とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない














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終章 『第七の黙示録』
第6話

「……っ、く」


俺はガンガンする頭を押さえながらも、何とか意識を取り戻す。
どうやらどこかに倒れている様で、顔や手には砂利の様な物が付いている様に思えた。
俺は少しづつ意識を覚醒させ、まず自分の置かれている状況を確認する。



(…何だここは? 真っ暗な、世界?)


そう、目を開いても何も見えなかったのだ。
つまりは暗闇…だけど重力も感じるし、地面があるのも解る。
ただ、光が一切差していないだけ…?

俺はゆっくりと地面に手を付き、まずは体を起こした。
特に異常は無い…少し痺れがある程度で、すぐに普段通りに戻るだろう。



(…この感触、アスファルトやコンクリートじゃない)


俺は這いつくばりながらも、地面を触って何かを確かめる。
どうやら土の上の様で、ここは少なくともフツーの住居とかでは無さそうだ。
つーか、何でここまで真っ暗闇なんだ?
明かりのひとつも無いなんて…異常だぞ?



(…とりあえず、歩いてみるか)


俺は恐る恐る立ち上がり、そこから歩き始めた。
何も見えない中、方向すら解らないのは中々恐怖だ。
最果ての暗闇とは違い、自分の体すら見えない恐怖。
俺は冷や汗を滴しながらも、両手を前に翳してゆっくりと進んで行く。
近くには何も無い…そこそこ広い空間なのか?
いや、もしかしたら永久に端は無いのかもしれない。
ここがどこかの混沌だとしたら、それこそ何があるかも解らないのだから…

しかし、そんな俺の予想とは裏腹に、俺はすぐに壁へと辿り着いてしまった。
右手がそれに当たり、俺は少し肘を痛める。
肘を限界まで伸ばしてたせいだな…自分が探索の素人だってのが良く解る結果だ。

俺は少し右腕を振るも、そのまま左手で壁を触ってみた。



(木製…じゃないな、でも鉄でもない?)


少し壁を叩いてみるが、音は重い。
硬さも鋼鉄って訳じゃ無さそうだ…でもコンクリートって感じでもない?
押してもしなる感じはしないし、表面はざらついてる。
一体…本当にここは何なんだ?



(まさか…土かこれ?)


俺は何となくそんな予想を立ててみた。
そして、すぐに俺は嫌な予感をし始める。
足元の砂利みたいな地面、そして似た様な素材の壁…
それってつまり…



「まさか…地中、地底にでもいるってのか!?」


俺は声を大きめに張り出す。
すると、音は狭い空間に反響した。
何も反応は帰って来ないが、少しパラパラと何かが落ちる音がする。
俺は慌てて口を塞ぐ…下手な事したら、崩れて生き埋めになるかもしれない。

しかし、何も見えないってのは厄介だな。
俺はそこで、忘れていた文明の利器を取り出す事にした。



「てれれれーーー! 携帯電話〜♪」


と、俺は某有名ゲームの効果音を口ずさんで、スマホをポケットから取り出す。
そして、すかさず電源ボタンを押して液晶のモニターを光らせた。
そのまま、外部ライトを操作で点灯させる。
すると、驚くべき光景が周りには広がっていた…



「な、何じゃこりゃあ…?」


そこは、まるで蟻の巣の様な砂の空間。
サイズの感覚が狂うかの様な感じで、自分のサイズが蟻以下になったかの様なイメージを覚える。
とりあえず、天井は思ったよりも高い…ここは部屋みたいな空間になっているが、細長い道が前後に続いていた。

さて、まずはどうするかな?



