とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない













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第10章 『過去との決別』
第8話

「Hasta la vista. baby(地獄で会おうぜ、ベイビー)!!」

悠和
「…ここがレヒレのいる世界だとすれば、既に地獄の手前なのかもしれませんが」


俺のネタはクールに返される。
つーか、悠和ちゃんだとネタ解らんか!
全く、もうすぐ新作が公開されるからこそのネタだったのに!
ちなみに、長らく発音はハスタラビスタだと思ってたのだが、これは誤りらしく、アスタラビスタと言うのが正しいらしい。
元がスペイン語なら仕方無いね!


賢城
「地獄の手前か…さしづめ、三途の川でもあるんか?」


「レヒレは水タイプのポケモンですからね…あながち無関係でもないのかも」

悠和
「とにかく、ここは危険すぎます…!」
「もし本当にレヒレが引き込んだのでしたら、最悪聖様を閉じ込めるつもりなのかも…」


俺はそれを聞いても、さして驚かなかった。
むしろ呆れている位だ、それが作戦ならレヒレはアホとしか言えない。
俺には最終鬼畜チートアイテム、夢見の雫があるというのに…
例え伝説のポケモンであろうと、全てを創造した神の力の前には、無力に近いのだから。



「とはいえ、本気だとしたら俺の事をほとんど知らないって事になるな…」

悠和
「…あ、そ…そうでしたね、聖様を閉じ込めるとか、そもそも不可能」


悠和ちゃんも言ってて気付いたか。
その気になれば、俺は歴史すら変えられる。
デカイ願いになれば、それだけリスクは高まるが、今の雫は未使用状態。
いわばD値0の状態だ、つまりよっぽど無理な事を叶えなきゃゲームオーバーにはならない。

今までの経験的に、この空間から逃げるだけならそれ程リスクも無いだろう。


賢城
「さっきから、何の話や?」


「いえ、大した事じゃないですよ…別に安心して良いって事です」


組長さんは訝しげな顔をするも、追求はしなかった。
良かった…話の解る人で。
下手に首突っ込まれて、深く関わられても問題だからな…
極力、俺の力は見せない様にしないと…



「…恵里香、聞こえるか?」


俺は試しにスマホを耳に当て、聞いてみる。
が、恵里香は答えなかった。
俺は少し驚くも、それだけここは意味不明な場所とも思える。
恵里香が見えも聞こえもしない世界なのか…?

だとしたら、本当にあの世だったりするのかね?
流石の恵里香も、天国や地獄は見えないって言ってたからな〜



「とにかくレヒレを探そう、俺に用があるなら向こうから来ると思うが…」

悠和
「そうですね、目的を聞くだけでもしておきたいですし」

賢城
「方針は決まったか?」


俺は、はい…と言って歩き始める。
周りは全部霧に包まれた森…視界が悪いが、動かないのも何だしな。
とにかく、今は情報を得なければ…



………………………




「ちっ…本当に何も無ぇな」


俺はあれから更に歩くも、全く進展は無かった。
どこまで行っても霧の森で、景色が全く変わらない。
流石に疲労は溜まるばかりで、俺はその場で座って木に背を預けていた。



(このまま出られねぇのか? いや、そんなはずあるか)


魔更先輩は以前こう言っていた、混沌には必ずクリア条件があり、それを達成すれば元の世界に戻れると。
その条件は混沌次第だが、基本的に例外は無い…って。



(これが混沌って奴なら、どこかにクリア条件がある)


定番ならボスを倒せって所らしいが、そうなると俺に出来るかは怪しい。
その場合、大抵は強力なポケモンが担当してたりするから、人間の力で勝つのはほぼ無理って話だからな…



(だが、それはあくまで一例…他の条件の時もある)


時間が経つだけで終わる例もあるそうだし、前のバトルフロンティアとかがそうだった。
…もっとも、あれは最後の最後にイカれた事件があったが。



「時間は、あれから2時間か…」


俺はスマホで時間を確認する。
つっても、電波が届かねぇから正確な時間が表示されてるかは解らねぇが。
体感で言ってもその位だろうし、多分大きなズレは無ぇだろ。

しかし、どうすりゃ良いのかねマジで?
このまま時間を潰しても、その内餓死する。
最悪、病気にでもなって終わりかもしれねぇ…
とにかく、ひとりなのがまずヤバイ。
せめて、誰かいてくれれば…



