とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない














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第1章 『新たなる生活』
第4話
中年の男
「苧環君、どうしてもやる気は無いかい?」

勇気
「ええ、無いわ」
「気持ちは嬉しいけど、アタシはここを離れる気は無い」

中年の男
「そうか…だが、気が変わったらいつでも連絡をくれ」
「君だって、本当はそれなりに苦しいんじゃないのか?」


アタシは首を横に振って笑う。
確かに、苦しいと言えばそれなりに苦しい。
だけど、アタシはただ稼ぎたいから仕事をしているんじゃない。
だからアタシはいつも笑顔でこう答える。


勇気
「例え苦しくても、この店はこの街に必要な店よ」
「そして、アタシは生涯ここでコックをやって死ぬわ♪」

中年の男
「そうか…まぁ、君ならそう言うとは思っていた」
「だが、もう娘さんも後を継ぐには十分だろう?」
「いっそ、娘さんに任せて君は海外に出てみては?」
「そうすれば…」

勇気
「ダメよ、この店は娘には任せられない」
「実力云々以前に任せられないの…この意味解る?」


アタシが言うと、彼は?を浮かべてしまう。
まぁ、期待はしてなかったけど。
アタシは軽く笑って言葉を続けた…


勇気
「娘には2号店を任せるつもりよ、あの娘なら確実にやっていけるわ♪」
「でも、この店はダメ」
「この店には、アタシが全てを捧げても足りない位の恩人が、愛してくれた店だから♪」


アタシは今でもあの頃を思い出せる。
辛い事も、嬉しい事も。
瞼を閉じれば…今でも。



………………………



オーナー
「やぁユーキ! 相変わらず良い腕だね♪」

勇気
「あら、オーナー! うふふ、ありがとうございます♪」


これは、アタシが初めて大きなレストランのコック長になった時。
アタシはまだ24歳で、若手の凄腕コックとしてイタリアの三ツ星レストランで働いていた。
普通に考えて順風満帆…何ひとつ不備の無い出だしに、アタシはそれなりの手応えを感じていた。
料理には自信があるし、お客さんも美味しそうに食べてくれる。
高級料理店のコック長として、アタシはそれなりに満足していたのだ。
だけど、アタシはこの後すぐに現実と言う物を知る事になる。


店員
「こらっ! 何だお前!? そんな汚い格好で店に入るな!」

勇気
「あら、何かしら?」

オーナー
「何、気にするな…ただのドブネズミだ」
「君は厨房で仕事をしたまえ…」


アタシは遠目に見ると、店の入り口で明らかにみすぼらしい格好の女の子がいたのが目に入った。
その体はあまりにも痩せ細り、まるでミイラだ。
アタシは流石に黙っていられなくなり、その子の所へ行こうとするが…


オーナー
「ユーキ! 君は何をするつもりかね?」

勇気
「あの娘にご飯を食べさせてあげます」


私がそう言うと、オーナーは眉をひそめる。
そして、まるで蔑むような目でアタシを見た。


オーナー
「ユーキ! 君はこの店のコック長だ」
「この店はあんな汚らわしい客は必要無い!」

ユーキ
「オーナー! それでは、あの子供が可哀想です!」
「アタシが料金は持ちます! どうか、お許しを…」

オーナー
「くどい! この店のオーナーは私だ!」
「ユーキ、残念だよ…君程に優秀なコックはそうそういないと言うのに」
「君はこんな事で、スターロードを閉ざす気かね?」


この時のアタシは、正直弱かった。
自身の夢だったイタリアでのコック…それがアタシの思いを妨げてしまったのだ。
だから、アタシはあの子を救えなかった…
やっと夢が叶ったのに…それをたった1日で終わらせるなんて、当時のアタシには出来なかったのだ。


勇気
「……っ!」

オーナー
「理解してくれて嬉しいよユーキ!」
「さぁ、厨房に戻りなさい…君の料理を心待ちにしてくれる客は沢山いるのだから!」


アタシはその日、多くの著名人に料理を振る舞い、その全てから大絶賛を貰った。
今までで最高だ! また食べに来たい! 次も楽しみだ!!
その言葉にアタシは酔いしれてしまう。
アタシでもここまで来れた、アタシは世界にも認められた。
そしてそんな愚かなアタシは、結局その日にその闇を知らされる…



………………………



勇気
「…あ?」


アタシは、その日の終わりにゴミ捨てで店の裏に出ていた。
そこでアタシが見たモノは、とても口では言い表せないモノだった。


勇気
「ああああぁぁぁぁぁぁっ!?」
「あ…ああぁっ……!!」


アタシは降りしきる雨の中、その場でゴミ袋を地面に落として両膝を着く。
アタシは見てしまった…この世界の闇を。
そして、光が当たる裏側の影を…


勇気
「こんな…こんな事が……っ!!」


アタシはゴミ箱に捨てられていた、ミイラの様に痩せ細っている少女を両腕で抱き上げた。
その体には体温は無く、それはもはやただの肉塊。
アタシは絶望する。
アタシが店でもてはやされていた間、この娘は無情にもゴミ箱に捨てられていたのだ。
少しでも救いがあればとは願った。
アタシが救えなくても、誰かが救ってくれるかもしれない…そんな言い訳をしてアタシは目を逸らした。
その結果がこれだ…アタシはこの娘をただ見殺しにした。
救えるはずだったのに、アタシは保身の為にこの子を殺してしまった!
アタシは罪悪感しかない心境の中、傘も差さずにその娘の遺体を抱き、雨の中そこから移動する。



………………………



勇気
「………」


アタシは、その娘を教会に連れて行った。
そして安らかに眠れる様、アタシは神に祈る。
その娘の遺体は教会のシスターが引き取ってくれ、神の手によって供養されるでしょう。
アタシはその後、懺悔をし、教会を出る。
そして、アタシは決意した。
もう2度と、こんな悲劇はアタシの店で起こさせないと!



