とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない














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第1章 『新たなる生活』
第5話

「よくもここまで来たものだ」
「貴様らは私の全てを奪ってしまった」
「これは許されざる反逆行為といえよう」
「この最終鬼畜兵器をもって、貴様等の罪に私自らが処罰を与える」
「死ぬがよい」


風路
「正に恐悦至極」
「って言うか、何これ?」
「私、お店貰う段階で死ぬの?」
「それ無くね?」


とりあえず、余興は終わりだ…
俺は改めて姉さんに詳細を説明する。



「とりあえず、これ小切手」
「必要金額はもう書いてあるから、それで手続きしてくれれば後は大丈夫のはず」

風路
「うわ…解ってはいたけど、物凄い金額ね」


姉さんは小切手に書かれた金額を見て絶句する。
当然だが、安い物ではない。
立地はここから少し離れた街の駅前で、人通りも良いまさに商売の激戦区。

当然その分飲食店としてのライバルも多く、この街の規模とは比較にならない場所だ。
良くも悪くもこの街はそこまで大きな街でもなく、いたってフツーの街。

そして、2号店が出来る街はいわゆる中心地。
まぁ、県庁所在地と言えば解り良いか…つまりはそういう所。
姉さんには、そんな激戦区にあえて出てもらうつもりで、俺はこの小切手を渡す事にしたのだ。


風路
「流石にプレッシャー凄いな〜」
「いわゆる地方から都会でやれって事でしょ?」
「大丈夫かなぁ〜、いきなり心折れそう…」


「何言ってるんだよ…それ位に挑戦しなきゃ2号店出す意味無いだろ?」
「それに駅で数駅程度なんだから、ここも地方って訳じゃない」
「まぁ、人通りで言うなら相当違うわけだけど…」
「少なくとも、こっちのコンセプトは日替わりコスプレって所だし、その特性をちゃんと生かせば、生き残るのは可能だと思うけど?」


姉さんは色々思案しながらも、真剣な顔になっていく。
流石にプロだな…もうプランが固まってきたみたいだ。


風路
「うん…とりあえず、ありがとう」
「後は人員の確保だね…さって、どうしようかな?」


「当面はバイトで賄うしかないんじゃ?」

風路
「それだと、育成期間がいるのよね…激戦区にいきなり放り込まれる以上、即戦力が何人か欲しいわね」


確かに、可能なら開幕から人心は掴みたい物だな。
とはいえ、即戦力となると1号店の人員から引き抜くのが前提だ。
勇気さんの意見もあるだろうし、その辺は上手く考えないとな…


阿須那
「風路はん、とりあえずウチは2号店に行きますわ」
「後は何とか新規メンバーで育成するのがええんちゃいます?」
「当面はウチが引っ張りますし、基本的には同じライフワークでやるんでっしゃろ?」

風路
「そうね…阿須那ちゃんが来てくれるなら心強いけど」
「最悪、もうひとりコックが必要になる可能性もあるのよね…」


姉さんは頭を抱えて悩んでいた。
流石にコックとなると、それこそ即戦力が必要だ。
阿須那もコックは経験してるけど、そうなるとコスプレ部隊に問題が出る。
やはり、新人の育成か…



「とりあえず新規店舗だし、しばらくは新人育成期間で仮オープン期間を作ったら?」
「本開店は1ヶ月程ずらして、まずは客にどんなお店なのかって言う感じで伝えるようにすれば…」

風路
「流石に、2号店で出す以上どんなお店なのかはほとんどのお客さんが知ってるわよ…」

阿須那
「1号店の時点で全国各地から来てはるからな…」
「まぁ、でもそれがええんちゃいます?」
「どっちにしても即戦力なんておらん以上、ここはまず新人募集でっしゃろ?」


姉さんは阿須那の意見を聞いて決意する。
そして、まずは最初の難関…新人の面接が始まるのだ。
面接場所はもちろん2号店!



