とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない - 終章 『第七の黙示録』
第7話
真姫
「………」


私は自室でゆったりと休んでいた。
自室と言っても、あくまで拠点の…だけれどね。
ここは私たち『混沌』の者が、一時的に待機出来る様に造られている部屋だ。
実質、王の力により形作られている独立した空間、世界でもあり、ここでは外界からいかなる干渉も受けはしない。
出入り出来るのも、七幻獣かそれに認められた眷属のみ。
…もしくは、王が単独で認められた者だけ、ね。



「真姫様…コーヒーでございます、どうぞお召し上がりを」


私がソファーでゆったりしていると、ひとりの執事がコーヒーを目の前のテーブルに置く。
黒いカップから湯気が沸き立ち、ブラックのコーヒーはそれなりに美味そうに見えた。


真姫
「………」


私は無言でコーヒーを飲む。
淹れたて故に結構熱い…が、私はそれを顔に出さずに一口だけ飲んでみせた。
すると執事は少し目を瞑り、右手に持っていたトレーを胸の前にかざしてから一礼する。


執事
「これはこれは…少々熱すぎましたか?」

真姫
「そう思うなら、最初から調整しておきなさい」


私は特に気にもせず、それだけ言ってカップをコースターの上に置いた。
すると執事はクスリと少しだけ笑い、頭から生えているやや長い耳をぴょこっと震わす。
この男の名は『ヌビア』…ルカリオであり、私が愛用している執事だ。
基本的に身の回りは全てコイツに任せており、私が何かを指示しなくても大抵はやってくれる位には有能ね。

着ている服は黒をベースにした基本的な執事服。
まぁ、特に当たり障りは無いわ。
髪は青髪で、耳も同じ色。
顔は黒人の様に黒く、瞳は悪魔の様に紅い。
一見すると近寄り難い外見をしており、自前の微笑みも相まってやや人を遠ざける印象もあるわね。


ヌビア
「…では、以後そう致しましょう」

真姫
「それで…どうなったの?」


私は両腕を胸の下で組んで大きな胸を支える。
胸の大きさは魅力のひとつとはいえ、ぶら下げる方からすれば少々重い。
私はこれでも力はある方だけれど、それでも常時1.8kgをぶら下げ続けるのはそれなりにしんどいのだ。
いくらポケモンとは言っても、人体構造はあくまで人のそれと同等なのだから…


ヌビア
「ウォディ様は、予想通り敗走された模様です」

真姫
「そう、まぁ予想通りね」


ウォディの奴の事だ、ただの自意識過剰で攻め行ったのだろう。
彼岸女の力は七幻獣から見ても強い。
マトモな勝負で勝てるポケモンなど、そうはいないのだから。


真姫
「それで?」

ヌビア
「計画は概ね順調かと思います」


そう、計画…
これは私『たち』が計画したシナリオ。
そろそろ次の段階に移行する準備は出来たって事ね。
私はククク…と笑い、少し冷め始めたコーヒーをまた飲んだ。
苦い味が口内に広がり、私は愉悦に浸る。
それを見て、ヌビアは少しだけ真面目な顔をした。


ヌビア
「真姫様…王はこの事を」

真姫
「初めから見抜いている、あれはそういう存在よ」
「だからこそ何もしない…アレにとっても、こんな計画は子供のオモチャ以下なのだから」


そう、こんな計画…王にとっては何の価値も無い。
そんな物に一々憤ったり、部下から取り上げたりする存在ではないのだ。
それに…


真姫
「どの道、黙示録が起こるのは確定している」

ヌビア
「その上で、真姫様は事を起こす…と」


私は笑ってコーヒーを飲む。
私は私だ…誰にも縛られるつもりは無い。
そして、ようやく永かったこの枷を外せる時が来たのだ。
こんなに嬉しい事は無い、自由が目の前にあるのだから。


真姫
「…ふふふ、そろそろ顔を出すとしようか」

ヌビア
「かしこまりました、それでは外出の準備を…」


私たちはすぐに部屋を出る事にする。
そして拠点から外の世界に出る。
行き先は…特異点。



………………………




「あっれ〜? 真姫様〜?」

真姫
「…ホクレアか、どうかしたの?」


私とヌビアが廊下を歩いていると、前方から大きな体をくねらせて近付いて来るホクレアが。
彼女はスカアの眷属であり、それなりに有能なダダリンだ。
しかし、今彼女の主はここにいない。
恐らくは、それを察してここに来た…か?