………………………



オーナー
「何を言っているユーキ!?」

勇気
「言葉通りです…お世話になりました」


アタシは深く礼をし、オーナーに別れを告げた。
オーナーはアタシを引き留め様とするも、アタシは無視する。
もう、夢なんてどうでもいい…だから帰ろう。
そして、今度こそ誰もが幸せになれる店を作る!
アタシは新しい夢を見付けた…そして、その夢を叶える為に、アタシは故国の日本に帰るのだ。



………………………



勇気
「ふぅ…中々、良い場所は見付からないわね」


アタシは日本に帰ると、すぐに故郷の家に帰っていた。
両親もまだ健在で、アタシの事を歓迎してくれたわ。
アタシはしばらく両親を支えながら、新たな店を探している。
でも、資金はそれ程無い…しかも、長い間海外にいただけに土地勘も無い。
そんな途方に暮れていた時、アタシは運命の出会いを果たす事になった。



………………………



勇気
「あ、貴方どうしたの!? 怪我だらけじゃない!!」

青年
「す、すみません…どうしても、許せない事があって!」


アタシは道端で倒れていた青年に手を貸す。
その青年は立派なスーツに身を包み、とても一般人の様な風貌には見えなかった。
だけど、その青年は強い瞳で前を睨んでおり、泥だらけになったスーツを気にもせず、前方にいる人物にこう叫ぶ。


青年
「この店は、俺の思い出の場所だ!!」
「お前たちの様な地上げ屋が好きにしていい場所じゃない!!」

地上げ屋
「あ〜ん? 若いのにいい根性じゃねぇか?」
「だからよ、俺たちゃ別に金さえ払ってもらえりゃ良いのよ?」
「兄ちゃん、金持ってんだろ?」
「だったら、素直に払いなよ…それで解決だ」


地上げ屋はそれなりに場数を踏んでいる様な風貌で、青年をおちょくっていた。
だけど、青年は一切退かずに強く言葉を返す。


青年
「ふざけるな! お前たちの提示金額は常識を越えている!!」
「そんな金額を許してしまったら、この商店街は潰れてしまう!!」
「俺は絶対に退かないぞ! 特に、この店は商店街の皆に愛されているんだ!!」

地上げ屋
「やれやれ…仕方のねぇ兄ちゃんだ」
「ならもう痛い目見るしかねぇなぁ?」


地上げ屋は長ドスを抜いた。
こんな往来の激しい商店街の真ん中でそんな事をするなんて。
周りは一部悲鳴をあげるも、誰かが警察を呼ぼうとはしていなかった。
あの地上げ屋は余程の組織の者なのね…
アタシは、青年に向かって来る地上げ屋を見て、青年を横に突き飛ばす。
そして地上げ屋の長ドスを横に避けてその腕を取った。


地上げ屋
「なっ!?」


アタシはそのまま容赦なく地上げ屋の右腕を逆間接に曲げてへし折る。
これでも、肉体は常日頃から鍛えているし、少しなら格闘技の心得もある。
この程度なら大した事ないわね。


地上げ屋
「ぎゃあぁっ!! テ、テメェ見ねぇ顔だが、覚えとくぞ!?」
「くっそ、よくもよくも…!」


地上げ屋はそんな捨て台詞を残して逃げて行った。
アタシは青年の元に歩き、様子を見る。


青年
「あ、ありがとうございます…そういえば貴方は?」

勇気
「アタシは苧環…苧環 勇気よ」

青年
「す、すいません! 俺…ああいや、私はこういう物で…」


そう言って青年は胸元のポケットから名刺を差し出した。
そこに書いてあるのは、『マサラITエンジニアリング』…社長。
魔更 准一…

そう、この出会いこそがアタシの転機となる。
アタシはこの准一君と出会った事で、今の店と出逢ったのだ。



………………………



准一
「どうです? 良い店でしょう?」
「とは言っても、今は経営者もおらず…埃も被ってますが」

勇気
「うん、良いわねここ…元は喫茶店かしら?」

准一
「はい、私が子供の頃によく利用してまして…」
「この店は料理が美味しくて、量もあってなおかつ安い!」
「特に、学生の頃に重宝しました」
「ですが…その後、経営者が亡くなられてしまって…」
「今では、皆が愛してくれたこの店は、あんな不当な輩に狙われる惨状です」


アタシは、この時点で決心していた。
皆が愛してくれた店。
アタシは運命だと思った。
アタシはこの店で料理を作りたい。
そして、准一君たちが愛してくれたと言うこの店を、アタシが甦らせたい。
アタシは2度目の夢を叶える機会を得た。


勇気
「准一君、良かったらこの店をアタシにやらせてくれない?」

准一
「えっ!? 苧環さん、料理人なんですか!?」


予想通り驚かれた。
まぁ、今は普段着だし例によっての女装だからね…
アタシはウインクをひとつしてこう言う。


勇気
「一応、こういう者よ…過去の栄光だけど」

准一
「…三ツ星レストランのコック長!?」
「どうして、そんな有名人がこんな辺鄙な場所に!?」

勇気
「ここは、アタシの故郷よ?」
「今は、第2の夢を叶える為に、ここに帰って来たの」


アタシがそう言うと、准一君は少し険しい顔をし、そしてこう言う。
内心は不安なのね…本当はすぐにでもこの店を甦らせたいでしょうに…


准一
「さっきの様な地上げ屋も、きっとまた来ます」
「それでも、この店で働いてくれますか?」

勇気
「問題無いわ、アタシはこの店で皆を絶対に幸せにしてみせる」
「皆が愛してくれたと言うこの店を、アタシが引き継ぐ」
「この役目は、きっとこの街で生まれたアタシにしか出来ない」


