とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない













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第10章 『過去との決別』
第6話
賢城
「…コスプレか何かか? しかし、こんなトコで寝とるとはな」

キュウコン
「………」


おおよそ高校生位の見た目しとる女は、死んどるかの様に眠っとった。
犬に噛まれても起きへんとは、そんだけ気力も無いんか?


賢城
「…ふん」


ワシは投げたゴミ袋を拾い、それをポリバケツに入れる。
そしてしっかり蓋を閉め、ワシは無言で屈んで女を抱き上げた。
そして女を肩に担ぎ、そのまま雪が降る中、体を冷やしながら事務所に戻った。


武蔵
「アニキ!? ソイツは…?」

賢城
「…拾いモンや、布団被せて寝かせたれ」


ワシはそう言って武蔵に女を渡す。
そしてワシは上着を脱ぎ、そのまま2階の部屋に向かった。



………………………



賢城
「…組長、か」


ワシはひとり、デカイ部屋で立ち尽くす。
先日、親父が逝った…
隣街の恩人、苧環はんから直接電話で連絡があったんや。
今のワシは、この街からほとんど離れてへんし、カタギになった親父とはほとんど合うてへん。

せやけど、そんな親父は遺言でワシに組を任させると残しよったんや。


賢城
「…今更急に、何でや?」


親父がカタギになったんは大分前。
そっから組は代替わりし、今は別の人間が仕切っとる。
ワシが今いるトコはいわゆる支部で、あくまでその配下や。
それでそれまでやって来て、急にワシにお鉢が回って来よった。


コンコン!


賢城
「誰や?」

小次郎
『俺です…アニキが連れて来たガキ、目ぇ醒ましました』


ドアの向こうから小次郎の声が聞こえる。
ワシはとりあえず上着をハンガーにかけ、すぐに下に降りる事にした。



………………………



キュウコン
「……!!」

組員A
「このガキ…! 手ぇ噛みやがった!!」

組員B
「バカか、不用意に手ぇ出すからだろうが」

賢城
「何や、騒がしいのぅ?」


ワシが降りると、組員共は一気に黙る。
途端に場の空気が変わり、俺はそんな中で拾って来た汚い女を見た。


キュウコン
「…!?」

賢城
「目ぇ覚めたんなら、こっち来い」
「風呂位使わせたる…まずは体洗え」


ワシはそう言って女に手を差し伸べる。
すると、女はその手に思いっきり噛み付きよった。


キュウコン
「ぐうぅ…!!」

賢城
「やれやれ、とんだじゃじゃ馬やな」


ワシは噛み付かれたまま、女の首根っこをもう片方の手で掴み上げて、無理矢理連れて行く。
女は噛み付きながら暴れるも、ワシは一切気にせずに風呂場に向こうた。



………………………



ドバシャア!!


キュウコン
「ぶっ!?」

賢城
「まずは体洗え」


ワシは既に沸かされてる風呂の湯船に女を投げ込んだ。
大きな水飛沫をあげ、女は湯船に落ちる。
この事務所の風呂場は広い、複数人が同時に使える位やからな。
今は誰も使こうてへんし、見る奴もおらんわ。


キュウコン
「あっつ!? 熱い熱い熱い!!」

賢城
「我慢せい、その程度の温度で騒ぐな」


まぁ、沸かしてすぐ位やしな、多少はしゃあないやろ。
しかし、余程我慢ならんかったんか、女は四つん這いなりながら湯船を飛び出した。
さながら獣やな…耳も尻尾も、本物の。


賢城
(本物…か)


今のアイツは裸や。
せやから、尻尾の動きもよう解るし、耳の位置も解る。
アイツの頭には、人間の耳が付いとらん…あの犬みたいな耳は、本物みたいや。


キュウコン
「ふー! ふー!!」


女は四つん這いのまま、9本の尻尾を広げてこちらを威嚇する。
せやけど、別にそれだけで、こっちに襲いかかって来る気配も無かった。
ワシはふぅ…と軽く息を吐き、歩いて女に近付いて行く。


キュウコン
「グルルル…!!」

賢城
「やれやれ、獣やなホンマに」
「しゃあない、少し躾たるわ」


ワシは無表情にそう言い、女の体を掴んで無理矢理椅子に座らした。
そしてすぐにお湯を頭にぶっかけ、シャンプーを適当にかける。
流石に髪が長いと量がいるな…


キュウコン
「な、何だよこれー!?」

賢城
「喋るな、ただのシャンプーや」


ワシはガシガシと女の髪を荒っぽく洗う。
思ったよりも毛並みは綺麗で、軽く洗ったらそれだけで青白い髪は艶を帯びてきた。
この髪も…地毛か?
日本語を普通に喋ったが、一体どこの国の生まれや?