(幸い、電池はまだ90%か…だがライト点けっぱなしだとそんなには持たないはず)


俺の携帯は今年4月に変えたばかりの奴だが、果たしてどこまで持つやら…
とにかく、移動しないと話にも…



「おっとストップ…悪いけどそれ以上動かないでくれ」


(!? 女の声…それも、聞いた事の無い)


俺はビクッ!と体を震わせ、おずおずと振り向いて背後を見る。
そこにいたのは、アラブ系の装束に身を包む褐色ポニテの美少女。
両手と腰に金のリングを付けており、俺はその姿にどこか見覚えがあった。



「…まさか、『フーパ』?」

フーパ
「へぇ? 見ただけで解るんだ…詳しいんだね、ポケモンの事」


その少女はやや斜に構え、つり目の瞳でこちらを妖しく見て笑う。
そして彼女は突然右腕のリングを取り外して広げ、そこからランタンを複数取り出した。
それらを超能力で操作し、部屋の隅に綺麗に配置していく…

これにより部屋は灯りで照らされたので、俺はスマホのライトを消してすぐにスリープさせた。



(…違うな、コイツは前に見たフーパとは別人だ)


この時点で、俺はそうだと確信出来た。
多分、フーパってだけで同一個体じゃない。
まぁ、別のパラレルワールドの同一個体ってんなら話は別だろうが。


別のフーパ
「とりあえず…君の流儀に合わせて、あえてこう名乗ろうか」
「私の名は、『彼岸女(ひがな)』…」


「…彼岸女、ね」
「ドラゴンでも飛行でも無い癖に、あえてその名を名乗るのか?」

彼岸女
「ふふふ…それは想像力が足りないよ?」


ネタなのかどうなのか解らない反応で、そう返される。
彼岸女は嬉しそうに笑っているが、どこか信用出来なさそうな感じもする。
そもそも、七幻獣の仲間じゃないのか?
スカアやホクレアは近くにいるのか?
ここはもしかして、敵の拠点なのか?


彼岸女
「安心してくれて良い、ここは私がいる限り安全地帯だ」
「混沌の王ごときに、君は渡さない…」


俺はギョッとする。
そして、何となくコイツはそういう立場なのだと理解した。



「お前、裏切り者とかか?」

彼岸女
「正確には違うけど…まぁ同じ様な物かな?」
「私は、かつて『強欲』のフーパだった…だけど、王の怒りを買い、その地位を剥奪された」
「…今は、枷を付けられたただのフーパさ」


成る程ね…つまりは、恵里香やメロディさんと同じ立場って訳だ。
だが何故だろう…? 俺はコイツからふたりと同じ印象は全く感じない。
恵里香やメロディさんは、どこかズレた所はあっても信用出来る部分はちゃんとあった。
コイツからは、それを感じないのだ。
雰囲気とか、そんな部分から少なくとも味方とは思えない。
何て言うのか…まるで、敵だってオーラを放ってるみたいで。

…俺の考えすぎなのかもしれないが。


彼岸女
「ふふふ…疑ってるね?」


「…そりゃあな、味方とも思えないだろ?」

彼岸女
「でも、敵じゃあ無い」


俺は黙る。
彼岸女はクスクス笑ってるが、やはりその妖しい瞳からは何か嫌な物を感じた。
正直、今までに無いタイプだ。
これまででも癖の強いポケモン娘は多かったが、ここまで怪しいと思える相手はほとんどいなかった。

かつて七幻獣だったそうだが、恵里香に聞けば解るのか?



「…聞こえるか?」

彼岸女
「無理だよ、彼女には届かない」
「ここは既に別時空の世界だ、もう彼女とは永遠に会う事は無いんだよ?」


俺はその場で携帯を耳に当てたまま、それを聞いて放心する。
別時空の…世界? 永遠に会えない?