アタシの決意を聞き、准一君は考える。
そして、こう提案をした。


准一
「私に、ひとつここでオムライスを作ってください」
「その味を見て判断します」
「私の舌は素人ですが、それでもどんな人間が作る味なのかは判断出来ます」

勇気
「良いわよ…ここの厨房は使えるの?」

准一
「はい、電気もガスも通ってます…」
「ここは、私が買い取った店なので」

勇気
「そうだったの…だったらオーナーって事になるわね♪」
「分かったわ、必ず首を縦に振らせてみせるわ」
「とりあえず、材料を買って来るから待ってて頂戴♪」


アタシはそう言って買い物に向かう。
ついでに実家で着替えも持ち出しておく。
そして多目の食材を買い、アタシは店に戻った。



………………………



勇気
「お待たせ、じゃあすぐに着替えて作るわね♪」

准一
「はい、楽しみにしてます」


「待ちな兄ちゃん!」


突然、大勢の男たちが店内に入って来る。
どう見てもヤクザの類いね…これはちょっとヤバイかしら?



「よくもウチのモンをやってくれたのぅ?」
「この落とし前、どうしてくれるんじゃコラ!?」

勇気
「どうもしないわ、アタシはこの店のコックよ?」
「文句があるなら、アタシの料理を食べてからにして頂戴」


アタシがそう言うと、男たちは大笑いする。
そして、馬鹿にした風にこう言い放つ。



「面白いのぉ〜それなら一品作ってもらおうかのぉ?」

勇気
「良いわよ? ただ、そこまでの人数分はすぐに用意出来ないから、代表をひとり指名させてもらうわ…そうね、そこのご老人いかがかしら?」

老人
「…!」
「ほう、あんた…良い目をしているな」
「カタギの人間にしては、肝の座った目をしとる…」
「良いじゃろう…ワシが直々に見てやろう」


「オヤジ!? 何もこんな店の料理なんか…っ!?」


オヤジと呼ばれたご老人は一睨みで男を黙らせる。
そして、ヤクザ一同全員が顔を蒼くし、ご老人はカウンター席に座った。
その隣には准一君が冷や汗を垂らしながら座っている。


勇気
「ちなみに…材料がオムライスの分しかないからそれしか出来ないけど、構わないかしら?」

老人
「構わん…楽しみにしていよう」


ご老人は本当に楽しそうな顔をする。
それを見て、アタシは腕が鳴るのを感じた。
必ず、美味しいと言わせてみせるわ!!



………………………



勇気
「はい、お待たせ…」

准一
「うお…こんな本格的なのは初めて見るな」

老人
「……むぅ?」

驚く准一君を横目に、まずご老人が一口食べた。
そして、明らかに眉を歪める。
そのまま、何も言わずに二口、三口と口に運んでいった。
准一君も一口食べて驚きの声をあげている。


准一
「す、凄い…こんなオムライス食べた事無い!」
「それに、美味しいだけじゃない…こんな、暖かな気持ちになれるオムライス、久し振りだ」

老人
「…ワシ等の負けじゃな」


「オヤジ!?」


ご老人は天井を見上げ、何か思い出す様に呟く。
そして、その表情は笑っていた。


老人
「こんな懐かしい気持ちになる味は、とうに忘れておった…」
「ほれ、お前も食ってみい?」


「お、おう……うっ!?」
「う、美味い!! 何だこれ!? 本当にオムライスかよ!?」


にわかにヤクザたちがざわめく。
皿に盛られたオムライスはヤクザたちにたらい回しにされ、それを食べた全ての人間が感嘆の声をあげた。
アタシはひとつ頷いて確信する。
アタシの料理は、ちゃんと心に届く。
アタシはこの料理の経験と腕で、必ずこの街に笑顔を増やしてみせるわ!!


准一
「…決めました、このお店は貴方に託します!」

勇気
「ありがとう准一君♪ 必ず期待に応えるわ!」

老人
「…帰るぞ」


「あ、ああ…でも良いのか!?」

老人
「良いも何も無い…ワシ等は負けた」
「この店からは手を引く…行くぞ」


ご老人はそう言って全員を率い、店から静かに出て行った。
アタシはふぅ…とため息を吐き、改めて准一君を見る。
准一君は途端に吹き出し、笑い始めた。
アタシもそれに釣られて笑う。
こうして、アタシはこの店を継ぐ事になったのだ。



………………………



准一
「では、この店をお願いします」
「土地の権利書から全てお譲りしますので、後は好きにしてください」

勇気
「良いの? 貴方はこの店が好きで買い取ったんじゃ…?」

准一
「良いんです…それも貴方が全て引き継いでくれます」
「正直、俺…あ、いや私も仕事が軌道に乗ってまして」
「すぐに海外に飛ばなければならないんです…」


准一君は気楽にそう言う。
アタシは少し気になる事があったのでこう言った。


勇気
「准一君? アタシの前でなら地を出しても良いわよ?」
「そこまで慣れてないんでしょ? 私って一人称…」

准一
「うぐ…やはり解りますか?」
「参ったな…対外交渉に響きそうだ」


アタシたちは再び笑い合う。
そして、アタシたちは再会を誓った…
その後、1年後にアタシたちは再会する。



………………………



准一
「お久し振りです、苧環さん!」

勇気
「変わらないみたいね? いえ、少し逞しくなったかしら?」


久し振りに会う准一君は、少し体つきも良くなった気がしていた。
そしてその顔も、自信に溢れた良い男の顔だ。
あれから准一君はどんどん会社を大きくし、今や日本でもトップクラスの企業として名を馳せ始めていた。
一方、アタシは沸々と話題を集め、少しづつだけど街の人間からは笑顔を見せてもらえる様に。
これからもきっと、この店は愛されていくのだろうと、アタシは確信している頃だった。