………………………



風路
「えっと、それじゃ名前から…って、この娘はぁ!?」


「良いから良いから…はいどうぞ」

舞桜
「え、えっと…よろしくお願いします!」
「わ、私は『市江戸 舞桜』(しえど まお)と言います!」


とりあえず姉さんは開幕から驚く。
今回の面接だが、俺は皆に頼んで無職の娘に何人か来てもらう事にしたのだ。
もちろんフツーの人間も混じっているし、姉さんには本気で面接官をやってもらう。

ちなみに俺は姉さんの横で補佐だ。
今日は休日だし、直接見てみたかった。
もちろん、ちゃんと姉さんにも意見とかは出すつもりだ。
阿須那も面接官として今回は来ており、しっかりと姉さんの隣に座って相手を見ている。

まぁ、初っぱなから顔見知りな訳だが…だからと言って受かるとは限らない。
いくら顔見知りでも、これは本気の仕事としての面接だからな。
流石に遊び半分な様じゃ勤まらないし。


阿須那
「とりあえず、そんなにキョドられても困るで?」
「アンタ、一辺回ってポーズ取ってみ…」

舞桜
「は、はい!」
「キ、キラッ☆」


舞桜さんは可能な限りの笑顔でクルリと回り、それなりに可愛く表情を作ってウインクして見せた。
意外といけるんじゃないのか?
俺はそう思うが、阿須那はそれなりに厳しく見ている様だ。
姉さんも顔は真剣であり、舞桜さんの言葉を一字一句逃さない様に聞いている。
舞桜さんは終始緊張したまま、やがて面接を終えた…


風路
「それじゃ次の人どうぞ!」

水恋
「どもー『潺 水恋』(せせらぎ すいれん)でーっす」
「よろしくお願いしまーす」

阿須那
「アンタなぁ…一応、就職面接やぞ?」
「せめて、シャキッとせんかい! 身内やからって採用される訳やないんやからな?」


阿須那は開幕から厳しく言う。
水恋さんはそれを聞いて、一応背筋を伸ばして真剣な顔をした。
まぁ、やる気あるから来たんだろうしな…
ちなみに、今回はちゃんとフツーの人間も来ている為、姉さん以外は皆薬で偽装している。
俺も薬は飲んでおり、少なくとも皆の事はフツーに見えていた。


風路
「とりあえず、今日面接に来た理由は?」

水恋
「働き口は欲しかったですし、親友の舞桜がやりたいって言ったから、アタシも付き合おうかなって…」

風路
「仕事は甘くないわよ? ただの親切心だとお客さんの前には立たせられないわよ?」

水恋
「分かってます、仕事は絶対覚えます!」

阿須那
「ほな、一辺回ってポーズ取ってみ…」


そう言われて水恋さんは綺麗にその場で4回転ジャンプし、笑顔を見せてくれた。
うーむ、元々活発な水恋さんらしく、ジャンプは綺麗に決まってるな…4回転の意味はあるのか解らないが。


風路
「はい、じゃあこれで終わり…次の人に代わってもらうわ」

水恋
「はーい」


水恋さんはとりあえず部屋を出ていく、そして姉さんが次の人を呼び、面接は進んでいった…



………………………



風路
「それじゃ、今ここにいるメンバーが私たちと一緒に働く仲間となります!」
「皆、辛い事も色々あると思うけど、これからよろしくね♪」

阿須那
「とりあえず、合格おめでとう!」
「皆、初めての事ばっかりやろうけど、ウチ等もしっかりサポートするから、頑張りぃや!?」
「まぁ、ともかくよろしゅう! このメンバーが喫茶こすぷれ〜ん2号店の一期生や!!」


