とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない














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第10章 『過去との決別』
第9話
悠和
「何故、聖様を狙っているの!?」

レヒレ
「攻撃を再開、対象を抹殺する」


レヒレはそのまま水の柱を何本も側に立て始める。
そしてそれ等は蛇の様にうねり、それぞれが別々の軌道で私を襲った。
私はメモリを水に換え、水タイプに変化してからそれ等に立ち向かう。

まずは手前の水柱を左手で弾く。
そして空いた場所に突進して、次のを右手で逆に弾いた。
更に襲いかかって来る水柱は後4本。
それ等は集中してこちらを狙っており、時間差を利用して捌く事は出来なさそうだ。


悠和
(だけど、それならそれで好都合!!)


私は全身に力を込め、『マルチアタック』の体勢に入った。
一点集中ではなく、全身に水を纏い前に体ごと突っ込む!

ズバシャァァァァァァァッ!!と、水と水とがぶつかり合う音。
私は自身の技で、レヒレの技を正面から弾いたのだ。


レヒレ
「…!? 予測以上の戦力」
「推定CPを20000以上に修正、危険レベルを更に上昇」

悠和
「遅い! ここからならもう届く!!」


私は行動後、すぐに電気タイプへと変化した。
そして両手を上に構え、そこから大量の電気を発生させる。
そのまま私は腕を前に出し、そこから『10万ボルト』が放たれた。


バチバチバチバチィ!!


レヒレ
「被弾…! ダメージ有り、しかし行動に支障無し」


やはりレヒレは相当打たれ強い。
仮にもタイプ一致の電撃だというのに、弱点を突かれてまだピンピンしてる。
やっぱり、持久戦になったら不利だ!


悠和
「だったら、倒れるまでやる!!」


私は得意の接近戦に持ち込む。
レヒレはどう見ても遠距離タイプ、接近戦は苦手と予想した。


レヒレ
「敵接近、近距離での戦闘は不利と判断」
「その前に迎撃を行う」


レヒレは口からマシンガンの様に『水鉄砲』を連射した。
こんな使い方は初めて見る!?
私はメモリを換える前にそれを貰ってしまい、足を止められてしまう。
相手との距離は後数m…ここからだと『マルチアタック』は届かない!


レヒレ
「敵の行動を阻害、モードを切り替える」


そう言ってレヒレは、何やら右手から光を放つ。
それは眩い光となり、やがてそれは光弾となってショットガンの様にバラ撒かれた。
私は咄嗟に鋼タイプへと変わり、ガードを上げて頭部を守る。

ギャギャギャギャギャッ!!と、体を削るかの様な音がし、私は攻撃を受けた。
恐らくは『マジカルシャイン』!
あまりに広範囲すぎて、回避するのは無理だ。
敵はこちらが近付きたいのを阻止する為に、こんな広範囲攻撃を…!


悠和
(これ以上貰うのはマズイ…! いくら効果今ひとつでも、いつかは倒れる)


しかし、それを打破するには接近しなければならない。
遠距離からの攻撃では手数で負ける。
勝つには、何としても近付かないと!

しかし、こんな時に便利な移動技が無い、自分の不器用さをただ呪う。
もっと力があるなら、強引にでも踏み込めるだろうに!


レヒレ
「ダメージ蓄積、このまま安全に排除する」

悠和
「甘く見るなぁぁぁぁっ!!」


私は叫び、タイプを飛行に変化した。
そして直後にその場から真上に飛び上がり、レヒレの技をかわす。
再び放たれたマジカルシャインは上空まで届かず、私はそこから一気に急ブレーキし、急降下を始めたのだ。

地上からでダメなら、空中から攻める!
どんな時でも、臨機応援に攻め手を変えられるのが私の強みなのだから…!