准一
「もう、すっかり立派な喫茶店ですね…」
「とても、素敵な店になった…」

勇気
「まだまだよ…アタシはまだ全然満足してない」
「だから、期待しててね?」
「いつか、大行列が出来る人気店にしてみせるから♪」


アタシはウインクしてそう言う。
准一君は、少し疲れた様な顔をしていたけど、それでも笑ってみせた。
体調が良くない様ね…これは少し精の付く食材を使おうかしら?
とはいえ、まずはオーダーね♪


勇気
「とりあえず、注文は?」

准一
「あ、それじゃあオムライスを…」


アタシはオッケー♪と言い、厨房に向かった。
一応、ウエイトレスも雇ってはいるけど、夜まで働いてくれるウエイトレスは今いない…
この問題も解決しないと、やっぱり辛いわね…
この街は夜に来るお客さんが多いから、そこが稼ぎ所にもなるんだけど…
アタシはそんな事を思いながら、厨房で料理を作る。
そして、完成したオムライスを店内に持って行くと、悲鳴があがった。


女性
「大丈夫ですか!? 大変、誰か救急車を!!」

勇気
「准一君!?」


アタシは皿をカウンターに置き、すぐに准一君の元に向かう。
准一君は気絶しており、床に倒れて動かなかった。
そこに、心配そうに准一君を介抱する女性。
アタシは彼女にこう伝える。


勇気
「貴女、車を運転出きるわね? 准一君を急いで病院まで!」
「ここからなら、救急車を呼ぶより速いわ!」

女性
「は、はい! 分かりました!」


アタシは准一君を抱き上げ、女性の車がある駐車場に連れて行った。
ちなみに、これがもうひとつの出会い。
そう、それはまさに奇跡と呼べる偶然の出会いだったのだ。
准一君はその後無事に回復し、事なきを得る。
結局、准一君はすぐに退院してまた海外に出てしまう事に…
だけど、そこに縁は出来た…

そして、それから1年後…



………………………



勇気
「えっ? 結婚…?」

准一
「はい、式は挙げないつもりですけど、婚姻手続きはもう済ませてあります」
「ほら、幸子…」

幸子
「ご無沙汰してます、苧環さん」


そう、それは1年前に准一君を介抱してくれた女性だった。
どうやら、あれから互いに縁が生まれたらしく、度々仕事を一緒にやり、気が付くと互いに愛し合う様になったのだと言う。
アタシは嬉しくなり、その日はふたりにタダで料理を振る舞ってあげた。
その後、准一君たちは仕事でまた海外を飛び回り、気が付けば准一君と幸子ちゃんの会社は世界的にも大きくなっていた。
それに比べると、アタシは…まだまだね。
でも、アタシは気にしない。
この店はきっとまだ大きく出来る…アタシはそう確信している。
お客さんも次第に増えてるし…バイトで来てくれる人も少し増えた。
今は朝〜夜までそれなりお客さんは入り、収入もそれなりになっている。
そして、アタシは更にこの後運命的な出逢いを果たす…



………………………



勇気
「風路、大丈夫?」

風路
「うん、大丈夫…出来るよ」


そう、それは風路との出逢い。
アタシは、人化して人間界に来てしまったケンホロウの風路と、今は一緒に暮らしている。
風路はまだ4歳だったけど、それでも店の手伝いを少しでも手伝ってくれた。
そして、これはアタシにとって1番大切な生き甲斐となる。
何があっても、アタシは風路を守る。
そして、必ず風路を幸せにしてみせる…アタシはここでまた新たな夢を得たのだ。


風路
「!?」

勇気
「あらあら…大丈夫?」
「やっぱり、翼と尾が無いからバランスが取れないのね…」


風路はアタシの知り合いで、信頼出来る医者に頼み、他言無用という形で翼と尾の切除を依頼した。
幸い、生きていく分には問題は無いらしく、風路は今も元気に育っている。
そして、それから3年後…アタシたちは准一君たちと再会し、風路は聖君と出逢った。
そこからは、少し省略…

その後、准一君と幸子ちゃんは他界し、風路は聖君の為に奔走していた。
聖君の為に、風路はどんどんアタシの技術を吸収していく。
気が付けば、中学生になる頃には、もうアタシと変わらない位の腕にまで成長していた。
そして、風路は中学を卒業すると、この店の店員として働くと言う。
その時、風路はこんな提案を言い出したのだ。


風路
「お義父さん、コスプレ喫茶をやっても良いかな?」

勇気
「コスプレ…喫茶を?」
「それって、メイド喫茶みたいな物かしら?」


風路は頷き、更に詳細を説明する。
アタシはそれを聞いて素直に頷いた。
娘の風路が、初めて言い出したお願いだったのだ…アタシはそれを断る事はしない。
こうしてアタシの店は…喫茶『こすぷれ〜ん』として、新たに生まれ変わる事になった。
そしてそこからは…本当に夢が叶ってしまった。



………………………



風路
「お義父さん、オムライス追加注文!」

勇気
「解ったわ、任せて!」


まさに一気に厨房は戦場と化した。
風路は若くしてコスプレ店員のリーダーとなり、多くのバイトを引っ張る。
最初は不安だったけど、風路はコミケ等にも出ており、そこでも相当人気者だった様だ。
そしてその後、店は満員御礼で行列が常…
その内テレビ取材も受けたりし、その知名度は日本中に知れ渡り、更にその人気を上げていく。

こうして…こすぷれ〜んは名実共に街を代表する店となったのだ。



………………………



風路
「月に代わって、お仕置きよ! な〜んちゃって♪」


ワァァァァァァァァッ!!と、その瞬間大歓声。
当時、20歳だった風路の人気は最高潮。
全国的に見てもかなりの人気を持つコスプレイヤーであり、この店の看板娘。
むしろ、何故こんな街に?と思われる事も多いらしく、それは風路の人気を物語っていた。
ただ、この頃辺りから風路の様子が少しおかしくなっていくのにアタシは気付く。
アタシは不安になって聞いてみても、風路は大丈夫…としか答えない。
仕事には何の問題も無いけど、でも正常でも無い。
きっと、何かがあった筈なのだ。