彼岸女
「もう既に『扉』は潜っている…君の事を覚えている人物は、元の世界にはひとりもいないんだ」


「ど、どういう事だ!? お前、一体何をしたんだ!?」


俺は冷静さを失い、言葉を荒らげ食って掛かる。
彼岸名は特に表情を変える事もなく、極めてフツーにこう言い放った…


彼岸女
「君は、もうひとりなんだ…私と永遠を過ごす為に」


「ふざけんなよ…どんなカラクリがあるか解らないが、そんなモンいざとなりゃ」


俺はこの時点で違和感に気付く。
夢見の雫が反応を示さないのだ。
ただ取り出すだけの事なのに、それが既に出来ない。
俺は意味が解らず、カタカタ震えて彼岸女を見る。
彼岸女は嬉しそうに微笑み、そして上着をバッと脱ぎ捨てて下着だけの姿になった。
そのプロポーションは強調しすぎず、しかし決して控えめでもなく。
身長に対して細身ではあるものの、素直に美しい肢体をしているのが良く解った。
暗い中、ランタンの少ない光量で照らされる彼女の姿は、酷く妖艶だ…

身も蓋も無い言い方をするなら、エロい…だ!


彼岸女
「もう、君には私しかいないよ…?」
「誰も助けに来ないし、覚えてもいない」
「君を知っているのは、もう私だけ…」
「だから、私を好きにして良いんだよ?」


俺はゾッとする。
コイツは頭のネジが外れてると思った。
何を考えているのか、何を目的にしているのかが全く解らない。
ただ言える事は、ここにいるのはヤバイ!
もう命の危機がどうとか、そういうレベルを通り越してヤバイ!!



「くっ、ここから逃げないと…!」

彼岸女
「ダメ…動かないで」


気が付くと、俺は彼岸女に押し倒されていた。
そして彼岸女は顔を紅潮させ、息を少し荒らげて興奮する。
俺の上に跨がり、そして顔を近付けて来る。
俺は冷静になって彼岸女を睨み、そしてこう訊ねた。



「お前は、一体何が目的だ?」

彼岸女
「君が欲しい」


「その理由は!?」

彼岸女
「私は…強欲だから♪」


俺は少し理解する。
彼岸女の枷は『強欲』! つまり、メロディさんの憤怒みたいに感情がコントロール出来ないのかもしれない。
だとしたら、この行動その物が枷のせいなのか…?



「夢見の雫をお前は狙ってるのか?」

彼岸女
「そうだね、でもそれは副産物でしかないよ?」


「何故、俺を狙った!?」

彼岸女
「…それは、君が『魔更 聖』だからだよ」


最後は少し反応が遅れた…そして彼岸女の顔が少し曇る。
それから互いにやや沈黙し、俺は彼女に跨がられたまま…ただふたり目を合わせた。
彼岸女はその後、自分から少し目を反らし、やや肩を落としてこう話し始める。


彼岸女
「君は、魔更 聖だ…」
「創造神に認められ、夢見の雫の継承者となった」
「そして、第七の黙示録を食い止めてしまった…」


「…? 黙示録、って…」

彼岸女
「何千年かに1度起こる、世界のリセットさ…」


俺は考えるも、あまりの壮大なスケールのソレに頭がパンクしそうになる。
しかし、その意味を何となく理解はしていた。
かつて、暴走したアルセウスさんは世界をリセットしようとしていた…
そして本来なら、その後に新たな世界が創造されるはずだったのだが…



(だけど、その先には何も無かった…)


恵里香が最果てで見た世界は、ただの虚無…
新たに世界が造られる事も無く、ただ黒が広がる世界。
だからこそ、恵里香はあの未来を救ってくれと俺に懇願したんだ…!


彼岸女
「…聖君、もう諦めよう? 私と一緒にふたりで幸せになろう?」
「どうせ世界は潰れる…何度も何度も……」
「私は、君と一緒なら何回でもやり直せる…」


「その為に、何を犠牲にしても良いのか?」

彼岸女
「もう犠牲は無いよ…? 誰も君の事は覚えてもいないんだから…」


俺はそれを聞いて顔をしかめる。
本当に…本当にそうなのか?
守連や、阿須那や、華澄、女胤たち皆が…本当に俺を忘れてしまっているのか?