考えれば考える程疑問が浮かぶ。
しかし、ワシはそんな疑問を余所に置き、まずはこの女の身寄りを何とかする事に決めた…



………………………



キュウコン
「……?」

賢城
「どないした? 食えや」


ワシはそう言って、フライドチキンをかじる。
それを見てか、女も同じ様にひとつ取って素手でかじった。
すると、女は露骨に表情を変える。
気に入ったんなら何よりや…


キュウコン
「美味い! 何コレ!?」

賢城
「ただのフライドチキンや、どこにでも売ってる奴や」
「腹減っとんなら、たらふく食え…」


ワシが言うと、女はバクバク食い始める。
初めての味がそんなに嬉しいんか、結局ひとりで6ピースは食いよったな。



………………………



キュウコン
「………」

賢城
「服の事はよう解らん、とりあえず新品で買うたさかい、それ着とけ」


ワシは下着から何から全部用意し、それを女に着せてやった。
女は服の事もよう解らんらしく、教えるだけでも時間かかったわ…
コイツ…ホンマに何も解らんのか?


キュウコン
「…何で、私にここまで?」

賢城
「さぁな…ワシの親父がそうしろ、言うたからや」


もちろん、直接聞いた事は1度もあらへん。
せやけど、生きとったら必ず言うやろ。
それが、苧環はんから受けた恩やろうからな…


キュウコン
「………」

賢城
「お前、名前は?」

キュウコン
「キュウコン…」

賢城
「けったいな名前やな…親が付けたんか?」

キュウコン
「違う、そういうポケモンだから…」
「それ以外の呼び名は、知らない」


ポケモン…?
ポケモン言うたら、アレか?
京都の花札工場が作っとるゲームやったか?
コイツ…おちょくっとる、訳や無いな。

コイツの顔は至って真面目。
嘘や冗談を言うとる顔やない。
せやけど、訳解らんわ…何でゲームのキャラが人間みたいな格好しとんねん?


賢城
「…まぁええわ」
「ほんなら、お前は今から『雪』や」

キュウコン
「ゆ…き?」

賢城
「雪ん中、堂々と寝とったからな」

キュウコン
「私、氷タイプだし…」

賢城
「とにかく、雪や」
「何も覚えてへんなら、ここにおれ…女ひとり隠す位、訳無いわ」


それを聞いて、女は初めて笑う。
そして、それから短い間やったが、ワシ等の奇妙な生活が始まったんや。



………………………




「親父殿! 私もカチコミに行かせてください!!」

賢城
「お前は留守番や…絶対外に出るなよ?」

武蔵
「そうそう! ガキンチョは大人しくしてろ!」


武蔵がそう言うと、雪は灰皿を武蔵の頭にぶつける。
武蔵のスキンヘッドにそれは直撃し、武蔵は頭を押さえて雪を睨んだ。


武蔵
「何しやがる、このクソガキ!?」


「うっさいハゲ!! 私は親父殿に聞いてるんだ!!」

賢城
「ええから残れ…落とし前はワシがひとりでつける」


雪は、すぐにワシ等に馴染んだ。
ヤクザの人間に囲まれながらも、ちゃんと人間みたいに物を覚えた。
春になる頃には、いっぱしの顔して組員顔しとったわ…



………………………




「親父殿! これ、私が作りました!!」

賢城
「何や? クッキーかいな…えろう形が悪いのぅ」


ワシはそう言いながらも、雪が差し出した皿からそれをひとつ摘まむ。
すると、口内に甘い味が広がり、ワシは少し口を押さえた。


賢城
「…甘ったるいな」


「く、口に合いませんでしたか!? 体に良い様に、ハチミツたっぷり使ったんですけど…」

賢城
「ほうか…まぁええわ」


「あ…親父殿」


ワシは皿ごと受け取り、それをひとつづつ食っていく。
あまりに甘すぎるクッキーに少し頭痛がしながらも、ワシはそれを全部綺麗に平らげた。
その際、申し訳無さそうな雪の顔を見て、ワシは苦笑する。