「…? 何だ、雪?」


俺は、はらり…と落ちてきた雪を見て、?を浮かべる。
こんな霧の中で、何故雪が?
しかし、気が付くと気温が下がって来たのを感じる。
俺は体を抱きながらブルッと震えた。
やがて、雪は徐々に多く降って来る。
俺は流石にじっとしておれず、その場から立ち上がって移動を開始した。



「くっそ…! 嫌がらせかよ? こんな時に雪とか、最悪凍死しちまうぞ!!」


俺はやや無理矢理にでも走った。
そうする事で、体温を上げる算段だ。
もっとも、疲労が溜まるのは痛し痒しだがなっ。



………………………




「…何も、来ないか」


俺たちはひたすら歩いた。
そして数10分程経った所で俺は立ち止まる。
そして、一旦周りを見ると……俺はひとりになっていた。



「…ふっ、やるじゃないか」
「俺に悟られずにふたりを拐うとは!」


まぁ、これで俺が勝手にはぐれただけだったら、笑い話でしかないんだが…
しかし、現に分断された様で、俺はしばしその場で顎に手を当てていかにも天才風に考えてみる。

…うんっ、俺には似合わねぇし、天才じゃないもんね!!
俺は、はぁ〜っと大きなため息をし、頭を掻いてとりあえずグルリと一周回る。



「何にも変わらん! むしろ方角が解らなくなった!!」


バカか俺は…って、もう割とどうでもよくなってきていた。
ぶっちゃけ、これならもう雫使って解決したろか…とか思わんでもない位だ。
しかし、焦ってはいかん…ここはもっと冷静にならねば!



「…カプ中黒レヒレ、本当に奴の仕業なら、ここには」


「死人がいる…って所だわな」


俺は、背中側から声を聞き、マジか…?と思って頭を抱える。
その声は聞いた事の無い声だったが、それでも俺は本能的に理解する事が出来た。
そしてゆっくりと後ろを向く…そこには、いかにも高そうなスーツに身を包んで立っている、やや若そうな男がいた。
更にその隣には、これまたいかにも高そうな服を着た女性。
共に仕事服って感じで、恐らくは当時そのまんまの服…って所かな?



「成る程、コレはマジらしい…」

准一
「おっと、冷静だな? 偽者だとか疑ったりはしないのか?」


俺の父親の姿をした男は、そう言って笑う。
その姿は、前に大城戸さんに見せてもらった生前の写真とそっくり。
隣にいるのは母さんで、そっちも写真そのまんまの姿だった。
つー事は、本当にここは地獄の手前らしい。


幸子
「聖…立派になったわね♪」


「止してくれ、俺はまだまだガキだよ…」
「ワガママばっか言って、家族を困らせてる…フツーの高校生さ」

准一
「それが自覚出来ているなら、十分立派だ」
「多くの人間は、高校生の段階で何も気にしていない」
「むしろ、まだまだ遊んで暮らしていける、と思い込んでいる事だろう」


父さんはそう言うが、それは自分の経験からなんだろうか?
父さんは、学生の頃から夢や目標に突き進む人だったそうだが、それはあくまで天才の視点としての意見じゃないだろうか?

俺にも人には言えないレベルの経験はあるが、それは決して天才的な才能があったから出来た経験じゃない。
むしろ、俺は努力する事位しか出来なかった…
平凡な性能のスペックしか、俺には無いわけだからな。



「…で? わざわざ会いに来た理由は?」


俺は割かし冷たくそう言う。
フツーこういう場面では、泣いて抱き合ったりするのが定番だろうが、そんな定番をする程、この作品は甘くない。
つーかメタな話、そういうのは他のキャラでやれ、だ。
なので、俺はあくまでクールに決めるぜ!


准一
「やれやれ…良くも悪くも、自分の息子なんだと思うよ」

幸子
「ええ…貴方にそっくりだわ♪」
「興味の無い事には、全く関心を抱かない点とか」


父さんは空笑いをして頭を押さえる。
図星か…で、それは俺にも当てはまるって訳ね。
確かに、俺は興味の無い事に一々首を突っ込んだりはしない。
そんな事に時間を割くのは、無駄だと思ってる人間だからな。

良くも悪くも、俺は冷めてる方の人間なんだ。
…それが遺伝だってんなら、父さんも相当偏屈な人間だったのか?