「…俺は、信じるよ」

彼岸女
「何、を…?」


「俺の家族が、きっと俺を…救いに来てくれると……」

彼岸女
「……それは、無理だよ」
「誰も覚えてないのに、どうして助けてくれると信じられるの?」


俺はそれでも家族を信じた。
今まで、色んな混沌を乗り越えて来た。
例え何があっても、最後は皆が俺を救ってくれる…
皆が俺を信じてくれる様に、俺もまた家族を信じるのだから…


彼岸女
「…家族、か」
「羨ましいけど、それはもう必要無い」
「君の家族は、私ひとりだよ…もう」


「だから、何で俺なんだ!? それが目的なら、俺を洗脳なり何なりすりゃあ良いだろうが!!」


俺は強めに叫んでそう糾弾する。
彼岸名は少し悲しい顔をし、ただ俺から目を反らした。
コイツ…一体何を考えてるんだ?
ただ、俺と家族ごっこがしたいだけなのか?
それとも、ヤンデレの赴くままに支配したいだけなのか!?

瞬間…ドズゥゥゥゥン…!!と、突然地響きと共に部屋が揺れる。
何か爆発でも起こったのか…!?
天井からはパラパラと砂が落ち、俺たちの体に振りかかって来た。
その瞬間、彼岸名はあからさまに嫌な顔をし、ギリ…ッ!と歯軋りをする。
その顔はおおよそ正義の味方ではない。
明らかに悪党のソレであり、彼女の性格そのものを語っているかの様だった。


彼岸女
「…やれやれ、苛つかせてくれるじゃないか?」
「ゴメンね、聖君…少しゴミ掃除して来るから、子作りはその後やろう♪」


彼女はそう言うと、またリングを広げて金の鎖をそこから取り出す。
それを俺に向けて放ち、俺は鎖によってがんじがらめにされてしまった。
平たく言うと、全身縛らせて身動きが取れない!
コノヤロウ! ここまで徹底するか!?



「〜!!」

彼岸女
「そうだ、今夜はステーキにしよう! 待っててね〜? 不味い肉かもしれないけど、美味しく調理してあげるから♪」


彼岸女はゾッとする表情で笑い、そのままリングを潜って消えてしまった。
リングもそのまま縮小して消え去り、俺は声も出せない状態でそのまま地面に倒れ伏す。
くっそ〜こりゃ自力じゃ脱出出来ない!
雫が使えない今、俺はただの人間でしか無いからな…



………………………



ウォディ
「よし、次だ…」

ロッキー
「了〜か〜い、次弾装填!!」


私の横で、ロッキーが電磁砲の準備をする。
技ではなく、本物の大砲だ。
いわゆるレールガンという奴で、ソールの電力を使って弾を発射する。
目標は、地表だ…


ソール
「充電100%! 行けるぞ!?」

ロッキー
「よし、発……」


次弾が発射される手前、突然爆発音がして砲は吹き飛ぶ。
近くにいたソールは爆風で吹き飛ばされ、遠くで気絶していた。
ロッキーは呆けた顔で原因を探る。
私は部下の無能さを痛感しながら、ため息を吐いて前に出た。
すると、上空からひとりのフーパが降りて来る。
やはりいたか…予想通りだったな。
今の爆発、超能力で内部から誘爆させたか?

しかし、私はほくそ笑んで奴を見た。
相手は相当苛ついている様で、実に滑稽だ♪


ウォディ
「久し振りだな、裏切り者?」

彼岸女
「そうだね、そっちは相変わらず頭の悪い訪問をするし…」


ふん…相変わらず口の悪い事だ。
短気なのも変わっていない…しかし、今回は懐かしむ為にここに来たわけではない。
私は軽く睨み付け、脅しをかける様に低い声でこう言った。


ウォディ
「特異点を渡せ、さもなければ殺す」

彼岸女
「出来るの君に? 1度も私には勝てなかった癖に?」


私は少しイラッと来た。
思い出すだけでも怒りが込み上げる。
確かに、勝った事は1度も無いな…マトモな勝負では!