そして食い終わると、ワシは一言…ごちそうさん、とだけ言って皿を雪に返した。
その時、俯きながらも頬を赤らめた雪の笑顔は、純粋に綺麗な女の顔やったな…



………………………



賢城
「…吟餓会(ぎんがかい)の連中、最近よう見るな」

小次郎
「奴ら、本気でこっちに仕掛けて来る気じゃないんすか?」

武蔵
「上等じゃねぇか! やるなら徹底的にぶっ潰したらぁ!!」


冷静な小次郎に対し、気合いを入れる武蔵。
ふたりとも、それなりに長い付き合いの部下や。
せやけど、今回の件は何か嫌な予感がする。


賢城
「武蔵、小次郎、万が一の時は、お前らはここを守れ」

武蔵
「オヤジ!? そりゃどういう意味だい!?」

小次郎
「理由を言ってください! 吟餓会の連中は明確に喧嘩を売ってきてる…」
「これは戦争だ! なら幹部全員動かしてでも…」

賢城
「…それに、雪を巻き込むんか?」


ワシの一言に、ふたりは黙った。
そう…今の組には、もうひとつ大事なモンがある。
あれから季節は夏、もう半年や。
雪もすっかり家族みたいなモンで、今や組員も全員雪の事を信頼しとる。


賢城
「心配はいらん…吟餓会ごとき、ワシひとりで十分や」
「それよりも、お前らは雪を守れ」
「何か、嫌な予感がしよる…」

武蔵
「嫌な、予感?」

小次郎
「…吟餓会の奴ら、何か作戦でもあんのか?」


考えても答えは出ん。
そもそも、そんな頭があるならヤクザなんてやってないやろ。
良くも悪くも、ワシ等は喧嘩屋や。
頭が動く前に、手が動く人種やからな…



………………………



会員A
「か、会長!! 銀が!! 呂華斗(ろけと)組の組長が来やがったー!!」

会長
「…!! 何人だ!? 直接来るとは、痺れを切らしたか!?」

会員B
「ひ、ひとりです!! ひとりでカチコミかけて来やがったー!!」


ドゴォッ!!と、激しい音が会長室に響き渡る。
ひとりの会員の体が扉をぶち破り、ワシは開いた扉を潜って堂々と入り込んだ。


賢城
「邪魔するで…」

会長
「も、もうここまで!?」

会員C
「クソッタレ!! バケモンがぁ!!」


会員のひとりが、拳銃でワシの体を撃つ。
が、ワシは怯む事すらせずに、ズカズカと前に歩いた。
会員の拳銃は全弾撃ち尽くすも、ワシは全く意に介せず会長に近付いた。
ここまでの戦いで、ワシの上着は既にボロボロ。
返り血やら、自分の血やらで真っ赤にシャツが染まり、それまでの喧嘩の結果を語っていた。


賢城
「つまらん喧嘩はこれ以上無しや」

会長
「…クソが、まさかひとりでここまでやるとは!」
「噂に違わぬバケモンだな…!」


会長は覚悟を決めたんか、長ドスを抜いて構える。
ワシはそれに対して素手で構えた。
まぁ、構える言うても拳握る位やがな。


賢城
「ここまでや、吟餓会は潰すで?」

会長
「ぬかせ銀ぇ!! ワシの手で引導渡してやらぁ!!」


会長は長ドスを振りかぶり、ワシの首を狙う。
ワシはそれに対し、左手で長ドスを受け止めた。
すると、長ドスはワシの手で止まり、ワシはそれを強く握って自分の方に引き寄せる。
そして固く握った右拳を振りかぶり、ワシは会長の顔面を全力で殴り抜く。

メキメキメキィ…と会長の顔面は衝撃で変形し、そのまま部屋の端まで吹っ飛んでった。
壁に激突し、会長はそのままブラン…と壁にめり込んで揺れる。

ワシは首をコキコキ鳴らして残った会員を睨んだ。
すると、会員はすぐに怖じ気づいて逃げ出し、ワシはため息を吐く。


賢城
(…えらい呆気無かったが、杞憂やったか?)