姉さんと阿須那が、合格した面子を相手にまず最初の挨拶をする。
そして、ここから合格者の挨拶。
それぞれが前に出て、他の合格者たちに自己紹介をするのだ。


舞桜
「初めまして、『市江戸 舞桜』です」
「色々、至らない所があると思いますが、一生懸命頑張りますのでよろしくお願いします!」


舞桜さんは、少しオドオドしながらも深くお辞儀して挨拶した。
その姿はしっかりとした大人の姿であり、これから姉さんたちと一緒に働く仲間なのだ。


水恋
「『潺 水恋』でーす、とりあえず受かったからには全力でやるんでよろしく〜!」


次は水恋さんが挨拶する。
やや飄々とはしているものの、やる気はある顔つきをしていた。
水恋さんは少し面倒臭そうにしながらも、次の人に交代する。


毬子
「どうも、『姥女 毬子』(うばめ まりこ)です!」
「これから、一緒に働かせて貰う事になったので、どうぞよろしくお願いします!」


次は毬子ちゃん…はきはきした挨拶で、元気さは伝わってくる。
旅館で働いていた経験はきっと役に立つだろう。
そして、次は教子ちゃんが前に出た。


教子
「えっと『矢車 教子』(やぐるま のりこ)です!」
「接客の経験はありますので、きっとそれなりには役に立てると思います、どうか仲良くしてください!」


教子ちゃんは深々と頭を下げ、挨拶を終える。
毬子ちゃん共々、経験は必ず生きる。
だから俺はそれなりに安心していた…



「『金萪 瞳』(かなしだ ひとみ)です」
「これから、よろしくお願い致します…」


瞳さんは慣れた感じで冷静に挨拶した。
少し事務的だけど、瞳さんの生真面目な性格を考えればこんな物だろう。
何だで元メイドでもあるし、きっと若い娘たちにとっては便りになる存在のはずだ。


明海
「『擂鉢 明海』(すりばち あけみ)ですっ」
「喫茶店の仕事は初めてですけど、今までの経験を生かして頑張ります!」
「これからよろしくお願いします!」


流石に元メイドで元女将さん…人となりも凄く良い人だし、きっと良いムードメーカーになれるだろう。
ちゃんと皆を引っ張る力もあるし、今後が期待だな。



「『波兎織 李』(はうおり すもも)だ! 力仕事なら任せとけ!」
「とりあえず、こんな仕事は初めてだが、精一杯役に立てる様働くぜ!!」


今度はまさかの合格だった李さん。
俺的には流石にキツイんじゃないか?と思ったが、荒々しい性格もバリエーションとしては重要なのか、見事に俺の予想を裏切っての合格。
まぁ、本人もやる気十分だし、今後は楽しみだ。


祭花
「『彼岸 祭花』(ひがん まつりか)です!」
「ちゃんと出来るかどうか解りませんけど、合格した以上精一杯頑張ります!」


今度は祭花さん。
李さん同様心配ではあるも、人となりは良いし仲良くやってはいけるだろう。
さて、これで身内の紹介は終了。
後は一般人5人の合格者がいたが、今回は省略させていただく…
さて、これから早速軽いレクチャーが始まるが…



………………………




「姉さん、お疲れ」

風路
「あ、ありがと〜聖君♪」
「はぁ〜新人の育成ってしんどいなぁ…」

阿須那
「風路はん、これからもっと辛なって来まっせ?」
「今の内から弱音は厳禁でっせ?」


とりあえず、今日の研修は終了。
俺は、姉さんと阿須那に飲み物を渡して労っていた。
姉さんはかなり疲れている様だが、阿須那は結構元気だな…
阿須那も育成は初めてだろうに、意外と何とかなってるのか?


風路
「ゴメンね〜…確かに、仮にも店長なんだから弱音は厳禁だね」

阿須那
「そらそうです…その分、仕事以外やったらいくらでも甘えてくだはれ♪」
「ウチや聖は、いつでも風路はんの事支えるさかいに…」


阿須那が笑ってそう言うと、姉さんも笑ってみせた。
俺も釣られて頬笑む。
うん、これならきっと大丈夫だ…絶対に姉さんは成功させる。
俺はそう確信し、姉さんの為に資金提供をした事を改めて満足した。



………………………




「さて、これで粗方の問題も解決したかな…?」
「…いや、そう言えばまだあったな」
「…でも、どうするか?」


俺はそう考えるも、躊躇してしまった。
一応、俺は前に1度挨拶はしてるし、アイツも完全に無関係ってわけじゃ無いからな…
俺はとりあえず日付を確認し、それに合わせてスケジュールを組む事にした…あそこで関わった以上、これは必要だろう。