准一
「…それだけ、お前も何かを背負ってるって事か」


「そうだな、正直…背負いきれるかも解らない位には」

幸子
「あら、随分弱気なのね? 父さんだったら、何があっても全責任背負う!って、絶対言うのに」


俺は呆れてしまう。
この人、自分の会社でも言ってたんだろうなぁ…
ひとりで会社立ち上げて、ひとりで大きくして、気が付いたら世界でも有数の会社にしちまったんだから笑えない。

そして、歴史に残る様な偉人程、死ぬのも速い…か。
父さんは、もし生きていれば、確実にIT業界の歴史を変えたと言われていた。
量子コンピュータの開発にいち早く着手し、その残された技術は今でも世界で認められている。
道半ばで倒れたとはいえ、その遺産はしっかりと世界の歴史に刻まれたのだから…

まぁ、結局その量子コンピュータも、父さんが死んで開発は一旦頓挫…
それから遅れに遅れ、今ようやく実用化出来るかも…という段階に入ったのだ。

もし父さんが生きていたら、10年は速く出来ていたと言われているレベルだから、どんだけの麒麟児だって話だわな。


准一
「…聖、お前は不安か?」


「そう、だな…不安っちゃあ不安かな」


俺は俯き、やや曖昧に答える。
背負うつもりはある、出来るかは置いといて。
だけど、そこにはいつだって不安がのしかかって来るのだ。

俺は無意識に拳を握る。
絶対に家族は幸せにする…それだけは約束だ。
そして、俺が救えるポケモンは全部救う、例えそれが敵だろうと。

その決意だけは、絶対に揺るぎはしない。


幸子
「良いのよそれで、貴方はまだ子供なんだから、悩むだけ悩みなさい」

准一
「そんな時に、俺たちが励ましてやれないのは辛いが」


「気にしなくて良いよ、俺にはかけがえのない家族がいる」
「ふたりが心配する事はないさ、俺は俺で何とかやるし…」
「助けてくれる人もちゃんといる…」


俺は顔を上げ、そう言って微笑した。
すると、ふたりは軽く頷き、納得はしてくれた様だ。


准一
「そろそろ、限界か…」

幸子
「ええ、ちょっとだけだったけど、この出会いには感謝ね♪」


「やれやれ、本当に定番の流れだな…」


俺は苦笑しながらも、やや呆れてしまう。
ふたりは次第に姿を透明化させ、ゆっくりと消えていくのだ。
それは、俺が今まで見たどの消え方とも違う…まさに死者との別れ、か。

とにかく、そんな感じの消え方。
やがて、ふたりは完全に消え去り、俺はひとり取り残された。



「………」


…俺はひとり取り残された。
俺は! ひとり! 取り残された!!



「ざけんなぁ!! フツーはここでスタッフロールと共に元の世界に帰る場面だろうが!?」
「舐めてんのか脚本家!? 感動シーンからやり直せ!!」


まぁ、あのシーンで感動出来るかは置いておいて!
別に泣きたくなる様な場面でも無いしなぁ〜

とはいえ、それなりに両親が満足して消えてったのに、何この放置プレイ?
確か、レヒレの設定だと、心が弱かったら出られない…とか、そんな設定あった気もするが。



「良かろう、ならば戦争だ!!」


俺は夢見の雫を取り出して周囲を睨み付ける。
さぁ、どうする? このまま放置なら俺にも考えがあるぞ?
つーか、空気読めよ!! あの展開から放置は有り得ねぇだろ!?

………結局、そのまま数分放置され、俺は雫を構えたまま何を願うでもなく立ち尽くしてしまった。



………………………



賢城
「…? 雪……?」


名前やない、それは降雪の雪や。
こないな霧の中で、雪とはな…
ワシは掌に落ちる雪を見て、物思いに更ける。
そして、どこか懐かしさを感じ、ワシは雪の降る中をゆっくり歩いた。

気が付いたら誰もおらん。
ワシひとりとはな…


賢城
「…雪、まさかおるんかここに?」


どことなく、懐かしさを覚える。
初めて出会った時も、雪が降ってた。
あん時も、こんな雪やったかな?