ワシはすぐに、部屋にあった電話で組に連絡を取る。
が、電話は一切繋がらず、ツーツー…と音がするだけやった。
ワシはすぐに嫌な予感がし、ズボンのポケットから携帯電話を取り出す。
そして、ワシは苦虫を潰した顔で歯軋りした。

携帯電話は壊れていたのだ。
喧嘩の際にやられたのだろう。
しかし、しゃああらへんな…すぐに戻るか。



………………………



賢城
(何でや? 何でこんなに嫌な予感が消えん?)


ワシは走って事務所に向かう。
上半身血塗れで、一般人からは怖がられるが、ワシは気にせず走った。
あえてタクシーとかは拾わず、なるたけカタギに迷惑をかけん様に。

そして、事務所に近付いて来た時、ワシは目を疑う。
空を見たら、雪が降っとった。
空は曇っており、そこからしんしんと雪が降っとるんや。
今は…夏や言うんに。


賢城
「!! 雪!?」


ワシは冬のあの日を思い出す。
雪と出会うた、あの雪の日を。
そして、事務所に着いた時…ワシはひとり立ち尽くした。


賢城
「………」


事務所は完全に倒壊し、多くの組員が死んどる。
既に警察が事務所を囲んでおり、何かあってから時間は経っとるみたいやった。


刑事
「銀!! お前、無事だったのか!?」

賢城
「…これは、どういう事や斑(はん)?」


ワシに近付いて来たのは、知り合いの刑事、斑やった。
いつものボロい服に身を包み、驚いた顔でワシを見る。
そして険しい顔をし、斑はこう呟いた。



「…吟餓会の鉄砲玉だ」
「爆弾持って、事務所に突っ込んだらしい」

賢城
「クソッタレが…! まさか、そこまで覚悟決めとったとはのぅ」


ワシは拳を強く握り、事務所に近付く。
そして周りを確認し、生きてる奴がおらんか探した。



「生きてた奴らは全員病院だ、ここにはもう死体しかない」

賢城
「ほうか…斑、お前…女を見んかったか?」
「青白い髪の、綺麗な女や」


「青白い髪〜? いや、見てないが…」
「その女が、どうかしたのか?」


ワシはそれを聞いて、いてもたってもおれんくなる。
雪は段々と降り止み、空は晴れて来とった。
雪…どこに行ったんや?


賢城
「雪…!」


「お、おい銀!?」


ワシは路地裏に走る。
しかし、そこには誰もおらん。
そもそも倒壊した瓦礫だらけで、何も見えんかった。
ワシは止める斑の声を無視し、街中を探し回る。
しかし、どこにも雪の姿は無く、ワシは途方に暮れた。



………………………



賢城
「………」


「銀…」

賢城
「…病院は何処や?」


「組員のいる所か? だったら、駅前の…」


ワシはそれを聞いてすぐに歩き出す。
斑の呆れた声を聞きながら、ワシは病院へと向かった…
その時のワシの背中は、多分誰が見ても落ち込んでいたやろ。
まるで全てを失った気分やった。
こんな気分になったんは…多分初めてや。



………………………



小次郎
「オヤジ…!?」

賢城
「小次郎、無事やったんやな…」
「他の連中は?」


ワシは病院で小次郎に会い、詳細を聞く。
そしてワシは、そこから驚きの事実を知る事になった…



………………………



ドォォォォォォォォォォンッ!!!



「!?」


それは、もう3度目になる大爆発。
事務所にカチコミをかけて来た鉄砲玉は、複数人でこちらを攻めて来たのだ。
既に事務所は倒壊し始めている、このままだと私は生き埋めになってしまうだろう。
だけど、私は親父殿に外に出るなと言われている。
親父殿の命令は絶対だ、決して背く事は出来ない。


武蔵
「ぐ…っ! ゆ、雪…逃げろ」


「!? 武蔵のアニキ…! で、でも私は…」

武蔵
「バカ野郎!! こんなトコにいたら、死んじまうだろうが!!」


武蔵のアニキは、身体中血塗れでそう叫ぶ。
そしてすぐグラつき、私は武蔵のアニキの体をしっかり受け止めた。
手に血の暖かさが伝わる。
このままじゃ、武蔵のアニキは…!



「アニキ…! 病院に行かないと!!」

武蔵
「俺の事は良い…お前だけでも、逃げろっ」


私はアニキの声を無視して事務所から外に出る事にした。
親父殿からは叱られるだろうけど、それでも家族を見捨てる事なんて私には出来なかった。



「み、皆…!!」


私が外に出ると、すぐに事務所は倒壊する。
ギリギリだった様で、私たちは何とか助かったみたいだ。
でも、中にいた連中はこれでもう…


ドォォォンッ!!