………………………



勇気
「風路、訳は話せないの?」

風路
「…ごめんなさい、これだけは言えないの」
「でも大丈夫だから…私は、大丈夫だから…」


風路は強い表情でそう言った。
その顔は決意に満ちており、決して体調を崩した顔ではない。
だけど、何かに苦しんでいる…アタシにはそれが解る。
風路は、その何かを語ってくれる事は、結局未だに無かった…

その後辺りから、少し異変が起こり始める。
度々、風路が喧嘩をして帰って来るのだ。
酷い時には服もボロボロになって帰って来た事もある。
アタシが理由を聞いても、風路は大丈夫だから…と笑顔で答えるだけ。
そして、心配しないでね?と、更に笑顔で言うのだ。
アタシは、大好きな娘を信じる事しか出来なかった。
風路は決して諦めない顔をしていたからだ。
例え傷付いても、絶対に何かを成し遂げる…そんな顔。
だけど、アタシは後に気付く。
風路の怪我は、全て聖君の身代わりだったのだと…



………………………



風路
「………」

勇気
「風路、どうして聖君の事なのにアタシにも言わなかったの?」
「言ってくれれば、アタシからでも協力は…」

風路
「ごめんなさい!!」


風路は強く拒絶した。
謝ってはいるものの、それは聖君の事を内緒にしていた事を謝っているのではない。
むしろ、これからも同じ事が起こるけど許してくれ…と、そんな風にも感じた。
アタシはそれ以上、何も言えなかった。
ただ、愛する娘の秘める悲しみに、アタシは背中を擦ってあげるだけ…
風路は泣いて謝り、アタシはそれを抱き締めてあげた。
そして、アタシは神様に祈る。
どうか、この娘と娘が愛する聖君を救ってくれます様に、と。

だけど、祈りも空しく時は刻まれていく…
聖君は高校生になり、更に苛めはエスカレートしていったという。
風路は可能な限り、それに対し、体を張っていつも止めていた。
時には手を出した事もあったらしい…あの優しい風路が。
それでも、一切状況は変わらず更に1年…季節は夏。
この喫茶店に新たなメンバーが加わる事になった。



………………………



光里
「初めまして、新央 光里と言います!」
「コミケで風路さんに出会って、この店に憧れました!」
「これから頑張りますので、よろしくお願いします!!」


そう、これが光里ちゃんとの出会い。
光里ちゃんは明るく、元気な店員で客の心を徐々に掴み始める。
まだまだ油の乗る前のホープだけど、見所はある娘だった。
でも、不幸にも彼女は聖君に関わってしまう事に…
たまたま学校も同じ、学年も同じ、クラスまで同じと、絵に描いた様な偶然。
そして光里ちゃんもまた、風路と同じ様に聖君を守ろうとしていたのだ。

ちなみに、ここからは光里ちゃんの回想にチェンジするわよ?



………………………




「………」

光里
「魔更君、大丈夫!?」


私は、雨の中にも関わらず、校舎の裏で倒れていた魔更君を発見する。
噂には聞いていたけど、本当にこんな事になっていたなんて…
私は魔更君に手を差し伸べる…だけど。



「っ!」


バシィッと、私の手は強く払われた。
完全な拒絶…誰も信じられない、近付くな、関わるな…
そんな入り乱れた感情を私は感じてしまった。
そして、私は決意する…こんなの絶対に容認しちゃダメだと!



………………………



光里
「どうしてですか!?」

担任
「気持ちは解る…だが、魔更が何も言わないのに、それを訴える事は出来ない」
「決定的な証拠があればまだしも、それが無ければ言い訳はいくらでも効く」
「新央、これは実際難しい問題だ…」
「何故、世間でイジメのニュースが消えないと思う?」
「それは、ほとんどがこういった情報の齟齬が問題なんだ」
「イジメはある、でも誰も訴えない」
「ひとりが訴える、でも誰も信じない」
「これは俺たち教師にも言える…誰だって自分は可愛い」
「しかも、俺たちはお世辞に良い給料じゃない…家族を養うにはそれなりに厳しい奴も多い」
「学校側が訴えられりゃ、もうテレビで全国報道されて信頼はパァ…だ」
「誰もこんな学校なんか受験しなくなる…そうなったら教師がどうなるか解らんでもないだろう?」
「俺だって、解決はしてやりたい…だがそれには魔更の協力が不可欠なんだ」


先生の言葉はただの正論だった。
もちろん、この人が魔更君を助けようとしているのは知ってる。
何度も魔更君を励ましている先生の姿は見た。
でも、魔更君は何も言わない…
私はそれでも何とかしたかった…



………………………



光里
「何、どう言う事、それ…?」

女子
「だからさ、もう止めなって…アイツに関わるの」
「アイツ、この学校に入学してからずっとあんなんだから、関わらない方が正解なんだよ…」
「アンタは転入生だから知らないだろうけど、アイツをイジメてる奴ら、かなりヤバイ奴らなんだよ?」
「下手に関わって、もう2度と登校しなくなった奴もいる…アンタもそうなりたいかい?」
「確か前に関わった1年の女子なんか、裸にひんむかれて精液まみれで高架下に放置されてたらしいよ?」


私はゾッとする…何だそれは?
そんなの、まるで呪いだ…
まるで、魔更君に関わる者全てを不幸にする呪い。
私が顔を青くして言葉を詰まらせていると、クラスメートの女子は私の肩をポンと叩く。


女子
「アンタは間違ってないよ…誰だってそんなのは怖い」
「例え死にはしなくても、死んだ方がマシの仕打ちはいくらでもあるんだから…」
「アンタ可愛いし、捕まったらもう終わりだよ?」

光里
「忠告ありがとう…でも、もう関わっちゃったから」
「もし、私がひんむかれて放置されてたら、その場で殺してくれる?」
「多分、死んだ方がマシだと思ってるはずだから♪」