ホクレア
「真姫様〜、スカア様見なかったですか〜?」

真姫
「さぁ? あの娘の事だから、自室で発狂でもしてるんじゃないの?」


私は平気で嘘を吐く。
こういうのは、息を吸う様に当たり前と思って言うのがコツだ。
もっとも、バレた所で彼女に何か出来るとは思えないけれど、ね。


ホクレア
「部屋にはいなかったんですよね〜」
「で・も〜? 何故か真姫様から、嫉妬の臭いがあるんですけど〜?」

真姫
「………」


嫉妬の、臭い?
何だそれは? そんなの解るのか?
私には全く解らないけれど、ホクレアはあのスカアの眷属。
嫉妬の事に関してはスペシャリストだし、そういうのがあるのかもしれない。

私だって色欲だし、エロい事に関してはスペシャリストだしね!!
少なくとも欲情してる男を見抜く能力には自信があるわ!


ヌビア
「ホクレア様、正直に仰ったらいかがです?」
「貴女が犯人だ…と」


ヌビアは、微笑んでそう促す。
ホクレアは相変わらずの笑みでニコニコしていた。
やれやれ…そういう事か。


ホクレア
「臭いは嘘ですけど〜、あからさまに顔変えましたもんね〜?」

真姫
「お前は探偵の素質がありそうね、それでどうする気?」


私も笑って開き直る。
今更計画を変更する気は無い、邪魔なら始末するだけだ。
たかが眷属の1匹、消えた所で誰も疑問には思わない。


ホクレア
「スカア様は何処ですかね〜?」

ヌビア
「貴女にそれを聞く資格はありませんね」
「真姫様はお忙しい…これ以上時間を取らせるというのであれば」


ヌビアは微笑みながら軽く手を前にかざす。
それを見てホクレアは少し首を傾げ、そして目にも止まらぬ速さで錨を投げつけてきた。
恐らく1秒もかからない速度であったが、ヌビアは目の前に迫った『アンカーショット』を軽く片手で止めてみせる。
そしてヌビアは微笑みながらこう告げた。


ヌビア
「残念ですが、通用しません」

ホクレア
「あっれ〜? 止められちゃった〜」

真姫
「始末は任せる…手早くやれ」


私はそう言ってホクレアの横を歩いていく。
そして右手から軽く力を放ち、私はホクレアを一瞬で眠らせた。
軽めの『ダークホール』だが…しばらく悪夢にうなされるが良い。


ヌビア
「かしこまりました、それでは」

真姫
「ああ、先に行っている」


私はヌビアに全てを任せ、ひとりで拠点を出る事にした。
アイツなら何でも無難にこなせる。
恐らく、七幻獣の眷属の中ではトップの戦闘力。
頭もキレるし、腕も抜群。
任せておけば全て大丈夫だろう。



………………………



真姫
「………」

ウォディ
「待て、何処へ行く?」


私は外に出る扉を前に、ウォディに呼び止められた。
ウォディはそこそこイラついており、機嫌はすこぶる悪そうだ。
私はため息をひとつ吐き、ウォディを見てこう言う。


真姫
「特異点は私がやるわ…失敗続きのバカ共の尻拭いをしてやるって言うのよ?」

ウォディ
「お前に出来るのか? 相手はあの彼岸女だぞ?」

真姫
「誰に向かって言ってるの? 私はお前とは違う」
「安心なさい、どうせ黙示録は起こる」
「お前にとってはそれが目的でしょ? 仮定はさほど重要じゃない」


ウォディは顔をしかめて歯軋りする。
否定する気は無いでしょうしね。
あくまで彼女の目的は黙示録による世界のリセット。
基本的に王の行動原理と合致してるから、忠実な下僕に見えるわね♪


ウォディ
「…貴様は知ってるのか? 王の本当の目的を」

真姫
「…知ってたとしたら? お前はそれでどうする?」


ウォディは何かに気付いている様だった。
彼岸女め…余計な事を口走ったか。
まぁ、どの道世界の結果は変わらない。
今更ウォディがどうしようとも、王を止める事など出来ないのだから。