レヒレ
「予測外の行動!?」

悠和
「捉えたぁ!!」


私は両手で『エアスラッシュ』の剣を作り、すれ違い様に斬り付けた。
それによりレヒレの殻にはヒビが入り、レヒレは宙に浮きながらガタガタと揺れる。
私はレヒレの背面にそのまま着地し、すぐに振り向いて相手を見た。


レヒレ
「…外甲殻に損傷! 修復は困難、戦闘は続行可能」

悠和
「今度こそ、落ちろぉぉ!!」


私は草タイプに変化し、『マルチアタック』の力を右手に込める。
今度は拳に一点集中! これなら威力は更に高まる。
私はジャンプしてフラフラしているレヒレを捉えた。
レヒレはすぐに横回転して光弾を放つものの、それ等は焦りすぎていて威力が分散している。
私は吹っ飛ばされる前にレヒレの殻を掴み、笑って右手を構えた。


悠和
「やっと…! 捕まえた!!」

レヒレ
「!!」


その瞬間、レヒレは殻を閉じる。
私の左手は殻と殻に挟まれ、凄まじい激痛が走った。
だけど、力は抜かない。
まだ射程にはいる! なら…!!


悠和
「この一撃で仕留めてみせる!!」


私は右拳を思いっきり殻に叩き付ける。
そして、そこから草のエネルギーを流し込み、殻と殻の隙間からそれは中のレヒレを襲った。


レヒレ
『がはっ!? 内部に、被害…!』


レヒレは確実にダメージを負い、そのまま地面へと落下する。
私は殻から離され、一緒に地面を転がった。
そして、ぜぇ…はぁ…と息を吐き、私は闘志を捨てずにレヒレを見る。

レヒレは殻からズルズルと這いずり出て、その干からびた姿を見せる。
草のエネルギで水分を奪われ、全身がカサカサの肌に変貌していた。

トドメを刺すならばここしかない…!


レヒレ
「…っ、緊急事態、ダメージ甚大」
「これ以上の戦闘は危険と判断…撤退を」

悠和
「逃がすかぁ!! ここで仕留める!!」


私は体を突き動かし、更に走る。
そしてレヒレにトドメを刺すべく、拳を握った。
しかし、ここでレヒレは予想外の行動に出る。


レヒレ
「危険度最大…撤退の為に、敵の戦力を削ぎ落とす必要有りと判断!」

悠和
「な…!? この、光は…!?」


突然、レヒレは全身から強い光を放った。
私はその光に圧倒され、怯んでしまう。
そして、あまりの光に目をやられ、一瞬視界が封じられた。
その後、私は謎の轟音を耳にする。
何かと思い、目を開いて前を見ると…そこには、光の巨人が立っていた。


悠和
「な…!?」

レヒレ
「『ガーディアン・デ・アローラ』を発動」


レヒレがそう言うと、巨人の体にレヒレの殻が突き刺さる。
その殻は頭部の様に見え、そこから巨人は右腕を大きく上げた。


レヒレ
「攻撃…開始」


レヒレはそう指示して右手を下に振り下ろす。
すると、巨人もそれを追従する様に右拳をハンマーの様に振り下ろした。
私はあまりの状況で呆気に取られ、回避する事すら忘れていた…


ドッズゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!


レヒレ
「攻撃、成功……っ、これ、より…撤退、に…入、る」

悠和
「………」


レヒレの声が僅かに聞こえる。
私はさっきの攻撃で体力のほとんどを失い、もはや動く事も出来なかった。
つまり、このまま攻撃を続けられたら、私は間違いなく死ぬだろうという事だ。


レヒレ
「…っ、敵、沈黙」
「このまま、攻撃を続行するか、検討…」
「遂行確率…99%」
「よって…ここで対象を、確実に抹殺」


レヒレはフラフラの体を動かしながらも、こちらに腕を向ける。
私にはかわす事も出来ない、このままでは死ぬだろう。
私は聖様の事をただ想う。

私はお役に立てたのでしょうか?
ここで死んでしまっても、聖様は大丈夫でしょうか?
死ぬ事は、何も怖くない…ただ怖いのは、聖様に危害が加わる事。


悠和
(もう、動けない…この状態で、出来る事は)


自爆位…か。
どうせ死ぬなら、せめて後顧の憂いは断つ。
あのレヒレを聖様に近付けてはならない。
ここで、道連れにしてでも……!


レヒレ
「…攻撃を、開始する」


レヒレの右手から、満月の様な光が現れる。
そしてそこからの攻撃が私を狙い撃とうとしていた。
私には、もう回避も防御も出来ない。
あれを食らえば、確実に死ぬ…


悠和
(だけど…! 死ぬ前に、爆発は出来る!!)