「!?」


更に爆発。
どうやら、ガス管に引火したらしい。
火の手が上がり、隣の建物にも被害が広がろうとしている。
私はこの時、無意識にそれを何とかしたいと思った。
そして、自分の中に初めての力を感じる。

私はその力を、全力で解き放った。


武蔵
「…!? な、何で雪、が…!?」


「これ…私の?」


それは紛れもなく『霰』だ。
…あまりにも出来損ないすぎて、ただの雪になっているけど。
それでも、これは私の『雪降らし』の特性みたいだった。
一応、その雪はそれなりに激しく降り、すぐに火災を止めてくれる。
この調子なら、被害は最小限に…


鉄砲玉
「誰ひとり逃がしゃしねぇ!! ここで死にやがれぇ!!」


「そんな…!? まだいるの!?」

武蔵
「クソがぁ…! オヤジがいない時によくも!!」


武蔵のアニキは毒づくが、動く気力ももう無い。
私は覚悟を決め、キッと鉄砲玉を睨む。
鉄砲玉は手に爆弾らしき物を持ち、覚悟を決めた顔でこちらに特攻して来た。
私は武蔵のアニキを横に放り、鉄砲玉と一対一になる。
これ以上被害は広げられない! ここで何とか止めないと!!


子供
「え…? あ……!?」


その時、たまたま視界に子供の姿が映った。
私は次の瞬間、体が凍り付いたかと思う。
何と子供は犯人のすぐ側にいたのだ。
恐らく、たまたまそこにいただけなのだろう。
ただ、それは非常にマズい。
このまま鉄砲玉が自爆したら、子供は巻き込まれてしまうのだ。



(こんな時に…私は何の技も使えない!)


私は自分の力の無さを呪った。
本来の能力が生かせるなら、爆弾ごとき凍らせて無力化出来るだろうに…
今の私には、それすらも出来ない!



(それでもっ、あの子を見捨てる事なんて私には出来ない!!)


私は勇気を振り絞って鉄砲玉に向かって行く。
爆弾が爆発する前に投げ捨てられれば…!


鉄砲玉
「へっ! ガキが、怖くねぇのか!?」


「黙れ下衆がっ!! カタギの人を巻き込んで、それでも極道かぁ!?」


私は怒り、胸元からドスを抜く。
これでも戦闘訓練は積んでる!
とにかく相手をまず無力化しないと!


鉄砲玉
「ちっ!? させるかよ!!」


鉄砲玉は拳銃を取り出し、こちらに向けた。
そして爆弾の導火線はどんどん短くなっていく。
もう、迷ってる暇は無い!!



「うああああぁぁぁぁぁっ!!」

鉄砲玉
「こ、こいつ恐怖が無ぇのか!?」


鉄砲玉は拳銃を撃ち、私はそれを体に受ける。
私はその瞬間、傷口の体温を瞬間冷却して痛みを遮断する。
そして2発、3発と弾丸を受け、私は爆弾へとドスを伸ばした。



「うおおおおぉっ!!」

鉄砲玉
「!?」


私のドスは爆弾を貫く。
そして私はすぐにそれを真上に放り投げた。
技は使えなくとも、体はポケモン。
身体能力においては、人間とは非にならない。
ドスは爆弾を貫いたまま空高く飛び、そして空中で爆発した。


ドォォォォォォォォォォンッ!!!



「ぐぅ…!!」

鉄砲玉
「ち、畜生〜!!」


私は、一気に力が抜ける。
そして、同時に痛みが走った。
3発も弾丸を貰ってる…血は強制冷却で止めてるけど、やっぱり痛い!


鉄砲玉
「クソがぁ!! 邪魔しやがって!!」
「テメェ等、呂華斗組は絶対に皆殺しだぁ!!」


「殺れるモンなら、殺ってみろやぁ!?」


私は拳銃相手に拳を握った。
親父殿は、どんな相手にも拳ひとつで勝って来た。
私はそんな親父殿の姿に憧れたんだ!!
だから…!