………………………



それから数日が経ち、今日は5月3日。
いわゆるゴールデンウイークという奴で、俺は華澄と一緒に外に出ていた。
今は電車で移動している、ちなみに華澄にはまだ詳細を伝えてはいない。


華澄
「聖殿、今回は一体何が?」


「着いたら教えるよ…一応、お前も無関係とは言えないからな」


華澄は顔に?を浮かべながらも、それ以上は聞かなかった。
そしていつも着ているTシャツの首元を少し整えながら、冷却マフラーを巻き直す。
もう暖かくなってきたし、日中は本格的に半袖でも良くなったな…
そして、俺たちは数駅進んだ所で下車し、目的地に向かって歩く。
そこは、共同墓地だ。



………………………



華澄
「…墓、でございますか」


「ああ…お前も、夢の世界で会った事のある人の墓だ」


俺がそう言ってやると、華澄は目を見開いて驚く。
そりゃそうだろう…あの夢の世界は雫によって造られた世界。
そこで、死んだ知り合いなんてひとりしかいないはずだからな。


華澄
「まさか…あの時の?」


「確か、お前に一万円くれたんだよな…死ぬ前に」


そう…俺たちの目の前に今ある墓は、かつて夢の世界で華澄と出会い、自殺したサラリーマンの墓だ。
だけど、今この現実世界では全く立ち位置は違う。



「名前は『梧 真具』(あおぎり まつぶさ)って人でさ…」
「俺の会社…と言うか、両親の会社の子会社に勤めてたんだ」
「その縁か、俺が小さい頃に何度か会った事あって…」
「だけど、その会社でリストラ食らって、その後自殺したらしいんだ…」
「お前は夢の世界とはいえ、関わった上に恩があるんだろ?」
「なら、ここに来る必要があると思った…」


華澄は、感慨深い表情で墓を見ていた。
そしてその時を思い出す様に目を瞑り、墓の前で屈み、手を合わせる。
俺は献花をし、同じ様に手を合わせて黙祷した。


華澄
「真具殿、ありがとうございました」
「あの時の貴方の言が無ければ、拙者はきっとこの場にはいなかったでしょう…」
「あの時は造られた夢の世界ででしたが、それでも拙者は感謝いたします…」
「どうか、天国で安らかに…」


「………」


「あ…もしかして、聖さんですか?」


突然、俺たちに話しかける熟年の女性がひとり近づいて来た。
俺はその人を確認し、そして立ち上がってお辞儀する。
華澄もそれに倣って丁寧にお辞儀した。
女性もそれを見てお辞儀する。
そして、女性は優しげな口調でこう言った。


女性
「わざわざありがとうございます…聖さん」
「いえ、今は聖会長になるのですか?」


「止してください『出海』(いずみ)さん…」
「俺は確かに立場上会長ですが、あくまでただの高校生です」
「今日は、命日なので…死んだ両親の代わりにお参りに来たんです」


俺がそう言うと、出海さんは小さく笑う。
俺はここで疑問に思った事を聞く事にした。
何故なら、いるべきはずの人がいなかったからだ。



「…あの、『潮』(うしお)さんは?」

出海
「…亡くなりました」
「今日は、娘の月命日でもあるんです…」


俺は、驚愕する。
潮さんは確か今年の2月に会った。
今はてっきり、高校卒業して進学でもしてると思っていたが。
それが、まさか亡くなっていたなんて…


出海
「今は、あの人と同じ墓に入れてあります…」
「あの娘は、父親をいつも心配していたから…」

華澄
「あの、出海殿…?」


華澄は、やや躊躇いがちに出海さんに声をかける。
出海さんは微笑んで華澄の声を待った。


華澄
「…お聞きしたいのですが、真具殿はどんな方だったのですか?」

出海
「…とても、娘思いの良い父親でした」
「それも、リストラされるまでの間でしたが…」
「その後のあの人の荒れっぷりは、それは酷い物でした…」
「あれだけ愛していた娘にすら酔ってぶつ事もあり、私たちは不本意ながらも家を出る事にしたのです」