私はメモリを体から離し、ノーマルタイプに戻る。
後は、起爆するだけ…
ああ…終わりだ、やっばり…私には運が無い。

それでも、最後の最期まで聖様の為に生きられたのなら…


悠和
(私は……幸せ、です)

レヒレ
「『ムーンフォース』…発射」


「止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


突然、静かな森に木霊する絶叫。
レヒレはそれに反応し、驚いた顔で声の方を振り向いた。
攻撃は止まり、私も即座に起爆をストップさせる。
そして叫んだ張本人は、横から私をかっさらって抱き上げた。

その人物は、私のよく知る少年で、私の…クラスメート。


悠和
「…? 万、丁…君?」


「何が起こってんだよ一体!? 死にかけてんじゃねぇか!!」


万丁君は沢山の汗を流しており、ここまで全力疾走で走って来たのがよく解る状態だった。
それでも私の体をしっかりと背中に担ぎ、万丁君はレヒレを見てすぐに逃げる。


レヒレ
「…! 敵、増援」
「追撃、は…危険」
「よって、この場は撤退を選択」
「……特異点の回収は、中断とする」



………………………




「くっそ…追っては来ねぇか?」
「おい、美代さん…大丈夫か?」


俺は数分程走り抜け、1度背後を振り返った。
さっきの干からびた姉ちゃんは、とりあえず追って来ていない様だ。
俺はそれを確認し、背中の美代さんに声をかける。
が…返事は無く、背中から聞こえるのは安らかな寝息だけだった。



「寝てんのかよ…! こんな時に余裕だな、オイ」


とはいえ、命に別状は無いみたいで安心する。
敵も追って来ないなら、早く赤城先輩も見付けないと。
しっかし、何で美代さんがここに?
ってぇ事は、やっぱり魔更先輩も…?



「お、いたいた〜派手な戦闘があったみたいだから、もしかしてと思ったが…」


「魔更先輩!! それに、そっちは…ってぇ!?」

賢城
「何や、えらいツッパッた髪型しとるのう」
「お前の知り合いか?」


「後輩ですよ、学校のね」


まさか、魔更先輩の隣にいたのは、俺が敬愛して止まない男の中の漢! 現、呂華斗組の組長…銀 賢城さん!!
どうして…この人までがここに?



「…悠和ちゃん、眠ってるのか」
「なら、とりあえずは安心だな」


「安心って…ボロボロにされてんすよ!?」


「だから眠ってるんだろ? ポケモンはこうやって技で体力を回復させるんだ」


俺は言われて?を浮かべた。
が、すぐにその意味を理解する。
そういや、確かゲームの攻略記事とかで『眠る』ってのがあったな。
攻略によれば、使ったら3ターン眠る変わりに、HPと状態異常を回復するとか…



「…ホントに回復するんすか? 3ターンで」


「ゲームの様には考えるな、現実ではダメージに比例して眠る時間は長引く」
「死にかけてたってレベルなら、丸1日は寝てるかもしれないな…」


魔更先輩はそう言って、とりあえず周囲を見渡す。
そしてため息をひとつ吐き、顔を押さえてこう呟いた。
その顔は、かなり面倒そうな顔だ。



「…レヒレは敵だったのか?」


「レヒレって、さっきの干からびた姉ちゃんの事すか?」


魔更先輩は?を浮かべて訝しげな顔をする。
な、何か間違った事言っただろうか?
一瞬見た感じだと、そんな風にしか形容出来なかったんだが…



「…まぁ、干からびてる理由はよく解らんが」
「悠和ちゃんの体には、水滴や焼けた様な傷が付いてる」
「となると、最低でも水タイプの攻撃を食らった可能性が高いだろ」
「……しかも、草のメモリだけ無くなってる、か」


魔更先輩は美代さんの状態から冷静にそう分析する。
そして美代さんのウエストポーチを見て、中身を確認していた。
そういや、美代さんはいつもそれ持ち歩いてるけど、何が入ってるんだ?
メモリって…パソコンとかの?



「水対策で草タイプになったのか…でも今はノーマルタイプ」
「メモリは落としたのか?」

賢城
「何か大事なモンなんか?」


「貴重な物なのは確かですね、無くしたらチトもったいない…」


そういや、美代さんが倒れてた場所に何かCDみたいなのが落ちてたな。
もしかして、アレがそうだったのか?