だけど、真相に気付いたのであれば少々面倒ね。


ウォディ
「ひとつだけ教えろ、王は既に目覚めているのか?」

真姫
「そうね…そろそろ隠す意味も無さそうだし、特別に教えてあげるわ♪」
「王は、もう降臨している」


ウォディはそれを聞いて、予想通りの狼狽えた顔をする。
私はそれを見て、笑いを堪える事が出来なかった。
全く予想もしてなかった顔ね♪
これだから、ウォディはお子様なのよ。


ウォディ
「バ、バカな!? なら、何で王は特異点を求める!?」
「夢見の雫が降臨に必要なんじゃなかったのか!?」

真姫
「そんな物は建前…王のお遊びよ」
「最初から王は自分で降臨出来るし、その材料は既に揃っていた」
「あの世界のアルセウスは、既に限界だったのだから…」


そう、王が示した条件など初めから意味は無い。
アレは混沌の王だ…何の意味も無い事を、ただ楽しく見るのが好きなだけ。
私たちは、そんな王の遊び道具でしかないのだから。


真姫
「考えた事ある? 王がひとりの子供として、私たちはそのオモチャだって事を…?」

ウォディ
「オモチャ…だと!?」

真姫
「そう、子供がひとりで遊ぶのに、人形を使って何をする?」
「普通、何か役目を与えて、それをこなすシナリオを描くでしょ?」
「それに…明確な意味があると思う?」


もちろん意味なんて無い…だって子供の人形遊びなのだから。
ただ頭の中で考えた空想、仮想の設定で、人形が動いているかの様にイメージして遊ぶだけ。
私たちは所詮、そんな人形のひとつでしかない…あの王にとっては。

特異点、夢見の雫…そんなものは、王が楽しむ為だけの舞台装置に過ぎないのだから。


ウォディ
「なら、貴様は初めからそれを知っていた上で何故行く!?」
「全て意味の無い事なら、ただ座して待っていれば良いだろう!?」

真姫
「だからお子様なの、お前は…」
「私は、自由の為に動くのよ!」



………………………




「…今度は、何処だ?」


俺はまた見知らぬ空間に飛ばされていた。
これも彼岸女の能力なのか、リングひとつであっという間の出来事。
相変わらず暗い場所だが、今度は最初から灯りが灯されている。
何かの部屋の様で、木造の家…みたいだな。

俺はベッドの上におり、とりあえず個室みたいな感じの部屋にいる。
静かだな…何の環境音も無い。
同時に、寂しい空間だ。
彼岸女は…どこかにいるのだろうか?

俺はそう思い、体を動かして部屋を出る事にした。
そして腹が鳴る音を聞いてダレる。
もう、そんなに時間が経っているのだろうか?



………………………




「誰も、いないのか?」


リビングの様な場所に出たが、人の気配は無い。
蝋燭のランタンから放たれる灯りだけが、唯一人の手を感じさせる物だった。
灯りを点けたのが彼岸女なら、近くにいると思うんだが…



「それより、何か食えるモンは…?」


鞄があるなら弁当もあったんだが、その鞄はもう無い。
幸い貴重品はポケットに入れていたから良いんだが…



(もう、誰も覚えてない…か)


彼岸女の言葉を俺は気にしてしまう。
ただの冗談なら良い、だがそんな冗談をあんな顔で言うとは俺には思えなかった。
彼岸女のあの時の顔は、あまりに悲壮だったのだ。
まるで…何も持ってなく、そして失ったかの様な…そんな顔。

ただひとつだけ…俺という存在を見付け、それにすがるかの様な…



(何だか、思い出すな…あの時の白那さんたちを)


初めて白那さんたちと出会った時だ。
あの時も、白那さんは俺にすがり付く様に無茶な計画を立てた。
その結果は今更語るまでも無いが、この状況はある意味似ている。

全てが忘れられ、何もかもが無かった事になる。
今は、俺が忘れ去られようとしているのか?
いや、もう忘れられているのかもしれない。
彼岸女はそう言っていた…だけど。



(俺は、皆を信じている)