私がそう言って笑うと、彼女は呆気に取られていた。
そして、バカじゃないの…と言い残し、この場を去って行き、私はひとり教室に残される。
そして、私は恐怖に屈さず、また魔更君を探す事にした。



………………………



それから、私は毎日魔更君と一緒に登校する。
魔更君は話しかけても何も返さないけど、それでも拒絶はしなかった。
少しでも何か思ってくれたら良かったと思うんだけど…


光里
「まーさら君! 一緒にご飯食べよ?」


「………」


昼休みも私は魔更君の側にいる。
魔更君は相変わらず何も言わずにひとりで弁当を食べていた。
私も構わず隣の机でパンを食べる。
もちろん周りからは奇異の視線。
でも私は気にしない。
こんな事でも、きっと魔更君を助けているはずだと、私は信じていたから…



………………………



女子
「新央、気を付けな…最近、タチの悪い奴らがチラホラ学校の周りを彷徨いてる」

光里
「赤城さん…どうして私に?」


そう、私に声をかけてくれたのは、前にも忠告してくれたクラスメートの『赤城 沙譚』(あかぎ さたん)さん。
あの時から挨拶位しかしてなかったけど、急に話しかけてくるなんて…


赤城
「別に…クラスメートが被害に会うかもしれないから、ただの忠告…アンタ、本物のバカだし」

光里
「あ、あっははは…そうかも」
「でも、ありがとっ心配してくれて♪」

赤城
「ばっ!? だ、 誰が心配するかっ!」
「言っとくけど、これが最後だからな…!」


そう言って赤城さんは長い髪を靡かせ、早足で教室を出て行った。
私も覚悟を決めよう…そして心の中で弟に謝る。
もし、お姉ちゃんが死んだら、もう実家に帰るんだよ…?と。



………………………



男A
「おらおら、どうしたぁ?」


「………」


そこは、学校から少し離れた人気の無い高架下だった。
この辺りは夕方以降は基本的に人が通らなくなり、自然と不良の溜まり場となるスポットだ。
私はここで魔更君を見付け、現場をスマホで動画撮影する。
いくらなんでも証拠動画があれば…


男B
「おっ、可愛娘ちゃんはっけ〜ん♪」

光里
「ひっ!?」


私は背後から男に掴まれ口をタオルか何かで封じられる。
私はもがくも男の力に敵うはずもなく、私はスマホを取り上げられ、それを踏み潰された。
そして、男は興奮した鼻息で私の耳元に囁く。


男B
「だーめじゃん、おいたしちゃ?」
「お仕置きに気持ち良〜い事しようねぇ〜♪」


そう言って男の手が私の胸をまさぐり、私は首を横に大きく振って抵抗する。
男は逆に興奮したのか、更に鼻息を荒くし、私のスカートの下に手を伸ばす。
私は叫ぶも声は届かない。
そして、私は涙を流してもう諦めるしかないと悟った…その時。



「うっらぁぁぁっ!!」


ゴスッ!と鈍い音が突然私のすぐ耳元でする。
瞬間、私を掴んでいた男は吹き飛び、アスファルトに転がって呻き声をあげていた。


男C
「このヤロウ! 何しやがる!!」


「新央、さっさと逃げな!!」

光里
「ぷはっ! あ、赤城さん!?」


何と、私を助けてくれたのは赤城さんだった。
赤城さんは私の口を縛っているタオルを外し、口を解放してくれる。
そして、赤城さんはすぐに立ち上がって私に逃げる様に促した。
手に持った鞄から血が滴ってる…あれの角で思いっきり男の頭を殴り付けたのか…そりゃ痛い…(゚Д゚;)
私は何とか立ち上がり、魔更君を見る。
この状況に男たちは赤城さんに注目して集まっていた。
人数は5人…私たちはすぐに囲まれてしまう。
赤城さんはチッ!と舌打ちした。
そして、有無を言わさずに鞄を私の前の男に投げ付ける。
ゴッ!とまた鈍い音がし、鞄は男ひとりの顔面にめり込んだ。
そして、そのまま赤城さんは全速力でタックルし、囲みに穴を空ける。


赤城
「行けぇ新央!! アタシの事は無視しろ!!」


私は、泣きながらダッシュする。
赤城さんが死に物狂いで開いてくれた道を、私は真っ直ぐ進んで魔更君の元に辿り着いた。
魔更君は倒れたまま動かない。
相当殴られ、意識が飛んでいる様だ。
私は魔更君を何とか肩に担ぎ、そして赤城さんを見る。


男D
「ぐわっ!?」

赤城
「女だからって舐めんなコラァッ!!」

男E
「ざけんな! 裸にひんむいて輪姦(まわ)してやっからなぁ!?」


赤城さんは孤軍奮闘していた。
男5人相手に殴り合い、ふたり程は吹っ飛ばしている。
だけど、そんなに体力が続くわけもなく、赤城さんは次第に3人の男に掴みかかられ、服を破られた。
下着すら失い、赤城さんはなおも噛みついたりして抵抗する。
だけど、それすらもう最後の抵抗。
赤城さんは後頭部をバットで殴られ、頭から血を流しながら私を見た。
そして、目で言った…さっさと逃げろバカ!と…
私は、泣きながら魔更君をそっとアスファルトに置く。
そして、私は叫びながら赤城さんの所に走ったのだ。


光里
「赤城さんをぉ! 離せぇぇぇぇぇぇっ!!」


私は赤城さんが投げた鞄を拾い、それをひとりの男の顔面に振り回す。
だけど、それは軽くかわされ、私は勢いで振り回されて転んでしまった。
そんな無様な私の姿を見て、赤城さんは激昂する。