ウォディ
「そもそも、貴様が真面目に戦った事があるのか?」

彼岸女
「失礼な…勝負にならなかったからって、逆恨みかい?」

ウォディ
「黙れ!! 一対一の勝負に軍隊を差し向けた女の言う事か!?」


そう、事ある毎にコイツとは争ったが、同じ土俵で勝負した事は1度も無い!
どんな時も、コイツはいつも私の戦力を上回る戦力で高みの見物をするのだ!
そして私が疲弊した頃に現れて軽くあしらう…実に卑怯極まりない!!

少なくとも一対一なら、負ける気はしないんだがな!?


彼岸女
「ふふふ…随分根に持ってるんだね?」

ウォディ
「それよりも、貴様その格好は何だ!? 下着姿とは淑女らしからぬ姿じゃないか!!」


そう、事もあろうに奴はこの私相手に下着1枚なのだ!
私はこう見えても身嗜みにはうるさい。
部下に対しても、常日頃から身嗜みは整えておけと言及している位には!


彼岸女
「どこかの無能のお陰で、折角の夫婦の営みが台無しだったからね〜?」

ウォディ
「ぶっ!? き、貴様〜既にそこまでヤッていたのか…!!」

彼岸女
「おや? 体外受精で娘を作った君には刺激的な話だったかな?」


私はうぐっ…と怯んでしまう。
た、確かにな! 私は所詮遺伝子を提供したに過ぎない。
娘の誕生に立ち会ったわけでもないし、所詮アレは富士の計画の一環だ。

自ら腹を痛めたわけでもないし、何の思い入れも無い。
…まぁ、その分娘からはいわれの無い恨みを抱かれてるわけだが。


ウォディ
「ふん…まぁ良い」
「貴様が特異点の子を孕もうが、知った事ではない」
「重要なのはアレが持つ雫だ…さっさと渡してもらおうか?」

彼岸女
「はぁ…君は何も解っていないね」
「所詮は王の駒か…アレが持つ本当の意味を何も理解していない」


奴はため息を吐いてつまらさそうに首を振る。
私は?を浮かべるも、その意味を推し量るには至らなかった。
王はアレを望んでいる…それは間違いないはずだが。
本当の…意味だと?


ウォディ
「興味があるな、何だそれは?」

彼岸女
「知る必要は無いね…少なくとも君は」


奴は妖艶に笑い、前髪を掻き上げる。
余裕の表情が実に腹立たしい…!
どうやら、想定通り実力行使になりそうだな。


ウォディ
「もう良い、貴様とはここでケリを着ける!」
「以前は王の計らいで見逃してやったが、今度は容赦しない!!」

彼岸女
「ふふふ…だから君は想像力が足りないんだよ♪」


私は『傲慢』の能力を行使する。
すると、私の背後から空間が開き、そこから大量の兵隊が現れた。
それ等は全て中世ヨーロッパ風の騎士鎧や魔導師のローブを着ており、色は白で統一してある。
これこそが、私の能力!

私に負けた者は、全て配下として使役出来るのだ…
そして…いつでも、どんな世界ででも、私はこうやって部下を呼び寄せられる。


ウォディ
「さぁ、今度はどうする? またそのリングから軍隊でも出すか!?」

彼岸女
「ふふ…そうだね〜なら、こんなのはどうだい?」


奴は両腕のリングをふたつ広げ、そこから兵隊を出した。
こちらとは打って変わり、近代的な武装に身を包んだ銃使い。
数もこちらと変わらぬ位の様で、数敵有利は無い…か。