例え忘れていても、必ず思い出せる。
俺がそうであった様に、きっと皆も。
家族の絆は…そんな簡単に切れたりしないさ。



「ふーん、コレが特異点ね…」


「!? だ、誰だアンタ!?」


気が付くと、背後で椅子に座って寛いでいる美女がいた。
白髪ロングのナイスバディで、首元に見た事のあるデザインの赤い首輪をしている。
一体いつの間にいたのか、それとも何かの能力か?
どっちにしても、俺には危機的状況だと率直に感じられた。



「今度はダークライかよ!! また刺客か!?」

真姫
「慌てるな、別に喰う気は無い」
「私の好みじゃないし、様子を見に来ただけ…」


そう言って俺を見ようともしないダークライ。
今サラリと喰うとか言ったが、カニバリズム的な表現だろうか?
だとすると、かなり不安しかないんだが。


彼岸女
「真姫…計画はどうなってるの?」


今度はリングを通じ、空間に孔を開けて彼岸女が現れる。
真姫…とはこのダークライさんの事か。
やれやれ、って事は彼岸女の仲間なのか?


真姫
「計画は順調よ? まぁ、最終的にはコレ次第だけど」


真姫さんは俺を親指で指差してコレ扱いした。
俺は物かよ…随分図々しいなこの人。
ってか、俺次第?


彼岸女
「そっ、黙示録までの時間は?」

真姫
「王次第ね、アレは気紛れすぎるから…」


「王って、例の混沌のか?」


俺は少し安心し、椅子に座る事にした。
すると彼岸女はリングを通して俺の隣にワープし、少し笑ってから更にテーブルの上にリングを広げる。
すると、そこから出てきたのは大量の料理。
一体どこからパクって来たのか知らないが、どれも出来たての湯気が見える程にフツーの美味そうな料理だった。


彼岸女
「とりあえず食事にしよう、聖君もお腹空いてるだろうし♪」


「これ、どこから持ってきたんだ? どう見ても調理済みで、保存してたのを出したとは思えんが…」


俺は近くに置いてあるローストチキンを、フォークで突き刺して状態を見る。
間違いなく出来たてだな…それもそれなりの料理人が作った様に見えるが。


彼岸女
「気にする必要は無いよ…聖君はただお腹一杯食べれば良い」
「それとも…私を食べてからの方が良い?」


そう言って、彼岸女は恍惚とした表情で顔を紅潮させる。
やれやれ…こりゃ素直に食った方が良さそうだ。
俺はチラリと真姫さんの方を見るが、彼女はつまらなさそうにしていた。
特に食べる様子も見せず、彼岸女の行動を見て呆れている様だな。



「とりあえず、いただきます!」

真姫
「………」

彼岸女
「…で、君は何をしにここへ?」


彼岸女は真姫さんに対してそう尋ねる。
すると真姫さんは、特に興味も無さそうにその場から立ち上がり、俺たちに背を向けて歩き出す。
そして、背中越しに真姫さんはこう言った。


真姫
「単に特異点を品定めに来ただけ…正直、ソレに興味は無いわね」
「だけど、本当に利用出来るの?」

彼岸女
「それは、聖君次第さ♪」


「………」


また、俺次第…か。
しかも利用、ね。
一体、何がどうなってんだよ?
俺の知らない所で、彼岸女たちは何を計画してるんだ?

俺は、どうにも彼岸女の事は信用出来ない。
彼女が俺に好意を寄せているのは何となく解る…だけど、それは本心なのか?
実際には、強欲の枷のせいでそう操られているだけじゃないのか?

俺はそんな疑問を抱きながらも、無駄に味の良い料理を食べて腹を満たす事になった。



………………………




「………」

彼岸女
「…ふふ、疑問に思ってる顔だね?」


俺が食事を終えると、彼岸女は笑ってリングを開き、全ての料理と食器を吸い込んで消してしまう。
テーブルにはもう何も残っておらず、リングはそのまま縮小されて彼岸女の腕に戻っていた。

便利なモンだ…リアル○次元ポケットだな。
俺は一息、はぁ…とため息を吐いた。
彼岸女は気にせず笑っている。
まるで、こっちが何を考えようが構わないといった態度。
俺は、ただ踊らされているだけなのかもしれないな…

真姫さんは結局何処かへ行ってしまったが、また会う可能性もあるのだろうか?
とにもかくにも、俺にはまだ情報が足りない気がした。



「…一体、お前たちの計画って何だ?」

彼岸女
「枷を外す事さ、王が私たちにかけた…ね」


思いの外、あっさりと答えは帰って来た。
別に隠す気は無かったのか、それとも今更と思ったのかは定かじゃないが。
枷…確か、恵里香やメロディさんにもかかっている奴だ。
彼岸女や真姫さんは、それを外そうとしている?
そして、それを外すのに俺の…いや、雫の力がいるってのか?