賢城
「………」


「…親父、殿」


俺は立ち止まり、視界に入った獣人を睨む。
そしてその姿をしっかりと確認し、ワシは力を抜いて相手の顔を見た。
そこにおったのは、紛れもなく、雪や。
降雪やない、ポケモンの雪。
ワシ等の家族の一員や…


賢城
「…元気にしとったんか?」


「あはっ…私、死んだんですよ?」


ほうか、やっぱ…そうやったんか。
姿を消してもうたから、真相は解らんかったが。
やっぱり、死んどったんやな…


賢城
「何で、急に消えたんや?」


「解りません…それは、私にも」
「でも、死ぬ前に…守りたかった物は、守れたと思います」


雪は、あの時の姿のままで屈託無く笑う。
そしてグッとガッツポーズを小さく取り、誇らしそうにしとった。
ワシはそれを見て、少し?を浮かべるも、雪は静かにこう語る。



「私の力でも、誰かを守る事は出来ました」

賢城
「ほうか、ようやったな」


ワシはそう言って、雪の頭を撫でてやった。
綺麗な髪や、しっかり手入れしとるな。
もっとも、ここがあの世なら、手入れとか意味無いんか。

雪は恥ずかしそうに唸りながらも、嬉しそうに笑う。
子供のままやな…あの頃から変わってへん。
年食った分だけ、ワシが変わったか…



「親父殿は、変わりませんね…」

賢城
「年は食ったがな…40越えると、流石に衰えるわ」


ワシはそう言って軽く笑う。
雪はニコニコしながらも、両手を後ろに回して少し俯いていた。
こんな時、何を話したらええか?
ワシには当然解らん…そもそも、何で会えたんや?

アイツ等が言うとった、レヒレ…とかの能力か?
せやったら、何でこんな事をする?
何か…目的があるんか?



「…親父殿、あの時の子供はどうなりましたか?」

賢城
「詳しくは知らへん、勝手に逃げてったそうや」
「生きとったら、今頃中学か高校生位やろ」


ワシは言ってて予想し、まさかと思う。
…魔更の事やないやろな?
アイツは雪の正体知っとるみたいやったし、もしかして?



「そうですか…元気なら、良いんですけど」

賢城
「ふん…お前が助けたんなら、きっと感謝位しとるやろ」
「せやから、そないな顔するな…綺麗な顔が台無しやぞ?」


「も、もう! 親父殿、からかわないでください!」
「…もう、私は死んでるんですから」


ワシは言葉に詰まる。
雪の悲しい顔は、多分色んな想いが詰まっとる。
やりたかった事も一杯あったやろ…
ホンマは、もっと女らしく生きて、恋でもして、幸せになりたかったんやろ。
ワシなんぞと出会うたから、コイツは…



「私は、幸せでした」

賢城
「……っ」


それは、感謝の言葉。
雪の目には涙が溜まり、絞り出す様な声で、肩を震わせながらもワシを真っ直ぐ見てそう言うた。
ワシは思わず黙るも、雪はそのまま言葉を続ける。
その際、雪が次第に雪の体に降り積もり、場は霧よりも雪の方が目立つ様になっとった。

さながら、初めて会うた時みたいに…



「親父殿が拾ってくれたから、私は少しでもあの世界で生きられた」
「訳も解らず、急に人間だけの世界に放り込まれ、死にかけていた私を、親父殿は救ってくれました…」


雪は涙をポロポロ流し、嗚咽しながらも、しっかりと言葉を紡ぐ。
その姿を見て、ワシは軽く睨んだ。
すると、雪はキッと顔を引き締め、涙を拭う事無く言葉を続ける。



「…あの日々は、決して無駄なんかじゃない」
「私の命は、無くなってしまったけれど、それでもしっかり生きられました♪」
「だから、最後にこれだけは言います…」


ワシは睨んだ目を少し弛め、なるたけ優しく目を細める。
そして雪はまた震えながら、それでも唇をしっかり開いてこう言うた。



「親父殿!! 本当に! 本当にありがとうございましたぁ!!」
「雪は! 私は世界で1番幸せでしたっ!!」
「短い間でも! 決してマトモな道じゃなくても!!」
「それでもっ!! 私は、嬉しかったです!!」


その叫びは森に大きく木霊する。
雪のその感謝の言葉は、ワシの胸にしっかりと届き、そしてワシは救われた気がした。
思えば、この5年…ワシは後悔しとったんかもしれん。

雪の事をしっかり見てやれれば、襲撃から守れたかもしれんのに。
せやけど、コイツは文句のひとつも言わへん…
恨み言のひとつも無い。
ロクな扱いはしてへんかったやろうに、それでもコイツは嬉しかったと言う。

そんなに、元の世界では散々な扱いやったんやろうか?