ウォディ
「ロッキー、前線は任せるぞ?」

ロッキー
「お任せを! さぁお前ら! 戦争だーーー!!」


ロッキーは手を前に出して号令を出す。
それを受けて騎士団は一斉に剣、槍、斧、杖などを翳して鬨の声をあげた。


彼岸女
「へぇ…相変わらずファンタジー系が好きだね〜?」

ウォディ
「そういう貴様は変わらずサイバー物か?」


私たちは互いに笑い、後方に退く。
そして互いの兵を前進させ、私たちは指揮官としてその戦いを操作した。



………………………



ダダダダダダダダダッ!!と、マシンガンの銃声が響き渡る。
舞台は殺風景な荒れ地であり、実に不釣り合いな戦争が行われていた。


ロッキー
「騎馬兵! 横から回り込め!!」
「投石用意!! 敵を分断しろ!!」


ロッキーの指示で兵は機敏に動く。
神官は杖を掲げ、防壁を張って敵の銃弾を防いでいた。
騎士の鎧は厚く、マシンガン如きの弾ではそうそう怯まない。
馬の機動力もある、ただ遠くから撃つだけの無能な兵では相手にならんな…


ウォディ
「これで、Aの8は抑えた…次はHの8をチェック」


私はロッキーとは別に自分で駒を動かす。
テレパシーで一部の兵に指示を送り、独自に盤面を制圧しているのだ。
敵の兵は恐怖を感じないのか、まるで無心の様に銃を撃って来る。
それこそ、機械の様に…


ウォディ
(妙だな…いくらなんでも楽すぎる)


私は口元に手を当て、浮遊しながら戦場を把握する。
今はこちらの圧勝…敵は次第に数を減らしており、時間をかければ完全に殲滅も可能だろう。

しかし、気に入らない事に奴は笑っている。
圧倒的に不利なこの戦況で、だ…
つまり、奴は何かを画策してる。


ウォディ
(ちっ…気に入らないな)

彼岸女
(ふふふ…怒ってる怒ってる♪)


奴は私の顔を見て更に笑った。
クソが…! 例えどんな手を用意して様が、必ずその顔を恐怖で歪めてやる!!


ロッキー
「何だどうした!?」

神官
「敵の増援です! 戦車隊が現れましたー!!」

ウォディ
「戦車だとぉ〜?」


私は更に増援で現れた相手を見る。
するとリングから出て来たのはキュラキュラと音を立てる戦車だ。
しかも、並の戦車ではない! あれは、かの西ドイツが開発したと言われる…


ウォディ
「『レオパルト・ツヴァイ』だと!? 重戦車を10機も投入とはな!!」

彼岸女
「ふふ…少し不利になって来たからね〜」
「さぁ、竹槍で戦車に勝てるかな?」


おのれ…仮にも騎士の装備を竹槍だと?
舐められた物だ、その程度の戦力は初めから想定している!


ウォディ
「Dの5とEの5に魔導師部隊! 目にものを見せてやれ!!」


私の指示で魔導師部隊が戦車に向かう。
戦車はその巨大な砲塔から砲撃を行うが、神官のバリアはそれを容易く防いだ。
しかし、密集している所では爆風の影響は大きい。
末端の兵たちが吹き飛んでしまうか…まぁやむを得まい。


ウォディ
「魔法詠唱! 神の雷だ!!」


魔導師部隊は杖を掲げて詠唱を始める。
やがて空は雷雲が立ち込め、そこから強烈な雷撃が迸った。
それ等は戦車の機能を軽く焼き切り、全ての戦車は機能を停止させる。
ふん…大した事は無いな。


ウォディ
(…? 何故だ…? 何故奴は笑ってる?)


意気揚々と出した戦力があっという間に沈黙したと言うのに、奴はせせら笑っている。
いつもの様に斜に構え、まるでこちらを嘲笑うかの様に余裕を見せていた。
奴のリングは展開されていない…一体何を考えている?


ウォディ
(私の周囲にも気配は無い、伏兵はいない)

彼岸女
(疑心暗鬼になってるね…だから君は若いのさ♪)


私は疑問に思うも、そのまま駒を進めて行く。
何があろうとも、私は貴様を上回る戦術で勝利してやる!
もはや敵将は目の前! 勝利は目前だ!!