華澄
「…では、今出海殿は、真具殿をどう思っておられますか?」


華澄の質問に、出海さんは少し戸惑う様な顔を見せる。
俺はあえて何も言わなかった。
今回の墓参りは、そもそも華澄の為の物でもある。
だから、華澄が気になるのであれば、俺は止め様とは思わなかった。


出海
「…私は、あの人を憎んだ事はありません」
「今でも、愛しています…もちろん、娘の事も」


そう言って出海さんは墓の前で手を合わせる。
その体は震えており、どれだけの無念なのかがここまで伝わって来た。
華澄も拳を握り締め、何かを考えている様だ。
そして、華澄は次にこう聞く。


華澄
「潮殿は、何故亡くなられたのですか…?」

出海
「自殺です…公表的には、ですが」


「公表、的…?」

出海
「はい、実際には殺されたのです…同じ高校の生徒たちに」


俺が気になって聞くと、出海さんは衝撃の事実を言った。
殺人なのに、自殺だと?
何だそれは? 何でそんな事がまかり通る?
殺した奴らは、今どうなってるんだ?


華澄
「それは、何故…?」
「いや…それよりも、潮殿を殺した相手は今どうしているのですか!?」

出海
「今も、のうのうと人生を謳歌しているのでしょう…」
「あの人たちにとっては、私たちの娘の事など玩具の様な物だったそうですので…」


「そこまで解ってるのに、何で自殺扱いなんですか!?」
「いくら未成年だって、おかしいでしょう!?」
「そんなの許されるわけない!!」


俺が興奮してそう言うが、出海さんは冷静だった。
そして、出海さんは呆れた様にこう言う。


出海
「相手は、警察署の署長の息子だそうです」
「父親の権力を使い、無理矢理事実をねじ曲げたのでしょう…」
「私たち弱者は…こうやって、泣き寝入りするしかありません」
「例え、愛する者を失っても…」


出海さんは泣く事もなく、ただ静かに黙祷していた。
その姿はあまりに寂しく、哀愁が漂う。
そんな空気を感じてか、華澄は静かな声で俺の顔も見ずに声をかけた。


華澄
「…聖殿、どうか許していただきたい事があります」


「…華澄?」


華澄は、出海さんの無念を受けて震えを止めていた。
そして…かつて見た事無い程に、華澄が激昂していたのを俺は見る。
華澄は、涙を流しながらも静かな怒りを煮え滾らせていた様だった。


華澄
「申し訳ありませぬ…数日の間、お暇をいただきます」
「そして、どうか…これから拙者のする事を、見逃してくだされ」


そう言って、華澄はその場から走り去る。
とてつもないスピードで駆け抜け、とても人間が追い付ける速度では無かった。
俺と出海さんは呆気に取られ、その場でしばらく立ち尽くしてしまう事に…



………………………



華澄
(見付けた、4人組の男たち)
(あの者たちが、潮殿を殺した犯人!)


拙者は、あれから2日かけて犯人を調べあげた。
思いの外簡単に見付かったので、拙者は安心する。
そして夜も更けた頃に、男たちが人気の無い埠頭の倉庫に入るのを確認して、拙者は後をつけた。

彼らの行動は学生を卒業しても変わっていない…今も、弱い女性を捕まえては非道を尽くしている。
そして親の権力を巧みに使い、決して捕まらぬ狡猾さ…だが。


華澄
(今回ばかりは、拙者が決して許さぬ!!)
(そして、然るべき罪を受けて貰う!!)


拙者は決意し、口元をマフラーで隠す。
そして息を殺し、全身の感覚を研ぎ澄ませて潜入を開始した。



………………………



犯人
「へっへへへ…今日のは何日持つかな?」

男A
「お前、少しは加減しろよ…何人壊す気だ?」

男B
「まぁ、良いじゃねぇか…こっちはそのおかげでやりたい放題出来んだしよ?」

女子
「!?!?」


見た所、縛られて言葉も話せない者は、少女と呼べる女子学生の様だった。
服は何ひとつ着せられておらず、裸のまま手足を壁に縄で縛られて身動きを封じられている。

近くには様々な道具が散らばっており、中には拷問器具とも言える様な凶器もある。
拙者は怒りに震えるも、冷静に現場に踏み込んだ。
まだ犯人は気付かない。
拙者は見張りの男ひとりの首を絞め、軽く落とした。
そして、興奮してこちらに気付かない男たちの背後にゆっくりと忍び寄る。


