か!? ただ利用されて死ぬのか!?」


ミュウツーは必至に叫ぶ。
ワタシはまた胸が痛くなる、でも退かない。
だって、この痛みはイヤだもの。


ミュウスリー
「ミュウ、ツー…さと、し…信じ、て?」

ミュウツー
「…無理だ、万にひとつの失敗も許されないのに!」


「もういい! ミュウツー、俺を信じろ!!」
「ミュウスリーは必ず俺が救う! 雫の継承者として、俺が必ずお前たちの悲しみを消してやる!!」


一向に応じないミュウツーに対し、聖は声を振り絞って訴えた。
そして、聖は突然何かの球体を体から出し、それを掌の上に浮かべている。
ワタシたちは、そのキレイな透明の輝きにココロを奪われた。


悠和
「ダメです聖様! 今、ここで雫を使ったらこの世界は…!?」


「だけど…俺が覚悟を見せなきゃ、ミュウツーは信用してくれない!」

ミュウツー
「…覚悟、だと?」


聖は、とても真剣な顔だった。
ミュウツーと悠和は、不安そうな顔。
ワタシはよく解らなかった…

そんな中、聖は自分から何やら説明を始める…



「最初に言っておくぞ? この雫は、デメリット無しで奇跡を起こせる様なチートアイテムじゃない」
「使う際、常に危険性を孕み…しかも使える回数は限られている」
「更に、もし悪意や邪気を持った者が使えば、最悪世界をも滅ぼす」
「お前は、それでもひとりで戦う事を選ぶのか?」

ミュウツー
「何…だと? そんな仕様、私は聞いてないぞ…?」


「予想通りか…お前が誰からコイツの事を聞いたのかは知らないが、ソイツに踊らされてたな?」
「ソイツにしてみれば、後で誰かを犠牲にして雫を使用するつもりだったんだろうさ…わざわざ、手頃な使い捨てがいるんだから!」


聖は怒気を帯びた声で、吐き捨てる様にそう言った。
ミュウツーは明らかに狼狽えている。
それは、まるで信じている物を崩された顔…ワタシを見て、ミュウツーは明らかに震えている。

そして、次第にミュウツーの顔は憎悪に歪んでいく。
聖は険しい顔をした…そしてミュウツーはこう言い放つ。


ミュウツー
「ふざけるなよ…それじゃ、私じゃ救えないって言うのか!?」
「違う! 私じゃなきゃ救えないんだ!!」
「だから、それがいるんだ…その雫で救うんだ!!」


「ダメだ、今のお前じゃ世界を確実に滅ぼす」
「例え俺を犠牲にしてミュウスリーを救っても、そこに未来は無い」
「例え俺を洗脳したとしても、雫は必ずお前の憎悪に満たされる」
「俺は、それを許すわけにはいかない」


聖は確信した目で、真っ直ぐミュウツーの目を見てそう言う。
今の聖の言葉は、優しく叱りつける様だった。
ミュウツーは首を横に振り、まだ否定する。
聖は、そんなミュウツーに優しく微笑む。



「安心しろ、俺がミュウスリーを救う…必ず」
「だから約束しろ…もう人間を憎まないと」
「俺は信じるぞ? お前の事を…」

悠和
「聖様、まさか本当にここで!?」


「ああ…俺はここで雫を使ってミュウスリーを救う」
「最悪、俺はこの世界から消えるかもしれないが、まぁ3人は多分何とかなるさ…」


聖は笑ってそう言う。
だけど、ワタシは胸が痛くなった。
この痛みはイヤ…だから、ワタシは思わず聖に飛び付く。
その際、聖はバランスを崩し、地面に倒れてしまった。



「こ、こらミュウスリー! いきなり何すんだ!?」

ミュウスリー
「ヤダ…ヤ、ダ…」
「さと、し…消えちゃ、ヤダ…!」

ミュウツー
「ミュウ、スリー…」


ワタシは、聖の胸に顔を擦り付けて懇願する。
聖と離れたくない…皆一緒が良い。
ワタシは、いつの間にか聖と離ればなれになるのを恐れていた。
ワタシの目から、熱い何かが零れ落ちるのを感じる。

聖はそれを見て少し驚くも…その後、優しくワタシを抱き締めてくれた。
ワタシは胸が温かくなる…これはスキ。



「ゴメンな…少し軽率だったよ」
「分かった、大丈夫! 俺はミュウスリーの側にいる!」
「…ってなわけでスマン! 雫使うのはキャンセルだ!」
「でも、絶対に最後には救う! だから、信じてくれないか?」

ミュウツー
「…もう良いよ、信じてやる」
「ミュウスリーが涙まで流してくれる男だ…私はそれを信じるよ」


ミュウツーは弱々しくそう言い、そっと倒れている聖に右手を差し出した。
聖はワタシを抱き締めたまま、その手をギュッと握る。
悠和も近付いて来て、その手の上に自分の両手を乗せる。
ワタシはそれを真似し、自分の右手を悠和の手の上に置いた。

奇妙な静けさの中、聖は笑っている。
ワタシも、一緒に嬉しくなる。
悠和も笑っている…ミュウツーはまだよく解って無いみたい。

ワタシは、とても嬉しいと思った。
まだ、聖と一緒にいられる…ワタシはまだ大丈夫?





『ミュウスリーの寿命、残り約45時間…』










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第2話 『ミュウスリー、そのココロ』


To be continued…

Yuki ( 2019/04/21(日) 21:44 )