ロッキー
「よし!! 騎馬隊突撃!! 弓兵も前線を押し上げろ!!」

彼岸女
「ふーん? 1番愚かな手を打ったんだね…」

ウォディ
「な…!?」


それは、本当に唐突な出来事だった。
奴が私を遠目に見た瞬間に地面は割れ、全ての兵が地底へと落ちて行った。
それも、敵味方関係無く…!


彼岸女
「さぁ、これで仕切り直しだよ?」
「こっちの戦力はまだまだある…君はどうなんだい?」

ウォディ
「くっ…!! 下らない奇策をぉ!!」


私は続けて兵を追加する。
だが、思ったよりも少ない…肝心な時に兵が枯渇したか!?


彼岸女
「やっぱり君の相手はつまらないよ…ただ盤面を上から見る事しか出来ないし」

ウォディ
「黙れ! 傲慢なのは私の特権だ!!」
「慢心せずして、何が傲慢だ!?」

彼岸女
「だから、君は想像力が足りないのさ…」
「そんな事だから、王の真の目的にすら気付かない」

ウォディ
「何…だと?」


王の真の目的…?
何だそれは? 王の目的は特異点の持つ雫を奪い、黙示録を起こす事のはず。
それが、真の目的では無いと言う気か?


彼岸女
「今なら見逃してあげるよ? さっさと尻尾巻いて逃げな…」
「じゃないと、泣くまで追い詰めてあげるよ!?」


そう言って奴はひとつの壺をリングから取り出す。
私はその意味を知り、軽く恐怖した。
奴は…なりふり構わないつもりかっ!?


ウォディ
「くっ…ここで潰し合うのは最善では無い!」

彼岸女
「そうだね? その方が良いと私も思うよ…」
「あの姿は…出来れば聖君に見せたくない」


解き放たれたフーパ…と、一般には伝えられる禁断の形態。
その力は当時の七幻獣の中でも一際暴力的で…あの王が手を焼いたと聞く。
1度暴れれば世界を破壊するまで元に戻らないらしく、以前は王自らが裁きを下し、奴を追放した程なのだから…

万全の状態ならばともかく、兵をほとんど失った今の状態ではとても勝てる相手ではない。
ここは、撤退しかあるまい…気に食わんが!


ウォディ
「良いだろう…貴様の命は預けておく」
「だが忘れるな!? 王は必ず降臨する!!」
「その時こそ、貴様は本当の裁きを下されるだろう!!」


私はそれだけ言って、その場から転移する。
地下に落ちた部下も全て回収し、この世界から跡形も無く消えた…
その場には、奴とその兵隊のみが佇むだけ…



………………………



彼岸女
「………」


私は壺をすぐにリングへ入れる。
これは、あくまで最後の手段だ。
聖君だけは、絶対に守ってみせる。
使う時は、全てを失う覚悟がいる。

私は動かずに停止している兵をすぐにリングで転送する。
所詮、人形同然の造られた兵隊だ。
心も無ければ、意志も無い。
使い捨てる為だけの、ただの人形。


彼岸女
(人形だよ…私も、同じ)


私は、突如降り出した雨に打たれ、唐突に虚しくなる。
空を見上げると雷雲がまだ残っていた。
やれやれ…ここは滅多に雨なんて降らない地域なのに。


彼岸女
「雨が入ったら、もう住めないな…」


私はすぐにリングを潜り、聖君の元に向かう。
もうこの世界は必要無い…別の世界に行こう。
そして、いつか聖君と幸せになるんだ…
私にはそれしかない…強欲の枷は常に何かを求めてやまない。

この咎を、枷を外せるのは…聖君しかいないのだから。
私は、それを思って笑いが込み上げる。
やっと見付けた、1番大切なモノ…
私を救ってくれるのは、聖君だけ……










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第6話 『強欲の咎』


To be continued…

Yuki ( 2020/03/11(水) 23:39 )