「こんな事で負けられるかぁぁっ!!」


私は銃弾を更に受け、拳を振るう。
鉄砲玉の顔面に拳は突き刺さり、私は無意識にそこから冷気を放つ。
そして、相手の顔面を凍り付かせ、私は力任せに鉄砲玉を殴り抜いた。

鉄砲玉は数m程吹っ飛び、そのまま動かなくなる。
死んだかな? まぁ、その時は仕方無い。
相手だって死ぬ気でカチコミかけてんだ…こっちだって、遠慮なんか出来ない。


子供
「あ……あ…!?」


「…良かった、無事だね」


私は無傷の子供を見て、安堵する。
見た所、男の子の様で小学生位みたいだ。
私でも、守る事が出来た…今はそれが嬉し……



「危ない!?」

子供
「…え?」


それは、ブチ切れて落ちてきた電線。
恐らくさっきの爆発で切れてしまったんだ。
そして、それは運悪く子供の真上に降って来ていた。
私は反射的に飛び出し、子供を庇う様に盾になる。
電線はそのまま私に降りかかり、私は雪で濡れた体のまま、全身を感電させる事になったのだ…


バチチィ!!


武蔵
「!? ゆ、雪ーーーーー!!」



………………………



小次郎
「…俺が駆け付けた時には、雪はもう」
「武蔵はすぐに気を失っちまうし、俺も詳細は後から聞いたんです」

賢城
「…その、子供は?」

小次郎
「…怖くなったのか、すぐに逃げちまいました」
「まぁ、あんな状況じゃ…」


ワシは雪のその行動を褒めてやりたかった。
せやけど、雪はもうおらん。
子供を庇って、死んでしもたんや…


賢城
「…雪の遺体は?」

小次郎
「それが、妙なんすよ…」


小次郎は何故か不思議な顔をした。
まるで狐につままれたかの様な、そんな顔や。
ワシが?を浮かべとると、小次郎は半信半疑の顔でこう語る…


小次郎
「信じちゃもらえねぇかもしれませんが、雪の奴…跡形も無く消えちまったんすよ」

賢城
「…何やと?」

小次郎
「俺にも全く解らねぇっす…でも、雪の姿はどこにも無かった」
「まるで、初めからそんな女はいなかったかの様な…」


ワシは頭を抱えた。
そして、何となくこう思う。
あの狐は、きっと帰ったんやと。


賢城
「…元々、別の世界から来たんやろうな」

小次郎
「…そう、なんすか?」

賢城
「せやから、きっと役目を終えて帰ったんやろ」
「…生き残った組員には、雪は死んだと伝えとけ」
「ワシ等もそれで通す、雪は子供を庇って死んだ」
「…それで、ええやろ」


ワシはそう言って目を瞑った。
しばしの黙祷…小次郎と同様に目を瞑る。
ワシは心の中で雪を褒める。
ようやった、と…


賢城
(…お前との半年、悪ぅ無かったわ)


雪との日々が、まるで走馬灯の様に脳裏で再生される。
短い間やったが、退屈はせんかった。
ワシに懐き、憧れ、慕っとった。
もう33歳になる独り身やが、まるで娘が出来たみたいやったわ。
ふ…こんな事思うたら、怒り散らすやろな。

ワシは窓から見える夜景で、何故か雪が降っている様に見えた。
そんなはずは無いのに、何故かそう感じる。
それだけ、ワシにはアイツが大切やったんかも、しれんな…



………………………



賢城
「…ワシが話せるのは、その位や」


「…消えた? その瞬間は誰も見ていないんですか?」

賢城
「せや、誰も見てへん」


俺は、ここまで話を聞いて疑問を浮かべる。
消えた…って事は、世界から弾かれた?
だけど、混沌ならともかく現実でそれが起こるのか?
俺はその疑問を確かめる為に、スマホを手に取った。



「すみません、ちょっと失礼します」

賢城
「…おう」


俺は一応そう言ってからスマホを耳に当てる。
まぁ、電話かけるわけじゃ無いんだけどな…



「…恵里香、解るか?」

恵里香
『負けて死ね!』


「アナザーワンかよ!? もしかしてループすんの!?」

恵里香
『まぁ、今のはただのネタだけど…』


でしょうね!? 唐突に真面目な展開から持って来んなよ!!
…俺が言えた柄じゃないけどなっ。


恵里香
『とりあえず、ボクには解らないね』
『5年前となると、ボクたちはそもそもアルセウス相手に無理ゲー状態だったし』


「…逆に、そういう現象の確認は?」

恵里香
『…全く無いね』
『そもそも、そんな事例がまず聞いた事が無い』
『混沌世界や雫で造られた世界ならともかく、現実世界でいきなり消えただなんて…』


恵里香でも、そう言うのか。
と、なると…これは相当なイレギュラーって事で、ファイナルアンサー?