赤城
「何やってんだバカ!? 何で戻って来た!!」

男E
「少し黙れコラァッ!」


男は赤城さんの口をタオルで絞め、両手も腰の後ろで縛る。
そして無理やり地面に押し倒し、男は赤城さんの露になった乳房に手をかけた。


光里
「こんのぉ!!」

男D
「引っ込んでろ! お前は後回しだ!」

光里
「あぐぅっ!!」


私は頭部をバットで殴られ、アスファルトに倒れた。
そして、意識が朦朧とする中、私は視界が血で赤く染まりながら、赤城さんが凌辱されるのを見る羽目になる。
私は呪った…何でこんなに世界は残酷なの?と…

どうして、赤城さんがこんな目に遭うの?
全部、私のせい? 私が赤城さんの忠告を聞かなかったから?
そうか…私が、赤城さんに酷い事をしたんだ…


光里
「止めてぇぇぇぇぇっ!! やるなら私にしなさいよーーー!?」

男C
「うっせぇなぁ、こっからインサートよ〜♪ さて、初物かなぁ〜?」


私の嘆きは届かない。
私は悟った…この世に神はいない。
きっと、嘲笑っているんだ…必至に救いを求める下等な生物を。
だったら、もう悪魔でも化け物でも良い!
誰か、赤城さんを助けてぇ!!


ビュオオオオォォォォゥッ!!


その時、一陣の風が吹いた。
その瞬間、赤城さんを凌辱しようとした男3人は宙を舞う。
そして、2m程打ち上げられた男たちは、アスファルトに落下した。
私は前を見る…そこから人がひとりこちらに向かって歩いて来る。
男たちは痛がりながらもその人物を見た。
そして、私と赤城さんも見る。
そこにいたのは、私のよく知る、尊敬する人のコスプレ姿だった。


男C
「な、何だテメェは!? 今何しやがった!?」

風路
「何しやがった…?」
「それは、こっちの台詞よ…貴方たち、誰に手を出したの!?」


風路さんは、赤いアイドルコスチュームに身を包んだまま、初めて見せる怒りの形相をしていた。
今まで、どんな時でも優しくて、ニコニコ笑っていた風路さんが、本気で怒っている。
そして、男たちは3人で風路さんを囲む。
倒れていた3人もいつの間にか立ち上がっており、風路さんはひとりで6人を相手にする気の様だった。


男A
「おおぅ、コスプレ姉ちゃん!?」
「しゃしゃり出て来るたぁ、良い度胸だな〜?」
「良い女が増えて俺らはご満悦だぁ〜!」


男ひとりが風路さんに掴みかかろうとした所で、そいつは宙を舞う。
今度は真上に勢い良く上がり、高架下の天井に叩き付けられた。
そして男は気を失い、無造作に落ちて来る。
高さは5m程…受け身もせずにアスファルトに落ちたら死…!?


風路
「……!」


風路さんは男がアスファルトに叩き付けられる前に、男の襟首を掴んで助ける。
風路さんは尋常ではない力で、それを男たちに見せ付けた。
そして、風路さんは残りを睨み付け、片手で男を乱暴に放る。
あまりの勢いで、男が3人もボーリングのピンの様に吹き飛び、全員が戦慄。
これは、本当に人間なのか…?と、その場の全員が思っただろう。
風路さんはそのままつかつかと歩いて来る。
その表情はもはや呆れた様な、そんな感じに見えた。
男たちは恐怖に支配され、風路さんの進路から離れる。
圧倒的だった…こんな光景は見た事が無い。
私の知らない風路さんが、ここにいた…


風路
「今回はこれで許してあげるけど…もし」
「もし、今度私の大切な人と、その友達に手を出したら…地の果てまででも追い詰めて償わせるから」
「覚えておきなさい…?」


風路さんはまるで獣の様な瞳で男たちを睨み付ける。
完全に腰を抜かした男たちは這いずりながら逃げて行った。
そして、風路さんは俯きながら私たちに近付く。
風路さんは赤城さんの前まで来ると、赤城さんを縛っていた物を軽く引き千切り、ほぼ上半身裸の赤城さんに上着を脱いで着せてあげた…真っ赤なアイドルコスチュームだけど。


赤城
「…一応、礼を言っとくよ、ありがとう」

風路
「気にしないで、それよりゴメンね…今このコスしか持って来てなくて…」


赤城さんは自分の着せられている服を見て顔を赤くした…やはり恥ずかしいらしい。
うんうん…解るよ、私も初めてのコスプレは家でやってて緊張位はしたし。


風路
「光里ちゃん、ごめんなさい…駆けつけるのが遅れて」
「怖かったよね…? ありがとう、聖君の事を助け様としてくれて…」


風路さんは頭から血を流している私を抱き締めてくれた。
その体はとても温かく、さっきまでの風路さんとはまさに別人だった。
私は何とか立ち上り、風路さんに魔更君を任せる。
風路さんは魔更君に向かって猛スピードで走り、そして気絶している魔更君を抱き締めて泣いていた。
私は、それ見て少し羨ましいと思った…同時に改めて風路さんを尊敬した。
風路さんは、あんなにも強い…強くて、優しくて…頼れる先輩。
私は自分に少しコンプレックスを抱きつつも、今はもうひとり大切な人の元に駆け寄る。


光里
「赤城さぁんっ!! 良かった! 良かったぁ〜!!」

赤城
「…バカ、何でアタシなんて助けようとしたんだよ?」
「放っときゃ良いのにさ、アタシなんて無視して…」


私は命がけで助けに来てくれた恩人に泣いて抱き付く。
赤城さんはフラフラしながらも、気丈にそう言った。
私は赤城さんの胸に顔を埋める。
赤城さんは鬱陶しそうにため息を吐くも、引き剥がそうとはしなかった。


光里
「ごめんなさい、私が忠告を聞かなかったから…」
「私のせいで、赤城さんが怖い目に…」

赤城
「はっ、あんなモン覚悟の上でコッチは来てんだよ!」
「勝手やったのはアタシも同じさ…だから気にすんな」
「そもそも、アンタがレイプされたら殺してくれとか言うから、目覚めが悪くなったんだろ!?」