「だったら、このまま真っ直ぐ引き返せば…」


「…真っ直ぐ、ね」

賢城
「辿り着くと思うか?」


魔更先輩は苦い顔で考えている。
そういや、この世界は真っ直ぐ進んでも正しい道に行くかは解らない。
下手に動いたら、また分断されてしまうかも…



「…厄介な事になったな、最悪諦めるしかないか」


「良いんすか? 大事な物なんでしょ?」

賢城
「命には変えられへんやろ…その娘みたいに、あんなデカブツと戦えるわけや無いんやからな」


あの組長が、そんな事言うなんて…
しかし、確かにそうだ。
あの時見た金色のデカブツ。
美代さんはそれと戦ってた…それでボロボロにされたんだ。
俺たち人間で、それと戦うのは無茶だ。
ポケモンの美代さんでコレなんだから…それこそ俺なんかじゃ。



「まぁ、あの技はそうポンポン使えやしないだろうがな…」


「そうなんすか?」


「あれはカプ神だけが使える、一発技だからな」
「どんな相手にも等しく瀕死近いダメージを与えられるが、逆に相手を殺す事はほぼ絶対に出来ない技だ」

賢城
「ややこしい話やな…つまりはどういうこっちゃ?」


「連発は出来ないし、使われても死にはしないって事です」
「蟻が食らおうが、象が食らおうが、ね…」


成る程…よく解ったぜ。
つまり、あの巨人は技の形で、その効果はあくまで相手を弱らせる為だけの技。
だから、俺が食らおうが瀕死の美代さんが食らおうが、死にはしない効果って訳だ。
ただ、等しく死にかけるまでのダメージは受けるわけだが…



「まぁ、相手も弱ってたみたいだし、案外もう逃げたんじゃ?」


「だとしたら、益々脱出不可能って訳だ」

賢城
「…どないする気や?」


魔更先輩は悩んでいる様だった。
少し俯きながら、口元に手を当てて何かを考えている。
確か、魔更先輩には特別な力がある。
ただ、それはあまり気軽に使って良い力じゃなく、出来れば使わずにおきたい力って話だ。



「…四の五の言ってられねーか」
「レヒレが敵だったって言うなら、俺たちを閉じ込める為に引き込んだ可能性が高いからな」


「ま、待ってくださいよ!? ここにはまだ赤城先輩がいるんです!!」


「あん? 何で赤城さんまでがここにいるんだよ…」
「ま、まさかデートか!? お前ら知らない間にそんな仲に!?」


「違うっての!! たまたま一緒にいただけで、いきなり巻き込まれたんすよ!!」


俺は全力で否定する。
つーか、流石に俺もあれは無理だ!
どうやっても、尻に敷かれる以上の惨劇しか想像出来ない。
見た目は割かし美人だけど、性格が流石に尖りすぎてて、俺のゾーンを完全に逸脱してる!



「…まぁ、そうだろうな」
「お前ごときで、あの赤城さんをどうにか出来るとは思えんし」


「ご、ごとき…」


俺はやや不満そうにするも、反論は出来ねぇ。
つーか、人類にどうにか出来るとすら思えん!
下手したら一生男と縁無いだろうな〜



「な〜に人の噂してんだ、このタコ?」


「ひぃぃっ!? 赤城先輩ぃ!?」


気が付いたら、背後にいるし!!
全然気配感じなかったよコノヤロウ!!


沙譚
「ふん、やっぱり魔更もいやがったか…しかも、ヤクザのオッサンまでいるじゃねーか」

賢城
「…ほう、威勢の良い嬢ちゃんやな」


組長はククク…と笑って軽く流す。
そんなに気には障らなかったのか、赤城先輩の失礼な態度を大人の対応で流したのだ。
うーむ流石は組長! やっぱこういう器の大きさも憧れるよな〜!