犯人
「はははっ! 怖がる事は無いぜ!?」
「俺は結構優しいんだ! 孕んでもそのままヤリ倒してやるよ!!」

男A
「まぁ、恨むんならコイツの親父を恨むんだな?」
「コイツの親父は警察のトップだ、だから全部犯罪揉み消して誰も俺らを裁けない!」
「最近ご無沙汰してたからな…俺もう我慢出来ねぇわ〜」

男B
「ぎゃははっ! ここは滅多に誰も来ねぇからな、夜通しで子作り出来るぜ!?」
「別に死んでも構わねぇし、代わりがまた来るだけだからな!!」


拙者は、ここまでの音声をボイスレコーダーに録音する。
あらかじめ買っておいたのが早くも役に立ちましたな…文明の利器は便利な物だ。
そして、拙者はすぐに水手裏剣を4枚放ち、女子の縄を全て切断した。
その瞬間、男たちは一斉にこちらを振り向き、驚く。


男A
「な、何だテメェは!? 見張りは何やってやがった!?」

華澄
「見張りなら、そこで気絶しているでござるよ」
「そして、もはや許さぬ…そなたたちの所業、目に余る所では無い!!」


拙者は背後に親指を立て、入り口で寝ている男を指差す。
すると、すぐに男がひとり動いた。


男B
「ヤロウ、死にやがれ!」


右にいた男がサバイバルナイフを取り出し、拙者に突いて来る。
拙者はそれを見る事無く、右手を上に振り上げてナイフごと男の手を弾いた。
衝撃でナイフは真上に飛び、男は手を砕かれて悲鳴をあげる。
拙者はそのままこの場で回転し、男の即頭部に飛び回し蹴りを食らわせて気絶させた。

そして、遅れてナイフが床に落ちる音。
その瞬間、男たちに戦慄が走る。


男A
「な、何だこのガキ!?」

華澄
「失礼ですな…拙者は年上でござるぞ!?」


拙者は左の男の顎をサマーソルトキックでかち上げ気絶させる。
そして、いよいよ犯人のリーダーと向き合った。
そやつはほくそ笑んでおり、拙者に向かって銃を向ける。
恐らく本物…父親の物を失敬したと言う所か。


犯人
「おいおい、ヒーロー気取りか?」
「相当強いみたいだが、コイツにゃ勝てねぇだろ?」

華澄
「最後に、ひとつだけ聞いておくでござる…」


拙者は表情ひとつ変える事無く言う。
犯人は?を浮かべながらも、銃口はこちらに向けていた。


華澄
「梧 潮という女性を強姦し、殺害したのはそなたか?」

犯人
「はぁ? そんなの覚えてねぇよ!」
「何人犯して来たと思ってんだ!? 女ひとりの名前なんざ覚えちゃいねぇ!!」


犯人は目を見開いて銃のトリガーに力を込める。
タンッ!と乾いた音が聞こえるが、拙者は直前に体を横にしてかわす。
そして、すぐに水手裏剣で犯人の銃をバラバラにした。
犯人は手の甲をも深く切り裂かれ、悲鳴をあげる。


犯人
「ぎゃああっ!? な、何だ今のは!?」

華澄
「その程度の痛みが何か!?」
「そなたが今まで殺してきた者たちは、もっと辛い仕打ちを受けてきたのだぞ!!」


拙者は叫ぶも、心は落ち着けていた。
怒りは己を狂わせる…静かに淀みの無い心こそが重要なのだ。
拙者は犯人に一歩、また一歩と近付き、犯人は後ずさった。

その後ろには女子が未だに状況を掴めず震えている。
そして、拙者は犯人が次に取るであろう行動を先読みし、素早く踏み込んで犯人の体を横に蹴り、女性から離れる様に吹き飛ばした。
気絶はさせぬ…しばらくは生き地獄を味わってもらいましょう。