「この件に、俺の雫は関わっているのか?」

恵里香
『それは無いんじゃないかな? あくまでボクの予想だけど、夢見の雫は同時にふたつの願いを叶える事は出来ないんだと思う』


「…? どういう意味だ?」

恵里香
『例えば、5年前キミは最果てと皆の世界を往復してたでしょ?』
『その間に、現実に干渉する様な願いは多分叶えられないって事』


成る程、あくまで雫の力はアルセウス戦の為にしか使ってなかったから…
その間に現実へ影響を与える何かは多分出来ないって訳か。


恵里香
『ただ、何かの節にポケモンが人化して紛れた可能性はある』


「だが、5年前の戦いで人化は誰もしてなかったんだぞ?」

恵里香
『うん…ボクとペルフェ、後…風路を除いてね』


俺は言葉に詰まる。
そうだ、俺が最果てに着いた時点で、恵里香は既に人化していた。
それはペルフェも同様であり、他にはメロディさんもそうである。
つまり、人化という現象の有無は、初めから重要じゃ無いって事か。



「…まだ情報が足りないのか?」

恵里香
『かもしれない…けど、もしかしたらもっとシンプルな理由かもしれない』


「シンプル…?」

恵里香
『ポケモンの能力が関わっているかもしれないって事…』
『それも、伝説レベルのポケモンの力が』


俺はそれを聞いて固まる。
伝説のポケモンレベル…?
だとしたら、ソイツは5年前か、それより前からこの世界に根付いてやがるのか?
そして、ソイツが原因で雪さんは消えた?


恵里香
『あくまで推測だよ? ボクが考え得る中で、1番確率が高そうな…』


「そうなると、殊更に厄介だな…」
「一体どんなポケモンが…?」


俺は想像してみるが、何とも言えない。
ディアルガやパルキアとも違う、人ひとりを気付かれずに消す様な能力?



「まさか、フーパとかじゃないだろうな?」

恵里香
『…可能性は0じゃないけど〜』
『流石に、彼女ならすぐに謝りに来そうな物だと思うけど…』


さしもの恵里香も完全否定はしなかった。
フーパならやりかねん…ってこったな!
とはいえ、確かに理由無くそんな事をするとも思えんか。
5年も放置ってのも、気になる部分だしな。



「……やれやれ」

賢城
「…どうやら、相当なトラブルに巻き込まれとる様やな?」


「否定は出来ませんね…でも、家族の為なんで弱音は吐けません」


俺はスマホをポケットにねじ込み、ため息を吐いた。
それを見てか、組長さんはクククと笑ってしまう。
俺は少し気恥ずかしくなり、ポリポリと頬を指で掻いた。


賢城
「…お前は、雪が消えた原因を追ってるんか?」


「そういう訳じゃ無かったんですけど…結果的にそうなりそうではありますね」

賢城
「…雪には、また会えるんか?」


俺は一瞬悲しそうな顔をした組長さんを見て、言葉に詰まる。
話を聞いた限り、雪さんは確実に死んでると思われる。
いくらポケモンとはいえ、人体は人体。
無防備に電線で感電したら、フツー人は死ぬ。
しかも、雪さんは技も使えないポケモンだったという…
とはいえ、その遺体を誰も見てないんじゃな…


賢城
「…今のは、忘れてくれ」


「…はい」


俺はそう答える事しか出来なかった。
こんな状況で、生きているかも…なんて言う度胸は無い。
もし本当に死んでいたら、それこそ残酷だ。
組長さんは雪さんの死を受け入れている…未練はあるみたいだけど。



「貴重な話、ありがとうございました」

賢城
「おう…そういや、お前は一体何モンや?」
「少なくとも、ただの子供やないやろ?」


俺はそう言われ、真っ直ぐに組長さんの目を見る。
そして、組長さんの睨みに怯む事無く、俺は正直にこう言った。



「俺は魔更 聖…ポケモンを愛する、フツーの高校3年生ですよ」











『とりあえず、彼女いない歴17年の俺がポケモン女たちと日常を過ごす現実。やっぱり後悔はしていない』



第6話 『雪の様に、儚き女』


To be continued…

Yuki ( 2019/11/12(火) 22:53 )