「赤城さん、そのメモリ…」

沙譚
「ん? ああ…さっき拾ってな」
「見た事無ぇディスクだったから、思わず目に入った」
「お前のだったか?」


「ああ、グッジョブだ」
「とりあえずこれで、条件は揃えたか」


魔更先輩は、赤城先輩が手に持っていた緑色のディスクを直接受け取り、それを美代さんのポーチに収納する。
そして軽く息を吐き、魔更先輩は1度深呼吸してこう言った。



「…この際、ふたりには直接見せておく」
「ゲストもひとりいるが、今回はサービスだ」


魔更先輩がそう言うと、魔更先輩は胸から何か水晶玉みたいな球体を取り出した。
赤城先輩はギョッとしてたが、彼女も初めて見たのだろう。
かくいう俺も初めてで、予想はしていたものの見ると驚く。

あれが…『夢見の雫』か?


賢城
「…何やそれは? どこに仕舞っとったんや?」


「あくまでサービスです、だから詮索は出来ればNGで」


そう言って魔更先輩は口元に人差し指を立て、組長からのツッコミを止める。
組長も真剣な顔をし、それ以上は何も言わずに両腕を組んで場を見届けた。


沙譚
「それが、例の力か?」


「まぁ、詳しい話はまた今度だ」
「とにかく、ここから元の世界と時間軸に戻る、願いはそれだけだ」


魔更先輩はそう言って簡単に条件を指定し、目を瞑って静かに願う。
その様はまるで祈りの様で、魔更先輩から感じる微かな気は、本当に静かだった…
あえて例えるなら、釈迦や菩薩…とでも言えば良いだろうか?

って、流石にそれは言いすぎか。



「さて、久し振りにやるからな…頼むぜ雫ちゃんよ?」


魔更先輩が目を開き、軽く微笑んで言うと雫は光を放つ。
その光は虹色の綺麗な光で、まるで見る者の心を浄化するかの様な、そんな色の光。
俺は不自然だと思える程に心が安らぎ、今まであった不安や心配が洗われた様に感じる。

やがて、その光は世界全体にまで広がり、全ての視界が光で覆われた時、俺は意識を一瞬失った。
そして、次に目の前の光景を見た時、俺は状況を理解する。



「…ここ、路地裏?」

沙譚
「だな、本当に奇跡でも起こしたみたいじゃねぇか…」


「まぁ、だとしたら安っぽい奇跡だけどな」


俺たちの背後から魔更先輩が笑っている。
俺たちは道路の方に向き直り、路地裏から出て来た。
組長も隣にいる…美代さんは、魔更先輩が抱き留めていた。
美代さんのダメージは、そのままなのか?


賢城
「…成る程、な」
「それが、お前の秘密か…」


「俺は貴方を信頼してるから、目の前で見せました」
「貴方も、俺と同じ様な経験をあそこでしたのなら、記憶まで奪うのはしたくないので…」


それは、まるでその気になれば記憶ごとどうにでもなる、と言っている様だった。
いや、実際に出来るんだろう。
だけど、魔更先輩はそれをしなかった…何か理由があったみたいだが。


賢城
「…ほうか、確かに雪のあの言葉を覚えていられるのは幸運やな」


「やはり…会ったんですね、雪さんに」

沙譚
「もしかして、お前らも死人に?」


「…赤城さんまで? いや、不思議じゃないのか」


魔更先輩は何かを悟った様に目を細め、そして軽く俯いてから空を見上げる。
もう夕日は沈み込み、夜が近い。
星なんて到底見えない空だけど、だけど魔更先輩は何かを願うかの様な表情をしていた。



「結局、全員何かしらのイベントがあったって訳だ」


「…俺、そんなの無かったんすけど?」


魔更先輩は俺を見て、呆れた顔をする。
そしていかにも、空気読めよ…と言わんばかりの顔でため息を吐いていた。



「やれやれ、まぁ例外はあるか」

沙譚
「コイツは巻き込まれただけだろ?」


「ちぇ…つまり、俺はくたびれ儲けって事すか?」


俺は後頭部を掻いて残念そうに言う。
先輩たちには何か特別な事が起こったのに、俺には無ぇのかよ?
とはいえ…美代さんは助けられたし、決して無意味って訳じゃ無ぇと思うけど。


賢城
「そういや、魔更…お前、5年前の事件にここにおったんか?」


「まさか…そりゃこっちのボーヤでしょうよ」


魔更先輩は呆れた顔で俺を後ろ指で指す。
すると、組長は目を細めて俺を睨み、ズカズカと側まで近寄って来た。
俺はかなりビビってしまい、思わず後ずさるも、組長にポン…と肩を叩かれてそのまま動きを止める。
そして、俺がキョドっている間に、組長はこう言い出した。