「親父殿…どうか、もう私の事は忘れてください」

賢城
「…っ、お前はそれでええんか?」


雪は俯き、頭に雪を積もらせたまま、震えて泣く。
この世に、忘れられて良い存在なんかあるか。
ワシはため息を吐き、雪の側まで近付いた。
そして、目の前で俯いたままの雪の体を掴み、そのまま抱き寄せる。
雪はかなり驚いた様やったけど、抵抗はせずにそのまま体を預けとった。

ワシはそのまま、雪の後頭部を軽く撫で、耳元でこう言う。


賢城
「強がるなや、無理はすな」
「忘れたりはせぇへん、何があっても、お前はワシの娘や」


「親父、殿ぉ…! 親父殿ぉぉっ!!」
「私、私ぃっ! もっと……」
「もっと、一緒にいたかったぁぁぁっ!!」


雪は遂に我慢出来ずに泣き叫ぶ。
強がってたのは解っとった。
子供のコイツが、我慢なんてせんでええ。
子供のワガママ位、親ならしっかり受け止めたるモンや。

そこに、極道とかどうかは関係あらへん。
ワシかて、ひとりの人間や。
娘が我慢して泣いてるなら、ちゃんと慰めたるのが親やろ。



「うぅ…っ! あああぁ…っ!」

賢城
「気ぃ済むまで泣けや、こうしてやれるのも、今の内だけやからな」


ワシはそう言って雪を撫で続ける。
雪は初めてワシの前で泣き、そして後悔を語った。
雪は人間を守る為に死んだ、人間の争いに巻き込まれて、それこそ理不尽に。

せやけど、雪はその行動に後悔はしてへんかった。
ただ、それでも悲しい。
誰だってそうやろ、それまで楽しくやっとったのに、一瞬で全部奪われる。
結果的に自分で選んだ道とは言え、後悔があらへんわけ無い。
ましてや…コイツは子供やろうに。


賢城
「…おおきにな」


「うぅ…親父、殿?」

賢城
「お前とおった半年は、悪ぅなかった」
「せやから、安らかに成仏せぇ」


ワシが冗談交じりにそう言うと、雪は頬を膨らませて少し不満そうにした。
ワシは微笑し、クククと笑う。



「…もう、悪霊とかじゃ無いんですからねっ」

賢城
「分かっとる、冗談や」


雪は軽く笑顔を見せ、ワシから離れる。
そして数歩退き、やや俯いてから今度はしっかりとワシの顔を見た。
顔には涙の跡も無く、その体が普通や無いのが何となく解る。
体には体温も無かったし、まさに幽霊…か。



「親父殿、ありがとうございます」
「これでもう、思い残す事はありません」

賢城
「…ホンマか?」


「ホンマです!」


雪はヘッタクソなワシの真似で、笑顔を作る。
作り笑いやない、ホンマもんの笑顔や。
これなら、ワシも特に言う事は無いな。


賢城
「…あの世で元気にせぇや、ワシもその内行ったるしな」


「あ、はは…そうですね、はい!」
「親父殿も、どうかお元気で! それともし…」
「もし、あの時助けた子供に会えたら、私は遠い所にいるけど、元気だよ♪って、そう伝えてください!」

賢城
「分かった、任しとけ」


ワシはそう言ってしっかり雪を見る。
遠くで、元気に、な…
まぁ、ええやろ…雪がそう言うなら、ワシはそうするだけや。
大事な娘の、最後のお願いやからな…



「…それじゃ、そろそろ逝きます」

賢城
「…ああ」


雪はそう言うと、次第に透明化していく。
すぐにその体は完全に消え去り、そこにはもう何も残らんかった。
降っとった雪も降り止み、またその場は霧に包まれる。
ワシはひとりのままそこに置かれ、どうやらまだ帰る事は出来へんのやと、何となく気付いた。



………………………



悠和
「……レヒレェ!! どこにいるっ!?」
「聖様たちを…どこにやったぁぁぁぁっ!?」


私は怒りに任せ、『エアスラッシュ』で木々を薙ぎ倒していく。
手応えはあり、この森が一応は生きているのだと私は実感した。
つまり、あくまでここは『彼女』のテリトリー。
分断した理由は解らないものの、少なくとも何かしらの目的を持って私たちを巻き込んでいるのは明白に感じた。

そして、もしこの状態で聖様に何かあったら、私は多分自分を制御出来なくなる。
その前に、何としてでもレヒレを倒さなければ!!