しかし、今の俺には雫の力は使えない。
どういう理由かは知らないが、彼岸女が何かをしたみたいで、原因は全く解らなかった。
そんな、もはや完全に無力な人間の俺に、一体彼岸女は何をさせようと言うんだ?


彼岸女
「…君は、好きに選べば良い」
「私は何も強制しないし、時間もたっぷりある」
「君は、自分の意志でどうするか選べば良い」


「なら、俺は家族の元に戻る」


俺は真剣にそう言う。
それ以外の望みは、今存在しない。
だけど、彼岸女はそれを聞いてもクスクス笑うだけで、全く意に介してはいなかった。


彼岸女
「どうやって戻る気? いや、そもそも何処へ戻るの?」
「もう誰も君を覚えていないのに、誰の所に帰るの?」


「その証拠は何処にある? お前はそうやって口で言うだけで、肝心の証拠を俺に見せていない」
「本当にそうなのか? お前はただ、俺を騙す為にそう言っているだけじゃないのか?」


俺がそう言うと、彼岸女は少し目を細めた。
図星…か、どうかは判断出来ないが、彼岸女的には少し痛い所を突かれたって感じかな?
俺はやっぱりコイツを信用出来ない。
俺の存在が忘れられてるって、本当の事なのか?
実は皆、今頃俺を必至に探しているのであって、誰も忘れてはいないんじゃないのか?

俺がそう考えていると、彼岸女は少しだけ残念そうな顔をして、静かにこう答えた。


彼岸女
「…確かに証拠は無いね」
「見せようと思えば見せれるけど…今は黙示録の直前だし、あの世界に戻るのは避けたい」
「まぁ、どうしてもって言うのなら、黙示録が終わってからゆっくり見ると良いよ♪」


彼岸女は肩を竦めてそう言い、最後に笑った。
今の俺には、真実は解らない…か。
やはり、彼岸女は一切の現実を俺に見せない。
今いる世界もそうだが、とにかく閉鎖的な所を好むのか、彼岸女は人気の無さそうな空間をあえて選んでいる気がする。

前の世界では何かと戦っていたみたいだが、一体外では何が起こっていたんだ?
もしかして、俺の家族と戦っていたりしたんだろうか?
だとしたら、何としてでも外に出なきゃならないが…



(どうすれば良い? 仮に外に出たとして、何があるかも解らない)


今の俺は、正真正銘ただの高校生だ。
夢見の雫というチートアイテムを失い、生身だけで動かなきゃならない。
それこそここからひとりで出るなんて、1発即死しかないアドベンチャーゲームをやるようなモンだ。
残機0でそんなリスクを覚悟して、動けるか俺は?


彼岸女
「ひとつだけ忠告しておくよ、この家からは出られない」
「出ようとしても、ね」


「…対策済みって事か」
「だけど、それはつまり出られたら困るっていう事だよな?」


俺がやや笑ってそう言うと、彼岸女はため息を大きく吐く。
完全に呆れられたって感じだ…どうやら的外れだったらしいな、チクショウ。


彼岸女
「君は狙われてるんだよ? 混沌に?」
「外に出たら、真っ先に狙われる…いくら私でも、複数の七幻獣が現れたら守りきれないかもしれない」


「…それなら、雫を返せ」
「お前が何かしたんだろ? 一体どういうカラクリだ?」

彼岸女
「…それは出来ない、コレは必要だからね」


そう言って彼岸女は右腕のリングを広げ、そこから雫を出して浮かび上がらせた。
俺は目を見開いてギョッとし、彼岸女を睨み付ける。
まさか…本当に奪われてたとはな!
俺はすぐに雫に向けて願いをかけようとする…が、彼岸女はすぐに雫をリングの中に仕舞ってしまった。