賢城
「お前、5年前にここで死にかけた子供か?」


「えっ!? あ、いや…ここで死にかけたかどうかは覚えて無いんすけど」
「でも、ここにはいました! 確か、雪降ってて、綺麗な姉ちゃんがいて…それで」


俺はどうにか記憶を辿るが、それでも何が起こったのかは思い出せなかった。
俺があたふたしていると、組長は少し優しい目をし、俺の頭を軽く叩いてこう言う。


賢城
「…ほんなら、そうや」
「ほうか、元気にしとったんやな…」


「は、はいっ! あれから、組長みたいに立派な漢になろうと、今でも特訓中っすよ!!」

賢城
「…ほうか」


組長は何かを思い出す様に目を細める。
そして、俺の他愛ない話を立ちながら全部聞いてくれたのだ。
嫌な顔ひとつせず、くだらない話を、最後まで…



………………………




「…話聞いてもらって、どうもすみませんでした!」

賢城
「別にええ…雪が身体張って守った命が、こうやって元気にしとるんや」
「アイツも、きっと喜ぶやろ…」


「あ、あの…その、雪さん、は?」
「俺、どうしても礼が言いたいっす!!」


俺はそう言って組長に頼み込む。
しかし、組長は少し厳しい顔をし、首を横に振った。


賢城
「残念やが、今は遠い国に行っとってな…せやけど、自分は元気にしとるから、大丈夫や言うとったわ」
「お前の気持ちは、代わりに伝えといたる…せやから安心せぇ」


そう言って組長は俺の肩を軽く叩く。
俺はそれで勇気を貰った気がした。
これからは、もっともっと頑張ろう!
俺の事を命懸けで守ってくれた雪さんの為にも、俺は絶対にデカイ漢になってやるぜ!!



「…さて、そろそろ行くか」

沙譚
「そうだな、もう暗くなってるし…」

賢城
「ほんなら、気ぃ付けて帰れや?」
「それと、何かあったらいつでも言え、手伝える事があるなら協力したる」


「あ、ありがとうございます! 組長の力があれば千…いや万人力っす!!」


俺はそう言って力強くガッツポーズを取る。
それを見て3人は笑うものの、嫌な気分はしなかった。
むしろ、何か改めて仲間になれた…って、そんな気もする。



………………………




「………」


帰り道、俺たちは4人で一緒に駅前まで歩いていた。
美代さんは相変わらず寝たままで、まだ魔更先輩におんぶされてる。
赤城先輩は大きくあくびをしながら、少し眠そうにしていた。



「あの、魔更先輩?」


「ん? 何だよ?」


「魔更先輩は、何で今日組長に?」


「…お前の話を聞いてから気になっててな」
「もしかしたら、何か良くない事が起きてんじゃないかって…そう思ってな」


魔更先輩はやや緊迫とした感じでそう言う。
俺は少し動揺するも、自分で言った手前改めて考えてみた。
この街は、どこかおかしい。
魔更先輩は、それが気になって調べたんだ。

そして、5年前のあの事件に辿り着いた。
あそこから、何かがおかしくなったんだ。
魔更先輩は、その原因を突き止めようとしている?


沙譚
「で? 何か解ったのか?」


「ぜ〜んぜん! 解りましぇ〜ん!」
「最初はレヒレが原因かと思ったんだけど、そもそも5年前からいる理由も解らんしな〜」
「何で悠和ちゃんと戦ってたかも解らないし、まずは悠和ちゃんが目覚めてから、その辺の話を聞かないと…」


結局、何も解らなかったのか。
だけど、美代さんは何かを知ってる…?
そこから、何か真相に辿り着ける……か、な?

今の俺じゃ、到底辿り着けそうも無いわな…
とはいえ、やれる事はやってみるしかない。
組長に認められる漢になる為、いや!



(組長をも超える為に!! 俺は頑張ってみせるぜ!!)


そして、俺は思う。
俺の道には…きっと大愛さんや雪さんも、一緒にいてくれるのだと。
そして、魔更先輩たちの力になれるなら、それも頑張ろう…










『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第9話 『夢見る少年の、大きな野望』


To be continued…

Yuki ( 2019/11/21(木) 14:46 )