私はアハハ…と笑う。
あの時は勢いで言っただけだったんだけど…実際にやられると思うとあんなに怖いとは…((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル


光里
「でも、本当に良かった…赤城さんが無事で」

赤城
「ちっ…さっさと帰るよ!」
「こんなふざけた服、早く着替えないと…!」

光里
「え〜? 凄く似合ってるよ♪」
「赤城さん、結構可愛いからちゃんとメイクしたら良いレイヤーになれると思うけど?」


私が言うと、赤城さんは顔を赤くして怒る。
プイッと背中を向けて赤城さんは足早に歩き出した。
私は追いかけて横に並ぶ。


光里
「あ、待ってよ〜赤城さんって家何処なの?」

赤城
「この近くのバイク屋だよ…すぐに着く」


私はそうなんだ〜と言って一緒に帰る。
別に道は同じだし問題は無い。
そして、10分程でそのバイク屋に着いた。


光里
「へぇ〜個人店なんだ…」

赤城
「まぁな…今は親父とアニキが切り盛りしてる」
「じゃあな…もう、次は助けないからな?」


そう言って赤城さんはさっさと家に入って行った。
私は軽くさよなら〜と手を振り、そこから自分の家に帰る。
今日はバイト休んだから、明日から頑張らないと…でも、魔更君の事も気になるし…
とはいえ私が出来る事は限られてる。
スマホも壊されちゃったし、散々だったよ…


光里
「風路さん、凄かったな…あれだけの男相手に一歩も退かずに無傷で勝つなんて」


そもそも、あれは風路さんの様な女性が軽々と出来る事なのだろうか?
風路さんの二の腕とかは見た事あるけど、そんなに筋肉質にも見えなかったし…


光里
「はっ!? まさか、あれは本当にセーラー戦士とかプリキュアとかみたいな魔力的パワー!?」
「うーむ、だとしたら風路さんは世間にバレない様に振る舞っているだけなのかもしれない…」
「って、んな馬鹿な…流石に目の錯覚でしょ」


ただでさえ、視界が赤いカーテンで見難かったし、幻覚を見た可能性もある。
きっと、風路さんは何か凄い秘密兵器でも持ってて、それで吹っ飛ばしたんだろう…もう、そう思う事にする!
私は結論を出し、帰路についた…
結局、この後魔更君が自殺未遂を起こすまでは、私はほとんど魔更君の役には立てなかったのだ…
でも、もうひとり友達が出来たのは、すっごく嬉しかった♪

私の回想はここまでだよ♪



………………………



中年の男
「…ふぅ、やはり折れないか」

勇気
「ええ、決してね♪」


アタシは少し過去を思い出した。
そして、アタシは改めて信じる。
きっと…この店は天国で見てるふたりが笑ってくれるであろう店だと。
それでも、まだ恩は返せてないかしらね…?


風路
「お義父さん、そろそろ…って、まだ話の途中だった?」

中年の男
「ああ、いやもう終わりだよ…」
「すまないな苧環君…もし、何かあったら本当にいつでも連絡をくれ…私はいつでも君の味方のつもりだ」

勇気
「ええ、卯木(うつぎ)さんもスカウト頑張ってね♪」


アタシがウインクしてそう言うと、卯木さんは礼をして帰って行った。
さて、そろそろ閉店時間ね。


勇気
「もう皆帰った?」

風路
「うん、お客さんももういないわよ」


風路は相変わらずひとりで全部やれる事はやってしまう。
そろそろ次の店を任せたいけれど、やっぱりすぐには見つからないか…


風路
「お義父さん、ひとつ相談があるんだけど…」


風路は真剣な顔でそう言う。
アタシは真面目に返し、風路の相談を聞いた。


風路
「あくまで、聖君の提案なんだけど…」
「もし良かったら、土地を提供出来るけど…って」

勇気
「…条件は?」

風路
「私が、店長になるならって…誕生日プレゼントとも言ってたわね」


風路も苦笑していた…そう言えばもうすぐ4月25日で風路の誕生日か。
これで風路も25歳になるのね…
ちなみに、その日はアタシと風路が出逢った記念日で、その日を風路の誕生日としたのだ。


勇気
「…貴女の意見は?」

風路
「受けたいの山々だけど、でもどうなのかなって…」
「一応、聖君としても、返してくれる分は返してくれて構わないって言ってたから…」


成る程、聖君らしいわね…ちゃんと、遺産を自分なりに有効活用しようとしてる。
あの子の事だから、悩んでる風路を見かねたのでしょうね…
そして、アタシは思い出す。
准一君がほぼ無償でこの店をくれた時の事を。
ある意味、これも運命かしらね…


勇気
「風路、貴女が自分で決めなさい」
「アタシは貴女が決めたのなら、何も言わないわ」

風路
「え、良いの?」


アタシは笑って頷く。
そして、風路は戸惑いながらもこう言った。


風路
「分かった、じゃあ…この話を受けるわ」
「後の事は、聖君と相談して決めるから…」


アタシが頷くと、風路はリビングから出て行った。
アタシは明日の仕込みのチェックだけしに下に降りる。
さぁ…明日からはまた忙しくなりそうね♪


勇気
(准一君、幸子ちゃん…聖君は立派に成長してるわよ?)


アタシは天国にいるであろうふたりを思い、そう心の中で告げる。
きっとふたりは微笑んでいるのだろう。
アタシも、死ぬまでこのお店を守るから、だから…期待しててね?
もし私が死んでも、その時はきっと別の誰かが受け継いでくれる。
このお店は、そうやってずっとこの街に愛されるべきお店なんだから…










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第4話 『苧環 勇気の過去』


To be continued…

Yuki ( 2019/04/20(土) 12:04 )