悠和
(森への打撃は、即ちレヒレへの攻撃)


彼女たち土地神は、自らのテリトリーを破壊される事を嫌う傾向がある。
故に、この破壊活動はちゃんと意味が有り、レヒレを誘き出す鍵となるのだ。

私は続けてメモリを切り替え、炎タイプに変化する。
そして手から『火炎放射』を放ち、目の前の森を焼き払った。

その炎は一気に広がり、やがて霧が晴れ始める。
私はその際に接近する気配を感じ、戦闘態勢を維持して身構えた。
メモリを換え、私は草タイプに変化。
レヒレは水タイプとフェアリータイプの混合。
草なら無難に有利のはず!



「我がテリトリーでの破壊行為を確認…確定」
「対象は謎の存在、技の性質から判断、不明…データ無し」


それは、機械的に喋る女。
姿は一見すると長髪青髪の美女だが、その目は酷く機械的。
感情を何ひとつ感じさせず、愛呂恵さん以上のマシーンさだ。

そして、彼女こそが今回の元凶…カプ・レヒレ!

服装はまるで布切れ1枚で局部のみを覆うという、扇情的な物で、一見すると貝殻の様な物の中に潜んでいる様にも見える。
土地神たちは全員『殻にこもる』などを覚える事から、あれがそういう役目を持っている物だと想定出来た。

そしてそれは宙にも浮き、まるでUFOの様に幾何学的に動いている。
私はその姿を見て軽く嫌悪した。

そして思い出す、あの時の事を…!


悠和
「お前は、あの時のレヒレかぁ!?」

レヒレ
「対象の存在を再鑑定…近い該当有り」
「予測、タイプ:ヌル」
「しかし、人型としての姿形は未確認」
「私と同様、人化した可能性が高いと思われる」
「それにより、想定される解答…進化系と予測」


やはり、あれはあの時のレヒレだ!
一体どうやって人間界に現れたのか解らないけれど、恐らくキッカケはあの時!


悠和
(聖様たちがアルセウスを倒し、世界を救った瞬間だ!)


恐らく、コイツは何かしらのタイミングで聖様を見た。
そして、それがキッカケでコイツは聖様に興味を持ち、私たちと一緒に世界を渡ったんだ。
何故、その先が5年前なのかは解らないけれど、確実にコイツは何かを待っていたに違いない。

彼女は恐らく、聖様に何かしらの感情を抱いている。
今回の一件は、聖様を手に入れる事が真の目的なのかも…!


レヒレ
「…計算終了、99%の確率で、あのタイプ:ヌルが人化した姿と予想」
「対象の敵意を確認、危険レベルと断定」
「このままでは計画に支障が出ると判断」
「即座に対処する」


レヒレは表情ひとつ変えないまま、私に向けて『ハイドロポンプ』を放つ。
私は片手を前に出し、それを遮断した。
今の私は草タイプ、水は半減出来る!

しかし、あの威力は侮れない…レベルはもしかして上なの?
仮にも伝説のポケモン…容易に倒せるとは思えないけど。
それでも、私は絶対に勝つ!!


悠和
「あの時の、大災害の時の事は忘れていない!!」

レヒレ
「効果半減と予測、草タイプと判定」
「有効タイプを算出、発射」


レヒレはこっちの感情などお構い無しに、手から『冷凍ビーム』を放つ。
私は即座にメモリを切り換え、鋼タイプに変化した。

く…! 半減でも直撃はそれなりに効く!
可能な限り、回避を優先しないと!!

私は打たれ弱くはないけれど、体力を回復させる技は『眠る』しかない。
それは相手も同じ事だけど、互いに我慢勝負をしたら勝つのは向こうだ。
だとしたら、こっちは戦略で覆すしかない!


悠和
「私は今度こそ貴女を倒す!! そしてもう奪わせない!!」

レヒレ
「タイプが変化していると予測」
「対応は非常に困難、よって火力に寄る力押しを選択」

悠和
「聖様の世界から去れ!! 貴女は許可無く、いて良い存在じゃない!!」











『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第8話 『後悔、希望、そして望み』


To be continued…

Yuki ( 2019/11/18(月) 16:51 )