犯人
「ぎゃあああっ!!」


犯人はさっきの一撃で左腕を折られ、ガクガクと震える。
女子はここでようやく立ち上り、裸のまま走り始めた。
外に出れば誰かが保護してくれよう…拙者はそう思い、今は犯人と対面する。


犯人
「何なんだテメェは!? 何で、こんな事すんだよ!?」

華澄
「これは、拙者なりの恩返しでござるよ」


犯人は?を浮かべてせせら笑う。
拙者は気にせずに言葉を続けた。


華澄
「そなたらが殺したひとりの女性は、拙者の恩人の娘だ!」
「よって、拙者はその恩の為にそなたを裁く!!」
「法が裁かぬ以上、そなたにはそれなりの罪を受ける必要があるが…」
「覚悟はよろしいな…?」

犯人
「ま、待ってくれ! もう右手も左腕も動かせねぇんだ!?」
「怪我人だぜ!? そんなもう抵抗も出来ない相手をいたぶろうってのか!?」


犯人は惨めに主張する。
拙者はため息をひとつ吐き、犯人の股間を容赦なく踏み潰した。
犯人は奇声にも似た叫び声をあげて、口から泡を吹く。
しかし悲しいかな、人間とは案外丈夫で、この位では中々気絶はしない。
頭部を直接揺さぶったりしない限りは、そう気絶する事は無いのだ。


犯人
「あああ…ぁぁぁ〜!!」

華澄
「これに懲りたら、2度とこんな犯罪は犯さぬ事だ…」
「…しばらくすれば警察も来よう、そなたは今度こそ然るべき裁きを受ける事だ」
「そして、覚えておけ…また同じ過ちを繰り返すのであれば、今度はその首を取ると!」


拙者は軽めのハイドロポンプで犯人の頭部を撃ち、犯人の頭は壁に叩きつけられ気絶する。
拙者は、ボイスレコーダーを足元に置き、その場からすぐに去った。
これで、真具殿や潮殿が救われるわけではない…ただ、拙者は出海殿の悲しみを少しでも救ってあげたかった。
勿論、ただの自己満足かもしれぬ。
その為に、拙者は凶悪犯とはいえ彼を深く傷付けた…拙者は、死ねば地獄行きでしょうな。


華澄
「…聖殿は、お怒りになられるだろうか?」


拙者は想像する。
今回ばかりは流石に許されぬだろう…
それなりの罰は覚悟せねば…
拙者はパトカーのサイレンを聞き、見付からぬ様にその場を後にした。



………………………



華澄
「聖殿…ただいま戻りました」


「華澄!? お前、今まで何処へ…?」


聖殿は心配そうな顔で、拙者の帰りを出迎えてくれた。
リビングには他の皆もおり、こちらの様子を伺っている。
拙者はまず、小さな声で聖殿にこう言う…


華澄
「どうぞ何なりとお叱りを…拙者は、それでもやるべき事をやったつもりですので」


「そうか、解った…!」


ゴンッ!と、拙者の頭に聖殿の強い拳骨が降りかかる。
拙者は流石に痛さに悶絶し、思わずその場でよろめいてしまった。
拙者は涙目になりながら、聖殿の顔を見る。
聖殿は、まるで子供を叱る親の様な、そんな厳格な顔で拙者にこう言ってくださった。



「華澄! 気持ちは解るが、せめて連絡くらい寄越せ!!」
「後、行く前に詳細を話せ!!」

華澄
「も、申し訳ございません…拙者の配慮が足らず」
「で、ですが……」


ゴンッ!ともう1発。
拙者はまたしても悶絶し、頭を両手で抑えた。
流石に今の聖様の拳骨は痛い…!