「…く」

彼岸女
「君には悪いけど、アレはまだ使わせない」
「最低でも黙示録が終わるまでは、ね♪」


「何で黙示録を一々待つ!? 世界をリセットして何になるんだ!?」


俺は業を煮やして声を荒らげる。
だが、彼岸女はクスクス笑うだけで、全く意に介さない。
それこそ俺の憤りを嗜めるかの様に、優しくこう言った。


彼岸女
「黙示録が起これば、同時に君の世界のアルセウスは消える」
「そうなったら、夢見の雫も当然消えてしまうんだけど…」
「でも…あの雫にはとある秘密があるのさ」


「とある…秘、密?」
「い、いやそれよりも!! アルセウスさんが消える!?」
「どういう事だ彼岸女!? お前まさか、アルセウスさんを消す為にこんな事…」


彼岸女はすぐにふるふる…と、首を横に振って否定する。
そしてやや悲しげな表情をし、彼岸女は静かにこう語った。


彼岸女
「君の世界のアルセウスが消えるのは必然…別にそれと私の計画は関係無い」
「でも、計画には夢見の雫がいる…アレだけは必ず利用させてもらう」


「何でだ…? そうまでして枷を外す理由は何だ!?」
「お前は自分の自由の為だけに、俺の世界を犠牲にするって言うのか!?」


彼岸女は、少し俯いて黙ってしまった。
俺は全身から汗をかき、はぁはぁ…と息を荒らげている。
もう、頭がどうにかなってしまいそうだった。
俺がこうやって、訳の解らない世界に隔離される中、世界は無情にリセットされかけているのだ。

そんな暴虐、俺は許す訳にはいかない!


彼岸女
「犠牲…ね」
「私の為って言うのは否定しないけど、それでも私は君を救いたいとは思ってるんだけどね?」


「ふざけた事を言うな!! 俺は全てを犠牲にして成り立つ世界なんかクソ食らえだ!!」

彼岸女
「犠牲犠牲って言うけど、君は世界の限界を知ってて言っているのかい?」


彼岸女は少し厳しめの口調でそう言った。
俺はそれに対して少し怯み、言葉の意味を考える。
世界の…限界?

それは、アルセウスさんがギリギリで留めていた世界の、限界か?


彼岸女
「元々、あの世界は7年前にリセットされる予定だった」
「でも、君が余計な事をしたせいでその予定は狂い、結果遅れて黙示録が起こるんだよ?」
「君が私に憤るのは正直筋違いだ、元々君の責任なんだから…」


俺は、その言葉に一切反論する事が出来なかった。
それは、俺自身がある意味痛い程解ってたから…
俺は…今の今までワガママが過ぎた。
全部、自分は間違ってないんだって信じて突っ走った。
アルセウスさんも背中を押してくれた…自分らしくあれ、と。

でも……



(結局、全部俺のせいで終わるのか?)


それは、かつて無い程の絶望だった。
明確に突き付けられた、俺の業。
信じていたその道が、今…閉ざされようとしている。
本当に…もう、どうしようもないのか?


彼岸女
「…君が、私を好きにならなくても別に良い」
「でも、私は君を愛し続けるよ? そして、君が選んでくれるまでずっと待つ」


彼岸女は放心していた俺に抱き付き、優しくそう言った。
俺はどうしようもなく悲しくなった。
無力だ…雫を奪われ、世界を追い詰め、俺は最後の選択を迫られている。


彼岸女
「例え選ばなくても良い、その時は君が老衰して死ぬまで、ずっと側にいるから…」


彼岸女は、本気で言っている…俺にはそう思えた。
俺が彼岸女を求めなければ、彼岸女は俺が死ぬまで待つのだろう。
もう、どうしようもないのか?
例え俺が選ばなくても、世界はリセットされる。
俺が選んだとしても、救われるのは俺と彼岸女だけ…

そんな…そんな理不尽な2択しか、もう……無いのか?

彼岸女は、ただ泣きそうになってる俺を優しく抱き締め、子供をあやす様に背中を撫でてくれた。
その優しさが、俺にはただ痛かった。
もう何が正しくて、何が間違っているのかも見失いそうになってる。

今、俺は……本当に、自分を失いかけていた…










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第7話 『揺らぎ』


To be continued…

Yuki ( 2020/04/07(火) 20:39 )