「言い訳無用!! 華澄には、これから仕事以外で1週間の外出を禁止する!!」

華澄
「は、はい…」


拙者は了承し、ちゃんと罰を受ける事にした。
そして、改めて理解する…聖殿の優しさを。
拙者は涙目になって頬笑んだ。
こんなに、嬉しい拳骨は初めてでござるな…



………………………



阿須那
「あ、出てるで! ほら、これやろ?」

女胤
「連続殺人犯、逮捕…犯人は警察署署長の息子!?」
「父親の権力で無理矢理にでも息子を庇い、被害者は全て自殺で処理…」
「何と無法な!! よもや、こんな警察があろうとは…!」

愛呂恵
「ですが、今回の逮捕でボイスレコーダーが見付かったそうですね」
「その内容で職権乱用がバレて、署長は逮捕となった模様です」

守連
「うわぁ…犯人の人、局部が潰されてたんだって〜痛そう〜」


どうやら、早速報道されているらしい。
やれやれ…これで何とか恩は返せましたかな?
それとも、拙者はやはり間違っていたのでしょうか?



「ほら、華澄…晩御飯!!」
「全く、こんな夜遅くに帰って来るなんて、ざる蕎麦位しか出来なかったぞ?」


そう言って、聖殿はざる蕎麦の乗った皿をテーブルに置く。
拙者はそれを見て急に腹が減るのを感じた。
そう言えばここ2日は食事を取っていなかったでござるな…


華澄
「ありがたい…助かります」
「それでは、いただきます…っ!」


「華澄…」


拙者は、涙を流しながらも笑って蕎麦を頬張った。
思えば、夢の世界で聖殿が拙者に初めて作り方を教えてくれた料理も、ざる蕎麦でしたな…
やはり、聖殿のは特別美味しいでござる…ただのざる蕎麦なのに、こんなにも美味しいと思える。

きっと、これには聖殿の愛情がそれだけ込められているのでしょうから…



「…華澄、頑張ったな」

華澄
「…はいっ! はいっ……!」


聖殿は、泣きながら蕎麦を食べる拙者の頭を優しく撫でてくれた。
拙者は体を震わせながらも、ざる蕎麦を全て食べ切る。
そして拙者はその日、部屋に戻ってすぐに眠りに落ちた。
仕事先には既に連絡を入れてある…明日までは休む予定です。



………………………



華澄
「…もう、昼でござるか」


拙者は相当眠っていた様だ。
次の日、目を覚まして時計を見ると時刻は12時過ぎ…流石に今日はゆっくり休みますかな。

そう思い、拙者は着替えを持って下に降りた。
まずは入浴でござるな…昨日帰ってからそのままでござるし。



「あ、華澄おはよう!」

華澄
「聖殿、おはようございます…そういえば、連休は今日まででしたな」


聖殿は丁度昼御飯を食ベ終わった様で、テーブルにはカレー皿が乗っていた。
守連殿は部屋で勉強中の様ですし、愛呂恵殿は厨房で何かしている様ですな…



「華澄、これ…」

華澄
「? 聖殿、これは…?」


聖殿はキーホルダーを拙者に渡した。
そして、それは拙者がよく知るキャラクターのキーホルダーでもありました。



「それ、潮さんの形見なんだってさ…出海さんが、華澄にって今日持って来てくれたんだ」

華澄
「そんな! 形見などと、拙者などが貰う訳には!!」


「貰ってやれ! それは出海さんからの報酬だ」
「出海さんは、お前に感謝していた…だから受け取れ」


聖殿は強い口調でそう言う。
拙者はそのキーホルダーを握り締める。
そのキーホルダーのキャラクターは、ケロマツ。
そう…拙者の若い頃の姿でもあった、ポケモンでござる。



「ゲームの話だけど、潮さんポケモン好きだったみたいで、特にケロマツが大好きだったんだってさ…」

華澄
「そうでござったか…それは、嬉しいでござるな」


拙者はケロマツのキーホルダーを優しく手で転がし、そして笑った。
拙者のやった事は、正しくは無かったかもしれない。
ですが、ひとりの女性の心を救う事は出来た様です。
拙者はまた涙する…そしてキーホルダーを見ながら祈った。

どうか…親子仲良く、安らかにと。










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第5話 『こすぷれ〜ん2号店メンバー募集! 必殺華澄の仕事人!』


To be continued…

Yuki ( 2019/04/20(土) 19:36 )